A.第1実施形態:
A−1.装置構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、第1実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1(および後述する図6,7)のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1(および後述する図6,7)のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、「発電単位」という)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。酸化剤ガス導入マニホールド161は、特許請求の範囲における空気室に供給されるガスが通るマニホールドに相当する。
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。また、図6は、図4のVI−VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図であり、図7は、図4のVII−VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。
電解質層112は、Z方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、Z方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。燃料極116は、Z方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における貫通孔121を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部122」という)は、単セル110における上下方向の一方側(図面中の上側)の表面の周縁部に対向している。なお、本実施形態では、空気極114はZ方向視における大きさが電解質層112より小さいため、セパレータ120における貫通孔周囲部122は、単セル110における上側の表面の内、電解質層112により構成された表面に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、単セル110(電解質層112)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画される。
単セル110の外周付近(換言すれば、空気極114の外周付近)において、接合部124に対して空気室166側には、シール材125が配置されている。シール材125は、例えば、ガラスにより形成されている。シール材125は、セパレータ120の表面と、単セル110の表面(本実施形態では、単セル110の表面の内、電解質層112により構成された表面)との両方に接触する状態で、単セル110の外周全体に沿って連続的に形成されている。シール材125により、空気室166と燃料室176との間がシールされ、両者の間のガスリーク(クロスリーク)が抑制される。本実施形態では、シール材125は、空気極114の被毒の原因となる少なくとも1つの汚染物質を含んでいる。
図6に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形のガス室用孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。
空気極側フレーム130のガス室用孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する孔である。ガス室用孔131は、X軸方向に互いに対向する第1の内面IP1および第2の内面IP2を有する。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161を構成する連通孔108に連通すると共にガス室用孔131の第1の内面IP1に開口する酸化剤ガス供給連通流路132と、酸化剤ガス排出マニホールド162を構成する連通孔108に連通すると共にガス室用孔131の第2の内面IP2に開口する酸化剤ガス排出連通流路133とが形成されている。本実施形態では、空気極側フレーム130に、3つの酸化剤ガス供給連通流路132と、3つの酸化剤ガス排出連通流路133とが形成されている。
このように、空気極側フレーム130には、空気極114に面する空気室166と、空気室166に供給される酸化剤ガスOGが通る酸化剤ガス導入マニホールド161(の一部)と、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通すると共に空気室166に開口する少なくとも1つの酸化剤ガス供給連通流路132とが形成されている。空気極側フレーム130は、特許請求の範囲におけるガス供給部に相当し、酸化剤ガス導入マニホールド161は、特許請求の範囲におけるマニホールドに相当し、酸化剤ガス供給連通流路132は、特許請求の範囲における連通流路に相当する。
図7に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形のガス室用孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。
燃料極側フレーム140のガス室用孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する孔である。ガス室用孔141は、Y軸方向に互いに対向する第3の内面IP3および第4の内面IP4を有する。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171を構成する連通孔108に連通すると共にガス室用孔141の第3の内面IP3に開口する燃料ガス供給連通流路142と、燃料ガス排出マニホールド172を構成する連通孔108に連通すると共にガス室用孔141の第4の内面IP4に開口する燃料ガス排出連通流路143とが形成されている。本実施形態では、燃料極側フレーム140に、3つの燃料ガス供給連通流路142と、3つの燃料ガス排出連通流路143とが形成されている。
図6に示すように、空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材の内の、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の凸部である集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。また、空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材は、導電性のコートによって覆われていてもよく、空気極114と空気極側集電体134との間には、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。
図7に示すように、燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
A−2.燃料電池スタック100の動作:
図2、図4および図6に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通流路132を介して、空気室166に供給される。また、図3、図5および図7に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通流路142を介して、燃料室176に供給される。
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2、図4および図6に示すように、酸化剤ガス排出連通流路133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3、図5および図7に示すように、燃料ガス排出連通流路143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
なお、図6に示すように、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各発電単位102では、空気室166における酸化剤ガスOGの主たる流れ方向は、概ねX軸正方向側からX軸負方向側に向かう方向である。空気室166における酸化剤ガスOGの主たる流れ方向は、例えば、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口の中点から、酸化剤ガス排出連通流路133の空気室166(ガス室用孔131の第2の内面IP2)への開口の中点に向かう方向として特定することができる。また、図7に示すように、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各発電単位102では、燃料室176における燃料ガスFGの主たる流れ方向は、概ねY軸正方向側からY軸負方向側に向かう方向である。燃料室176における燃料ガスFGの主たる流れ方向は、例えば、燃料ガス供給連通流路142の燃料室176(ガス室用孔141の第3の内面IP3)への開口の中点から、燃料ガス排出連通流路143の燃料室176(ガス室用孔141の第4の内面IP4)への開口の中点に向かう方向として特定することができる。このように、本実施形態の発電単位102は、空気室166における酸化剤ガスOGの主たる流れ方向と燃料室176における燃料ガスFGの主たる流れ方向とが略直交するクロスフロータイプのSOFCである。なお、酸化剤ガスOGの主たる流れ方向(ベクトル)と燃料ガスFGの主たる流れ方向(ベクトル)とが略直交するとは、両ベクトルのなす角(ただし、0度以上、180度以下)が、45度以上、135度以下であることを意味する。また、クロスフロータイプのSOFCであることは、換言すれば、Z軸方向視で、空気極114の外周辺の内、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の内面)への開口の中点に最も近い外周辺(後述する第1の外周辺S1)と、燃料ガス供給連通流路142の燃料室176(ガス室用孔141の内面)への開口の中点に最も近い外周辺(後述する第3の外周辺S3)とのなす角(0度以上、90度以下)が、45度以上であることであると言える。
A−3.空気極114の詳細構成:
次に、空気極114の詳細構成について説明する。図8は、第1実施形態における発電単位102を構成する空気極114の詳細構成を示す説明図である。図8には、Z軸方向視での空気極114の構成(すなわち、XY平面構成)に加えて、空気極側フレーム130の部分的な構成が示されている。
以下の説明では、図8に示すように、Z軸方向視で略矩形の空気極114の4つの外周辺を、それぞれ、第1の外周辺S1、第2の外周辺S2、第3の外周辺S3、第4の外周辺S4と呼ぶものとする。第1の外周辺S1は、Y軸に略平行な2つの外周辺の内のX軸正方向側の外周辺であり、第2の外周辺S2は、Y軸に略平行な2つの外周辺の内のX軸負方向側の外周辺である。また、第3の外周辺S3は、X軸に略平行な2つの外周辺の内のY軸正方向側の外周辺であり、第4の外周辺S4は、Y軸に略平行な2つの外周辺の内のY軸負方向側の外周辺である。
図8に示すように、空気極114は、基準部201と先行被毒部202とを有する。先行被毒部202は、基準部201と比べて、空気極114の被毒の原因となる少なくとも1つの汚染物質(例えば、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、硫黄(S)、塩素(Cl)、クロム(Cr)、リン(P))の含有量(ppm)が有意に多い部位である。本実施形態では、先行被毒部202は、Bの含有量が5ppm以上であることと、Siの含有量が1000ppm以上であることと、Sの含有量が50ppm以上であることとのいずれか1つを満たしている。
本実施形態では、空気極114における第1の外周辺S1の全体にわたって、第1の外周辺S1からX軸方向に幅W11の領域が先行被毒部202となっている。X軸方向における先行被毒部202の幅(最大幅)W11は、X軸方向における空気極114の全幅W10の1/2以下である。なお、X軸方向における先行被毒部202の幅(最大幅)W11は、X軸方向における空気極114の全幅W10の1/3以下であることがより好ましく、全幅W10の1/4以下であることがさらに好ましい。また、先行被毒部202は、空気極114における第1の外周辺S1の全体にわたって設けられている必要はなく、第1の外周辺S1における後述の中点MP1に最も近い位置を含む一部分のみに沿って設けられているとしてもよい。
第1実施形態の空気極114は、上述した構成の先行被毒部202を有するため、以下の要件RE1を満たしている。
・要件RE1:Z軸方向視で、空気極114を、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口の中点MP1に最も近い空気極114の外周辺(本実施形態では第1の外周辺S1)に平行な第2の方向(本実施形態ではY軸方向)に並ぶ3つの行(La1,La2,La3)に等分し、かつ、第2の方向に直交する第3の方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ3つの列(Ca1,Ca2,Ca3)に等分することにより、仮想的に9個の領域Ra(Ra11,Ra12,Ra13,Ra21,Ra22,Ra23,Ra31,Ra32,Ra33)に分割したとき、空気極114の被毒の原因となる少なくとも1つの汚染物質について、上記9個の領域Raの内、上記中点MP1に最も近い第1の領域(本実施形態では領域Ra12)における汚染物質の含有量C1(ppm)と、上記9個の領域Raの内、中央に位置する第2の領域(本実施形態では領域Ra22)における汚染物質の含有量C2(ppm)との差分ΔC1(=C1−C2)は、第1の領域(領域Ra12)における汚染物質の含有量C1(ppm)の4%以上である。
なお、上記第1の領域(本実施形態では領域Ra12)における汚染物質の含有量C1は、図8に示すように、該領域の内、空気極114の端部からX軸方向における空気極114の全幅W10の1/10以内の範囲A1に位置する任意の点において特定するものとする。また、上記第2の領域(本実施形態では領域Ra22)における汚染物質の含有量C2は、該領域の略中心の位置において特定するものとする。なお、各領域における汚染物質の含有量の特定は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)マッピングやXRF分析(X−Ray Fluorescence Analysis)、D−SIMS分析(Dynamic−Secondary Ion Mass Spectrometry Analysis)、ICP分析(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)等により実現することができる。
また、本実施形態では、空気極側フレーム130に酸化剤ガス供給連通流路132が複数(3つ)形成されているが、そのような場合には、上記要件RE1における「酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口の中点MP1」とは、複数の酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口から構成される開口群の両端点(EP1,EP2)を結ぶ線分の中点を意味する。また、上記要件RE1における「中点MP1に最も近い空気極114の外周辺(第1の外周辺S1)」が直線ではなく、多少のうねりがある場合には、該外周辺の平均線(直線)を算出し、該平均線に平行な方向を上記第2の方向とする。
上述した構成の先行被毒部202を有する空気極114は、例えば、空気極114を作製した後、空気極114における先行被毒部202とする領域に、汚染物質をスプレー等により塗布することにより作製することができる。なお、このような塗布処理を高温(例えば、600℃〜800℃)で行うと、汚染物質が空気極114に定着しやすく、その後に先行被毒部202から汚染物質が飛散することを抑制することができるため、好ましい。
あるいは、上述した構成の先行被毒部202を有する空気極114は、例えば、燃料電池スタック100を作製した後、酸化剤ガス導入マニホールド161および酸化剤ガス供給連通流路132を介して汚染物質を含むガスを空気室166に供給することにより作製することができる。空気室166に供給されたガスに含まれる汚染物質が、空気極114の内、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口に近い領域に付着することにより、該領域が先行被毒部202となる。なお、このようなガスの供給処理を高温(例えば、600℃〜800℃)で行うと、汚染物質が空気極114に定着しやすく、その後に先行被毒部202から汚染物質が飛散することを抑制することができるため、好ましい。また、このようなガスの供給処理を発電を行いながら行っても、同様の効果を得られるため、好ましい。
A−4.第1実施形態の効果:
以上説明したように、第1実施形態の燃料電池スタック100を構成する各発電単位102は、単セル110と、空気極側フレーム130とを備える。単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを含む。空気極側フレーム130には、空気極114に面する空気室166と、空気室166に供給される酸化剤ガスOGが通る酸化剤ガス導入マニホールド161(の一部)と、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通すると共に空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)に開口する少なくとも1つの酸化剤ガス供給連通流路132とが形成されている。また、本実施形態の発電単位102における空気極114は、上述した要件RE1を満たしている。すなわち、Z軸方向視で、空気極114を、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口の中点MP1に最も近い空気極114の外周辺(第1の外周辺S1)に平行な第2の方向(Y軸方向)に並ぶ3つの行に等分し、かつ、第2の方向に直交する第3の方向(X軸方向)に並ぶ3つの列に等分することにより、仮想的に9個の領域Raに分割したとき、空気極114の被毒の原因となる少なくとも1つの汚染物質について、上記9個の領域Raの内、上記中点MP1に最も近い第1の領域(領域Ra12)における汚染物質の含有量C1(ppm)と、上記9個の領域Raの内、中央に位置する第2の領域(領域Ra22)における汚染物質の含有量C2(ppm)との差分ΔC1(=C1−C2)は、第1の領域(領域Ra12)における汚染物質の含有量C1(ppm)の4%以上である。
ここで、燃料電池スタック100の運転中に、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガス導入マニホールド161および酸化剤ガス供給連通流路132を介して空気室166に供給される酸化剤ガスOG中に、空気極114の被毒の原因となる汚染物質が含まれていると、該汚染物質が空気極114に付着して空気極114の被毒が起こるおそれがある。燃料電池スタック100の運転開始後に空気極114の被毒が起こると、燃料電池スタック100の制御性が低下するおそれがある。すなわち、空気極114の被毒が起こると、空気極114の抵抗が増大し、その結果、ジュール熱が増加して単セル110(発電単位102)の温度が上昇する。このような場合には、単セル110(発電単位102)の温度を下降させるために、燃料ガスFGの供給量を減らしたり、酸化剤ガスOGの供給量を増やしたりするなどの制御が必要となる。すると、燃料ガスFGおよび/または酸化剤ガスOGの供給量の変化に伴って発電条件が変化し、その結果、反応熱が変化することによって単セル110(発電単位102)の温度が変化し、さらなる制御が必要になるおそれがある。このように、燃料電池スタック100の運転開始後に空気極114の被毒が起こると、燃料電池スタック100の制御性が低下するおそれがある。なお、酸化剤ガス導入マニホールド161の上流位置にフィルタを設けて酸化剤ガスOGに含まれる汚染物質を除去することは可能であるが、酸化剤ガスOGに含まれる汚染物質を完全に除去することは困難である。
第1実施形態の燃料電池スタック100を構成する発電単位102では、空気極114が上記要件RE1を満たしているため、空気極114の内、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口に近い第1の領域(領域Ra12)における汚染物質の含有量C1が中央に位置する第2の領域(領域Ra22)における汚染物質の含有量C2より有意に多いこととなる。空気極114の内、第1の領域(領域Ra12)は、燃料電池スタック100の運転中に空気室166に供給される酸化剤ガスOGと最初に接する領域であるため、酸化剤ガスOGに含まれる汚染物質が付着しやすい領域である。本実施形態の発電単位102では、運転中に汚染物質が付着しやすい第1の領域(領域Ra12)において、当初から汚染物質の含有量が多くなっているため、運転中に該領域にさらに汚染物質が付着しても、そのことによって空気極114の性能がさらに低下すること(空気極114の抵抗がさらに増加すること)を抑制することができる。従って、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する発電単位102によれば、運転開始後における空気極114の被毒を原因とする性能低下を抑制することができ、そのような性能低下に伴う制御性の低下を抑制することができる。
B.第2実施形態:
図9は、第2実施形態における発電単位102aを構成する空気極114の詳細構成を示す説明図である。以下では、第2実施形態の構成の内、上述した第1実施形態の構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
第2実施形態の発電単位102aの構成は、空気極114における先行被毒部202の形状が、図8に示す第1実施形態の発電単位102の構成と異なっている。具体的には、第2実施形態では、第1実施形態と同様に、空気極114における第1の外周辺S1の全体にわたって、第1の外周辺S1からX軸方向に幅W11の領域が先行被毒部202(以下、「供給側先行被毒部203」という)となっている。さらに、第2実施形態では、空気極114における第3の外周辺S3および第4の外周辺S4の全体にわたって、各外周辺S3,S4からY軸方向に幅W21の領域も先行被毒部202(以下、「側方先行被毒部204」という)となっている。なお、供給側先行被毒部203と側方先行被毒部204とは、一部が重複している。また、第2実施形態の先行被毒部202では、空気極114の外周付近に配置されたシール材125(図4および図5参照)に含まれる少なくとも1つの汚染物質の含有量が、基準部201と比べて有意に多くなっている。
Y軸方向における側方先行被毒部204の幅(最大幅)W21は、Y軸方向における空気極114の全幅W20の1/3以下である。Y軸方向における側方先行被毒部204の幅(最大幅)W21は、Y軸方向における空気極114の全幅W20の1/4以下であることがより好ましく、全幅W20の1/5以下であることがさらに好ましい。また、側方先行被毒部204は、空気極114における第3の外周辺S3および/または第4の外周辺S4の全体にわたって設けられている必要はなく、第3の外周辺S3および/または第4の外周辺S4における一部分のみに沿って設けられているとしてもよい。また、側方先行被毒部204は、空気極114における第3の外周辺S3および第4の外周辺S4の両方に沿って設けられている必要はなく、第3の外周辺S3と第4の外周辺S4との一方のみに沿って設けられているとしてもよい。
第2実施形態の空気極114は、上述した構成の先行被毒部202を有するため、上記要件RE1に加えて、以下の要件RE2を満たしている。
・要件RE2:シール材125に含まれる少なくとも1つの汚染物質について、上記要件RE1に規定された空気極114における9個の領域Raの内、中央に位置する第2の領域(本実施形態では領域Ra22)に対して上記第2の方向(本実施形態ではY軸方向)に隣接する第3の領域(本実施形態では領域Ra21または領域Ra23)における汚染物質の含有量C3(ppm)と、第2の領域(領域Ra22)における汚染物質の含有量C2(ppm)との差分ΔC2(=C3−C2)は、第3の領域(領域Ra21または領域Ra23)における汚染物質の含有量C3(ppm)の75%以上である。
なお、上記第3の領域(本実施形態では領域Ra21または領域Ra23)における汚染物質の含有量C3は、図9に示すように、該領域の内、空気極114の端部からY軸方向における空気極114の全幅W20の1/10以内の範囲A2に位置する任意の点において特定するものとする。
上述した構成の先行被毒部202を有する空気極114は、例えば、空気極114を作製した後、空気極114における先行被毒部202とする領域に、汚染物質をスプレー等により塗布することにより作製することができる。なお、このような塗布処理を高温(例えば、600℃〜800℃)で行うと、汚染物質が空気極114に定着しやすく、その後に先行被毒部202から汚染物質が飛散することを抑制することができるため、好ましい。
あるいは、上述した構成の先行被毒部202を有する空気極114は、例えば、燃料電池スタック100を作製した後、高温(例えば、600℃〜800℃)にて、または、発電を行いながら、酸化剤ガス導入マニホールド161および酸化剤ガス供給連通流路132を介して汚染物質を含むガスを空気室166に供給することにより作製することができる。空気室166に供給されたガスに含まれる汚染物質が、空気極114の内、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口に近い領域に付着することにより、該領域が供給側先行被毒部203となる。また、空気極114の外周付近に配置されたシール材125が高温にさらされることにより、シール材125から汚染物質が蒸散し、蒸散した汚染物質が空気室166におけるガス流れに沿って移動しつつ空気極114の外周(第3の外周辺S3および第4の外周辺S4)付近の領域に付着することにより、該領域が側方先行被毒部204となる。
以上説明したように、第2実施形態の燃料電池スタック100を構成する各発電単位102aは、単セル110と、空気極側フレーム130と、空気極114の外周付近に配置され、汚染物質を含むシール材125とを備える。また、本実施形態の発電単位102aにおける空気極114は、上述した要件RE1に加えて要件RE2を満たしている。すなわち、シール材125に含まれる少なくとも1つの汚染物質について、空気極114における9個の領域Raの内、中央に位置する第2の領域(領域Ra22)に対して第2の方向(Y軸方向)に隣接する第3の領域(領域Ra21または領域Ra23)における汚染物質の含有量C3(ppm)と、第2の領域(領域Ra22)における汚染物質の含有量C2(ppm)との差分ΔC2(=C3−C2)は、第3の領域(領域Ra21または領域Ra23)における汚染物質の含有量C3(ppm)の75%以上である。
ここで、燃料電池スタック100の運転中には、空気極114の外周付近に配置されたシール材125が高温に晒されるため、シール材125から汚染物質が蒸散し、該汚染物質が空気極114に付着して空気極114の被毒が起こり、燃料電池スタック100の制御性が低下するおそれがある。なお、シール材125の表面上に汚染物質を吸着するための層(例えば、特開2015−153709号公報に記載された被覆吸着層)を設けることによりシール材125からの汚染物質の蒸散を抑制することは可能であるが、シール材125からの汚染物質の蒸散を完全に防止することは困難である。
第2実施形態の燃料電池スタック100を構成する発電単位102aでは、空気極114が上記要件RE2を満たしているため、空気極114の内、中央に位置する第2の領域(領域Ra22)に対して第2の方向(Y軸方向)に隣接する第3の領域(領域Ra21または領域Ra23)における汚染物質の含有量C3が、中央に位置する第2の領域(領域Ra22)における汚染物質の含有量C2より有意に多いこととなる。空気極114の内、第3の領域(領域Ra21または領域Ra23)は、空気極114の外周側の領域であることからシール材125に近い領域であり、シール材125から蒸散した汚染物質が付着しやすい領域である。本実施形態の発電単位102aでは、シール材125から蒸散した汚染物質が付着しやすい第3の領域(領域Ra21または領域Ra23)において、当初から汚染物質の含有量が多くなっているため、運転中に該領域にさらに汚染物質が付着しても、そのことによって空気極114の性能がさらに低下すること(空気極114の抵抗がさらに増加すること)を抑制することができる。従って、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する発電単位102aによれば、運転開始後において、酸化剤ガスOGに含まれる汚染物質およびシール材125から蒸散した汚染物質による空気極114の被毒を原因とする性能低下を効果的に抑制することができ、そのような性能低下に伴う制御性の低下を効果的に抑制することができる。
図10は、第2実施形態の第1の変形例における発電単位102bを構成する空気極114の詳細構成を示す説明図である。図10に示すように、第2実施形態の第1の変形例では、空気極114の先行被毒部202における側方先行被毒部204の形状が、図9に示す第2実施形態の構成と異なっている。具体的には、第2実施形態の第1の変形例では、Y軸方向における側方先行被毒部204の幅W21が、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口に近い位置ほど狭く、反対に、酸化剤ガス排出連通流路133の空気室166(ガス室用孔131の第2の内面IP2)への開口に近い位置ほど広くなっている。
第2実施形態の第1の変形例における空気極114は、上述した構成の先行被毒部202を有するため、上記要件RE1およびRE2に加えて、以下の要件RE3を満たしている。
・要件RE3:Z軸方向視で、空気極114を、上記第2の方向(本実施形態ではY軸方向)に並ぶ4つの行(Lb1,Lb2,Lb3,Lb4)に等分し、かつ、上記第3の方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ4つの列(Cb1,Cb2,Cb3,Cb4)に等分することにより、仮想的に16個の領域Rb(Rb11,Rb12,Rb13,Rb14,Rb21,Rb22,Rb23,Rb24,Rb31,Rb32,Rb33,Rb34,Rb41,Rb42,Rb43,Rb44)に分割したとき、シール材125に含まれる少なくとも1つの汚染物質について、16個の領域Rbの内、第2の方向の一方側(本実施形態ではY軸正方向側またはY軸正負向側)から数えて1番目の行(Lb1またはLb4)に属し、かつ、第3の方向の中点MP1に近い側(本実施形態ではX軸正方向側)から数えて3番目の列(Cb3)に属する第4の領域(本実施形態ではRb31またはRb34)における汚染物質の含有量C4(ppm)と、16個の領域Rbの内、上記第2の方向の一方側から数えて1番目の行(Lb1またはLb4)に属し、かつ、第3の方向の中点MP1に近い側から数えて2番目の列(Cb2)に属する第5の領域(本実施形態ではRb21またはRb24)における汚染物質の含有量C5(ppm)との差分ΔC3(=C4−C5)は、第4の領域(Rb31またはRb34)における汚染物質の含有量C4(ppm)の65%以上である。
なお、上記第4の領域(本実施形態ではRb31またはRb34)における汚染物質の含有量C4は、図11に示すように、該領域をY軸方向に10等分する各仮想直線VL上の任意の点Pにおける汚染物質の含有量の平均値として特定するものとする。同様に、上記第5の領域(本実施形態ではRb21またはRb24)における汚染物質の含有量C5は、該領域をY軸方向に10等分する各仮想直線VL上の任意の点Pにおける汚染物質の含有量の平均値として特定するものとする。
ここで、燃料電池スタック100の運転中にシール材125から蒸散した汚染物質は、空気室166における酸化剤ガスOGの流れによって拡散するため、空気極114におけるシール材125近傍の領域(すなわち、外周付近の領域)の中でも、空気室166における酸化剤ガスOGの流れの下流側に近い領域に付着しやすく、該領域において空気極114の被毒が起こりやすい。
第2実施形態の第1の変形例における発電単位102bでは、空気極114が上記要件RE3を満たしているため、空気極114におけるシール材125近傍の領域の内、空気室166における酸化剤ガスOGの流れの下流側に位置する第4の領域(領域Rb31またはRb34)における汚染物質の含有量C4が、該領域より上流側に位置する第5の領域(領域Rb21またはRb24)における汚染物質の含有量C5より有意に多いこととなる。すなわち、第2実施形態の第1の変形例における発電単位102bでは、運転中にシール材125から蒸散した汚染物質が特に付着しやすい第4の領域(領域Rb31またはRb34)において、当初から汚染物質の含有量が多くなっている。そのため、運転中に該領域にさらに汚染物質が付着しても、そのことによって空気極114の性能がさらに低下すること(空気極114の抵抗がさらに増加すること)を抑制することができる。従って、第2実施形態の第1の変形例における燃料電池スタック100を構成する発電単位102bによれば、運転開始後において、シール材125から蒸散した汚染物質による空気極114の被毒を原因とする性能低下をさらに効果的に抑制することができ、そのような性能低下に伴う制御性の低下をさらに効果的に抑制することができる。
図12は、第2実施形態の第2の変形例における発電単位102cを構成する空気極114の詳細構成を示す説明図である。図12に示すように、第2実施形態の第2の変形例では、空気極114の先行被毒部202における側方先行被毒部204の形状が、図9に示す第2実施形態の構成と異なっている。具体的には、第2実施形態の第2の変形例では、Y軸方向における側方先行被毒部204の幅W21が、酸化剤ガス供給連通流路132の空気室166(ガス室用孔131の第1の内面IP1)への開口に近い位置ほど広く、反対に、酸化剤ガス排出連通流路133の空気室166(ガス室用孔131の第2の内面IP2)への開口に近い位置ほど狭くなっている。
第2実施形態の第2の変形例における空気極114は、上述した構成の先行被毒部202を有するため、上記要件RE1およびRE2に加えて、以下の要件RE4を満たしている。
・要件RE4:Z軸方向視で、空気極114を、上記第2の方向(本実施形態ではY軸方向)に並ぶ4つの行(Lb1,Lb2,Lb3,Lb4)に等分し、かつ、上記第3の方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ4つの列(Cb1,Cb2,Cb3,Cb4)に等分することにより、仮想的に16個の領域Rbに分割したとき、シール材125に含まれる少なくとも1つの汚染物質について、16個の領域Rbの内、第2の方向の一方側(本実施形態ではY軸正方向側またはY軸正負向側)から数えて1番目の行(Lb1またはLb4)に属し、かつ、第3の方向の中点MP1に近い側(本実施形態ではX軸正方向側)から数えて2番目の列(Cb2)に属する第5の領域(本実施形態ではRb21またはRb24)における汚染物質の含有量C5(ppm)と、16個の領域Rbの内、上記第2の方向の一方側から数えて1番目の行(Lb1またはLb4)に属し、かつ、第3の方向の中点MP1に近い側から数えて3番目の列(Cb3)に属する第4の領域(本実施形態ではRb31またはRb34)における汚染物質の含有量C4(ppm)との差分ΔC4(=C5−C4)は、第5の領域(Rb21またはRb24)における汚染物質の含有量C5(ppm)の65%以上である。
ここで、燃料電池スタック100の運転中に、空気極114の内、空気室166における酸化剤ガスOGの流れの上流側に近い領域では、発電反応が集中しやすく、その結果、高温になりやすい。また、空気極114の被毒の原因となる汚染物質は、空気極114における高温の領域に定着しやすい。また、空気極114の被毒の原因となる汚染物質は、空気極114の表面に付着するだけでなく、三相界面付近で化学反応を起こして三相界面を減少させるが、このような化学反応は、空気極114における発電反応量が多い箇所で多く発生する。そのため、燃料電池スタック100の運転中に、シール材125から蒸散した汚染物質は、空気極114におけるシール材125近傍の領域(すなわち、外周付近の領域)の中でも、空気室166における酸化剤ガスOGの流れの上流側に近い領域に付着しやすく、該領域において空気極114の被毒が起こりやすい。
第2実施形態の第2の変形例における発電単位102cでは、空気極114が上記要件RE4を満たしているため、空気極114におけるシール材125近傍の領域の内、空気室166における酸化剤ガスOGの流れの上流側に位置する第5の領域(Rb21またはRb24)における汚染物質の含有量C5が、該領域より下流側に位置する第4の領域(領域Rb31またはRb34)における汚染物質の含有量C4より有意に多いこととなる。すなわち、第2実施形態の第2の変形例における発電単位102cでは、運転中にシール材125から蒸散した汚染物質が特に付着しやすい第5の領域(領域Rb21またはRb24)において、当初から汚染物質の含有量が多くなっている。そのため、運転中に該領域にさらに汚染物質が付着しても、そのことによって空気極114の性能がさらに低下すること(空気極114の抵抗がさらに増加すること)を抑制することができる。従って、第2実施形態の第2の変形例における燃料電池スタック100を構成する発電単位102cによれば、運転開始後において、シール材125から蒸散した汚染物質による空気極114の被毒を原因とする性能低下をさらに効果的に抑制することができ、そのような性能低下に伴う制御性の低下をさらに効果的に抑制することができる。
なお、空気極114におけるシール材125近傍の領域(すなわち、外周付近の領域)の内、空気室166における酸化剤ガスOGの流れの下流側に近い領域で空気極114の被毒が起こりやすいか、酸化剤ガスOGの流れの上流側に近い領域で空気極114の被毒が起こりやすいか(あるいは下流側でも上流側でも空気極114の被毒の起こりやすさは同程度か)は、燃料電池スタック100の構成や運転条件(酸化剤ガスOGの流量および流速や運転温度等)に応じて決まる。そのため、燃料電池スタック100の構成や運転条件等に応じて、図9に示された第2実施形態の構成と、図10に示された第2実施形態の第1の変形例の構成と、図12に示された第2実施形態の第2の変形例の構成とのいずれを採用するかを選択することが好ましい。
C.その他の変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上記実施形態における単セル110、発電単位102または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態において、空気極114における基準部201と先行被毒部202との境界は、直線状である必要はなく、階段状や曲線状であってもよい。また、上記第1実施形態において、シール材125が設けられないとしてもよい。
また、上記実施形態では、空気極側フレーム130に酸化剤ガス供給連通流路132が3つ形成されているが、空気極側フレーム130に形成される酸化剤ガス供給連通流路132の数は2つ以下でもよいし、4つ以上でもよい。
また、上記実施形態において説明した空気極114の構成(要件RE1〜RE4)は、燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110(発電単位102)において採用されていてもよいし、燃料電池スタック100に含まれる一部のみの単セル110(発電単位102)において採用されていてもよい。
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110(発電単位102)の個数は、あくまで一例であり、単セル110(発電単位102)の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
また、上記実施形態では、発電単位102として、空気室166における酸化剤ガスOGの主たる流れ方向と燃料室176における燃料ガスFGの主たる流れ方向とが略直交するクロスフロータイプのものが例示されているが、本発明は、他のタイプ(例えば、空気室166における酸化剤ガスOGの主たる流れ方向と燃料室176における燃料ガスFGの主たる流れ方向とが略同一方向であるコフロータイプや、両流れ方向が互いに対向する方向であるカウンターフロータイプ)の発電単位にも同様に適用可能である。
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は、平板状の単セル110を備える発電単位102が複数並べて配置された構成であるが、本発明は、他の形状(例えば筒状)の単セルを備える発電単位や、そのようなセルまたは発電単位が複数並べて配置された燃料電池スタックにも同様に適用可能である。また、上記実施形態では、ガス供給部として、フレーム状の部材(空気極側フレーム130)が用いられているが、他の形状のガス供給部が用いられてもよい。
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016−81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位および電解セルスタックにおいても、上記実施形態と同様の空気極114の構成(要件RE1〜RE4)を採用することにより、運転開始後において、汚染物質による空気極の被毒を原因とする性能低下を抑制することができ、そのような性能低下に伴う制御性の低下を抑制することができる。
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。