以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本明細書では、便宜上、検出光DLの光軸の方向を上下方向として説明するが、本発明による共焦点変位計1やヘッドユニット10の使用時における姿勢を限定するものではない。
<共焦点変位計1>
図1は、本発明の実施の形態による共焦点変位計1の一構成例を示したシステム図である。この共焦点変位計1は、光ファイバケーブル2、ヘッドユニット10及びコントローラ20により構成され、ヘッドユニット10から検出光DLを出射した際のワークWからの反射光を受光してワークWまでの距離を計測する光学式の距離計測装置である。
ワークWは、検出対象物である。ヘッドユニット10及びコントローラ20は、検出光DLを伝送する光ファイバケーブル2を介して接続されている。コントローラ20には、PC(パーソナルコンピュータ)3が接続されている。PC3は、コントローラ20に対して測定条件等の設定を行い、コントローラ20から計測結果等を取得して画面表示する。
ヘッドユニット10は、白色光からなる検出光DLをワークWに向けて出射し、ワークWからの反射光が入射する投受光部ユニットである。光ファイバケーブル2は、検出光DLを伝送する伝送媒体であり、長尺方向に延びる細線状のコアと、コアを取り囲むクラッドとにより構成される。コントローラ20は、投受光を制御し、ワークWからの反射光に基づいて、ワークWまでの距離を算出する制御ユニットである。
光ファイバケーブル2を介して検出光DL及び反射光をコントローラ20及びヘッドユニット10間で伝送させるため、ヘッドユニット10を小型化することができる。また、ヘッドユニット10は、コントローラ20から離れた場所であっても、容易に設置することができる。
<ヘッドユニット10>
図2は、図1のヘッドユニット10の構成例を模式的に示した断面図であり、ヘッドユニット10を鉛直面により切断した場合の切断面が示されている。このヘッドユニット10は、ファイバ端2a、コリメートレンズ13及び対物レンズ14により構成される共焦点光学系11と、共焦点光学系11を収容する筐体12とを備える。筐体12は、有蓋円筒形状の鏡筒である。
ファイバ端2aは、光ファイバケーブル2のヘッドユニット側の端部であり、共焦点光学系11のピンホールとして機能する。具体的には、光ファイバケーブル2のクラッドが光ファイバケーブル2への戻り光を遮光する遮光部材として作用し、コアの端面がピンホールの開口として作用する。戻り光を遮光することにより、共焦点効果が得られる。なお、微小な開口(貫通孔)をピンホールとして有する遮光板をファイバ端2aとコリメートレンズ13との間に配置するような構成であっても良い。
このファイバ端2aは、筐体12の天蓋部から下方に突出させて配置されている。コリメートレンズ13は、ファイバ端2aから出射された検出光DLを平行光に集光する集光レンズである。このコリメートレンズ13は、ファイバ端2aの端面に対向するとともに、ファイバ端2aと光軸を一致させて配置されている。
対物レンズ14は、検出光DLをワークWに向けて出射する集光レンズである。この対物レンズ14は、コリメートレンズ13に対向するとともに、コリメートレンズ13と光軸を一致させて配置されている。コリメートレンズ13及び対物レンズ14は、検出光DLに軸上色収差を生じさせる。軸上色収差は、分散による光軸方向の像の色ずれである。
ヘッドユニット10内の光学系は、図2に示した構成に限られず、図12に示すような構成であっても良い。また、コリメートレンズ13に代えて回折レンズを用いる構成、或いは、回折レンズを対物レンズ14として用いる構成であっても良い。つまり、ヘッドユニット10内の光学系は、ファイバ端2aから出射された多波長成分を有する白色光に対し、ヘッドユニット10内において軸上色収差が与えられ、ヘッドユニット10からワークWに向けて軸上色収差を有する光が放出されるようなものであれば良い。
共焦点光学系11は、共焦点原理を利用して受光する光を絞り込むとともに、検出光DLに軸上色収差を生じさせる。ファイバ端2aから出射し、コリメートレンズ13及び対物レンズ14を透過した検出光DLは、波長に応じて上下方向の異なる位置に結像する。検出光DLに含まれる波長成分のうち、ワークW上に結像した特定の波長成分は、ワークWにより反射され、その反射光が対物レンズ14及びコリメートレンズ13を透過してファイバ端2aの端面上に結像する。一方、特定の波長成分以外の波長成分に対応する反射光は、ファイバ端2aの端面上に結像せず、ファイバ端2aによって遮断される。
例えば、ファイバ端2aのコアの直径は、200μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。また、対物レンズ14からワークWまでの距離は、20mm〜70mm程度であり、測定レンジMRは、±1mm〜±20mm程度である。
<コントローラ20>
図3は、図1のコントローラ20の構成例を示したブロック図である。このコントローラ20は、投光用光源ユニット21、スプリッタ22、分光器用レンズ23、分光器24、結像レンズ25、ラインセンサ26、測定制御部27及び表示部28により構成される。ファイバ端2b、分光器用レンズ23、分光器24、結像レンズ25及びラインセンサ26は、分光光学系を構成する。
投光用光源ユニット21は、2以上の波長成分を含む白色光からなる検出光DLを生成する。スプリッタ22は、投光用光源ユニット21から光ファイバケーブル2を介して入射される検出光DLをヘッドユニット10に向けて伝達する一方、ヘッドユニット10から光ファイバケーブル2を介して入射される反射光を分光光学系に向けて伝達する光学部材である。
ファイバ端2bは、光ファイバケーブル2の分光光学系側の端部である。分光器用レンズ23は、ファイバ端2bから出射された光を集光する集光レンズである。この分光器用レンズ23は、ファイバ端2bの端面に対向するとともに、ファイバ端2bと光軸を一致させて配置されている。
分光器24は、ワークWによって反射され、共焦点光学系11を通過した光を分光する光学部材である。この分光器24は、反射角度に応じて異なる波長成分に入射光を分光する反射型の分光器であり、平板状の回折格子からなる。結像レンズ25は、分光された反射光をラインセンサ26上に結像させる集光レンズである。
ラインセンサ26は、分光器24により分光され、結像レンズ25を透過した光を受光し、受光信号を生成する2以上の受光素子からなる。各受光素子は、直線状に配列される。例えば、ラインセンサ26は、多分割PD(フォトダイオード)、CCD(電荷結合素子)又はCMOS(相補性金属酸化膜半導体)等の撮像素子により構成される。多分割PDは、多数のPDが回路基板上に2次元的に配列された受光素子ユニットである。
測定制御部27は、ラインセンサ26からの受光信号に基づいて、ワークWまでの距離を算出し、測定結果として表示部28に表示する。また、測定制御部27は、受光信号に基づいて、後述する受光波形や信号波形を取得し、その波形データをPC3へ出力する。表示部28は、コントローラ20の筐体に設けられた7セグメント表示器からなり、距離の計測値や判定用閾値などを表示する。
<投光用光源ユニット21>
図4は、図3の投光用光源ユニット21の構成例を示した図であり、図中の(a)には、投光用光源ユニット21の側面が示され、(b)には、投光用光源ユニット21をA−A線により切断した場合の切断面が示されている。この投光用光源ユニット21は、発光素子211、配線基板212、素子ホルダ213、集光レンズ214、レンズホルダ215、フェルール216、フェルール押え217、蛍光体220、枠体221及び反射型フィルタ222により構成される。
発光素子211は、単一波長のレーザ光を生成する蛍光体励起用のレーザ光源である。この発光素子211は、発光部を水平方向の前方に向けた状態で配線基板212に配設されている。例えば、発光素子211は、波長が450nm以下の青色光又は紫外光を生成する。素子ホルダ213は、配線基板212を保持する部材であり、レンズホルダ215に背面側から挿入されている。
集光レンズ214は、発光素子211から出射されたレーザ光を光ファイバケーブル2の投光用光源ユニット側のファイバ端に集光させる光学部材であり、発光素子211に対向させて配置されている。レンズホルダ215は、集光レンズ214を保持する鏡筒であり、集光レンズ214の前方において縮径している。フェルール216は、光ファイバケーブル2の投光用光源ユニット側のファイバ端が組み込まれ、前後方向に延びる円筒状の接続部材である。フェルール押え217は、レンズホルダ215の縮径部に前面側から挿入されたフェルール216を固定するための有底円筒形状の部材であり、円筒部を上記縮径部の外周面に被せた状態でレンズホルダ215に取り付けられている。
蛍光体220は、発光素子211からのレーザ光によって励起され、レーザ光とは異なる波長の蛍光を発生する発光体である。この蛍光体220は、その外周面が枠体221によって保持され、光ファイバケーブル2のファイバ端の端面に接触させた状態でレンズホルダ215内に配置されている。例えば、蛍光体220は、青色のレーザ光の照射によって黄色の蛍光を発生する。なお、蛍光体220は、2以上の種類の蛍光材料から形成されるものであっても良い。例えば、蛍光体220は、青色のレーザ光の照射により、緑色の蛍光を発生する蛍光材料と、赤色の蛍光を発生する蛍光材料とにより形成される。
反射型フィルタ222は、発光素子211からのレーザ光を透過し、蛍光体220からの光を反射する光学部材であり、枠体221の発光素子側の面を覆うように配置されている。光ファイバケーブル2のファイバ端には、発光素子211からのレーザ光と、蛍光体220からの蛍光とが混合した複数の波長を有する光が検出光DLとして入射される。
投光用光源ユニット21は、光ファイバケーブル2のファイバ端に、発光素子211からのレーザ光と蛍光体220からの蛍光とが混合した光を直接に入射させる構成である。この様なファイバ型光源を用いることにより、ヘッドユニット10及びコントローラ20間の光ファイバケーブル2との接続を簡素化することができる。
<測定制御部27>
図5は、図3の測定制御部27の構成例を示したブロック図である。この測定制御部27は、受光波形取得部101、基底波形推定部102、信号波形算出部103、距離算出部104、換算式記憶部105、波形データ出力部106、参照範囲受付部107、露光時間調整部108及び投光量制御部109により構成される。
受光波形取得部101は、ラインセンサ26からの受光信号に基づいて、距離に関する受光強度の分布からなる受光波形を取得し、基底波形推定部102及び信号波形算出部103へ出力する。ラインセンサ26には、多数の受光素子が直線状に配列されていることから、受光素子ごとの受光量を示す受光強度データが配列方向の位置に関連づけて管理される。受光波形は、受光素子の配列方向の位置をピクセル位置と呼ぶことにすれば、それぞれがピクセル位置に関連づけられた多数の受光強度データからなる。
基底波形推定部102は、受光波形取得部101により取得された受光波形の形状に基づいて、その基底波形を推定する。基底波形は、ノイズ成分を示す受光波形であり、ヘッドユニット10の対物レンズ14から出射されなかった検出光DLに対応する。信号波形算出部103は、受光波形及び基底波形に基づいて、信号波形を求め、距離算出部104及び波形データ出力部106へ出力する。信号波形は、対物レンズ14から出射され、ワークWによって反射された検出光DLに対応する受光波形であり、受光波形及び基底波形の差分から求められる。基底波形推定部102及び信号波形算出部103は、対物レンズ14から出射されなかった検出光DLに対応する基底波形を除去することにより、受光波形から信号波形を抽出する基底波形除去手段である。
距離算出部104は、信号波形算出部103により求められた信号波形に基づいて、ワークWまでの距離WDを求め、表示部28へ出力する。受光波形上のピクセル位置は、ラインセンサ26上の該当する位置に結像する光の波長に対応し、波長は距離WDに対応することから、距離WDは、信号波形のピーク位置を特定することによって求められる。
例えば、信号波形を構成するデータ点列に対し、受光強度が判定閾値以上のデータ点列が存在すれば、ワークWからの反射光成分に対応すると判断し、当該データ点列において受光強度が最大のデータ点のピクセル位置がピーク位置として特定される。或いは、受光強度が判定閾値以上のデータ点列にフィッティングする曲線を求め、その曲線の最大点のピクセル位置をピーク位置としても良い。
また、距離算出部104は、算出した距離WDを基準値と比較することにより、変位量を求め、表示部28へ出力する。換算式記憶部105には、ピクセル位置、波長及び距離WDを互いに対応づけるための換算式又はテーブルが保持される。
波形データ出力部106は、信号波形算出部103により求められた信号波形を画面表示するための波形データをPC3へ出力する。参照範囲受付部107は、PC3から、後述する参照範囲RRを受け付ける。参照範囲RRは、受光波形を構成するデータ点列を解析する際の処理単位であり、参照範囲RRに基づいて基底波形が推定される。
本実施の形態による共焦点変位計1は、ワークWの種類により、また、ワークW内の部分により、反射率が変わったとしても、受光強度が飽和しないように、受光量が制御されている。例えば、ワークWが正反射するような対象物であれば、受光強度の最大値が高くなり、一方、ワークWが透明体のような対象物であれば、受光強度の最大値は低くなる。このようなワークWの種類によらず、安定した変位計測を行うためには、受光強度の最大値が飽和しないように、受光装置(ラインセンサ26)で受光する光量を変える必要がある。受光装置(ラインセンサ26)で受光する光量を変える方法には、受光信号を増幅するアンプのゲインを調整する方法と、受光装置の露光時間等を調整することによって受光装置の露光量を変える方法と、投光装置の投光量を調整する方法とがある。露光時間調整部108及び投光量制御部109は、その様な受光強度のダイナミックレンジを変化させる手段である。
例えば、受光強度の最大値が飽和する場合は、次のサンプリング時に、受光強度の最大値が飽和しないように、受光装置で受光する光量を減らすべく、受光装置のシャッタを開けている時間を短くする。
露光時間調整部108は、ラインセンサ26からの受光信号に基づいて、ラインセンサ26における受光素子の露光時間を調整する。例えば、露光時間は、受光素子における電荷蓄積の時間を制御することによって行われる。また、露光時間は、受光強度が一定レベルを超えた場合に、短縮される。
投光量制御部109は、ラインセンサ26からの受光信号に基づいて、検出光DLの投光量を制御する。例えば、レーザ光を生成する発光素子211を制御し、レーザ光のパルス時間(パルス幅)を変えることにより、検出光DLの投光量が調整される。上述した様な露光時間調整又は投光量制御により、受光強度は、時間とともに変動するため、基底波形が変化する。基底波形推定部102では、現在の受光波形から基底波形を推定するため、動的に変化する基底波形が自動的に求められる。この様にして求められる基底波形を受光波形から減算することにより、周囲環境やワークWによってダイナミックレンジが変化しても、正しい信号波形を求めることができる。なお、受光信号を増幅するアンプのゲインを調整することによって、受光強度のダイナミックレンジを変化させても良い。
<基底波形推定部102>
図6は、図5の基底波形推定部102の構成例を示したブロック図である。この基底波形推定部102は、代表点列生成部111、代表点列記憶部112、強度差分算出部113、重み係数算出部114及び代表点列更新部115により構成される。
代表点列生成部111は、受光波形取得部101からの受光波形に基づいて、2以上の代表点RPからなる代表点列を生成し、代表点列記憶部112内に格納する。受光波形は、2以上のデータ点DPからなるデータ点列により構成される。各データ点DPには、対応する受光素子の受光強度データとピクセル位置を示す位置情報とが対応づけられる。
代表点RPは、注目点APを含む参照範囲RR内のデータ点列に対し、このデータ点列にフィッティングする回帰曲線RCを求め、注目点APのピクセル位置に対応する受光強度データを回帰曲線RCから算出することによって定められる。注目点APは、参照範囲RR内におけるいずれかのデータ点DPである。回帰曲線RCは、最小二乗法を利用して求められる。代表点列は、参照範囲RRを一定距離Δxだけ移動させるごとに、参照範囲RR内のデータ点列にフィッティングする回帰曲線RCを求めて代表点RPを定めることによって得られる。
強度差分算出部113は、データ点DP及び代表点RP間の残差dを求め、重み係数算出部114へ出力する。残差dは、データ点DP及び代表点RP間における受光強度の差分である。
重み係数算出部114は、強度差分算出部113からの残差dに基づいて、重み係数wを求め、代表点列更新部115へ出力する。重み係数wは、0以上1以下の実数であり、残差dが小さいほど大きくなり、残差dが一定値を超える範囲では0になるように定められる。
代表点列更新部115は、データ点列に重み係数wを割り当て、参照範囲RRを一定距離Δxだけ移動させるごとに、参照範囲RR内のデータ点列に重み付きでフィッティングする回帰曲線RCを求めて代表点RPを新たに定めることにより、代表点列を更新する。残差dに応じた重み係数wを求めて代表点列を更新する処理は、一定回数繰り返される。基底波形は、更新後の代表点列により構成される。
図7は、図5の測定制御部27の動作の一例を示した図であり、図中の(a)には、受光波形4が示され、(b)には、基底波形5が示され、(c)には、信号波形6が示されている。図には、横軸をピクセル位置とし、縦軸を受光強度として、受光波形4、基底波形5及び信号波形6がそれぞれ描画されている。また、図中の(c)では、受光波形4に対するピーク位置P3のずれを誇張して信号波形6が描画されている。
受光波形4は、ピクセル位置と受光強度との関係を表す特性曲線であり、受光信号に基づいて作成される。この受光波形4には、短波長側と長波長側とに鋭いピークが形成され、これらのピーク間には、受光強度が緩やかに変化する1つのピークが形成されている。短波長側のピーク波形は、蛍光体励起用のレーザ光に対応する受光波形である。長波長側のピーク波形は、信号波形6に対応する。短波長側のピーク波形と緩やかに変化するピーク波形とは、基底波形5に対応する。光量の強い光、例えば、レーザを用いた光を光源とすることにより、基底波形5の強度も高くなる。
基底波形5は、ピクセル位置がp1以上p2以下の範囲を演算対象範囲としてこの演算対象範囲内で受光波形4の形状を解析し、受光波形4を構成するデータ点列に滑らかにフィッティングする曲線をベースラインとして推定することによって求められる。
ピクセル位置p1は、短波長側のピーク波形の影響を除去するために、当該ピーク波形よりも長波長側に予め定められる。信号波形6は、ワークWからの反射光に対応する受光波形であり、受光波形4から基底波形5を減算することによって求められる。
投光用光源にレーザ光源を用い、そのレーザ光とレーザ光によって励起された蛍光体220からの蛍光との混合光を検出光DLとして使用することにより、検出光DLの光量は極めて大きい。このため、ワークW以外の部材による反射光の影響が無視できない。このワークW以外の部材による反射光に対応する受光波形が基底波形5であり、受光波形4では、基底波形5の存在により、信号波形6のピーク位置P3がずれるという問題があった。
例えば、基底波形5が山形状であり、そのピーク位置よりも長波長側の傾斜領域に信号波形6が形成される場合、信号波形6のピーク位置P3は、基底波形5のピーク位置側、すなわち、短波長側にシフトする。これは、信号波形6の頂点近傍の変化率が0程度であるのに対し、基底波形5の傾斜領域の変化率は0よりも大きいことに起因する。
本実施の形態では、受光波形4の形状から基底波形5を推定して信号波形6を求めるため、基底波形5に影響されることなく、信号波形6のピーク位置P3を正確に検知することができる。この基底波形5は、波形の形状をもとに、共焦点変位計1が算出しているので、ユーザは、ワークW、測定環境又は測定条件を変更するごとに、補正値を覚え込ませて補正するものに比べ、手間がかからない。また、ダイナミックレンジが変わった場合であっても、そのダイナミックレンジの変動に応じて、基底波形5も変わり、信号波形6のピーク位置を正しく特定することができる。
図8は、図5の測定制御部27における基底波形推定時の動作の一例を示した図であり、受光波形4を構成するデータ点列から代表点列を生成する様子が示されている。図中の(a)には、受光波形4を構成する多数のデータ点DPからなるデータ点列が示されている。データ点DPを示すドットは、横軸をラインセンサ26上の位置xとし、縦軸を受光強度yとしてプロットされている。各データ点DPのx軸方向の間隔は、一定である。
図中の(b)には、参照範囲RR内のデータ点列にフィッティングする回帰曲線RCを求めて代表点RPを定める様子が示されている。参照範囲RRは、最小二乗法による統計演算の処理対象領域であり、注目点APを含む連続する2以上のデータ点DPからなる。この例では、注目点APを中心のデータ点DPとし、注目点APよりも大きい位置に3つのデータ点DPを含み、注目点APよりも小さい位置に3つのデータ点DPを含む領域が参照範囲RRとして指定されている。つまり、この参照範囲RRには、7つのデータ点DPが含まれている。
回帰曲線RCは、参照範囲RR内のデータ点列にフィッティングさせるN次(Nは、1以上の整数)の関数により表される。回帰曲線RCは、参照範囲RR内のデータ点列に対し、最小二乗法を利用してこれらのデータ点列に近似するN次関数を定めることによって求められる。
代表点RPは、注目点AP及び回帰曲線RCに基づいて定められる。すなわち、代表点RPは、注目点APのx座標に対応するy座標(受光強度)を回帰曲線RCから算出することによって定められる。この例では、代表点RPを示すクロスマークが参照範囲RR内にプロットされている。
例えば、参照範囲RP内のデータ点数をn、各データ点DPの座標を(xi,yi)(iは、1以上n以下の整数)とし、回帰曲線RCを二次関数y=ax2+bx+cとすれば、パラメータa,b,cは、次式(1)により求められる。
図中の(c)には、演算対象範囲内のデータ点列に基づいて取得された2以上の代表点RPからなる代表点列がデータ点列と比較して示されている。参照範囲RR内のデータ点列にフィッティングする回帰曲線RCを求めて代表点RPを定める統計演算処理は、参照範囲RRをx軸方向にΔxだけ移動させるごとに繰り返される。
移動量Δxは、データ点列のx軸方向のピッチ以上の値であれば任意である。この例では、移動量Δxがデータ点列のピッチと一致している。演算対象範囲内の全てのデータ点DPについて、代表点RPを定めることにより、0次近似の基底波形5が取得される。この基底波形5では、信号成分に相当するデータ点DPに引っ張られる形で、波形が局所的に凸凹している。
例えば、参照範囲RRの幅、移動量Δx、回帰曲線RCの次数Nは、測定条件を示すパラメータであり、基底波形5や信号波形6の曲率に応じて、ユーザが任意に指定することができる。この様なパラメータは、ヘッドユニット10ごとに設定可能であり、その設定値はコントローラ20に保持される。なお、次数Nは、固定値であっても良い。
図9は、図5の測定制御部27における基底波形推定時の動作の一例を示した図であり、残差diに対応する重み係数wiを用いて代表点列を更新する様子が示されている。図中の(a)には、横軸を残差diとし、縦軸を重み係数wiとして、代表点列を更新するための統計演算に用いるロバスト重みが示されている。
残差diは、代表点列がデータ点列と同じ間隔で算出される場合、データ点DPと対応する代表点RPとの間のy座標の差により求められる。なお、代表点列の間隔がデータ点列よりも広い場合は、データ点DPに対応づける代表点RPが補間処理によって求められる。代表点RP間を補間する処理には、直線補間や曲線補間が用いられる。
ロバスト重みは、欠陥部分の影響を抑制するために、他の測定値から大きく外れた外れ値に割り当てる重みを相対的に小さくするというロバスト推定の方法に従って定められる。例えば、ロバスト重みの重み係数wiは、重みの変化度合いを調整するための係数をCとし、残差diの標準偏差をσとすれば、次式(2)により表される。
この重み係数wiは、正規分布型の特性曲線により表され、残差diが0の位置において最大(最大値1.0)であり、残差diの絶対値が大きくなるに従って減少し、残差diの絶対値がC×σ以上の位置において0である。例えば、係数Cは、3.0程度である。なお、標準偏差σに代えて、全ての残差diにおける中央値mを用いて重み係数wiを定めても良い。重み係数wiに中央値mを用いる場合は、係数Cは、6.0程度である。
図中の(b)には、横軸を差分値(xi−x0)とし、縦軸を重み係数wiとして、代表点列を更新するための統計演算に用いる回帰重みが示されている。差分値(xi−x0)は、データ点DPのx座標xiと注目点APのx座標x0との差である。
回帰重みは、注目点APを中心とし、注目点APから離れたデータ点DPの影響を抑制するために、注目点APから離れたデータ点DPに割り当てる重みを距離に応じて小さくすることによって定められる。例えば、回帰重みの重み係数wiは、重みの変化度合いを調整するための係数をLとすれば、次式(3)により表される。
この重み係数wiも、正規分布型の特性曲線により表され、差分値(xi−x0)が0の位置において最大(最大値1.0)であり、差分値(xi−x0)の絶対値が大きくなるに従って減少し、差分値(xi−x0)の絶対値がLの位置において0である。
1次近似の基底波形5は、0次近似の基底波形5を構成する代表点列に基づいて、重み係数wiを求め、データ点列に重み係数wiを割り当てて、参照範囲RR内のデータ点列に重み付きでフィッティングする回帰曲線RCを求め、代表点RPを新たに定めることによって取得される。例えば、回帰曲線RCを二次関数y=ax2+bx+cとすれば、パラメータa,b,cは、次式(4)により求められる。
図中の(c)には、更新後の代表点列がデータ点列と比較して示されている。参照範囲RR内のデータ点列に重み付きでフィッティングする回帰曲線RCを求めて代表点RPを新たに定める統計演算処理は、参照範囲RRをx軸方向にΔxだけ移動させるごとに繰り返される。
上式(4)の重み係数wiには、上式(2)に示したロバスト重みと上式(3)に示した回帰重みとを乗算したものが用いられる。演算対象範囲内の全てのデータ点DPについて、代表点RPを新たに定めることにより、1次近似の基底波形5が取得される。この基底波形5では、信号成分に相当するデータ点DPに影響されることなく、滑らかに変化する波形が得られている。この様に残差di又は差分値(xi−x0)に応じた重み係数wiを求めて代表点列を更新するという統計演算処理をM回繰り返すことにより、M次近似の基底波形5を取得することができる。
図10のステップS101〜S110は、図5の測定制御部27における距離計測時の動作の一例を示したフローチャートである。まず、測定制御部27は、受信信号に基づいて、受光波形4を取得し、代表点列を生成する(ステップS101,S102)。次に、測定制御部27は、参照範囲RR内のデータ点列に対し、データ点DP及び代表点RPの差分から残差diを求めて重み係数wiを算出する(ステップS103,S104)。
次に、測定制御部27は、データ点列に重み係数wを割り当て、参照範囲RR内のデータ点列に重み付きでフィッティングする回帰曲線RCを求めて新たな代表点RPを算出する(ステップS105,S106)。
ステップS103からステップS106までの処理手順は、全ての代表点RPについて更新が完了するまで、参照範囲RRをΔxだけ移動させるごとに繰り返される(ステップS107,S110)。また、ステップS103からステップS107までの処理手順は、予め指定された回数だけ繰り返される(ステップS108)。
測定制御部27は、ステップS103からステップS107までの処理手順を指定回数だけ繰り返した後、データ点列と代表点列との間のy座標の差分から信号波形6を算出する(ステップS109)。測定制御部27は、この信号波形6のピーク位置を特定することにより、ワークWまでの距離WDや変位量を算出する。
本実施の形態によれば、受光波形4から信号波形6を求めてワークWまでの距離WDを求めるため、投光用光源を高出力化した場合であっても、ワークW以外の部材による反射光の影響が低減し、測定精度を向上させることができる。特に、受光強度が代表点列から大きく外れたデータ点DPの影響を抑制することにより、対物レンズ14から出射されなかった検出光DLに対応する受光波形を基底波形5として正しく推定することができる。また、ワークWが存在しない状態で受光波形を取得する必要がないため、作業効率を低下させることなく、測定精度を向上させることができる。
また、露光時間の自動調整により、受光素子の飽和が抑制されるため、反射率の高いワークWであっても、高い精度で距離計測を行うことができる。さらに、投光用光源や共焦点光学系11の光学的特性に応じて参照範囲RRの幅、移動量Δx、代表点列の間隔を調整することにより、基底波形5を正しく推定することができる。
また、信号波形6から様々な特徴量を計算し、基準値と比較することにより、ワークWが正常ワークであるか、或いは、不良ワークであるかの判定を行うことができる。例えば、受光強度が判定閾値以上であり、かつ、連続するデータ点列を1つの塊と捉え、塊ごとに、x軸方向の幅、面積、重心の位置が特徴量として算出される。或いは、信号波形6を構成するデータ点列について、受光強度の最大値、最小値、平均値及び標準偏差を求め、また、受光強度が判定閾値以上のデータ点の総数を求め、これらの統計的な特徴量を基準値と比較してワーク判定を行っても良い。
なお、本実施の形態では、発光素子211と光ファイバケーブル2のファイバ端とが同軸に配置される場合の例について説明したが、本発明は、投光用光源ユニット21の構成をこれに限定するものではない。例えば、投光用光源ユニット21は、発光素子211から出射されたレーザ光を光ファイバケーブル2のファイバ端に向けて反射する反射鏡を備える。
図11は、投光用光源ユニット21の他の構成例を模式的に示した断面図である。この投光用光源ユニット21は、発光素子211、集光レンズ214、フェルール216、蛍光体220、反射鏡231及び集光レンズ232により構成される。
発光素子211から出射されたレーザ光は、集光レンズ214を介して反射鏡231に集光される。蛍光体220は、反射鏡231の反射面に配置され、発光素子211からのレーザ光によって励起され、蛍光を発生する。反射鏡231により反射されたレーザ光と、蛍光体220からの蛍光とが混合した光は、集光レンズ232を介してフェルール216内の光ファイバケーブル2のファイバ端に集光され、光ファイバケーブル2に検出光DLとして入射される。
また、本実施の形態では、ヘッドユニット10の共焦点光学系11が、ファイバ端2a、コリメートレンズ13及び対物レンズ14により構成される場合の例について説明したが、本発明は、共焦点光学系11の構成をこれに限定するものではない。
図12は、ヘッドユニット10の他の構成例を示した断面図である。図中の(a)には、筐体12内に回折レンズ15及び対物レンズ14を備えたヘッドユニット10が示されている。
この回折レンズ15は、レリーフ型の回折レンズであり、光の回折現象を利用して入射光を集光又は拡散させる光学部材であり、検出光DLの入射面又は出射面に微細なレリーフ(起伏)が形成されている。レリーフは、光軸方向の深さが光の波長程度であり、光軸を中心とする複数の円環状のパターンが同軸に配置される。
図中の(b)には、ダブレットレンズ16及び対物レンズ14を備えたヘッドユニット10が示されている。ダブレットレンズ16は、凹レンズと凸レンズとを組み合わせた光学部材である。
図中の(c)には、集光レンズ17及び対物レンズ14を備えたヘッドユニット10が示されている。集光レンズ17は、ファイバ端2aから出射された検出光DLを対物レンズ14に向けて集光する光学部材である。このヘッドユニット10では、ダブレットレンズが対物レンズ14として用いられている。
図中の(d)には、集光レンズ17及び対物レンズ14を備えたヘッドユニット10が示されている。このヘッドユニット10では、回折レンズが対物レンズ14として用いられている。この様な光学部材の組み合わせによっても、共焦点光学系11として検出光DLに軸上色収差を生じさせることができる。例えば、プリズム、径方向に屈折率分布を有する円筒状のレンズを共焦点光学系11として用いることができる。
また、本実施の形態では、分光光学系が反射型である場合の例について説明したが、本発明は、分光光学系の構成をこれに限定するものではない。例えば、透過角度に応じて異なる波長成分に入射光を分光する透過型の分光器を分光器24として用いても良い。
図13は、コントローラ20の他の構成例を示した図であり、透過型の分光光学系が示されている。この分光光学系は、ファイバ端2b、分光器用レンズ23、分光器24、結像レンズ25及びラインセンサ26により構成される。
分光器24は、光ファイバケーブル2のファイバ端2bから出射され、分光器用レンズ23を介して入射された光を分光する透過型の分光器であり、平板状の回折格子からなる。この分光器24は、透過角度に応じて異なる波長成分に入射光を分光する。結像レンズ25は、分光された透過光をラインセンサ26上に結像させる。
また、本実施の形態では、ヘッドユニット10及びコントローラ20が光ファイバケーブル2を介して接続された共焦点変位計1の例について説明したが、本発明は、共焦点変位計1の構成をこれに限定するものではない。例えば、共焦点変位計1は、光ファイバケーブルを用いることなく、投光用光源から出射された検出光を共焦点光学系に誘導し、また、ワークによって反射され、共焦点光学系を通過した光を直接に分光光学系に誘導するような構成であっても良い。
図14は、共焦点変位計1のその他の構成例を示した図である。この共焦点変位計1は、光ファイバケーブルを備えず、投光用光源31、集光レンズ32,34、ピンホール板33,37、対物レンズ35、ビームスプリッタ36、分光器用レンズ23、分光器24、結像レンズ25及びラインセンサ26により構成される。
投光用光源31は、検出光DLを生成する。集光レンズ32は、投光用光源31から出射された検出光DLをピンホール板33の開口部に集光させる光学部材であり、投光用光源31の発光面に対向させて配置されている。ピンホール板33は、微小な開口を有する平板状の遮光部材である。
集光レンズ34は、ピンホール板33の開口から出射された検出光DLを対物レンズ35に向けて集光する。対物レンズ35は、検出光DLをワークWに向けて出射する。集光レンズ32,34、ピンホール板33及び対物レンズ35は、同軸に配置されている。
ビームスプリッタ36は、ピンホール板33からの光を透過する一方、ワークWによって反射され、対物レンズ35及び集光レンズ34を透過した光をピンホール板37に向けて反射する光学部材である。ピンホール板33,37、集光レンズ34、対物レンズ35及びビームスプリッタ36は、共焦点光学系である。
分光器用レンズ23は、ピンホール板37の開口から出射された光を分光器24に向けて集光する。分光器24は、ワークWによって反射され、共焦点光学系11を通過した光を分光する反射型の分光器であり、反射角度に応じて異なる波長成分に入射光を分光する。
また、本実施の形態では、参照範囲内のデータ点列にフィッティングする回帰曲線が最小二乗法を利用して推定される場合の例について説明したが、本発明は、回帰曲線の推定方法をこれに限定するものではない。例えば、データ点列に対する移動平均化処理により、代表点列を定めるような構成であっても良い。
また、本実施の形態では、レーザ光を発生するレーザ光源が投光用光源として用いられる場合の例について説明した。投光用光源には、LED(発光ダイオード)を用いても良い。また、レーザ光源には、SC(スーパーコンティニューム)光を発生するSC光源を用いても良い。SC光源は、パルスレーザによる非線形光学効果により、連続かつ広帯域なレーザ光を生成する。
また、投光用光源ユニット21は、レーザ光を生成する発光素子211及び蛍光体220に代えて、広い波長帯域の光を出射する光源を含むような構成であっても良い。例えば、投光用光源ユニット21は、白色光を出射するLED(発光ダイオード)又はハロゲンランプを含んでも良い。投光用光源ユニット21は、波長500nm〜700nmの光を出射するが、他の波長帯域の光を出射するような構成であっても良い。例えば、投光用光源ユニット21は、赤外領域の光を出射し、或いは、紫外領域の光を出射するような構成のものであっても良い。
また、本実施の形態では、PC3の表示部に、波形を表示することができるが、表示対象の波形は、図7(a)〜(c)の波形をそれぞれ表示しても良い。図7(a)のような基底波形を含むような波形を表示することなく、図7(c)のような基底波形を除いた波形を表示することで、ユーザは所望の変位に対応する波形を容易に確認することができる。