以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。
弾性波装置1は圧電体層2を有する。圧電体層2はニオブ酸リチウム層であり、カット角は126°である。なお、圧電体層2の材料及びカット角は上記に限定されない。圧電体層2は、タンタル酸リチウム層であってもよい。また、圧電体層2はタンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層以外の圧電単結晶層などでもよい。
圧電体層2上にはIDT電極3が設けられている。IDT電極3は、複数の電極指3aを有する。IDT電極3に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。本実施形態においては、レイリー波を主モードとして利用する。レイリー波を主モードとして利用すると、SH波が不要波のリップルとして現れる。IDT電極3の弾性波伝搬方向両側には、反射器6及び反射器7が配置されている。このように、本実施形態の弾性波装置1は弾性波共振子である。
図2は、第1の実施形態におけるIDT電極の電極指付近を示す拡大正面断面図である。
IDT電極3は、複数の金属層が積層された積層金属層である。ここで、IDT電極3の電極指ピッチにより規定される波長により規格化された複数の金属層の膜厚を波長規格化膜厚(%)とする。IDT電極3の複数の金属層は、波長規格化膜厚が1.25%以上の金属層である電極層を複数含む。
より具体的には、IDT電極3は、最も圧電体層2側に位置する第1の電極層4と、第1の電極層4上に積層されている第2の電極層5とを有する。第1の電極層4の波長規格化膜厚は2%であり、第2の電極層5の波長規格化膜厚は5%である。なお、第1の電極層4及び第2の電極層5の波長規格化膜厚は上記に限定されない。IDT電極3の電極指ピッチにより規定される波長は、特に限定されないが、本実施形態では4μmである。
第1の電極層4は、波長規格化膜厚が1.25%以上の電極層のうち最も密度が高い電極層である。第2の電極層5は、第1の電極層4よりも密度が低い電極層である。なお、第2の電極層5よりも第1の電極層4の密度が高ければよく、第1の電極層4よりも高い密度の電極層がIDT電極3に含まれていてもよい。
第1の電極層4の材料は、特に限定されないが、本実施形態ではPtである。第2の電極層5の材料は、特に限定されないが、本実施形態ではAlである。例えば、第1の電極層4及び第2の電極層5の材料の組み合わせは、Pt及びTi、Pt及びCu、Pt及びMo、Mo及びAlまたはCu及びAlなどであってもよい。
なお、IDT電極3の構成は上記に限定されない。IDT電極3は、波長規格化膜厚が1.25%以上の電極層を複数有していればよく、第2の電極層5よりも第1の電極層4が圧電体層2側に位置していればよい。IDT電極3は、波長規格化膜厚が1.25%未満の金属層を有していてもよい。弾性波装置1においては、第1の電極層4上に直接的に第2の電極層5が積層されているが、第1の電極層4上に、他の金属層を介して間接的に第2の電極層5が積層されていてもよい。
図2に示すように、第1の電極層4は側面4aを有する。第2の電極層5も側面5aを有する。第1の電極層4の側面4a及び第2の電極層5の側面5aは、IDT電極3の厚み方向に対して傾斜している。ここで、IDT電極3の厚み方向に対する傾斜角度をθとする。傾斜角度θは、電極指3aの内側に傾斜する方向を正とする。第1の電極層4の側面4aの傾斜角度θ及び第2の電極層5の側面5aの傾斜角度θは、本実施形態においては同じである。なお、IDT電極3の各金属層の側面の傾斜角度θは異なっていてもよい。IDT電極3において、少なくとも第2の電極層5の側面5aが上記厚み方向に対して傾斜していればよい。
圧電体層2上には、IDT電極3を覆うように、誘電体膜8が設けられている。誘電体膜8は、SiOxにより表される酸化ケイ素からなる。本実施形態では、誘電体膜8はSiO2からなる。なお、誘電体膜8は、xが正数である酸化ケイ素からなっていてもよく、あるいは、酸化ケイ素以外の誘電体からなっていてもよい。誘電体膜8の波長規格化膜厚は、特に限定されないが、本実施形態では30%である。なお、本明細書において、誘電体膜8の膜厚とは、誘電体膜8が設けられている圧電体層2の主面からの膜厚をいう。
本実施形態の弾性波装置1は、圧電体層2と、圧電体層2上に設けられているIDT電極3と、IDT電極3を覆う誘電体膜8とを備え、IDT電極3は、第1の電極層4と、第1の電極層4上に積層された第2の電極層5とを有し、第1の電極層4の波長規格化膜厚及び第2の電極層5の波長規格化膜厚は、それぞれ1.25%以上であり、第2の電極層5は、第1の電極層4よりも密度が低く、第2の電極層5の側面5aが、IDT電極3の厚み方向に対して傾斜しているという構成を有する。それによって、比帯域を広くすることができ、かつ周波数のばらつきが生じ難い。これを、第1の実施形態と第1〜第4の比較例とを比較することなどにより、以下において説明する。
第1の実施形態の構成を有する弾性波装置を、第1の電極層4の側面4a及び第2の電極層5の側面5aの傾斜角度θを変化させて複数作製した。さらに、第1の比較例及び第2の比較例の弾性波装置を作製した。第1の比較例は、第1の電極層及び第2の電極層の側面の傾斜角度θが0°である点において第1の実施形態と異なる。第2の比較例は、IDT電極が第1の電極層のみからなる点において、第1の実施形態と異なる。なお、第2の比較例の弾性波装置は、上記金属層の側面の傾斜角度θを変化させて複数作製した。上記複数の弾性波装置の比帯域Δfを測定した。
ここで、IDT電極の全ての金属層の側面の傾斜角度θが0°である弾性波装置の比帯域をΔf0とする。IDT電極の少なくとも1層の金属層の側面の傾斜角度θが0°より大きい弾性波装置の比帯域Δfを、比帯域Δf0により除した値をΔf比とする。このとき、Δf比はΔf/Δf0と表すことができる。なお、比帯域Δf0を測定した弾性波装置は、比帯域Δfを測定した弾性波装置と、傾斜角度θ以外は同条件である。第1の比較例のように、IDT電極の全ての金属層の側面の傾斜角度θが0°である弾性波装置のΔf比は1とする。第1の実施形態の構成を有する各弾性波装置における比帯域Δfを、第1の比較例の比帯域Δfにより除することによって、第1の実施形態の構成を有する各弾性波装置のΔf比を算出した。同様に、第2の比較例の各弾性波装置における比帯域Δfを、第1の比較例の比帯域Δfにより除することによって、第2の比較例の各弾性波装置のΔf比を算出した。
図3は、第1の実施形態、第1の比較例及び第2の比較例における、傾斜角度θとΔf比との関係を示す図である。なお、図3の関係を求めるに際し、第1の電極層は波長規格化膜厚2%のPt層とし、第2の電極層は波長規格化膜厚5%のAl層とした。図3において、白色の円形のプロットは第1の実施形態の結果を示す。黒色の円形のプロットは第1の比較例の結果を示す。四角形のプロットは第2の比較例の結果を示す。
図3に示すように、第2の電極層の側面がIDT電極の厚み方向に対して傾斜している第1の実施形態においては、Δf比が1よりも大きくなっており、第1の電極層及び第2の電極層の側面の傾斜角度θが0°である第1の比較例より比帯域Δfを広くすることができている。なお、より具体的には、傾斜角度θが0°<θ<32°である場合に、第1の比較例よりも比帯域Δfを広くすることができている。
他方、第2の比較例は、Δf比が1よりも小さく、第1の比較例より比帯域Δfが狭い。このように、IDT電極が単層からなる場合には、電極層の側面をIDT電極の厚み方向に対して傾斜させると、傾斜角度θが0°である場合よりも比帯域Δfが狭くなる。第1の実施形態の弾性波装置1においては、第2の電極層5の側面5aが厚み方向に対して傾斜しているだけではなく、波長規格化膜厚が1.25%以上である複数の電極層としての第1の電極層4及び第2の電極層5を有する。それによって、比帯域Δfを効果的に広くすることができる。
上記のように、第2の電極層の波長規格化膜厚が5%の場合には、傾斜角度θは0°<θ<32°であることが好ましい。第1の電極層及び第2の電極層の波長規格化膜厚と、傾斜角度との好ましい範囲の詳細については後述する。
第1の実施形態の弾性波装置1は、第2の電極層5の側面5aがIDT電極3の厚み方向に対して傾斜していることにより、比帯域を広くすることができる。これを以下において、第1の実施形態と第3の比較例とを比較することにより示す。
図4は、第3の比較例におけるIDT電極の電極指付近を示す正面断面図である。
第3の比較例の弾性波装置においては、第1の電極層104の側面104aがIDT電極103の厚み方向に対して傾斜しており、第2の電極層105の側面105aが上記厚み方向に平行に延びている。この第3の比較例の弾性波装置を、第1の電極層104の側面104aの傾斜角度θを変えて複数作製した。
図5は、第1の実施形態、第1の比較例及び第3の比較例における、傾斜角度θとΔf比との関係を示す図である。なお、図5の関係を求めるに際し、第1の電極層は波長規格化膜厚2%のPt層とし、第2の電極層は波長規格化膜厚5%のAl層とした。図5において、白色の円形のプロットは第1の実施形態の結果を示し、黒色の四角形のプロットは第3の比較例の結果を示す。黒色の円形のプロットは第1の比較例の結果を示す。
図5に示すように、第3の比較例においては、Δf比が1よりも小さく、第1の比較例よりも比帯域Δfが狭い。このように、第2の電極層105の側面105aがIDT電極103の厚み方向に対して傾斜していない場合には、第1の電極層104の側面104aを上記厚み方向に対して傾斜させると、傾斜角度θが0°である場合よりも比帯域Δfが狭くなる。第1の実施形態の弾性波装置1においては、第2の電極層5の側面5aが上記厚み方向に対して傾斜しているため、比帯域Δfを効果的に広くすることができる。
第1の実施形態の弾性波装置1は、第2の電極層よりも密度が高い第1の電極層が、第2の電極層よりも圧電体層2側に位置していることにより、比帯域を広くすることができる。これを以下において、第1の実施形態と第4の比較例とを比較することにより示す。
第4の比較例は、第2の電極層が第1の電極層よりも圧電体層側に位置している点において第1の実施形態と異なる。第4の比較例の弾性波装置を、第1の電極層及び第2の電極層の側面の傾斜角度θを変化させて複数作製した(θは0°を含む)。第4の比較例の複数の弾性波装置の比帯域Δfを測定した。
図6は、第4の比較例における、IDT電極の第1の電極層及び第2の電極層の側面の傾斜角度θと、比帯域Δfとの関係を示す図である。なお、図6の関係を求めるに際し、第1の電極層は波長規格化膜厚2%のPt層とし、第2の電極層は波長規格化膜厚5%のAl層とした。
図6に示すように、第4の比較例においては、第1の電極層及び第2の電極層の側面の傾斜角度θが0°の場合よりも、傾斜角度θが0°より大きい場合の方が、比帯域Δfが狭くなっていることがわかる。このように、密度が高い第1の電極層よりも、密度が低い第2の電極層が圧電体層側に位置する場合には、傾斜角度θが大きくなるほど比帯域Δfは狭くなる。これに対して、第1の実施形態においては、第1の電極層4が第2の電極層5よりも圧電体層2側に位置していることにより、図3や図5に示したように、比帯域を広くすることができる。
第1の実施形態においては、周波数のばらつきが生じ難いことを以下において示す。ここで、IDT電極の少なくとも1層の金属層の側面の傾斜角度θが0°より大きい弾性波装置の共振周波数を、傾斜角度θが0°である弾性波装置の共振周波数により除した値をfr比とする。なお、傾斜角度θが0°より大きい上記弾性波装置は、傾斜角度θ以外の点に関して、傾斜角度θが0°である上記弾性波装置と同条件である。IDT電極の全ての金属層の側面の傾斜角度θが0°である弾性波装置の共振周波数をfr0とすると、fr比はfr/fr0と表すことができる。なお、IDT電極の全ての金属層の側面の傾斜角度θが0°である弾性波装置のfr比は1とする。第1の実施形態の構成を有する各弾性波装置の共振周波数を第1の比較例の弾性波装置の共振周波数により除することによって、第1の実施形態のfr比をそれぞれ求めた。同様に、第4の比較例の各弾性波装置のfr比をそれぞれ求めた。ところで、fr比の算出において用いる共振周波数は、主モードの共振周波数である。
図7は、第1の実施形態及び第4の比較例における、IDT電極の第1の電極層及び第2の電極層の側面の傾斜角度θと、fr比との関係を示す図である。図7において、白色の円形のプロットは第1の実施形態の結果を示し、黒色の円形のプロットは第4の比較例の結果を示す。
図7に示すように、第4の比較例においては、傾斜角度θの変化に対するfr比の変化が大きい。そのため、製造工程において、傾斜角度θにばらつきが生じた場合、周波数のばらつきが大きくなる。これに対して、第1の実施形態においては、傾斜角度θが変化しても、fr比の変化は小さいことがわかる。よって、第1の実施形態においては、製造工程において傾斜角度θにばらつきが生じたとしても、周波数のばらつきは生じ難い。以上のように、第1の実施形態においては、比帯域Δfを広くすることができ、かつ周波数のばらつきが生じ難い。
以下において、第1の電極層4及び第2の電極層5の波長規格化膜厚が1.25%以上であることにより、比帯域を広くすることができることを示す。
第1の電極層の側面の傾斜角度θが0°であり、第2の電極層の側面の傾斜角度θが5°である点以外は第1の実施形態と同様の構成を有する弾性波装置を、第2の電極層の波長規格化膜厚を変化させて複数作製した。さらに、第1の電極層及び第2の電極層の側面の傾斜角度θが0°である、上記第1の比較例の弾性波装置を、第2の電極層の波長規格化膜厚を変化させて複数作製した。次に、上記各弾性波装置のΔf比を算出した。
図8は、IDT電極が、波長規格化膜厚が1.25%以上である第1の電極層(Pt層)を有する場合における、IDT電極の厚み方向に対して側面が傾斜している第2の電極層(Al層)の波長規格化膜厚と、Δf比との関係を示す図である。なお、図8の関係を求めるに際し、第1の電極層は波長規格化膜厚2%のPt層とし、第2の電極層はAl層とした。
図8に示すように、IDT電極の厚み方向に対して側面が傾斜している金属層の波長規格化膜厚が1.25%より薄い場合においては、Δf比は1より小さい。他方、第2の電極層の波長規格化膜厚が1.25%以上である場合には、Δf比は1以上となっていることがわかる。従って、電極層の波長規格化膜厚が1.25%以上であることにより、比帯域を効果的に広くすることができる。
ここで、図3に示したように、第2の電極層の波長規格化膜厚が5%の場合には、傾斜角度θは0°<θ<32°であることが好ましい。以下において、第1の電極層及び第2の電極層の波長規格化膜厚と、傾斜角度との好ましい範囲について、より詳細に説明する。
第1の実施形態の構成を有する弾性波装置を、第1の電極層4及び第2の電極層5の波長規格化膜厚及び側面の傾斜角度θを変えて複数作製した。傾斜角度θが0°である第1の比較例の弾性波装置を、第1の電極層及び第2の電極層の波長規格化膜厚を変えて複数作製した。上記複数の弾性波装置の比帯域Δfを測定した。さらに、第1の実施形態の構成を有する各弾性波装置のΔf比を算出した。ここで、Δf比が1となる傾斜角度θを、傾斜角度θ1とする。この傾斜角度θ1を、第1の電極層4及び第2の電極層5の波長規格化膜厚毎に求めた。なお、上記複数の弾性波装置のインピーダンス周波数特性の測定も行った。
図9は、第1の実施形態における、第1の電極層及び第2の電極層の波長規格化膜厚と、第1の電極層及び第2の電極層の側面の、Δf比が1となる傾斜角度θ1との関係を示す図である。なお、図9の関係を求めるに際し、第1の電極層はPt層とし、第2の電極層はAl層とした。図9において、白色の円形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が3%の結果を示す。黒色の円形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が4%の結果を示す。白色の四角形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が6%の結果を示す。黒色の四角形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が7%の結果を示す。三角形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が8%の結果を示す。
図9に示すように、第2の電極層5の波長規格化膜厚が厚くなるほど、Δf比が1となる傾斜角度θ1は大きくなっている。図3に示したように、傾斜角度θが0°<θ≦θ1の範囲においては、Δf比は1以上であり、比帯域Δfを広くすることができる。
ここで、第1の電極層4であるPt層の波長規格化膜厚が4%以下である場合と、6%以上である場合とにおいては、第2の電極層5の波長規格化膜厚の変化に対する、Δfが1となる傾斜角度θの変化の傾向が異なる。これは、第1の電極層4の波長規格化膜厚が4%以下である場合と、6%以上である場合とにおいては、主モードであるレイリー波の共振周波数と、SH波の共振周波数との関係が異なるためであると考えられる。これを示す根拠の一例として、第1の電極層4の波長規格化膜厚が4%以下である場合と、6%以上である場合とのインピーダンス特性の例を、下記の図10及び図11に示す。
図10は、第1の実施形態において、第1の電極層の波長規格化膜厚が3%である場合のインピーダンス周波数特性を示す図である。図11は、第1の実施形態において、第1の電極層の波長規格化膜厚が7%である場合のインピーダンス周波数特性を示す図である。
レイリー波の共振周波数をFrとし、SH波の共振周波数をFshとする。図10に示すように、第1の電極層4の波長規格化膜厚が3%の場合には、Fsh>Frの関係となっていることがわかる。図11に示すように、第1の電極層4の波長規格化膜厚が7%の場合には、Fsh<Frの関係となっていることがわかる。なお、図示しないが、第1の電極層4の波長規格化膜厚が5%付近である場合には、FrとFshとがほぼ同じとなることがわかっている。
従って、第1の電極層4の波長規格化膜厚が4%以下である場合にはFsh>Frとなり、第1の電極層4の波長規格化膜厚が6%以上である場合にはFsh<Frになると考えられる。
ここで、第1の実施形態における、Pt層としての第1の電極層4の波長規格化膜厚をTPTとし、Al層としての第2の電極層5の波長規格化膜厚をTAlとする。図9に戻り、第1の電極層4の波長規格化膜厚TPTが4%以下となる(Fsh>Fr)場合であって、傾斜角度θ≦3.8×TAl+4.27であるときには、より確実にΔf比を1以上とすることができ、比帯域Δfを広くすることができる。他方、第1の電極層4の波長規格化膜厚TPTが6%以上となる(Fsh<Fr)場合であって、第2の電極層5の波長規格化膜厚TAlが4%以下のときには、傾斜角度θ≦3.9×TAl−0.4である場合に、より確実にΔf比を1以上とすることができる。第1の電極層4の波長規格化膜厚TPTが6%以上となる(Fsh<Fr)場合であって、第2の電極層の波長規格化膜厚TAlが4%より厚いときには、傾斜角度θ≦2.8×TAl+4である場合に、より確実にΔf比を1以上とすることができる。Δf比をより確実に1以上とすることができる条件を、下記の表4及び表5にまとめて示す。
共振周波数Fr、共振周波数Fsh、傾斜角度θ及び波長規格化膜厚TAlの組み合わせを表4に示す組み合わせとすることにより、Δf比をより確実に1以上とすることができ、より確実に比帯域Δfを広くすることができる。同様に、傾斜角度θ、波長規格化膜厚TPt及び波長規格化膜厚TAlの組み合わせを表5に示す組み合わせとすることにより、Δf比をより確実に1以上とすることができ、より確実に比帯域Δfを広くすることができる。
本実施形態では、IDT電極3は、波長規格化膜厚が1.25%以上である電極層を2層有するが、波長規格化膜厚が1.25%以上である電極層を3層以上有していてもよい。
以下において、第1の実施形態の第1の変形例及び第2の変形例を示す。第1の変形例及び第2の変形例においても、第1の実施形態と同様に、比帯域Δfを広くすることができ、かつ周波数のばらつきが生じ難い。
図12は、第1の実施形態の第1の変形例におけるIDT電極の電極指付近を示す拡大正面断面図である。
本変形例は、IDT電極13が、波長規格化膜厚が1.25%未満である金属層を有する点において、第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本変形例は第1の実施形態と同様の構成を有する。
より具体的には、圧電体層2と第1の電極層4との間に、波長規格化膜厚が1.25%未満である密着層14が設けられている。第1の電極層4と第2の電極層5との間に、波長規格化膜厚が1.25%未満である拡散防止層15が設けられている。これにより、IDT電極13と圧電体層2との密着性を高めることができ、かつ第1の電極層4と第2の電極層5との間の相互拡散を抑制することができる。密着層14は、特に限定されないが、例えば、Ti層やNiCr層である。拡散防止層15は、特に限定されないが、例えば、Ti層などである。このように、波長規格化膜厚が1.25%未満である金属層を有していてもよい。波長規格化膜厚が1.25%未満である金属層の側面も、IDT電極13の厚み方向に対して傾斜していてもよい。
図13は、第1の実施形態の第2の変形例に係る弾性波装置の正面断面図である。
本変形例の弾性波装置は、支持基板24と、支持基板24上に設けられている高音速膜25と、高音速膜25上に設けられている低音速膜26とを有する。低音速膜26上に、圧電体層22が設けられている。
高音速膜25は、圧電体層22を伝搬する弾性波の音速よりも伝搬するバルク波の音速が高い膜である。高音速膜25の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、ケイ素、DLC膜、シリコン、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶等の圧電体、アルミナ、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどの各種セラミック、ダイヤモンド、マグネシア、または、上記各材料を主成分とする材料、上記各材料の混合物を主成分とする材料を挙げることができる。なお、高音速膜25の材料は、相対的に高音速な材料であればよい。
低音速膜26は、圧電体層22を伝搬する弾性波の音速よりも伝搬するバルク波の音速が低い膜である。低音速膜26の材料としては、例えば、酸化ケイ素、ガラス、酸窒化ケイ素、酸化タンタル、または、酸化ケイ素にフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物を主成分とする材料を挙げることができる。なお、低音速膜26の材料は、相対的に低音速な材料であればよい。
高音速膜25、低音速膜26及び圧電体層22からなる積層体が構成されていることにより、弾性波のエネルギーを圧電体層22側に効果的に閉じ込めることができる。
なお、高音速膜25は設けられていなくともよい。この場合には、支持基板24が、上記のような相対的に高音速な材料からなる高音速基板であることが好ましい。より具体的には、高音速基板の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、ケイ素、DLC膜、シリコン、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶等の圧電体、アルミナ、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどの各種セラミック、ダイヤモンド、マグネシア、または、上記各材料を主成分とする材料、上記各材料の混合物を主成分とする材料を挙げることができる。それによって、高音速基板としての支持基板24、低音速膜26及び圧電体層22からなる積層体が構成されていることにより、弾性波のエネルギーを圧電体層22側に効果的に閉じ込めることができる。
上述したように、第1の電極層及び第2の電極層の材料の組み合わせは、Pt及びAlには限られない。以下において、第1の電極層及び第2の電極層の材料の組み合わせがPt及びAl以外の場合の、比帯域を広くすることができる傾斜角度θの範囲を示す。
ここで、下記に示す第1の実施形態の第3の変形例に係る弾性波装置は、第2の電極層がCu層である点以外においては、第1の実施形態の弾性波装置と同様の構成を有する。下記に示す第1の実施形態の第4の変形例に係る弾性波装置は、第1の電極層がMo層である点以外においては、第1の実施形態の弾性波装置と同様の構成を有する。第1の電極層及び第2の電極層の材料の組み合わせは、第3の変形例においてはPt及びCuであり、第4の変形例においてはMo及びAlである。
図14は、第1の実施形態の第3の変形例における、第1の電極層及び第2の電極層の波長規格化膜厚と、Δf比が1となる傾斜角度θ1との関係を示す図である。図14において、白色の円形のプロットは、第1の電極層としてのPt層の波長規格化膜厚が2%の結果を示す。黒色の円形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が6%の結果を示す。白色の四角形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が7%の結果を示す。黒色の四角形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が8%の結果を示す。三角形のプロットは、Pt層の波長規格化膜厚が9%の結果を示す。
図14に示すように、第2の電極層の波長規格化膜厚が厚くなるほど、Δf比が1となる傾斜角度θ1は大きくなっている。上述したように、傾斜角度θが0°<θ≦θ1の範囲においては、Δf比は1以上であり、比帯域Δfを広くすることができる。
ここで、第1の実施形態の第3の変形例における、第1の電極層としてのPt層の波長規格化膜厚をTPtとし、第2の電極層としてのCu層の波長規格化膜厚をTCuとする。図14に示すように、第1の電極層の波長規格化膜厚TPtが2%以上、7%未満となる場合であって、第2の電極層の波長規格化膜厚TCuが3%未満であり、傾斜角度θ≦3.3×TCu−3.3であるときには、より確実にΔf比を1以上とすることができ、比帯域Δfを広くすることができる。第1の電極層の波長規格化膜厚TPtが2%以上、7%未満となる場合であって、第2の電極層の波長規格化膜厚TCuが3%以上であり、傾斜角度θ≦1.3×TCu+2.4であるときには、より確実にΔf比を1以上とすることができる。他方、第1の電極層の波長規格化膜厚が7%以上となる場合であって、傾斜角度θ≦3.3×TCu−3.3であるときには、より確実にΔf比を1以上とすることができる。Δf比をより確実に1以上とすることができる条件を、下記の表6にまとめて示す。
傾斜角度θ、波長規格化膜厚TPt及び波長規格化膜厚TCuの組み合わせを表6に示す組み合わせとすることにより、Δf比をより確実に1以上とすることができ、より確実に比帯域Δfを広くすることができる。
図15は、第1の実施形態の第4の変形例における、第1の電極層及び第2の電極層の波長規格化膜厚と、Δf比が1となる傾斜角度θ1との関係を示す図である。図15において、円形のプロットは、第1の電極層としてのMo層の波長規格化膜厚が5%の結果を示す。四角形のプロットは、Mo層の波長規格化膜厚が7%の結果を示す。三角形のプロットは、Mo層の波長規格化膜厚が8%の結果を示す。
図15に示すように、第2の電極層としてのAl層の波長規格化膜厚TAlが厚くなるほど、Δf比が1となる傾斜角度θ1は大きくなっている。第1の電極層の波長規格化膜厚が7%以上になると、第2の電極層の波長規格化膜厚と傾斜角度θ1との関係がほぼ変わらないことがわかる。
さらに、図15に示すように、傾斜角度θ≦2.2×TAl+12.1であるときには、より確実にΔf比を1以上とすることができ、比帯域Δfを広くすることができる。傾斜角度θ≦2.2×TAl+12.1であり、かつ第2の電極層の波長規格化膜厚TAlが2%以上であることが好ましい。この場合には、より一層確実にΔf比を1以上とすることができる。
図16は、第2の実施形態におけるIDT電極の電極指付近を示す拡大正面断面図である。
本実施形態は、第1の電極層34の側面34aがIDT電極33の厚み方向に平行に延びている点において、第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態の弾性波装置は第1の実施形態の弾性波装置1と同様の構成を有する。
図17は、第1の実施形態及び第2の実施形態における傾斜角度θと、比帯域Δf比との関係を示す図である。なお、図17の関係を求めるに際し、第1の電極層は波長規格化膜厚2%のPt層とし、第2の電極層は波長規格化膜厚5%のAl層とした。図17において、白色の円形のプロットは第1の実施形態の結果を示し、四角形のプロットは第2の実施形態の結果を示し、黒色の円形のプロットは上記第1の比較例の結果を示す。
上述したように、第1の実施形態においてΔf比を1よりも大きくすることができ、比帯域Δfを広くすることができる。さらに、図17に示すように、第2の実施形態においては、比帯域Δfをより一層広くできることがわかる。加えて、第2の実施形態においては、傾斜角度θが32°より大きい場合においても、Δf比を1よりも大きくすることができる。このように、より一層広い傾斜角度の範囲において、比帯域Δfを広くすることができる。
上記各実施形態の弾性波装置は、高周波フロントエンド回路のデュプレクサなどとして用いることができる。この例を下記において説明する。
図18は、通信装置及び高周波フロントエンド回路の構成図である。なお、同図には、高周波フロントエンド回路230と接続される各構成要素、例えば、アンテナ素子202やRF信号処理回路(RFIC)203も併せて図示されている。高周波フロントエンド回路230及びRF信号処理回路203は、通信装置240を構成している。なお、通信装置240は、電源、CPUやディスプレイを含んでいてもよい。
高周波フロントエンド回路230は、スイッチ225と、デュプレクサ201A,201Bと、フィルタ231,232と、ローノイズアンプ回路214,224と、パワーアンプ回路234a,234b,244a,244bとを備える。なお、図18の高周波フロントエンド回路230及び通信装置240は、高周波フロントエンド回路及び通信装置の一例であって、この構成に限定されるものではない。
デュプレクサ201Aは、フィルタ211,212を有する。デュプレクサ201Bは、フィルタ221,222を有する。デュプレクサ201A,201Bは、スイッチ225を介してアンテナ素子202に接続される。なお、上記弾性波装置は、デュプレクサ201A,201Bであってもよいし、フィルタ211,212,221,222であってもよい。
さらに、上記弾性波装置は、例えば、3つのフィルタのアンテナ端子が共通化されたトリプレクサや、6つのフィルタのアンテナ端子が共通化されたヘキサプレクサなど、3以上のフィルタを備えるマルチプレクサについても適用することができる。
すなわち、上記弾性波装置は、弾性波共振子、フィルタ、デュプレクサ、3以上のフィルタを備えるマルチプレクサを含む。そして、該マルチプレクサは、送信フィルタ及び受信フィルタの双方を備える構成に限らず、送信フィルタのみ、または、受信フィルタのみを備える構成であってもかまわない。
スイッチ225は、制御部(図示せず)からの制御信号に従って、アンテナ素子202と所定のバンドに対応する信号経路とを接続し、例えば、SPDT(Single Pole Double Throw)型のスイッチによって構成される。なお、アンテナ素子202と接続される信号経路は1つに限らず、複数であってもよい。つまり、高周波フロントエンド回路230は、キャリアアグリゲーションに対応していてもよい。
ローノイズアンプ回路214は、アンテナ素子202、スイッチ225及びデュプレクサ201Aを経由した高周波信号(ここでは高周波受信信号)を増幅し、RF信号処理回路203へ出力する受信増幅回路である。ローノイズアンプ回路224は、アンテナ素子202、スイッチ225及びデュプレクサ201Bを経由した高周波信号(ここでは高周波受信信号)を増幅し、RF信号処理回路203へ出力する受信増幅回路である。
パワーアンプ回路234a,234bは、RF信号処理回路203から出力された高周波信号(ここでは高周波送信信号)を増幅し、デュプレクサ201A及びスイッチ225を経由してアンテナ素子202に出力する送信増幅回路である。パワーアンプ回路244a,244bは、RF信号処理回路203から出力された高周波信号(ここでは高周波送信信号)を増幅し、デュプレクサ201B及びスイッチ225を経由してアンテナ素子202に出力する送信増幅回路である。
RF信号処理回路203は、アンテナ素子202から受信信号経路を介して入力された高周波受信信号を、ダウンコンバートなどにより信号処理し、当該信号処理して生成された受信信号を出力する。また、RF信号処理回路203は、入力された送信信号をアップコンバートなどにより信号処理し、当該信号処理して生成された高周波送信信号をパワーアンプ回路234a,234b,244a,244bへ出力する。RF信号処理回路203は、例えば、RFICである。なお、通信装置は、BB(ベースバンド)ICを含んでいてもよい。この場合、BBICは、RFICで処理された受信信号を信号処理する。また、BBICは、送信信号を信号処理し、RFICに出力する。BBICで処理された受信信号や、BBICが信号処理する前の送信信号は、例えば、画像信号や音声信号等である。
なお、高周波フロントエンド回路230は、上記デュプレクサ201A,201Bに代わり、デュプレクサ201A,201Bの変形例に係るデュプレクサを備えていてもよい。
他方、通信装置240におけるフィルタ231,232は、ローノイズアンプ回路214,224及びパワーアンプ回路234a,234b,244a,244bを介さず、RF信号処理回路203とスイッチ225との間に接続されている。フィルタ231,232も、デュプレクサ201A,201Bと同様に、スイッチ225を介してアンテナ素子202に接続される。
以上のように構成された高周波フロントエンド回路230及び通信装置240によれば、本発明の弾性波装置である、弾性波共振子、フィルタ、デュプレクサ、3以上のフィルタを備えるマルチプレクサなどを備えることにより、比帯域を広くすることができ、かつ周波数のばらつきが生じ難い。
以上、本発明の実施形態に係る弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置について、実施形態及びその変形例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施形態及び変形例における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施形態や、上記実施形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、本発明に係る高周波フロントエンド回路及び通信装置を内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
本発明は、弾性波共振子、フィルタ、デュプレクサ、マルチバンドシステムに適用できるマルチプレクサ、フロントエンド回路及び通信装置として、携帯電話機などの通信機器に広く利用できる。