1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264−2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high−scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873−7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の「同一性」も上記に準じて定義される。
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ−分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
本明細書において、外来的に用いるDNA、RNAなどのヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
2.材料
本発明は、その一態様において、4種の材料(材料(a)、材料(b)、材料(c)、及び材料(d))を利用した、ゲノム編集方法、ゲノム編集された細胞又は非ヒト生物の製造方法、ゲノム編集用組成物、ゲノム編集用キットなどに関する。以下、これらの材料について説明する。
2-1.材料(a)
材料(a)は、ゲノムDNAの任意部位を標的とするゲノムガイドRNA及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種である。本発明のゲノム編集方法においては、ゲノムガイドRNAの標的部位に、後述の環状ドナーベクター由来のDNAを挿入することができる。
ガイドRNAは、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるものであれば特に制限されず、例えばDNAの標的部位に結合し、且つCasタンパク質と結合することにより、Casタンパク質を標的部位に誘導可能なものを各種使用することができる。
本明細書において、標的部位とは、PAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列及びその5´側に隣接する17〜30塩基長(好ましくは18〜25塩基長、より好ましくは19〜22塩基長、特に好ましくは20塩基長)程度の配列からなるDNA鎖(標的鎖)とその相補DNA鎖(非標的鎖)からなる、ゲノムDNA上の部位である。
PAM配列は、利用するCasタンパク質の種類によって異なる。例えば、S. pyogenes由来のCas9タンパク質(II型)に対応するPAM配列は5´-NGGであり、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A1型)に対応するPAM配列は5´-CCNであり、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A2型)に対応するPAM配列は5´-TCNであり、H. walsbyl由来のCas9タンパク質(I-B型)に対応するPAM配列は5´-TTCであり、E. coli由来のCas9タンパク質(I-E型)に対応するPAM配列は5´-AWGであり、E. coli由来のCas9タンパク質(I-F型)に対応するPAM配列は5´-CCであり、P. aeruginosa由来のCas9タンパク質(I-F型)に対応するPAM配列は5´-CCであり、S. Thermophilus由来のCas9タンパク質(II-A型)に対応するPAM配列は5´-NNAGAAであり、S. agalactiae由来のCas9タンパク質(II-A型)に対応するPAM配列は5´-NGGであり、S. aureus由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NGRRT又は5´-NGRRNであり、N. meningitidis由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NNNNGATTであり、T. denticola由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NAAAACである。
ガイドRNAはDNA上の標的部位への結合に関与する配列(crRNA(CRISPR RNA)配列といわれることもある)を有しており、このcrRNA配列が、非標的鎖のPAM配列相補配列を除いてなる配列に相補的(好ましくは、相補的且つ特異的)に結合することにより、ガイドRNAはDNAの標的部位に結合することができる。
なお、「相補的」に結合とは、完全な相補関係(AとT、及びGとC)に基づいて結合する場合のみならず、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係に基づいて結合する場合も包含される。ストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。かかる条件で洗浄してもハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。
具体的には、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列は、標的鎖と例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは100%の同一性を有する。なお、ガイドRNAの標的部位への結合には、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列の3´側の12塩基が重要であるといわれている。このため、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列が、標的鎖と完全同一ではない場合、標的鎖と異なる塩基は、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列の3´側の12塩基以外に存在することが好ましい。
ガイドRNAは、Casタンパク質との結合に関与する配列(tracrRNA(trans-activating crRNA)配列といわれることもある)を有しており、このtracrRNA配列が、Casタンパク質に結合することにより、Casタンパク質をゲノムDNAの標的部位に誘導することができる。
tracrRNA配列は、特に制限されない。tracrRNA配列は、典型的には、複数(通常、3つ)のステムループを形成可能な50〜100塩基長程度の配列からなるRNAであり、利用するCasタンパク質の種類に応じてその配列は異なる。tracrRNA配列としては、利用するCasタンパク質の種類に応じて、公知の配列を各種採用することができる。
ガイドRNAは、通常、上記したcrRNA配列とtracrRNA配列を含む。ガイドRNAの態様は、crRNA配列とtracr RNA配列を含む一本鎖RNA(sgRNA)であってもよいし、crRNA配列を含むRNAとtracrRNA配列を含むRNAとが相補的に結合してなるRNA複合体であってもよい。
ゲノムガイドRNAは、ゲノムDNAの任意部位を標的とするガイドRNAである。
ゲノムDNAは、ゲノム編集対象細胞又は生物が有するゲノムDNAであって、CRISPR/Casシステムにより編集可能なDNAである限り特に制限されない。
ゲノム編集対象細胞及び生物は、CRISPR/Casシステムによりゲノム編集可能な細胞及び生物である限り特に制限されない。ゲノム編集対象細胞としては、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、受精卵、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。ゲノム編集対象生物としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の哺乳類動物; アフリカツメガエル等の両生類動物; ゼブラフィッシュ、メダカ、トラフグ等の魚類動物; ホヤ等の脊索動物; ショウジョウバエ、カイコ等の節足動物;等の動物: シロイヌナズナ、イネ、コムギ、タバコ等の植物: 酵母、アカパンカビ等の菌類: 大腸菌、枯草菌、藍藻等の細菌等が挙げられる。
ゲノムガイドRNAの標的部位は、特に制限されず、ゲノム編集の目的に応じて適宜設定することができる。例えば、ある遺伝子のノックアウトが目的であれば、該遺伝子ORF内の任意部位や、該遺伝子プロモーター内を標的部位とすることができる。別の例として、ある遺伝子のノックインが目的であれば、安定的な発現、副作用リスクの抑制等の観点から、セーフ・ハーバー領域内の任意部位を標的部位とすることができる。なお、オフターゲット効果をより低減すべく、ゲノムガイドRNAの標的部位の塩基配列の類似配列が、導入対象の細胞又は生物のゲノムDNA内に無いことを、確認しておくことが望ましい。
ゲノムガイドRNA発現カセットは、ゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象生物の細胞内でゲノムガイドRNAを発現(転写)可能なDNAである限り特に制限されない。例えばゲノムガイドRNAがcrRNA配列とtracr RNA配列を含む一本鎖RNAである場合は、ゲノムガイドRNAの発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたゲノムガイドRNAコード配列を有するDNAが挙げられる。別の例として、ゲノムガイドRNAがcrRNA配列を含むRNAとtracrRNA配列を含むRNAとが相補的に結合してなるRNA複合体である場合は、ゲノムガイドRNAの発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「crRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(便宜上、「crRNA発現カセット」と示すこともある)と、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「tracrRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(便宜上、「tracrRNA発現カセット」と示すこともある)との組合せが挙げられる。
ゲノムガイドRNA発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、pol II系プロモーターを使用することもできるが、比較的短いRNAの転写をより正確に行わせるという観点から、pol III系プロモーターが好ましい。pol III系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばマウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター等が挙げられる。
ゲノムガイドRNA発現カセットが、crRNA発現カセットとtracrRNA発現カセットとの組合せである場合、これら2つの発現カセットは、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、それぞれが別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
ゲノムガイドRNA発現カセットは、後述のCasタンパク質発現カセットと、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。また、ゲノムガイドRNA発現カセットは、後述のドナーガイドRNA発現カセットと、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
本発明の一態様においては、ゲノムガイドRNA発現カセットが後述のCasタンパク質発現カセットと同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていること、又はゲノムガイドRNA発現カセットが後述のドナーガイドRNA発現カセットと別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていることが好ましく、ゲノムガイドRNA発現カセットが後述のCasタンパク質発現カセットと同一DNA(1分子のDNA)上に含まれており、且つゲノムガイドRNA発現カセットが後述のドナーガイドRNA発現カセットと別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていることがより好ましい。
ゲノムガイドRNA発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点など)を含んでいてもよい。例えば、ゲノムガイドRNA発現カセットにおいて、5´側から、プロモーター、crRNA配列のコード配列の順に配置されている場合であれば、プロモーターとcrRNA配列のコード配列の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、crRNA配列のコード配列の3´側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2〜50、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
ゲノムガイドRNA発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していることが好ましい。すなわち、材料(a)は、ゲノムガイドRNAの発現カセットを含むベクターであることが好ましい。ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター; アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。
上記したガイドRNAコンポーネントは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術等を利用して作製することができる。
2-2.材料(b)
材料(b)は、Casタンパク質、Cas mRNA、及びCasタンパク質発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種である。
Casタンパク質は、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるものであれば特に制限されず、例えばガイドRNAと複合体を形成した状態でDNAの標的部位に結合し、該標的部位を2本鎖切断できるものを各種使用することができる。
各種生物由来のCasタンパク質が知られており、Casタンパク質としては例えばS. pyogenes由来のCas9タンパク質(II型)、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A1型)、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A2型)、H. walsbyl由来のCas9タンパク質(I-B型)、E. coli由来のCas9タンパク質(I-E型)、E. coli由来のCas9タンパク質(I-F型)、P. aeruginosa由来のCas9タンパク質(I-F型)、S. Thermophilus由来のCas9タンパク質(II-A型)、S. agalactiae由来のCas9タンパク質(II-A型)、S. aureus由来のCas9タンパク質、N. meningitidis由来のCas9タンパク質、T. denticola由来のCas9タンパク質等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはCas9タンパク質が挙げられ、より好ましくはストレプトコッカス属に属する細菌が内在的に有するCas9タンパク質が挙げられる。各種Casタンパク質のアミノ酸配列、及びそのコード配列の情報は、NCBI等の各種データベース上で容易に得ることができる。
Casタンパク質は、その活性を損なわない限りにおいて、変異を有していてもよい。この観点から、Casタンパク質は、その元となる野生型Casタンパク質のアミノ酸配列と、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つその活性(ガイドRNAと複合体を形成した状態でゲノムDNAの標的部位に結合し、該標的部位を切断する活性)を有するタンパク質であってもよい。或いは、同様の観点から、Casタンパク質は、その元となる野生型Casタンパク質のアミノ酸配列に対して1若しくは複数個(例えば2〜100個、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜20個、さらに好ましくは2〜10個、よりさらに好ましくは2〜5個、特に好ましくは2個)のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つその活性(ガイドRNAと複合体を形成した状態でゲノムDNAの標的部位に結合し、該標的部位の標的鎖又は非標的鎖を切断する活性)を有するタンパク質であってもよい。なお、上記「活性」は、in vitro又はin vivoにおいて、公知の方法に従って又は準じて評価することができる。また、変異は、保存的置換であることが望ましい。
Casタンパク質は、上記「活性」を有する限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
Casタンパク質は、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO−)、アミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなどのC1−6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6−12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1−2アルキル基;α−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1−2アルキル基などのC7−14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
Casタンパク質は、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、Casタンパク質には、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1−6アルカノイルなどのC1−6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども包含される。
Casタンパク質は、上記「活性」を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグ、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。シグナル配列としては、例えば核移行シグナル等が挙げられる。
Casタンパク質は、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
Casタンパク質は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
Cas mRNAは、Casタンパク質コード配列を含み、ゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象生物の細胞内で翻訳されることによりCasタンパク質を発現させることができるものである限り特に制限されない。Cas mRNAは、Casタンパク質コード配列以外にも、各種配列や各種修飾構造、例えば5´キャップ構造、シャイン・ダルガノ配列、コザック配列、IRESなどを含む5´非翻訳領域; ポリアデニレーションシグナル、AUリッチエレメント、GUリッチエレメントなどを含む3´非翻訳領域を含むことができる。
Casタンパク質発現カセットは、ゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象生物の細胞内でCasタンパク質を発現可能なDNAである限り特に制限されない。Casタンパク質発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたCasタンパク質コード配列を含むDNAが挙げられる。
Casタンパク質発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。
Casタンパク質発現カセットは、前述のゲノムガイドRNA発現カセットと、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。また、Casタンパク質発現カセットは、後述のドナーガイドRNA発現カセットと、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
本発明の一態様においては、Casタンパク質発現カセットが前述のゲノムガイドRNA発現カセットと同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていること、又はCasタンパク質発現カセットが後述のドナーガイドRNA発現カセットと同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていることが好ましく、Casタンパク質発現カセットが前述のゲノムガイドRNA発現カセットと同一DNA(1分子のDNA)上に含まれており、且つ別のCasタンパク質発現カセットが後述のドナーガイドRNA発現カセットと同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていることがより好ましい。
Casタンパク質発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点など)を含んでいてもよい。例えば、Casタンパク質発現カセットにおいて、5´側から、プロモーター、Casタンパク質のコード配列の順に配置されている場合であれば、プロモーターとCasタンパク質のコード配列の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、Casタンパク質のコード配列の3´側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2〜50、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
Casタンパク質発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していてもよい。ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター; アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。
上記した材料(b)は、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術等を利用して作製することができる。
2-3.材料(c)
材料(c)は、環状ドナーベクターである。本発明のゲノム編集方法においては、後述のドナーガイドRNAにより環状ドナーベクターが線状となり、これをゲノムガイドRNAの標的部位に挿入することができる。
環状ドナーベクターは、環状の二本鎖DNAである限りにおいて、その塩基配列は特に制限されない。
環状ドナーベクターの塩基長は、特に制限されないが、例えば500〜100000塩基長、好ましくは1000〜50000塩基長、より好ましくは1500〜30000塩基長、さらに好ましくは2000〜20000塩基長、よりさらに好ましくは3000〜15000塩基長であることができる。
ゲノムDNAの目的の部位に外来DNAが挿入された細胞を、より簡便且つ効率的に得ることが可能になるという観点から、環状ドナーベクターは、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等のマーカー遺伝子を含むことが好ましい。
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
レポーター遺伝子としては、特に制限されず、例えば特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質等をコードする遺伝子が挙げられる。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、EGFP、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、mRuby、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等が挙げられる。また、レポータータンパク質には、発光(発色)タンパク質や蛍光タンパク質と、他のタンパク質との融合タンパク質や、発光(発色)タンパク質や蛍光タンパク質に公知のタンパク質タグ、公知のシグナル配列等が付加されてなるタンパク質も包含される。
ドナーガイドRNAが各種ベクターの普遍的配列を標的にできるという観点から、環状ドナーベクターは、複製起点を有することが好ましい。複製起点としては、例えばpUC ori等が挙げられる。
本発明のゲノム編集においては、ドナーガイドRNAにより線状化したドナーベクターの末端とゲノムガイドRNAによるゲノムDNAの切断により生じた切断端とが、通常は、非相同末端連結によって、連結される。この観点から、通常、環状ドナーベクターにおけるドナーガイドRNAの標的部位の周辺配列(ドナーガイドRNAによる切断端から、例えば10 bp、好ましくは100 bp、より好ましくは500 bp、さらに好ましくは2000 bpまでの配列)と、ゲノムDNAにおける前記ゲノムガイドRNAの標的部位の周辺配列(ゲノムガイドRNAによる切断端から、例えば10 bp、好ましくは100 bp、より好ましくは500 bp、さらに好ましくは2000 bpまでの配列)とは、非相同且つ非相補性且つ非逆相補関係である。
ここで、非相同関係とは、2つの比較対象の塩基配列の同一性が、例えば50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下であることを示す。非相補関係とは、比較対象の一方の塩基配列と、もう一方の塩基配列の相補配列との同一性が、例えば50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下であることを示す。非逆相補関係とは、比較対象の一方の塩基配列と、もう一方の塩基配列の逆相補配列との同一性が、例えば50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下であることを示す。
環状ドナーベクターは、通常、材料(a)、(b)及び(d)とは異なる分子として存在する。
環状ドナーベクターは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。
2-4.材料(d)
材料(d)は、前記環状ドナーベクター内の任意部位を標的とするドナーガイドRNA及びその発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種である。本発明のゲノム編集方法においては、ドナーガイドRNAにより環状ドナーベクターが線状となり、これをゲノムガイドRNAの標的部位に挿入することができる。
ガイドRNAについては、上記「1.材料(a)」における説明と同様である。
ドナーガイドRNAは、環状ドナーベクター内の任意部位を標的とするガイドRNAである。
ドナーガイドRNAの標的部位は、特に制限されず、ゲノム編集の目的に応じて適宜設定することができる。環状ドナーベクター内のある塩基配列(例えば、ある遺伝子の発現カセット)のノックインを目的とする場合であれば、ドナーガイドRNAの標的部位は、ノックイン目的の塩基配列から、例えば50 bp以上、好ましくは100 bp以上、より好ましくは200 bp以上離れていることが望ましい。また、環状ドナーベクターが異なっても、できるだけ同じドナーガイドRNAを利用できるという観点から、ドナーガイドRNAの標的部位は、各種ベクターが普遍的に有する配列(例えば複製起点内の配列、好ましくはpUC ori内の配列、より好ましくは配列番号9を含む、pUC ori内の配列)であることが望ましい。さらに、環状ドナーベクター内に薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等が含まれる場合、ドナーガイドRNAの標的部位をこれらの遺伝子内に設計すれば、これらの遺伝子の発現の有無(例えば薬剤耐性の有無、蛍光の有無等)で細胞を選別することにより、ランダムインテグレーションが起こった細胞をより効率的に排除することができる。なお、オフターゲット効果をより低減すべく、ドナーガイドRNAの標的部位の塩基配列の類似配列が、導入対象の細胞又は生物のゲノムDNA内にないか、確認しておくことが望ましい。
ドナーガイドRNA発現カセットは、ゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象生物の細胞内でドナーガイドRNAを発現(転写)可能なDNAである限り特に制限されない。例えばドナーガイドRNAがcrRNA配列とtracr RNA配列を含む一本鎖RNAである場合は、ドナーガイドRNAの発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたドナーガイドRNAコード配列を有するDNAが挙げられる。別の例として、ドナーガイドRNAがcrRNA配列を含むRNAとtracrRNA配列を含むRNAとが相補的に結合してなるRNA複合体である場合は、ドナーガイドRNAの発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「crRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(便宜上、「crRNA発現カセット」と示すこともある)と、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「tracrRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(便宜上、「tracrRNA発現カセット」と示すこともある)との組合せが挙げられる。
ドナーガイドRNA発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、pol II系プロモーターを使用することもできるが、比較的短いRNAの転写をより正確に行わせるという観点から、pol III系プロモーターが好ましい。pol III系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばマウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター等が挙げられる。
ドナーガイドRNA発現カセットが、crRNA発現カセットとtracrRNA発現カセットとの組合せである場合、これら2つの発現カセットは、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、それぞれが別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
ドナーガイドRNA発現カセットは、前述のCasタンパク質発現カセットと、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。また、ドナーガイドRNA発現カセットは、前述のゲノムガイドRNA発現カセットと、同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていてもよいし、別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていてもよい。
本発明の一態様においては、ドナーガイドRNA発現カセットが前述のCasタンパク質発現カセットと同一DNA(1分子のDNA)上に含まれていること、又はドナーガイドRNA発現カセットが前述のゲノムガイドRNA発現カセットと別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていることが好ましく、ドナーガイドRNA発現カセットが前述のCasタンパク質発現カセットと同一DNA(1分子のDNA)上に含まれており、且つドナーガイドRNA発現カセットが前述のゲノムガイドRNA発現カセットと別々のDNA(異なるDNA分子)上に含まれていることがより好ましい。
ドナーガイドRNA発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点など)を含んでいてもよい。例えば、ドナーガイドRNA発現カセットにおいて、5´側から、プロモーター、crRNA配列のコード配列の順に配置されている場合であれば、プロモーターとcrRNA配列のコード配列の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、crRNA配列のコード配列の3´側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2〜50、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
ドナーガイドRNA発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していることが好ましい。すなわち、材料(d)は、ドナーガイドRNAの発現カセットを含むベクターであることが好ましい。ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター; アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。
上記したガイドRNAコンポーネントは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術等を利用して作製することができる。
3.ゲノム編集方法、ゲノム編集された細胞又は生物の製造方法
上記材料(a)〜(d)をゲノム編集対象細胞又はゲノム編集対象生物に導入する工程を含む方法により、これらの細胞又は生物のゲノムを編集すること、より具体的には、ゲノムDNAの任意部位に外来DNA(環状ドナーベクター由来のDNA)をより簡便且つ効率的に挿入することができる。
材料(a)〜(d)の導入方法は、特に制限されず、対象細胞又は生物の種類、材料の種類(核酸であるのか、タンパク質であるのか等)に応じて、適宜選択することができる。導入方法としては、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラン処理、リポフェクション、ナノ粒子媒介性トランスフェクション、ウイルス媒介性核酸送達等が挙げられる。
材料(a)〜(d)の導入の態様は、最終的に対象細胞又は生物内に材料(a)〜(d)全てが送達される限りにおいて特に制限されない。材料(a)〜(d)は、同時に、逐次的に、或いは一定期間を空けて別々に導入することができる。
本発明のゲノム編集方法においては、ドナーガイドRNAにより線状化したドナーベクターの末端とゲノムガイドRNAによるゲノムDNAの切断により生じた切断端との連結を相補的結合によって補助する一本鎖DNAが無くとも、効率的なゲノム編集が可能である。この観点から、通常、導入工程においては、ゲノムガイドRNAの標的部位の周辺配列(ゲノムガイドRNAによる切断端から、例えば10 bp、好ましくは100 bp、より好ましくは500 bp、さらに好ましくは2000 bpまでの配列)及び/又はドナーガイドRNAの標的部位の周辺配列(ドナーガイドRNAによる切断端から、例えば10 bp、好ましくは100 bp、より好ましくは500 bp、さらに好ましくは2000 bpまでの配列)と非相同及び/又は非相補性関係である配列を含む一本鎖DNAは導入されない。
本発明の一態様においては、材料(a)が前記ゲノムガイドRNAの発現カセットを含むベクターであり、且つ材料(d)が前記ドナーガイドRNAの発現カセットを含むベクターであることが好ましい。
この態様においては、材料(b)がCasタンパク質発現カセットであり、且つ材料(a)及び/又は材料(d)のベクターが該Casタンパク質発現カセットを含むことがより好ましい。
この態様において、ランダムインテグレーションによる外来DNA挿入を抑制し、ゲノムDNAの目的の部位への外来DNA挿入の効率をより高めることができるという観点から、材料(a)、(c)及び(d)の合計モル数100%に対する材料(c)のモル数の割合は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく10%以下がさらに好ましく、5%以下がよりさらに好ましい。該割合の下限は、例えば1%、2%、4%である。
同様の観点から、材料(a)、(c)及び(d)の総モル数100%に対する材料(a)のモル数の割合は、70%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、85%以上がよりさらに好ましい。該割合の上限は、例えば99%、95%、90%である。
材料(a)、(c)及び(d)の総モル数100%に対する材料(d)のモル数の割合は、例えば5〜15%である。
材料(a)〜(d)を導入してから、一定時間経過後に、対象細胞又は対象生物内でゲノム編集が起こるので、この細胞又は生物を回収することにより、ゲノム編集された細胞又は生物を得ることができる。
4.ゲノム編集用キット、ゲノム編集用組成物
上記材料(a)〜(d)は、これらが一体となって含まれるゲノム編集用組成物として利用することもできるし、或いはキットとして利用することもできる。
ゲノム編集用組成物は、上記材料(a)〜(d)を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
ゲノム編集用キットは、上記材料(a)〜(d)を別々に或いは一体となって含む限りにおいて特に制限されず、必要に応じて核酸導入試薬、タンパク質導入試薬、緩衝液等、本発明のゲノム編集方法の実施に必要な他の試薬、器具等を適宜含んでいてもよい。
本発明のゲノム編集方法においては、ドナーガイドRNAにより線状化したドナーベクターの末端とゲノムガイドRNAによるゲノムDNAの切断により生じた切断端との連結を相補的結合によって補助する一本鎖DNAが無くとも、効率的なゲノム編集が可能である。この観点から、通常、ゲノム編集用組成物、キットは、ゲノムガイドRNAの標的部位の周辺配列(ゲノムガイドRNAによる切断端から、例えば10 bp、好ましくは100 bp、より好ましくは500 bp、さらに好ましくは2000 bpまでの配列)及び/又はドナーガイドRNAの標的部位の周辺配列(ドナーガイドRNAによる切断端から、例えば10 bp、好ましくは100 bp、より好ましくは500 bp、さらに好ましくは2000 bpまでの配列)と非相同及び/又は非相補性関係である配列を含む一本鎖DNAを含まない。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
参考例1.ゲノムガイドRNA発現ベクターの作製
内在性ヒトビタミンD受容体(VDR)遺伝子のエクソン4内を標的部位(塩基配列3:5´−ATGCGGCAGTCCCCGTTGAAGG)とするゲノムガイドRNA(VDR-gRNA)の発現ベクター(VDR-gRNA-pX330)、及び内在性ヒトセーフハーバー領域AAVS1内を標的部位(塩基配列4:5´−AGAGCCACATTAACCGGCCCTGG)とするゲノムガイドRNA(AAVS-gRNA)の発現ベクター(AAVS-gRNA-pX330)を、作製した。具体的には、VDR-gRNA-pX330については、配列番号5(5´−CACCGATGCGGCAGTCCCCGTTGA)で示される塩基配列からなる一本鎖DNAと、配列番号6(5´−AAACTCAACGGGGACTGCCGCATC)で示される塩基配列からなる一本鎖DNAとのアニーリング産物を、AAVS-gRNA-pX330については、配列番号7(5´−CACCGAGAGCCACATTAACCGGCCC)で示される塩基配列からなる一本鎖DNAと、配列番号8(5´−AAACGGGCCGGTTAATGTGGCTCTC)で示される塩基配列からなる一本鎖DNAとのアニーリング産物を、pX330ベクター(addgene #42230)のBbsIサイトに挿入して得た。作製したベクターは陰イオン交換カラムクロマトグラフィーや超遠心法などにより高純度に精製し、以下の実施例で用いた。
参考例2.環状ドナーベクターの作製
ピューロマイシン耐性遺伝子発現カセットを含む環状ドナーベクター(pVKG1-Puro)、並びに蛍光遺伝子(EGFP、及びmRuby)発現カセット及びピューロマイシン発現カセットを含む環状ドナーベクター(pGFP-RFPuro)を、定法に従って作製した。pVKG1-Puroのベクターマップを図1に、pGFP-RFPuroのベクターマップを図2に示す。また、pVKG1-Puroの全塩基配列を配列番号1に、pGFP-RFPuroの全塩基配列を配列番号2に示す。作製したベクターは陰イオン交換カラムクロマトグラフィーや超遠心法などにより高純度に精製し、以下の実施例で用いた。
参考例3.ドナーガイドRNA発現ベクターの作製
pVKG1-Puro(環状ドナーベクター)のpUC Ori配列内を標的部位(塩基配列9:5´−TCGCTGCGCTCGGTCGTTCGG)とするドナーガイドRNA(VKG1-gRNA)の発現ベクター(VKG1-gRNA-pX330)、及びpGFP-RFPuro(環状ドナーベクター)のEGFP遺伝子内を標的部位(塩基配列10:5´−CTGAAGTTCATCTGCACCACCGG)とするドナーガイドRNA(GFP-gRNA)の発現ベクター(GFP-gRNA-pX330)を、作製した。pUC Ori配列内の標的部位(配列番号9)は、ヒト及びマウスのゲノム配列を検索し、類似配列が無いこと(すなわちオフターゲット効果のリスクが低いこと)を確認した。具体的には、VKG1-gRNA-pX330については、配列番号11(5´−CACCGTCGCTGCGCTCGGTCGTT)で示される塩基配列からなる一本鎖DNAと、配列番号12(5´−AAACAACGACCGAGCGCAGCGAC)で示される塩基配列からなる一本鎖DNAとのアニーリング産物を、GFP-gRNA-pX330については、配列番号13(5´−CACCTGAAGTTCATCTGCACCACC)で示される塩基配列からなる一本鎖DNAと、配列番号14(5´−AAACGGTGGTGCAGATGAACTTCA)で示される塩基配列からなる一本鎖DNAとのアニーリング産物を、pX330ベクター(addgene #42230)のBbsIサイトに挿入して得た。作製したベクターは陰イオン交換カラムクロマトグラフィーや超遠心法などにより高純度に精製し、以下の実施例で用いた。
実施例1.ゲノム編集試験1
本試験の概略を図3に示す。本試験においては、内在性ヒトセーフハーバー領域AAVS1内を標的部位とするゲノムガイドRNAの発現ベクター(AAVS-gRNA-pX330)(参考例1)、蛍光遺伝子(EGFP、及びmRuby)発現カセット及びピューロマイシン発現カセットを含む環状ドナーベクター(pGFP-RFPuro)(参考例2)、並びに環状ドナーベクターのEGFP遺伝子内を標的部位とするドナーガイドRNAの発現ベクター(GFP-gRNA-pX330)(参考例3)、又はガイドRNA発現カセットを含まないコントロールベクター(pX330)を用いた。なお、Casタンパク質発現カセットは、ゲノムガイドRNA発現ベクター及びドナーガイドRNA発現ベクターの両方に含まれている。本試験において、環状ドナーベクターがゲノムに挿入された細胞は抗生剤耐性かつRFP(mRuby)による蛍光が検出され、挿入が意図したノックイン(図3)の場合にはGFPによる蛍光は検出されず、挿入がランダムインテグレーションの場合にはGFP(EGFP)による蛍光がさらに検出される傾向になると予想される。そこで、意図したノックインの成否を、FACS分析、及びジェノタイピングにより評価した。具体的には、以下のようにして行った。
<実施例1-1.培養細胞へのベクター導入>
HEK293F細胞(5×106 cells)に対して、TurboFect Transfection Reagent (Thermo)を用いて、ベクターを導入した。条件(ベクターの種類、及び量)は、表1及び2に示す6つである。
<実施例1-2.抗生剤耐性細胞の樹立>
ベクター導入後のHEK293F細胞を、ピューロマイシン濃度1ug/mLの培地を用いて培養し、抗生剤耐性株の細胞集団とした。この抗生剤耐性の細胞集団はほぼすべてがRFP陽性であることを確認した。
<実施例1-3.FACS分析>
抗生剤耐性株の細胞を、フローサイトメトリー(BIO-RAD, S3e Cell Sorter)により、GFP陰性且つRFP陽性細胞の集団とGFP陽性且つRFP陽性細胞の集団とに選別した。結果を図4に示す。
図4に示されるように、ゲノムガイドRNA発現ベクター、環状ドナーベクター、及びドナーガイドRNA発現ベクターの導入により、一定以上の割合で、環状ドナーベクターが意図した通りにノックイン(図3)されていることが示唆された(図4のCondition 1〜3)。また、3種のベクターの量比を調整することにより、ランダムインテグレーションが起こる細胞の割合を減らし、環状ドナーベクターが意図した通りにノックイン(図3)される細胞を増やすことができることも示唆された(図4のCondition 1〜3)。
<実施例1-4.ジェノタイピング>
FACSで選別された各細胞(条件1〜6それぞれについて、GFP陰性且つRFP陽性細胞と、GFP陽性且つRFP陽性細胞)をPCRによってジェノタイピングした。具体的には次のとおりである。各細胞(およそ105 cells)に50 mM NaOH溶液を600uL加え、95℃で15分間ボイルした。得られた溶液を、1M Tris-HCl (pH 8)を50 uLを加えて中性とした後に遠心し、上清をゲノムDNA抽出液とした。該ゲノムDNA抽出液をテンプレートとして、Go Taq Green Master Mix (Promega)を用いてPCRを行った。PCRの増幅領域は、図5の上段に示す5種類(Amplicon 1〜5)とピューロマイシン遺伝子内の増幅領域(Amplicon Puro)との計6種類である。用いたプライマーの塩基配列を表3に示す。結果を図5に示す。
図5に示されるように、GFP陰性且つRFP陽性細胞では、環状ドナーベクターが意図した通りにノックイン(図3)されていること(Amplicon 1〜4の増幅)、及びGFP陽性且つRFP陽性細胞では主にランダムインテグレーションが起こっていること(Amplicon 5の増幅)が確認された。
<実施例1-5.NGS解析>
実施例1-4で抽出した、条件3の細胞のゲノムDNAをテンプレートとして、hAAVS1遺伝子座特異的プライマーとドナー特異的プライマーのペアで、Q5 DNA polymerase (NEB)を用いて増幅を行った。ドナーが順方向、逆方向に挿入されている場合を加味して、ドナーベクターの5´末端、3´末端あわせて4種類の増幅を行った。増幅産物はTruseq (Illumina)のアダプターを付加したのち、Miseq (Illumina)で配列を解析した。用いたプライマーの塩基配列を表4〜6に示す。
図6に、NGS解析によるAmplicon 5 (AAVS1)の変異導入の度合いを示す。
図7に、NGS解析による、Amplicon 1 -6 の、全シークエンスにおける特異的増幅を示す。
図6に示されるように、hAAVS1を標的としたgRNA発現するベクター(AAVS-locus cleavage vector)のみを導入し、gRNAのターゲット領域を含む配列で増幅を行った配列のうち、ターゲットのゲノムに変異が入っている配列は、全配列の内70%以上であった。このことから、ターゲットには十分に変異が入っており、AAVS1遺伝子座を切断するベクターは機能すると分かった。また、図7に示されるように、増幅産物のほとんどは、予想ノックイン産物の配列にマッピングされることが分かった。したがって、PCRで増やしたAmpliconは確かにノックイン産物を増幅していることが分かった。
実施例2.ゲノム編集試験3
本試験の概略を図8に示す。ヒト表皮角化細胞株HaCaT(5×106cells)に対して、パルスジェネレーター (BEX Co., LTD., CUY21EDITII)を用い、高電圧パルスを細胞に直接かけ細胞膜表面を不安定化させることで核酸を取り込ませるエレクトロポレーション法により、ベクターを導入した。条件(ベクターの種類、及び量)は、内在性ヒトビタミンD受容体(VDR)遺伝子のエクソン4内を標的部位とするゲノムガイドRNAの発現ベクター(VDR-gRNA-pX330)(参考例1)13.5μg、ピューロマイシン耐性遺伝子発現カセットを含む環状ドナーベクター(pVKG1-Puro)(参考例2)0.3μg、及び環状ドナーベクターのpUC Ori配列内を標的部位とするドナーガイドRNAの発現ベクター(VKG1-gRNA-pX330)(参考例3)1.3μgを用いた。ベクター導入後のHaCaT細胞を、ピューロマイシン濃度0.4ug/mLの培地を用いて、1細胞由来の細胞株のクローニングができるように103〜104cell/cm2程度の密度で、培養し、抗生剤耐性株の樹立を行った。得られた各クローンについて、実施例1と同様にしてジェノタイピングを行った。PCRの増幅領域は、図9の左側に示す2種類(Amplicon 5及び6)と図10の上段に示す4種類(Amplicon 1〜4)との計6種類である。用いたプライマーの塩基配列を表7に示す。
まず、環状ドナーベクター(pVKG1-Puro)のピューロマイシン耐性遺伝子内の増幅領域(Amplicon 5)、及び環状ドナーベクター(pVKG1-Puro)の、ドナーガイドRNAによる切断を挟む増幅領域(Amplicon 6)について、ジェノタイピングを行った。結果を図9に示す。図9に示されるように、ジェノタイピングを行った48クローン中、36クローンが、ランダムインテグレーションの無いノックインが起こったクローン(Amplicon 6が増幅しないクローン)であった。つづいて、このクローンの一部について、ドナーが目的のDNA上にノックイン(図8)されているか判別可能なプライマーを用いてジェノタイピングを行った(Amplicon 1〜4)。結果を図10に示す。図10に示されるように、調べた全てのクローンにおいて、ドナーが目的のDNA上にノックイン(図8)されていた(Amplicon 1〜2又はAmplicon 3〜4の増幅)。
さらに、ドナーが目的のDNA上にノックインされていたクローン内のVDRの発現をウェスタンブロッティングにより確認した結果、これらのクローンではVDRの発現は検出されなかった(図11)。そして、これらのクローンにおける、活性型ビタミンDによるVDR標的遺伝子の発現誘導をリアルタイムPCRにより確認した結果、活性型ビタミンを添加してもVDR標的遺伝子の発現誘導は起こらなかった(図12)。また、これらのクローンにVDRを過剰発現させると、活性型ビタミンDによる転写活性化が検出できた(すなわち、VDRノックアウト細胞を、VDRの発現のみを回復させることによって機能的にレスキューできた)(図13)。これらの結果より、VDR遺伝子がノックアウトされたことが確認できた。
加えて比較検討のため、環状ドナーベクターを前もって線状としたドナーベクターに変更し、同様の方法でVDRのエクソン4内を標的部位として挿入を試みたが、標的部位への挿入は検出されなかった(すなわち効率の良い標的部位の挿入には、環状ドナーベクターが細胞内でドナーガイドRNAにより切断される必要がある)(図14)。
また、実際に樹立した各クローンのシーケンス解析を行ったところ、ドナーベクター(pVKG1)が標的ゲノム部位(VDR)へ両端の塩基配列に挿入・欠失が無く挿入されたクローンは25クローンで全体の61%と高頻度であった。その他、片端もしくは両端に5bp以下の挿入・欠失されたクローンは10クローン(24%)、6bp以上の挿入・欠失されたクローンは6クローン(15%)でることが確認された(図15)。