本発明は、血液脳関門の透過性制御、特には、血液脳関門の透過性を亢進させる技術に関する。更に本発明は、癌の脳転移の分野に関する。より具体的には、本発明は脳転移の診断又はリスク評価、及び、脳転移の治療又は予防の分野に関する。
癌患者の脳転移は予後不良と関係することが知られている。また、脳転移において、癌細胞の血液脳関門(BBB)通過が重要なイベントであること、BBBの主な構成細胞は、脳微小血管内皮細胞(BMECs)であること、BMECsは細胞間の密着結合(tight jynctions)により互いに結合されており、それにより非常に選択的な透過性を有することが知られている。また、密着結合を構成するタンパク質として、接合部接着分子(junctional adhesion molecules:JAM−1、JAM−2及びJAM−3)、オクルジン(occludin)、クラウジン(claudins)、及び閉鎖帯タンパク質(zonula occludin proteins:ZO−1及びZO−2)が知られている。更に、癌細胞のBBB侵襲に関与するメディエーターとしてで、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)、上皮成長因子受容体(EGFR)リガンドHB−EGF、及びα2、6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6GALNAC5)が同定されている。しかし、癌細胞がBBBを通過する初期段階の分子メカニズムについては未だ明らかとなっていない(非特許文献1)。高転移乳癌細胞株であるMDA−MB−231細胞を用いた研究では、乳癌細胞において高度に発現している血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が、内皮細胞の透過性を高めると共に、癌細胞の内皮細胞への接着を増加させることから、VEGFが脳転移に関与することが報告されている(非特許文献2)しかし、VEGFの発現は脳転移には必須ではあるものの、これのみで脳転移が生じるわけではないことも報告されており、VEGFは脳転移におけるBBBの破壊を十分に説明できるものではなかった(非特許文献3)。
一方、中枢神経系(CNS)に感染するクリプトコッカス ネオフォルマンスが如何にBBBを通過するかについての研究が行われており、クリプトコッカスのヒトBMECsへの接着によりコフィリンの脱リン酸化が起こり、アクチンの再構成が起こっていることが報告されている。本報告では更に、クリプトコッカスによるコフィリンの脱リン酸化がRhoキナーゼ−LIMキナーゼ−コフィリン経路を経て制御されていることを示している(非特許文献4)。
エキソソームを含む細胞外小胞(EVs)は、内包するタンパク質、mRNA、及びマイクロRNA(miRNA)を運搬することにより細胞間情報伝達を仲介することが知られている(非特許文献5)。また、癌細胞から放出される細胞外小胞は、NK細胞の機能を阻害したり(非特許文献6)、骨髄前駆細胞のMET癌タンパク質の発現を高めて転移促進性(pro−metastatic)の形質に変化させたり(非特許文献7)するなど、癌細胞の悪性度に様々な観点で関与することが報告されている(非特許文献8)。このようにEVsと癌転移との関係は示唆されていたものの、EVs及びそれに内包される物質とBBBとの関係については、何も知られていなかった。
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本発明は、脳転移におけるBBBの破壊メカニズムを解明し、癌の脳転移の新たな診断・リスク評価方法、及び治療・予防方法を提供することを目的とする。または、本発明は新規のBBBを破壊するメカニズムを利用した、脳への薬剤送達方法を提供することを目的とする。更に、本発明はこれらの方法において用いる薬剤、組成物及びキット等を提供することを目的とする。
本発明者らは、脳転移のメカニズムを解明するため、転移能の高いヒト乳癌細胞株をマウスに移植し、脳転移した癌細胞から得たEVsについて解析した。その結果、癌細胞由来のEVsが脳微小血管内皮細胞に取り込まれること、及び癌細胞由来のEVsが取り込まれることにより血液脳関門(BBB)が破壊されることを見出した。次に、本発明者らはEVsに含まれる物質の中から、血液脳関門の破壊に関係する物質について探索した結果、脳転移癌細胞由来のEVsに特異的に含まれていたマイクロRNAであるmiR−181cに血液脳関門を破壊する作用があることを見出した。そこで、本発明者らはmiR−181cの脳微小血管内皮細胞内における作用について検討した結果、miR−181cが3−ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ−1(以下、「PDPK1」という)の非翻訳領域に結合してその発現を減少させることを見出した。更に本発明者らは、PDPK1の発現減少と血液脳関門(BBB)破壊との関係を検討した結果、PDPK1の発現を阻害することにより、密着結合タンパク質の局在が変化することを見出した。よって、本発明者らは、癌細胞由来のEVsは内包するmiR−181cを脳微小血管内皮細胞内で放出することにより、PDPK1の発現を阻害し、それにより密着結合タンパク質の局在を変化させて血液脳関門を破壊することを見出した。
miR−181cは、細胞の増悪化に関与することは報告されていたが、血液脳関門との関係はこれまで知られていなかった。
また、PDPK1は、主には、プロテインキナーゼB(PKB/AKT1、PKB/AKT2、PKB/AKT3)、p70リボソーマルプロテインS6キナーゼ(RPS6KB1)、p90リボソーマルプロテインS6キナーゼ(RPS6KA1、RPS6KA及びRPS6KA3)、cyclic AMP依存性プロテインキナーゼ(PRKACA)、プロテインキナーゼC(PRKCD及びPRKCZ)、血清及びグルココルチコイド誘導性キナーゼ(SGK1、SGK2及びSGK3)、p21活性化キナーゼ−1(PAK1)、プロテインキナーゼPKN(PKN1及びPKN2)を標的として、細胞増殖と生存の調節やグルコース及びアミノ酸の摂取と貯蔵に関与していることが知られているが、血液脳関門との関係についてはこれまで報告はなかった。
よって、本発明は、脳転移癌細胞が血液脳関門を破壊するメカニズムを解明したことに基づくものであり、具体的には以下の発明に関する。
(1) 被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルを測定することを備える、脳転移を診断するための情報を提供する方法。
(2) 被検癌患者における脳転移を診断するための情報を提供する方法であって、
前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルを決定するステップ、
決定されたmiR−181cレベルから前記被検癌患者における脳転移を判定するステップを備え、
ここで、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、前記被検癌患者は脳転移を有するとの情報が提供される方法。
(3) 前記被検癌患者がステージIVの癌患者である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルを測定することを備える、脳転移を診断するための情報を提供する方法。
(5) 被検癌患者における脳転移が生じるリスクを評価するための情報を提供する方法であって、
前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルを決定すること、
決定されたmiR−181cレベルから前記被検癌患者における脳転移が生じるリスクを判定するステップを備え、
ここで、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、前記被検癌患者は脳転移が生じるリスクが高いとの情報が提供される方法。
(6) 前記被検癌患者がステージI〜IIIの癌患者である、(4)又は(5)に記載の方法。
(7) 前記被検癌患者が乳癌患者である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) 前記陰性比較対象が、脳への転移が無い癌患者又は健常人である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9) 前記検体が血液である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10) 検体中のmiR−181cが、検体中のEVsから抽出されたmiR−181cである、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の方法。
(11) (1)〜(10)のいずれか1項に記載の方法に用いるためのmiR181cを測定することによる、脳転移の診断又はリスク評価に供する体外診断用試薬又は体外診断用測定器。
(12) miR−181cと特異的に結合する物質を備える、脳転移の診断又はリスク評価のための薬剤。
(13) 前記miR−181cと特異的に結合する物質が、miR−181cと特異的に結合する核酸である、(12)に記載の薬剤。
(14) 前記miR−181cと特異的に結合する核酸が、少なくとも一部に人工的に設計された配列を有する核酸である、(13)に記載の薬剤。
(15) miR−181cと特異的に結合する物質が、標識化されていることを特徴とする、(12)〜(14)のいずれか1項に記載の薬剤。
(16) miR−181cの発現抑制剤、miR−181cの活性阻害剤、及びエキソーム分泌阻害剤からなる群から選択される1以上の薬剤を有効成分として含有する、脳転移を抑制するための医薬組成物。
(17) miR−181cの発現抑制剤、miR−181cの活性阻害剤、及びエキソーム分泌阻害剤からなる群から選択される薬剤が、以下から選択される薬剤である、(16)に記載の医薬組成物
(i)pri−miR−181c又はpre−miR−181cに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、又はsiRNA;
(ii)、miR−181cのアンチセンスオリゴヌクレオチド、miR−181cと特異的に結合するアプタマー、miR−181cに対するsiRNA、又はmiR−181cのmiRNA mimetics;
(iii)nSMase2遺伝子及び/又はRAB27B遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、又はsiRNA;あるいは、
(iv)nSMase2及び/又はRAB27Bに対する抗体若しくはその免疫反応性断片;nSMase2及び/又はRAB27Bに特異的に結合するペプチドmimetics、又はアプタマー;あるいは、nSMase2及び/又はRAB27Bのアンタゴニスト。
(18) PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤を有効成分として含有する、血液脳関門の透過性を亢進させるための医薬組成物。
(19) 前記PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤が、PDPK1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、PDPK1遺伝子と特異的に結合するアプタマー、PDPK1遺伝子に対するsiRNA、又は、PDPK1遺伝子の発現を抑制可能なmiRNA;あるいは、PDPK1に対する抗体若しくはその免疫反応性断片;PDPK1と特異的に結合するペプチドmimetics、又はアプタマー;あるいは、PDPK1のアンタゴニストである、(18)に記載の医薬組成物。
(20) 前記PDPK1遺伝子の発現を抑制可能なmiRNAが、miR−181cである、(19)に記載の医薬組成物。
(21) PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤を有効成分として含有する、所望の活性成分を脳内に到達させるための薬剤送達用組成物。
(22) 前記PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤と共に前記所望の活性成分を含有する、(21)に記載の薬剤送達用組成物。
(23) 前記PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤が、PDPK1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、PDPK1遺伝子と特異的に結合するアプタマー、PDPK1遺伝子に対するsiRNA、又は、PDPK1遺伝子の発現を抑制可能なmiRNA;あるいは、PDPK1に対する抗体若しくはその免疫反応性断片;PDPK1と特異的に結合するペプチドmimetics、又はアプタマー;あるいは、PDPK1のアンタゴニストである、(21)又は(22)に記載の薬剤送達用組成物。
(24) 前記PDPK1遺伝子の発現を抑制可能なmiRNAが、miR−181cである、(23)に記載の薬剤送達用組成物。
(25) 被検癌患者における脳転移を判定する装置であって、
当該被検癌患者由来の検体を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定するmiR−181c測定手段と、
該miR−181c測定手段にて測定された検体中のmiR−181cレベルを決定するmiR−181cレベル決定手段と、
該miR−181cレベル決定手段にて決定されたmiR−181cレベルから前記被検癌患者における脳転移を判定する転移判定手段と、
を備え、
前記転移判定手段は、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、前記被検癌患者は脳転移を有すると判定することとした癌患者の脳転移判定装置。
(26) 被検癌患者における脳転移が生じるリスクを判定する装置であって、
前記被検癌患者由来の検体を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定するmiR−181c測定手段と、
該miR−181c測定手段にて測定された検体中のmiR−181cレベルを決定するmiR−181cレベル決定手段と、
該miR−181cレベル決定手段にて決定されたmiR−181cレベルから前記被
検癌患者における脳転移が生じるリスクを判定するリスク判定手段と、
を備え、
前記リスク判定手段は、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、前記被検癌患者は脳転移が生じるリスクが高いと判定することとした癌患者の脳転移リスク判定装置。
(27) 被検癌患者における脳転移を診断するための情報を提供する装置にインストールされるコンピュータプログラムであって、
当該コンピュータプログラムは、
前記被検癌患者由来の検体を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定するmiR−181c測定手順と、
該miR−181c測定手順にて測定された検体中のmiR−181cレベルを決定するmiR−181cレベル決定手順と、
該miR−181cレベル決定手順にて決定されたmiR−181cレベルから前記被検癌患者における脳転移を判定する転移判定手順と、
該転移判定手順による判定結果を出力する判定結果出力手順と、を癌患者の脳転移診断装置に実行させ、
前記転移判定手順は、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、前記被検癌患者は脳転移を有すると判断することとしたコンピュータプログラム。
(28) 被検癌患者における脳転移が生じるリスク判定する装置にインストールされるコンピュータプログラムであって、
そのコンピュータプログラムは、
当該被検癌患者由来の検体を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定するmiR−181c測定手順と、
該miR−181c測定手順にて測定された検体中のmiR−181cレベルを決定するmiR−181cレベル決定手順と、
該miR−181cレベル決定手順にて決定されたmiR−181cレベルから前記被検癌患者における脳転移が生じるリスクを判定するリスク判定手順と、
該リスク判定手順による判定結果を出力する判定結果出力手順と、を癌患者の脳転移診断装置に実行させ、
前記リスク判定手順は、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、前記被検癌患者は脳転移が生じるリスクが高いと判断することとしたコンピュータプログラム。
本明細書において、「癌」との用語は、上皮性悪性腫瘍、脊髄由来の造血器悪性腫瘍などが含まれ、特に、卵巣癌(非粘液性卵巣癌など)、子宮癌、子宮内膜癌、乳癌、乳腺癌、前立腺癌、精巣癌(睾丸絨毛上皮癌など)、脳癌(上衣腫など)、咽喉癌、肺癌、肺腺癌、腎臓癌(腎細胞癌など)、肝癌、大腸癌(結腸癌など)、胸膜中皮腫、肉腫、慢性および急性骨髄性白血病、肺転移癌などの各種転移癌を含む。本明細書において、「癌患者」とは、転移の有無にかかわらず(脳以外の部位に)癌を発症している患者を意味し、例えば、白血病、リンパ腫(ホジキン病及び非ホジキンリンパ腫など)、多発性骨髄腫等の造血細胞悪性腫瘍;乳癌;子宮体癌;子宮頚癌;卵巣癌;食道癌;胃癌;虫垂癌;大腸癌(大腸癌、直腸癌など);肝癌(肝細胞癌など)胆嚢癌;胆管癌;膵臓癌;副腎癌;消化管間質腫瘍;中皮腫;喉頭癌、口腔癌(口腔底癌、歯肉癌、舌癌、頬粘膜癌など)等の頭頚部癌;唾液腺癌;副鼻腔癌(上顎洞癌、前頭洞癌、篩骨洞癌、蝶型骨洞癌など);甲状腺癌;腎臓癌;肺癌;骨肉腫;前立腺癌;精巣腫瘍(睾丸癌);腎細胞癌;膀胱癌;横紋筋肉腫;皮膚癌;又は、肛門癌の患者であってもよい。
癌のステージは、ステージ分類(臨床進行期分類)により決定される。ステージ分類は、例えば、癌の大きさ(T)、周辺リンパ節への転移(N)、及び遠隔臓器への転移(M)(TNM分類)等に基づいて、各癌(臓器)について詳細な判定基準が定められており、この内容は当業者に広く知られている(米国立がんセンターウェブサイト「Cancer staging」http://www.cancer.gov/cancertopics/factsheet/detection/staging;AJCC Cancer Staging Manual(American Joint Commitee on Cancer)の最新版参照)。例えば、乳癌の場合、ステージ判定基準は以下のとおりである。ステージ0:非浸潤がん:乳がんが発生した乳腺の中にとどまっているもの(パジェット病を含む);ステージI:しこり2cm以下でリンパ節に転移なし;ステージIIA:しこり2cm以下で腋窩リンパ節に転移あり、又はしこり2.1〜5cmでリンパ節に転移なし;ステージ2B:しこり2.1〜5cmで腋窩リンパ節に転移あり、又はしこり5.1cm以上でリンパ節に転移なし;ステージIIIA:しこり5.1cm以上で腋窩リンパ節に転移あり、又はしこりの大きさ問わず腋窩リンパ節転移が強い、または腋窩リンパ節転移を認めず、胸骨傍リンパ節に転移あり;ステージIIIB:しこりの大きさ問わず皮膚や胸壁に浸潤のあるもの;ステージIIIC:しこりの大きさ問わず鎖骨下リンパ節や鎖骨上リンパ節に転移が拡がっているもの;ステージIV:乳房から離れたところに転移しているもの。
癌のステージ分類でステージIVの患者は、通常、遠隔地への転移が認められる。よって、このような患者においては癌細胞が既に血管内に侵入しているため、血液中(血液に含まれるEVs中)のmiR−181cレベルが高く血液脳関門が開いていれば脳に転移する確立は極めて高くなる。一方で、遠隔地への転移が認められないステージI〜IIIの患者においては、癌細胞が血管内に侵入していない可能性が高く、血液中(血液に含まれるEVs中)のmiR−181cレベルが高く血液脳関門が開いていたとしても、即座に脳転移を生じるものではないが、将来、癌細胞が血液中に侵入した場合には、脳転移を生じる可能性(リスク)が高い。よって、本発明の方法、薬剤、装置、コンピュータプログラム等が、脳転移の診断に用いられるか、脳転移のリスク判定に用いられるかは、測定対象の検体が由来する患者の状態によって、決定することができる。癌のステージ分類を利用する場合、ステージI〜IIIの患者に対しては、脳転移のリスク判定を行うことができ、ステージIVの患者に対しては、脳転移の診断を行うことができる。癌のステージ分類の変わりに、遠隔臓器への転移の有無、又は血中への癌細胞の浸潤の有無を利用して、脳転移の診断に用いられるか、脳転移のリスク判定に用いられるかを決定しても良い。この場合、遠隔臓器への転移がある場合、又は血中への癌細胞の浸潤がある場合には、脳転移の診断として行うことができ、遠隔臓器への転移がない場合、又は血中への癌細胞の浸潤がない場合には、脳転移のリスク判定として行うことができる。よって、本明細書において、「ステージIVの患者」は、遠隔臓器への転移がある患者、又は血中への癌細胞の浸潤がある患者と置き換えてもよく、「ステージI〜IIIの患者」は、遠隔臓器への転移がない患者、又は血中への癌細胞の浸潤がない患者と置き換えても良い。
本明細書において、「脳転移」、及び「脳への転移」とは、脳以外の部位に発症した原発巣から癌細胞が離脱して脳内に浸潤し、脳内で増殖すること、又は脳内で増殖した状態を意味する。脳以外の部位に原発巣を有する癌患者に脳転移があるか否かは、当業者周知の画像診断方法により決定することができる。例えば、脳以外の部位に原発巣を有する癌患者にガドリニウム造影剤などを投与して、CTやMRI等の画像から脳内の腫瘍形成が確認された場合には脳転移があると決定することができる。
また、本明細書において、「健常人」とは、癌を発症していないヒトを意味する。本明細書における健常人は、必ずしも他の疾患にも罹患していないことを必要とするものではないが、好ましくは、癌以外の疾患にも罹患していない健康なヒトである。
本発明によれば、癌患者においてmiR−181cはBBBを開き、脳転移を促進させる働きをしている。よって、癌患者におけるmiR−181cレベルを測定することにより、当該癌患者の脳転移に関する情報を得ることができる。本明細書において、「miR−181c」とは、約22塩基からなるヒト由来のmiRNAである(配列番号1)(Lim LPら(2003)Science、299:1540;Landgraf Pら(2007)Cell、129:1401−1414)。
miR−181cレベルの測定は、miR−181cと特異的に結合する物質を用いて行われる。本明細書において、「miR−181cと特異的に結合する物質」とは、miR−181cと特異的に結合することができる物質であれば特に制限されるものではない。通常核酸は、相補的な配列を有する核酸と特異的に結合することから、miR−181cと特異的に結合する物質として好ましくはmiR−181cと特異的に結合する核酸である。
「miR−181cと特異的に結合する核酸」とは、miR−181cと特異的に結合することができる核酸分子を意味する。通常は、このような核酸分子はmiR−181cと相補的な配列を有する。本明細書における「核酸」はDNA、RNA又は人工的に創製した核酸(Locked Nucleic Acid(2’,4’−BNA)などの架橋型核酸を含む)、あるいはそれらの組み合わせを含む。例えば、miR−181cと特異的に結合する核酸は、プライマー又はプローブを含むが、これらに限定されるものではない。「プライマー」とは通常、核酸増幅のために用いられる10〜30mer(好ましくは、17〜25mer、15〜20merなど)の核酸分子であり、少なくともその一部に(好ましくは、7mer以上、8mer以上、9mer以上、10mer以上、11mer以上、12mer以上、13mer以上、14mer以上、15mer以上、20mer以上、25mer以上、又は30mer以上の)増幅対象配列の末端に位置する配列と相補的な配列を有する。また、「プローブ」とは、標的配列と相補的な配列を有し、標的配列と特異的に結合可能な10〜200mer(好ましくは、10〜100mer、10〜50mer、10〜30mer、10〜20merなど)の核酸分子であり、少なくともその一部に(好ましくは、7mer以上、8mer以上、9mer以上、10mer以上、11mer以上、12mer以上、13mer以上、14mer以上、15mer以上、20mer以上、25mer以上、30mer以上、50mer以上、100mer以上の)増幅対象配列の末端に位置する配列と相補的な配列を有する。標的配列に対するプライマー及びプローブの設計方法は当技術分野においてよく知られている。好ましくは、miR−181cと特異的に結合する核酸は、少なくとも一部に人工的に設計された配列(例えば、標識化やタグ化の為の配列など)を含む。
本明細書において、ある物質が「特異的に結合する」とは、当該物質が他のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列、あるいはこれらの構造に対する親和性よりも、標的配列又は構造に対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで、「実質的に高い親和性」とは、所望の測定装置または方法によって、標的配列又は構造を他の配列又は構造から区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味する。例えば、実質的に高い親和性は、miR−181cと結合するmiR−181cと特異的に結合する物質の分子数が、他の配列又は構造と結合するmiR−181cと特異的に結合する物質の分子数の3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、30倍以上、50倍以上であってもよい。本発明のmiR−181cと特異的に結合する物質とmiR−181cとの結合における結合定数(Ka)としては、例えば、少なくとも107M−1、少なくとも108M−1、少なくとも109M−1、少なくとも1010M−1、少なくとも1011M−1、少なくとも1012M−1、少なくとも1013M−1を挙げることができる。
本明細書における、「miR−181cと特異的に結合する物質」(miR−181cと特異的に結合する核酸を含む)は必要に応じて標識化されていても良い。標識化の方法としては、例えば、放射性同位体(RI)標識、蛍光標識、及び酵素標識を挙げることができる。RI標識する場合の放射性同位体としては、32P、131I、35S、45Ca、3H、14Cを挙げることができる。また、蛍光標識する場合の蛍光色素としては、DAPI、SYTOX(登録商標)Green、SYTO(登録商標)9、TO−PRO(登録商標)−3、Propidium Iodide、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)647、Oregon Green(登録商標)、Alexa Fluor(登録商標)405、Alexa Fluor(登録商標)680、Fluorescein(FITC)、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)750、Cy(登録商標)3、Alexa Fluor(登録商標)532、Pacific Blue(商標)、Pacific Orange(商標)、Alexa Fluor(登録商標)546、Coumarin、Tetramethylrhodamine(TRITC)、Alexa Fluor(登録商標)555、BODIPY(登録商標)FL、Texas Red(登録商標)、Alexa Fluor(登録商標)568、Pacific Green(商標)、Cy(登録商標)5、及び、Alexa Fluor(登録商標)594を挙げることができる。酵素標識としては、ビオチン(ビオチン−16−dUTP、ビオチン−11−dUTPなど)、ジゴキシゲニン(DIG:ステロイド系天然物)(デオキシウリジン5´−三リン酸)、アルカリホスファターゼなどが利用可能である。
本発明によれば、PDPK1はBBBの構造維持において主要な役割を担う物質の一つであることから、PDPK1の発現を抑制し、又は活性を阻害することにより、BBBを開かせることができる。よって、PDPK1発現抑制剤又はPDPK1活性阻害剤は、脳内への到達を目的とする薬剤のDDS用薬剤として利用することができる。本明細書において「PDPK1」とは、3−ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ−1の略称である。PDPK1は、プロテインキナーゼのAGCファミリーをリン酸化及び活性化するセリン/スレオニンキナーゼである。PDPK1のmRNA及びタンパク質としては、複数のバリアントが存在することが知られている。PDPK1 vulariant1のmRNAコードする核酸配列及びタンパク質をコードするアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号2及び配列番号3に示す。PDPK1 vulariant2のmRNAコードする核酸配列及びタンパク質をコードするアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号4及び配列番号5に示す。PDPK1 vulariant3のmRNAコードする核酸配列及びタンパク質をコードするアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号6及び配列番号7に示す。PDPK1 vulariantX1のmRNAコードする核酸配列及びタンパク質をコードするアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号8及び配列番号9に示す。本明細書におけるPDPK1は、これらのいずれのバリアントであっても良いし、生体内で生じ得るこれらの変異体であってもよい。
また、本発明者らが見出したところによれば、癌患者において、miR−181cはエキソソーム中に包埋されて血液中を移動し、BBBに到達すると該BBBを構成する細胞に取り込まれることにより、血液脳関門を開くように作用する。よって、癌患者においてエキソソームの分泌を阻害することにより、血液脳関門が開くことを阻止し、それにより脳転移を抑制することができる。よって、一態様において、本発明は、エキソソーム分泌阻害剤を利用した脳転移の抑制に関する。本明細書において、「エキソソーム分泌阻害剤」とは、癌細胞からのエキソソーム分泌を阻害し得る薬剤であれば、特に制限されるものではない。エキソソームの分泌には、中性スフィンゴミエリナーゼ(以下、「nSMase2」という)(配列番号10にcDNA配列を示し、配列番号11にアミノ酸配列を示す)、及びRAB27B(配列番号12にcDNA配列を示し、配列番号13にアミノ酸配列を示す)が関与していることが知られている。よって、これらのnSMase2又はRAB27Bの発現を抑制し、又は活性を阻害することにより、エキソソームの分泌を阻害することができる。即ち、nSMase2又はRAB27Bの発現抑制剤又は活性阻害剤は、本発明におけるエキソソーム分泌阻害剤として使用することができる。
本明細書において、遺伝子、タンパク質、又はmiRNAの「発現抑制剤」とは、当該遺伝子、タンパク質、又はmiRNAの発現を抑制する薬剤であれば特に制限されるものではない。標的遺伝子の発現抑制剤としては、例えば、当該遺伝子配列又は当該遺伝子が転写されることにより生成するmRNA配列に対するアンチセンス、当該遺伝子が転写されることにより生成するmRNAに対するdsRNA、当該遺伝子が転写されることにより生成するmRNAに対するアプタマー、あるいは、当該遺伝子の発現に必須のコーディング領域の上流に位置する核酸配列に結合可能なmiRNA(pri−miRNA及びpre−miRNAを含む)を設計及び/又は選択することにより取得及び利用できることは当技術分野においてよく理解されている。
また、標的タンパク質の発現抑制剤としては、例えば、当該タンパク質をコードする遺伝子配列又は当該遺伝子が転写されることにより生成するmRNA配列に対するアンチセンス、当該タンパク質をコードする遺伝子が転写されることにより生成するmRNAに対するdsRNA、当該タンパク質をコードする遺伝子又は該遺伝子が転写されることにより生成するmRNAに対するアプタマー、あるいは、当該タンパク質をコードする遺伝子の発現に必須のコーディング領域の上流に位置する核酸配列に結合可能なmiRNA(pri−miRNA及びpre−miRNAを含む)を設計及び/又は選択することにより取得及び利用できることは当技術分野においてよく理解されている。
miRNAの発現抑制剤としては、例えば、当該miRNAをコードする遺伝子、当該miRNAのpri−miR、又は当該miRNAのpre−miRに対するアンチセンス、当該miRNAのpri−miR、又は当該miRNAのpre−miRに対するdsRNA、当該miRNAのpri−miR、又は当該miRNAのpre−miRに対するアプタマー、あるいは、当該miRNAをコードする遺伝子の発現に必須のコーディング領域の上流に位置する核酸配列に結合可能なmiRNA(pri−miRNA及びpre−miRNAを含む)を設計及び/又は選択することにより取得及び利用できることは当技術分野においてよく理解されている。
例えば、本発明者らの見出したところにより、PDPK1の発現抑制剤には、pri−miR−181c、pre−miR−181c、miR−181c及びそれらの誘導体が含まれる。
本明細書において、pri−miRNA、pre−miRNA及びmiRNAの誘導体とは、少なくとも、当該miRNAにおけるシード配列(5’末端から2〜8塩基目の7塩基:ACUUACA)を有し、かつ、目的の遺伝子(又はタンパク質)(miR−181cの場合は、PDPK1)の発現を抑制する作用を有する分子である。このような誘導体の機能は、必ずしもオリジナルのmiRNAと定量的に同程度であることを要するものではなく、本発明の目的を達成する限り、オリジナルのmiRNAよりも強い作用又は弱い作用を有していても良い。更に、該誘導体は、pri−miRNA、pre−miRNA及びmiRNAと約70%以上100%未満、約75%以上100%未満、約80%以上100%未満、約85%以上100%未満、約90%以上100%未満、約95%以上100%未満の相同性を有するヌクレオチド配列を有する。配列同一性が高いほど、該誘導体はpri−miRNA、pre−miRNA及びmiRNAとより近い構造となる。pri−miRNA、pre−miRNA及びmiRNAの誘導体は、オリジナルのpri−miRNA、pre−miRNA及びmiRNAが有しない配列を有していてもよい。また、pri−miRNA、pre−miRNA及びmiRNAの塩基長は、miRNAとしての機能を発揮できる限りオリジナルの塩基長と異なっていても良く、例えば、10〜50mer、15〜30mer、20〜25merとすることができる。
また、前記pri−miRNA、pre−miRNA及びmiRNAの誘導体は、pri−miRNA、pre−miRNA及びmiRNAにおけるシード配列を有する核酸分子であって、以下の(i)〜(iv)より選択される1種類以上の付加、置換、欠失及び修飾を(シード配列以外に)有する核酸分子を含む:
(i)1個以上(例えば、1〜10個、1〜5個、1〜3個、1〜2個、又は1個)のヌクレオチドのpri−miR−181c、pre−miR−181c、miR−181cの天然配列への付加;
(ii)pri−miR−181c、pre−miR−181c、miR−181cの天然配列における1個以上(例えば、1〜10個、1〜5個、1〜3個、1〜2個、又は1個)のヌクレオチドの他のヌクレオチドによる置換;
(iii)pri−miR−181c、pre−miR−181c、miR−181cの天然配列における1個以上(例えば、1〜10個、1〜5個、1〜3個、1〜2個、又は1個)のヌクレオチドの欠失;及び、
(iv)pri−miR−181c、pre−miR−181c、miR−181cの天然配列における1個以上(例えば、1〜10個、1〜5個、1〜3個、1〜2個、又は1個)のヌクレオチドの修飾。
本明細書において、タンパク質又はmiRNAの「活性阻害剤」とは、当該タンパク質又はmiRNAがその活性を発揮できない状態とする薬剤であれば特に制限されるものではない。例えば、活性阻害剤は、当該タンパク質又はmiRNAと結合する物質であってもよく、あるいは、当該タンパク質又はmiRNAが結合する相手と結合する物質であっても良い。タンパク質の活性阻害剤としては、mimetics、抗体若しくはその免疫反応性断片、アプタマー、受容体誘導体、又はアンタゴニストが知られている。また、miRNAの活性阻害剤としては、mimetics、該miRNAの少なくとも一部の配列と相補的な配列を有するアンチセンスDNA/RNA又はdsRNA、あるいは、該miRNAに対するアプタマーが知られている。
本明細書において、「アンチセンス」とは、標的とする配列(例えば、pri−miR−181c、pre−miR−181c、又はmiR−181cの配列、又は、pri−miR−181cをコードするDNA配列)に相補的な配列を有する核酸のことであり、DNAであってもRNAであってもよい。また、アンチセンスは標的配列と100%相補的である必要はなく、ストリンジェントな条件下(Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, N.Y.; and Ausubel et al. (eds.), 1995, Current Protocols in Molecular Biology, (John Wiley & Sons. N.Y.) at Unit 2.10)で特異的にハイブリダイズすることができれば、相補的でない塩基を含んでいてもよい。アンチセンスは、細胞に導入されると、標的配列に結合し、転写、RNAのプロセッシング、翻訳又は安定性を阻害する。また、アンチセンスは、アンチセンスポリヌクレオチドの他に、ポリヌクレオチドミメティックス、変異された骨格(modified back bone)を備えるものを含む。このようなアンチセンスは、標的配列情報を基に、当業者周知に方法を利用して適宜設計及び製造(例えば、化学合成)することができる。
「dsRNA」とは、RNA干渉(RNAi)により、少なくとも1部において標的配列と相補的な配列を有し、標的配列を有するmRNAと結合することにより当該mRNAを分解して、それにより標的配列の翻訳(発現)を抑制する二本鎖RNA構造を含むRNAのことである。dsRNAは、siRNA(short interfering RNA)及びshRNA(short hairpin RNA)を含む。dsRNAは、標的遺伝子発現を抑制する限り、標的配列と100%の相同性を備える必要はない。また、dsRNAは、安定化その他の目的で、その一部がDNAに置換されていてもよい。siRNAとして、好ましくは、21〜23塩基を備える二本鎖RNAである。siRNAは、当業者周知の方法、例えば、化学合成又は自然発生RNAのアナログとして得ることができる。shRNAは、ヘアピンターン構造をとるRNA短鎖である。shRNAは当業者周知の方法、例えば、化学合成又はshRNAをコードする遺伝子を細胞に導入し、発現させることにより得ることができる。
「アプタマー」とはタンパク質又は核酸等の物質と結合する核酸である。アプタマーはRNAであってもDNAであってもよい。核酸の形態は二本鎖であっても一本鎖であってもよい。アプタマーの長さは標的分子に特異的に結合することができれば特に限定されないが、例えば、10〜200ヌクレオチド、好ましくは、10〜100ヌクレオチド、より好ましくは15〜80ヌクレオチド、さらに好ましくは15〜50ヌクレオチドのものである。アプタマーは、当業者において周知の方法を用いて選択することができ、例えば、SELEX法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)(Tuerk、 C. and Gold、 L.、 1990、 Science、 249: 505−510)を用いることができる。
本明細書において、「mimetics」とは、当該タンパク質又はmiRNAと類似の構造を有し、当該タンパク質又はmiRNAの結合相手と結合することができるか、あるいは、当該タンパク質又はmiRNAと競合することができるが、当該タンパク質又はmiRNAの奏する活性は発揮することができない物質である。
本明細書における「抗体」は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり得、非ヒト動物の抗体、非ヒト動物の抗体のアミノ酸配列とヒト由来の抗体のアミノ酸配列を有する抗体(キメラ抗体及びヒト化抗体など)、及びヒト抗体を含む。また、抗体のイムノグロブリンクラスは、IgG、IgM、IgA、IgE、IgD、又はIgYのいずれのイムノグロブリンクラス(アイソタイプ)であってもよく、また、IgGの場合、いずれのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)であってもよい。更に、抗体は、モノスペシフィック、バイスペシフィック(二重特異性抗体)、トリスペシフィック(三重特異性抗体)(例えば、WO1991/003493号)であってもよい。抗体の免疫反応性断片とは、抗体の一部分(部分断片)を含むタンパク質又はペプチドであって、抗体の抗原への作用(免疫反応性・結合性)を保持するタンパク質又はペプチドを意味する。このような免疫反応性断片としては、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fab3、一本鎖Fv(以下、「scFv」という)、(タンデム)バイスペシフィック一本鎖Fv(sc(Fv)2)、一本鎖トリプルボディ、ナノボディ、ダイバレントVHH、ペンタバレントVHH、ミニボディ、(二本鎖)ダイアボディ、タンデムダイアボディ、バイスペシフィックトリボディ、バイスペシフィックバイボディ、デュアルアフィニティリターゲティング分子(DART)、トリアボディ(又はトリボディ)、テトラボディ(又は[sc(Fv)2]2)、若しくは(scFv−SA)4)ジスルフィド結合Fv(以下、「dsFv」という)、コンパクトIgG、重鎖抗体、又はそれらの重合体を挙げることができる(Nature Biotechnology、29(1):5−6(2011);Maneesh Jain et al.、TRENDS in Biotechnology、25(7)(2007):307−316;及び、Christoph steinら、Antibodies(1):88−123(2012)参照)。本明細書において、免疫反応性断片は、モノスペシフィック、バイスペシフィック(二重特異性)、トリスペシフィック(三重特異性)、及びマルチスペシフィック(多重特異性)のいずれであってもよい。アプタマーとは、特定の核酸又はタンパク質に結合可能な核酸分子のことである。また、受容体誘導体とは、目的のタンパク質が結合する受容体における結合領域の構造を有する物質を意味し、例えば、受容体と抗体の定常領域を結合させた物質や、膜タンパク質受容体の膜貫通領域を欠落させて可溶化させた物質を挙げることができる。アンタゴニストは、目的のタンパク質又はmiRNAと競合してその機能を阻害する物質を広く含む。
本明細書において、活性阻害剤が当該タンパク質又はmiRNAと結合する場合、あるいは、当該タンパク質又はmiRNAが結合する相手と結合する場合、当該結合は好ましくは特異的であり、結合定数(Ka)としては、例えば、少なくとも107M−1、少なくとも108M−1、少なくとも109M−1、少なくとも1010M−1、少なくとも1011M−1、少なくとも1012M−1、少なくとも1013M−1を挙げることができる。
本明細書において「薬剤」とは、主には有効成分として用いられる物質のことであり、低分子化合物、核酸分子(DNA及び/又はRNA)、タンパク質、及びそれらの融合物を含む。また、本明細書において「組成物」とは、少なくとも有効成分となる薬剤を含み、必要に応じて水、溶媒、及びその他の添加物を含む。本明細書における組成物は、有効成分として1種類の物質のみを含んでいても良いし、2種類以上の物質を含んでいても良い。本明細書において、「有効成分」とは、所望の生物学的作用を発揮することができる物質であれば特に限定されるものではなく、治療効果又は予防効果を発揮することができる物質のほか、DDSとしての機能を発揮する物質も含む。また、ある物質が有効成分か否かは、単に当該物質が生物学的作用を有するか否かではなく、当該組成物中に含まれる当該物質の量が当該物質による生物学的作用を発揮可能な量であるか否かに応じて決定することもできる。
「脳転移の診断又はリスク評価のための組成物」とは、以下に記載する脳転移を診断する方法又は脳転移が生じるリスクを評価する方法に用いるための組成物であり、診断薬(体外診断薬を含む)を含む。脳転移の診断又はリスク評価のための組成物は、in vivo用、ex vivo用、又はin vitro用のいずれで行われるものであってもよいが、好ましくは、ex vivo用、又はin vitro用である。in vivo用の診断又はリスク評価のための組成物は、以下の医薬組成物に準じて患者に投与することができる製剤とすることができる。本明細書における診断又はリスク評価のための組成物としては、例えば、X線造影剤、一般検査用試薬、血液検査用試薬、生化学的検査用試薬、免疫血清学的検査用試薬、細菌学的検査用剤、及び機能検査用試薬を挙げることができる。また、本明細書における診断又はリスク評価のための組成物は、検体中のmiR−181cレベルを決定することを目的とすることから、上述のmiR−181cと特異的に結合する物質を備える。
別の態様において、本明細書における診断又はリスク評価のための組成物は、当該組成物を有効成分として含有する、診断又はリスク評価のためのキットとして提供されていても良い。当該キットは、miRNAレベルを決定可能であればその構成が限定されるものではなく、例えば、本明細書における診断又はリスク評価のためのキットは、miR−181cと結合可能なプライマーを備えるキット(PCR等の遺伝子増幅技術を用いることによりmiRNAレベルを測定可能なキット)、又は、miR−181cと結合可能なプローブを備えるキット(ハイブリダイゼーション等の核酸結合検出技術を用いることによりmiRNAレベルを測定可能なキット)であってもよい。
あるいは、本明細書における本明細書における診断又はリスク評価のためのキットは、miRNAによる発現阻害作用を指標として、miRNAレベルを確認するためのキットであってもよい。この場合は、例えば、miR−181cと特異的に結合可能なmRNA 3’UTRを有する標識物質(ルシフェラーゼなど)をコードする核酸を備えるキット(当該標識物質の発現をレポーターアッセイなどで確認することにより、miRNAレベルを測定可能なキット)とすることもできる。
本明細書において「医薬組成物」とは、治療又は予防に使用するための組成物であり、治療薬及び予防薬を含む。医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好適である。また、患者に投与することができる製剤であれば経口又は非経口のいかなる製剤を採用してもよい。非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、点鼻剤、坐剤、貼布剤、軟膏等を挙げることができ、好ましくは、注射剤である。本発明の医薬組成物の剤形は、例えば、液剤又は凍結乾燥製剤を挙げることができる。本発明の医薬組成物を注射剤として使用する場合、必要に応じて、プロピレングリコール、エチレンジアミン等の溶解補助剤、リン酸塩等の緩衝材、塩化ナトリウム、グリセリン等の等張化剤、亜硫酸塩等の安定剤、フェノール等の保存剤、リドカイン等の無痛化剤等の添加物(「医薬品添加物事典」薬事日報社、「Handbook of Pharmaceutical Excipients Fifth Edition」APhA Publications社参照)を加えることができる。また、本発明の医薬組成物を注射剤として使用する場合、保存容器としては、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、ペン型注射器用カートリッジ、及び、点滴用バッグ等を挙げることができる。例えば、医薬組成物は、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、5〜100mg、10〜250mgの活性成分を含有していても良い。
本明細書において、脳転移を抑制するための医薬組成物は、有効成分として、miR−181c発現抑制剤、miR−181c活性阻害剤、及びエキソソーム分泌阻害剤から選択される1種類以上の薬剤を含有することができる。また、脳転移を抑制するための医薬組成物は、miR−181c発現抑制剤、miR−181c活性阻害剤、及びエキソソーム分泌阻害剤から選択される1種類又はそれ以上の薬剤を唯一の有効成分として含有することもできるし、併用される他の薬剤を有効成分として含有していても良い。このような他の薬剤としては、他の癌転移抑制剤や抗癌剤を挙げることができる。
脳転移を抑制するための医薬組成物が含有することができる、他の癌転移抑制剤又は抗癌剤としては、例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、チオテパ等のナイトロジェンマスタード類、及び、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバシン、プロカルバシン、テモゾロミド、カルムスチン、ストレプトゾトシン、ベンダムスチン等のニトロウレア類を含むアルキル化薬;シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチンなどの白金化合物;エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリビン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、デカフール、デカフール・ウラシル、デカフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、5−フルオロウラシル(5−FU)、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、メトトレキサートなどの代謝拮抗薬;イリノテカン、エトポシド、エリブリン、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチンなどの植物アルカロイド又は微小管阻害薬;アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチマラマー、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルピシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、リポソーマルドキソルビシンなどの抗癌性抗生物質;シプリューセル−T等の癌ワクチン;イブリツモマブチウキセタン、イマチニブ、エベロリムス、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、タミバロテン、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、ラパチニブ、リツキシマブ等の分子標的薬;アナストロゾール、エキセメスタン、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、タモキシフェン、デキサメタゾン、トレミフェン、ビカルタミド、古民度、ブレドニゾロン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、リュープロレリン、レトロゾールなどのホルモン剤;インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン、ウベニメクス、乾燥BCG、レンチナンなどの生物学的応答調節剤を挙げることができる。
本明細書において、血液脳関門の透過性を亢進させるための医薬組成物は、有効成分として、1種類又はそれ以上のPDPK1発現抑制剤又はPDPK1活性阻害剤を含有することができる。また、血液脳関門の透過性を亢進させるための医薬組成物は、PDPK1発現抑制剤及び/又はPDPK1活性阻害剤を唯一の有効成分として含有することもできるし、併用される他の薬剤を有効成分として含有していても良い。このような他の薬剤としては、血液脳関門に作用して透過性を高める薬物の他、脳へ送達される目的の薬剤を挙げることができる。本明細書においては、血液脳関門の透過性を亢進させるための医薬組成物が、特に、所望の薬剤を脳へ送達することを目的して利用される場合、このような医薬組成物を「薬剤送達用組成物」と呼ぶ。また、本明細書の薬剤送達用組成物において、「脳へ送達される目的の薬剤」は、BBBを開放させるために含まれる薬剤(PDPK1発現抑制剤又はPDPK1活性阻害剤)と区別するために、「活性成分」と呼ぶ。
本明細書において「薬剤送達用組成物」は、少なくとも、有効成分としてPDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤を含有する。薬剤送達用組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好適である。このような投薬単位の剤形としては、注射剤(アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ)が例示され、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、5〜100mg、10〜250mgのPDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤を含有していても良い。
また、薬剤送達用組成物は、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤に加えて、脳へ到達させることを目的とする薬剤、即ち、活性成分を含んでいても良い。この場合、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤と活性成分とは、一つの製剤中に含まれていても良いし、併用のための別々の製剤として提供されていても良い。
本明細書において、「活性成分」とは、脳内へ送達されることを目的とする医薬であり、例えば、脳血管障害(脳梗塞・脳出血・脳動脈瘤など)、脳腫瘍(髄膜腫・下垂体腺腫など、脳転移を含む)、感染性疾患(髄膜炎など)、機能的脳疾患(三叉神経痛など)、脊髄疾患(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症など)などの脳神経外科疾患;パーキンソン病、脊髄小脳変性症、てんかんなどの神経疾患;及び、アルツハイマー病、非アルツハイマー性変性痴呆、不眠症、うつ病などの精神疾患を対象疾患とする治療薬又は予防薬を含む。例えば、対象疾患が脳腫瘍の場合、上述の各種抗癌剤を利用することができ、特に、グリオーマの場合、好ましくはアバスチン又はギリアデルを利用することができる。
別の態様において、本明細書における薬剤送達用組成物は、当該組成物を有効成分として含有する、治療又は予防のためのキットとして提供されていても良い。当該キットは、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤を含有していればその構成が限定されるものではなく、例えば、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤、及び、活性成分を含有していてもよい。この場合、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤と、活性成分とは、同時に投与される形態で提供されていても良いし、別々に投与される形態で提供されていても良い。
本明細書全体において、「レベル」とは、数値化されたmiR−181cの存在量に関する指標を意味し、例えば、濃度、量あるいはその代わりとして用いることができる数値化可能なあらゆる指標を含む。よって、レベルは蛍光等の測定値そのものであってもよいし、濃度や量に換算された値であってもよい。また、レベルは、絶対的な数値(存在量、単位面積当たりの存在量など)であっても良いし、又は必要に応じて設定された比較対象と比較した相対的な数値であってもよい。更に、同一サンプルについて(同時に又は異なる時期に)複数回測定した場合には、レベルはその平均値又は中央値とすることができる。
本明細書において「キット」は、上述の有効成分に加えて、紙箱又はプラスチックケース等のキットの構成物を格納するパッケージ、各成分を格納するアンプル、バイアル、チューブ、又はシリンジ等、及び取扱い説明書等を含んでいてもよい。
別の態様において本発明は、癌患者の脳転移判定装置及び脳転移リスク判定装置、並びに、それらの装置において用いられるコンピュータプログラムである(図23)。これらの装置は、脳転移があるか否かを診断をする者(通常は医師)に対して診断のための情報を提供する。本発明の脳転移判定装置は、miR−181c測定手段を備える。ここで、「miR−181c測定手段」は、被験者由来の検体における、miR−181c(配列番号1)の塩基配列若しくはその一部を有するポリヌクレオチドの測定を実行する装置であって、被検癌患者由来の検体に対する所定の処理によって、検体中のmiR−181cレベルに関する情報をデジタル化又は電気信号化する。miR−181c測定手段は、上述の脳転移の診断又はリスク評価のための薬剤と被検癌患者由来の検体とを接触させ、必要に応じて反応させることにより生じたmiR−181cレベルを反映した強度を有する光(蛍光、発光など)等のパラメータを測定する。脳転移の診断又はリスク評価のための薬剤と被検癌患者由来の検体との接触は、通常、プレートやチューブなどの容器(反応槽)内で行われる。
本発明のコンピュータプログラムは、上述の癌患者の脳転移判定装置及び脳転移リスク判定装置が、他の測定や判定にも使用できる汎用装置である場合であっても、その汎用装置へインストールすることにより、癌患者の脳転移判定装置又は脳転移リスク判定装置として使用可能とするコンピュータプログラムを含む。また、本発明のコンピュータプログラムは、必ずしも脳転移判定装置及び脳転移リスク判定装置にインストールされていることを必要とするものではなく、例えば、本発明のコンピュータプログラムは、記録媒体へ記憶させて提供することもできる。ここで、「記録媒体」とは、それ自身では空間を占有し得ないプログラムを担持することができる媒体であり、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−R、CD−RW、MO(光磁気ディスク)、DVD−R、DVD−RW、フラッシュメモリなどが含まれる。また、本発明のコンピュータプログラムは、当該コンピュータプログラムを格納したコンピュータから、通信回線を通じて他のコンピュータ又は装置へ伝送することも可能である。本発明のコンピュータプログラムは、このようなコンピュータに格納されたコンピュータプログラム、及び、伝送中のコンピュータプログラムをも含む。
miR−181cは、BBBを破壊することにより脳転移に寄与し、また、脳転移癌患者において特異的に発現が上昇していることから、脳転移の診断又はリスク評価に使用することができる。また、miR−181cの発現若しくは活性を阻害するか、又は、(miR−181cを含む)EVsの分泌を阻害することにより、脳転移を抑制することができる。更に、miR−181cを含むPDPK1の発現抑制剤、及びPDPK1の活性抑制剤は、BBBの透過性を高めることから、脳への送達が希望される薬剤のDDSに利用することができる。
(a)脳転移誘導体のin vivo選択のプロトコルの概略図である。(b)BMD2a細胞の脳転移を有するマウスの生物発光イメージングの写真である(左)。右は癌細胞転移を有するマウス脳の生物発光イメージングの写真である。(c)マウス大脳皮質及び中脳から得た切片のヘマトキシリン及びエオシン(HE)染色の写真である。上段は大脳皮質(Cerebral cortex)、下段は中脳(midbrain)の写真である。左(Normal)は癌細胞の転移のないマウス由来を示し、中央(Metastasis)は、癌細胞の転移があるマウス由来を示す。矢じりは転移癌細胞をあらわす。右の写真は、高倍率の写真を示す。各写真の右下のバーは、100μmを示す。
(a)サル脳毛細血管内皮細胞、周皮細胞、及び星状膠細胞の初代培養細胞からのin vitro血液脳関門モデルの構築の概略図である。(b)内皮細胞、周皮細胞、及び星状膠細胞の代表的な写真を示す。星状膠細胞は蛍光顕微鏡を用いて可視化させた。各写真の右下のバーは、100μmを表す。(c)密着結合タンパク質(tight junction proteins)(クラウジン−5、オクルジン、及びZO−1)及びN−カドヘリンの免疫蛍光染色の結果を示す写真である。各写真の右下のバーは、20μmを示す。(d)解凍後、実験開始までの間のTEERの変化を示すグラフである。BBB in vitroモデルを解凍後、TEER値は最大で869.55Ω×cm2まで増加した。エラーバーは標準偏差(SD)を示す。
(a)マトリゲルを侵襲したMDA−MB−231−D3H1細胞(以下、D3H1細胞)、MDA−MB−231−D3H2LN細胞(以下、D3H2LN細胞)、また樹立した脳転移細胞株であるBMD2a細胞及びBMD2b細胞の代表的な写真である。各写真の右下のバーは100μmを表す。(b)マトリゲルを侵襲したD3H1細胞、BMD2a細胞及びBMD2b細胞の数を、マトリゲルを侵襲したD3H2LN細胞数に対する割合(倍)で示したグラフである。エラーバーは標準偏差(SD)を示し、**はP<0.01を示す。(c)D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞及びBMD2b細胞の代表的な形態を示す写真である。各写真の右下のバーは100μmを表す。
(a)in vitro BBBモデルにおけるPKH−67標識化各癌細胞の侵襲性試験の概略図である。(b)左のグラフはin vitro BBBモデルを通過した、D3H2LN細胞、BMD2a細胞及びBMD2b細胞の細胞数を、BBBモデルを通過したD3H1細胞に対する割合(倍)で示したグラフである。エラーバーは標準偏差(SD)を示し、*はP<0.01、**はP<0.01を示す。右の写真は、in vitro BBBモデルを通過した、D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞及びBMD2b細胞の細胞の写真を示す。
(a)上段は位相差電子顕微鏡によりEVsを可視化した写真を示す。バーは100nmを表す。下段はEVのサイズをNanoSightで測定した結果を示すグラフである。グラフ中の数値は全てのEVsのサイズの平均値を表す。(b)EVマーカーであるCD63及びCD9、並びにチトクロムCの発現をウェスタンブロッティングで確認した結果の写真である。左から順に、D3H1由来EVs(レーン1)、D3H2LN由来EVs(レーン2)、BMD2a由来EVs(レーン3)、及びBMD2b由来EVs(レーン4)を表す。(c)D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞及びBMD2b細胞から単離されたEVsの数をNanoSightにより測定した結果を表すグラフである。横軸は左から順に、D3H1由来EVs、D3H2LN由来EVs、BMD2a由来EVs、及びBMD2b由来EVsを表す。縦軸は1mL当たりのEVsの粒子数(×109個/mL)を表す。
siRNA処理BMD2a細胞の実験結果を表すグラフである。全てのグラフにおいて、横軸は処理したsiRNAを表し、左から、陰性コントロール細胞(N.C.)、RAB27B siRNA(RAB27B)、nSMase2 siRNA(nSMase2)、RAB27B siRNA及びnSMase2 siRNA(S+R)を表す。(a)siRNA処理BMD2a細胞から放出されたEVs数を表すグラフである。縦軸は、EVs粒子数(個/mL)について、EVs放出関連タンパク質に対するsiRNAで処理した細胞の、陰性コントロール細胞に対する割合(倍)を表す。(b)マトリゲルを侵襲した各種siRNA処理BMD2a細胞に関するグラフである。縦軸は、マトリゲルを侵襲した細胞数について、EVs放出関連タンパク質に対するsiRNAで処理した細胞の、陰性コントロール細胞に対する割合(%)を表す。(c)siRNA処理BMD2a細胞のin vitro BBB通過活性試験の結果を示すグラフである。縦軸は、BBB通過細胞数について、EVs放出関連タンパク質に対するsiRNAで処理した細胞の、陰性コントロール細胞に対する割合(倍)を表す。
BMD2a、BMD2b又はD3H2LN細胞由来のEVsを添加したin vitro BBBモデルを用いたD3H1細胞のBBB通過能を測定した結果を示すグラフである。縦軸は、BBB通過細胞数についてBMD2a、BMD2b又はD3H2LN細胞由来のEVsを添加したin vitro BBBモデルを浸潤したD3H1細胞の、陰性コントロール細胞に対する割合(倍)を表す。横軸は、添加したEVsの由来する細胞を表し、左から、陰性コントロール(N.C.)、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞を表す。
(a)EVs添加から24時間後のTEER測定の結果を表すグラフである。縦軸はTEERの測定値(Ω・cm2)を表し、横軸は、添加したEVsの由来する細胞を表し、左から、陰性コントロール(N.C.)、D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞を表す。エラーバーは標準偏差(SD)を表し、*はP<0.05を、**はP<0.01表す。(b)EVs添加前及びEVs添加24時間後のTEERの変化を表すグラフである。縦軸は、EVs添加前のTEER値に対するEVs添加24時間後のTEER値の割合(倍)を表す。(c)NaFにより測定したBBBの透過性試験の結果を表すグラフである。縦軸は、見かけの透過性係数(Papp)(10−6cms−1)を表す。横軸は、添加したEVsの由来する細胞を表し、左から、陰性コントロール(N.C.)、D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞を表す。
(a)in vitro BBBモデルを構成する内皮細胞へのEVsの取り込みを測定した結果を表すグラフである。縦軸は、D3H2LN細胞由来に対する、他の細胞の内皮細胞に取り込まれたEVsの蛍光強度の比率(倍)を表す。横軸は、使用したEVsが由来する細胞を表し、左から、D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞を表す。エラーバーは標準偏差(SD)を表し、**はP<0.01を表す。(b)in vitro BBBモデルを構成する内皮細胞(Endothelial cell)、周皮細胞(Pericyte)、及び星状膠細胞(Astrocyte)のHoechst33342染色(水色)及び取り込まれたEVsのPKH67(緑色)を蛍光顕微鏡で観察した写真である。写真左は用いたEVsの由来する細胞を表す。内皮細胞(Endothelial cell)及び周皮細胞(Pericyte)の写真のバーは20μmを表す。星状膠細胞(Astrocyte)の写真のバーは、100μmを表す。
(a)D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来EVs添加後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞内における密着結合タンパク質(クラウジン−5、オクルジン、及びZO−1)(赤色)及びアクチンフィラメント(緑色)の共蛍光免疫染色の写真である。バーは20μmを表す。(b)D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来EVs添加後のin vitro BBBモデルを構成する血管細胞内におけるN−カドヘリン(赤色)及びアクチンフィラメント(緑色)の共蛍光免疫染色の写真である。バーは20μmを表す。(c)PBS(陰性コントロール:N.C.)又はD3H2LN細胞、BMD2a細胞、又はBMD2b細胞由来EVsで処理した内皮細胞から回収したタンパク質を用いて、密着結合タンパク質、N−カドヘリン、アクチン、及びGAPDH(内在性コントロール)をウェスタンブロット解析した写真である。
D3H2LN細胞(コントロール)又はBMD2a細胞由来のEVsを投与したマウス脳の蛍光イメージ写真である。上段の蛍光強度は、マウス脳に取り込まれたDiR−標識化EVsを表す。下段の蛍光強度は、マウス脳の血管透過性を表す。
(a)マウス脳内光子強度の分布を表すグラフである。縦軸は光子強度(×105)を表す。横軸は、各マウス群を示し、左から、陰性コントロール(N.C.)、D3H2LN由来EVs投与群(D3H2LN)、及びBMD2a由来EVs投与群(BMD2a)を表す。*はP<0.05、**はP<0.01を表す。(b)陰性コントロール(N.C.)(左)、D3H2LN由来EVs(D3H2LN EVs)(中央)、及びBMD2a由来EVs(BMD2a EVs)(右)を投与した後、マウスに癌細胞を移植し、癌細胞の転移をの生物発光イメージとして示したの代表的な写真である。上段はマウスの全身の生物発光イメージであり、下段はマウス脳の生物発光イメージである。(c)マウス大脳皮質から得た切片の写真である。上段はヘマトキシリン及びエオシン(HE)染色の写真であり、矢じりは転移癌細胞を示す。写真の右下のバーは、100μmを表す。下段は抗ヒトビメンチン免疫蛍光染色のイメージ写真であり、写真の右下のバーは、20μmを示す。
(a)癌細胞由来EVsにおけるmiR−181cの発現レベルのヒートマップである。(b)単離されたEVsにおける全RNA量に対するmiR−181cの量(miR−181c/全エキソソームRNA)について、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞のD3H2LN細胞に対する割合(倍)を表すグラフである。縦軸は、D3H2LN細胞から単離されたEVsにおける全RNA量に対するmiR−181cの量を1とした場合の、単離されたEVsにおける全RNA量に対するmiR−181cの量の比率(倍)を示す。BMD2a細胞、及びBMD2b細胞エラーバーは標準偏差(SD)を表し、**は、D3H2LN細胞由来のEVsに対してP<0.01を表す。
(a)in vitro BBBモデルの血管内皮細胞内のmiR−181c量の変化を示したグラフである。縦軸は、癌細胞由来EVsをin vitro BBBモデルに添加した後、in vitro BBBモデルの血管内皮細胞から回収したRNAに含まれるmiR−181cの量についてRNU6で補正した値をD3H2LN細胞由来EVsを添加した血管内皮細胞に含まれるmiR−181cの量に対する割合(倍)示す。横軸は、in vitro BBBモデルに添加したEVsの由来する細胞を表し、左から、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞を表す。BMD2a細胞、及びBMD2b細胞エラーバーは標準偏差(SD)を表し、**は、D3H2LN細胞由来のEVsに対してP<0.01を表す。(b)in vitro BBBモデルの血管内皮細胞内に対してmiR−181cを形質導入した後、24時間後のTEER測定の結果を表すグラフである。縦軸はTEERの測定値(Ω・cm2)を表し、横軸は、形質導入したmicroRNAを表し、左から、陰性コントロール(N.C.)、miR−181cを表す。エラーバーは標準偏差(S.D.)を表し、**はP<0.01を表す。(c)陰性コントロール(N.C.)又はmiR−181cを形質導入した後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞内における密着結合タンパク質(クラウジン−5、オクルジン、及びZO−1)、N−カドヘリン(赤色)及びアクチンフィラメント(緑色)の共蛍光免疫染色の写真である。バーは20μmを表す。(d)陰性コントロール(N.C.)又はmiR−181cを形質導入した後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞から回収したタンパク質を用いて、密着結合タンパク質、N−カドヘリン、アクチン、及びGAPDH(内在性コントロール)をウェスタンブロット解析した写真である。
患者由来の血清中のEVsに含まれるmiR−181cの量を表すグラフである。縦軸は、miR−16量に対するmiR−181c量の比を表す。横軸は、左が脳転移無し(witiout brain metastasis)(n=46)を示し、右が脳転移有り(Brain metastasis)(n=10)を示す。*はP<0.05を表す。miR−181cレベルの検定はT検定により行った。
乳癌患者血清に含まれるmiR−181cの量の分布を示すグラフである。縦軸は、miR−181cの存在量をmiR−16の存在量で補正した値(ΔΔCt値)である。横軸は、TNM分類を用いた乳癌の病期(ステージ)を示す。*は、ステージ3及び脳転移を有しないステージ4患者群に対する、脳転移を有する患者群、Mann −Whitney U testを用いた有意差を示しており、 P<0.05である。
(a)マイクロアレイ解析によるPDPK1の発現量の比率を示す。in vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞に対し、陰性コントロール(N.C.)及びmiR−181cを形質導入した後、血管内皮細胞から回収したRNAに対して、マイクロアレイ解析を行った。縦軸は、陰性コントロール(N.C.)を形質導入したときのPDPK1の発現量を1とした値である。横軸は、形質導入したmicroRNAを示し、左からN.C.及びmiR−181cである。(b)in vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞におけるPDPK1 mRNAの発現量を示す。血管内皮細胞に対し、陰性コントロール(N.C.)及びmiR−181cを形質導入した後、血管内皮細胞からRNAを回収し、そこに含まれるPDPK1 mRNAの量をRT−PCRにより解析を行った。縦軸には、PDPK1 mRNAの量をGAPDH mRNAの量で補正した値(ΔΔCt値)を1とした値を示す。横軸は、形質導入したmicroRNAを示し、左からN.C.及びmiR−181cである。**は、P<0.01を示す。(c)陰性コントロール(N.C.)又はmiR−181cを形質導入した後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞から回収したタンパク質を用いて、PDPK1及びGAPDH(内在性コントロール)をウェスタンブロット解析した写真である。グラフは、ウェスタンブロット解析した時のPDPK1の発光強度を、GAPDHの発光強度で補正した値を示す。(d)マイクロアレイ解析によるPDPK1の発現量の比率を示す。in vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞に対し、陰性コントロール(N.C.)及びD3H2LN細胞由来EVs、BMD2a細胞由来EVs、BMD2b細胞由来EVsを添加した後、血管内皮細胞から回収したRNAに対して、マイクロアレイ解析を行った。縦軸は、陰性コントロール(N.C.)を処理した時のPDPK1の発現量を1とした値である。横軸は、陰性コントロール(N.C.)及びD3H2LN細胞由来EVs、BMD2a細胞由来EVs、BMD2b細胞由来EVsを添加したことを示す。(e)in vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞におけるPDPK1 mRNAの発現量を示す。血管内皮細胞に対し、陰性コントロール(N.C.)及びD3H2LN細胞由来EVs、BMD2a細胞由来EVs、BMD2b細胞由来EVsを添加した後、血管内皮細胞から回収したRNAに対して、そこに含まれるPDPK1 mRNAの量をRT−PCRにより解析を行った。縦軸には、PDPK1 mRNAの量をGAPDH mRNAの量で補正した値(ΔΔCt値)を1とした値を示す。横軸は、横軸は、陰性コントロール(N.C.)及びD3H2LN細胞由来EVs、BMD2a細胞由来EVs、BMD2b細胞由来EVsを添加したことを示す。**は、P<0.01を示す。(f)陰性コントロール(N.C.)及びD3H2LN細胞由来EVs、BMD2a細胞由来EVs、BMD2b細胞由来EVsを添加した後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞から回収したタンパク質を用いて、PDPK1及びGAPDH(内在性コントロール)をウェスタンブロット解析した写真である。グラフは、ウェスタンブロット解析した時のPDPK1の発光強度を、GAPDHの発光強度で補正した値を示す。
(a)陰性コントロール(N.C.)又はPDPK1 siRNAを形質導入した後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞内における密着結合タンパク質(クラウジン−5、オクルジン、及びZO−1)、N−カドヘリン(赤色)及びアクチンフィラメント(緑色)の共蛍光免疫染色の写真である。バーは20μmを表す。(b)陰性コントロール(N.C.)又はPDPK1 siRNAを形質導入した後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞から回収したタンパク質を用いて、密着結合タンパク質、N−カドヘリン、アクチン、及びGAPDH(内在性コントロール)をウェスタンブロット解析した写真である。(c)in vitro BBBモデルの血管内皮細胞内に対してPDPK1 siRNAを形質導入した後、24時間後のTEER測定の結果を表すグラフである。縦軸はTEERの測定値(Ω・cm2)を表し、横軸は、形質導入したmicroRNAを表し、左から、陰性コントロール(N.C.)、PDPK1 siRNAを表す。エラーバーは標準偏差(S.D.)を表し、**はP<0.01を表す。
(a)3‘UTRレポーター検定の結果である。ヒト(Human)とカニクイザル(Macaca)由来のPDPK1 mRNA 3’UTR領域を用いて行った。陰性コントロール(N.C.)の結果を黒でmiR−181cの結果を白で示している。値は、それぞれ、陰性コントロール(N.C.)を1としたときの比率である。**はP<0.01を示す。(b)ヒト(Human)(配列番号14)及びカニクイザル(Macaca)(配列番号15)由来のPDPK1 mRNA 3’UTR領域の配列とmiR−181c配列(配列番号1)及びその結合領域を示す。
(a)D3H2LN細胞由来EVs、BMD2a細胞由来EVs及びBMD2b細胞由来EVsを添加した後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞から回収したタンパク質を用いて、PDPK1、Cofilin、リン酸化Cofilin(P−cofilin)及びGAPDH(内在性コントロール)をウェスタンブロット解析した写真である。(b)陰性コントロール(N.C.)、miR−181c又はPDPK1 siRNAを形質導入した後のin vitro BBBモデルを構成する血管内皮細胞から回収したタンパク質を用いて、PDPK1、Cofilin、リン酸化Cofilin(P−cofilin)及びGAPDH(内在性コントロール)をウェスタンブロット解析した写真である。
本発明の実施の形態に係る脳転移判定装置の概略構成図を示す。
図22は、本発明の実施の形態に係る脳転移リスク判定装置の概略構成図を示す。
脳転移判定装置用のコンピュータプログラムを実行したときの脳転移判定装置の行う処理のフローを示す。
脳転移リスク判定装置用のコンピュータプログラムを実行したときの脳転移リスク判定装置の行う処理のフローを示す。
本発明の装置及び当該装置を用いた脳転移判定方法(実線)又は脳転移リスク判定方法(点線)の概念図である。
1.癌患者の脳転移の診断又はリスク評価方法
一態様において、本発明は被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルを測定することを備える、脳転移を診断する方法、又は脳転移が生じるリスクを判定する方法に関する。一態様において、本発明は、被検癌患者における脳転移を診断する(又は、脳転移が生じるリスクを判定する)方法であって、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルを決定するステップ、決定されたmiR−181cレベルから前記被検癌患者における脳転移の有無(又は、脳転移が生じるリスク)を判定するステップを備え、ここで、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合に、前記被検癌患者は脳に転移していると判定する(又は、脳転移が生じるリスクが高いと判定する)方法に関する。
あるいは、一態様において、本発明は被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルを測定することを備える、脳転移を診断するための情報を提供する方法に関する。本発明は、被検癌患者における脳転移を診断する(又は、脳転移をリスク評価する)ための情報を提供する方法であって、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルを決定するステップ、決定されたmiR−181cレベルから前記被検癌患者における脳転移の有無(又は、脳転移が生じるリスク)を判定するための情報を提供することを備えるステップを備え、ここで、前記被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、前記被検癌患者は脳転移を有する(又は、脳転移が生じるリスクが高い)との情報が提供される方法。
miR−181cレベルを決定するステップは、被験者由来の検体における、miR−181c(配列番号1)の塩基配列若しくはその一部を有するポリヌクレオチドを測定することにより行う。前記ポリヌクレオチドの測定は、ハイブリダイゼーション等の核酸結合の検出を利用した方法;PCR等の核酸増幅を利用した方法;レポーターアッセイなどのmiR−181cの発現阻害機能を利用した方法;あるいは、miRNA又はmiRNAから転写されたcDNAの配列を解読することにより行うことができる。
ハイブリダイゼーションを利用した方法としては、サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、ドットハイブリダイゼーション、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、マイクロアレイ、ASO法を挙げることができる。
例えば、本発明における「miR−181cレベルを決定するステップ」は、以下のステップを備えていてもよい:
(a)少なくとも1つのmiR−181c(配列番号1)の塩基配列若しくはその一部と結合する核酸コンストラクト(プローブ)と被検癌患者由来の検体を接触させるステップ;
(b)前記プローブと前記検体中のmiR−181cとの結合を測定するステップ;及び、
(c)測定された該プローブとmiR−181cとの結合から当該検体中のmiR−181cレベルを決定するステップ。
上述において、測定される「プローブとmiR−181cとの結合」とは、これらの物質の結合量、結合数、又は結合割合とすることができる。また、プローブとmiR−181cとの結合から当該検体中のmiR−181cレベルを決定するステップは、例えば、以下の方法により行うことができる。miR−181cの段階希釈系列を標準検体として用いて、前記プローブと標準検体中のmiR−181cの結合を測定し、測定値から検量線を作成する。被検癌患者由来の検体を用いて測定された、プローブとmiR−181cとの結合に関する測定値を前記検量線に当てはめることにより、被検癌患者由来の検体中のmiR−181cレベルとして算出することができる。このような検量線は、被検癌患者由来の検体と同時に標準検体を測定することにより決定することもできるし、被検癌患者由来の検体とは分かれて(異なる時期に)標準検体を測定することにより決定することもできる。よって、検量線は、被検癌患者由来の検体の測定前に、標準検体に関する測定を行い、当該標準検体に関する測定値から予め得られたものであっても良い。また、miRNAとプローブを直接結合させる代わりに、患者由来のサンプル中のmiRNAからcDNAを合成し、合成されたcDNAとプローブとの結合を測定しても良い。
また、PCRを利用した方法としては、ARMS(Amplification Refractory Mutation System)法、RT−PCR(Reverse transcriptase−PCR)法、Nested PCR法を挙げることができる。
例えば、本発明におけるmiR−181cレベルの決定は、以下のステップを備えていてもよい:
(a)少なくとも1つのmiR−181c(配列番号1)の塩基配列の一部と結合する核酸コンストラクト(プライマー)を用いて、被検癌患者由来の検体中のmiR−181c(配列番号1)若しくはその一部を有する核酸分子を増幅させるステップ:
(b)前記核酸分子の増幅量を測定するステップ;並びに、
(c)測定された該核酸の増幅量から、当該検体中のmiR−181cレベルを決定するステップ。
上述において、測定された該核酸の増幅量から当該検体中のmiR−181cレベルを決定するステップは、例えば、以下の方法により行うことができる。予めコピー数の判明している核酸を標準検体として使用し、得られた増幅量の値から検量線を作成する。被検癌患者由来の検体中の核酸の増幅に関する測定値を当該検量線に当てはめて算出することにより被検癌患者由来の検体中のmiR−181cを決定することができる。このような検量線は、被検癌患者由来の検体と同時に標準検体を測定することにより決定することもできるし、被検癌患者由来の検体とは分かれて(異なる時期に)標準検体を測定することにより決定することもできる。よって、検量線は、被検癌患者由来の検体の測定前に、標準検体に関する測定を行い、当該標準検体に関する測定値から予め得られたものであっても良い。また、miRNAを直接増幅させる代わりに、患者由来のサンプル中のmiRNAからcDNAを合成し、合成されたcDNAを用いて増幅させても良い。
miR−181cの発現阻害機能を利用した方法としては、蛍光タンパク質等(ルシフェラーゼ等)の標識遺伝子を用いた方法が広く知られている。例えば、miR−181cのシード配列(ACUUACA)と結合する3’UTR配列(例えば、配列番号14又は配列番号15)をmRNAに有する標識遺伝子を設計し、当該遺伝子を導入した細胞を用いて、当該遺伝子が発現する条件下で検体を共存させることにより、miR−181cレベルを決定することができる。
例えば、本発明におけるmiR−181cレベルの決定は、以下のステップを備えていてもよい:
(a)以下の(i)及び(ii)をコードするポリヌクレオチドが導入された細胞と、被検癌患者由来の検体を接触させるステップ、
(i)標識遺伝子、
(ii)miR−181cのシード配列(ACUUACA)と結合するmRNA上の3’UTR配列:
(b)前記細胞中において前記ポリヌクレオチドを発現させるステップ;並びに、
(c)発現した標識遺伝子産物の量から、当該検体中のmiR−181cレベルを決定するステップ。
上述において、発現した標識遺伝子産物の量から当該検体中のmiR−181cレベルを決定するステップは、例えば、予め量が判明している標準検体を用いた場合の標識遺伝子産物の量から検量線を作成し、標識遺伝子産物の量に関する測定値と当該検量線から算出することにより行うことができる。
miRNA又はcDNAの配列を解読する場合、必要に応じてRNAからcDNAを合成し、合成されたcDNAの配列をシーケンサーで解読し、解読されたmiR−181cの量からmiR−181cのレベルをすることができる。
上述において、miRNAからcDNAを合成する場合、cDNA合成キット(RNA−Quant cDNA Synthesis Kit、System Biosciences, LLC、サンフランシスコ、米国)等を用いて行うことができる。
本発明の診断方法等における「判定するステップ」及び「判定するための情報を提供することを備えるステップ」(本段落において、総称して「判定ステップ」という)は、決定されたmiR−181cレベルを利用して行うことができる。判定ステップは、決定された被験者のmiR−181cレベルを、陰性比較対象のmiR−181cレベルと比較することにより行うことができる。被験者由来の検体におけるmiR−181cレベルが、陰性比較対象由来の検体におけるmiR−181cレベルよりも高い場合には、miR−181cレベルが高く、脳転移を有する(又は、脳転移が生じるリスクが高い)と判定することができる。また、被験者由来の検体におけるmiR−181cレベルが、陰性比較対象由来の検体におけるmiR−181cレベルと比較して高くない(即ち、同等か低い)場合には、miR−181cレベルが高くなく、脳転移が無い(又は、脳転移が生じるリスクが低い)と判定することができる。
本明細書において「陰性比較対象」とは、健常人又は脳転移を有さない癌患者(例えば、ステージ1及び/又はステージ2の癌患者、及び/あるいは、ステージ3及び/又はステージ4の癌患者で脳転移を有さない癌患者)を意味する。「陰性比較対象のmiR−181cレベル」は、このような陰性比較対象におけるmiR−181cレベルを上述の方法に従って測定することにより得ることができる。あるいは、既にこのような陰性比較対象について測定したmiR−181cレベルに関する情報があれば、そのようなレベルを「陰性比較対象」のmiR−181cレベルとして利用することもできる。また、「陰性比較対象」のmiR−181cレベルと同量のmiR−181cを含有する標準比較検体を被検癌患者由来の検体と同時に測定してもよい。
本明細書全体に亘って、検体中のmiR−181cレベルが、比較対象となる検体におけるmiR−181cレベルより高いか否かは、統計的分析により決定することができる。統計学的有意性は、2以上の検体を比較し、信頼区間及び/又はp値を決定することにより決定される(Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiely&Sons、NewYord、1983)。本発明の信頼区間は、例えば、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.9%又は99.99%であってもよい。また、本発明のp値は、例えば、0.1、0.05、0.025、0.02、0.01、0.005、0.001、0.0005、0.0002又は0.0001であってもよい。
本明細書全体に亘って、「診断方法」及び「リスク判定方法」は、そのように解することが不整合である場合を除き、脳転移又は脳転移が生じるリスクの状態又は変化をモニターする方法を含む。よって、本明細書において、「診断」又は「リスク評価」の語は、特にそのように解することが不整合である場合を除き、脳転移又は脳転移が生じるリスクの状態又は変化をモニターすることと解釈しても良い。また、本明細書における診断方法及びリスク評価方法がモニターする方法である場合、当該診断又はリスク評価は、連続的又は断続的に行われても良い。また、本発明の診断方法及びリスク判定方法は、in vivo、ex vivo、又はin vitroのいずれで行われるものであってもよいが、好ましくは、ex vivo、又はin vitroで行われる。
本明細書において「検体」は、利用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、検体は、細胞培養上清、細胞溶解物、生検として被験者から採取した組織試料または被験者から採取した液体であってもよい。例えば、検体としては、組織、血液、血漿、血清、リンパ液、尿、便、漿液、髄液、脳脊髄液、関節液、眼房水、涙液、唾液またはそれらの分画物若しくは処理物を挙げることができる。好ましくは、検体は、血液、血漿、血清、リンパ液である。
脳転移のリスク評価は、それにより患者の状態の経過又は転帰を予測する方法を意味し、状態の経過又は転帰を100%の正確さで予測可能であることを意味するものではない。脳転移が生じるリスクの判定は、ある経過又は転帰が起こるリスクが増大しているか否かを意味するものであり、当該経過又は転帰が起こらない場合を基準として起こりやすいことを意味するものではない。即ち、脳転移が生じるリスクの判定結果は、本発明のmiR−181cレベルが上昇している患者において、そのような特徴を示さない患者に比較して、脳転移の経過又は転帰がより生じやすいということを意味する。
本明細書の診断方法及びリスク評価方法において、「被検癌患者」とは、上述の癌患者であれば特に限定されない。上述のとおり、脳転移の診断方法の場合、脳転移は主に癌の後期ステージで生じることから、好ましくは、ステージIVの癌患者、遠隔臓器への転移がある患者、又は血中への癌細胞の浸潤がある患者である。一方、脳転移のリスク判定方法の場合、脳転移のリスクが高い状態であっても、転移そのものはまだ発生していない可能性が高いステージI〜IIIの患者、遠隔臓器への転移がない患者、又は血中への癌細胞の浸潤がない患者を対象とすることが好ましい。また、被検癌患者として好ましくは、乳癌患者である。
2.癌患者の脳転移の治療又は予防方法
本発明者らが見出した癌転移メカニズムによれば、癌細胞から分泌されるEVs(エキソソームを含む)に含まれるmiR−181cが脳転移に寄与していることから、別の態様において、本発明は、癌患者の脳転移を治療又は予防する方法であって、前記癌患者におけるmiR−181cの発現又は活性を阻害することを備える方法に関する。本方法において、miR−181cの発現又は活性の阻害は、miR−181cの発現抑制剤又は活性阻害剤を、それを必要とする患者に投与することにより行うことができる。よって、ある態様において、本発明は、癌患者の脳転移を治療又は予防する方法であって、前記癌患者にmiR−181cの発現抑制剤又は活性阻害剤を投与することを備える方法に関する。
あるいは、miR−181cの発現又は活性の阻害は、miR−181cを含むEVsの分泌を阻害することにより、間接的に達成することができる。よって、一態様において本発明は、癌患者の脳転移を治療又は予防する方法であって、前記癌患者におけるmiR−181cを含有するEVsの分泌を阻害することを備える方法に関する。EVsの分泌阻害は、例えば、EVsの分泌に必須のタンパク質(nSMase2及びRAB27B)の発現又は活性を阻害することにより達成することができる。よって、別の態様において、本発明は、癌患者の脳転移を治療又は予防する方法であって、前記癌患者にエキソーム分泌阻害剤を投与することを備える方法に関する。具体的な態様としては、本発明は、癌患者の脳転移を治療又は予防する方法であって、前記癌患者にnSMase2の発現抑制剤若しくは活性阻害剤、及び/又は、RAB27Bの発現抑制剤若しくは活性阻害剤を投与することを備える方法に関する。
医薬組成物(脳転移の治療薬若しくは予防薬)の投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、上述のとおり非経口的又は経口的に投与される。非経口的投与経路としては、皮下、腹腔内、血中(静脈内、若しくは動脈内)又は脊髄液への注射又は点滴等が挙げられ、好ましくは血中への投与である。また、医薬組成物(治療薬若しくは予防薬)は、一時的に投与してもよいし、持続的又は断続的に投与してもよい。例えば、投与は、1分間〜2週間の持続投与することもできる。
医薬組成物(脳転移の治療薬若しくは予防薬)の投与量は、所望の治療効果又は予防効果が得られる投与量であれば特に限定は無く、癌のステージ、脳転移の有無、症状、性別、年齢等により適宜決定することができる。本発明の医薬組成物の投与量は、例えば、脳転移の治療効果又は予防効果を指標として決定することができる。例えば、医薬組成物の有効成分の1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1月1〜10回程度、好ましくは1月1〜5回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量または投与回数を増加させてもよい。
3.血液脳関門の透過性を亢進させる方法、及び、所望の活性成分を血液脳関門を通過させて脳内に到達させる方法
本発明者らは、PDPK1の発現又は活性が低下することにより血液脳関門の透過性が向上することを見出した。よって、別の態様において、本発明は、血液脳関門の透過性を亢進させる方法であって、血管内皮細胞におけるPDPK1の発現又は活性を阻害することを備える方法に関する。更に別の態様において本発明は、所望の活性成分を血液脳関門を通過させて脳内に到達させる方法であって、前記所望の活性成分をPDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤と共に投与することを備える方法に関する。
例えば、本発明の血液脳関門の透過性を亢進させる方法は、以下の方法を含む:患者の血液脳関門の透過性を亢進させる方法であって、該患者の脳微小血管内皮細胞(BMECs)におけるPDPK1の発現を抑制し、又は活性を阻害することを備える方法。PDPK1の発現の抑制、又は活性の阻害はPDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤により達成することができる。よって、別の態様において、本発明は、患者の血液脳関門の透過性を亢進させる方法であって、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤を投与することを備える方法に関する。
所望の活性成分を血液脳関門を通過させて脳内に到達させる方法は、以下の方法を含む:所望の活性成分を患者の血液脳関門を通過させて脳内に到達させる方法であって、該患者の脳微小血管内皮細胞(BMECs)におけるPDPK1の発現を抑制し、又は活性を阻害すること、及び、該患者に前記所望の活性成分を投与することを備える方法。本方法において、PDPK1の発現又は活性の阻害は、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤をそれを必要とする患者に投与することにより行うことができる。例えば、PDPK1の発現の阻害は、miR−181c又はmiR−181cを含むEVsを投与することにより達成することができる。よって、別の態様において、本発明は、所望の活性成分を患者の血液脳関門を通過させて脳内に到達させる方法であって、前記所望の活性成分とPDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤とを投与することを備える方法に関数する。あるいは、本発明は、所望の活性成分を患者の血液脳関門を通過させて脳内に到達させる方法であって、該患者にPDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤を投与することにより、該患者の血液脳関門の透過性を高めること、及び、血液脳関門の透過性を高まった患者に前記所望の活性成分を投与して、該医薬を血液脳関門を通過させて脳内に到達せしめることを備える方法であってもよい。ここで、前記所望の活性成分は、前記PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤と同時に投与されても良いし、別々に(例えば、前記PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤の投与前又は投与後に)投与されてもよい。
本発明のPDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤、あるいは、薬剤送達用組成物の投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、上述のとおり非経口的又は経口的に投与される。非経口的投与経路としては、皮下、腹腔内、血中(静脈内、若しくは動脈内)又は脊髄液への注射又は点滴等が挙げられ、好ましくは血中への投与である。また、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤、あるいは、薬剤送達用組成物は、一時的に投与してもよいし、持続的又は断続的に投与してもよく、例えば、1分間〜2週間の持続投与とすることもできる。また、PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤、あるいは、薬剤送達用組成物は、活性成分と同時に投与してもよいし、別々に投与してもよく、好ましくは、活性成分の投与前又は活性成分と同時に投与される。
PDPK1の発現抑制剤又は活性阻害剤、あるいは、薬剤送達用組成物の投与量は、所望の血液脳関門の透過性又は所望の活性成分の脳内送達効果が得られる投与量であれば特に限定は無く、治療又は予防の対象疾患、投与する所望の活性成分の種類、量、及び投与経路、患者の症状、性別、及び年齢等により適宜決定することができる。投与量は、例えば、脳への医薬の送達量やそれによる治療効果又は予防効果を指標として決定することができる。例えば、有効成分の1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1月1〜10回程度、好ましくは1月1〜5回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量または投与回数を増加させてもよい。
4.脳転移判定装置・脳転移リスク判定装置
(脳転移判定装置)
一態様において、本発明は、miR−181cレベルを測定することによる脳転移判定装置に関する。図21に示すように、この実施の形態に係る脳転移判定装置1は、被検癌患者における脳転移を判定する装置である。より具体的には、脳転移判定装置1は、脳転移を有する可能性のある癌患者(通常、ステージIVの患者)が脳転移に至っているかを判定する装置である。脳転移判定装置1は、後述する測定部21、レベル決定部31および転移判定部32を備える。この実施の形態では、脳転移判定装置1は、測定部21を少なくとも備える入力装置2と、レベル決定部31および転移判定部32を少なくとも備える情報処理装置3と、出力装置4とを備える。ただし、入力装置2、情報処理装置3および出力装置4は、互いに分離した装置でなくとも良く、これら装置2,3,4の2以上が1つの装置となっていても良い。
入力装置2は、miR−181c測定手段として機能する測定部21を備え、好ましくは、試料入出部22をも備える。ただし、試料入出部22は、入力装置2と別体であっても良い。入力装置2は、例えば、中央処理装置(CPU)、読み取り専用のメモリ(ROM)、読み書き可能なメモリ(RAM)およびハードディスクドライブ(HDD)を備えるコンピュータ、あるいはそのコンピュータを含む装置である。測定部21の処理は、主として、CPUがHDD内のコンピュータプログラムを読み出すことにより実行される。なお、当該コンピュータプログラムは、HDDに格納されるものではなく、例えば、RAMあるいはROMに格納されるものでも良い。
測定部21は、検体23を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定するmiR−181c測定手段として機能する構成部である。試料入出部22は、好ましくは、検体23と試薬24とを含む試料25を保持する試料保持部26と、試料25に励起光を照射する発光部27と、励起光を照射された試料25から発する蛍光28を検知する光検知部29と、を備える。ただし、外部から励起光を照射することなく、試料25自体が発光可能な場合には、試料入出部22に発光部27を備えていなくても良く、光検地部29は蛍光ではなく発光を検出する。
情報処理装置3は、レベル決定部31と、転移判定部32と、を少なくとも備える。情報処理装置3は、好適には、CPU、ROM、RAMおよびHDDを備えるコンピュータである。レベル判定部31および転移判定部32の両処理は、主として、CPUがHDD内のコンピュータプログラムを読み出すことにより実行される。なお、当該コンピュータプログラムは、HDDに格納されるものではなく、例えば、RAMあるいはROMに格納されるものでも良い。また、入力装置2および情報処理装置3は、共通のCPU、共通のROM、共通のRAMあるいは共通のHDDを備えていても良い。その場合、コンピュータプログラムは、入力装置2および情報処理装置3に共通のHDD、RAMあるいはROMに格納されていても良い。
レベル決定部31は、入力装置2の測定部21から電気信号を受け取って、測定された検体23中のmiR−181cレベルを決定するmiR−181cレベル決定手段として機能する構成部である。転移判定部32は、レベル決定部31にて決定されたmiR−181cレベルから被検癌患者における脳転移を判定する転移判定手段として機能する構成部である。転移判定部32は、被検癌患者から得られた検体を検体23として用いて、当該検体中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来である検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合に、被検癌患者が脳転移を有すると判定する。レベル決定部31による決定は、好ましくは、CPUがHDDあるいはRAMなどのメモリに予め格納された情報(一例として、検量線データ)を読み出して、その情報を参照することによって行われる。ただし、その情報は、予めメモリに格納されたものではなく、予め濃度の判明しているコントロール検体(例えば、段階希釈系列の検体)を検体23として用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定しながら逐次蓄積されたものであっても良い。転移判定部32による判定は、好ましくは、CPUがHDDあるいはRAMなどのメモリに予め格納された情報(すなわち、陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルの情報)を読み出して、その情報を参照することによって行われる。ただし、その情報は、予めメモリに格納されたものではなく、陰性比較対象由来の検体を検体23として用いて、当該検体中のmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定しながら逐次蓄積されたものであっても良い。
出力装置4は、転移判定部32の判定結果を出力する装置であり、例えば、静止画像あるいは動画を出力するモニタである。出力装置4は、入力装置2あるいは情報処理装置3と同様、例えば、CPU、ROM、RAMおよびHDDを備えるコンピュータ、あるいはそのコンピュータを含む装置であっても良い。その場合、コンピュータプログラムは、入力装置2と情報処理装置3と出力装置4に共通、入力装置2と出力装置4に共通、あるいは情報処理装置3と出力装置4に共通するHDD、RAM若しくはROMに格納されていても良い。
出力装置4は、モニタに限定されず、判定結果を音声にて出力するスピーカ、紙などの媒体に印字して出力するプリンタ、あるいは発光の形態で出力する発光装置などの如何なる出力形態を有する装置であっても良い。
(脳転移リスク判定装置)
別の態様において、本発明は、miR−181cレベルを測定することによる脳転移リスク判定装置に関する。図22に示すように、この実施の形態に係る脳転移リスク判定装置1aは、被検癌患者であって未だ脳転移に至っていない患者(通常、ステージI、IIまたはIIIの患者)が脳転移に至るリスクを判定する装置である。脳転移リスク判定装置1aは、測定部21、レベル決定部31および後述のリスク判定部33を備える。この実施の形態では、脳転移リスク判定装置1aは、先に説明した脳転移判定装置1と類似の構成を有し、入力装置2と、情報処理装置3と、出力装置4とを備える。ただし、脳転移リスク判定装置1aは、脳転移判定装置1と同様、入力装置2、情報処理装置3および出力装置4に分離された形態の装置でなくとも良い。入力装置2、情報処理装置3および出力装置4の内の2以上を1つの装置としていても良い。
脳転移リスク判定装置1aは、脳転移判定装置1の転移判定部32に代えて、リスク判定部33を備える。脳転移リスク判定装置1aのその他の構成は、脳転移判定装置1の転移判定部32以外の構成と共通するので、重複した説明を省略する。
リスク判定部33は、レベル決定部31にて決定されたmiR−181cレベルから被検癌患者における脳転移が生じるリスクを判定するリスク判定手段として機能する構成部である。リスク判定部33は、被検癌患者由来の検体23中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合に、被検癌患者が脳転移が生じるリスクが高いと判定する。リスク判定部33による判定は、好ましくは、CPUがHDDあるいはRAMなどのメモリに予め格納された情報(すなわち、陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルの情報)を読み出して、その情報を参照することによって行われる。ただし、その情報は、予めメモリに格納されたものではなく、陰性比較対象由来の検体を検体23として用いて、当該検体中のmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定しながら逐次蓄積されたものであっても良い。
5.脳転移判定用又は脳転移リスク判定用コンピュータプログラム
一態様において、本発明は、上述の脳転移判定装置又は脳転移リスク判定装置において利用されるコンピュータプログラムに関する。
(脳転移判定装置用のコンピュータプログラム)
この実施の形態に係るコンピュータプログラムは、被検癌患者における脳転移を診断するための情報を提供する装置、すなわち、上述の脳転移判定装置1にインストールされるコンピュータプログラムである。当該コンピュータプログラムは、被検癌患者由来の検体23を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定するmiR−181c測定手順と、そのmiR−181c測定手順にて測定された検体23中のmiR−181cレベルを決定するmiR−181cレベル決定手順と、そのmiR−181cレベル決定手順にて決定されたmiR−181cレベルから被検癌患者における脳転移を判定する転移判定手順と、その転移判定手順による判定結果を出力する判定結果出力手順と、を癌患者の脳転移診断装置である脳転移判定装置1に実行させ、転移判定手順により、被検癌患者由来の検体23中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、被検癌患者が脳転移を有すると判断される。
上述のmiR−181c測定手順は、脳転移判定装置1の測定部21により実行される。miR−181cレベル決定手順は、脳転移判定装置1のレベル決定部31により実行される。転移判定手順は、脳転移判定装置1の転移判定部32により実行される。判定結果出力手順は、出力装置4により実行される。これらの各手順は、例えば、CPUがHDD内に格納されたコンピュータプログラムを読み込んで実行される。なお、このコンピュータプログラムは、CPUの処理によって読み込まれることによって、miR−181c測定手順、miR−181cレベル決定手順および転移判定手順を行うプログラムであって、その後の判定結果出力手順を行わないものでも良い。
このコンピュータプログラムは、単独では空間を占有できないものであるが、情報記録媒体に格納することによって市場に流通することができる。ここで、「情報記録媒体」とは、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、MO(光磁気ディスク)、MD、DVD−R、DVD−RW、フラッシュメモリ、ICカードなどである。これら情報記録媒体を脳転移判定装置1のデータ入出力部(不図示)に接続して、コンピュータプログラムを脳転移判定装置1内のHDD等のメモリにインストールすることができる。また、このコンピュータプログラムを格納した別のコンピュータから、通信回線を通じて脳転移判定装置1へ当該コンピュータプログラムを伝送して、その内部のHDD等のメモリにインストールすることも可能である。
図23は、脳転移判定装置用のコンピュータプログラムを実行したときの脳転移判定装置の行う処理のフローを示す。脳転移判定装置1のCPUは、同装置1のHDD等のメモリ内に格納された脳転移判定装置用のコンピュータプログラムを読み込んで、被検がん患者由来の検体23を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定する(ステップ101:miR−181c測定手順)。次に、上記CPUは、上記コンピュータプログラムを読み込み、測定された検体23中のmiR−181cレベルを決定する(ステップ102:miR−181cレベル決定手順)。次に、上記CPUは、上記コンピュータプログラムを読み込み、miR−181cレベル決定手順にて決定されたmiR−181cレベルから被検がん患者における脳転移の有無を判定する(ステップ103:転移判定手順)。次に、上記CPUは、上記コンピュータプログラムを読み込み、脳転移が有るとの結果および脳転移が無いとの結果を出力装置4から出力する(ステップ104:判定結果出力手順)。
(脳転移リスク判定装置用のコンピュータプログラム)
別の実施の形態に係るコンピュータプログラムは、被検癌患者における脳転移が生じるリスクを判定する装置、すなわち、上述の脳転移リスク判定装置1aにインストールされるコンピュータプログラムである。当該コンピュータプログラムは、被検癌患者由来の検体23を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定するmiR−181c測定手順と、そのmiR−181c測定手順にて測定された検体23中のmiR−181cレベルを決定するmiR−181cレベル決定手順と、そのmiR−181cレベル決定手順にて決定されたmiR−181cレベルから被検癌患者における脳転移が生じるリスクを判定するリスク判定手順と、そのリスク判定手順による判定結果を出力する判定結果出力手順と、を癌患者の脳転移診断装置である脳転移リスク判定装置1aに実行させ、リスク判定手順により、被検癌患者由来の検体23中のmiR−181cレベルが陰性比較対象由来の検体中のmiR−181cレベルと比較して高い場合には、被検癌患者は脳転移が生じるリスクが高いと判断される。
上述のリスク判定手順は、脳転移リスク判定装置1aのリスク判定部33により実行される。miR−181c測定手順、miR−181cレベル決定手順および判定結果出力手順は、先に説明した脳転移判定装置用のコンピュータプログラムと同様、それぞれ、測定部21、レベル決定部31および出力装置4により実行される。これらの各手順は、例えば、CPUがHDD内に格納されたコンピュータプログラムを読み込んで実行される。なお、このコンピュータプログラムは、CPUの処理によって読み込まれることによって、miR−181c測定手順、miR−181cレベル決定手順およびリスク判定手順を行うプログラムであって、その後の判定結果出力手順を行わないものでも良い。
このコンピュータプログラムも、先に例示した情報記録媒体に格納することができる。これら情報記録媒体を脳転移リスク判定装置1aのデータ入出力部(不図示)に接続して、コンピュータプログラムを脳転移リスク判定装置1a内のHDD等のメモリにインストールすることができる。また、このコンピュータプログラムを格納した別のコンピュータから、通信回線を通じて脳転移リスク判定装置1aへ当該コンピュータプログラムを伝送して、その内部のHDD等のメモリにインストールすることも可能である。
図24は、脳転移リスク判定装置用のコンピュータプログラムを実行したときの脳転移リスク判定装置の行う処理のフローを示す。脳転移リスク判定装置1aのCPUは、同装置1aのHDD等のメモリ内に格納された脳転移リスク判定装置用のコンピュータプログラムを読み込んで、被検がん患者由来の検体23を用いてmiR−181cの塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを測定する(ステップ201:miR−181c測定手順)。次に、上記CPUは、上記コンピュータプログラムを読み込み、測定された検体23中のmiR−181cレベルを決定する(ステップ202:miR−181cレベル決定手順)。次に、上記CPUは、上記コンピュータプログラムを読み込み、miR−181cレベル決定手順にて決定されたmiR−181cレベルから被検がん患者における脳転移のリスクの高低を判定する(ステップ203:リスク判定手順)。次に、上記CPUは、上記コンピュータプログラムを読み込み、脳転移のリスクが高いとの結果および脳転移のリスクが低いとの結果を出力装置4から出力する(ステップ204:判定結果出力手順)。
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
以下の実施例に記載された実験において、全ての動物を用いた実験は、独立行政法人国立がん研究センター動物実験倫理委員会の承認を得たプロトコルに従って行った。以下に記載された実験において、数値は全て平均値±標準偏差(S.D.)で表す。Student’s t検定又はMann−Whitney U検定において、P値が0.05未満の場合を統計的有意とした。
(細胞培養)
本実施例記載の実験において、MDA−MB−231−luc−D3H1細胞、MDA−MB−231−luc−D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞の培養は、10%熱不活化ウシ胎児血清(Invitrogen)及び抗菌−抗真菌剤含有RPMI 1640倍地中、37℃、5%CO2環境下で行った。
(実施例1)脳転移乳癌細胞株の樹立
腫瘍形成能及び転移能が高いヒト乳癌細胞であるMDA−MB−231−luc−D3H2LN細胞(以下、「D3H2LN細胞」という)(Bos、P.D.ら、Nature、459:1005−1009(2009))を用いて、新たに脳高転移細胞株を作製した(図1a)。具体的には、2×105個のD3H2LN細胞を含む細胞懸濁液100μLを、7週令のメス免疫不全マウスであるC.B−17/Icr−scid/scidマウスの左心室に心臓内注射で投与した。脳転移による腫瘍形成は、毎週、ルシフェリンを腹腔内注射して、IVIS Spectrum(Caliper Life Science、Hopkinton、MA、米国)を用いて、生物発光in vivoイメージングを行うことにより観察した。26〜30日後、癌細胞の脳への転移が観察された(図1b)。
脳転移部位は、解剖後に組織分析を行うことにより確認した。組織の半分を4%パラフォルムアルデヒドで固定し、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色によって組織分析することにより、脳組織の癌細胞コロニー形成を確認した(図1c)。
脳転移癌細胞を回収し、培養するため組織の残りの半分は磨り潰して、抗菌−抗真菌剤及び10%FBS含有RPMI 1640培地(Gibco)に加えた。細胞は、短時間遠心分離した後、0.025%トリプシン−EDTA(Gibco)に再懸濁させ、37℃で10分間インキュベートした。細胞を50μg/mL Zeocin(Gibco)含有培地に再懸濁させた後、10cmディッシュに播種して、コンフルエントになるまで約30日間培養して増殖させた。
増殖させた細胞集団(脳転移誘導体1a、以下、「BMD1a細胞」という)を用いて、上述と同じ方法により2回目のin vivo選択を行い、2種類の脳転移誘導体細胞集団2a及び2b(以下、それぞれ、「BMD2a細胞」及び「BMD2b細胞」という)を得た。
得られたBMD2a細胞及びBMD2b細胞をD3H2LN細胞と同様にマウスに投与して脳転移活性を調べた。その結果、D3H2LN細胞を左心室に注入すると15匹中1匹(6.7%)のマウスのみにおいて脳への転移が認められたのに対し、BMD1a細胞を左心室に注入すると、60%(5匹中3匹)のマウスにおいて脳へ転移していた。よって、BMD2a細胞及びBMD2b細胞は、親細胞であるD3H2LN細胞よりも脳転移
活性が顕著に増加していることが示された。
(実施例2)in vitro血液脳関門(BBB)モデルの構築
(1)in vitro血液脳関門モデル
BBBへの影響を簡便に測定するため、in vitroのBBB培養システムを構築した。従来のin vitro血液脳関門モデルは単層の細胞培養系を用いている(Zhou、W.ら、J.Biol.Chem、288:10849−10859)。しかし、BBBは異なる三種類の細胞から構成されており、これらの細胞が互いに協調してBBBの構造を維持している。そこで、脳毛細血管内皮細胞、脳周皮細胞、及び星状膠細胞の初代培養からなるBBBモデル系であるBBBキット(TM)(#MTB−24H、ファーマコセル株式会社、長崎、日本)を用いた(図2a)。脳毛細血管内皮細胞、脳周皮細胞、及び星状膠細胞は、Hoechst33342染色により確認した。その結果、図2bに示すとおり、構築したin vitro血液脳関門モデルにおいて、脳毛細血管内皮細胞、脳周皮細胞、及び星状膠細胞が存在することが確認された。
(2)内皮細胞中の密着結合タンパク質等の局在の確認
密着結合はBBBの透過性低下を調節しており、内皮細胞内の特定のタンパク質(クローディン−5、オクルジン、及びZO−1など)により構成されていることが知られている。一方で、カルシウム依存性細胞間接着糖タンパク質であり、5つの細胞外カドヘリンリピートを有することにより強力な細胞間接着を媒介するN−カドヘリンは、頂端膜及び基底膜に最も発現している。密着結合タンパク質及びN−カドヘリンはアクチン細胞骨格ネットワークとの密接な結合を介して細胞の極性を制御している。そこで、in vitro BBBモデルの内皮細胞中のクローディン−5、オクルジン、ZO−1又はN−カドヘリンを免疫蛍光染色して局在を確かめることにより、密着結合(tight junction)形成、及び接着結合(adherens junction)を確認した。
具体的には、in vitro BBBモデルから採取した内皮細胞は、室温で10分間、3%PFA含有PBSにより固定させ、Mg2+及びCa2+含有PBSで洗浄した後、0.1%Triton−X100含有PBSで10分間処理して細胞を透過性にした。固定後、細胞を3%BSA含有PBSと共に1時間インキュベートして抗体の非特異的結合をブロックした。その後、内皮細胞を、クラウジン−5(Z43.JK、Invitrogen、CA、米国)、オクルジン(ZMD.467、Invitrogen)、ZO−1(ZMD.437、Invitrogen)、又はN−カドヘリン(3B9、Invitrogen)に対するウサギポリクローナル抗体と共に37℃で1時間インキュベートした。Mg2+及びCa2+含有PBSで洗浄した後、Alexa Fluor 594−融合抗ウサギIgG(Invitrogen)と共に37℃で1時間インキュベートした。アクチンは、ActinGreenTM488 ReadyProbesTN Reagent(R37110、Molecular Probes)で染色した。染色された細胞は、Mg2+及びCa2+非含有PBSで洗浄した後、VECTASHIELD Mounting Medium(H−1200、Vector Laboratories、CA、米国)にマウントして、共焦点顕微鏡(FluoViewFV1000、オリンパス、東京、日本)で観察した。
また、図2cに示すとおり、密着結合タンパク質(クローディン−5、オクルジン、及びZO−1)及びN−カドヘリンは、いずれも細胞膜表面に結合し、細胞間の密着結合及び接着結合を構成していることが示された。
(3)経内皮電気抵抗(TEER)の測定
脳毛細血管内皮細胞による密着結合の形成を、経内皮電気抵抗(TEER)(Gaillard、P.J.ら、Eur.J.Pharm.Sci.、12:215−222(2001);Wilhelm、I.ら、Acta.Neurobiol.Exp.(Wars)、71:113−128(2011))により測定した。抵抗値(Ω)はohmmeter(Millicell ERS−2、Millipore)により測定した。経内皮電気抵抗(TEER)は以下の計算式により単位面積当たりの抵抗として算出した。R=(A−B)×0.33cm2(式中、RはTEER(Ω・cm2)、Aは測定された抵抗値(Ω)、Bはブランクの抵抗値(Ω)を示す)。n=12とした。
脳毛細血管内皮細胞による密着結合の形成を、経内皮電気抵抗(TEER)により測定した結果を図2dに示す。経内皮電気抵抗(TEER)は150超であったことから、このシステムがin vitroBBBモデルとして利用可能であることが確認された。
(4)透過性評価(Permeability assay)
NaFは分子量が低い(分子量:376.27)にもかかわらず、BBBを通過しない(Nakagawa、Sら、Neurochem.Int.54:253−263(2009))。よって、NaFの濃度を蛍光単色光分光器で測定することにより、BBBの透過性を測定した。具体的には、透過性評価は、既に報告された方法(B. Kis et al.、 Adrenomedullin regulates blood−brain barrier functions in vitro. Neuroreport 12、 4139−4142 (2001))を改変して行った。チャンバーの上面側に200μLのNaF(10μg/mL、Sigma Aldrich)を添加し、チャンバーの下面側に900μLのDPBS−H(10mM HEPES、及び4.5mg/mL D−グルコース含有Dulbecco’s PBS(Mg+、Ca+))を添加した。プレートを37℃で振盪培養した。30分後、チャンバー下面側のDPBS−Hを黒色プレート内に分注し(n=8)、multi detection monochrometer microplate reader(485/535nm、SAFIRE、Tecan)で測定した。見かけの透過性係数(Papp)は次の計算式で算出した:
Papp=(VA×[C]A)×A−1×[C]Luminal−1×t−1
式中の略号は以下を表す:
VA:チャンバーの反管腔側における容積(0.9cm3)
A:膜表面面積(0.33cm2)
[C]Luminal:初期管腔内トレーサー濃度(μg/mL)
[C]A:反管腔側トレーサー濃度(μg/mL)
t:実験時間(分)
上記の方法により、透過性試験を行った結果、NaFの透過性は極めて低いことが示された。
(実施例3)マトリゲル(商標)を用いた脳転移癌細胞の浸潤能の検討
脳転移癌細胞は非常に侵襲的であると考えられる。そこで、マトリゲル(商標)を用いた浸潤チャンバーアッセイを用いて、樹立した細胞株の転移能に関する病理学的な意義を確認した。BMD2a細胞、BMD2b細胞、D3H2LN細胞、及びD3H1細胞をトリプシン処理し、PKH26(Sigma Aldrich)で標識化した。2×104細胞の各癌細胞を、血清非含有RPMI1640培地中に懸濁させ、マトリゲル(登録商標)コーティング膜を有するチャンバー(24穴インサート、BD Biosciences、NJ、米国)の上面側に添加した。チャンバーの下面側には、遊走因子として10%血清を含有するRPMI1640培地を添加した。細胞を24時間培養し、膜孔を通過又は侵入しなかった細胞を綿棒で除去した。膜の下面上の細胞をDiff−Quick Staining Set(Sysmex、兵庫、日本)を用いて染色し、計数した。全てのアッセイをトリプリケートで行った。データは、製造者の説明書に従い、コントロール膜を通過した細胞に対する、マトリゲル(商標)マトリックス及び膜を通過した細胞のパーセントで表示した。
BMD2a細胞及びBMD2b細胞は、D3H2LN細胞、及びより転移能の低いD3H1細胞と比較して高い浸潤能を示した(図3a及び図3b)。しかし、BMD2a細胞及びBMD2b細胞の形態はD3H2LN細胞とは異ならなかった(図3c)。
(実施例4)BBBモデルを用いた脳転移癌細胞の浸潤能の検討
BMD2a細胞及びBMD2b細胞の脳実質細胞側への進入を確認するため、BMD2a細胞、BMD2b細胞、D3H2LN細胞、及びD3H1細胞をトリプシン処理し、PKH26(Sigma Aldrich)で標識化した。その後、各2×104個の癌細胞を無血清のHam’s F−12培地(Gibco)中に懸濁させて、実施例2で作製したin vitro BBBモデルの上側チャンバーに添加して培養した。2日(48時間)後、非浸潤細胞を綿棒で除去し、核をHoechst33342(同仁化学研究所、熊本、日本)で染色した。その後、下面側に通過した浸潤細胞のPKH26を蛍光顕微鏡を用いて計数した(図4a)。全ての細胞について、トリプリケートで実験を行った。
BMD2a細胞及びBMD2b細胞は、D3H2LN細胞、及びD3H1細胞と比較して高い浸潤能を示した(図4b)。よって、樹立されたBMD2a細胞及びBMD2b細胞はBBBを通過して脳実質細胞側へ進入する能力が高いことが確認された。
(実施例5)EVsの調製
D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞を、抗菌−抗真菌剤及び2mM L−グルタミン含有Advanced RPMI培地(以下、「培地A」という)で3回洗浄した。洗浄後の細胞に新鮮な培地Aを加えて2日間培養後、培地を回収して4℃、2000×gで10分間遠心分離した。細胞破片を完全に除去するため、培養上清を0.22μm Stericup(登録商標)(Millipore、MA、米国)フィルターでろ過した。得られた調整培地を、4℃、110、000×gで70分間超遠心にかけた。得られたペレットを11mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBS中に懸濁させた。
EVsを含むフラクションについて、Micro BCAプロテインアッセイキット(Thermo Scientific、MA、米国)を用いてタンパク質含有について測定した。また、位相差顕微鏡観察により、得られたEVsを観察した。更に、EVsのサイズ及び数をNanoSightを用いて測定した。
また、標準的なエキソソームのマーカーであるCD63及びCD9の発現、並びに、EVsでは欠落していることが知られているミトコンドリア膜間タンパク質チトクロムCの発現をウェスタンブロッティングにより測定した。M−PER(Thermo Scientific、MA.米国)を用いて、Mini−PROTEAN(登録商標) TGX Gel(4−12%)(Bio−Rad)に各細胞から得られたサンプルを500ng/レーン(CD63及びCD9)又は3μg/レーン(チトクロムC)でロードしてタンパク質を分離した後、PVDF膜(Millipore)に電気泳動転写した。得られた膜は、Blocking One(Nacalai Tesque、京都、日本)中でブロッキングした後、抗CD63抗体(精製マウス抗ヒトCD63抗体、H5C6、1/200、BD)、抗CD9抗体(ALB6、sc−59140、1/200、BD)、又は抗チトクロムC抗体(精製マウス抗チトクロムC、7H8.2C12、1/200、BD)である第一抗体と共に室温で1時間インキュベートした。第二抗体であるHRP−結合抗マウスIgG抗体(NA931、GE Healthcare)又はHRP結合抗ウサギIgG抗体(NA934、GE Healthcare)を1/2000倍希釈で用いた。その後、膜をImmunoStar(登録商標) LD(Wako、大阪、日本)で発光させた。
タンパク質含有については、D3H1細胞由来EVs、D3H2LN細胞由来EVs、BMD2a細胞由来EVs、BMD2b細胞由来EVsのタンパク質濃度に差はなかった。位相差顕微鏡観察の結果の写真及びEVのサイズ分析の結果を図5aに示す。D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来のEVsの平均粒径は、それぞれ、149nm、157nm、136nm、及び148nmであった。いずれのEVsにおいても、標準的なエキソソームのマーカーであるCD63及びCD9を発現していたが、チトクロムCは発現していなかった(図5b)。更に、EVsの放出数については、細胞間で違いは見られなかった(図5c)。
(実施例6)EVsの分泌と癌細胞の浸潤能との相関の検討
脳転移細胞の侵襲におけるEVsの関与を調べるため、EVの分泌に関与するタンパク質である、nSMase2及びRAB27Bに対するsiRNA(Kosaka、N.ら、J.Biol.Chem.、288:10849−10859(2013);Ostrowski、M et al.、Nat. Cell Biol.、12:19−30(2010))でEVの分泌が阻害されたBMD2a細胞を用いて、in vitro BBBモデルによる浸潤能評価を行った。
(1)siRNAトランスフェクション
RAB27B siRNA及びnSMase2 siRNAのいずれか、又は両方のsiRNA、あるいは、コントロールsiRNAの各25nMを、DharmaFECTトランスフェクション試薬(Thermo Scientific)を使用して、製造者のプロトコルに従って、PKH26標識化BMD2a細胞に導入した。形質転換から24時間後の細胞をアッセイに使用した。
(2)siRNA導入細胞中のnSMase2及びRAB27BのmRNAレベルでの発現確認
QIAzol試薬及びmiRNeasy Mini Kit(共にQuiagen)を用いて、細胞から全RNAを抽出した。内部標準として、RNU6を使用して記述の方法に従って行った(Kosaka、N.et al.Net.Med.、18:883−891(2012))。各mRNA及びRNU6の発現レベルは、96穴プレート内で、Platinum Quantitative PCR SuperMix(Applied Biosystems)を用いて、7300 Real−Time PCR System(全て、Applied Biosystems、CA、米国)でqRT−PCRを行うことにより測定した。全ての反応はトリプリケートで行った。プライマー及びプローブは以下のとおり定義した、PAB27B(アッセイID:Hs01072206_m1)、nSMase2(アッセイID:Hs00920354_m1)。
(3)siRNA導入細胞中のnSMase2のタンパク質レベルでの発現確認
siRNA導入細胞中のnSMase2のタンパク質レベルでの発現をウェスタンブロッティングにより確認した。M−PER(Thermo Scientific、MA.米国)を用いて、Mini−PROTEAN(登録商標) TGX Gel(4−12%)(Bio−Rad)に各細胞から得られたサンプルをロードしてタンパク質を分離した後、PVDF膜(Millipore)に電気泳動転写した。得られた膜は、Blocking One(Nacalai Tesque、京都、日本)中でブロッキングした後、抗nSMase2抗体(H−195、sc−67305、1/200、Santa Cruz Biotechnology Inc.)である第一抗体と共に室温で1時間インキュベートした。第二抗体であるHRP−結合抗マウスIgG抗体(NA931、GE Healthcare)又はHRP結合抗ウサギIgG抗体(NA934、GE Healthcare)を1/2000倍希釈で用いた。その後、膜をImmunoStar(登録商標) LD(Wako、大阪、日本)で発光させた。
(4)siRNA導入細胞よるEVs放出数測定
siRNA導入細胞よるEVs放出数をNanoSightを用いて測定した。
(5)BBBモデルを用いた脳転移癌細胞の浸潤能の検討
作製した形質転換細胞のマトリゲル侵襲能及びBBB通過を、それぞれ、実施例3及び実施例4記載の方法に従って調べた。
(6)結果
nSMase2 siRNA及びRAB27B siRNAのいずれかを導入した細胞、及びそれらのsiRNAの両方を導入した細胞では、コントロールsiRNA導入細胞と比較して、nSMase2及びRAB27Bの発現量がmRNAレベル及びタンパク質レベル共に低下していた(非図示)。siRNA導入細胞よるEVs放出数を測定した結果、nSMase2 siRNA及びRAB27B siRNAのいずれかを導入した細胞、及びそれらのsiRNAの両方を導入した細胞では、コントロールsiRNA導入細胞と比較して、EVsの放出数が減少していた(図6a)。BBB通過能試験の結果、コントロールsiRNAで処理した細胞はBBBを通過して下面側に移動したが、EVsの産生が阻害された細胞は、下面側では確認されなかった(図6c)。一方、マトリゲルを用いた侵襲能アッセイでは、EVsの分泌阻害は細胞の浸潤能に影響を与えなかった(図6b)。このことから、溢出は細胞の浸潤能のみに依存するものではないことが示唆された。
(実施例7)EVsと癌細胞のBBB浸潤能との相関の検討
EVsが癌細胞の脳実質細胞側への溢出に関与するか否かを更に調べるため、転移能の低いD3H1細胞が、BMD2a、BMD2b又はD3H2LN細胞由来のEVsを添加することによりBBBを通過して溢出するか否かについて調べた。
BMD2a、BMD2b又はD3H2LN細胞由来のEVsを各ウェルに添加後、24時間培養した。その後、PKH26標識化D3H1細胞を加えた。2日後、フィルターを通過した細胞数を計数した。
結果を図7に示す。D3H1細胞はEVsの添加がない状態ではBBBを通過することはできなかったが、BMD2a、及びBMD2b由来EVsの添加により、下面側へとBBBを通過した細胞数が顕著に増加した。BMD2a、及びBMD2b由来EVsと比較して、D3H2LN細胞由来のEVs添加群は、転移能の低いD3H1細胞のBBBを通過を効果的に促進しなかった。これらの結果から、脳転移乳癌細胞由来のEVsには、癌細胞がBBBを超えて脳実質側へと溢出することに影響することが示された。
(実施例8)EVsがBBBの透過性へ与える影響の検討
脳転移癌細胞由来のEVsがBBBの破壊に直接影響を与えるか否かを決定するため、in vitro BBBモデルにEVsを添加して、BBBを破壊させるか否かを調べた。EVsは実施例5の記載に従い調製した。in vitro BBBモデルを解凍から4日後に、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来の精製されたEV又はPBS(陰性コントロール)を添加した。EVsの添加前、及び添加から24時間後に、実施例2に記載の方法に従い、経内皮電気抵抗(TEER)を測定して脳毛細血管内皮細胞の密着結合の強度を測定した。全てのアッセイはトリプリケートで行った。
更に、実施例2(2)に記載の方法に従い、NaFを用いた透過性試験を行い、BBBの透過性を測定した。D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来の精製されたEV添加してから24時間後、NaFを添加した。BBBを通過したNaFを蛍光光度計で測定した。見かけの透過性係数(Papp)(10−6cms−1)を実施例2(2)に記載の計算式に従い算出した。全てのアッセイはトリプリケートで行った。
測定されたTEERの値を図8aに、TEERのEVs添加前後の相対的な変化を図8bに示す。BMD2a細胞及びBMD2b細胞由来EVs投与群は、D3H2LN細胞由来のEVs投与群(P<0.05)、及びD3H1細胞由来のEVs投与群(P<0.01)と比較して有意にTEERが低下していた。
透過性試験の結果を図8cに示す。BMD2a細胞及びBMD2b細胞由来EVs投与群は共に、D3H2LN細胞由来のEVs投与群(P<0.05)、及びD3H1細胞由来のEVs投与群(P<0.01)と比較して、明らかに高い(P<0.01)透過性係数(Papp)を示した。
(実施例9)BBB構成細胞へのEVの取り込みの解析
EVsがBBB構成細胞へ取り込まれるかを確かめるため、in vitro BBBモデルにEVsを添加して、BBB構成細胞における取り込みを調べた。全てのアッセイはトリプリケートで行った。
(1)PKH67によるEVの標識化
実施例4の方法により調製した、D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来の精製されたEVsをPKH67緑色蛍光ラベリングキット(Sigma Aldrich、MO、米国)を用いて標識化した。EVを2μMのPKH67と5分間反応させ、100kDaフィルター(Microcon YM−100、Millipore)を用いて5回洗浄して、余分な染料を除去した。
(2)in vitro BBBモデルにおけるEVsの細胞内への取り込み
実施例8に記載の方法に従って、標識化したEVs又はPBS(陰性コントロール)をin vitro BBBモデルの上面側に添加して37℃、5%CO2環境下で24時間培養した。脳毛細血管内皮細胞、脳周皮細胞、及び星状膠細胞は、Hoechst33342染色により確認した。
(3)結果
BBB構成細胞へのEVsの取り込みを測定した結果を図9a及び図9bに示す。全ての癌細胞由来のEVsが内皮細胞に取り込まれたが、周皮細胞及び星状膠細胞への取り込みはほとんど見られなかった。BMD由来のEVsにおいて内皮細胞内の蛍光強度が最も強かったことから、BMD細胞由来のEVsの脳血管内皮細胞への指向性が明らかとなった。
(実施例10)EVsによるBBB破壊のメカニズムの解析
EVsによるBBB破壊のメカニズムを調べるため、in vitro BBBモデルにEVsを添加して、BBB構成細胞内における分子挙動の変化を調べた。全てのアッセイはトリプリケートで行った。
(1)EVs添加後の内皮細胞中の密着結合タンパク質等の局在
実施例4の方法により調製した、D3H1細胞、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来の精製されたEVs又はPBS(陰性コントロール)を添加して24時間後に、in vitro BBBモデルの内皮細胞中のクローディン−5、オクルジン、ZO−1又はN−カドヘリンをアクチンフィラメントと共に免疫蛍光染色して局在が変化するか否かについて、実施例2(2)と同様の方法を用いて調べた。
(2)EVs添加後の内皮細胞中の密着結合タンパク質等のレベルの変化
各細胞からのタンパク質の単離は、M−PER(Thermo Scientific、MA.米国)を用いて、Mini−PROTEAN(登録商標) TGX Gel(4−12%)(Bio−Rad)で分離し、PVDF膜(Millipore)に電気泳動転写することにより行った。得られた膜は、Blocking One(Nacalai Tesque、京都、日本)中でブロッキングした後、抗クローディン−5抗体(Z43.JK、1/200、Invitrogen)、抗オクルジン抗体(ZMD.481、1/200、Invitrogen)、抗ZO−1抗体(H−300、sc−10804、1/100、Santa Cruz Biotechnology)、抗N−カドヘリン抗体(3B9、1/500、Invitrogen)、又は、抗GAPDH抗体(6C5、1/1000、Millipore)である第一抗体と共に室温で1時間インキュベートした。第二抗体であるHRP−結合抗マウスIgG抗体(NA931、GE Healthcare)又はHRP結合抗ウサギIgG抗体(NA934、GE Healthcare)を1/2000倍希釈で用いた。その後、膜をImmunoStar(登録商標) LD(Wako、大阪、日本)で発光させた。
(3)結果
in vitro BBBモデルの内皮細胞中の密着結合タンパク質の局在を確認した結果を図10a及び図10bに示す。密着結合タンパク質及びN−カドヘリンは、PBS又はD3H2LN細胞由来のEVsで処理した内皮細胞の細胞膜表面上に局在化していた。しかし、BMD2a及びBMD2b由来EVsで処理した細胞では、密着結合タンパク質及びN−カドヘリンは細胞質内に存在していた。また、脳血管内皮細胞のBMD2a及びBMD2b由来EVsによる処理は、密着結合タンパク質、N−カドヘリン及びアクチンの発現には影響しなかった(図10c)。よって、癌由来EVsは、密着結合タンパク質、N−カドヘリン、及びアクチンフィラメントの発現には影響を与えることなく局在を変化させることが明らかとなった。
(実施例11)in vivoにおけるEVsの血液脳関門透過性への影響の検討
in vitro BBBモデル試験の結果から、癌細胞由来EVsが内皮細胞に取り込まれてBBBの透過性を高めていることが示されたことから、in vivoにおいても血液能関門へ影響するか否かを検討するため、in vivo透過性試験を行った。D3H2LN細胞(コントロール)及びBMD2a細胞由来の精製されたEVsをXenoLight DiR蛍光染色で標識化した。標識化したEVsをマウスの尾静脈に注入して6時間後、血液脳関門の崩壊を観察するため、in vivo血管透過性試験用色素であるTracer−653をマウスに注入した。
図11の上図は、EVsの取り込みを示し、下図は脳血管の透過性を示す。図11の上図に示すとおり、BMD2a由来EVsは、D3H2LN由来EVsと比較して、より多くがマウスの脳に集積していた。また、図11の下図に示すとおり、BMD2a由来のEVsで処理されたマウスは、D3H2LN由来EVsで処理されたマウスと比較して、脳血管の透過性が増大した。
(実施例12)in vivoにおけるEVsの癌転移に与える影響
上述の実施例で確認されたEVsによるin vivoでの脳血管透過性の増大が、実際に脳転移に影響しているか否かを調べるため、EVs処理したマウスに癌細胞を注入して脳転移の有無を調べた。D3H2LN細胞(コントロール)又はBMD2a細胞由来の精製されたEVs(各5μg/匹)、又はPBS(ネガティブコントロール)を、各群9匹のC.B−17/Icr−scid/scidマウスの尾静脈に注入した(0日目)。24時間後(1日目)、D3H2LN乳癌細胞株(2×105細胞)を各マウスの左心室に注入した。18日後(19日目)にルシフェリンを腹腔内注射して、IVIS Spectrum(Caliper Life Science、Hopkinton、MA、米国)を用いて、生物発光in vivoイメージングを行うことにより、癌細胞の脳転移を観察した。得られた画像は、脳内の光子強度を測定することで評価した。有意差の評価はMann−Whitneyの片側検定により決定した。また、ヘマトキシリン及びエオリン(HE)染色、並びに、ヒトビメンチンに対する免疫蛍光染色により、脳転移を確認した。
BMD2a由来EVs投与群では、9匹中5匹(55.6%)に脳転移が認められ、D3H2LN細胞由来EVs投与群(9匹中1匹に脳転移:11.1%)及びPBS投与群(9匹中0匹に脳転移:0%)よりも明らかに多い脳転移が認められた。また、蛍光強度を測定した結果、BMD2a由来EVs投与群では、脳内に浸潤・転移した癌細胞が他の群と比較して明らかに多かった(図12a、b、p<0.05)。また、HE染色によって、脳転移が確認された(図12c)。これらの結果が示す通り、EVsによる脳血管透過性の増大が、脳転移を増加させることが明らかとなった。
(実施例13)EVsによる血液脳関門透過性変化を担う分子の解明
EVsによる血液脳関門透過性変化の分子メカニズムを解明するため、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来のEVsに含まれるmiRNAについて分析を行った。
QIAzol試薬及びmiRNeasy Mini Kit(共にQuiagen)を用いて、EVsから全RNAを抽出した。RNAの質と量はNanoDrop ND−1000 spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific Inc.)、及びAgilent Bioanalyzer(Agilent Technologies)を用いて推奨されている方法に従って決定した。得られた全RNAは、miRNA Complete Labeling and Hyb Kit(Agilent Technologies)を用いて、製造者の説明書に従ってcyanine 3(Cy3)で標識化した。即ち、100ngの全RNAを、Calf Intestinal Alkaline Phosphatase(CIP) Master Mixを用いて37℃で30分間反応させることにより脱リン酸化した。脱リン酸化RNAはDMSOを用いて100℃で5分間インキュベートすることにより変性させ、その後すぐに氷上に移して2分間インキュベートした。その後、得られた反応物を、Ligation master mix for T4 RNA Ligase、及びCy3−pCp(Cyanine 3−Cytidine重リン酸塩)と混合し、16℃で2時間インキュベートした。標識化されたRNAは減圧濃縮装置を用いて、55℃で1.5時間乾燥させた。Cy3−pCp−標識化RNAを、Agilent SurePrint G3 Human miRNA 8×60K Rel.19マイクロアレイ(デザインID:046064)上に、55℃で20時間ハイブリダイズさせた。このマイクロアレイには、コントロールを除き、全部で2006種類のmiRNAプローブが搭載されている。洗浄後、マイクロアレイをAgilent DNAマイクロアレイスキャナでスキャンした。スキャンされた各特性の強度値は、背景差分を行うAgilent Feature Extraction ソフトウェア バージョン10.7.3.1を用いて定量した。エラー無し(no error)と表示された特徴(Detected flags)のみを用いて、Agilent GeneSpring GX バージョン12.6.1を用いて発現解析を行った。陽性ではない(not positive)特徴、有意ではない(not significant)特徴、均一ではない(not uniform)特徴、バックグラウンドを超えない(not above background)特徴、飽和した(saturated)特徴、及び異常値(population outliers)は除外した(Not Detected flags)。なお、本実験において、遺伝子発現の有意(significant)な違いの特定は、シグナル強度において2倍以上の変化を適用して行った。
miRNAに加え、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来のEVsに含まれるタンパク質についても分析したが、BMD2a細胞及びBMD2b細胞に特徴的な候補タンパク質は見出されなかった(非図示)。一方、miRNA分析の結果、D3H2LN細胞由来EVsと比較して、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来のEVsにおいて顕著に高発現しているmiR−181cが見出された(図13a、図13b)。そこで、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞内にもmiR−181cが発現されているかを確認するため、細胞内のmiR−181cを検出した。その結果、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞のいずれの細胞においても、細胞内にmiR−181cの顕著な発現量の違いは確認されなかった(非図示)。
(実施例14)BBBに与えるmiR−181cの影響の評価
以上の結果から、癌細胞由来EVsによるBBB破壊には、内皮細胞に取り込まれたEVsに含まれるmiR−181cが関与していることが示唆された。そこで、miR−181cのBBBへの影響を調べるため、EVs添加後の内皮細胞におけるmiR−181cの存在量を確認した。また、miR−181cを導入した内皮細胞を含むin vitro BBBモデルを用いて透過性及び密着結合タンパク質の挙動の変化を調べた。
(1)EVsの添加による内皮細胞中のmiR−181c存在量の変化
BBBに与えるmiR−181cの影響を評価するため、BMD2a及びBMD2bから単離されたEVsを内皮細胞に添加し、miR−181cの存在量の変化を確認した。EVsは実施例5の記載に従い調製した。in vitro BBBモデルを解凍から4日後に、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、及びBMD2b細胞由来の精製されたEV又はPBS(陰性コントロール)を添加した。EVs添加から24時間後に、内皮細胞中のmiR−181c発現を測定した。全てのアッセイはトリプリケートで行った。
(2)内皮細胞中におけるmiR−181c存在量変化の影響
更に、miR−181cの存在量の変化が内皮細胞に与える影響を調べるため、in vitro BBBモデルを構成する内皮細胞に合成miR−181cを導入した。経内皮電気抵抗(TEER)を、実施例2(3)に記載の方法に従って測定した。また、密着結合タンパク質、N−カドヘリン、及びアクチンの局在及び発現レベルを実施例10に記載の方法に従って検出した。陰性コントロールとして、miR−181cを導入していない内皮細胞を用いた。
(3)結果
BMD2a及びBMD2b由来EVs添加により内皮細胞におけるmiR−181cの存在量は顕著に増加していた(図14a)。miR−181cの形質導入により、in vitro BBBモデルのTEERの値を顕著に低下させた(図14b)。密着結合タンパク質、N−カドヘリン、及びアクチンは、陰性コントロール群では膜上に局在していたのに対し、miR−181cを形質導入した細胞においては、細胞質内に局在が変化していた(図14c)。更に、脳血管内皮細胞へのmiR−181cの形質導入は、密着結合タンパク質、N−カドヘリン、及びアクチンの発現量には影響を及ぼさないことが判明した(図14d)。
(実施例15)脳転移乳癌患者の血清中のmiR−181cの測定
実際にmiR−181cが脳転移乳癌患者の血液中EVsに存在しているか否かを確認するため、脳転移乳癌患者の血清からEVsを精製し、miR−181cの発現を確認した。56人の乳癌患者(脳転移患者10人、非脳転移患者46人)からの血清を国立がん研究センターにおいて採取した(No.2013−111)。全ての患者について、インフォームドコンセントを得ている。血清は分注され、可能な限り凍結解凍を避けて、使用するまで−80℃で保存した。Total Exosome Isolation(from sera)(Invitrogen)を用いて、血清からEVsを単離した。その後、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて得られたEVsから全RNAを単離した。miRNAの発現は、既に報告された方法を用いて、内部標準として、RNU6を使用して、qRT−PCTにより測定した(Kosaka、N.et al.Net.Med.、18:883−891(2012))。即ち、miR−181c及びRNU6の発現レベルは、96穴プレート内で、TaqMan(登録商標) MicroRNA Assays、及びTaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mixを用いて、7300 Real−Time PCR System(全て、Applied Biosystems、CA、米国)でqRT−PCRを行うことにより測定した。全ての反応はトリプリケートで行った。
脳転移患者では、非脳転移患者と比較して、血清から得られたEVs中に、有意に多いmiR−181cが存在していた(P<0.05、T検定)(図15)。血清中のmiR−181c存在量は、非脳転移乳癌患者のステージによる違いは見られなかった(図16)。また、同じステージ4の患者同士の比較においては、脳転移の有無で有意な差があり(P<0.05)、脳転移のある患者において明らかに血清由来EVs中のmiR−181cレベルが高かった。このことから、血中へのmiR−181c分泌が実際の患者においても脳転移に寄与していることが示唆された。
以上の結果から、脳転移癌細胞由来のEVsは、miR−181cを内皮細胞内へ取り込ませることにより密着結合タンパク質の異常な局在を誘導し、それにより細胞間の接触を破壊していることが示された。
(実施例16)内皮細胞内のmiR−181cの標的の探索
miR−181cによるBBB崩壊メカニズムを解明するため、内皮細胞内のmiR−181cの標的を探索した。陰性コントロール又はmiR−181cを形質導入した内皮細胞内の遺伝子発現、並びに、BMD2a、BMD2b又はD3H2LN細胞由来のEVsを添加後の内皮細胞内の遺伝子発現を分析した。
QIAzol試薬及びmiRNeasy Mini Kit(共にQuiagen)を用いて、各内皮細胞から全RNAを抽出した。RNAの質と量はNanoDrop ND−1000 spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific Inc.)、及びAgilent Bioanalyzer(Agilent Technologies)を用いて推奨されている方法に従って決定した。得られた全RNAは、Low Input Quick Amp Labeling Kit、one−color(Agilent Technologies)を用いて製造者の説明書に従い、増幅させながらcyanine 3(Cy3)で標識化した。即ち、ポリdT−T7プロモータプライマーを用いて、100ngの全RNAを、二本鎖の相補的DNA(cDNA)に逆転写した。プライマー、鋳型RNA、及び既知の濃度及び品質の品質管理転写産物は、まず、65℃で10分間変性させ、その後、5×first strand緩衝液、0.1M ジチオスレイトール、10mM デオキシヌクレオチドトリホスフェートミックス、及びAffinityScript RNase Block Mixと共に40℃で2時間インキュベートした。AffinityScript酵素を70℃で15分間インキュベートした。cDNA産物を鋳型として試験管内転写により蛍光相補的RNA(cRNA)を生成させた。cDNA産物は、T7RNAポリメラーゼ及びCy3−標識化CTP(cytidine 5’−三リン酸塩)の存在下で、transcription master mixと混合させ、40℃で2時間インキュベートした。標識化されたcRNAをRNeasy Mini Spin Columns(Qiagen)を用いて精製し、30mLのヌクレアーゼフリーの水で溶出させた。増幅及び標識化の後、cRNAの量及びcyanineの取り込みをNanoDrop ND−1000 spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific Inc.)、及びAgilent Bioanalyzer(Agilent Technologies)を用いて決定した。各ハイブリダーゼーションにおいては、0.6μgのCy3−標識化cRNAを断片化し、65℃で17時間、Agilent Cynomolgus macaque Gene Expression Profiling Array(デザインID:028520)にハイブリダイズさせた。本アレイには、コントロールを除き、全部で12243種類のプローブが搭載されている。マイクロアレイを洗浄後、Agilent DNAマイクロアレイスキャナによりスキャンした。スキャンされた各特性の強度値は、背景差分を行うAgilent Feature Extraction ソフトウェア バージョン10.7.3.1を用いて定量した。エラー無し(no error)と表示された特徴(Detected flags)のみを用いて、Agilent GeneSpring GX バージョン12.6.1を用いて正規化を行なった(チップ毎:第三四分位数シフトに対する正規化;遺伝子毎:全てのサンプルの中央地に対する正規化)。陽性ではない(not positive)特徴、有意ではない(not significant)特徴、均一ではない(not uniform)特徴、バックグラウンドを超えない(not above background)特徴、飽和した(saturated)特徴、及び異常値(population outliers)は除外した(Compromised及びNot Detected flags)。変化した転写産物は比較法を用いて定量化した。なお、本実験において、遺伝子発現の有意(significant)な違いの特定は、シグナル強度において2倍以上の変化を適用して行った。
陰性コントロールと比較して、miR−181cが形質導入された脳血管内皮細胞内において、3−ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ−1(PDPK1)の発現が抑制されていることが、mRNAレベル及びタンパク質レベルのいずれにおいても確認された(図17a〜c)。更に、BMD2a細胞及びBMD2b細胞由来EVsで処理した内皮細胞においても、コントロール(D3H2LN細胞由来EVsで処理した内皮細胞)と比較して、PDPK1の発現が抑制されていることが、mRNAレベル及びタンパク質レベルのいずれにおいても確認された(図17d〜f)。これらの結果から、miR−181cが脳血管内皮細胞におけるPDPK1の発現を抑制することが示された。
(実施例17)PDPK1の密着結合タンパク質等の局在に与える影響
PDPK1が脳血管内皮細胞内に与える影響を調べるため、PDPK1 siRNAで処理した後の径内皮電気抵抗(TEER)及び密着結合タンパク質、N−カドヘリン、及びアクチンフィラメントの局在及び発現量を調べた。
PDPK1 siRNA(Ambion、ID:S10275)、又は、コントロールsiRNAの各25nMを、DharmaFECTトランスフェクション試薬(Thermo Scientific)を使用して、製造者のプロトコルに従って脳血管内皮細胞に導入した。24時間後の形質転換細胞を用いてin vitro BBBモデルにおける経内皮電気抵抗(TEER)を、実施例2(3)に記載の方法に従って測定した。また、24時間後の形質転換細胞における密着結合タンパク質、N−カドヘリン、及びアクチンフィラメントの局在及び発現量の測定を、実施例10に記載の方法に従って行った。
PDPK1 siRNAの導入により、PDPK1タンパク質の発現量は低下した(図20b参照)。コントロールsiRNAで処理した細胞においては、密着結合タンパク質及びN−カドヘリンが細胞膜に局在していたのに対し、PDPK1 siRNA処理細胞においては細胞膜への局在が失われていた(図18a)。密着結合タンパク質、N−カドヘリン及びアクチンは細胞質内に存在しており、これは、BMD2a細胞若しくはBMD2b細胞由来のEVs投与細胞、又はmiR−181c形質導入細胞において観察された結果と一致した。PDPK1 siRNA処理内皮細胞内において、アクチンの凝縮が観察され、この現象もBMD2a細胞若しくはBMD2b細胞由来のEVs投与細胞、又はmiR−181c形質導入細胞の結果と一致した(図10a、図10b、図14c、及び図18a)。また、密着結合タンパク質、N−カドヘリン及びアクチンのタンパク質発現量は、PDPK1 siRNAの処理の有無にかかわらず変化しなかった(図18b)。また、内皮電気抵抗(TEER)は、PDPK1 siRNAの導入により低下していた(図18c)。これらの結果から、PDPK1の阻害が、密着結合タンパク質及びN−カドヘリンの局在を変化させ、BBBの透過性を高めることが明らかとなった。
以上の結果から、脳転移癌細胞が分泌するEVsが内皮細胞に取り込まれた後、該EVsに封入されたmiR−181cが内皮細胞中のPDPK1の発現を抑制し、それにより密着結合タンパク質及びN−カドヘリンの局在を変化させ、BBBの透過性を高めることが示された。
(実施例18)miR−181cによるPDPK1発現抑制の確認
更に、内皮細胞内においてmiR−181cがPDPK1の発現を直接抑制し得るか否かについて、PDPK1遺伝子の非翻訳領域(3’UTR)(Macaca:配列番号14;Human:配列番号15)を用いた、3’UTRルシフェラーゼレポーターアッセイにより確認した。
PDPK1の3’UTRは、カニクイザルの脳血管内皮細胞から抽出した全RNAを鋳型にPCR増幅させて得た。3’UTR増幅に使用したPCRプライマーは、以下のとおりである:
Forward:AACTCGAGAATGCTGGCTATTGTTGGCCTC(配列番号16)
Reverse:AAGCGGCCGCAAGATTAAATCACTGACCCAATAG(配列番号17)
PCR産物をpGEM−T Easy Vector(Promega、WI、米国)にクローニングして組み込んだ。増幅させた3’UTRは、psiCHECK−2TM(Promega)のウミシイタケルシフェラーゼコード領域の下流にクローニングした。また、アラインメント解析により、PDPK1の3’UTR中にmiR−181cと相補的な配列が確認された(図19b)。
HEK293細胞は、5×104細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種して一晩培養した。100ngのレポータープラスミドと100nMのpre−miRNA−181cをDharmaFECT Duo transfection reagent(Thermo Scientific)を用いて同時に形質導入した。
形質導入から24時間後に細胞を回収し、EnVision(PerkinElmer、MA、米国)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。内因性miRNAの影響を調べるため、陰性コントロールとして合成miRNA前駆体(pre−miR)(Ambion(登録商標)、Invitrogen)を同時に形質導入した。全ての実験をトリプリケートで行った。
HEK293細胞を用いた結果、miR−181cにより、レポーター遺伝子であるルシフェラーゼの発現量が低下していた(図19a)。これらの結果から、PDPK1がmiR−181cの直接の標的であることが明らかとなった。
(実施例19)コフィリンリン酸化に与える影響
PDPK1は、コフィリン(cofilin)のリン酸化を制御する経路の上流に位置するタンパク質の一つであることが知られている(Lyle、A.N、et al.、Physiology(Bethesda)、21:269−280(2006);Higuchi、M.、et al.、Nat.Cell Biol.、10:1356−1364(2008))。また、コフィリンは、アクチン結合タンパク質ファミリーの一つであり、脱リン酸化により活性化されてアクチンフィラメントを分解する。PDPK1 siRNA処理内皮細胞内において、アクチンの凝縮が観察されたことから、miR−181cによるBBB破壊にコフィリンが関与しているか否かについて検討した。
脳血管内皮細胞に、D3H2LN細胞、BMD2a細胞、又はBMD2b細胞由来のEVsで処理した。また、脳血管内皮細胞にmiR−181cを導入した。更に、実施例17に記載の方法に従って脳血管内皮細胞をPDPK1 siRNAで処理した。各細胞における、リン酸化コフィリンの発現をウェスタンブロット分析により解析した。
M−PER(Thermo Scientific、MA.米国)を用いて、Mini−PROTEAN(登録商標) TGX Gel(4−12%)(Bio−Rad)に各細胞から得られたサンプルをロードしてタンパク質を分離した後、PVDF膜(Millipore)に電気泳動転写した。得られた膜は、Blocking One(Nacalai Tesque、京都、日本)中でブロッキングした後、抗PDPK1抗体(#3062、1/500、Cell Signaling)、抗コフィリン抗体(D3F9、#5157、1/1000、Cell Signaling)、抗リン酸化コフィリン抗体(Ser3)(#3311、1/500、Cell Signaling)、又は、抗GAPDH抗体(6C5、1/1000、Millipore)、である第一抗体と共に室温で1時間インキュベートした。第二抗体であるHRP−結合抗マウスIgG抗体(NA931、GE Healthcare)又はHRP結合抗ウサギIgG抗体(NA934、GE Healthcare)を1/2000倍希釈で用いた。その後、膜をImmunoStar(登録商標) LD(Wako、大阪、日本)で発光させた。
BMD2a細胞、又はBMD2b細胞由来のEVs投与細胞においては、D3H2LN細胞由来のEVs投与細胞と比較して、コフィリンのリン酸化が低下していた(図20a)。更に、コフィリンのリン酸化は、miR−181c又はPDPK1 siRNA処理脳血管内皮細胞において、コントロールsiRNA処理細胞と比較して低下していた(図20b)。これらの結果から、EVs中のmiR−181cは、脳血管内皮細胞内においてPDPK1の発現を低下させ、その結果、コフィリンのリン酸化が阻害されてアクチンの挙動が変化して凝集することにより、血液脳関門の透過性が増大することが明らかとなった。