本発明の複層フィルムの製造方法では、ヤング率が1000MPa以上である基材フィルムと、ヤング率が1000MPa未満である保護フィルムとを貼合する貼合工程を有する。
〔基材フィルム〕
基材フィルムのヤング率Y1は、強度が高い基材フィルムが得られるため、1000MPa以上であり、好ましくは1500MPa以上であり、より好ましくは2000MPa以上である。また、好ましくは5000MPa以下であり、より好ましくは3000MPa以下である。基材フィルムのヤング率Y1は、15mm×150mmの試験片を用いてJIS K7127に準拠して求めることができ、具体的には実施例において後述する方法により求めることができる。
基材フィルムの種類に特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂フィルムや熱硬化性樹脂フィルムなどが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂として、例えば、ビスフェノールAポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル樹脂、スチレン−無水マレイン酸樹脂、スチレン−マレイミド樹脂、スチレン系熱可塑エラストマー等の芳香族ビニル系樹脂又はその水素添加物;非晶性ポリオレフィン、結晶相を微細化した透明なポリオレフィン、エチレン−メタクリル酸メチル樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、スチレン−メタクリル酸メチル樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールやイソフタル酸などで部分変性されたポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等のポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルサルホン系樹脂;トリアセチルセルロース樹脂等のセルロース系樹脂;ポリフェニレンオキサイド系樹脂などが挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリル系樹脂とはメタクリル系樹脂及び/又はアクリル系樹脂を指す。(メタ)アクリル系樹脂は、イミド環化、ラクトン環化、メタクリル酸変性などにより改質した耐熱性(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。また熱硬化性樹脂フィルムを構成する熱硬化性樹脂として、例えば、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられる。基材フィルムを構成するこれらの樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。基材フィルムにおける熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の合計の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。
透明性及び成形性の点から、基材フィルムは熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましく、特に当該熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂であることがより好ましい。また耐衝撃性の点から、(メタ)アクリル系樹脂はエラストマーを含むことが好ましく、このような(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、硬質メタクリル系樹脂とエラストマーとを含む組成物が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂が硬質メタクリル系樹脂とエラストマーとを含む組成物である場合、当該組成物における硬質メタアクリル系樹脂とエラストマーとの合計の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。
上記の硬質メタクリル系樹脂におけるメタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、よりさらに好ましくは99質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。つまり、メタクリル酸メチル以外の単量体に由来する構造単位の割合が、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、よりさらにこの好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
係るメタクリル酸メチル以外の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−へキシル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−へキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;エテン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−オクテン等のオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセン等の共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬質メタクリル系樹脂の製造方法は特に限定されず、メタクリル酸メチルを好ましくは80質量%以上含有する1種又は複数種の単量体を、適した条件で重合することで得られる。
上記のエラストマーとしては、例えば、(メタ)アクリル系エラストマー;シリコーン系エラストマー;SEPS、SEBS、SIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDM等のオレフィン系エラストマーなどが挙げられる。これらのうち、透明性や靭性の観点から、(メタ)アクリル系エラストマーが好ましい。
(メタ)アクリル系エラストマーの種類に特に制限はなく、例えば、アクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位を主成分として含むアクリル系弾性重合体が挙げられる。当該アクリル系弾性重合体において、アクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位の含有量は、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは70〜99.8質量%である。当該アクリル酸非環状アルキルエステルにおける非環状アルキル基は、炭素数4〜8のもの、具体的には、例えばn−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基及びこれらの異性体基などが好ましい。また、当該アクリル系弾性重合体はアクリル酸非環状アルキルエステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよく、このような単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;スチレン、アルキルスチレン等のスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル;2−クロロエチルビニルエーテル;(メタ)アクリル酸エチレングリコール、エトキシ−ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ−トリエチレングリコールアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物アクリレート等のアルキレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
アクリル系弾性重合体は、上記のアクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位と架橋性単量体に由来する構造単位とをランダムに有するものであってもよい。当該架橋性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メタリル、マレイン酸ジアリル、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどを挙げることができる。アクリル系弾性重合体における架橋性単量体に由来する構造単位の含有率は、靭性の観点から、好ましくは0.2〜30質量%である。
また、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、(メタ)アクリル系エラストマーは、(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)、及び、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)とが結合した(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)は、単一重合体からなる粒子であってもよいし、異なる弾性率の重合体が少なくとも2つ層を形成した粒子であってもよい。(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)は、前述のアクリル系弾性重合体(アクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位を主成分として含む重合体)を含有する層と他の重合体を含有する層とからなる多層構造のコアシェル粒子であることが好ましく、アクリル系弾性重合体を含有する層とその外側を覆うメタクリル系重合体を含有する層とからなる2層構造のコアシェル粒子、又は、メタクリル系重合体を含有する層と、その外側を覆うアクリル系弾性重合体を含有する層と、そのさらに外側を覆うメタクリル系重合体を含有する層とからなる3層構造のコアシェル粒子であることがより好ましく、3層構造のコアシェル粒子であることがさらに好ましい。
コアシェル粒子を構成するメタクリル系重合体は、メタクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位を主成分として含む重合体であることが好ましい。当該メタクリル系重合体において、メタクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位の含有量は、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%である。当該メタクリル酸非環状アルキルエステルは、メタクリル酸メチルであることが好ましく、コアシェル粒子を構成するメタクリル系重合体は、メタクリル酸メチル単位を80〜100質量%を含有することが硬質メタクリル系重合体との混和性の観点から最も好ましい。
(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)は、透明性、靭性、接着性の観点から、その数平均粒径が、好ましくは150〜350nm、より好ましくは200〜300nmである。なお、(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)の数平均粒径は、(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)を硬質メタクリル系樹脂に溶融混練してなる試料を酸化ルテニウムで染色して観察される顕微鏡写真に基いて決定するものである。ここで、酸化ルテニウムはアクリル系弾性重合体を含有する層を染色するが、メタクリル系重合体を含有する層を染色しないので、上述の2層構造のコアシェル粒子や3層構造のコアシェル粒子の数平均粒径は、最外側にあるメタクリル系重合体を含有する層の厚さを含まない値に相当すると推定する。
(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)の製造方法に特に制限はなく、公知の手法(例えば、国際公開第2016/121868号等)に準じた方法により製造することができる。
(メタ)アクリル系樹脂が硬質メタクリル系樹脂と(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)とを含む組成物である場合における、硬質メタアクリル系樹脂と(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)との含有割合は、透明性、硬度、溶融粘度、靭性、滑り性、保護フィルムとの密着性などの観点から、硬質メタクリル系樹脂と(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)との合計100質量部に対する(メタ)アクリル系弾性体粒子(A)の含有量として、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは10〜25質量部、さらに好ましくは15〜20質量部である。
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)において、重合体ブロック(b1)と重合体ブロック(b2)の結合状態に特に制限はなく、例えば(b1)−(b2)で表現されるジブロック共重合体;(b1)−(b2)−(b1)又は(b2)−(b1)−(b2)で表現されるトリブロック共重合体;(b1)−((b2)−(b1))n、(b1)−((b2)−(b1))n−(b2)、(b2)−((b1)−(b2))n(nは整数)で表現されるマルチブロック共重合体;((b1)−(b2))n−X、((b2)−(b1))n−X(Xはカップリング残基)で表現されるスターブロック共重合体などが挙げられる。生産性の観点から、(b1)−(b2)で表現されるジブロック共重合体、(b2)−(b1)−(b2)又は(b1)−(b2)−(b1)で表現されるトリブロック共重合体が好ましく、溶融時の樹脂組成物の流動性、並びに基材フィルムの表面平滑性及びヘーズの観点から、(b2)−(b1)−(b2)で表現されるトリブロック共重合体がより好ましい。この場合、重合体ブロック(b1)の両末端に結合する2つの重合体ブロック(b2)は、構成する単量体の種類、メタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合、重量平均分子量及び立体規則性の其々が独立に、同一であっても異なっていてもよい。また、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)は他の重合体ブロックをさらに含有してもよい。
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)を構成する重合体ブロック(b1)は、アクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。重合体ブロック(b1)におけるアクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
係るアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどが挙げられる。これらのアクリル酸エステルを1種単独で又は2種以上を組み合わせて重合することによって、重合体ブロック(b1)を形成できる。中でも、経済性、耐衝撃性などの観点から、重合体ブロック(b1)はアクリル酸n−ブチルを単独で重合したものが好ましい。
重合体ブロック(b1)はアクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよく、その割合は好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
係るアクリル酸エステル以外の単量体としては、例えば、メタクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらのアクリル酸エステル以外の単量体を1種単独で又は2種以上併用して前述のアクリル酸エステルと共重合することで重合体ブロック(b1)を形成できる。
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)を構成する重合体ブロック(b2)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。重合体ブロック(b2)におけるメタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
係るメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性、耐熱性を向上させる観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。これらのメタクリル酸エステルを1種単独で又は2種以上を組み合わせて重合することによって、重合体ブロック(b2)を形成できる。
重合体ブロック(b2)はメタクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよく、その割合は好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
係るメタクリル酸エステル以外の単量体としては、例えば、アクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらのメタクリル酸エステル以外の単量体を1種単独で又は2種以上を併用して前述のメタクリル酸エステルと共重合することで重合体ブロック(b2)を形成できる。
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)における重合体ブロック(b2)の割合は、透明性、表面硬度、成形加工性、表面平滑性、耐衝撃性の観点から、重合体ブロック(b1)と重合体ブロック(b2)の合計100質量%に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは43質量%以上であり、さらに好ましくは47質量%以上である。また、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは65質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)の製造方法は特に限定されず、公知の手法(例えば、国際公開第2016/121868号等)に準じた方法を採用することができる。例えば、各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法が一般に使用され、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いてアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法;有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いて有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法;有機希土類金属錯体を重合開始剤として用いて重合する方法;α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として用いて銅化合物の存在下でラジカル重合する方法などが挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、各ブロックを構成するモノマーを重合させ、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。
(メタ)アクリル系樹脂が硬質メタクリル系樹脂と(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)とを含む組成物である場合における、硬質メタクリル系樹脂と(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)との含有割合は、表面硬度及び耐衝撃性の観点から、硬質メタクリル系樹脂と(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)との合計100質量部に対する(メタ)アクリル系ブロック共重合体(B)の含有量として、好ましくは1〜35質量部、より好ましくは8〜25質量部、さらに好ましくは12〜21質量部である。
基材フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤、例えば高分子加工助剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、染料、充填剤、耐衝撃助剤などを含有してもよい。添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。なお、基材フィルムの力学物性及び表面硬度の観点から、発泡剤、充填剤、艶消し剤、光拡散剤、軟化剤や可塑剤は多量に含有しないことが好ましい。基材フィルムにおける添加剤の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であってもよい。
基材フィルムの材料の調製方法に特に制限はなく、例えば、上記した熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を、あるいはこれと必要に応じて添加される上記各種添加剤とを溶融混練する方法が挙げられる。混練を行うための装置としては、例えばニーダールーダー、二軸押出機、一軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどを挙げることができる。これらのうち二軸押出機が混練性の観点から好ましく、ベント付二軸押出機が着色抑制の観点からより好ましい。ベント付二軸押出機では減圧にして又は窒素を流通させて運転することが好ましい。溶融混練する際のせん断速度は10〜1000/secであることが好ましい。混練時の温度は好ましくは110〜300℃、より好ましくは180〜300℃、さらに好ましくは230〜270℃である。押出機で溶融混練された樹脂組成物はストランド状に押し出され、ペレタイザ等でカットしてペレットにすることができる。
基材フィルムは、前述の基材フィルムの材料を成形することによって得られる。成形方法は特に限定されない。例えば押出成形(Tダイ法など)、射出成形、圧縮成形、インフレーション成形、ブロー成形、カレンダー成形、キャスト成形、真空成形などの公知の成形方法を採用することができ、押出成形法が好ましく採用される。押出成形法、特にTダイ法によれば、改善された靭性を持ち、取扱い性に優れ、靭性と表面硬度及び剛性とのバランスに優れた基材フィルムを得ることができる。押出成形法、特にTダイ法に用いられる押出機は、1軸スクリュー又は2軸スクリューを有することが好ましい。また、基材フィルムの着色を抑制する観点から、ベントを使用して減圧下で溶融押出しすることが好ましい。さらに、均一な厚さの基材フィルムを得る観点から、押出機にギアポンプを接続し、更にフィッシュアイ欠点を低減させるためにポリマーフィルターを通して溶融押出しすることが好ましい。さらに、酸化劣化を抑制する観点から、窒素気流下での溶融押出しを行うことが好ましい。押出機から吐出される材料の温度は好ましくは230〜290℃、より好ましくは240〜280℃である。
基材フィルムの表面平滑性及び厚さ均一性の観点から、押し出されたフィルム状溶融樹脂を、鏡面ロール又は鏡面ベルトの間に引き取り挟圧することが好ましい。鏡面ロール又は鏡面ベルトは、いずれも金属製であることが好ましい。鏡面ロール又は鏡面ベルト間の線圧は、表面平滑性の観点から、好ましくは10N/mm以上であり、より好ましく30N/mm以上である。鏡面ロール又は鏡面ベルトの表面温度は、表面平滑性、ヘーズ、外観などの観点から、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上である。また、好ましくは130℃以下であり、より好ましくは100℃以下である。
基材フィルムは、フィルム状に成形した後、延伸処理を施したものでもよい。延伸処理によって基材フィルムの機械的強度が向上し、ひび割れし難くなる。延伸方法は特に限定されず、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法、圧延法などが挙げられる。延伸時の温度は、好ましくは材料のガラス転移温度より5℃高い温度以上であり、好ましくは材料のガラス転移温度より40℃高い温度以下である。材料が複数のガラス転移温度を有する場合、最も高い値を係る延伸温度の基準として採用する。延伸の速度は好ましくは100〜5000%/分である。延伸処理は延伸工程の後に熱固定工程を有することが好ましい。熱固定によって、熱収縮の少ない基材フィルムを得ることができる。
基材フィルムは着色されていてもよい。着色方法としては、例えば基材フィルムを形成する材料自体に顔料又は染料を含有させて、フィルム化前の材料自体を着色する方法;染料が分散した液中に基材フィルムを浸漬して着色させる染色法などが挙げられる。
基材フィルムは少なくとも一方の面に印刷が施されていてもよい。印刷によって絵柄、文字、図形などの模様、色彩が付与される。模様は有彩色のものであってもよいし、無彩色のものであってもよい。
基材フィルムは少なくとも一方の面に、金属及び/又は金属酸化物よりなる層、他の熱可塑性樹脂層などの他の層が積層された積層フィルムであってもよい。他の層を積層する方法は特に限定されず、直接又は接着層を介して接合することができる。他の層は、1層又は複数層を積層することができる。
上記他の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、他の(メタ)アクリル系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合)、エチレンビニルアルコール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
基材フィルムの厚さt1[単位:mm](基材フィルムが他の層が積層された積層フィルムである場合には全体の厚さ)は、好ましくは0.010以上であり、より好ましくは0.030以上であり、さらに好ましくは0.050以上である。また、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.50以下であり、さらに好ましくは0.30以下であり、よりさらに好ましくは0.20以下である。
〔保護フィルム〕
保護フィルムは典型的には基材フィルムの少なくとも片面に積層されるものであり、基材フィルムと積層された複層フィルムの状態で保管、運搬及び/又は後工程に供することができる。基材フィルムが被着体の加飾に使用されるときや、部材として組み込まれるときには、保護フィルムは基材フィルムから剥離すればよく、このような観点から保護フィルムとしては基材フィルムから剥離可能なものが好ましく使用される。
保護フィルムのヤング率Y2は、基材フィルムとの貼合時の反りを抑制できるため、1000MPa未満であり、好ましくは500MPa以下であり、より好ましくは300MPa以下である。また、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは80MPa以上である。保護フィルムのヤング率Y2は、15mm×150mmの試験片を用いてJIS K7127に準拠して求めることができ、具体的には実施例において後述する方法により求めることができる。
保護フィルムは、1層のみからなる単層構造のフィルムであってもよいが、2層以上の層を備える積層構造のフィルムであることが好ましい。このような保護フィルムとしては、粘着層及び背面層を有するフィルムが挙げられる。粘着層及び背面層を有するフィルムとしては、粘着層及び背面層の2層構造のフィルムの他、粘着層、中間層及び背面層をこの順で備えるフィルムなどが挙げられる。
粘着層を保護フィルムの基材フィルム側の表面に配置すれば、当該粘着層によって保護フィルムを基材フィルムに粘着させることができる。粘着層は粘着剤を含んで形成され、粘着剤による粘着力によって保護フィルムを基材フィルムに対して固定することができる。粘着剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル系粘着剤、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などを挙げることができ、接着性及び剥離性の観点から、エチレン−酢酸ビニル系粘着剤が好ましい。エチレン−酢酸ビニル系粘着剤はエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる。なお、粘着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
粘着層には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤、例えば、軟化剤、高分子加工助剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、染料、充填剤、耐衝撃助剤などを含有してもよい。添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。軟化剤としては、例えばプロセスオイル、液状ゴム、可塑剤などが挙げられる。充填剤としては、例えば、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、及び酸化チタンなどが挙げられる。
粘着層の厚さは、通常0.0010mm以上、好ましくは0.0020mm以上であり、通常0.050mm以下、好ましくは0.030mm以下である。粘着層の厚さが係る範囲にあることで、保護フィルムの取扱性が向上し、保護フィルムの浮きや剥がれを抑制でき、また基材フィルムとの貼合時にシワや傷が生じにくくなる。
背面層は、通常は保護フィルムの基材フィルムとは反対側の表面(すなわち、背面)に位置する。通常、背面層は樹脂により形成される。背面層を形成する樹脂に含まれる重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。好適な例を挙げると、ポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂が挙げられる。
背面層がポリオレフィン系樹脂フィルムである場合において、当該ポリオレフィン系樹脂フィルムを構成するポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−n−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。ここで、ポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどが挙げられる。また、エチレン−プロピレン共重合体としては、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体などが挙げられる。さらに、α−オレフィンとしては、例えば、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、ペンテン−1、ヘプテン−1などが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂の中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体が好ましく、ポリエチレン又はポリプロピレンがより好ましく、ポリエチレンがさらに好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
背面層には、例えば、充填剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、核剤などの添加剤を含ませてもよい。なお、添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
背面層の厚さに対する粘着層の厚さの比(粘着層の厚さ/背面層の厚さ)は、通常1/40以上、好ましくは1/20以上であり、通常1/1以下、好ましくは1/2以下である。背面層の厚さに対する粘着層の厚さの比が係る範囲にあることで、保護フィルムのフィッシュアイを抑制でき、また保護フィルムと基材フィルムの貼合時にシワや傷の発生をより抑制しやすくなる。
保護フィルムの厚さt2[単位:mm](保護フィルムが、例えば、粘着層及び背面層を有するフィルムのように積層構造のフィルムである場合には全体の厚さ)は、基材フィルムの厚さ及び要求品質レベルにより異なるが、成形性及び取扱性の観点から、好ましくは0.010〜0.10であり、より好ましくは0.020〜0.070である。
保護フィルムの製造方法に制限はなく、上述した保護フィルムが得られる限り任意の方法を採用できる。保護フィルムの製造方法の例を挙げると、(i)粘着層の材料及び背面層の材料、並びに必要に応じて中間層の材料を共押し出しする方法、(ii)背面層又は中間層を用意し、用意した層に粘着剤を塗布して粘着層を形成する方法、などが挙げられる。また、(iii)粘着層及び背面層、並びに必要に応じて中間層を別々に用意し、用意した各層を貼り合わせて一体化する方法を採用してもよい。
例示した製造方法のうち、共押出成形法による製造方法(i)は、粘着層と背面層又は中間層とが強固に密着しており、基材フィルムへの糊残り(保護フィルムの剥離後に基材フィルムに粘着剤が残留する現象)が起こり難い点、及び低コストである点から好ましい。
〔複層フィルム〕
本発明の製造方法で得られる複層フィルムは、上述した基材フィルムと保護フィルムとを備える。係る複層フィルムは基材フィルムの少なくとも片面に保護フィルムを備えていればよく、基材フィルムの両面に保護フィルムを備えていてもよい。また、複層フィルムは前記の基材フィルム及び保護フィルムの一方又は両方を2層以上有する合計3層以上の層を備えた複層フィルムであってもよい。
複層フィルムは、基材フィルム及び保護フィルム以外にその他の層を有していてもよい。その他の層は1層でもよく、2層以上であってもよい。また、各層は同じでもよく、異なる層であってもよい。また、その他の層の位置は任意に設定できる。
複層フィルムにおいて、基材フィルムの厚さt1に対する保護フィルムの厚さt2の比(t2/t1)は、好ましくは0.1〜1であり、より好ましくは0.2〜0.8であり、さらに好ましくは0.3〜0.7である。比(t2/t1)が0.1以上であることで基材フィルムと保護フィルムの貼合時のシワをより効果的に抑制でき、1以下であることで放置後のシワをより効果的に抑制できる。
複層フィルムのヘーズは、好ましくは15%以下であり、より好ましくは13%以下であり、さらに好ましくは12%以下である。複層フィルムのヘーズが15%以下であることで、保護フィルムを剥がさず、複層フィルムの状態で、光透過式の欠点検査機などを用いて欠点やシワを観察することができ、複層フィルムの生産性が向上する。また、複層フィルムが透明性に優れ、光学用途に好ましく使用できる。複層フィルムのヘーズはヘーズメーターを用いてJIS K7136に準拠して求めることができ、具体的には実施例において後述する方法により求めることができる。
複層フィルムにおいて、基材フィルムと保護フィルムの剥離強度は、好ましくは0.01〜1.0N/25mmであり、より好ましくは0.05〜0.80N/25mmであり、さらに好ましくは0.10〜0.50N/25mmである。剥離強度が0.01N/25mm以上であることで、複層フィルムの製造中及び製造後に基材フィルムと保護フィルムの剥がれやシワをより効果的に抑制できる。また剥離強度が1.0N/25mm以下であることで、基材フィルムから保護フィルムを剥がす際に糊残りを抑制できる。当該剥離強度は、JIS−K6854−2(1999)に準拠した90度剥離試験により求めることができ、具体的には実施例において後述する方法により求めることができる。
基材フィルム又は保護フィルムの製造工程と、基材フィルム及び保護フィルムの貼合工程(複層フィルムの製造工程)は別であってもよいし、連続して一工程に含まれていてもよい。一実施形態では、基材フィルム及び保護フィルムを予め別々に製造してそれぞれフィルムロールとし、これらのフィルムロールからフィルムを巻き出して貼合工程に供する。
本明細書において、貼合工程における基材フィルムの歪みの指標ε1[単位:mm]を下記式(1)で表す。
ε1=T1/(t1×Y1) ・・・(1)
但し、T1は基材フィルムと保護フィルムの貼合時に基材フィルムに掛かる張力[単位:N]であり、t1は基材フィルムの厚さ[単位:mm]であり、Y1は基材フィルムのヤング率[単位:MPa]である。
また、本明細書において、貼合工程における保護フィルムの歪みの指標ε2[単位:mm]を下記式(2)で表す。
ε2=T2/(t2×Y2) ・・・(2)
但し、T2は基材フィルムと保護フィルムの貼合時に保護フィルムに掛かる張力[単位:N]であり、t2は保護フィルムの厚さ[単位:mm]であり、Y2は保護フィルムのヤング率[単位:MPa]である。
本発明の製造方法では、基材フィルムの歪みの指標ε1に対する保護フィルムの歪みの指標ε2の比(ε2/ε1)を7超15以下とする。比(ε2/ε1)は、好ましくは13以下であり、より好ましくは12以下であり、さらに好ましくは10以下である。比(ε2/ε1)を15以下とすることで、貼合してから時間が経過してもシワ及び剥がれが生じず、特にシワが生じにくい複層フィルムを得ることができる。また、比(ε2/ε1)は、好ましくは7.5以上であり、より好ましくは8.0以上であり、さらに好ましくは9.0以上である。比(ε2/ε1)を7超とすることで、貼合してから時間が経過してもシワ及び剥がれが生じにくく、特に剥がれが生じにくい複層フィルムを得ることができ、さらに複層フィルムをフィルムロールとして保管する場合には、フィルムロールから複層フィルムを巻き出す際に基材フィルムの破断を低減できる。
基材フィルムのε1[単位:mm]は、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.95以下であり、さらに好ましくは0.90以下であり、よりさらに好ましくは0.80以下であり、特に好ましくは0.70以下である。ε1が1.0以下であることで、基材フィルムの破断を低減できる。また、生産性の観点から、好ましくは0.10以上であり、より好ましくは0.30以上であり、さらに好ましくは0.50以上である。
保護フィルムのε2[単位:mm]は、好ましくは12以下であり、より好ましくは8.0以下であり、さらに好ましくは7.0以下である。ε2が12以下であることで、保護フィルムの破断を低減できる。また、生産性の観点から、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは3.0以上であり、さらに好ましくは5.0以上である。
基材フィルムと保護フィルムの貼合時に基材フィルムに掛かる張力T1[単位:N]は、50〜200が好ましく、80〜150がより好ましく、90〜130がさらに好ましい。基材フィルムの張力T1が係る範囲にあると、得られる複層フィルムを長期的に保管しても反りが生じにくく、また複層フィルムをフィルムロールとして保管する場合、フィルムロールが巻品質に優れる。なお、基材フィルムをフィルムロールから巻き出して保護フィルムと貼合する場合、張力T1は基材フィルムの巻出張力の値を採用することができる。係る張力T1は、例えば、パウダークラッチ、パウダーブレーキ、又はモーターを用いてフィルムロールから基材フィルムを巻き出すトルクを調整したり、ダンサーロールを用いて基材フィルムの巻出速度を調整することで制御できる。
基材フィルムと保護フィルムの貼合時に保護フィルムに掛かる張力T2[単位:N]は、10〜200が好ましく、15〜100がより好ましく、20〜60がさらに好ましい。保護フィルムの張力T2が係る範囲にあると、収縮による複層フィルムの変形を抑制できる。なお、保護フィルムをフィルムロールから巻き出して基材フィルムと貼合する場合、張力T2は保護フィルムの巻出張力の値を採用することができる。係る張力T2の制御方法として、上述した張力T1の場合と同じ方法を採用できる。
基材フィルムの張力T1に対する保護フィルムの張力T2の比(T2/T1)は、0.1〜1.0が好ましく、0.2〜0.8がより好ましく、0.3〜0.5がさらに好ましい。比(T2/T1)を係る範囲とすることで、貼合直後の剥がれをより効果的に低減できる。
基材フィルムと保護フィルムとの貼合方法は特に限定されず、公知の方法を採用でき、例えば、2本のロールで挟持する方法が挙げられる。係る2本のロールは同じ材質又は構造のロールであってもよいし、異なる材質又は構造のロールであってもよい。係るロールとしては、例えば、金属剛体ロール、金属弾性ロール、ゴムロール等が挙げられる。また、基材フィルムと保護フィルムとを貼合する際にフィルム厚さ方向に掛かる圧力(接圧)や、基材フィルム、保護フィルム、及び複層フィルムが流れる速度は、基材フィルムおよび保護フィルムの強度等を考慮して適宜決定できる。
[用途]
本発明の製造方法で得られる複層フィルムの用途は特に限定されず、例えば、車両外装、車両内装等の車両加飾部品;壁材、ウィンドウフィルム、窓枠、浴室壁材等の建材部品;食器、玩具、楽器等の日用雑貨;掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電加飾部品;キッチンドア表装材等のインテリア部材;船舶部材;タッチパネル表装材、パソコンハウジング、携帯電話ハウジング等の電子通信機;液晶保護板、導光板、導光フィルム、偏光子保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、各種ディスプレイの前面板及び表装材、拡散板等の光学関係部品;太陽電池若しくは太陽光発電用パネル表装材等の太陽光発電部材などが挙げられる。
中でも、液晶表示装置等の表示装置に用いられる部材、例えば、偏光子保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシート等の光学用途に好適に用いることができ、特に、偏光板保護フィルムや位相差フィルムにより好適に用いることができる。
また、本発明の製造方法で得られる複層フィルムは、加飾用途にも好適に用いることができる。加飾方法は特に限定されず、公知の方法を使用できる。
複層フィルムの各用途において、複層フィルムを構成する保護フィルムは、上述のとおり、適宜基材フィルムから剥離することができ、例えば、複層フィルムが光学用途に用いられる場合には複層フィルムを構成する基材フィルムを光学フィルムとすることができ、また、複層フィルムが加飾用途に用いられる場合には複層フィルムを構成する基材フィルムを加飾フィルムとすることができる。
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらにより制限されない。なお、実施例及び比較例における物性値の測定又は評価は以下の方法で行った。
(ヤング率)
基材フィルム又は保護フィルムを15mm×150mmに切り出して試験片とし、オートグラフ(島津製作所社製、精密万能試験機AG−IS 5kN)を用いて、JIS K7127に準拠して引張ヤング率[MPa]を測定した。
(ヘーズ)
複層フィルムを50mm×50mmに切り出して試験片とし、ヘーズメーター(日本電色工業社製、SH7000)を用いて、JIS K7136に準拠してヘーズを測定した。
(剥離強度)
複層フィルムを10mm×50mmに切り出して試験片とし、温度23℃、相対湿度50%の環境に24時間静置した。小型引張試験機を用いて、JIS−K6854−2(1999)に準拠して、引張速度30mm/分で、係る試験片の基材フィルムと保護フィルムとを90度の角度で引き剥がす際に要した単位幅(25mm)あたりの平均荷重[N]を測定した。
(貼合直後の剥がれ)
得られた直後の複層フィルムを黒色布(川島織物セルコン社製)上に載せ、蛍光灯下(200ルクス)で外観を目視で観察し、以下の通り評価した。
A:複層フィルムの全面で、基材フィルムと保護フィルムの間に空気の層が見られない。
B:複層フィルムの一部分で、基材フィルムと保護フィルムの間に空気の層が見られる。
C:複層フィルムの全面にで、基材フィルムと保護フィルムの間に空気の層が見られる。
(放置後の剥がれ)
複層フィルムを得てから7日後に、貼合直後の剥がれと同じ方法で係る複層フィルムを再度観察し、貼合直後の剥がれと同じ基準で評価した。
(貼合直後のシワ)
得られた直後の複層フィルムを黒色布(川島織物セルコン社製)上に載せ、蛍光灯下(200ルクス)で外観を目視で観察し、シワの有無を以下の通り評価した。
A:複層フィルムの全面にシワが見られない。
B:複層フィルムの一部分にシワが見られる。
C:複層フィルムの全面にシワが見られる。
(放置後のシワ)
複層フィルムを得てから7日後に、貼合直後のシワと同じ方法で係る複層フィルムを再度観察し、貼合直後のシワと同じ基準で評価した。
<製造例1>
(基材フィルム(1−1))
国際公開第2016/121868号の合成例4を参照して得たメタクリル系重合体(重量平均分子量30000)80質量部と、同合成例8を参照して得た3層構造の(メタ)アクリル系弾性体粒子20質量部をベント付き単軸押出機のホッパーに供給し、260℃で溶融混練してTダイから吐出し、鏡面を有する金属弾性ロールと鏡面を有する金属剛体ロールで挟持して、メタクリル系樹脂からなり、厚さ75μmかつ幅1400mmである基材フィルム(1−1)を作製し、ロール状に巻き取ってフィルムロールとした。基材フィルム(1−1)のヤング率は2300MPaであった。
<製造例2>
(基材フィルム(1−2))
国際公開第2016/121868号の合成例4を参照して得たメタクリル系重合体(重量平均分子量30000)85質量部と、同合成例6を参照して得たトリブロック構造の(メタ)アクリル系ブロック共重合体15質量部をベント付き単軸押出機のホッパーに供給し、260℃で溶融混練してTダイから吐出し、鏡面を有する金属弾性ロールと鏡面を有する金属剛体ロールで挟持して、メタクリル系樹脂からなり、厚さ75μmかつ幅1400mmである基材フィルム(1−2)を作製し、ロール状に巻き取ってフィルムロールとした。基材フィルム(1−2)のヤング率は2600MPaであった。
保護フィルムとして使用したフィルムを以下に示す。
保護フィルム(2−1):粘着層付き保護フィルム(サンエー化研社製、商品名「PAC3−60T」。粘着層はエチレン−酢酸ビニル共重合体からなり、背面層はポリエチレンからなり、ヤング率は90MPaであり、厚さ60μmである。)
保護フィルム(2−2):粘着層付き保護フィルム(東レ社製、商品名「トレテック7H52」。粘着層はエチレン−酢酸ビニル共重合体からなり、背面層はポリプロピレンからなり、ヤング率は270MPaであり、厚さは30μmである。)
[実施例1]
基材フィルム(1−1)を巻出張力100Nでフィルムロールから巻き出した。また、保護フィルム(2−1)を巻出張力30Nでフィルムロールから巻き出した。巻き出した基材フィルム(1−1)及び保護フィルム(2−1)を、それぞれの巻出張力が掛かった状態で、保護フィルム(2−1)の粘着層を介して、金属ロールとゴムロールで挟持しながら接圧0.2MPaで貼合し、15m/minの速度で複層フィルムを製造した。このとき、基材フィルム(1−1)の歪みの指標ε1[mm]は0.58であり、保護フィルム(2−1)の歪みの指標ε2[mm]は5.6であった。得られた複層フィルムの評価結果を表1に示す。
[実施例2〜3、比較例1〜3]
実施例1において、使用したフィルム及び製造条件を表1に示した通り変更したこと以外は実施例1と同様にして複層フィルムを製造した。得られた複層フィルムの評価結果を表1に示す。
表1の結果から、本発明の製造方法で得られた複層フィルムは、貼合直後にシワ及び剥がれが生じにくく、また貼合してから時間が経過してもシワ及び剥がれが生じにくいことが分かる。よって、本発明の製造方法で得られた複層フィルムは、基材フィルムが傷つかず美麗な外観を維持し、さらには印刷や金属蒸着等の後工程において印刷抜け等の欠陥を抑制でき、また搬送中の複層フィルムの破断を抑制できる。