走査型電子顕微鏡、飛行時間質量分析装置等に用いられるシンチレータでは、上記のように短い蛍光寿命による高速応答性が求められている。しかしながら、実用化されている一般的なシンチレータでは、シンチレーション光の蛍光寿命は20nsec程度であり、その高速性は充分ではない。また、例えば、プラスチックシンチレータでは、蛍光寿命は2.4nsec程度であるが、シンチレータの劣化が早いなどの問題がある。
一方、ZnO(酸化亜鉛)は、不純物を添加することによって、1nsec以下の蛍光寿命を有する高速応答シンチレータとして利用可能であることが知られている(例えば、特許文献1〜8、非特許文献1参照)。しかしながら、従来のZnOシンチレータでは、バルク単結晶での利用、液相エピタキシーで作成された結晶の利用等が主であり、不純物制御、加工性、厚さ制御、コスト、生産性などの点で問題があった。
また、従来のZnOシンチレータでは、α粒子の計測などを目的として、層厚が大きい結晶が用いられている。このようなシンチレータでは、例えば、侵入深さが小さい低エネルギーの電子線の計測に用いる場合、自己吸収によって強い蛍光を得ることができない。また、ナノ粒子を用いたZnOシンチレータも提案されているが、このようなシンチレータでは、欠陥が多く、充分な蛍光量を得ることができない。
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、電子等の放射線の検出に好適に用いることが可能なシンチレータの形成方法を提供することを目的とする。
本発明によるシンチレータの形成方法は、支持基板としてサファイア基板を用い、サファイア基板上にMOCVD法を用いて、不純物無添加のZnOからなるバッファ層を形成し、バッファ層上にMOCVD法を用いて、電子濃度が2×1019cm−3以上2×1020cm−3以下となるように不純物が添加されたZnOからなり、放射線の入射に応じてシンチレーション光を生成する発光層を形成し、発光層上に、ZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料からなる保護層を形成する。
上記のシンチレータの形成方法では、発光層において、ZnOに添加される不純物は、Gaである構成としても良い。また、上記のシンチレータの形成方法では、サファイア基板は、a面サファイア基板である構成としても良い。
上記のシンチレータの形成方法では、保護層の形成において蒸着法を用いる構成としても良い。また、上記のシンチレータの形成方法では、保護層上に、さらに金属層を形成する構成としても良い。また、この場合、金属層の形成において蒸着法を用いる構成としても良い。また、上記のシンチレータの形成方法では、バッファ層は、20nm以上400nm以下の層厚を有する構成としても良い。
また、シンチレータは、(1)支持基板と、(2)支持基板上に形成され、電子濃度が2×1019cm−3以上2×1020cm−3以下となるように不純物が添加されたZnOからなり、電子等の放射線の入射に応じてシンチレーション光を生成する発光層と、(3)発光層上に形成され、ZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料からなる保護層と、(4)保護層上に形成された金属層と、を備え、(5)支持基板は、発光層で生成されるシンチレーション光を透過する材料からなるとともに、金属層は、発光層からのシンチレーション光を反射する反射層として機能する構成としても良い。
上記したシンチレータでは、支持基板上に、不純物が添加されたZnOからなる発光層を形成するとともに、発光層での電子濃度を2×1019cm−3以上2×1020cm−3以下に設定している。このように発光層での電子濃度を設定することにより、キャリアの再結合の相手となるために蛍光寿命が短くなり、また、発光効率が高くなる。また、結晶中の欠陥が補償されることで、蛍光寿命が長い欠陥発光が抑制される。また、電子濃度を充分に大きくすることで、伝導帯の下部に電子が充満して実効的なバンドギャップが大きくなり、これによって自己吸収の発生を抑制することができる。
また、上記構成では、ZnO発光層上に、吸湿性を有するZnOを保護する保護層を形成するとともに、保護層の材料を、ZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料としている。このような保護層を設けることにより、発光層で発生した電子やホールが外部へと流出することを防ぎ、それによって発光効率を向上することができる。また、保護層上に、さらに金属層を形成している。この金属層は、発光層からのシンチレーション光を反射する反射層として機能し、これによって、放射線の検出におけるシンチレーション光の利用効率が向上される。以上より、電子等の放射線の検出に好適に用いることが可能であって、高速応答性を有するシンチレータを実現することが可能となる。
なお、上記したシンチレータによる検出対象となる放射線は、電子、陽子、中性子、α粒子、イオン等の粒子、及びγ線、X線、光などの電磁波等を含んでいる。
上記構成のシンチレータにおいて、発光層は、0.5μm以上3.0μm以下の層厚を有することが好ましい。このような層厚の不純物添加ZnO発光層を有するシンチレータは、例えば、走査型電子顕微鏡、飛行時間質量分析装置等におけるエネルギー5keV〜20keVの電子の検出に好適に用いることができる。また、発光層において、ZnOに添加される不純物は、Ga、Al、及びInからなる群より選択される少なくとも一種を含む不純物であることが好ましく、特に、ZnOに添加される不純物は、Gaであることが好ましい。
また、上記構成のシンチレータでは、支持基板と発光層との間に、ZnOからなるバッファ層が形成されている構成としても良い。このように、不純物添加ZnO発光層をZnOバッファ層上に形成することにより、発光層を好適に形成することができる。
このような支持基板上のZnOバッファ層、発光層は、例えば、MOCVD(MetalOrganic Chemical Vapor Deposition)法によって形成することができる。また、このように支持基板と発光層との間にZnOバッファ層を設ける場合、バッファ層は、20nm以上400nm以下の層厚を有することが好ましい。
ZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料からなる保護層については、保護層を構成する材料は、SiO2、Al2O3、MgO、CaF2、BeO、MgF2、及びLiFからなる群より選択される少なくとも一種を含む材料であることが好ましく、特に、保護層を構成する材料は、SiO2であることが好ましい。また、保護層は、10nm以上200nm以下の層厚を有することが好ましい。
シンチレーション光を透過する材料からなる支持基板については、支持基板は、サファイア基板、石英基板、またはガラス基板であることが好ましい。また、支持基板は、a面サファイア基板であることが特に好ましい。
保護層上に形成される金属層については、金属層を構成する材料は、Alであることが好ましい。また、金属層は、その材料がAlである場合に、10nm以上50nm以下の層厚を有することが好ましい。
電子検出器は、電子の入射に応じて発光層で生成されるシンチレーション光を出力する上記構成のシンチレータと、シンチレータから出力されたシンチレーション光を検出する光検出器とを備える構成としても良い。このような電子検出器によれば、高速応答性を有するシンチレータを用い、電子を好適に検出することができる。また、この場合、シンチレータにおける金属層は、シンチレータへと入射する電子を加速する加速電極として機能する構成としても良い。
本発明のシンチレータの形成方法によれば、電子等の放射線の検出に好適に用いることが可能であって、高速応答性を有するシンチレータの形成方法が実現される。
以下、図面とともに本発明によるシンチレータの形成方法の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
図1は、シンチレータの一実施形態の構成を概略的に示す側面断面図である。本実施形態によるシンチレータ1Aは、電子等の放射線の検出に用いられるものであり、支持基板10と、バッファ層12と、発光層14と、保護層16と、金属層18とを備えて構成されている。なお、本実施形態のシンチレータ1Aによる検出対象となる放射線は、一般には、電子、陽子、中性子、α粒子、イオン等の粒子、及びγ線、X線、光などの電磁波等を含んでいるが、シンチレータ1Aは、後述するように、例えば、エネルギー5keV〜20keVの電子の検出に好適に用いることができる。
支持基板10は、発光層14で生成されるシンチレーション光(蛍光)を充分な透過率で透過する材料からなる基板である。支持基板10としては、例えばa面サファイア基板を好適に用いることができる。発光層14は、支持基板10上に形成され、電子等の放射線の入射に応じてシンチレーション光を生成する。また、本実施形態における発光層14は、電子濃度が2×1019cm−3以上2×1020cm−3以下となるように不純物が添加されたZnO(酸化亜鉛)からなる。発光層14に添加される不純物は、例えば、濃度2×1019cm−3〜4×1020cm−3でドープされたGaである。
図1に示した構成例では、支持基板10と発光層14との間には、ZnOからなるバッファ層12がさらに形成されており、発光層14は、このバッファ層12上に形成されている。バッファ層12は、例えば不純物無添加のZnOからなる。
不純物添加ZnO発光層14上には、吸湿性を有する発光層14のZnOを保護する保護層16が形成されている。また、保護層16は、ZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料から構成されている。このような材料を用いることにより、保護層16は、ZnO発光層14を含むシンチレータ1Aによる放射線の検出特性、検出効率を向上する機能を有する。保護層16を構成する材料としては、具体的には例えば、SiO2を好適に用いることができる。
また、保護層16上には、さらに、発光層14からのシンチレーション光を反射する反射層として機能する金属層18が形成されている。金属層18を構成する材料としては、例えばAlを好適に用いることができる。
本実施形態によるシンチレータ1Aの効果について説明する。
図1に示したシンチレータ1Aでは、支持基板10上に、所定の濃度で不純物(例えばGa)が添加されたZnOからなる発光層14を形成している。不純物添加のZnOシンチレータは、上述したように、シンチレーション光の蛍光寿命が例えば1ns以下と非常に短く、高速応答性を有するシンチレータである。
ここで、図2は、(a)ZnOシンチレータ、及び(b)プラスチックシンチレータの蛍光寿命について示すグラフである。図2(a)のグラフは、ZnOシンチレータで生成されるシンチレーション光の時間波形を示し、図2(b)のグラフは、比較例として、プラスチックシンチレータで生成されるシンチレーション光の時間波形を示している。これらのグラフに示すように、プラスチックシンチレータでは、蛍光寿命に対応する90%−10%残光特性が2.17nsであるのに対し、ZnOシンチレータでは、90%−10%残光特性は0.517nsであり、高速応答性を有することがわかる。
このように、発光層14で生成されるシンチレーション光の蛍光寿命を1ns以下とすることにより、例えば半導体検査用の走査型電子顕微鏡では、走査速度を300MHz以上に設定することが可能となる。また、飛行時間質量分析装置では、従来のプラスチックシンチレータと比較して、質量分析の分解能を向上することができる。
また、上記のシンチレータ1Aでは、不純物添加ZnO発光層14での電子濃度について、不純物の添加濃度の設定等により、その電子濃度を2×1019cm−3以上2×1020cm−3以下の範囲内で設定している。このようにZnO発光層14での電子濃度を設定し、ZnOへの不純物添加によって電子濃度を高めることにより、励起強度が弱い場合の励起されたキャリアの再結合の相手となるために、シンチレーション光の蛍光寿命が短くなり、また、発光効率が高くなる効果がある。
また、上記構成の発光層14では、不純物添加によってZnO結晶中の欠陥が補償されることで、蛍光寿命が長い欠陥発光の発生が抑制される。また、電子濃度を充分に高くすることで、伝導帯の下部に電子が充満して実効的なバンドギャップが大きくなり、これによって自己吸収の発生を抑制することができる。
また、上記構成では、ZnO発光層14上に、吸湿性を有するZnOを保護する保護層16を形成するとともに、保護層16の材料を、ZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料(例えばSiO2)としている。発光層14に対して、このような保護層16を設けることにより、発光層14での発光効率をさらに向上することができる。なお、ZnOのバンドギャップは、3.4eVであり、保護層16を構成する材料としては、3.4eVよりも大きいバンドギャップを有する材料を用いる必要がある。
また、上記構成では、保護層16上に、さらに金属層18を形成している。この金属層18は、ZnO発光層14からのシンチレーション光を反射する反射層として機能し、これによって、光の出力面となる支持基板10の裏面からのシンチレーション光の出力効率が向上される。以上より、電子等の放射線の検出に好適に用いることが可能であって、高速応答性を有するシンチレータ1Aを実現することが可能となる。
図3は、図1に示したシンチレータ1Aにおける層構造について示すバンド図である。なお、図3のバンド図では、簡単のため、表面準位や電荷の移動によるバンドの曲がり等を考慮せず、エネルギーの大小のみを表している。また、このバンド図では、熱エネルギーによる電子分布の広がり等も無視している。図3に示すように、ZnO発光層14に対し、ZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料の保護層16を設けることにより、発光層14で発生した電子やホールが外側の金属層18へと流出することが防止され、これによって、電子等の放射線の入射に対する発光効率が向上される。
また、発光層14は、上記したように不純物添加によって充分に高い電子濃度とされており、これにより、放射線の入射によって生成されたホールと電子との再結合確率が高くなって発光効率が向上される。また、発光層14は、n型で高不純物添加であるため、図3に示すように、伝導帯に電子がたまった状態となる。この場合、伝導帯の下部のエネルギー準位は電子で満たされており、放射線の入射等による吸収、励起は、これよりも高いエネルギーのみで起こる。一方、シンチレーション光の発光は、伝導帯下部の電子と、価電子帯上部にたまるホールとの間で起こるため、そのエネルギーは吸収のエネルギーよりも小さくなる。したがって、上記のように電子濃度を設定した発光層14によれば、自己吸収の発生を抑制することができる。
上記構成のシンチレータ1Aにおいて、発光層14は、0.5μm以上3.0μm以下の層厚を有することが好ましい。このような層厚の不純物添加ZnO発光層14を有するシンチレータ1Aは、例えば走査型電子顕微鏡、飛行時間質量分析装置等におけるエネルギー5keV〜20keV程度の電子の検出に好適に用いることができる。
ここで、検出対象の放射線として電子を想定した場合、ZnOへの電子の侵入深さは、加速電圧10kVで1μm程度である。走査型電子顕微鏡、飛行時間質量分析装置等においては、電子の加速電圧は例えば5kV〜20kV程度であり、この場合、発光層14の層厚は、上記した0.5μm〜3.0μmの範囲内で設定することが好適である。発光層14の層厚がこれ以上に厚いと、自己吸収によって発光効率が低下する。
また、発光層14において、ZnOに添加される不純物は、Ga、Al、及びInからなる群より選択される少なくとも一種を含む不純物であることが好ましく、特に、ZnOに添加される不純物は、Gaであることが好ましい。Ga、Al、Inは、いずれもZnOに対して伝導電子を供給する良好なドナー不純物である。
また、上記構成のシンチレータ1Aでは、支持基板10とZnO発光層14との間に、ZnOからなるバッファ層12が形成されている。このように、不純物添加ZnO発光層14をZnOバッファ層12上に形成することにより、基板10上において発光層14を好適に形成することができる。
このような支持基板10上のバッファ層12、発光層14は、例えば、薄膜形成の制御性が良いMOCVD法によって好適に形成することができる。また、このように支持基板10と発光層14との間にZnOバッファ層12を設ける場合、バッファ層12は、20nm以上400nm以下の層厚を有することが好ましい。すなわち、ZnO結晶の下地を作るために、バッファ層12の層厚は20nm以上であることが好ましい。一方、自己吸収性があること、また、欠陥発光が起こりやすいことから、バッファ層12の層厚は400nm以下であることが好ましい。なお、このようなZnOバッファ層12については、不要であれば設けない構成としても良い。
発光層14上に形成されて、ZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料からなる保護層16については、保護層16を構成する材料は、SiO2、Al2O3、MgO、CaF2、BeO、MgF2、及びLiFからなる群より選択される少なくとも一種を含む材料であることが好ましく、特に、保護層16の材料は、化学的に安定な材料であるSiO2であることが好ましい。
図4は、保護層16を構成する材料のバンドギャップを示す図表である。図4に示すように、保護層16について上述した材料は、いずれもZnOよりも大きいバンドギャップを有することがわかる。例えば、ZnOのバンドギャップ3.4eVに対して、SiO2のバンドギャップは7.9eVである。また、保護層16は、10nm以上200nm以下の層厚を有することが好ましい。
シンチレーション光を透過する材料からなる支持基板10については、例えば、サファイア基板、石英基板、またはガラス基板を用いることができる。そのような支持基板10の材料としては、具体的には例えば、a面サファイア、c面サファイア、石英ガラス、UV透過ガラス(350nm以上)、硼珪酸ガラス等がある。また、支持基板10は、ZnO発光層14を支持基板10上に好適に成長するために、a面サファイア基板を用いることが特に好ましい。
保護層16上に形成される金属層18については、金属層18を構成する材料は、Alであることが好ましい。また、この金属層18の材料については、Al以外の金属を用いても良い。また、金属層18は、例えば材料がAlである場合に、反射層としての機能を確保するために、10nm以上50nm以下の層厚を有することが好ましい。
上記構成のシンチレータ1Aを用いた電子検出器、及び走査型電子顕微鏡、飛行時間質量分析装置の構成について説明する。
図5は、電子検出器の一実施形態の構成を示す側面図である。本実施形態による電子検出器2Aは、シンチレータ1Aと、光検出器20と、ライトガイド22とを備えて構成されている。シンチレータ1Aは、支持基板10と、バッファ層12と、発光層14と、保護層16と、金属層18とを備え、図1と同様に構成されている。なお、この図5においては、シンチレータ1Aについて、その断面構造を図示している。
光検出器20は、光の出力面となるシンチレータ1Aの支持基板10の裏面側に、ライトガイド22を介して光学的に接続されている。これにより、電子の入射に応じてシンチレータ1Aの発光層14で生成されてバッファ層12側に出力されたシンチレーション光は、支持基板10、及びライトガイド22を透過して、光検出器20に到達して検出される。また、発光層14で生成されて保護層16側に出力されたシンチレーション光は、反射層として機能する金属層18で反射された後、同様に支持基板10、及びライトガイド22を透過して、光検出器20に到達して検出される。
このような構成の電子検出器2Aによれば、高速応答性を有するシンチレータ1Aを用いて、電子を好適に検出することができる。シンチレータ1Aから出力されたシンチレーション光を検出する光検出器20としては、例えば光電子増倍管を用いることができる。また、光検出器20として、光電子増倍管以外の光検出素子を用いても良い。また、シンチレータ1Aと光検出器20との間でシンチレーション光の導光に用いられるライトガイド22については、不要であれば設けない構成としても良い。
また、このような電子検出器2Aにシンチレータ1Aを用いる場合、シンチレータ1Aにおける金属層18は、シンチレーション光を反射する反射層としての機能に加えて、外部からシンチレータ1Aへと入射する検出対象の電子を加速するための加速電極としても機能する構成としても良い。
図6は、走査型電子顕微鏡の構成について概略的に示す図である。図6に示す構成例では、観察対象物36に対し、シンチレータ30、ライトガイド34、及び光検出器32から構成される電子検出器が設置されている。この装置では、観察対象物36に電子線を照射し、対象物36から放出される二次電子を所定電圧で加速してシンチレータ30に入射させ、シンチレータ30で生成されたシンチレーション光をライトガイド34を介して光検出器32で検出して電気信号を出力する。このような構成において、対象物36からの電子を光に変換するシンチレータ30として、図1に示したシンチレータ1Aを用いることができる。また、このような構成では、観察対象物36から放出される電子を加速するための電極として、シンチレータ1Aの金属層18を用いることができる。
図7は、飛行時間質量分析装置の構成について概略的に示す図である。図7に示す構成例では、マイクロチャンネルプレート(MCP)38に対し、シンチレータ30、ライトガイド34、及び光検出器32から構成される電子検出器が設置されている。この装置では、質量分析対象となるイオンをMCP38において電子に変換し、MCP38から放出される電子をシンチレータ30に入射させ、シンチレータ30で生成されたシンチレーション光をライトガイド34を介して光検出器32で検出して電気信号を出力する。このような構成において、MCP38からの電子を光に変換するシンチレータ30として、図1に示したシンチレータ1Aを用いることができる。
上記の実施形態によるシンチレータ1Aの構成について、その具体的な構成例とともにさらに説明する。なお、MOCVD法によるZnO膜の形成については、例えば、非特許文献2(Y. Hiragino et al., Physica Status Solidi C Vol.11 No.7-8 (2014)pp.1369-1372)を参照することができる。
本構成例では、支持基板10として厚さ500μmのa面サファイア基板を用い、この基板10上にMOCVD法を用いて、不純物無添加のZnO薄膜のバッファ層12を膜厚250nmで形成した。ZnO膜の形成において、亜鉛(Zn)原料としてはジエチル亜鉛を用い、また、酸素(O)原料としてはターシャリーブタノールを用いた。また、成長温度は575℃、成長圧力は1000hPaとした。
さらに、上記のZnOバッファ層12上に、同じくMOCVD法を用いて、Ga添加のZnO単結晶薄膜からなる発光層14を形成した。ここで、ガリウム(Ga)原料としてはトリエチルガリウムを用いた。また、不純物添加ZnO発光層14上に、EB蒸着法により、SiO2膜からなる保護層16を膜厚10nmで形成した。また、SiO2保護層16上に、真空蒸着法により、層厚50nmのAl金属層18を形成した。なお、シンチレータ1Aの面積については、シンチレータの用途等に応じて任意に設定すれば良いが、ここでは10mm×10mmに設定した。
図8は、上記した構成例のシンチレータにおける発光強度の波長依存性を示すグラフである。図8のグラフにおいて、横軸は波長(nm)を示し、縦軸はシンチレーション光の発光強度(counts)を示している。ここでは、発光層14の層厚を1.2μm、電子濃度を6.7×1019cm−3とした場合の、電子線励起(6kV)でのカソードルミネッセンスの発光スペクトルを示している。この発光スペクトルより、ZnO発光層14での発光は、蛍光寿命が短いバンド端発光のみであり、蛍光寿命が長い欠陥発光がなく、良好な特性を示していることがわかる。
図9は、シンチレータにおける電子線励起での発光効率の電子濃度依存性を示すグラフである。図9のグラフにおいて、横軸は電子濃度(キャリア濃度)(cm−3)を示し、縦軸は発光効率(フォトン/電子)を示している。
このグラフに示すように、発光強度は発光層14での電子濃度の増加とともに大きくなるが、電子濃度が1020cm−3を超えると発光効率が急激に低下することがわかる。これは、発光層14内での電子濃度が高いために、キャリアの再結合のエネルギーを近傍の電子が吸収するオージェ効果によるものである。このような点を考慮すると、発光層14での電子濃度については、上記したように2×1019cm−3以上2×1020cm−3以下の範囲内で設定することが好ましい。また、この電子濃度については、5×1019cm−3以上2×1020cm−3以下とすることがさらに好ましい。
なお、発光強度に関する上記の現象は、ZnOに添加される不純物の濃度の効果ではなく、不純物によって得られる電子濃度の効果である。このため、ZnOに添加する不純物については、Ga(ガリウム)に限らず、ZnOに対して良好なドナー不純物となるIII族元素のAl(アルミニウム)、In(インジウム)等であっても良い。
図10は、シンチレータにおける電子線励起での発光効率の電子の加速電圧依存性を示すグラフである。図10のグラフにおいて、横軸は電子線の加速電圧(kV)を示し、縦軸は発光効率(フォトン/電子)を示している。また、図10において、グラフG1は、ZnOバッファ層12無しの構成での発光効率を示し、グラフG2は、バッファ層12有りの構成での発光効率を示し、グラフG3は、バッファ層12有りで、さらに層厚10nmのSiO2保護層16を設けた構成での発光効率を示している。また、グラフG5は、比較例として、プラスチックシンチレータでの発光効率を示している。
このグラフに示すように、上記構成のシンチレータ1Aにおいて、ZnO発光層14を支持基板10上にバッファ層12を介して形成することで、発光効率が向上することがわかる。また、バッファ層12に加えて、発光層14に対して支持基板10とは反対側にZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料からなる保護層16を設けることにより、発光効率がさらに大幅に増加している。
なお、SiO2保護層16による発光層14から外部へのエネルギー遮蔽効果は、層厚が厚い方が高くなるが、保護層16がある程度よりも厚くなると、その効果に変化がなくなる。このような点を考慮すると、保護層16の層厚については、上記したように10nm以上200nm以下の範囲内で設定することが好ましい。また、保護層16を構成するZnOよりも大きいバンドギャップを有する材料については、上述したようにSiO2以外にも、例えばAl2O3、MgO、CaF2、BeO、MgF2、LiF等を用いることができる。
本発明によるシンチレータの形成方法は、上記した実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記構成のシンチレータについては、上記した電子検出器に限らず、他の放射線検出器に適用することも可能である。