加圧位置センサの第1実施例
図1から図5は第1実施例の加圧位置センサを示している。
主に図1を参照して,加圧位置センサは3つの層(レイヤー)1,2および3から構成されている。これらを図1の上から下に向って第1層,第2層,第3層と呼ぶ。各層1,2,3はそれぞれ可撓性を有する(フレキシブル)絶縁性シート11,21,31を含む。絶縁性シート11,21,31は長方形の,たとえば合成樹脂製シート(または平面板,基板)である(図2から図5を参照)。第1層のシート11と第2層のシート12との間には弾性を有する一定厚さの誘電体層4が介装され,第2層のシート12と第3層のシート13との間にも弾性を有する一定厚さの誘電体層5が設けられている。これらの絶縁性シート11,21,31と誘電体層4,5とは単に重ねられているだけでも,接着その他により固定されているものでもよいが,互いにずれたり動いたりしない。
図2から図4も参照して,第1層1から第3層3は,両端部を除いて,その長さ方向に4分割され,鎖線で示すように,4つの単位領域が設けられている。単位領域は加圧位置検出の分解能を表わす。すなわち,この単位領域を単位として加圧された位置が検出される。簡単化のために4つの単位領域のみが図示されているが,その数を一直線状に(一次元的に)増加させることもできるし,二次元的な広がりをもって設けることもできる。これらの単位領域に,図面の左側から右側に向ってそれぞれA,B,C,Dの符号をつけて区別する。単位領域の境界を示す鎖線は分りやすくするための仮想線であり,実際にはなくてもよいし,あってもかまわない。第1層1の単位領域と第2層2の単位領域と第3層3の単位領域はその対応するものが互いに(図1において,上下方向に)ぴったりと重なっている。すなわち,第1層の単位領域Aと第2層の単位領域Aと第3層の単位領域Aとは互いに重なっている。単位領域B,C,Dについても同様である。
図2は第1層1の絶縁性シート11の下面(第2層2に対向する面)に形成された導電部を示す下面図である。導電部はたとえば金属薄膜であり,絶縁性シート11の下面に形成され,単位領域内に2つずつの幅広の第1導電部12と,隣接する第1導電部12を絶縁性シート11の長さ方向に電気的に接続する細い第2導電部13とを含む。2列に設けられた第1導電部12は,その両端部(絶縁性シート11の長さ方向の両端部)において,シート11下面の単位領域外に形成された導体(配線)パターン14により相互に電気的に接続され,同じくシート11下面の一端部(図2の右端部)に形成された接続端子15(端子または接続点n1ともいう)に電気的に接続されている。すなわち,すべての導電部12,13が端子15に電気的に接続されている。絶縁性シート11下面に形成された第1導電部12の総面積は,単位領域ごとに異なり,単位領域A,B,C,Dの順に広くなっている。単位領域に存在する第2導電部13の総面積を単位領域ごとに第1導電部12の総面積に加えても,さらに後述する第2層の導電部と重なる部分のみについても,この面積の大小関係は変わらない。導電部は導電性金属の蒸着,その他の堆積法やエッチング等により形成することができる。
図3は,第2層2の絶縁性シート21の上面(第1層1に対向する面)に形成された導電部を示す上面図(平面図)である。導電部は絶縁性シート21の上面に形成され,単位領域内に4つずつ形成された幅広の第1導電部22aと,隣接する第1導電部22aを単位領域内で電気的に接続する細い第2導電部23aとを含む。さらに絶縁性シート21の上面には単位領域外において第2導電部23aを相互に電気的に接続するとともに,同じく絶縁シート21の上面に形成された接続端子25a(端子または接続点n2ともいう)に電気的に接続する導体(配線)パターン24aが形成されている。すべての導電部22a,23aが端子25aに接続されている。絶縁性シート21の上面に形成された第1導電部22aの単位領域ごとの総面積は互いに等しい。第2導電部23aの総面積を単位領域ごとに第1導電部22aの総面積を加えても,単位領域の導電部の面積は等しく,かつ配線形態も同じである。
図4は,第2層2の絶縁性シート21の下面(第3層3に対向する面)に形成された導電部を示す下面図である。導電部は絶縁性シート21の下面に形成され,単位領域内に2つずつ形成された幅広の第1導電部22bと,隣接する第1の導電部22bを次に述べる導体パターン24bとともに単位領域内で電気的に接続する細い第2導電部23bとを含む。さらに絶縁性シート21の下面には単位領域外において第2導電部23bを相互に電気的に接続するとともに,同じく絶縁シート21の下面に形成された接続端子25b(端子または接続点n2ともいう。接続端子25aと共通にしてもよい。)に電気的に接続する導体(配線)パターン24bが形成されている。すべての導電部22b,23bが端子25bに接続されている。絶縁性シート21の下面に形成された第1導電部22bの単位領域ごとの総面積は互いに等しい。第2導電部23bの総面積を単位領域ごとに第1導電部22bの総面積を加えても,単位領域の導電部の面積は等しく,かつ配線形態も同じである。
図5は,第3層3の絶縁性シート31の上面(第2層2に対向する面)に形成された導電部を示す上面図(平面図)である。導電部は絶縁性シート31の上面に形成され,単位領域内に2つずつ形成された幅広の第1導電部32と,隣接する第1の導電部32を単位領域間で電気的に接続する細い第2導電部33とを含む。さらに絶縁性シート31の上面には単位領域外において第2導電部33を相互に電気的に接続するとともに,同じく絶縁シート31の上面に形成された接続端子35(端子または接続点n3ともいう)に電気的に接続する導体(配線)パターン34が形成されている。すべての導電部32,33が端子35に接続されている。絶縁性シート13の上面に形成された第1導電部32の単位領域ごとの総面積は互いに等しい。第2導電部33の総面積を単位領域ごとに第1導電部32の総面積を加えても,単位領域の導電部の面積は等しく,かつ配線形態も同じである。
図1に示す断面図には第1の導電部12,22a,22b,32のみが太い実線で示され,第2の導電部,導体パターン,端子の図示が省略されている。
第1層1の下面の導電部(第1の導電部12と第2の導電部13)と第2層2の上面の導電部(第1の導電部22aと第2の導電部23a)の間に誘電体4が介装されているので,誘電体4を挟んで対向する(対面する,重なる)第1層の下面の導電部と第2層の下面の導電部とは静電容量性素子(キャパシタ,コンデンサ)を構成する(これらの導電部がその全面積においてぴったり重なる訳ではないが)。
一般に,静電容量Cは対向する導体(電極)の面積Sとそれらの間の距離(間隔)dに依存する。
C=f(S,d) 式(1)
導体(電極)の境界における電気力線の乱れを無視すれば,理想的には
C=εS/d 式(2)
で表わされる。εは導体(電極)間の誘電体の誘電率である。
外力または外圧力(圧力)が加えられていない状態(加圧がない状態,これを初期状態という)において,第1層1の下面のすべての導電部(電極)(第1の導電部と第2の導電部)と第2層2の上面のすべての導電部(電極)とそれらの間に介装された誘電体4とによって構成される静電容量性素子全体の静電容量を第1の総静電容量C1とする(導体パターン14,24aによる静電容量は,もしあるとしても無視するものとする。もっとも無視しなくても後述する結論は同じである。)。
また,初期状態において,第1層1の下面の各単位領域の導電部(第1の導電部と第2の導電部)(電極)と第2層2の上面の各単位領域ごとの導電部(電極)とそれらの間にある誘電体4とによって構成される単位領域ごとの静電容量性素子の静電容量を第1の静電容量とし,単位領域A,B,C,DについてそれぞれC1A,C1B,C1C,C1Dで表わす。
C1=C1A+C1B+C1C+C1D 式(3)
である。
第1層1の下面における単位領域ごとの導電部(電極)の(第2層2の対向する導電部と重なる部分に着目してもその)総面積は単位領域A,B,C,Dの順に大きい。第2層2の上面における単位領域ごとの導電部(電極)の総面積は,単位領域A,B,C,Dにおいてすべて等しい。
第1層の下面の導電部と第2層の上面の導電部の互いに対向する(重なる)部分とそれらの間の誘電体とによって単位領域ごとに静電容量性素子がつくられるから,第1層の下面の単位領域ごとの導電部(第2層の対向する導電部と重なる部分)の面積の違いを考慮すると,
C1A<C1B<C1C<C1D 式(4)
の関係が成立つ。
加圧位置センサ10に加えられる圧力(外力)は単位領域ごとに,その単位領域全体に均一に加えられるものとする。圧力は単位面積当りの力(外力)であるが,外力は単位領域の面積に加えられるので,外力と圧力とを特に区別しないこととする。圧力が加えられることによって,加圧された各単位領域の誘電体の厚さdが小さくなるので,式(2) において静電容量は大きくなる。仮に,すべての単位領域に,それぞれ独立に,等しい圧力が加えられたとすると,各単位領域の静電容量の変化分dC1A,dC1B,dC1C,dC1Dは,
dC1A<dC1B<dC1C<dC1D 式(5)
の関係を満たす。
したがって,単位領域のいずれかに圧力が加えられたときに,加圧された単位領域における静電容量の変化が,総静電容量C1の変化に及ぼす影響(寄与)は,単位領域A,B,C,Dの順に大きくなる。すなわち,第1の総静電容量C1,またはその変化分は,単位領域に加えられる力(または圧力)と,単位領域の位置(加圧されたのはAかBかCかDかということ)の関数となる。
第3層3の上面の導電部(第1の導電部32と第2の導電部33)と第2層2の下面の導電部(第1の導電部22bと第2の導電部23b)の間に誘電体5が介装されているので,誘電体5を挟んで対向する第3層の上面の導電部と第2層の下面の導電部とは静電容量性素子(キャパシタ,コンデンサ)を構成する(これらの導電部がその全面積においてぴったり対向する訳ではないが)。
外力または外圧力(圧力)が加えられていない状態(加圧がない状態,これを初期状態という)において,第3層3の上面のすべての導電部(電極)と第2層2の下面のすべての導電部(電極)とそれらの間に介装された誘電体5とによって構成される静電容量性素子全体の静電容量を第2の総静電容量C2とする(導体パターン34,24bによる静電容量は,もしあるとしても無視するものとする。もっとも無視しなくても後述する結論は同じである。)。
また,初期状態において,第3層3の上面の各単位領域の導電部(電極)と第2層2の下面の各単位領域ごとの導電部(電極)とそれらの間にある誘電体5とによって構成される単位領域ごとの静電容量性素子の静電容量を第2の静電容量とし,単位領域A,B,C,DについてそれぞれC2A,C2B,C2C,C2Dで表わす。
C2=C2A+C2B+C2C+C2D 式(6)
である。
第3層3の上面における単位領域ごとの導電体(電極)の総面積はすべての単位領域A,B,C,Dにおいて等しい。第2層2の下面における単位領域ごとの導電体(電極)の総面積は,単位領域A,B,C,Dにおいてすべて等しい。第3層の導電体と第2層の下面の導電体の互いに重なり合う部分の総面積も単位領域ごとに等しい。
第3層の上面の導電体と第2層の下面の導電体の互いに対向する(重なる)部分とそれらの間の誘電体とによって単位領域ごとに静電容量性素子がつくられる。単位領域における導電体の総面積と配置形態は第3層,第2層のいずれにおいても等しく,互いに重なっている部分の単位領域ごとの総面積も等しいから
C2A=C2B=C2C=C2D 式(7)
の関係が成立つ。
加圧位置センサ1に加えられる圧力(外力)は上述したように,単位領域ごとに,その単位領域全体に均一に加えられるものとする。圧力が加えられることによって,加圧された各単位領域の誘電体の厚さdが小さくなるので,上述したように,式(2) において静電容量は大きくなる。仮に,すべての単位領域に,それぞれ独立に,等しい圧力が加えられたとすると,各単位領域の静電容量の変化分dC2A,dC2B,dC2C,dC2Dは,
dC2A=dC2B=dC2C=dC2D 式(8)
の関係を満たす。
したがって,単位領域のいずれかに圧力が加えられたときに,加圧された単位領域における静電容量の変化が,総静電容量C2の変化に及ぼす影響(寄与)は,単位領域A,B,C,Dにおいて等しい。すなわち,第2の総静電容量C2,またはその変化分は,単位領域に加えられる力(または圧力)のみの関数となる。
このようにして,総静電容量C1は加圧力と加圧された位置(いずれの単位領域かということ)の関数となり,総静電容量C2は加圧力のみの関数となる。したがって,総静電容量C2に基づいて加圧力(いずれかの単位領域に加えられた外力または外圧力)を求め,求めた加圧力を考慮して第1の総静電容量C1に基づいて加圧された位置(単位領域の位置)を求めることができる。これが,加圧位置センサを用いた加圧位置検出の原理である。
図6は加圧位置センサの変形例を示している。図1に示すものと同一物には同一符号を付し重複説明を避ける。
この加圧位置センサ10Aにおいては,図1の加圧位置センサ10と比較すると,第2層の絶縁性シート21が省略され,誘電体層4の下面または誘電体層5の上面に第2層を構成する第1導電部22,第2導電部,これらを接続する導体(配線)パターンおよび端子(n2に相当)が形成されている。第2層を構成する導電部(第1,第2導電部)は,第1層の導電部および第3層の導電部のいずれとも対向する(対面または少なくとも部分的に重なる)大きさおよび位置に形成されているのはいうまでもない。このような第2層の導電体は第1層の導電部との間で第1の容量性素子を形成し,第3層の導電部との間で第2の容量性素子を形成する。第2層を構成する導電部および第3層を構成する導電部を単位領域A,B,C,Dの全体にわたって設けるようにしてもよい。第1層を構成する導電部のみが場所に応じて(単位領域の位置に応じて)その面積が変化する。第1層の導電部の面積を単位領域Aの一端から単位領域Dの他端まで連続的に変化させてもよい。
加圧位置検出方法および装置の実施例(第1,第2の実施例)
図7は加圧位置検出装置の一例(第1実施例)を示している。上述した加圧位置センサ10Aまたは10Bの第1層の導電部と第2層の導電部とによって形成される静電容量性素子がC1で,第3層の導電部と第2層の導電部とによって形成される静電容量性素子がC2で示されている。これらの静電容量性素子はそれらの総静電容量と同じ符号C1,C2で示されているが,混同が生じることはなく,むしろかえって理解しやすいものと思量する。
交流電源(数百から数十KHzオーダーの周波数でよい)50が設けられ,その2つの出力端は,加圧位置センサの共通端子n2(図3の25a,図4の25b)とアース(接地)との間に接続されている。静電容量性素子を構成する第1層と第3層の導電部にそれぞれ接続された端子n1,n3(図2の15,図5の35)とアースとの間には抵抗R1,R2が接続されている。この端子n1,n3に現われる電圧をそれぞれV1,V2とする。交流電源50の出力電圧はVinである。電圧V1,V2を代表してVout で表わす。また,抵抗R1,R2の抵抗値を代表してRで表わす。キャパシタンス(静電容量)C1,C2を代表してCで表わす。
図7の回路において次式が成立つ。
Vout=[R/(R+1/jωC)]・Vin 式(9)
ここでωは交流電源50の角周波数である。
式(9)の絶対値をとる
|Vout|=[R/{R2+(1/ωC)2}1/2]・|Vin| 式(10)
ここでω=2πf(fは交流電源50の周波数)であるから,式(10)は式(11)のように表現される。
|Vout|=[R/{R2+(1/2πfC)2}1/2]・|Vin| 式(11)
交流電源50の電圧Vinと抵抗Rは既知の値であるから,静電容量Cの値(またはその変化量)は出力|Vout|の値(またはその変化量)として検出することができる。
式(11)は,C1とR1により構成される回路およびC2とR2により構成される回路のいずれにも適用可能であるのはいうまでもない。
図7において,端子n1,n3の出力電圧V1,V2はそれぞれフィルタ41,51を経て整流器42,52に与えられ,直流電圧に変換される。フィルタ41,51は電源周波数(50Hzまたは60Hz)によるノイズを除去するバンドカットフィルタである。整流器42,52の出力電圧は処理装置40に与えられる。雑音が問題とならなければフィルタ41,51は省略することができる。
処理装置40はアナログ/デジタル変換器(ADC)43,53とマイクロプロセッシングユニット(MPU)44を含む。整流器42,52の出力電圧はADC43,53によってそれぞれデジタル信号に変換され,MPU44に入力する。MPU44は電圧V1,V2の最大振幅(V1P-P,V2P-P)を算出し,次に示す処理を行い,加えられた圧力(外力)とその位置(単位領域)とを判別する。
MPU44の処理(動作)はキャリブレーションモードと測定(検出)モードとを含む。
図8,図9および図10はキャリブレーションモードにおけるMPU44の動作を示すものである。図8に示す第1のルックアップテーブルおよび図9に示す第2のルックアップテーブル(参照データ)はMPU44内のメモリに展開される(作成され記憶される)。
キャリブレーションモードでは,加圧位置センサ10(または10A)上の単位領域A,B,C,Dに順次圧力を加え,かつ加える圧力の大きさを適当な圧力間隔で変えながら,端子n1,n3の出力電圧V1,V2の値を測定し,第1,第2のルックアップテーブルを作成する。単位領域A,B,C,Dには,その単位領域全体にわたって均一な力(または圧力)を加える。
静電容量C1の関数である出力電圧V1(式(11))は,加えられる外力の大きさと,外力が加えられる単位領域の位置に応じて変化する。図8に示す第1のルックアップテーブルは,各単位領域A,B,C,D(第1のルックアップテーブルでは位置A,B,C,Dと表記されている)について,各単位領域に加える外力を0〜50ニュートン(N)の範囲で5(N)刻みで変化させたときに測定された出力電圧V1(最大振幅V1P-P)の値を記録(記憶)したものである。
静電容量C2の関数である出力電圧V2は,基本的に各単位領域に加えられる外力の値にのみ依存して変化し,外圧が加えられる単位領域には依存しない。しかしながら,各単位領域に外圧が加えられたときの静電容量C2には若干の誤差がありうるので,各単位領域に同じ外圧を加えて得られる出力電圧V2を4つの単位領域にわたって平均化した値を採用する。図9に示す第2のルックアップテーブルは,各単位領域に加える外力を0〜50(N)まで5(N)刻みで変化させたときの出力電圧V2の測定電圧の4領域にわたる平均値を振幅(最大振幅V2P-P)として記録(記憶)したものである。
キャリブレーション処理は図10に示すようになる。交流電源50の周波数,電圧を決定する(S11)。操作者が試行錯誤により決定して設定してもよいし,MPU44に記憶していたものを読出してMPU44により電源50に自動的に設定してもよいし,操作者が調整してもよい。一般的には,周波数は数百〜数十KHzのオーダーが好ましく,電圧は1Vから数V程度がよい。いずれにしても設定された周波数,電圧値をもつ交流電圧が加圧位置センサ10(10A)に印加される。
そして,外力を加える単位領域の位置と加える外力の値を変化させて,これら位置と外力の値との組合せごとに,出力電圧V1およびV2を測定し,加える外力と出力電圧V1との関係を示す第1のルックアップテーブルを作成し,また加える外力と出力電圧V2の4単位領域にわたる平均値との関係を示す第2のルックアップテーブルを作成する(S12)。
各単位領域への加圧は圧力計を有する加圧装置を用いて,加圧値および加圧領域を変えながら行い(加圧部分が各単位領域の大きさ,形状にほぼ等しい大きさ,形状をもつ),各加圧時における出力電圧V1,V2を測定する。加圧値の制御,加圧単位領域の移動はMPUによって自動制御してもよいし,操作者の手動によって行ってもよい。後者の場合には操作者は,加圧値を変化させたとき,および加圧位置を変化させたときにMPUにその旨のタイミング信号を与える。操作者がMPUによる測定値(出力電圧V1,V2)を読取って,その値を手動でMPUに入力してMPUのメモリ内にルックアップテーブルを作成させてもよい。
MPU44または操作者による測定(検出)モードの動作が図11に示されている。このモードでは,加圧された単位領域の位置(単位領域A,B,C,Dのどれが加圧されたか)と,加圧された圧力の値を検出するものである。キャリブレーションモードと同じように,いずれかの単位領域内がそのほぼ全体にわたって均一な力で加圧されるものとする。
図11において,まずキャリブレーションモードにおいて交流電源50に設定されたものと同じ周波数,電圧が交流電源50に設定され,加圧位置センサ10(または10A)に印加される(S21)。
加圧位置センサ10(10A)のいずれかの単位領域が加圧され,接続点n1,n3に発生する電圧V1,V2がMPU44に取込まれ,それらの振幅(V1P-P,V2P-P)が算出される(S22,S23)。
第2のルックアップテーブル(図9)を参照して,算出したV2P-Pに最も近い振幅値を検索し,それに対応する外力値を求める(S24)。たとえば算出した電圧V2の振幅値がVp35に最も近かったとすると,それに対応する外力35(N)が求められる。
次に,第1のルックアップテーブル(図8)を参照して,S24で求めた外力値に対応する電圧V1の振幅V1P-Pのグループを抽出する。たとえば,上記の例で求めた外力が35(N)とすると,第1のルックアップテーブルを参照して外力35(N)に対応する振幅V1P-Pの位置A〜Dの値Va35,Vb35,Vc35,Vd35を読出す(S25)。
そして,読出された(抽出された)グループの中で,S23で算出したV1P-Pに最も近い値をもつ位置(単位領域の位置)を決定して出力する(S26)。たとえば算出したV1P-Pに最も近い値がVb35であったとすると,Vb35に対応する位置Bが決定され,出力される。
上記の処理ではディスクリートな値(データ)として第1,第2のルックアップテーブルに記憶されている参照データに最も近いデータ(値)を検索しているが,補間処理等によりより細かく外力値を求めることもできるし,補間処理された外力値に基づいて,同じく第1のルックアップテーブルの値も補間して最も近いV1P-Pをもつ位置を決定することもできる。この場合に,外圧を加える面積が単位領域に等しいことを前提とすれば,単位領域A,B,C,Dの間の位置,たとえば単位領域BとCの間の位置の検出も可能となる。
図12は加圧位置検出装置の他の例(第2実施例)を示している。
加圧位置センサ10(10A)の接続点n2は接地(アース)され,接続点n1,n3はLRCメータ61,62の入力端子にそれぞれ接続されている。LRCメータは入力端子に接続された回路または素子のインダクタンス(L),キャパシタンス(C)およびR(レジスタンス)を測定し,測定値をデジタル信号として出力するもので,その構成自体は公知である。これらのLRCメータ61,62により測定された加圧位置センサ10(10A)における静電容量C1,C2の値はMPU63に入力する。LRCメータ61,62とMPU63が加圧位置検出装置の処理装置60を構成する。MPU63は,上述した第1,第2のルックアップテーブルと同様の静電容量に関する第1,第2のルックアップテーブルをそのメモリに備えるとともに,図10に示すようなキャリブレーションモードにおける処理,図11に示すような測定モードにおける処理を行う。その具体例については,後述する第3の実施例の加圧位置センサに関連して後に述べる。
加圧位置センサの第2実施例
図13,図14,図15,図16は加圧位置センサの第2の実施例を示すもので,第1実施例の図2,図3,図4,図5にそれぞれ対応する。第2実施例の加圧位置センサ(これを符号10Bで表わす)もまた第1層,第2層,第3層から構成され,各層を形成する絶縁性シート11,21,31を含む。絶縁性シート11,21,31の配置は図1に示すものと同じである。
これらの絶縁性シートのうち,第1層の絶縁性シート11の絶縁性シート12に対向する面には,図13に示すように,やや幅が広く長手方向にのびる多数の第1導電部12とこれらを電気的に接続するやや幅の狭い多数の第2導電部13と導体(配線)パターン14が形成され,これらがすべて端子15(n1)に電気的に接続されている。第1導電部12および第2導電部13からなる導電部の各単位領域における総面積は,単位領域A,B,C,Dの順に大きくなっている。次に述べる第2層の絶縁性シート21の絶縁性シート11と対向する面における導電部は全単位領域にわたって均一に分布しているから,第1層の導電部のうち,第2層の導電部と対向して重なる部分の面積も単位領域A,B,C,Dの順に大きくなっている。
第2層の絶縁性シート21の絶縁性シート11と対向する面には,図14に示すように,横方向にのび,やや幅の広い多数の第1導電部22aと,第1導電部22aをつなぐやや幅の狭い第2導電部23aと,導体(配線)パターン24aとが形成され,これらがすべて端子25a(n2)に電気的に接続されている。第1導電部22aと第2導電部23aは単位領域全体にわたって均等に分布し,各単位領域A,B,C,Dにおける第1導電部22aと第2導電部23aとの総面積は相互に等しい。
第2層の絶縁性シート21の第3層の絶縁性シート31と対向する面には,図15に示すように,横方向にのび,やや幅の広い多数の第1導電部22bと,第1導電部22bを導体パターン24bとともにつなぐやや幅の狭い第2導電部23bと,導体(配線)パターン24bとが形成され,これらがすべて端子25b(n2)に電気的に接続されている。各単位領域A,B,C,Dにおける第1導電部22bと第2導電部23bとの総面積は相互に等しい。第1導電部22b,第2導電部23bは全単位領域にわたって均等に分布し,図14と図15を対比して分るように,一面の第1導電部22aの反対側(他面)には第2導電部23bが,第2導電部23aの反対側には第1導電部22bが形成されている。
第3層の絶縁性シート31の絶縁性シート21と対向する面には,長手方向にのび,やや幅の広い多数の第1導電部32と,第1導電部32をつなぐやや幅の狭い第2導電部33と,導体(配線)パターン34とが形成され,これらがすべて端子35(n3)に電気的に接続されている。第1導電部32,第2導電部33は全単位領域にわたって均等に分布し,各単位領域A,B,C,Dにおける第1導電部32と第2導電部33との総面積は相互に等しい。
第1実施例と第2実施例の違いは,第2実施例においては第1導電部,第2導電部,配線パターンがより細かにより多く,各絶縁性シートに設けられているということである。そのために,第2実施例において第1導電部,第2導電部,配線パターンおよび端子には,煩雑になるのを避けるために,または分りやすくするために,第1実施例におけるものと同一符号を付してある。加圧位置センサおよび第1層,第2層,第3層についてのみ,第1実施例におけるこれらの符号10,1,2,3にBを付し,第2実施例では符号10B,1B,2B,3Bを用いている。
そして第2実施例においても,第1層の第1導電部12,第2導電部13と第2層の第1導電部22a,第2導電部23aの互いに重なっている(対面,対向している)部分によって容量性素子C1が形成され(これらの互いに重なっている部分の総面積は単位領域A,B,C,Dの順に大きくなっている),第3層の第1導電部32,第2導電部33と第2層の第1導電部22b,第2導電部23bとの互いに重なっている(対面,対向している)部分によって容量性素子C2が形成される(これらの互いに重なっている部分の総面積はすべての単位領域において等しい)。
第2実施例の加圧位置センサについても,図7,図12にそれぞれ示す第1,第2実施例の加圧位置検出装置が適用できるのはいうまでもない。また,第2実施例の加圧位置センサもまた図6に示すように変形することが可能である。
加圧位置センサの第3実施例
第3実施例の加圧位置センサは3枚の織物で実現される。加圧位置センサを織物で構成することにより,フレキシビリティ,ウェアブル性が高まり,応用分野が工業のみならず医療,介護,スポーツの分野にも広がる可能性がある。
まず織物について説明する。織物は図17(a) に示すように,垂直に多数並列されたたて(経)糸と,たて糸の上,下を走るよこ(緯)糸とから構成され,たて糸とよこ糸は上下(表裏)に(一般的には直交する方向に)交差している。織物はたて糸とよこ糸を交差するように組合せたものである。交差している箇所を格子点ともいう。織物であるためには,たて糸とよこ糸とは,一定範囲(糸の所定本数)以内で一度以上交差しなければならない。図17(a) の破線で囲まれた部分のたて糸とよこ糸の上下関係を図17(b) に分りやすく線図で描かれている。たて糸とよこ糸が交差している部分において,上側を上,表等と表現し,場合によっては露出しているとも表現する。下側は下,裏等と表現される。たて糸とよこ糸が一定範囲内で一度は交差していさえすれば,その組織(織り方)はどのようなものでもよい。
第3実施例では,織物のたて糸またはよこ糸として導電性糸を用いる。図18(e) にその断面を示すように,導電性糸7は,導電線8を弾性を有する誘電体(絶縁体)9で被覆したものである。
導電性糸7をよこ糸とし,絶縁性(誘電体性)糸70をたて糸とする織物と,絶縁性(誘電体性)糸70をよこ糸,導電性糸7をたて糸とする織物とが上下に重ねられた状態の断面の各種形態が図18(a),(b),(c),(d)に示されている。絶縁性糸は好ましくは弾性を有するが,弾性をもっていないものでもよい。上下の織物の格子点が上下に一致しているとすると,一方の織物の導電性糸(よこ糸)7と他方の織物の導電性糸(たて糸)7の各導電線8が上下の電極となり,それらの間に被覆層9や絶縁糸70よりなる誘電体層が存在する静電容量性素子(コンデンサ)が実現される。図8(a),(b),(c),(d)では上側の織物と下側の織物とは離れて(それらの間に間隔があるように)描かれているが,両織物の格子点にあるたて糸,よこ糸が接触した状態を図式的に表現したのが図19(a),(b),(c),(d)である。2つの織物の格子点の糸(たて糸とたて糸,よこ糸とたて糸,たて糸とよこ糸,よこ糸とよこ糸)が接触した状態とは,両者に圧力が加わらず,導電性糸7の誘電体被覆9と絶縁性(誘電体性)糸70とが,それらの表面が接触はしているが,そのいずれもが外力によって圧縮されていない状態をいい,これを初期状態という。
図18(a) では,上側の織物はその導電性よこ糸7が下側に露出し,下側の織物の導電性たて糸7が上側に露出しているので,これらが格子点で接触すると(初期状態)図19(a) に示すように,2本の直交する導電性糸7の導電線8間に2つの誘電体被覆層9が介在する静電容量性素子が実現する。
図18(b) では上側の織物はその導電性よこ糸7が下側に露出し,下側の織物の絶縁性よこ糸70が上側に露出して導電性たて糸7は上側に露出していないので,これらが格子点で接触すると(初期状態),図19(b) に示すように,2本の直交する導電性糸7の導電線8間に,上側の織物の導電性よこ糸7の誘電体被覆層9と下側の織物の絶縁性よこ糸70および導電性たて糸7の誘電体被覆層9とが介在する静電容量性素子が実現する。
図18(c) では上側の織物はその導電性よこ糸7は下側に露出しないで,絶縁性たて糸が下側に露出し,下側の織物の導電性たて糸7が上側に露出しているので,これらが格子点で接触すると(初期状態),図19(c) に示すように,2本の直交する導電性糸7の導電線8間に,上側の織物の導電性糸7の誘電体被覆層9および絶縁性たて糸70と下側の織物の導電性たて糸7の誘電体被覆層9とが介在する静電容量性素子が実現する。
図18(d) では上側の織物はその導電性よこ糸7は下側に露出しないで絶縁性たて糸が下側に露出し,下側の織物の絶縁性よこ糸70が上側に露出して導電性たて糸7は上側に露出していないので,これらが格子点で接触すると(初期状態),図19(d) に示すように,2本の直交する導電性糸7の導電線8間に,上側の織物の導電性よこ糸7の誘電体被覆層9および絶縁性たて糸70と下側の織物の絶縁性よこ糸70および導電性たて糸7の誘電体被覆層9とが介在する静電容量性素子が実現する。
このように,2つの織物の一方において導電性糸をよこ糸とし,他方において導電性糸をたて糸として,これらの織物を,その格子点を一致させて重ねると,各格子点において静電容量性素子が実現する。静電容量性素子の静電容量は,図19(c)〜(d)に示すように,電極(導電線)間距離や誘電体被覆層または絶縁性糸の誘電率が異なるので,各格子点の状態に応じて異なる値をとるが,このこと自体はあまり問題ではない。なぜなら,位置検出センサにとっては圧力が加えられたときの静電容量の変化の大小が重要であるからである。外圧が加えられると,電極(導電糸)の間隔が圧力に応じて変化し静電容量が変化する。
上下に重ねる2枚の織物において,導電性糸をいずれも同じ方向の糸(すなわち,たて糸同志またはよこ糸同志)としてもよいが,ぴったりと重ねることにやや難しさがあるので,直交する方向にした方がよい。
次に,実際に実施した織物による加圧位置センサの構成および実測結果について述べる。
図20aは第1層を構成する織物の上面の組織図であり,第2層と対向する面とは反対側の面の織物組織を表わしている。第1層を構成する織物の第2層と対向する面の組織は図20aとは表裏が反対となり,その組織図が図20bに表わされている(図20aと図20bは上下方向が逆になっている)。第1層の織物を符号1Cで示す。図21は第2層を構成する織物の組織図であり,第1層と対向する面の織物組織を表わしている。第2層の織物を符号2Cで表わす。第3層と対向する面の組織は図22とは表裏が反対になる。図22は第3層を構成する織物の組織図であり,第2層と対向する面の織物組織を表わしている。第3層の織物を3Cで示す。これらの間において,ハッチングは導電性糸が露出していることを表わす。黒はたて糸が露出していることを示し,白は絶縁性糸が露出していることを示している。
一例を挙げると,導電性糸は,導電糸が銀ナイロン,誘電体被覆層がポリエステル,被覆層厚が12ミクロン,導電性糸の外径は0.53mmである。絶縁性糸(織物糸)は綿糸で約 822デニールの糸(外径は0.5mm〜1mm程度)。織物の織り方は平織である。
図20a,20bに示す第1層の織物1Cにおいて,よこ糸に導電性糸を用い(矢印で示す),隣接する導電性糸の間に3本の絶縁性よこ糸が入る。導電性糸の外径が約 0.5mm,絶縁性よこ糸3本で約1mmの幅をとるので,導電性よこ糸はたて方向に約 1.5mm間隔で走っている。たて糸は絶縁性糸で,荒く織ってあるので,たて糸の間隔が約1mm程度である。したがって,図20a,20bの組織図を横方向に数倍に引き延ばすと,実際の織物に近づく。図20aの組織図にしたがう実際の織物(写真)が図31aに示され,その反対側の面の図20bの組織図にしたがう実際の織物(写真)が図31bに示されている(図31aと図31bとは上下が逆である)。露出している導電性糸に着目すると,図20b,図31bのイメージはおおよそ第2実施例の第1層1Bの第1導電部12のパターン(図13)に近い。第2導電部13は導電性よこ糸の露出していない部分に相当する。第1層の織物1Cの第2層と対向する面(図20b,図31b)において,単位領域A,B,C,Dごとに導電性糸の露出している部分の面積は異なり,A,B,C,Dの順に広くなる。図31a,31bにおいて,導電性よこ糸はその端で折り返され(配線パターン14に相当)すべて電気的に接続され,端子(n1に相当)に接続されている。
図21に示す第2層の織物2Cにおいて,9本の絶縁性たて糸に対して,よこ糸は32本の導電性糸(矢印で示す)とそれらの間の3本ずつの絶縁性糸である。たて糸の間隔は約1mm,よこ糸の間隔は第1層の織物のよこ糸間隔と同じである。このようにして作成した織物を90度回転させて第2層の織物2Cとする。図21の組織図を図21の左右方向に縮め,上下方向に延ばせば実際の織物のイメージに近づく。第2実施例の第2層2Bの第1導電部22aの配置(図14)が第2層の織物2Cの露出している導電性糸の実際の配置に近い。図14の第2導電部23aの真反対側面には図15の第1導電部22bが存在するが(図15),この第1導電部22bのパターンは,第2層の織物2Cの反対側面(第3層と対向する面)に露出している導電性糸のパターンとほぼ同じである。すべての導電性よこ糸の導電線は,配線パターン24a,24bに相当する導電線により電気的に接続され(実際の織物では端で折り返され),端子(n2に相当)に接続されている。第2層の織物2Cは,そのどちらの面においても,導電性糸の露出している部分の面積は単位領域A,B,C,Dについて同じである。第2層の織物2Cの導電性糸が図20b(図31b)の第1層の織物1Cのたて糸1本ずつに対応し,第2層の織物2Cの導電性糸と第1層の織物1Cの導電性糸とがそれらの格子点で直交状態で重なる。たとえば,図21の符号b1,b2で示す格子点は図20a,20bのa1,a2で示す格子点と重なる。第1層の織物1Cと第2層の織物2Cとが必ずしも格子点で重ならなくても,それらの間に静電容量性素子は形成されるから,位置検出動作の間に両者がずれなければ(固定されていれば)よい。
第3層の織物3Cの構成は基本的に第1層の織物1Cの構成と同じであるが,組織図が異なる。図22の組織図を横方向に引き延ばすと,露出している導電性糸のパターンは図16に示す導電部32のパターンと類似する。第3層の織物3Cにおいても,導電性糸の露出している部分は均一に分布し,その面積は単位領域A,B,C,Dにおいて差異はない。第2層の織物2C(図21)における格子点b1,b2の反対側が第3層の織物3C(図22)の格子点c1,c2とそれぞれ対応する。すべての導電性よこ糸の導電糸は配線パターン34に相当する導電線により相互に接続され(実際の織物では端で折り返され),端子n3に相当する端子に電気的に接続されている。
このようにして,図20a(図20b),図21,図22に組織図を示す第1層,第2層,第3層の織物1C,2C,3Cをそれらの対応する格子点が上下に一致するように第1層,第2層,第3層の順に重ねると(ずれないように固定しておくと),第3実施例の加圧位置センサが実現する。そしてこの加圧位置センサには図20a〜図22に示すように単位領域A,B,C,Dが含まれる。第1層と第2層との間の静電容量や第2層と第3層との間の静電容量には,互いに対向する面に露出した導電性糸の部分のみならず,反対側の面に露出している導電性糸の部分も寄与するが(図18(a)〜(d)参照),対向する面に露出した導電性糸の方が寄与の程度は大きい(距離dが小さいので)。
第3実施例の加圧位置センサにおいては,上述したように,第1層と第2層の織物間,または第2層と第3層の織物間において,相互に重なる格子点(導電性糸が直交して重なる)に静電容量性素子が形成され,その静電容量が加えられる圧力に応じて変化する。すなわち導電性糸の誘電体被覆層や絶縁性糸の電極間方向(交差する導電性糸の導電線を結ぶ方向)の厚さが外力に大きさによって変化する(外圧が大きければそれに応じて縮む)ので,式(2) において電極間間隔dが変化する。第2実施例と同じように,第1層1Cと第2層2Cの織物間においては,各単位領域の静電容量は単位領域ごとに異なり,第3層と第2層の織物間においてはすべての単位領域において静電容量は等しい(多少の誤差はあるが)。第1層,第2層,第3層とも互いに固定されていさえすれば,必ずしも格子点同志が重ならなくてもよい。絶縁性糸は外圧によって必ずしも変形しなくてもよい。
図23および図24は,図20a(図20b)〜図22の組織図によって表わされる織物1C,2C,3Cを重ね合わせて構成される織物タイプの加圧位置センサを用いて,単位領域(位置)A,B,C,Dのそれぞれの範囲に均等に圧力を加え,その圧力を0(N)から50(N)まで5(N)刻みで変化させたときの静電容量C1,C2の変化を示すものである。静電容量C1は織物1Cと2Cとの間の静電容量,C2は織物2Cと3Cとの間の静電容量である。外圧が0とは2層の織物がすき間なく接したときの初期状態を示す。静電容量C1,C2の測定には図12に示す第2実施例の加圧位置検出装置を用いた。
図25は加える外力に応じて変化する静電容量C1(図23)を,位置(単位領域)ごとにグラフで示すものである。静電容量C1は,外力を加える位置によって異なり,かつ加える外力の大きさに応じても変化することが分る。
図25は静電容量C2(図24)の変化をグラフで示すものである。静電容量C2は外力の大きさによって大きく変化するが,位置による差異は殆どない。すなわち,加える外力ごとに,4つの位置にわたる平均値をとることができる。外圧ごとの平均値が図24に示されている。
図12に示す加圧位置検出装置もキャリブレーションモードと測定モードとを有する。
キャリブレーションモードにおいては,図29を参照して,位置(単位領域)と加える圧力(外力)の組合せを変えて静電容量C1,C2を測定する。この測定結果を用いて外力と静電容量C1との関係を位置ごとに示す第1のルックアップテーブル(図27)を作成する。また,外力と静電容量C2の全位置A〜Dにわたる平均値との関係を示す第2のルックアップテーブル(図28)を作成する(S31)。
測定モードにおいては,図30を参照して,位置A〜Dのうちのいずれかの位置に外力が加えられたときに,静電容量C1,C2を計測し,デジタル化してMPU63に取込む(S41,S42)。MPU63は取込んだ静電容量C1,C2を用いて次の処理を行い,外圧が加えられた位置とその外圧の大きさを決定する。
まず,計測した静電容量C2の値と第2のルックアップテーブルの値とを比較し,測定値C2に最も近い静電容量に対応する外力値を求める(S43)。たとえば,C2の測定値が13.5pFであったとすると,それに最も近い静電容量に対応する外力は35(N)である。
第1のルックアップテーブルを参照して,上のようにして求めた外力値に対応するすべての位置A〜Dの静電容量値C1のグループを抽出し(読出し)(S44),抽出された容量値のグループの中で計測により得られた静電容量値C1に最も近い静電容量値をもつ位置を決定する(S45)。上記の外力35(N)については,18.5,19.3,20.0,26.2pFが読出される。計測により得られた静電容量値C1が仮に20pFであったとすると,圧力が加えられた位置は単位領域Cと結論される。
キャリブレーションモードでは5(N)刻みで測定を行っているが,図25,図26のグラフから分るように,キャリブレーションモードで測定していない外圧値については補間により求めることができるので,5(N)刻みよりも細かい外圧値の判定も可能である。また,単位領域の間の位置(たとえば,単位領域BとCの間の位置)の判定も補間処理等により可能となる。
上記第1,第2実施例においては,加圧位置センサの各層は,可撓性の絶縁性シート上に導電部が形成(たとえば,蒸着などの堆積法,フォトリソグラフィ等の半導体プロセスにより)されており,第3実施例では加圧位置センサは導電性糸を織糸として用いた編物で実現されている。他の形態で加圧位置センサの各層を形成することも可能である。たとえば,通常の編物糸(絶縁性糸)で編物をつくり,この編物に導電性糸を縫い込んで(ステッチして)いって導電部を形成することもできるし,編物ではなく可撓性絶縁性シートに導電性糸を縫い込んで(シートの表から裏へ,裏から表に沿わせて進ませる)いってもよいなど,さまざまな形態で加圧位置センサを実現することができる。また,これらの加圧位置センサでは単位領域A〜Dが一次元的に配置されているが,二次元的に配置することも可能であるし,より多くの,より小さい単位領域を設けて分解能を上げることもできる。単位領域をより細かくしていけば,ほぼ連続的な加圧位置検出も可能となる。この場合,加圧面積は単位領域の大きさに限定されず,単位領域よりも大きくすることができる。逆に言えば,加圧面積よりも小さい面積の単位領域を設定することができる。極端な例を挙げれば,第1層と第2層の間の静電容量を場所に応じて(たとえば一方向に)連続的に変化させておけば(重なり合う導電部の面積を位置に応じて連続的に変化させておけば)(無限に小さい単位領域とすれば),連続的な位置検出が可能となる。もっとも,この場合でも,圧力を加える面積は一定であり,この加圧面積の方からみて単位領域を規定し,多数の単位領域(加圧面積)が微少距離ずつ離れて相互に重なり合っていると理解することが可能である。さらに単位領域が多数ある場合には,代表的な単位領域についてキャリブレーションモードの処理を行い,キャリブレーションモードまたは計測モードにおいて,他の単位領域について補間処理を行うようにすることもできる。