本発明の実施形態において、前記車両の制御装置は、前記駆動状態での前記有段変速機のダウンシフトと前記車両の後退とが重なる走行状態であるか否かを判定するダウンシフト時後退判定部を更に備えている。このようにすれば、前記入力回転速度センサや前記出力回転速度センサが回転方向を検出することができないセンサであっても、駆動状態での有段変速機のダウンシフトと車両の後退とが重なる場合を判定することができる。
前記ダウンシフト時後退判定部は、前記有段変速機の出力回転部材の回転速度がゼロ又はゼロ近傍以下の値であるか否かを判定し、前記駆動状態での前記有段変速機のダウンシフトの実行中に、前記有段変速機の出力回転部材の回転速度がゼロ又はゼロ近傍以下の値であると判定した履歴が有る場合には、前記ダウンシフトと前記車両の後退とが重なる走行状態であると判定する。このようにすれば、前記入力回転速度センサや前記出力回転速度センサが回転方向を検出することができないセンサであっても、駆動状態での有段変速機のダウンシフトと車両の後退とが重なる場合を適切に判定することができる。
又、前記所定勾配は、ショックが発生しないように予め定められた、前記係合側係合装置の係合圧の増加率である。このようにすれば、ダウンシフト後の入力回転部材の同期回転速度と入力回転部材の回転速度の検出値とが一致したと判定される前から、すなわち係合側係合装置の差回転速度がある程度ある状態で、係合側係合装置を係合するときのショックが回避又は抑制される。
また、前記変速制御部は、前記係合側係合装置の係合圧を前記所定勾配にて増加させているときに、前記入力回転部材の回転速度の検出値が低下した場合には、前記係合側係合装置の係合圧を前記所定勾配よりも大きな勾配で増大させる。このようにすれば、係合側係合装置の差回転速度が大きくなることが抑制され、係合側係合装置のトルク容量が不足してしまうことが抑制される。又、係合側係合装置を係合するときのショックが回避又は抑制されつつ、係合側係合装置の差回転速度が大きくなって摩擦材の発熱量増加が懸念される場合のみ、係合側係合装置の係合圧が所定勾配よりも大きな勾配で増圧されて摩擦材の耐久性低下を回避又は抑制することができる。
また、前記動力源は、例えば燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジンである。或いは、前記車両は、前記動力源として、このエンジンに加えて、又は、このエンジンに替えて、電動機等を備えていても良い。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18内に、トルクコンバータ20、自動変速機22、自動変速機22の出力回転部材である変速機出力歯車24に連結された減速ギヤ機構26、その減速ギヤ機構26に連結されたディファレンシャルギヤ28等を備えている。又、動力伝達装置16は、ディファレンシャルギヤ28に連結された1対のドライブシャフト30等を備えている。動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、自動変速機22、減速ギヤ機構26、ディファレンシャルギヤ28、及びドライブシャフト30等を順次介して駆動輪14へ伝達される。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
エンジン12は、車両10の動力源である。エンジン12は、後述する電子制御装置70によって吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジントルクTeが制御される。
図2は、トルクコンバータ20や自動変速機22の一例を説明する骨子図である。尚、トルクコンバータ20や自動変速機22等は、自動変速機22の入力回転部材である変速機入力軸32の軸心RCに対して略対称的に構成されており、図2ではその軸心RCの下半分が省略されている。
図2において、トルクコンバータ20は、エンジン12と自動変速機22との間の動力伝達経路において、軸心RC回りに回転するように配設されており、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び変速機入力軸32に連結されたタービン翼車20tなどを備えた流体式伝動装置である。変速機入力軸32は、タービン翼車20tによって回転駆動されるタービン軸でもある。又、動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとの間であるトルクコンバータ20の入出力回転部材間を直結可能なロックアップクラッチLCを備えている。又、動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pに連結された機械式のオイルポンプ34を備えている。オイルポンプ34は、エンジン12によって回転駆動されることにより、自動変速機22の変速制御に用いたり、動力伝達装置16の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油を吐出する。すなわち、オイルポンプ34によって汲み上げられた作動油は、車両10に備えられた油圧制御回路50(図1参照)の元圧として供給される。
自動変速機22は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。自動変速機22は、第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、及び第3遊星歯車装置40の複数組の遊星歯車装置と、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。本実施例では、特に区別しない場合は、これらの複数の係合装置を単に係合装置Cと称す。
係合装置Cは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置Cの係合圧であるクラッチ圧Pcとして、油圧制御回路50内の各ソレノイドバルブSL1−SL6等により調圧された各油圧が油圧制御回路50から出力される。係合装置Cは、クラッチ圧Pc、すなわちクラッチ圧Pc1,Pc2,Pc3,Pc4,Pb1,Pb2によりそれぞれのトルク容量であるクラッチトルクTc、すなわちクラッチトルクTc1,Tc2,Tc3,Tc4,Tb1,Tb2が変化させられることで、それぞれ係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。係合装置Cを滑らすことなく、すなわち係合装置Cに差回転速度を生じさせることなく、変速機入力軸32と変速機出力歯車24との間でトルクを伝達する為には、そのトルクに対して各係合装置Cにて受け持つ必要がある伝達トルク分が得られるトルク容量が必要になる。上記伝達トルク分は、係合装置Cの分担トルクである。但し、伝達トルク分が得られるクラッチトルクTcにおいては、クラッチトルクTcを増加させても伝達トルクは増加しない。尚、本実施例では、便宜上、クラッチトルクTcとクラッチ圧Pcとを同義に取り扱うこともある。
自動変速機22は、複数組の遊星歯車装置の各回転要素が、直接的に或いは係合装置Cを介して選択的に、一部が互いに連結されたり、直接的に或いは係合装置Cを介して選択的に、変速機入力軸32、ケース18、或いは変速機出力歯車24に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、第1サンギヤS1、第1キャリアCA1、第1リングギヤR1である。第2遊星歯車装置38の各回転要素は、第2サンギヤS2、キャリアRCA、リングギヤRRである。第3遊星歯車装置40の各回転要素は、第3サンギヤS3、キャリアRCA、リングギヤRRである。第2遊星歯車装置38及び第3遊星歯車装置40においては、キャリアが共通のキャリアRCAで構成されると共にリングギヤが共通のリングギヤRRで構成される、所謂ラビニヨ型となっている。
自動変速機22は、係合装置Cが選択的に係合されることによって、ギヤ比γ(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数のギヤ段が選択的に形成される有段変速機である。自動変速機22は、例えば図3の係合作動表に示すように、第1速ギヤ段「1st」−第8速ギヤ段「8th」の8つの前進ギヤ段、及び後進ギヤ段「Rev」の各ギヤ段が選択的に形成される。又、係合装置Cが何れも解放されることにより、自動変速機22は、何れのギヤ段も形成されないニュートラル状態、すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態とされる。ギヤ比γは、第1速ギヤ段「1st」が最も大きく、高車速側となる第8速ギヤ段「8th」側程小さくなる。図3の係合作動表は、自動変速機22にて形成される各ギヤ段と係合装置Cの各作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、空欄は解放をそれぞれ表している。尚、AT入力回転速度Niは、変速機入力軸32の回転速度、すなわち自動変速機22の入力回転速度である。AT出力回転速度Noは、変速機出力歯車24の回転速度、すなわち自動変速機22の出力回転速度である。各ギヤ段に対応する自動変速機22のギヤ比γは、第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、及び第3遊星歯車装置40の各歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1,ρ2,ρ3によって適宜定められる。ギヤ比は変速比と同意であり、ギヤ段は変速段と同意である。
自動変速機22は、後述する電子制御装置70によって、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置Cのうちの解放側係合装置の解放と係合装置Cのうちの係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。電子制御装置70は、自動変速機22の変速すなわちダウンシフトやアップシフトの際には、例えば係合装置Cのうちの自動変速機22の変速に関与する係合装置を掴み替える、所謂クラッチツゥクラッチ変速を実行する。自動変速機22の変速に関与する係合装置を掴み替えることは、自動変速機22の変速に関与する係合装置Cの係合と解放とを切り替えることである。解放側係合装置は、係合装置Cのうちの自動変速機22の変速に関与する係合装置すなわち自動変速機22の変速時に解放される係合装置であって、変速時に掴み替えが行われる係合装置Cのうちの解放される係合装置である。係合側係合装置は、係合装置Cのうちの自動変速機22の変速に関与する係合装置すなわち自動変速機22の変速時に係合される係合装置であって、変速時に掴み替えが行われる係合装置Cのうちの係合される係合装置である。例えば、第2速ギヤ段「2nd」から第1速ギヤ段「1st」へのダウンシフトでは、図3の係合作動表に示すように、解放側係合装置となる第1ブレーキB1が解放されると共に、係合側係合装置となる第2ブレーキB2が係合させられる。この際、第1ブレーキB1の解放過渡油圧や第2ブレーキB2の係合過渡油圧が調圧制御される。本実施例では、第2速ギヤ段「2nd」から第1速ギヤ段「1st」へのダウンシフトを、2→1ダウンシフトと表す。他のギヤ段間での変速も同様である。
図1に戻り、車両10は、例えば自動変速機22の変速制御などに関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置70を備えている。電子制御装置70は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置70は、エンジン12の出力制御、自動変速機22の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン出力制御用、油圧制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置70には、車両10に設けられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ52、入力回転速度センサ54、出力回転速度センサ56、アクセル開度センサ58、スロットル弁開度センサ60、ブレーキスイッチ62、シフトポジションセンサ64など)による検出値に基づく各種信号(例えばエンジン回転速度Ne、タービン軸の回転速度であるタービン回転速度Ntと同値となるAT入力回転速度Ni、車速Vに対応するAT出力回転速度No、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキ操作部材の運転者による操作が為されたブレーキ操作状態を示す信号であるブレーキオンBon、「P」,「R」,「N」,「D」等のシフトレバーの操作位置であるシフトポジションPOSshなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置70からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン12、油圧制御回路50など)に各種指令信号(例えばエンジン制御指令信号Se、油圧制御指令信号Satなど)が、それぞれ供給される。この油圧制御指令信号Satは、係合装置Cの各油圧アクチュエータへ供給される各クラッチ圧Pcを調圧する各ソレノイドバルブSL1−SL6を駆動する為の指示圧であり、油圧制御回路50へ出力される。
入力回転速度センサ54は、回転方向を検出することなく変速機入力軸32の回転速度を検出する回転速度センサである。出力回転速度センサ56は、回転方向を検出することなく変速機出力歯車24の回転速度を検出する回転速度センサである。従って、AT入力回転速度Niの検出値は、回転方向の正負が区別されない絶対値である。又、AT出力回転速度Noの検出値は、回転方向の正負が区別されない絶対値である。変速機入力軸32及び変速機出力歯車24において、回転方向の正回転はエンジン12の回転方向と同じ車両10の前進時における回転方向であり、回転方向の負回転は車両10の後進時における回転方向である。変速機入力軸32が負回転であれば実際のAT入力回転速度Niは負値であるが、AT入力回転速度Niの検出値は絶対値すなわち正値とされる。AT出力回転速度Noについても同様である。本実施例では、実際のAT入力回転速度NiをAT入力回転速度(実回転)Niと称し、実際のAT出力回転速度NoをAT出力回転速度(実回転)Noと称し、AT入力回転速度Niの検出値をAT入力回転速度(信号値)Niと称し、AT出力回転速度Noの検出値をAT出力回転速度(信号値)Noと称して、各々を区別する。
電子制御装置70は、車両10における各種制御の為の制御機能を実現する為に、エンジン制御手段すなわちエンジン制御部72、及び変速制御手段すなわち変速制御部74を備えている。
エンジン制御部72は、要求されたエンジントルクTeが得られるようにエンジン12を制御する。例えば、エンジン制御部72は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで要求駆動トルクTdemを算出する。エンジン制御部72は、補機負荷、自動変速機22のギヤ比γ等を考慮して、その要求駆動トルクTdemを実現するエンジントルクTeを得る為のエンジン制御指令信号Seをスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置などへ出力する。車速Vは、AT出力回転速度No等と同意である。
変速制御部74は、自動変速機22の変速制御を実行する。例えば、変速制御部74は、予め定められた関係である例えば変速マップを用いて自動変速機22のギヤ段の切替えが必要であるか否かを判断し、そのギヤ段の切替えが必要であるとの変速判断をした場合には、必要に応じて自動変速機22のギヤ段を切り替えるように係合装置Cの作動状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。油圧制御指令信号Satとしては、変速時の解放側係合装置のクラッチトルクTcである解放側クラッチトルクを得る為の解放側係合装置のクラッチ圧Pcである解放側クラッチ圧を発生させる油圧制御回路50への解放側係合装置の指示圧である解放側指示圧、及び、変速時の係合側係合装置のクラッチトルクTcである係合側クラッチトルクを得る為の係合側係合装置のクラッチ圧Pcである係合側クラッチ圧を発生させる油圧制御回路50への係合側係合装置の指示圧である係合側指示圧である。
上記変速マップは、車速関連値及び駆動要求量を変数とする二次元座標上に、自動変速機22の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。
この変速マップにおける各変速線は、アップシフトが判断される為のアップ線、及びダウンシフトが判断される為のダウン線である。アップ線及びダウン線は、各々、複数のギヤ段において相互に1段異なるギヤ段間毎に予め定められている。この各変速線は、ある駆動要求量を示す線上において実際の車速関連値が線を横切ったか否か、又は、ある車速関連値を示す線上において実際の駆動要求量が線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値である変速点を横切ったか否かを判定する為のものであり、この変速点の連なりとして予め定められている。上記車速関連値は、車速Vやその車速Vに関連する値であって、例えば車速Vや車輪速やAT出力回転速度No等である。上記駆動要求量は、運転者による車両10に対する駆動要求の大きさを表す値であって、例えば上述した要求駆動トルクTdem[Nm]、要求駆動トルクTdemに関連する要求駆動力[N]や要求駆動パワー[W]等である。この駆動要求量として、単にアクセル開度θacc[%]やスロットル弁開度θth[%]や吸入空気量[g/sec]等を用いることもできる。
自動変速機22のダウンシフト時の制御について詳細に説明する。自動変速機22のダウンシフトは、エンジン回転速度Neの方がAT入力回転速度Niよりも高い状態となる駆動状態でのダウンシフトである駆動ダウンシフト、及び、AT入力回転速度Niの方がエンジン回転速度Neよりも高い状態となる被駆動状態でのダウンシフトである被駆動ダウンシフトに大別できる。
駆動ダウンシフトでは、解放側クラッチトルクを低下させれば、AT入力回転速度Niがエンジン回転速度Neに向かって上昇させられるので、係合側クラッチトルクを発生させなくても、AT入力回転速度Niをダウンシフト後の変速機入力軸32の同期回転速度へ上昇させられる。このようなことから、駆動ダウンシフトでは、解放側クラッチトルクの制御を主体としてダウンシフトを進行させることが好適である。一方で、被駆動ダウンシフトでは、ダウンシフト後のギヤ段を形成する係合側係合装置のクラッチトルクを発生させなければ、AT入力回転速度Niをダウンシフト後の変速機入力軸32の同期回転速度へ上昇させられない為、係合側クラッチトルクの制御を主体としてダウンシフトを進行させることが好適である。
本実施例では、ダウンシフト後の変速機入力軸32の同期回転速度を、ダウンシフト後同期回転速度Nidaと称する。又、ダウンシフト前の変速機入力軸32の同期回転速度を、ダウンシフト前同期回転速度Nidbと称する。又、実際のダウンシフト後同期回転速度Nidaをダウンシフト後同期回転速度(実回転)Nidaと称し、AT出力回転速度(信号値)Noに基づいて算出したダウンシフト後同期回転速度Nidaをダウンシフト後同期回転速度(信号値)Nida(=ダウンシフト後のギヤ比γ×AT出力回転速度(信号値)No)と称する。又、実際のダウンシフト前同期回転速度Nidbをダウンシフト前同期回転速度(実回転)Nidbと称し、AT出力回転速度(信号値)Noに基づいて算出したダウンシフト前同期回転速度Nidbをダウンシフト前同期回転速度(信号値)Nidb(=ダウンシフト前のギヤ比γ×AT出力回転速度(信号値)No)と称する。又、例えば2→1ダウンシフトにおいては、ダウンシフト後同期回転速度(実回転)Nidaを1速同期回転速度(実回転)Nida1と称し、ダウンシフト後同期回転速度(信号値)Nidaを1速同期回転速度(信号値)Nida1と称し、ダウンシフト前同期回転速度(実回転)Nidbを2速同期回転速度(実回転)Nidb2と称し、ダウンシフト前同期回転速度(信号値)Nidbを2速同期回転速度(信号値)Nidb2と称する。他のギヤ段間での変速も同様である。
変速制御部74による、自動変速機22の駆動ダウンシフト時の変速制御について詳細に説明する。変速制御部74は、駆動ダウンシフトでは、解放側クラッチ圧を低下させることを主体として駆動ダウンシフトを進行させると共に、ダウンシフト後同期回転速度(信号値)NidaとAT入力回転速度(信号値)Niとが一致したと判定された後に、係合側クラッチ圧を速やかに増加させることで駆動ダウンシフトを完了させる、油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。油圧制御指令信号Satの出力が開始されると、先ず、解放側クラッチ圧を低下させる準備の為の解放側指示圧が出力されると共に、係合側係合装置のパック詰めの為の係合側指示圧が出力される。次いで、イナーシャ相を開始する為に、解放側クラッチ圧を低下させる為の解放側指示圧が出力される。AT入力回転速度Niの上昇が開始されてイナーシャ相が開始され、その後、AT入力回転速度Niがダウンシフト後同期回転速度Nidaへ到達すると、解放側クラッチ圧を最小値であるゼロ値に向けて速やかに漸減する解放側指示圧が出力されると共に、係合側クラッチ圧をパック詰め完了後の待機圧から最大値である完全係合圧に向けて速やかに増加する係合側指示圧が出力されて、一連の変速制御が終了される。係合側係合装置のパック詰めの為の係合側指示圧は、クラッチピストンがストロークエンドに到達し、且つ係合側クラッチトルクが発生していない状態とする為の係合側指示圧である。パック詰め完了後の待機圧は、係合側クラッチトルクを発生しない状態で待機する為の係合側クラッチ圧である。
ここで、例えば勾配の大きな登坂路等では、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる走行状態が生じる場合がある。このような走行状態は、例えば登坂路での減速走行中に低車速において自動変速機22の2→1ダウンシフトが判断され、その判断された2→1ダウンシフトが極低車速にて又は車両停止時に実行開始された後に車両10の後退が開始された場合、又は、車両10の後退の開始後にその判断された2→1ダウンシフトが実行開始された場合などが想定される。減速走行中の自動変速機22のダウンシフトは、コーストダウンシフトであり、通常は被駆動ダウンシフトにて実行されるが、低車速走行時にはAT入力回転速度Niがエンジン回転速度Neよりも低くなる場合があり、このような場合には駆動ダウンシフトにて実行される。又は、車両10の後退時は、AT入力回転速度(実回転)Niは負値となる為、AT入力回転速度(実回転)Niよりもエンジン回転速度Neが高くなるので、判断された2→1ダウンシフトは駆動ダウンシフトにて実行される。
ところで、車両10の後退時には、AT入力回転速度(実回転)NiやAT出力回転速度(実回転)Noは負値であるが、AT入力回転速度(信号値)NiやAT出力回転速度(信号値)Noは正値である。そうすると、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる走行状態では、解放側クラッチ圧を低下させることでAT入力回転速度(実回転)Niはエンジン回転速度Neに向かって上昇するが、ダウンシフト後同期回転速度(実回転)Nidaは負値である為、AT入力回転速度(実回転)Niはダウンシフト後同期回転速度(実回転)Nidaに近づかず、駆動ダウンシフトを完了させることができない。この際、AT入力回転速度(実回転)Niがエンジン回転速度Neに向かって上昇し、ダウンシフト後同期回転速度(信号値)NidaとAT入力回転速度(信号値)Niとが一致したとの同期判定によって係合側クラッチ圧を速やかに増加させて駆動ダウンシフトを完了させることができる。しかしながら、同期判定までの時間が長くなったり、又、ダウンシフト後同期回転速度(実回転)Nidaは負値である為に実際には同期しておらず、係合側係合装置は差回転速度が大きな状態で係合させられることになって駆動ダウンシフトの完了が遅れる可能性がある。係合側係合装置は差回転速度が大きな状態で係合させられると、係合側クラッチトルクの不足が生じたり、又は、摩擦材の発熱量が大きくなって摩擦材の耐久性が低下する可能性がある。
別の観点では、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる走行状態では、駆動ダウンシフトに替えて、被駆動ダウンシフトを実行することが考えられる。この場合も、AT入力回転速度(実回転)Niは負値であるがAT入力回転速度(信号値)Niは正値である。一方で、一般的に、トルクコンバータ20のトルク比t(=タービントルクTt/ポンプトルクTp)は、トルクコンバータ20の速度比e(=タービン回転速度Nt/ポンプ回転速度Np)の関数であり、タービン回転速度NtすなわちAT入力回転速度Niが低い程、大きくされる。その為、AT入力回転速度(信号値)Niを用いて算出したトルクコンバータ20のトルク比tは、AT入力回転速度(実回転)Niが負値の領域では本来の値よりも小さな値となってしまう。従って、エンジントルクTeにトルクコンバータ20のトルク比tを乗じたトルクとして算出されるタービントルクTt(=Te×t)である自動変速機22の入力トルクTinは、AT入力回転速度(実回転)Niが負値の領域では本来の値よりも小さな値となってしまう。そうすると、被駆動ダウンシフトにおいて、入力トルクTinに応じた係合側クラッチトルクを発生させる場合、車両10の後退時には係合側クラッチトルクに不足が生じて被駆動ダウンシフトの完了が遅れる可能性がある。
そこで、変速制御部74は、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる場合には、駆動ダウンシフトを適切に完了する為に、駆動ダウンシフトにおいて、解放側クラッチ圧を低下させることに加えて係合側クラッチ圧を所定勾配にて増加させることで駆動ダウンシフトを進行させる、油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。係合側クラッチトルクの制御によって駆動ダウンシフトを進行させることになるが、係合側クラッチトルクは入力トルクTinに応じた値でなく、入力トルクTinとは関係なく所定勾配にて増加させられた係合側クラッチ圧に対応する値である。
前記所定勾配は、例えばショックが発生しないように予め定められた係合側クラッチ圧の増加率である。これにより、ダウンシフト後同期回転速度(信号値)NidaとAT入力回転速度(信号値)Niとが一致したと判定される前から、すなわち係合側係合装置の差回転速度がある程度ある状態で、係合側係合装置を係合するときのショックが回避又は抑制される。
電子制御装置70は、上述したような駆動ダウンシフトを適切に完了する為の制御を実行する為に、ダウンシフト時後退判定手段すなわちダウンシフト時後退判定部76を更に備えている。
ダウンシフト時後退判定部76は、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる走行状態であるか否かを判定する。これにより、このようにすれば、入力回転速度センサ54や出力回転速度センサ56が回転方向を検出することができないセンサであっても、駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる場合を判定することができる。
具体的には、ダウンシフト時後退判定部76は、AT出力回転速度(信号値)Noがゼロ又はゼロ近傍以下の値であるか否かを判定する。すなわち、ダウンシフト時後退判定部76は、車速Vがゼロ又はゼロ近傍以下の値であるか否かを判定する。ダウンシフト時後退判定部76は、車速Vがゼロ又はゼロ近傍以下の値であると判定した場合には、後退履歴のフラグを「有」に設定する。ダウンシフト時後退判定部76は、例えば走行開始時には、又は、自動変速機22の変速完了後には、この後退履歴のフラグを「無」に設定する。
ダウンシフト時後退判定部76は、自動変速機22の駆動ダウンシフトの実行中であるか否かを判定する。ダウンシフト時後退判定部76は、駆動ダウンシフトの実行中であると判定した場合には、後退履歴のフラグが「有」であるか否かを判定する。ダウンシフト時後退判定部76は、後退履歴のフラグが「有」であると判定した場合には、すなわち駆動ダウンシフトの実行中にAT出力回転速度(信号値)Noがゼロ又はゼロ近傍以下の値であると判定した履歴が有る場合には、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる走行状態であると判定する。これにより、入力回転速度センサ54や出力回転速度センサ56が回転方向を検出することができないセンサであっても、駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる場合を適切に判定することができる。
変速制御部74は、ダウンシフト時後退判定部76により自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる走行状態であると判定された場合には、駆動ダウンシフトにおいて、係合側クラッチ圧をパック詰め完了後の待機圧から所定勾配にて単調増加させる油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力して、駆動ダウンシフトを進行させる。変速制御部74は、ダウンシフト後同期回転速度(信号値)NidaとAT入力回転速度(信号値)Niとが一致したか否かを判定し、すなわち駆動ダウンシフト後のギヤ段の形成が完了したか否かを判定する。変速制御部74は、駆動ダウンシフト後のギヤ段の形成が完了したと判定するまで、係合側クラッチ圧を所定勾配にて単調増加させる油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。
図4は、電子制御装置70の制御作動の要部すなわち自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる場合に駆動ダウンシフトを適切に完了する為の制御作動を説明するフローチャートであり、繰り返し実行される。図5及び図6は、各々、図4のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図4において、先ず、ダウンシフト時後退判定部76の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、後退履歴のフラグが「無」に設定される。次いで、ダウンシフト時後退判定部76の機能に対応するS20において、車速Vがゼロ又はゼロ近傍以下の値であるか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合はダウンシフト時後退判定部76の機能に対応するS30において、後退履歴のフラグが「有」に設定される。上記S20の判断が否定される場合は、又は、上記S30に次いで、ダウンシフト時後退判定部76の機能に対応するS40において、自動変速機22の駆動ダウンシフトの実行中であるか否かが判定される。このS40の判断が否定される場合は上記S20に戻される。上記S40の判断が肯定される場合はダウンシフト時後退判定部76の機能に対応するS50において、後退履歴のフラグが「有」であるか否かが判定される。このS50の判断が肯定される場合は変速制御部74の機能に対応するS60において、係合側クラッチ圧を所定勾配にて単調増加させる油圧制御指令信号Satが油圧制御回路50へ出力される。すなわち、駆動ダウンシフトにおいて、係合側指示圧が単調増加させられる。上記S50の判断が否定される場合は、又は、上記S60に次いで、変速制御部74の機能に対応するS70において、駆動ダウンシフト後のギヤ段の形成が完了したか否かが判定される。駆動ダウンシフトが例えば2→1ダウンシフトの駆動ダウンシフトである場合は、図4に示すように第1速ギヤ段「1st」の形成が完了したか否かが判定される。このS70の判断が否定される場合は上記S20に戻される。このS70の判断が肯定される場合は本ルーチンが終了させられる。
図5は、2→1ダウンシフトの駆動ダウンシフトが開始された後に、車両10の後退が開始された場合の実施態様の一例を示している。図5において、この2→1ダウンシフトはコーストダウンシフトであるが、エンジン回転速度NeがAT入力回転速度Niよりも高いので、2→1ダウンシフトを駆動ダウンシフトにて実行する変速指令の出力が開始される(t1時点参照)。変速指令として、解放側指示圧と係合側指示圧とが出力される。解放側指示圧が低下させられ且つ係合側指示圧がパック詰め完了後の待機圧とされている、駆動ダウンシフトの実行中に車速Vがゼロとなり後退履歴のフラグが「有」に設定される(t2時点参照)。これにより、係合側指示圧が待機圧から単調増加させられる。すなわち、係合側指示圧のスイープが開始される。係合側指示圧のスイープによって駆動ダウンシフトが進行させられて、AT入力回転速度(実回転)Niが1速同期回転速度(実回転)Nida1に向かって近づけられる(t2時点以降参照)。1速同期回転速度(信号値)Nida1とAT入力回転速度(信号値)Niとが一致した後、係合側指示圧が係合側係合装置を完全係合する為の値に維持される。
図6は、車両10の後退が開始された後に、2→1ダウンシフトの駆動ダウンシフトが開始された場合の実施態様の一例を示している。図6において、車速Vがゼロとなり後退履歴のフラグが「有」に設定される(t1時点参照)。車両10の後退中に、2→1ダウンシフトを駆動ダウンシフトにて実行する変速指令の出力が開始される(t2時点参照)。変速指令の出力開始時点で既に後退履歴のフラグが「有」に設定されているので、係合側係合装置のパック詰め完了後に速やかに係合側指示圧のスイープが開始される(t3時点参照)。係合側指示圧のスイープによって駆動ダウンシフトが進行させられて、AT入力回転速度(実回転)Niが1速同期回転速度(実回転)Nida1に向かって近づけられる(t3時点−t4時点参照)。1速同期回転速度(信号値)Nida1とAT入力回転速度(信号値)Niとが一致した後、係合側指示圧が係合側係合装置を完全係合する為の値に向けて速やかに上昇させられる(t4時点以降参照)。
上述のように、本実施例によれば、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる場合には、解放側クラッチ圧を低下させることに加えて係合側クラッチ圧を所定勾配にて増加させることで駆動ダウンシフトが進行させられるので、AT入力回転速度(実回転)Niがダウンシフト後同期回転速度(実回転)Nidaに向けて変化させられて、駆動ダウンシフトを完了させることができる。又は、係合側係合装置は差回転速度が大きな状態で係合させられることが避けられる。よって、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる場合に、駆動ダウンシフトを適切に完了することができる。
又、車両10の後退開始以降にアクセル踏み込みによる再加速が為された場合においても、係合側係合装置の同期が早まるので、車両10の正駆動力が発生するまでの時間も短縮することができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例1では、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる場合には、解放側クラッチ圧を低下させることに加えて係合側クラッチ圧を所定勾配にて増加させることで駆動ダウンシフトを進行させた。この所定勾配は、大きくすると変速ショックが発生し易くなる為、前述の実施例1では、ショックが発生しないように予め定められた係合側クラッチ圧の増加率とされた。このように、係合側クラッチ圧の増加率には制約が存在する。
ここで、前記所定勾配を変速ショックの抑制を考慮して上述したように設定した場合に、駆動ダウンシフトの実行過程で、係合側係合装置のパック詰めの著しい遅れや解放側クラッチトルクの著しい不足が発生すると、AT入力回転速度(実回転)Niがダウンシフト前同期回転速度(実回転)Nidbよりも上昇し、すなわちAT入力回転速度(実回転)Niがダウンシフト前同期回転速度(実回転)Nidbに対して吹き上がり、係合側係合装置の差回転速度が大きくなり易い。その為、例えば図7のクラッチ差回転速度と摩擦材発熱量との関係図に示すように、差回転速度が大きくなることによって摩擦材の発熱量が増加して、摩擦材の耐久性が低下する可能性がある。このような問題は例えば係合側クラッチ圧や解放側クラッチ圧の学習制御の初期等で発生し易い。変速ショックの抑制よりも、部品保護の優先度は高いので、駆動ダウンシフトの実行過程で係合側係合装置の差回転速度が大きくなるようなときには、係合側クラッチ圧の増加率を前記所定勾配よりも大きくすることが望ましい。
そこで、変速制御部74は、係合側クラッチ圧を前記所定勾配にて増加させているときに、AT入力回転速度(信号値)Niが低下した場合には、係合側クラッチ圧を前記所定勾配よりも大きな勾配で増大させる、油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。
AT入力回転速度(実回転)Niの吹き上がりは、AT入力回転速度(実回転)Niが負値の領域では、AT入力回転速度(信号値)Niの低下すなわち落ち込みとして現れる。従って、AT入力回転速度(信号値)Niの落ち込みを判定することは、AT入力回転速度(実回転)Niの吹き上がりを判定することである。
変速制御部74は、AT入力回転速度(信号値)Niとダウンシフト前同期回転速度(信号値)Nidbとを用いて、AT入力回転速度(信号値)Niの落ち込み量であるアンダーシュート量Nius(=(信号値)Nidb−(信号値)Ni)を算出する。変速制御部74は、AT入力回転速度(信号値)Niのアンダーシュート量Niusが所定量以上である場合には、AT入力回転速度(信号値)Niの落ち込みすなわちAT入力回転速度(実回転)Niの吹き上がりが発生していると判定する。上記所定量は、AT入力回転速度(信号値)Niの落ち込みが発生していることを判定する為の予め定められた閾値である。
変速制御部74は、駆動ダウンシフトにおいて係合側クラッチ圧を前記所定勾配にて増加させているときに、AT入力回転速度(実回転)Niの吹き上がりが発生していると判定した場合には、係合側クラッチ圧を前記所定勾配よりも大きな勾配で増大させる。
図8は、2→1ダウンシフトの駆動ダウンシフトが開始された後に、車両10の後退が開始された場合であって、AT入力回転速度(実回転)Niの吹き上がりが発生した場合の実施態様の一例を示している。図8において、この2→1ダウンシフトはコーストダウンシフトであるが、エンジン回転速度NeがAT入力回転速度Niよりも高いので、2→1ダウンシフトを駆動ダウンシフトにて実行する変速指令の出力が開始される(t1時点参照)。解放側指示圧が低下させられ且つ係合側指示圧がパック詰め完了後の待機圧とされている、駆動ダウンシフトの実行中に車速Vがゼロとなり後退履歴のフラグが「有」に設定される(t2時点参照)。これにより、所定勾配にて係合側指示圧のスイープが開始される。この係合側指示圧のスイープでは駆動ダウンシフトが進行させられず(t2時点以降参照)、AT入力回転速度(実回転)Niの吹き上がりすなわちAT入力回転速度(信号値)Niの落ち込み(=アンダーシュート)が発生している。AT入力回転速度(信号値)Niのアンダーシュートの発生に伴って、所定勾配よりも大きな勾配にて係合側指示圧のスイープが実行される(t3時点以降)。これによって、AT入力回転速度(実回転)Niが1速同期回転速度(実回転)Nida1に向かって近づけられる。1速同期回転速度(信号値)Nida1とAT入力回転速度(信号値)Niとが一致した後、係合側指示圧が係合側係合装置を完全係合する為の値に維持される。
上述のように、本実施例によれば、AT入力回転速度(信号値)Niのアンダーシュート量Niusを算出することで、AT入力回転速度(実回転)Niの吹き上がりを判定することができる。この判定結果に基づいて、係合側クラッチ圧を所定勾配よりも大きな勾配で増圧することで、係合側係合装置の差回転速度が大きくなることが抑制され、係合側係合装置の差回転速度が大きくなる前に、係合側クラッチトルクが不足してしまうことが抑制又は回避される。又、係合側係合装置を係合するときの変速ショックが回避又は抑制されつつ、係合側係合装置の差回転速度が大きくなって摩擦材の発熱量増加が懸念される場合のみ、係合側クラッチ圧が所定勾配よりも大きな勾配で増圧されて摩擦材の耐久性低下を回避又は抑制することができる。加えて、車両10が後退している状態から速やかに正駆動力を発生させることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、後退履歴のフラグ等に基づいて自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる走行状態であるか否かを判定したが、この態様に限らない。例えば、加速度センサ等によって車両10の後退が判定されて、自動変速機22の駆動ダウンシフトと車両10の後退とが重なる走行状態であるか否かを判定しても良い。
また、前述の実施例では、自動変速機22は、前進8段の各ギヤ段が形成されたが、この態様に限らない。自動変速機22は、複数の係合装置が選択的に係合されることによって複数のギヤ段が選択的に形成される有段変速機であれば良い。有段変速機としては、自動変速機22のような遊星歯車式の自動変速機でも良いし、又は、同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備えて各系統の入力軸に係合装置(クラッチ)がそれぞれつながり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている型式の変速機である公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などの自動変速機であっても良い。DCTの場合には、複数の係合装置は、2系統の各入力軸にそれぞれつながる係合装置が相当する。
また、前述の実施例では、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20を介して自動変速機22へ伝達されたが、この態様に限らない。例えば、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。或いは、流体式伝動装置に替えて、摩擦クラッチ等が設けられても良いし、前記DCTの場合のように、この流体式伝動装置は必ずしも設けられなくても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。