以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る加工装置1および加工方法について詳細に説明する。
<加工装置>
図1は、本実施形態の加工装置1について説明する概要図であり、同図(A)が加工装置1の側面概要図であり、同図(B)は被加工物Wおよび加工対象領域WAを示す側面図、同図(C)は同図(B)の上面図である。また、図2は工具7について説明する図であり、同図(A)が工具7および駆動手段9を示す側面図、同図(B)が工具7の形状を示す側面図、同図(C)は同図(B)の断面図である。
図1(A)に示すように、本実施形態の加工装置1は、被加工物Wを保持する治具5と、被加工物Wの一部に当接させる工具7と、駆動手段9と、送り駆動手段25を有し、被加工物Wの一部を減量させて所望の形状に変化させる加工を行なうものである。「被加工物Wの一部を減量させる加工」とは例えば、被加工物Wの一面側から他方の面側までを貫通させる穴開け加工、被加工物Wの一面側から他方の面までの厚みを減少させるも他方の面側まで貫通はさせない(被加工物Wの厚み方向に凹凸を形成する)刳り抜き加工、被加工物の平面視における面積を減少させる(被加工物Wの平面方向の形状を縮小する)変形(縮小)加工、任意の形状に変形(縮小)させる削り加工などである。ここでは同図(B)、同図(C)に示すように、板状の被加工物Wの一部に、円形状に穴開け加工を施す場合を例示する。同図(B)、同図(C)では加工対象領域(穴開けされる領域)WAを大破線で示している。
本実施形態における被加工物(ワーク)Wは、ダイヤモンド系材料である。ここで、ダイヤモンド系材料とは、ダイヤモンド又はダイヤモンド含有材料である。具体的にダイヤモンドとは例えば、(地球内部で生成される)天然ダイヤモンド(純度100%のダイヤモンド、または極めて少量の非結晶カーボンもしくは非ダイヤモンドの結晶を含んだダイヤモンド)あるいは、高温高圧合成法や化学気相成長法などにより合成された合成ダイヤモンド(人工ダイヤモンド)である。また、用途としてはバインダや他の成分を含む工業ダイヤモンドでもよいし、宝飾(宝石)用ダイヤモンドであってもよい。また、結晶構造としては単結晶ダイヤモンドでもよいし、多結晶ダイヤモンドであってもよい。
また、本実施形態におけるダイヤモンド含有材料とは上記のダイヤモンドを主成分として含有する材料であり、「ダイヤモンドを主成分として含有する」とは例えば、上記のダイヤモンドの含有量が全体の50%以上を占めること、あるいはダイヤモンド以外の成分(副成分という)が複数含有される場合、各副成分のいずれの含有量よりもダイヤモンドの含有量が大きいことをいう。
また、本実施形態の工具7は、アルミニウム系材料により構成される。ここで、本実施系形態におけるアルミニウム系材料とは、アルミニウム(純アルミニウム)、アルミニウム合金(アルミニウムに銅(Cu)マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)ニッケルなどの1種以上の金属が加えれた合金)、アルミニウムを主成分として含有する金属、のいずれかである。また、「アルミニウムを主成分として含有する」とは例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金の含有量が全体の50%以上を占めること、あるいはアルミニウム又はアルミニウム合金以外の成分(副成分という)が複数含有される場合、各副成分のいずれの含有量よりもアルミニウム又はアルミニウム合金の含有量が大きいことをいう。副成分は例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、その他のセラミックスでもよく、それ以外の他の成分であってもよい。なお、工具7が酸化アルミニウムを含んで構成される場合、酸化アルミニウムの含有量は少ない方が好ましい。具体的に、酸化アルミニウムの含有量は、望ましくは全体(アルミニウム系材料)の30%未満であり、好適には20%未満、さらに好適には10%未満である。
治具5は、少なくとも加工対象領域WAを除き、その周囲の被加工物Wを保持(例えば把持)する。そして工具7は、被加工物Wの一方の面(第一の面Sf1)側に配置され、加工の際には第一の面Sf1に当接し、適宜の押圧力を付与しながら、工具7と被加工物Wを面方向に相対移動させるとともに、他方の面(第二の面Sf2)に向かって加工を進める。ここで、加工対象領域WAとは、工具7によって加工が進行し、且つ最終的に所望の形状に加工が完了する領域である。つまり、工具7と被加工物Wを面方向に相対移動させた場合、加工対象領域WAにおける被加工面積(工具7と接触(当接)して加工される面積)は、加工開始時の工具7の先端の面積と同等なサイズから徐々に拡大する。このように、加工対象領域WAの面積(被加工面積)は工具7の先端の面積よりも大きいものとする。
工具7は、図2(A)に示すように一例として円柱状(円筒状)あるいは、同図(B)および同図(C)に示すようにコア(カップ)形状である。具体的には、基部7Aと拡径部7Bを有し、基部7Aは円柱(円筒)状であり、拡径部7Bは基部7Aの先端(被加工物Wに当接する先端)に設けられ、基部7Aよりも拡径されるとともに先端側が開口した略円筒状である。
なお、工具7の形状は図示のものに限らず、例えば、フラットエンドミル、ボールエンドミル、あるいはテーパエンドミルなどであってもよい。
駆動手段9は、工具7と被加工物Wとを物理的に相対移動させることで、工具7によって被加工物Wの一部を減量するように駆動させる手段である。この例の駆動手段9は工具7と被加工物Wを相対回転させる回転駆動手段であり、例えば、工具7あるいは工具7の主軸を回転駆動するモータである。駆動手段9により、工具7は、鉛直なZ軸を中心にスピンドル50により回転駆動される。また、スピンドル50は例えば、超音波振動手段55を備えると望ましい。超音波振動手段55は、超音波振動子56と、超音波ホーン57を有する。超音波振動子56は、軸方向に超音波振動を生じさせる。超音波ホーン57は、超音波振動子56で生じる超音波振動に共振して、当該超音波振動を増幅させる。そして、超音波ホーン57は、増幅させた軸方向の超音波振動を工具7に伝達する。つまり駆動手段9は、工具7を超音波振動させながら回転駆動させる。
この工具7が当接し、押圧されることにより被加工物Wの一部(被加工領域WA)は、この例では、工具7の回転方向(図1(A)のX軸−Y軸方向)に減量する。
図1を参照して、送り駆動手段25は、工具7と被加工物Wとが互い押圧される方向に相対移動させる手段であり、工具7を送る手段あるいは被加工物Wを送る手段である。押圧する方向は、この例では、工具7の主軸の延在方向、すなわち鉛直方向(Z軸方向、第一の面Sf1から第二の面Sf2に至る方向)である。
つまり本実施形態の加工装置1は、工具7が被加工物Wに当接し互いに押圧した状態で、駆動手段9によって工具7と被加工物Wを工具7の回転駆動方向(X軸−Y軸方向)に相対回転しつつ工具7を超音波振動させることで被加工物Wを回転駆動方向(X軸−Y軸方向)に減量する。回転駆動方向の減量が所定量まで進むと(減量する分がなくなり)減量が進行しなくなるので、加工装置1は、工具7と被加工物Wが互いに押圧状態となるように送り駆動手段25によって工具7と被加工物WをZ軸方向に相対移動(押圧)し、鉛直方向に被加工物Wの減量を進行させる。つまり加工装置1は、工具7を回転駆動して被加工物Wを或る方向に(例えば面状に)減量しながら、工具7をさらに別の方向に送る(押出す)ことで例えば、当該別の方向(例えば、深さ(厚み)方向)に減量を進行させるものである。以下、工具7が回転駆動する方向(X軸−Y軸方向)を減量方向といい、工具7と被加工物Wの押圧方向(Z軸方向)を送り方向という。
また、加工装置1は、緩衝機構20を有すると望ましい。緩衝機構20は、工具7が被加工物Wと当接する際に被加工物Wにかかる圧力(押圧力)を緩衝させるものである。詳細については後述するが、緩衝機構20は例えば、工具7および被加工物Wの一方を送り方向に移動し、工具7および被加工物Wの他方を送り方向と同方向に退避移動させることにより、工具7が被加工物Wを押圧する際に、当該被加工物Wにかかる過剰圧力を緩衝させる。
さらに、加工装置1は、アルミニウム系材料で形成した工具7を用いて被加工物Wであるダイヤモンド系材料に当接させ、少なくとも被加工物W(ダイヤモンド系材料)を減量(磨耗、消耗、剥離、分離など)させながら加工を進める。すなわち、本実施形態の加工装置1は、超音波振動する工具7と被加工物Wとを適宜の圧力で物理的に押圧して加工を行うが、その際、被加工物Wにかかる過剰な圧力(押圧力)を緩衝させながら、被加工物Wの減量方向に相対移動させる。そうすることで、工具7と被加工物Wの物理的な相対移動(減量方向の移動と送り方向の移動)に加えて、工具7と被加工物Wが相互に作用を及ぼし合う接触面(及びその近傍)において、少なくとも化学的反応的を生じさせながら減量するものである。。これにより、被加工物Wを破損することなく加工対象領域のみを減量させて所望の形状に変化させることができる。ここで、本実施形態における「少なくとも化学的反応を生じさせながら減量する」とは、ある部位の加工(減量)の過程(開始から終了まで)において、工具7であるアルミニウム系材料と被加工物Wであるダイヤモンド系材料との間で何等かの化学的反応が生じていることを意味し、工具7の押圧による物理的な加工(従来既知の機械的な切削加工や研磨加工を含んでもよいし、含まなくてもよい)と化学的反応による加工が混在してもよく、例えば物理的な加工の程度と化学的反応による加工の程度が同程度であってもよく、さらに好適には、主として化学的反応を生じさせながら減量(加工)することをいう。ここで「主として化学的反応を生じさせながら減量(加工)する」とは、例えば、減量(加工)の少なくとも50%超が化学的反応に起因する事象によるものである(化学的反応による減量の程度が減量全体の50%超を占める)ことをいい、100%化学的反応に起因する事象によるものであってもよいし、減量(加工)の一部(50%未満)に物理的な加工(特に機械的な切削や研磨等)が含まれる場合があってもよい。
図3を参照して、加工装置1の具体的な一例について説明する、同図は加工装置1の側面概要図である。なお、以下の実施形態では、加工装置1が、例えばドリルなどの工具7を回転駆動するフライス盤などの装置である場合を例に説明する。
本実施形態の加工装置1は、テーブル3と、治具5と、退避移動機構21と、付勢機構23と、アルミニウム系材料(例えばアルミニウム合金)からなる工具(加工具)7と、工具7の駆動手段9と、送り駆動手段25と、工具7を支持する工具支持部17と制御手段などを有する。
テーブル3は例えば、被加工物(例えば、多結晶ダイヤモンド(工業用ダイヤモンド))Wを水平なX軸−Y軸面内で移動させるX軸−Y軸テーブル(ステージ)である。
治具5は、テーブル3上に設けられて被加工物Wを保持(支持)する手段であり、同図(B)、同図(C)に示すように例えば、基台51と、保持部52と、支持部53などを有する。ここでは一例として被加工物Wに穴開け加工を施す場合の治具5を示しており、例えば少なくとも加工対象領域WAを除き、その周囲の被加工物Wを保持(例えば把持)可能なように、中央部分が開口した額縁形状を有している(同図(B))。なお、同図(A)では被加工物Wの保持状態を示すために治具5を同図(B)のa−a線の断面図で示している。
また、本実施形態の治具5は一例として緩衝機構20を備える。緩衝機構20は、例えば、退避移動機構21と、付勢機構23を含む機構である。退避移動機構21は、送り駆動手段25による実際の送り量に対して、工具7と被加工物Wの間の相対的な送り量が減少するように、工具7および被加工物Wの他方を送り方向に退避移動させる機構である。また、付勢機構23は、退避移動機構21により被加工物Wまたは工具7が退避移動する際、退避移動する被加工物Wまたは工具7を復帰移動方向に付勢する機構である。緩衝機構20については後に詳述する。
基台51には例えば、適宜の位置に支持部53が立設され、支持部53の上端部には例えば平板の保持部52が設けられる。この例では、保持部52は平面視において外形が矩形状(正方形状)の額縁形状であり、支持部53は、保持部52の外周付近の四隅に対応する位置の4箇所に設けられる場合を説明する。なお、保持部52の外形状は、この例に限らず、長辺と短辺を有する長方形状や円形状であってもよい。いずれの場合も保持部52は、被加工物Wの少なくとも外縁部を全体的に(あるいは選択的に)保持できる形状を有し、その内側(内周側)で被加工物Wを当接保持(支持)する。また、以下の例では保持部52の上面側(同図(C)のZ軸方向上面側)を説明の便宜上、保持面521と称する。
なお、被加工物Wの加工の態様によっては、保持部52は額縁形状でなくてもよい。例えば、被加工物Wを厚み方向(図3のZ軸方向)に貫通しない刳り貫き加工の場合には、保持部52は(開口部を有しない)平板状であってもよい。
また、支持部53の配置およびその数は、保持部52の形状に応じて、保持部52の両端に対応する2箇所でもよいし、中央に対応する1箇所でもよい。
また、後に詳述するが、本実施形態の治具5は、保持部52が基台51に対して、工具7の主軸の延在方向(この例では、鉛直方向(図示のZ軸方向)に相対的に移動可能に構成されている。
駆動手段9は、例えば、工具7と被加工物Wを減量方向に相対移動させる(相対回転させる回転駆動手段であり、図1および図2に示した構成と同様である。駆動手段9により、工具7は、鉛直なZ軸を中心にスピンドルにより回転駆動されるとともに、超音波振動される。
送り駆動手段25は、この例では、被加工物Wに対して工具7を所望の送り方向に移動させる手段であり、例えば、工具7を支持(保持)する工具支持部17に設けられる。工具支持部17は一例として、Z軸方向に移動するZ軸送りステージであり、送り方向は、この例では、工具7の主軸の延在方向、すなわち鉛直方向(図示のZ軸方向、治具5の保持部52の面に垂直な方向)である。
また、本実施形態の加工装置1は、計測手段11を備えていると望ましい。計測手段11は例えば、退避移動機構21による退避状態を検出する退避状態検出手段111と、送り駆動手段25による実際の送り状態を検出する検出する送り状態検出手段113と、退避状態と送り状態の相対差から、工具7と被加工物Wの相対的な送り量を算出する計算手段115などを有している。計測手段11については、後に詳述する。
これら加工装置1の各部は、制御手段(不図示)によって統括的に制御される。制御手段は、CPU、RAM、及びROMなどから構成され、各種制御を実行する。CPUは、いわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて各種機能を実現する。RAMは、CPUの作業領域として使用される。ROMは、CPUで実行される基本OSやプログラムを記憶する。
制御手段は、テーブル(X軸−Y軸テーブル)3と工具支持部(Z軸送りステージ)17とを数値制御する不図示の数値制御手段(数値制御装置)を含む。数値制御装置により、工具(砥石)7をスピンドルによりZ軸を中心に高速回転させるとともに回転トルク等が制御され、被加工物Wを水平なX−Y面内で移動させて回転する工具7に接触させることにより、被加工物Wを減量し、所望の形状に加工することができる。
本実施形態の加工装置1は、工具7が被加工物Wの被加工部位を押圧する際に当該被加工部位にかかる過剰圧力を緩衝させながら加工を進行させて、所望の形状になるまで被加工物Wを減量するものである。換言すると、工具7が被加工物Wの被加工部位を押圧する際の圧力を、加工が進行する所定範囲内に維持しながら、所望の形状になるまで被加工物Wを減量するものである。
より具体的には、工具7または被加工物Wのうち一方を、加工を進行させるための他方の送り方向と同方向に退避させながら加工を進行させることで工具7が被加工部位を押圧する際に被加工部位にかかる過剰圧力を緩衝させるものであり、これにより工具7と被加工部位が当接する圧力(押圧力)を加工が効率よく進行する所定範囲内に維持しながら加工を行うことができる。
ここで、被加工物Wであるダイヤモンド系材料は従来では、ダイヤモンド工具またはダイヤモンド粉末(砥粒)等を用いる加工(主に研磨加工)や、レーザー加工、イオンビーム加工を行なっていた。しかしながら、ダイヤモンド粉末を用いる加工(主に研磨加工)では、被加工物(ワーク)のダイヤモンド(主に単結晶ダイヤモンドの場合)の結晶面を確認し、研磨が可能な(容易な)方向を見極めることが重要となり、熟練の技術を要する問題があった。また、穴あけや切断などの加工を研磨により行うことは実用的ではなかった。
またレーザー加工やイオンビーム加工であれば、ダイヤモンド(工業用ダイヤモンド)の穴あけや切断、積極的な(大きな)変形を伴う加工も可能ではあるが、加工方法が特殊であるためこれらの装置は高価であり、ひいては加工コストの低減には限界があった。
このように、ダイヤモンドに対する加工(特に穴あけや切断、積極的な(大きな)変形を伴う加工ばど)を安価、且つ容易に行うことは困難であった。
しかしながら、本願出願人は、アルミニウム系材料からなる工具7を超音波振動させながら適宜の圧力で(過剰な圧力を逃がしながら)、被加工物Wであるダイヤモンド系材料に当接させることにより、少なくとも被加工物Wが減量(磨耗、消耗、剥離など)することを見出した。これは、アルミニウム系材料はダイヤモンド系材料に比べて軟質であること、および両者の接触面が高温(例えば、600℃〜700℃)になることなどから、超音波振動するアルミニウム系材料とダイヤモンド系材料との間に化学的反応が生じることで、少なくともダイヤモンド系材料が減量(磨耗、消耗、脱落)するものと考えられる。より詳細には、当接した工具7と被加工物Wの材料同士が分子レベル(または原子レベル)で化学的に結合し、一旦接合(接着)した状態から超音波振動によって材料同士が引き離されることで被加工物Wの材料の一部が工具7の材料に接合(接着)した状態で引き剥がされ、被加工物Wの材料の一部が減量すると考えられる。具体的には、例えば、アルミニウム系材料とダイヤモンド系材料の高温の接触によって炭化物が生成されるなど、少なくとも化学的反応に起因する事象により少なくとも被加工物Wであるダイヤモンド(炭素)の結晶構造が変質および/または破壊され、その一部が脱落(剥離、分離、消耗)することで、ダイヤモンド系材料の減量(加工)が進行すると考えられる。
なお、材料によっては、工具7と被加工物Wの両者が互いに減量する(減量の程度が異なる)場合もある。また、水分を加えることでより効果的に加工を進行させることができる場合もある。
なお、本実施形態の化学的反応による減量には、上記(化学的結合と剥離)以外の化学的反応による減量と他の化学的反応による減量とが混在していてもよい。また、これらに機械的な加工による減量(切削や研削)が含まれていてもよいが、その場合、加工の少なくとも一部は化学的反応によって減量が進行するものとし、好適には、化学的反応による減量の程度が減量全体の50%を占めるものとし、より好適には主として化学的反応によって減量が進行する(化学的反応による減量の程度が減量全体の50%を超える)ものとする。
また、このような化学的反応による減量は、機械的な加工(研磨や切削)が積極的には生じない程度で材料同士(工具7と被加工物W)を当接させる(例えば機械的加工の程度が低く(好適には機械的加工がほとんど生じず)、かつ化学的な(分子レベルまたは原子レベルの)結合を生じさせる)ことで進行すると考えられ、工具7と被加工物Wを適切な圧力で当接させることが望ましいことが判った。
そこで、本実施形態では、工具7と被加工物Wの間の押圧力を、最も効率よく加工が進行する(効率よく化学的反応による減量が生じる)所定範囲に維持すべく、工具7または被加工物Wの一方を、加工を進行させるための他方の送り方向と同方向に退避させながら加工を行う。これにより工具7が被加工部位を押圧する際に被加工領域WAにかかる過剰圧力を緩衝させながら、加工を進行させることができる。
具体的には、図3に示すように、本発明の実施形態の加工装置1は、治具5または工具支持部17の一方が、緩衝機構20を有しており、これにより被加工物Wに加わる工具7の過剰圧力を緩衝し(吸収し)、被加工物Wおよび工具7への加工負荷を軽減させるように構成した。この緩衝機構20とは、例えば、工具7または被加工物Wを退避移動させる退避移動機構21と、工具7または被加工物Wを復帰移動方向に付勢する付勢機構23を含む機構である。
同図(B)、同図(C)を参照してより詳細に説明する。本実施形態では一例として、治具5が、緩衝機構20すなわち、退避移動機構21と付勢機構23とを備えている場合である。
退避移動機構21は、この例では、保持部52(保持面521)を基台51に対して垂直(この例では鉛直)方向上下に移動可能に保持する支持部53である。より具体的には、支持部53は、外筒531と、外筒531の内側で外筒531に対して進退可能に保持される内筒532とを有している。
また、付勢機構23は例えば、支持部53の例えば外周に設けられて上下両端が保持部52と基台51とに固定れた弾性部材533である。弾性部材533は例えば、外筒531の外周に巻回され、上下両端が保持部52と基台51とに固定されたばね(コイルばね)である。
支持部53(退避移動機構21)は、工具7の実際の送り方向(加工を進行させる場合に送り駆動手段25によって工具7が送られる方向、この例ではZ軸の下方に向かう方向)と同方向に保持部52を退避移動可能に構成されており、これにより保持部52上の被加工物Wは工具7の実際の送り方向と同方向に退避移動可能となっている。
付勢機構23は、退避移動機構21により被加工物Wが退避移動する際、退避移動する被加工物Wを復帰移動方向に付勢する。復帰移動方向は、退避移動方向とは逆方向であり、Z軸の上方に向かう方向である。
また、保持部52の上面にはストッパー535が設けられる。ストッパー535は、付勢機構23(弾性部材533)によってZ方向上方へ付勢される保持部52のZ軸上方への移動が所定高さに規制する。
これにより、保持部52およびこれに保持される被加工物Wは、加工が行われている間は工具7によって押圧され、退避移動機構21によって付勢機構23の付勢力に抗いながら工具7の実際の送り方向(Z軸下方)に退避移動するが、被加工物Wと工具7による加工が進展するにつれて、退避移動機構21及び付勢機構23によって、退避移動した被加工物W(保持部52)が工具7に押圧されながらも初期の位置に復帰する方向に移動する。
なお、工具7は、超音波振動手段55によって超音波振動が付与されると望ましいが、この場合、超音波による音圧及び振動と、工具7への加圧によって加工が進行する。つまり音圧も当該圧力(押圧力)に関与するため、この音圧を考慮して送り駆動手段25、退避移動機構21および付勢機構23等の制御を行う。
さらに、計測手段11は例えば、退避移動機構21による退避状態を検出する退避状態検出手段111と、送り駆動手段25による実際の送り状態を検出する検出する送り状態検出手段113と、退避状態と送り状態の相対差から、工具7と被加工物Wの相対的な送り量を算出する計算手段115を有している。
ここで、退避移動機構21が検出する退避状態は、例えば、工具7に押圧されることによる退避移動の量(以下「退避量ΔN」と称する。)である。
また、送り駆動手段25が検出する実際の送り状態は、例えば、加工を行うための目標となる(加工を行う場合に設定する)実際の(絶対的な)送り量(以下、「絶対的な送り量ΔT1」と称する。)である。
また、計算手段115が算出する相対的な送り量とは、絶対的な送り量ΔT1と退避量ΔNの差(ΔT1−ΔN)であり、以下、「相対的な送り量ΔT2」と称する。工具7と被加工物Wの相対的な送り量ΔT2(=ΔT1−ΔN)は、加工の進展量ともいえる。
本実施形態の退避移動機構21は、保持部52に被加工物Wを載置すると、送り駆動手段25によって工具7を被加工物Wを押圧してはいない状態であっても被加工物Wの重量に応じた所定量で退避移動方向に移動する(付勢機構23がそのように設定されている)。しかし、本実施形態では一例として、退避状態検出手段111が検出する退避量ΔNは、送り駆動手段25によって工具7を被加工物Wを押圧する(送り出す)ことによって、被加工物WがZ軸下方に退避移動した変化量(加工開始時では保持部52に被加工物Wを載置した状態から更に工具7の押圧によって退避移動した変化量)を検出するものとする。
なお、後に述べる付勢機構23の付勢力の設定によっては、保持部52に被加工物Wを載置したのみでは、保持部52はZ軸下方に移動しない場合もあり、そのように構成されていてもよい。
そして、退避移動機構21は、加工の進行中(工具7によって押圧されている間)は、付勢機構23によって付勢されることにより、送り駆動手段25による工具7の絶対的な送り量ΔT1に対して、工具7と被加工物Wの間の相対的な送り量ΔT2が減少する方向に、被加工物Wを退避移動させる。なお、本実施形態における「相対的な送り量ΔT2が減少する方向に、被加工物Wを退避移動する」とは、換言すれば、初期位置に復帰する方向への移動ではあるが、初期位置からは依然として退避しているような移動である。
そして加工装置1は、退避移動機構21による退避量ΔNが(略)ゼロとなる際に、加工(の1ステップ)を終了させるように制御される。
具体的には、例えば、2mmの加工を行う場合、送り駆動手段25による工具7の絶対的な送り量ΔT1(退避量ΔN)を2mmとし、退避量ΔN(2mm)が(略)ゼロとなる際に加工を終了する。あるいは、例えば、2mmの加工を行う場合、複数ステップの加工を行うようにしても良く、例えば1ステップ目において送り駆動手段25による工具7の絶対的な送り量ΔT1(退避量ΔN)を0.2mmとして、退避量ΔN(0.2mm)が(略)ゼロとなる際に加工の1ステップ目を終了し、次のステップ(2ステップ目)に進み、これを繰り返して加工を行うようにしてもよい。この場合10ステップ目が終了した場合に、加工が完了する。なお、工具7と被加工物Wの化学的反応により工具7も減量(磨耗)する場合があるが、その量(減量の程度)も考慮して、加工が進行するように送り量ΔT1(退避量ΔN)の制御を行う。
付勢機構23の付勢力(弾性部材533の弾性力)は、退避状態検出手段111が検出した退避量ΔNに連動するように設定され、上記のような退避移動と復帰移動が可能となるような所望量を超えない範囲に設定されている。
具体的には、付勢機構23の付勢力は、送り駆動手段25が工具7を絶対的な送り量ΔT1で送り出した場合、緩衝機構20(退避移動機構21および付勢機構23)によって、工具7と被加工物Wの間の相対的な送り量ΔT2が減少する方向に退避移動することが可能となるように設定されている。より具体的な現象で説明すると、例えば、送り駆動手段25の送り動作(それによる退避移動機構21による退避量ΔN)に対応して、被加工物WのZ軸方向の位置(治具5の保持部52のZ軸方向位置)の微小な変位を許容しつつ、例えば僅かな範囲で被加工物Wが振動可能となるように、付勢機構23の付勢力が設定されている。
例えば、付勢機構23が弾性部材(コイルばね)533の場合、退避移動機構21による退避量ΔNに連動して伸縮が可能なばね定数が適宜選択される。弾性部材533は、送り駆動手段25による押圧力を受けて送り駆動手段25の送り方向(Z軸下方)に圧縮されながらも、当該押圧力に抗って、工具7の実際の送り量(絶対的な送り量)ΔT1に対して、工具7と被加工物Wの間の相対的な送り量ΔT2が減少する方向に被加工物W(保持部52)を移動させることが可能な程度に伸張するようなばね定数が選択される。
換言すると、被加工物Wと工具7による加工が進展するにつれて、Z方向下方に退避移動した被加工物W(保持部52)が復帰方向に移動するようなばね定数が選択される。
ただし、この付勢機構23の付勢力は、工具7の形状(サイズ)と被加工物Wの形状(厚み)等も含め、両者の化学的反応に起因する加工の進行具合により異なる。従って、付勢機構23の付勢力は、両者の化学的反応に起因する加工の進行具合に応じて、上記の退避移動と復帰移動が可能となるような所望量を超えない範囲に制御される。つまり、付勢機構23が弾性部材533の場合は、上記の退避移動と復帰移動が可能となるような所望量を超えない範囲のばね定数が適宜選択される。
また、送り駆動手段25は、被加工物W(保持部52)の退避量ΔNが所定の閾値を超えないように、絶対的な送り量ΔT1を制御する。具体的には、退避量ΔNが所定の閾値(例えば、目標とする加工量)を超える状態となった場合は、工具7の絶対的な送り量ΔT1を減少させ、退避量ΔNが所定の閾位置に満たない場合(押し込みが少なく工具7が空転状態またはそれに近い状態となる場合)は、工具7の絶対的な送り量ΔT1を増加させる制御を行う。
なお、送り駆動手段25による加工中の送り制御は行わなくても良く、送り駆動手段25による制御に代えて、あるいはこれと併用して、工具7の駆動手段9による制御(回転制御、回転トルクの制御)などによって、退避量ΔNが所定の閾値を超えないように制御してもよい。
また、弾性部材522は、コイルばねに限らず、例えば空気ばねや、スポンジ等であってもよく、また、付勢機構23は、磁力、油圧、空圧などにより付勢する機構(弾性力を有する機構)であってもよい。
更に、緩衝機構20は、上記の構成に限らず、工具7および被加工物Wの一方を送り方向に移動し、工具7および被加工物Wの他方を送り方向と同方向に退避移動させる構成であればよい。あるいは、緩衝機構20は、工具7が被加工物Wを押圧する際に当該被加工物Wにかかる過剰圧力を緩衝させる構成であればよい。
また、加工装置1は、図3に示す構成に限らず、工具7(アルミニウム系材料)によって被加工物W(ダイヤモンド系材料)の加工が進行する構成、例えば、工具7を被加工物Wに対して相対移動させる駆動手段9と、被加工物Wに対して工具7を所望の送り方向に移動させるべく、工具7および被加工物Wの一方を移動させる送り駆動手段25と、を少なくとも有する構成であればよい。従って、超音波振動手段55は設けなくてもよいし、緩衝機構20を設けなくてもよい。
図4を参照して、加工装置1における加工方法について時系列に説明する。なお、同図においては、被加工物Wの状態と治具5の動作を説明する便宜上、治具5(保持部52)の上方に被加工物Wを記載しているが、実際は、図3に示すように、治具5は被加工物Wの周辺部を保持しているものとする。なお、被加工物Wを貫通しない刳り貫き加工の場合には、図3と同様の保持の構成であってもよいし、図4に示す保持の構成であってもよい(その場合被加工物Wが移動しないように固定する手段は必要である)。すなわち、治具5による被加工物Wの保持の態様は、加工の態様により適宜選択可能である。
本実施形態の加工方法は、ダイヤモンド系材料(例えば、ダイヤモンド)の被加工物Wの一部を減量させて所望の形状に変化させる加工方法であって、被加工物Wを治具5により保持し、アルミニウム系材料からなる工具7と被加工物Wとを相対移動させる工程と、被加工物Wに対して工具7を所望の送り方向に移動させるべく、工具7および被加工物Wの一方を移動させる工程と、を有する。
まず、同図(A)に示すように、治具5の保持部52によって被加工物Wを保持する。この例では、被加工物Wが治具5により保持され、且つ工具7によって押圧される前の状態では、被加工物Wの重量により付勢機構23(弾性部材533)は所定量圧縮され、保持部52は、退避移動機構21と付勢機構23によって被加工物Wの保持前の位置(破線で示す)よりもZ方向下方に移動する。なお、付勢機構23の付勢力の設定によっては、保持部52に被加工物Wを保持したのみでは、保持部52はZ軸下方に移動しない場合もあり、そのように構成されていてもよい。この例では、被加工物Wの重量のみによる移動は、退避量ΔNに含まないものとする。
そしてこのときの(加工前の被加工物Wが保持(把持)された状態の)被加工物W表面(あるいは保持面521(図3(C)参照))の(床面などの基準面からの高さ)を復帰位置P0とする。
次に、同図(B)に示すように、工具7および被加工物Wの一方を送り方向に移動し、工具7および被加工物Wの他方を送り方向と同方向に退避移動させることにより工具が被加工物Wを押圧する際に被加工物Wにかかる過剰圧力を緩衝させながら加工を進行させる。
具体的には、テーブル3を移動させて被加工領域WAを工具7の下方になるように調整し、被加工物Wに対して工具7を所望の送り方向に移動させる。すなわち、工具支持部17の送り駆動手段25によって、工具7をZ軸下方に移動させて被加工領域WAの加工開始部位に工具7を当接させる。このとき、送り駆動手段25は、加工が可能な程度の押圧力で工具7を被加工物Wに当接(押圧)させるように工具7を移動する。被加工物Wはこの押圧力を受け、退避移動機構21は、或る退避量ΔNでZ方向下方に退避移動する。退避量ΔNは例えば、目標とする最終的な形状に至るまでの減少量(総加工量)であってもよいし、当該減少量(総加工量)よりも小さい値(総加工量を複数に等分割した値)であってもよい。
次に、同図(C)に示すように、工具7と被加工物Wを減量方向(この場合は、X軸−Y軸方向)に相対移動させる。このとき、工具7は駆動手段9によって回転駆動および超音波振動が付与される。また、工具7と被加工物Wの物理的な相対移動に伴い、両者の化学的反応が生じ、物理的な相対移動と化学的反応によって被加工物Wの一部が減量される。
本実施形態ではこの加工において、送り駆動手段25が、工具7を絶対的な送り量ΔT1で送り方向(Z軸下方)に移動させて被加工物Wを押圧する一方で、付勢機構23は、退避移動する被加工物Wを復帰移動方向(復帰位置P0に向かって移動する方向)に付勢し、退避移動機構21は、工具7の実際の送り量ΔT1に対して、工具7と被加工物Wの間の相対的な送り量ΔT2が減少する方向(この場合は下方)に、被加工物W(保持部52)を退避移動させる。付勢機構23の付勢力は退避移動機構21による退避量ΔNに連動し、所望量を超えない範囲に設定されている。
具体的には、退避状態検出手段111が検出した退避移動機構21による退避状態(退避量ΔN)と、送り状態検出手段113が検出した送り駆動手段25による実際の送り状態(絶対的な送り量ΔT1)に基づき、計算手段115が両者の相対差(ΔT1−ΔN)から、工具7と被加工物Wの相対的な送り量ΔT2を算出する。また、送り駆動手段25は、退避量ΔNが所定の閾値を超えないように、絶対的な送り量ΔT1を制御する。
そして、同図(C)に示すように、退避移動機構21は、工具7と被加工物Wの間の相対的な送り量ΔT2が減少する方向に、被加工物Wを退避移動させる。被加工物Wと工具7による加工が進展するにつれて、退避移動機構21及び付勢機構23によって退避移動した被加工物Wが復帰位置P0方向に移動し、退避量ΔNは減少するように加工が進行する。なお、この場合は、送り駆動手段25によって工具7が送られることによる被加工物Wの減量の程度(減少量)に対して、相対的減少量が減少する方向に被加工物W(保持部52)を退避移動するともいえる。
つまり、現象的に一例を挙げると、被加工物Wはテーブル3に対してZ軸方向の位置が固定されず、Z軸方向において所定範囲内での移動(位置の変動)が許容された状態で加工が進行する。被加工物Wは工具7によってZ軸下方に押されながらも、上下に振動するようにして、治具5(被加工物W)が徐々に復帰位置P0に戻りながら加工が進行する。
そして、同図(D)に示すように被加工領域WAの形状が所望の最終形状となり(総加工量に到達し)退避量ΔNが(略)ゼロとなった際に、加工を終了させる。
なお、複数のステップに分割して加工を実行する場合は、1ステップの退避量ΔNが(略)ゼロとなった場合に、当該ステップの加工を終了し、次ステップの加工に進む。
なお、加工が完了する直前において、退避量ΔNに対して相対的な送り量ΔTが不足し、目標値に僅かに満たずに工具7が空転する可能性がある場合には、それらを考慮して絶対的な送り量ΔT1,退避量ΔNおよび相対的な送り量ΔT2を適宜制御するとよい。
また、計測手段11は、最終の加工量に達し、所望の形状が得られているか否かを検出する測定手段を備え、加工の終了後に最終の加工形状を確認可能とするようにしてもよい。
このような構成によれば、保持部52に保持された被加工物Wおよび工具7に対して、加工が最も効率よく進行する圧力範囲を超えるような過剰な圧力が加わった場合であってもそれを緩衝(吸収)しつつ、加工を進行させることができる。
また、退避量ΔNを所望の値(最終加工量、あるいはそれを等分割にした値)に設定し、退避量ΔNが(略)ゼロになった場合に(1ステップ分の)加工を終了するように制御すればよいため、従来の研削や切削では困難であったミクロン単位での加工量の制御が可能となる。
従って、被加工物Wが例えば工業用ダイヤモンドであり、また特に、穴開け加工や刳り貫き加工を行なう場合であっても、レーザー加工装置やイオンビーム加工装置などの特殊な装置(特殊な方法)を用いることなく、安価且つ容易に加工を行なうことができる。
さらに、本実施形態では、被加工物Wおよび工具7への加工負荷(加工圧)が小さい場合、その表面(加工目)は、磨き(研磨)に近い加工目となり、研磨レベルの目の細かい加工が可能となる。本実施形態の加工では、被加工物Wおよび工具7への加工負荷(加工圧)は随時変化しているが、加工処理の全体を通した被加工物Wおよび工具7への加工負荷(加工圧)は、大まかに、加工の初期は加工負荷(加工圧)が高く、加工の終期(終了直前)では加工負荷(加工圧)が低くなる。つまり、加工の終期(終了直前)において、研磨レベルの目の細かい加工によって、その表面(加工目)は、磨き(研磨)に近い加工目の加工を行うことができる。
なお、本実施形態の加工方法は、アルミニウム系材料の工具7によってダイヤモンド系材料である被加工物Wの一部を減量させて所望の形状に変化させる加工方法、例えば、工具7と被加工物Wとを相対移動させる工程と、被加工物Wに対して工具7を所望の送り方向に移動させるべく、工具7および被加工物Wの一方を移動させる工程と、を少なくとも有する加工方法であればよく、工具7の超音波振動は行なわなくてもよい。また、工具7が被加工物Wを押圧する際の被加工物Wにかかる過剰圧力を緩衝させなくてもよい。
<他の実施形態>
上記の例では、加工装置1がドリル型の工具7を回転駆動するフライス盤による装置の場合であって、治具5が緩衝機構20(退避移動機構21および付勢機構23)を備える例を示したが、これに限らない。
例えば、加工装置1が円柱状の被加工物Wを回転させる旋盤加工等の装置の場合であって、工具支持部17が緩衝機構20(退避移動機構21および付勢機構23)を備える構成であってもよい。
また、加工装置1がエンドミル型の工具7を回転駆動するフライス盤による加工等の装置の場合であって、治具5を支持するテーブル3が緩衝機構20(退避移動機構21および付勢機構23)を備える構成であってもよい。
また、上記の実施形態では、退避移動機構21と付勢機構23とを別の構成とする例を示したが、退避移動機構21と付勢機構23は、緩衝機構20として一体的なものであってもよい。例えば、図1に示す例において、治具5自体を緩衝機能を有する弾性体(ゴムやスポンジ状の樹脂材料など)で構成してもよいし、図3に示す例において、例えば工具7の主軸またはシャンク自体を緩衝機能を有する弾性体(ゴムやスポンジ状の樹脂材料など)で構成してもよい。
また、本実施形態の加工は、例えば、切削(ミーリング)加工(マシニング加工、フライス加工)である正面フライス削り、エンドミル削り、平フライス削り、平面切削、側面切削、溝削りや、旋盤(旋削)加工(外丸削り、面削り、テーパ削り、ねじ切り、突切り等)、穴開け、中ぐり(刳り貫き)等の加工や、研削加工(平面研削、成形研削、円筒研削、ダイシング加工、スライシング加工等)などに適用可能である。
また、緩衝手段10は、コイルばねによらず他のばねであってもよいし、スポンジや樹脂などの弾性部材であってもよい。また、油圧や空圧などで緩衝させるものであってもよい。また、治具5が緩衝手段10を備える場合、治具5の材質をスポンジや樹脂などの弾性体で構成するものであってもよい。
また、緩衝機構20は、工具7または被加工物Wの一方を、加工を進行させる他方の送り方向と同方向に退避させながら加工を進行させる機構であれば上記の例に限らない。
また、例えば、被加工物Wの基準となる部位の位置を、計測手段11の測定手段(例えば、マイクロメータやダイヤルゲージなど)によって適宜のタイミング(例えば、加工開始時、加工途中、加工終了時などのタイミング)で計測することによって、加工量を適宜(随時)検出し、制御手段にフィードバックして送り駆動手段25、退避移動機構21および付勢機構23等を適宜制御することにより、当該圧力を加工が効率よく進行する所定の範囲に維持しながら加工を行うものであってもよい。
また、工具7と被加工物Wの当接する圧力を適宜のタイミングで検出し、制御手段にフィードバックして送り駆動手段25、退避移動機構21および付勢機構23等を適宜制御することによって、当該圧力を加工が効率よく進行する所定の範囲に維持しながら加工を行うものであってもよい。
また本実施形態において「被加工物Wの一部を減量させる加工」として例えば、穴開け加工、刳り抜き加工、被加工物の平面視における面積を減少させる(被加工物Wの平面方向の形状を縮小する)変形(縮小)加工、任意の形状に変形(縮小)させる削り加工など、研磨加工以外の加工を例示した。しかしこれに限らず、「被加工物Wの一部を減量させる加工」には、その一部または全部に研磨加工を含んでもよい。
また工具7は、上述のアルミニウム系材料による単層構造に限らず、例えば、金属やダイヤモンドなどの基材の表面に所望の厚みの上述のアルミニウム系材料を被覆した積層構造であってもよい。アルミニウム系材料は、加工の進行により減少する場合があるため、その厚みは加工に十分な厚みが適宜選択される。
また、工具7は、上述のアルミニウム系材料を主成分とし、アルミニウム系材料以外の他の成分が含まれてもよい。アルミニウム系材料を主成分とする、とは他の成分(複数の場合は他のいずれの成分)の含有量よりもアルミニウム系材料の含有量が大きいものであることが望ましく、好適には、他の成分のいずれの含有量よりもアルミニウム系材料の含有量が大きいものであるとする。
また、本実施形態は、工具7と被加工物Wによる化学的反応を生じさせながら該被加工物Wの一部を減量させるものであり、工具7も加工に伴ってその一部が減量するものであってもよく、工具7は被加工物Wより硬度が低いものであってもよいし、硬度が高いものであってもよい。
図5は、本実施形態の加工装置1および加工方法による加工の状態を示す写真である。工具7はアルミニウム合金であり、被加工物Wは、従来既知のダイヤモンド工具で研削加工済みの工業用ダイヤモンド(多結晶ダイヤモンド)である。同図(A)は加工前の工具7の先端付近の外観を撮影した画像であり、同図(B)は加工前の被加工物Wの表面を撮影した画像である。同図(C)は、加工中の状態を撮影した画像であり、同図(D)は加工後の工具7の軸方向から加工面(被加工物Wとの接触面)を撮影した画像である。被加工物Wの表面は同図(B)に示すように研削加工時の細かい傷が存在するが、同図(C)に示すように本実施形態のアルミニウム合金の工具7による加工により、被加工領域WAにおいて加工厚み方向(工具7の軸方向)の減量が進み、傷も無くなっていることが確認できる。またこの例では同図(D)に示すように、工具7の一部も減量される。
<工具の付着物についての検討>
図5に示したように本実施形態の加工装置1(加工方法)において被加工物Wを加工すると、工具7に付着物が残留する。このことからも加工の過程において工具7と被加工物Wによる化学的反応が生じていると考えられる。この付着物について検討するため、元素分析を行った。図6〜図8にその検討結果を示す。ここでは工具7としてアルミニウム合金を用い、被加工物Wは、ダイヤモンド粉とタングステンをバインダであるコバルトで結合させた工業用ダイヤモンドを用いた。
まず図6は、加工後の工具7の外観を撮影した写真であり、同図(A)が側面から撮影した画像であり、同図(B)が軸方向から加工面(被加工物Wとの接触面)を撮影した画像である。そして、同図(B)において、黒色の付着物(異物)の存在する部位について、電子線マイクロアナライザー(EPMA/WDS:Electron probe microanalyzer/Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)により元素分析を行った。同図(C)が付着物の二次電子像である。
真空中で物質に電子線を照射すると、二次電子や構成元素の種類に固有の特性X線が発生する。電子線マイクロアナライザーによる元素分析法は得られた特性X線の波長と強度を測定することによって、構成元素の種類と含有比を測定する手法である。本試験に用いた測定装置および分析条件は以下の通りである。
装置:日本電子製 JXA−8230型、加速電圧:15kV、プローブ電流:4×10−8A、分析範囲: 5B 〜 92U、X線分光器:波長分散型(WDS)、前処理:金蒸着(スパッタコート)
図7は、付着物の定性分析時の特性X線強度に基づくEPMA半定量分析結果を示す表であり、図8は、測定結果を示すチャート(EPMA/WDS元素分析チャート)である。
図7に示すように、付着物が視認された部位からはアルミニウム(Al)と酸素(O)が強く検出されたことから、付着物の主成分はアルミニウムの酸化物と考えられた。また、その他に炭素(C)やコバルト(Co)等が検出された。
これらの結果について、本願出願人は以下(1)〜(7)の知見に基づき(8)の通り推察した。
(1) アルミニウムはダイヤモンドとの間で炭化物(炭化アルミニウム(Al4C3))を生成する。
(2) 炭化物(炭化アルミニウム)の生成によりダイヤモンドを摩耗させることができる一方で、酸化アルミニウム(アルミナ)は炭素による還元は起きず、ダイヤモンドを摩耗させることは困難である。
(3) 炭化アルミニウムは、透明結晶体であるが、水、酸素、二酸化炭素と徐々に反応してしまうので窒素等の不活性雰囲気で保管する必要がある。
(4) 炭化アルミニウムは水分(空気中の水蒸気等)と徐々に反応して、メタン(CH4)を放出しながら分解し水酸化アルミニウム(Al(OH)3)となる。
(5)炭化アルミニウムは空気中の酸素(O)と徐々に反応し、一酸化炭素(CO)を放出して酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)となる。
(6)炭化アルミニウムは、空気中の二酸化炭素と徐々に反応し、炭素(C)を析出して酸化アルミニウムとなる。
(7)炭化アルミニウムは、一酸化炭素と徐々に反応し、炭素(C)を析出して酸化アルミニウムとなる。
(8)本実施形態によれば、工具(例えば、アルミニウム合金)7が被加工物(例えば、工業用ダイヤモンド)Wを押圧する際に被加工物Wにかかる過剰圧力を緩衝させながら(低加重で)加工することで、例えば、摩擦による熱の発生等が適宜に抑制され、酸化アルミニウムの生成をできる限り抑えつつ(遅らせつつ)、炭化アルミニウムが生成される状態が維持できるものと考えられる。そして、炭化アルミニウムの効率的な生成(および生成の継続)によりダイヤモンド系材料の加工が進んだと考えられる。生成された炭化アルミニウムは加工中に空気中の水分、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素や、冷却用の切削油(水分あり)などと反応し、炭素の一部は気体(メタン、一酸化炭素など)として放出され、残部は工具7側に、酸化アルミニウムおよび/または水酸化アルミニウム(元素として、アルミニウム(Al)と酸素)および炭素として析出されると考えられ、これは上記の付着物の分析結果と一致するものである。
つまり、この炭素がダイヤモンド系材料に由来の成分であれば、工具7と被加工物Wの化学的反応により炭化アルミニウムを経由して炭素が付着物として析出したと考えられる。なお、別の可能性として、工具7であるアルミニウム合金に炭素が含まれる場合もあるが、仮にそうであったとしてもその場合の炭素量は通常は1%未満とごく微量である。したがって、上記分析結果の炭素の量(9.7%)は主にダイヤモンド系材料に由来すると考えられる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨および技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。