JP6855037B2 - ゲノム編集方法 - Google Patents

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本発明は、CRISPR/Casシステムを利用したゲノム編集方法、該方法に用いるキット、組成物等に関する。
ガイドRNAとCasタンパク質との組合せにより、細胞のゲノム上の特定配列にDNA2本鎖切断を発生させることができる。このDNA切断端ではDNAのランダムな削り込み又は付加等の変異が高頻度に起こるため、ガイドRNAとCasタンパク質との組合せにより、容易に遺伝子破壊が可能である(特許文献1)。また、DNA切断端付近のDNA配列を含むドナープラスミド、或いは1本鎖DNAオリゴがゲノムDNAにうまく取り込まれた場合(比較的低頻度ではあるものの)、意図した通りにゲノムを編集することが可能である。意図した通りにゲノムを編集する技術は、疾患モデル細胞や動物の作成に有用なだけでなく、遺伝子治療にも応用可能な技術である。これらの技術は、CRISPR/Casシステムといわれており、近年、急速に開発・改良が進められている。
CRISPR/Casシステムとしては、ニッカーゼ型Casタンパク質と、100塩基対以内のDNA配列内を認識する2つのガイドRNAとを用いる技術(ニックを2ヶ所発生させることでDNA2本鎖切断を発生させることができる)も報告されている。この技術はDNA2本鎖切断を発生させることが重要であるところ、1つのガイドRNAしか用いない場合等、DNA2本鎖切断が起こらない場合は、意図した通りのゲノム編集は起こりにくいといわれている。
しかしながら、DNA2本鎖切断によるゲノム編集は、DNAのランダムな削り込み又は付加による遺伝子破壊のみが目的である場合は非常に有用であるものの、意図した通りのゲノム編集を実施しようとする場合は、それに失敗した細胞ではDNAのランダムな削り込み又は付加等の予測できない変異が高頻度に発生してしまうので望ましくない。また、常染色体上の遺伝子である場合、一方のアリルで意図通りのゲノム編集に成功したとしても、もう一方のアリルやガイドRNAのオフターゲット部位では予測できない変異が高頻度に発生するため、遺伝子治療法として用いるための安全性を確保できない。また、大動物ではバッククロスが不可能なため、このような予測できない変異を高頻度で起こしてしまう技術は、精度の高い疾患モデル動物を作り出すための障壁となる。
特開2016-027807号公報
本発明は、DNAのランダムな削り込みもしくは付加等の意図しない変異の頻度がより低いながらも、意図した通りのゲノム編集をより高い効率で行うことができるゲノム編集方法を提供することを課題とする。
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、(a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、(b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、(c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記sgRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに(d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種を用いてゲノム編集を行うことにより、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. (a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
(b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
(c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに
(d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種
を細胞又は非ヒト生物に導入する工程を含む、ゲノム編集方法.
項2. 前記ドナーDNAが2本鎖DNAである、項1に記載のゲノム編集方法.
項3. 前記ドナーDNAが環状DNAである、項2に記載のゲノム編集方法.
項4. 前記ガイドRNA 1の標的鎖及び前記ガイドRNA 2の標的鎖が、いずれもセンス鎖である、或いはいずれもアンチセンス鎖である、項2又は3に記載のゲノム編集方法.
項5. 前記ガイドRNA 1の標的部位の近傍領域内に疾患関連変異部位又はそれに対応する非変異部位を含む、項2〜4のいずれかに記載のゲノム編集方法.
項6. 前記近傍領域が、前記ガイドRNA 1の標的部位の標的鎖5´末端の塩基を起点(0)とした場合の−200〜+100の領域である、項5に記載のゲノム編集方法.
項7. 前記相同配列内の前記変異が同義置換である、項2〜6のいずれかに記載のゲノム編集方法.
項8. 前記ガイドRNA 2の標的部位が前記相同配列以外の部位である、項2〜7のいずれかに記載のゲノム編集方法.
項9. 前記ドナーDNAが1本鎖DNAであり、且つ前記ガイドRNA 2の標的部位が前記ゲノムDNA及び前記相同配列の両方に存在する、項1に記載のゲノム編集方法.
項10. (a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
(b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
(c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに
(d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種
を細胞又は非ヒト生物に導入する工程を含む、ゲノム編集された細胞又は非ヒト生物の製造方法.
項11. 項10に記載の製造方法で得られた細胞又は非ヒト生物.
項12. (a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
(b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
(c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに
(d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種
を含む、ゲノム編集用組成物.
項13. (a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
(b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
(c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに
(d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種
を含む、ゲノム編集用キット.
本発明によれば、DNAのランダムな削り込みもしくは付加等の意図しない変異の頻度がより低いながらも、意図した通りのゲノム編集をより高い効率で行うことができるゲノム編集方法を提供することができる。このゲノム編集方法を利用すれば、遺伝子治療や疾患モデル動物の創出等を、より高い精度で且つより効率的に実施することも可能である。
実施例1の試験の概要を示す。 実施例1の試験における、Casタンパクによる切断様式の種類を示す。各切断様式の略号(T、D、又はS)は図1Cにおいて使用されている。 実施例1の試験結果を示す。縦軸はEGFP由来の蛍光を発する細胞の割合を示す。横軸中、「sgEGFP」は、細胞に導入した2種のCasタンパク質及びガイドRNAの発現ベクターを示し、「emp」はCasタンパク質のみの発現ベクターを示し、「41s」、「260s」、「285as」、及び「332s」は、Casタンパク質に加えてそれぞれの標的配列(表1)を標的とするガイドRNAも発現するベクターを示す。横軸中、「donor」はドナーベクターを示し、「empty」は空ベクター(pUC57)を示し、m〜は、ドナーベクター中、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列〜のPAM配列及びその近傍配列をCasタンパク質が認識できないように同義置換していることを示す。横軸最下方中、「Cas9」は野生型Cas9発現ベクターを示し、「Cas9(D10A)」はニッカーゼ型Cas9発現ベクターを示す。各カラム上方のアルファベットは、各サンプルにおけるCasタンパク質による切断様式の種類(図1B)を示す。 実施例1で用いたドナーベクターの模式図を示す。各バーは、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列を示す。m〜は、ドナーベクター中の、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列〜のPAM配列及びその近傍配列をCasタンパク質が認識できないように同義置換していることを示す。各バー上の●は同義置換の部位を示す。 実施例2の試験結果を示す。縦軸はEGFP由来の蛍光を発する細胞の割合を示す。横軸中、「sgEGFP」は、細胞に導入した2種のCasタンパク質及びガイドRNAの発現ベクターを示し、「empty」はCasタンパク質のみの発現ベクターを示し、「41s」、「260s」、及び「332s」は、Casタンパク質に加えてそれぞれの標的配列(表1)を標的とするガイドRNAも発現するベクターを示す。横軸中、「donor」はドナーベクターを示し、「empty」は空ベクター(pUC57)を示し、「WT」は1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列が組み込まれたドナーベクターを示し、m〜は、ドナーベクター中、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列〜のPAM配列及びその近傍配列をCasタンパク質が認識できないように同義置換していることを示す。横軸最下方中、「Cas9(D10A)」はニッカーゼ型Cas9発現ベクターを示す。各カラム上方のアルファベットは、各サンプルにおけるCasタンパク質による切断様式の種類(図1B)を示す。グラフ上方には、実施例2で用いたドナーベクターの模式図を示し、各バーは、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列を示し、各バー上の●は同義置換の部位を示す。 実施例3の試験結果を示す。縦軸はEGFP由来の蛍光を発する細胞の割合を示す。横軸中、「sgEGFP 332s」及び「2nd sgRNA」は、細胞に導入した2種のCasタンパク質及びガイドRNAの発現ベクターを示し、「−」はCasタンパク質のみの発現ベクターを示し、「41s」、「260s」、「332s」、「N1」、「N2」、「C1」、「A1」、「A2」、「M1」、及び「M2」は、Casタンパク質に加えてそれぞれの標的配列(表1及び2)を標的とするガイドRNAも発現するベクターを示す。横軸中、「donor」はドナーベクターを示し、「empty」は空ベクター(pUC57)を示し、m332は、ドナーベクター中、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列及びその近傍配列をCasタンパク質が認識できないように同義置換していることを示す。横軸最下方中、「Cas9(D10A)」はニッカーゼ型Cas9発現ベクターを示す。グラフ上方には、実施例3で用いたドナーベクターの模式図を示し、矢尻は2nd sgRNAのドナーベクター上の標的部位を示す。 実施例4の試験結果を示す。縦軸はEGFP由来の蛍光を発する細胞の割合を示す。横軸中、「sgEGFP 332s」及び「2nd sgRNA」は、細胞に導入した2種のCasタンパク質及びガイドRNAの発現ベクターを示し、「−」はCasタンパク質のみの発現ベクターを示し、「260s」、「332s」、及び「N2」は、Casタンパク質に加えてそれぞれの標的配列(表1及び2)を標的とするガイドRNAも発現するベクターを示す。横軸中、「donor」はドナーベクターを示し、m332は、ドナーベクター中、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列及びその近傍配列をCasタンパク質が認識できないように同義置換していることを示し、m332 pamは、ドナーベクター中、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列のみをCasタンパク質が認識できないように同義置換していることを示す。横軸最下方中、「Cas9」は野生型Cas9発現ベクターを示し、「Cas9(D10A)」はニッカーゼ型Cas9発現ベクターを示す。グラフ上方には、実施例4で用いたドナーベクターの同義置換部位周辺の配列を示し、下線はPAM配列又はPAM配列を変異させた配列を示す。 実施例5の試験結果を示す。縦軸はEGFP由来の蛍光を発する細胞の割合を示す。横軸中、「sgRNA」は、細胞に導入した2種のCasタンパク質及びガイドRNAの発現ベクターを示し、「empty」はCasタンパク質のみの発現ベクターを示し、「332s」、「260s」、及び「N2」は、Casタンパク質に加えてそれぞれの標的配列(表1及び2)を標的とするガイドRNAも発現するベクターを示す。横軸中、「donor」はドナーベクターを示し、「empty」は空ベクター(pUC57)を示し、「dN1」は、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列のみをCasタンパク質が認識できないように同義置換した配列が組み込まれたドナーベクターを示し、「dN2」は、ドナーベクター中、1〜128番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列のみをCasタンパク質が認識できないように同義置換した配列が組み込まれたドナーベクターを示し、「dN3」は、ドナーベクター中、1〜231番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列のみをCasタンパク質が認識できないように同義置換した配列が組み込まれたドナーベクターを示し、「dN4」は、ドナーベクター中、1〜3及び471〜720番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列のみをCasタンパク質が認識できないように同義置換した配列が組み込まれたドナーベクターを示す。横軸最下方中、「Cas9(D10A)」はニッカーゼ型Cas9発現ベクターを示す。グラフ上方には、実施例5で用いたドナーベクターの同義置換部位周辺の配列を示し、下線はPAM配列又は該配列を変異させた配列を示す。グラフ上方には、実施例5で用いたドナーベクターの模式図を示し、各バーは一部欠失したEGFPのコード配列を示し、各バー上の●は同義置換の部位を示す。
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
本明細書において、アミノ酸配列の『同一性』とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対する同一のアミノ酸配列の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の同一性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statisticalsignificance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc.Natl Acad Sci USA.87:2264−2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statisticsfor multipl
e high−scoringsegments in molecular sequences.”NatlAcad Sci USA.90:5873−7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、NationalCenter of BiotechnologyInformation(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
本明細書において、保存的置換とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換技術にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ−分枝側鎖を有するアミノ酸残基、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
本発明は、4種((a)、(b)、(c)、及び(d))の特定の材料を利用した、ゲノム編集方法、ゲノム編集された細胞又は非ヒト生物の製造方法、ゲノム編集用組成物、ゲノム編集用キット等に関する。以下、これらについて説明する。
1.材料(a)
材料(a)は、ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種である。
ガイドRNAは、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるものであれば特に制限されず、例えばゲノムDNAの標的部位に結合し、且つCasタンパク質と結合することにより、Casタンパク質をゲノムDNAの標的部位に誘導可能なものを各種使用することができる。
本明細書において、標的部位とは、PAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列及びその5´側に隣接する17〜30塩基長(好ましくは18〜25塩基長、より好ましくは19〜22塩基長、特に好ましくは20塩基長)程度の配列からなるDNA鎖(標的鎖)とその相補DNA鎖(非標的鎖)からなる、ゲノムDNA上の部位である。
PAM配列は、利用するCasタンパク質の種類によって異なる。例えば、S. pyogenes由来のCas9タンパク質(II型)に対応するPAM配列は5´-NGGであり、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A1型)に対応するPAM配列は5´-CCNであり、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A2型)に対応するPAM配列は5´-TCNであり、H. walsbyl由来のCas9タンパク質(I-B型)に対応するPAM配列は5´-TTCであり、E. coli由来のCas9タンパク質(I-E型)に対応するPAM配列は5´-AWGであり、E. coli由来のCas9タンパク質(I-F型)に対応するPAM配列は5´-CCであり、P. aeruginosa由来のCas9タンパク質(I-F型)に対応するPAM配列は5´-CCであり、S. Thermophilus由来のCas9タンパク質(II-A型)に対応するPAM配列は5´-NNAGAAであり、S. agalactiae由来のCas9タンパク質(II-A型)に対応するPAM配列は5´-NGGであり、S. aureus由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NGRRT又は5´-NGRRNであり、N. meningitidis由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NNNNGATTであり、T. denticola由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NAAAACである。
ガイドRNAはゲノムDNAの標的部位への結合に関与する配列(crRNA(CRISPR RNA)配列といわれることもある)を有しており、このcrRNA配列が、非標的鎖のPAM配列相補配列を除いてなる配列に相補的(好ましくは、相補的且つ特異的)に結合することにより、ガイドRNAはゲノムDNAの標的部位に結合することができる。
なお、「相補的」に結合とは、完全な相補関係(AとT、及びGとC)に基づいて結合する場合のみならず、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係に基づいて結合する場合も包含される。ストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。かかる条件で洗浄してもハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。
具体的には、crRNA配列は、標的鎖と例えば90%、好ましくは95%、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは100%の同一性を有する。なお、ガイドRNAの標的部位への結合には、crRNA配列の3´側の12塩基が重要であるといわれている。このため、crRNA配列が標的鎖と完全同一ではない場合、標的鎖と異なる塩基は、crRNA配列の3´側の12塩基以外に存在することが好ましい。
ガイドRNAは、Casタンパク質との結合に関与する配列(tracrRNA(trans-activating crRNA)配列といわれることもある)を有しており、このtracrRNA配列が、Casタンパク質に結合することにより、Casタンパク質をゲノムDNAの標的部位に誘導することができる。
tracrRNA配列は、特に制限されない。tracrRNA配列は、典型的には、複数(通常、3つ)のステムループを形成可能な50〜100塩基長程度の配列からなるRNAであり、利用するCasタンパク質の種類に応じてその配列は異なる。tracrRNA配列としては、利用するCasタンパク質の種類に応じて、公知の配列を各種採用することができる。
ガイドRNAは、通常、上記したcrRNA配列とtracr RNA配列を含む。ガイドRNAの態様は、crRNA配列とtracr RNA配列を含む一本鎖RNAであってもよいし、crRNA配列を含むRNAとtracrRNA配列を含むRNAとが相補的に結合してなるRNA複合体であってもよい。
ガイドRNA 1は、ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNAである。本発明のゲノム編集方法においては、ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列を、後述のドナーDNAに含まれる相同配列に置き換えることができる。
ゲノムDNAは、ゲノム編集対象細胞又は生物が有するゲノムDNAであって、CRISPR/Casシステムにより編集可能なDNAである限り特に制限されない。
ゲノム編集対象細胞及び生物は、CRISPR/Casシステムによりゲノム編集可能な細胞及び生物である限り特に制限されない。ゲノム編集対象細胞としては、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、受精卵、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。ゲノム編集対象生物としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の哺乳類動物; アフリカツメガエル等の両生類動物; ゼブラフィッシュ、メダカ、トラフグ等の魚類動物; ホヤ等の脊索動物; ショウジョウバエ、カイコ等の節足動物;等の動物: シロイヌナズナ、イネ、コムギ、タバコ等の植物: 酵母、アカパンカビ等の菌類: 大腸菌、枯草菌、藍藻等の細菌等が挙げられる。
ガイドRNA 1の標的鎖は、ゲノム編集効率の観点やDNAのランダムな削り込みもしくは付加等の意図しない変異の頻度をより低くできるという観点から、後述のガイドRNA 2の標的鎖と同じであることが望ましい。すなわち、ガイドRNA 1の標的鎖及び前記ガイドRNA 2の標的鎖が、いずれもセンス鎖である、或いはいずれもアンチセンス鎖であることが望ましい。
本発明のゲノム編集方法により、ゲノムDNA上のある部位の配列を別配列に置き換えることを目的とした場合、ゲノム編集効率の観点から、置き換えようとする対象部位は、ガイドRNA 1の標的部位の近傍領域内に存在することが好ましい。この「近傍領域」とは、特に制限されないが、例えばガイドRNA 1の標的部位の標的鎖5´末端の塩基を起点(0)とした場合の−200〜+100、好ましくは−100〜+50、より好ましくは−50〜+25、さらに好ましくは−25〜+12の領域が挙げられる(−(マイナス)は5´側を示し、+(プラス)は3´側を示す)。
置き換えようとする対象部位を、疾患関連変異部位(すなわち、疾患に関する事象(例えば発症頻度、発症確率、発症時期、症状の程度、症状が現れている期間等)に影響を与える変異(例えば塩基の置換、欠失、挿入、付加等)を有する部位)、又は該疾患関連変異部位に対応する非変異部位(すなわち、疾患関連変異部位の相同配列であり、且つ該変異が無い部位)とすれば、本発明のゲノム編集方法により、遺伝子治療や疾患モデル動物の創出等が可能である。
ガイドRNA 1の発現カセットとは、ゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象生物の細胞内でガイドRNA 1を発現(転写)可能なDNAである限り特に制限されない。例えばガイドRNA 1がcrRNA配列とtracr RNA配列を含む一本鎖RNAである場合は、ガイドRNA 1の発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたガイドRNA 1のコード配列を有するDNAが挙げられる。別の例として、ガイドRNA 1がcrRNA配列を含むRNAとtracrRNA配列を含むRNAとが相補的に結合してなるRNA複合体である場合は、ガイドRNA 1の発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「crRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(便宜上、「crRNA発現カセット」と示すこともある)と、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「tracrRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(便宜上、「tracrRNA発現カセット」と示すこともある)との組合せが挙げられる。
ガイドRNA 1の発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、pol II系プロモーターを使用することもできるが、比較的短いRNAの転写をより正確に行わせるという観点から、pol III系プロモーターが好ましい。pol III系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばマウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター等が挙げられる。
ガイドRNA 1の発現カセットが、crRNA発現カセットとtracrRNA発現カセットとの組合せである場合、これら2つの発現カセットは、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、それぞれが別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
ガイドRNA 1の発現カセットは、後述のニッカーゼ型Casタンパク質の発現カセット(材料(b))及びガイドRNA 2の発現カセット(材料(d))からなる群より選択される少なくとも1種と、同一DNA上に含まれていてもよいし、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
ガイドRNA 1の発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS))を含んでいてもよい。例えば、ガイドRNA 1の発現カセットにおいて、5´側から、プロモーター、crRNA配列のコード配列の順に配置されている場合であれば、プロモーターとcrRNA配列のコード配列の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、crRNA配列のコード配列の3´側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2〜50、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
ガイドRNA 1の発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していてもよい。他の配列としては、特に制限されず、発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター; アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。
ガイドRNA 1及びその発現カセットは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写技術等を利用して作製することができる。
2.材料(b)
材料(b)は、ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種である。
ニッカーゼ型Casタンパク質は、2本鎖切断型Casタンパク質が、一方のDNA鎖しか切断できないように変異したものであれば特に制限されない。
2本鎖切断型Casタンパク質は、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるものであれば特に制限されず、例えばガイドRNAと複合体を形成した状態でゲノムDNAの標的部位に結合し、該標的部位を2本鎖切断できるものを各種使用することができる。2本鎖切断型Casタンパク質としては、各種生物由来のものが知られており、例えばS. pyogenes由来のCas9タンパク質(II型)、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A1型)、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A2型)、H. walsbyl由来のCas9タンパク質(I-B型)、E. coli由来のCas9タンパク質(I-E型)、E. coli由来のCas9タンパク質(I-F型)、P. aeruginosa由来のCas9タンパク質(I-F型)、S. Thermophilus由来のCas9タンパク質(II-A型)、S. agalactiae由来のCas9タンパク質(II-A型)、S. aureus由来のCas9タンパク質、N. meningitidis由来のCas9タンパク質、T. denticola由来のCas9タンパク質等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはCas9タンパク質が挙げられ、より好ましくはストレプとコッカス属に属する細菌が内在的に有するCas9タンパク質が挙げられる。各種Casタンパク質のアミノ酸配列、及びそのコード配列の情報は、NCBI等の各種データベース上で容易に得ることができる。
2本鎖切断型Casタンパク質は、通常、標的鎖の切断に関与するドメイン(RuvCドメイン)及び非標的鎖の切断に関与するドメイン(HNHドメイン)を含む。ニッカーゼ型Casタンパク質としては、例えば2本鎖切断型Casタンパク質のこれら2つのドメインの内のいずれかのドメインにおいて、その切断活性を損なわせる(例えば、その切断活性を1/2、1/5、1/10、1/100、1/1000以下にする)変異を有するタンパク質が挙げられる。このような変異としては、例えば2本鎖切断型Casタンパク質がS. pyogenes由来のCas9タンパク質(アミノ酸配列は配列番号37)である場合であれば、例えばN末端から10番目のアミノ酸(アスパラギン酸)のアラニンへの変異(D10A:RuvCドメイン内の変異)、N末端から840番目のアミノ酸(ヒスチジン)のアラニンへの変異(H840A:HNHドメイン内の変異)、N末端から863番目のアミノ酸(アスパラギン)のアラニンへの変異(N863A:HNHドメイン内の変異)、N末端から762番目のアミノ酸(グルタミン酸)のアラニンへの変異(E762A:RuvCIIドメイン内の変異)、N末端から986番目のアミノ酸(アスパラギン酸)のアラニンへの変異(D986A:RuvCIIIドメイン内の変異)等が挙げられる。
ニッカーゼ型Casタンパク質は、野生型である2本鎖DNA切断型Casタンパク質における上記変異の他にも、その活性を損なわない限りにおいて、他の変異を有していてもよい。この観点から、ニッカーゼ型Casタンパク質は、その元となる野生型2本鎖DNA切断型Casタンパク質のアミノ酸配列と、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つその活性(ガイドRNAと複合体を形成した状態でゲノムDNAの標的部位に結合し、該標的部位の標的鎖又は非標的鎖を切断する活性)を有するタンパク質であってもよい。或いは、同様の観点から、ニッカーゼ型Casタンパク質は、その元となる野生型2本鎖DNA切断型Casタンパク質のアミノ酸配列に対して1若しくは複数個(例えば2〜100個、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜20個、さらに好ましくは2〜10個、よりさらに好ましくは2〜5個、特に好ましくは2個)のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つその活性(ガイドRNAと複合体を形成した状態でゲノムDNAの標的部位に結合し、該標的部位の標的鎖又は非標的鎖を切断する活性)を有するタンパク質であってもよい。なお、上記「活性」は、in vitro又はin vivoにおいて、公知の方法に従って又は準じて評価することができる。また、他の変異は、保存的置換であることが望ましい。
ニッカーゼ型Casタンパク質は、上記「活性」を有する限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
ニッカーゼ型Casタンパク質は、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなどのC1−6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6−12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1−2アルキル基;α−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1−2アルキル基などのC7−14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
ニッカーゼ型Casタンパク質は、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、ニッカーゼ型Casタンパク質には、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1−6アルカノイルなどのC1−6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども包含される。
ニッカーゼ型Casタンパク質は、上記「活性」を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
ニッカーゼ型Casタンパク質は、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
ニッカーゼ型Casタンパク質は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
ニッカーゼ型Casタンパク質の発現カセットとは、ゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象生物の細胞内でニッカーゼ型Casタンパク質を発現可能なDNAである限り特に制限されない。例えばニッカーゼ型Casタンパク質の発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたニッカーゼ型Casタンパク質のコード配列を有するDNAが挙げられる。
ニッカーゼ型Casタンパク質に含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる、pol III系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えば例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。
ニッカーゼ型Casタンパク質の発現カセットは、前述のガイドRNA 1の発現カセット(材料(a))及びガイドRNA 2の発現カセット(材料(d))からなる群より選択される少なくとも1種と、同一DNA上に含まれていてもよいし、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
ニッカーゼ型Casタンパク質の発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS))を含んでいてもよい。例えば、ニッカーゼ型Casタンパク質の発現カセットにおいて、5´側から、プロモーター、ニッカーゼ型Casタンパク質のコード配列の順に配置されている場合であれば、プロモーターとニッカーゼ型Casタンパク質のコード配列の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、ニッカーゼ型Casタンパク質のコード配列の3´側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2〜50、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
ニッカーゼ型Casタンパク質の発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していてもよい。他の配列としては、特に制限されず、発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター; アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。
ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術等を利用して作製することができる。
3.材料(c)
材料(c)は、前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNAである。
ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列とは、ゲノムDNAにおける、ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列であり、その長さは、特に制限されるものではない。該長さは、ゲノム編集効率の観点から、ガイドRNA 1の標的部位の5´側にも3´側にもより長い方が好ましく、例えばガイドRNA 1の標的部位の標的鎖5´末端の塩基を起点(0)とした場合(−(マイナス)は5´側を示し、+(プラス)は3´側を示す)、該任意配列の5´末端は、例えば−100以下、より好ましくは−200以下、よりさらに好ましくは−300以下、よりさらに好ましくは−500以下であり、該任意配列の3´末端は、例えば+100以上、好ましくは+200以上、さらに好ましくは+300以上、よりさらに好ましくは+500以上である。また、該任意配列の長さは、細胞内へのドナーDNA導入効率等の観点から、例えば10000塩基長以下である。
ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列とは、該任意配列と相同な配列である。該相同配列においては、ガイドRNA 1標的部位に変異を有している。すなわち、該相同配列においては、該任意配列におけるガイドRNA 1標的部位に対応する部位があるが、その部位の塩基配列は変異している。この変異は、ガイドRNA 1が該相同配列を標的とすることができなくなる変異である限り特に制限されない。該変異としては、例えばPAM配列が非PAM配列となるような変異や、PAM配列の5´側に隣接する12塩基内の変異が挙げられる。なお、ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列及びその上記相同配列がタンパク質のアミノ酸配列をコードしている場合、この変異は同義置換であることが好ましい。
この相同配列は、上記変異以外の他の変異を有していてもよい。この観点から、該相同配列は、その元となる「ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列」と、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列からなる。或いは、該相同配列は、その元となる「ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列」に対して1若しくは複数個(例えば2〜100個、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜20個、さらに好ましくは2〜10個、よりさらに好ましくは2〜5個)の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなる。
ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列における「置き換えようとする対象部位(上述の「1.材料(a)」)」を疾患関連変異部位又はそれに対応する非変異部位とする場合であれば、他の変異として、これらの部位の変異を採用することにより、本発明のゲノム編集方法により、遺伝子治療や疾患モデル動物の創出等が可能となる。
ドナーDNAは、1本鎖DNAであってもよく、2本鎖DNAであってもよい。ゲノム編集効率の観点から、ドナーDNAは、2本鎖DNAであることが好ましい。
ドナーDNAは、鎖状DNAであってもよく、環状DNAであってもよい。ゲノム編集において、DNAのランダムな削り込みもしくは付加等の意図しない変異の頻度をより低減できるという観点から、ドナーDNAは、環状DNAであることが好ましい。
ドナーDNAは、ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列以外にも、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、特に制限されず、例えばドナーDNAを適当なベクターに組み込んだ状態の環状DNAとして用いる場合であれば、該ベクター配列が挙げられる。
ドナーDNAは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。
4.材料(d)
材料(d)は、前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種である。
ガイドRNAについては、上記「1.材料(a)」における説明と同様である。
ガイドRNA 2は、ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNAである。
ガイドRNA 2の標的部位は、ドナーDNA内の「ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列」内の部位であってもよく、該相同配列以外の部位であってもよい。前者である場合は、ガイドRNA 2は、該相同配列の元となるゲノムDNA内の「任意配列」をも標的とし得ることとなる。
ガイドRNA 2の標的鎖は、ゲノム編集効率の観点やDNAのランダムな削り込みもしくは付加等の意図しない変異の頻度をより低くできるという観点から、前述のガイドRNA 1の標的鎖と同じであることが望ましい。すなわち、ガイドRNA 1の標的鎖及び前記ガイドRNA 2の標的鎖が、いずれもセンス鎖である、或いはいずれもアンチセンス鎖であることが望ましい。
ガイドRNA 2の発現カセットとは、ゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象生物の細胞内でガイドRNA 2を発現(転写)可能なDNAである限り特に制限されない。例えばガイドRNA 2がcrRNA配列とtracr RNA配列を含む一本鎖RNAである場合は、ガイドRNA 2の発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたガイドRNA 2のコード配列を有するDNAが挙げられる。別の例として、ガイドRNA 2がcrRNA配列を含むRNAとtracrRNA配列を含むRNAとが相補的に結合してなるRNA複合体である場合は、ガイドRNA 2の発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「crRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(便宜上、「crRNA発現カセット」と示すこともある)と、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「tracrRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(便宜上、「tracrRNA発現カセット」と示すこともある)との組合せが挙げられる。
ガイドRNA 2の発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、pol II系プロモーターを使用することもできるが、比較的短いRNAの転写をより正確に行わせるという観点から、pol III系プロモーターが好ましい。pol III系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばマウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター等が挙げられる。
ガイドRNA 2の発現カセットが、crRNA発現カセットとtracrRNA発現カセットとの組合せである場合、これら2つの発現カセットは、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、それぞれが別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
ガイドRNA 2の発現カセットは、前述のガイドRNA 1の発現カセット(材料(a))及びニッカーゼ型Casタンパク質の発現カセット(材料(b))からなる群より選択される少なくとも1種と、同一DNA上に含まれていてもよいし、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
ガイドRNA 2の発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS))を含んでいてもよい。例えば、ガイドRNA 2の発現カセットにおいて、5´側から、プロモーター、crRNA配列のコード配列の順に配置されている場合であれば、プロモーターとcrRNA配列のコード配列の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、crRNA配列のコード配列の3´側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2〜50、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
ガイドRNA 2の発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していてもよい。他の配列としては、特に制限されず、発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター; アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。
ガイドRNA 2及びその発現カセットは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写技術等を利用して作製することができる。
5.ゲノム編集方法、ゲノム編集された細胞又は非ヒト生物の製造方法
上記材料(a)〜(d)をゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象非ヒト生物に導入する工程を含む方法により、これらの細胞又は生物のゲノムを編集すること、より具体的にはガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列をドナーDNAに含まれる相同配列に置き換えることができる。
材料(a)〜(d)の導入方法は、特に制限されず、対象細胞又は生物の種類、材料の種類(核酸であるのか、タンパク質であるのか等)に応じて、適宜選択することができる。導入方法としては、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラン処理、リポフェクション、ナノ粒子媒介性トランスフェクション、ウイルス媒介性核酸送達等が挙げられる。
材料(a)〜(d)の導入の態様は、最終的に対象細胞又は生物内に材料(a)〜(d)全てが送達される限りにおいて特に制限されない。材料(a)〜(d)は、同時に、逐次的に、或いは一定期間を空けて別々に導入することができる。
材料(a)〜(d)を導入してから、一定時間経過後に、対象細胞又は対象生物内でゲノム編集が起こるので、この細胞又は生物を回収することにより、ゲノム編集された(すなわち、ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列をドナーDNAに含まれる相同配列に置き換えられた)細胞又は非ヒト生物を得ることができる。
本発明のゲノム編集方法により得られた細胞又は非ヒト生物においては、DNAのランダムな削り込みもしくは付加等の意図しない変異の頻度がより低減されている。例えば、本発明により得られたゲノム編集された細胞集団において、意図しない変異が起こっている細胞の割合は、例えば20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
6.ゲノム編集用キット、ゲノム編集用組成物
上記材料(a)〜(d)は、これらが一体となって含まれるゲノム編集用組成物として利用することもできるし、或いはキットとして利用することもできる。
ゲノム編集用組成物は、上記材料(a)〜(d)を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
ゲノム編集用キットは、上記材料(a)〜(d)を別々に或いは一体となって含まれている限りにおいて特に制限されず、必要に応じて核酸導入試薬、タンパク質導入試薬、緩衝液等、本発明のゲノム編集方法の実施に必要な他の試薬、器具等を適宜含んでいてもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1:ゲノム編集効率の評価試験1
非蛍光型変異EGFPのコード配列が組み込まれた細胞に、各種Casタンパク質及び各種ガイドRNAの発現ベクターと共に、蛍光型正常EGFPのコード配列が組み込まれたドナーベクターを導入し、EGFP由来の蛍光を発する細胞の割合をフローサイトメトリーで測定した。試験の概要を図1Aに示す。この細胞の割合が高い程、非蛍光型変異EGFPの変異部位のコード配列が、ドナーベクターにおける該変異部位の対応配列に組み替えられた細胞(すなわち目的のゲノム編集が起こった細胞)の割合が高いこと、すなわちゲノム編集効率が高いことを示す。具体的には以下のように行った。
<実施例1-1:非蛍光型変異EGFPのコード配列が組み込まれた細胞の作製>
EGFPコード配列(配列番号1)において5´末端から321番目のCGに変異(これにより、N末端から107番目のアミノ酸(チロシン)のコドンが終止コドンとなる)させた非蛍光型変異EGFPコード配列を、レンチウイルスベクター(pMX-puro)に組み込んだ。得られたベクターとパッケージングプラスミドを293T細胞に導入し、定法に従ってウイルス粒子を得た。該ウイルス粒子を293T細胞に感染させ、ピューロマイシンを1μg/mLの濃度で含む培地中で一定期間培養した後、pMX-puro内にコードされる蛍光タンパク質(mCherry)由来の蛍光を発する細胞を、セルソーター(Aria II、BD Biosciences社製)を用いて分離した。分離した細胞の1つを培養して増殖させ、目的の細胞を得た。
<実施例1-2:Casタンパク質及びガイドRNAの発現ベクターの作製・準備>
CMVエンハンサー及びトリβアクチンプロモーターで発現制御されている野生型Cas9又はニッカーゼ型Cas9(D10A)発現カセットを含むベクター(pSpCas9(BB)-2A-Puro又はpSpCas9n(BB)-2A-Puro)を準備した。このベクターにおいては、5´側からU6プロモーター、2つのBbsI認識サイト、及びトレーサーRNA配列が配置された発現カセットがある。これを利用して、ベクターをBbsIで切断し、そこにガイドRNA標的配列からPAM配列が除かれてなる配列を含む2本鎖DNA(2つの1本鎖DNAをアニールさせて作製)を組み込むことにより、ベクター内にガイドRNA発現カセットを作製した。なお、標的配列は、ガイドRNA作製プログラム(CRISPR Design、http://crispr.mit.edu/)を用いて設計した。標的配列の配列番号、及び標的配列の組み込みに用いた1本鎖DNAの配列番号を以下の表1に示す。
Figure 0006855037
<実施例1-3:ドナーベクターの作製・準備>
1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列78as(配列番号14)、標的配列285as、及び標的配列332sのPAM配列及びその近傍配列をCasタンパク質が認識できないように同義置換させた配列を、ドナーベクター用プラスミド(pUC57)のマルチクローニングサイトに組み込んだ。これと同様にして、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列41s、標的配列260s、及び標的配列360as(配列番号15)のPAM配列及びその近傍配列をCasタンパク質が認識できないように同義置換させた配列を、ドナーベクター用プラスミド(pUC57)のマルチクローニングサイトに組み込んだ。
<実施例1-3:レポーターアッセイ>
293T細胞を24ウェルプレート(BD Bioscience社製)の1ウェル当り4×104個/培地700μL播種した。24時間後、Casタンパク質及びガイドRNAの発現ベクター2種(それぞれ40 ng)、及びドナーベクター(400 ng)を細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションから2日後に、細胞を培地に植え継いだ。トランスフェクションから4日後、細胞をトリプシン処理によりウェルから剥がし、フローサイトメトリー(FACS Calibur、BD Bioscience社製)によりEGFP由来の蛍光を発する細胞の割合を測定した。
<結果>
結果を図1に示す。図1に示されるように、ニッカーゼ型Cas9を利用し、且つガイドRNA標的配列をタンデムに2つ設計した場合(「Cas9(D10A)」における「41s/332s」及び「260s/332s」)に、ゲノム編集効率(非蛍光型変異EGFPの変異部位のコード配列が、ドナーベクターにおける該変異部位の対応配列に組み替えられた細胞の割合)が顕著に高かった。
実施例2:ゲノム編集効率の評価試験2
Casタンパク質としてニッカーゼ型Cas9を発現させ、且つドナーベクターのEGFPコード配列における同義置換部位とガイドRNA標的配列との組合せを変える以外は、実施例1と同様にしてゲノム編集効率を評価した。
結果を図2に示す。この結果より、ニッカーゼ型Casタンパク質を用いてゲノム編集効率をより高めるには、1)非蛍光型変異EGFPの変異部位のコード配列近傍(実施例2では332s)を標的とするガイドRNAが、ドナープラスミドを標的とできないように、ドナープラスミドに変異を入れておくこと、及び2)もう1つのガイドRNAがドナープラスミドを標的にできること、の2つの要件が必要であることが示唆された(図2中、「332s+41s」及び「332s+41s」における「m332」)。
実施例3:ゲノム編集効率の評価試験3
Casタンパク質としてニッカーゼ型Cas9を発現させ、且つドナーベクターのEGFPコード配列における同義置換部位とガイドRNA標的配列との組合せを変える以外は、実施例1と同様にしてゲノム編集効率を評価した。本実施例で新たに用いるガイドRNA標的配列の配列番号、及び標的配列の組み込み(実施例1-2)に用いた1本鎖DNAの配列番号を以下の表2に示す。
Figure 0006855037
結果を図3に示す。この結果より、ニッカーゼ型Casタンパク質を用いてゲノム編集効率をより高めるには、非蛍光型変異EGFPの変異部位のコード配列近傍(実施例3では332s)を標的とするガイドRNAと共に、ドナーベクターの任意の部位を標的とするガイドRNAを用いることが重要であることが示唆された。
実施例4:ゲノム編集効率の評価試験4
ドナーベクターのEGFPコード配列における同義置換部位とガイドRNA標的配列との組合せを変える以外は、実施例1及び3と同様にしてゲノム編集効率を評価した。なお、本実施例では、新たにドナーベクターとして、1〜3番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列のみをCasタンパク質が認識できないように同義置換したものを用いた。
結果を図4に示す。この結果より、非蛍光型変異EGFPの変異部位のコード配列近傍(実施例4では332s)を標的とするガイドRNAと共に用いるガイドRNAとして、ドナーベクターのEGFPコード配列(及び対象細胞内の非蛍光型変異EGFPコード配列)を標的とするガイドRNA、及びドナーベクター用プラスミド配列を標的とするガイドRNAのいずれを用いる場合であっても、Cas9野生型を用いた従来法よりもゲノム編集効率が高いことが示された。
実施例5:ゲノム編集効率の評価試験5
Casタンパク質としてニッカーゼ型Cas9を発現させ、且つドナーベクターのEGFPコード配列における同義置換部位とガイドRNA標的配列との組合せを変える以外は、実施例1及び4と同様にしてゲノム編集効率を評価した。なお、本実施例では、新たにドナーベクターとして、1〜128番目、1〜231番目、又は1〜3及び471〜720番目の塩基が欠失したEGFPのコード配列において標的配列332sのPAM配列のみをCasタンパク質が認識できないように同義置換したものを用いた。
結果を図5に示す。この結果より、対象細胞内の非蛍光型変異EGFPの変異部位のコード配列のゲノム編集効率は、ドナーベクターにおける該変異部位の対応配列が5´側にも3´側にも長い程、高いことが示唆された。
実施例6:ゲノム編集効率の評価試験6
ドナーベクターのEGFPコード配列における同義置換部位とガイドRNA標的配列との組合せを変える以外は、実施例1及び3と同様にしてゲノム編集を行った。また、一部のサンプルについては、ゲノム編集を行って得られたEGFP陽性細胞に対して再度ゲノム編集を繰り返して、計3回のゲノム編集を行った。得られたEGFP細胞のゲノムDNAシーケンスを行い、非蛍光型変異EGFPの変異部位のコード配列のゲノム編集が両アリールで起こった細胞の割合、及び該ゲノム編集が起こっていないアリールにおいて、塩基の挿入又は欠失が起こった細胞の割合を算出した。
Figure 0006855037
結果を以下の表3に示す。表3より、Casタンパク質としてニッカーゼ型Cas9を用い、且つ非蛍光型変異EGFPの変異部位のコード配列近傍(実施例6ではm332)を標的とするガイドRNAと共に、ドナーベクターの任意の部位を標的とするガイドRNAを用いると、従来方法(野生型(2本鎖切断型)Cas9を用い、且つガイドRNAの標的が1ヶ所である方法)に比べて、目的とするゲノム編集が両アリールで起こる効率が顕著に高く、さらに目的とするゲノム編集が起こっていないアリールにおける意図しない変異の割合が遥かに低いことが示された。

Claims (12)

  1. (a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
    (b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
    (c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに
    (d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種
    を細胞又は非ヒト生物に導入する工程を含む、ゲノム編集方法。
  2. 前記ドナーDNAが2本鎖DNAである、請求項1に記載のゲノム編集方法。
  3. 前記ドナーDNAが環状DNAである、請求項2に記載のゲノム編集方法。
  4. 前記ガイドRNA 1の標的鎖及び前記ガイドRNA 2の標的鎖が、いずれもセンス鎖である、或いはいずれもアンチセンス鎖である、請求項2又は3に記載のゲノム編集方法。
  5. 前記ガイドRNA 1の標的部位の近傍領域内に疾患関連変異部位又はそれに対応する非変異部位を含む、請求項2〜4のいずれかに記載のゲノム編集方法。
  6. 前記近傍領域が、前記ガイドRNA 1の標的部位の標的鎖5´末端の塩基を起点(0)とした場合の−200〜+100の領域である、請求項5に記載のゲノム編集方法。
  7. 前記相同配列内の前記変異が同義置換である、請求項2〜6のいずれかに記載のゲノム編集方法。
  8. 前記ガイドRNA 2の標的部位が前記相同配列以外の部位である、請求項2〜7のいずれかに記載のゲノム編集方法。
  9. 前記ドナーDNAが1本鎖DNAであり、且つ前記ガイドRNA 2の標的部位が前記ゲノムDNA及び前記相同配列の両方に存在する、請求項1に記載のゲノム編集方法。
  10. (a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
    (b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
    (c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに
    (d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種
    を細胞又は非ヒト生物に導入する工程を含む、ゲノム編集された細胞又は非ヒト生物の製造方法。
  11. (a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
    (b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
    (c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに
    (d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種
    を含む、ゲノム編集用組成物。
  12. (a)ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNA 1及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
    (b)ニッカーゼ型Casタンパク質及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種、
    (c)前記ガイドRNA 1の標的部位を含む任意配列の相同配列であって、前記ガイドRNA 1標的部位に変異を有する配列を含む、ドナーDNA、並びに
    (d)前記ドナーDNA内の任意部位を標的とするガイドRNA 2及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種
    を含む、ゲノム編集用キット。
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