[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を含有し、前記(b)共架橋剤が、後述する一般式(1)で表される錯体を含有することを特徴とする。
従来、共架橋剤として多用されている炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩は、イオン結晶であり、基材ゴムとの親和性が低く、基材ゴムに対する分散性が低い。また、このようなα,β−不飽和カルボン酸の金属塩は、共架橋剤同士でのオリゴマー化と、基材ゴムとの反応でグラフト鎖を形成し、架橋点を形成していた。そのため、各架橋点のサイズが大きく(およそ4nm)、架橋効率が低かった。これ対して、前記一般式(1)で表される錯体は、(a)基材ゴムとの親和性が高く、(a)基材ゴムに対する分散性が高い。そのため、架橋後の架橋点のサイズが小さくなる(およそ0.4nm)。また、前記一般式(1)で表される錯体は、あらかじめ架橋点の構造が形成されている。そのため、基材ゴムとの反応のみで架橋点を形成でき、架橋効率が高い。よって、本発明のゴム組成物を用いれば、反発性能に優れた架橋ゴム成形体が得られる。
((a)基材ゴム)
前記(a)基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができる。前記合成ゴムとしては、例えば、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンポリブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴム;エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムなどの非ジエン系ゴムが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
前記(a)基材ゴムは、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを含有することが好ましい。前記(a)基材ゴム中の天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムの合計含有量は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。前記(a)基材ゴムが、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムのみを含有することも好ましい。
前記(a)基材ゴムは、ポリブタジエンゴムを含有することが好ましい。特に、反発に有利なシス−1,4−結合を、40質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有するハイシスポリブタジエンが好適である。前記(a)基材ゴム中のハイシスポリブタジエンの含有量は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上である。
前記ハイシスポリブタジエンは、1,2−ビニル結合の含有量が2.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.7質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。1,2−ビニル結合の含有量が多すぎると反発性が低下する場合がある。
前記ハイシスポリブタジエンは、希土類元素系触媒で合成されたものが好適であり、特に、ランタン系列希土類元素化合物であるネオジム化合物を用いたネオジム系触媒の使用が、1,4−シス結合が高含量、1,2−ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましい。
前記ハイシスポリブタジエンとしては、分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、2.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、最も好ましくは2.6以上であり、6.0以下であることが好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下、最も好ましくは3.4以下である。ハイシスポリブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)が小さすぎると作業性が低下し、大きすぎると反発性が低下するおそれがある。なお、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー社製、「HLC−8120GPC」)により、検知器として示差屈折計を用いて、カラム:GMHHXL(東ソー社製)、カラム温度:40℃、移動相:テトラヒドロフランの条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した値である。
前記ハイシスポリブタジエンは、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、30以上であることが好ましく、より好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上であり、140以下が好ましく、より好ましくは120以下、さらに好ましくは100以下、最も好ましくは80以下である。なお、本発明でいうムーニー粘度(ML1+4(100℃))とは、JIS K6300に準じて、Lローターを使用し、予備加熱時間1分間、ローターの回転時間4分間、100℃の条件下にて測定した値である。
((b)共架橋剤)
前記(b)共架橋剤は、カルボキシレートを配位子に有する錯体であって、一般式(1)で表される錯体を含有する。
[式(1)中、Mは金属原子、Oは酸素原子、Lは一般式(2)で表されるカルボキシレートである。式(2)中、Oは酸素原子、Cは炭素原子であり、Rは、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基または炭素数2〜18のアルキニル基であり、破線は共鳴構造を示す。式(1)において、複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、Rのうち少なくとも2個は炭素数2〜18のアルケニル基または炭素数2〜18のアルキニル基である。]
前記金属原子(M)としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属;ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムなどの卑金属が挙げられる。前記金属原子は、単独または2種以上であってもよい。これらの中でも、前記金属原子としては、酸化数が+2であるものが好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、鉛である。
炭素数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。前記炭素数1〜18のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。
炭素数2〜18のアルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基、6−ヘプテニル基、7−オクテニル基、8−ノネニル基、9−デセニル基、10−ウンデセニル基、11−ドデセニル基、8−トリデセニル基、12−トリデセニル基、13−テトラデセニル基、8−ペンタデセニル基、14−ペンタデセニル基、15−ヘキサデセニル基、8−ヘプタデセニル基、10−ヘプタデセニル基、16−ヘプタデセニル基、17−オクタデセニル基が挙げられる。前記炭素数2〜18のアルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2〜18のアルケニル基としては、炭素−炭素二重結合を1つ有するものが好ましく、末端に炭素−炭素二重結合を有するものが好ましい。前記アルケニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2〜18のアルケニル基としては、ビニル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基が好ましい。
炭素数2〜18のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロペニル基、3−ブチニル基、4−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、6−ヘプチニル基、7−オクチニル基、8−ノニニル基、9−デシニル基、10−ウンデシニル基、11−ドデシニル基、8−トリデシニル基、12−トリデシニル基、13−テトラデシニル基、8−ペンタデシニル基、14−ペンタデシニル基、15−ヘキサデシニル基、8−ヘプタデシニル基、10−ヘプタデシニル基、16−ヘプタデシニル基、17−オクタデシニル基が挙げられる。前記炭素数2〜18のアルキニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2〜18のアルキニル基としては、炭素−炭素三重結合を1つ有するものが好ましく、末端に炭素−炭素三重結合を有するものが好ましい。前記アルキニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2〜18のアルキニル基としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基が好ましい。
式(1)において、Rのうち少なくとも2個は、炭素数2〜18のアルケニル基、または、炭素数2〜18のアルキニル基である。つまり、式(1)で表される錯体は、炭素−炭素不飽和結合を2つ以上有する。炭素−炭素不飽和結合を2つ以上有することで、(a)基材ゴムの複数の分子鎖を架橋できる。前記R中の炭素数2〜18のアルケニル基、または、炭素数2〜18のアルキニル基の個数は、3個以上が好ましく、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上、最も好ましくは6個である。
式(1)において、Rのうち少なくとも2個は、末端に炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜18のアルケニル基、または、末端に炭素−炭素三重結合を有する炭素数2〜18のアルキニル基であることが好ましい。前記R中の末端に炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜18のアルケニル基、または、末端に炭素−炭素三重結合を有する炭素数2〜18のアルキニル基の個数は、3個以上が好ましく、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上、最も好ましくは6個である。
式(1)において、6個存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
式(1)で表される錯体としては、例えば、Rが全てビニル基であり、金属原子(M)が亜鉛である錯体(アクリル酸亜鉛オキソクラスター);Rが全てイソプロペニル基であり、金属原子(M)が亜鉛である錯体(メタクリル酸亜鉛オキソクラスター)が挙げられる。
式(1)で表される錯体の構造としては、酸素原子(O)に4つの金属原子(M)が結合し、この金属原子にカルボキシレート基(式(2))が配位した構造が挙げられる。酸素原子に結合した4つの金属原子の配置態様としては、正四面体構造、平面四角形構造が挙げられる。また、金属原子に対するカルボキシレート基の配位態様は、二座配位である。なお、カルボキシレート基の2つの酸素原子は、異なる金属原子に配位してもよいし、同一の金属原子に配位してもよいが、異なる金属原子に配位していることが好ましい。
前記一般式(1)で表される錯体は、構造式(3)で表される錯体が好ましい。
[式(3)において、M
1〜M
4は同一または異なって金属原子、Oは酸素原子であり、R
1〜R
6は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基または炭素数2〜18のアルキニル基を表す。R
1〜R
6のうち少なくとも2個は炭素数2〜18のアルケニル基または炭素数2〜18のアルキニル基である。なお、式(3)において、破線は共鳴構造を示す。]
式(3)においてM1〜M4で表される金属原子としては、式(1)のMと同様のものが挙げられる。これらの中でも、前記金属原子としては、酸化数が+2であるものが好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、鉛である。M1〜M4で表される金属原子は、それぞれ異なっていてもよいが、全て同一の金属原子であることが好ましい。
式(3)においてR1〜R6で表される炭素数1〜18のアルキル基は、式(1)のRと同様のものが挙げられる。前記炭素数1〜18のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。
式(3)においてR1〜R6で表される炭素数2〜18のアルケニル基は、式(1)のRと同様のものが挙げられる。前記炭素数2〜18のアルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2〜18のアルケニル基としては、末端に炭素−炭素二重結合を有するものが好ましい。前記アルケニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2〜18のアルケニル基としては、ビニル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基が好ましい。
式(3)においてR1〜R6で表される炭素数2〜18のアルキニル基は、式(1)のRと同様のものが挙げられる。前記炭素数2〜18のアルキニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2〜18のアルキニル基としては、末端に炭素−炭素三重結合を有するものが好ましい。前記アルキニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2〜18のアルキニル基としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基が好ましい。
式(3)において、R1〜R6のうち少なくとも2個は、炭素数2〜18のアルケニル基、または、炭素数2〜18のアルキニル基である。前記R1〜R6中の炭素数2〜18のアルケニル基、または、炭素数2〜18のアルキニル基の個数は、3個以上が好ましく、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上、最も好ましくは6個である。
式(3)において、R1〜R6のうち少なくとも2個は、末端に炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜18のアルケニル基、または、末端に炭素−炭素三重結合を有する炭素数2〜18のアルキニル基であることが好ましい。前記R1〜R6中の末端に炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜18のアルケニル基、または、末端に炭素−炭素三重結合を有する炭素数2〜18のアルキニル基の個数は、3個以上が好ましく、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上、最も好ましくは6個である。
式(3)において、R1〜R6は、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
式(3)において、R1〜R6がビニル基またはイソプロペニル基であり、金属原子は酸化数が+2であるものが好ましく、より好ましくは亜鉛である。
前記(b)共架橋剤は、本発明の効果を損なわない程度に、前記一般式(1)で表される錯体以外の他の共架橋剤を含有してもよい。前記他の共架橋剤としては、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩が挙げられる。炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有する。前記炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられる。
炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記金属成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属が好ましい。炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二価の金属塩を用いることにより、ゴム分子間に金属架橋が生じやすくなるからである。
前記他の架橋剤を使用する場合、前記(b)共架橋剤中の前記一般式(1)で表される錯体の含有率は、5質量%以上であり、20質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。なお、ゴム組成物は、前記(b)共架橋剤として、前記一般式(1)で表される錯体のみを含有することも好ましい。
前記ゴム組成物中の前記(b)共架橋剤の含有率は、前記(a)基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、50質量部以下が好ましく、より好ましくは45質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。前記(b)共架橋剤の含有量が1質量部未満では、ゴム組成物から形成される部材を適当な硬さとするために、後述する(c)架橋開始剤の量を増加しなければならず、架橋ゴム成形体の反発性が低下する傾向がある。一方、(b)共架橋剤の含有量が50質量部を超えると、ゴム組成物から形成される部材が硬くなりすぎる傾向がある。
((c)架橋開始剤)
前記(c)架橋開始剤は、(a)基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。(c)架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。前記有機過酸化物としては、例えば、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステルが挙げられる。前記パーオキシケタールとしては、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシバレレート)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。前記ジアルキルパーオキサイドとしては、ジクミルパーオキサイド、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。前記パーオキシエステルとしては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
前記(c)架橋開始剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上であって、50質量部以下が好ましく、より好ましくは45質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下、特に好ましくは35質量部以下である。前記(c)架橋開始剤の含有量が、0.2質量部未満では、ゴム組成物から形成される部材が柔らかくなりすぎて、架橋ゴム成形体の反発性が低下する傾向があり、50質量部を超えると、ゴム組成物から形成される部材を適切な硬さにするために、前述した(b)共架橋剤の使用量を減少する必要があり、架橋ゴム成形体の反発性が不足したり、耐久性が悪くなるおそれがある。
((d)金属化合物)
前記ゴム組成物は、さらに(d)金属化合物を含有してもよい。前記(d)金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。(d)金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記(d)金属化合物としては、金属酸化物が好ましく、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記ゴム組成物中の(d)金属化合物の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であり、20質量部以下が好ましく、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
((e)カルボン酸および/またはその塩)
前記ゴム組成物は(e)カルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。前記(e)カルボン酸および/またはその塩を含有することで、得られる架橋ゴム成形体の硬度分布を制御できる。前記(e)カルボン酸および/またはその塩としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸および芳香族カルボン酸塩が挙げられる。前記(e)カルボン酸および/または塩は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。なお、(e)カルボン酸および/またはその塩には、前記(b)共架橋剤として使用する一般式(1)で表される錯体、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は含まない。
前記脂肪族カルボン酸は、飽和脂肪族カルボン酸(以下、「飽和脂肪酸」と称する場合がある。)、不飽和脂肪族カルボン酸(以下、「不飽和脂肪酸」と称する場合がある。)のいずれであっても良い。また、脂肪族カルボン酸は、分岐構造や環状構造を有していてもよい。前記飽和脂肪酸の炭素数は、6以上が好ましく、24以下が好ましく、より好ましくは18以下、さらに好ましくは13以下である。前記不飽和脂肪酸の炭素数は、6以上が好ましく、より好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上であり、24以下が好ましく、より好ましくは18以下、さらに好ましくは13以下である。
前記芳香族カルボン酸としては、分子中にベンゼン環を有するもの、分子中に複素芳香環を有するものが挙げられる。前記芳香族カルボン酸は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ベンゼン環を有するカルボン酸としては、例えば、ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した芳香族カルボン酸、ベンゼン環に脂肪族カルボン酸が結合した芳香族−脂肪族カルボン酸、縮合ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した多核芳香族カルボン酸、縮合ベンゼン環に脂肪族カルボン酸が結合した多核芳香族−脂肪族カルボン酸などが挙げられる。前記複素芳香環を有するカルボン酸としては、例えば、複素芳香環に直接カルボキシル基が結合したものが挙げられる。
脂肪族カルボン酸塩または芳香族カルボン酸塩としては、上述した脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸の塩を用いることできる。これらの塩のカチオン成分としては、例えば、金属イオン、アンモニウムイオン、および、有機陽イオンを挙げることができる。前記カチオン成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。金属イオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、銀などの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンなどの2価の金属イオン;アルミニウム、鉄などの3価の金属イオン;錫、ジルコニウム、チタンなどのその他のイオンが挙げられる。これらの中でも、金属イオンとしては、2価の金属イオンが好ましく、より好ましくはマグネシウム、亜鉛、カルシウムである。
前記有機陽イオンとは、炭素鎖を有する陽イオンである。前記有機陽イオンとしては、特に限定されず、例えば、有機アンモニウムイオンが挙げられる。前記有機アンモニウムイオンとしては、例えば、ステアリルアンモニウムイオン、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオンなどの1級アンモニウムイオン、ドデシル(ラウリル)アンモニウムイオン、オクタデシル(ステアリル)アンモニウムイオンなどの2級アンモニウムイオン;トリオクチルアンモニウムイオンなどの3級アンモニウムイオン;ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオンなどの4級アンモニウムイオンなどが挙げられる。これらの有機陽イオンは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記脂肪族カルボン酸および/またはその塩としては、飽和脂肪酸および/またはその塩、不飽和脂肪酸および/またはその塩が挙げられる。前記飽和脂肪酸および/またはその塩が好ましく、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。前記不飽和脂肪酸および/またはその塩としては、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸もしくはアラキドン酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。
前記芳香族カルボン酸および/またはその塩としては、特に、安息香酸、ブチル安息香酸、アニス酸(メトキシ安息香酸)、ジメトキシ安息香酸、トリメトキシ安息香酸、ジメチルアミノ安息香酸、クロロ安息香酸、ジクロロ安息香酸、トリクロロ安息香酸、アセトキシ安息香酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、フランカルボン酸もしくはテノイル酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。
前記(e)カルボン酸および/またはその塩の含有量は、例えば、(a)基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であって、30質量部以下が好ましく、より好ましくは20質量部以下であり、さらに好ましくは15質量部以下である。
((f)有機硫黄化合物)
前記ゴム組成物は、さらに(f)有機硫黄化合物を含有してもよい。(f)有機硫黄化合物としては、例えば、チオフェノール類、チオナフトール類、ポリスルフィド類、チウラム類、チオカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、スルフェンアミド類、ジチオカルバミン酸塩類、チアゾール類およびこれらの金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を挙げることができる。(f)有機硫黄化合物としては、チオール基(−SH)を有する有機硫黄化合物、または、その金属塩が好ましく、チオフェノール類、チオナフトール類、または、これらの金属塩が好ましい。
チオール類としては、例えば、チオフェノール類、チオナフトール類が挙げられる。前記チオフェノール類としては、例えば、チオフェノール;4−フルオロチオフェノール、2,5−ジフルオロチオフェノール、2,6−ジフルオロチオフェノール、2,4,5−トリフルオロチオフェノール、2,4,5,6−テトラフルオロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノールなどのフルオロ基で置換されたチオフェノール類;2−クロロチオフェノール、4−クロロチオフェノール、2,4−ジクロロチオフェノール、2,5−ジクロロチオフェノール、2,6−ジクロロチオフェノール、2,4,5−トリクロロチオフェノール、2,4,5,6−テトラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノールなどのクロロ基で置換されたチオフェノール類;4−ブロモチオフェノール、2,5−ジブロモチオフェノール、2,6−ジブロモチオフェノール、2,4,5−トリブロモチオフェノール、2,4,5,6−テトラブロモチオフェノール、ペンタブロモチオフェノールなどのブロモ基で置換されたチオフェノール類;4−ヨードチオフェノール、2,5−ジヨードチオフェノール、2,6−ジヨードチオフェノール、2,4,5−トリヨードチオフェノール、2,4,5,6−テトラヨードチオフェノール、ペンタヨードチオフェノールなどのヨード基で置換されたチオフェノール類;または、これらの金属塩が挙げられる。金属塩としては、亜鉛塩が好ましい。
前記チオナフトール類(ナフタレンチオール類)としては、2−チオナフトール、1−チオナフトール、1−クロロ−2−チオナフトール、2−クロロ−1−チオナフトール、1−ブロモ−2−チオナフトール、2−ブロモ−1−チオナフトール、1−フルオロ−2−チオナフトール、2−フルオロ−1−チオナフトール、1−シアノ−2−チオナフトール、2−シアノ−1−チオナフトール、1−アセチル−2−チオナフトール、2−アセチル−1−チオナフトール、またはこれらの金属塩を挙げることができ、2−チオナフトール、1−チオナフトール、またはこれらの金属塩が好ましい。金属塩としては、好ましくは2価の金属塩、より好ましくは亜鉛塩である。金属塩の具体的としては、例えば、1−チオナフトールの亜鉛塩、2−チオナフトールの亜鉛塩が挙げられる。
ポリスルフィド類とは、ポリスルフィド結合を有する有機硫黄化合物であり、例えば、ジスルフィド類、トリスルフィド類、テトラスルフィド類が挙げられる。前記ポリスルフィド類としては、ジフェニルポリスルフィド類が好ましい。
ジフェニルポリスルフィド類としては、ジフェニルジスルフィドの他;ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタヨードフェニル)ジスルフィド等のハロゲン基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−メチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−t−ブチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリ−t−ブチルフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタ−t−ブチルフェニル)ジスルフィド等のアルキル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;などが挙げられる。
チウラム類としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラムモノスルフィド類、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどのチウラムジスルフィド類、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどのチウラムテトラスルフィド類が挙げられる。チオカルボン酸類としては、例えば、ナフタレンチオカルボン酸が挙げられる。ジチオカルボン酸類としては、例えば、ナフタレンジチオカルボン酸が挙げられる。スルフェンアミド類としては、例えば、N−シクロへキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドが挙げられる。
(f)前記有機硫黄化合物は、単独もしくは二種以上を混合して使用することができる。(f)有機硫黄化合物としては、チオフェノール類および/またはその金属塩、チオナフトール類および/またはその金属塩、ジフェニルジスルフィド類、チウラムジスルフィド類が好ましく、より好ましくは2,4−ジクロロチオフェノール、2,6−ジフルオロチオフェノール、2,6−ジクロロチオフェノール、2,6−ジブロモチオフェノール、2,6−ジヨードチオフェノール、2,4,5−トリクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、1−チオナフトール、2−チオナフトール、ジフェニルジスルフィド、ビス(2,6−ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドである。
(f)有機硫黄化合物の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.0質量部以下である。(e)有機硫黄化合物の含有量が、0.05質量部未満では、(e)有機硫黄化合物を添加した効果が得られず、ゴルフボールの反発性が向上しないおそれがある。また、(e)有機硫黄化合物の含有量が、5.0質量部を超えると、得られるゴルフボールの圧縮変形量が大きくなって、反発性が低下するおそれがある。
(他の成分)
前記ゴム組成物は、必要に応じて、顔料、重量調整などのための充填剤、老化防止剤、しゃく解剤、軟化剤などの添加剤を含有してもよい。また、ゴム組成物は、ゴルフボールのコアや、コア作製時に発生した端材を粉砕したゴム粉末を含有してもよい。
ゴム組成物に配合される顔料としては、例えば、白色顔料、青色顔料、紫色顔料などを挙げることができる。前記白色顔料としては、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンの種類は、特に限定されないが、隠蔽性が良好であるという理由から、ルチル型を用いることが好ましい。また、酸化チタンの含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上であって、8質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下である。
ゴム組成物が白色顔料と青色顔料とを含有することも好ましい態様である。青色顔料は、白色を鮮やかに見せるために配合され、例えば、群青、コバルト青、フタロシアニンブルーなどを挙げることができる。また、前記紫色顔料としては、例えば、アントラキノンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、メチルバイオレットなどを挙げることができる。
ゴム組成物に用いる充填剤としては、主として架橋ゴム成形体の重量を調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。充填剤の含有量が0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記老化防止剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
[ゴム組成物の製造方法]
(一般式(1)で表される錯体の調製)
前記一般式(1)で表される錯体は、脂肪酸金属塩と金属酸化物とを接触させることで得られる。前記一般式(1)で表される錯体を製造する方法としては、例えば、脂肪酸金属塩および金属酸化物を、第一溶媒に溶解または分散させ、この反応液を撹拌する工程(反応工程);前記反応液から不溶物を除去する工程(不溶物除去工程);および、反応液から、溶媒を除去する工程(乾燥工程)を有する製造方法が挙げられる。
(反応工程)
反応工程では、脂肪酸金属塩および金属酸化物を、第一溶媒に溶解または分散させ、この反応液を撹拌する。この工程では、溶媒中で、脂肪酸金属塩と金属酸化物とを接触させ、一般式(1)で表される錯体を生成させる。
前記脂肪酸金属塩としては、一般式(2)で表される配位子を形成し得るものであれば特に限定されない。前記脂肪酸金属塩は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、炭素数1〜19の飽和脂肪酸、炭素数3〜20の不飽和脂肪酸が挙げられる。前記飽和脂肪酸としては、例えば、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸が挙げられる。前記不飽和脂肪酸としては、例えば、プロペン酸(アクリル酸)、2−メチルプロパ−2−エン酸(メタクリル酸)、2−ブテン酸、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、5−ヘキセン酸、6−ヘプテン酸、7−オクテン酸、8−ノネン酸、9−デセン酸、10−ウンデセン酸、11−ドデセン酸、12−トリデセン酸、9−テトラデセン酸、13−テトラデセン酸、14−ペンタデセン酸、9−ヘキサデセン酸、15−ヘキサデセン酸、16−ヘプタデセン酸、9−オクタデセン酸、11−オクタデセン酸、17−オクタデセン酸、18−ノナデセン酸などの炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸;プロピン酸、3−ブチン酸、4−ペンチン酸、5−ヘキシン酸、6−ヘプチン酸、7−オクチン酸、8−ノニン酸、9−デシン酸、10−ウンデシン酸、11−ドデシン酸、12−トリデシン酸、9−テトラデシン酸、13−テトラデシン酸、14−ペンタデシン酸、9−ヘキサデシン酸、15−ヘキサデシン酸、16−ヘプタデシン酸、9−オクタデシン酸、11−オクタデシン酸、17−オクタデシン酸、18−ノナデシン酸などの炭素−炭素三重結合を有する不飽和脂肪酸が挙げられる。
前記炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸としては、炭素−炭素二重結合を1つ有するものが好ましく、末端に炭素−炭素二重結合を有するものが好ましい。前記炭素−炭素三重結合を有する不飽和脂肪酸としては、炭素−炭素三重結合を1つ有するものが好ましく、末端に炭素−炭素三重結合を有するものが好ましい。
前記脂肪酸金属塩を構成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属;ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムなどの卑金属が挙げられる。これらの中でも、前記金属原子としては、2価の金属イオンを形成し得る金属原子が好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、鉛である。金属原子は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
前記脂肪酸金属塩としては、脂肪酸の2価の金属イオンの金属塩が好ましく、より好ましくは不飽和脂肪酸の2価の金属イオンの金属塩、さらに好ましくはアクリル酸またはメタクリル酸の2価の金属イオンの金属塩、特に好ましくはアクリル酸亜鉛またはメタクリル酸亜鉛である。
前記脂肪酸金属塩を2種以上併用する場合、各脂肪酸金属塩の含有量は、所望とする錯体に応じて適宜調節すればよい。なお、前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有率は、33mol%以上、50mol%以上が好ましく、より好ましくは66mol%以上である。前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸が、全て不飽和脂肪酸であることも好ましい。また、前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸中の炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸の含有率は、33mol%以上、50mol%以上が好ましく、より好ましくは66mol%以上である。前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸が、全て炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸であることも好ましい。前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は複数種を併用してもよいが、一種であることも好ましい。
前記脂肪酸金属塩の態様としては、1種の脂肪酸と1種の金属イオンを含有する態様;複数種の脂肪酸と1種の金属イオンを含有する態様;1種の脂肪酸と複数種の金属イオンを含有する態様;複数種の脂肪酸と複数種の金属イオンを含有する態様が挙げられる。これらの中で、1種の脂肪酸と1種の金属イオンを含有する態様が好ましい。
前記金属酸化物としては、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウムなどのアルカリ金属の酸化物;酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物;酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化テクネチウム、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化銀、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、レニウム、酸化オスミウム、酸化イリジウム、酸化白金、酸化金などの遷移金属の酸化物;酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化カドミウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化タリウム、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ポロニウムなどの卑金属の酸化物が挙げられる。前記金属酸化物は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属酸化物としては、2価の金属の酸化物が好ましく、より好ましくは酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化カドミウム、酸化鉛である。
前記脂肪酸金属塩と前記金属酸化物との組合せは特に限定されないが、脂肪酸金属塩を構成する金属と、金属酸化物を構成する金属とが同一であることが好ましい。前記脂肪酸金属塩と前記金属酸化物との組合せとしては、脂肪酸亜鉛塩と酸化亜鉛との組合せが好ましく、より好ましくは不飽和脂肪酸亜鉛塩と酸化亜鉛との組合せ、さらに好ましくはアクリル酸亜鉛および/またはメタクリル酸亜鉛と酸化亜鉛との組合せである。
前記第一溶媒は、反応により生成した一般式(1)で表される錯体を溶解し得る溶媒である。前記第一溶媒としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルムなどが挙げられる。
前記反応液中の前記脂肪酸金属塩中の脂肪酸と前記金属酸化物との混合比(モル比)(脂肪酸/金属酸化物)は、1.0以上が好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上であり、6.0以下が好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下である。前記混合比が上記範囲内であれば、所望とする錯体を収率良く製造できる。
前記溶媒の使用量は、前記脂肪酸金属塩と前記金属酸化物との合計100質量部に対して、1000質量部以上が好ましく、より好ましくは2000質量部以上、さらに好ましくは3000質量部以上であり、10000質量部以下が好ましく、より好ましくは8000質量部以下、さらに好ましくは6000質量部以下である。前記溶媒の使用量が1000質量部以上であれば錯体の収率がより高くなり、10000質量部以下であれば合成時の作業量を低減できる。
前記反応液を撹拌する際の液温は、0℃以上が好ましく、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、100℃以下が好ましく、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。前記液温が0℃以上であれば反応速度が高くなって錯体の収率がより高くなり、100℃以下であればカルボキシレートの不飽和結合の反応が抑制され、錯体の収率がより高くなる。
前記反応液を撹拌する時間は、1時間以上が好ましく、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは12時間以上であり、300時間以下が好ましく、より好ましくは200時間以下、さらに好ましくは100時間以下である。
(不溶物除去工程)
不溶物除去工程では、反応後の反応液から不溶物を除去する。不溶物は、溶媒に溶け残った金属酸化物や脂肪酸金属塩と考えられる。また、反応時の液温が高い場合には、不飽和脂肪酸金属塩の重合物も不溶物として生成すると考えられる。
反応後の反応液から不溶物を除去する方法としては、例えば、反応液をろ過する方法が挙げられる。
(乾燥工程)
乾燥工程では、不溶物を除去した反応液から溶媒を除去する。溶媒を除去することで、一般式(1)で表される錯体と脂肪酸金属塩との混合物が得られる。
溶媒を除去する方法としては、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられ、減圧乾燥が好ましい。減圧乾燥を行う際に、反応液を加熱してもよい。乾燥時の反応液の温度は、100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
前記製造方法は、一般式(1)で表される錯体を精製するための工程を有していてもよい。なお、錯体を精製するための工程を有する場合、前記不溶物除去工程を省略してもよい。精製するための工程としては、前記製造方法において、反応液から脂肪酸金属塩を除去する方法(精製工程を含む方法);前記製造方法により得られた一般式(1)で表される錯体と脂肪酸金属塩との混合物について、再沈殿を行う方法(再沈殿工程を含む方法);などが挙げられる。これらの中でも、前記製造方法において、反応液から脂肪酸金属塩を除去する方法が好ましい。
(精製工程)
精製工程では、前記製造方法において、不溶物を除去した反応液に第二溶媒を投入し、析出物を除去する。反応液に第二溶媒を投入することで、脂肪酸金属塩等の不純物を析出させる。この析出物を除去することで、最終的に得られる一般式(1)で表される錯体の純度を高めることができる。
前記第二溶媒は、反応液中の脂肪酸金属塩を選択的に析出できるものであれば特に限定されない。つまり、第二溶媒に対する一般式(1)で表される錯体の溶解性が、第二溶媒に対する脂肪酸金属塩の溶解性よりも高い。前記第二溶媒としては、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素などが挙げられる。
第二溶媒の投入量は、脂肪酸金属塩を析出できるように適宜調節すればよい。前記第二溶媒の投入量は、前記第一溶媒の使用量100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
また、第二溶媒を投入した後、第一溶媒および第二溶媒の一部を除去することで、脂肪酸金属塩を析出させてもよい。第一溶媒および第二溶媒の一部を除去する方法としては、減圧乾燥が好ましい。減圧乾燥を行う際に、反応液を加熱してもよい。乾燥時の反応液の温度は、100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
析出した脂肪酸金属塩を除去する方法としては、例えば、反応液をろ過する方法が挙げられる。析出物を除去した反応液は、前記乾燥工程で第一溶媒および第二溶媒を除去することで、一般式(1)で表される錯体が得られる。なお、前記精製工程は、所望とする一般式(1)で表される錯体の純度に応じて、複数回行ってもよい。
(再沈殿工程)
再沈殿工程では、前記製造方法により得られた一般式(1)で表される錯体と脂肪酸金属塩との混合物について、再沈殿を行う。具体的には、前記製造方法により得られた一般式(1)で表される錯体と脂肪酸金属塩との混合物を第一溶媒に溶解させた後、この溶解液に第二溶媒を投入して脂肪酸金属塩を析出させ、析出物を除去する。
再沈殿工程で使用する第一溶媒、第二溶媒は、前記反応工程、精製工程で例示したものを使用できる。また、第二溶媒の使用量、析出物の除去方法の好適態様は、前記精製工程と同様である。析出物を除去した後、溶媒を除去することで、一般式(1)で表される錯体が得られる。溶媒の除去方法の好適態様は、前記乾燥工程と同様である。なお、再沈殿工程は、所望とする一般式(1)で表される錯体の純度に応じて、複数回行ってもよい。
[ゴム組成物の調製]
前記ゴム組成物は、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤、必要に応じて(d)金属化合物、(e)カルボン酸および/またはその塩、(f)有機硫黄化合物、および、その他の添加剤などを混合して、混練することにより得られる。混練の方法は、特に限定されず、例えば、混練ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどの公知の混練機を用いて行えばよい。
[架橋ゴム成形体]
本発明の架橋ゴム成形体は、前記ゴム組成物から形成されたことを特徴とする。前記架橋ゴム成形体は、混練後のゴム組成物を金型内で成形することにより得ることができる。成形温度は、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、250℃以下が好ましい。また、成形時の圧力は、2.9MPa〜11.8MPaが好ましい。成形時間は、10分間〜60分間が好ましい。
前記架橋ゴム成形体の用途としては、ゴルフボール、テニスボール、グリップなどのスポーツ用品;ホース、ベルト、マットなどの工業用品;靴底、タイヤ、樹脂添加物、防振ゴム、防舷材などが挙げられる。前記ゴルフボールとしては、前記ゴム組成物から形成された構成部材を有するものが挙げられる。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
[評価方法]
(1)直接導入−質量分析(DI-MS)
質量分析は、質量分析計(Waters社製、SynaptG2-S型)を用いた。
イオン化法:大気圧固体試料プローブ(ASAP)
測定モード:Pos.、Neg.
測定範囲:m/z = 50〜1500
(2)CHN元素分析
元素分析は、有機微量元素分析装置(ジェイ・サイエンス・ラボ社製、マイクロコーダー JM10型)を用いて行った。
(3)亜鉛含量測定
アクリル酸亜鉛オキソクラスター(0.1171g)を100mlのビーカーに秤量し、蒸留水50mlを加えて溶解させた。これに酢酸−酢酸ナトリウム(pH5)緩衝液 10mlを加え、XO指示薬(和光純薬工業(株)、0.1w/v%キシレノールオレンジ溶液・滴定用0.1g/100ml=0.001396M)数滴を加えた。最後に、蒸留水で100mlに調製した。この調整液に対して0.05mol/lのEDTA標準液(同仁化学社製)で滴定を行った。
(4)赤外分光分析
赤外分光分析は、全反射吸収測定のプリズムとしてダイヤモンドを使用した全反射吸収測定法(ATR法)にて行い、フーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー社製、「Spectrum One」)を用いて行った。
(5)粉末X線回折
X線回折測定は、広角X線回折装置(リガク社製、「RINT-TTR III型」)を用いて行った。測定試料は、メノウ乳鉢を用いて粉砕した。測定条件は、下記のとおりである。
X線源;CuKα線
管電圧−管電流;50kV−300mA
ステップ幅;0.02deg.
測定速度;5deg./min
スリット系;発散−受光−散乱:0.5deg.−開放−0.5deg.
モノクロメーター;回折線湾曲結晶モノクロメーター
(6)スラブ硬度(ショアC硬度)
ゴム組成物を用いて、加熱成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。なお、加熱成形は、表1、2に示した温度、時間で行った。このシートを、測定基板などの影響が出ないように3枚以上重ねた状態で、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて硬度を測定した。検出器は、「Shore C」を用いた。
(7)リュプケ式反発弾性率
反発弾性試験は、JIS K6255(2013)に準じて行った。ゴム組成物を用いて、加熱成形により、厚み約2mmのシートを作製した。なお、加熱成形は、表1、2に示した温度、時間で行った。当該シートから直径28mmの円形状に打抜いたものを6枚重ねることにより、厚さ約12mm、直径28mmの円柱状試験片を作製した。この試験片を、温度23±2℃、相対湿度50±5%で、12時間保存した。作製した試験片について、リュプケ式反発弾性試験測定装置(株式会社上島製作所製)を用いて、反発弾性率を測定した。上記重ね合わせた試験片の平面部分を機械的固定法で支持し、測定条件は、温度23℃、相対湿度50%、打撃端直径12.50±0.05mm、打撃質量0.35±0.01kg、打撃速度1.4±0.01m/sとした。
[アクリル酸亜鉛オキソクラスターの製造]
酸化亜鉛(0.125kg、1.54mol)、アクリル酸亜鉛(0.955kg、4.60mol)をジクロロメタン24.9kgに入れ、40℃で48時間撹拌した。なお、溶媒は還流させた。48時間経過後、反応液をろ過して、沈殿物を除去した。ろ液にヘキサン9.83kgを加え、液量が約1/4になるまで減圧濃縮した。濃縮液をろ過し、ろ液を濃縮乾燥させることで、アクリル酸亜鉛オキソクラスターを得た(615g、収率57質量%)。
上記で得たアクリル酸亜鉛オキソクラスターについて、質量分析、元素分析、亜鉛含量測定、X線回折測定、赤外分光分析を行った。各試験結果を以下に示した。
High-resolution ASAP-MS(positive)スペクトル測定結果
Positive ion HR-ASAP-MS m/z: 632.7715
[M-CH2CHCOO]+ (calcd. For C15H15O11Zn4 632.7707 Δ1.2ppm
High-resolution ASAP-MS(negative)スペクトル測定結果
Negative ion HR-ASAP-MS m/z: 735.7762
[M+O2]- (calcd. For C18H18O15Zn4 735.7740 Δ2.9ppm
Anal. Calcd for C18H18O13Zn4: C, 30.71; H, 2.58. Found: C, 30.72; H, 2.50.
IRスペクトルピーク:520cm-1、600cm-1、675cm-1、828cm-1、968cm-1、1067cm-1、1276cm-1、1370cm-1、1436cm-1、1572cm-1、1643cm-1
アクリル酸亜鉛オキソクラスターのASAP−MSスペクトルを図1、2に示した。また、Zn4O(OCOCHCH2)6から推定される陰イオン[Zn4O(OCOCHCH3)6O2](-)、および、陽イオン[Zn4O(OCOCHCH3)5](+)のASAP−MSスペクトルシミュレーションパターンを図1、2に示した。図1、2に示すように、ASAP−MSスペクトルは、シミュレーションパターンと同様なパターンを示した。また、得られた実験値632.7715および735.7762は、陽イオン[Zn4O(OCOCHCH3)5](+):C15H15O11Zn4 推定値632.7707、陰イオン[Zn4O(OCOCHCH3)6O2](-):C18H18O15Zn4 推定値735.7740と非常に近似した値を示した。また、亜鉛含量の測定値は36.8質量%であり、理論値37.2質量%と非常に近い値であった。これらの結果から、上記で作製したアクリル酸亜鉛オキソクラスターはZn4O(OCOCHCH2)6で示される化合物であることが確認できた。
元素分析の結果から、アクリル酸亜鉛オキソクラスターの炭素含有率は30.72質量%、水素含有率は2.50質量%であった。前記分析結果と推定値との差は、炭素含有率が0.01質量%、水素含有率が0.08質量%であった。原子組成が、推定値と非常に近似していることから、前記アクリル酸亜鉛オキソクラスター(Zn4O(OCOCHCH2)6)の純度が非常に高いことが確認できた。
IRスペクトルを図3に、X線回折スペクトルを図4に示した。IRスペクトルより、アクリレートのビニル基に由来する吸収と、Zn4Oの振動に由来する吸収が確認された。また、カルボキシレート基の配位状態が、ビスアクリル酸亜鉛とは異なることも確認された。X線回折スペクトルから、アクリル酸亜鉛オキソクラスターがビスアクリル酸亜鉛とは異なる結晶構造を有することが確認された。
[ゴム組成物の調製]
表1、2に示す配合で各原料を混練し、ゴム組成物を調製した。なお、ゴム組成物を混練する際の材料温度は、60℃〜125℃とした。
表1、2で用いた材料は下記のとおりである。
BR730:JSR社製、ハイシスポリブタジエン(シス−1,4−結合含有量=96質量%、1,2−ビニル結合含有量=1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))=55、分子量分布(Mw/Mn)=3)
ZN−DA90S:日触テクノファインケミカル社製、アクリル酸亜鉛(10質量%ステアリン酸亜鉛コーティング品)
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
表1、2に、各ゴム組成物から作製したスラブの硬度および反発弾性率を示した。また、表1、2に、各ゴム組成物に含まれる架橋成分((b)共架橋剤中のアクリレート基、(b)共架橋剤および(d)金属化合物中の金属)の含有量を示した。図5に、架橋ゴム成形体のスラブ硬度と反発弾性との関係を示した。ゴム組成物No.1〜10は、(b)共架橋剤が、一般式(1)で表される錯体を含有する場合である。これらのゴム組成物から形成された架橋ゴム成形体(スラブ)は、いずれも高い反発性能を有している。