JP6934314B2 - 圧電基材、力センサー、及びアクチュエータ - Google Patents

圧電基材、力センサー、及びアクチュエータ Download PDF

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Description

本開示は、圧電基材、力センサー、及びアクチュエータに関する。
近年、ヘリカルキラル高分子を含む圧電体を、センサー、アクチュエータ等の圧電デバイスへ応用をすることが検討されている。このような圧電デバイスには、フィルム形状の圧電体が用いられている。
上記圧電体におけるヘリカルキラル高分子として、ポリペプチド、ポリ乳酸系高分子等の光学活性を有する高分子を用いることが着目されている。中でも、ポリ乳酸系高分子は、機械的な延伸操作のみで圧電性を発現することが知られている。ポリ乳酸系高分子を用いた圧電体においては、ポーリング処理が不要であり、また、圧電性が数年にわたり減少しないことが知られている。
例えば、ポリ乳酸系高分子を含む圧電体として、圧電定数d14が大きく、透明性に優れる圧電体が報告されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
また、最近、圧電性を有する材料を、導体に被覆して利用する試みもなされている。
例えば、中心から外側に向って順に同軸状に配置された中心導体、圧電材料層、外側導体及び外被から構成される、ピエゾケーブルが知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、圧電性高分子からなる繊維を導電性繊維に被覆してなる圧電単位が知られている(例えば、特許文献4参照)。
特許第4934235号公報 国際公開第2010/104196号 特開平10−132669号公報 国際公開第2014/058077号
ところで、フィルム形状の圧電体(例えば、特許文献1及び2の実施例における圧電体)を、凹凸が大きい場所や変形量が大きい場所で使用した場合(例えば、ウェアラブル製品の一部又は全部として使用した場合)、変形により圧電体中に折れ、シワ等の損傷が生じ、その結果、圧電感度(例えば、圧電体をセンサーとして用いた場合のセンサー感度、及び、圧電体をアクチュエータとして用いた場合の動作感度。以下同じ。)が低下する場合がある。
また、特許文献3では、上述のように中心から外側に向って順に同軸状に配置された中心導体、圧電材料層、外側導体及び外被から構成されるピエゾケーブルが記載され、圧電材料としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)が記載されている。しかし、PVDFは経時的に圧電定数の変動が見られ、経時により圧電定数が低下する場合がある。また、PVDFは、強誘電体であるため焦電性を有し、このため、周囲の温度変化により圧電信号出力が変動する場合がある。従って、特許文献3に記載のピエゾケーブルでは、圧電感度の安定性が不足する場合がある。
また、特許文献4には、圧電性高分子からなる繊維(以下、圧電性繊維と称する)を被覆してなる圧電単位として、例えば、圧電性繊維で作製した編組チューブや丸打組紐を導電性繊維に巻き付けてなる圧電単位が記載されている。しかし、特許文献4に記載の圧電単位では、編組チューブや丸打組紐によって圧電性繊維を構成した場合、内部導体と外部導体間に空間ができやすいため、圧電感度が不足する場合がある。従って、特許文献4に記載の圧電性繊維では、圧電感度が不足する場合がある。
即ち、本開示の目的は、圧電感度に優れた圧電基材、並びに、この圧電基材を用いた力センサー及びアクチュエータを提供することである。
前記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。
<1> 長尺状の内部導体と、前記内部導体の外周面を被覆する第1の圧電体と、前記第1の圧電体の外周に配置された外部導体と、を備え、下記式(a)を満たす圧電基材。
静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5・・(a)
<2> 前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
下記式(b)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲である<1>に記載の圧電基材。
配向度F=(180°−α)/180°・・(b)
(式(b)中、αはX線回折により測定される配向由来のピークの半値幅を表す。)
<3> 前記第1の圧電体は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部含む、<2>に記載の圧電基材。
<4> 前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)が、下記式(1)で表される構造単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である<2>又は<3>に記載の圧電基材。
Figure 0006934314

<5> 前記第1の圧電体が、長尺状であり、前記内部導体の外周面に沿って一方向に螺旋状に巻回されている<1>〜<4>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<6> さらに、前記内部導体の外周面に沿って前記一方向とは異なる方向に巻回された長尺状の第2の圧電体を備え、
前記第2の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第2の圧電体の長さ方向と、前記第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(b)によって求められる前記第2の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
前記第1の圧電体と前記第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなし、
前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、前記第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なる<5>に記載の圧電基材。
<7> さらに、前記内部導体の外周面に沿って巻回された絶縁体を備え、
前記第1の圧電体と前記絶縁体とは交互に交差された組紐構造をなす<5>に記載の圧電基材。
<8> 前記第1の圧電体が、前記内部導体の軸方向に対して、15°〜75°の角度を保持して巻回されている、<5>〜<7>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<9> 前記第1の圧電体が繊維形状を有し、
前記第1の圧電体の、前記内部導体の長軸方向と直交する断面の平均長軸径が、0.0001mm〜10mmである<1>〜<8>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<10> 前記第1の圧電体が長尺平板形状を有し、
前記第1の圧電体の平均厚さが0.001mm〜0.2mmであり、
前記第1の圧電体の幅が0.1mm〜30mmであり、
前記第1の圧電体の平均厚さに対する前記第1の圧電体の幅の比が2以上である<1>〜<8>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<11> 機能層をさらに備える、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<12> 前記機能層が、易接着層、ハードコート層、帯電防止層、アンチブロック層、保護層、及び電極層からなる群より選択される少なくとも1種である<11>に記載の圧電基材。
<13> 前記機能層が電極層を含む、<11>又は<12>に記載の圧電基材。
<14> 前記第1の圧電体と、前記機能層と、が積層体の状態であり、前記積層体の一方面に表面層として前記電極層を有する、<13>に記載の圧電基材。
<15> 前記内部導体が錦糸線である<1>〜<14>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<16> 前記内部導体と前記第1の圧電体との間に接着層をさらに備える<1>〜<15>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<17> <1>〜<16>のいずれか1つに記載の圧電基材を備える力センサー。
<18> <1>〜<16>のいずれか1つに記載の圧電基材を備えるアクチュエータ。
本開示によれば、圧電感度に優れた圧電基材、並びに、この圧電基材を用いた力センサー及びアクチュエータが提供される。
第1実施形態に係る圧電基材を構成する同軸線構造体の側面図である。 第1実施形態に係る圧電基材の側面図である。 図1BのX−X’線断面図である。 第2実施形態に係る圧電基材を構成する同軸線構造体の側面図である。 第2実施形態に係る圧電基材の側面図である。 実施例1の同軸線構造体の写真及び同軸線構造体に更に外部導体を配置した状態を示すI−I線に沿った模式断面図である。 比較例1の同軸線構造体の写真及び同軸線構造体に更に外部導体を配置した状態を示すII−II線に沿った模式断面図である。 比較例2の同軸線構造体の写真及び同軸線構造体に更に外部導体を配置した状態を示すIII−III線に沿った模式断面図である。 本開示の圧電基材において、静電容量理論値の算出方法を説明するための同軸線構造体の模式図である。 第4実施形態に係る圧電基材を示す斜視図であり、矢印X1方向のねじり力が印加されたときのPLLAの分極方向を示す図である。 第4実施形態に係る圧電基材を示す斜視図であり、矢印X2方向のねじり力が印加されたときのPLLAの分極方向を示す図である。 第5実施形態に係る圧電基材を示す斜視図であり、矢印X1方向のねじり力が印加されたときのPDLAの分極方向を示す図である。 第5実施形態に係る圧電基材を示す斜視図であり、矢印X2方向のねじり力が印加されたときのPDLAの分極方向を示す図である。 粘着テープを用いて平板を貼り付けた第1実施形態に係る圧電基材を示す概略図である。 粘着テープを用いて平板を貼り付けた第1実施形態に係る圧電基材を押圧したときの概略図である。 粘着テープを用いて平板を貼り付けた第1実施形態に係る圧電基材の一例である。 接着剤を用いて平板を貼り付けた第1実施形態に係る圧電基材の一例である。 本開示の実施形態に係る力センサーの概念図である。
以下、本開示の実施形態について説明する。本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、長尺平板状の圧電体(第1の圧電体及び第2の圧電体)の「主面」とは、長尺平板状の圧電体の厚さ方向に直交する面(言い換えれば、長さ方向及び幅方向を含む面)を意味する。
本明細書中において、部材の「面」は、特に断りが無い限り、部材の「主面」を意味する。
本明細書において、厚さ、幅、及び長さは、通常の定義どおり、厚さ<幅<長さの関係を満たす。
本明細書において、2つの線分のなす角度は、0°以上90°以下の範囲で表す。
本明細書において、「フィルム」は、一般的に「フィルム」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
本明細書において、「MD方向」とはフィルムの流れる方向(Machine Direction)、すなわち、延伸方向であり、「TD方向」とは、前記MD方向と直交し、フィルムの主面と平行な方向(Transverse Direction)である。
本明細書において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
〔圧電基材〕
本開示の圧電基材は、長尺状の内部導体と、前記内部導体の外周面を被覆する第1の圧電体と、前記第1の圧電体の外周に配置された外部導体と、を備え、下記式(a)を満たす。
静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5・・(a)
ここで、上記式(a)中の「静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5」とは、圧電基材の静電容量測定値が、従来のものに比べ大きいことを示している。
本開示の圧電基材では、上記式(a)を満たすことにより、圧電基材に張力(ねじり力等であってもよい。以下同様である)を印加したときに、上記式(a)を満たさない圧電基材に比べ発生電荷量が増加する。その結果、圧電感度に優れた圧電基材が実現される。
また、本開示の圧電基材は、第1の圧電体の外周に外部導体を備えるので、静電シールドすることが可能な構造体である。これにより、外部の静電気の影響による、内部導体の電圧変化が抑制されやすい。
なお、「外周」とは、第1の圧電体の外周部分を意味する。
まず、上記式(a)中の「静電容量理論値」の算出方法について、図6を参照しながら説明する。
図6は、本開示の圧電基材において、静電容量理論値の算出方法を説明するための同軸線構造体の模式図である。
導体には電荷を蓄える機能がある。どの程度の電荷を蓄えることができるかを表す量を静電容量と言い、下記式1のように単位電圧あたりに蓄えられる電荷量で定義される。
式1:C=Q/V
式1中、Cは静電容量[F]、Qは電荷量[C]、Vは電圧[V]を表す。
図6に示す同軸線構造体30を、本開示における内部導体32及び第1の圧電体34からなる同軸線構造体であると仮定した場合、同軸線構造体30の単位長さ当りの静電容量理論値[F/m]は、下記式2で表される。なお、内部導体32及び第1の圧電体34の長さはどちらもL[m]とする。
本開示の圧電基材では、下記式2により算出される値を、上記式(a)中の圧電基材の「静電容量理論値」として用いる。
式2 :C=2πεε/ln(b/a)
C :単位長さ当りの静電容量[F/m]
a :内部導体32の平均半径[m]
b :内部導体32の平均半径[m]と第1の圧電体34の平均厚さT[m]との合計の長さ
ε :真空の誘電率(8.85×10−12)[F/m]
ε :第1の圧電体34の比誘電率[−]
上記式(a)中の「静電容量測定値」の測定方法について説明する。
上記式(a)中の「静電容量測定値」は、横河ヒューレットパッカード社製プレシジョンLCRメータ HP 4284Aを用いて測定される値とする。
なお、測定条件については実施例の項で記載する。
上記式2中の「第1の圧電体34の平均厚さT」の測定方法について説明する。
上記第1の圧電体34の平均厚さTは、本開示の圧電基材を用いて以下の方法により測定される値とする。
圧電基材の長軸方向と直交する任意の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察し、上記断面における任意の6箇所について第1の圧電体の厚さを測定し、その平均値を第1の圧電体の平均厚さTとする。
即ち、第1の圧電体の平均厚さTとは、内部導体及び第1の圧電体間の隙間、並びに、第1の圧電体及び外部導体間の隙間(つまり内部導体及び外部導体間の隙間)を考慮せずに算出される値を意味する。
また、第1の圧電体が他の部材(例えば、第2の圧電体、絶縁体など)と組紐構造をなす場合、組紐構造の表面は膨らんでいる部分(凸部分)と凹んでいる部分(凹部分)が存在する。このようなときは、圧電基材の長軸方向と直交する任意の断面を観察する際、組紐構造の凸部分に相当する任意の3箇所と凹部分に相当する任意の3箇所の厚さ(つまり組紐構造の厚さ)をそれぞれ測定し、その平均値を第1の圧電体の平均厚さTとする。
上記式2中の「内部導体32の平均半径a」の測定方法について説明する。
上記内部導体32の平均半径aは、本開示の圧電基材を用いて以下の方法により測定される値とする。
まず、内部導体の平均直径を測定する。具体的には、圧電基材の長軸方向と直交する任意の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察し、上記断面における内部導体の最大の直径と最小の直径との和を2で割った値を「内部導体の平均直径」とする。内部導体32の平均半径aは、上記「内部導体の平均直径」を2で割った値とする。
本開示の圧電基材では、上記のようにして算出した内部導体の平均半径を、上記式2中の「a」とし、内部導体の平均半径及び第1の圧電体の平均厚さTの合計の長さを、上記式2中の「b」とする。
ここで、本開示の圧電基材は、「静電容量測定値/静電容量理論値」が0.5以上であるが、圧電感度をより向上させる観点から、「静電容量測定値/静電容量理論値」は0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。
なお、「静電容量測定値/静電容量理論値」の上限は、1であることがよいが、圧電基材の製造適性の観点から、0.95以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることがより好ましい。
本開示において、静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5を満たす圧電基材は、内部導体の外周面への第1の圧電体の被覆方法を調整することで得られやすい。
第1の圧電体の被覆方法としては、内部導体の外周面に対し、内部導体が見えないように、かつ隣接する第1の圧電体同士が重ならないように第1の圧電体を被覆(好ましくは一方向に螺旋状に巻回)することが好ましい。
これにより、内部導体及び外部導体間に、第1の圧電体より比誘電率が低い空気層(隙間)が形成されにくくなるため、静電容量がより大きくなりやすい(上記式2参照)。
より詳細には、内部導体の外周面に対し、第1の圧電体を、内部導体が見えないように、かつ隣接する第1の圧電体同士が重ならないように被覆することにより、内部導体及び外部導体間の隙間が小さく調整されるため、静電容量測定値が静電容量理論値により近づきやすくなる。その結果、静電容量が大きくなり、圧電感度が向上する。
また、上記被覆方法において、内部導体の外周面に対して第1の圧電体を一方向に螺旋状に巻回する場合、第1の圧電体の巻き数を調整することが好ましい。これにより、内部導体の露出が抑えやすくなるので、静電容量をより大きくすることができる。
なお、第1の圧電体の巻き数は、内部導体の直径や、第1の圧電体の厚さ及び幅などに応じて適宜選択すればよい。
次に、本開示の圧電基材の好ましい態様について説明する。
本開示の圧電基材において、
第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
第1の圧電体の長さ方向と、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
下記式(b)によって求められる第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であることが好ましい。
配向度F=(180°−α)/180°・・(b)
(式(b)中、αはX線回折により測定される配向由来のピークの半値幅を表す。)
ここで、第1の圧電体の配向度Fは、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の配向の度合いを示す指標であり、例えば、広角X線回折装置(リガク社製 RINT2550、付属装置:回転試料台、X線源:CuKα、出力:40kV、370mA、検出器:シンチレーションカウンター)により測定されるc軸配向度である。
なお、第1の圧電体の配向度Fの測定方法の例は、後述の実施例に示すとおりである。
より詳細には、上記態様の圧電基材では、第1の圧電体がヘリカルキラル高分子(A)を含むこと、第1の圧電体の長さ方向とヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向とが略平行であること、及び、第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満であることにより圧電性が発現される。
これにより、圧電基材に例えば張力を印加した場合に、より発生電荷量が増加する。
また、本開示の圧電基材において、第1の圧電体は、長尺状であり、内部導体の外周面に沿って一方向に螺旋状に巻回されていることが好ましい。
ここで、「一方向」とは、本開示の圧電基材を内部導体の軸方向の一端側から見たときに、第1の圧電体が内部導体の手前側から奥側に向かって巻回されている方向をいう。具体的には、右方向(右巻き、即ち時計周り)又は左方向(左巻き、即ち反時計周り)をいう。
また、第1の圧電体が長尺状であることにより、内部導体の軸方向に対して、第1の圧電体が螺旋角度βを保持して一方向に螺旋状に配置されやすくなる。
ここで、「螺旋角度β」とは、内部導体の軸方向と、内部導体の軸方向に対して第1の圧電体が配置される方向(第1の圧電体の長さ方向)とがなす角度を意味する。
これにより、例えば、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、ヘリカルキラル高分子(A)の分極が、圧電基材の径方向に発生しやすくなる。この結果、効果的に張力に比例した電圧信号(電荷信号)が検出され、圧電感度が向上しやすい。
さらに、本開示の圧電基材は、同軸ケーブルに備えられる内部構造と同一の同軸線構造体(内部導体及び誘電体)を備えるため、例えば、上記圧電基材を同軸ケーブルに適用した場合、電磁シールド性が高く、ノイズに強い構造となり得る。
本開示の圧電基材において、圧電感度を向上する観点から、第1の圧電体は、内部導体の軸方向に対して、15°〜75°(45°±30°)の角度(つまり螺旋角度β)を保持して巻回されていることが好ましく、35°〜55°(45°±10°)の角度を保持して巻回されていることがより好ましい。
これにより、圧電基材の長さ方向に張力(応力)が印加されたときに、ヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わりやすく、圧電基材の径方向にヘリカルキラル高分子(A)の分極が生じやすい。
また、本開示の圧電基材では、第1の圧電体を一方向に螺旋状に配置することにより、圧電基材の長さ方向に張力(応力)が印加されたときに、ヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、圧電基材の径方向にヘリカルキラル高分子(A)の分極が生じる。その分極方向は、螺旋状に巻回された第一の圧電体を、その長さ方向に対して平面と見做せる程度の微小領域の集合体とみなした場合、その構成する微小領域の平面に、張力(応力)に起因したずり力がヘリカルキラル高分子に印加された場合、圧電定数d14に起因して発生する電界の方向と略一致する。
具体的には、例えばポリ乳酸においては、分子構造が左巻き螺旋構造からなるL−乳酸のホモポリマー(PLLA)の場合、PLLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、内部導体に対して、左巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の中心から外側方向への電界(分極)が発生する。また、これとは逆にPLLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、内部導体に対して、右巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加された場合、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の外側から中心方向への電界(分極)が発生する。
また、例えば分子構造が右巻き螺旋構造からなるD−乳酸のホモポリマー(PDLA)の場合、PDLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、内部導体に対して、左巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に略平行に、張力と垂直な円状断面の円の外側から中心方向への電界(分極)が発生する。また、これとは逆にPDLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、内部導体に対して、右巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の中心から外側方向への電界(分極)が発生する。
これにより、圧電基材の長さ方向に張力が印加された際、螺旋状に配置された第1の圧電体の各部位において、張力に比例した電位差が位相の揃った状態で発生するため、効果的に張力に比例した電圧信号が検出されると考えられる。
これにより、圧電感度により優れた圧電基材が得られやすい。
また、本開示の圧電基材は、内部導体に対して、圧電体を右巻きに螺旋状に巻回し、かつ一部の圧電体を左巻きに螺旋状に巻回した構造体を含むものであってもよい。一部の圧電体を左巻きに螺旋状に巻回した場合、圧電感度の低下を抑制する観点から、左巻きの割合は全体(右巻き及び左巻きの合計)に対して50%未満であることが好ましい。
また、本開示の圧電基材は、内部導体に対して、圧電体を左巻きに螺旋状に巻回し、かつ一部の圧電体を右巻きに螺旋状に巻回した構造体を含むものであってもよい。一部の圧電体を右巻きに螺旋状に巻回した場合、圧電感度の低下を抑制する観点から、右巻きの割合は全体(右巻き及び左巻きの合計)に対して50%未満であることが好ましい。
ここで、第1の圧電体の長さ方向と、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であることは、第1の圧電体が長さ方向への引張に強い(即ち、長さ方向の引張強度に優れる)という利点を有する。従って、第1の圧電体を、内部導体に対して一方向に螺旋状に巻回しても破断しにくくなる。
更に、第1の圧電体の長さ方向と、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であることは、例えば、延伸された圧電フィルムをスリットして第1の圧電体(例えばスリットリボン)を得る際の生産性の面でも有利である。
本明細書中において、「略平行」とは、2つの線分のなす角度が、0°以上30°未満(好ましくは0°以上22.5°以下、より好ましくは0°以上10°以下、更に好ましくは0°以上5°以下、特に好ましくは0°以上3°以下)であることを指す。
また、本明細書中において、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向とは、ヘリカルキラル高分子(A)の主たる配向方向を意味する。ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、第1の圧電体の配向度Fを測定することによって確認できる。
また、原料を溶融紡糸した後にこれを延伸して、第1の圧電体を製造する場合、製造された第1の圧電体におけるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、主延伸方向を意味する。主延伸方向とは、延伸方向を指す。
同様に、フィルムの延伸及び延伸されたフィルムのスリットを形成して第1の圧電体を製造する場合、製造された第1の圧電体におけるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、主延伸方向を意味する。ここで、主延伸方向とは、一軸延伸の場合には延伸方向を指し、二軸延伸の場合には、延伸倍率が高い方の延伸方向を指す。
また、本開示の圧電基材は、さらに、内部導体の外周面に沿って前記一方向とは異なる方向に螺旋状に巻回された長尺状の第2の圧電体を備え、
第2の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
第2の圧電体の長さ方向と、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(b)によって求められる第2の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
第1の圧電体と第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなし、
第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なることも好ましい。
これにより、例えば、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)、及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の両方に分極が生じる。分極方向はいずれも圧電基材の径方向である。
これにより、より効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。この結果、圧電感度がより向上しやすい。
また、第1の圧電体と第2の圧電体とで組紐構造を形成することより、組紐構造を形成しない場合に比べ、圧電基材が屈曲変形させるような力が働いた際にも、しなやかに屈曲変形し易くなる。そのため、上記組紐構造を有する圧電基材は3次元平面に沿わすような、例えばウェアラブル製品(例えば、圧電織物、圧電編物、圧電デバイス、力センサー、生体情報取得デバイス等)の一構成部材として好適に使用できる。
ただし、静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5を満たす観点から、第1の圧電体及び第2の圧電体間の隙間は小さい方が好ましい。
また、本開示の圧電基材は、さらに、内部導体の外周面に沿って巻回された絶縁体を備え、
第1の圧電体と絶縁体とは交互に交差された組紐構造をなすことも好ましい。
これにより、圧電基材の屈曲変形時において、第1の圧電体が内部導体に対して一方向に巻回した状態が保持されやすくなる。
ただし、第1の圧電体に張力がかかりやすくなる観点から、第1の圧電体及び絶縁体間の隙間は小さい方が好ましい。
次に、本開示の圧電基材に含まれる内部導体、第1の圧電体、及び外部導体などについて説明する。
<内部導体>
圧電基材における内部導体は、信号線導体であることが好ましい。信号線導体とは、第1の圧電体から効率的に電気的信号を検出するための導体を意味する。より具体的には、圧電基材に張力が印加されたときに、印加された張力に応じた電圧信号(電荷信号)を検出するための導体である。
内部導体は、芯材と、芯材の周囲を被覆する導体Aとを備えるコード状の物体を用いることができる。このような構成の内部導体は、錦糸線とも称される。
また、内部導体として導電性繊維を用いることもできる。導電性繊維としては、導電性を示すものであればよく、公知のあらゆるものが用いられ、例えば、金属繊維、導電性高分子からなる繊維、炭素繊維、繊維状もしくは粒状の導電性フィラーを分散させた高分子からなる繊維、又は繊維状物の表面に導電性を有する層を設けた繊維が挙げられる。繊維状物の表面に導電性を有する層を設ける方法としては、金属コート、導電性高分子コート、導電性繊維の巻付けなどが挙げられる。なかでも金属コートが導電性、耐久性、柔軟性などの観点から好ましい。金属をコートする具体的な方法としては、蒸着、スパッタ、電解メッキ、無電解メッキなどが挙げられるが、生産性などの観点から電解メッキ又は無電解メッキが好ましい。このような金属がメッキされた繊維は金属メッキ繊維ということができる。
芯材と導体Aの種類を適切に選択することで、高い屈曲性や可とう性(例えば、衣服に内装するウェアラブルセンサー等の用途)に好適な圧電基材を得ることができる。
内部導体として具体的には、例えば、綿糸等の短繊維を撚糸した繊維、ポリエテステル糸、ナイロン糸等の長繊維などを芯材として、その周囲に金属箔が螺旋状に巻回された構造を有するものが挙げられる。
芯材の周囲に金属箔を巻回して内部導体を作製する場合、金属箔は平角線状であることが好ましい。平角線状の金属箔は、金属線を圧延したり、金属箔を細幅にスリットしたりすることで作製できる。金属箔を平角線状にすることで、内部導体の周囲に巻き付けられる第1の圧電体との間の空隙を減らし、第1の圧電体への密着性を高めることができる。その結果、第1の圧電体から発生する電荷変動を検出しやすくなり、張力に対する感度がより向上する。
金属箔が平角線状である場合、その断面(好ましくは、矩形状断面)において、厚さに対する幅の比率は、2以上であることが好ましい。
金属箔の材質は特に制限されないが、銅箔が好ましい。電気伝導度の高い銅を用いることで、出力インピーダンスを低下することが可能となる。従って、圧電基材に張力が印加されたときに、張力に応じた電圧信号がより検出されやすくなる。この結果、圧電感度がより向上する傾向にある。また、銅箔は屈曲変形時に弾性変形領域の変形に収まり、塑性変形しにくくなるため、金属疲労破壊が起こりにくくなり、繰り返し屈曲耐性を著しく向上させることが可能となる。
内部導体における芯材は、内部導体の中心に位置し、張力を支える構造材としての機能を有する。芯材の材質、断面積等を適宜選択することで、内部導体に付与される張力、歪量等の値にあわせた設計が可能となる。
芯材の材質は特に制限されず、圧電基材の所望の特性に応じて選択できる。屈曲性と強度を高いレベルで両立する観点からは、天然繊維、合成繊維等の繊維(フィラメント)が挙げられる。
芯材の太さは特に制限されず、圧電基材の所望の特性に応じて選択できる。例えば、線外径が0.1mm〜10mmの範囲内であることが好ましい。
<第1の圧電体>
本開示の圧電基材は、第1の圧電体を備える。
第1の圧電体は、圧電感度を向上する観点から、長尺平板形状又は繊維形状を有することが好ましい。
以下、長尺平板形状を有する圧電体(以下、長尺平板状圧電体ともいう)、及び繊維形状を有する圧電体(以下、繊維状圧電体ともいう)について順に説明する。
−長尺平板状圧電体−
第1の圧電体として、長尺平板状圧電体を用いることにより、内部導体に対する密着面を大きくでき、効率的に圧電効果により発生した電荷を電圧信号として検出することが可能となる。
以下、長尺平板状圧電体の寸法に関し、より詳細に説明する。
長尺平板状圧電体の平均厚さ(以下、単に「厚さ」ともいう)は、0.001mm〜0.2mmであることが好ましい。長尺平板状圧電体の厚さが0.001mm以上であると、充分な強度が確保される傾向にある。更に、製造適性にも優れる傾向にある。一方、長尺平板状圧電体の厚さが0.2mm以下であると、厚さ方向の変形の自由度(柔軟性)が向上する傾向にある。
長尺平板状圧電体の幅は、0.1mm〜30mmであることが好ましく、0.5mm〜15mmであることがより好ましい。長尺平板状圧電体の幅が0.1mm以上であると、充分な強度が確保される傾向にある。更に、製造適性(例えば、後述するスリット工程における製造適性)にも優れる傾向にある。一方、長尺平板状圧電体の幅が30mm以下であると、変形の自由度(柔軟性)が向上する傾向にある。
長尺平板状圧電体の厚さに対する幅の比(以下、「比〔幅/厚さ〕」ともいう)は、2以上であることが好ましい。長尺平板状圧電体の比〔幅/厚さ〕が2以上であると、主面が明確となるので、長尺平板状圧電体の長さ方向に渡って向きを揃えて外部導体を形成し易い。
長尺平板状圧電体の幅は、0.5mm〜15mmであることがより好ましい。長尺平板状圧電体の幅が0.5mm以上であると、強度がより向上する傾向にある。更に、長尺平板状圧電体のねじれをより抑制できるので、圧電感度及びその安定性がより向上する傾向にある。一方、長尺平板状圧電体の幅が15mm以下であると、長尺平板状圧電体の変形の自由度(柔軟性)がより向上する傾向にある。
長尺平板状圧電体は、幅に対する長さの比(以下、比〔長さ/幅〕ともいう)が、10以上であることが好ましい。長尺平板状圧電体の比〔長さ/幅〕が10以上であると、変形の自由度(柔軟性)がより向上する。
長尺平板状圧電体の製造方法には特に限定はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、圧電フィルムから長尺平板状圧電体を製造する方法としては、原料をフィルム状に成形して未延伸フィルムを得、得られた未延伸フィルムに対し、延伸及び結晶化を施し、得られた圧電フィルムをスリットする(圧電フィルムを長尺状にカットする)ことにより得ることができる。
また、公知のフラットヤーン製法を用いて長尺平板状圧電体を製造してもよい。例えば、インフレーション成形により得られた幅広のフィルムをスリットして細幅のフィルムにした後、熱板延伸、ロール延伸等による延伸、及び結晶化を施すことにより、長尺平板状圧電体を得てもよい。
なお、上記延伸及び結晶化は、いずれが先であってもよい。また、未延伸フィルムに対し、予備結晶化、延伸、及び結晶化(アニール)を順次施す方法であってもよい。延伸は、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよい。二軸延伸の場合には、好ましくは一方(主延伸方向)の延伸倍率を高くする。
圧電フィルムの製造方法については、特許第4934235号公報、国際公開第2010/104196号、国際公開第2013/054918号、国際公開第2013/089148号、等の公知文献を適宜参照できる。
−繊維状圧電体−
第1の圧電体として、繊維状圧電体を用いることにより、より柔軟性と可撓性に優れた形態として利用することができ、効率的に圧電効果により発生した電荷を電圧信号として検出することが可能となる。
繊維形状としては特に制限はないが、例えば、単繊維の形状、繊維束(複数の繊維からなる束)の形状が挙げられる。
以下、繊維状圧電体の寸法に関し、より詳細に説明する。
繊維状圧電体の、内部導体の長軸方向と直交する断面の平均長軸径(以下、単に「長軸径」ともいう)は、圧電感度を向上する観点から、0.0001mm〜10mmであることが好ましく、0.001mm〜5mmであることがより好ましく、0.002mm〜1mmであることが更に好ましい。
繊維状圧電体の長軸径が0.0001mm以上であると、強度がより向上する傾向にある。一方、繊維状圧電体の長軸径が10mm以下であると、繊維状圧電体の変形の自由度(柔軟性)がより向上する傾向にある。
ここで、「断面の長軸径」は、繊維状圧電体の断面が円形状である場合、「直径」に相当する。
繊維状圧電体の断面が円形とは異なる形状である場合、「断面の長軸径」は、断面における最も長い距離とする。
繊維状圧電体が繊維束からなる圧電体の場合、「断面の長軸径」とは、繊維束からなる圧電体の断面の長軸径とする。
具体的に、繊維状圧電体としては、例えば、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸が挙げられる。
・モノフィラメント糸
モノフィラメント糸の単糸繊度は、好ましくは3dtex〜30dtexであり、より好ましくは5dtex〜20dtexである。
単糸繊度が3dtex未満になると、織物準備工程や製織工程において糸を取り扱うことが困難となる。一方、単糸繊度が30dtexを超えると、糸間で融着が発生し易くなる。
モノフィラメント糸は、コストの点を考慮すれば直接的に紡糸、延伸して得ることが好ましい。なお、モノフィラメント糸は入手したものであってもよい。
・マルチフィラメント糸
マルチフィラメント糸の総繊度は、好ましくは30dtex〜600dtexであり、より好ましくは100dtex〜400dtexである。
マルチフィラメント糸は、例えば、スピンドロー糸などの一工程糸の他、UDY(未延伸糸)やPOY(高配向未延伸糸)などを延伸して得る二工程糸のいずれもが採用可能である。なお、マルチフィラメント糸は入手したものであってもよい。
ポリ乳酸系モノフィラメント糸、ポリ乳酸系マルチフィラメント糸の市販品としては、東レ製のエコディア(R)PLA、ユニチカ製のテラマック(R)、クラレ製プラスターチ(R)が使用可能である。
繊維状圧電体の製造方法には特に限定はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、繊維状圧電体としてのフィラメント糸(モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸)は、原料(例えばポリ乳酸)を溶融紡糸した後、これを延伸することにより得ることができる(溶融紡糸延伸法)。なお、紡出後において、冷却固化するまでの糸条近傍の雰囲気温度を一定温度範囲に保つことが好ましい。
また、フィラメント糸は、例えば、上記溶融紡糸延伸法で得られたフィラメント糸をさらに分繊することにより得てもよい。
(ヘリカルキラル高分子(A))
本開示における第1の圧電体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含むことが好ましい。
ここで、「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」とは、分子構造が螺旋構造であり分子光学活性を有する高分子を指す。
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
上記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。
上記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
ヘリカルキラル高分子(A)は、第1の圧電体の圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、96.00%ee以上であることがより好ましく、99.00%ee以上であることがさらに好ましく、99.99%ee以上であることがさらにより好ましい。望ましくは100.00%eeである。ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
ここで、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、
『「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値である。
なお、ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
上記ヘリカルキラル高分子(A)は、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される構造単位を含む主鎖を有する高分子であることが好ましい。
Figure 0006934314
上記式(1)で表される構造単位を主鎖とする高分子としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。
ここで、ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸(L−乳酸及びD−乳酸から選ばれるモノマー由来の構造単位のみからなる高分子)」、「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
ポリ乳酸系高分子の中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA、単に「L体」ともいう)又はD−乳酸のホモポリマー(PDLA、単に「D体」ともいう)が最も好ましい。
ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子である。
ポリ乳酸は、ラクチドを経由するラクチド法;溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法;などによって製造できることが知られている。
ポリ乳酸としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
上記「L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸;グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸及びこれらの無水物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール;セルロース等の多糖類;α−アミノ酸等のアミノカルボン酸;等を挙げることができる。
上記「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーが挙げられる。
また、ヘリカルキラル高分子(A)中におけるコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)が、ポリ乳酸系高分子である場合、ポリ乳酸系高分子中における、乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、コポリマー成分に由来する構造の濃度が20mol%以下であることが好ましい。
ポリ乳酸系高分子は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法;米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法;などにより製造することができる。
さらに、上記各製造方法により得られたポリ乳酸系高分子は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
−重量平均分子量−
ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)は、5万〜100万であることが好ましい。
ヘリカルキラル高分子(A)のMwが5万以上であることにより、第1の圧電体の機械的強度が向上する。上記Mwは、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
一方、ヘリカルキラル高分子(A)のMwが100万以下であることにより、成形(例えば押出成形、溶融紡糸)によって第1の圧電体を得る際の成形性が向上する。上記Mwは、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
また、ヘリカルキラル高分子(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、第1の圧電体の強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
なお、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて測定された値を指す。ここで、Mnは、ヘリカルキラル高分子(A)の数平均分子量である。
以下、GPCによるヘリカルキラル高分子(A)のMw及びMw/Mnの測定方法の一例を示す。
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
第1の圧電体を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。
ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
ヘリカルキラル高分子(A)の例であるポリ乳酸系高分子としては、市販のポリ乳酸を用いることができる。
市販品としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks LLC社製のIngeoTM biopolymer、等が挙げられる。
ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を用いるときに、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、又は直接重合法によりポリ乳酸系高分子を製造することが好ましい。
本開示における第1の圧電体は、上述したヘリカルキラル高分子(A)を、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本開示における第1の圧電体中におけるヘリカルキラル高分子(A)の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、第1の圧電体の全量に対し、80質量%以上が好ましい。
(安定化剤)
第1の圧電体は、更に、一分子中に、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を含有することが好ましい。これにより、耐湿熱性をより向上させることができる。
安定化剤(B)としては、国際公開第2013/054918号の段落0039〜0055に記載された「安定化剤(B)」を用いることができる。
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にカルボジイミド基を含む化合物(カルボジイミド化合物)としては、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物、環状カルボジイミド化合物が挙げられる。
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、等が好適である。
また、ポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド、等が挙げられる。
環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報に記載の方法などに基づいて合成することができる。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成社製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA−1(商品名)、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)としては、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、等が挙げられる。
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にエポキシ基を含む化合物(エポキシ化合物)としては、フェニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
安定化剤(B)の重量平均分子量は、上述のとおり200〜60000が好ましく、200〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。
分子量が上記範囲内ならば、安定化剤(B)がより移動しやすくなり、耐湿熱性改良効果がより効果的に奏される。
安定化剤(B)の重量平均分子量は、200〜900であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量200〜900は、数平均分子量200〜900とほぼ一致する。また、重量平均分子量200〜900の場合、分子量分布が1.0である場合があり、この場合には、「重量平均分子量200〜900」を、単に「分子量200〜900」と言い換えることもできる。
以下、安定化剤(B)の具体例(安定化剤B−1〜B−3)を示す。
Figure 0006934314
以下、上記安定化剤B−1〜B−3について、化合物名、市販品等を示す。
・安定化剤B−1 … 化合物名は、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドである。重量平均分子量(この例では、単なる「分子量」に等しい)は、363である。市販品としては、ラインケミー社製「Stabaxol I」、東京化成社製「B2756」が挙げられる。
・安定化剤B−2 … 化合物名は、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約2000のものとして、日清紡ケミカル社製「カルボジライトLA−1」が挙げられる。
・安定化剤B−3 … 化合物名は、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約3000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P」が挙げられる。また、重量平均分子量20000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P400」が挙げられる。
第1の圧電体が安定化剤(B)を含有する場合、上記第1の圧電体は、安定化剤を1種のみ含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
第1の圧電体が安定化剤(B)を含む場合、安定化剤(B)の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.01質量部〜5質量部であることがより好ましく、0.1質量部〜3質量部であることがさらに好ましく、0.5質量部〜2質量部であることが特に好ましい。
上記含有量が0.01質量部以上であると、耐湿熱性がより向上する。
また、上記含有量が10質量部以下であると、透明性の低下がより抑制される。
安定化剤(B)の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、且つ、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、且つ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)とを併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)の重量平均分子量は、大凡200〜900であり、安定化剤(B1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
安定化剤として安定化剤(B1)と安定化剤(B2)とを併用する場合、安定化剤(B1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましい。
具体的には、安定化剤(B1)100質量部に対して、安定化剤(B2)が10質量部〜150質量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、50質量部〜100質量部の範囲であることがより好ましい。
<その他の成分>
第1の圧電体は、必要に応じ、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の公知の樹脂;シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の公知の無機フィラー;フタロシアニン等の公知の結晶核剤;安定化剤(B)以外の安定化剤;等が挙げられる。
無機フィラー及び結晶核剤としては、国際公開第2013/054918号の段落0057〜0058に記載された成分を挙げることもできる。
(配向度F)
本開示における第1の圧電体の配向度Fは、上述したとおり、0.5以上1.0未満であることが好ましく、0.7以上1.0未満であることがより好ましく、0.8以上1.0未満であることが更に好ましい。
第1の圧電体の配向度Fが0.5以上であれば、延伸方向に配列するヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖(例えばポリ乳酸分子鎖)が多く、その結果、配向結晶の生成する率が高くなり、より高い圧電性を発現することが可能となる。
第1の圧電体の配向度Fが1.0未満であれば、縦裂強度が更に向上する。
(結晶化度)
本開示における第1の圧電体の結晶化度は、上述のX線回折測定(広角X線回折測定)によって測定される値である。
本開示における第1の圧電体の結晶化度は、好ましくは20%〜80%であり、より好ましくは25%〜70%であり、更に好ましくは30%〜60%である。
結晶化度が20%以上であることにより、圧電性が高く維持される。結晶化度が80%以下であることにより、第1の圧電体の透明性が高く維持される。
結晶化度が80%以下であることにより、例えば、第1の圧電体の原料となる圧電フィルムを延伸によって製造する際に白化や破断がおきにくいので、第1の圧電体を製造しやすい。また、結晶化度が80%以下であることにより、例えば、第1の圧電体の原料(例えばポリ乳酸)を溶融紡糸後に延伸によって製造する際に屈曲性が高く、しなやかな性質を有する繊維となり、第1の圧電体を製造しやすい。
(透明性(内部ヘイズ))
本開示における第1の圧電体において、透明性は特に要求されないが、透明性を有していてももちろん構わない。
第1の圧電体の透明性は、内部ヘイズを測定することにより評価することができる。ここで、第1の圧電体の内部ヘイズとは、第1の圧電体の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズを指す。
第1の圧電体は、透明性が要求される場合には、可視光線に対する内部ヘイズが5%以下であることが好ましく、透明性及び縦裂強度をより向上させる観点からは、2.0%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。第1の圧電体の前記内部ヘイズの下限値は特に限定はないが、下限値としては、例えば0.01%が挙げられる。
第1の圧電体の内部ヘイズは、厚さ0.03mm〜0.05mmの第1の圧電体に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色社製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値である。
以下、第1の圧電体の内部ヘイズの測定方法の例を示す。
まず、ガラス板2枚の間に、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んだサンプル1を準備し、このサンプル1の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H2)とする)を測定する。
次に、上記のガラス板2枚の間に、シリコーンオイルで表面を均一に塗らした複数の第1の圧電体を隙間なく並べて挟んだサンプル2を準備し、このサンプル2の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H3)とする)を測定する。
次に、下記式のようにこれらの差をとることにより、第1の圧電体の内部ヘイズ(H1)を得る。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
ここで、ヘイズ(H2)及びヘイズ(H3)の測定は、それぞれ、下記測定条件下で下記装置を用いて行う。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
(機能層)
必要に応じ、圧電基材は機能層を備えていてもよい。機能層の種類は特に制限されず、用途に応じて選択できる。例えば、接着層、ハードコート層、帯電防止層、アンチブロック層、保護層、及び電極層からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。圧電基材が機能層を備えることで、例えば、圧電デバイス、力センサー、アクチュエータ、生体情報取得デバイスへの適用がより容易になる。機能層は、1層のみでも2層以上であってもよく、2層以上の機能層を備える場合は種類が異なる機能層を備えてもよい。
圧電基材が機能層を備える場合、圧電体の少なくとも一方の主面の側に機能層が設けられた状態であってもよい。圧電体の両方の主面に機能層が設けられている場合は、オモテ面側に配置される機能層及びウラ面側に配置される機能層は、同じ機能層であっても、異なる機能層であってもよい。
機能層の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.01μm〜10μmの範囲が好ましい。上記厚さの上限値は、より好ましくは6μm以下であり、更に好ましくは3μm以下である。また、下限値はより好ましくは0.01μm以上であり、更に好ましくは0.02μm以上である。機能層が複数の機能層からなる場合には、上記厚さは複数の機能層の厚さの合計を表す。
本開示の圧電基材において、機能層は、電極層を含むことが好ましい。圧電基材が電極層を備えることで、圧電基材を、例えば、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサー、アクチュエータ、生体情報取得デバイスの構成要素の一つとして用いた場合に、内部導体と外部導体との接続をより簡易に行うことができる。そのため、圧電基材に張力が印加されたときに、張力に応じた電圧信号が検出されやすくなる。
圧電基材が機能層を備える場合の態様としては、第1の圧電体の少なくとも一方の面に機能層が配置された積層体の状態が挙げられる。この場合、第1の圧電体と、機能層と、が積層体の状態であり、積層体の一方面に表面層として電極層を有することが好ましい。
(接着層)
圧電基材は、内部導体と第1の圧電体との間に接着層を備えることが好ましい。第1の圧電体が接着層を備えることで、内部導体と第1の圧電体との相対位置がずれにくくなる。このため、第1の圧電体に張力がかかりやすくなり、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子にずり応力が印加されやすくなる。従って、効果的に張力に比例した電圧出力を内部導体(好ましくは信号線導体)から検出することが可能となる。また、接着層を備えることで、単位引張力当たりの発生電荷量の絶対値がより増加する傾向にある。
なお、本明細書において「接着」は「粘着」を包含する概念である。また、「接着層」は「粘着層」を包含する概念である。
接着層を形成する接着剤の材料は、特に制限されない。例えば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤、(EVA)系エマルション形接着剤、アクリル樹脂系エマルション形接着剤、スチレン・ブタジエンゴム系ラテックス形接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、α−オレフィン(イソブテン−無水マレイン酸樹脂)系接着剤、塩化ビニル樹脂系溶剤形接着剤、ゴム系接着剤、弾性接着剤、クロロプレンゴム系溶剤形接着剤、ニトリルゴム系溶剤形接着剤等、シアノアクリレート系接着剤等を用いることが可能となる。
接着層は、弾性率が第1の圧電体の弾性率と同じかそれ以上であることが好ましい。この場合は、圧電基材に印加された張力による歪(圧電歪)が接着層で緩和されにくく、第1の圧電体への歪の伝達効率が維持されやすい。そのため、圧電基材を、例えばセンサー(好ましくは力センサー)に適用した場合、センサーの感度が良好に維持される。
接着層の厚さは、圧電基材と第1の圧電体との間に空隙ができず、接合強度が低下しない範囲であれば薄ければ薄い程よい。接合部位の厚さを小さくすることで、圧電基材に印加された張力による歪が接着剤部分で緩和されにくく、第1の圧電体への歪の伝達効率が維持されやすい。そのため、圧電基材を、例えばセンサー(好ましくは力センサー)に適用した場合、センサーの感度が良好に維持される。
<外部導体>
本開示の圧電基材は、第1の圧電体の外周に配置された外部導体を備える。
本開示における外部導体は、グラウンド導体であることが好ましい。
グラウンド導体とは、信号を検出する際、例えば、内部導体(好ましくは信号線導体)の対となる導体を指す。
グラウンド導体には特に限定はないが、断面形状によって、主に以下のものが挙げられる。
例えば、矩形断面を有するグラウンド導体としては、円形断面の銅線を圧延して平板状に加工した銅箔リボンや、アルミ箔リボンなどを用いることが可能である。
例えば、円形断面を有するグラウンド導体としては、銅線、アルミ線、SUS線、絶縁皮膜被覆された金属線、カーボンファイバー、カーボンファイバーと一体化した樹脂繊維、繊維に銅箔がスパイラルに巻回された錦糸線を用いることが可能である。
また、グラウンド導体として、有機導電材料を絶縁材料でコーティングしたものを用いてもよい。
また、グラウンド導体として導電性繊維を用いることもできる。導電性繊維は、既述の内部導体として適用できる導電性繊維と同義であり、その好ましい範囲も同様である。
グラウンド導体は、内部導体(好ましくは信号線導体)と短絡しないように、内部導体及び第1の圧電体を包むように配置されていることが好ましい。
このような内部導体の包み方としては、銅箔などを螺旋状に巻回して包む方法や、銅線などを筒状の組紐にして、その中に包みこむ方法などを選択することが可能である。
なお、内部導体の包み方は、これら方法に限定されない。内部導体を包み込むことにより、静電シールドすることが可能となり、外部の静電気の影響による、内部導体の電圧変化を防ぐことが可能となる。
また、グラウンド導体の配置は、本開示における内部導体及び第1の圧電体を円筒状に包接するように配置することも好ましい形態の一つである。
グラウンド導体の断面形状は、円形状、楕円形状、矩形状、異形状など様々な断面形状を適用することが可能である。特に、矩形断面は、内部導体(好ましくは信号線導体)、第1の圧電体、必要に応じて絶縁体、第2の圧電体などに対して、平面で密着することが可能となるため、効率的に圧電効果により発生した電荷を電圧信号として検出することが可能となる。
<第2の圧電体>
本開示の圧電基材は、長尺状の第2の圧電体を備えることがある。
第2の圧電体は、第1の圧電体と同様の特性を有していることが好ましい。
即ち、第2の圧電体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
第2の圧電体の長さ方向と、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(a)によって求められる第2の圧電体の配向度Fは0.5以上1.0未満の範囲であることが好ましい。
第2の圧電体は、上記以外の特性においても、第1の圧電体と同様の特性を有していることが好ましい。
但し、第1の圧電体及び第2の圧電体の巻回方向、並びに、第1の圧電体及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティについては、本開示の効果がより奏される観点から、圧電基材の態様に応じて適宜選択すればよい。
なお、第1の圧電体及び第2の圧電体の巻回方向、並びに、第1の圧電体及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティの好ましい組み合わせの一例については、前述の第2実施形態で説明した通りである。
また、第2の圧電体は、第1の圧電体と異なる特性を有していてもよい。
<絶縁体>
本開示の圧電基材は、絶縁体を備えることがある。例えば第2実施形態の圧電基材は、絶縁体を備えることがある。
絶縁体は、内部導体の外周面に沿って螺旋状に巻回されることが好ましい。この場合、第1の圧電体と絶縁体とは交互に交差された組紐構造をなすことが好ましい。
なお、絶縁体の巻回方向は、第1の圧電体の巻回方向と同じ方向であってもよく、異なる方向であってもよい。
第2実施形態に係る圧電基材では、第1の圧電体と絶縁体とで組紐構造を形成することにより、圧電基材が屈曲変形する時に、内部導体と外部導体の電気的短絡の発生を抑制しやすくなるという利点がある。
絶縁体としては、特に限定はないが、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロプロピルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ素ゴム、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ゴム(エラストマーを含む)等が挙げられる。
絶縁体の形状は、内部導体に対する巻回の観点から、長尺形状であることが好ましい。
以下、本開示の圧電基材の第1実施形態〜第5実施形態について順に説明する。
〔第1実施形態〕
図1Aに、第1実施形態に係る圧電基材を構成する同軸線構造体の側面図を示し、図1Bに、第1実施形態に係る圧電基材の側面図を示し、図1Cに、図1BのX−X’線断面図を示す。
図1Aに示すように、圧電基材100(図1B参照)を構成する同軸線構造体10は、長尺状の内部導体12Aと、長尺状の第1の圧電体14Aとを備えている。
図1Aに示すように、第1の圧電体14Aは、内部導体12Aの外周面に沿って、螺旋角度β1で一端から他端にかけて、内部導体12Aが見えないように一方向に螺旋状に隙間なく巻回されている。
「螺旋角度β1」とは、内部導体12Aの軸方向G1と、内部導体12Aの軸方向に対する第1の圧電体14Aの配置方向とがなす角度を意味する。
また、同軸線構造体10では、第1の圧電体14Aは、内部導体12Aに対して左巻きで巻回している。具体的には、同軸線構造体10を内部導体12Aの軸方向の一端側(図1Aの場合、右端側)から見たときに、第1の圧電体14Aは、内部導体12Aの手前側から奥側に向かって左巻きで巻回している。
また、図1A中、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、両矢印E1で示されている。即ち、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、第1の圧電体14Aの配置方向(第1の圧電体14Aの長さ方向)とは、略平行となっている。
図1Bに示すように、第1実施形態に係る圧電基材100は、図1Aに示す同軸線構造体10の外周に、外部導体16が一方向に螺旋状に巻回されて配置されている。即ち、圧電基材100は、内側から順に、長尺状の内部導体12Aと、長尺状の第1の圧電体14Aと、外部導体16と、を備えている。
以下、第1実施形態に係る圧電基材100の作用について説明する。
例えば、圧電基材100の長さ方向に張力が印加されると、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、ヘリカルキラル高分子(A)は分極する。このヘリカルキラル高分子(A)の分極は、図1C中、矢印で示されるように、圧電基材100の径方向(同軸線構造体10の径方向)に生じ、その分極方向は位相が揃えられて生じると考えられる。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
特に、第1実施形態に係る圧電基材100では、内部導体12Aの外周面に沿って内部導体12Aが見えないように、第1の圧電体14Aを一方向に螺旋状に隙間なく巻回しているため、内部導体12Aと第1の圧電体14Aとの密着性が高まり、内部導体12A及び外部導体16間に隙間が形成されにくくなる。これにより、静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5(式(a))を満たす圧電基材100が得られ、その結果、圧電基材100に張力を印加したときに、上記式(a)を満たさない圧電基材に比べ発生電荷量が増加する。
従って、圧電基材100によれば、圧電感度に優れたものとなる。
なお、第1実施形態に係る圧電基材100は上記形態に限定されない。例えば、圧電基材100では、内部導体12Aと第1の圧電体14Aとの間に接着層が配置されていてもよい。これにより、圧電基材100の長さ方向に張力が印加されても、第1の圧電体14Aと内部導体12Aとの相対位置がずれにくくなるため、第1の圧電体14Aに張力がより印加されやすくなる。
また、圧電基材100においては、同軸線構造体10の外周面に、外部導体16を一方向に螺旋状に巻回して配置したが、外部導体16の配置方法はこれに限定されない。即ち、外部導体16は第1の圧電体14Aの外周の少なくとも一部に配置されていればよい。また、外部導体16の巻回方向も特に限定されない。
次に、第2実施形態に係る圧電基材について説明する。なお、以下の説明では、第1実施形態に係る圧電基材と同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。
〔第2実施形態〕
図2Aに、第2実施形態に係る圧電基材を構成する同軸線構造体の側面図を示し、図2Bに、第2実施形態に係る圧電基材の側面図を示す。
図2Aに示すように、圧電基材100A(図2B参照)を構成する同軸線構造体10Aは、長尺状の第2の圧電体14Bを備えている点、及び、第1の圧電体14A及び第2の圧電体14Bが組紐構造をなしている点が第1実施形態に係る圧電基材100と異なる。
具体的には、図2Aに示すように、同軸線構造体10Aは、第1の圧電体14Aが、内部導体12Aの軸方向G2に対し、螺旋角度β1で一端から他端にかけて左巻きで螺旋状に巻回され、第2の圧電体14Bが螺旋角度β2で一端から他端にかけて右巻きで螺旋状に巻回され、かつ第1の圧電体14A及び第2の圧電体14Bが交互に交差されて組紐構造をなしている。即ち、第1の圧電体14A及び第2の圧電体14Bは、内部導体12Aの外周面に対し、内部導体12Aが見えないように組紐構造を形成している。
「右巻きで螺旋状に巻回」とは、同軸線構造体10Aを内部導体12Aの軸方向の一端側(図2Aの場合、右端側)から見たときに、第2の圧電体14Bが、内部導体12Aの手前側から奥側に向かって右巻きで巻回していることを意味する。
「螺旋角度β2」とは、前述の螺旋角度β1と同義である。
また、同軸線構造体10Aの組紐構造において、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向(両矢印E1)と、第1の圧電体14Aの配置方向とは、略平行となっている。同様に、第2の圧電体14Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向(両矢印E2)と、第2の圧電体14Bの配置方向とは、略平行となっている。
図2Bに示すように、第2実施形態に係る圧電基材100Aは、図2Aに示す同軸線構造体10Aの外周面に、外部導体16が一方向に螺旋状に巻回されて配置されている。即ち、圧電基材100Aは、内側から順に、長尺状の内部導体12Aと、組紐構造をなす第1の圧電体14A及び第2の圧電体14Bと、外部導体16と、を備えている。
以下、第2実施形態に係る圧電基材100Aの作用について説明する。
例えば、圧電基材100Aの長さ方向に張力が印加されると、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)及び第2の圧電体14Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)両方にずり応力が印加され、分極が生じる。分極方向はいずれも圧電基材100Aの径方向(同軸線構造体10Aの径方向)に生じ、かつ位相が揃えられて生じると考えられる。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
特に、第2実施形態に係る圧電基材100Aでは、内部導体12Aの外周面に沿って、第1の圧電体14Aと第2の圧電体14Bとで組紐構造を形成することにより、組紐構造を形成しない場合に比べ、圧電基材が屈曲変形させるような力が働いた際にも、しなやかに屈曲変形しやすくなる。これにより、例えば圧電基材に引張力を印加したときの発生電荷量が増加しやすくなる。
従って、圧電基材100Aによれば、圧電感度に優れたものとなる。
ただし、静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5を満たす観点から、第1の圧電体及び第2の圧電体間の隙間が小さく調整されるように、上記組紐構造を形成することが好ましい。
次に、第3実施形態に係る圧電基材について説明する。なお、以下の説明では、第1、2実施形態に係る圧電基材と同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。
〔第3実施形態〕
第3実施形態に係る圧電基材(不図示)は、第2実施形態に係る圧電基材100Aの第2の圧電体14Bを絶縁体に置き換えた圧電基材である。
即ち、第3実施形態に係る圧電基材では、第1の圧電体14Aが、内部導体12Aの軸方向G2に対し、螺旋角度β1で一端から他端にかけて左巻きで螺旋状に巻回され、絶縁体が螺旋角度β2で一端から他端にかけて右巻きで螺旋状に巻回され、かつ第1の圧電体14A及び絶縁体が交互に交差されて組紐構造をなしている。
第3実施形態に係る圧電基材では、絶縁体として、第1の圧電体14Aと同等以上の柔軟性を有する絶縁体を用いることにより、例えば圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)にずり応力が印加されやすくなる。即ち分極が生じやすくなる。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
また、第3実施形態に係る圧電基材においても、第2実施形態に係る圧電基材と同様に、第1の圧電体と絶縁体とで組紐構造を形成することにより、組紐構造を形成しない場合に比べ、圧電基材が屈曲変形させるような力が働いた際にも、しなやかに屈曲変形しやすくなる。これにより、例えば圧電基材に引張力を印加したときの発生電荷量が増加しやすくなる。
従って、第3実施形態に係る圧電基材においても、圧電感度に優れたものとなる。
ただし、静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5を満たす観点から、第1の圧電体及び絶縁体の隙間が小さく調整されるように、上記組紐構造を形成することが好ましい。
なお、第3実施形態に係る圧電基材は上記形態に限定されない。例えば絶縁体の巻回方向は上記形態に限定されない。
〔第4実施形態及び第5実施形態の圧電基材〕
本開示の圧電基材としては、張力が印加されたときに生じる電荷(電界)を電圧信号として取り出す構成に限定されず、例えば、ねじり力が印加されたときに生じる電荷(電界)を電圧信号として取り出す構成であってもよい。
第4実施形態の圧電基材100B及び第5実施形態の圧電基材100Cは、図7〜図10に示すように、内部導体としての長尺状の内部導体12Aと、長尺状の第1の圧電体14Aと、内部導体12Aと第1の圧電体14Aとの間に配置された接着層(不図示)と、第1の圧電体14Aの外表面に配置された外部導体13と、を備えている。また、圧電基材100B、100Cでは、第1の圧電体14Aは、内部導体12Aに対して、主配向方向(両矢印E1)に螺旋状に巻回されており、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向(両矢印E1)と、第1の圧電体14Aの配置方向とは、略平行となっている。
第4実施形態の圧電基材100Bは、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)がL−乳酸のホモポリマー(PLLA)であり、一方、第5実施形態の圧電基材100Cは、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)がD−乳酸のホモポリマー(PDLA)である。第4実施形態の圧電基材100Bにおけるねじり方向と発生分極方向との関係を図7、図8に示し、第5実施形態の圧電基材100Cにおけるねじり方向と発生分極方向との関係を図9、図10に示す。
図7において、圧電基材100Bに螺旋軸を中心軸として矢印X1方向のねじり力が印加されたとき、螺旋状に巻回された第1の圧電体14Aにずり応力が印加され、円形断面の中心方向から外側方向にPLLAの分極が生じる。一方、図8において、圧電基材100Bに螺旋軸を中心軸として矢印X1方向と反対の矢印X2方向のねじり力が印加されたとき、螺旋状に巻回された第1の圧電体14Aにずり応力が印加され、円形断面の外側方向から中心方向にPLLAの分極が生じる。したがって、圧電基材100Bにおいて、ねじり力に比例した電荷(電界)が発生し、発生した電荷は電圧信号(電荷信号)として検出される。
また、図9において、圧電基材100Cに螺旋軸を中心軸として矢印X1方向のねじり力が印加されたとき、螺旋状に巻回された第1の圧電体14Aにずり応力が印加され、円形断面の外側方向から中心方向にPDLAの分極が生じる。一方、図10において、圧電基材100Cに螺旋軸を中心軸として矢印X1方向と反対の矢印X2方向のねじり力が印加されたとき、螺旋状に巻回された第1の圧電体14Aにずり応力が印加され、円形断面の中心方向から外側方向にPDLAの分極が生じる。したがって、圧電基材100Cにおいて、ねじり力に比例した電荷(電界)が発生し、発生した電荷は電圧信号(電荷信号)として検出される。
<圧電基材の製造方法>
本開示の圧電基材の製造方法には特に限定はないが、例えば、第1の圧電体を準備して、別途準備した内部導体(好ましくは信号線導体)に対して、第1の圧電体を被覆し(好ましくは一方向に螺旋状に巻回し)、第1の圧電体の外周に外部導体(好ましくはグラウンド導体)を配置することにより製造することができる。
第1の圧電体は、公知の方法で製造したものであっても、入手したものであってもよい。
また、本開示の圧電基材が、必要に応じて第2の圧電体、絶縁体を備える場合、かかる圧電基材は、第1の圧電体を螺旋状に巻回する方法に準じて、製造することができる。
但し、第1の圧電体及び第2の圧電体の巻回方向、並びに、第1の圧電体及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティについては、前述の通り、圧電基材の態様に応じて適宜選択することが好ましい。
なお、内部導体及び外部導体の少なくとも一方と第1の圧電体との間、必要に応じて、本開示の圧電基材に備えられる各部材間を、例えば前述の方法により接着剤を介して貼り合わせてもよい。
<圧電基材の使用態様>
本開示の圧電基材(例えば第1実施形態に係る圧電基材)は、例えば引張力を印加することで、引張力に比例したずり歪が、ヘリカルキラル(A)に印加され、電圧信号(電荷信号)として内部導体及び外部導体の少なくとも一方から検出される。圧電基材に引張力を印加する方法としては、様々な方法があり、圧電基材に直接張力を印加する方法、又は図11A及び図11Bに示すように、平板52に粘着テープ51を用いて圧電基材100(第1実施形態に係る圧電基材、以下同様)を貼り付けて平板付き圧電基材50とし、平板52に押圧力を印加し、平板52に生じる撓み変形を介して圧電基材100へ張力を印加して電圧信号を検出してもよい。なお、図11Aは、粘着テープ51を用いて平板52を貼り付けた圧電基材100(平板付き圧電基材50)を示す概略図であり、図11Bは粘着テープ51を用いて平板52を貼り付けた圧電基材100(平板付き圧電基材50)を押圧したときの概略図である。
圧電基材100を平板52に貼り付けて機械的に一体化するための方法としては、様々な方法が挙げられる。例えば、図12に示すように、セロハンテープ、ガムテープ等の粘着テープ51を用いて圧電基材100の一部を平板52に貼り付ける方法、図13に示すように、エポキシ樹脂等の熱硬化性接着剤、ホットメルト接着剤等の熱可塑性接着剤等の接着剤61を用いて圧電基材100の一部を平板52に貼り付ける方法などが挙げられる。
図12における平板付き圧電基材60では、粘着テープ51を用いて圧電基材100の一部が平板52に貼り付けられており、平板52上にFPC(フレキシブルプリント基板)54が配置されており、FPC54上に圧電基材100と導通する銅箔53が配置されている。また、平板付き圧電基材60は、圧電基材100に引張力が印加されて検出された圧電信号を検出して処理する信号処理回路ユニット55を備えている。また、図13における平板付き圧電基材70では、粘着テープ51の代わりに接着剤61を用いて圧電基材100の一部が平板52に貼り付けられている点以外は、上述の平板付き圧電基材60と同様である。
また、圧電基材を貼り付ける対象としては、上述の平板の他、曲面などから構成される電子回路の筐体の内側又は外側等に貼り付けてもよい。
<圧電基材の用途>
本開示の圧電基材は、例えば、センサー用途(着座センサー等の力センサー、圧力センサー、変位センサー、変形センサー、振動センサー、超音波センサー、生体センサー、ラケット、ゴルフクラブ、バット等の各種球技用スポーツ用具の打撃時の加速度センサーやインパクトセンサー等、ぬいぐるみのタッチ・衝撃センサー、ベッドの見守りセンサー、ガラスや窓枠等のセキュリティセンサー等)、アクチュエータ用途(シート搬送用デバイス等)、エネルギーハーベスティング用途(発電ウェア、発電靴等)、ヘルスケア関連用途(Tシャツ、スポーツウェア、スパッツ、靴下等の各種衣類、サポーター、ギプス、おむつ、乳幼児用手押し車のシート、車いす用シート、医療用保育器のマット、靴、靴の中敷、時計等に本センサーを設けた、ウェアラブルセンサー等)などとして利用することができる。
また本開示の圧電基材は各種衣料(シャツ、スーツ、ブレザー、ブラウス、コート、ジャケット、ブルゾン、ジャンパー、ベスト、ワンピース、ズボン、パンツ、下着(スリップ、ペチコート、キャミソール、ブラジャー)、靴下、手袋、和服、帯地、金襴、冷感衣料、ネクタイ、ハンカチーフ、マフラー、スカーフ、ストール、アイマスク)、サポーター(首用サポーター、肩用サポーター、胸用サポーター、腹用サポーター、腰用サポーター、腕用サポーター、足用サポーター、肘用サポーター、膝用サポーター、手首用サポーター、足首用サポーター)、履物(スニーカー、ブーツ、サンダル、パンプス、ミュール、スリッパ、バレエシューズ、カンフーシューズ)、インソール、タオル、リュックサック、帽子(ハット、キャップ、キャスケット、ハンチング帽、テンガロンハット、チューリップハット、サンバイザー、ベレー帽)、帽子顎紐、ヘルメット、ヘルメット顎紐、頭巾、ベルト、シートカバー、シーツ、座布団、クッション、布団、布団カバー、毛布、枕、枕カバー、ソファー、イス、デスク、テーブル、シート、座席、便座、マッサージチェア、ベッド、ベッドパット、カーペット、かご、マスク、包帯、ロープ、ぬいぐるみ、各種ネット、バスタブ、壁材、床材、窓材、窓枠、ドア、ドアノブ、パソコン、マウス、キーボード、プリンタ、筐体、ロボット、楽器、義手、義足、自転車、スケートボード、ローラースケート、ゴムボール、シャトルコック、ハンドル、ペダル、釣竿、釣用浮き、釣用リール、釣竿受け、ルアー、スイッチ、金庫、柵、ATM、取っ手、ダイアル、橋、建物、構造物、トンネル、化学反応容器及びその配管、空圧機器及びその配管、油圧機器及びその配管、蒸気圧機器及びその配管、モータ、電磁ソレノイド、ガソリンエンジン等の各種物品に配設され、センサー、アクチュエータ、エネルギーハーベスト用途に使用される。
配設方法としては、例えば、圧電基材を対象物に縫い込む、対象物で挟み込む、対象物に粘接着剤で固定する等の各種方法が挙げられる。
例えば、圧電織物、圧電編物、及び圧電デバイスは、これらの用途に適用することができる。
上記用途の中でも、本開示の圧電基材は、センサー用途、又はアクチュエータ用途として利用することが好ましい。
具体的に、本開示の圧電基材は、力センサーに搭載して利用されるか、又は、アクチュエータに搭載して利用されることが好ましい。
また、前述の圧電基材、圧電織物、圧電編物、及び圧電デバイスは、応力によって発生する電圧を電界効果トランジスタ(FET)のゲート・ソース間に加えることでFETのスイッチングが可能であり、応力によってON−OFFが可能なスイッチとして利用することもできる。
本開示の圧電基材は、上述した用途以外のその他の用途に用いることもできる。
その他の用途としては、寝返り検知のための寝具、移動検知のためのカーペット、移動検知のためのインソール、呼吸検知のための胸部バンド、呼吸検知のためのマスク、りきみ検知のための腕バンド、りきみ検知のための足バンド、着座検知のための着座シート、接触状態を判別できる、ぬいぐるみ、ぬいぐるみ型ソーシャルロボット等が挙げられる。接触状態を判別できる、ぬいぐるみ、ぬいぐるみ型ソーシャルロボット等では、例えば、ぬいぐるみ等に局所的に配置された接触センサーによって圧力変化を検出し、人がぬいぐるみ等を「撫でた」のか「たたいた」のか「ひっぱった」のか等の各動作を判別することができる。
また、本開示の圧電基材は、例えば、車載用途;振動・音響センシングを利用した自動車ハンドル把持検出用途、振動・音響センシングを利用した共振スペクトラムによる車載機器操作システム用途、車載ディスプレイのタッチセンサー用途、振動体用途、自動車ドア及び自動車ウィンドウの挟まれ検知センサー用途、車体振動センサー用途等に特に適している。
本開示の圧電基材には公知の取出し電極を接合することができる。取出し電極としては、コネクター等の電極部品、圧着端子などが挙げられる。電極部品は、半田付けなどのろう付け、導電性接合剤等により圧電基材と接合することができる。
〔力センサー〕
本開示に係る力センサーは、上述の圧電基材を備える。
本開示に係る力センサーは、圧電感度に優れた圧電基材を備えるので、センサー感度の向上が期待される。
以下、本開示の実施形態に係る力センサーの具体的態様について、図面を参照しながら説明する。
図14は、本開示に係る力センサーの概念図である。
本開示に係る力センサー40は、圧電基材100Dと、圧電基材100Dの外周に配置された円筒形状のゴム系熱収縮チューブ(以下、単に「収縮チューブ」とも称する)44と、収縮チューブ44の両端部に配置された一対の圧着端子(取出し電極)46と、を備える。一対の圧着端子46は、本体部46aと、圧着部46bとからなり、中央部に貫通孔46cを有する。圧電基材100Dは、内部導体12Cと、内部導体12Cの周りに一方向に螺旋状に巻回された第1の圧電体14Dと、第1の圧電体14Dの外周面に一方向に螺旋状に巻回された外部導体42(グラウンド導体)と、を備える。
圧電基材100Dにおいては、内部導体12Cの一端(図14の右端)が、収縮チューブ44の外側に延在して、圧着部46bで圧着されて圧着端子46に電気的に接続されている。一方、外部導体42は、内部導体12Cの一端側から他端側に向かって巻回された後、内部導体12Cの他端(図14の左端)を越えて延在し、その延在部分が収縮チューブ44内で応力緩和部42aを形成している。
外部導体42は、この応力緩和部42aを経た後、収縮チューブ44のさらに外側(図14の左端)に延在して、圧着部46bで圧着されて圧着端子46に電気的に接続されている。
応力緩和部42aは、図14に示すように、たるんだ外部導体42からなる。上記応力緩和部42aにおいては、力センサー40に張力(応力)が印加されたときに、たるんだ部分が延びることで第1の圧電体14Dに過度な力が負荷されるのを抑制する。
また、第1の圧電体14Dは、長尺平板形状の圧電体からなり、両面には機能層としてアルミ蒸着膜(不図示)が蒸着されている。なお、一対の圧着端子46は、力センサー40の出力信号を処理する外部回路等(不図示)に接続されている。
なお、図14で示した実施形態では、応力緩和部42aとしてたるんだ外部導体42が配置されているが、本開示の実施形態はこれに限定されず、圧電基材100Dの少なくともいずれか一方の端部又は両端部に、線状の応力緩和部を接着、糸結び目等の方法等により張力が伝達するように配置することにより応力を緩和する機能を力センサー40に付与してもよい。
このとき線状の応力緩和部には電気的な接続の機能は存在しないが、電気的接続機能は、応力緩和部とは独立に、圧電基材の端部から内部導体及び外部導体を同軸ケーブル等に接続することにより、応力や歪の電圧信号を検出することが可能となる。
このとき応力緩和部の材料及び形態は特に限定されず、例えば、天然ゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等の伸縮性のある弾性材料からなる糸、紐、チューブ等;リン青銅等の金属材料、線状のポリマー等からなるスプリング;等が挙げられる。応力緩和部と電気的接続部とをそれぞれ独立に別の部位に配置することにより、電気的接続部の最大伸長量に起因する応力緩和部の歪量の制限が無くなり、張力センサーとしての最大歪量を増大させることが可能となる。
以下、本開示の力センサー40の作用について説明する。
力センサー40に張力(応力)が印加されると、圧電基材100Dに張力が印加され、圧電基材100Dの第1の圧電体14Dに含まれるヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、このずり力により圧電基材100Dの径方向にヘリカルキラル高分子(A)の分極が生じる。分極方向は圧電基材100Dの径方向である。これにより、張力に比例した電荷(電界)が発生し、発生した電荷は電圧信号(電荷信号)として検出される。なお、電圧信号は、圧着端子46に接続される外部回路等(不図示)で検出される。
特に、上記力センサー40では、内部導体12Cが見えないように、且つ、重ならないように内部導体12Cの周りに第1の圧電体14Dを一方向に螺旋状に巻回しているため、内部導体12C及び第1の圧電体14D間(つまり内部導体12C及び外部導体42間)に隙間が形成されにくい。これにより、静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5(式(a))を満たす圧電基材100Dを備える力センサー40が得られ、その結果、力センサー40に張力を印加したときに、上記式(a)を満たさない圧電基材を備える力センサーに比べ、より多くの電荷が発生する。
従って、上記力センサー40は感度に優れたものとなる。
また、本開示の力センサー40は、同軸ケーブルに備えられる内部構造と同一の同軸線構造体(内部導体12C及び第1の圧電体14D)を備えるため、電磁シールド性が高く、ノイズに強い構造となり得る。加えて、構造が簡易であるため、例えばウェアラブルセンサーとして、身体の一部に装着して用いることができる。
本開示の力センサーとしては、圧電基材に張力が印加されたときに生じる電荷(電界)を電圧信号として取り出す構成に限定されず、例えば、圧電基材にねじり力が印加されたときに生じる電荷(電界)を電圧信号として取り出す構成であってもよい。
〔アクチュエータ〕
本開示に係るアクチュエータは、上述の圧電基材を備える。
本開示に係るアクチュエータは、圧電感度に優れた圧電基材を備えるので、感度の向上が期待される。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<第1の圧電体(スリットリボン)の作製>
ヘリカルキラル高分子(A)としてのNatureWorks LLC社製ポリ乳酸(品名:IngeoTM biopolymer、銘柄:4032D)100質量部に対して、安定化剤〔ラインケミー社製Stabaxol P400(10質量部、重量平均分子量20000)、ラインケミー社製Stabaxol I(70質量部、重量平均分子量363)、及び日清紡ケミカル社製カルボジライトLA−1(20質量部、重量平均分子量2000)の混合物〕1.0質量部を添加し、ドライブレンドして原料を作製した。
作製した原料を押出成形機ホッパーに入れて、210℃に加熱しながらTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.3分間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化シートを製膜した(予備結晶化工程)。前記予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ6%であった。
得られた予備結晶化シートを70℃に加熱しながらロールツーロールで、延伸速度10m/分で延伸を開始し、3.5倍までMD方向に一軸延伸した(延伸工程)。
その後、前記一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、145℃に加熱したロール上に15秒間接触させアニール処理し、その後急冷を行って、圧電フィルムを作製した(アニール処理工程)。
次いで、スリット加工機を用いて、圧電フィルムをスリットする方向と圧電フィルムの延伸方向とが略平行となるようにスリットした。これにより、第1の圧電体(以下、単に「圧電体」ともいう)として、幅0.6mm、平均厚さ50μm、及び平均厚さに対する幅の比(幅/平均厚さ)が12である長尺平板形状のスリットリボンを得た。得られたスリットリボンの断面形状は矩形であった。
なお、スリットリボンの平均厚さは、以下の方法で求めた。
スリットリボンの長軸方向と直交する任意の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察し、上記断面における任意の6箇所についてスリットリボンの厚さを測定し、その平均値をスリットリボンの平均厚さとした。
<圧電体の物性測定>
得られた圧電体について、以下の物性測定を行った。結果を表1に示す。
<圧電体の配向度F>
測定は、広角X線回折装置(リガク社製 RINT2550、付属装置:回転試料台、X線源:CuKα、出力:40kV 370mA、検出器:シンチレーションカウンター)を用いて、サンプル(スリットリボン)をホルダーに固定し、結晶面ピーク[(110)面/(200)面]の方位角分布強度を測定することで行った。
得られた方位角分布曲線(X線干渉図)において、結晶化度、及びピークの半値幅(α)を求め、下記の式から圧電体の配向度F(C軸配向度)を算出した。
配向度(F)=(180°−α)/180°
(αは配向由来のピークの半値幅)
Figure 0006934314
<圧電体の比誘電率>
測定は、JIS C2151(2006)に準拠し、誘電率測定装置(アジレント・テクノロジー社製、precision LCR meter HP4284A)を用いて測定周波数1kHz、試験環境22℃、60%RHにて行った。その結果、圧電体(スリットリボン)の比誘電率εは2.75であった。
〔実施例1〕
<圧電基材の作製>
内部導体として半径が0.135mm、長さ100mmの錦糸線を準備した。この錦糸線に、上記のようにして得た幅0.6mm、平均厚さ50μmのスリットリボン(圧電体)を左巻きに、錦糸線の長軸方向に対して45°の角度(螺旋角度)で、錦糸線が見えないよう(露出しないよう)隙間なく、螺旋状に巻回し、錦糸線を包接した。これにより、錦糸線及びスリットリボンからなる同軸線構造体を得た。このときの錦糸線へのスリットリボンの巻回数は17回/cmである。
なお、「左巻き」とは、内部導体(錦糸線)の軸方向の一端(図1Aの場合、右端側)から見たときに、錦糸線の手前側から奥側に向かってスリットリボンが左巻きで巻回していることをいう。
次に、外部導体として幅0.6mm、厚さ100mmにスリットカットした銅箔リボンを準備した。この銅箔リボンを、前記スリットリボンと同様の方法により、同軸線構造体のスリットリボンの周りに、スリットリボンが見えないよう隙間なく巻回し包接した。
以上のようにして、実施例1の圧電基材を得た。
なお、圧電基材を用いて、錦糸線の平均半径a及びスリットリボンの平均厚さTを既述の方法で測定したところ、平均半径aは0.000135mであり、平均厚さTは0.00005mであった。
図3に、実施例1で得られた同軸線構造体の写真及び同軸線構造体に更に外部導体を配置した状態を示すI−I線に沿った模式断面図を示す。実施例1の圧電基材101は、同軸線構造体(錦糸線22及びスリットリボン24)と、その外周面に銅箔リボン26とを備えている。実施例1の圧電基材101は、錦糸線22に対し、スリットリボン24を錦糸線22が見えないよう隙間なく巻回したため、図3に示すように、錦糸線22及び銅箔リボン26間の隙間が小さく調整された構造であると考えられる。
〔比較例1〕
錦糸線に対してスリットリボンを、錦糸線が見えるように隙間を空けながら、螺旋状に巻回したこと以外は実施例1と同様にして圧電基材を得た。このときの錦糸線へのスリットリボンの巻回数は9回/cmである。
図4に、比較例1で得られた同軸線構造体の写真及び同軸線構造体に更に外部導体を配置した状態を示すII−II線に沿った模式断面図を示す。比較例1の圧電基材102は、同軸線構造体(錦糸線22及びスリットリボン24A)と、その外周面に銅箔リボン26Aとを備えている。比較例1の圧電基材102は、錦糸線22に対し、スリットリボン24Aを錦糸線22が見えるよう巻回したため、錦糸線22から銅箔リボン26Aまでの距離は図3と変わらないものの、錦糸線22及び銅箔リボン26A間に隙間Sが形成された構造であると考えられる。
〔比較例2〕
錦糸線に対してスリットリボンを、隣接するスリットリボン同士が0.1mmずつ重なるように螺旋状に巻回したこと以外は実施例1と同様にして圧電基材を得た。このときの錦糸線へのスリットリボンの巻回数は20回/cmである。
図5に、比較例2で得られた同軸線構造体の写真及び同軸線構造体に更に外部導体を配置した状態を示すIII−III線に沿った模式断面図を示す。比較例2の圧電基材103は、同軸線構造体(錦糸線22及びスリットリボン24B)と、その外周面に銅箔リボン26Bとを備えている。比較例2の圧電基材103は、スリットリボン24B同士を0.1mmずつ重ねて巻回したことから、錦糸線22から銅箔リボン26Bまでの距離が図3より長くなり、かつ錦糸線22及び銅箔リボン26B間に隙間Sが形成された構造であると考えられる。
<評価>
(単位引張力当たりの発生電荷量(感度))
実施例1及び比較例1、2の圧電基材を用い、圧電基材に引張力を印加したときに発生する電荷量(発生電荷量)を以下の方法で測定し、発生電荷量から単位引張力当たりの発生電荷量を算出した。結果を表2に示す。
具体的には、実施例1及び比較例1、2の圧電基材をサンプルとして、チャック間距離を50mmとした引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ社製テンシロンRTG1250)にチャックした。
引張試験機で、サンプルに対して、1.0N〜2.0Nの応力範囲で0.5Hzで周期的に三角波状に繰り返し印加し、その時のサンプルの表裏に発生する電荷量をエレクトロメータ(ケースレー社製617)で測定した。
測定した発生電荷量Q[C]をY軸とし、サンプルの引張力F[N]をX軸としたときの散布図の相関直線の傾きから、圧電基材の感度として、単位引張力当たりの発生電荷量を算出した。
(静電容量理論値)
錦糸線の平均半径a=0.000135m(0.00027/2)であり、スリットリボンの平均厚さT=0.00005mであり、スリットリボンの比誘電率ε=2.75であるため、既述の式2中に、a=0.000135m、b=0.000185m(錦糸線の平均半径a+スリットリボンの平均厚さTの合計の長さ)、ε=2.75、を当てはめ静電容量理論値を算出した。
この結果、静電容量理論値は、4.9×10−10F/m、即ち0.49pF/mmと算出された。
(静電容量測定値)
各例の圧電基材をサンプルとして、横河ヒューレットパッカード社製プレシジョンLCRメータ HP 4284Aを用いて静電容量を測定し、得られた値を静電容量測定値とした。なお、測定条件は以下の通りである。結果を表2に示す。
−測定条件−
周波数:1kHz
温度 :25℃
静電容量測定値から、下記式3により、静電容量理論値「0.49pF/mm」に対する各例の静電容量の比率(相対比率)を求めた。結果を表2に示す。
式3:静電容量の相対比率
=(各例でのサンプル1mmあたりの静電容量測定値[pF/mm]/サンプル1mmあたりの静電容量理論値[pF/mm])
Figure 0006934314
表2に示すように、静電容量の相対比率(静電容量測定値/静電容量理論値)が0.5以上である実施例1の圧電基材は、上記相対比率が0.5未満である比較例1、2の圧電基材に比べ、単位引張力当たりの発生電荷量が増加した。即ち、実施例1の圧電基材は、圧電感度に優れていた。
これは、錦糸線(内部導体)に対し、スリットリボン(圧電体)を錦糸線が見えないよう隙間なく巻回したことにより、内部導体及び外部導体間の隙間が小さく調整されたことに起因するものと考えられる。
10,10A,30 同軸線構造体、12A,12C,32 内部導体、14A,14D,34 第1の圧電体、13,16,42 外部導体、14B 第2の圧電体、22 錦糸線、24 スリットリボン、26 銅箔リボン、40 力センサー、42a 応力緩和部、44 収縮チューブ、46 圧着端子、46a 本体部、46b 圧着部、46c 貫通孔、50,60,70 平板付き圧電基材、51 粘着テープ、52 平板、53 銅箔、55 信号処理回路ユニット、61 接着剤、100,100A,100B,100C,100D,101 圧電基材

Claims (16)

  1. 長尺状の内部導体と、前記内部導体の外周面を被覆する第1の圧電体と、前記第1の圧電体の外周に配置された外部導体と、を備え、
    前記第1の圧電体が長尺状であり、
    前記第1の圧電体が、前記内部導体の外周面に沿って一方向に螺旋状に前記内部導体が見えないように巻回されており、
    下記式(a)を満たし、
    前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
    前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
    下記式(b)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲である圧電基材。
    静電容量測定値/静電容量理論値≧0.5・・(a)
    配向度F=(180°−α)/180°・・(b)
    (式(b)中、αはX線回折により測定される配向由来のピークの半値幅を表す。)
  2. 前記第1の圧電体は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部含む、請求項に記載の圧電基材。
  3. 前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)が、下記式(1)で表される構造単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である請求項又は請求項に記載の圧電基材。
    Figure 0006934314

  4. さらに、前記内部導体の外周面に沿って前記一方向とは異なる方向に巻回された長尺状の第2の圧電体を備え、
    前記第2の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
    前記第2の圧電体の長さ方向と、前記第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
    X線回折測定から前記式(b)によって求められる前記第2の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
    前記第1の圧電体と前記第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなし、
    前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、前記第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なる請求項〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
  5. さらに、前記内部導体の外周面に沿って巻回された絶縁体を備え、
    前記第1の圧電体と前記絶縁体とは交互に交差された組紐構造をなす請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
  6. 前記第1の圧電体が、前記内部導体の軸方向に対して、15°〜75°の角度を保持して巻回されている、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
  7. 前記第1の圧電体が繊維形状を有し、
    前記第1の圧電体の、前記内部導体の長軸方向と直交する断面の平均長軸径が、0.0001mm〜10mmである請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
  8. 前記第1の圧電体が長尺平板形状を有し、
    前記第1の圧電体の平均厚さが0.001mm〜0.2mmであり、
    前記第1の圧電体の幅が0.1mm〜30mmであり、
    前記第1の圧電体の平均厚さに対する前記第1の圧電体の幅の比が2以上である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
  9. 機能層をさらに備える、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
  10. 前記機能層が、易接着層、ハードコート層、帯電防止層、アンチブロック層、保護層、及び電極層からなる群より選択される少なくとも1種である請求項に記載の圧電基材。
  11. 前記機能層が電極層を含む、請求項又は請求項10に記載の圧電基材。
  12. 前記第1の圧電体と、前記機能層と、が積層体の状態であり、前記積層体の一方面に表面層として前記電極層を有する、請求項11に記載の圧電基材。
  13. 前記内部導体が錦糸線である請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の圧電基材。
  14. 前記内部導体と前記第1の圧電体との間に接着層をさらに備える請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の圧電基材。
  15. 請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の圧電基材を備える力センサー。
  16. 請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の圧電基材を備えるアクチュエータ。
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