以下に、本発明に係る建屋貫通部のシール構造の実施例について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明に係る建屋貫通部のシール構造を、発電プラントにおけるタービン設備等を収容する建屋に採用したものである。
もちろん、本発明は以下の実施例に限定されず、壁部に貫通孔を形成して配設部材が配設される建屋であって、発電プラントにおける他の建屋に採用しても良く、工場等における種々の建屋に採用しても良い。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各種変更が可能
であることは言うまでもない。
[参考実施例1]
本発明の参考実施例1に係る建屋貫通部のシール構造について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、建屋の一部を構成する壁部1は、第一の空間(図1においては、左方側の空間)S1と第二の空間(図1においては、右方側の空間)S2とを区画するものである。
壁部1には、当該壁部1を軸線O方向(壁部1に対して直交する方向であって、図1においては左右方向)に貫通する貫通孔11が設けられており、この貫通孔11には、軸線O方向に沿って延びる配設部材(本実施例においては、管材)2が挿通されている。つまり、配設部材2は、壁部1の貫通孔11に挿通されることによって第一の空間S1と第二の空間S2とに跨って設けられている。
貫通孔11と配設部材2との間の空間(隙間)Gには、耐火シール材3が設けられている。耐火シール材3は、耐火性を有する材料から成り、貫通孔11と配設部材2との間の空間Gを閉塞するものである。よって、火災が発生した場合には、耐火シール材3によって第一の空間S1と第二の空間S2との間における火炎や煙等の流通が防止されるようになっている。
第一の空間S1は、壁部1に対して火災が発生すると想定される側の空間であり、この第一の空間S1には、火災による火炎(熱)から耐火シール材3を保護するためのシール保護部材4が設けられている。シール保護部材4は、配設部材2における所定の範囲に巻き付けられる断熱材21と、貫通孔11を覆う耐火カバー部材22と、この耐火カバー部材22の中に収納される耐火部材23および熱膨張耐火材24とから概略構成されている。
断熱材21は、断熱性を有する材料から成るシート状のものであり、第一の空間S1内における配設部材2の径方向外側に巻き付けられている。断熱材21は、第一の空間S1において火災が発生した際に火災(火炎)による熱が配設部材2を介して熱膨張耐火材24に伝達されないようにする(伝達され難くする)ためのものであり、貫通孔11および耐火シール材3の近傍から所定の範囲、すなわち、耐火カバー部材22ならびに当該耐火カバー部材22の中に収納されている耐火部材23および熱膨張耐火材24が配置される範囲に設けられている。
なお、断熱材21は、配設部材2に対して軸線O方向(配設部材2の配設方向であって、図1においては左右方向)に摺動可能に巻き付けられており、断熱材21と配設部材2との間に軸線方向Oの所定の力が作用した場合には、断熱材21と配設部材2とは、当該力の作用方向(軸線O方向)に相対的に移動するようになっている。
耐火カバー部材22は、耐火性を有する材料から成り、壁部1(貫通孔11)の側(図1においては、右方側)に開口する凹部(内面)31を有する略錐形状(円錐台形状)のものである。耐火カバー部材22には、壁部1から離れるに従って配設部材2に接近するように軸線Oに対して傾斜された傾斜部(テーパ形状部)32と、この傾斜部32の一方側(壁部1から遠い側であって、図1においては左方側)から軸線Oに対して直交する方向に延びる直交部(円盤形状部)33とが設けられている。
もちろん、本発明におけるカバー部材は、本実施例のように壁部1から離れるに従って配設部材2に接近する傾斜部32を有するもの、すなわち、壁部1から離れる方向に窄む形状から成るものであれば良く、本実施例のように円錐台形状のものに限定されない。本発明におけるカバー部材としては、例えば、角錐台形状、円錐形状または角錐形状のものであっても良い。
耐火カバー部材22の直交部33には、軸線O方向に貫通する挿通孔34が当該直交部33の略中心に位置して設けられており、この挿通孔34には、断熱材21が巻き付けられた配設部材2が挿通されている。
耐火カバー部材22には、連結穴25aを有する第一継手部材25が傾斜部32の径方向外側であって軸線O方向他方側(壁部1に近い側であって、図1においては右方側)に位置して設けられおり、壁部1には、連結穴26aを有する第二継手部材26が第一の空間S1側(図1においては、左方側)に位置して設けられており、第一継手部材25と第二継手部材26とは、それぞれの連結穴25a,26aに挿通されたワイヤ(索条部材)27によって連結されている。
つまり、耐火カバー部材22は、ワイヤ27を介して壁部1と連結されており、壁部1に対して、壁部1に沿う方向(図1においては、上下方向)および壁部1と直交する方向(軸線O方向であって、図1においては左右方向)において移動が許容された状態にある。よって、壁部1と耐火カバー部材22とは、地震等の振動によって相対的に移動することができるようになっている。
耐火部材23は、耐火性を有する材料から成り、耐火カバー部材22の内面31に沿うと共に、壁部1(貫通孔11)の側に開口する凹部41を有する略錐形状(円錐台形状)のものである。つまり、耐火部材23は、耐火カバー部材22の内面(凹部)31を覆うように設けられている。また、耐火部材23には、耐火カバー部材22における挿通孔34と同軸かつ同径の挿通孔42が設けられており、この挿通孔42には、断熱材21が巻き付けられた配設部材2が挿通されている。
熱膨張耐火材24は、耐火性を有すると共に熱膨張率の高い材料から成り、耐火部材23の凹部41を埋めるように設けられている。つまり、熱膨張耐火材24は、耐火部材23の凹部41に沿う略錐形状(円錐台形状)から成る。また、熱膨張耐火材24には、耐火カバー部材22の挿通孔34および耐火部材23の挿通孔42と同軸かつ同径の挿通孔51が設けられており、この挿通孔51には、断熱材21が巻き付けられた配設部材2が挿通されている。
本発明の参考実施例1に係る建屋貫通部のシール構造の作用について、図1、図2Aおよび図2Bを参照して説明する。
まず、第一の空間S1において火災が発生した場合には、貫通孔11と配設部材2との間の空間(隙間)Gは、隙間なく充填された耐火シール材3によって閉塞されているため、火災による火炎や煙等が第一の空間S1から第二の空間S2へ流通することはない(図1参照)。
また、貫通孔11と配設部材2との間の空間(隙間)Gに充填された耐火シール材3は、第一の空間S1において、シール保護部材4によって覆われている。つまり、耐火シール材3は、シール保護部材4によって火災の火炎(熱)から保護された状態にあるので、地震等によって耐火シール材3が劣化した状態に陥った場合においても、シール保護部材4が耐火シール材としての機能を発揮する。よって、建屋貫通部のシール構造における十分な耐火性能を確保することができる。
次に、地震によって建屋が振動し、配設部材2が壁部1に対して軸線O方向一方側(図2Aにおいては、左方側)に移動した場合には、壁部1(耐火シール材3)とシール保護部材4との間に隙間g1が生じる(図2A参照)。
シール保護部材4における熱膨張耐火材24は、隙間g1が生じたことによって火災の火炎(熱)に曝されるため、熱膨張を起こす。熱膨張耐火材24の熱膨張は、隙間g1を閉塞するように壁部1に沿って進行し、耐火シール材3は、熱膨張された熱膨張耐火材24に覆われて火災の火炎(熱)から保護される。よって、耐火シール材3が地震等で劣化した場合においても、熱膨張された熱膨張耐火材24によって、建屋貫通部のシール構造としての十分な耐火性能を確保することができる。
シール保護部材4は、ワイヤ27を介して壁部1と連結されており、壁部1に対する移動が許容された状態にあるので、配設部材2と共に壁部1に対して軸線O方向一方側に移動することができる。よって、地震の振動によって耐火カバー部材22と壁部1との連結部(第一継手部材25、第二継手部材26およびワイヤ27)ならびに配設部材2等が損傷することなく、シール保護部材4および配設部材2は壁部1に対して軸線O方向に移動することができる。
また、シール保護部材4および配設部材2がワイヤ27を介した連結による許容分だけ移動されると、シール保護部材4は、ワイヤ27を介して壁部1に対する移動が制限されているので、シール保護部材4(断熱材21)と配設部材2との間には、軸線O方向の所定の力が作用する。この軸線O方向の所定の力が作用すると、シール保護部材4(断熱材21)と配設部材2とが相対的に移動(摺動)し、配設部材2のみが壁部1に対して軸線O方向に移動することとなる。
よって、配設部材2が大きく変位する場合には、シール保護部材4は、ワイヤ27による許容分だけ移動し、配設部材2は、シール保護部材4に対して更に移動(大きく変位)することができる。つまり、配設部材2が壁部1に対して大きく変位(軸線O方向に移動)したとしても、シール保護部材4はワイヤ27の連結によって許容される移動量のみ移動されるだけであり、壁部1および耐火シール材3とシール保護部材4との間の隙間g1が大きくなることはない。
次に、地震によって建屋が振動し、配設部材2が軸線Oと直交する方向(壁部1に沿う方向であって、図2Bにおいては上下方向)に移動した場合には、壁部1とシール保護部材4との間には隙間は生じない(図2B参照)。ここで、図2Bにおいては、配設部材2およびシール保護部材4が壁部1に対して軸線Oと直交する方向に移動した状態であって、配設部材2の中心軸O1と軸線Oとが距離dを成す状態を示している。
よって、貫通孔11と配設部材2との間の空間(隙間)Gは、隙間なく充填された耐火シール材3によって閉塞されており、更にはシール保護部材4によって覆われているため、火災による火炎や煙等が第一の空間S1から第二の空間S2へ流通することはない。よって、建屋貫通部のシール構造における十分な耐火性能を確保することができる。
シール保護部材4は、ワイヤ27を介して壁部1と連結されており、壁部1に対する移動が許容された状態にあるので、配設部材2と共に壁部1に対して軸線Oと直交する方向に移動することができる。よって、地震の振動によって耐火カバー部材22と壁部1との連結部(第一継手部材25、第二継手部材26およびワイヤ27)ならびに配設部材2等が損傷することなく、シール保護部材4および配設部材2は壁部1に対して軸線Oと直交する方向に移動することができる。
以上に説明したように、本実施例においては、建屋貫通部のシール構造として、建屋の壁部1に形成された貫通孔11に挿通される配設部材2と、前記貫通孔11と前記配設部材2との間の空間Gを閉塞する耐火シール材3と、前記配設部材2と相対的に移動可能な状態で前記壁部1とワイヤ(索条部材)27によって連結され、前記壁部1側に開口する凹部31を有して前記耐火シール材3を覆うように設けられる耐火カバー部材22と、前記耐火カバー部材22の凹部31に設けられ、前記壁部1側に開口する凹部41を有する耐火部材23と、前記耐火部材23の凹部41に設けられる熱膨張耐火材24とを備えている。
この構成によれば、地震等によって配設部材2が大きく変位した場合であっても、壁部1(耐火シール材3)と耐火部材23および熱膨張耐火材24との間に熱膨張耐火材24の熱膨張によって塞ぐことができない程度に大きい隙間が生じることはなく、貫通孔11と配設部材2との間に設けられた耐火シール材3と熱膨張された熱膨張耐火材24によって、建屋貫通部のシール構造としての十分な耐火性能を確保することができる。
[実施例1]
本発明の実施例1に係る建屋貫通部のシール構造の構造について、図3から図7ならびに図9Aおよび図9Bを参照して説明する。
図3に示すように、建屋の一部を構成する壁部101は、第一の空間(図3においては、左方側の空間)S1と第二の空間(図3においては、右方側の空間)S2とを区画するものである。
壁部101には、当該壁部101を軸線O方向(壁部101に対して直交する方向であって、図3においては左右方向)に貫通する貫通孔111が設けられており、この貫通孔111には、軸線O方向に沿って延びる配設部材(本実施例においては、管材)102が挿通されている。つまり、配設部材102は、壁部101の貫通孔111に挿通されることによって第一の空間S1と第二の空間S2とに跨って設けられている。
貫通孔111と配設部材102との間の空間(隙間)Gには、耐火シール材103が設けられている。耐火シール材103は、耐火性を有する材料から成り、貫通孔111と配設部材102との間の空間Gを閉塞するものである。よって、火災が発生した場合には、耐火シール材103によって第一の空間S1と第二の空間S2との間における火炎や煙等の流通が防止されるようになっている。
第一の空間S1は、壁部101に対して火災が発生すると想定される側の空間であり、この第一の空間S1には、火災による火炎(熱)から耐火シール材103を保護するためのシール保護部材104が設けられている。シール保護部材104は、配設部材102における所定の範囲に巻き付けられる断熱材121と、貫通孔111を覆う耐火部材122と、この耐火部材122の中に収納されるカートリッジ123および熱膨張耐火材124とから概略構成されている。
断熱材121は、断熱性を有する材料から成るシート状のものであり、第一の空間S1内における配設部材102の径方向外側に巻き付けられている。断熱材121は、第一の空間S1において火災が発生した際に火災(火炎)による熱が配設部材102を介して熱膨張耐火材124に伝達されないようにする(伝達され難くする)ためのものであり、貫通孔111および耐火シール材103の近傍から所定の範囲、すなわち、耐火部材122ならびに当該耐火部材122の中に収納されているカートリッジ123および熱膨張耐火材124が配置される範囲に設けられている。
耐火部材122は、耐火性を有する材料から成り、壁部101(貫通孔111)の側(図3においては、右方側)に開口する凹部131を有する略柱形状(円柱形状)のものである。耐火部材122には、配設部材102と平行(軸線O方向)に延びる略円筒形状の円筒部132と、円筒部132の一方側(壁部101から遠い側であって、図3においては左方側)から軸線Oに対して直交する方向に延びる略円盤形状の円盤部133とが設けられている。
図3および図5に示すように、耐火部材122の円筒部132には、円盤部133と一体に設けられる第一円筒部(図3および図5においては、下方側部分)132aと、円盤部133および第一円筒部132aと別体に設けられる第二円筒部(図3および図5においては、上方側部分)132bとが設けられている。つまり、耐火部材122は、円盤部(第一耐火部材)133および第一円筒部(第一耐火部材)132aに対して第二円筒部(第二耐火部材)132bが着脱可能に設けられた分割構造から成る。
円筒部132の径方向外側には、第一円筒部132aに対して第二円筒部132bを固定するための固定バンド125が巻き付けられている。なお、後述する熱膨張耐火材124の交換は、固定バンド125を円筒部132の径方向外側から取り外し、第二円筒部132bを第一円筒部132aから離脱させて行われる。
もちろん、本発明における耐火部材は、本実施例のように円柱形状のものに限定されず、例えば、角柱形状、錐形状、錐台形状のものであっても良い。
なお、図9Aおよび図9Bに示すように、耐火部材122における第二円筒部132bを離脱させた状態においては、耐火部材122における第二円筒部132bが装着されていた部分が空所135となるので、当該空所135を利用してカートリッジ123(本実施例においては、十個のカートリッジ123)を耐火部材122の凹部131に対して出し入れ(供給および排出)することができる。
図3に示すように、耐火部材122の円盤部133には、軸線O方向に貫通する挿通孔134が当該円盤部133の略中心に位置して設けられており、この挿通孔134には、断熱材121が巻き付けられた配設部材102が挿通されている。
図3および図5に示すように、カートリッジ123は、扇台形状の袋構造を成し、耐火部材122内すなわち円柱状の凹部131において周方向に複数(本実施例においては、十個)並んで設けられている。つまり、カートリッジ123は、耐火部材122における凹部131内の空間を周方向に分割(区画)するものである。
図3、図5および図6に示すように、カートリッジ123には、耐火部材122の凹部131であって円筒部132の内面に沿って延びる外周面141と、配設部材102に巻き付けられる断熱材121の外面に沿って延びる内周面142と、外周面141と内周面142とを繋いで円盤部133の内面(耐火部材122の凹部131)に沿って延びる底面143と、外周面141と内周面142と底面143とを繋いで耐火部材122(凹部131)内の空間を周方向に区画する側面144,145とが設けられている。
また、カートリッジ123には、熱膨張耐火材124が収納されており、この熱膨張耐火材124の脱落を防止するための返し部(脱落防止構造)146,147が設けられている。返し部146,147は、外周面141および内周面142の一方側端縁部(開口側の端縁部であって、図3においては右方側の端縁部、図6においては紙面手前側の端縁部)から対向して突出するように形成されている。
なお、熱膨張耐火材124の脱落を防止する返し部146,147は、本実施例のように外周面141および内周面142の端縁部に形成されるものに限定されず、熱膨張耐火材124が脱落する方向(図3においては、右方側)に移動する際に抵抗となるものであれば良い。例えば、図4に示すように、返し部146,147を、カートリッジ123における外周面141、内周面142または側面144,145の少なくともいずれか一つにおいて、当該カートリッジ123内に向かって延びるように形成しても良い。
また、図6および図7に示すように、カートリッジ123は、その両側面144,145が外周面141および内周面142よりも軸線O方向(図7においては、左右方向)に短く形成されており、カートリッジ123に収納された熱膨張耐火材124は、周方向(図7においては、上下方向)に隣接して配置されるカートリッジ123に収納された熱膨張耐火材124と接触(密接)するようになっている。
つまり、周方向に隣接して配置されるカートリッジ123に収納された熱膨張耐火材124は、互いに接触(密接)するように設けられており、第一の空間S1における火災によって熱膨張する場合には、周方向に隙間なく熱膨張し、耐火シール材103を確実に保護することができるようになっている。
また、図5に示すように、周方向に並んで設けられる複数(本実施例においては、十個)のカートリッジ123(123a〜123j)のうち一部のカートリッジ123(123b〜123e,123f〜123i)は、ヒンジ151を介して連結されている。ヒンジ151は、外周面141と少なくとも一方の側面144,145との間の角部に設けられており、ヒンジ151を介して連結されたカートリッジ123は、軸方向(軸線O方向)と直交する方向において互い(相対的)に回転可能となっている(図9B参照)。
本実施例においては、図5に示すように、第二円筒部132bの近傍(図5においては、上方側)に位置するカートリッジ123a,123jは、ヒンジ151を介して連結されていないもの(独立した状態のもの)であり、カートリッジ123aを除いて一方側(図5においては、右方側)に位置するカートリッジ123b〜123e、および、カートリッジ123jを除いて他方側(図5においては、左方側)に位置するカートリッジ123f〜123iは、それぞれヒンジ151を介して連結されているものである。
本発明の実施例1に係る建屋貫通部のシール構造の作用について、図3、図8、図9Aおよび図9Bを参照して説明する。
まず、第一の空間S1において火災が発生した場合には、貫通孔111と配設部材102との間の空間(隙間)Gは、隙間なく充填された耐火シール材103によって閉塞されているため、火災による火炎や煙等が第一の空間S1から第二の空間S2へ流通することはない(図3参照)。
また、貫通孔111と配設部材102との間の空間(隙間)Gに充填された耐火シール材103は、第一の空間S1において、シール保護部材104によって覆われている。つまり、耐火シール材103は、シール保護部材104によって火災の火炎(熱)から保護された状態にあるので、地震等によって耐火シール材103が劣化した状態に陥った場合においても、シール保護部材104が耐火シール材としての機能を発揮する。よって、建屋貫通部のシール構造における十分な耐火性能を確保することができる。
次に、地震によって建屋が振動し、配設部材102が壁部101に対して移動した場合には、壁部101(耐火シール材103)とシール保護部材104との間に隙間gが生じる(図8参照)。
シール保護部材104における熱膨張耐火材124は、隙間gが生じたことによって火災の火炎(熱)に曝されるため、熱膨張を起こす。熱膨張耐火材124の熱膨張は、隙間gを閉塞するように壁部101に沿って進行し、耐火シール材103は、熱膨張された熱膨張耐火材124に覆われて火災の火炎(熱)から保護される。よって、耐火シール材103が地震等で劣化した場合においても、熱膨張された熱膨張耐火材124によって、建屋貫通部のシール構造としての十分な耐火性能を確保することができる。
次に、定期点検等において熱膨張耐火材124の交換が必要な場合には、以下に示す交換作業を行う。
まず、固定バンド125を耐火部材122(円筒部132)の径方向外側から取り外し、耐火部材122における第一円筒部132aおよび円盤部133から第二円筒部132bを離脱する(図9A参照)。
次に、第二円筒部132bの離脱によって形成された空所135を利用し、耐火部材122の凹部131に収納されてヒンジ151を介して連結されていない(図9Aにおいては、上方側に位置する)カートリッジ123a,123jを抜き出す。
次に、ヒンジ151を介して連結されている一方(図9Bにおいては、左方側)のカートリッジ123f〜123iを耐火部材122の凹部131内にて周方向一方側へ回転(図9Bにおいては、右回転)する。
この回転によって、ヒンジ151を介して連結されているカートリッジ123f〜123iのうち一方側(図9Bにおいては、上方側)のカートリッジ123iが前述した空所135に位置し、周方向に隣接して配置されたカートリッジ123hに対してヒンジ151回りに回転可能となる。つまり、カートリッジ123iをカートリッジ123hに対してヒンジ151回りに回転(図9Bにおいては、左回転)することにより、当該カートリッジ123iを凹部131内から抜き出すことができる。
前述したカートリッジ123iと同様にして、ヒンジ151を介して連結されている一方のカートリッジ123f〜123iにおける残りのカートリッジ123f,123g,123hを凹部131内にて周方向一方側へ回転し、ヒンジ151を利用して空所135から順に抜き出す。これにより、ヒンジ151を介して連結されている一方のカートリッジ123f〜123iを耐火部材122の凹部131内から取り出すことができる。
次に、ヒンジ151を介して連結されている他方(図9Bにおいては、右方側)のカートリッジ123b〜123eを、前述した一方のカートリッジ123f〜123iと同様にして、凹部131内から抜き出す。なお、他のカートリッジ123a、123f〜123jは既に抜き出されているので、カートリッジ123b〜123eを耐火部材122の凹部131内にて周方向に回転する場合には、一方側または他方側のいずれの方向の回転(図9Bにおいては、右回転または左回転)であっても良い。
そして、耐火部材122の凹部131内から抜き出したカートリッジ123a〜123jの中に収納された熱膨張耐火材124を取り出し、当該カートリッジ123a〜123jの中に新たな熱膨張耐火材124を収納(充填)する。
次に、カートリッジ123a〜123jを凹部131内から抜き出した手順の逆の手順によって、カートリッジ123a〜123jを耐火部材122の凹部131内に収納する。
つまり、第二円筒部132bの離脱によって形成された空所135から、ヒンジ151を介して連結されている他方のカートリッジ123b〜123eおよび一方のカートリッジ123f〜123iをヒンジ151による回転を利用して耐火部材122の凹部131内に順に収納し、最後にヒンジ151を介して連結されていない(独立した)カートリッジ123a,123jを耐火部材122の凹部131内に収納する。そして、第二円筒部132bを第一円筒部132aおよび円盤部133に装着し、耐火部材122の径方向外側に固定バンド125を取り付ける。
以上の手順により、耐火部材122内における熱膨張耐火材124の交換作業は完了する。
以上に説明したように、本実施例においては、建屋貫通部のシール構造として、建屋の壁部101に形成された貫通孔111に挿通される配設部材102と、前記貫通孔111と前記配設部材102との間の空間Gを閉塞する耐火シール材103と、前記壁部101側に開口する凹部131を有して前記耐火シール材103を覆うように設けられる耐火部材122と、前記凹部131に設けられて熱によって膨張する熱膨張耐火材124とを備え、前記耐火部材122が、第一円筒部(第一耐火部材)132aと第二円筒部(第二耐火部材)132bとを備えた分割構造であり、前記第一円筒部(第一耐火部材)132aに対して前記第二円筒部(第二耐火部材)132bを離脱した状態で前記熱膨張耐火材124を前記凹部131に供給可能な空所135を有する。
この構成によれば、耐火部材122の全部を配設部材102から取り外すことなく、熱膨張耐火材124の交換を行うことができるので、交換作業に掛かる時間を短縮することができる。
なお、カートリッジ123a〜123jを耐火部材122の凹部131に収納する際に、カートリッジ123の径方向内側および径方向外側に図示しないシム(薄板状部材)を挿入することにより、カートリッジ123と耐火部材122および断熱材21との引っ掛かりを防止し、カートリッジ123を耐火部材122の凹部131にて円滑に移動(回転)することができる。つまり、図示しないシムを用いることによって、熱膨張耐火材24の交換作業に掛かる時間をより短縮することができる。
[参考実施例2]
本発明の参考実施例2に係る建屋貫通部のシール構造の構造について、図10を参照して説明する。
図10に示すように、建屋の一部を構成する壁部201は、第一の空間(図10においては、下方側の空間)S1と第二の空間(図10においては、上方側の空間)S2とを区画するものである。
壁部201には、当該壁部201を軸線O方向(壁部201に対して直交する方向であって、図10においては上下方向)に貫通する貫通孔211が設けられており、この貫通孔211には、軸線O方向に沿って延びる配設部材(本実施例においては、管材)202が挿通されている。つまり、配設部材202は、壁部201の貫通孔211に挿通されることによって第一の空間S1と第二の空間S2とに跨って設けられている。
貫通孔211と配設部材202との間の空間(隙間)Gには、耐火シール材203が設けられている。耐火シール材203は、耐火性を有する材料から成り、貫通孔211と配設部材202との間の空間Gを閉塞するものである。よって、火災が発生した場合には、耐火シール材203によって第一の空間S1と第二の空間S2との間における火炎や煙等の流通が防止されるようになっている。
第一の空間S1は、壁部201に対して火災が発生すると想定される側の空間であり、この第一の空間S1には、火災による火炎(熱)から耐火シール材203を保護するためのシール保護部材204が設けられている。シール保護部材204は、配設部材202における所定の範囲に巻き付けられる断熱材221と、貫通孔211を覆う耐火部材222と、この耐火部材222の中に収納されるフレーム部材223および熱膨張耐火材224,225とから概略構成されている。
断熱材221は、断熱性を有する材料から成るシート状のものであり、第一の空間S1内における配設部材202の径方向外側に巻き付けられている。断熱材221は、第一の空間S1において火災が発生した際に火災(火炎)による熱が配設部材202を介して熱膨張耐火材224,225に伝達されないようにする(伝達され難くする)ためのものであり、貫通孔211および耐火シール材203の近傍から所定の範囲、すなわち、耐火部材222ならびに当該耐火部材222の中に収納されているフレーム部材223および熱膨張耐火材224,225が配置される範囲に設けられている。
耐火部材222は、耐火性を有する材料から成り、壁部201(貫通孔211)の側(図10においては、上方側)に開口する凹部231を有する略柱形状(円柱形状)のものである。耐火部材222には、配設部材202と平行(軸線O方向)に延びる略円筒形状の円筒部232と、円筒部232の一方側(壁部201から遠い側であって、図10においては下方側)から軸線Oに対して直交する方向に延びる略円盤形状の円盤部233とが設けられている。
もちろん、本発明における耐火部材は、本実施例のように円柱形状のものに限定されず、例えば、角柱形状、錐形状、錐台形状のものであっても良い。
耐火部材222の円盤部233には、軸線O方向に貫通する挿通孔234が当該円盤部233の略中心に位置して設けられており、この挿通孔234には、断熱材221が巻き付けられた配設部材202が挿通されている。
フレーム部材223は、壁部201(貫通孔211)の側(図10においては、上方側)に開口する二つの凹部241,242を有する円柱形状のものである。フレーム部材223には、耐火部材222の凹部231であって円筒部232の内面に沿って延びる環状の外側リング部243と、外側リング部243と同心状であって径を異にする(外側リング部243よりも径の小さい)環状の中間リング部244と、外側リング部243および中間リング部244と同心状であって径を異にする(外側リング部243および中間リング部244よりも径の小さい)環状の内側リング部245と、これら外側リング部243と中間リング部244と内側リング部245とを一方側(図10においては、下方側)で接続する円盤状の接続部246とが設けられている。
つまり、フレーム部材223は、外側リング部243と中間リング部244と接続部246とによって形成される環状の第一凹部(環状凹部)241と、中間リング部244と内側リング部245と接続部246とによって形成される環状の第二凹部(環状凹部)242とを有するものである。ここで、第一凹部241と第二凹部242とは、同心状であって径を異にする環状溝であり、第一凹部241は第二凹部242よりも大きい径の環状溝である。
つまり、第一凹部241および第二凹部242は、フレーム部材223において径方向に二段で設けられた環状溝であり、第一凹部241は径方向外側に位置する環状溝であり、第二凹部242は径方向内側に位置する環状溝である。
これら第一凹部241および第二凹部242には、膨張率を異にする熱膨張耐火材224,225が収納(充填)されている。第一凹部241に収納されている第一熱膨張耐火材224は、第二凹部242に収納されている第二熱膨張耐火材225と比較して、固まり易い(流動的でない)ものであり、第二熱膨張耐火材225は、第一熱膨張耐火材224と比較して、膨張率の高いものである。
また、第一凹部241における底部(接続部246側の部分)には、断熱材226が設けられており、この断熱材226によって、火災(火炎)による熱が接続部246側から第一熱膨張耐火材224に伝達されないように(伝達され難く)なっている。
また、第二凹部242における底部(接続部246側の部分)と外周部(中間リング部244側の部分)と内周部(内側リング部245側の部分)には、断熱材226が設けられており、この断熱材226によって、火災(火炎)による熱が接続部246側、中間リング部244側および内側リング部245側から第二熱膨張耐火材225に伝達されないように(伝達され難く)なっている。
また、外側リング部243は、中間リング部244および内側リング部245と比較して軸線O方向に短く形成されている。そして、第一凹部241に収納された第一熱膨張耐火材224の表面224aは、径方向外側に向けて傾斜しており、火災による火炎(熱)の影響を受け易い状態にある。一方、第二凹部242に収納された第二熱膨張耐火材225の表面225aは、壁部201側に向いて耐火シール材203と接触し、火災による火炎(熱)の影響を受け難い状態にある。
本発明の参考実施例2に係る建屋貫通部のシール構造の作用について、図10、図11Aおよび図11Bを参照して説明する。
まず、第一の空間S1において火災が発生した場合には、貫通孔211と配設部材202との間の空間(隙間)Gは、隙間なく充填された耐火シール材203によって閉塞されているため、火災による火炎や煙等が第一の空間S1から第二の空間S2へ流通することはない(図10参照)。
また、貫通孔211と配設部材202との間の空間(隙間)Gに充填された耐火シール材203は、第一の空間S1において、シール保護部材204によって覆われている。つまり、耐火シール材203は、火災の火炎(熱)から保護された状態にあるので、地震等によって耐火シール材203が劣化した状態に陥った場合においても、シール保護部材204が耐火シール材としての機能を発揮する。よって、建屋貫通部のシール構造における十分な耐火性能を確保することができる。
次に、地震によって建屋が振動し、配設部材202が壁部201に対して移動した場合には、壁部201(耐火シール材203)とシール保護部材204との間に隙間g1が生じる(図11A参照)。
このとき、第一熱膨張耐火材224は、耐火部材222内において径方向外側に位置すると共に、その表面224aが径方向外側に向けて傾斜しているので、隙間g1が生じたことによる火災の火炎(熱)に影響を受け易い。
一方、第二熱膨張耐火材225は、耐火部材222内において径方向内側に位置すると
共に、断熱材226によって保護された状態にあるので、隙間g1が生じたことによる火災の火炎(熱)に影響を受け難い。また、第二熱膨張耐火材225は、その表面225aが壁部201側に向いているので、隙間g1が生じたことによる火災の火炎(熱)に影響を受け難い。
よって、壁部201(耐火シール材203)とシール保護部材204との間に隙間g1が生じた場合には、まず、第一熱膨張耐火材224が火災の火炎(熱)によって熱膨張を起こすこととなる。
第一熱膨張耐火材224の熱膨張は、隙間g1を閉塞するように壁部201に沿って進行し、耐火シール材203は、熱膨張された第一熱膨張耐火材224に覆われて火災の火炎(熱)から保護される。よって、耐火シール材203が地震等で劣化した場合においても、熱膨張された第一熱膨張耐火材224によって、建屋貫通部のシール構造としての十分な耐火性能を確保することができる。
このとき、熱膨張された第一熱膨張耐火材224によって、耐火シール材203と共に、第二熱膨張耐火材225が火災の火炎(熱)から保護される。よって、第二熱膨張耐火材225が第一熱膨張耐火材224と共に熱膨張してしまうことはない。
そして、第一熱膨張耐火材224が熱膨張した後に、余震等によって劣化してしまうと、熱膨張した第一熱膨張耐火材224と壁部201との間に、新たな隙間g2が生じる(図11B参照)。
シール保護部材204における第二熱膨張耐火材225は、隙間g2が生じたことによって火災の火炎(熱)に曝されるため、熱膨張を起こす。第二熱膨張耐火材225の熱膨張は、隙間g2を閉塞するように壁部201に沿って進行し、耐火シール材203は、熱膨張された第二熱膨張耐火材225に覆われて火災の火炎(熱)から保護される。よって、第一熱膨張耐火材224が余震等で劣化した場合においても、熱膨張された第二熱膨張耐火材225によって、建屋貫通部のシール構造としての更に十分な耐火性能を確保することができる。
以上に説明したように、本実施例においては、建屋貫通部のシール構造として、建屋の壁部201に形成された貫通孔211に挿通される配設部材202と、前記貫通孔211と前記配設部材202との間の空間Gを閉塞する耐火シール材203と、前記壁部201側に開口する凹部231を有して前記耐火シール材203を覆うように設けられる耐火部材222と、前記凹部231に設けられて熱によって膨張する熱膨張耐火材224,225とを備え、前記熱膨張耐火材224,225が、前記凹部231において前記配設部材202を中心として径方向に二段(複数段)に設けられる。
この構成によれば、第一熱膨張耐火材224と第二熱膨張耐火材225とを段階的に熱膨張させることにより、建屋貫通部のシール構造としての耐火性能を十分に確保することができる。
なお、本実施例においては、耐火部材222の中に第一熱膨張耐火材224および第二熱膨張耐火材225を収納し、地震によって建屋が振動して隙間g1が生じた際に第一熱膨張耐火材224が熱膨張するようにしているが、第一の空間S1において火災が発生した際に、第一熱膨張耐火材224を積極的に熱膨張するようにしても良い。
例えば、図12に示すように、壁部201と耐火部材222(円筒部232)との間に隙間dを設けることにより、第一の空間S1において火災が発生した際に、第一熱膨張耐火材224が熱膨張する。このように第一熱膨張耐火材224を積極的に熱膨張させることにより、火災時における建屋貫通部のシール構造としての耐火性能を向上させることができる。
また、壁部201と耐火部材222(円筒部232)との間の隙間dを小さくまたは大きくすることにより、火災の火炎(熱)による第一熱膨張耐火材224の熱膨張への影響、すなわち、第一熱膨張耐火材224が熱膨張を起こすタイミングを制御することができる。