本発明の発明者の知見によれば、特に生物学・化学等の分野においては、実験結果の再現性を確保するため、実験中おこなわれる操作はあらかじめ定められた実験計画、例えば、その実験が生命工学における前処理である場合にはいわゆるプロトコルに準拠したものでなければならない。また、実験結果の客観性を確保するため、実験過程においてどのような操作が行われたかを正確に記録しておく必要がある。そのためには、実験作業者はピペットを用いた分注作業ごとに、ピペットによる液体の吸入量や吐出量を実験計画通りに正確に設定し、また、その吸入や吐出の記録を実験ノート等に記録しなければならない。
このような作業は、ヒューマンエラーを誘発する恐れがあり、実験結果の再現性は必ずしも十分に担保されているとはいえない。また、実験ノートの記録は、その正確性を客観的に証明するものではないため、実験結果の客観性も不十分である。
本発明者は、かかる事情に鑑みて、実験結果の再現性及び客観性を担保すること、すなわち、実験中の操作を正確に行い、その操作を信頼性あるように記録することについて鋭意研究開発を行い、新規かつ独創的な電動ピペットシステム及び電動ピペットを発明するに至った。以下、かかる電動ピペットシステム及び電動ピペットについて、実施形態を例示して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電動ピペットシステム100の構成を示す概略図である。電動ピペットシステム100は、電動ピペット1と、作業手順表示装置2を少なくとも含んでいる。電動ピペット1と作業手順表示装置2とは、任意の方法により情報通信可能とされている。この情報通信の有線・無線の別は問わないが、接続線が実験作業の障害とならない点からは、無線による接続が好ましい。無線接続に用いる規格についても特に限定されるものではないが、例えば、IEEE802.11a/b/g/n等の無線LANや、Bluetooth(登録商標)等の一般的な規格を用いてよい。
図2は、電動ピペット1の構成を示す概略図である。電動ピペット1は、その先端に着脱可能に取り付けたチップTを用いて、液体を計量して吸引しまた吐出する、いわゆるピペットであって、その吸引及び吐出動作を任意の動力、例えば電動機を用いて行うようにしたものである。図示の電動ピペット1は、実験作業者が手でもって操作することを想定したものであるが、後述する実施形態で示すように、マニピュレータ(いわゆる、産業用ロボット)等の搬送装置により操作されるものとしてもよい。
電動ピペット1は、液体の吸引及び吐出を行うための駆動部11、通信部12、制御部13及び情報取得部14を筺体であるケース10に収容している。また、ケース10の先端にはチップTを着脱可能に取り付けるチップ接続部15が設けられる。さらに、ケース10の外側には、実験作業者が動作を指示するための操作部16及び、チップTをチップ接続部15から脱離させるためのイジェクトボタン17が設けられている。符号18は、実験作業者が電動ピペット1を把持する際の支えとなるガイドである。
駆動部11は、電動ピペット1を用いて、液体のチップT内への吸引と、チップT内からの吐出を行うための構成である。駆動部11は、本実施形態では、図示しない電動機によりプランジャ110をシリンダ内でその長手方向に移動させることにより、シリンダ内の空気を出し入れする。その結果、チップ接続部15に接続したチップTへの液体の吸引及び吐出がなされる。このときに液体の吸引量及び吐出量は、プランジャ110の移動量により制御される。
通信部12は、図1に示した作業手順表示装置2と情報通信を行うためのインタフェースである。本実施形態では、かかる情報通信は無線により行われるため、通信部12には適宜の通信コントローラとアンテナが含まれることになる。なお、通信部12を有線通信のためのコネクタを備えたものとしてもよいし、無線・有線のいずれによる情報通信をも可能なものとしてもよい。
制御部13は、電動ピペット1全体の動作を制御するコントローラである。制御部13の構成としては、例えば、いわゆるマイクロコントローラやASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の小型で組み込み用途に適したものが好適であるが、これに限定されるものでなく、任意の公知の情報処理装置でよい。
情報収集部14は、電動ピペット1に関する各種の情報を収集し、制御部13へと伝達する。情報収集部14により収集される情報は種々のものであってよく、例えば、電動ピペット1による操作がなされた時の日時、吸引・吐出の別及びその分量、チップT内に検知された液量、電動ピペット1を操作している実験作業者のID、電動ピペット1の位置、チップT内の液体の温度やpH等が例示される。情報収集部14により収集される情報の取り扱いについては後述する。
操作部16は、実験作業者が、電動ピペット1に液体を吸引し、吐出するよう指示をするための操作をするための構成である。本実施形態では、操作部16は押しボタンであるが、操作部16の具体的構成に特に限定はない。
以上説明した電動ピペット1の基本的な動作は、実験作業者が操作部16を操作する毎に、制御部13が、かかる操作に応じて駆動部11を駆動し、液体の吸引・吐出を行うというものである。操作部16による操作により、吸引及び吐出のいずれが行われるか、またその吸引量や吐出量をいくらとするかといった、駆動部11の駆動条件は、通信部12より作業手順表示装置2より通信により読み込まれ、制御部13により設定される。また、電動ピペット1の動作時の種々の情報は情報収集部14により収集され、制御部13によって、通信部12より作業手順表示装置2へと送信される。
図3は、作業手順表示装置2の物理的な構成を示すブロック図である。作業手順表示装置2はここでは一般的なコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)2a、RAM(Random Access Memory)2b、外部記憶装置2c、GC(Graphics Controller)2d、入力デバイス2e及びI/O(Inpur/Output)2fがデータバス2gにより相互に電気信号のやり取りができるよう接続されている。ここで、外部記憶装置2cはHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の静的に情報を記録できる装置である。またGC2dからの信号はフラットパネルディスプレイ等の、使用者が視覚的に画像を認識するモニタ2hに出力され、画像として表示される。入力デバイス2eはキーボードやマウス、タッチパネル等の、ユーザが情報を入力するための機器であり、I/O2fは作業手順表示装置2が外部の機器と情報をやり取りするためのインタフェースである。ここでは、作業手順表示装置2は電動ピペット1と無線通信により情報通信を行うため、I/O2fは、少なくとも通信コントローラとアンテナを備えていることになる。なお、I/O2fは有線接続のためのコネクタであってもよく、電動ピペット1との無線通信を行うための外部機器と有線にて接続するようにしてもよい。あるいは、作業手順表示装置2と電動ピペット1とを有線にて接続する場合には、I/O2fは無線通信のための構成を備えなくともよい。
作業手順表示装置2の基本的な動作は、実験作業者が行うべき作業の手順をモニタ2h等に表示し、実行すべき手順における電動ピペット1の動作条件、例えば、液体の吸引・吐出の別やその分量を電動ピペット1に送信し設定すること、及び、電動ピペット1から受信する、電動ピペット1の動作時の種々の情報を記録することである。
また、作業手順表示装置2は、作業手順を作成する機能を有していてもよく、この場合には、作業手順表示装置2は、作業手順作成装置でもあることになる。ここでいう作業手順は、生物学・化学等の分野における実験においてなされるべき、一連の操作とその条件を指しており、生命工学におけるいわゆるプロトコルは、かかる作業手順の代表的な例となっている。
なお、作業手順表示装置2は専用の装置であってもよいが、図3に示す構成を持つ一般的なコンピュータを用い、コンピュータを作業手順表示装置2として機能させるコンピュータプログラムを実行することにより実現されている。かかるコンピュータプログラムは、各種の光ディスクや半導体メモリなどのコンピュータ可読情報記憶媒体に格納されてよく、該媒体からコンピュータにインストールされるようにすることが好ましい。或いは、インターネット等の各種の情報通信ネットワークからコンピュータにダウンロードされてもよく、さらには情報通信ネットワークを通じて遠隔地にあるサーバによりその機能が提供される、いわゆるクラウドコンピューティングにより実現されてもよい。
図4は、作業手順表示装置2のモニタ2hに表示される作業手順の例を示す図である。ここで示す作業手順は、生命工学におけるプロトコルの一例となっており、ここでは、炭酸ガス雰囲気培養恒温器中に保管されている試料が入ったペトリ皿に対し、細胞洗浄を2回とスクレープを行った後、マイクロチューブにその試料を移送し、細胞溶解緩衝液を加え、ボルテックスミキサーによる撹拌を行った後、4℃の恒温槽に保管する、というものである。作業手順中、角型の矩形で示した枠は個々の操作であり、また、角が丸い矩形で示した枠は試料容器の初期状態と最終状態を示している。矢印は、操作の順番又は試料の移送方向を示している。
ここで示した個々の操作の詳細は本発明と直接の関係を有しないため説明を省略するが、図中、Dish及びTubeはそれぞれ、ペトリ皿とマイクロチューブを意味しており、WASH、SCRAPE、DISCARD、TRANSFER、ADD、MIX及びPUTはそれぞれ、細胞洗浄、スクレープ、試料容器の破棄、内容物の移送、試液の追加、撹拌及び試料容器の保管を意味している。実験作業者は、このような作業手順を見ながら作業することにより、各操作の順番やその条件を把握することができる。
図5は、本実施形態に係る電動ピペットシステム100の機能ブロック図である。ここで示される各ブロックは、理解を容易にする目的で、各機器が有する機能に着目してこれを個別に示したものであり、物理的な構成が図5に示すブロック毎に分離していることを必ずしも要しない。これらのブロックは、電動ピペット1については図2、作業手順表示装置2については図3で示した物理的構成を適宜使用して実現される。
電動ピペット1について、動作条件受信部101は、作業手順表示装置2の動作条件送信部205より送信される動作条件を受信する。ここで言う動作条件には、実験作業者が次にすべき操作における、吸引/吐出の別及び、その分量が含まれる。そして、動作条件設定部102は、動作条件受信部101により受信された動作条件に基いて、操作部16による操作がなされたときに、駆動部11を駆動すべき条件を設定する。すなわち、プランジャ110をどの向きにどれだけ移動させればよいのかが設定される。吸引・吐出動作部は、操作部16に対する操作がなされたときに、動作条件設定部102により設定された動作条件にて、駆動部11を駆動し、液体を吸引し又は吐出する。情報収集部104は、動作時の電動ピペット1の状態を示す情報を収集する。情報送信部105は、収集された情報を作業手順表示装置2に送信する。
作業手順表示装置2について、作業手順作成部201は、適宜のGUI(Graphical User Interface)等を用いて、作業手順を作成する部分である。なお、この作業手順作成部201は、他の機器により作成された作業手順を用いる等の場合には省略してもよい。作成された作業手順は作業手順記憶部202に記憶される。
作業手順表示部203は、作業手順記憶部202に記憶された作業手順をモニタ2hに表示する。そして、次操作表示部204は、表示された作業手順中、実験作業者が次に行うべき操作を、他の操作と区別できるように表示する。例えば、図4に示した実験手順において、次に実行すべき操作がペトリ皿からマイクロチューブへの試料の移送である場合には、同図に示したように、該操作を示す「TRANSFER」と記載された枠が太線で表示される等、強調表示されるとよい。これにより、実験作業者は次に行うべき操作を直ちに理解でき、操作手順を間違う等のヒューマンエラーが防止される。
動作条件送信部205は、実験作業者が次に行うべき操作において、電動ピペット1を作動させるべき条件を電動ピペット1の動作条件受信部に送信する。例えば、次操作が図4に示す「TRANSFER」である場合、該操作は200μlの液体の吸引後、同僚の液体の吐出をすることになるので、まずは200μlの吸引を行うように動作条件を送信することになる。
情報受信部206は、電動ピペット1の情報送信部105より送信された情報を受信する。受信された情報は、改ざん防止処理部207により、改ざん防止処理が施され、情報記録部208に順次記録されていく。改ざん防止処理により、情報記録部208に記録された情報に対する後からの恣意的な改変ができなくなるため、かかる情報の客観的正確さが担保される。改ざん防止処理は、情報処理における電子データの改ざんを防止し、または改ざんがあったことを検出可能とする任意の処理で良い。例えば、特定のハッシュ関数によるハッシュ値の付加や、チェックサムやCRCなどの誤り検出符号の付加をする等が挙げられるが、改ざんに対する耐性の点からは、公開暗号錠方式に基く、いわゆる電子署名を付すことが望ましい。
以上の通り、電動ピペット1を作動させるべき条件は、あらかじめ作成された作業手順に基いて電動ピペット1に送信され設定されるため、設定を誤る等のヒューマンエラーが防止され、また、操作の都度設定のための操作を行う必要が無いため、実験に要する手間が軽減される。
また、情報記録部207に記録された情報は、実際に電動ピペット1を用いてなされた操作を客観的に記録したものであるため、実験作業者の恣意性やヒューマンエラー、後からの記録の改ざんを排除した信頼性の高い実験記録として活用することができる。さらに、情報記録部207に記録された情報と、実験が準拠した作業手順の情報とを組み合わせ保存したり、さらに下流で行われる分析機器による分析結果の情報を組み合わせ保存したりすることにより、実験の手順とその実験が行われた事実の記録、さらにはその分析結果を一まとまりとして取り扱うようにしてもよい。
図6は、本実施形態に係る電動ピペットシステム100の動作を示すフローチャートである。実験を開始すると、まず、作業手順表示装置2において、モニタ2hに作業手順を表示する(ステップST1)。さらに、実験作業者が次に行うべき操作を表示し(ステップST2)、当該操作において電動ピペット1を動作させるべき条件を電動ピペット1に送信する(ステップST3)。
電動ピペット1では、受信した動作条件に基いて動作条件を設定し(ステップST4)、実験作業者による操作部16の操作に応じて、駆動部11を駆動し、液体の吸引又は吐出を行う(ステップST5)。情報収集部14により、電動ピペット1の動作時の必要な情報を収集し(ステップST6)、当該情報を作業手順表示装置2に送信する(ステップST7)。
作業手順表示装置2は、受信した情報を順次記録し(ステップST8)、作業手順に含まれる全ての操作が終了したか否かを判定する(ステップST9)。作業手順に含まれるすべての操作が終了していなければ(ステップST9:N)、ステップST2へと戻り、実験作業者が次に行うべき操作を表示し、そうでなければ(ステップST9:Y)、実験は終了である。
ここで、情報収集部14により収集されるべき情報について説明する。
まず、電動ピペット1による操作がなされた時の時間情報は、実験が作業手順通りに正しく行われたことを証明する上で重要である。時間情報は、電動ピペット1による操作の時点を特定することができる情報であればどのようなものであってもよく、例えば、月日及び時刻の両方又はそのいずれか、或いは、ある基準時点に対する相対時間であってよい。この時間情報の記録は、電動ピペット1自体に時計機能(すなわち、計時回路)を持たせておき、操作がなされた時の時間情報を情報収集部14が取得するようにしてもよいし、作業手順表示装置2側で、電動ピペット2から情報が送られてきた時点での時間情報を記録するようにしてもよい。
また、電動ピペット1による操作が吸引・吐出のいずれであるか、またその分量は、実験が正しく行われたことを証明する上で極めて重要である。したがって、情報記録部207には、少なくとも、電動ピペット1による操作がなされた時の時間情報に加え、当該操作が吸引・吐出のいずれであるか、またその分量を記録するようにすることが望ましい。
さらに、チップT内の液量を検知し、収集し記録するようにしてよい。実験作業者による操作ミス等により、電動ピペット1による操作は行われたものの、液体の吸引及び吐出に失敗した場合に、駆動部11の駆動内容を検出するだけであればこれを検知することはできないが、チップT内の液量を検知すれば、正しく吸引及び吐出が行われていることが証明できる。この液量の検知は、例えばチップ接続部15等に適宜のセンサを設けることにより可能である。検知の方式は特に限定されないが、光学センサや超音波センサによりチップT内の液面を検知する方式、圧力センサにより検知した圧力変動からチップT内に吸引され、また吐出された液量を算出する方式、静電容量センサによりチップT内の液量を静電容量の差として検出する方式等を例示することができる。
また、電動ピペット1を操作している実験作業者のIDを収集し記録してよい。これにより、確かに実験に責任を持つものが自ら作業をしているかを確認することができる。このIDの収集は、たとえば、実験作業者にあらかじめ配布したRF−IDカード等のID情報を電動ピペット1に設けたレシーバで読み込ませたり、電動ピペット1に設けた指紋センサにより実験作業者の指紋を検出させる等により実現してよい。あるいは、単に、作業手順表示装置2に実験作業者がログインする際のIDおよびパスワードに基いて当該IDを収集し記録してもよい。さらに、電動ピペット1自体に固有のIDを記録しておき、実験作業者のIDに加え、又はこれに替えて電動ピペット1のIDを収集し記録するようにしてよい。これにより、実験がどの電動ピペット1を用いて行われたのかも記録されるから、器具の不具合等に起因する異常等が生じた場合にも、その事実を特定できる。
さらに、電動ピペット1の位置を収集し記録してよい。電動ピペット1の位置は、実験中の作業の位置、すなわち、各容器や機器等の位置が定められている場合に、個々の操作が正しく行われたこと、また、実験自体が適正な施設内で行われたことを証明する有力な情報となる。この位置の検出は、任意の方法、例えば、実験室にいわゆるLPS(Local Positioning System)を設けておき、電動ピペット1でその位置情報を検出したり、実験室に配置したカメラより得られる画像を用いた画像処理により、電動ピペット1の位置を算出したりしてよい。後述するように、電動ピペット1がマニピュレータに取り付けられる場合には、電動ピペット1による操作がなされた時のマニピュレータの座標から、電動ピペット1の位置を求めることもできる。
さらに、チップT内の液体の性状や、その画像を収集し記録してよい。チップT内の液体の性状、例えば温度やpH等については、例えば、チップ接続部15等に適宜のセンサを設けることにより検出できる。チップT内の液体自体の性状について、どのような情報を収集するかは、実験の性質や用途に応じて定めればよい。検出する情報は特に限定されず、上述の温度やpHのほか、糖度やOD(光学濃度)等いかなるものであってもよい。また、チップT内の液体の画像は、チップ接続部15等に光学カメラを取り付けておくことにより撮影できる。例えば、液体が凝固しやすいものであったり、沈殿や分離しやすいものであったりする等、その物理的な性状が変化しやすいものである場合、かかる画像により操作が行われた時の液体の状態を記録することができる。
加えて、チップTの交換に関する情報を収集し記録するようにしてよい。チップTの交換に関する情報は、チップT自体が交換されたことを示す1の情報であってもよいし、チップTが脱離され、また取り付けられたことを示す情報であってもよい。チップTの脱離及び取り付けは、チップ接続部15にチップTを検出する適宜の機構、例えばチップTを取り付けると押下げされるスイッチ等、を設けることで容易に検出可能である。実験途中で適正にチップTの交換がなされていることは、実験に用いる試料間での意図せぬ混合が生じていないことを証明する上で重要である。
なお、上述の説明では、作業手順表示装置2から電動ピペット1への動作条件の送信は、操作の都度行っているが、これを複数まとめて行ってもよい。例えば、実験開始時に、作業手順に含まれる全ての操作についての動作条件をあらかじめ送信しておき、電動ピペット1では、操作毎に、あらかじめ受信されている次の動作条件を設定するようにしてもよい。
また、上述の説明では、電動ピペット1から作業手順表示装置2への情報の送信を、操作の都度行っているが、これを複数まとめて行ってもよい。例えば、電動ピペット1側に情報を一時保管するメモリを設けておき、当該メモリに情報を順次記憶しておいて、実験終了時にまとめて情報を作業手順表示装置2へ送信するようにしてもよい。あるいは、情報記録部207自体を電動ピペット1側に設けてもよい。この場合には、情報記録部207は、例えばいわゆるUSBメモリやメモリカードのように、適宜電動ピペット1から取り外して外部機器にて読み出すことができる媒体を用いることが望ましい。
以上説明した実施形態では、電動ピペット1は、実験作業者が手で持ち操作するものとして説明した。しかしながら、電動ピペット1をマニピュレータ等の自動機械に取り付け、作業手順に示された操作が自動で行われるようにしてもよい。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る電動ピペットシステム200の構成を示す概略図である。電動ピペットシステム200は、電動ピペット1が搬送装置の一例であるマニピュレータ3のハンド先端に取り付けられている点、マニピュレータ3と作業手順表示装置2とが有線結線により通信可能となっている点、さらに電動ピペット1と作業手順表示装置2とはマニピュレータ3を介して通信可能となっている点が先の実施形態とは異なっている。なお、先の実施形態同様、電動ピペット1と作業手順表示装置2とが直接有線又は無線により通信するようにしてもよい。
本実施形態に係る電動ピペット1の構成は、図2に示した先の実施形態のものと概ね同一であり、駆動部11の駆動指示が操作部16の操作ではなく、マニピュレータ3からの通信により行われる点のみが異なっている。なお、マニピュレータ3のハンドを工夫することにより、実験作業者が行うときと同様に、マニピュレータ3が操作部16を操作するようにすることも可能である。また、本実施形態に係る作業手順表示装置2の物理的な構成は、図3に示した先の実施形態のものと同じである。
図8は、本実施形態に係る電動ピペットシステム200の機能ブロック図である。同図において、先の実施形態と同等の構成については同符号を付し、重複する説明はこれを省略することとする。
図8に示すように、本実施形態では作業手順表示装置2は、マニピュレータ3に対し次に実行すべき操作を指示する操作指示部209を備えている。マニピュレータ3は、たとえば、あらかじめ施された動作プログラムに従って、操作指示部209により指示された操作を実行する。
マニピュレータ3が実行すべき操作が、電動ピペット1を用いるものである場合には、マニピュレータ3は、電動ピペット1を動作させるべきタイミングで、作業手順表示装置2より受信した動作条件を電動ピペット1の動作条件受信部101に送信し、動作条件を設定させ、さらに、かかる動作条件にて吸引・吐出動作部に吸引又は吐出動作を実行させる。すなわち、本実施形態における操作指示部209は、先の実施形態における動作条件送信部205としても機能するものである。このようにすると、先の実施形態において実験作業者が行っていた動作をマニピュレータ3にさせることができるため、ヒューマンエラーが防止され、また実験に要するマンパワーを削減できる。
なお、図8に示した構成において、作業手順表示装置2は作業手順表示部203及び次操作表示部204を備えている。これにより、電動ピペットシステム200のマニピュレータ3が、現在、どのような実験のどの操作を行っているかを容易に把握することができるが、かかる構成は、電動ピペットシステム200に必須のものではないため、これを省略したり、必要なときのみ機能させるようにしてもよい。また、動作条件は、作業手順表示装置2側に操作指示部209とは別途動作条件送信部205(図5参照)を設け、マニピュレータ3を通すことなく、直接電動ピペット1に送信するようにしてもよい。
さらに、情報受信部206は、電動ピペット1からのみでなく、マニピュレータ3からも情報を収集している。マニピュレータ3から収集すべき情報としては、例えば、先に説明した、電動ピペット1の位置を得るためのマニピュレータ3の座標等が挙げられるが、マニピュレータ3に関する他の情報をさらに収集し記録するようにしてもよい。マニピュレータ3が保有する種々の情報は、後から、実験の正確さを保証したり、実験がどのように行われたかを追跡する根拠となり得る。
図9は、本実施形態に係る電動ピペットシステム200の動作を示すフローチャートである。ここで、図6に示した先の実施形態に係る電動ピペットシステム100の動作と同じ動作については、同じ符号を付して重複する説明は省略する。
本実施形態では、作業手順表示装置2は(必要であれば)次操作表示を行った後(ステップST2)、次に実行すべき操作をするようマニピュレータ3に指示を送信する(ステップST10)。マニピュレータ3は、操作指示に従い、動作する(ステップST11)。このとき、操作が電動ピペット1を用いるものである場合には、マニピュレータ3は、電動ピペット1に動作条件を送信する(ST12)。
電動ピペット1は、先の実施形態同様に、受信した動作条件に基いて動作条件を設定し、その後吸引又は吐出動作を行う(ステップST5’)。その後の動作は先の実施形態と同様である。
なお、この例では、電動ピペット1は、動作条件の設定後(ステップST4)直ちに吸引又は吐出動作を行う(ステップST5’)ように構成されているが、これを、改めて、マニピュレータ3から吸引又は吐出動作を指示する信号を受信するまで待つ、あるいは、マニピュレータ3により、先の実施形態のように、操作部16が操作されるまで待つようにしてもよい。
以上説明した各実施形態の構成は具体例として示したものであり、本明細書にて開示される発明をこれら具体例の構成そのものに限定することは意図されていない。当業者はこれら開示された実施形態に種々の変形、例えば、各部材あるいはその部分の形状や数、配置等を適宜変更してもよく、また、フローチャートに示した制御は、同等の機能を奏する他の制御に置き換えてもよい。本明細書にて開示される発明の技術的範囲は、そのようになされた変形をも含むものと理解すべきである。