以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
<シリカガラスルツボ>
図1(a)および(b)は、シリカガラスルツボを例示する模式図である。
図1(a)にはシリカガラスルツボ11の斜視図が示され、図1(b)にはシリカガラスルツボ11の断面図が示される。
測定対象であるシリカガラスルツボ11は、相対的に曲率の高いコーナ部11cと、上面に開口した縁部を有する円筒状の側壁部11aと、直線または相対的に曲率の低い曲線からなるすり鉢状の底部11bと、を有する。
本実施形態において、コーナ部11cは、側壁部11aと底部11bを連接する部分であり、コーナ部11cの曲線の接線がシリカガラスルツボ11の側壁部11aと重なる点から、底部11bと共通接線を有する点までの部分のことを意味する。言い換えると、シリカガラスルツボ11の側壁部11aにおいて曲がり始める点が、側壁部11aとコーナ部11cとの境界である。さらに、シリカガラスルツボ11の底の曲率が実質的に一定の部分が底部11bであり、シリカガラスルツボ11の底の中心からの距離が増したときに曲率が変化し始める点が、底部11bとコーナ部11cとの境界である。
シリカガラスルツボ11の肉厚方向(厚さ方向とも言う。)において内表面側には透明層13が設けられ、外表面側には非透明層15が設けられる。
透明層13とは、実質的に気泡を含まない層である。ここで、「実質的に気泡を含まない」とは、気泡が原因でシリコン単結晶の単結晶化率が低下しない程度の気泡含有率および気泡サイズのことを意味する。例えば、透明層13の気泡含有率は0.1%以下であり、気泡の平均直径は100μm以下である。
透明層13は合成シリカガラスを内表面側に含むことが好ましい。合成シリカガラスとは、例えばケイ素アルコキシドの加水分解により合成された原料を溶融して製造されたシリカガラスを意味する。一般に合成シリカは天然シリカに比べて金属不純物の濃度が低いという特性を有している。例えば、合成シリカに含まれる各金属不純物の含有量は0.05ppm未満である。ただし、Al等の金属不純物が添加された合成シリカも知られていることから、合成シリカか否かは一つの要素に基づいて判断されるべきものではなく、複数の要素に基づいて総合的に判断されるべきものである。このように、合成シリカガラスは天然シリカガラスと比べて不純物が少ないことから、ルツボからシリコン融液中へ溶出するシリコン半導体ウェーハとして動作特性に悪影響を与える不純物の増加を防止することができ、シリコン単結晶の品質を高めることができる。
非透明層15には多数の気泡が内在する。非透明層15は、この気泡によって白濁した状態に見える層のことである。非透明層15は天然シリカガラスからなることが好ましい。天然シリカガラスとは、天然水晶、ケイ石等の天然質原料を溶融して製造されたシリカガラスを意味する。一般に天然シリカは合成シリカに比べて金属不純物の濃度が高いという特性を有している。例えば、天然シリカに含まれるAlの含有量は1ppm以上、アルカリ金属(Na,KおよびLi)の含有量はそれぞれ0.1ppm以上である。
なお、天然シリカか否かは一つの要素に基づいて判断されるべきものではなく、複数の要素に基づいて総合的に判断されるべきものである。天然シリカは、合成シリカに比べて高温における粘性が高いことから、ルツボ全体の耐熱強度を高めることができる。また、天然質原料は合成シリカに比べて安価であり、コスト面でも有利である。
シリカガラスルツボ11の外径が32インチ以上の大型ルツボや、40インチ以上の超大型ルツボにおいては、ルツボを製造する際のシリカ粉層形成のばらつき(シリカ粉層の厚さ、カーボンモールドの回転軸調整などのばらつき)や、アーク熔融工程での熱履歴のばらつきに起因するガラス構造の相違が顕著に表れる。ガラス構造の相違は、シリコン単結晶引き上げ時のクリストバライトの生成、シリコン単結晶における転位の発生といった単結晶品質に大きな影響が大きい。
<シリカガラスルツボの製造方法>
図2は、シリカガラスルツボの製造工程を概略的に示すフローチャートである。また、図3及び図4は、シリカガラスルツボの製造方法を説明するための模式図である。
シリカガラスルツボ11は回転モールド法によって製造される。図4に示すように、回転モールド法では、カーボンモールドへのシリカ粉層の形成(ステップS101)、アーク熔融および減圧(ステップS102)、冷却(ステップS103)、リムカットおよびエッジ処理(ステップS104)によってシリカガラスルツボ11を製造する。
先ず、ステップS101に示すカーボンモールドへのシリカ粉層の形成では、図3(a)に示すように、シリカガラスルツボ11の外形に合わせたキャビティを有するカーボンモールド20を用意する。そして、カーボンモールド20を回転させながら第1シリカ粉201を供給し、スクレーパを使用して掻き取り、所定の厚さまで成形する。これにより、モールド内面に沿ったシリカ粉層を形成する。カーボンモールド20は一定速度で回転しているので、供給された第1シリカ粉201は遠心力によってモールド内面に張り付いたまま一定の位置に留まり、その形状が維持される。第1シリカ粉201は、非透明層となることから、天然シリカ粉であることが好ましい。
次に、図3(b)に示すように、第1シリカ粉の層が形成されたカーボンモールド20内に透明層13の原料となる第2シリカ粉202を供給し、シリカ粉層をさらに厚く形成する。第2シリカ粉202は、モールド内面の第1シリカ粉201の上に所定の厚さにて供給される。第2シリカ粉202は、合成シリカ粉であることが好ましいが、天然シリカ粉であってもよい。
次に、ステップS102に示すアーク熔融および減圧では、図4(a)に示すように、カーボンモールド20のキャビティ内にアーク電極30を設置し、カーボンモールド20を回転させながらカーボンモールド20の内側からアーク放電を行い、シリカ粉層全体を1720℃以上に加熱して熔融する。この際、全周にわたり薄いシリカガラスのシール層を形成する。そして、この加熱と同時にカーボンモールド20側から減圧し、カーボンモールド20に設けた通気孔21を通じてシリカ内部の気体を外層側に吸引し、加熱中のシリカ粉層内の空隙を脱気することにより、ルツボ内表面の気泡を除去する。これにより、実質的に気泡を含まない透明層13を形成する。
カーボンモールド20には図示しない冷却手段が設けられている。これにより、シリカガラスルツボ11の外表面となる部分(第3領域となる部分)のシリカをガラス化させないようにする。冷却手段による冷却温度は、シリカがガラス化せずに焼結体および粉体として残る温度である。
その後、加熱を続けながら脱気のための減圧を弱め又は停止し、気泡を残留させることにより、多数の微小な気泡を内包する非透明層15を形成する。
次いで、ステップS103に示す冷却では、アーク電極30への電力供給を停止して、熔融したシリカガラスを冷却してシリカガラスルツボ11の形状を構成する。冷却を行う際には、シリカガラスルツボ11の内表面となるシリカガラスに冷却ガスが吹き付けられる。冷却速度、冷却ガスの吹き付け方など、冷却条件によってシリカガラスルツボ11の内部残留応力の分布が決定される。
ここで、シリカガラスを冷却する際、シリカガラスルツボ11とカーボンモールド20との熱収縮の差によってシリカガラスルツボ11に圧力が加わる。例えば、シリカガラスの線膨張率は約10−7/Kであり、1000℃で全長の0.01%、すなわち直径1mのシリカガラスルツボ11では約0.1mm縮むことになる。一方、カーボンの線膨張率は約10−6/Kであり、内径1mであれば約1mm縮むことになる。
この冷却の際、シリカガラスルツボ11の11の外表面に設けられた第3領域のシリカの焼結体および粉体がクッションとしての役目を果たす。つまり、シリカガラスが全てガラス化していると、冷却の際のカーボンモールド20の熱収縮による圧力をシリカガラスルツボ11が直接受けることになるが、カーボンモールド20と当接するシリカガラスルツボ11の外表面に第3領域(シリカの焼結体および粉体)があることで、これがクッションとなってカーボンモールド20から圧力を緩和することができる。
シリカガラスの冷却を行う際、シリカガラスルツボ11の内表面となる部分の温度を例えば2次元サーモグラフによって測定しながら冷却ガスを吹き付けるようにしてもよい。この場合、回転しているシリカガラスルツボ11の内表面の温度を測定することで、所定領域の温度測定を繰り返すことで、内表面全体の温度を測定することができる。また、所定領域の温度を測定し、間をシミュレーションによって計算してもよい。また、シリカガラスの冷却に特に重要なコーナ部11cの温度を測定してもよい。さらに、シリカガラスルツボ11の内表面全体を測定範囲とする2次元サーモグラフによって1度に内表面全体の温度をしてもよい。シリカガラスルツボ11の内表面となる部分の温度を観察しながら冷却ガスの量、範囲、時間などを制御することで、第1領域(側壁部11aの厚さ方向において内表面ISから途中まで設けられた領域)および第2領域(側壁部11aの厚さ方向において第1領域よりも外側に設けられた領域)を有するシリカガラスルツボ11が構成される。
そして、ステップS104に示すリムカットおよびエッジ処理では、図4(b)に示すように、カーボンモールド20から取り出したシリカガラスルツボ11の側壁部11aの上端側の一部を切断してシリカガラスルツボ11の高さを調整する。その後、上端面TPの縁である内周縁および外周縁に面取り加工を施して面取り部Cを形成する。シリカガラスルツボ11の上端面TPには、シリカガラスルツボ11を搬送する際に用いられる真空吸着器が取り付けられる。したがって、上端面TPには真空吸着を行うため必要な平坦度が要求される。
リムカットにおいては、シリカガラスルツボ11の中心軸に対して直角にダイヤモンドカッターを当てるが、薄いダイヤモンドカッターが気泡の方向へ曲がりやすく、必ずしも直角にリムカットされない。また、リムカットの際に上端面TPに欠けが生じる場合もある。
シリカガラスルツボ11の重量は、32インチ型(直径約81.3cm)で約50kg〜60kg、36インチ型(直径約91.4cm)で約80kg〜90kg、40インチ型(直径約101.6cm)で約90kg〜110kgになる。さらに、シリカガラスルツボ11に多結晶シリコンを充填した場合、32インチ型で約300kg〜500kg、36インチ型で約400kg〜800kg、40インチ型で約500kg〜1000kgにもなる。したがって、リムカットにおいて形成される上端面TPには、このような重量のシリカガラスルツボ11を真空吸着するために必要な平坦度や平面度が必要になる。
シリカガラスルツボ11の製造方法では、シリカ粉の熔融の段階でエネルギーによるSiとOとの結合の切断と、冷却によるSiとOとの結合とが行われる。エネルギーによるSiとOとの結合の切れ方は、熱エネルギーによる切断、光エネルギーによる切断、アークによって生成されたラジカルによる切断が考えられる。さらに、シリカ粉の原材料によっても切れ方は変わる。例えば、天然シリカ紛であれば産出地、合成シリカ紛であれば合成方法によって変わる。
また、SiとOとの結合の仕方は、材料や冷却方法によって変わる。例えば、熔融したシリカ粉を冷却する際の方法によって6員環や8員環といったSi−Oの結合状態が変化することになる。また、第1シリカ粉と第2シリカ粉の材料の相違、内側と外側との冷却速度の相違など、各種の条件によってSiとOとの結合の状態が変わるため、製造されるシリカガラスルツボ11の内部残留応力の分布も変わることになる。
<シリカガラスルツボの測定装置>
図5は、シリカガラスルツボの測定装置を例示する模式図である。
本実施形態に係るルツボ測定装置100は、測定対象となるシリカガラスルツボ11のガラス構造や組成等をラマン分光法によって非破壊で測定する装置である。
ルツボ測定装置100は、シリカガラスルツボ11の全体を覆うように設けられた遮光部110と、遮光部110内に設けられた測定ヘッド120と、演算部130とを備える。
測定対象となるシリカガラスルツボ11は、シリコン単結晶の引き上げに用いられるもので、側壁部11a、底部11bおよびコーナ部11cを備える。遮光部110は、このようなシリコン単結晶の引き上げに用いられるシリカガラスルツボ11をそのまま覆う大きさに設けられる。
遮光部110としては、ラマン分光法で測定を行う際に不要な外光の進入を防止する材料で構成される。例えば、遮光部10の材料は、有色硬質ポリ塩化ビニル樹脂板に反射防止コートを施したもので、可視光から近赤外線領域の透過率が0%、反射率が1%以下のものが好適である。
反射防止コートとしては、例えば、カーボンブラック、CNT(カーボンナノチューブ)、チタンブラックが挙げられる。また、表面に粗面加工を施してもよい。
遮光部10の材料の具体的な一例としては、クロロプレン系ゴムスポンジをカーボンブラックで着色し、表面にポリエステル100%の難燃素材、裏面に黒のウレタン樹脂をラミネート加工したものが挙げられる。また、この材料に防塵加工を施したり、帯電防止機能を持たせたりしてもよい。
遮光部10の材料を厚くすることで、外部からの光の侵入を100%遮断することができる。なお、遮光部10の内部で発生するレーザ光源の散乱光などが遮光部10の内壁面で反射して戻ってこないようにする必要がある(迷光対策)。
測定ヘッド120は、発光部121と受光部122とを有する。発光部121は、シリカガラスルツボに向けてレーザ光を出射するレーザ光源を有する。レーザ光源はラマン分光法で測定を行うための励起光源であり、単色光のレーザを出射する。レーザ光の波長は、例えば532nm(緑色波長帯)である。発光部121から出射したレーザ光は直接シリカガラスルツボ11に照射してもよいし、ハーフミラー125で反射させて照射してもよい。
レーザ光源の波長は、ラマン光のラマンシフト量に相当するエネルギーよりも大きくなければならない(ストークス散乱を観察するため)。ストークス散乱は入射光よりもエネルギーが低く、波長が長い。ただし、エネルギー損失量は可視光線のエネルギーに比べ極わずかなので、可視光周辺領域ならば光源として十分である。
ラマンシフトは1cm−1に相当するエネルギーより大きな光源波長であり、おおよそ波長が6.7μmより短い光である。
なお、市販の分光計では連続発振のレーザ光が使用されているヘリウムネオンレーザ(波長:632.8nm)、アルゴンイオンレーザ(波長:457.9nm、488.0nm、514.5nmなど)、ヘリウムカドミウムレーザ(波長:325.0nm、441.6nm)などの気体レーザ、固体レーザ(波長:532nm)、半導体レーザ(波長785nm、830nm)などが使用される。
受光部122は、発光部121から出射されたレーザ光のシリカガラスルツボ11でのラマン散乱光を受ける。受光部122は、シリカガラスルツボ11で反射したレーザ光のうちレイリー散乱光を除去するフィルタと、このフィルタを通過したラマン散乱光を分光する分光器と、分光光を受けて電気信号に変換する検出器とを備える。
演算部130は、受光部122で受けたラマン散乱光からラマンスペクトルを得る演算を行う。演算部130は遮光部110内に設けられていても、遮光部110外に設けられていてもよい。
本実施形態に係るルツボ測定装置100では、測定対象となるシリカガラスルツボ11の全体を覆う遮光部110を備え、遮光部110の中に測定ヘッド120を設けてレーザ光の出射およびラマン散乱光の検出を行うことから、シリコン単結晶の引き上げを行うシリカガラスルツボ11のそのものを非破壊で測定することができる。
ルツボ測定装置100においてラマン散乱の発生源を特定するためには、未知の光源を排除し、発生源が特定された光源だけが存在する測定環境が必要である。本実施形態に係るルツボ測定装置100によれば、シリカガラスルツボ11のCADとラマン散乱が発生している部位と正確に対応させることができ、間違った判定を抑制することができる。
<ロボットアーム型測定システム>
図6は、本実施形態に係るルツボ測定装置を適用したロボットアーム型ルツボ測定システムを例示する模式図である。
図6に示すように、ロボットアーム型ルツボ測定システム200は、多関節型のロボットアーム210と、ロボットアーム210に取り付けられた測定ヘッド120と、測定対象のシリカガラスルツボ11を載置する架台220と、遮光部110と、コントローラ250と、演算部130と、データベース部140とを備える。
ロボットアーム210、測定ヘッド120および架台220は遮光部110によって覆われている。すなわち、遮光部110によって外乱光の影響を排除した環境下でロボットアーム210、測定ヘッド120および架台220が稼働することになる。
ロボットアーム210は、例えば6軸の腕構造を有しており、測定ヘッド120の位置、レーザ光の出射方向をシリカガラスルツボ11の形状に合わせて調整できるようになっている。
架台220は、横架台221と、台座224とを備える。横架台221および台座224は、例えば28インチ以上の大型のシリカガラスルツボ11であっても、そのまま搭載できるよう構成される。架台220の横架台221にはスライドレール223が設けられているとよい。スライドレール223には、スライドレール223に沿って水平移動可能な台座224が設けられる。測定対象のシリカガラスルツボ11は台座224の上に載置され、スライドレール223に沿って測定位置まで移動される。
コントローラ250は、ロボットアーム210の動作を制御する。コントローラ250は、測定対象のシリカガラスルツボ11の設計データ(CADデータ等)を利用して、ロボットアーム210の位置を制御し、測定ヘッド120による測定領域を制御する。ここで、CADデータとしては、ルツボの外径、内径、高さ(ルツボの底部11bから上端面TPまでの高さ、側壁部11aの高さ)、肉厚、曲率(底部11bからコーナ部11cの曲率)、3次元座標データ(ルツボ外表面、内表面、リム端面、有限要素法のメッシュ、ポリゴンデータなど)が挙げられる。設計データを利用することで、測定ヘッド120とシリカガラスルツボ11の測定箇所との位置関係を正確に設定することができる。
演算部130は、測定ヘッド120の受光部122で受けたラマン散乱光からラマンスペクトルを得る演算を行う。また、演算部130は、データベース部140のデータを参照し、測定対象となるシリカガラスルツボ11のラマンスペクトルに対応したシリコン単結晶化率に基づいて測定対象となるシリカガラスルツボ11の良否を判定する処理を行う。
データベース部140は、コントローラ250でロボットアーム210の動作を制御するためのシリカガラスルツボ11の設計データを保存する。また、データベース部140は、サンプル用のシリカガラスルツボ11のラマンスペクトルと、サンプル用のシリカガラスルツボ11によってシリコン単結晶を引き上げた際のシリコン単結晶化率との関係を示すデータを有する。このデータによって、演算部130は、測定対象のシリカガラスルツボ11のラマンスペクトルに対応したシリコン単結晶化率に基づく良否判定を行う。
また、データベース部140は、サンプル用のシリカガラスルツボにおけるシリカガラスの3員環、4員環およびSi−O−Si結合角のそれぞれのラマンシフトのデータを有していてもよい。これにより、演算部130は、測定対象となるシリカガラスルツボについて得たラマンスペクトルからシリカガラスの3員環、4員環およびSi−O−Si結合角のそれぞれのラマンシフトに基づきシリカガラスルツボ11の良否を判定することができる。
また、データベース部140は、サンプル用のシリカガラスルツボによってシリコン単結晶のn回目(nは自然数)の引き上げを行い、続けてn+1回目の引き上げを行った際のシリコン単結晶化率が予め設定された値を超える確率と、サンプル用のシリカガラスルツボのラマンスペクトルとの関係を示すデータを有していてもよい。これにより、演算部130は、データベース部140のデータを参照し、測定対象となるシリカガラスルツボ11のラマンスペクトルに基づいて測定対象となるシリカガラスルツボ11の良否を判定することができる。
<測定方法>
図7(a)および(b)は、ロボットアーム型ルツボ測定システムによるルツボ測定方法を例示する模式図である。
先ず、図7(a)に示すように、シリカガラスルツボ11を台座224の上に載置して測定ヘッド120を基準位置(ホームポジション)にセットする。コントローラ250は、測定対象となるシリカガラスルツボ11の設計データ(CADデータ等)をデータベース部140から参照してロボットアーム210を制御し、測定ヘッド120をホームポジションに移動させる。
次に、図7(b)に示すように、シリカガラスルツボ11の内表面ISの測定領域に測定ヘッド120が向くようにセットする。コントローラ250は、シリカガラスルツボ11の設計データに基づきロボットアーム210を制御して、測定ヘッド120の向きを測地領域に合わせる。
そして、測定ヘッド120の発光部121からシリカガラスルツボ11の内表面ISの測定領域に向けてレーザ光を出射する。測定ヘッド120の受光部122は、内表面ISで反射したレーザ光のうちラマン散乱光を検出し、演算部130によってラマンスペクトルを演算する。
コントローラ250は、1箇所のラマンスペクトルの測定が終了した後、次の測定領域に測定ヘッド120が向くようにロボットアーム210を制御する。コントローラ250は、例えば測定ヘッド120による測定領域を内表面ISの上端部から底部まで順に移動させる。これにより、内表面ISの縦1列分の測定が行われる。
そして、コントローラ250は、台座224を一定量回転させてシリカガラスルツボ11を所定角度回転させる。この状態で、先と同様に測定ヘッド120による測定領域を上端部から底部まで順に移動させて、次の1列分の測定を行う。この動作を繰り返すことで、シリカガラスルツボ11の内表面ISの全体のラマンスペクトルを得ることができる。
図8(a)および(b)は、測定領域を説明する模式図である。
一例として、図8(a)に示す1つの測定領域MRの大きさを100mm×100mmとした場合、側壁部11aの上端面TPから底部11bの中心までの長さが790mmであると、縦1列分は約8個の測定領域MRが割り当てられる。つまり、縦1列分は8枚の画像で測定することができる。
コントローラ250は、縦1列分のラマンスペクトルを測定した後、台座224を一定量回転させてシリカガラスルツボ11を所定角度回転させる。この状態で、先と同様に測定ヘッド120によって内表面ISの隣の縦1列分のラマンスペクトルを得る。この動作を繰り返すことで、図8(b)に示すように、シリカガラスルツボ11の内表面ISの全周分のラマンスペクトルを自動的に得ることができる。シリカガラスルツボ11の内表面ISの全周分のラマンスペクトルを得ることで、シリカガラスルツボ11内の局所的な螺何スペクトルの変化も把握することができる。
一例として、シリカガラスルツボ11の内表面ISの円周が2450mmの場合、円周方向に約25個の測定領域MRが割り当てられる。つまり、内表面ISの全周では、約200個の測定領域MRが割り当てられることから、約200枚の画像によって全周分のラマンスペクトルを測定することができる。
例えば、ラマンスペクトルの測定点1点は、1ミリ秒(ms)で測定可能である。1測定点の大きさを1mm2とすると、100mm×100mmの範囲を10秒で測定できる。したがって、シリカガラスルツボ11の1個の内表面ISにおけるラマンスペクトル(約200測定点)は、2000秒(約34分弱)で取得することができる。
上記のようなロボットアーム型ルツボ測定システム200による歪の測定においては、シリカガラスルツボ11のCADデータ等を利用してロボットアーム210および測定ヘッド120の位置を制御することで、ロボットアーム210および測定ヘッド120とシリカガラスルツボ11との干渉を避けつつ、測定ヘッド120と測定領域との位置関係を正確かつ迅速に設定することができる。
また、このロボットアーム型ルツボ測定システム200によれば、測定対象となるシリカガラスルツボ11の全体を遮光部110によって覆った状態で測定できるため、シリカガラスルツボ11の全体を非破壊で測定することができる。また、実際にシリコン単結晶の引き上げを行うシリカガラスルツボ11そのもののラマンスペクトルを測定することも可能である。しかも、遮光部110によって外乱光の影響が抑制され、シリカガラスルツボ11の内表面ISの全体のラマンスペクトルを高精度かつ自動的に測定することが可能となる。
<ルツボ評価方法>
次に、本実施形態に係るルツボ評価方法について説明する。本実施形態に係るルツボ評価方法は、ルツボ測定装置100やロボットアーム型ルツボ測定システム200によって行われる。上記のように、本実施形態に係るルツボ測定装置100およびロボットアーム型ルツボ測定システム200においては、シリカガラスルツボ11の全体のラマンスペクトルを高精度かつ自動的に測定することができる。これを用いることで、様々な条件で製造されたシリカガラスルツボのラマンスペクトルや、シリコン単結晶の引き上げ前後のシリカガラスルツボ11のラマンスペクトルの情報をデータベース部140に蓄積することができる。この蓄積されたラマンスペクトルの情報を用いることで、シリカガラスルツボの良否を判定することができる。
本願発明者らは、様々な条件によってシリカガラスルツボのラマンスペクトルを分析し、シリカガラスルツボの良否判定の基準になる新たな知見を得た。
(1.鉱化剤によって結晶化されたシリカガラスルツボ)
シリカガラスルツボを用いたシリコン単結晶を引き上げ中に、内表面の透明層にブラウンリングと呼ばれる酸素欠乏型のリンク状クリストバライト結晶が形成される。クリストバライトは、シリカガラスルツボの内表面に付いた傷に起因して形成されることもある。このブラウンリングが剥離してシリコン融液中に混入すると、シリコン単結晶化率を低下させる原因となる。
そこで、シリカガラスルツボの内表面にバリウムやアルミニウムなどのシリカの結晶化を促進する成分(鉱化剤)を塗布し、シリコン単結晶引き上げ時の高温によって、シリカガラスルツボの内表面に均一なシリカ結晶層を形成し、ブラウンリングの発生を防ぐとともに、シリカガラスルツボの機械的強度を高めることが行われている。
本願発明者らは、鉱化剤としてバリウムを塗布したシリカガラスルツボについて、シリコン単結晶引き上げ後(使用後)の内表面のラマンスペクトルを測定した。使用後のシリカガラスルツボには、内表面側に鉱化剤によってシリカガラスが結晶化された結晶層と、この結晶層と接する非結晶層とが形成されている。
図9〜図11は、鉱化剤としてバリウムが塗布されたシリカガラスルツボの使用後のラマンスペクトルの例を示す。
図9〜図11には、それぞれ異なるシリカガラスルツボのサンプルについてのラマンスペクトルの測定結果であり、各シリカガラスルツボについて結晶層の表面のラマンスペクトルである第1ラマンスペクトルRS1、結晶層と非結晶層との界面における結晶層側のラマンスペクトルである第2ラマンスペクトルRS2、および結晶層と非結晶層との界面における非結晶層側のラマンスペクトルである第3ラマンスペクトルRS3が示される。
これらのラマンスペクトルにおいて、クリストバライトのラマンシフトのピークをPK_CBで示し、バリウムのラマンシフトのピークをPK_Baで示す。
各サンプルのシリカガラスルツボについて、使用後は、鉱化剤であるバリウムに起因するラマンシフトのピークPK_Baは、第1ラマンスペクトルRS1には現れず、第2ラマンスペクトルRS2に現れていることが分かる。これは、シリカガラスルツボの内表面に塗布したバリウムが、結晶層の表面から非結晶層との界面の結晶層側へ移動したためと考えられる。
また、クリストバライトに起因するラマンシフトのピークPK_CBは、全てのサンプルにおいて第1ラマンスペクトルRS1および第2ラマンスペクトルRS2に現れている。一方、第3ラマンスペクトルRS3については、ピークPK_CBが現れるサンプルと現れないサンプルとがある。第3ラマンスペクトルRS3にクリストバライトに起因するラマンシフトのピークPK_CBが現れるサンプルでは、現れないサンプルに比べてクリストバライトの剥がれが少ない。これは、内表面から深い位置までクリストバライトの密着性(反応性)が良いことを示している。
この結果から、第1ラマンスペクトルRS1、第2ラマンスペクトルRS2および第3ラマンスペクトルRS3のいずれにおいてもクリストバライトに起因するラマンシフトのピークPK_CBが存在するか否かによってシリカガラスルツボの良否を判定することができる。具体的には、第3ラマンスペクトルRS3にピークPK_CBが存在するシリカガラスルツボは、存在しないシリカガラスルツボに比べて良品であると判定することができる。
また、バリウムのラマンシフトのピークPK_Baが第2ラマンスペクトルRS2に現れているか否かによって良否判定を行うこともできる。すなわち、バリウムのラマンシフトのピークPK_Baが第2ラマンスペクトルRS2存在する場合には、存在しない場合に比べて良品であると判定することができる。
また、第1ラマンスペクトルRS1および第2ラマンスペクトルRS2におけるバリウムのラマンシフトのピークPK_Baの有無に応じて良否判定を行うこともできる。すなわち、第1ラマンスペクトルRS1にはピークPK_Ba存在せず、第2ラマンスペクトルRS2にはピークPK_Baが存在する場合にシリカガラスルツボを良品であると判定することができる。
なお、ブラウンリングの剥離が発生したシリカガラスルツボを比較例として、同様なラマンシフトを測定したところ、比較例のシリカガラスルツボでは第2ラマンスペクトルRS2にバリウムのラマンシフトのピークPK_Baは存在しなかった。
(2.使用前後でのラマンシフトの遷移)
次に、本願発明者らは、シリカガラスルツボについて、シリコン単結晶引き上げ前後(使用前後)のラマンスペクトルを測定した。
図12は、シリカガラスルツボのラマンスペクトルの一例を示す図である。
シリカガラスルツボの内表面のラマンスペクトルを測定すると、ガラス構造に応じたラマンシフトにピークが検出される。図12に示すピークPK_D2は、ガラスの環状構造における3員環(D2)に対応したピークであり、600cm−1付近で検出される。また、ピークPK_D1は、ガラスの環状構造における4員環(D1)に対応したピークであり、490cm−1付近で検出される。また、ピークPK_SiOSiは、Si−O−Siの結合角に起因したピークであり、800cm−1付近で検出される。
このようなシリカガラスルツボのラマンスペクトルを各サンプルについて使用前後で測定した。その結果、使用前後でラマンシフトのピーク位置が遷移することが分かった。
図13は、使用前後でのラマンシフトの遷移を示す図である。
図13(a)には、ブラウンリングの外側(ガラス部分)で測定したラマンスペクトルが示され、図13(b)には、ブラウンリングの中心で測定したラマンスペクトルが示される。各図とも、横軸はD1のラマンシフト(ピークPK_D1)を示し、縦軸はD2のラマンシフト(ピークPK_D2)を示している。ここでは、第1サンプルおよび第2サンプルの2つのシリカガラスルツボについての測定結果が示される。
第1サンプルおよび第2サンプルについては、使用前のラマンシフトと、シリコン単結晶の引き上げを1回行った後のラマンシフトおよび2回行った後のラマンシフトとを測定した。
図13(a)に示す矢印R1は、第1サンプルの使用前から1回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印R2は、第1サンプルの使用前から2回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印R3は、第2サンプルの使用前から1回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印R4は、第2サンプルの使用前から2回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示す。
図13(b)に示す矢印S1は、第1サンプルの使用前から1回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印S2は、第1サンプルの使用前から2回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印S3は、第2サンプルの使用前から1回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印S4は、第2サンプルの使用前から2回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示す。
図13(a)および(b)に示すように、シリカガラスルツボのD1およびD2のラマンシフトは使用前後で遷移することが分かる。また、同じサンプルであっても使用後のブラウンリングの外側と中心とではラマンシフトの遷移の量や方向が異なる。
図14は、使用前後でのラマンシフトの遷移を示す図である。
図14において、互いに直交する3軸のそれぞれは、D1のラマンシフト(ピークPK_D1)、D2のラマンシフト(ピークPK_D2)、Si−O−Siの結合角に起因するラマンシフト(ピークPK_SiOSi)を示している。ここでは、上記と同様に、第1サンプルおよび第2サンプルの2つのシリカガラスルツボについての測定結果が示される。また、使用後のラマンシフトの測定位置は、ブラウンリングの外側(ガラス部分)である。
図14に示す矢印T1は、第1サンプルの使用前から1回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印T2は、第1サンプルの使用前から2回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印T3は、第2サンプルの使用前から1回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示し、矢印T4は、第2サンプルの使用前から2回引き上げ後のラマンシフトの遷移の方向を示す。
図14に示すように、シリカガラスルツボのD1およびD2のラマンシフトに加え、Si−O−Siの結合角に起因するラマンシフトも使用前後で遷移することが分かる。
測定を行ったサンプルのうち、第1サンプルで引き上げたシリコン単結晶の結晶化率が最も高かった。すなわち、第1サンプルのシリカガラスルツボは、第2サンプルのシリカガラスルツボに比べて評価が高い。
これらの結果から、シリカガラスルツボの使用前のラマンスペクトルから使用後のラマンスペクトルへの遷移に基づきシリカガラスルツボの評価を行うことができる。
その評価の一つとしては、D1のピークPK_D1の遷移およびD2のピークPK_D2の遷移に基づく評価である。この評価については、ブラウンリングの外側で測定したラマンシフトを用いた評価と、ブラウンリングの中心で測定したラマンシフトを用いた評価とを行うことができる。
具体的には、ブラウンリングの外側でラマンスペクトルを測定した場合、使用前のラマンスペクトルでのD1のラマンシフト(ピークPK_D1)より、使用後のD1のラマンシフト(ピークPK_D1)が大きくなっている場合に、大きくなっていない場合に比べて高い評価を行うことができる。
また、ブラウンリングの中心でラマンスペクトルを測定した場合、使用前のラマンスペクトルでのD1のラマンシフト(ピークPK_D1)より、使用後のD1のラマンシフト(ピークPK_D1)が大きくなっている場合に、大きくなっていない場合に比べて高い評価を行うことができる。
ラマンスペクトルの測定値で評価する場合には、ブラウンリングの外側および中心において、使用前のD1のピークPK_D1が487cm−1以下であり、使用後のD1のピークPK_D1が487cm−1よりも大きくなっていることで、高い評価を行うことができる。
また、他の評価の一つとしては、D1のラマンシフト(ピークPK_D1)の遷移およびD2のラマンシフト(ピークPK_D2)の遷移に加え、Si−O−Siの結合角に起因するラマンシフト(ピークPK_SiOSi)の遷移に基づく評価である。
具体的には、ブラウンリングの外側でラマンスペクトルを測定した場合、使用前のラマンスペクトルでのSi−O−Siの結合角に起因するラマンシフト(ピークPK_SiOSi)より、1回引き上げ使用後のピークPK_SiOSiが大きくなっている場合に、大きくなっていない場合に比べて高い評価を行うことができる。
また、サンプル用のシリカガラスルツボによってシリコン単結晶のn回目(nは自然数)の引き上げを行い、続けてn+1回目の引き上げを行った際のシリコン単結晶化率が予め設定された値を超える確率(使用可能率)と、サンプル用のシリカガラスルツボのラマンスペクトルとの関係を示すデータを用いて判定を行ってもよい。すなわち、測定対象となるシリカガラスルツボのラマンスペクトルを測定し、この測定したラマンスペクトルと、予め求めたラマンスペクトルと使用可能率との関係に基づき測定対象のシリカガラスルツボの使用可能率を推定して良否を判定することができる。
ここで、使用可能化率は、以下の式によって求められる。
使用可能化率(%)=(単結晶化率が基準値以上であった引き上げ本数)÷(総引き上げ本数)
基準値は、例えば90%である。
図15は、ルツボ連続使用回数と、使用可能化率との関係を示す図である。
この図より、第1サンプルのシリカガラスルツボは、3回の連続使用でも使用可能化率が90%を超えている。一方、第2サンプルのシリカガラスルツボは、2回の連続使用でも使用可能化率が90%を下回っている。
また、本願発明者らは、シリカガラスルツボについて、シリコン単結晶の引き上げ回数によるラマンスペクトルを測定した。
図16(a)〜(d)は、第1サンプルのシリカガラスルツボのラマンシフト(D1、D2)を測定した結果を示す図である。(a)は使用前、(b)は1回使用後、(c)は2回使用後、(d)は3回使用後である。第1サンプルはA〜Fの6つである。
図17(a)〜(d)は、第2サンプルのシリカガラスルツボのラマンシフト(D1、D2)を測定した結果を示す図である。(a)は使用前、(b)は1回使用後、(c)は2回使用後、(d)は3回使用後である。第2サンプルはG〜Lの6つである。
この結果、評価の高い第1サンプルのシリカガラスルツボと、評価の低い第2サンプルのシリカガラスルツボとで、引き上げ回数によるラマンシフトの変化の相違があることが分かった。
(1)評価の高いシリカガラスルツボは、シリコン単結晶の引き上げ前(使用前)の状態において、D1のラマンシフト(ピークPK_D1)と、D2のラマンシフト(ピークPK_D2)とが所定の範囲内(以下、「D1−D2評価基準範囲」と言う。)に入っている。
(2)評価の高いシリカガラスルツボは、シリコン単結晶の引き上げ前(使用前)と1回引き上げ後の両方において、D1−D2評価基準範囲に入っている。
(3)評価の高いシリカガラスルツボは、シリコン単結晶の引き上げ回数が1回ではD1−D2評価基準範囲に入っているが、2回目以降ではD1−D2評価基準範囲外となる。
(4)評価の低いシリカガラスルツボは、シリコン単結晶の引き上げ前(使用前)、使用後(使用回数を問わず)のいずれにおいても、D1−D2評価基準範囲外となっている。
図16および図17に示す四角枠は、D1−D2評価基準範囲を示している。
D1−D2評価基準範囲は以下のようになる。
D1のラマンシフト(ピークPK_D1)の範囲は、486cm−1以上、491cm−1以下である。
D2のラマンシフト(ピークPK_D2)の範囲は、599cm−1以上、601cm−1以下である。
このような結果を総合的に勘案すると、シリカガラスルツボのシリコン単結晶引き上げ前(使用前)の状態においてラマンシフトを測定し、測定結果がD1−D2評価基準範囲に入っていれば高い評価のシリカガラスルツボであると判定することができる。
(3.ブラウンリング内外でのラマンシフトによる評価)
図18は、ブラウンリングについて例示する模式図である。
シリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行うと、シリカガラスルツボの内表面の透明層にブラウンリングBRが発生する。ブラウンリングBRはシリカガラスルツボの内表面に円形状に発生して、徐々に成長していく。大きくなると、やがて隣り合うブラウンリングBRどうしが結合して、大きなクリストバライト領域を構成する。
本願発明者らは、このようなブラウンリングBRの内外でのラマンシフトを測定し、シリカガラスルツボの良否判定の基準を見いだした。
図19〜図23は、シリカガラスルツボの各サンプルでのラマンスペクトルの例を示す図である。
図19には、サンプルAのシリカガラスルツボにおけるラマンスペクトルが示される。サンプルAのシリカガラスルツボでは、シリコン単結晶の引き上げを1回行っている。
ラマンスペクトルの測定点は、測定点p1〜p5である。測定点p1はブラウンリングBRの外側(ガラス部分)、測定点p2はブラウンリングBRの縁、測定点p3はブラウンリングBRの内部(光沢有りの部分)、測定点p4はブラウンリングBRの内部(光沢無しの部分)、測定点p5はブラウンリングBRの中心位置である。
サンプルAのシリカガラスルツボでは、測定点p1およびp2において石英ガラスが検出され、他の測定点p3、p4およびp5では単結晶シリコンおよびクリストバライトが検出された。
図20には、サンプルBのシリカガラスルツボにおけるラマンスペクトルが示される。サンプルBのシリカガラスルツボでは、シリコン単結晶の引き上げを1回行っている。
ラマンスペクトルの測定点は、測定点p1〜p6である。測定点p1はブラウンリングBRの外側(ガラス部分)、測定点p2はブラウンリングBRの縁、測定点p3はブラウンリングBRの内部(光沢無しの部分)、測定点p4はブラウンリングBRの内部(光沢有り、シワ有りの部分)、測定点p5はブラウンリングBRの内側(光沢有り、シワ無しの部分)、測定点p6はブラウンリングBRの中心位置である。
サンプルBのシリカガラスルツボでは、全ての測定点p1〜p6で単結晶シリコンが検出された。また、測定点p3のみクリストバライトが検出された。測定点p4およびp5の結果から、ブラウンリングBRの内側の光沢ありの部分において、シワの有り無しによる違いは見られなかった。
図21には、サンプルCのシリカガラスルツボにおけるラマンスペクトルが示される。サンプルCのシリカガラスルツボでは、シリコン単結晶の引き上げを2回行っている。
ラマンスペクトルの測定点は、測定点p1〜p8である。測定点p1はブラウンリングBRの外側(ガラス部分)、測定点p2はブラウンリングBRの縁、測定点p3はブラウンリングBRの内部(光沢有りの部分)、測定点p4はブラウンリングBRの内部(光沢無しの部分)、測定点p5はブラウンリングBRの内側(光沢有りの部分)、測定点p6はブラウンリングBRの中心付近(シワ有りの部分)、測定点p7はブラウンリングBRの中心位置、測定点p8は剥離した部分の内側である。
サンプルCのシリカガラスルツボでは、測定点p3のみクリストバライトが検出された。他の測定点p1、p2、p4、p5、p6およびp7では単結晶シリコンと石英ガラスが検出された。測定点p8では石英ガラスのみ検出された。
図22には、サンプルDのシリカガラスルツボにおけるラマンスペクトルが示される。サンプルDのシリカガラスルツボでは、シリコン単結晶の引き上げを1回行っている。
ラマンスペクトルの測定点は、測定点p1〜p5である。測定点p1はブラウンリングBRの外側(ガラス部分)、測定点p2はブラウンリングBRの縁、測定点p3はブラウンリングBRの内部(光沢無しの部分)、測定点p4はブラウンリングBRの内部(光沢有りの部分)、測定点p5はブラウンリングBRの中心位置である。
サンプルDのシリカガラスルツボでは、全ての測定点p1〜p5で単結晶シリコンが検出された。また、測定点p3のみクリストバライトが検出された。
図23には、サンプルEのシリカガラスルツボにおけるラマンスペクトルが示される。サンプルEのシリカガラスルツボでは、シリコン単結晶の引き上げを2回行っている。
ラマンスペクトルの測定点は、測定点p1〜p5である。サンプルEのシリカガラスルツボでは、内表面全体にシワがあり、ブラウンリングBRは見受けられない。測定点p1は光沢部分、測定点p2はシワ部分(その1)、測定点p3はシワ部分(その2)、測定点p4は剥離した部分の内側(その1)、測定点p5は剥離した部分の内側(その2)である。
サンプルEのシリカガラスルツボでは、全ての測定点p1〜p5で単結晶シリコンが検出された。また、測定点p1〜p3ではクリストバライトは検出されなかった。一方、測定点p4ではクリストバライトが検出された。
上記サンプルA〜Eのうち、ブラウンリングBRの光沢無しの部分にのみクリストバライトが検出されたものは良品と判定される。また、いずれの測定点にもクリストバライトが検出されなかったものは、さらに良品であると判定される。すなわち、シリコン単結晶の引き上げを行った後のクリストバライトの生成頻度が少ないものほど良品であると判定される。
<内表面のブラウンリングが連結したルツボ>
図24は、シリカガラスルツボの内表面の全体がブラウンリングで覆われるまでの時間を示す図である。
シリコン単結晶の引き上げにおいて、シリカガラスルツボの内表面にブラウンリングが点在していると、引き上げ中にブラウンリングが剥離してシリコン融液中に混入する恐れがある。また、シリカガラスルツボの内表面にブラウンリングが点在していると内表面に凹凸が存在し、シリコン単結晶引き上げ時に不均一核生成(heterogeneous nucleation)が生じやすいと考えられる。不均一核生成が生じると、引き上げたシリコン単結晶の単結晶化率の低下を招く。ブラウンリングは引き上げ中に成長していくことから、引き上げ開始から早期にブラウンリングがシリカガラスルツボの内表面において高さ方向の少なくとも一部において、内表面の周方向にわたり連結し一体化するように成長すれば、周方向にクリストバライトが連続する状態となり、剥離の可能性を大幅に低減でき、シリコンの単結晶率を高めることができる。
ここで、シリコン単結晶の引き上げを行う際、シリカガラスルツボに多結晶シリコンを投入して熔融させた場合、引き上げ前の固液界面(初期の固液界面)よりも上部のルツボ内壁面には、クリストバライトは生成されない。すなわち、シリコン単結晶の引き上げを行うと固液界面は低下するため、引き上げ中において初期の固液界面よりも上部にはクリストバライトは生成されない。
クリストバライトは多結晶のシリカであり、シリカガラスは結晶ではない。シリコン融液との接触で「シリカガラス」から相転移して、多結晶クリストバライトになる。ルツボ全面にクリストバライトが形成できることによって、ガラスから多結晶になりルツボ内表面がCZ環境下で強化される。一度、クリストバライトが形成されると、シリカガラスへの不可逆的相転移は発生しない。
上記のように、シリカガラスルツボの内容面の周方向にクリストバライトが連続する状態になることでシリコン単結晶率を高めることができるが、n回目の使用後にルツボ内表面にブラウンリング(クリストバライト)が発生し、n+1回目の使用後にブラウンリングが連結して一体化するシリカガラスルツボを、使用前の状態で見極めることは難しい。
また、シリコン単結晶の引き上げの際、引き上げ温度の上昇や雰囲気圧の低下などによっては、Si(液体)+O→SiO(気体)の反応によってSiOガスが発生し、シリコン融液がシリカガラスルツボの内表面から弾かれることで湯面振動を発生させるおそれがある。湯面振動が発生すると、種結晶をフラットな湯面に接合できず、また、引き上げ中にシリコンが多結晶化するなどの問題が生じる。
このような湯面振動の発生は、シリカガラスルツボの内表面の状態と関係していることが知られている。上記のように、ブラウンリングが内表面で連結して一体化した(内表面の周方向にわたりクリストバライトが連続する状態)シリカガラスルツボでは、湯面振動を抑制することができる。すなわち、クリストバライトは結晶質であるため、シリコン融液と接触した際の内表面の溶解速度が、クリストバライトが設けられていない場合に比べて遅い。したがって、内表面の周方向にわたりクリストバライトが連続しているとシリコン融液と接触した内表面からのSiOガスの発生が抑制される。これにより、シリコン融液の湯面振動が抑制される。
図24では、横軸にシリコンとの反応初期で発生するブラウンリングの数(シリコン単結晶引き上げ後のシリカガラスルツボの内表面全体にあるブラウンリングの数)、縦軸にシリカガラスルツボの内表面の全体をブラウンリングが覆うまでの時間が示される。ここで、反応初期とは、シリカガラスルツボに投入したポリシリコンを1423℃で加熱し、約30分経過した段階(ポリシリコンが熔融して内表面と反応し始める段階)のことを言う。図24に示すグラフG1はディップ試験によって測定した値から推定したグラフであり、グラフG2は光加熱炉で熔融した場合の測定値から推定したグラフである。
ここで、図25(a)に示すように、ディップ試験では、シリカガラスのサンプル板310を用意し、このサンプル板310を溶解したシリコン320の中へ所定時間浸けておく。これにより、シリコン320とシリカガラスとを反応させて、この反応で発生するブラウンリングの数を測定する。長さの異なるサンプル板310を用意しておくことで、シリカガラスとシリコンとの接触面積を調整することができる。
図25(b)に示すように、光加熱炉の試験では、シリカガラスのサンプル板310の下に敷いたシリコン板330をランプ加熱で溶融して所定時間反応させる。シリカガラスのサンプル板310は、例えば縦10mm×横10mm×厚さ2〜3mmである。また、シリカガラスルツボから切り出したサンプル板310の切断面は鏡面研磨されている。加熱条件の一例として、昇温速度は50℃/分(1500℃まで30分)、保持時間は2時間(1500℃)、降温速度は50℃/分、雰囲気はAr(1気圧)である。光加熱炉の試験では、サンプル板310の表面(シリカガラスルツボの内表面)とシリコン板330とを接触させて加熱し、サンプル板310の裏面(鏡面研磨した面)側からカメラ340で状態を観察する。これにより、シリカガラスと熔融したシリコンとの界面にブラウンリングを発生させ、この発生したブラウンリングの数を測定する。
例えば、口径32インチのシリカガラスルツボを用いて1mのシリコン単結晶を1回引き上げるのに必要な時間は約150時間(原料溶解に約1日、直胴部の引き上げ(速度:0.5mm〜1mm/1分)で約2日、テールと回収で約3日)である。そこで、シリコン単結晶の引き上げを1回行った段階で、シリカガラスルツボの内表面の全体がブラウンリングで覆われるようにするためには、反応初期でのブラウンリングの数が約1700個以上あればよいことが分かる(図24矢印参照)。
このように、反応初期にブラウンリングの数が一定数以上となるシリカガラスルツボを用いることで、シリコン単結晶を1回引き上げた後にはシリカガラスルツボの内表面の全体(シリカガラスルツボとシリコン融液とが接触している領域界面の全て)をブラウンリングが覆う状態になる。したがって、2回目以降の引き上げの際にはブラウンリングの剥離が抑制され、結晶化率の高いシリコン単結晶を製造することができる。
<引き上げ装置>
図26は、本実施形態に係るシリコン単結晶の製造装置である引き上げ装置の全体構成を示す模式図である。
引き上げ装置500の外観を形成するチャンバ510の内部には、シリコン融液23を収容するルツボCRが設けられ、このルツボCRの外側を覆うようにカーボンサセプタ520が設けられる。引き上げ装置500で使用されるルツボCRは、本実施形態に係るシリカガラスルツボ11である。カーボンサセプタ520は鉛直方向に平行な支持軸530の上端に固定される。ルツボCRは、支持軸530によって所定の方向に回転するとともに、シリコン融液の液面を炉内のヒータ540に対して一定の高さに制御できるように、上下方向に移動可能になっている。
ルツボCRおよびカーボンサセプタ520の外周面はヒータ540により囲まれている。ヒータ540は、さらに保温筒550により包囲される。シリコン単結晶の育成における原料溶解の過程では、ヒータ540の加熱によりルツボCR内に充填された高純度の多結晶シリコン原料が加熱、溶解されてシリコン融液23になる。
引き上げ装置500のチャンバ510の上端部には引上げ手段560が設けられる。この引上げ手段560にはルツボCRの回転中心に向かって垂下されたワイヤケーブル561が取り付けられ、ワイヤケーブル561を巻き取りまたは繰り出す引上げ用モータ(図示せず)が配備される。ワイヤケーブル561の下端には種結晶24が取り付けられる。
育成中のシリコン単結晶25を囲繞するように、シリコン単結晶25と保温筒550との間に円筒状の熱遮蔽部材570が設けられる。熱遮蔽部材570は、コーン部571と、フランジ部572とを有する。このフランジ部572を保温筒550に取り付けることにより熱遮蔽部材570が所定位置(ホットゾーン)に配置される。育成されるシリコン単結晶25のボディ部の直径は、表面切削後において例えば450mmにできるように、引上げ時には削り代を含めて最大で約465mm程度である。この際、本発明のシリカガラスルツボを使用した場合は、引き上げ時のシリカガラスルツボの変形が防止できるため、カーボンサセプタ520、熱遮蔽部材570の寸法と取り付けのクリアランスが広くなる。
引き上げ装置500では、ルツボCRの周囲をカーボンサセプタ520で覆った状態でヒータ540によってルツボCRの加熱が行われる。近年ではルツボCRの直径が32インチ以上と大きくなっており、多結晶シリコン原料を溶解するために約1500℃から1600℃程度に加熱される。この際、ルツボCR加熱によって膨張するが、周囲をカーボンサセプタ520で覆われているため外側には膨張できず、開口している上側へと膨張する。
ルツボCRとして本実施形態に係るシリカガラスルツボ11では、第1領域および第2領域ともに側壁部11aの上下方向に実質的に一様な歪の領域が連続することから、加熱時にルツボCRの膨張があっても亀裂、割れ、剥離、内側への倒れ等を起こすことなく安定した形状を維持することができる。
ここで、シリコン単結晶引き上げ中のルツボCRと、ホットゾーンであるコーン部571との隙間Dは、なるべく狭くする必要がある。すなわち、ヒータ540からの熱を効率よくルツボCRの中心部まで到達させ、固液界面を約1420℃に加熱するために、例えば32インチ以上の大口径のルツボCRでは隙間Dを、例えば30mm〜40mm程度と狭くする必要がある。また、シリコン単結晶引き上げが進むと、ルツボCR中のシリコン融液が減少する。そこでシリコン融液の液面を炉内のヒータ540に対して一定の高さにするためにルツボCRが上昇すると、コーン部571とルツボCRとの隙間Dは狭くなっていく。このような状況で、もしルツボCRの内側への倒れが発生すると、ルツボCRが熱遮蔽部材570(コーン部571)に接触することになる。
シリコン単結晶25の引き上げ中において、ルツボCRは回転していることから、ルツボCRの内側への倒れが発生して直胴部が回転しながら熱遮蔽部材570に接触すると、熱遮蔽部材570やルツボCRの破損に繋がる。熱遮蔽部材570が破損すると、シリコン単結晶25の引き上げを中止せざるを得ない、また、ルツボCRが破損した場合にはシリコン融液の漏れに繋がり、引き上げ装置が破損し、高額かつ長期間の修理が必要になる。
また、シリコン融液の液面とコーン部571との高さHの制御は、シリコン単結晶25の固液界面付近の温度勾配を制御する上で非常に重要であり、0.1mm単位で制御する必要がある(非特許文献1参照)。
ルツボCRの変形が発生すると、ルツボCRの容積の変化によって液面の位置が変わり、高さHが変化してしまい、結晶品質(結晶の直径、結晶中の欠陥等)の低下を招き、結晶の歩留まりが悪くなる。
また、冷却ガスは、図中矢印Fに示すように、シリコン単結晶25とコーン部571との間から高さHに示す部分を通り、隙間Dを介して外側へ流れていく。したがって、隙間Dや高さHが変わると、冷却ガスの流速が変わってしまい、設定された温度勾配が変化してしまうことによって結晶品質の低下を招くことになる。
このルツボCRの倒れや変形が抑制されることで、ルツボCRと熱遮蔽部材570との接触が回避され、また、設定された温度勾配によって引き上げを行うことができ、結晶品質の優れたシリコン単結晶25を製造することができる。よって、シリコン単結晶の製造歩留まりの向上を図ることができる。
<シリコン単結晶の製造方法>
図27(a)〜(c)は、本実施形態に係るシリカガラスルツボを用いたシリコン単結晶の製造方法を説明する模式図である。
図27(a)に示すように、シリコン単結晶の引き上げ時には、シリカガラスルツボ11内に多結晶シリコンを充填し、この状態でシリカガラスルツボ11の周囲に配置されたヒータで多結晶シリコンを加熱して熔融させる。これにより、シリコン融液23を得る。ここで、シリコンの融点は1410℃のため、シリカガラスルツボ11内のシリコン融液23の温度は1410℃以上となる。この際、本発明のシリカガラスルツボを用いることにより、充填中のルツボの破損を防止することができる。
シリコン融液23の体積は、多結晶シリコンの質量によって定まる。したがって、シリコン融液23の液面23aの初期の高さ位置H0は、多結晶シリコンの質量とシリカガラスルツボ11の内表面の三次元形状によって決まる。すなわち、シリカガラスルツボ11の内表面の三次元形状が定まると、シリカガラスルツボ11の任意の高さ位置までの容積が特定され、これにより、シリコン融液23の液面23aの初期の高さ位置H0が決定される。
シリコン融液23の液面23aの初期の高さ位置H0が決定された後は、種結晶24の先端を高さ位置H0まで下降させてシリコン融液23に接触させる。そして、ワイヤケーブル561を回転させながらゆっくりと引き上げることによって、シリコン単結晶25を成長させる。この際、シリカガラスルツボ11は、ワイヤケーブル561の回転とは反対に回転される。
図27(b)に示すように、シリコン単結晶25の直胴部(直径が一定の部位)を引き上げているときに、液面23aがシリカガラスルツボ11の側壁部11aに位置している場合には、一定の速度で引き上げると液面23aの降下速度Vはほぼ一定になるので、引き上げの制御は容易である。
しかし、図27(c)に示すように、液面23aがシリカガラスルツボ11のコーナ部11cに到達すると、液面23aの下降に伴ってその面積が急激に縮小するので、液面23aの降下速度Vが急激に大きくなる。降下速度Vは、コーナ部11cの内表面形状に依存している。
シリカガラスルツボ11の内表面の三次元形状を正確に測定しておくことで、コーナ部11cの内表面形状が分かり、したがって、降下速度Vがどのように変化するのかを正確に予測することができる。そして、この予測に基づいて、シリコン単結晶25の引き上げ速度等の引き上げ条件が決定される。この際、本実施形態のシリカガラスルツボ11を使用することにより、予測した形状から変形することが少ないので、降下速度Vの予測精度がより向上する。これにより、コーナ部11cにおいても有転移化を防止し、かつ引き上げを自動化することが可能になる。
本実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法では、シリコン単結晶25の引き上げ時にシリカガラスルツボ11の加熱による変形(側壁部11aの倒れ、歪み、底部11bの盛り上がりなど)が抑制されるため、シリカガラスルツボ11の内表面の三次元形状から求めた液面23aの降下速度Vのずれが抑制され、結晶化率の高いシリコン単結晶25を歩留まり良く製造することが可能になる。なお、アルゴン雰囲気、減圧下(約660Pa〜13kPa程度)にてシリコン単結晶の引き上げは行なわれている。
本実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法として、一つのシリカガラスルツボ11により複数のシリコン単結晶25の引き上げを行ってもよい(マルチプリング法、またはリチャージ法)。
先ず、1本目のシリコン単結晶25を育成するに際し、シリカガラスルツボ11内に初期チャージとして充填したシリコン原料(多結晶シリコン)を溶融させ、シリコン融液23を形成する。このとき、シリカガラスルツボ11内のシリコン融液23は、単結晶の引き上げを開始するまでの間、長時間に亘りヒータで加熱され、液面23aの位置が一定の高さH0に維持される。その後、シリコン融液23に種結晶24を浸漬して上昇させることにより、1本目のシリコン単結晶25を引き上げる。
続いて、2本目のシリコン単結晶を育成するに際し、シリカガラスルツボ11の加熱状態を維持したまま、シリカガラスルツボ11内にシリコン原料を追加供給して溶融させ、シリコン融液23を形成する。その際のシリコン原料の供給量は、シリコン融液23の液面23aの位置が1本目の単結晶引き上げにおける初期原料融液の液面23aの位置よりも低い位置となるように調整する。
すなわち、シリカガラスルツボ11の内表面における初期原料融液の液面23aの位置には、内表面が局所的に破損(熔融)したことによる溝(凹み)が形成される。2本目の単結晶引き上げでは、この溝(凹み)よりも低い位置に初期原料融液の液面23aがくるようにシリコン原料の充填量を調整する。シリカガラスルツボ11内のシリコン融液23は、単結晶の引き上げを開始するまでの間、長時間に亘りヒータで加熱されるが、液面23aの位置が、1本目の単結晶引き上げにおける初期原料融液の液面23aの位置よりも低い高さに変更され、その高さで一定に維持される。
その後、そのシリコン融液23から2本目のシリコン単結晶25を引き上げる。そして、この工程を繰り返し、3本目以降の単結晶育成を行う。3本目以降の単結晶育成でも、シリコン原料の供給量を調整し、初期原料融液の液面位置を、直前に行った単結晶引き上げにおける初期原料融液の液面位置よりも低い位置に変更する。
このようなシリコン単結晶25の製造方法によれば、シリコン単結晶25を繰り返し引き上げるのに伴って、シリカガラスルツボ11内の初期原料融液の液面位置が順次低い位置に変更されるため、それぞれのシリコン単結晶25を育成する際に、それぞれの初期原料融液の液面位置でシリカガラスルツボ11の内表面に局部的な損傷が生じても、その損傷が以降の単結晶育成時に進展することはない。すなわち、初期原料融液の液面位置によるルツボ内表面の損傷の進展を効果的に抑制することができる。その結果、不純物の溶出や石英(Si酸化物)の剥離が過剰に起こることに起因する単結晶の有転位化を防止することが可能になり、結晶品質を向上させたシリコン単結晶25を製造することができる。
以上説明したように、実施形態によれば、実際にシリコン単結晶の引き上げを行うシリカガラスルツボ11のガラス構造を非破壊で測定して、シリコン単結晶の引き上げ時に転位の発生を抑制することができるシリカガラスルツボ11を高精度に見極めることができる。
なお、上記に本実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に包含される。