JP6895177B2 - 貴金属回収方法および貴金属回収剤 - Google Patents

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Description

本発明は貴金属回収方法および貴金属回収剤に関する。
貴金属の安定供給のためにはリサイクルが必須である。例えば、自動車排気ガス浄化用触媒には種々の貴金属(特に白金、パラジウム及びロジウム)が用いられており、リサイクルの際は、これら種々の貴金属を高効率で回収する技術が必要となる。
貴金属のなかでもロジウムは錯体形成反応が遅く、抽出や吸着が困難であることが知られている。アンモニウム型イオン交換樹脂等を用いた場合、イオン対抽出が困難であり、イオン交換吸着率が低いことが問題となる(特許文献1)。また、複数のアミノ基を有するポリアミン型キレート樹脂によってロジウムを回収することも考えられるが、キレート樹脂は高価であることから経済性が悪い(特許文献2)。
或いは、ロジウムを回収する技術として、溶媒抽出法による技術も知られている(特許文献3、4)。すなわち、ロジウムイオンを含む水相に抽出剤を溶解させた有機溶媒(或いは、抽出能を有する有機溶媒)を接触させることで、水相から有機相へとロジウムイオンを抽出する方法である。このような方法では、溶媒や抽出剤が多量に必要となるため、コストがかかるほか、効率が悪いという問題がある。
ロジウムは極めて希少で最も高価な貴金属の一つであり、産出地が偏在しているため、安定供給のためにはリサイクルが必須である。上記した自動車排気ガス浄化用触媒のリサイクルの際は、白金やパラジウムを含む溶液からロジウムを選択的に回収する技術が必要となる。
一般に貴金属の回収には電解析出法やセメンテーション法、イオン交換法、溶媒抽出法などの方法が用いられる。これらの方法の中で経済性や操作性に優れた溶媒抽出法が広く用いられている。例えば、ジアルキルスルフィドを用いた溶媒抽出法により複数の貴金属を含む溶液からパラジウムを選択的に回収する方法が知られている(特許文献5)。しかしながら、ロジウムは効率的かつ選択的に回収できる抽出剤が存在しないため、他の貴金属を抽出した後の抽残液中から回収されてきた(特許文献6)。このような方法では最も高価な貴金属であるロジウムの回収が後回しになるため、回収コストがかかるという問題がある。
溶媒抽出法によるロジウム回収技術として、ピリジン環含有化合物を用いた例が報告されている(特許文献4)。該抽出剤では、ロジウムとベースメタルを分離することが可能であるが、白金やパラジウムとの分離については記載されていない。また、イミダゾール誘導体を用いた例では、金および白金とロジウムとの分離はある程度達成されているが、パラジウムとの分離はできていない(特許文献3)。白金およびパラジウムとロジウムとの分離は、アミド含有3級アミン化合物を用いることで可能であることが報告されている(特許文献7)。この方法では、該抽出剤を含む有機相に白金、パラジウム、ロジウムを含む水相を接触させることで、すべての金属を有機相に抽出する。その後、有機相を高濃度塩酸溶液と接触させることで、ロジウムのみを水相に逆抽出させることで選択的にロジウムを回収するものである。しかし、このような方法では、ロジウムを回収するために少なくとも2回の抽出工程を必要とするため、廃液が多量になることや工程の増加によってコストがかかるといった問題がある。また、ロジウムが白金およびパラジウムよりも抽出剤に吸着されにくいことを利用して、ロジウムのみを抽出剤から選択的に外す方法であるため、最初の抽出の段階においてロジウムのみを回収することは原理的に不可能である。
特開平7−310129号公報 特開2012−031449号公報 特開2013−032563号公報 特開平5−295458号公報 特開平9−279264号公報 特開2004−332041号公報 国際公開第2009/001897号
上記の先行技術に鑑み、本願では、貴金属を低コストで効率的に回収可能な回収剤及び回収方法を開示する。また、本願では、ロジウムを低コストで効率的に回収可能な回収剤を提供する。
本願は、芳香族第一級アミン化合物、または、脂肪族第一級アミン化合物から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物を含有する貴金属回収剤を用いて、貴金属を含む混合物から、貴金属を回収する方法であって、前記貴金属回収剤と前記混合物とを濃度1.0mol/L以上9.0mol/L以下の塩酸に含ませ、前記貴金属回収剤に前記貴金属を吸着させる貴金属回収方法において、前記芳香族第一級アミン化合物が、アニリン、3−フェノキシアニリン、4−フェノキシアニリン、炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリンであり、前記脂肪族第一級アミン化合物が、炭素数6以上18以下の直鎖状アルキルモノアミン、2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミンである、方法を開示する。
「貴金属を含む混合物」とは、白金、パラジウム、ロジウムなどの貴金属以外に、例えば銅、鉄、アルミニウム、亜鉛等のベースメタルを含んでいてもよく、該混合物としては、例えば、自動車排気ガス浄化用触媒を挙げることができる。
上記貴金属回収剤は、貴金属吸着後に、濃度1.0mol/L以上9.0mol/L以下のいずれかの濃度にある塩酸に対して不溶の固体となる。よって、貴金属を吸着した固体の貴金属回収剤を分離することにより、貴金属を回収することができる。
固体の貴金属回収剤の分離方法は特に限定されず、例えば、遠心分離、濾過、デカンテーション等を挙げることができる。
また、「濃度1.0mol/L以上9.0mol/L以下のいずれかの濃度にある塩酸に対して不溶」とは、貴金属吸着後の貴金族回収剤が該塩酸濃度範囲のうちの少なくとも一部において不溶であればよく、当該塩酸濃度の全範囲において不溶である必要はなない。
本開示の貴金属回収方法において、前記貴金属は、白金、パラジウム、ロジウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本開示の貴金属回収方法において、アミン化合物として、前記脂肪族第一級アミン化合物を用いる場合、前記塩酸の濃度を、3.0mol/L以上とすることが好ましい。該塩酸濃度範囲において、多くの貴金属を効率的に回収することができる。
本開示の貴金属回収方法において、アミン化合物として、前記脂肪族第一級アミン化合物を用いる場合、前記アミン化合物のアミノ基と前記混合物に含まれる前記貴金属とのモル比(NH2/REM)を10以上とすることが好ましい。該モル比の範囲において、多くの貴金属を効率的に回収することができる。
本開示の貴金属回収方法において、アミン化合物として、前記芳香族第一級アミン化合物を用いる場合、前記塩酸の濃度を、2.0mol/L以上とすることが好ましい。該塩酸濃度範囲において、ロジウムを選択的、効率的に回収することができる。
また、本開示の貴金属回収方法において、アミン化合物として、前記芳香族第一級アミン化合物を用いる場合、前記塩酸の濃度を、2.5mol/L以上8.0mol/L以下とすることが好ましい。該塩酸濃度範囲において、ロジウムをより選択的、効率的に回収することができる。
また、本開示の貴金属回収方法において、アミン化合物として、前記芳香族第一級アミン化合物を用いる場合、前記アミン化合物のアミノ基と前記混合物に含まれるロジウムとのモル比(NH2/Rh)を5以上とすることが好ましい。該モル比の範囲において、ロジウムを選択的、効率的に回収することができる。
本願は、貴金属として、白金、パラジウム、ロジウムを含む混合物から、それぞれの貴金属を選択的に回収する方法であって、炭素数6以上8以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第一の貴金属回収剤と、前記混合物とを濃度0.5mol/L以上2.0mol/L以下の塩酸に含ませ、前記第一の貴金属回収剤に白金を吸着させる白金回収工程、前記白金回収工程後の前記混合物を含む塩酸溶液の塩酸濃度を3mol/L以上9mol/L以下に調整し、該調整後の塩酸溶液に炭素数6以上8以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第一の貴金属回収剤を含ませ、前記第一の貴金属回収剤にロジウムを吸着させるロジウム回収工程、前記ロジウム回収工程後の前記混合物を含む塩酸溶液に炭素数9以上12以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第二の貴金属回収剤を含ませ、前記第二の貴金属回収剤にパラジウムを吸着させるパラジウム回収工程、を備える、貴金属の選択的回収方法を開示する。
「貴金属として、白金、パラジウム、ロジウムを含む混合物」は、貴金属以外に銅、鉄、アルミニウム、亜鉛等のベースメタルを含んでいてもよい。
「白金回収工程」において、白金を吸着した第一の貴金属回収剤は塩酸に対して不溶の固体となる。よって、該白金を吸着した固体の貴金属回収剤を分離することにより、白金を選択的に回収することができる。
「前記白金回収工程後の前記混合物を含む塩酸溶液の塩酸濃度を2mol/L以上8mol/L以下に調整し」とは、例えば、白金回収後の混合物を含む塩酸溶液に、塩酸を加えて、塩酸濃度を該範囲に調整することをいう。
「該調整後の塩酸溶液に炭素数6以上8以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第一の貴金属回収剤を含ませ」とは、白金回収工程において使用したアミン化合物と同じアミン化合物を使用してもよいし、または、異なるアミン化合物を使用してもよい意味である。
「ロジウム回収工程」において、ロジウムを吸着した第一の貴金属回収剤は塩酸に対して不溶の固体となる。よって、該ロジウムを吸着した固体の貴金属回収剤を分離することにより、ロジウムを選択的に回収することができる。
「パラジウム回収工程」において、パラジウムを吸着した第二の貴金属回収剤は塩酸に対して不溶の固体となる。よって、該パラジウムを吸着した固体の貴金属回収剤を分離することにより、パラジウムを選択的に回収することができる。
本願は、3−フェノキシアニリン,4−フェノキシアニリン,炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリン、炭素数6以上18以下の直鎖状アルキルモノアミン,2−エチルヘキシルアミン,ベンジルアミンから選ばれる少なくとも1種のアミン化合物を含有することを特徴とする,貴金属回収剤を開示する。
本開示の貴金属回収剤において、前記貴金属は、白金、パラジウム、ロジウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本願は、3−フェノキシアニリン,4−フェノキシアニリン,炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリンから選ばれる少なくとも1種のアミン化合物を含有する、ロジウム回収剤を開示する。
本開示の貴金属回収剤及び貴金属回収方法によれば、シンプルな構造を有するアミンによって、貴金属を低コストで効率的に回収可能である。また、本開示のロジウム回収剤によれば、ロジウムを低コストで効率的に回収可能である。
本開示の貴金属回収剤によって貴金属のうちロジウムを回収する推定メカニズムを説明する図である。 本開示のロジウム回収剤によって、ロジウムを回収する推定メカニズムを説明するための図である。 実施例における実験手順を説明するための概略図である。 デシルアミンのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)を50とし、振とう時間を30分とし、塩酸濃度を1mol/L〜8mol/Lの範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 塩酸濃度を6mol/Lとし、振とう時間を30分とし、デシルアミンのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)を2〜100の範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 デシルアミンのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)を50とし、塩酸濃度を6mol/Lとし、振とう時間を1分〜1時間の範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 オクチルアミンのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)を50とし、振とう時間を30分とし、塩酸濃度を1mol/L〜8mol/Lの範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 オクチルアミンによる第一回収、オクチルアミンによる第二回収、および、デシルアミンによる第三回収における、ロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 実施例における実験手順を説明するための概略図である。 4−フェノキシアニリンとロジウムとのモル比(NH/Rh)を30とし、振とう時間を24時間とし、塩酸濃度を1mol/Lから10mol/Lの範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 塩酸濃度を4mol/Lとし、振とう時間を24時間とし、4−フェノキシアニリンとロジウムとのモル比(NH/Rh)を2〜100の範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 4−フェノキシアニリンとロジウムとのモル比(NH/Rh)を30とし、塩酸濃度を4mol/Lとし、振とう時間を1分〜24時間の範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 4−オクチルアニリンとロジウムとのモル比(NH/Rh)を30とし、塩酸濃度を6mol/Lとし、振とう時間を3時間とした場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 3−フェノキシアニリンとロジウムとのモル比(NH/Rh)を30とし、塩酸濃度を6mol/Lとし、振とう時間を3時間とした場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 アニリンとロジウムとのモル比(NH/Rh)を1000とし、塩酸濃度を3mol/Lとし、振とう時間を1時間とした場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。 4−アミノベンゾフェノンとロジウムとのモル比(NH/Rh)を30とし、塩酸濃度を6mol/Lとし、振とう時間を3時間とした場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す図である。
<貴金属回収方法、貴金属回収剤>
本開示の貴金属回収方法は、芳香族第一級アミン化合物、または、脂肪族第一級アミン化合物から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物を含有する貴金属回収剤を用いて、貴金属を含む混合物から、貴金属を回収する方法であって、前記貴金属回収剤と前記混合物とを濃度1.0mol/L以上9.0mol/L以下の塩酸に含ませ、前記貴金属回収剤に前記貴金属を吸着させる貴金属回収方法において、前記芳香族第一級アミン化合物が、アニリン、3−フェノキシアニリン、4−フェノキシアニリン、炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリンであり、前記脂肪族第一級アミン化合物が、炭素数6以上18以下の直鎖状アルキルモノアミン、2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミンである、方法である。
上記方法において使用する貴金属回収剤は、芳香族第一級アミン化合物、または、脂肪族第一級アミン化合物から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物を含有するが、脂肪族第一級アミン化合物を含有する貴金属回収剤は、白金、パラジウム、および、ロジウムから選ばれる少なくとも一つの貴金属に対して吸着性を示す。また、芳香族第一級アミン化合物を含有する貴金属回収剤は、ロジウムに対して吸着性を示す。以下、それぞれの貴金属回収剤および該回収剤を用いた貴金属回収方法について、順に説明する。
<脂肪族第一級アミンを含有する貴金属回収剤>
本開示の貴金属回収剤は、下記一般式(1)で示される脂肪族第一級アミンを含み、該アミンは、炭素数が6以上であり、且つ、貴金属回収後に1.0mol/L以上のいずれかの濃度にある塩酸に対して不溶の固体状であることを特徴とする。
Figure 0006895177
一般式(1)において、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素又は炭化水素基である。
「1.0mol/L以上のいずれかの濃度にある塩酸に対して不溶」とは、貴金属回収後の回収剤が、当該塩酸濃度範囲のうちの少なくとも一部において不溶であればよく、当該塩酸濃度範囲の全範囲において常に不溶である必要はない。
「貴金属回収後」とは、「回収剤に貴金属が吸着・結合した状態」を意味する。すなわち、本開示の貴金属回収剤は、貴金属を吸着・結合した状態において塩酸に不溶な固体状である。
「炭化水素基」とは、炭素及び水素からなる基を意味し、ヘテロ原子を有さない。
本開示の貴金属回収剤において、一般式(1)に係るアミンの炭素数は6以上であり、且つ、該アミンは貴金属回収後に濃度1.0mol/L以上の塩酸において不溶の固体であればよく、これらの条件を満たす限り、R〜Rを構成し得る炭化水素基の種類は特に限定されるものではない。アルキル基、アルケニル基、アリール基等、種々の炭化水素基をいずれも適用できる。
一般式(1)に係るアミンの炭素数は下限は好ましくは9以上であり、上限は好ましくは18以下であり、より好ましくは12以下である。貴金属に対して一層高い吸着性を有するとともに、貴金属回収後に容易に固体状を維持できるためである。
本発明者らの知見では、脂肪族第一級アミンにおいては、多種類の貴金属を効率的に回収するためには、上記一般式(1)の通り、アミノ基と結合している炭素が脂肪族炭素(芳香環を構成しない炭素)であることが重要である。アミノ基と結合している炭素が芳香族炭素(芳香環を構成する炭素)である場合、一部の貴金属(例えばロジウム)の吸着・結合が可能な場合もあるが、一部の貴金属(例えば白金やパラジウム)を吸着・結合することが難しい。アミノ基と結合している炭素が脂肪族炭素である上記所定の脂肪族第一級アミンは、所定濃度の塩酸においてアミノ基がカチオン化し、種々の種類の貴金属を静電的に適切に吸着できるものと考えられる。
上記脂肪族第一級アミンとしては、例えば、炭素数6以上18以下の直鎖状アルキルモノアミン、2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミンを挙げることができる。
本開示の貴金属回収剤は、濃度1.0mol/L以上の塩酸において、白金及びパラジウムに対して高い吸着性を示す。特に、本開示の貴金属回収剤は、濃度3.0mol/L以上の高濃度塩酸において、白金、パラジウム及びロジウムのいずれに対しても高い吸着性を示す。例えば、高濃度の塩酸においては、ロジウムは2価又は3価のアニオン錯体(特に3価のアニオン錯体)として存在することが知られている(Hydrometallurgy, 1996, 40, 135-152)。
図1に、本開示の貴金属回収剤によってロジウムを回収する推定メカニズムを示す。本開示の貴金属回収剤は、上述の高濃度の塩酸において末端のアミノ基がアンモニウムカチオンとなり得る。一方で、上述の通り、ロジウムはアニオン錯体として存在する。すなわち、本開示の貴金属回収剤は、アンモニウムカチオンとロジウムアニオン錯体との静電相互作用によって、ロジウムを吸着・結合するものと推定される。ロジウム以外の貴金属についても同様と考えられる。そして、本開示の貴金属回収剤は貴金属回収後に固体であることから、塩酸から固形分を回収するだけで、貴金属を効率的に回収できる。このように、本開示の貴金属回収剤は、有機溶媒に溶解させることなく使用するものであり、特許文献3、4に開示されたような従来の溶媒抽出法とは貴金属の抽出・回収メカニズムが大きく異なる。
また、本開示の貴金属回収剤は、アミンにおけるアミノ基の数が1つであることから、従来のキレート剤やキレート樹脂とは構造が大きく異なる。尚、当該キレート剤やキレート樹脂を貴金属回収剤として使用した場合、高濃度塩酸においては、ロジウムを吸着することなく、むしろ離脱してしまうことが従来常識であった(特許文献2)。この点、本開示の貴金属回収剤は、貴金属の吸着・結合のメカニズムについても従来のキレート剤・キレート樹脂とは異なることが示唆される。
尚、本開示の貴金属回収剤に係るアミンは、上述の通り、貴金属回収後に所定濃度の塩酸に対して不溶であることが前提である。本開示の貴金属回収剤は、これらの前提事項を考慮して上記R〜Rの構造が決定される。本開示の貴金属回収剤は、液体や粉体状、塊状であってもよいし、成形体(例えば、膜状)であってもよい。
炭素数6〜8の直鎖状アルキルモノアミンは、低濃度塩酸においては、白金に対して選択的に高い吸着性を示す。ここで、低濃度塩酸とは、0.5mol/L以上、2.0mol/L以下、好ましくは、0.8mol/L以上、1.5mol/L以下をいう。また、炭素数6〜8の直鎖状アルキルモノアミンは、高濃度塩酸においては、白金およびロジウムに対して選択的に高い吸着性を示す。ここで、高濃度塩酸とは、3mol/L以上、9mol/L以下、好ましくは、4mol/L以上、8mol/L以下、より好ましくは、5.5mol/L以上、6.5mol/L以下をいう。
炭素数9〜12の直鎖状アルキルモノアミンは、パラジウムおよび白金に対しては、1.0mol/L以上9.0mol/L以下の塩酸濃度において高い吸着性を示す。
また、炭素数9〜12の直鎖状アルキルモノアミンは、3mol/L9.0mol/L以下の塩酸濃度において、白金、ロジウム、パラジウムのいずれに対しても高い吸着性を示す。
<脂肪族第一級アミンを用いた貴金属回収方法>
上述の通り、所定濃度の塩酸中で、本開示の貴金属回収剤に貴金属を吸着・結合させることで、貴金属を効率的に回収できる。以下、本開示の貴金属回収方法の具体的な形態について説明する。
本開示の貴金属回収方法は、上述の貴金属回収剤を用いて、貴金属を含む混合物から、貴金属を回収する方法であって、当該貴金属回収剤と混合物とを濃度1.0mol/L以上、9.0mol/L以下の塩酸に含ませ、固体状の貴金属回収剤に貴金属を吸着させることを特徴とする。
(混合物)
混合物には貴金属が含まれている。塩酸の濃度を1.0mol/L以上3.0mol/L未満とする場合、上記貴金属回収剤は、白金およびパラジウムに対して高い吸着性を示す。よって、混合物は、貴金属としては白金及びパラジウムのうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。また、塩酸の濃度を3.0mol/L以上とする場合、上記貴金属回収剤は、白金、パラジウム、およびロジウムに対して高い吸着性を示す。よって、混合物は、貴金属としては白金、パラジウム及びロジウムのうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。尚、混合物には、貴金属以外の金属が含まれていてもよい。混合物の具体例としては、自動車排気ガス浄化用触媒そのものを適用することができる。
なお、混合物を塩酸に溶解させる方法は特に限定されないが、例えば、固体状の混合物を塩酸に加え攪拌し、残った不溶分を除去する方法を挙げることができる。
(塩酸濃度)
本開示の貴金属回収剤は、所定の塩酸濃度範囲で、所定の貴金属に吸着性を示す。以下、アミン化合物別に、好ましい塩酸濃度範囲と、該塩酸濃度範囲において吸着性が示される貴金属を示す。
炭素数6〜8の直鎖状アルキルモノアミン
低塩酸濃度範囲では、白金に対して高い吸着性を示す。
高塩酸濃度範囲では、白金、ロジウム、に対して高い吸着性を示す。
炭素数9〜12の直鎖状アルキルモノアミン
低塩酸濃度範囲では、パラジウム、白金、に対して高い吸着性を示す。
高塩酸濃度範囲では、パラジウム、白金、ロジウム、に対して高い吸着性を示す。
炭素数16の直鎖状アルキルモノアミン(n−ヘキサデシルアミン)
低塩酸濃度範囲では、パラジウム、白金、ロジウム、に対して高い吸着性を示す。
高塩酸濃度範囲では、白金、ロジウム、に対して高い吸着性を示す。
炭素数18の直鎖状アルキルモノアミン(ステアリルアミン)
低塩酸濃度範囲では、パラジウム、白金、に対して高い吸着性を示す。
高塩酸濃度範囲では、パラジウム、白金、ロジウムに対しては高い吸着性を示さない。
2−エチルヘキシルアミン
低塩酸濃度範囲では、白金、に対して高い吸着性を示す。
高塩酸濃度範囲では、白金、に対しては高い吸着性を示さない。
ベンジルアミン
低塩酸濃度範囲では、パラジウム、に対して高い吸着性を示す。
高塩酸濃度範囲では、パラジウム、白金、ロジウム、に対しては高い吸着性を示さない。
上記において、低塩酸濃度範囲とは、0.5mol/L以上、2.0mol/L以下、好ましくは、0.8mol/L以上、1.5mol/L以下をいう。高塩酸濃度範囲とは、3mol/L以上、9mol/L以下、好ましくは、4mol/L以上、8mol/L以下、より好ましくは、5.5mol/L以上、6.5mol/L以下をいう。
(その他の条件)
上述の通り、本開示の貴金属回収剤は、貴金属回収後に上記の所定濃度の塩酸に対して不溶であることが前提である。この前提を維持できる限り、貴金属回収時の温度や圧力や雰囲気については特に限定されるものではない。常温・常圧・大気雰囲気でも効率的に貴金属を回収できる。
本発明者らの知見では、貴金属回収剤全体に含まれる上記アミン由来のアミノ基と混合物に含まれる貴金属とのモル比(NH/REM)を10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上とした場合、混合物からの貴金属の回収率が一層向上する。尚、当該モル比の上限は特に限定されるものではない。本発明者らの知見では、当該モル比を50以上と過大とした場合であっても、高い貴金属回収率が維持される。
本発明者らの知見では、貴金属回収剤及び混合物の塩酸への浸漬時間については、特に限定されるものではなく、短時間の浸漬で貴金属回収剤に貴金属を吸着・結合させることができる。ただし、浸漬の際は、振とうや攪拌を行うことが好ましい。振とうを行う場合、振とう時間は好ましくは1分以上である。
以上の通り、本開示の貴金属回収剤を用いることで、所定の濃度の塩酸中で、混合物から貴金属を固体状にて、低コストで効率的に回収することができる。
<直鎖状アルキルモノアミンを用いた選択的回収方法>
直鎖状アルキルモノアミンを用いることで、貴金属として、白金、パラジウム、ロジウムを含む混合物から、それぞれの貴金属を選択的に回収することができる。
該方法は、具体的には、炭素数6以上8以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第一の貴金属回収剤と、前記混合物とを濃度0.5mol/L以上2.0mol/L以下の塩酸に含ませ、前記第一の貴金属回収剤に白金を吸着させる白金回収工程、前記白金回収工程後の前記混合物を含む塩酸溶液の塩酸濃度を3mol/L以上9mol/L以下に調整し、該調整後の塩酸溶液に炭素数6以上8以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第一の貴金属回収剤を含ませ、前記第一の貴金属回収剤にロジウムを吸着させるロジウム回収工程、前記ロジウム回収工程後の前記混合物を含む塩酸溶液に炭素数9以上12以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第二の貴金属回収剤を含ませ、前記第二の貴金属回収剤にパラジウムを吸着させるパラジウム回収工程、を備える。
上記白金回収工程における塩酸濃度は、好ましくは、0.8mol/L以上、1.5mol/L以下である。また、ロジウム回収工程における塩酸濃度は、3mol/L以上、8mol/L以下が好ましい。また、パラジウム回収工程では、塩酸濃度を調整せずに、ロジウム回収工程により得られた塩酸溶液をそのまま使用するのが、簡便な点から好ましいが、塩酸濃度を調整することを除外するものではなく、1.0mol/L以上9.0mol/L以下の範囲にて適宜塩酸濃度を調整してもよい。
<芳香族第一級アミンを含有する貴金属回収剤>
本開示の芳香族第一級アミンを含有する貴金属回収剤(以下、ロジウム回収剤という場合がある。)は、ロジウムを低コストで効率的に回収することができる。
ロジウム回収剤は、下記一般式(2)で示される芳香族第一級アミン構造を有し、ロジウム回収後に2.0mol/L以上9.0mol/L以下のいずれかの濃度にある塩酸に対して不溶の固体であることを特徴とする。
Figure 0006895177
(上記一般式(2)において、X及びYは、それぞれ独立に、非電子吸引性基である。)
本開示のロジウム回収剤は、上記一般式(2)で示される芳香族第一級アミン構造を有する。上記一般式(2)中の左側の波線は、X及びYが他の物質(樹脂等)に化学的に結合していてもよいことを意味する。すなわち、本開示のロジウム回収剤は、当該ロジウム回収剤を構成する材料の化学構造において、側鎖や末端に当該芳香族第一級アミン構造を有しており、ロジウム回収剤の表面に当該芳香族第一級アミン構造が露出している。例えば、表面に当該芳香族第一級アミン構造を有するイオン交換樹脂としてもよい。或いは、本開示のロジウム回収剤は、ロジウム回収後に上記所定濃度の塩酸に不溶の固体である限り、上記一般式(2)において左側の波線部分を除いた芳香族第一級アミンそのものであってもよい。
本開示のロジウム回収剤は、濃度2.0mol/L以上9.0mol/L以下の塩酸において、ロジウムを選択的に吸着・結合する。このような高濃度の塩酸においては、ロジウムは1価〜3価のアニオン錯体(特に2価及び3価のアニオン錯体)として存在することが知られている(Hydrometallurgy, 1996, 40, 135-152)。
図2に、本開示のロジウム回収剤によってロジウムを回収する推定メカニズムを示す。本開示のロジウム回収剤は、上述の高濃度の塩酸において末端のアミノ基がアンモニウムカチオンとなる。一方で、上述の通り、ロジウムはアニオン錯体として存在する。すなわち、本開示のロジウム回収剤は、アンモニウムカチオンとロジウムアニオン錯体との静電相互作用によって、ロジウムを吸着・結合するものと推定される。本開示のロジウム回収剤はロジウム回収後に固体であることから、塩酸から固形分を回収するだけで、ロジウムを優先的に回収できる。このように、本開示のロジウム回収剤は、有機溶媒に溶解させることなく使用するものであり、特許文献3〜5および7に開示されたような従来の溶媒抽出法とはロジウムの抽出・回収メカニズムが大きく異なる。
上記一般式(2)において、X及びYは、それぞれ独立に、非電子吸引性基である。非電子吸引性基とは、電子吸引性でない基を意味する。すなわち、エーテル基、アルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、スルフィド基、アミノ基、水素から選ばれるいずれかの基である。上述の通り、本開示のロジウム抽出剤においては、カチオンとアニオンとの静電相互作用を発揮させることが重要と考えられる。本発明者らの知見では、このような非電子吸引性基であれば、上述した静電相互作用によるロジウムの吸着・結合を阻害することがない。すなわち、X及びYがこのような非電子吸引性基である限り、高濃度の塩酸においてロジウム回収剤が適切にカチオン化し、ロジウムアニオン錯体と適切に吸着・結合して、ロジウムを優先的に回収することができる。
尚、本発明者らの知見によれば、X及びYがカルボニル基等の電子吸引性基の場合、アニリン構造におけるアミノ基の結合位置によってロジウムを選択的に吸着できない場合がある。一方、X及びYが非電子吸引性基であれば、このような問題は生じない。
特に、本発明者らの知見では、X及びYは、一方が水素であることがより好ましい。また、X及びYは、他方がエーテル基又はアルキル基であることが好ましい。或いは、X及びYの一方が水素である場合、X及びYの他方とアミノ基とがパラ位に配置されていることが好ましい。
本開示のロジウム回収剤において、芳香族第一級アミン化合物の具体例としては、アニリン、4−フェノキシアニリン、炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリン、3−フェノキシアニリンを挙げることができる。ロジウムの選択性の観点から、中でも、4−フェノキシアニリン、炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリン、3−フェノキシアニリンが好ましく、4−フェノキシアニリンまたは炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリンがより好ましい。
尚、本開示のロジウム回収剤は上述の通り、ロジウム回収後に所定濃度の塩酸に対して不溶の固体であることが前提である。ロジウム回収前の回収剤は固体、液体のどちらの状態のものであっても良い。本開示のロジウム回収剤は、これらの前提事項を考慮してX及びYが選択される。例えばX及びYの双方が水素である場合(すなわち、アニリンそのものである場合)は、使用前は液体であるが、ロジウム回収後に固体として析出するため本開示のロジウム回収剤に含まれる。
<芳香族第一級アミンを用いたロジウム回収方法>
上述の通り、所定の高濃度塩酸中で、本開示のロジウム回収剤にロジウムを吸着・結合させることで、ロジウムを優先的に回収できる。以下、本開示のロジウム回収方法の具体的な形態について説明する。
本開示のロジウム回収方法は、上述のロジウム回収剤を用いて、ロジウムを含む混合物から、ロジウムを回収する方法であって、当該ロジウム回収剤と混合物とを濃度2.0mol/L以上9.0mol/L以下の塩酸に含ませ、ロジウム回収剤にロジウムを吸着させることを特徴とする。
(混合物)
混合物には少なくともロジウムが含まれており、さらにその他の金属や貴金属が含まれていてもよい。本発明者らの知見によれば、混合物中にロジウム以外の貴金属として、パラジウム及び白金から選ばれる少なくとも一つが含まれていたとしても、本開示のロジウム回収剤によってロジウムを優先的に回収できる。例えば、混合物として、自動車排気ガス浄化用触媒そのものを適用することができる。
(塩酸濃度)
本開示のロジウム抽出剤は、濃度2.0mol/L以上9.0mol/L以下の塩酸においてのみ、高いロジウム選択性を発揮する。好ましくは塩酸の濃度を2.5mol/L以上8.0mol/L以下とする。また、本開示のロジウム吸着剤は、濃度2.0mol/L未満の塩酸においては、ロジウムだけでなく他の貴金属元素をも吸着してしまう。一方で、10mol/Lを超えるような超高濃度の塩酸においては、ロジウムとの吸着・結合ができなくなる。
(その他の条件)
上述の通り、本開示のロジウム回収剤は、ロジウム回収後に上記の所定濃度の塩酸に対して不溶であることが前提である。この前提を維持できる限り、ロジウム回収時の温度や圧力や雰囲気については特に限定されるものではない。常温・常圧・大気雰囲気でも効率的にロジウムを回収できる。
本発明者らの知見では、ロジウム回収剤全体に含まれるアミノ基と混合物に含まれるロジウムとのモル比(NH/Rh)を5以上とした場合、混合物からのロジウムの回収率が一層向上する。より好ましくは当該モル比(NH/Rh)を10以上とする。尚、当該モル比の上限は特に限定されるものではない。本発明者らの知見では、当該モル比を100以上と過大とした場合であっても、高いロジウム選択性及びロジウム回収率が得られる。
本発明者らの知見では、ロジウム回収剤及び混合物の塩酸への浸漬時間については、特に限定されるものではなく、短時間の浸漬でロジウム回収剤に混合物を吸着・結合させることができる。ただし、浸漬の際は、振とうや攪拌を行うことが好ましい。振とうを行う場合、振とう時間は好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。
以上の通り、本開示のロジウム回収剤を用いることで、所定の濃度の塩酸中で、混合物からロジウムを固体状にて選択的に回収することができる。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
パラジウム,白金及びロジウムをそれぞれ100ppmずつ含む塩酸に、貴金属回収剤として下記式(3)で示されるn−デシルアミン(Aldrich社製、以下「DeA」という場合がある。)を浸漬した後で、振とう及び遠心分離し、上澄み液を回収して、当該上澄み液に含まれるパラジウム,白金及びロジウムの濃度をICPにて分析することで、回収剤に吸着・結合したパラジウム,白金及びロジウムの回収率を算出した。参考までに図3に実験手順の詳細を示す。
Figure 0006895177
塩酸の濃度、DeAのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)、振とう時間を変化させて、パラジウム,白金及びロジウムの回収率をそれぞれ確認した。結果を図4〜6に示す。
図4に、DeAのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)を50とし、振とう時間を30分とし、塩酸濃度を1mol/L〜8mol/Lの範囲で変化させた場合におけるパラジウム,白金及びロジウムの回収率を示す。図4から明らかなように、塩酸濃度1mol/L以上4mol/L未満の範囲では、白金及びパラジウムについて85%以上と高い回収率が得られた。一方、塩酸濃度3mol/L以上では、パラジウム,白金及びロジウムのいずれについても、約85%以上と高い回収率が得られた。
図5に、塩酸濃度を6mol/Lとし、振とう時間を30分とし、DeAのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)を2〜100の範囲で変化させた場合におけるパラジウム,白金及びロジウムの回収率を示す。図5から明らかなように、6M塩酸において、DeAは、ロジウム、パラジウム及び白金いずれに対しても吸着性を示した。特に、モル比(NH/Rh)を10以上とした場合、パラジウム,白金及びロジウムのいずれも80%以上と高い回収率となった。
図6に、DeAのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)を50とし、塩酸濃度を6mol/Lとし、振とう時間を1分〜1時間の範囲で変化させた場合におけるパラジウム,白金及びロジウムの回収率を示す。図6から明らかなように、貴金属はDeAに早期に吸着し、振とう時間を増大させても、回収率にほとんど変化がなかった。
<実施例2>
貴金属回収剤として、DeAに替えて、下記式(4)で示されるn−オクチルアミン(東京化成工業株式会社製、以下「OcA」という場合がある。)を用い、OcAのアミノ基とロジウムとのモル比(NH/Rh)を50とし、振とう時間を30分とし、塩酸濃度を1mol/L〜8mol/Lの範囲で変化させ,実施例1と同様の操作で実験を行い、パラジウム,白金及びロジウムの回収率を算出した。結果を図7に示す。
Figure 0006895177
図7に示すように、OcAにより、塩酸濃度に関わらず白金が85%以上という高い効率で回収されたが,パラジウムは回収されなかった。また,ロジウムは塩酸濃度の上昇とともに回収率が向上し,塩酸濃度4mol/L以上では75%以上の高い効率でロジウムが回収された。
<実施例3>
貴金属回収剤として、DeAに替えて、n−ヘキシルアミン,n−ヘプチルアミン,n−ノニルアミン,n−ドデシルアミン,n−ヘキサデシルアミン,ステアリルアミン,2−エチルヘキシルアミン,ベンジルアミン(前記化合物はすべて東京化成工業株式会社製)を用い、塩酸濃度を1mol/Lまたは6mol/Lとし、振とう時間を30分として実施例1と同様の操作で実験を行い、パラジウム,白金及びロジウムの回収率を算出した。結果を表1に示す。
Figure 0006895177
表1に示すように、炭素数6以上18以下の直鎖状アルキルモノアミン,2−エチルヘキシルアミン,およびベンジルアミンを回収剤として用いることで,パラジウム,白金及びロジウムが回収された。
<実施例4>
パラジウム,白金及びロジウムをそれぞれ100ppmずつ含む塩酸(1mol/L)に,OcAを白金とのモル比(NH/Pt)が50となるように添加し,振とう及び遠心分離し,上澄み液に含まれる金属濃度をICPにて分析することで回収率を算出した(第一回収)。次に,当該上澄み液に12mol/L塩酸を加えて6mol/L塩酸とした後,OcAをロジウムとのモル比(NH/Rh)が25となるように添加し,振とう及び遠心分離し,上澄み液に含まれる金属濃度をICPにて分析することで回収率を算出した(第二回収)。さらに,当該上澄み液にDeAをパラジウムとのモル比(NH/Pd)が100となるように添加し,振とう及び遠心分離し,上澄み液に含まれる金属濃度をICPにて分析することで回収率を算出した(第三回収)。結果を図8に示す。
図8に示すように,塩酸濃度を1mol/Lとし,OcAを回収剤として用いた第一回収では白金が選択的に回収された。次に,塩酸濃度を6mol/Lとし,OcAを回収剤とした第二回収ではロジウムが選択的に回収され,DeAを用いた第三回収ではパラジウムが選択的に回収された。いずれの段階も75%以上の高い回収率が得られており,パラジウム,白金及びロジウムが相互に分離回収された。
<比較例1>
貴金属回収剤として、DeAに替えて、下記式(5)で示されるブチルアミン(東京化成工業株式会社製)を用い、塩酸濃度を 6mol/Lとし、モル比(NH/Rh)を50とし、振とう時間を30分として、実施例1と同様の操作で実験を行ったところ、貴金属回収後に固体状とはならず、貴金属を効率的に回収することができなかった。
Figure 0006895177
以上、実施例及び比較例の結果から、貴金属回収剤として好適に機能する材料は以下の条件1〜3を備えたものと考えられる。
(条件1)脂肪族第1級アミンであり、且つ、モノアミンである。
(条件2)炭素数が6以上である。
(条件3)貴金属回収後に1mol/L以上の塩酸に対して不溶の固体となる。
<実施例5>
ロジウム、パラジウム及び白金をそれぞれ100ppmずつ含む塩酸に、ロジウム回収剤として下記式(6)で示される4−フェノキシアニリン(東京化成工業株式会社製、以下「4POA」という場合がある。)を浸漬した後で、振とう及び遠心分離し、上澄み液を回収して、当該上澄み液に含まれるロジウム、パラジウム及び白金の濃度をICPにて分析することで、回収剤に吸着・結合したロジウム、パラジウム及び白金の回収率を算出した。参考までに図9に実験手順の詳細を示す。
Figure 0006895177
塩酸の濃度、4POAとロジウムとのモル比(NH/Rh)、振とう時間を変化させて、ロジウム、パラジウム及び白金の回収率をそれぞれ確認した。結果を図10〜12に示す。
図10に、4−フェノキシアニリンとロジウムとのモル比(NH/Rh)を30とし、振とう時間を24時間とし、塩酸濃度を1.0mol/Lから10mol/Lの範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す。図10から明らかなように、塩酸濃度2.0mol/L未満において、4POAは、ロジウム、パラジウム及び白金すべてについて吸着性を示した。一方で、塩酸濃度2.5mol/L以上9.0mol/L未満の範囲では、ロジウムに対してのみ、選択吸着性を示した。また、塩酸濃度10mol/Lの場合は、ロジウム、パラジウム及び白金すべてについて吸着性を示さなかった。
図11に、塩酸濃度を4mol/Lとし、振とう時間を24時間とし、4POAとロジウムとのモル比(NH/Rh)を2〜100の範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す。図11から明らかなように、4M塩酸において、4POAは、ロジウム、パラジウム及び白金を含む混合物に対して、ロジウムについて選択吸着性を示し、パラジウム及び白金については選択吸着性を示さなかった。また、モル比(NH/Rh)が10までの領域では、4POAの添加量が増大するほど、ロジウムの回収率が増大した。一方で、モル比(NH/Rh)を50以上と多量としても、モル比が10の場合からロジウム回収率が増大することはなく、ロジウム回収率は85%程度で飽和した。
図12に、モル比(NH/Rh)を30とし、塩酸濃度を4mol/Lとし、振とう時間を1分〜24時間の範囲で変化させた場合におけるロジウム、パラジウム及び白金の回収率を示す。図12から明らかなように、ロジウムは4POAに早期に吸着し、振とう時間を増大させても、ロジウム回収率にほとんど変化がなかった。
<実施例6>
ロジウム回収剤として、4POAに替えて、下記式(7)で示される4−オクチルアニリン(東京化成工業株式会社製、以下「4OcA」という場合がある。)を用い、塩酸濃度を6mol/Lとし、モル比(NH/Rh)を30とし、振とう時間を3時間として、実施例5と同様の操作で実験を行い、ロジウム、パラジウム及び白金の回収率を算出した。結果を図13に示す。
Figure 0006895177
図13に示すように、4OcAにより、ロジウム、パラジウム及び白金を含む混合物から、ロジウムのみを選択的に回収することができた。ロジウムの回収率は約70%であった。
<実施例7>
ロジウム回収剤として、4POAに替えて、下記式(8)で示される3−フェノキシアニリン(シグマ アルドリッチ社製、以下「3POA」という場合がある。)を用い、塩酸濃度を6mol/Lとし、モル比(NH/Rh)を30とし、振とう時間を3時間として、実施例5と同様の操作で実験を行い、ロジウム、パラジウム及び白金の回収率を算出した。結果を図14に示す。
Figure 0006895177
図14に示すように、3POAにより、ロジウム、パラジウム及び白金を含む混合物から、ロジウムのみを選択的に回収することができた。ロジウムの回収率は約77%であった。
<実施例8>
ロジウム回収剤として,4POAに替えて,アニリン(関東化学株式会社製)を用い,塩酸濃度を3mol/Lとし,モル比(NH/Rh)を1000とし,振とう時間を1時間として,実施例5と同様の操作で実験を行い,ロジウム,パラジウム及び白金の回収率を算出した。結果を図15に示す。
図15に示すように,アニリンにより,ロジウム,パラジウム及び白金を含む混合物から,ロジウムのみを選択的に回収することができた。ロジウムの回収率は約60%であった。
<比較例2>
ロジウム回収剤として、4POAに替えて、下記式(9)で示される4−アミノベンゾフェノン(東京化成工業株式会社製、以下「4ABP」という場合がある。)を用い、塩酸濃度を6mol/Lとし、モル比(NH/Rh)を30とし、振とう時間を3時間として、実施例1と同様の操作で実験を行い、ロジウム、パラジウム及び白金の回収率を算出した。結果を図16に示す。
Figure 0006895177
図16に示すように、4ABPでは、ロジウム、パラジウム及び白金のいずれについても回収できなかった。4ABPにおいては、アニリンに結合する官能基として電子吸引性であるカルボニル基が結合されており、塩酸における4ABPとロジウムとの静電相互作用による吸着・結合に悪影響を与えたと考えられる。
以上、実施例及び比較例の結果から、ロジウム回収剤として好適に機能する材料は以下の条件1〜3を備えたものと考えられる。
(条件1)末端にアニリン構造を有する。
(条件2)アニリン構造を構成するフェニル基にはアミノ基以外に非電子吸引性基を有する。
(条件3)ロジウムアニオン錯体が2価又は3価となるような高濃度塩酸(濃度2.0mol/L以上9.0mol/L以下)においてロジウム回収後に不溶の固体となる。
本開示の発明によれば、貴金属を含む混合物から、貴金属を効率的に回収することができる。例えば、自動車排気ガス浄化用触媒をリサイクルする際の貴金属回収剤として好適に利用可能である。
また、本開示の発明によれば、複数種類の貴金属を含む混合物から、ロジウムを回収することができる。例えば、自動車排気ガス浄化用触媒をリサイクルする際のロジウム回収剤として好適に利用可能である。

Claims (11)

  1. 芳香族第一級アミン化合物、または、脂肪族第一級アミン化合物から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物を含有する貴金属回収剤を用いて、貴金属を含む混合物から、貴金属を回収する方法であって、
    前記貴金属回収剤と前記混合物とを濃度1.0mol/L以上9.0mol/L以下の塩酸に含ませ、前記貴金属回収剤に前記貴金属を吸着させる貴金属回収方法において、前記芳香族第一級アミン化合物が、3−フェノキシアニリン、4−フェノキシアニリン、炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリンであり、前記脂肪族第一級アミン化合物が、炭素数6以上1以下の直鎖状アルキルモノアミン、2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミンである、方法。
  2. 前記貴金属が、白金、パラジウム、ロジウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の貴金属回収方法。
  3. 前記アミン化合物として、前記脂肪族第一級アミン化合物を用い、前記塩酸の濃度を、3.0mol/L以上とする、請求項1または2に記載の貴金属回収方法。
  4. 前記アミノ化合物のアミノ基と前記混合物に含まれる前記貴金属とのモル比(NH2/REM)を10以上とする、請求項1〜3のいずれかに記載の貴金属回収方法。
  5. 前記アミン化合物として、前記芳香族第一級アミン化合物を用い、前記塩酸の濃度を、2.0mol/L以上とし、ロジウムを吸着させる、請求項1に記載の貴金属回収方法。
  6. 前記塩酸の濃度を、2.5mol/L以上8.0mol/L以下とする、請求項5に記載の貴金属回収方法。
  7. 前記アミノ化合物のアミノ基と前記混合物に含まれるロジウムとのモル比(NH2/Rh)を5以上とする、請求項5または6に記載の貴金属回収方法。
  8. 貴金属として、白金、パラジウム、ロジウムを含む混合物から、それぞれの貴金属を選択的に回収する方法であって、炭素数6以上8以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第一の貴金属回収剤と、前記混合物とを濃度0.5mol/L以上2.0mol/L以下の塩酸に含ませ、前記第一の貴金属回収剤に白金を吸着させる白金回収工程、前記白金回収工程後の前記混合物を含む塩酸溶液の塩酸濃度を3mol/L以上9mol/L以下に調整し、該調整後の塩酸溶液に炭素数6以上8以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第一の貴金属回収剤を含ませ、前記第一の貴金属回収剤にロジウムを吸着させるロジウム回収工程、前記ロジウム回収工程後の前記混合物を含む塩酸溶液に炭素数9以上12以下の直鎖状アルキルモノアミン化合物を含む第二の貴金属回収剤を含ませ、前記第二の貴金属回収剤にパラジウムを吸着させるパラジウム回収工程、を備える、貴金属の選択的回収方法。
  9. 3−フェノキシアニリン,4−フェノキシアニリン,炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリン、炭素数6以上1以下の直鎖状アルキルモノアミン,2−エチルヘキシルアミン,ベンジルアミンから選ばれる少なくとも1種のアミン化合物を含有することを特徴とする,貴金属回収剤。
  10. 前記貴金属が、白金、パラジウム、ロジウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の貴金属回収剤。
  11. 3−フェノキシアニリン,4−フェノキシアニリン,炭素数1〜8のアルキル基を有する4−アルキルアニリンから選ばれる少なくとも1種のアミン化合物を含有する、ロジウム回収剤。
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