JP6940979B2 - 超音波増感剤 - Google Patents
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このイミノクロリンアスパラギン酸誘導体またはその薬理学的に許容される塩のなかでも、特にナトリウム塩である化合物、すなわちATX−S10・Naと命名された化合物は、癌組織への集積性、ならびに新生血管への選択的集積性が著しく高い化合物である。したがって、その優れた特性を利用して、腫瘍の治療のためのPDT用治療剤として極めて効果的なものであることを確認している(特許文献1)。
また、5−ALAを用いたSDTによる癌治療の試みもなされている。
しかしながら、5−ALAはプロトポルフィリンIXの生合成前駆体であり、プロトポルフィリンIXの化合物特性、すなわち新生血管集積性が低いこと、最長波長吸収端が630nmであること並びに光毒性が存在し、超音波による活性が弱いことから良好なSDT治療剤とは言えない。
そこでクロリン誘導体(TONS503やTONS504)をMn金属錯体等に誘導体化すると光毒性がなく、且つ超音波感受性(SDT活性)も存在することが新たに分かった。Mn金属錯体以外にも種々キレート錯体へ誘導させたが、超音波活性に良好な結果が得られなかった。さらに新規なクロリン金属錯体にあっては、癌治療剤のみならず軟膏剤、ローション剤等のSDT用の外用剤としても感染症の治療に有効であることを確認し、本発明を完成させるに至った。
Mは、Mnを表し、
Xは、−(CH2)n−を表し、
Rは、−NHCH2−Y(ここでYは、
nは、0から10の整数を表し、
Zは、配位子を示し、OAc又はClである]
で示されるクロリン金属錯体又はその薬理学的に許容される塩である。
で示される、クロリンMn金属錯体又はその薬理学的に許容される塩である。
また、超音波を使用できることから、光とは異なり深部にも到達し、治療自体を簡便に行える利点を有しており、新しい治療システムを提供できるものである。
また、今日の癌治療、皮膚疾患治療並びに感染症治療用いられている抗がん剤、抗菌剤、抗生物質等は、薬剤耐性が容易に生じ易いものであるが、外部エネルギーとして超音波を用いる本発明のSDT治療システムにおいては、そのような薬剤耐性の問題が発生しない点で、その利点は、極めて特異的なものである。
このクロリンMn金属錯体は、これまで本発明者の1人が提供してきたクロリン誘導体であるTONS503および504と同様に、癌への親和性や皮膚浸透性が高く、しかも光毒性が無く、また水溶性或いは脂溶性を持たせたことから、例えば注射剤、あるいは各種軟膏基剤中に均一に溶解・分散し、軟膏製剤自体の安定性も極めて良好なものであり、また水溶性ローション剤として製剤中に均一に溶解・分散し、製剤自体の安定性も極めて良好なものである。
であるクロリン金属錯体。
したがって、前記特許に記載の内容は、本願明細書の一部を構成する。
特許第5651426号(特許文献7)の方法に従って、TONS503を得た。得られた化合物0.017gをDMFに溶解させ、塩化マンガンを加えて70℃に加熱撹拌し、冷後濾取して、新規クロリンMn金属錯体(TONS503−Mn B型)を0.015g得た(収率:88.2%)。
得られた誘導体についてUV−VISスペクトル分析を行ったところ、最長波長吸収端662nmを示し、FAB−MSにより質量分析を実施したところ、m/z:1,169.2(C51H56I2MnN8O5)を示し、目的とするクロリンMn金属錯体であることが確認された。
また、ICP分析によりMn金属が配位されていることも確認された。これは、UVスペクトル分析によってもその構造が支持された。
特許第5651426号(特許文献7)の方法に従って、TONS504を得た。得られた化合物1.01gを酢酸中に溶解懸濁させ、酢酸マンガンを加えて55℃に加熱撹拌し、冷後濾取して、新規クロリンMn金属錯体(TONS504−Mn A型)を0.90g得た(収率:89.1%)。
得られた誘導体についてUV−VISスペクトル分析を行ったところ、最長波長吸収端662nmを示し、FAB−MSにより質量分析を実施したところ、m/z:1,169.2(C51H56I2MnN8O5)を示し、目的とするクロリンMn金属錯体であることが確認された。
また、ICP分析によりMn金属が配位されていることも確認された。これは、UVスペクトル分析(図7、図9)によってもその構造が支持された。
Mn錯体がNMR分析をすることが出来ないということは、MRI画像診断にも用いることが出来ることを意味している。
Mn錯体化前のTONS504については、以下のNMRデータによってその構造が支持された。
癌疾患治療剤としての注射剤は,浸透圧やpH調整剤を用い、舌下剤は適当なゲル化剤等を用いて調製し、皮膚疾患治療剤、或いは抗菌剤としての外用剤は、非水性軟膏剤、水性軟膏剤、ローション剤等の剤型で処方される。
なお、配合量は含有させる有効成分の種類により一概に特定することはできず、また、含有させる有効成分の安定性は有効成分の濃度、用いる基剤に大きく影響されないため、上記の含有量の範囲内で、用途に合わせ種々変更させることが可能である。
なお、軟膏剤、ローション剤等の外用剤の塗布にあたっては、ODT効果(密封包帯効果:Occlusive Dressing Technique)を得るために、塗布部位を密閉状態に保つこともより効果的である。
本発明のクロリンMn金属錯体は、光無感作が望まれる。そのため、光処理に対する光毒性を、LED 660nmおよび405nmによる処理に対する光毒性で検討した。
(1)96ウェルプレートに2×103cells/wellずつB10−F10細胞を播種し、5%炭酸ガスインキュベーターで培養した。
(2)各化合物を100μMになるようにDMSOで溶解し、終濃度1μMになるように培地で希釈した。
(3)培地交換で化合物入り培地を添加し、5時間後に1×PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で2回洗浄した後PBSを入れ,以下の条件でLED光照射を行った。
・波長:405nm又は660nm
・照射量:46.1mW/cm2
・照射時間:6分
(5)常温で15分間インキュベート後、水道水100μL/wellで4回洗浄を行った。
(6)常温で1時間乾燥後、1%SDSを100μL/well添加し、Crystal violetが溶出したのを確認後、マイクロプレートリーダーで吸光度(abs:570nm)を測定し、生存率を求めた。
その結果を図1に示した。図中に示した結果からも判明するように、本発明のクロリンMn金属錯体は、B10−F10細胞を用いた光照射実験で安定であること、すなわち光毒性が無いことが確認された。
一方、本金属錯体の前駆体である無金属体は、光感作が認められた。
本発明のクロリンMn金属錯体は、超音波照射によるラジカル産生が望まれる。そのため、超音波処理に対するラジカル産生を検討した。
(1)DCFH−DAを4当量のNaOHによってDCFH(1mM)となるようにメタノールにて調整した。
(2)各化合物の終濃度を50μMになるようにmQ水で調整し、DCFHは1mMになるようにメタノールで調整した。
(3)Φ6シャーレに3mL移し、以下の条件で超音波照射を行った。
・Probe L(有効照射面積:5cm2)
・照射時間:6分
・Duty cycle:50%
・周波数:1MHz
・照射量:2.0W/cm2
その結果を図2に示した。図中に示した結果からも判明するように、本発明の金属錯体は、超音波照射実験でラジカルが産生すること、すなわち超音波活性があることが確認された。
一方、本金属錯体の前駆体である無金属体には超音波よるラジカル産生が認められなかった。
本発明のクロリンMn金属錯体は、超音波感作が望まれる。そのため、超音波処理に対する感受性を,以下のとおり検討した。
(1)Φ6シャーレに1×105cells/wellずつB10−F10細胞を播種し、5%炭酸ガスインキュベーターで培養した。
(2)各化合物を100μMになるようにDMSOで溶解し、終濃度1μMになるように培地で希釈した。
(3)培地交換で化合物入り培地を添加し、5時間後に以下の条件で超音波照射を行った。
・Probe L(有効照射面積:5cm2)
・照射時間:4分
・Duty cycle:20%
・周波数:1MHz
・照射量:0.4W/cm2
(5)細胞懸濁液30μLと0.4%トリパンブルー(Trypan blue)30μLを合わせ、血球計算盤を用いて生細胞数をカウントし、生存率を求めた。
その結果を図3に示した。図中に示した結果からも判明するように、本発明の金属錯体は、B16−F10細胞を用いた超音波照射実験で、細胞破壊効果があることが確認された。
一方、本金属錯体の前駆体である無金属体にも超音波感作が認められた。
本発明のクロリン誘導体及びそのMn金属錯体は、暗所下での細胞無毒性が望まれる。そのための確認を、以下の試験により行った。
(1)96ウェルプレートに2.5×103cells/wellずつB10−F10細胞を播種し、5%炭酸ガスインキュベーターで培養した。
(2)TONS504、TONS504−Mnを測り取り、濃度が100mM、30mM、10mM、3mM、1mM、0.3mM、0.1mM、0.03mM及び0.01mMになるようにDMSOで調整した。
(3)DMSOが1%になるようにDEME培地を用いて希釈し、終濃度を1000μM、300μM、100μM、30μM、10μM、3μM、1μM、0.3μM及び0.1μMにし、培地交換で添加した。
(4)添加24時間後に1×PBSで2回洗浄を行い、培地を入れインキュベートした。
(5)24時間後、1×PBSで2回洗浄を行い、0.5%Crystal violet溶液を50μL添加した。
(6)常温で15分間インキュベート後、水道水100μL/wellで4回洗浄を行った。
(7)常温で1時間乾燥後、1%SDSを100μL/well添加し、Crystal violetが溶出したのを確認後、マイクロプレートリーダーで吸光度(abs:570nm)を測定し、生存率を求めた。
その結果を図4に示した。図中に示した結果からも判明するように、本発明の金属錯体誘導体(TONS504−Mn)およびその無金属錯体(TONS504)には、細胞毒性が30μM以下では認められなかった。
<実験操作>
(1)Φ6シャーレに2×105cells/wellずつB10−F10細胞を播種し、5%炭酸ガスインキュベーターで培養した。
(2)各化合物を300μMになるようにDMSOで溶解し、終濃度3μMになるように培地にて希釈した。
(3)添加直後、1,3,6、12及び24時間の経過時間ごとに1×PBS洗浄を2回し、2%Triton in mQ水を400μL加え,セルスクレーバーを用いて細胞を溶かし細胞溶解液を回収した。
(4)回収した細胞溶解液を15000rpm/10分で遠心を行い、上清を回収した。
(5)上清100μLの蛍光強度をマイクロプレートリーダーで測定し,検量線より取込量を求めた。
TONS504(ex: 405 nm/em:660 nm)
(1)Φ6シャーレに2×105cells/wellずつB10−F10細胞を播種し、5%炭酸ガスインキュベーターで培養した。
(2)各化合物を300μMになるようにDMSOで溶解し、終濃度3μMになるように培地にて希釈した。
(3)添加直後、1,3,6、12及び24時間の経過時間ごとに1×PBS洗浄を2回し、2%Triton in mQ水を400μL加え、セルスクレーバーを用いて細胞を溶かし細胞溶解液を回収した。
(4)回収した細胞溶解液を15000rpm/10分で遠心を行い、上清を回収した。
(5)上清300μLを2M HNO3 150μLとmQ水1050μLで調整した。
(6)IPC発光分光分析装置でMn量を測定し、検量線より取込量を求めた。
それらの結果を図5に示した。図中に示した結果からも判明するように、本発明の金属誘導体(TONS504−Mn)およびその無金属錯体(TONS504)の両者とも細胞内取込みが認められたが、金属誘導体(TONS504−Mn)の方が優れたものであった。
ポルフィリン化合物は、光反応性をすると構造変化が観察されることがある。そのため、光照射前後での構造変化の有無を、吸収スペクトルの変化より光反応性を無細胞系で評価した。
光照射は405nmと660nmのLEDを用いた。
それらの結果を図6〜図9に示した。
TONS504では光照射後の最大吸収が未照射と比較して95%低下しており、吸収スペクトルの変化が見られた(図6、図8)。
一方、本発明の金属誘導体であるTONS504−Mnは光照射による吸収スペクトルの変化は見られなかった(図7、図9)。
以上より、Mn錯体化前の前駆体であるTONS504は光によって分解するのに対して、錯体後の本発明の金属誘導体であるTONS504−Mnは光により分解せず、安定であることが確認された。
本発明の金属錯体誘導体(TONS504−Mn)及びその前駆体である無金属錯体(TONS504)を用いて検討した。
結果を図10及び図11に示したが、両化合物とも超音波照射前後での吸収スペクトルに変化が認められなかった。
したがって、両化合物とも超音波により分解せず、安定であることが判明した。
<方法>
Balb/c系の6週令雌性マウスを用いた。
担癌マウスは、EMT−6腫瘍細胞を1×107個を背中背部に接種して作成した。
接種6日後に、本発明の金属錯体誘導体であるTONS504−Mnを尾静脈より1mg/kg又は2.5mg/kgを投与し、投与12時間後又は24時間後に、それぞれ別々に3分間あるいは5分間の超音波照射を行った。
・伊藤超短波(株)製装置:UST770
・周波数:1MHz
・照射量:2W/cm2
・Duty cycle:50%
その結果を図12に示した。図中に示した結果からも判明するように、本発明のクロリンMn金属錯体誘導体には腫瘍抑制効果が見られることが確認され、特に、TONS504−Mnを用いた超音波照射では、薬剤1mg/kg投与12時間後に5分間の超音波照射で顕著な効果が認められた。
したがって、癌疾患部位に選択的に集積され、他方、日光角化症、炎症性角化症、表皮癌、感染症等の皮膚疾患、例えば乳頭腫等の疾患部位に塗布することにより、疾患部位に効果的にクロリンMn金属錯体が集積され、超音波照射により効果的に癌治療や皮膚疾患治療を行うことができる。
また、過去の試験結果よりMRI造影剤としても有効であり、本発明のMn金属錯体を投与後、患部をMRIで特定後、SDT照射治療が可能である利点を有する。
Claims (10)
- 注射剤の形態にある、請求項1又は2に記載の超音波化学療法(STD:Sonodynamic Therapy)用の癌疾患治療用剤。
- 軟膏剤の形態にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載の超音波化学療法(STD:Sonodynamic Therapy)用の癌疾患治療剤、皮膚疾患治療用剤又は抗菌剤。
- ローション剤の形態にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載の超音波化学療法(STD:Sonodynamic Therapy)用の癌疾患治療剤、皮膚疾患治療用剤又は抗菌剤。
- 舌下錠の形態にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載の超音波化学療法(STD:Sonodynamic Therapy)用の癌疾患治療剤、皮膚疾患治療用剤又は抗菌剤。
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