JP6930297B2 - 熱延鋼板およびスプライン軸受ならびにそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
C :0.025〜0.220%、
Si:0.20%以下、
Mn:0.50〜2.50%、
Al:0.010〜1.000%、
N :0.0060%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0050%以下、
残部:Feおよび不可避的不純物であって、
鋼板の圧延方向断面において、鋼板の厚さをtとしたときに、該鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における金属組織が、面積%で、
パーライト:2.5〜20.0%、
残留オーステナイト:8.0%未満、
マルテンサイト:2.5%未満、
ベイナイト:2.0%未満、
残部:フェライトであり、
フェライトの平均円相当径が10.0〜100.0μm、
パーライトの平均円相当径が3.0〜18.0μm、であり、
パーライトの平均炭素濃度が、質量%で、0.80〜1.50%である、
熱延鋼板。
Ti:0〜0.050%、
Nb:0〜0.100%、
V :0〜0.300%、
Cu:0〜2.00%、
Ni:0〜2.00%、
Cr:0〜2.00%、および
Mo:0〜1.00%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載の熱延鋼板。
B :0〜0.0100%、
を含有する、
上記(1)または(2)に記載の熱延鋼板。
Mg:0〜0.0100%、
Ca:0〜0.0100%、および
REM:0〜0.1000%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の熱延鋼板。
Zr、Co、Zn、およびW、
から選択される1種以上を合計で1.000%以下含有する、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載の熱延鋼板。
上記(1)から(5)までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片に対して、熱間圧延工程、第1冷却工程、巻取工程および第2冷却工程を順に施す熱延鋼板の製造方法であり、
前記熱間圧延工程は、3段以上の多段仕上圧延を含み、
前記多段仕上圧延における最前段から3段の圧延における累積歪みが、0.003〜0.300であり、
前記多段仕上圧延の圧延終了温度が、下記式5で求められるAr3〜Ar3+80℃の温度であり、
前記第1冷却工程では、前記多段仕上圧延が終了した後、1.00〜3.00s後に冷却を開始し、前記圧延終了温度から、450〜700℃の温度範囲まで、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、
前記巻取工程では、450〜700℃の巻取り温度で巻取り、
前記第2冷却工程では、
前記巻取り温度が550℃を超える場合は、該巻取り温度から550℃まで、30〜100℃/hの平均冷却速度で冷却し、550℃から100℃まで、30℃/h未満の平均冷却速度で冷却し、
前記巻取り温度が550℃以下の場合は、該巻取り温度から100℃まで、30℃/h未満の平均冷却速度で冷却する、
熱延鋼板の製造方法。
Ar3=970−325×C+33×Si+287×P+40×Al−92×(Mn+Mo+Cu)−46×(Cr+Ni) ・・・(式5)
但し、上記式中の元素記号は、各元素の熱間圧延鋼板中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面の算術平均粗さ(Ra)が2.5μm以下であり、かつ最大高さ粗さ(Rz)が15.0μm以下であり、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面から20μm深さ位置でのマイクロビッカース硬さが300Hv以上であり、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面から40μm深さ位置での平均粒界固溶炭素濃度が、原子%で、5〜10%である、
スプライン軸受。
上記(1)から(5)までのいずれかに記載の熱延鋼板をブローチ加工により成形してスプライン軸受とすることによって、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面における算術平均粗さ(Ra)を2.5μm以下、かつ最大高さ粗さ(Rz)を15.0μm以下とし、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面から20μm深さ位置でのマイクロビッカース硬さを300Hv以上とし、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面から40μm深さ位置での平均粒界固溶炭素濃度を、原子%で、5〜10%とする、
スプライン軸受の製造方法。
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
スプライン軸受歯形部の耐摩耗性を向上させるためには、ブローチ成形のような強加工をスプライン軸受歯形部に施した際に、主相であるフェライトに、第二相であるパーライトから固溶Cを拡散させて、強加工を受けたフェライトを強化することが必要である。
Siは、脱酸剤として添加される元素である。しかし、Siが多量に含有されるとボンデ処理性が低下し、加工時に焼付が起こりやすくなる。そのため、Si含有量は0.20%以下とする。なお、Si含有量は0.01%が必然的な下限となる。
Mnは、鋼を強化する作用を有する元素である。鋼を強化するために、Mn含有量は0.50%以上とする。一方、Mn含有量を2.50%超含有させると焼入れ性が必要以上に高まりフェライトを十分に確保できなくなり、また鋳造時にスラブ割れが発生する。そのため、Mn含有量は0.50〜2.50%とする。鋼を強化するためには、Mn含有量は0.80%以上であるのが好ましく、1.00%以上であるのがより好ましい。Mn含有量は2.00%以下であるのが好ましく、1.80%以下であるのがより好ましい。
Alは、Siと同様に脱酸効果とフェライトを生成する効果を有する。一方、その含有量が過剰であると脆化を招くとともに、鋳造時にタンディッシュノズルを閉塞し易くする。そのため、Al含有量は0.010〜1.000%とする。Al含有量は0.015%以上であるのが好ましく、0.030%以上であるのがより好ましい。また、Al含有量は0.800%以下であるのが好ましく、0.700%以下であるのがより好ましい。
Nは、AlN等を析出して結晶粒を微細化するのに有効な元素である。一方、その含有量が過剰であると固溶窒素が残存して延性が低下するだけでなく、時効劣化が激しくなる。そのため、N含有量は0.0060%以下とする。N含有量は0.0050%以下であるのが好ましい。また、過度に含有量を低下させることは、精錬時のコスト増につながるため、その下限は0.0010%にするとよい。
Pは溶銑に含まれる不純物であり、粒界偏析するため局部延性を劣化させるとともに、溶接性を劣化させるので、できるだけ少ない方がよい。そのため、P含有量は0.050%以下に制限する。P含有量は0.030%以下にすることが好ましい。特に下限を規定する必要はなく、下限は0%である。しかし、過度に含有量を低下させることは精錬時のコスト増になるため、下限は0.001%にするとよい。
Sも溶銑に含まれる不純物であり、MnSを形成して局部延性および溶接性を劣化させるので、できるだけ少ない方がよい。そのため、S含有量は0.0050%以下に制限する。特に下限を規定する必要はなく、下限は0%である。しかし、過度に含有量を低下させることは精錬時のコスト増になるため、下限は0.0005%にするとよい。
Tiは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、CをTiCとして固定してしまい、第二相であるパーライトが少なくなるとともにパーライト中の固溶Cが少なくなり、強加工されたフェライトにパーライトからの固溶Cを拡散させて、アブレッシブ摩耗を抑制する効果を失わせる。そのため、Ti含有量は0.050%以下とする。一方、析出強化の効果を十分に得るためには、Ti含有量は0.010%以上であるのが好ましく、0.015%以上であるのがより好ましい。
Nbは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、CをNbCとして固定してしまい、第二相であるパーライトが少なくなるとともにパーライト中の固溶Cが少なくなり、強加工されたフェライトにパーライトからの固溶Cを拡散させて、アブレッシブ摩耗を抑制する効果を失わせる。そのため、Nb含有量は0.100%以下とする。一方、上記効果を十分に得るためには、Nb含有量は0.010%以上であるのが好ましい。
Vは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、CをVCとして固定してしまい、第二相であるパーライトが少なくなるとともにパーライト中の固溶Cが少なくなり、強加工されたフェライトにパーライトからの固溶Cを拡散させて、アブレッシブ摩耗を抑制する効果を失わせる。そのため、V含有量は0.300%以下とする。一方、上記効果を十分に得るためには、V含有量は0.010%以上であるのが好ましい。
Cuは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Cu含有量は2.00%以下とする。また、Cu含有量が1.20%を超えると鋼板の表面にスケール起因の傷が発生することがある。そのため、Cu含有量は1.20%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を十分に得るためには、Cu含有量は0.01%以上であるのが好ましい。
Niは、固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Ni含有量は2.00%以下とする。また、Ni含有量が0.60%を超えると延性が劣化するおそれがある。そのため、Ni含有量は0.60%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を十分に得るためには、Ni含有量は0.01%以上であるのが好ましい。
Crは、固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Cr含有量は2.00%以下とする。一方、上記効果を十分に得るためには、Cr含有量は0.01%以上であるのが好ましい。
Moは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、CをMo2Cとして固定してしまい、固溶Cが強加工されたフェライトに拡散してアブレッシブ摩耗を抑制する効果を失わせる。そのため、Mo含有量は1.00%以下とする。一方、上記効果を十分に得るためには、Mo含有量は0.01%以上であるのが好ましい。
Bは粒界に偏析し、粒界強度を高めることで低温靭性を向上させる。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、B含有量は0.0100%以下とする。また、Bは強力な焼き入れ元素であり、その含有量が0.0020%を超えると冷却中にフェライト変態が十分に進行せず、十分なパーライトが得られないことがある。そのため、B含有量は0.0020%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を十分に得るためには、B含有量は0.0002%以上であるのが好ましい。
Mgは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Mg含有量は0.0100%以下とする。一方、上記効果を十分に得るためには、Mg含有量は0.0005%以上であるのが好ましい。
Caは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Ca含有量は0.0100%以下とする。一方、上記効果を十分に得るためには、Ca含有量は0.0005%以上であるのが好ましい。
REM(希土類元素)は、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、REM含有量は0.1000%以下とする。一方、上記効果を十分に得るためには、REM含有量は0.0005%以上であるのが好ましい。
Zr、Co、ZnおよびWは、合計で1.000%以下の範囲で含有しても、本発明の効果は損なわれないことを確認している。
本発明の鋼板の金属組織について説明する。なお、本発明において金属組織は、鋼板の圧延方向断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における組織をいうものとする。また、以下の説明において「%」は、「面積%」を意味する。
上述のように、スプライン軸受の耐摩耗性を向上させるためには、スプラインシャフトの外歯歯車と接触するスプライン軸受歯形部がアブレッシブ摩耗することを抑制し、スプラインシャフトの外歯歯車とスプライン軸受歯形部が接触して動力を伝達し始めた初期の段階から、スプラインシャフトの外歯歯車とスプライン軸受歯形部とが凝着摩耗の状態となるようにすることが必要である。
残留オーステナイトは、加工誘起変態によりマルテンサイト変態し、変態誘起塑性(いわゆるTRIP現象)により、張り出し成形を始めとするプレス加工性を向上させるので、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、残留オーステナイトの量が多くなると必然的にパーライトが少なくなるため、残留オーステナイトの面積率は8.0%未満とする。
マルテンサイトは、張り出し成形を始めとするプレス加工性を向上させるので必要に応じて含有してもよい。しかしながら、マルテンサイトは変形能がフェライトと比較して小さいため、ブローチ成形の際にマルテンサイトとフェライトとの境界からボイドの発生頻度が増加して、その成形表面にできる凹凸(算術平均粗さ:Ra、最大高さ:Rz)が大きくなり、その結果、アブレッシブ摩耗が進行しやすくなり、耐摩耗性が劣化してしまう。そのため、マルテンサイトの面積率は2.5%未満とする。ボイドの発生頻度を極力少なくして、アブレッシブ摩耗を起こさないためには、マルテンサイトの面積率は1.0%以下とすることが好ましい。
一般的にベイナイトは、焼入れ組織であり、固溶Cを過飽和に含有するとともにセメンタイトを含む。しかし、パーライトと比較すると、加工硬化したフェライトに固溶Cを拡散させるための供給源としての能力は低い。また、ベイナイトの面積率とパーライトの面積率とは二律背反傾向にある。したがって、フェライトに固溶Cを拡散させるための供給源としての能力がベイナイトよりも高いパーライトを十分に確保するために、ベイナイトの面積率は2.0%未満とする。アブレッシブ摩耗を起こさないためには、ベイナイトの面積率は1.0%以下とすることが好ましい。
フェライトは延性に優れ、ブローチ成形のような強加工でも割れずに容易に変形するため、寸法精度よくスプライン軸受歯形部加工をするために必要なミクロ組織である。また、ブローチ成形のような強加工を施して変形し加工硬化した、スプライン軸受歯形部のフェライトおよびその粒界には、転位および原子空孔が多量に導入されている。このため、スプライン軸受歯形部のフェライトに固溶Cが容易に拡散できる。これにより、スプライン軸受歯形部の耐摩耗性を向上させることができる。したがって、残留オーステナイト、マルテンサイト、ベイナイト以外の組織はフェライトとする。
上述のように、スプライン軸受歯形部の耐摩耗性を向上させるためには、ブローチ成形のような強加工をしたときに、主相であるフェライトに、第二相であるパーライトから、固溶Cを拡散させて、スプライン軸受歯形部をCの固溶強化によりナノレベルで硬化させる必要がある。フェライト粒界は短時間に固溶Cをパーライトからフェライトへ拡散させる経路として重要である。そのためには、フェライトを細粒にして粒界の面積を増加させるのが有効である。そのため、フェライトの平均円相当径を100.0μm以下にする。
パーライトは一般的にフェライトとセメンタイトとのラメラ組織であり、結晶方位単位のラメラ組織の集合体であるいくつかのパーライトブロックから構成されるパーライトノジュールが、組織単位となっている。亜共析鋼成分においてパーライトノジュールは、オーステナイトからフェライトが析出した後の炭素が濃化したオーステナイトから生成する。
パーライトは上述のようにフェライトとセメンタイトとのラメラ組織である。斜方晶のセメンタイト(Fe3C)はFeに囲まれた中央部分にCが位置し、炭素濃度は6.7%程度である。一方、フェライトにはほとんど炭素が固溶しない。すなわち、セメンタイトとフェライトとの層状組織であるラメラ組織であるがゆえに、セメンタイトとセメンタイトとの間に挟まれたフェライトの幅により、パーライト全体としての平均炭素濃度は大きく変化する。
本発明は、従来の一般的な熱延鋼板の機能であるプレス加工性を有効に活かしつつ、ブローチ成形のように部分的に厳しい加工を受けた部分の耐摩耗性を向上させたことが特徴である。
本発明に係る鋼板の製造条件について特に制限はないが、例えば、以下に示す方法により、製造することができる。以下の製造方法では、下記の(a)から(e)までの工程を順に行う。各工程について詳しく説明する。
熱間圧延に先行する溶製工程の製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉または電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬を行って、上述した成分組成となるように調整する。次いで、通常の連続鋳造、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。その際、本発明の成分範囲に制御できるのであれば、原料にはスクラップを使用しても構わない。
鋳造したインゴット(スラブ)は、加熱して熱間圧延を施し、熱間圧延鋼板とする。熱間圧延工程におけるスラブの加熱条件については特に制限は設けないが、例えば、熱間圧延前の加熱温度を1050〜1260℃とするのが好ましい。連続鋳造の場合には一度低温まで冷却した後、再度加熱してから熱間圧延してもよいし、特に冷却することなく連続鋳造に引き続いて加熱して熱間圧延してもよい。
上記式1中のΣは、i=1〜3についての総和を示す。
但し、i=1は、多段仕上圧延において最前段の圧延を、i=2は2段目の圧延を、i=3は3段目の圧延を、それぞれ示す。
εi(ti,Ti)=ei/exp((ti/τR)2/3) ・・・(式2)
ti:i段目の圧延から最終段圧延後の一次冷却開始までの時間(s)
Ti:i段目の圧延の圧延温度(K)
ei:i段目の圧延で圧下したときの対数歪み
ei=|ln{1−(i段目の入側板厚−i段目の出側板厚)/(i段目の入側板厚)}|
=|ln{(i段目の出側板厚)/(i段目の入側板厚)}| ・・・(式3)
τR=τ0・exp(Q/(R・Ti)) ・・・(式4)
τ0=8.46×10−9(s)
Q:Feの転位の移動に関する活性化エネルギーの定数=183200(J/mol)
R:ガス定数=8.314(J/(K・mol))
Ar3=970−325×C+33×Si+287×P+40×Al−92×(Mn+Mo+Cu)−46×(Cr+Ni) ・・・(式5)
但し、上記式中の元素記号は、各元素の熱間圧延鋼板中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
多段仕上圧延が終了した後の熱延鋼板に対して、1.00〜3.00s後に冷却を開始し、前記圧延終了温度から、450〜700℃の温度範囲まで、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却する。
第1冷却後に、熱延鋼板を450〜700℃の巻取り温度で巻取る。なお、第1冷却後に復熱または変態潜熱により温度が上昇して、巻取り温度が第1冷却終了温度よりも高温になってしまっても、巻取り温度が450〜700℃の温度域であれば差し支えない。
巻取り温度が550℃を超える場合は、巻取り温度から550℃まで、30〜100℃/hの平均冷却速度で冷却する。巻取り温度から550℃までの平均冷却速度が30℃/h未満であると、変態後のフェライト粒の粒成長が進行して、フェライトの結晶粒径が粗粒となり、目的とする平均フェライト円相当径が得られない。一方、上記の平均冷却速度が100℃/hを超えると、ベイナイトが過度に生成し目的とするミクロ組織が得られない。したがって、100℃/h以下にすることが望ましい。
上記のようにして得られた熱延鋼板は、熱処理することなく、ブローチ成形によるスプライン軸受歯形部を加工したままで優れた耐摩耗性を有するため、従来ではなし得なかった低コストで耐摩耗性に優れるスプライン軸受を得ることができる。
本発明に係るスプライン軸受の表面および表層の状態について説明する。なお、本発明でブローチ成形後のスプライン軸受の表面および表層とは、JIS B 4239 2009のB1002445記載のインボリュートスプラインブローチを用いて、ブローチ成形した後の、JIS B 1603 1995の表1のモジュールm=1に記載のインボリュートスプラインの定義に従う、スプライン軸受歯形部の表面および表層である。
スプライン軸受の表面の粗さが、Raで2.5μm以下、かつRzで15.0μm以下であれば、後述する摩耗試験において繰返し数400万回での摩耗量(歯形部の摩耗高さ)が、0.4mm以下となり良好な耐摩耗性を示す。これは、スプライン軸受の表面の粗さがこの数値以下であれば、スプライン軸受の表面に欠けや剥離のようなチッピングが起こらないため、アブレッシブ摩耗が抑制され、後述する摩耗試験の初期の段階で凝着摩耗へ推移するためである。
スプライン軸受の表層(スプライン軸受歯形部表面から20μm深さ位置)でのマイクロビッカース硬さが300Hv以上であれば、後述する摩耗試験において繰返し数400万回での摩耗量(歯形部の摩耗高さ)が、0.4mm以下となり良好な耐摩耗性を示す。これは、表層でのマイクロビッカース硬さがこの数値以上であれば、相手部品であるスプラインシャフトがビッカース硬さで650Hv以上の浸炭材であっても、後述する摩耗試験の初期の段階でのアブレッシブ摩耗が抑制され、早期に凝着摩耗へ推移するためである。
スプライン軸受の表層(スプライン軸受歯形部表面から40μm深さ位置)での平均粒界固溶炭素濃度が、原子%で、5〜10%であれば、後述する摩耗試験において繰返し数400万回での摩耗量(歯形部の摩耗高さ)が、0.4mm以下となり良好な耐摩耗性を示す。
得られた熱間圧延鋼板の金属組織観察を行い、各組織の面積率の測定を行った。具体的には、まず鋼板の圧延方向断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/4tの位置から金属組織観察用の試験片を切り出した。
機械特性のうち引張強度特性(引張強さ(TS)、全伸び(t−EL))は、板幅をWとした時に、板の片端から板幅方向に1/4Wもしくは3/4Wのいずれかの位置において、圧延方向に直行する方向(幅方向)を長手方向として採取したJIS Z 2241 2011の5号試験片を用いて、JIS Z 2241 2011に準拠して評価した。
続いて、図1に示すように、各熱延鋼板に対して、ブローチ加工を用いた成形を施した。ブローチ成形には株式会社不二越製のハードブローチ盤HW−5008を用いた。JIS B 4239 2009のB1002445記載のインボリュートスプラインブローチを用いて、JIS B 1603 1995の表1のモジュールm=1に示された、インボリュート形状のスプライン軸受歯形部の加工を実施した。
ブローチ成形したスプライン軸受の内歯歯車(スプライン軸受歯形部)で、スプラインシャフトの外歯歯車と接触する接触面となる歯形面の粗さを、JIS B 0601 2013に従い、測定装置に株式会社ミツトヨ製の“サーフテストSV−3200”を用いて、フィルタ:PC50(ガウシアンフィルタPC50(S(x)=exp(−π(x/(αλc))2)/(αλc)、ただし、α=(ln2/π)0.5=0.4697でうねり波長成分を除去する))、カットオフ:0.8mm(λc=0.8mm)で、10mmの長さについて測定した。測定方向は、スプラインシャフト軸と平行な方向で、ブローチ成形後の表面の粗さとは、スプライン軸受歯の接触面となる歯形面の粗さとした。
スプライン軸受歯形部表面から垂直方向に20μmの位置でのマイクロビッカース硬さを、0.49Nの荷重、15sの押し付け時間で、JIS Z 2244 2009に記載の方法で測定した。詳細には、スプライン軸受歯形部は、形状が同じな複数の歯から構成されているので、スプライン軸受歯形部からこれらの歯形部分を切り出して試料とし、最低2箇所の歯形部分で、スプラインシャフトの外歯歯車とスプライン軸受歯形部が接触して摺動する際の位置が等価な位置において、それぞれの箇所毎に各10点の測定を行い、これらの平均値を算出した。
マイクロビッカース硬さに用いた前記の試料を用いて、ブローチ成形したスプライン軸受の内歯歯車(スプライン軸受歯形部)で、スプラインシャフトの外歯歯車と接触する接触面の断面について、スプライン軸受歯形部表面から垂直方向に40μmの位置での平均粒界固溶炭素濃度を、三次元アトムプローブ法にて測定した。粒界観察には、粒界部を含むAP用針状試料を作製するためにFIB(収束イオンビーム)装置/日立製作所製FB2000Aを用い、切出した試料を電解研磨により、任意形状走査ビームで粒界部を針先端部になるようにした。
耐摩耗性は次に述べる摩耗試験で評価した。熱延鋼板にSCr420浸炭材(Hv≧650)を面圧150MPaで接触させ(接触面積2mm×10mm)、±1mmのストロ−クで接触面積の長手方向(10mmの方向)に所謂ATF(オートマチックトランスミッションフルード:自動変速機油)中で摺動させることで摩耗を発生させ、0.4mmまで摩耗する耐久回数で評価した。
2.スプライン軸受素材
3.スプライン軸受
3a.内歯歯車
4.スプライン軸
4a.外歯歯車
Claims (8)
- 化学組成が、質量%で、
C :0.025〜0.220%、
Si:0.20%以下、
Mn:0.50〜2.50%、
Al:0.010〜1.000%、
N :0.0060%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0050%以下、
残部:Feおよび不可避的不純物であって、
鋼板の圧延方向断面において、鋼板の厚さをtとしたときに、該鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における金属組織が、面積%で、
パーライト:2.5〜20.0%、
残留オーステナイト:8.0%未満、
マルテンサイト:2.5%未満、
ベイナイト:2.0%未満、
残部:フェライトであり、
フェライトの平均円相当径が10.0〜100.0μm、
パーライトの平均円相当径が3.0〜18.0μm、であり、
パーライトの平均炭素濃度が、質量%で、0.80〜1.50%である、
熱延鋼板。 - 前記化学組成が、さらに、質量%で、
Ti:0〜0.050%、
Nb:0〜0.100%、
V :0〜0.300%、
Cu:0〜2.00%、
Ni:0〜2.00%、
Cr:0〜2.00%、および
Mo:0〜1.00%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1に記載の熱延鋼板。 - 前記化学組成が、さらに、質量%で、
B :0〜0.0100%、
を含有する、
請求項1または請求項2に記載の熱延鋼板。 - 前記化学組成が、さらに、質量%で、
Mg:0〜0.0100%、
Ca:0〜0.0100%、および
REM:0〜0.1000%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の熱延鋼板。 - 前記化学組成が、さらに、質量%で、
Zr、Co、Zn、およびW、
から選択される1種以上を合計で1.000%以下含有する、
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の熱延鋼板。 - 請求項1から請求項5までのいずれかに記載の熱延鋼板の製造方法であって、
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼片に対して、熱間圧延工程、第1冷却工程、巻取工程および第2冷却工程を順に施す熱延鋼板の製造方法であり、
前記熱間圧延工程は、3段以上の多段仕上圧延を含み、
前記多段仕上圧延における最前段から3段の圧延における累積歪みが、0.003〜0.300であり、
前記多段仕上圧延の圧延終了温度が、下記式5で求められるAr3〜Ar3+80℃の温度であり、
前記第1冷却工程では、前記多段仕上圧延が終了した後、1.00〜3.00s後に冷却を開始し、前記圧延終了温度から、450〜700℃の温度範囲まで、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、
前記巻取工程では、450〜700℃の巻取り温度で巻取り、
前記第2冷却工程では、
前記巻取り温度が550℃を超える場合は、該巻取り温度から550℃まで、30〜100℃/hの平均冷却速度で冷却し、550℃から100℃まで、30℃/h未満の平均冷却速度で冷却し、
前記巻取り温度が550℃以下の場合は、該巻取り温度から100℃まで、30℃/h未満の平均冷却速度で冷却する、
熱延鋼板の製造方法。
Ar3=970−325×C+33×Si+287×P+40×Al−92×(Mn+Mo+Cu)−46×(Cr+Ni) ・・・(式5)
但し、上記式中の元素記号は、各元素の熱間圧延鋼板中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。 - 請求項1から請求項5までのいずれかに記載の熱延鋼板に対してブローチ加工による成形が施されたスプライン軸受であって、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面の算術平均粗さ(Ra)が2.5μm以下であり、かつ最大高さ粗さ(Rz)が15.0μm以下であり、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面から20μm深さ位置でのマイクロビッカース硬さが300Hv以上であり、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面から40μm深さ位置での平均粒界固溶炭素濃度が、原子%で、5〜10%である、
スプライン軸受。 - 請求項1から請求項5までのいずれかに記載の熱延鋼板を用いたスプライン軸受の製造方法であって、
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の熱延鋼板をブローチ加工により成形してスプライン軸受とすることによって、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面における算術平均粗さ(Ra)を2.5μm以下、かつ最大高さ粗さ(Rz)を15.0μm以下とし、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面から20μm深さ位置でのマイクロビッカース硬さを300Hv以上とし、
前記スプライン軸受の内歯歯車の表面から40μm深さ位置での平均粒界固溶炭素濃度を、原子%で、5〜10%とする、
スプライン軸受の製造方法。
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