携帯電話、携帯電子文書機器、自動販売機、カーナビゲーション等の電子機器が具備するフラットパネルディスプレイ(FPD)の表面に「タッチパネル」を設置する技術が普及し始めている。「タッチパネル」は、抵抗型と静電容量型に大まかに分類することができ、「抵抗型」のタッチパネルは、樹脂フィルムから成る透明基板と、該基板上に設けられたX座標(またはY座標)検知電極シート及びY座標(またはX座標)検知電極シートと、これら両電極シートの間に設けられた絶縁体スペーサーとで主要部が構成されている。
これらX座標検知電極シート及びY座標検知電極シートは通常は絶縁体スペーサーによって離間しているが、ペン等で押さえられたときにその部位で両座標検知電極シートが電気的に接触する。これにより、ペンの触った位置(X座標、Y座標)が検知できるようになっており、ペンを移動させればその都度座標を認識して、最終的に文字の入力が行なえる仕組みとなっている。
他方、「静電容量型」のタッチパネルは、絶縁シートを介してX座標(またはY座標)検知電極シートとY座標(またはX座標)検知電極シートが積層されており、更にその上にガラス等の絶縁体が配置された構造を有している。そして、このガラス等の絶縁体に指を近づけたとき、その近傍のX座標検知電極、Y座標検知電極の電気容量が変化するため、位置検知を行なえる仕組みとなっている。
上記の電極シートを構成する電極の導電性材料としては、従来、特許文献1に開示されているようなITO(酸化インジウム−酸化錫)等の透明導電膜が広く用いられており、これを例えばストライプ状にパターニング加工することで電極を形成することが行われている。また、タッチパネルの大型化に伴い、特許文献2や特許文献3に開示されているような金属製細線からなるメッシュ構造の金属層も使用され始めている。
上記透明導電膜と金属製細線(金属層)を較べた場合、透明導電膜は可視波長領域における透過性に優れるため電極パターンがほとんど視認されない利点を有しているが、金属膜より電気抵抗値が高いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化には不向きな欠点を有する。他方、金属層は電気抵抗値が低いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化に向いているが、可視波長領域における反射率が高いため、たとえ微細なメッシュ構造に加工しても高輝度照明下において電極パターンが視認されることがあり、製品価値を低下させてしまう欠点を有する。
そこで、電気抵抗値が低い上記金属層の特性を生かしつつ高輝度照明下での電極パターンの視認性を抑えるため、特許文献4及び特許文献5には樹脂フィルムから成る透明基板と金属層との間に金属酸化物から成る金属吸収層(黒化膜とも称される)を介在させ、これにより透明基板側から視認される金属膜の反射を低減させる技術が提案されている。
この金属吸収層を備えた電極シートの作製では、金属酸化物の成膜効率の高効率化を図る観点から、通常、連続的に搬送される長尺状樹脂フィルムの表面に対して、反応性ガス雰囲気下で金属ターゲット(金属材)を用いた反応性スパッタリングにより金属吸収層を連続成膜した後、不活性ガス雰囲気下で銅等の金属ターゲット(金属材)を用いたスパッタリングにより上記金属吸収層上に金属層を連続成膜することが行われている。このようにして積層体フィルム上に成膜した金属吸収層と金属層とからなる積層膜に対して、塩化第二銅水溶液や塩化第二鉄水溶液等のエッチング液でパターニング加工することで、メッシュ状の電極パターンを有する積層細線群が透明基板上に形成された電極基板フィルムを作製することができる。
ところで、フラットパネルディスプレイの表面に電極基板フィルムからなるタッチパネルを使用した場合、パネル面に照明や太陽光などが映り込んで画面が見にくくなることが問題になることがある。その対策として、例えば特許文献6には、樹脂フィルム基板の表面にサンドブラストや熱エンボス加工を行って微細な凹凸をつけた上、樹脂を塗布することで拡散反射を増加させる技術が提案されている。しかし、この方法はサンドブラストや熱エンボス加工の際に樹脂フィルムが変形しやすく、品質上の問題が生ずることがあった。
そこで、例えば特許文献7には、樹脂(アクリル系、エポキシ系)に微粒子(アクリル粒子やシリカ粒子)を分散した材料を塗布してから乾燥するアンチグレア処理により樹脂フィルム表面に凹凸をつけて反射光を散乱させる技術が提案されている。更に、特許文献8には、樹脂フィルムの表面にアンチグレア層として複数の樹脂成分の相分離に伴って形成される長細状凸部を形成する技術が開示されている。
本発明に係る第1の具体例の積層体フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜とで構成され、該積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と、第2層目の金属層とを有している。例えば、透明基板の両面に積層膜を有する場合は、図1に示すように、樹脂フィルムから成る透明基板50と、該透明基板50の両面に乾式成膜法(乾式めっき法)により成膜された膜厚15〜30nm程度の金属吸収層51と、該金属吸収層51の上に乾式成膜法で成膜された金属層52とで積層体フィルムが構成されている。
上記の金属層52を膜厚化することが求められる場合は、乾式成膜法(乾式めっき法)に続けて湿式成膜法(湿式めっき法)を行ってもよい。すなわち、図2に示すように、樹脂フィルムから成る透明基板50と、該透明基板50の両面に乾式めっき法により形成された金属吸収層51と、該金属吸収層51上に乾式めっき法により形成された金属層52と、該金属層52上に湿式めっき法により形成された金属層53とで積層体フィルムを構成してもよい。
また、本発明に係る第2の具体例の積層体フィルムは、樹脂フィルムからなる透明基板と、該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜とで構成され、該積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と、第2層目の金属層と、第3層目の外側金属吸収層とを有している。例えば、透明基板の両面に積層膜を有する場合は、図3に示すように、樹脂フィルムから成る透明基板50と、該透明基板50の両面に乾式めっきにより形成された膜厚15〜30nm程度の金属吸収層51と、該金属吸収層51上に乾式めっきにより形成された金属層52と、該金属層52上に湿式めっき法により形成された金属層53と、該金属層53上に乾式めっき法により形成された膜厚15〜30nm程度の金属吸収層54とで積層体フィルムが構成されている。
上記樹脂フィルムの材質には特に限定はなく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)、トリアセチルセルロース(TAC)及びノルボルネン等からなる樹脂材料の中から選択された樹脂フィルムの単体、あるいはその片面又は両面がアクリル系有機膜で覆われた複合体を挙げることができる。上記のノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等を挙げることができる。尚、本発明に係る積層体フィルムを用いて作製される電極基板フィルムは、主に「タッチパネル」等に使用されるため、上記樹脂フィルムの中でも可視波長領域での透明性に優れるものが望ましい。
上記の第1層目や第3層目の金属吸収層は、Ni単体の酸化物、若しくはNiにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金の酸化物、又は、Cu単体の酸化物、若しくは、CuにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Ni、及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金の酸化物からなるのが好ましい。これらのうち、Ni系合金の酸化物が好ましく、Ni−Cu合金の酸化物がより好ましい。
上記の金属酸化物は、酸素を含む反応性ガス雰囲気で目的とする金属酸化物を構成する金属材を用いて反応成膜法により形成することができる。但し、金属酸化物の酸化が進み過ぎると金属吸収層が透明になってしまうため、黒化膜が良好に成膜されるように酸化レベルに留意する必要がある。上記反応成膜法としては、マグネトロンスパッタ、イオンビームスパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング、CVD等がある。尚、金属吸収層の各波長における光学定数(屈折率、消衰係数)は、反応の度合い、すなわち、酸化度に大きく影響され、Ni系合金等の金属材だけで決定されるものではない。
上記金属層の構成材料(金属材)としては、電気抵抗値が低い金属であれば特に限定はなく、例えば、Cu単体、若しくはCuにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Ni及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金から成る金属材、又は、Ag単体、若しくはAgにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr及びCuからなる群より選ばれる1種以上の元素が添加されたAg系合金が挙げられる。これらの中では、Cu単体が回路パターンの加工性や抵抗値の観点から望ましい。尚、金属層を湿式めっき法等により厚膜化する場合は、その膜厚は所望の電気特性によって定められ、光学的な要件から定められるものではないが、透過光が測定不能なレベルの膜厚である0.4〜8μm程度が好ましい。
上記の積層体フィルムの積層膜をエッチング処理によって所定の電極パターンとなるようにパターニング加工することで、積層細線群がメッシュ状に設けられた電極基板フィルムを作製することができる。例えば、上記した図3の積層体フィルムをパターニング加工することで、図4に示すような透明基板50の両面に金属吸収層51aと、乾式成膜による金属層52aと、湿式成膜による金属層53aと、金属吸収層54aとからなる積層細線群が設けられた電極基板フィルムを作製することができる。各積層細線の線幅は20μm以下が好ましく、強い光が照射されたときにも肉眼で認識できない線幅3μm以下がより好ましい。これによりタッチパネルとして使用した時に目立ちにくくすることができる。
このように、金属層52a、53aの両面に金属吸収層51aと金属吸収層54aとを設ける理由は、電極基板フィルムをタッチパネルとして組み込んだ時、金属製の積層細線群から成るメッシュ構造の電極パターンを見えにくくするためである。しなしながら、図5に示すように、透明基板1の両面に各々パターニング加工された積層細線2として、透明基板1側から数えて第1層目のスパッタリング法による金属吸収層3と、第2層目の湿式めっき法による金属層4と、第3層目のスパッタリング法による金属吸収層5とを有する積層構造では、透明基板1越しの裏面側の第1層目の金属吸収層3の正反射R1に比べて、表面側の第3層目の金属吸収層5の正反射率R2の方が低くなる。
これは、第3層目の金属吸収層5は、湿式めっき法によって形成される第2層目の金属層4の上に成膜されるのに対して、第1層目の金属吸収層3は平滑な樹脂フィルム1面の上に成膜されるため、透明基板1越しの裏面側の第1層目の金属吸収層3の入射光の散乱が少なく正反射成分が大きくなるからである。具体的には、透明基板の表面粗さがRa0.005μm程度の場合は、透明基板と第1層目の金属吸収層との界面の表面粗さもRa0.005μm程度になる。一方、第2層目の金属層の表面粗さは一般的にRa0.02μm程度であり、この場合はその上に積層される第3層目の金属吸収層の表面粗さもRa0.02μm程度になる。
このように、透明基板の両面に成膜するときは、第1層目と第3層目の金属吸収層を同じ材料を用いて同じ成膜条件でスパッタリング成膜しても、透明基板越しに観察する裏面側の第1層目の金属吸収層の反射が表面側の第3層目の金属吸収層の反射よりも目立ってしまうことがあるため、この裏面側の第1層目の金属吸収層の反射を低減する必要がある。特にタッチパネル用の電極基板フィルムでは表面と裏面のメタルメッシュパターンがずれているので、透明基板越しの裏面側の第1層目の金属吸収層の反射が高すぎると商品価値を低下させるおそれがある。
そこで図6に示すように、本発明の一具体例の積層体フィルムは、少なくとも裏面側にアンチグレア処理が施された透明基板101を用いることで、当該アンチグレア処理された透明基板101の上に成膜される裏面側の第1層目の金属吸収層103は粗面に成膜されることになるため、透明基板101越しの入射光の散乱を大きくすることができ、よって透明基板101越しの裏面側の第1層目の金属吸収層103の正反射率R1を湿式めっき法によって形成される表面側の第2層目の金属層104の上に成膜される第3層目の金属吸収層105の正反射率R2とほぼ同等にすることができる。
上記のようにアンチグレア処理を施した透明基板は、ヘイズ測定法(JISK7136)で透明度を評価することができる。この方法は、測定対象物が固定された積分球の透過光を拡散板で遮って測定した全光透過率と、該積分球の透過光を拡散板で遮らないで測定した散乱光透過率との比からヘイズ値を算出して評価するものである。
図7に示すヘイズ測定装置の概略図を参照しながら具体的に説明すると、アンチグレア処理が施されたPETフィルム(透明基板)の試験片sを積分球hの光入射側開口部に固定すると共に、積分球hのこれとは反対側の開口部を拡散板iで閉止した状態にして光jを入射させ、積分球h内を多重反射した光を積分球下方に設けられた受光器kで計測して「全光透過率」T0を測定する。次に、上記積分球hの該反対側開口部を拡散板iで閉止しない状態にして再度同様に光jを入射させ、積分球h内を多重反射した光(但し、開口部を透過した光は含まれない)を受光器kで計測して「散乱光透過率」T1を測定する。そして、下記式1からヘイズ値(%)を求める。
[式1]
ヘイズ値=(T1/T0)×100
このようにして評価されるヘイズ値に影響を及ぼすアンチグレア層の構造について説明する。一般的に、アンチグレア層には2種類あり、図8(a)に示すように樹脂フィルム30の表面に微粒子31aを分散させた樹脂を塗布して乾燥させることで表面に該微粒子31aによる凹凸を有するアンチグレア層31を設ける方法と、図8(b)に示すように樹脂フィルム40の表面に微粒子を含まない樹脂を塗布し、その相分離をにより表面に二次元方向にランダムに湾曲及び分岐を繰り返す長細状凸部を全面に亘って形成し、これにより表面に凹凸を有するアンチグレア層41を設ける方法がある。
これら両方を前述した積分球を用いたヘイズ測定法でヘイズを測定すると、前者の微粒子31aを含むアンチグレア層31を有する基板30の場合、アンチグレア層31の表面の凹凸に起因する表面ヘイズと微粒子31aに起因する内部ヘイズの両方が測定され、一方、後者の樹脂成分の相分離に伴って形成された長細状凸部を表面に有するアンチグレア層41を有する基板40の場合、アンチグレア層41の表面の凹凸による表面ヘイズのみが測定される。但し、どちらの場合も同じヘイズ値であれば、見え方には差異はない。
ところで、電極基板フィルムの作製では、前述したようにメッシュ状の積層細線群以外の大半の金属層はエッチングにより除去されるので、この金属層の除去により樹脂フィルムが露出する部分ではその透明性が確保されることが重要である。そこで、本発明の一具体例の積層体フィルムは、樹脂フィルムにおいて少なくとも積層膜が成膜される面側に微粒子を含まないアンチグレア層を有している。
この微粒子を含まないアンチグレア層としては、例えば、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む混合液を透明基板の表面に塗布した後、溶媒の蒸発によってスピノーダル分解による相分離を生じさせることで形成することができ、これにより、ランダムな網目状の凸部を有するアンチグレア層を形成することができる。尚、透明基板の片面にアンチグレア層を形成する場合は、これら透明基板及びアンチグレア層の合計のヘイズ値が2〜10%であるのが好ましい。このヘイズ値が2%未満では高額なアンチグレア層を設けた効果が期待できず、逆に10%を超えると散乱光が増加し鮮明な画像の表示が困難になる。
更に、該積層膜をエッチングでパターニング加工することで生じる樹脂フィルムの露出部分には光学用透明粘着シート(OCA:Optical Clear Adhesive)が張り合わされる。これにより、アンチグレア層とOCAとの屈折率のマッチングが可能になり、アンチグレア層の表面の凹凸によるフレネル反射を低減することができる上、アンチグレア層には微粒子が存在していないので、内部ヘイズを実質的になくすことができる。
すなわち、図9(a)に示すように、透明基板30に微粒子31aを分散させた樹脂を塗布乾燥する方法で製作したアンチグレア層31の上に光学用透明粘着シート32によって樹脂フィルム33を貼り合わせると、アンチグレア層31の表面の凹凸による表面ヘイズは、光学用透明粘着シート32との屈折率マッチングによりほとんど消滅するが、微粒子31aに起因する内部ヘイズは残ってしまう。
一方、図9(b)に示すように、樹脂フィルム40に微粒子を含まない樹脂の相分離等を応用した方法で製作したアンチグレア層41の上に光学用透明粘着シート42によって樹脂フィルム43を貼り合わせると、アンチグレア層41の表面の凹凸による表面ヘイズは光学用透明粘着シート42との屈折率マッチングによりほとんど消滅し、アンチグレア層41には微粒子が存在しないのでこれに起因する内部ヘイズもほとんどゼロになる。
尚、上記の光学用透明粘着シートの材質は例えばリンテック社製のMOシリーズを用いることができ、その粘着剤の厚みは50〜100μm程度が好ましい。同様に、該光学用透明粘着シートを介してアンチグレア層の上に貼り付けられる樹脂フィルムの材質は例えばリンテック社製のMOシリーズを用いることができ、その厚みも50〜100μm程度が好ましい。また、アンチグレア層の表面粗さRaは0.2μmを越えると光学粘着シートと貼り合わせ時に隙間ができやすくなるので、0.2μm以下が好ましい。上記の光学用透明粘着シート及び樹脂フィルムは、隣接する積層細線同士の間に嵌め込むように設けてもよいが、図10に示すように、アンチグレア処理された透明基板101の裏面を所定の電極パターンを有する積層細線102を含めて覆うように、光学用透明粘着シート106及び樹脂フィルム107を貼り付けるのが好ましい。
尚、上記の具体例では第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の金属吸収層とからなる積層膜が設けられた積層体フィルムについて説明したが、樹脂フィルムから成る透明基板の片面に第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層とからなる積層膜が設けられた積層体フィルムを用いて電極基板フィルムを作製した場合にも、該透明基板からの電極パターンの視認性を抑制することができる。
次に、上記した本発明の一具体例の積層体フィルムの製造方法について説明する。上記の積層体フィルムは、例えばスパッタリング法で成膜することができ、この場合は、図11に示すように、透明基板として長尺樹脂フィルムFをロールツーロール方式で搬送しながら連続的に成膜を行うことが可能なスパッタリングウェブコータとも称される成膜装置10を用いることで、長尺樹脂フィルムFの表面に連続的に効率よく成膜することができる。
具体的に説明すると、この図11に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)10は、ドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の図示しない真空装置が組み込まれた真空チャンバー11内に長尺樹脂フィルムFの搬送手段及び成膜手段を有する構造になっている。この真空装置により、真空チャンバー11内はスパッタリング成膜の際に到達圧力10−4Pa程度まで減圧された後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度に圧力調整されるようになっている。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。真空チャンバー11の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく種々のものを使用することができる。
この真空チャンバー11内に、搬送手段として長尺樹脂フィルムFの巻き出しを行う巻出ロール12と、成膜後の長尺樹脂フィルムFの巻き取りを行う巻取ロール24とが設けられており、これらによるロールツーロールの搬送経路の途中にモータ駆動のキャンロール16が設けられている。このキャンロール16の内部には、真空チャンバー11の外部で温調された冷媒が循環しており、キャンロール16の外周面に巻き付いた長尺樹脂フィルムFを裏面側から冷却できるようになっている。
巻出ロール12からキャンロール16までの搬送経路には、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール13と、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール14と、モータ駆動の前フィードロール15とがこの順で配置されている。キャンロール16から巻取ロール24までの搬送経路にも、上記と同様に、キャンロール16の周速度に対する調整を行うモータ駆動の後フィードロール21と、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール22と、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール23とがこの順に配置されている。
上記巻出ロール12及び巻取ロール24では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール16の回転とこれに連動して回転するモータ駆動の前フィードロール15、後フィードロール21により、巻き出しロール12から長尺樹脂フィルムFが巻き出されて巻取ロール24に巻き取られるようになっている。尚、前フィードロール15及び後フィードロール21は、キャンロール16の周速度に対する調整を行えるようになっており、これによりキャンロール16の外周面に長尺樹脂フィルムFを密着させることができる。
キャンロール16の外周面のうち長尺樹脂フィルムFが巻き付けられる領域に対向する位置に、キャンロール16の外周面上に画定される搬送経路に沿って、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19及び20が設けられている。また、これらスパッタリングカソード17〜20の各々の近傍に、反応性ガスを放出するガス放出パイプ25a、25b、26a、26b、27a、27b、28a、28bが設けられている。
これにより、例えばスパッタリングカソード17にNi系のターゲットを設置すると共にスパッタリングカソード18〜20にCu系のターゲットを設置を設置し、ガス放出パイプ25a、25bからは酸素を含んだアルゴンガスを放出し、それ以外のガス放出パイプからはアルゴンガスを放出することで、長尺樹脂フィルムFの片面に酸化Ni系の金属吸収層とその上のCu系の金属層とを連続的に成膜することができる。なお、真空チャンバー11内は、成膜処理が行わる空間部が仕切板11aによってそれ以外の空間から隔離されている。
反応性ガスを制御する方法としては、一定流量の反応性ガスを放出する方法、一定圧力を保つように反応性ガスを放出する方法、スパッタリングカソードのインピーダンスが一定になるように反応性ガスを放出する(インピーダンス制御)方法、スパッタリングのプラズマ強度が一定になるように反応性ガスを放出する(プラズマエミッション制御)方法の4つが主に用いられる。
なお、金属酸化物から成る金属吸収層を成膜する目的で金属酸化物のターゲットを適用した場合、成膜速度が遅くなって量産に適さない場合がある。このため、高速成膜が可能なNi系等の金属ターゲット(金属材)を用い、かつ、酸素を含む反応性ガスを制御しながら導入する反応性スパッタリング等の反応成膜法を採用するのが好ましい。また、上記金属吸収層と金属層のスパッタリング成膜を実施する際、図11に示すような板状のターゲットではターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがあるので、ノジュールの発生がなくかつターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用してもよい。
図11に示すような成膜装置(スパッタリングウェブコータ)10を用いて長尺樹脂フィルムFの両面に成膜を行った。具体的には、キャンロール16には直径600mm、幅750mmのステンレス製の円筒部材を用い、その外周面にハードクロムめっきを施した。前フィードロール15と後フィードロール21には直径150mm、幅750mmのステンレス製の円筒部材を用い、その外周面にハードクロムめっきを施した。金属吸収層用のマグネトロンスパッタリングカソード17にはNi−Cuターゲットを取り付け、金属層用のマグネトロンスパッタリングカソード18〜20にはCuターゲットを取り付けた。
透明基板としての長尺樹脂フィルムFには厚さ50μm、幅600mmで長さ1200mのPETフィルムを用いた。このPETフィルムには、微粒子を含まないヘイズ値8%(PETフィルムのヘイズを含む)のアンチグレア層(株式会社ダイセル製相分離アンチグレア 品種PF13)を裏面にのみ有する樹脂フィルムを使用した。このアンチグレア層の表面粗さRaをキーエンス製レーザマイクロスコープで測定したところ0.1μmであった。
キャンロール16の内部に、0℃に温度制御された冷媒を循環させた。また、真空チャンバー11を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10−3Paまで排気した。この状態で巻出ロール12及び巻取ロール24を黒矢印の方向に回転させて長尺樹脂フィルムFを搬送速度2m/分で搬送させ、アルゴンガスを500sccmと酸素ガス50sccmとの混合ガスをガス放出パイプ25a、25bから放出し、金属吸収層用のマグネトロンスパッタリングカソード17を起動させてNi−Cu酸化膜厚30nmが得られるように電力制御を行って金属吸収層を成膜すると共に、ガス放出パイプ26a、26b、27a、27b、28a、28bからアルゴンガスを500sccmで放出し、金属層用のマグネトロンスパッタリングカソード18〜20を起動させてCu膜厚80nmが得られるように電力制御を行って金属層を成膜した。
上記の成膜を終えて巻取ロール24に巻き取られた長尺樹脂フィルムFを取り外し、軸の向きを逆にして巻出ロール12に取り付け、金属吸収層のマグネトロンスパッタリングカソード17のみ起動させて外側金属吸収層を成膜した。このようにして長尺樹脂フィルムFの一方の面に積層膜を成膜した後、再び巻取ロール24から取り外し、巻出ロール12に取り付けて白矢印の方向に回転させることで、もう一方の面にも同様に積層膜を作製した。このようにして試料1の積層体フィルムを作製した。
比較のため、透明基板としての長尺樹脂フィルムFに微粒子を含むヘイズ値8%(PETフィルム基板のヘイズを含む)のアンチグレア層を裏面にのみ有する樹脂フィルム(東山フィルム株式会社製)を使用した以外は試料1と同様に成膜を行い、試料2の積層体フィルムを作製した。このアンチグレア処理された樹脂フィルムの表面粗さRaをキーエンス製レーザマイクロスコープで測定したところ0.1μmであった。また、樹脂フィルムにアンチグレア処理を施していない表面粗さRaが0.02μm(上記試料1と同様にして測定)樹脂フィルムを使用した以外は試料1と同様に成膜を行い、試料3の積層体フィルムを作製した。
これら試料1〜3の積層体フィルムの各々に対して、裏面側の3層目の外側金属吸収層の表面粗さRaをキーエンス製レーザマイクロスコープで測定した。また、表面側の3層目の外側金属吸収層の波長550nmにおける正反射率を測定した。それらの結果を下記表1に示す。
次に、試料1〜3の積層体フィルムの各々に対して、表面側の積層体のメタルメッシュのパターニング加工を想定して表面側のみ全面的にエッチング処理した。そして表面側からPETフィルム越しに測定した裏面の第1層目の金属吸収層の波長550nmにおける正反射率をキーエンス製レーザマイクロスコープを用いて測定した。次に、裏面側の積層体のメタルメッシュのパターニング加工を想定して裏面側も全面的にエッチング処理した。
そして、ヘイズ測定装置として株式会社村上色彩技術研究所のHM−150を用いて表面側から光を入射してPETフィルム越しの波長550nmにおけるヘイズ値を測定した。その後、各々の裏面に光学用透明粘着シートOCA(日東電工株式会社製 LUCIACS CS986)を用いてPETフィルムを貼り付けた。そして、再度同じヘイズ測定装置を用いて表面側から光を入射してPETフィルム越しの波長550nmにおけるヘイズ値を測定した。それらの結果を下記表2に示す。
上記表1及び表2から分かるように、アンチグレア処理を行うことで、透明基板越しの裏面側の第1層目の金属吸収層の正反射を低減させることができる。更に、複数の樹脂成分の相分離に伴って形成された長細状凸部からなるアンチグレア層を有する試料1の電極基板フィルムは、その大部分の面積を占める露出部のヘイズ値を光学用透明粘着シートを貼り合わせることにより低減することができた。特に、試料1の電極基板フィルムでは、微粒子を用いたアンチグレア層の場合に測定される内部ヘイズをほぼゼロにすることができる。