JP6892757B2 - 高分子電解質膜、及びそれを用いた燃料電池 - Google Patents
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Description
燃料電池自体は、機械部分がないため騒音の発生が少なく、また外部からの燃料と酸化剤を供給し続け、原理的には半永久的に発電させることができるのが特徴である。電解質は、液体電解質や固体電解質に分類されるが、この中で電解質として高分子電解質を用いたものが固体高分子形燃料電池である。
特に、固体高分子形燃料電池は、他と比較して低温で作動することから、自動車等の代替動力源や家庭用コジェネレーションシステム、携帯用発電機として期待されている。
一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は外部回路を通ってカソード側ガス拡散電極に到達し、カソード触媒上にて上記プロトンと酸化剤中の酸素と反応して水が生成され、このとき電気エネルギーを取り出すことができる。この際、高分子電解質膜はガスバリアとしての役割も果たす必要があり、高分子電解質膜のガス透過率が高いと、アノード側水素のカソード側へのリーク及びカソード側酸素のアノード側へのリーク、即ちクロスリークが発生して、いわゆるケミカルショート(化学的短絡)の状態となって良好な電圧を取り出せなくなる。
[1]
A層、B層、及びC層の、異なる3層を少なくとも含む積層フィルムであり、
前記A層、前記B層、及び前記C層が、それぞれ高分子電解質を含み、
前記A層が塩基性重合体を含む高分子電解質層であり、前記B層が塩基性重合体を含まない高分子電解質層であり、前記C層が高分子電解質と多孔質材料とを含む層であり、
前記C層が、前記A層と前記B層の間に位置し、前記A層の塩基性重合体の分解物を前記B層への移行を抑止する分解物緩衝層である
高分子電解質膜。
[2]
前記A層における高分子電解質に対する、前記塩基性重合体の重量比が0%より大きく10%未満である、[1]に記載の高分子電解質膜。
[3]
A層における塩基性重合体が、化学式(1)から(3)から選択される少なくとも一つのポリベンズイミダゾールである、[1]又は[2]に記載の高分子電解質膜。
[4]
前記ポリベンズイミダゾールが、下記式(4)で表されるポリ[(2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]である、[3]に記載の高分子電解質膜。
[5]
A層、B層、及びC層における高分子電解質が、化学式(5)で表されるパーフルオロカーボン重合体である、[1]から[3]のいずれかに記載の高分子電解質膜。
[CF2CX1X2]a−[CF2−C F(−O−(CF2−CF(CF2X3))b−Oc−(CFR1)d−(CFR2)e−(CF2)f−X4)]g
・・・(5)
(式(5)中、X1、X2及びX3はそれぞれ独立にハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0又は1であり、d、e及びfはそれぞれ独立に0〜6の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、R1及びR2はそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基であり、X4は、−COOZ、−SO3Z、−PO3Z2、−PO3HZ(Zは水素原子、金属原子(Na、K、Ca等)、又はアミン類(NH4、NH3R、NH2R2、NHR3、NR4(Rはアルキル基、又はアレーン基)である。)
[6]
前記パーフルオロカーボン重合体が、下記式(6)又は(7)で表されるパーフルオロカーボン重合体である、[5]に記載の高分子電解質膜。
[CF2CF2]a−[CF2−CF(−O−(CF2−CF(CF3))b−O−(CF2)f−X4)]g
・・・(6)
(式(6)中、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦b≦3、1≦f≦8であり、X4は−COOH、−SO3H、−PO3H2又は−PO3Hである。)
[CF2CF2]a−[CF2−CF(−O−(CF2)f−X4)] ・・・(7)
(式(7)中、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦f≦8であり、X4は−COOH、−SO3H、−PO3H2又は−PO3Hである。)
[7]
C層における多孔質材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、及びテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体からなる群より選択される少なくとも1つである、[1]から[6]のいずれかに記載の高分子電解質膜。
[8]
膜厚が1μm以上50μm以下である、[1]から[7]のいずれかに記載の高分子電解質膜。
[9]
[1]から[8]のいずれかに記載の高分子電解質膜を含む、膜電極接合体。
[10]
[9]に記載の膜電極接合体を含む、燃料電池。
前記A層は塩基性重合体を含む高分子電解質層であり、前記B層は塩基性重合体を含まない高分子電解質層であり、前記C層は高分子電解質と多孔質材料とを含む層であり、
前記C層は、前記A層と前記B層の間に位置し、前記A層の塩基性重合体の分解物を前記B層への移行を抑止する分解物緩衝層である。
上記したような積層構造とすることで、得られる高分子電解質膜のガスバリア性及び電池特性を、目標に応じて設計できる。
・・・(5)
・・・(6)
上記のように塩基性重合体と高分子電解質との相互作用の形成の有無は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(以下、FT−IRと称する)により確認することができる。本実施形態の高分子電解質積層膜のFT−IR測定を行ったときに、塩基性重合体と高分子電解質とのいずれか以外に由来する吸収ピークが観察されることによって、相互作用が形成されていると判断できる。例えば、本実施形態の高分子電解質積層膜が、上記式(7)で表されるパーフルオロカーボン重合体と、上記式(4)で表されるポリ[(2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]を含むA層を有する場合、FT−IR測定を行うと、1460cm-1、1565cm-1、1635cm-1付近に吸収ピークが観察され、相互作用が存在することがわかる。
また、C層は、A層とB層との間に配置される。A層とB層とからなる積層フィルムの場合、燃料電池の運転時間が長時間になった場合、A層に含まれる塩基性重合体が分解し、その分解物(窒素含有化合物)がA層とB層の界面近傍、及びB層へ伝播し、積層フィルムの電池性能を著しく低下させると考えられる。詳細は詳らかではないが、本実施形態の高分子電解質膜の場合は、A層とB層との間にC層が存在することで、A層とB層の界面をなくし、さらに塩基性重合体の分解物がB層へ伝播することを防ぐため、得られる高分子電解質膜の電池性能が低下することなく、ガスバリア性、電池性能、化学的耐久性全てにおいて良好な結果を発現させることができる。すなわち、C層は分解物緩衝層として機能することができる。
上記塗布する方法としては、例えば、スロットダイ方式、特表平11−501964号公報に開示された正転ロールコーティング、逆転ロールコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、スプレーコーティング等のコーティング技術が挙げられる。これら方法は、目的とする塗工液層の厚み、塗工液等の材料物性、塗工条件を考慮して、適宜選択することができる。
まず、移動している又は静置されている細長いキャスティング基材(シート)上に塩基性重合体を含まない高分子電解質溶液の被膜を形成し、その溶液上に細長い多孔質材料を接触させ、B層とC層からなる未完成な複合構造体を作製し、この未完成な複合構造体を熱風循環槽中等で乾燥させる。
次に、乾燥させた未完成な複合構造体の上に塩基性重合体を含む高分子電解質溶液の被膜をさらに形成することによりA層を複合化し、目的の高分子電解質膜を作製する。
まず、総固形分濃度が1〜50質量%となるような条件下、高分子電解質を、例えば、水とプロトン性有機溶媒との混合溶媒に加える。次に、この組成物を必要に応じてガラス製内筒を有するオートクレーブ中に入れ、窒素等の不活性気体で内部の空気を置換した後、内温が50℃〜250℃の条件下、1〜12時間加熱、攪拌する。これにより、溶解液又は懸濁液が得られる。なお、この際の総固形分濃度は、高いほど収率を向上させる一方、濃度を高めると未溶解物が生じるおそれがあるため、1〜50質量%が好ましく、3〜40質量%がより好ましく、5〜30質量%がさらに好ましい。
高分子電解質溶液が塩基性重合体を含む高分子電解質溶液である場合、かかる高分子電解質溶液は高分子電解質にさらに塩基性重合体を配合することにより調製される。
膜厚はシックネスゲージ(ミツトヨ社製:「547−401」(コードNo))にて測定した。
フロー式ガス透過率測定装置(「GTR−30XFAFC」、GTRテック(株)製)を用いて、高分子電解質膜の水素ガス透過係数を測定した。供給ガス流量は、TESTガス(水素)10cc/min、キャリアーガス(He)100kPaとした。ガスの加温加湿条件は、80℃30%RHを採用した。TESTガス側からFLOW側に高分子電解質膜を透過してきた水素ガスを、ガスクロマトグラフ(「G2700TF」、ヤナコ分析工業(株)製)に導入して、ガス透過量を定量化した。ガス透過量をX(cc)、補正係数をk(=1.0)、高分子電解質膜の膜厚をT(cm)、透過面積をA(cm2)、計量管通過時間をD(sec)、酸素分圧をp(cmHg)としたときの水素ガス透過係数P(cc・cm/(cm2・sec・cmHg))は下記式から計算した。
高分子電解質膜の化学耐久性を加速的に評価するため、以下のような手順でOCVによる加速試験を実施した。なお、「OCV」とは、開回路電圧(Open Circuit Voltage)を意味する。
パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(25質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー水溶液(旭化成(株)社製、製品名:SS700C/25、イオン交換容量=740eq/g)、電極触媒(「TEC10E40E」、田中貴金属販売社製、白金担持量36.7wt%)を、白金/パーフルオロスルホン酸ポリマーが1/1.15(質量)となるように配合した。次いで、固形分(電極触媒とパーフルオロスルホン酸ポリマーの質量の和)が、11質量%となるようにエタノールを加え、ホモジナイザー(アズワン社製)により、回転数3000rpmで10分間撹拌することで電極触媒インクを得た。
自動スクリーン印刷機(「LS−150」、ニューロング精密工業株式会社製)を用いて、高分子電解質膜の両面に前記電極触媒インクを、白金量がアノード側0.2mg/cm2、カソード側0.3mg/cm2となるように塗布し、140℃、5分の条件で乾燥・固化させることでMEAを得た。
前記MEAの両極にガス拡散層(「GDL35BC」、MFCテクノロジー社製)を重ね、次いでガスケット、バイポーラプレート、バッキングプレートを重ねることで燃料電池単セルを得た。
前記燃料電池単セルを評価装置(東陽テクニカ製燃料電池評価システム890CL)にセットして、OCVによる耐久性試験を実施した。OCV試験条件は、セル温度95℃、加湿ボトル50℃(相対湿度25%RH)とし、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを、それぞれ50cc/minとなるよう供給する条件とした。また、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。
試験開始から50時間毎に水素のリーク量を、マイクロガスクロマトグラフ(「CP−4900」、VARIAN社製)を用いて測定した。水素のリーク量が1000ppm以上となった時点で破膜と判断し試験を中止した。上記OCV試験で、破膜までの時間が300時間以上を「○」(化学耐久性に優れる)、300時間未満の場合を「×」(化学耐久性に劣る)と判定した。
前記(3)の手法で得た燃料電池単セルを用いて、性能試験を行った。性能試験条件は、セル温度80℃、アノードの加湿ボトル60℃、カソードの加湿ボトル60℃とした。またアノード側に水素ガスを利用率が75%となるように流通し、カソード側には空気ガスを、空気ガス中に含まれる酸素ガスの利用率が55%となるように流通した。さらに、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。この条件下、1.0A/cm2でのセル電圧を測定した。上記セル電圧が、0.63V以上を「○」(電池性能に優れる)、0.63V未満の場合を「×」(電池性能に劣る)と判定した。
高分子電解質として、式(7)で表されるパーフルオロスルホン酸重合体(以下、PFSAとも称す)を選択した。25質量%のPFSA水溶液(旭化成(株)社製、製品名:SS700C/25、イオン交換容量=740eq/g)に対して、PFSAが10質量%になるように水、エタノールで調整し、PFSA溶液として以下の実験に用いた。
高分子電解質膜の作製方法としては、PFSA溶液を、ポリイミド基材上に塗布し、B層を形成し、その上に多孔質材料を貼り合せ、多孔質材料の空隙部にPFSAを充填させ、その後120℃で20分間乾燥することで、B層とC層からなる未完成な複合構造体を作製した。得られた未完成な複合構造体の膜厚は8μmであった。この上にPFSA/PBI溶液を塗布し、A層を形成し、120℃で20分間、190℃で30分間乾燥することで、高分子電解質膜を得た。得られた高分子電解質膜の膜厚、ガス透過係数、化学耐久性、電池性能を上記した方法で評価し、その結果を表1に示した。
実施例1におけるA層に用いるPFSA/PBI溶液をPFSA溶液に替えたこと以外は、実施例1と同様の方法で高分子電解質膜を作製し、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
実施例1におけるB層に用いるPFSA溶液をPFSA/PBI溶液に替えたこと以外は、実施例1と同様の方法で高分子電解質膜を作製し、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
多孔質材料を用いなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で高分子電解質膜を作製し、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
Claims (5)
- A層、B層、及びC層の、異なる3層を少なくとも含む積層フィルムであり、
前記A層、前記B層、及び前記C層が、それぞれ高分子電解質を含み、
前記A層が塩基性重合体を含む高分子電解質層であり、前記B層が塩基性重合体を含まない高分子電解質層であり、前記C層が高分子電解質と多孔質材料とを含む層であり、
前記C層が、前記A層と前記B層の間に位置し、前記A層の塩基性重合体の分解物を前記B層への移行を抑止する分解物緩衝層であり、
前記A層、B層、及びC層における高分子電解質が、下記(7)で表されるパーフルオロカーボン重合体であり、
[CF 2 CF 2 ] a −[CF 2 −CF(−O−(CF 2 ) f −X 4 )] ・・・(7)
(式(7)中、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦f≦8であり、X 4 は−COOH、−SO 3 H、−PO 3 H 2 又は−PO 3 Hである。)
前記A層における塩基性重合体が、下記式(4)で表されるポリ[(2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]であり、
前記C層における多孔質材料が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である、
固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜。
- 前記A層における高分子電解質に対する、前記塩基性重合体の重量比が0%より大きく10%未満である、請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜。
- 膜厚が1μm以上50μm以下である、請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜。
- 請求項1から3のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜を含む、膜電極接合体。
- 請求項4に記載の膜電極接合体を含む、燃料電池。
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