JP6916141B2 - 測距システム - Google Patents

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Description

本発明は、2者間の距離を測定する測距システムに関する。
従来、2者間で電波を送受信し合って、電波の伝搬時間から2者間の距離を演算する測距システムが周知である(特許文献1等参照)。この測距システムでは、基地局から端末に電波を送信し、その電波を端末から基地局に返信させる。そして、このときの電波のやり取りに要した伝搬時間から、基地局と端末との間の距離を演算する。
特開2017−38348号公報
ところで、この種の測距システムにおいては、測距できる距離(測距可能距離)が短いと、離れた相手との間の距離を測定できない。よって、十分な測距可能距離を確保したい要望があった。
本発明の目的は、十分な測距可能距離を確保することを可能にした測距システムを提供することにある。
前記問題点を解決する測距システムは、第1通信機及び第2通信機の一方から他方に、複素信号からなるベースバンド信号を周波数変換した電波を送信し、当該電波の伝搬特性を求めて、当該伝搬特性から前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する構成であって、ベースバンド信号を周波数変換することで生成される電波を相手側に送信して測距を行うにあたり、あるベースバンド信号に対し、パワースペクトルのピーク周波数を規定量シフトした別のベースバンド信号を作り、当該ベースバンド信号を周波数変換した電波を送信アンテナから送信させる周波数シフト部と、これらベースバンド信号の電波から求まる伝搬特性を用いて、前記第1通信機及び第2通信機の間の距離を求める測距部とを備えた測距システム。
本構成によれば、パワースペクトルのピーク周波数を規定量シフトさせて作成したベースバンド信号で伝搬特性を測定した場合、周波数シフトをしないベースバンド信号で伝搬特性を測定したときに得られる周波数とは異なる周波数の伝搬特性を抽出することが可能となる。このため、仮に同じチャネルで電波送信した場合であっても、複数の周波数の伝搬特性を得ることが可能となるので、伝搬特性を測定するにあたっての周波数の分解能が向上する。よって、このように伝搬特性をより狭い周波数間隔で測定することが可能となれば、測距可能距離が隣の周波数との間隔に依存する測距システムにおいて、測距可能距離を延ばすことが可能となる。
前記測距システムにおいて、前記第1通信機及び前記第2通信機は、前記電波を複数チャネルで送信し、前記測距部は、各チャネルで測定された伝搬特性を基に、前記距離を求めることが好ましい。この構成によれば、複数チャネルを使用して、距離をより精度よく求めるのに有利となる。
前記測距システムにおいて、受信した電波をフーリエ変換することによって求まる周波数スペクトルの伝搬特性において、DC成分付近の位相を基に前記DC成分の位相を補間することにより、DC成分の伝搬特性を抽出するDC成分抽出部を備え、前記DC成分抽出部は、周波数スペクトルにおいてベースバンドDC成分に対応する伝搬周波数をDC成分周波数とした場合、当該DC成分周波数ごとにDC成分伝搬特性を抽出し、前記測距部は、これらDC成分伝搬特性を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を求めることが好ましい。この構成によれば、周波数スペクトルのDC成分伝搬特性には、送受信する信号をD/A変換又はA/D変換する際に生じ得る誤差が乗らない。よって、距離を精度よく求めるのに一層有利となる。
前記測距システムにおいて、測定された複数の伝搬特性を合成する合成部と、合成により得られた伝搬特性を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換部とを備え、前記測距部は、逆フーリエ変換の演算結果から、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算することが好ましい。この構成によれば、逆フーリエ変換の演算結果を用いて、距離を精度よく求めることが可能となる。
前記測距システムにおいて、前記規定量は、周波数スペクトルにおいてベースバンドDC成分に対応する伝搬周波数をDC成分周波数とした場合、当該DC成分周波数の周波数間隔が等間隔となる値に設定されていることが好ましい。この構成によれば、伝搬特性を測定する際の周波数間隔をそれぞれ一定間隔に設定することが可能となるので、周波数間隔が最適化される。よって、距離を精度よく求めるのに一層有利となる。
本発明によれば、十分な測距可能距離を確保することができる。
一実施形態の測距システムが用いられる通信機のモデル図。 測距システムの電波送信部及び電波受信部の構成図。 測距システムにおいて距離演算を行う要素の構成図。 測距の手順を示すフローチャート。 (a),(b)は「0」Hz中心のベースバンド信号の周波数スペクトル図、(c)はそのベースバンド信号の電波の周波数スペクトル図。 (a),(b)は「fs」中心のベースバンド信号の周波数スペクトル図、(c)はそのベースバンド信号の電波の周波数スペクトル図。 (a)〜(c)はDC成分の求め方を説明するのに用いる位相スペクトル図。 複数チャネルの各電波から構築される振幅及び位相を示す特性図。
以下、測距システムの一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1に示すように、測距システム1は、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを、無線通信を通じて測定する。本例の測距システム1は、無線によって接続された第1通信機2及び第2通信機3の間で電波Siを送受し、電波Siの伝搬特性(振幅及び位相)を求める。そして、その伝搬特性から等価的にインパルスの伝搬時間Tx、すなわち距離Lを演算する。本例の場合、例えば第1通信機2が車両の電子キーであり、第2通信機3が車両である。第1通信機2及び第2通信機3の通信は、例えばブルートゥース(Bluetooth:登録商標)であることが好ましい。
図2に示すように、測距システム1は、電波Siの送信側となる電波送信部6と、電波Siの受信側となる電波受信部7とを備える。電波送信部6は、波形生成部8、変調部9、DAコンバータ10、ミキサ11、発振器12及び送信アンテナ13を備える。
波形生成部8は、第1通信機2及び第2通信機3の間で送信される電波Siとして、周期的なデジタル符号からなる周期信号Skを生成し、これを変調部9に出力する。周期信号Skは、例えば2値化符号の「0」及び「1」が周期Tごとに切り替わる信号からなる。変調部9は、GFSK(Gaussian Frequency Shift Keying)により信号変調を行う。周期信号Skは、変調部9で変調されて、DAコンバータ10でD/A変換される。そして、D/A変換後のベースバンド信号Sbがミキサ11で発振器12の搬送波と重畳されて、送信アンテナ13から電波Siとして送信される。
電波受信部7は、受信アンテナ16、ミキサ17、発振器18、ADコンバータ19及びフーリエ変換部20を備える。電波受信部7は、電波送信部6から送信された周期信号Skの電波Siを受信アンテナ16で受信すると、受信信号をミキサ17で元のベースバンド信号Sbに変換し、これをADコンバータ19でA/D変換する。そして、A/D変換後の信号がフーリエ変換部20によって変換(FFT変換)されることにより、受信信号の周波数スペクトル(伝搬特性)が測定される。伝搬特性は、送受信された電波Siの振幅及び位相の各データである。
測距システム1は、通信時の伝搬特性の測定を、通信する複数のチャネルの全てで実行する。また、第1通信機2から第2通信機3に電波Siを送信して伝搬特性を測定するとともに、第2通信機3から第1通信機2にも電波Siを送信して伝搬特性を測定する。すなわち、第1通信機2及び第2通信機3の両方で伝搬特性の測定を行う。この場合、第1通信機2及び第2通信機3の両方に、電波送信部6及び電波受信部7が各々設けられることになる。
電波受信部7は、受信電波の伝搬特性のDC成分を抽出するDC成分抽出部21を備える。DC成分抽出部21は、受信した電波Siの伝搬特性として振幅及び位相のDC成分(DC成分伝搬特性)を抽出する。DC成分は、複素信号からなるベースバンド信号Sb(Sb’)のフーリエ変換後(FFT変換後)の周波数スペクトルにおいて、周波数が「0」Hzのときの特性値である。本例のDC成分抽出部21は、受信した電波Siをフーリエ変換することによって求まる周波数スペクトルの伝搬特性において、DC成分付近の位相を基にDC成分の位相を補間して、DC成分伝搬特性を算出する。
図3に示すように、測距システム1は、乗算部23、合成部24、逆フーリエ変換部25及び測距部26を備える。なお、乗算部23、逆フーリエ変換部25及び測距部26の機能群は、第1通信機2及び第2通信機3のどちらに設けられてもよい。
乗算部23は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して測定された伝搬特性と、第2通信機3から第1通信機2に電波送信して測定された伝搬特性とを乗算する。このように、本例の乗算部23は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して求まったFFT結果と、第2通信機3から第1通信機2に電波送信して求まったFFT結果とを乗算する。
合成部24は、受信電波ごとにDC成分抽出部21が抽出した複数のDC成分伝搬特性を合成する。例えば、電波Siが複数チャネルで送信された場合、各チャネルにおいて抽出されたDC成分伝搬特性を、複数チャネル分、合成する。本例の合成部24は、複数のDC成分伝搬特性を合成することにより、これらを並べたベクトルから構築される周波数データH(f)を求める。
逆フーリエ変換部25は、合成後の伝搬特性を逆フーリエ変換することにより、測距に必要な演算結果を算出する。本例の逆フーリエ変換部25は、合成部24により求められた周波数データH(f)を逆フーリエ変換し、その演算結果として時間データy(t)を求める。
測距部26は、合成により得られた伝搬特性を逆フーリエ変換した演算結果(逆フーリエ変換部25の演算結果)から、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを算出する。本例の測距部26は、逆フーリエ変換部25により求められた時間データy(t)から、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを算出する。
測距システム1は、ベースバンド信号Sbのピーク周波数を規定量fsシフトする手法を用いて、測距可能距離を延ばす測距可能距離増加機能を備える。本例の測距可能距離増加機能は、電波Siで測距するにあたり、あるチャネルで電波送信する際、「0」Hz中心のベースバンド信号Sbから伝搬特性を測定するのみならず、「0」Hzからピーク周波数を規定量fsシフトさせたベースバンド信号Sb’を作り、このベースバンド信号Sb’から測定した伝搬特性も用いて、測距を行うものである。
この場合、測距システム1は、あるベースバンド信号Sbに対してパワースペクトルのピーク周波数を規定量fsシフトした別のベースバンド信号Sb’を作成する周波数シフト部29(図2参照)を備える。本例の周波数シフト部29は、ADコンバータ19に設けられている。周波数シフト部29は、例えば元のベースバンド信号Sbを規定量fsシフトさせることにより、規定量fsを中心としたベースバンド信号Sb’を作成する。測距部26は、これらベースバンド信号Sb,Sb’から求まる伝搬特性を用いて、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを求める。
次に、図4〜図8を用いて、本実施例の測距システム1の作用及び効果を説明する。
図4に示すように、ステップ101において、第1通信機2は、電波Siを第2通信機3に送信して、第2通信機3に伝搬特性を測定させる。本例の場合、まず波形生成部8は、「0」及び「1」が周期的に繰り返される周期信号Skを生成し、これを変調部9に出力する。変調部9は、「0」及び「1」の繰り返し信号の周期信号SkをGFSK変調し、これをDAコンバータ10に出力する。そして、DAコンバータ10を通過した複素信号は、ミキサ11(周波数シフト部29)に出力される。
図5及び図6に示すように、電波送信部6は、測距の電波Siを電波受信部7に送信するにあたり、周波数シフトを行わない「0」Hz中心で作ったベースバンド信号Sbからなる電波Siを送信する場合(図5で示す例)と、周波数シフト部29によってベースバンド信号Sbを規定量の「fs」Hz中心となるように作ったベースバンド信号Sb’の電波Siを送信する場合(図6で示す例)との2通りのパターンで、電波送信を実行する。ここで、複数チャネルで電波送信を行う場合、ベースバンド信号Sbを周波数シフトしない送信パターンとベースバンド信号Sbを周波数シフトする送信パターンとを、各チャネルで繰り返し行う。
図5(a)に、DAコンバータ10の信号出力点Paにおいて、周波数シフトをしていない場合のベースバンド信号Sbのパワースペクトル(振幅特性)を図示したものである。同図に示されるように、このベースバンド信号Sbは、パワースペクトルのピーク周波数が「0」Hzとなった信号である。ピーク周波数は、パワースペクトルにおいて振幅が最大値をとる際の周波数をいう。そして、ベースバンド信号Sbは、ミキサ11で中心周波数fcにアップコンバートされた後、搬送波に乗せられ、送信アンテナ13から電波Siとして所定チャネルで送信される。第2通信機3は、第1通信機2から送信された電波Siを受信アンテナ16で受信する。
図5(b)に、受信アンテナ16の信号経路上の一点Pbにおいて、周波数シフトをしていない場合のベースバンド信号Sbの電波の周波数スペクトル(図5(b)の紙面上図がパワースペクトル、図5(b)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。同図に示されるように、パワースペクトルは、電波Siの中心周波数fcのときにピークが立った振幅変化をとる。また、伝搬による位相変化特性は、周波数と位相とが比例して上昇していく位相変化をとる。
受信アンテナ16で受信された電波は、ミキサ17によってダウンコンバートされ、ベースバンド信号Sbに変換される。そして、ダウンコンバートされたベースバンド信号Sbは、ADコンバータ19によってA/D変換され、フーリエ変換部20に出力される。フーリエ変換部20は、A/D変換後の信号をフーリエ変換し、ベースバンド信号Sbの周波数スペクトル、すなわち伝搬特性を測定する。
図5(c)に、ADコンバータ19の信号出力点Pcにおいて、周波数シフトをしていない場合のA/D変換後のベースバンド信号Sbの周波数スペクトル(図5(c)の紙面上図がパワースペクトル、図5(c)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。パワースペクトルは、周波数が「0」Hz(パワースペクトルのDC成分)のときにピーク(振幅P(f))が立った振幅変化をとる。本例の場合、周期Tで「0」,「1」が繰り返される周期信号Skを送信して測距するので、パワースペクトルは、1/T周期でスペクトルが立つ波形をとる。パワースペクトルは、DC成分である周波数「0」Hzを頂点とした放物線に沿って値が変化する波形をとる。また、位相スペクトルも、1/T周期でスペクトルが立つ波形をとっていることが分かる。
ところで、電波送受信時、A/D変換やD/A変換のサンプリングタイミングの際に信号に遅延が生じるが、仮に遅延が発生した場合には、図7(a)に示すように、位相特性の傾きは変化するものの、DC成分である周波数「0」Hzの位相は変化しない。このように、周波数「0」Hzの位相には遅延の誤差が現れないので、この位相を電波(キャリアの中心周波数)の位相として抽出すれば、遅延の誤差をキャンセルできることが分かる。よって、D/A変換やA/D変換による位相誤差は、「0」Hzのとき「0」であるので、ベースバンド信号Sbが「0」Hzのときの位相θ0は、対応する受信信号の位相θ0と等しくなる。
しかし、図7(b)に示すように、実際のところ、周波数「0」Hzの成分にはオフセットによる誤差が生じ、正しくDC成分を抽出することができない。
そこで、図7(c)に示すように、DC成分抽出部21は、位相スペクトルのDC成分(周波数「0」)の直近前後の位相θm,θpを利用して、DC成分の位相θ0を算出する。本例の場合、DC成分(周波数「0」)の1つ前の位相スペクトルの位相θmと、DC成分(周波数「0」)の1つ後の位相スペクトルの位相θpとの平均を求め、これをDC成分の位相θ0(=(θm+θp)/2)として割り出す。このようにして、本例のDC成分抽出部21は、周波数スペクトルの伝搬特性において、DC成分付近の位相を基にDC成分の位相を補間することにより、DC成分の位相∠θ(f)を抽出する。そして、DC成分抽出部21は、パワースペクトルのDC成分と、補間により求めた位相スペクトルのDC成分とを、DC成分伝搬特性として算出する。
図5(b),(c)に戻り、位相スペクトルにおいては、A/D変換後のベースバンド信号Sbの「0」Hzの位相θ0(図5(c)に図示)と、受信電波の中心周波数fcの位相θ0(図5(b)に図示)とが関連付いていることが分かる。よって、周波数スペクトルにおいてベースバンドDC成分(ベースバンド信号SbのDC成分)に対応する伝搬周波数をDC成分周波数とした場合、周波数シフトしないときのDC成分周波数は、中心周波数の「fc」となる。伝搬周波数は、通信においてベースバンドDC成分が伝搬される周波数をいう。
図4に戻り、ステップ102において、第2通信機3は、電波Siを第1通信機2に送信して、第1通信機2に伝搬特性(振幅及び位相)を測定させる。すなわち、第2通信機3から第1通信機2に電波Siを送信して、第1通信機2においても伝搬特性(振幅及び位相)を測定する。なお、伝搬特性の測定は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して行う場合と同様であるので、説明を省略する。
第1通信機2及び第2通信機3の通信の往復で伝搬特性が各々測定されると、乗算部23は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して測定された伝搬特性(FFT結果)と、第2通信機3から第1通信機2に電波送信して測定された伝搬特性(FFT結果)とを乗算する。これにより、測距システム1の各デバイスにクロック誤差やPLLの初期位相誤差が発生していても、これら誤差は送信側と受信側とで逆符号の位相誤差で現れていることから、FFT結果の乗算により、これら誤差がキャンセルされる。
図6(a)に、DAコンバータ10の信号出力点Paにおいて、周波数シフトをした場合のベースバンド信号Sb’のパワースペクトル(振幅特性)を図示する。同図に示されるように、周波数シフト部29は、測距において電波送信を行うにあたり、元のベースバンド信号Sbを規定量fs分シフトして、規定量fsを中心としたベースバンド信号Sb’を生成する。このベースバンド信号Sb’は、パワースペクトルのピーク周波数が「fs」Hzとなった信号である。そして、ベースバンド信号Sb’は、ミキサ11で中心周波数fcにアップコンバートされた後、搬送波に乗せられ、送信アンテナ13から電波Siとして、周波数シフトを行わないときと同じチャネルで送信される。
図6(b)に、受信アンテナ16の信号経路上の一点Pbにおいて、周波数シフトをした場合のベースバンド信号Sb’の電波の周波数スペクトル(図6(b)の紙面上図がパワースペクトル、図6(b)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。また、図6(c)に、ADコンバータ19の信号出力点Pcにおいて、周波数シフトをした場合のA/D変換後のベースバンド信号Sb’の周波数スペクトル(図6(c)の紙面上図がパワースペクトル、図6(c)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。
これら図から分かるように、「fs」Hz中心で作られたベースバンド信号Sb’の伝搬特性を測定した場合、このベースバンド信号Sb’の「0」Hzは、受信電波の「fc−fs」をダウンコンバートしたものであるので、ベースバンド信号Sb’の「0」Hzと受信電波の「fc−fs」が等しくなる。よって、位相スペクトルにおいてベースバンドDC成分(ベースバンド信号Sb’のDC成分)を測定した場合、これを「fc−fs」の位相∠θ(fc−fs)として求めることが可能となる。
このように、周波数シフトされていないベースバンド信号Sbを所定チャネルで電波送信した場合には、このチャネルにおけるDC成分周波数「fc」のときのDC成分伝搬特性(振幅及び位相の各データ)を得ることができる。また、周波数シフトされたベースバンド信号Sb’を、周波数シフトしないときと同じチャネルで送信した場合には、このチャネルにおけるDC成分周波数「fc−fs」のときのDC成分伝搬特性(振幅及び位相の各データ)を得ることができる。
ここで、図8に示すように、例えばチャネルCH1でベースバンド信号Sbの電波Siが通信された場合には、CH1のDC成分周波数「f1:中心周波数」の伝搬特性H(f1)、すなわちCH1のベースバンド信号SbのDC成分伝搬特性が得られる。伝搬特性H(f1)は、大きさが振幅特性、位相角が位相特性を表す複素数として得られる。伝搬特性H(f1)は、次式(1)により表される。なお、次式では、P(f1)がCH1の振幅データであり、∠θ(f1)が位相データである。
H(f1)=P(f1)∠θ(f1) … (1)
また、周波数シフトされたベースバンド信号Sb’の電波SiをチャネルCH1で送信した場合には、同様にDC成分周波数「f1−fs」の伝搬特性H(f1−fs)を得ることができる。このように、チャネルCH1の電波通信を通じて、DC成分周波数「f1:中心周波数」のときの伝搬特性H(f1)と、DC成分周波数「f1−fs」のときの伝搬特性H(f1−fs)とを得ることができる。
図4に戻り、ステップ103において、測距システム1(第1通信機2及び第2通信機3)は、通信の各チャネルで、順次、伝搬特性を測定する。通信がブルートゥースの場合、複数のチャネル(例えば40チャネル)が存在するので、各チャネルの全てにおいて通信(往復)の伝搬特性が測定される。このため、CH2以降においても、各チャネルにおいて同様に2つの伝搬特性を得ることができる。
ステップ104において、合成部24は、全チャネルの往復の伝搬特性を合成する。本例の場合、合成部24は、各チャネルの伝搬特性を並べたベクトルを作る。本例では、各チャネルの伝搬特性を並べたベクトル、すなわち周波数データH(f)として、[H(f1−fs),H(f1),H(f2−fs),H(f2),…,H(fn−fs),H(fn)]を得る。
ステップ105において、逆フーリエ変換部25は、合成後の伝搬特性(周波数データH(f))を逆フーリエ変換する。本例の場合、ベクトル(周波数データH(f))を入力データとして、これを逆フーリエ変換し、その演算結果を取得する。逆フーリエ変換の演算結果は、時間データy(t)として取得することができる。時間データy(t)は、[y(t1’),y(t1),y(t2’),y(t2),…,y(tn’),y(tn)]で表される。なお、t1’,t1,t2’,t2,…,tn’,tnは、各伝搬特性H(f1−fs),H(f1),H(f2−fs),H(f2),…,H(fn−fs),H(fn)に対応した時間データである。
測距部26は、逆フーリエ変換の演算結果を基に、電波Siの伝搬時間Tx、すなわち第1通信機2及び第2通信機3の距離Lを演算する。具体的には、測距部26は、逆フーリエ変換の演算結果としてパルスを求め、このパルスが発生した時間を距離Lに換算する。なお、マルチパスの影響によって複数のパルスが出現した場合には、例えば最短時間のものを対象パルスとして取得するとよい。
ところで、複素信号の位相スペクトル(位相特性)を用いて測距を行う場合、位相は0〜2πの繰り返しであるため、測距の演算時に求まる距離Lにも繰り返しの性質が存在する。この繰り返しの周期、すなわち測距可能距離dmaxは、位相測定の周波数間隔Δfに依存する。周波数間隔Δfで位相測定した場合、測距可能距離dmaxは、次式(2)により求まる。なお、次式の「c」は光速度である。
dmax=c/Δf … (2)
ここで、本例の場合、パワースペクトルのピーク周波数を規定量fsシフトさせて作成したベースバンド信号Sb’で伝搬特性(位相)を測定した場合、周波数シフトをしないベースバンド信号Sbで伝搬特性(位相)を測定したときに得られるDC成分周波数(本例は「fc」)とは異なる値のDC成分周波数(本例は「fc−fs」)を抽出することが可能となる。このため、仮に同じチャネルで電波送信した場合であっても、複数のDC成分周波数を得ることが可能となるので、伝搬特性を測定するにあたってのDC成分周波数の分解能が向上する。よって、このように伝搬特性をより狭い周波数間隔Δfで測定することが可能となれば、測距可能距離dmaxが隣の周波数との間隔に依存する測距システム1において、測距可能距離dmaxを延ばすことができる。
第1通信機2及び第2通信機3は、電波Siを複数チャネルで送信する。測距部26は、各チャネルで測定された伝搬特性を基に、距離Lを求める。よって、複数チャネルを使用して、距離Lを精度よく求めるのに有利となる。
測距システム1は、DC成分付近の位相θ0を基にDC成分の位相を補間することによってDC成分の伝搬特性を抽出するDC成分抽出部21を備える。DC成分抽出部21は、DC成分周波数ごとにDC成分を抽出する。測距部26は、これらDC成分を基に、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを求める。ところで、周波数スペクトルのDC成分には、送受信する信号をD/A変換又はA/D変換する際に生じ得る誤差が乗らない。よって、距離Lを精度よく求めるのに一層有利となる。
測距システム1は、測定された伝搬特性を合成する合成部24と、合成により得られた伝搬特性を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換部25とを備える。測距部26は、逆フーリエ変換の演算結果から、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを演算する。よって、逆フーリエ変換の演算結果を用いて、距離Lを精度よく求めることができる。
規定量fsは、DC成分周波数の周波数間隔Δfが等間隔となる値に設定されている。このため、伝搬特性を測定する際の周波数間隔Δfをそれぞれ一定間隔に設定することが可能となるので、周波数間隔Δfが最適化される。よって、距離Lを精度よく求めるものに一層有利となる。
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・例えば、任意の周波数を「0」とし、これを逆フーリエ変換時に周波数データH(f)に加えてもよい。例えば、H(f)=[H(f1),H(f2),H(f3),…,H(fn)]を、H(f)=[H(f1),0,H(f2),0,H(f3),0,…,0,H(fn)]として逆フーリエ変換してもよい。こうすることで、逆フーリエ変換後の時間データサンプル数を増やすことができる。前述の例の場合、サンプル数は「n」→「2n−1」となる。
・処理は、全てのチャネルを用いることに限定されず、一部のチャネルのみ使用する態様としてもよい。
・測距は、複数チャネルを使用する方式に限らず、1つのチャネルから求めるものとしてもよい。
・周波数シフトは、1つのチャネルにおいて1パターンに限定されず、複数パターンとしてもよい。例えば、1つのチャネルにおいて周波数シフトを2パターン設け、1つのチャネルで3つのデータ(伝搬特性)を得るようにしてもよい。
・周波数シフトする規定量fsは、種々の値に変更可能である。
・測距は、逆フーリエ変換の演算結果を用いることに限定されない。例えば、測定した伝搬特性(位相)の値自体から距離Lを演算するなど、他の手法に変更可能である。
・周期信号Skは、「0」,「1」が繰り返される信号に限定されない。例えば、「0」,「0」,「1」のデータ群が繰り返される信号など、2値化符号が周期的に繰り返されるものであれば、「0」,「1」の組み合わせは適宜変更できる。
・周期信号Skは、「0」,「1」の周期的な信号に限定されず、例えば「0」のみ、或いは「1」のみの信号でもよい。
・演算の順序は、フーリエ変換、DC成分抽出、乗算の順に限定されない。例えば、フーリエ変換、乗算、DC成分抽出の順序に変更してもよい。
・DC成分の位相θ0は、DC成分の前後の平均をとった値に限定されない。例えば、DC成分前後に限らず位相をいくつか抽出し、それらの値からDC成分の位相θ0を求めてもよい。
・電波の周波数は、種々の周波数が採用できる。
・周期信号Skは、デジタル符号であればよい。また、このデジタル符号は、2値化符号に限定されず、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)等の変調を用いる場合を想定して、他の符号に変更してもよい。
・変調部9は、GFSKに限定されず、単なるFSKなどの他の部材に変更してもよい。
・第1通信機2を車両とし、第2通信機3を電子キーとすることに限定されない。例えば、第1通信機2を無線通信式のパーソナルコンピュータとし、第2通信機3を無線LANルータとしてもよい。
・第2通信機3は、電子キー機能を有する高機能携帯電話でもよい。
・測距システム1は、電波を送受し合って測距を行うシステムに限定されない。例えば、第1通信機2及び第2通信機3の一方から他方のみに電波を送信して測距を行う単方向としてもよい。また、第1通信機2及び第2通信機3で電波を送受し合い、さらにもう一度、第1通信機2及び第2通信機3の一方から他方に電波を送信した上で、伝搬特性を求めて、2者間の測距を行ってもよい。
・測距システム1は、車両用の電子キーの認証を無線で行う電子キーシステムに使用されることに限定されず、種々のシステムや装置に適用してもよい。
・通信方式は、ブルートゥースに限定されず、例えば無線LANやUWB等の他の通信としてもよい。
次に、上記実施形態及び変更例ら把握できる技術的思想について記載する。
(イ)第1通信機及び第2通信機の一方から他方に、複素信号からなるベースバンド信号を周波数変換した電波を送信し、当該電波の伝搬特性を求めて、当該伝搬特性から前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する測距方法であって、ベースバンド信号を周波数変換することで生成される電波を相手側に送信して測距を行うにあたり、測距に用いるベースバンド信号に対し、パワースペクトルのピーク周波数を規定量シフトしたベースバンド信号を作り、当該ベースバンド信号を周波数変換した電波を送信アンテナから送信させるステップと、これらベースバンド信号の電波から求まる伝搬特性を用いて、前記第1通信機及び第2通信機の間の距離を求めるステップとを備えた測距方法。
1…測距システム、2…第1通信機、3…第2通信機、13…送信アンテナ、21…DC成分抽出部、24…合成部、25…逆フーリエ変換部、29…周波数シフト部、Sb,Sb’…ベースバンド信号、L…距離。

Claims (5)

  1. 第1通信機及び第2通信機の一方から他方に、複素信号からなるベースバンド信号を周波数変換した電波を送信し、当該電波の伝搬特性を求めて、当該伝搬特性から前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する測距システムであって、
    ベースバンド信号を周波数変換することで生成される電波を相手側に送信して測距を行うにあたり、あるベースバンド信号に対し、パワースペクトルのピーク周波数を規定量シフトした別のベースバンド信号を作り、当該ベースバンド信号を周波数変換した電波を送信アンテナから送信させる周波数シフト部と、
    これらベースバンド信号の電波から求まる伝搬特性を用いて、前記第1通信機及び第2通信機の間の距離を求める測距部と
    を備えた測距システム。
  2. 前記第1通信機及び前記第2通信機は、前記電波を複数チャネルで送信し、
    前記測距部は、各チャネルで測定された伝搬特性を基に、前記距離を求める
    請求項1に記載の測距システム。
  3. 受信した電波をフーリエ変換することによって求まる周波数スペクトルの伝搬特性において、DC成分付近の位相を基に前記DC成分の位相を補間することにより、DC成分の伝搬特性を抽出するDC成分抽出部を備え、
    前記DC成分抽出部は、周波数スペクトルにおいてベースバンドDC成分に対応する伝搬周波数をDC成分周波数とした場合、当該DC成分周波数ごとにDC成分伝搬特性を抽出し、
    前記測距部は、これらDC成分伝搬特性を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を求める
    請求項1又は2に記載の測距システム。
  4. 測定された複数の伝搬特性を合成する合成部と、
    合成により得られた伝搬特性を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換部とを備え、
    前記測距部は、逆フーリエ変換の演算結果から、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する
    請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の測距システム。
  5. 前記規定量は、周波数スペクトルにおいてベースバンドDC成分に対応する伝搬周波数をDC成分周波数とした場合、当該DC成分周波数の周波数間隔が等間隔となる値に設定されている
    請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の測距システム。
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