JP6913930B2 - 扁平上皮癌に対する抗腫瘍剤 - Google Patents

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Description

本発明は、ジンクフィンガーDNA結合蛋白質、転写抑制ドメイン、及び核内移行ドメインを含む人工転写因子(artificial transcription factor:ATF)又は人工転写因子をコードする核酸を有効成分とする、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌に対する抗腫瘍剤に関する。
近年、癌治療において多数の分子標的薬が開発され、臨床上で治療に用いられている。分子標的薬は、癌細胞の持つ特異的な性質を分子レベルで解明することにより開発され、当該分子を標的とする。癌細胞を狙って作用するため、副作用をより少なく抑えつつ、治療効果を高めることが期待されている。例えば、非小細胞肺癌における分子機構解明により、多くの癌遺伝子依存性が明らかとなっている。EGFR遺伝子変異肺癌やEML4-ALK転座型肺癌に対する分子標的薬は、現在では治療に欠かせないものとなっている。2012年には肺腺癌の新たな標的遺伝子として、ROS1、RET融合遺伝子が報告され、標的治療研究が進められている。さらに米国癌ゲノムアトラス研究ネットワーク(The Cancer Genome Atlas Research Network: TCGA)を中心とし、次世代シーケンス法による統合的遺伝子解析が行われ、現在およそ肺腺癌の7割が、何らかのdriver oncogeneを有することが報告された(Nature. 151: 543-50. 2014)。また、同様に肺扁平上皮癌、小細胞癌においても、多種の標的遺伝子が明らかにされてきており、新しい分子標的薬の開発が進んでいる(Nature. 489: 519-525 2012、Nat Genet. 4: 1104-1110. 2012)。
分子標的薬についての開発が進められているものの、実用化は厳しい状況である。たとえ癌の標的遺伝子が明らかになったとしても、有効な分子標的薬の開発に至らない場合も多数ある。また、標的遺伝子の下流のキナーゼ活性の関与が明確でない場合にも、副作用の心配等から、標的治療は難しい。
SOX2(SRY-box2)は、細胞の初期化を誘導する遺伝子の1つとして知られている。SOX2は近年、肺扁平上皮癌、食道癌における系統維持型癌遺伝子であることが明らかとなった転写因子である(非特許文献1)。SOX2遺伝子の発現又は当該遺伝子がコードする蛋白質を阻害することにより、当該癌細胞の増殖抑制及び抗腫瘍活性を誘導することが期待される。従来の分子標的薬はキナーゼ阻害作用に基づくものが多いが、SOX2遺伝子の標的阻害には、キナーゼ阻害剤が無効と考えられ、別の機序に基づく開発が必要である。肺扁平上皮癌等でSOX2が癌細胞の増殖に関与しており、SOX2遺伝子の発現をsiRNAやshRNAで特異的に抑制することにより抗腫瘍効果が発揮されることが報告されている(非特許文献1〜3)。
標的遺伝子の発現を自在にコントロールできるツールとして、人工転写因子が着目されている。人工転写因子は、ジンクフィンガードメイン(特許文献1)を利用することにより、標的とする遺伝子の塩基配列を特異的に認識するものである。非特許文献4及び5には、標的遺伝子のプロモーター領域を特異的に認識できる人工DNA結合蛋白質、転写調節ドメイン、核移行シグナルの3つのドメインから構成される人工転写因子が開示されている。転写調節ドメインとして、転写活性化ドメインあるいは転写抑制ドメインを選択することにより、標的遺伝子発現の活性化あるいは抑制が可能となる。非特許文献6では、SOX2遺伝子プロモーター領域の塩基配列を標的とする、人工転写因子が構築され、当該人工転写因子により、SOX2遺伝子の発現を抑制し、乳癌細胞の増殖が抑制されることが確認されている。しかしながら、扁平上皮癌に対して有効な人工転写因子についての報告はない。
特表2004-519211号公報
Bass AJ, Me yerson M et al. Nat Genet. 41: 1238-42. 2009 深澤拓也,他 日本肺癌学会総会号(ISSN:0386-9628)、Vol.56th、Page.472 (2015.10.05) Hussenet T et al., PLoS One. 2010 Jan 29;5(1):e8960 世良貴史,大和証券ヘルス財団研究業績集 巻:35 ページ:90-92、発行年:2012年3月1日 Sera T., Adv Drug Deliv Rev. 2009 Jul 2: 61(7-8): 513-26 Stolzenbulg S., Nucleic Acids Res. 2012 Aug; 40(14): 6725-40.
本発明は、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌に対して有効な新規抗腫瘍剤を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ジンクフィンガーDNA結合蛋白質、転写抑制ドメイン、及び核内移行ドメインを含む人工転写因子が、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌の細胞周期を停止させ、抗腫瘍効果を示すことに着目し、当該人工転写因子又は当該人工転写因子をコードする核酸を抗腫瘍剤の有効成分とし得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.ジンクフィンガーDNA結合蛋白質、転写抑制ドメイン、及び核内移行ドメインを含む人工転写因子又は前記人工転写因子をコードする核酸を有効成分とする、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌に対する抗腫瘍剤。
2.ジンクフィンガーDNA結合蛋白質が、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される-161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識する、前項1に記載の抗腫瘍剤。
3.前記人工転写因子が、N末端から、転写抑制ドメイン、核内移行ドメイン、ジンクフィンガーDNA結合蛋白質の順番で配置されてなる、前項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
4.ジンクフィンガーDNA結合蛋白質のアミノ酸配列が、以下から選択されるいずれかである、前項1〜3のいずれか1に記載の抗腫瘍剤:
(1)配列番号16に示すアミノ酸配列;
(2)配列番号16で特定されるアミノ酸配列のうち、1個または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は導入されてなるアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される-161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識する蛋白質;
(3)配列番号16で特定されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識する蛋白質。
5.扁平上皮癌が、肺扁平上皮癌又は食道扁平上皮癌である、前項1〜4のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
6.前記人工転写因子がSOX2遺伝子の発現を抑制することにより、CDKN1A遺伝子の発現を促進する作用を有する、前項1〜5のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
7.有効成分が、前記人工転写因子をコードする核酸を含むアデノウイルス又はアデノ随伴ウイルスである、前項1〜6のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
8.ジンクフィンガーDNA結合蛋白質、転写抑制ドメイン、及び核内移行ドメインを含む人工転写因子又は前記人工転写因子をコードする核酸を有効成分とする、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌細胞の細胞周期阻害剤。
9.SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌細胞の細胞周期を、G1期で停止させる作用を有する、前項8に記載の細胞周期阻害剤。
10.扁平上皮癌が、肺扁平上皮癌又は食道扁平上皮癌である、前項8又は9に記載の細胞周期阻害剤。
本発明の抗腫瘍剤によれば、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌特異的に細胞周期を停止させ、抗腫瘍効果を示すことができる。本発明の抗腫瘍剤は、mRNAへの転写後ではなく、プロモーターを標的とし転写そのものを阻害する作用を有することから、shRNA等の転写後阻害因子に比較して、優れた抗腫瘍作用を示す。また本発明の抗腫瘍剤は、SOX2遺伝子を発現していない正常細胞には作用しないことから、副作用の少ない分子標的薬であり、有用である。さらに本発明の細胞周期停止剤は、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌特異的に細胞周期を停止させることができる。
本発明における人工転写因子が標的とするSOX2遺伝子のプロモーター領域の塩基配列を示す図(図1A)、人工転写因子の構造の模式図(図1B)、人工転写因子をコードする発現カセットを含む発現コンストラクトの構造を示す模式図(図1C)、配列番号4を認識する人工転写因子のアミノ酸配列の一例を示す図(図1D)である。(実施例1、実施例2) 本発明の人工転写因子によるSOX2遺伝子プロモーターへの作用を確認した結果を示す図である。(実施例1) 本発明の人工転写因子によるSOX2遺伝子発現抑制作用をイムノブロッティングにより確認した結果を示す図である。(実施例2) 本発明の人工転写因子によるSOX2遺伝子発現抑制作用をリアルタイムRT-PCRを用いて確認した結果(図4A)と、SOX2遺伝子の下流遺伝子CDKN1A遺伝子の発現抑制作用をリアルタイムRT-PCR(図4B)とイムノブロッティング(図4C)を用いて確認した結果を示す図である。(実施例3) 本発明の人工転写因子によるSOX2遺伝子発現癌細胞の細胞周期停止作用を確認した結果を示す図である。(実施例4) 本発明の人工転写因子による、SOX2遺伝子の各種下流遺伝子の発現抑制作用をリアルタイムRT-PCRを用いて確認した結果を示す図である。(実施例5) 本発明の人工転写因子による、SOX2遺伝子発現癌細胞の細胞生存率(図7A)及びコロニー形成(図7B及びC)に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例6) 本発明の人工転写因子が、SOX2遺伝子を発現しない正常細胞では、SOX2遺伝子発現(図8A)及び細胞生存率(図8B)に影響を及ぼさないことを確認した結果を示す図である。(実施例7) 本発明の人工転写因子を導入したSOX2遺伝子発現癌細胞を、マウス生体内に移植した場合の抗腫瘍効果について、腫瘍サイズを計測した結果(図9A)と写真により確認した結果(図9B)を示す図である。(実施例8) SOX2遺伝子の発現を、各種扁平上皮癌細胞についてイムノブロッティングにより確認した結果(図10A)、癌患者由来のがん組織について免疫組織染色により確認した結果の代表例(図10B)を示す図である。また、癌患者由来のがん組織におけるSOX2遺伝子の発現についての結果をまとめた表を示す図(図10C)である。(参考例1)
本発明は、ジンクフィンガーDNA結合蛋白質(Artificial zinc finger Protein:AZP)、転写抑制ドメイン、及び核内移行ドメインを含む人工転写因子又は人工転写因子をコードする核酸を有効成分とする、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌に対する抗腫瘍剤である。本発明における人工転写因子に含まれるAZPは、SOX2遺伝子のプロモーター領域を標的とするよう設計されたものである。
SOX2(SRY-box2)は、哺乳細胞の初期の発生に必須の転写因子であり、細胞の初期化を誘導したり、多能性幹細胞を維持する作用を有するものである。近年、肺扁平上皮癌、食道癌における系統維持型癌遺伝子であることが明らかとなった転写因子である(非特許文献1)。SOX2としては、例えば、Genbank Accession No.:NP_003097.1(配列番号1)が知られている。本明細書において、SOX2はヒトや他の温血動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)由来のものであればよい。具体的には、本明細書におけるSOX2は、以下の蛋白質であることが好ましい。
〔1〕配列番号1に示すアミノ酸配列で特定される蛋白質;
〔2〕配列番号1で特定されるアミノ酸配列のうち、1個または複数個、好ましくは1〜 個程度のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は導入されてなるアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、転写因子として機能する蛋白質;
〔3〕配列番号1で特定されるアミノ酸配列と60%以上(好ましくは80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上)の相同性を有するアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、転写因子として機能する蛋白質。
本明細書においてSOX2遺伝子とは、転写因子であるSOX2をコードする塩基配列を有する遺伝子を表す。SOX2遺伝子は、以下の〔i〕〜〔iii〕のDNAが好ましい。
〔i〕配列番号2(Genbank Accession No.:NG_009080.1)で示される塩基配列を有するDNA。
〔ii〕配列番号2で示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔iii〕上記〔i〕又は〔ii〕のいずれかで特定される塩基配列と60%以上(好ましくは80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上)の相同性を有するDNA。
プロモーター領域は、遺伝子の転写開始に関与する遺伝子の上流部分である。プロモーター領域に、転写促進作用を有する転写因子が結合することにより、遺伝子の転写が開始する。本発明の人工転写因子は、SOX2遺伝子のプロモーター領域に結合することにより、SOX2遺伝子の転写を抑制する。本発明の人工転写因子が結合する標的配列は、SOX2遺伝子のプロモーター領域の一部を選択することができる。具体的には、配列番号2に示す塩基配列のうち、SOX2遺伝子の転写開始点を+1とした場合に、-1990〜+436(配列番号3)の領域より選択することができる。人工転写因子の標的配列は、8〜25bpの長さ、好ましくは15〜20bpの長さ、より好ましくは19bpの長さである。特に好ましくは、人工転写因子の標的配列は、-161〜-143で示される塩基配列(配列番号4)である。-161〜-143で示される塩基配列は、転写開始点に近接した箇所である。また-161〜-143で示される塩基配列は、ヒトゲノムを対象としてBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)により解析を行ったところ、ユニークな塩基配列であることが確認された。かかる塩基配列を特異的に人工転写因子が認識し、特異的に結合した結果として、遺伝子の発現を自在に調節することが可能となる。本発明の人工転写因子において、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される標的配列に基づいて、ジンクフィンガードメインを選択することにより、SOX2遺伝子の発現を調節可能となるようなAZPを設計することが可能である。
SOX2遺伝子の転写開始点を+1とした場合の-1990〜+436の領域の塩基配列(SOX2遺伝子のプロモーター領域:配列番号3)を以下に具体的に示す。また配列番号3中、-161〜-143で示される塩基配列(配列番号4)を下線にて示す。
配列番号3:
acaagccata acttgagaga aaaaggagaa ccttcggggg gcaggaaggt tgattggaaa 60
taacttaagg aaagtctgca gaattctttt ttttacaact tttctgagtt tccagtgggt 120
atatttagtg tgagtttgac agtaacaggc tagggagggc agagattgga gaaattgggg 180
gtcgggggag tgattatggg aagaaggtta gtaaggaaca aaacaatgca ccgttttgta 240
aagataataa atggaacgtg gctggtagat actattcagt acattttctt agggtgagta 300
agggtagacc aggggaggag ggggcggaga gagtgttaca gaagaaagaa aataagtaac 360
cctgatggtt taagcccttt ataaaaaaga aatggcatca ggtttttttt tctttattcc 420
cccccacccc accctttgta gtcaagtgca ttttagccac aaagatccca acaagagagt 480
ggaaggaaac ttagacgagg ctttgtttga ctccgtgtag cgacaacaag agaaacaaaa 540
ctacctattt gtaacggacg tgctgccatt gccctccgca ttgagcgcct acctattgaa 600
atctttacgt cgggacaatg ggagagcggc taaaattacc ctcttgggtc ctgggcgggc 660
aagattcctg agcccctacc cccgccccca tctcatcctc ctctaacccg ggccttgctg 720
ggctccccct tccccagtcc cggccgcctt ctcccagtgt gcgctgcctg cacctgtgcc 780
tggagagcat cgaccccgcc tcccaggcct tgagcccctt tgcggcgcag ccccagcctt 840
gcgcggcctg ggctttgcgg ccaccacaat ggaaatctac ggggaaaatg ccagggctgg 900
ttctgctgga gtcctgggaa ctctgcgtgg gagggagttt gtgactgcgg cccaaaagcc 960
acctccatac agtgccgtgg gatgccagga agttgaaatc accctccccc atcgcctgca 1020
cttttgagcg cccttccgtc tgtgtctttc cccagccccc atttgaaagc cgcacgaccg 1080
aaacccttct tacggggagg catgggatgg gaatggggag tgggggcaga cagtagaagc 1140
atcccctttg ctacggttga atgaagacag tctagtggga gatgtggctg gggctaagag 1200
gaagagctgc agtttcctgg gccaaagagc tgagttggac agggagatgg cagcttacca 1260
aggcctgctg gttctcagct ctagagtctg ccttatggtc cgagcaggat ttatttttaa 1320
gaacagagca agttacgtgg aagcaaggaa ggttttgagg acagaggttt gggtctccta 1380
acttctagtc gggactgtga gaagggcgtg agagagtgtt ggcacctgta aggtaagaga 1440
ggagagcgga agagcgcagt acgggagcgg caccagaggg gctggagttg ggggggagtg 1500
ctgtggatga gcgggagaac aatgacacac caactcctgc actggctgtt tccagaaata 1560
cgagttggac agccgccctg agccacccac tgtgccctgc cccacccccg caccttagct 1620
gcttcccgcg tcccatcctc atttaagtac cctgcaccaa aaagtaaatc aatattaagt 1680
ttaaagaaaa aaaaacccac gtagtcttag tgctgtttac ccacttcctt cgaaaaggcg 1740
tgtggtgtga cctgttgctg cgagagggga tacaaaggtt tctcagtggc tggcaggctg 1800
gctctgggag cctcctcccc ctcctcgcct gccccctcct cccccggcct cccccgcgcg 1860
gccggcggcg cgggaggccc cgcccccttt catgcaaaac ccggcagcga ggctgggctc 1920
gagtggagga gccgccgcgc gctgattggt cgctagaaac ccatttattc cctgacagcc 1980
cccgtcacat ggatggttgt ctattaactt gttcaaaaaa gtatcaggag ttgtcaaggc 2040
agagaagaga gtgtttgcaa aagggggaaa gtagtttgct gcctctttaa gactaggact 2100
gagagaaaga agaggagaga gaaagaaagg gagagaagtt tgagccccag gcttaagcct 2160
ttccaaaaaa taataataac aatcatcggc ggcggcagga tcggccagag gaggagggaa 2220
gcgctttttt tgatcctgat tccagtttgc ctctctcttt ttttccccca aattattctt 2280
cgcctgattt tcctcgcgga gccctgcgct cccgacaccc ccgcccgcct cccctcctcc 2340
tctccccccg cccgcgggcc ccccaaagtc ccggccgggc cgagggtcgg cggccgccgg 2400
cgggccgggc ccgcgcacag cgcccgc 2427
AZPに含まれるジンクフィンガードメインは、認識コード表(Nondegenerate Recognition Code Table)を用いて、特定の塩基配列を認識することができるように設計することができる。本明細書においてジンクフィンガードメインとはジンクフィンガー蛋白質に存在するDNA結合部位を構成するドメインを意味する。ジンクフィンガードメインは、3〜4bpのDNAを特異的に認識することが知られている。AZPは2個、3個、4個、6個、又は10個程度のジンクフィンガードメインを有し、好ましくは6個または10個、より好ましくは6個のジンクフィンガードメインを有する。認識コード表及び特定の塩基配列を認識して特異的に結合するAZPの設計手法については、例えば特許文献1に記載されている。上記特許公報の開示の全てを参照により本明細書の開示に含める。また、Biochemistry, 41, pp.7074-7081, 2002などを参照することもできる。
本発明におけるAZPは、以下から選択される蛋白質であることが好ましい。
(1)配列番号16に示すアミノ酸配列で特定される蛋白質;
(2)配列番号16で特定されるアミノ酸配列のうち、1個または複数個、好ましくは1〜 個程度のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は導入されてなるアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子のプロモーター領域である-161番目〜-143番目を認識する蛋白質;
(3)配列番号16で特定されるアミノ酸配列と60%以上(好ましくは80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上)の相同性を有するアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子のプロモーター領域である-161番目〜-143番目を認識する蛋白質。
本発明におけるAZPをコードする核酸としては、以下のいずれかから選択されるDNAが挙げられる。
(i)上記(1)〜(3)のいずれかの蛋白質をコードするDNA。
(ii)上記(i)で特定されるいずれかのDNAに対して相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(iii)上記(i)及び(ii)で特定されるいずれかのDNAの塩基配列と60%以上(好ましくは80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上)の相同性を有するDNA。
本発明の人工転写因子において、転写抑制ドメインを有することにより、標的となるSOX2遺伝子の発現を抑制することが可能となる。転写抑制ドメインは、遺伝子の転写を抑制する作用を有するものであればよく、特に限定されない。適切な転写抑制ドメインは、KOX1のKruppel Associated Boxドメイン(SKD)、C末端KRABドメイン、Sin3相互作用ドメイン(SID)、ERFリプレッサードメイン(ERD)等が例示される。好ましくは、ヒト遺伝子の転写を抑制することが知られている転写因子KOX1の転写抑制ドメインであるSKDを用いることができる。例えば、配列番号17に示されるアミノ酸配列を有するものである。また本発明における転写抑制ドメインをコードする核酸としては、配列番号17をコードするDNAであればよい。
本発明の人工転写因子において、核内移行ドメインを有することにより、人工転写因子が核内に導入され、標的となるSOX2遺伝子の発現抑制作用を発揮することが可能となる。核内移行ドメイン(核移行シグナル:NLS)は、人工転写因子を核内に導入させる作用を有するものであればよく、特に限定されない。適切なドメインは、シミアンウイルス40(SV40)のラージT抗原や塩基性アミノ酸クラスター(K−K/R−X−K/Rコンセンサス配列)等が例示される。好ましくは、本発明における核内移行ドメインは、SV40由来のラージT抗原が好ましく、例えば、配列番号18に示されるアミノ酸配列を有するものである。また本発明における核内移行ドメインをコードする核酸としては、配列番号18をコードするDNAであればよい。
本発明の人工転写因子は、必要に応じて、転写抑制ドメイン、核内移行ドメイン、AZP以外に、他のドメインやアミノ酸配列を含んでいても良い。例えば細胞透過性ペプチド(Cell penetrating peptide:CPP)を含んでいてもよい。細胞透過性ペプチドとしては、HIV由来TATペプチド、HSV-1 VP22ペプチド、PVRRPRRRRRRK(配列番号5)のアミノ酸配列を有する合成ペプチド、THRLPRRRRRRK(配列番号6)のアミノ酸配列を有する合成ペプチド、R9ペプチド(RRRRRRRRR:配列番号7)、ANTPドメイン等が例示される。また、本発明の人工転写因子において、転写抑制ドメイン、核内移行ドメイン、AZPは、リンカーによって結合することもできる。リンカーは、2〜8個のアミノ酸、好ましくはグリシンおよびセリンを有する。人工転写因子は、検出およびプロセッシングを容易にするためのマーカー、例えばFLAGタグ等を含みうる。
本発明の人工転写因子は、N末端から、転写抑制ドメイン、核内移行ドメイン、AZPの順番で配置されていることが好ましい。各蛋白質は、融合蛋白質であることが好ましいが、各蛋白質間にリンカー等が含まれていてもよい。さらに具体的には、本発明の人工転写因子は、以下から選択される蛋白質であることが好ましい。
(A)配列番号19に示すアミノ酸配列(図1D参照);
(B)配列番号19で特定されるアミノ酸配列のうち、1個または複数個、好ましくは1〜 個程度のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は導入されてなるアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子の転写を抑制する作用を有する蛋白質;
(C)配列番号19で特定されるアミノ酸配列と60%以上(好ましくは80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上)の相同性を有するアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子の転写を抑制する作用を有する蛋白質。
本発明における人工転写因子をコードする核酸としては、以下のいずれかから選択されるDNAが挙げられる。
(a)上記(A)〜(C)のいずれかの蛋白質をコードするDNA。
(b)上記(a)で特定されるいずれかのDNAに対して相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(c)上記(a)及び(b)で特定されるいずれかのDNAの塩基配列と60%以上(好ましくは80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上)の相同性を有するDNA。
なお、本明細書において蛋白質は、2以上のアミノ酸を含む分子であり、ポリペプチドと同義に用いられることもある。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
本明細書において「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。アミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、例えばデフォルトの条件にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、他にも種々のプログラムを用いることができる。
本発明の人工転写因子は、SOX2遺伝子の転写を抑制し、発現を抑制する作用を有するものである。SOX2遺伝子の発現が抑制されるのみならず、SOX2遺伝子の下流遺伝子(CDKN1A遺伝子、BMP2遺伝子、SNAI1遺伝子、VIM遺伝子、GPX2遺伝子、PRKX遺伝子等の少なくとも1つ以上の遺伝子)の発現にも有効に影響を与える。特に、癌細胞においては、SOX2遺伝子が癌の原因遺伝子と考えられており、SOX2遺伝子が発現することにより、下流のCDKN1A遺伝子の発現を抑制し、細胞周期を促進することにより、癌細胞が誘導されると考えられている(Fukazawa, T. et al., Scientific reports 6, 20113 (2016).)。CDKN1Aは細胞周期の阻害因子であり、TP53遺伝子の下流遺伝子としても知られている。本発明の人工転写因子はTP53遺伝子を介した作用機序には影響を与えずに、CDKN1A遺伝子の発現を誘導していると考えられる。本発明の人工転写因子は、人工転写因子がSOX2遺伝子の発現を抑制することにより、CDKN1A遺伝子の発現を促進する作用を有する。
さらに、本発明の人工転写因子は、細胞周期をG1期で効果的に停止させることにより、癌細胞の増殖を抑制することができる。従って本発明は、本発明の人工転写因子を有効成分とする細胞周期阻害剤にも及ぶ。本発明の細胞周期阻害剤は、in vivo及びin vitroのいずれの使用態様も含むものである。
本発明の人工転写因子は、SOX2遺伝子を発現する扁平上皮癌に対して抗腫瘍効果を発揮し、治療に有効に用いることができるものである。すなわち、本発明の人工転写因子は、扁平上皮癌の治療剤又は予防剤として用いることができる。扁平上皮癌としては、SOX2遺伝子を発現しているものであればよく、特に限定されない。例えば、肺癌、食道癌、舌癌、咽頭癌、頭頸部癌、子宮頸部癌、皮膚癌、口腔癌、などが挙げられるが、特に肺癌又は食道癌に有効である。また本発明の人工転写因子は分子標的薬であり、SOX2遺伝子を発現していない正常細胞には副作用を示さないという利点がある。
本発明の人工転写因子は、当該人工転写因子をコードする核酸の形態で、抗腫瘍剤に含まれていてもよい。当該人工転写因子をコードする核酸は、当該核酸を発現し得る態様で発現コンストラクトを構築して用いられることが好ましい。即ち、当該人工転写因子をコードする核酸を、単独あるいは核酸が組み込まれた哺乳動物細胞用の組換えベクターとして投与することができる。
ベクターとしては、例えばプラスミドベクター、その他のnaked DNA、ウイルスベクターが挙げられるが、ウイルスベクターを用いることが好ましい。ウイルスベクターとしては、例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクター、エプスタイン-バーウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、マイナス鎖RNAウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター、パピローマウイルスベクターなどが挙げられる(Soifer, H. et al., 2001, Hum. Gene Ther. 12: 1417-1428; Kay, M. et al., 2001, Nat. Med. 7: 33-40)。これらのウイルスベクターは、当業者の公知の方法により調製することが可能である。ウイルスベクターは、それぞれの種類に応じて、遠心分離等により精製することができる。
好ましいウイルスベクターの1つはアデノウイルスベクターである。本発明において、アデノウイルスベクターは適宜公知のベクターを用いることができ、in vivoまたはin vitroでDNAやRNAなどの核酸配列を種々のタイプの細胞へ導入するビヒクルとしての機能を達成しうるものであれば良い。本発明におけるアデノウイルスベクターは、例えば外来遺伝子発現の向上のため、または抗原性の減弱などのために野生型ウイルスの遺伝子が改変されていてよい。アデノウイルスベクターとして、例えば、ヒトを宿主とする2型、5型、11型、35型の各アデノウイルスベクター、ヒト以外を宿主とするサルアデノウイルスベクター、チンパンジーアデノウイルスベクター、マウスアデノウイルスベクター、イヌアデノウイルスベクター、ヒツジアデノウイルスベクターおよびトリアデノウイルスベクターなどが挙げられる。アデノウイルスベクターは、特定の細胞でのみ増殖するもの、例えば、E1欠損型アデノウイルスベクターや制限増殖型アデノウイルスベクターであってもよい。E1欠損型アデノウイルスベクターは、293細胞(細胞内にE1を有する)でのみ繁殖することができ、制限増殖型アデノウイルスベクターは、例えば特定の癌細胞でのみ増殖することができる。
上記ベクターには適宜プロモーターを搭載することができる。例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターは入手可能な最も強力な転写制御配列の1つであり、CMVプロモーターを含むベクターは臨床の遺伝子治療にも広く用いられている(Foecking, M.K, and Hofstetter H. Gene 1986; 45: 101-105)。また、CMV immediately earlyエンハンサーおよびニワトリβアクチンプロモーターを含むキメラプロモーターであるCAGプロモーター(Niwa, H. et al. (1991) Gene. 108: 193-199)は、強い発現が可能であり好適に用いられる。
本発明のベクターは、適宜公知の方法によって作製することができる。1または複数の制限酵素の認識配列を各々制限酵素で消化し、ベクターに導入する外来遺伝子を、シャトルベクターを介して、またはシャトルベクターを介することなく、インビトロライゲーションにより導入することができる。
本発明のベクター、例えばアデノウイルスベクターは以下の工程を含む製造方法により作製することができる。
1)人工転写因子をコードする遺伝子の非翻訳領域に、適当なプロモーター配列を含む発現コンストラクトを構築する工程;
2)上記1)の発現コンストラクトを含むシャトルベクターを構築する工程;
3)アデノウイルスゲノムを準備する工程;
4)アデノウイルスゲノムを制限酵素で切断し、2)で作製した遺伝子発現シャトルベクターをアデノウイルスゲノムにライゲーションする工程。
本発明の人工転写因子又は当該人工転写因子をコードする核酸を有効成分とする抗腫瘍剤は、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。本発明の抗腫瘍剤は、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。また、本発明の抗腫瘍剤は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内(患部)に局所投与することもできる。さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。具体的には、本発明の薬剤をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。
本発明の人工転写因子又は当該人工転写因子をコードする核酸は、それ自体を投与してもよいし、または本発明の人工転写因子又は当該人工転写因子をコードする核酸を有効西部とする適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明の核酸と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤、吸入剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の有効成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記有効成分を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。気管内投与に用いられる吸入剤は、上記核酸を粉末または溶液として、吸入噴霧剤または担体中に配合し、例えば、定量噴霧式吸入器、ドライパウダー吸入器などの吸入容器を用いて投与することができる。吸入噴射剤としては、当業者に周知のものを使用することができ、例えば1,1,1,2-テトラフルオロエタンなどのフロン系ガス、HFA-227などの代替フロンガス、プロパンWなどの炭化水素系ガスなどがあげられる。担体としては、当業者に周知のものを使用でき、糖類、糖アルコール類、アミノ酸類などがあげられ、例えば乳糖、D-マンニトールなどを用いるとよい。
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤、吸入剤等が挙げられる。本発明の有効成分は、例えば、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mg含有されていることが好ましい。
本発明の有効成分を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、癌の治療・予防のために使用する場合には、本発明の核酸を1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
なお前記した各組成物は、本発明の有効成分との配合により好ましくない相互作用を生じない限り適宜他の有効成分を含有してもよい。
本発明の理解を助けるために以下に実施例及び参考例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は本実施例及び参考例に限定されるものでないことはいうまでもない。
まず、以下の実施例及び参考例にて用いた細胞株及び培養条件について、以下に示す。
〔細胞株〕
ヒト肺扁平上皮癌(human lung squamous cell carcinoma)細胞:H520、H226(American Type Culture Collection(ATCC)(Manassas, VA)から入手)
ヒト肺扁平上皮癌細胞:EBC1, EBC2, SQ5, LK2(木浦勝行博士(岡山大学))より分与)
ヒト肺腺癌(human pulmonary adenocarcinoma)細胞:H358、H441、H460、A549(ATCCから入手)
ヒト食道扁平上皮癌(human esophageal squamous cell carcinoma)細胞:TE1、TE4、TE8、TE10(ATCCから入手)
ヒト包皮線維芽(human foreskin fibroblast)細胞:HFF1(ATCCから入手)
正常ヒト肺線維芽細胞:NHLF(Lonza(Portsmouth, NH)から入手)
ヒト臍帯静脈内皮細胞:HUVEC
〔培養条件〕
H226, H358, H460, H520, TE1, TE4, TE8, TE10は、RPMI 1640培地で増殖させ、H441, A549, HFF1, NHLFは、10%熱不活化ウシ胎児血清を添加した高グルコースDulbecco's modified Eagle培地で増殖させた。
HUVECは、 Low Serum Growth Supplement kit(Thermo Fisher Scientific, Rockford, IL)を添加した、Endothelial Cells Growth Medium(medium 200)を用いて培養した。
EBC1, EBC2, SQ5, LK2は、10%熱不活化ウシ胎児血清を添加したRPMI 1640培地を用いて増殖させた。
全ての細胞株は、5% CO2にて37℃で培養を行った。
(実施例1) プラスミドを用いた人工転写因子の各種扁平上皮癌細胞株への導入
SOX2遺伝子の発現を抑制する人工転写因子(図1D)をコードするDNAを作製し、各種扁平上皮癌細胞株に導入し、人工転写因子の発現量、人工転写因子によるSOX2遺伝子の発現抑制作用を確認した。
(1)人工転写因子の設計
扁平上皮癌の癌遺伝子であるヒトSOX2遺伝子のプロモーター領域を、特異的に認識できるジンクフィンガーDNA結合蛋白質(AZP)、および、転写抑制ドメイン(KOX)、核内移行ドメイン(NLS)を結合した標的抑制型の人工転写因子(ATF)を作製し、ATF/SOX2と命名した(図1B)。
AZPは、ヒトSOX2遺伝子において、転写開始点を+1とし、転写開始点上流のプロモーター領域のうち-161〜-143(5'-TGCCCCCTCCTCCCCCGGC-3')(配列番号4)を認識するものである(図1A)。AZPは、Sera, T. & Uranga, C. Biochemistry 41, 7074-7081 (2002) に記載の認識コード表に従って設計した。AZPをコードするDNAを、転写抑制ドメインとしてのKOX1のKruppel Associated Boxドメイン(SKD)(図1B中のKOX)、核内移行ドメインとしてのSV40のラージT抗原(図1B中のNLS)、及びFLAGエピトープタグを含むpcDNA3.1+(Invitorgen)にクローニングし、ATF/SOX2を発現するベクターpcDNA3.1+ ATF/SOX2を構築した(図1B)。ATF/SOX2のアミノ酸配列を、図1Dに示す。
(2)細胞導入用のプラスミドの作製
まず、SOX2遺伝子のプロモーター領域を、ヒトゲノムDNA(Invitrogen, Life Technologies, Carlsbad, CA)より増幅した。SOX2遺伝子の転写開始点(+1)をEnsembl Human Genome browserにより決定した。SOX2遺伝子のプロモーター領域(-1990〜+436)を、PCRプライマー(5'-tttNhe1GCTAGC-1990acaagccataacttgagagaaaaaggagaaccttc(配列番号8)及び5'-aaaHindIIIaagctt+436gcgggcgctgtgcgcgggcccggcccgccggcggc(配列番号9))を用いてゲノムDNAから増幅させ、 NheI及びHindIIIにより制限酵素処理して、pGL4.23ルシフェラーゼレポーターコンストラクト(Promega(Madison, WI))にサブクローン化し、ルシフェラーゼレポーターコンストラクト(pGL4. SOX2 -1990/+436)を作製した。
(3)プラスミドの細胞への導入
pcDNA3.1+ ATF/SOX2、pGL4. SOX2 -1990/+436による形質転換は、6ウェルプレートで行った。各細胞を形質転換の1日前に 2×105/ウェルで播種した。形質転換をLipofectin 3000(Invitrogen)を用いて、製造者のプロトコルに従って行った。形質転換を行った細胞を、24時間後に回収した。
(4)結果
結果を図2に示す。pcDNA3.1+ ATF/SOX2、pGL4. SOX2 -1990/+436を導入した場合のルシフェラーゼの発光量を、コントロールベクター(SOX2遺伝子のプロモーター領域を含まないpGL4.)を導入した場合の発光量に対する相対値として示した。内部標準として、β‐ガラクトシダーゼ酵素活性を用いた。各実験は少なくとも3回行った。エラーバーは、3つのサンプル間の平均値からの標準偏差(SD)を表す。
肺扁平上皮癌細胞株(EBC2,LK2、H520)あるいは食道扁平上皮癌細胞株(TE1、TE4)にATF/SOX2を導入した場合は、SOX2プロモーター領域の制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子の発現が抑制されることが確認された。
(実施例2)ウイルスベクターを用いた人工転写因子の各種扁平上皮癌細胞株への導入
(1)細胞導入用のアデノウイルスベクターの作製
コントロールとして、SOX2遺伝子に対するshRNA(以下「shSOX2」)を発現するアデノウイルスベクターを作製した。shSOX2(GCTCTTGGCTCCATGGGTT(配列番号10))を、pBAsi mU6 Puro(Takara Bio Inc. Otsu. Japan)にライゲーションし、pBAsi-mU6 shSOX2を構築した。PCRプライマー(5'- GTAACTATAACGGTCATGTGGTATGGCTGATTATGATCGAATCG(配列番号11)及び5'- ATTACCTCTTTCTCCTAAAACGACGGCCAGTGCCAAGC(配列番号12))を用いて、pBAsi-mU6 shSOX2からmU6 shSOX2の発現カセットをサブクローニングした。この発現カセットを、Adeno-X Adenoviral System 3 Universal(Takara Bio Inc.)を用いて、製造者のプロトコルに従って、線状化pAdenoXに直接サブクローン化し、shRNAを発現する組み換えアデノウイルスベクター(Ad-shSOX2)を作製した。
ATF/SOX2を発現する組み換えアデノウイルスベクター(Ad-ATF/SOX2)(図1C)を次のようにして作製した。PCRプライマー(5'- GTAACTATAACGGTCGCGATGTACGGGCCAGATATAC(配列番号13)及び5'- ATTACCTCTTTCTCC CTGGTTCTTTCCGCCTCAGA(配列番号14))を用いて、pcDNA3.1+ ATF/SOX2からATF/SOX2の発現カセットをサブクローニングした。得られた発現カセットを、Adeno-X Adenoviral System 3 Universal(Takara Bio Inc.)を用いて、線状化pAdenoXに直接サブクローン化した。
各ベクターのウイルス価をAdeno-XTM Rapid Titer Kit(Takara Bio Inc.)により測定し、Ad-CMV/GFPを各細胞株に感染させてGFPの発現を分析することにより、最適なMOIを決定した。なお、shRNA、ATF/SOX2のいずれも含まれていないアデノウイルスベクター(Ad-null)をネガティブコントロールとして用いた。
(2)アデノウイルスベクターの細胞への感染
図3及び図4に示す細胞株に、50、100、250のMOIで各種アデノウイルスベクターを感染させた。EBC2は10万個/ウェルの密度にて、TE1は20万個/ウェルの密度にて、TE4は40万個/ウェルの密度にて、TE10は20万個/ウェルの密度にて、6穴プレートに播種し、37℃で一晩培養した。続いて、Ad-null、Ad-shSOX2、Ad-ATF/SOX2のアデノウイルスベクターを50、100、250のMOIで感染させた。感染から48時間後、細胞を回収し解析に用いた。
(3)細胞における各種蛋白質の発現分析
各種蛋白質の発現を、イムノブロッティングにより分析した。まず各種細胞株を、氷冷M-PER溶解バッファー(Thermo Fisher Scientificにて購入)により溶解した。細胞溶解物を遠心分離(4℃、20分間、15,000 rpm)して残渣を除去し、BCA protein assay(Thermo Fisher Scientific)を用いて、蛋白質濃度を測定した。各種細胞株から単離した蛋白質を等量で、SDS-PAGEゲルにアプライして電気泳動を行い、分離した。電気泳動後、蛋白質をHybond PVDFメンブレン(Millipore, Bedford, Massachusetts)に転写し、Supersignal(R) West Pico chemiluminescence protocol(Pierce, Rockford, IL)に沿って、1次抗体と2次抗体でインキュベートした。FLAG(DYKDDDDKエピトープ)タグ特異的な抗体を、Takara Bio, Inc.(Shiga, Japan)より購入して用いた。SOX2特異的抗体、CDKN1A特異的抗体は、Cell Signaling Technology(Beverly, MA)より購入した。TP53特異的抗体、β-アクチン特異的抗体をSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA)より購入した。2次抗体として、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体をJackson Immunoresearch Laboratories(West Grove, PA)より購入した。
(4)細胞における各種遺伝子のmRNA発現分析
各種遺伝子のmRNAの発現をリアルタイムPCRを用いて行った。まずTRIzol(Invitrogen, Life Technologies, Carlsbad, CA)を用いて、細胞からトータルRNAを抽出した。2 μgのトータルRNAを逆転写に用いた。逆転写は、37℃、15分間で、PrimeScript RT reagent Kit(Takara Bio, Inc.)を用いて行った。プローブは、市販のTaqMan Gene Expression Assays(Applied Biosystems, Life Technologies, CA)に含まれるものを用いた。具体的には、SOX2に特異的なプローブ(Hs01053049_s1)、CDKN1Aに特異的なプローブ(Hs00355782_m1)、BMP2に特異的なプローブ(Hs00154192_m1)、SNAI1に特異的なプローブ(Hs00195591_m1)、VIMに特異的なプローブ(Hs00958111_m1)、GPX2に特異的なプローブ(Hs01591589_m1)、PRKXに特異的なプローブ(Hs00746337_s1)及びグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に特異的なプローブ(Hs03929097_g1)である。リアルタイムPCRは、48穴マイクロタイタープレートにて、TaqMan Gene Expression Master Mix(TaqMan One-Step RT-PCR kit)(Applied Biosystems)を用いて行った。リアルタイムPCRは、各サンプルにつき3個行った。PCR産物の蛍光を検出した。増幅プロットについて閾値(Ct値)に達するサイクル数を用いてmRNA発現量の定量を行った。GAPDHは内部標準として用いた。
(5)結果
結果を、図3及び図4に示す。Ad-ATF/SOX2は、MOIに依存してFLAGタグの発現量が増加しており、ATF/SOX2の発現量が増加していることが確認された(図3)。またAd-ATF/SOX2は、肺扁平上皮癌細胞株EBC2、食道扁平上皮癌細胞株TE1、TE4において、内在性SOX2遺伝子の発現を蛋白質レベル(図3)及びmRNAレベル(図4A)で効果的に抑制することが確認された。さらにAd-ATF/SOX2は、CDKN1A(p21)遺伝子の発現をmRNAレベル(図4B)及び蛋白質レベル(図4C)で促進することが確認された。CDKN1A(p21)遺伝子は、細胞周期のG1期での停止を誘導する作用を持つ。またAd-ATF/SOX2導入によるSOX2の発現抑制効果、及びCDKN1Aの発現促進効果は、Ad-shSOX2導入と比較して優れていることがわかった。なおTP53の発現はいずれの株においてもAd-ATF/SOX2導入による影響は見られなかった(図4C)。
(実施例3)人工転写因子による各種扁平上皮癌細胞株の細胞周期への作用の確認
各種細胞株の細胞周期についてフローサイトメトリーにより解析を行った。6穴プレートに、EBC2を1×105個/ウェルの密度で、TE4を4×105個/ウェルの密度で播種した。その後、37℃で一晩培養した。続いて実施例2にて用いたAd-null、Ad-shSOX2、Ad-ATF/SOX2のアデノウイルスベクターを、EBC2には250のMOIで、TE4には50のMOIで感染させた。感染から36時間後、細胞を回収しPBSで一回洗浄した。細胞を、0.1 % Triton X-100と1 mg/ml RNaseを含むPBS中に室温で5分間懸濁し、その後100 μg/mlでpropidium iodide(PI)により染色し、FACS Verse(BD Bioscience, San Jose, CA)を用いて、DNA細胞周期を特定した。DNA細胞周期は、FACSuite Version 1.0.2.2238を用いて特定した。
結果を図5に示す。フローサイトメトリーによる細胞周期解析により、GO/G1期の細胞数の割合の増加が認められた(図5)。従って、Ad-ATF/SOX2導入により細胞周期が阻害されることがわかった。また、Ad-ATF/SOX2導入により、Ad-shSOX2導入と比較して強く細胞周期が阻害されることが確認された。
(実施例4)人工転写因子による各種扁平上皮癌細胞株におけるSOX2遺伝子の下流遺伝子への影響の確認
実施例2と同様にして、Ad-ATF/SOX2を各種細胞株に導入し、SOX2遺伝子の下流遺伝子(BMP2遺伝子、SNAI1遺伝子、VIM遺伝子、GPX2遺伝子、PRKX遺伝子)のmRNA発現に対する影響の確認を、リアルタイムPCRにより行った。
結果を図6に示す。SOX2遺伝子の下流遺伝子の発現も、Ad-ATF/SOX2により影響を受けることが確認された。
(実施例5)人工転写因子による各種扁平上皮癌細胞株への抗腫瘍効果の確認
各種細胞株にAd-ATF/SOX2を導入した場合の細胞の生存率及びコロニー形成能を分析することにより、抗腫瘍効果を確認した。
(1)細胞生存率の確認
EBC2は1×105個/ウェルの密度にて、TE1、TE10は2×105個/ウェルの密度にて、TE4は4×105個/ウェルの密度にて6穴プレートに播種し、37℃で一晩培養した。続いて、Ad-null、Ad-shSOX2、Ad-ATF/SOX2のアデノウイルスベクターを、EBC2には250のMOIで、TE1には1500のMOIで、TE4には50のMOIで、TE10には500のMOIで感染させた。感染から48時間後、細胞を回収し、生存している細胞をTC10自動細胞カウンター(Bio-Rad, Hercules, CA)により評価した。
(2)コロニー形成分析
ウイルス感染の24時間前に、EBC2は1×105個/ウェルの密度にて、TE1は2×105個/ウェルの密度にて、TE4は4×105個/ウェルの密度にて、TE10は2×105個/ウェルの密度にて6穴プレートに播種し、37℃で一晩培養した。続いて、Ad-null、Ad-shSOX2、Ad-ATF/SOX2のアデノウイルスベクターを、EBC2には250のMOIで、TE1には1500のMOIで、TE4には50のMOIで、TE10には500のMOIで、24時間感染させた。EBC2細胞をトリプシン/EDTAでインキュベーションしてディッシュから回収し、細胞数を計測し、6穴プレートに 1×103個/ウェルの密度で3ウェルに播種し、7日間培養を行った。同様にTE1は2×103個/ウェルの密度で3ウェルに播種し、8日間培養を行った。TE4は3×103個/ウェルの密度で3ウェルに播種し、14日間培養を行った。TE10は2×103個/ウェルの密度で3ウェルに播種し、9日間培養を行った。細胞を固定し、Diff-Quik(Sysmex, Kobe, Japan)により染色した。コロニー(少なくとも細胞数が50個である凝集した細胞群)を計数した。コントロール(アデノウイルスベクターを導入していない細胞)の平均値を100%とし、アデノウイルスベクターの処理群のコロニー数を比較し、抗腫瘍作用を確認した。
結果を図7に示す。図7Aは細胞生存率、図7Bはコロニー形成を観察した写真、図7Cは、コロニー形成率を表す。Ad-ATF/SOX2は、各種細胞株の増殖およびコロニー形成能を効果的に阻害し、抗腫瘍作用を示すことが確認された(図7)。Ad-ATF/SOX2の抗腫瘍作用は、Ad-shSOX2によりも優れていた。
(実施例6)人工転写因子をSOX2遺伝子を発現しない細胞に導入した場合の作用の確認
Ad-null、Ad-shSOX2、Ad-ATF/SOX2を導入する細胞として、SOX2遺伝子を発現しない正常細胞を用いた以外は、実施例4と同様にして、各種細胞にアデノウイルスを感染させた。実施例2及び5と同様にして、各細胞株についてのSOX2の蛋白質量、mRNA発現量、CDKN1Aの蛋白質量、細胞生存率を確認した。
結果を図8に示す。図8AはSOX2、CDKN1Aの蛋白質量、図8Bは細胞生存率を表す。SOX2遺伝子を発現しない正常細胞においては、Ad-ATF/SOX2によりSOX2、CDKN1Aの発現は影響を受けなかった。またAd-ATF/SOX2を導入した場合の細胞生存率もアデノウイルスベクターを導入していない場合に比較して有意差を示さないことが確認された。
(実施例7)人工転写因子によるin vivoでの腫瘍細胞増殖への影響の確認
人工転写因子によるin vivoでの腫瘍細胞増殖への影響を確認するために、マウスを用いて実験を行った。本実験のプロトコルは、川崎医科大学の動物実験委員会の承認を得て行った。
まずEBC2を2×106個/ディッシュの密度にて15 cmディッシュに播種し、37℃で一晩培養した。続いて、EBC2にAd-null、Ad-shSOX2、Ad-ATF/SOX2のアデノウイルスベクターを250のMOIで24時間感染させた。EBC2をトリプシン/EDTAでインキュベーションしてディッシュから回収し、細胞数を計測した。6穴プレートに1×103個/ウェルの密度で3ウェルに播種し、7日間培養を行った。細胞を回収して培地に懸濁した。6週齢メスBALB/cヌードマウス(Charles River Laboratories Japan, Kanagawa, Japan)に、アデノウイルスベクターを導入したEBC2(2×106個/100μl)をマウスの背側面に皮下接種(s.c.)して、ヒト肺癌移植マウスを作製した。 EBC2の皮下接種後マウスを観察した。腫瘍径を週2回計測し、腫瘍体積をa×b2×0.5にて算出した。aとbは、計測して得られた最大径及び最少径の値を代入した。
結果を図9に示す。図9Aは腫瘍体積の経時変化を表すグラフであり、図9BはEBC2の皮下接種後31日目のヒト肺癌移植マウスの写真である。腫瘍体積の増加抑制は、Ad-shSOX2処理した細胞株を移植した場合はコントロールのAd-null処理した細胞株を移植した場合に比べて、3割程度であったのに対して、Ad-ATF/SOX2処理した細胞株を移植した場合には腫瘍形成が認められなかった。
(参考例1)各種扁平上皮癌におけるSOX2遺伝子の発現の確認
(1)Ad-ATF/SOX2を導入していない各種癌細胞について、実施例2と同様にしてSOX2の蛋白質の発現をイムノブロッティングにより確認した。
(2)癌患者由来の癌組織について、免疫組織染色を行い、SOX2の組織内での発現を確認した。癌組織切片をキシレン、エタノール、精製水により脱パラフィン化した。target retrieval solution(Dako, Carpinteria, CA, USA)に浸し15分間温浴処理した後、切片を5分間、3%過酸化水素でインキュベートし、内因性のペルオキシダーゼ活性を失活させた。1次抗体として、ヒトSOX2特異的抗体をCell Signaling Technology(Beverly, MA)より入手した。切片を、4℃で一晩、1:100の抗体希釈液でインキュベートし、TBSで洗浄した。スライドを、ストレプトアビジン・ビオチン複合体(Envision System labeled polymer, horseradish peroxidase [HRP], Dako, Carpinteria, CA)で室温で60分間処理した。免疫反応を、3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)基質・色素液(Dako Cytomation Liquid DAB Substrate Chromogen System, Dako)を用いて可視化し 、ヘマトキシリンで染色をした。切片を、エタノール・キシレン中に浸漬し、観察用の標本を作製した。
免疫組織染色のために、肺扁平上皮癌患者から採取した組織を40サンプル、肺腺癌患者から採取した組織を40サンプル、食道扁平上皮癌患者から採取した組織を40サンプルを用いた。組織サンプルは、川崎医科大学付属川崎病院にて診断され、外科手術を受けた患者からインフォームドコンセントを得て、採取したものである。本実験のプロトコルは、川崎医科大学の倫理委員会にて承認を受けた。
結果を図10に示す。図10Aのイムノブロッティングの結果に示すとおり、扁平上皮癌の多くの細胞株でSOX2が発現していることが確認された。図10Bは、免疫組織染色を行った組織サンプルの代表例、図10Cは免疫組織染色の結果をまとめた表である。図10Cに示す通り、肺扁平上皮癌の92.5%、食道扁平上皮癌の87.5%に、SOX2が発現していることが確認された。SOX2遺伝子を標的とする人工転写因子は、多くの扁平上皮癌の治療に適用可能であり、有用であると考えられる。
本発明の抗腫瘍剤は、SOX2遺伝子を発現する扁平上皮癌特異的に抗腫瘍作用を発揮し得る。本発明の抗腫瘍剤は、SOX2遺伝子を発現する扁平上皮癌特異的に細胞周期を阻害するものであり、SOX2遺伝子を発現していない正常細胞には作用しないことから安全性の高いものである。SOX2遺伝子を発現する癌として、肺癌や食道癌が知られている。肺癌は、世界で年間約130万人が死に至り、そのうちの40万人が扁平上皮癌と報告されている。また本邦における肺癌死亡数は、癌死亡の約2割に達している(7万人)(厚生労働省・平成23年人口動態統計)。また食道癌は、日本において増加の一途をたどっており、進行食道癌5年生存率は現在においても40%程度である。扁平上皮癌に対する有効な化学療法および分子標的療法は未だ確立されておらず、早急な治療法開発が望まれる。本発明の抗腫瘍剤による新規標的療法は、手術不能な進行肺癌また食道癌に対する新しい治療法の確立に繋がるものと考えられる。

Claims (8)

  1. ジンクフィンガーDNA結合蛋白質、転写抑制ドメイン、及び核内移行ドメインを含む人工転写因子又は前記人工転写因子をコードする核酸を有効成分として含む、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌に対する抗腫瘍剤であって、
    前記ジンクフィンガーDNA結合蛋白質が、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される-161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識し、及び/又は
    前記ジンクフィンガーDNA結合蛋白質のアミノ酸配列が、以下から選択されるいずれかである、抗腫瘍剤:
    (1)配列番号16に示すアミノ酸配列;
    (2)配列番号16で特定されるアミノ酸配列のうち、1個または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は導入されてなるアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される-161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識する蛋白質;
    (3)配列番号16で特定されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識する蛋白質
  2. 前記人工転写因子が、N末端から、転写抑制ドメイン、核内移行ドメイン、ジンクフィンガーDNA結合蛋白質の順番で配置されてなる、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
  3. 前記扁平上皮癌が、肺扁平上皮癌又は食道扁平上皮癌である、請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
  4. 前記人工転写因子がSOX2遺伝子の発現を抑制することにより、CDKN1A遺伝子の発現を促進する作用を有する、請求項1〜のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
  5. 前記有効成分が、前記人工転写因子をコードする核酸を含むアデノウイルス又はアデノ随伴ウイルスである、請求項1〜のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
  6. ジンクフィンガーDNA結合蛋白質、転写抑制ドメイン、及び核内移行ドメインを含む人工転写因子又は前記人工転写因子をコードする核酸を有効成分として含む、SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌細胞の細胞周期阻害剤であって、
    前記ジンクフィンガーDNA結合蛋白質が、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される-161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識し、及び/又は
    前記ジンクフィンガーDNA結合蛋白質のアミノ酸配列が、以下から選択されるいずれかである、細胞周期阻害剤:
    (1)配列番号16に示すアミノ酸配列;
    (2)配列番号16で特定されるアミノ酸配列のうち、1個または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は導入されてなるアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される-161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識する蛋白質;
    (3)配列番号16で特定されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列で特定される蛋白質であって、SOX2遺伝子のプロモーター領域から選択される161番目〜-143番目の塩基配列(配列番号4)を認識する蛋白質
  7. 前記SOX2遺伝子が発現している扁平上皮癌細胞の細胞周期を、G1期で停止させる作用を有する、請求項に記載の細胞周期阻害剤。
  8. 前記扁平上皮癌が、肺扁平上皮癌又は食道扁平上皮癌である、請求項又はに記載の細胞周期阻害剤。
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