本明細書では、「メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方」を、「(メタ)アクリル酸」と記載することがある。同様に、本明細書では、「メタクリレート及びアクリレートの少なくとも一方」を、「(メタ)アクリレート」と記載することがあり、「メタクリロニトリル及びアクリロニトリルの少なくとも一方」を、「(メタ)アクリロニトリル」と記載することがある。また、本明細書では、ポリマーにおけるモノマー数を、例えば、(n=1以上)、(m=1以上)等と記載することがある。ここで、n及びmが1以上とされている場合には、ポリマーに限定されず、モノマーであってもよいことを意味する。さらに、本明細書では、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルと、エチレングリコールモノエチルエーテルとを用い得る場合には、エチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等と記載することがある。
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)について説明する。本発明のインクジェット記録用水性インクは、着色剤と、水とを含む。
前記着色剤は、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方と、式(1)で表される染料とを含む。
前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方としては、例えば、式(2)で表される化合物等があげられる。
Xs−Q−Yt (2)
式(2)において、Qは、キナクリドン残基又はキナクリドンキノン残基であり、X及びYは、それぞれ、水素原子、メチル基、クロル基、又はメトキシ基であり、X及びYは互いに同一でも異なっていてもよく、s及びtは、それぞれ、1〜4の整数であり、s及びtは互いに同一でも異なっていてもよい。
式(2)で表されるキナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方の具体例としては、例えば、無置換のキナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、2,9−ジクロルキナクリドン、2,9−ジメトキシキナクリドン、3,10−ジメチルキナクリドン、3,10−ジクロルキナクリドン、3,10−ジメトキシキナクリドン、4,11−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン、4,11−ジメトキシキナクリドン、キナクリドンキノン等があげられる。より具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド122、202、206、207及び209;C.I.ピグメントバイオレット19及び42;及びこれらの固溶体等があげられる。これらの中でも、発色性(色相角)向上の観点から、C.I.ピグメントレッド122が好ましい。キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方としては、一種類化合物のみを用いてもよいし、2種類以上の化合物を混合して用いてもよい。
本発明の水性インクは、前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方を顔料分散剤で水に分散させたものであってもよい。前記顔料分散剤としては、例えば、一般的な高分子分散剤(顔料分散用樹脂)等を用いてよい。また、前記顔料分散剤としては、例えば、エチレンオキサイド鎖を含む顔料分散用樹脂を用いてもよい。前記キナクリドン又はその誘導体は、自己分散型であってもよい。前記自己分散型の前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方は、例えば、前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方の粒子に、カルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性基及びそれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されていることによって、顔料分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。保存安定性の観点から、本発明の水性インクは、前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方を顔料分散剤で水に分散させたものであることが好ましい。
前記エチレンオキサイド鎖を含む顔料分散用樹脂(顔料分散剤)は、エチレンオキサイド鎖を含みさえすれば、その構造に特に制限はないが、例えば、以下に説明するとおりである。
顔料分散剤としては、α,β-不飽和結合を有するモノマー(以下、単にモノマーと称す)を重合して得られるポリマーが使用される。このポリマーは、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などの酸性基を有すモノマーを少なくとも構成成分とし、必要に応じて水酸基、エチレンオキサイド鎖を有するモノマーを導入して、該酸性基をアルカリで中和してイオン化することによって水に溶解、分散、乳化することができる親水性のポリマーである。
まず、この酸性基を有するモノマーとしては、特に限定はされないが、例示すると、ビニル安息香酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸などのビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシシエチルや(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の水酸基にフタル酸やコハク酸などを反応して得られる二塩基酸のモノメタクリレート、メタクリル酸エチルスルホン酸、(メタ)アクリロイロキシエチルモノホスホネートなどの(メタ)アクリル酸系モノマー;マレイン酸、イタコン酸などの2つのカルボキシル基を有するモノマー;(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸などのアミド系モノマーが挙げられ、これらの一種以上が使用される。これらの酸性基を有するモノマーが導入されたポリマーをアルカリにて中和することで、ポリマーの親水性を高め、水に溶解、分散、乳化することができる。
このアルカリとしては、特に限定はされない。例示すると、アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、アミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどの有機アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属塩などが挙げられ、導入された酸性基を中和させる。その中和率は特に限定されず、ポリマーに導入された酸性基の全部を、又は過剰に、又は一部を中和してその用途や使用に必要なpHに合わせて調整される。
また、親水性を付与させるために、水酸基やエチレンオキサイド鎖を有するモノマーを使用してもよい。そのモノマーとしては、特に限定はされないが、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、グリセロールモノ(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレート;ポリ(n=2以上)エチレングリコールモノメタクリレート、ポリ(n=2以上)プロピレングリコールモノメタクリレート、ポリ(n=1以上)エチレングリコールポリ(m=1以上)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールモノメタクリレート;それらの水酸基を脂肪酸や芳香族カルボン酸でエステル化した(メタ)アクリレート;メトキシポリ(n=1以上)エチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリ(n=1以上)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ドデシルポリ(n=1以上)エチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリ(n=1以上)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルポリ(n=1以上)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メタクリル酸ポリ(n=1以上)エチレングリコールモノクミルエーテルなどのアルコキシまたはアリロキシポリアルキレングレコール(メタ)アクリレートなどが挙げられ、その他ビニル系モノマー、アリル系モノマー、反応性界面活性剤などの重合性基を有する親水性を付与するモノマーが使用される。
本発明の顔料分散剤は、酸性基を有するモノマー単独又は親水性を付与するモノマーを併用した構成が好ましく使用できる。中でも酸性基を有するモノマーと親水性を付与するモノマーを併用した構成は、インクの保存安定性に有効である。さらに、耐水性を付与するために、その他のモノマーを重合して親水性を調整した構成は、同時に顔料分散性をより向上させることができる。
その他のモノマーとしては、特に限定はされないが、例示すると、スチレン、ビニルトルエン、ビニルエチルベンゼン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェ
ニル、(メタ)アクリロニトリル、ビニルカプロラクトン、ビニルカルバゾール、ビニルピロリドンなどのビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メ
タ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル
、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリシクロデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、必要
に応じて、第4級アンモニウム塩型の(メタ)アクリレートなどのメタクリレート;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のアルカン酸ビニルエステル系モノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマーなどが挙げられ、これらの一種以上が使用され、親水性の調整と顔料分散性が付与される。また、必要に応じて、ポリスチレンの片末端不飽和変性のポリマー型のモノマー、マクロモノマーを使用してもよい。
本発明の顔料分散剤であるポリマーは、上記のモノマー構成であって、その構造としては、ランダム構造、交互共重合構造、ブロック構造、グラジエント構造、グラフト構造、多分岐型構造など構造は限定されない。特に好ましくは、ブロック構造、グラフト構造であって、ブロック構造の場合、水不溶性鎖と水可溶性鎖を有するブロックコポリマーとすることによって、水不溶性鎖からなるポリマーの顔料への吸着性が増し高度な微分散性と安定性を保持する。
本発明に使用される顔料分散剤であるポリマーが上記のモノマーによって構成される。この親水性を付与させるために必要な酸性基を有するモノマーの導入量としては、酸価で規定でき、この酸価とは、ポリマー1gを中和させるために必要な水酸化カリウムのmg数として明示できる。例えば、トルエン/エタノール=1/1の混合有機溶剤にポリマーを所定量溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定して算出することができる。本発明に使用されるポリマーの酸価として好ましくは、40〜200mgKOH/gであり、より好ましくは50〜150mgKOH/g、さらにより好ましくは50〜130mgKOH/gである。前記酸価が40mgKOH/g未満だと水溶性が足りず、顔料の保存安定性や親水性が足りないため、インクジェットインクの乾燥後の再分散する作用である再溶解性が不足したりする場合がある。また前記酸価が200mgKOH/gを超えるだと、インクの保存安定性の低下や印画物の耐水性が不足する場合がある。ただし、親水性、再溶解性、耐水性等は、溶剤環境面等、必要に応じて調整し、上記範囲外とする調整も用途によって好ましい態様である。また、モノマー構成の調整手法の中で好ましくは、酸価が低い場合は、前記親水性のモノマーを構成成分とすることが好ましく、加えて、さらに水溶解性を出すために、親水性のモノマーを構成成分とすることが好ましい。この親水性のモノマーの導入量は特に限定はなく、その用途の特性に応じて設計され任意である。
次に、本発明に使用される顔料分散剤の分子量は特に限定されない。ここでの分子量とは、数平均分子量であって、ゲルパーミエーションクロマトグラフによるポリスチレン換算の数平均分子量、重量平均分子量であり、本発明の分子量とは数平均分子量を示す。分子量としては、1000〜100000であり、より好ましくは5000〜50000、さらにより好ましくは5000〜20000である。前記分子量が1000未満だと、分子量が小さすぎて顔料の脱着が起きてしまい、また、使用するインクジェットインク中の有機溶媒に溶解してしまい、顔料の分散性や保存安定性が保てない場合がある。また、前記分子量が100000を超えると、インクの粘度を上げてしまったり、顔料の多粒子間の吸着によって微分散できなかったりする場合がある。分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量、PDI)は特に限定されない。分子量分布が1.5以下であると、分子量がそろっていることからポリマー分子の性質が同一となって、顔料分散性を向上させる。1.5を超えると、低分子量のポリマー分子や高分子量を含むことになるが、低分子量のポリマー分子が顔料の濡れ性に寄与し、高分子量は、分子量が大きいためにインクジェットインクの液媒体に溶解せず、顔料に吸着した場合、顔料から脱離せず、顔料の保存安定性や紙への浸透を防止することから発色性が向上する。
これらのモノマーを構成成分として、モノマーを重合して顔料分散剤としてのポリマーを得る。この重合方法は特に限定はなく、従来公知の方法が使用される。具体的には、ラジカル重合、リビングラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合である。好ましくは、ラジカル重合、リビングラジカル重合であって、溶液重合、乳化重合、分散重合、塊状重合などの重合工程で得られる。より好ましくは、ラジカル重合、リビングラジカル重合の溶液重合であって、簡便で分子量の調整や原料の精製が必要なく好ましい。加えて、溶液重合の場合、溶液をインクジェットインクに使用する溶剤で重合することで、そのまま分散剤溶液と顔料を分散して分散液とすることができる。
ラジカル重合としては、通常のアゾ系開始剤や過酸化物系開始剤を使用して重合することができ、特に限定されない。アゾ系開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ吉草酸などが挙げられ、過酸化物系開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイドなどが挙げられる。また、連鎖移動剤として、チオールやアルキルハロゲン化物、αメチルスチレン二量体などが挙げられ、任意に使用される。連鎖移動剤を使用することで分子量をある程度調整できる。また、不可逆的付加開裂型連鎖移動剤として、コバルト系化合物などを使用することができる。
リビングラジカル重合としては、様々な方法がとれ、特に限定されない。例示すると、ニトロキサイドを使用するNMP法、金属錯体を使用して酸化還元を利用する原子移動ラジ
カル重合法(ATRP法)、ジチオエステル等を使用する可逆的付加解裂型連鎖移動重合(RAFT
法)、有機テルルを使用するTERP法などが挙げられ、特に限定されない。
また、リビングラジカル重合方法ではなく、アニオン重合として、ケテンシリルアセタールなどの化合物を使用するグループトランスファー法が使用できる。
溶液重合で使用できる有機溶媒としては、特に限定はない。トルエンやヘキサンなどの炭化水素系溶媒;メタノールやイソプロパノールなどのアルコール系溶媒;メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;テトラヒドロフランやジオキサンなどのエーテル系溶媒;メトキシエタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶媒;N-メチルピロリドンやジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒;テトラメチル尿素やジメチルイミダゾリジノンなどの尿素系溶媒;ジメチルスルホキシド、塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒などが1種以上使用できる。特に好ましくは、インクジェットインクに添加されるグリコール系溶媒を使用すると溶液重合した後、そのまま顔料分散へ使用できる。他のインクジェットに好ましくない溶媒を使用した場合は、その溶媒からポリマーを取り出す必要がある。その取り出し方法は特に限定されず、乾燥してもよいし、貧溶剤に析出してもよいし、重合後アルカリ水を添加して中和して水溶液化した後、酸を加えて析出させてもよい。
以上のようにして得られるポリマーは、その酸性基を中和して水可溶化させる。前記したが、溶液重合後、アルカリ水溶液を加えて酸性基を中和、イオン化して水溶液化してもよいし、前記した様にポリマーを取り出し、それとアルカリ水溶液を混合して溶解させてもよい。以上のようにして、顔料分散剤を得ることができる。
本発明のインクに使用される顔料分散液について説明する。本発明の顔料分散液は、少なくとも、顔料、アルカリにて中和された顔料分散剤、水とからなる。又、水の使用には特に限定なく、必要に応じて水溶性有機溶剤若しくはそれらを混合しても使用することができる。
水溶性有機溶剤としては、特に限定はなく、任意のものが使用できる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン、エチレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエ
チル、プロピル、ブチル、ヘキシル)エーテル、テトラエチレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル、ヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル
(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(また
はエチル、プロピル、ブチル)エーテル、テトラプロピレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテルなどのアルキレングリコール類の低級アルキルエーテル類;N−メチル
−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。これらの中でも、アルキレングリコール類及びその低級アルキルエーテル類が好ましい。
次に、顔料に対して、顔料分散剤の量は特に限定されず、顔料100質量部に対して、5〜100質量部である。5質量部未満では、分散剤が足りず顔料の分散性、安定性が足りず、100質量部より多いと、顔料に吸着しない分散剤が存在し、粘度の上昇や吐出安定性不良、紙への浸透を促し発色性の低下につながる。より好ましくは10〜50質量部、さらにより好ましくは20〜45質量部である。
水若しくは溶剤等の添加量は、印画物の乾燥性や、インクの粘度に応じて添加量を調整できる。
また、顔料分散液中の顔料濃度は任意であり、特に限定されない。具体的には、5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%である。
また、必要に応じて、様々な添加剤が使用されるが、特に限定されない。具体的には、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、ノズル乾燥防止剤、さらには、水不溶の有機溶媒、エマルジョンなどのポリマー成分、界面活性剤や染料なども使用できる。
以上の原材料を使用して、顔料を分散する。顔料と分散剤、液媒体、添加剤を添加し、従来公知の方法で分散して得ることができる。又は、顔料をあらかじめ分散剤にて処理してポリマー処理顔料として、この処理顔料を分散して得ることができる。
このポリマー処理顔料の製造方法について説明する。このポリマー処理顔料を得る方法は従来公知の方法がとられ特に限定されない。具体的には、顔料、好ましくは水ペーストの顔料を使用して、アルカリにて中和され水に溶解している分散剤と水中で混合して、酸を加えてポリマーを析出させる方法;粉末顔料とアルカリで中和していないポリマー有機溶剤を混合して、必要に応じて三本ロールやニーダーで混練し、その混合物を貧溶剤に添加して析出させる方法などが挙げられる。
まず顔料と分散剤と液媒体を混合して、従来公知の方法で分散する。前分散と本分散があり、前分散には、一般的なディゾルバーを使用して行うことが可能であるが、ホモジナイザーなどの高速撹拌機を使用して行うことができる。高速撹拌機としては、TKホモミキサー、TKロボミックス、TKフィルミックス(以上、プライミクス社製、商品名);クリアミックス(エムテクニック社製、商品名);ウルトラディスパー(浅田鉄鋼社製、商品名)などが好ましい。ついで、本分散には、例えば、ニーダー、二本ロール、三本ロールの他;SS5(エムテクニック社製、商品名)、ミラクルKCK(浅田鉄鋼社製、商品名)といった混練機;超音波分散機;マイクロフルイダイザー(みずほ工業社製、商品名)といった高圧ホモジナイザー;ナノマイザー(吉田機械興業社製、商品名);スターバースト(スギノマシン社製、商品名);G−スマッシャー(リックス社製、商品名)等の分散機を使用することができる。また、ガラスやジルコンなどのビーズメディアを用いるボールミル、サンドミル、横型メディアミル分散機、コロイドミル等を使用することもできる。
また、ポリマー処理顔料の場合は、ポリマー処理顔料、液媒体、アルカリを混合して、前記した前分散と本分散を行う。ポリマー処理顔料では、酸性基がアルカリで中和されていないので、アルカリを添加して、分散剤の酸性基を中和させて水に分散させるようにする。
また、顔料と中和されていないポリマーの有機溶剤溶液を三本ロール等で混練したのち、アルカリを添加して、有機溶剤を除去する方法、又は、顔料と中和されていないポリマーの有機溶剤溶液、アルカリ水溶液を混練して有機溶剤を除去する方法などでも同様にでき、限定はない。特にこの方法は、酸価が少ない水への溶解性が悪い分散剤に好適である。
得られた顔料分散液はそのまま用いてもよいが、遠心分離機、超遠心分離機又はろ過機を使用して、僅かに存在しうる粗大粒子を除去することも好ましい。粗大粒子はインクジェット用水性顔料インク中で沈降物となって堆積する場合がある。また、インクジェット印刷においてノズル詰まりの原因にもなるので、粗大粒子の含有割合は少ないほうが好ましい。
得られた顔料分散液の物性に関して、粒子径は印刷時のノズル詰まりを考慮し80〜140nm、より好ましくは90〜130nmとすることが望ましい。粘度や表面張力、pHなどの物性については特に限定されず任意である。使用効率等を考慮し、粘度(25℃)の範囲としては、1〜100mPa・s、好ましくは2〜20mPa・sが挙げられるが、要望される顔料濃度や用途によって調製され、限定はない。
前記水性インク全量における前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方の固形分配合量(キナクリドン割合)は、特に限定されず、例えば、所望の彩度等により、適宜決定できる。前記キナクリドン割合は、例えば、0.1重量%〜20重量%、1重量%〜15重量%、2重量%〜10重量%である。
次に、式(1)で表される染料について説明する。式(1)で表される染料は、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方を含むインクにおいて、発色性を向上させ、且つマイグレーションを抑制できる。
式(1)において、nは、0、1又は2であり、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシル基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のスルファモイル基、置換又は無置換のアミノ基、ニトロ基、スルホン酸エステル基、置換又は無置換のアルキルスルホニル基、置換又は無置換のアリールスルホニル基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基であり、R
1、R
2及びR
3は互いに同一でも異なってもよく、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のアラルキル基、置換又は無置換の脂環基、置換又は無置換のヘテロ環基であり、R
4、R
5及びR
6は互いに同一でも異なっていてもよく、3つのMは、それぞれ、H、Li、Na、K、NH
4、NH
3CH
3、N(CH
3)
4、NH
3C
2H
5、N(C
2H
5)
4、NH
2(C
2H
4OH)
2、NH
3(C
2H
4NH)
5、C
2H
4NH
2のいずれかであり、3つのMは互いに同一でも異なっていてもよい。
R1〜R6のいずれかが酸基を有する場合、その一部又は全部は、塩型のものであってもよい。即ち、R1〜R6のいずれかが酸基を有する場合、その酸基は、未中和であるか、又は、その塩であってもよい。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアルキル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルキル基である。前記置換又は無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、トリフルオロメチル基、ジメチルアミノメチル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアルコキシ基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルコキシ基である。前記置換又は無置換のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のカルバモイル基としては、例えば、カルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のスルファモイル基としては、例えば、スルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、N−エチル−N−フェニルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、p−カルボキシフェニルスルファモイル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアミノ基としては、例えば、N−メチルアミノ基、カルバモイルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、アセチルアミノ基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3におけるスルホン酸エステル基としては、例えば、フェノキシスルホニル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアルキルスルホニル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルキルスルホニル基である。前記置換又は無置換のアルキルスルホニル基としては、例えば、ヒドロキシスルホニル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2およびR3における置換又は無置換のアリールスルホニル基は、好ましくは、総炭素原子数が6〜15のアリールスルホニル基である。前記置換又は無置換のアリールスルホニル基としては、例えば、ベンジルスルホニル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3におけるカルボン酸エステル基としては、例えば、メトキシカルボニル基等があげられる。
式(1)において、R4、R5およびR6における置換又は無置換のアルキル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜18のアルキル基である。前記置換又は無置換のアルキル基としては、例えば、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基、エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシシクロヘキシルメチル基、1−カルボキシ−2−メルカプトエチル基、1−カルボキシ−2−カルバモイル−エチル基、1−イソプロピル−1−カルボキシメチル基、1,2−ジカルボキシプロピル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のアルケニル基は、好ましくは、総炭素原子数2〜18のアルケニル基である。前記置換又は無置換のアルケニル基としては、例えば、2−メチル−1−プロペニル基、ビニル基、アリル基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のアリール基としては、例えば、3,4−ジカルボキシフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−カルボキシフェニル基等があげられる。前記置換アリール基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基と同じものがあげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、1−カルボキシ−2−フェニル−エチル基、1−カルボキシ−2−ヒドロキシフェニルエチル基、4−カルボキシベンジル基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換の脂環基としては、例えば、シクロヘキシル基、4−カルボキシシクロヘキシル基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、チアジアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基等があげられる。前記置換ヘテロ環基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基と同じものがあげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6としては、少なくとも一つが1〜4個のカルボキシ基又はスルファモイル基で置換されているアルキル基、アルケニル基、アリール基、脂環基、アラルキル基若しくはヘテロ環基であってもよい。
式(1)において、R4及びR5は、それぞれ、水素原子又は3置換フェニル基であってもよく、R4及びR5は互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、前記3置換フェニル基の三つの置換基は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、総炭素原子数が1〜9の置換又は無置換のアルキル基、総炭素原子数が1〜9の置換又は無置換のアルコキシ基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のスルファモイル基、置換又は無置換のアミノ基、ニトロ基、スルホン酸エステル基、カルボン酸エステル基からなる群から選択される一つの基であり、前記三つの置換基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
式(1)で表される染料の好ましい態様としては、例えば、式(1)において、R4、R5及びR6の少なくとも一つが、1〜4個のカルボキシ基又はスルファモイル基で置換されているアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基若しくはシクロへキシル基である態様があげられる。
式(1)で表される染料は、その構造中に、スルホ基及びカルボキシ基又はこられの塩を合計で6個以下、好ましくは5個以下、特に好ましくは4個以下有することが好ましい。また、式(1)で表される染料は、遊離酸型のまま使用してもよいが、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してもよい。また、式(1)で表される染料は、酸基の一部が塩型のものであってもよく、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。このような塩型としては、例えば、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、又は有機アミンの塩等があげられる。前記有機アミンとしては、例えば、低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換低級アルキルアミン、カルボキシ置換低級アルキルアミン、炭素原子数2〜4のアルキレンイミン単位を2〜10個有するポリアミン等があげられる。これらの塩型の場合、その種類は、1種類に限られず複数種混在していてもよい。
式(1)で表される染料の好ましい態様としては、例えば、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、カルボキシ基、カルバモイル基、トリフルオロメチル基又はスルファモイル基であり、
R2、R3およびR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、カルボキシ基又はスルファモイル基で置換されてもよいフェニル基又はカルボキシアルキル基であり、
R6は、水素原子又はアルキル基である態様があげられる。
式(1)で表される染料の好ましい具体例としては、式(1−1)〜(1−5)で表される化合物があげられる。
式(1−1)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルボキシ基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、2−カルボキシフェニル基であり、
R6は、水素原子である態様である。式(1−1)で表される化合物において、ナフタレン環の3位及び6位に位置するスルホン酸は、アンモニウム塩となっている。
式(1−2)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルバモイル基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、2−カルボキシフェニル基であり、
R6は、水素原子である態様である。式(1−2)で表される化合物において、ナフタレン環の3位及び6位に位置するスルホン酸は、ナトリウム塩となっている。
式(1−3)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の3位に位置するスルファモイル基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、2−スルファモイルフェニル基であり、
R6は、イソプロピル基である態様である。化学式(1−3)で表される化合物において、ナフタレン環の3位及び6位に位置するスルホン酸は、エチルアンモニウム塩となっている。
式(1−4)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するトリフルオロメチル基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、1−カルボキシ−2−メチルブチル基であり、
R6は、メチル基である態様である。式(1−4)で表される化合物において、ナフタレン環の3位及び6位に位置するスルホン酸は、メチルアンモニウム塩となっている。
化学式(1−5)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルボキシ基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、フェニル基であり、
R5は、水素原子である態様である。式(1−5)で表される化合物において、ナフタレン環の3位及び6位に位置するスルホン酸は、アンモニウム塩となっている。
式(1)で表される染料は、例えば、特開平8-73791号公報に開示される方法によって製造することができる。前記水性インクにおける式(1)で表される染料の配合量(染料割合)は、例えば、0.2重量%〜2.5重量%、0.3重量%〜1.9重量%、0.5重量%〜1.5重量%である。式(1)で表される染料の配合量がこの範囲であれば、発色性及び耐水性に優れた記録物を得ることができる。
前記水性インクにおいて、前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方(P)と、式(1)で表される染料(D)との重量比は、D/P=0.03〜0.7、0.05〜0.6、0.08〜0.4である。重量比(D/P)がこの範囲内であれば、発色性に優れ、且つ、マイグレーションが抑制された記録物を得ることができる。
前記水性インクにおいて、前記重量比D/Pが、0.08〜0.4であり、且つ、前記染料割合が、0.5重量%〜1.5重量%であることが好ましい。式(1)で表される染料の配合量及び重量比(D/P)がこの範囲内であれば、発色性及び耐水性に優れ、且つ、マイグレーションが抑制された記録物を得ることができる。
前記水性インクは、前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方及び式(1)で表される染料に加え、さらに他の顔料及び染料等を含んでもよいし、含まなくてもよい。発色性の向上と、マイグレーションの抑制とを両立させる観点から、着色剤の主成分は、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方と式(1)で表される染料であることが好ましい。水性インク中の着色剤の全配合量に対する、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方と式(1)で表される染料の合計配合量の割合は、例えば、80重量%〜100重量%であり、好ましくは、90重量%〜100重量%である。上述したように、水性インクの保存安定性の観点から、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方は、顔料分散剤で水に分散させることが好ましく、顔料分散剤は、エチレンオキサイド鎖を含む顔料分散用樹脂が好ましい。更に、水性インクがエチレンオキサイド鎖を含む顔料分散用樹脂を含むと、マイグレーションを抑制する効果が期待できる。これは、エチレンオキサイド鎖を含む顔料分散用樹脂が式(1)で表される染料と相互作用し、記録部の周縁に式(1)で表される染料が滲み出すのを抑制するためと推察される。マイグレーションを抑制する観点から、水性インク中の式(1)で表される染料の配合量(D)に対する、水性インク中のエチレンオキサイド鎖を含む顔料分散用樹脂の配合量(R)の重量比(R/D)は、例えば、0.3以上であり、0.5以上が好ましい。
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記水性インク全量における水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
前記水性インクは、さらに、湿潤剤を含んでもよい。前記湿潤剤は、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する。そして、前記水性インクは、さらに、蒸気圧が0.002mmHg以下の湿潤剤を含んでもよい。蒸気圧が0.002mmHg以下の前記湿潤剤は、例えば保湿性が高いため、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する効果が高い。しかし、記録媒体上に残存し易く、マイグレーションを促進する虞がある。前記水性インク全量における前記湿潤剤の配合量は、例えば、25重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましい。湿潤剤の配合量を25重量%以下とすることで、マイグレーションを抑制することができる。一方、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する観点からは、前記水性インク全量における前記湿潤剤の配合量は、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。前記湿潤剤としては、例えば、グリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等があげられる、中でも、グリセリン、トリエチレングリコールが好ましく、グリセリンがより好ましい。
前記水性インクは、さらに、蒸気圧が0.002mmHgを超える湿潤剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。蒸気圧が0.002mmHgを超える湿潤剤は、蒸気圧が0.002mmHg以下の湿潤剤と比較してマイグレーションを促進しない点で優れている。
蒸気圧が0.002mmHgを超える前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、1,2−ヘキサンジオール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
前記水性インク全量における蒸気圧が0.002mmHgを超える前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%、5重量%〜80重量%、5重量%〜50重量%である。
前記水性インクは、さらに、浸透剤を含んでもよい。前記浸透剤は、例えば、記録媒体上での乾燥速度を調整する。前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。中でも、浸透剤としては、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテルが好ましい。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
前記水性インク全量における前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%、0重量%〜15重量%、1重量%〜4重量%である。
前記水性インクは、さらに、アニオン性界面活性剤を含んでもよい。前記アニオン性界面活性剤は、例えば、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム塩、スルホコハク酸塩等があげられ、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製の「LIPOLAN(登録商標)」シリーズ、「LIPON(登録商標)」シリーズ、「SUNNOL(登録商標)」シリーズ、「LIPOTAC(登録商標)」シリーズ、「ENAGICOL(登録商標)」シリーズ、「LIPAL(登録商標)」シリーズ、「LOTAT(登録商標)」シリーズ等;花王(株)製の「EMAL(登録商標)」シリーズ、「LATEMUL(登録商標)」シリーズ、「VENOL(登録商標)」シリーズ、「NEOPELEX(登録商標)」シリーズ、NS SOAP、KS SOAP、OS SOAP、「PELEX(登録商標)」シリーズ等;三洋化成工業(株)製の「サンデット(登録商標)」シリーズ及び「ビューライト(登録商標)」シリーズ等;東邦化学工業(株)製の「アルスコープ(登録商標)」シリーズ、「ネオスコープ(登録商標)」シリーズ、「フオスフアノール(登録商標)」シリーズ等;東京化成(株)製のヘキサデシル硫酸ナトリウム及びステアリル硫酸ナトリウム等;があげられる。
前記水性インク全量における前記アニオン性界面活性剤の配合量は、例えば、5重量%以下、3重量%以下、0.1重量%〜2重量%である。
前記水性インクは、さらに、ノニオン性界面活性剤を含んでもよい。前記ノニオン性界面活性剤は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、日信化学工業(株)製の「オルフィン(登録商標)E1010」、「オルフィン(登録商標)E1006」及び「オルフィン(登録商標)E1004」等があげられる。
前記水性インク全量における前記ノニオン性界面活性剤の配合量は、例えば、5重量%以下、3重量%以下、0.1重量%〜2重量%である。
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
前記水性インクは、例えば、前記キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方、式(1)で表される染料及び水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。なお、前記水性インクの調製方法は、前述の顔料分散液の調製工程を含んでもよい。即ち、まず、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方を顔料分散剤で水に分散させた顔料分散液を調製し、調製した顔料分散液と、式(1)で表される染料及び水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合して水性インクを調製してもよい。
以上説明したように、本発明のインクジェット記録用水性インクは、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方と、式(1)で表される染料とを含むことで、発色性の向上と、マイグレーションの抑制とを両立可能である。つぎに、本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
つぎに、本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法について説明する。
本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部及びインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とする。
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、前記水性インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする。
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
図2に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。前記4色の水性インクのうちの少なくとも一つが、本発明のインクジェット記録用水性インクである。ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図2において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。インクジェット記録装置1において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置1内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、インクジェットヘッド3から吐出される水性インクにより所定の記録がされる。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。本発明によれば、発色性に優れ、且つ、マイグレーションが抑制された記録物を得ることが可能である。図2においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
図2に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用する装置であってもよい。
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
[調製例1]マゼンタ色水性顔料分散液の作成
マゼンタ顔料として、C.I.ピグメントレッド122を200部、顔料分散剤1として、スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−エチルヘキシル/ポリエチレングリコールモノメタクリレート(分子量350)/メタクリル酸(20/20/20/20/20質量比)共重合体(数平均分子量13000)の水酸化カリウム中和物の水溶液(固形分40%)を175部、液媒体として、水を425部で配合し、ディスパーで解膠してプレミルベースを調整した。ついで、プレミルベースを横型媒体分散機「ダイノミル0.6リットルECM型」(商品名シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズ径0.5mm)を使用し、周速10m/sで分散処理を行った。2時間分散したところで分散を終了し、ミルベースを得た。
このミルベースを顔料分15重量%になるようにイオン交換水にて希釈し、ついで、遠心分離処理し、その顔料分散液を、10μmのメンブレンフィルターでろ過し、イオン交換水、防腐剤、グリセリンを所定量添加して顔料濃度が12重量%であるマゼンタ色顔料分散液とした。
この顔料分散液を粒度測定器「NICOMP 380ZLS−S」(パーティクルサイジングシステム PSS社製)で平均粒子径を測定(25℃)したところ、平均粒子径が123nmであった。粘度(25℃)は4.96mPa・s、表面張力(25℃)は46.5mN/m、pH(25℃)は9.4であった。マゼンタ色顔料分散液の組成及び物理特性を下記表1に示す。
保存安定性試験として、この各色水性顔料分散液を70℃で一週間静置したときの粒子径、及び粘度変化を表2に示した。安定性は水性顔料分散液を70℃で7日間静置したときの粒子径、及び粘度変化率(%)として示す。変化率は(測定日後の値)/(初期の値)−1の百分率(%)として示す。
水性顔料分散液の粒子径、及び粘度に変化は見られず保存安定性は良好であった。
[評価基準]
下記評価基準を元に評価とした。
(粒子径、粘度変化)
A:変化率±5%未満
B:変化率±5%以上10%未満
C:変化率±10%以上
[実施例1−1〜1−3]
実施例1−1〜1−3は、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方の配合量を変更した例である。インク組成(表3)における、顔料分散液1を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液1に、前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1−1〜1−3のインクジェット記録用水性インクを得た。なお、表3において、染料(1−1)は、式(1−1)で表される化合物を示し、表4以降において、同様である。また、表3において、グリセリンの配合量(重量%)は、顔料分散液1が含有するグリセリンを含む、水性インク中に含まれるグリセリンの総量を示し、表4以降において、同様である。
実施例1−1〜1−3の水性インクについて、(a)マイグレーション評価、(b)発色性(彩度)評価、(c)発色性(色相角)評価、(d)保存安定性評価及び(e)耐水性評価を、下記方法により実施した。
(a)マイグレーション評価
高温高湿(温度33℃、相対湿度80%)の環境下で、図1に示すように、記録媒体(ブラザー工業(株)製の光沢紙BP71GA4)に実施例1−1〜1−3の水性インクを吐出して、ベタ画像(解像度1200dpi×2400dpiにおいて、300%duty)を2分割するように、図2に示したインクジェット記録装置のキャリッジの移動方向に沿ったスリット(非記録部)が入った15個のパッチを記録し、評価用サンプルを作製した。前記300%dutyのベタ画像は、例えば、図2に示したインクジェット記録装置の4つのインクカートリッジのうちの3つ(イエローインク用、マゼンタインク用およびシアンインク用のインクカートリッジ)を、同じ水性インクが充填されたインクカートリッジとし、前記3つのインクカートリッジに充填された同じ水性インクを、それぞれ100%dutyとなる条件下にて同一走査において吐出することで、記録できる。前記15個のパッチにおいて、前記スリットの幅は、それぞれ、2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28及び30ドットとした。ここで、1ドットとは、解像度1200dpi×1200dpiにおけるものであり、1/1200インチ(2.54/1200cm)相当となる。ついで、前記評価用サンプルを、前記高温高湿の環境下で3日間保存した。つぎに、クオリティ・エンジニアリング・アソシエイツ(QEA)社製のハンディ型画像評価システム「PIAS(登録商標)−II」を用いて、前記スリットが白地のラインとして判定されるか否かを測定した。具体的には、前記スリットを前記画像評価システムの画面中央に配置し、下記測定条件において、前記画面の左端から右端まで前記スリットが連続した白地のラインとして判定されれば、合格とした。スリット幅の狭い前記パッチから判定していき、最初に合格となるスリット幅を求めた。前記スリット幅から、下記評価基準により、前記水性インクのマイグレーションを評価した。
<マイグレーションレベル測定条件>
測定ツール:「ライン分析」又は「エッジ分析」
エッジ境界線閾値:75%
(前記スリット部における反射率測定値の最大値をRmax、前記パッチのベタ記録部における反射率測定値の最小値をRmin、前記スリット部における反射率測定値をRとしたとき、{R/(Rmax−Rmin)}×100≦75になる部分が前記画像評価システムの画面中に存在すると、前記スリットは、連続した白地のラインではないと判定される。)
Color Plane:Auto
Orientation:水平ライン
背景(Polarity):暗い(Light on dark)
マイグレーションレベル評価 評価基準
A:スリット幅6ドット以下のパッチで最初に合格となった。
B:スリット幅8ドット又は10ドットのパッチで最初に合格となった。
C:スリット幅12ドット以上のパッチで最初に合格となった。
(b)発色性(彩度)評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタMFC−J4510Nを使用して、実施例1−1〜1−3の水性インクを用いて、普通紙(XEROX社製4200)に解像度600dpi×300dpiで、ベタ画像を記録した。前記ベタ画像の彩度(C*)を、Gretag Macbeth社製の分光測色計スペクトロアイ(測定視野:2°;白色基準:Abs;光源:D50;濃度基準:ANSI T)により測定し、下記評価基準により評価した。
発色性(彩度)評価 評価基準
A:C*が、50以上であった。
B:C*が、48以上50未満であった。
C:C*が、48未満であった。
(c)発色性(色相角)評価
前記(b)発色性(彩度)評価と同様にして記録したベタ画像の色相角(h)を、Gretag Macbeth社製の分光測色計スペクトロアイ(測定視野:2°;白色基準:Abs;光源:D50;濃度基準:ANSI T)により測定し、下記評価基準により評価した。
発色性(色相角)評価 評価基準
A:hが、340°以上360°未満であった。
B:hが、335°以上340°未満、又は0°以上10°未満であった。
C:hが、10°以上335°未満であった。
(d)保存安定性評価
実施例1−1〜1−3の水性インクを純水によって1600倍に希釈した希釈液の最大吸収ピーク波長における吸光度を、(株)島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計UV3600を用いて測定した。前記吸光度の測定には、セル長10mmの測定セルを用いた。ついで、別途、実施例1−1〜1−3の水性インクを密閉容器に入れ、60℃の環境下で、2週間保存した。つぎに、前記保存後の実施例1−1〜1−3の水性インクを純水によって1600倍に希釈した希釈液の吸光度を、保存前と同様にして測定した。つぎに、式(I)により吸光度減少率(%)を求め、水性インクとしての保存安定性を、下記評価基準により評価した。なお、前記吸光度減少率が小さいほど、保存安定性に優れていたことになる。
吸光度減少率(%)={(X−Y)/X}×100 (I)
X:保存前の吸光度
Y:保存後の吸光度
保存安定性評価 評価基準
A:吸光度減少率が、5%未満であった。
B:吸光度減少率が、5%以上10%未満であった。
C:吸光度減少率が、10%以上であった。
(e)耐水性評価
前記(b)発色性(彩度)評価と同様にして記録したベタ画像の光学濃度(OD値)を、Gretag Macbeth社製の分光測色計スペクトロアイ(測定視野:2°;白色基準:Abs;光源:D50;濃度基準:ANSI T)により測定した。つぎに、記録して一日後、前記ベタ画像を水に5分間浸漬した後、充分に乾燥させてから、再度、光学濃度(OD値)を測定した。つぎに、式(II)によりOD値減少率(%)を求め、水性インクとしての耐水性を、下記評価基準により評価した。
OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 (II)
X:水に浸漬する前のOD値
Y:水に浸漬した後のOD値
耐水性評価 評価基準
A:OD値減少率が、20%未満であった。
B:OD値減少率が、20%以上40%未満であった。
C:OD値減少率が、40%以上であった。
実施例1−1〜1−3の水性インクのインク組成及び評価結果を、表3に示す。
表3に示すとおり、式(1)で表される染料を用いた実施例1−1〜1−3では、マイグレーション、発色性(彩度)、発色性(色相角)、保存安定性及び耐水性の全ての評価結果が極めて良好であった。
[実施例2−1及び比較例2−1〜2−3]
実施例2−1は、式(1)で表される染料を変更した例である。水性インク組成(表4)における、顔料分散液1を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液1に、前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例2−1及び比較例2−1〜2−3のインクジェット記録用水性インクを得た。なお、表4において、染料(1−2)は、式(1−2)で表される化合物を示す。
実施例2−1及び比較例2−1〜2−3の水性インクについて、マイグレーション評価、発色性(彩度)評価、発色性(色相角)評価、保存安定性評価及び耐水性評価を、実施例1−1〜1−3と同様にして実施した。
実施例2−1及び比較例2−1〜2−3の水性インクの水性インク組成及び評価結果を、表4に示す。なお、表4には、実施例1−1の水性インク組成及び評価結果も、あわせて示している。
表4に示すとおり、式(1)で表される染料を用いた実施例2−1では、マイグレーション、発色性(彩度)、発色性(色相角)、保存安定性及び耐水性の全ての評価結果が極めて良好であった。一方、式(1)で表される染料を用いなかった比較例2−1では、発色性(彩度)の評価結果が悪かった。また、式(1)で表される染料に代えて、C.I.アシッドレッド289を用いた比較例2−1では、マイグレーションの評価結果が悪かった。そして、式(1)で表される染料に代えて、C.I.アシッドレッド52を用いた比較例2−2では、マイグレーション及び発色性(色相角)の評価結果が悪かった。この結果から、水性インク中の式(1)で表される染料は、マイグレーションし難く、且つ、記録物における発色性(彩度、色相角)を向上させると推察される。
[実施例3−1及び3−2]
実施例3−1及び3−2は、キナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方を変更した例である。水性インク組成(表5)における、顔料分散液を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液に、前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例3−1及び3−2のインクジェット記録用水性インクを得た。なお、表5において、顔料分散液2及び3は、化学処理により自己分散型としたキナクリドン及びその誘導体の少なくとも一方を用いた顔料分散体であり、顔料分散用樹脂を含んでいない。
実施例3−1及び3−2の水性インクについて、マイグレーション評価、発色性(彩度)評価、発色性(色相角)評価、保存安定性評価及び耐水性評価を、実施例1−1〜1−3と同様にして実施した。
実施例3−1及び3−2の水性インクの水性インク組成及び評価結果を、表5に示す。なお、表5には、実施例1−1のインク組成及び評価結果も、あわせて示している。
表5に示すとおり、実施例3−1及び3−2では、マイグレーション、発色性(彩度)、発色性(色相角)、保存安定性及び耐水性の全ての評価結果が良好であった。但し、顔料を顔料分散用樹脂によって分散させている顔料分散液1を用いた実施例1-1と比較して、自己分散型の顔料を含む顔料分散液2及び3を用いた実施例3-1及び3-2は、保存安定性がやや劣った。この結果から、自己分散型の顔料を用いるよりも、顔料分散用樹脂を用いて顔料を分散させた方が、保存安定性が向上すると推察される。また、C.I.ピグメントレッド122を用いた実施例1-1及び3−2と比較して、C.I.ピグメントバイオレット19を用いた実施例3-1は、発色性(色相角)がやや劣った。この結果から、C.I.ピグメントレッド122を用いることで、記録物における発色性(色相角)が向上すると推察される。
[実施例4−1〜4−4]
実施例4−1〜4−4は、前記重量比D/Pを変更した例である。インク組成(表6)における、顔料分散液1を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液1に、前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例4−1〜4−4のインクジェット記録用水性インクを得た。
実施例4−1〜4−4の水性インクについて、マイグレーション評価、発色性(彩度)評価、発色性(色相角)評価、保存安定性評価及び耐水性評価を、実施例1−1〜1−3と同様にして実施した。
実施例4−1〜4−4の水性インクのインク組成及び評価結果を、表6に示す。なお、表6には、実施例1−1のインク組成及び評価結果も、あわせて示している。
表6に示すとおり、実施例4−1〜4−4では、マイグレーション、発色性(彩度)、発色性(色相角)、保存安定性及び耐水性の全ての評価結果が良好であった。特に、前記重量比D/P=0.08〜0.4であり、式(1)で表される染料の配合量が0.5重量%〜1.5重量%である実施例4−2、1−1及び4−3では、マイグレーション、発色性(彩度)、発色性(色相角)、保存安定性及び耐水性の全ての評価結果が極めて良好であった。
[実施例5−1〜5−4]
実施例5−1〜5−4は、水溶性有機溶剤の配合量及び種類を変更した例である。インク組成(表7)における、顔料分散液1を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液1に、前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例5−1〜5−4のインクジェット記録用水性インクを得た。
実施例5−1〜5−4の水性インクについて、マイグレーション評価、発色性(彩度)評価、発色性(色相角)評価、保存安定性評価及び耐水性評価を、実施例1−1〜1−3と同様にして実施した。
実施例5−1〜5−4の水性インクのインク組成及び評価結果を、表7に示す。なお、表7には、実施例1−1のインク組成及び評価結果も、あわせて示している。
表7に示すとおり、実施例5−1〜5−4では、マイグレーション、発色性(彩度)、発色性(色相角)、保存安定性及び耐水性の全ての評価結果が良好であった。特に、蒸気圧が0.002mmHg以下の湿潤剤の配合量が25重量%以下である実施例1−1、5−1及び5−3では、マイグレーション、発色性(彩度)、発色性(色相角)、保存安定性及び耐水性の全ての評価結果が極めて良好であった。