以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。また本明細書において、「板」、「シート」及び「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて互いから区別されるものではない。例えば「板」という用語は、シートやフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。また、本明細書において用いられる形状、幾何学的条件、及びそれらの程度を特定する用語(例えば「平行」、「直交」及び「同一」等の用語や長さや角度の値等)は、厳密な意味に縛られず、実質的に同等及び同様の機能を期待しうる程度の範囲を意味し得るものとして解釈される。
図1〜図9は、本発明の一実施の形態を説明するための図である。このうち図1は、調光装置を模式的に示す図である。図2及び図3は、調光セルの概略構成を示す縦断面図である。図4〜図7は、調光セルの製造方法の一例を説明するための図である。
図1に示すように、調光装置10は、調光セル20と、調光セル20と電気的に接続した調光コントローラ12と、を有している。調光セル20は、第1基板30及び第2基板40と、第1樹脂製基材32および第2樹脂製基材42の間に設けられた複数のスペーサ50と、第1基板30および第2基板40の間に設けられた液晶層55と、第1基板30と第2基板40との間で液晶層55を周状に取り囲むシール材51と、を有している。図示された例において、第1基板30は、第1樹脂製基材32を含んでおり、第2基板40は、第2樹脂製基材42を含んでいる。また、第1基板30および第2基板40の少なくとも一方が電極33を含んでいる。この調光装置10では、調光コントローラ12から電極33への電圧印加の程度によって、調光セル20を透過する光の透過率を変化させることができる。
調光装置10の適用対象は特に限定されず、典型的には窓及びドア等に対して調光セル20を適用することができる。とりわけ、スペーサ50を用いて第1基板30及び第2基板40の相対位置を固定することで、振動等の外力が加えられる環境下に調光セル20を設置することも可能となる。したがって、建築物の窓やドアだけでなく、飛行機、船、電車、自動車等の乗り物の窓やドア等にも調光セル20を適用することができる。このような窓やドア等への適用において、調光セルは、ガラス等の透明部材に貼合され、或いは、一対のガラス等の透明部材の間に挟持されて、用いられる。
以下、調光装置10の各構成要素について説明する。まず、調光セル20以外の構成要素について説明する。
図1に示す例において、調光コントローラ12にはセンサ装置14及びユーザ操作部16が接続されている。調光コントローラ12は、調光セル20の調光状態を制御し、調光セル20による光の遮断及び透過を切り換えたり、調光セル20を透化する光の透過率(透過度)を変えたりすることができる。具体的には、調光コントローラ12は、調光セル20の液晶層55に印加する電圧を調整して液晶層55中の液晶分子の配向を変えることで、調光セル20による光の遮断及び透過を切り換えたり、光の透過度を変えたりすることができる。
調光コントローラ12は、任意の手法に基づいて液晶層55に印加する電圧を調整することができる。例えばセンサ装置14の測定結果や、ユーザ操作部16を介してユーザにより入力される指示(コマンド)に応じて、調光コントローラ12は、液晶層55に印加する電圧を調整し、調光セル20による光の遮断及び透過を切り換えたり、光の透過度を変えたりすることができる。したがって、調光コントローラ12は、液晶層55に印加する電圧を、センサ装置14の測定結果に応じて自動的に調整してもよいし、ユーザ操作部16を介したユーザの指示に応じて手動的に調整してもよい。なお、センサ装置14による測定対象は特に限定されず、例えば使用環境の明るさを測定してもよく、この場合、調光セル20による光の遮断及び透過の切り換えや光の透過度の変更が使用環境の明るさに応じて行われる。また調光コントローラ12には、必ずしもセンサ装置14及びユーザ操作部16の両方が接続されている必要はなく、センサ装置14及びユーザ操作部16のうちのいずれか一方のみが接続されていてもよい。
次に、調光セル20について説明する。上述したように、調光セル20は、一対の基板30,40と、一対の基板30,40間に配置された液晶層55と、を有している。一対の基板30,40の少なくとも一方が電極を有している。第1基板30及び第2基板40は、調光コントローラ12からの電圧印加により、液晶層55をなす液晶材料56中に含まれる液晶分子の配向を変化させることを可能とする構成を有している。液晶分子の駆動方式は、特に限定されることなく、例えば、VA(Vertical Alignment)方式、TN(Twisted Nematic)方式、IPS(In Plane Switching)方式、GH(Guest Host)方式、或いはこれらの方式の応用方式を採用することができる。
第1基板30及び第2基板40、並びに、液晶層55は、採用された液晶分子の駆動方式にともなって、適宜選択され得る。例えば、IPS方式が採用された場合、第1基板30及び第2基板40の一方だけが、電極を有するようにすればよい。また、GH方式が採用された場合、液晶層55をなす液晶材料56は、液晶分子とともに二色性色素を含む。さらに、GH方式が採用された場合、第1基板30及び第2基板40の一方或いは両方が、偏光板を含まなくてもよい。
ここで、図2は、VA方式を採用した調光セル20の具体的な構成例を示している。以下、図2に示された例を参照して、調光セル20の具体例について説明する。
図2に示された例において、第1基板30は、液晶層55に離間する側から順に、第1偏光板31、第1樹脂製基材32、第1電極33及び第1配向膜34を有している。同様に、第2基板40は、液晶層55に離間する側から順に、第2偏光板41、第2樹脂製基材42、第2電極43及び第2配向膜44を有している。
このうち、まず、第1偏光板31及び第2偏光板41について説明する。偏光板31,41は、その吸収軸と平行な方向に振動する一方の直線偏光成分を選択的に吸収し且つ吸収軸と直交する透過軸と平行な方向に振動する他方の直線偏光成分を選択的に透過する偏光機能を有した層である。偏光板31,41は、具体的な構成として、偏光子と、偏光子を樹脂製基材32,42に貼合するための粘着層と、を有するようにしてもよい。偏光子は、所望の偏光機能を発揮し得るように構成され、典型的には、ヨウ素化合物がドープされたPVA(ポリビニルアルコール)を延伸することによって作られる。一般に、延伸によって偏光子が作られる場合、当該延伸の方向に応じて偏光子の吸収軸が定まり、同じ方向に延伸された偏光子は相互に同じ方向の吸収軸を持つ。第1偏光板31及び第2偏光板41の配置態様として、第1偏光板31の吸収軸と第2偏光板41の吸収軸とが互いに平行である「パラレルニコル」と呼ばれる態様と、第1偏光板31の吸収軸と第2偏光板41の吸収軸とが互いに垂直である「クロスニコル」と呼ばれる態様とがある。VA方式では、第1偏光板31及び第2偏光板41を「クロスニコル」で配置することにより、非透過状態での透過率をより確実に低下させることができる。
次に、第1樹脂製基材32及び第2樹脂製基材42について説明する。樹脂製基材32,42は、シート状の樹脂からなる。ガラス製基材に代えて樹脂製基材32,42を使用することで、薄型軽量化を実現することができる。また、樹脂製基材32,42を用いることで、調光セル20に柔軟性を付与することができ、調光セル20を二次元曲面状だけでなく三次元曲面状とすることもできる。ここで、二次元曲面とは、単一の軸線を中心として二次元的に曲がった曲面、或いは、互いに平行な複数の軸線を中心として同一又は異なる曲率で二次元的に曲がった曲面のことである。一方、三次元曲面とは、互いに非平行な複数の軸線の各々を中心として、部分的に又は全体的に曲がっている面を意味する。
一具体例として、樹脂製基材32,42は、複数の樹脂層を含むようにしてよい。例えば、樹脂製基材32,42が、一対のハードコート層と、一対のハードコート層間に配置される主樹脂層と、を有するようにしてもよい。各ハードコート層は、隣接する主樹脂層を保護する役割を果たし、可視光線を透過可能な任意の材料によって構成可能である。ハードコート層は、例えばTAC(トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose))やアクリルによって構成され、粘着層を介して主樹脂層に貼り付けられてもよい。また主樹脂層の表面上に、例えばシリコーン系の紫外線硬化樹脂を用いて微小粒子(例えば二酸化チタン等)を含む硬化皮膜を形成し、当該硬化皮膜をハードコート層として機能させてもよい。なお第1樹脂製基材32及び第2樹脂製基材42の複数箇所に形成されるハードコート層は、配置位置に応じて異なる材料によって構成されてもよいし、同じ材料によって構成されてもよい。
次に、第1電極33及び第2電極43について説明する。電極33,43は、ITO(Indium Tin Oxide(酸化インジウムスズ))等の各種材料によって透明電極として形成される。電極33,43は、例えばFPC等を介して、調光コントローラ12と接続される。第1電極33及び第2電極43の配置態様は特に限定されず、パターニング形成によって所定箇所にのみ電極が配置されてもよいし、ベタ状に電極が配置されてもよい。第1電極33及び第2電極43に印加される電圧に応じて、第1電極33と第2電極43との間に配置される液晶層55に作用する電界が形成され、液晶層55を構成する液晶材料56中の液晶分子の配向が調整される。
次に、第1配向膜34及び第2配向膜44について説明する。配向膜34,44は、液晶層55に隣接する層であって、液晶層55中の液晶分子の配向を制御する。配向膜34,44の製法は、特に限定されない。任意の手法によって液晶配向能を有する第1配向膜34及び第2配向膜44を作ることができる。例えば、ポリイミド等の樹脂層に対してラビング処理を施すことで配向膜34,44が作製されてもよいし、高分子膜に直線偏光紫外線を照射して偏光方向の高分子鎖を選択的に反応させる光配向法に基づいて配向膜34,44が作製されてもよい。このようなラビング処理による配向層、光配向層に代えて、ラビング処理により製造した微細なライン状凹凸形状を賦型処理により製造して配向層を製造してもよい。
第1配向膜34及び第2配向膜44の間には、液晶層55が設けられている。液晶層55は、液晶材料56を含んでいる。図示された例では、VA方式が採用されており、液晶材料56は負の誘電率異方性を有するネマチック液晶を含んでいる。VA方式において、液晶分子の配向は、一対の電極33,43間に電圧が印加されていない状態において、配向膜34,44の配向能によって規制され、垂直配向となる。このとき、液晶層55を透過する光の偏光状態が維持される。一方、一対の電極33,43間に電圧が印加されると、電界に制御されて液晶分子が倒れる。このとき、液晶層55を透過することで一方の直線偏光成分が他方の直線偏光成分となる。すなわち、偏光板31,41をクロスニコルで配置すると、印加状態で透過(白表示)となり、非印加状態で遮光(黒表示、ノーマリーブラック)となる。
次に、シール材51について説明する。図1に示すように、一対の基板30,40間にシール材51が設けられている。後述する図8に示すように、シール材51は、液晶層55を周状に取り囲んでいる。すなわち、このシール材51が、液晶材料56が充填されてなる液晶層55を区画している。シール材51は、液晶層55を構成する液晶材料56の一対の基板30,40間からの漏出を防ぐ役割を果たすとともに、第1基板30(第1配向膜34)と第2基板40(第2配向膜44)に接着して両者を相互に固定する役割を果たす。
なお、詳しくは図8及び図9を参照して後述するが、本実施の形態では、シール材51の真直性、とりわけシール材51の内側縁ieの真直性について工夫を行っている。この工夫により、内側縁ieで区画される液晶層55の縁部への気泡の混入を効果的に防止することが可能となっている。なお、シール材51の内側とは、シール材51に対して、シール材51によって取り囲まれる側(つまり、液晶層55の側)のことを指している。シール材の外側とは、シール材51によって取り囲まれる側(つまり、液晶層55の側)とは逆側のことを指している。
シール材51は、一般的には、熱硬化性のエポキシ樹脂を用いて形成され得る。とりわけ、一対の基板30,40間への液晶材料56の充填方式が真空注入方式の場合にはエポキシ樹脂製のシール材51を好適に用いることができる。なお液晶材料56の充填方式としてODF(One Drop Fill)方式が用いられる場合には、熱硬化性及びUV硬化性(紫外線硬化性)を併せ持つハブリッドタイプの材料をシール材51として好適に用いることができる。これは、液晶材料56が硬化前のシール材51に触れることは外観上の不具合を誘発するためである。したがってシール材51を構成するシール材料52(シール材51の組成成分)に、例えば紫外線硬化型アクリル樹脂及びエポキシ樹脂が含まれることが好ましい。
次に、スペーサ50について説明する。スペーサ50は、第1基板30の第1樹脂製基材32と第2基板40の第2樹脂製基材42との間に配置されている。スペーサ50は、第1樹脂製基材32と第2樹脂製基材42との間に、スペースを確保する。このスペースに液晶材料56が充填されることで、液晶層55が形成されている。上述した液晶層55は、透過光の位相変調量を制御するものであり、したがって、一対の基板30,40間で或る程度一定の厚さを有している必要がある。また、複数のスペーサ50は、一対の樹脂製基材32,42間となる領域に、離散的に配置されている。各スペーサ50は、各種の樹脂材料によって構成可能であり、錐台(例えば円錐台や角錐台)等の形状を有していてもよいし、球状のビーズ形状を有していてもよい。柱形状のスペーサ50はフォトリソグラフィ技術を利用して所望箇所に形成可能であり、またビーズ形状のスペーサは予め作られて散布される。
ところで、図2に示された例では、第1基板30において、第1配向膜34は、第1電極33に隣接して、第1電極33に沿って延び広がっている。つまり、第1配向膜34は第1電極33に面状に隣接して設けられている。一方、第2基板40において、スペーサ50が、第2配向膜44と第2電極43との間に設けられている。第2配向膜44は、第2電極43とスペーサ50とに沿って延び広がっている。すなわち、第2配向膜44の液晶層55とは反対側の面は、第2電極43およびスペーサ50のいずれかに接触している。図2の例では、スペーサ50上において、第1基板30の第1配向膜34と第2基板40の第2配向膜44とが当接している。スペーサ50は、一対の樹脂製基材32,42間に位置するものの、一対の基板30,40間ではなく第2基板40内に位置している。
しかしながら、図2の例に限られることなく、例えば図3に示された例のように、スペーサ50が、一対の基板30,40間に配置されるようにしてもよい。図3に示された例では、第1配向膜34と同様に、第2配向膜44は、第2電極43に隣接して第2電極43に沿って延び広がっている。
次に、図4〜図7を参照して、以上の構成からなる調光セル20の製造方法に一例について説明する。
まず、図4に示すように、第2基板40及びスペーサ50を用意する。第2基板40は、例えば次のようにして作製することができる。まず。第2樹脂製基材42上に第2電極43をスパッタリング等により成膜する。次に、第2配向膜44をなすようになる組成物を第2配向膜44上に塗布し、その後にラビングや光配向等によって配向規制力を塗膜に付与することで、第2配向膜44を作製する。その後、第2偏光板41を第2樹脂製基材42に貼合することで、第2基板40が得られる。スペーサ50は、フォトリソグラフィ技術を用いて作製することができる。図2に示された調光セル20を作製する場合には、第2配向膜44よりも先にスペーサ50を第2電極43上に形成する。図3に示された調光セル20を作製する場合には、スペーサ50よりも先に第2配向膜44を第2電極43上に形成する。
次に、図5に示すように、シール材料52を周状に塗布する。シール材料52は、接着性または粘着性を有した材料である。シール材料52は、硬化することでシール材51を形成するようになる。その後、図6に示すように、シール材51で取り囲まれた第2基板40上の領域に、液晶分子を含んだ液晶材料56を供給する。
次に、図7に示すように、減圧下で、第1基板30を第2基板40上に積層する。その後、シール材料52が変形および硬化して第1基板30及び第2基板40を接合することで、調光セル20が得られる。なお、第1基板30は、ガラス製基材ではなく樹脂製基材を含むことで、より柔軟となる。したがって、第1基板30及び第2基板40を接合する際、ローラー60等を用いて、第1基板30及び第2基板40の間から気泡を効果的にしごき出すことは可能となる。
このようにして得られた調光セル20では、調光コントローラ12から電極33,43への電圧印加により、液晶層55内の液晶分子の配向を制御することができる。液晶分子の配向の変更により、液晶層55内を透過する際における光の位相変調量が変化する。これにより、第1基板30、液晶層55及び第2基板40を透過する光の透過率を変化させることができる。
ところで、従来の不具合として既に説明したように、液晶層への気泡の混入が知られている。TN方式、VA方式、IPS方式を含むほとんどの駆動形式の調光セルにおいて、液晶分子の配向を調節することで透過光の偏光状態を制御し透過率を調節している。気泡は、当然に透過光の偏光状態を制御することは不可能である。したがって、気泡が混入した位置では、電圧印加の有無に依らず、常に透過(白表示)または常に遮光(黒表示)となってしまう。つまり、液晶層への気泡の混入は、調光セルにおいて致命的な欠陥とも言える。
調光セルで問題となる気泡には、第1基板及び第2基板を接合して液晶材料を封止した際に確認される気泡だけでなく、当初確認されなかったものの調光セルを使用していくなかで確認されるようになる気泡も含まれる。このような気泡は、耐久気泡とも呼ばれ、例えば調光セルが設置される環境条件等に起因して、液晶層が陽圧状態から陰圧状態に変化する際に生じ易くなる。
気泡の混入に対しては、ガラス製基材に代えて樹脂製基材を基板に用いることがで、改善されることが期待される。第1基板及び第2基板を接合して液晶材料を封止する際に、樹脂製基材の可撓性により、気泡をしごき出し易くなると考えられるからである。本件発明者が実際に確認したところ、第1基板及び第2基板を接合した当初には、気泡の不具合は大きな問題とならならなかった。しかしながら、耐久気泡の問題は、ガラス製基材を基板に用いた調光セルよりも、樹脂製基材を基板に用いた調光セルにおいて、むしろ顕著となった。
このような不具合に対して、本件発明者が鋭意検討を重ねたところ、以下のことが知見された。まず、耐久気泡は、液晶層内のうちの縁部、すなわち、シール材の近傍に発生していた。シール材の近傍では、液晶層の厚みが、樹脂製基材を含む基板の撓みに起因して若干厚くなり、気泡が集まりやすくなっていた。シール材の内側縁は、直線となっておらず蛇行していた。このため、シール材の内側縁によって形成された凹部内に、耐久気泡の原因となる圧縮または溶解した気体が、溜まりやすくなっていた。この凹部内に残存する気体が、熱膨張等により顕在化することで、気泡(耐久気泡)の不具合が発生していたと、考えられた。
一方、図8及び図9に示すように、本実施の形態でも、調光セル20の法線方向から観察した場合、シール材の内側縁は凹凸を有している。ただし、本実施の形態では、凹凸を抑制することにより、シール材51の内側縁ieについて或る程度の真直性を確保している。具体的には、図9に示すように、隣り合う二つの内側へ突出した凸部51aの両方に接する接線tlから、二つの内側へ突出した凸部51a間に位置する内側縁ieまでの、接線tlに直交する方向daに沿った最大離間長さlmaxが、40μm以下となっている。本件発明者が実際に確認したところ、最大離間長さlmaxを40μm以下とすることで、貼合直後の状態で気泡を目立たなくすること、さらには温度等の環境条件が大きく変化する環境下での使用中、例えば自動車の窓へ適用した状態での使用中に気泡が発生することを、効果的に抑制することができた。
ここで、調光セルの法線方向とは、調光セルの正面方向であって、調光セルに含まれる液晶層が延び広がる面、すなわち液晶層を全体的かつ大局的に見た場合において液晶層の平面方向と一致する面への法線方向を意味している。
ところで、シール材の内側縁によって形成された凹部は、液晶材料中に設けられたスペーサの位置に概ね対応していた。この点から、シール材の内側縁がなす凹凸形状は、基板の接合時におけるシール材料の流動に大きく影響を受けることが予想された。この推定は、図8に示すように、シール材51の外側縁oeよりも内側縁ieの方が大きな凹凸を有していることとにも合致する。そこで、本件発明者は、貼合時の条件(温度、速度)、シール材をなすシール材料の粘度や形状、スペーサの配列や形状等を、通常採用される条件の範囲内にて適宜変更し組み合わせることで、最大離間長さlmaxを、40μm以下、さらには20μm以下とし得ることを知見した。
また、本件発明者は、さらに鋭意検討を重ね、シール材51の内側縁ieの真直性が悪いと、さらに別の問題が発生することを確認した。すなわち、シール材51の内側縁ieの真直性が確保されず、内側縁ieが大きく蛇行していると、シール材51と液晶材料56との接触面積が非常に大きくなる。この結果、シール材51から不純物が液晶材料56中にしみ出し、液晶層55の機能低下を引き起こす。このような不具合(以下において、この不具合を「液晶汚染」と呼ぶ)を回避する観点から、最大離間長さlmaxをさらに20μm以下とすることが有効であると確認された。
その一方で、本件発明者は、シール材51の内側縁ieの真直性が良過ぎた場合、シール材51の接合材としての機能が低下することを知見した。上述したように、シール材51は、一対の基板30,40を接合する機能も有している。そして、シール材51の内側縁ieの真直性が良過ぎた場合、調光セル20の使用中に、基板30,40の接合性が劣化することがあった。このような不具合を回避する観点から、最大離間長さlmaxを5μm以上とすることが有効であると確認された。
なお、調光セル20での透過性や遮光性を害すことなく且つ均一な厚みの液晶層55を確保し得るようにスペーサ50を配置した場合、接線tlと二つの内側への凸部51aとの接点間の接線tlの長手方向に沿った距離dtは、20μm以上300μm以下程度となる。そして、本件発明者は、このような範囲の距離dtとの組み合わせにおいて、上述した最大離間長さlmaxの条件を満たすことで、上述の作用効果が奏され得ることを確認した。
同様に、調光セル20が透過率の調節を十分に実行できるよう液晶層55を設けた場合、調光セル20の法線方向に沿ったシール材51の厚みは、20μm以下となる。そして、本件発明者は、シール材51の厚みが20μm以下となっている場合、上述した最大離間長さlmaxの条件を満たすことで、上述の作用効果が奏され得ることを確認した。
なお、最大離間長さlmaxの測定は、電子顕微鏡を介して実施することができる。最大離間長さlmaxの測定は、内側縁ieの凹凸の全体的な傾向を反映し得ると期待される複数の箇所にて測定して、上述してきた条件が満たされるか否かを判断すればよい。例えば上述したように減圧下でしごくことでシール材51を介して一対の基板30,40を接合して液晶材料56を密封する場合には、しごき方向に沿って対向する一対のシール材の辺について、それぞれ3箇所測定を行い、且つ、しごき方向と直交する方向に対向する一対のシール材の辺について、それぞれ3箇所測定を行うことで、最大離間長さlmaxを特定すればよい。
以上に説明した一実施の形態において、調光セル20は、第1樹脂製基材32を含む第1基板30と、第2樹脂製基材42を含む第2基板40と、第1基板30および第2基板40の間に設けられた液晶層55と、を有している。第1基板30及び第2基板40の少なくとも一方が電極33,43を含み、当該電極33,43への電圧印加の程度に応じて、すなわち印加電圧量に応じて、第1基板30、液晶層55及び第2基板40を透過する光の透過率を変化させることができる。調光セル20の法線方向から観察した場合、シール材51の内側縁ieは凹凸を有している。そして、隣り合う二つの内側への凸部51aの両方に接する接線tlから、二つの内側への凸部51a間に位置する内側縁ieまでの、接線tlに直交する方向への最大離間長さlmaxが、40μm以下となっている。このような調光セル20によれば、液晶層55への縁部での気泡の混入を効果的に防止することができる。
また、隣り合う二つの内側への凸部51aに接する接線tlから、二つの内側への凸部51a間に位置する内側縁ieまでの、接線tlに直交する方向への最大離間長さlmaxは、20μm以下となっていることが好ましい。このような調光セル20によれば、液晶層55とシール材51との接触面積を制限し、シール材51から液晶層55内に不純物がしみ出すことを効果的に防止することができ、不純物のしみ出しに起因した液晶層55の液晶汚染を効果的に防止することができる。
さらに、隣り合う二つの内側への凸部51aに接する接線tlから、二つの内側への凸部51a間に位置する内側縁ieまでの、接線tlに直交する方向への最大離間長さlmaxは、5μm以上となっていることが好ましい。このような調光セル20によれば、シール材51を介した第1基板30及び第2基板40の十分な接合強度を確保することができる。
以上、本発明を図示する一実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上述の一実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形が加えられた各種態様も含み得るものであり、本発明によって奏される効果も上述の事項に限定されない。したがって、本発明の技術的思想及び趣旨を逸脱しない範囲で、特許請求の範囲及び明細書に記載される各要素に対して種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
図4〜図7を参照して説明した製造方法により、図2に示された構成を有したVA駆動方式の調光セルのサンプル1〜4を実際に作製した。なお、各サンプルにおいて、偏光板は、クロスニコルの状態で配置した。サンプルの平面形状は、100〔mm〕×100〔mm〕とした。サンプル1〜4は、シール材を介して一対の基板を接合して液晶材料を密封する際における条件(温度、しごき速度)、シール材をなすシール材料の粘度、第2基板上へのシール材料の塗布条件、第2基板上に配置したシール材料の形状等を、適宜変更して作製した。サンプル1〜4の間において、シール材51の内側縁ieの凹凸の程度(蛇行の程度、うねりの程度)が変化し、この結果、上述した最大離間長さlmaxが変化した。表1には、各サンプルについて測定された次の値を示している。
・隣り合う二つの内側への凸部の両方に接する接線から、二つの内側への凸部間に位置する内側縁までの、接線に直交する方向への最大離間長さlmax
・接線と二つの内側への凸部との接点間の距離dt
・調光セルの法線方向に沿ったシール材の厚みt
また、表1では、次の条件1を満たすサンプルに対して「条件1」の欄に○を付し、満たさないサンプルに対して「条件1」の欄に×を付した。さらに、表1では、次の条件2を満たすサンプルに対して「条件2」の欄に○を付し、満たさないサンプルに対して「条件2」の欄に×を付した。
・条件:lmax≦40μm ・・・条件1
・条件:lmax≦20μm ・・・条件2
各サンプルを耐久気泡が生じ易い状況に置き、耐久気泡の発生の有無を確認した。具体的には、各サンプルを、80℃の環境および−40℃の環境に、3時間ずつ、計10ずつ交互に配置し、その後、各サンプルを遮光状態および透過状態で観察し、気泡に起因した輝点又は欠点の有無を確認した。輝点又は欠点の有無は、各サンプルの電極への電圧印加を操作することで、サンプルを遮光(黒表示)とした際に輝点の有無を確認し、また、サンプルを透過(白表示)とした際に欠点の有無を確認した。輝点又は欠点が確認されたサンプルについて、表1の「評価1」に×を付した。通常の観察において輝点又は欠点が確認されなかったサンプルについて、表1の「評価1」に○を付した。
また、各サンプルを液晶汚染が生じ易い状況に置き、液晶汚染の発生の有無を確認した。具体的には、各サンプルを、80℃の環境に250時間配置した。その後、半透過状態になるよう電圧を印加しながら、シール周辺部の配向異常を観察した。液晶汚染の発生の有無は、各サンプルのシール近傍と中心部の明暗差及び全体外観から判断した。液晶汚染が確認されたサンプルについて、表1の「評価2」に×を付した。上記観察方法で液晶汚染が確認されなかったサンプルについて、表1の「評価2」に○を付した。