(実施形態1)
図1に、本発明の実施形態1に係る異常診断用装置の構成例を示す。異常診断用装置100は、ガス絶縁開閉器、電力用トランス、配電盤などの電気機器の絶縁異常時に発生しうる部分放電の有無により、電気機器の異常を診断する装置である。以下では、電磁波を検出対象として計測することにより得られる複数の周波数毎の波形データに基づき、部分放電を検知する場合を例に、異常診断用装置について説明する。
図1に示す異常診断用装置100は、電磁波を検出し、波形データとして計測する計測部1と、計測部1の計測を制御すると共に、計測された波形データに基づき、除外周波数情報を提供するための処理および、異常診断の処理を行う制御部2と、制御部2に対して、制御・処理に係る指示を入力する入力装置3と、制御部2の処理結果を出力する出力装置4とを備える。
計測部1は、電磁波を検知するセンサ10と、このセンサ10からの電気信号を、与えられた計測条件に従って計測して、複数の周波数毎の波形データとして出力する信号処理部11とを備える。波形データは計測された電気信号の強度の時間変化を示す。
センサ10は、例えばアンテナで構成され、電磁波を受けてその強度に比例した電気信号、例えば電圧信号に変換し出力する。
信号処理部11は、例えばスペクトラムアナライザで構成される。信号処理部11は、計測条件に従って、センサ10から出力された電気信号を、周波数掃引により、複数の周波数毎に計測し、各周波数の波形データとして出力する。周波数軸と時間軸と信号強度を示す波高軸との3次元で各周波数の波形データを示したものが、図2に例示する波形データ群である。計測条件は、計測対象とする複数の周波数、各周波数の1回当たりの計測時間とサンプリング周期、各周波数の繰り返し計測回数、及び各計測の開始のタイミングである。各周波数の1回当たりの計測時間は、異常診断の対象となる電気機器に供給される動作用の商用交流電力信号の少なくとも2サイクル分に相当する時間に設定される。以下に示す例では、一回当たりの計測時間は2サイクル分に相当する時間であるとする。各計測の開始のタイミングは、それぞれの波形データが商用交流電力信号に同期するように、商用交流電力信号の周期の整数倍の時刻に設定される。
入力装置3は、制御部2に各種指示や情報を入力するための装置であり、例えばキーボードやスイッチなどで構成される。入力装置3からの入力情報の代表例がバックグランド計測の開始の指示又は異常診断計測の開始の指示である。
制御部2は、計測制御部20とデータ取得部21と記憶部22とデータ処理部23と診断部24と出力制御部25とを備え、ハードウェアとしては図3に示すようにCPU(Central Processing Unit)500、内部記憶部510、外部記憶部520、入力部530、出力部540及びこれらを接続して信号の通路となるバスライン550とで構成される。図1の記憶部22は、図3の外部記憶部520に対応する。制御部2の計測制御部20、データ取得部21、データ処理部23、診断部24、及び出力制御部25のそれぞれの機能は、CPU500が、外部記憶部520に格納されたプログラムを読み出して、内部記憶部510、外部記憶部520、入力部530、及び出力部540を利用して実行することにより実現される。
制御部2の計測制御部20は、BG計測制御部200と診断用計測制御部201とを備え、入力装置3からの入力情報に応じて、BG計測制御部200又は診断用計測制御部201のいずれか一方が機能する。以下では、BG計測制御部200の制御による計測をバックグランド計測、診断用計測制御部201の制御による計測を異常診断計測と呼ぶ。
バックグランド計測は、異常診断の妨げとなる波形データに対応する周波数を予め抽出し、その周波数を除外周波数として設定するために実施される。設定した除外周波数は、記憶部22の除外周波数情報222に、後述する図4に示す様に、除外周波数設定情報222bとして格納される。バックグランド計測は、異常診断の対象となる電気機器からの部分放電信号を検知し得ない場所であって、部分放電信号以外の計測環境は異常診断用の計測環境と略同じと見なせる場所に、計測部1のセンサ10を設置して、異常診断計測に先立って実施される。センサ10がバックグランド計測を実施できる状態に配置されると、入力装置3を介してバックグランド計測の開始の指示が入力される。この入力に対応して動作するBG計測制御部200は、信号処理部11の制御、データ取得部21の制御、及び得られた波形データのデータ処理部23での処理の制御を開始する。
異常診断計測は、電気機器からの部分放電を検知対象として異常診断を行うために実施される。従って、異常診断計測は、異常診断の対象となる電気機器からの部分放電信号を検知し得る場所にセンサ10を設置して実施される。センサ10が、異常診断計測ができる状態に配置されると、入力装置3を介して異常診断計測の開始の指示が入力される。この入力に対応して動作する診断用計測制御部201は、信号処理部11の制御、データ取得部21の制御、及び得られた波形データのデータ処理部23での処理の制御を開始する。
バックグランド計測及び異常診断計測は、上述の計測条件のうち、計測対象とする複数の周波数、各周波数の1回当たりの計測時間とサンプリング周期、及び各計測の開始のタイミングを商用交流電力信号の周期の整数倍の時刻に設定することについては、互いに同じ条件で実施される。しかし、各周波数の繰り返し計測回数については、バックグランド計測と異常診断計測とで異なる。
バックグランド計測においては、各周波数の繰り返し計測回数NBは周波数によらず同じ回数に設定される。バックグランド計測においては、波形データと商用交流電力信号との間の同期性は要求されず、同一周波数において繰り返し計測により得られる波形データ間の同期性が問題になるだけである。従って、繰り返し計測回数についての制限は特にない。
一方、異常診断計測においては、除外周波数における繰り返し計測回数をN1、除外周波数でない周波数である診断対象周波数における繰り返し計測回数をN1よりも大きな値であるN2とする。同期性確保の観点から設定された総計測時間をTとし、計測対象の全周波数での各周波数における繰り返し計測回数を同じ値にしたと仮定することにより得られる繰り返し計測回数をN0(T=14sとすると、例えばN0=3となる)とすると、N1はN0よりも小さい値に予め設定され、記憶部22の計測条件221に格納される。除外周波数は異常診断の対象外となる周波数であるため、異常診断計測時には、除外周波数での繰り返し計測回数を0、即ち除外周波数での計測を省いてもよいが、対象とする周波数範囲の予め定めた全周波数での波形データを残しておくという必要がある場合には、例えば1に設定される。
診断対象周波数における繰り返し計測回数N2は、診断用計測制御部201で算定され、信号処理部11及びデータ取得部21に送信される。異常診断計測時の繰り返し計測回数N2は、バックグランド計測において設定され、記憶部22に格納された除外周波数設定情報222b(図4参照)の除外周波数の数と、異常診断計測時の総計測時間Tとに基づき、診断用計測制御部201により算定される。具体的には、N2は、総計測時間Tのとき、全周波数で同じ繰り返し計測回数としたときの繰り返し計測回数N0に対して、除外周波数での繰り返し計測回数をN0より小さいN1にしたことによる計測時間の減少分を、診断対象周波数での繰り返し計測回数の増加に充当することにより得られる値とする。このとき小数点以下の回数については、例えば四捨五入、切り捨て、若しくは切り上げなどの処理により、整数の繰り返し計測回数とする。この処理により、異常診断計測において、計測対象となる全周波数の計測時間の総和は、このような処理を行わないときの異常診断計測に係る計測時間の総和Tと予め設定した誤差Δの範囲内で略等しくなる。
BG計測制御部200及び診断用計測制御部201は、記憶部22に計測条件221として格納されているそれぞれの計測条件を読み込んで、信号処理部11及びデータ取得部21に計測条件として送信する。ただし、異常診断計測時の繰り返し計測回数N2については、診断用計測制御部201が算定した値を使用する。N2の算定に必要な、異常診断計測時の総計測時間Tは、直接の計測条件ではないが、計測条件221に含められる。計測対象となる複数の周波数については、周波数範囲の分割数を計測条件221に格納し、そこから読み込んだ分割数と入力装置3が入力する計測対象の周波数範囲とに基づき計測制御部20が設定してもよい。なお、変更のない計測条件については予め信号処理部11及びデータ取得部21に設定しておいても良い。
データ取得部21は、計測制御部20の制御により、計測部1からの計測データ、即ち複数の周波数毎の波形データを、設定された繰り返し計測回数分入力し、これに基づき各周波数の代表波形データを求め、これを記憶部22に格納する。波形データの横軸は時間軸で、具体的にはサンプリング番号に対応する。波形データの縦軸は計測された信号の強度を示すデータである。代表波形データは、同じ周波数での繰り返し計測により得られる複数の波形データに基づき生成された、その周波数を代表する波形データであり、例えば、時間軸の各点に対する信号の強度を示すデータ波高値の最大値により構成された波形データである。記憶部22の波形データ群220は、そのようにして生成された複数の周波数毎の代表波形データで構成される。
記憶部22は、波形データ群220と計測条件221と除外周波数情報222と診断用波形データ群223と診断結果224とを格納する。波形データ群220と計測条件221については既に説明した通りである。計測条件221の内容は、入力装置3からの入力により書き換えることができるようにしてもよい。
除外周波数情報222は、除外周波数既知情報222aと、除外周波数設定情報222bとを含む。除外周波数既知情報222aは、ノイズ源となることがわかっている、例えば通信波等の予め知られている周波数の情報のことであり、異常診断の対象から除外してもいいということがわかっている周波数の情報である。除外周波数設定情報222bは、除外周波数既知情報222aとバックグランド計測により得られた波形データ群220から、後述する処理により設定された有効データ有りの代表波形データに対応する周波数の情報とから最終的に設定された除外周波数の情報である。除外周波数設定情報222bに含まれる周波数は異常診断の対象外とされる。
診断用波形データ群223は、異常診断計測時に記憶部22に格納される波形データ群であり、波形データ群220から、データ処理部23での処理により、ノイズ成分に係る波形データ等を除いて得られる異常診断の対象となる波形データ群のことである。
診断結果224は、診断部24の処理により得られ、記憶部22に格納される、電気機器の異常状況を示す情報である。
データ処理部23は、有効データ有無判定部230と除外周波数設定部231とノイズ除去部232とを備える。データ処理部23の処理内容はバックグランド計測か異常診断計測かにより異なる。図4及び図5は、バックグランド計測時及び異常診断計測時のそれぞれにおけるデータ処理部23での処理内容と記憶部22に格納されているどの情報が使用され、どの情報が格納されるかを示す。
まず初めに、バックグランド計測時のデータ処理部23の処理内容について説明する。バックグランド計測時には、図4に示すように、BG計測制御部200の制御により、データ処理部23の中の有効データ有無判定部230と除外周波数設定部231とが動作する。なお、データ処理部23は、データ取得部21からバックグランド計測における各周波数の代表波形データが記憶部22に格納された旨の通知を受けることにより動作を開始する。
有効データ有無判定部230は、除外周波数情報222の中の除外周波数既知情報222aを読み出す。有効データ有無判定部230は、除外周波数既知情報222aに含まれていない周波数について、記憶部22に格納されている波形データ群220から各周波数の代表波形データを読み出し、その代表波形データに有効データが含まれているかどうかの判定を実施する。有効データとは、波形データ中の、他の部位から識別できる程度に顕著な波高値を有するデータのことである。
有効データ有無の判定は、2つの判定式で実行される。最初の判定式は次の(1)式に示すとおりである。
算定標準偏差>標準偏差閾値 (1)
(1)式を満たせば有効データ有りと判定され、満たさなければ有効データ無しと判定されるが、より確実な判定を行う場合には、(1)式を満たすという判定がでた場合に、後述するもう一つの判定を実行する。
算定標準偏差は、代表波形データの平均値に、経験則により設定された裕度を加えた値を閾値Hthとし、代表波形データにおいて、この閾値Hth以下の波高値を、全て閾値Hthに置き換え、閾値を超える波高値はそのまま残した代表波形データから算定した標準偏差とする。標準偏差閾値は、算定標準偏差に対して予め設定された閾値である。
2番目の判定式は、次の(2)式に示すとおりである。Maxは代表波形データの最大値、Avは代表波形データの平均値である。比の閾値Jは予め設定された閾値である。
Max/Av>J (2)
J;比の閾値
代表波形データが(2)式を満たすとき、その代表波形データには有効データがあると判定され、(2)式を満たさないときは有効データが無いと判定される。
(2)式による判定は、通信波等のノイズ信号に起因する波形データにおいて、ノイズ成分が時間的に略一定のときと途切れるときとが混在する様な場合に必要となる。このような代表波形データにおいては、代表波形データの波高値が、代表波形データの平均値に基づく閾値Hthを超える可能性が高くなるため、上記(1)式による判定では、有効データが存在すると誤判定されることがある。(2)式による判定はこのような誤判定を防止するためのものであり、(1)式による判定で、有効データが存在するという判定がなされたときに(2)式による判定が実行される。波形データに有効データが含まれているときはMaxが大きな値となるため、有効データが含まれていないときに比べると、代表波形データの平均値Avに対する最大値Maxの比は大きくなる。従って、比の閾値Jを予め適当な値に設定することにより、(2)式により有効データの有無を判定することができる。即ち(1)式、(2)式共に満たしたときその代表波形は有効データを有すると判定され、それ以外は有効データを有さないと判定される。なお、状況によっては(1)式、(2)式のいずれか一方で有効データの有無を判定しても良い。
有効データ有無判定部230は、有効データがあれば、対応する周波数の情報を除外周波数として、除外周波数設定部231に送信し、有効データが無ければ、次の計測対象とする周波数の代表波形データの処理に移行する。
除外周波数設定部231は、有効データ有無判定部230から送信される除外周波数の情報と除外周波数既知情報222aとを合わせた1次除外周波数情報に基づき最終的な除外周波数を設定し、記憶部22の除外周波数設定情報222bとして格納する。除外周波数は、1次除外周波数情報とその近傍の周波数とで構成される。「近傍」の範囲は、予め設定された定義に従って決められる。例えば、1次除外周波数情報に含まれる周波数の両隣の周波数も除外周波数とし、更にこのように設定された除外周波数の一塊であるブロック間にブロックに含まれない計測対象周波数が例えば1つしかない場合は、この周波数も除外周波数に設定する。このような処理の例を図6に示す。図6の最上段の項目「周波数」は、周波数範囲を500〜1500MHzとし、この間を100等分したときの計測対象とする周波数である。項目「1次除外範囲」は、1次除外周波数情報に対応しており、対応する箇所をハッチングで示したものである。項目「ブロック」は、1次除外周波数情報に含まれる周波数の両隣の周波数を含めた範囲をブロックとしてハッチングを付して示している。項目「除外範囲」は、ブロック範囲に基づき最終的に設定される除外周波数の範囲を、ハッチングを付して示したものである。「除外範囲」は、例えば、各ブロック間にブロックに含まれない周波数が、1箇所存在したときは、この周波数も除外周波数に含めるという基準に従ったものである。
バックグランド計測において上記の様に除外周波数を設定する理由は、次の通りである。部分放電の信号を検知すると代表波形データ中には有効データが現れるが、部分放電の信号を検知し得ない環境下で行ったバックグランド計測において、取得された代表波形データに有効データが含まれている場合は、この有効データは部分放電に起因するものではなく、ノイズ成分であるということは明白である。この周波数又は近傍の計測対象とする周波数においては、異常診断計測で取得された波形データにおいても、同様の有効データが、ノイズ成分として含まれる可能性が高い。このような有効データを含む波形データは、異常診断の際に誤診断の原因となりかねない。このような事態を避けるために、異常診断の処理の際、この周波数とその近傍の周波数を除外周波数として異常診断の対象から除外する。
次に、異常診断計測時のデータ処理部23の処理内容について説明する。この内容は特許文献1に開示された内容に準拠しているが、構成要素の名称等については一部変更されている。異常診断計測時には、図5に示すように、診断用計測制御部201の制御により、データ処理部23の中の有効データ有無判定部230とノイズ除去部232と診断部24と出力制御部25とが動作する。なお、データ処理部23は、データ取得部21から異常診断計測における各周波数の代表波形データが記憶部22に格納された旨の通知を受けることにより動作を開始する。
有効データ有無判定部230は、異常診断計測時には、波形データ群220から異常診断の対象となる代表波形データを選別するために有効データの有無を判定する。有効データ有無判定部230は、除外周波数情報222中の除外周波数設定情報222bを読み出すことにより除外周波数の情報を取得し、計測対象とする周波数から除外周波数を削除してノイズ除去の対象となる診断対象周波数を設定する。有効データ有無判定部230は、診断対象周波数について、記憶部22に格納されている波形データ群220から各周波数の代表波形データを読み出し、その代表波形データに有効データが含まれているかどうかの判定を実施する。判定の内容は既に説明したとおりである。有効データが含まれていないと判定したときはその代表波形データは異常診断の対象外となり、データ処理部23は、次の診断対象周波数の代表波形データの処理に移行する。
有効データが含まれていると判定したときは、その代表波形データはノイズ除去部232により処理される。ノイズ処理部23は、含まれている有効データがノイズに依るものかどうかを判定し、ノイズによるものと判定した場合はその代表波形データを診断対象から除外する。ノイズによるものではない有効データが含まれていると判定した場合は、その代表波形データを記憶部22に診断用波形データ群223として格納するが、ケースによっては代表波形データ中のノイズに起因すると判定した有効データを、その周囲のデータで置き換えることにより得られる代表波形データを、診断用波形データ群223として格納する。ノイズ処理部23は、処理結果を診断部24に送信する。ノイズ除去部232は、有効データ数算定部232aと第1有効データ数判定部232bと有効データ数偏り判定部232cと第2有効データ数判定部232dと継続時間判定部232eと同期性判定部232fとを備え、これらにより上記処理を次のようにして実施する。
有効データ数算定部232aは、各周波数の代表波形データに含まれる有効データの数Neffを算定する。ただし、有効データが連続する場合はこれらを結合して連続する部分全体を1と数える。有効データの数Neffは、代表波形データを例えば二値化することによって簡単に算定することができる。二値化は、代表波形データの各波高値が予め設定された閾値Hth’を超えたとき例えば「1」、そうでないとき「0」とする。有効データ数Neffは、「1」の塊数を計数することにより得られる。閾値Nth’は、例えば、代表波形データの平均値に所定の裕度を加えた値とする。
第1有効データ数判定部232bは、有効データ数算定部232aで得られた有効データ数Neffが、次式(3)を満たすかどうかを判定する。
Neff>Nmax (3)
Nmax; 第1の有効データ数閾値で、例えば8に設定される。
電気機器の部分放電は、動作用に供給されている商用交流電力信号の強度が、0と極大値又は極小値との間の増加する位相範囲で発生する。このような位相範囲は、それぞれが1/4周期の位相範囲であり、一回の計測時間を商用交流電力信号の2サイクル分としたときは4箇所存在する。Neffを後述する塊化処理したあとの数とすれば、Nmaxを4に設定できるが、ノイズ成分除去処理の初めの段階の、ノイズに起因する有効データが含まれる可能性が高い代表波形データで塊化処理を実行すると不都合が生じるため、(3)式は塊化処理実施前における予備的な判定式という位置づけになる。そのため、Nmaxは4よりも大きな裕度をとり、例えば8とする。尚、Nmaxは波形データとして取得されるサイクル数に依存して設定される。
(3)式が満たされる場合は、第1有効データ数判定部232bは、この代表波形データはノイズ成分を多く含むと判断し、これを診断対象波形データ群に含めず、データ処理部23は次の診断対象周波数の代表波形データの処理に移行する。(3)式が満たされない場合は、有効データ数偏り判定部232cでの処理が実行される。
有効データ数偏り判定部232cは、有効データについて後述する塊化処理を行い、代表波形データのある1サイクル分と他の1サイクル分(波形データが2サイクル分のデータの場合は最初の1サイクル分と次の1サイクル分)にそれぞれ含まれる有効データの数Neff1、Neff2を塊化処理後の塊の数として算定し、次式(4)を満たすかどうかを判定する。
ΔN=|Neff1−Neff2|>ΔNd (4)
ΔNd;偏りの閾値で、例えば2に設定される。
塊化処理とは、有効データが時間軸に沿って連続する場合に、連続する有効データ群を一塊として処理したあと、隣り合う有効データ群の間に有効データでない領域が予め設定された閾値(即ち時間軸上の設定ポイント数)以下であれば、この領域も有効データ群に含めるという処理である。この塊化処理も、2値化データを使用することにより簡便に実行することができる。この閾値は例えば4ポイントに設定される。
有効データが部分放電に起因するもののみであればΔNは、適切に設定されたΔNd、例えば2、を超えることはない。そのため、(4)式を満たす場合は、有効データ数偏り判定部232cは、この代表波形データがノイズ成分である有効データを含むと判断し、この代表波形データを異常診断の対象から除外し、データ処理部23は、次の診断対象周波数の代表波形データの処理を開始する。(4)式を満たさない場合は、第2有効データ数判定部232dでの処理が実行される。
第2有効データ数判定部232dは、有効データ数偏り判定部232cが、ΔNは(4)式を満たさない、と判定したとき、塊化処理後の有効データ数Neffcを算定し、Neffcが次式(5)を満たすかどうかを判定する。
Neffc>Nmaxc (5)
Nmaxc;第2の有効データ数閾値で、例えば4に設定される。
第2有効データ数判定部232dは、Neffcが(5)式を満たす場合は、この代表波形データがノイズ成分である有効データを含むと判断し、この代表波形データを異常診断の対象から除外し、データ処理部23は、次の診断対象周波数の代表波形データの処理を開始する。(5)式を満たさない場合は、継続時間判定部232eでの処理が実行される。
継続時間判定部232eは、有効データの塊化処理後のj番目(j=1〜jmax)の塊の領域の波形データ時間軸上での幅、即ちサンプリングポイント数を継続時間Tcjとして算定し、j番目の塊の継続時間Tcjが次式(6)を満たすかどうかを判定する。
Tcj>Tth (6)
Tth;予め設定された継続時間の閾値である。
Tthは、部分放電が発生しうる1/4位相範囲に対応するポイント数であり、波形データの時間軸のサンプリングポイント数を100ポイントとしたときは、例えば10−14ポイントに設定される。
継続時間判定部232eは、式(6)が満たされていると判定したときは、当該j番目の塊にかかる有効データの部位は、継続時間の観点から、部分放電に起因したものではなく、ノイズ成分であると判定する。
継続時間判定部232eは、継続時間Tcjのj=1,2・・jmaxのうち一つでも式(6)を満たすと判定したときは、その代表波形データをノイズ成分と見なして診断用波形データ群223から削除し、データ処理部23は次の診断対象周波数の代表波形データの処理を開始する。継続時間Tcjが全て式(6)を満たさないと判定したときは、その代表波形データは同期性判定部232fでの処理に移される。なお、継続時間判定部232eは、判定後の処理について他の方法を採用してもよい。例えば、算定した継続時間Tcjのj=1,2・・jmaxのすべてが式(6)を満たすと判定したとき、継続時間判定部232eは、対応する代表波形データをノイズ成分と見なして診断用波形データ群223から除去し、データ処理部23は次の診断対象周波数の代表波形データの処理を開始する。そして、算定した継続時間Tcjの一部のみが、式(6)を満たす、すなわちノイズ成分であると判定したときは、当該継続時間Tcjに対応する有効データの部位を診断対象から除く処理、例えば、対応する部位の代表波形データをその有効データの部位に隣接する部位の代表波形データの値で内挿して置き換えるという処理を行う。そのような継続時間Tcjを有する有効データの部位がなければ、代表波形データはそのままにする。いずれの場合もその代表波形データは同期性判定部232fでの処理に移される。
同期性判定部232fは、塊化処理後の有効データの同期性の判定に先立ち、幅拡張処理を行う。幅拡張処理は、塊化処理して得られるそれぞれの一塊の有効データの部位について、有効データの範囲を両端に予め設定したポイント数分、例えば1−2ポイント分拡張するという処理である。二値化処理の場合は、一塊の「1」の領域の両端の1−2ポイントの「0」の値を「1」に置き換える処理となる。この処理はこの後に実行される同期性判定において時間的な裕度を持たせるために行われる。以下の同期性判定処理については、説明の便宜上、幅拡張処理後の二値化データを使用するものとして説明する。
同期性判定部232fは、幅拡張処理後の二値化データに基づき、その有効データ部である値「1」の領域が、各サイクル間で同期しているかどうかを判定する。この判定は次の処理を含む。まず、幅拡張後の二値化データを商用交流電力信号の1サイクル毎に分割し、分割後の二値化データの時間軸の原点を揃える。このとき、あるサイクルの二値化データの「1」の領域と、他のサイクルの二値化データの「1」の領域との間に、時間軸上で重なるポイントが存在するかどうかを判定する。重なるポイントが存在するときは同期性があり、存在しない時は同期性がないと判定する。
同期性判定部232fは、その代表波形データについて同期性がないと判定したときは、その代表波形データを診断対象外とする。部分放電に起因する信号は同期性を有するので、互いに同期性のない場合は、これをノイズ成分であると判定するのである。一方、同期性があると判定したときは、その結果を診断部24に送信するとともに、対応する代表波形データを、記憶部22に診断用波形データ群223として格納する。いずれの場合もデータ処理部23は次の診断対象周波数の代表波形データについて、これまで説明した処理を繰り返す。
同期性判定に、継続時間について幅拡張を行った後の二値化データを使用するのは、同期性判定に裕度を持たせるためである。部分放電の同期性はそれほど厳密なものではなく、若干の位相誤差を伴うものである。そのため、同期性判定において、有効データ部の継続時間が短いと、2つのサイクル間の有効データ部が、略同期している場合でも厳密に同期していないときは、それらは同期していないと判断されてしまう。このような事態を避けるために同期性判定に幅拡張後の二値化データを使用し、同期性判定に裕度を持たせる。
診断部24は、各周波数の代表波形データ毎の同期性判定結果及び/又はノイズ成分を除去した診断用波形データ群223のデータを使って異常診断を行う。以下に診断処理の一例を説明する。
診断部24は、同期性判定部232fの判定後、診断用波形データ群223から、同期性のある有効データ数が、例えば4個以下の適正な数存在すると判定された代表波形データの数Nabを算定する。この代表波形データでは、部分放電信号(PD信号)が検知された可能性が高いといえるので、NabをPD検出数と呼ぶことにする。診断部24は、PD検出数Nabが次式(7)を満たすと判定したときは、部分放電ありと診断する。
Nab>Nabs (7)
Nabs;部分放電ありと診断するときの閾値で、例えば5。
閾値Nabsが大きいほど、診断の信頼性が向上する。診断部24は、診断の結果を記憶部22に格納するとともに出力制御部25を介して出力装置4に出力する。
図7に、異常診断用装置100による動作を示すフロー図を示す。異常診断用装置100の計測制御部20は、入力装置3から入力される周波数範囲、計測の種別を含む計測開始の指示により動作を開始する。計測制御部20は、入力される計測開始の指示がバックグランド計測の指示であるか、異常診断計測の指示であるかを判定する(図7のステップS1)。バックグランド計測の指示であれば(ステップS1;YES)、バックグランド計測を開始し、異常診断計測の指示であれば(ステップS1;NO)、異常診断計測を開始する。バックグランド計測の指示は異常診断計測の指示に先行して入力される。従って、バックグランド計測が実行され、除外周波数が設定された後、異常診断計測が実行される。なお、計測環境が変わらないと判断できれば、バックグランド計測のあと、異常診断計測を複数回実行してもよい。
バックグランド計測の指示が入力されたと判定された場合(ステップS1;YES)について説明する。このときは、BG計測制御部200の制御により、バックグランド計測処理が実行される(ステップS2)。
ステップS2のバックグランド計測処理の詳細を、図8に示す。BG計測制御部200は、バックグランド計測に係る計測条件を設定する(図8のステップS20)。BG計測制御部200は、記憶部22から計測条件221を読み出して、計測対象とする周波数、1回の計測時間、即ち商用交流電力信号の例えば2サイクル分に相当する計測時間、同一周波数での繰り返し計測回数NBなどの計測条件を設定する。それぞれの計測は商用交流電力信号と同期するように計測開始のタイミングが設定される。計測対象とする周波数は、入力された周波数範囲を予め定められた分割点数imax、例えばimax=100で分割したときのそれぞれの分割点を代表する周波数Fi(i=1〜imax)に設定される。
BG計測制御部200は、設定した計測条件に従って、計測部1とデータ取得部21とを制御することにより、計測部1での周波数Fiの例えば2サイクル分の波形データの計測を行い(ステップS21)、データ取得部21を介して、計測した波形データを取得する(ステップS22)。この計測は、ステップS23及びステップS24を介して、繰り返し計測回数kがNBに等しくなるまで行われる。繰り返し計測回数kがNB回になると(ステップS23;YES)、データ取得部21は、取得したNB個の波形データから周波数Fiの代表波形データを生成し(ステップS25)、波形データ群220の一部として記憶部22に格納する(ステップS26)。ステップS21〜S26の処理は、ステップS27及びステップS28を介して、計測条件で設定された計測対象とする周波数Fiの全て(i=1〜imax)について実行され、i=imaxになると(ステップS27;YES)、データ取得部21はバックグランド計測が終了した旨の信号をデータ処理部23に送信する。その後、データ処理部23は、次の除外周波数設定処理を開始する(図7のステップS3)。
除外周波数設定処理の詳細を図9に示す。BG計測制御部200の制御により、図4に示すデータ処理部23の有効データ有無判定部230と除外周波数設定部231とが図9に示すフロー図に従って図7の除外周波数設定処理(ステップS3)を実行する。
データ処理部23は、データ取得部21から送信されたバックグランド計測が終了した旨の信号を受けると除外周波数設定処理(図7のステップS3、即ち図9に示す処理)を開始する。この処理が開始されると、有効データ有無判定部230は、前処理として、記憶部22の除外周波数既知情報222aを読み込み(図9のステップS30)、波形データ群220の中の処理対象とする代表波形データの周波数Fiが、除外周波数既知情報222aに含まれている既知の除外周波数かどうかを判定する(ステップS31)。既知の除外周波数であれば(ステップS31;YES)、ステップS35とステップS36を介して、次の周波数に移行し、ステップS31の処理に戻る。
周波数Fiが、既知の除外周波数でなければ(ステップS31;NO)、有効データ有無判定部230は、記憶部22の波形データ群220から周波数Fiの代表波形データを読み込み(ステップS32)、この代表波形データについて有効データ有無の判定を行う(ステップS33)。有効データなしという判定結果(ステップS33;NO)の場合は、有効データ有無判定部230は、ステップS35とステップS36を介して、次の周波数に移行し、ステップS31の処理に戻る。
有効データ有りという判定結果(ステップS33;YES)の場合は、有効データ有無判定部230は、周波数Fiを除外周波数として設定すると共に、その旨を除外周波数設定部231に通知し(ステップS34)、ステップS35及びステップS36を介して、次の周波数に移行し、ステップS31の処理に戻る。
ステップS31〜S34の処理は、ステップS35及びステップS36を介して、計測対象とする周波数Fiの全て(i=1〜imax)について実行され、i=imaxになると(ステップS35;YES)、除外周波数設定部231は、記憶部22の除外周波数既知情報222aと有効データ有無判定部230から除外周波数であると通知された周波数とに基づき、図6に除外範囲として例示するように、除外周波数を拡大して最終的な除外周波数を設定する(ステップS37)。これにより、図7のステップS3に示す除外周波数設定処理が終了する。
除外周波数設定部231は、図7のステップS3で設定された除外周波数を記憶部22の除外周波数設定情報222bとして格納する(図7のステップS4)。
次に、図7のステップS1で、異常診断計測の指示が入力されたと判定された場合(ステップS1;NO)について説明する。このときは、診断用計測制御部201の制御により、診断用計測処理が実行される(ステップS5)。
図7のステップS5の診断用計測処理の詳細を図10に示す。診断用計測制御部201は、まず、記憶部22の除外周波数設定情報222bを読み込む(ステップS50)。次に、診断用計測制御部201は、異常診断計測に係る計測条件を設定する(図10のステップS51)。計測条件の設定にあたって、診断用計測制御部201は、記憶部22から計測条件221を読み出して、計測周波数、1回当たりの計測時間、即ち商用交流電力信号の例えば2サイクル分に相当する計測時間、同一周波数での繰り返し計測回数などの計測条件を設定する。それぞれの計測は商用交流電力信号と同期するように計測開始のタイミングが設定される。計測対象とする周波数は、対応するバックグランド計測と同じに設定される。
なお、診断用計測制御部201は、異常診断計測における繰り返し計測回数のうち、除外周波数についての繰り返し計測回数N1については、計測条件221から読み出し、診断対象周波数についての繰り返し計測回数N2については、既に説明した方法により算定して設定する。
次に、診断用計測制御部201は、計測対象とする周波数Fi(i=1〜imax)について、除外周波数設定情報222bに含まれている除外周波数であるかどうかを判定する(図10のステップS52)。除外周波数であれば(ステップS52;YES)、その周波数Fiについては、繰り返し計測回数N=N1とし(ステップS53)、除外周波数でなければ(ステップS52;NO)、その周波数Fiについては、繰り返し計測回数N=N2とする(ステップS54)。診断用計測制御部201は、このように設定された繰り返し計測回数Nを含む計測条件に従って、計測部1及びデータ取得部21を制御して、周波数Fiの波形データを計測し(ステップS55)、取得する(ステップS56)。この計測は、ステップS57とステップS58を介して、各周波数においてN回、即ち、除外周波数ではN1回、診断対象周波数ではN2回、繰り返される。繰り返し計測回数kがN回になると(ステップS57;YES)、得られたN個の波形データから代表波形データが生成され(ステップS59)、記憶部22に格納され、波形データ群220が構成される。なお、Nが1の場合は、代表波形データは計測された波形データそのものとなる。ステップS52〜S60の処理は、ステップS61とステップS62を介して、各周波数Fiにおいて実行され、i=imaxとなったとき(ステップS61;YES)完了する。以上で図7のステップS5の診断用計測処理が完了し、次のステップS6のノイズ除去処理が実行される。
図7のステップS6のノイズ除去処理の詳細を図11に示す。図11は、図5に示す異常診断計測時のデータ処理部23について説明した内容をフロー図で示したものであるため、詳細についての説明は省略するが、データ処理部23での処理内容は、図11に示すフロー図と次の様に対応している。有効データ有無判定部230の処理内容は図11のステップS70〜S73に対応する。なお、ステップS71では、診断対象周波数をFn’(n=1〜nmax)として明示した。有効データ数算定部232aの処理内容はステップS75に、第1有効データ数判定部232bの処理内容はステップS76にそれぞれ対応する。有効データ数偏り判定部232cの処理内容はステップS77とステップS78に対応する。第2有効データ数判定部232dの処理内容はステップS79、ステップS80に対応する。継続時間判定部232eの処理内容はステップS81、ステップS82に対応する。同期性判定部232fの処理内容はステップS83〜S87に対応する。ステップS73、ステップS82、ステップS84のいずれかがNOのとき、及びステップS76、ステップS78、ステップS80のいずれかがYESのときは、それぞれにおいてステップS87とステップS74を介して、診断対象周波数Fn’(n=1〜nmax)の各周波数について、ステップS72以降、最大でステップS86までの処理が実行される。なお、ステップS82に示す継続時間判定部232eの処理内容は、一例であり、図5に関して説明した継続時間判定部232eの処理内容も選択することができる。図7のステップS6のノイズ除去処理の後はステップS7の異常診断処理に移行する。
異常診断処理(ステップS7)、診断結果の出力(ステップS8)については、図5の診断部24における説明と同じである。
異常診断用装置100は、異常診断計測に先立つバックグランド計測により、異常診断の対象から除外する除外周波数を求める。異常診断計測の際には、除外周波数における繰り返し計測回数N1を先に説明したN0よりも小さくすることによる計測時間の減少分を、診断対象周波数での繰り返し計測回数の増加に充当する。これにより診断対象周波数Fn’での総計測時間を延長することができる。すなわち、この異常診断用装置100は、異常診断計測において、商用交流電力信号に対する計測データの同期性の確保と、異常診断に係る計測時間の延長との両立を図るために利用される除外周波数という情報を提供することができる。その結果、異常診断用装置100は、除外周波数の情報を利用することにより、例えばボイド放電などの発生頻度の低い部分放電の検知確度を高めることができ、異常診断の確度を向上させることができる。
異常診断計測時の除外周波数における繰り返し計測回数N1は1又は0ではなくてもよく、N0よりも小さければ、N2は、同じ総計測時間Tでの従来のN2よりも大きくすることができる。また、図9のステップS37の除外周波数の拡大設定処理の内容も、図6に例示したものに限定されない。
異常診断用装置100の異常診断方法も、上記に限定されない。異常診断に周波数毎の波形データを計測するものであればどのような装置であってもよい。そのような異常診断用装置であれば、バックグランド計測により設定した除外周波数は、これまで説明したように、除外周波数を除いた診断対象周波数Fn’における繰り返し計測回数Nを増加させるために利用できる。
なお、計測作業者は、高感度に異常診断を行うために、センサである例えばアンテナを、計測時間中、手持ちで異常診断の対象となる機器に押し当てておく必要があることが多い。このような状況下では、異常診断に係る総計測時間は、計測作業者の負担の軽減のために、例えば20s以下など、できるだけ短くすることが望ましい。計測データの同期性確保のために総計測時間を所定値以下に制限するということは、計測作業者の負担の軽減にも繋がる。なお、バックグランド計測においては、センサを異常診断の対象となる機器に押し当てるという作業は発生しないため、その計測時間は計測作業者の負担という点では大きな問題とはならない。
異常診断計測のとき、除外周波数の数から算定される、診断対象周波数での繰り返し計測回数N2の算定値は、通常は、小数部を含む値になることが多い。繰り返し計測回数N2は整数値でなければならないため、小数部を含む場合には、例えば切り捨て、四捨五入等の処理を行ってN2を設定する。四捨五入等の処理の場合は、総計測時間が大きくなることがあるが、その増加分は大きなものとはならないので同期性の点で許容することができる。
各周波数における代表波形データは、図8のステップS25、又は図10のステップS59に示す様に、N回の繰り返し計測後に得られたN個の波形データから、例えば時間軸上の各ポイントでのデータ値を最大値とすることによって得られる波形データであるとした。しかし、代表波形データは、N個の波形データが揃ってから生成するのではなく、波形データが得られる都度、その一つ前の波形データと比較して、時間軸上の各ポイントにおいて大きい方の値を選択して暫定的な代表波形とし、この操作をN個の波形データについて実行することにより代表波形データを生成しても良い。
代表波形データは、N個の波形データに基づき、時間軸上の各ポイントでN個のデータ値を平均することによって得られる波形データとしてもよい。
バックグランド計測により得られる除外周波数の数が多いほど、異常診断計測時の診断対象周波数での繰り返し計測回数N2の増加の程度を大きくすることができる。除外周波数は、図9のステップS33における有効データ有無の判定結果に依存して決まる。従って、バックグランド計測時の繰り返し計測回数を大きくすることにより、有効データを検知する確率を向上させて、除外周波数の数を増加させることができる。
図1に例示する異常診断用装置100は、バックグランド計測とそれに伴う除外周波数の設定処理、及び異常診断計測とそれに伴う異常診断処理の両方の機能を備えたものとして説明したが、バックグランド計測とそれに伴う除外周波数の設定処理を行う装置をバックグランド計測装置とし、異常診断計測とそれに伴う異常診断処理を行う装置を異常診断装置として互いに別の装置としてもよい。このときのバックグランド計測装置においては、図1の計測制御部20はBG計測制御部200となり、データ処理部23及び記憶部22は図4に示すデータ処理部23及び記憶部22と同じ構成となる。設定された除外周波数情報は除外周波数設定情報222bとして記憶部22に格納され、異常診断計測に利用できる。設定された除外周波数情報を異常診断装置に送信しても良い。
部分放電の検知には電磁波信号以外に音波、超音波などを利用しても良い。
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る異常診断用装置100の構成例を図12に示す。図12に示す異常診断用装置100は、図1に示す異常診断用装置100の制御部2に再計測判定部26を追加したものであり、他の構成は変わらない。
再計測判定部26は、診断部24の診断の結果等から、再計測の条件を満たすかどうかを判定する。満たさなければ、再計測は行わず、診断部24の診断結果を最終診断結果として記憶部22の診断結果224に格納すると共に、出力制御部25を介して出力装置4に出力する。再計測の条件を満たす場合は、再計測判定部26は、診断用計測制御部201に、再度の異常診断計測を実施する指示を行う。この指示を受けた診断用計測制御部201は、以下に説明するように、計測対象とする周波数を絞り込み、絞り込んだ後の各周波数における繰り返し計測回数N3を算定し、絞り込んだ計測対象とする各周波数において、異常診断用の波形データの計測をN3回繰り返して実行する。得られたN3個の波形データから代表波形データを生成し、このときの計測対象とする各周波数を診断対象周波数とすることにより、診断対象周波数での代表波形データに基づき、ノイズ除去部232によるノイズ除去処理と診断部24による異常診断処理を行うという点については実施形態1で説明した通りである。
再計測判定部26の処理内容について、図13及び図14のフロー図を使ってより詳しく説明する。図13は、実施形態2に係る異常診断用装置100の動作を示すフロー図であり、図7に示すフロー図のステップS1〜S8の処理はそのまま踏襲され、ステップS7の後に再計測判定部26の処理内容であるステップS9〜S11を追加したものである。
再計測判定部26は、記憶部22の除外周波数設定情報222bを読み込み、除外周波数の数Nrを算定し、除外周波数の数Nrが、次式(8)を満たすかどうかを判定する(図13のステップS9)。
Nr≦Nrth (8)
Nrth;予め設定された再計測に係る除外周波数の数の閾値。
計測対象とする周波数Fiが例えば100点ある場合は、Nrthは例えば30に設定される。Nrが(8)式を満たさないときは(ステップS9;NO)、診断部24の診断結果をそのまま記憶部22に格納し、出力装置4に出力する(ステップS8)。
除外周波数の数Nrが、(8)式を満たすときは(ステップS9;YES)、再計測判定部26は、例えば、診断部24から、PD検出数Nabを取得し、次式(9)を満たすかどうかを判定する(ステップS10)。
1≦Nab≦Nabh (9)
Nabh;予め設定された再計測に係るPD検出数の上限閾値。
Nabhは、通常、式(7)の異常判定に係る閾値Nabsと同じ値に設定される。計測対象となる周波数が例えば100点の場合は、例えばNabhは5に設定される。
再計測判定部26は、Nabが(9)式を満たさないと判定したときは(ステップS10;NO)、処理をステップS8に移行させる。Nabが(9)式を満たすと判定したときは(ステップS10;YES)、診断用計測制御部201にその旨通知する。通知を受けた診断用計測制御部201は診断用再計測処理(ステップS11)を実行する。
図14に、診断用再計測処理の処理内容をフロー図で示す。図14は図10に対応したもので、図10のステップS50、ステップS52、ステップS53を省き、ステップS51をステップS51’に、ステップS54をステップS54’に、ステップS61をステップS61’に変更したものである。
診断用計測制御部201は、まず再計測時の計測条件の中の計測対象とする周波数を次の様にして設定する。診断用計測制御部201は、診断用波形データ群223に対応する周波数の範囲内で、診断用波形データ群223に対応する周波数において連続するNabh個、例えば5個の周波数からなる周波数帯をスキャンし、各代表波形データに含まれる残存する有効データ数の合計が最も多い周波数帯の周波数を、Fi”(i=1〜Nabh)として、再計測時の計測対象とする周波数に設定する。診断用計測制御部201は、計測対象とする周波数の数がNabhであるとして、総計測時間が同期性を確保できる時間Tと予め定めた誤差の範囲で等しくなるようにN3を算定する(図14のステップS51’)。
ステップS54’は、図10のステップS54でN2をN3に変更したものであり、ステップS61’は、図10のステップS61において、iの最大値をNabhに変更したものに対応している。
実施形態2に係る異常診断用装置100は、除外周波数の数Nrが少ない場合、即ち診断対象周波数の数が十分に低減しない場合、診断対象周波数での繰り返し計測回数をあまり増やすことができない。このような状況下であっても、部分放電に起因する有効データを含むと判定された周波数の数、即ちPD検出数Nabが、予め設定した数Nabh、例えば5より多い場合は、異常が発生していると判定できるが、PD検出数Nabが、予め設定した数、例えば5以下で0でもない、即ち1〜5の場合、異常が発生していないとは言えないが異常が発生していると判定することも難しい状況となる。実施形態2に係る異常診断用装置100は、このような状況下であっても、再計測に係る計測対象とする周波数を部分放電の検知確率が高いと考えられる狭い周波数帯内の所定数の周波数に絞り、これを診断対象周波数とすることにより、計測対象とする周波数における繰り返し計測回数を大幅に増やすことができる。これにより、より確度の高い異常診断を行うことが可能となる。
なお、再計測された代表波形データに有効データが含まれるかどうかの判定に使用される(1)式の標準偏差閾値を実施形態1で設定した値より小さい値とし、(2)式の閾値Jを実施形態1で設定した値より大きい値としてもよい。このように閾値を設定することにより判定式(1)(2)を満たすケースが増える。換言すれば、有効データが抽出されやすくなる。抽出された有効データはノイズ除去部232での処理によりノイズ成分は除外されるので、繰り返し計測回数の増加と相まって、微小で、低頻度の部分放電信号を検知しやすくなる。