以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、変速機コントローラを含む車両の概略構成図である。
車両には、動力源としてエンジン1が備えられている。エンジン1の駆動力は、パワートレイン(PT)を構成するトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、変速機4、ファイナルギヤである第2ギヤ列5、及び、差動装置6を介して、駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には、駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられる。
車両がハイブリッド車である場合には、トルクコンバータ2の代わりに複数のクラッチとモーターが配置される構成もありうる。具体的には、モーターの入出力にクラッチが用いられ、エンジン1とモーター、及び、モーターと第1ギヤ列3との締結と解放とを、それぞれのクラッチを用いて行うシステムである。このようなシステムを備えるハイブリット車において本実施形態を応用することができる。なお、以降においては、ハイブリット車ではなく、トルクコンバータ2を備えエンジン1を動力源とする車両について説明する。
トルクコンバータ2は、LU(LockUp:ロックアップ)クラッチ2aを備える。LUクラッチ2aが締結されると、トルクコンバータ2における滑りがなくなり、トルクコンバータ2の伝達効率が向上する。
トルクコンバータ2と接続されるバリエータ20が、変速機4内に設けられている。バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との間に掛け回されるベルト23とを備える無段変速機構である。プライマリプーリ21は主動側回転要素を構成し、セカンダリプーリ22は従動側回転要素を構成する。
プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とのそれぞれは、固定円錐板と、固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダとを備える。プライマリプーリ21は油圧シリンダとしてプライマリ油圧シリンダ23aを備え、セカンダリプーリ22は油圧シリンダとしてセカンダリ油圧シリンダ23bを備える。
プライマリ油圧シリンダ23aと、セカンダリ油圧シリンダ23bとに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してベルト23とプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。バリエータ20は、トロイダル型の無段変速機構であってもよい。
車両にはさらに、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10がオイル供給によって発生させる油圧を調整して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12とが設けられる。
油圧制御回路11は、複数の流路や複数の油圧制御弁などで構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧供給経路を切り換える。また、油圧制御回路11は、オイルポンプ10によるオイル供給によって発生される油圧から必要な油圧を調整し、調整した油圧を変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速やLUクラッチ2aの締結及び解放などが行われる。
また、変速機コントローラ12は、アクセル開度センサ41、変速機4の入力側回転速度を検出する回転速度センサ42の出力信号、セカンダリプーリ22の回転速度を検出する回転速度センサ43、変速機4の出力側回転速度を検出する回転速度センサ44、車速VSPを検出する車速センサ45、変速機4の油温TMPを検出する油温センサ46、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ47、エンジン1のエンジン回転速度Neを検出する回転速度センサ48、変速機4の変速範囲を拡大するためのオーバドライブ(OD)スイッチ49、プライマリ油圧シリンダ23aの圧力を検出する油圧センサ50、セカンダリ油圧シリンダ23bの油圧を検出する油圧センサ52からの信号を受け付ける。
図2は、バリエータ20の変速を行う油圧回路の一例である。
オイルポンプ10により生成された油圧は、制御弁111にて調圧された後に、制御弁116、117と、低圧用制御弁112に供給される。制御弁116、117は、プライマリ油圧シリンダ23a、及び、セカンダリ油圧シリンダ23bの油圧を調整する。
低圧用制御弁112は、リニアソレノイドバルブ113、114、115に接続されている。リニアソレノイドバルブ113、114、115は、励磁具合に応じて調圧可能に構成されており、調圧後の油圧がそれぞれ制御弁111、116、117に供給される。その結果、変速機コントローラ12は、プライマリ用リニアソレノイドバルブ114、及び、セカンダリ用リニアソレノイドバルブ115のそれぞれを制御することで、プライマリ用制御弁116、及び、セカンダリ用制御弁117の開度を制御して、バリエータ20のプライマリ油圧シリンダ23a、及び、セカンダリ油圧シリンダ23bのそれぞれの油圧を調整することができる。
図3は、変速機コントローラ12の概略構成図である。
変速機コントローラ12は、CPU121と、RAM(Random access memory:ランダムアクセスメモリ)及びROM(Read only memory:リードオンリーメモリ)からなる記憶装置122と、入出力インターフェース123と、これらを相互に接続するバス124とを有する。
入出力インターフェース123には、例えば、アクセルペダルの操作量を表すアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力側回転速度を検出する回転速度センサ42の出力信号、セカンダリプーリ22のセカンダリ回転速度Nsecを検出する回転速度センサ43の出力信号、変速機4の出力側回転速度を検出する回転速度センサ44の出力信号が入力される。
変速機4の入力側回転速度は具体的には、変速機4の入力軸の回転速度、したがってプライマリプーリ21のプライマリ回転速度Npriである。変速機4の出力側回転速度は具体的には、変速機4の出力軸の回転速度である。変速機4の入力側回転速度は、例えばトルクコンバータ2のタービン回転速度など、変速機4との間にギヤ列等を挟んだ位置の回転速度であってもよい。変速機4の出力側回転速度についても同様である。
入出力インターフェース123にはさらに、車速VSPを検出する車速センサ45の出力信号、変速機4の油温TMPを検出する油温センサ46の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ47の出力信号、エンジン1のエンジン回転速度Neを検出する回転速度センサ48の出力信号、変速機4の変速範囲を1よりも小さい変速比に拡大するためのODスイッチ49の出力信号、プライマリ油圧シリンダ23aのプライマリ圧Ppriを検出する油圧センサ50の出力信号、セカンダリ油圧シリンダ23bのセカンダリ圧Psecを検出する油圧センサ52、油圧制御回路11に配置された電流センサ信号やソレノイドバルブの駆動電圧などが入力される。入出力インターフェース123には、エンジン1が備えるエンジンコントローラ51から、エンジントルクTeのトルク信号も入力される。
記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラム、変速制御プログラムで用いる各種マップ等が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入出力インターフェース123を介して入力される各種信号に基づき変速制御信号を生成する。また、CPU121は、生成した変速制御信号を、入出力インターフェース123を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、CPU121の演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
図4は、変速機コントローラ12の変速制御を示すフローチャートである。この処理は、割込み処理を含むこともあるが、所定の間隔でサンプリングされて実行される。この処理においては、S1からS9の処理が順に行われる。
S1では、変速機コントローラ12は、入力信号の読み込み処理を行う。
変速機コントローラ12は、アクセル開度APOや油圧制御回路11の電流センサ値(プライマリ用リニアソレノイド電流値Ipri、セカンダリ用リニアソレノイド電流値Isec)とリニアソレノイド電流駆動電圧VBをアナログ信号として計測する。なお、リニアソレノイド電流駆動電圧VBは、プライマリ用リニアソレノイドバルブ114、及び、セカンダリ用リニアソレノイドバルブ115を駆動させる電圧であり、後述のS8におけるPWM制御におけるDuty指令値の算出に用いられる。
また、例えばホールセンサなどを用いたプライマリ回転速度センサ、セカンダリ回転速度センサ、エンジン回転速度センサ、及び、車速センサ信号に対するインプットキャプチャ機能を用いた周期計測値などから、プライマリ回転速度Npri、セカンダリ回転速度Nsec、エンジン回転速度Ne、及び、車速VSPなどを算出してもよい。
S2では、変速機コントローラ12は、変速比指令値Ratio_comを算出する。
変速比指令値Ratio_comは、予め記憶している変速マップを用いて、車両の運転状態に応じて設定される。車両の運転状態とは、例えば、車速VSPやアクセル開度APOなどがある。
S3では、変速機コントローラ12は、規範応答値Ratio_refを算出する。
変速機コントローラ12は、S2において算出した変速比指令値Ratio_comに対して所望の応答特性を反映させることで、規範応答値Ratio_refを算出する。所望の応答特性の反映は次式で示される。ただし、sはラプラス演算子であり、Trefは規範応答の時定数を示す。
S4では、変速機コントローラ12は、実変速比Ratioを算出する。
変速機コントローラ12は、S1にて算出したプライマリ回転速度Npri及びセカンダリ回転速度Nsecとから、実変速比Ratioを算出する。より詳細には、変速機コントローラ12は、プライマリ回転速度Npriをセカンダリ回転速度Nsecで除することにより、実変速比Ratioを求める。なお、セカンダリ回転速度Nsecで除して求めるため、セカンダリ回転速度Nsecが極めて小さい値である場合には算出結果が極めて大きくなってしまう。そのような場合には、実変速比Ratioには、除算結果ではなく所定値が設定される。
S5では、変速機コントローラ12は、プライマリ推力下限値、及び、セカンダリ推力下限値を算出する。
変速機コントローラ12は、無段変速機に入力されるエンジントルクTeなどのCVT入力トルク(なお、駆動源としてモーターを有する場合には、モータートルクも含まれる)を駆動輪7などの出力端に伝達するために必要でありベルト滑りが発生しない下限値である、プライマリ推力下限値及びセカンダリ推力下限値を算出する。
変速機コントローラ12は、予め、計測したCVT入力トルクを伝達するために必要なプライマリ推力及びセカンダリ推力の特性を、マップデータとして記憶装置122に記憶している。変速機コントローラ12は、このマップデータを参照し、変速比や入力トルクに基づいて、プライマリ推力下限値及びセカンダリ推力下限値を算出する。このようにして、プライマリ推力及びセカンダリ推力の制限条件が求められる。
S6では、変速機コントローラ12は、変速比制御の指令値(プライマリ圧指令値Ppri_com及びセカンダリ圧指令値Psec_com)の算出を行う。
変速機コントローラ12は、S3で求められた変速比の規範応答値Ratio_refとS4で求められた実変速比Ratioとが一致するとともに、S5で算出したプライマリ推力下限値及びセカンダリ推力下限値を上回るように、プライマリ圧指令値Ppri_com及びセカンダリ圧指令値Psec_comを算出する。なお、変速比制御の指令値の算出処理の詳細は、後に図5などを用いて説明する。
S7では、変速機コントローラ12は、油圧制御の電流指令値を算出する。
変速機コントローラ12は、実際のプライマリ圧PpriがS6にて求められたプライマリ圧指令値Ppri_comと一致するように、プライマリ圧用リニアソレノイド電流指令値Ipri_comを算出する。また、同様に、実際のセカンダリ圧PsecがS6にて求められたセカンダリ圧指令値Psec_comと一致するようにセカンダリ圧用リニアソレノイド電流指令値Isec_comを算出する。
例えば、次式に示されるPI制御により、プライマリ圧用リニアソレノイド電流指令値Ipri_com、及び、セカンダリ圧用リニアソレノイド電流指令値Isec_comが算出される。ただし、Kp_prs、及び、Ki_prsは、それぞれ比例ゲイン、及び、積分ゲインであり、フィードバックループの安定性や電流応答性能を考慮して決定される。また、次式では、プライマリ圧用リニアソレノイド電流指令値Ipri_com、及び、セカンダリ圧用リニアソレノイド電流指令値Isec_comの算出に、同じ比例ゲイン及び積分ゲインを用いているが、それぞれにおいて適した値を用いてもよい。なお、sはラプラス演算子である。
S8では、変速機コントローラ12は、電圧指令値を算出する
変速機コントローラ12は、S7で算出されプライマリ圧用リニアソレノイド電流指令値Ipri_comと、S1で検出されたプライマリ用リニアソレノイド電流値Ipriとが一致するように、プライマリ用リニアソレノイドバルブ114に対する電圧指令値であるプライマリ圧用リニアソレノイド電圧指令値Vpri_comを算出する。変速機コントローラ12は、同様に、セカンダリ圧用リニアソレノイド電流指令値Isec_comと、セカンダリ用リニアソレノイド電流値Isecとが一致するように、セカンダリ用リニアソレノイドバルブ115に対する電圧指令値であるセカンダリ圧用リニアソレノイド電圧指令値Vsec_comを算出する。
例えば、プライマリ圧用リニアソレノイド電圧指令値Vpri_com、及び、セカンダリ圧用リニアソレノイド電圧指令値Vsec_comは、下式のようにPI制御により算出できる。ただし、Kp_cur、及び、Ki_curは、それぞれ比例ゲイン、及び、積分ゲインであり、フィードバックループの安定性や電流応答性能を考慮して決定する。また、次式では、プライマリ圧用リニアソレノイド電圧指令値Vpri_com、及び、セカンダリ圧用リニアソレノイド電圧指令値Vsec_comの算出において、同じ比例ゲイン及び積分ゲインを用いているが、それぞれにおいて適した値を用いてもよい。
S9では、変速機コントローラ12は、プライマリ用リニアソレノイドバルブ114、及び、セカンダリ用リニアソレノイドバルブ115に対してPWM信号を出力する。そして、プライマリ用リニアソレノイドバルブ114、及び、セカンダリ用リニアソレノイドバルブ115によって、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecが制御されて、所望の変速比が実現される。
変速機コントローラ12は、S8で算出されたプライマリ圧用リニアソレノイド電圧指令値Vpri_com、及び、セカンダリ圧用リニアソレノイド電圧指令値Vsec_comのそれぞれに基づいて、PWM制御にて用いるプライマリ圧用Duty指令値Duty_pri_com[%]、及び、セカンダリ圧用Duty指令値Duty_sec_com[%]を算出する。具体的には、次式を用いて算出される。
変速機コントローラ12は、これらのDuty指令値に基づいてPWM信号を算出する。なお、Duty指令値に基づくPWM信号の生成は、公知技術を用いており、CPU121が備えるPWM機能を用いて行われてもよい。
変速機コントローラ12は、これらのS1からS9までの処理を所定の間隔で繰り返し行う。以下では、S6に示した変速比制御演算について、図5、図6を用いて詳細に説明する。
図5は、S6の変速比制御の指令値の算出制御の詳細を示すフローチャートである。この処理においては、S61からS66の処理が順に行われる。
なお、図4にて示されたよう、S6の指令値の算出制御の後段におけるS7乃至S9において、S6にて算出された指令値に基づいてプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecが制御される。そのため、本フローチャートにおいて算出される指令値、補償値、補正値などは、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22においてそれぞれの値と対応する指令圧、補償圧、補正圧などに相当することになる。
S61では、変速機コントローラ12は、仮プライマリバランス推力を算出する。なお、プライマリバランス推力は後のS65においても再度求められるため、便宜上、本ステップにて算出されるものを仮プライマリバランス推力と記載し、後のステップにおいて算出されるものをプライマリバランス推力と称するものとする。
具体的には、まず、バランス推力比が算出される。バランス推力比とは、セカンダリ推力に対するプライマリ推力の比であり、バランス推力比が維持されることによりプーリ比を平衡状態に保つことができる。例えば、変速機コントローラ12は、CVT入力トルク、セカンダリ圧及び変速比情報(変速比指令値や実変速比)と、バランス推力比との関係を示すマップを記憶しておく。変速機コントローラ12は、このマップを用いて、CVT入力トルク、セカンダリ圧、及び、変速比情報の入力から、バランス推力比を算出する。
そして、仮プライマリバランス推力が算出される。一般に、プライマリバランス推力は、セカンダリ推力にバランス推力比を乗じることで求められる。このステップにおいては、セカンダリ推力の下限値にバランス推力比が乗じられることで、仮プライマリバランス推力が算出される。
S62では、変速機コントローラ12は、プライマリ推力FB補償値Fpri_com_fbを算出する。なお、プライマリ推力FB補償値Fpri_com_fbは、プライマリ補償圧に相当する。
プライマリ推力FB補償値Fpri_com_fbは、プライマリプーリ21におけるフィードバック補償制御を実現するものであり入力値に対する応答値をフィードバック補償するものである。このプライマリ推力FB補償値Fpri_com_fbによって、プライマリ推力の油圧応答の遅れ成分や、振動成分などが補償される。
具体的には、実変速比が変速比の規範応答と一致するようにプライマリ推力フィードバック(FB)補償値を算出する。例えば、変速比の規範応答値Ratio_refと実変速比Ratioとの差分に対し、下式で示すようなPI制御を施すことにより、プライマリ推力FB補償値Fpri_com_fbが算出される。なお、Kp、及び、Kiは、それぞれ比例ゲイン、及び、積分ゲインであり、フィードバックループの安定性を考慮して決定される。
S63では、変速機コントローラ12は、セカンダリ推力補正値を算出する。
このステップにおいては、プライマリ推力下限値、仮プライマリバランス推力、及び、プライマリ推力FB補償値とから、セカンダリ推力補正値が算出される。なお、この処理の詳細については、後に図6A、6Bを用いて説明する
S64では、変速機コントローラ12は、セカンダリ圧指令値Psec_comを算出する。なお、本ステップは、セカンダリ圧増加ステップに相当する。
具体的には、まず、S5で算出されたセカンダリ推力下限値に、S63で算出されたセカンダリ推力補正値を加算することにより、セカンダリ推力指令値が求められる。
そして、セカンダリ推力指令値に基づいて、さらに、セカンダリプーリ22の機構や受圧面積に応じて発生する推力(遠心推力やバネ機構を有する場合にはバネ力など)が考慮されて、セカンダリ圧指令値Psec_comが算出される。
S65では、変速機コントローラ12は、プライマリバランス推力を再計算する。
ここで、S61においては、セカンダリ推力下限値を用いて仮プライマリバランス推力が算出された。本ステップにおいては、S61と同様に、あらかじめ記憶しているマップを用いて、CVT入力トルク、S64において増圧されたセカンダリ推力指令値、及び、変速比情報の入力から、バランス推力比が求められる。そして、S64において求められたセカンダリ推力指令値にバランス推力比を乗じることにより、プライマリバランス推力が求められる。
また、S64においては、セカンダリ推力補正値が加算されてセカンダリ推力指令値が求められた。そのため、本ステップにおいてこのセカンダリ推力指令値を用いて再算出されるプライマリバランス推力は、S61にて算出される仮プライマリバランス推力と比較すると、セカンダリ推力補正値に相当する圧力だけ増加することになる。
S66では、変速機コントローラ12は、プライマリ圧指令値Ppri_comを算出する。
具体的には、まず、S65で再計算されたプライマリバランス推力に、S62で算出されたプライマリ推力FB補償値Fpri_com_fbを加算して、プライマリ推力指令値を算出する。なお、プライマリ推力指令値は前のS63の処理(詳細には、図6AのS6301)においても求められるため、便宜上、本ステップにて算出されるものをプライマリ推力指令値と記載し、前のS6301において算出されるものを仮プライマリ推力指令値と称するものとする。
そして、プライマリ推力指令値に基づいて、さらに、プライマリプーリ21の機構や受圧面積に応じて発生する推力(遠心推力やバネ機構を有する場合にはバネ力など)が考慮されて、プライマリ圧指令値Ppri_comが算出される。
図6A及び6Bは、S63のセカンダリ推力補正値の算出処理の詳細を示すフローチャートである。
S6301では、変速機コントローラ12は、仮プライマリ推力指令値を算出する。
具体的には、S61で算出された仮プライマリバランス推力にS62で算出されたプライマリ推力FB補償値Fpri_com_fbを加算して、仮プライマリ推力指令値Fpri_com_baseが算出される。
S6302では、変速機コントローラ12は、プライマリ振動補償値Fpri_vibを算出する。仮プライマリ推力指令値から、振動に起因する補償値であるプライマリ振動補償値Fpri_vibだけが抽出される。
具体的には、次式を用いて、仮プライマリ推力指令値Fpri_com_baseからプライマリ振動補償値Fpri_vibを算出する。ここで着目する振動周波数は、パワートレイン(PT)の諸元から決まるPT振動周波数であるため、仮プライマリ推力指令値Fpri_com_baseに対しPT振動周波数を中心周波数ωとして有するバンドパスフィルタ処理を施すことによりプライマリ振動補償値Fpri_vibが算出される。ただし、sはラプラス演算子である。また、PT振動周波数ωは、変速比に応じて変化することが知られているので、バンドパスフィルタ処理における中心周波数は、変速比に応じて決めてもよい。
S6303では、変速機コントローラ12は、プライマリ推力基本値と、プライマリ推力余裕代とを算出する。
具体的には、まず、S6301にて算出された仮プライマリ推力指令値と、S6302にて算出されたプライマリ振動補償値との差分を、プライマリ推力基本値として算出する。そして、プライマリ推力基本値と、S5にて算出されたプライマリ推力下限値との差分を、プライマリ推力余裕代として算出する。
S6304では、変速機コントローラ12は、振動発生の有無を判定する。以下においては、2つの具体的な判定方法について説明する。
第1の判定方法によれば、S6302にて算出されたプライマリ振動補償値の減圧成分に基づいて判断する。なお、プライマリ振動補償値には、発生する振動に応じて経時的に変化しており、正の増圧成分と負の減圧成分とが混在することがある。この判定方法においては、プライマリ振動補償値の負の成分である減圧成分に基づいて、振動の発生を判定する。
詳細には、プライマリ振動補償値の減圧成分が、第1補償閾値よりも大きい場合には、振動補償値により補償される振動が比較的大きいため、振動が発生していると判断する。振動補償値の減圧成分が、第1閾値よりも小さな第2補償閾値を下回る場合には、振動補償値により補償される振動が比較的小さいため、振動は発生していないと判断する。
また、第2の判定方法によれば、S6302にて算出された振動補償値の減圧成分と、S6303にて算出されたプライマリ推力余裕代とを用いて判定する。
詳細には、プライマリ推力余裕代からプライマリ振動補償値の減圧成分を減じた減算結果が、第1余裕閾値以下である場合には、プライマリ推力余裕代に占める振動を抑制するプライマリ振動補償値の比率が高くなるので、振動が発生していると判定する。減算結果が、第1余裕閾値よりも大きな第2余裕閾値を上回る場合には、プライマリ推力余裕代に占めるプライマリ振動補償値の比率が低くなるので、振動が発生していないと判定する。
なお、第1補償閾値、第2補償閾値、第1余裕閾値、及び、第2余裕閾値は、予め実験もしくはシミュレーションにて求められるものとする。
振動が発生したと判断される場合には(S6304:Yes)、セカンダリ推力を補正するためにS6305に進む。
S6305では、変速機コントローラ12は、まず、セカンダリ推力補正中フラグをオンにセットするとともに、セカンダリ推力補正値を算出する。
具体的には、S6302で算出されたプライマリ振動補償値Fpri_vibの減圧成分をS61で算出されたバランス推力比で除することで、セカンダリ推力補正値を算出する。また、あらかじめ実験にて求めた値をROMデータとして記憶し、プライマリ振動補償値だけに応じてセカンダリ推力補正値を算出してもよい。さらに、算出されたセカンダリ補正値は前回算出されたセカンダリ補正値との高い方の値を選択して(セレクトハイ)、プライマリ振動補償値に応じたセカンダリ圧の変化を抑制してもよい。
S6306では、変速機コントローラ12は、セカンダリ推力の補正ゲインを算出する。
このステップにおいては、S6303で算出されたプライマリ推力余裕代と、S6302で算出されたプライマリ振動補償値とから、補正ゲインが設定される。
具体的には、まず、プライマリ推力余裕代からプライマリ振動補償値の減少成分を減算する。そして、この減算結果が第1余裕閾値(または、第1余裕閾値よりも小さな第3余裕閾値でもよい)よりも大きい場合には、補正ゲインには「1」が設定される。この減算結果が第1余裕閾値よりも小さい場合には、減算結果が小さくなり減算結果と第1余裕閾値との差が大きくなるほど、補正ゲインは「1」よりも大きくなるように設定される。
すなわち、プライマリ振動補償値の減少成分が大きくなり、プライマリ推力余裕代に近づくほど、大きなゲインが設定される。プライマリ振動補償値の減少成分がプライマリ推力余裕代に近くなる場合は、換言すれば、プライマリ振動補償圧が加算されたプライマリ圧Ppriは、小さくなり、プライマリ下限圧を下回るおそれが大きくなる。このような場合には、補正値に対して大きなゲインが設定されるので、プライマリ圧Ppriがプライマリ下限圧を下回るおそれを低減することができる。
また、S6303で算出されたプライマリ推力余裕代のみより、補正ゲインが設定されてもよい。具体的には、プライマリ推力余裕代が第4余裕閾値よりも大きい場合には、補正ゲインには“1”が設定される。プライマリ推力余裕代が第4余裕閾値よりも小さい場合には、プライマリ推力余裕代が第4余裕閾値との差が大きくなるほど、補正ゲインは1よりも大きくなるように設定される。なお、第3余裕閾値、及び、第4余裕閾値は、予め実験もしくはシミュレーションにて求められるものとする。また、以上のように算出された補正ゲインは前回算出した補正ゲインとのセレクトハイとしてもよい。
S6307では、変速機コントローラ12は、セカンダリ推力補正値を再算出する。
具体的には、S6305にて算出されたセカンダリ推力補正値に補正ゲインを乗じることで、最終的なセカンダリ推力補正値が算出される。なお、補正ゲインが1よりも大きい場合のみ、さらに推力を増加させる補正を行うことになるので本処理を実行してもよい。そして、補正ゲインが1以下である場合には、本処理を省略する。本処理を終えると、S64の処理へと進む。
一方、S6304において振動が発生していないと判断される場合には(S6304:No)、S6308の処理が次に行われる。
S6308において、変速機コントローラ12は、セカンダリ推力が補正中であるか否かを判断する。具体的には、S6305でセットされるセカンダリ推力補正フラグがオンであるか否かが判断される。セカンダリ推力補正フラグがオンである場合には、セカンダリ推力が補正中であると判断され、S6309へ進む。一方、セカンダリ推力補正フラグがオフである場合には、セカンダリ推力は補正中ではないと判断され、S6311に進む。
S6309では、変速機コントローラ12は、振動発生なしの状態が所定時間経過したか否かが判定される。具体的には、セカンダリ推力補正フラグをオンにセットされた時間を用いて、振動発生なしと判断された時間が所定時間だけ経過したか否かを判定する。
所定時間だけ経過した場合には(S6309:Yes)、さらなるセカンダリ推力の補正は不要と判断して、漸減処理を開始するたに、S6310へ進む。一方、所定時間だけ経過していない場合には(S6309:No)、セカンダリ推力の補正は継続する必要があると判断して、処理を終了する。
S6310では、変速機コントローラ12は、セカンダリ推力補正値の漸減処理を行う。
具体的には、セカンダリ推力補正値の前回値から所定値だけを減じる。これにより、セカンダリ推力補正値を所定の傾きを持ってゼロまで漸減する。さらに、セカンダリ推力補正値がゼロまで漸減された場合には、セカンダリ推力補正フラグをオフにセットする。
S6311では、セカンダリ推力が補正中ではないので、変速機コントローラ12は、セカンダリ推力補正値を初期化する。具体的には、セカンダリ推力補正値をゼロとして、S63の処理を終える。
図7は、本実施形態における車両の状態を示すタイミングチャートである。
このタイミングチャートにおいては、上から順に、図7(a)には変速比が、図7(b)にはプライマリ圧指令値が、図7(c)にはプライマリ振動補償値の減圧成分が、図7(d)にはセカンダリ圧指令値が示されている。
図7(a)においては、変速比が示されている。実線が実際の値を示し、一点破線が変速比指令値を示している。変速比の実値が変速比指令値となるようにプライマリ圧が制御されるとともに、振動が検出される場合にはセカンダリ圧が増圧される。
図7(b)においては、実線でプライマリ圧指令値が示され、一点破線でプライマリ基本圧が示され、二点破線でS5にて算出されるプライマリ推進力の下限値と対応するプライマリ下限圧が示されている。なお、プライマリ基本圧とは、プライマリ圧指令値からプライマリ振動補償圧を減じた値に相当し、S6303にて算出されるプライマリ推力基本値と対応するプライマリ圧に相当する。
図7(c)においては、実線でプライマリ振動補償値の減圧成分が示され、一点破線で図7(b)におけるプライマリ基本圧とプライマリ下限圧との差圧であるプライマリ圧余裕代が示されている。プライマリ圧余裕代は、S6303にて算出されるプライマリ推力余裕代に相当する。なお、この図に示される例においては、S6304における振動発生の検出には、プライマリ振動補償値の減圧成分が使用されるものとする。そして、この振動の検出に用いられる第1補償閾値と第2補償閾値とが、それぞれ、点線と2点破線とで示されている。
図7(d)においては、実線でS64にて算出されるセカンダリ圧指令値が示され、一点鎖線でS5にて算出されるセカンダリ推力の下限値と対応するセカンダリ下限圧が示されている。
ここで、図7(b)に示されるプライマリ圧指令値とプライマリ基本圧との差分は、プライマリ振動補償値に相当する。ここで、S66の説明にて記載したように、プライマリ圧指令値は、プライマリ推力指令値に基づくだけでなく、プライマリプーリ21の機構や受圧面積に応じて発生する推力が考慮されて求められる。そのため、プライマリ圧指令値からプライマリ基本圧を減じて求められる差分は、プライマリ振動補償値に相当するものの、完全にプライマリ振動補償値と一致するものではない。すなわち、図7(b)に示されるプライマリ圧指令値とプライマリ基本圧との差分に対して正負の符号を変えたものが、図7(c)に示される振動補償値の減圧成分と完全に一致はしない。
ここで、以降において、時系列に変速機の動作を説明する。なお、これらのタイミングチャートは、減速中の車両の状態を示すものとする。
まず、時刻t0においては、図7(c)を参照すると、プライマリ振動補償値の減圧成分が第1補償閾値を上回り振動発生が検出される(S6304:Yes)と、図7(d)に示されるように、セカンダリ圧指令値は増加する。これは、セカンダリ推力補正値がセカンダリ推力指令値に加えられ、そのセカンダリ推力指令値を用いてセカンダリ圧指令値が算出される(S64)ためである。
また、図7(b)を参照すると、プライマリ基本圧が一点破線で示されている。このプライマリ基本圧は、プライマリ圧指令値からプライマリ振動補償値を減じたものである。時刻t0におけるプライマリ振動補償値は負の値であるので、プライマリ振動補償値が減じられることにより求められるプライマリ基本圧は、プライマリ圧指令値よりも大きくなる。
そして、図7(b)に示されるように、プライマリ圧指令値にはバランス推力FB補償値に相当する成分が含まれており振動の抑制が図られるので、図7(a)に示すように、変速比の実値における振動が抑制される。
図7(c)に示されるように、時刻t1において、プライマリ振動補償値の減圧成分が第2補償閾値を下回り、時刻t2において、このように下回る状態が所定時間だけ経過すると、図7(d)に示されるように、セカンダリ推力補正値の漸減処理が開始される(S6310)。なお、時刻t0とt1との間において、プライマリ振動補償値の減圧成分は第2補償閾値を下回る区間があるが、その区間が所定時間を越えないので(S6309:No)、漸減処理を開始しない。
ここで、図7(c)を参照すると、全区間にわたり、プライマリ振動補償値の減圧成分は、プライマリ圧余裕代を上回らない。これは、図7(d)に示されるように、振動が検出された時刻t0以降においてはセカンダリ圧指令値が増加していることに起因する。これは、増加したセカンダリ圧指令値をもとにプライマリ圧指令値が算出されるので(S65、S66)、プライマリ圧指令値においては、セカンダリ圧指令値の増加分に応じた分だけの増圧が実質的にされているためである。なお、プライマリ圧余裕代がプライマリ基本圧からプライマリ下限圧を減じて求められていることにより、図7(c)におけるプライマリ振動補償値の減圧成分がプライマリ推力余裕代を上回らないことは、図7(b)におけるプライマリ圧指令値がプライマリ下限圧を下回ることはないことと同義である。
ここで比較例として、従来技術の制御が行われる場合について説明する。なお、この比較例においては、図4及び図5にて示された変速制御が行われるものとしており、S63のセカンダリ推力補正値の算出処理だけが異なるものとする。
図8は、比較例のセカンダリ推力補正値の算出処理を示す図である。
この図に示されるように、S6301にて仮プライマリ推力指令値が算出された後に、S6321において、変速機コントローラ12はプライマリ推力指令値がプライマリ推力下限値を上回るか否かを判定する。そして、プライマリ推力指令値がプライマリ推力下限値を下回る場合には(S6321:Yes)、セカンダリ推力補正値として、プライマリ推力指令値とプライマリ推力下限値との差が算出され、その差をバランス推力比で除する(S6322)。そして、セカンダリ推力補正値が加えられて、セカンダリ推力指令値が求められる(図5のS64)。
図9は、比較例における車両の状態を示すタイミングチャートである。
このタイミングチャートにおいては、上から順に、図9(a)には変速比が、図9(b)にはプライマリ圧指令値が、及び、図9(c)にはセカンダリ圧指令値が示されている。
図9(a)においては、変速比が示されている。実線が実値を示し、破線が変速比指令値を示している。
図9(b)においては、実線でプライマリ圧指令値が示され、一点破線でS5にて算出されるプライマリ下限圧が示されている。なお、本比較例においては、プライマリ推力基本値が算出されないが、説明の便宜上、プライマリ圧指令値から振動補償値を減じたものを、プライマリ基本圧として二点破線で示されている。
図9(c)においては、実線でセカンダリ圧指令値が示され、一点鎖線でS5にて算出されるセカンダリ下限圧が示されている。
時刻t0とt1との間、及び、時刻t2とt3との間において、図9(b)に示されるように、プライマリ圧指令値は下限値を下回りそうになる。このような場合には、セカンダリ推力補正値として、プライマリ推力指令値とプライマリ推力下限値との差分が算出され(S6322)、そして、図9(c)に示されるように、これらの区間においては、セカンダリ圧指令値は、この差分に応じたセカンダリ推力補正値の相当量だけ増圧するように設定される。なお、図9(b)に示されるように、プライマリ圧指令値は、プライマリ下限圧が設定される。
このようにすることで、プライマリ圧指令値とセカンダリ圧指令値との差に振動補償値が反映されることになるので、結果として、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecとの差に振動補償成分が含まれ、振動の抑制を図ることができる。しかしながら、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とは応答特性が異なるので、実際の圧力差が指令値の差に応じた値とならず、図9(a)に示すように、変速比の実値は指令値に追従しなくなるおそれがある。
すなわち、上述の比較例と対比して本願発明の効果を説明すれば、以下のようになる。
無段変速機単体で振動低減を図る技術としては、変速比制御により振動低減を図る方向が知られている。具体的には、発生する振動を抑制するようにプライマリ圧を変化させる。ここで、一般に、低速域では、その後に加速されることが予想されるので、予めプライマリ圧を減圧して無段変速機をダウンシフトしておくことが行われている。また、プライマリプーリにはクラッチが締結されエンジントルクなどが印加されているので、プライマリ圧にはベルトが滑らないような下限値(プライマリ下限圧)が存在する。
そのため、図8及び9にて説明した比較例のように、プライマリ圧が下限圧である状態では、プライマリ圧を低下させて振動低減をすることはできない。そのため、振動低減を実現するようなプライマリ圧とセカンダリ圧との間の推力差を確保するために、セカンダリ圧を増加させることが行われている。しかしながら、このような方法では、プライマリ圧とセカンダリ圧とでは応答速度に差があるので、十分に振動を抑制することができないことがあった。
これに対して、本実施形態によれば、振動を検出するとセカンダリ圧を増加させるとともに、プライマリ基本圧を上昇させる。このようにすることで、プライマリ圧余裕代が大きくなるので、プライマリ補償圧をプライマリ側に加えてもプライマリ下限圧を下回らない。そのため、プライマリ圧がプライマリ下限圧を下回るおそれを低減できるだけでなく、プライマリ圧の変化だけで振動を抑制できるので、プライマリ圧とセカンダリ圧との応答速度の差に起因する振動の抑制効果の悪化を防ぐことができる。
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態の無段変速機の制御方法によれば、S6304(振動判定ステップ)において振動が発生したと判定されると(S6304:Yes)、S6305乃至S6307の処理においてセカンダリ推力補正値(セカンダリ補正圧)が算出され、S64(セカンダリ圧増加ステップ)において、セカンダリ推力下限値に対してセカンダリ推力補正値だけ増加させて、セカンダリ推力指令値を算出する。このようにして、セカンダリ圧が大きくなるように設定される。
ここで、プライマリ圧とセカンダリ圧とはフィードバック制御されており、具体的には、S65においては、セカンダリ推力指令値に基づいてプライマリバランス推力が算出される。そして、S66において、プライマリバランス推力に、プライマリ推力FB補償値が加えられることによりプライマリ推力指令値が求められ、このプライマリ推力指令値からプライマリ圧指令値が算出される。
このようにプライマリ推力指令値は、補正後のセカンダリ推力指令値に基づいて算出されており増圧されているので、プライマリ推力下限値を下回るおそれが少なくなる。したがって、プライマリ圧の制御だけで振動抑制を実現することができるので、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との応答性の差に起因する振動抑制の低減を妨げることができる。
本実施形態の無段変速機の制御方法によれば、S6306においては、プライマリ推力余裕代からプライマリ振動補償値の減少成分を減じた差分が小さくなるほど大きな補正ゲインが設定されるので、S6307にて算出されるセカンダリ推力補正値が大きくなる。そのため、車両状態(CVT入力トルクなど)の変化に伴いプライマリ推力余裕代が減少した場合にも、セカンダリ増圧量を割増しすることができるため、プライマリ推力圧指令値がプライマリ推力下限値を下回る可能性を低減することができる。
本実施形態の無段変速機の制御方法によれば、S6305においては、振動を抑制する振動補償圧(プライマリ振動補償値)が大きくなるほど大きくなるようなセカンダリ推力補正値が設定され、セカンダリ推力補正値だけセカンダリ圧が増圧される。このようにすることで、振動補償圧が大きい、すなわち、発生する振動が大きい場合には、セカンダリ推力補正値が大きくなり、セカンダリ圧が大きくなるように設定される。このような場合には、プライマリ圧も大きくなるため、プライマリ下限値を下回る可能性を低減することができる。
本実施形態の無段変速機の制御方法によれば、S6304における第1の判定方法において、振動補償圧(プライマリ振動補償値)が第1振動閾値を超える場合に、振動が発生したと判断される。これは、振動補償圧は、振動を抑制する補償値であり、例えばプライマリ推力FB補償値に対してバンドパスフィルタ処理を行うことにより算出できるため、この値が大きい場合には振動が発生している可能性が高い。
このようにすることで、振動補償圧の大きさに基づいてセカンダリ圧の増圧要否を判断することになるので、振動低減を要する場合にはプライマリ圧操作量を確実に確保し、本来の振動低減効果を得ることができる。一方で、小さい振動に対しては、不要なセカンダリ圧の増圧処理を行わないので、燃費の悪化を防止できる。
本実施形態の無段変速機の制御方法によれば、S6304における第2の判定方法において、プライマリ余裕圧からプライマリ補償圧を減じた差分が第1余裕閾値を下回る場合に、振動が発生したと判断される。この差分が小さくなることは、プライマリ補償圧がプライマリ余裕圧にて占める割合が高くなる、すなわち、振動が発生した可能性が高くなることを示すことになる。
そして、プライマリ圧下限値とプライマリ圧基本値との差分(プライマリ圧余裕代)に基づいて振動発生を判断することになるため、CVT入力トルクの変化などに応じたプライマリ圧下限値の変化や、車両状態に応じたプライマリ圧基本値の変化が考慮されることになるので、より高い精度で振動の発生を判定することができる。
本実施形態の無段変速機の制御方法によれば、プライマリ圧下限値とプライマリ圧基本値との差分(プライマリ圧余裕代)が小さくなるほど、大きくなるようなセカンダリ推力補正値だけセカンダリ圧が増圧される。このようにすることで、余裕代が小さくなってしまい、プライマリ下限値を下回る可能性を低減することができる。
本実施形態の無段変速機の制御方法によれば、セカンダリ圧を増圧させた後に、S6310においては、振動発生がない状態が所定時間だけ経過すると、セカンダリ推力補正値を漸減させる。このようにすることにより、セカンダリ推力補正値が急激に変化することが抑制されるので、振動発生がなくなった場合においても滑らかな変速を実現することができる。
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。