JP6853514B2 - 炎症性サイトカインの産生が抑制されるキメラ抗原受容体遺伝子改変リンパ球 - Google Patents

炎症性サイトカインの産生が抑制されるキメラ抗原受容体遺伝子改変リンパ球 Download PDF

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Description

本発明はキメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球(CAR遺伝子導入リンパ球)に関する。詳細には、特定のサイトカイン遺伝子がノックダウンされたCAR遺伝子導入リンパ球の作製方法、当該細胞の用途等に関する。
キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor。以下、「CAR」とも呼ぶ)を用いた遺伝子改変T細胞療法(CAR-T療法)や遺伝子改変NK細胞療法(CAR-NK療法)が臨床応用されつつある。CARは、典型的には、抗体の単鎖可変領域を細胞外ドメインとし、それに膜貫通領域、CD3ζ及び共刺激シグナルを伝える分子の細胞内ドメインをつないだ構造を備える。抗体の特異性に従って抗原に結合することによりCAR遺伝子導入リンパ球は活性化し、標的細胞(がん細胞など)を傷害する。CAR療法は、細胞の調製が比較的容易であること、高い細胞傷害活性を示すこと、持続的な効果を期待できることなどの利点を有し、特に、難治性や従来の治療法に抵抗性の症例に対する新たな治療手段として期待されている。実際、化学療法抵抗性急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia)患者に対して、細胞表面に発現するCD19抗原に対するCARを、患者から採取した末梢血T細胞に遺伝子導入し、培養して輸注する臨床試験が欧米で行われ、寛解率80〜90%の良好な成績が報告されている(非特許文献1〜3)。CAR療法は、米国では難治性がんに対して最も将来有望な治療法の1つとして注目されている。
一方、B細胞性腫瘍に対するCD19抗原を標的としたCAR療法の臨床試験では、CAR遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)が抗腫瘍効果を発現する際に高サイトカイン血症が生じ、約30%の患者に急性呼吸窮迫症候群、意識障害、多臓器不全などの重篤な合併症が認められる(「サイトカイン放出症候群」と呼ばれる。非特許文献2〜5を参照)。これまでに過剰産生が報告されている主なサイトカインは、インターフェロン(IFN)γ、腫瘍壊死因子(TNF)α、インターロイキン(IL)-2、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12である(非特許文献5)。CAR療法に起因するサイトカイン放出症候群に対しては、副腎皮質ステロイド剤、抗IL-6受容体抗体、抗TNF-α抗体等が投与され、特に抗IL-6受容体抗体の投与が有効であったと報告されている。
Grupp SA, Kalos M, Barrett D, Aplenc R, Porter DL, Rheingold SR, Teachey DT, Chew A, Hauck B, Wright JF, Milone MC, Levine BL, June CH. Chimeric antigen receptor-modified T cells for acute lymphoid leukemia. N Engl J Med, 368(16):1509-18. 2013 Maude SL, Frey N, Shaw PA, Aplenc R, Barrett DM, Bunin NJ, Chew A, Gonzalez VE, Zheng Z, Lacey SF, Mahnke YD, Melenhorst JJ, Rheingold SR, Shen A, Teachey DT, Levine BL, June CH, Porter DL, Grupp SA. Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia. N Engl J Med, 371(16):1507-17. 2014 Lee DW, Kochenderfer JN, Stetler-Stevenson M, Cui YK, Delbrook C, Feldman SA, Fry TJ, Orentas R, Sabatino M, Shah NN, Steinberg SM, Stroncek D, Tschernia N, Yuan C, Zhang H, Zhang L, Rosenberg SA, Wayne AS, Mackall CL. T cells expressing CD19 chimeric antigen receptors for acute lymphoblastic leukaemia in children and young adults: a phase 1 dose-escalation trial. Lancet. 2014 Davila ML, Riviere I, Wang X, et al. Efficacy and toxicity management of 19-28z CAR T cell therapy in B cell acute lymphoblastic leukemia. Sci Transl Med. 2014;6:224ra25. Xu XJ, Tang YM. Cytokine release syndrome in cancer immunotherapy with chimeric antigen receptor engineered T cells. Cancer Lett. 2014 28;343:172-8.
サイトカイン放出症候群に対する上記の対処(副腎皮質ステロイド剤、抗IL-6受容体抗体、抗TNF-α抗体等の投与)はサイトカイン放出症候群の抑制ないし軽減に一定の効果を発揮した。しかしながら、当該対処法はサイトカイン放出症候群が出現してからの治療介入となるため、重篤な合併症の発症を予防するという観点からは十分に有効とはいえない。また、抗IL-6受容体抗体や抗TNF-α抗体は高価であり、患者の経済的な負担は大きい。また、抗体分子であるが故に、意図しない免疫反応による副作用も懸念される。そこで本発明は、CAR療法の治療成績の向上を目指し、抗IL-6受容体抗体等の投与に代わる、サイトカイン放出症候群に対する有効な手段を提供することを課題とする。
上記課題に鑑み検討を進める中で、CAR-T細胞を調製する際に、siRNAによりIL-6遺伝子をノックダウンするという戦略を考え、その有効性を白血病細胞(CD19陽性ALL細胞)で検証した。その結果、驚くべきことに、白血病細胞の増殖が完全に抑えられる一方で、サイトカイン放出症候群の中心的サイトカインであるIL-6の産生を認めなかった。即ち、CAR-T細胞の本来の効果(細胞傷害活性)を維持しつつ、IL-6の産生を効果的に抑制することに成功した。この結果は、CAR-T細胞の調製の際、即ち、CAR遺伝子を導入するときにIL-6遺伝子をノックダウンすると、抗IL-6受容体抗体を使用した場合よりも効率良く且つ安価にサイトカイン放出症候群を抑制ないし軽減できることを示唆する。ここで、サイトカイン放出症候群では一般に、IL-6の過剰な産生とともに腫瘍壊死因子α(TNF-α)の過剰産生も認められる。この事実を踏まえれば、IL-6の場合と同様にTNF-α遺伝子のノックダウンによっても同様の効果を期待できる。また、IL-6遺伝子とTNF-α遺伝子の両方をノックダウンすることにより、効果の増強を望める。
以下の発明は、以上の成果及び考察に基づく。
[1]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子とともに、インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又は腫瘍壊死因子α遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを標的細胞に導入するステップ、を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製方法。
[2]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子、第1核酸コンストラクト、及び第2核酸コンストラクトの導入が、トランスポゾン法によって行われる、[1]に記載の調製方法。
[3]トランスポゾン法がpiggyBacトランスポゾン法である、[2]に記載の調製方法。
[4]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子と、第1核酸コンストラクト及び/又は第2発現コンストラクトが同一のベクターに搭載され、該ベクターが標的細胞に導入される、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の調製方法。
[5]標的細胞がT細胞である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の調製方法。
[6][1]〜[5]のいずれか一項に記載の調製方法で得られた、キメラ抗原受容体を発現するとともに、インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNA及び/又は腫瘍壊死因子α遺伝子を標的とするsiRNAが細胞内で生成される、遺伝子改変リンパ球。
[7][6]に記載の遺伝子改変リンパ球を治療上有効量含む、細胞製剤。
[8][6]に記載の遺伝子改変リンパ球を、治療上有効量、がん患者に投与するステップを含む、がんの治療法。
[9]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体発現カセットとともに、インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又は腫瘍壊死因子α遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含むsiRNA発現カセットを搭載したベクター。
[10]キメラ抗原受容体発現カセットとsiRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備える、[9]に記載のベクター。
[11][10]に記載のベクターと、トランスポザーゼ発現ベクターを含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
[12]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体発現カセットを搭載したベクターと、
インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又は腫瘍壊死因子α遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含むsiRNA発現カセットを搭載したベクターと、
を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
[13]キメラ抗原受容体発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
トランスポザーゼ発現ベクターを更に含む、[12]に記載の調製キット。
[14]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体第1発現カセットを搭載したベクターと、
インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクトを含む第1siRNA発現カセットを搭載したベクターと、
腫瘍壊死因子α遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含む第2siRNA発現カセットを搭載したベクターと、
を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
[15]キメラ抗原受容体発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
第1siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
第2siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
トランスポザーゼ発現ベクターを更に含む、[14]に記載の調製キット。
[16]トランスポザーゼがpiggyBacトランスポザーゼである、[11]、[13]、[15]のいずれか一項に記載の調製キット。
pIRII-CAR.CD19-IL6KDベクター(6680bps)の構造。リーダー配列(配列番号24)及びCD19 CAR(軽鎖可変領域(配列番号25)、重鎖可変領域(配列番号26)、Fc領域(配列番号27)、CD28の膜貫通領域及び細胞内ドメイン(配列番号28)、CD3ζ(配列番号29))をコードする配列に加え、IL-6遺伝子を標的としたshRNAをコードする配列が搭載されている。ベクターの全長の配列を配列番号11に示す。 IL-6遺伝子を標的としたRNAi用のDNA断片(配列番号15)。U6プロモーター(下線。配列番号16)とshRNAをコードする配列(二重下線。配列番号17)を含む。 pIRII-CAR.CD19-TNFaKDベクター(6683bps)の構造。リーダー配列(配列番号24)及びCD19 CAR(軽鎖可変領域(配列番号25)、重鎖可変領域(配列番号26)、Fc領域(配列番号27)、CD28の膜貫通領域及び細胞内ドメイン(配列番号28)、CD3ζ(配列番号29))をコードする配列に加え、TNF-α遺伝子を標的としたshRNAをコードする配列が搭載されている。ベクター全長の配列を配列番号12(No.1の例)、配列番号13(No.2の例)、配列番号14(No.3の例)に示す。 TNF-α遺伝子を標的としたRNAi用のDNA断片(No.1の例は配列番号18、No.2の例は配列番号19、No.3の例は配列番号20)の例。U6プロモーター(下線。配列番号16)とshRNAをコードする配列(二重下線。No.1の例は配列番号21、No.2の例は配列番号22、No.3の例は配列番号23)を含む。 CD19 CAR/IL6KD-T細胞と急性リンパ性白血病(ALL)細胞株との共培養実験の結果。ALL:急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia)、IL-6:インターロイキン6(interleukin-6)、KD:ノックダウン
1.キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製方法
本発明はキメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球(CAR遺伝子導入リンパ球)の調製方法に関する。本発明の調製方法で得られるCAR遺伝子導入リンパ球はCAR療法に利用することができる。本発明の調製方法では、以下のステップ、即ち、標的抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子とともに、インターロイキン6(以下、「IL-6」と呼ぶ)遺伝子を標的とするsiRNA(以下、「IL-6 siRNA」と呼ぶ)を細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又は腫瘍壊死因子α(以下、「TNF-α」と呼ぶ)遺伝子を標的とするsiRNA(以下、「TNF-α siRNA」と呼ぶ)を細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを標的細胞に導入するステップ、を行う。このステップによって、標的抗原特異的CAR遺伝子に加え、IL-6 siRNAを発現する細胞(第1核酸コンストラクトを導入した場合)、標的抗原特異的CAR遺伝子に加え、TNF-α siRNAを発現する細胞(第2核酸コンストラクトを導入した場合)、又は標的抗原特異的CAR遺伝子に加え、IL-6 siRNAとTNF-α siRNAを発現する細胞(第1核酸コンストラクトと第2核酸コンストラクトの両者を導入した場合)が得られる。尚、特に言及しない限り、本明細書における各種細胞(例えばT細胞)はヒト細胞である。
CAR遺伝子は、特定の標的抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)をコードする。CARは、標的に特異的な細胞外ドメインと、膜貫通ドメイン、及び免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナルドメインを含む構造体である。以下、各ドメインについて説明する。
(a)細胞外ドメイン
細胞外ドメインは標的に特異的な結合性を示す。例えば、細胞外ドメインは、抗標的モノクローナル抗体のscFv断片を含む。ここでのモノクローナル抗体として、例えば、齧歯類(マウス、ラット、ウサギなど)の抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体等が用いられる。ヒト化モノクローナル抗体は、他の動物種(例えばマウスやラット)のモノクローナル抗体の構造をヒトの抗体の構造に類似させた抗体であり、抗体の定常領域のみをヒト抗体のものに置換したヒト型キメラ抗体、及び定常領域及び可変領域に存在するCDR(相補性決定領域)以外の部分をヒト抗体のものに置換したヒト型CDR移植(CDR-grafted)抗体(P.T.Johons et al., Nature 321,522(1986))を含む。ヒト型CDR移植抗体の抗原結合活性を高めるため、マウス抗体と相同性の高いヒト抗体フレームワーク(FR)を選択する方法、相同性の高いヒト型化抗体を作製する方法、ヒト抗体にマウスCDRを移植した後さらにFR領域のアミノ酸を置換する方法の改良技術もすでに開発され(米国特許第5585089号、米国特許第5693761号、米国特許第5693762号、米国特許第6180370号、欧州特許第451216号、欧州特許第682040号、特許第2828340号などを参照)、ヒト化抗体の作製に利用することもできる。
scFv断片とは、免疫グロブリンの軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)がリンカーを介して連結された構造体であり、抗原との結合能を保持している。リンカーとしては、例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの代表例は、グリシンとセリンから構成されるリンカー(GGSリンカーやGSリンカー)である。GGSリンカー及びGSリンカーを構成するアミノ酸であるグリシンとセリンは、それ自体のサイズが小さく、リンカー内で高次構造が形成されにくい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が5〜25個のリンカーを用いることができる。リンカーを構成するアミノ酸残基数は好ましくは8〜25個、更に好ましくは15〜20個である。
標的には、典型的には、腫瘍細胞に特異的な発現が認められる抗原が用いられる。ここでの「特異的な発現」とは、腫瘍以外の細胞に比較して有意ないし顕著な発現が認められることをいい、腫瘍以外の細胞において全く発現がないものに限定する意図はない。標的抗原の例として、CD19抗原、CD20抗原、GD2抗原、CD22抗原、CD30抗原、CD33抗原、CD44variant7/8抗原、CD123抗原、CEA抗原、Her2/neu抗原、MUC1抗原、MUC4抗原、MUC6抗原、IL-13 receptor-alpha2、イムノグロブリン軽鎖、PSMA抗原、VEGF receptor2、mesothelin抗原、EGFRvIII、EphA2抗原、IGFRなどを挙げることができる。
(b)膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、細胞外ドメインと細胞内シグナルドメインの間に介在する。膜貫通ドメインとしては、CD28、CD3ε、CD8α、CD3、CD4又は4-1BBなどの膜貫通ドメインを用いることができる。人工的に構築したポリペプチドからなる膜貫通ドメインを用いることにしてもよい。
(c)細胞内シグナルドメイン
細胞内シグナルドメインは、免疫細胞のエフェクター機能の発揮に必要なシグナルを伝達する。即ち、細胞外ドメインが標的の抗原と結合した際、免疫細胞の活性化に必要なシグナルを伝達することが可能な細胞内シグナルドメインが用いられる。細胞内シグナルドメインには、TCR複合体を介したシグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第1ドメイン」と呼ぶ)と、共刺激シグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第2ドメイン」と呼ぶ)が含まれる。第1ドメインとして、CD3ζの他、FcεRIγ等の細胞内ドメインを用いることができる。好ましくは、CD3ζが用いられる。また、第2ドメインとしては共刺激分子の細胞内ドメインが用いられる。共刺激分子としてCD28、4-1BB(CD137)、CD2、CD4、CD5、CD134、OX-40又はICOSを例示することができる。好ましくは、CD28又は4-1BBの細胞内ドメインを採用する。
第1ドメインと第2ドメインの連結態様は特に限定されないが、好ましくは、過去の事例においてCD3ζを遠位につないだ場合に共刺激が強く伝わったことが知られていることから、膜貫通ドメイン側に第2ドメインを配置する。同一又は異種の複数の細胞内ドメインをタンデム状に連結して第1ドメインを構成してもよい。第2ドメインについても同様である。
第1ドメインと第2ドメインは、これらを直接連結しても、これらの間にリンカーを介在させてもよい。リンカーとしては例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの構造、特徴等は前述の通りである。但し、ここでのリンカーとしては、グリシンのみから構成されるものを用いてもよい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が2〜15個のリンカーを用いることができる。
(d)その他の要素
CARの分泌を促すために、リーダー配列(シグナルペプチド)が用いられる。例えば、GM-CSFレセプターのリーダー配列を用いることができる。また、細胞外ドメインと膜貫通ドメインがスペーサードメインを介して連結した構造にするとよい。即ち、好ましい態様のCARは、細胞外ドメインと膜貫通ドメインの間にスペーサードメインを含む。スペーサードメインは、CARと標的抗原との結合を促進させるために用いられる。例えば、ヒトIgG(例えばヒトIgG1、ヒトIgG4)のFc断片をスペーサードメインとして用いることがきる。その他、CD28の細胞外ドメインの一部やCD8αの細胞外ドメインの一部等をスペーサードメインとして用いることもできる。尚、膜貫通ドメインと細胞内シグナルドメインの間にもスペーサードメインを設けることもできる。
尚、これまでにCARを利用した実験、臨床研究などの報告がいくつかあり(例えばRossig C, et al. Mol Ther 10:5-18, 2004; Dotti G, et al. Hum Gene Ther 20:1229-1239, 2009; Ngo MC, et al. Hum Mol Genet 20 (R1):R93-99, 2011; Ahmed N, et al. Mol Ther 17:1779-1787, 2009; Pule MA, et al. Nat Med 14:1264-1270, 2008; Louis CU, et al. Blood 118:6050-6056, 2011; Kochenderfer JN, et al. Blood 116:4099-4102, 2010; Kochenderfer JN, et al. Blood 119 :2709-2720, 2012; Porter DL, et al. N Engl J Med 365:725-733, 2011; Kalos M, et al. Sci Transl Med 3:95ra73,2011; Brentjens RJ, et al. Blood 118:4817-4828, 2011; Brentjens RJ, et al. Sci Transl Med 5:177 ra38, 2013)、これらの報告を参考にして本発明におけるCARを構築することができる。
IL-6 siRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及びTNF-α siRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトは、いわゆるRNAi(RNA interference;RNA干渉)による発現抑制に利用される。換言すれば、第1核酸コンストラクト及び/又は第2発現コンストラクトを標的細胞に導入することにより、標的細胞内においてRNAiにより標的遺伝子(IL-6、TNF-α)の発現を抑制することができる。尚、説明の便宜上、第1核酸コンストラクトと第2核酸コンストラクトを総称して「siRNA用コンストラクト」と呼ぶことがある。
RNAiは真核細胞内で引き起こすことが可能な、配列特異的な転写後遺伝子抑制のプロセスである。哺乳動物細胞に対するRNAiでは、標的mRNAの配列に対応する配列の短い二本鎖RNA(siRNA)が使用される。通常、siRNAは21〜23塩基対である。哺乳動物細胞は二本鎖RNA(dsRNA)の影響を受ける2つの経路(配列特異的経路及び配列非特異的経路)を有することが知られている。配列特異的経路においては、比較的長いdsRNAが短い干渉性のRNA(即ちsiRNA)に分割される。他方、配列非特異的経路は、所定の長さ以上であれば配列に関係なく、任意のdsRNAによって惹起されると考えられている。この経路ではdsRNAが二つの酵素、即ち活性型となり翻訳開始因子eIF2をリン酸化することでタンパク質合成のすべてを停止させるPKRと、RNAase L活性化分子の合成に関与する2',5'オリゴアデニル酸シンターゼが活性化される。この非特異的経路の進行を最小限に留めるためには約30塩基対より短い二本鎖RNA(siRNA)を使用することが好ましい(Hunter et al. (1975) J Biol Chem 250: 409-17; Manche et al. (1992) Mol Cell Biol 12: 5239-48; Minks et al. (1979) J Biol Chem 254: 10180-3; 及び Elbashir et al. (2001) Nature 411: 494-8を参照されたい)。
標的特異的なRNAiを生じさせるためには標的遺伝子のmRNA配列の一部と相同なセンスRNA及びこれに相補的なアンチセンスRNAからなるsiRNAを細胞内で発現させればよい。第1核酸コンストラクト及び第2発現コンストラクトは当該発現を実現する。
特定の遺伝子(標的遺伝子)を標的とするsiRNAは、通常、当該遺伝子のmRNAの配列における連続する領域と相同な配列からなるセンスRNAとその相補配列からなるアンチセンスRNAがハイブリダイズした二本鎖RNAである。ここでの「連続する領域」の長さは通常15〜30塩基長、好ましくは18〜23塩基長、より好ましくは19〜21塩基長である。
末端に数塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAが高いRNAi効果を発揮することが知られている。そこで本発明においても、そのような構造のsiRNAを採用することが好ましい。オーバーハングを形成する塩基の長さは特に限定されないが、好ましくは2塩基長(例えばTT、UU)である。
siRNAの設計は常法で行うことができる。siRNAの設計には通常、標的配列に固有の配列(連続配列)が利用される。尚、適当な標的配列を選択するためのプログラム及びアルゴリズムが開発されている。
「siRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト」とは、それを細胞に導入すると細胞内でのプロセスによって所望のsiRNA(標的遺伝子に対するRNAiを引き起こすsiRNA)が生ずる核酸性分子をいう。典型的には、後のプロセスによってsiRNAに変換されるshRNAを発現するように核酸コンストラクトを構築し、適当なベクターに搭載する。このようにして、ステムループタイプ又はショートヘアピンタイプと呼ばれるsiRNA用ベクター(shRNAをコードする配列がインサートされたベクター)、或いは、タンデムタイプと呼ばれるsiRNA用ベクター(センスRNAとアンチセンスRNAを別々に発現するベクター)が得られる。これらのベクターは当業者であれば常法に従い作製することができる(Brummelkamp TR et al.(2002) Science 296:550-553; Lee NS et al.(2001) Nature Biotechnology 19:500-505; Miyagishi M & Taira K (2002) Nature Biotechnology 19:497-500; Paddison PJ et al.(2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:1443-1448; Paul CP et al.(2002) Nature Biotechnology 19 :505-508; Sui G et al.(2002) Proc Natl Acad Sci USA 99(8):5515-5520; Paddison PJ et al.(2002) Genes Dev. 16:948-958等が参考になる)。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAがループ構造部を介して連結された構造(ヘアピン構造)を有し、細胞内でループ構造部が切断されて二本鎖siRNAとなり、RNAi効果をもたらす。ループ構造部の長さは特に限定されないが、通常は3〜23塩基である。
本発明でその発現が抑制される遺伝子はIL-6遺伝子及び/又はTNF-α遺伝子である。公共のデータベースに登録されているIL-6遺伝子の配列を配列番号1(Accession No. NM_000600, Definition: Homo sapiens interleukin 6 (IL6))に、同TNF-α遺伝子の配列を配列番号2(Accession No. NM_000594, Definition: Homo sapiens tumor necrosis factor (TNF), mRNA)に示す。また、IL-6 siRNAの配列(センス鎖)の一例を配列番号3に、当該IL-6 siRNAに対応するshRNAの配列を配列番号4に示す。同様に、TNF-α siRNAの配列(センス鎖)の例を配列番号5〜7に、これらのTNF-α siRNAに対応するshRNAの配列を配列番号8〜10に示す。
shRNA自体をsiRNA用コンストラクトとして用いることもできる。この場合、CAR遺伝子を搭載したベクターとsiRNA用コンストラクトが標的細胞に導入されることになる。
本発明の好ましい態様では、CAR遺伝子を含む発現カセット(CAR発現カセット)と、第1核酸コンストラクト及び/又は第2核酸コンストラクトを含む発現カセット(siRNA発現カセット)が同一のベクターに搭載される。当該構成を採用すれば、1種類のベクター(「CAR-siRNAベクター」と呼ぶ)を標的細胞に導入すればよいことになり、本発明の調製方法に必要な遺伝子導入操作が簡便なものとなる。
一方、CAR発現カセットを搭載したベクター(CARベクター)と、siRNA発現カセットを搭載したベクター(siRNAベクター)を用意し、これらのベクターを標的細胞に導入することにしてもよい。導入の順序は特に限定されないが、好ましくは、CARベクターの導入を先行させる。この順序を採用した場合、CARベクターが適切に導入された標的細胞を選択、或いは濃縮ないし純化した上で、siRNAベクターを導入するとよい。このようにすれば、所望のCAR遺伝子導入リンパ球(即ち、CARを発現し、且つIL-6 siRNA及び/又はTNF-α siRNAを発現するリンパ球)の作製効率、純度などの向上が図られる。現在、種々のRNAi用ベクターが利用可能である。siRNA発現カセットを搭載したベクターは、このような公知のベクターを利用して構築することができる。例えば、所望のRNA(例えばshRNA)をコードするインサートDNAを用意した後、ベクターのクローニングサイトに挿入し、RNAi発現ベクターとする。標的遺伝子に対するRNAi作用を発揮するsiRNAを細胞内で生じさせるという機能を有する限り、ベクターの由来や構造は限定されるものではない。尚、siRNAベクターとして、IL-6 siRNA発現カセットを搭載したベクター若しくはTNF-α siRNA発現カセットを搭載したベクター、又はこれらの両者、或いは、IL-6 siRNA発現カセットとTNF-α発現カセットを搭載したベクターを用いる。
CAR発現カセットに利用可能なプロモーターの例を示すと、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、SV40ori、レトロウイルスLTP、SRα、EF1α、βアクチンプロモーター等である。プロモーターはCAR遺伝子に作動可能に連結される。ここで、「プロモーターがCAR遺伝子に作動可能に連結している」とは、「プロモーターの制御下にCAR遺伝子が配置されている」ことと同義であり、通常、プロモーターの3'末端側に直接又は他の配列を介してCAR遺伝子が連結されることになる。CAR遺伝子の下流にはポリA付加シグナル配列を配置する。ポリA付加シグナル配列の使用によって転写を終了させる。ポリA付加シグナル配列としてはSV40のポリA付加配列、ウシ由来成長ホルモン遺伝子のポリA付加配列等を用いることができる。
siRNA発現カセットに利用可能なプロモーターの例を示すと、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等である。これらのプロモーターはRNAポリメラーゼIII系のプロモーターであり、高い発現効率を期待できる。
上記の各ベクター(CAR-siRNAベクター、CARベクター、siRNAベクター)に検出用遺伝子(レポーター遺伝子、細胞又は組織特異的な遺伝子、選択マーカー遺伝子など)、エンハンサー配列、WRPE配列等を含めることにしてもよい。検出用遺伝子は、発現カセットの導入の成否や効率の判定、CARの発現の検出又は発現効率の判定、CAR遺伝子が発現した細胞の選択や分取等に利用される。一方、エンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図られる。検出用遺伝子としては、ネオマイシンに対する耐性を付与するneo遺伝子、カナマイシン等に対する耐性を付与するnpt遺伝子(Herrera Estrella、EMBO J. 2(1983)、987-995)やnptII遺伝子(Messing & Vierra.Gene 1 9:259-268(1982))、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するhph遺伝子(Blochinger & Diggl mann,Mol Cell Bio 4:2929-2931)、メタトレキセートに対する耐性を付与するdhfr遺伝子(Bourouis et al.,EMBO J.2(7))等(以上、マーカー遺伝子)、ルシフェラーゼ遺伝子(Giacomin、P1. Sci. 116(1996)、59〜72;Scikantha、J. Bact. 178(1996)、121)、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、GFP(Gerdes、FEBS Lett. 389(1996)、44-47)やその改変体(EGFPやd2EGFPなど)等の蛍光タンパク質の遺伝子(以上、レポーター遺伝子)、細胞内ドメインを欠く上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子等の遺伝子を用いることができる。検出用遺伝子は、例えば、バイシストロニック性制御配列(例えば、リボソーム内部認識配列(IRES))や自己開裂ペプチドをコードする配列を介してCAR遺伝子に連結する。自己開裂ペプチドの例はThosea asigna virus由来の2Aペプチド(T2A)であるが、これに限定されるものではない。自己開裂ペプチドとして蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)等が知られている。
CAR遺伝子、第1核酸コンストラクト及び第2核酸コンストラクトの導入には、各種遺伝子導入法を利用することができる。遺伝子導入法はウイルスベクターを利用した方法と非ウイルスベクターを利用した方法に大別される。前者はウイルスが細胞へと感染する現象を巧みに利用するものであり、高い遺伝子導入効率が得られる。ウイルスベクターとしてレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が開発されている。この中でレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターではベクターに組み込んだ目的遺伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。各ウイルスベクターは既報の方法に従い又は市販される専用のキットを用いて作製することができる。非ウイルスベクターの例としては、プラスミドベクター、リポソームベクター、正電荷型リポソームベクター(Felgner, P.L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、YACベクター、BACベクターを挙げることができる。
好ましくは、トランスポゾン法による遺伝子導入を行う。トランスポゾン法とは、非ウイルス遺伝子導入法の一つである。トランスポゾンは、進化の過程で保存されてきた、遺伝子転位を引き起こす短い遺伝子配列の総称である。遺伝子酵素(トランスポザーゼ)とその特異認識配列のペアで遺伝子転位を引き起こす。トランスポゾン法として、例えば、piggyBacトランスポゾン法を用いることができる。PiggyBacトランスポゾン法は、昆虫から単離されたトランスポゾンを利用するものであり(Fraser MJ et al., Insect Mol Biol. 1996 May;5(2):141-51.; Wilson MH et al., Mol Ther. 2007 Jan;15(1):139-45.)、哺乳類染色体への高効率な組込みを可能にする。PiggyBacトランスポゾン法は実際に遺伝子の導入に利用されている(例えばNakazawa Y, et al., J Immunother 32:826-836, 2009;Nakazawa Y et al., J Immunother 6:3-10, 2013等を参照)。本発明に適用可能なトランスポゾン法はpiggyBacを利用したものに限定されるものではなく、例えば、Sleeping Beauty(Ivics Z, Hackett PB, Plasterk RH, Izsvak Z (1997) Cell 91: 501-510.)、Frog Prince(Miskey C, Izsvak Z, Plasterk RH, Ivics Z (2003) Nucleic Acids Res 31: 6873-6881.)、Tol1(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H. Mol Gen Genet. 1995 Dec 10;249(4):400-5.;Koga A, Shimada A, Kuroki T, Hori H, Kusumi J, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S. J Hum Genet. 2007;52(7):628-35. Epub 2007 Jun 7.)、Tol2(Koga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11.;Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Takeda M, Taira M, Kawakami K, Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445.;Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Korzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.)等のトランスポゾンを利用した方法を採用することにしてもよい。
トランスポゾン法による導入操作は常法で行えばよく、過去の文献(例えばpiggyBacトランスポゾン法についてはNakazawa Y, et al., J Immunother 32:826-836, 2009、Nakazawa Y et al., J Immunother 6:3-10, 2013、Saha S, Nakazawa Y, Huye LE, Doherty JE, Galvan DL, Rooney CM, Wilson MH. J Vis Exp. 2012 Nov 5;(69):e4235、Saito S, Nakazawa Y, Sueki A, et al. Anti-leukemic potency of piggyBac-mediated CD19-specific T cells against refractory Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia. Cytotherapy. 2014;16:1257-69.)が参考になる。
本発明の好ましい一態様では、piggyBacトランスポゾン法が採用される。典型的には、piggyBacトランスポゾン法ではpiggyBacトランスポザーゼをコードする遺伝子を搭載したベクター(トランスポザーゼプラスミド)と、所望の核酸コンストラクト(CAR発現カセット及び/又はsiRNA発現カセット)がpiggyBac逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるベクター(トランスポゾンプラスミド)を用意し、これらのベクターを標的細胞に導入(トランスフェクション)する。トランスフェクションには、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リポフェクション、リン酸カルシウム法など、各種手法を利用できる。
標的細胞(CAR遺伝子と、第1核酸コンストラクト及び/又は第2核酸コンストラクトを導入する細胞)として、CD4陽性CD8陰性T細胞、CD4陰性CD8陽性T細胞、iPS細胞から調製されたT細胞、αβ-T細胞、γδ-T細胞、NK細胞、NKT細胞を挙げることができる。上記の如きリンパ球又は前駆細胞を含むものであれば、様々な細胞集団を用いることができる。末梢血から採取されるPBMC(末梢血単核細胞)は好ましい標的細胞の一つである。即ち、好ましい一態様では、PBMCに対して遺伝子導入操作を行う。PBMCは常法で調製すればよい。尚、PBMCの調製方法については、例えば、Saha S, Nakazawa Y, Huye LE, Doherty JE, Galvan DL, Rooney CM, Wilson MH. J Vis Exp. 2012 Nov 5;(69):e4235を参照することができる。
以上のステップで得られたCAR遺伝子導入リンパ球は、典型的には、活性化処理に供される。例えば、抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激し、CAR遺伝子導入リンパ球を活性化させる。この処理によれば、通常、CAR遺伝子導入リンパ球の生存・増殖も促される。例えば、抗CD3抗体と抗CD28抗体で培養面をコートした培養容器(例えば培養皿)で1日〜20日、好ましくは3日〜14日、更に好ましくは5日〜10日、培養することによって、抗CD3抗体及び抗CD28抗体による刺激を加えることができる。抗CD3抗体(例えばミルテニーバイオテク社が提供する商品名CD3pure抗体を用いることができる)と抗CD28抗体(例えばミルテニーバイオテク社が提供する商品名CD28pure抗体を用いることができる)は市販もされており、容易に入手可能である。抗CD3抗体と抗CD28抗体がコートされた磁気ビーズ(例えば、VERITAS社が提供するDynabeads T-Activator CD3/CD28)を利用して当該刺激を行うことも可能である。尚、抗CD3抗体として「OKT3」クローンを用いることが好ましい。尚、遺伝子導入操作による損傷/障害からの回復を促すために、遺伝子導入操作直後ではなく、遺伝子導入操作から8時間〜48時間(好ましくは16時間〜24時間)程度経過した後に活性化処理を実施するとよい。
細胞の生存率/増殖率を高めるために、活性化処理の際、T細胞増殖因子が添加された培養液を使用するとよい。T細胞増殖因子としてはIL-15が好適である。好ましくは、IL-15に加えIL-7が添加された培養液を用いる。IL-15の添加量は例えば1ng/ml〜20ng/ml、好ましくは5ng/ml〜10ng/mlとする。同様にIL-7の添加量は例えば1ng/ml〜20ng/ml、好ましくは5ng/ml〜10ng/mlとする。IL-15、IL-7等のT細胞増殖因子は常法に従って調製することができる。また、市販品を利用することもできる。ヒト以外の動物種のT細胞増殖因子の使用を排除するものではないが、通常、T細胞増殖因子はヒト由来のもの(組換え体であってもよい)を用いる。ヒトIL-15、ヒトIL-7等の増殖因子は用意に入手することができる(例えばミルテニーバイオテク社、R&Dシステムズ社等が提供する)。
血清(ヒト血清、ウシ胎仔血清など)を添加した培地を用いてもよいが、無血清培地を採用することにより、臨床応用する際の安全性が高く、且つ血清ロット間の差による培養効率の違いが出にくいという利点を有する細胞を調製することが可能になる。リンパ球用の無血清培地の具体例はTexMACSTM(ミルテニーバイオテク社)、AIM V(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)である。血清を用いる場合には、自己血清、即ち、本発明の調製方法で得られるCAR遺伝子導入リンパ球の投与を受ける患者から採取した血清を用いるとよい。基本培地にはリンパ球の培養に適したものを用いればよく、具体例を挙げれば、上掲のTexMACSTM、AIM V(登録症商標)である。その他の培養条件は、リンパ球の生存、増殖に適したものであればよく、一般的なものを採用すればよい。例えば、37℃に設定したCO2インキュベーター(CO2濃度5%)内で培養すればよい。
活性化処理後、細胞を回収する。回収操作は常法で行えばよい。例えば、ピペッティング、遠心処理等によって回収する。好ましい一態様では、回収操作の前に、活性化処理後の細胞をT細胞増殖因子の存在下で培養するステップを行う。このステップによれば、効率的な拡大培養が可能になり、また、細胞の生存率を高める利点もある。ここでのT細胞増殖因子としてはIL-15、IL-7等を用いることができる。活性化処理の場合と同様に、IL-15とIL-7を添加した培地で培養することにしてもよい。培養期間は例えば1日〜21日、好ましくは5日〜18日、更に好ましくは10日〜14日である。培養期間が短すぎると細胞数の十分な増加を望めず、培養期間が長すぎると細胞の活性(生命力)の低下、細胞の疲弊/疲労等のおそれがある。培養の途中で継代してもよい。また、培養中は必要に応じて培地交換をする。例えば3日に1回の頻度で培養液の1/3〜2/3程度を新しい培地に交換する。
2.CAR遺伝子導入リンパ球及びその用途
本発明の第2の局面は、本発明の調製方法で得られた、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球(以下、「本発明のCAR遺伝子導入リンパ球」と呼ぶ)及びその用途に関する。本発明のCAR遺伝子導入リンパ球はCAR療法が有効と考えられる各種疾患(以下、「標的疾患」と呼ぶ)の治療、予防又は改善に利用され得る。標的疾患の代表はがんであるが、これに限定されるものではない。標的疾患の例を挙げると、各種B細胞リンパ腫(濾胞性悪性リンパ腫、びまん性悪性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、MALTリンパ腫、血管内B細胞性リンパ腫、CD20陽性ホジキンリンパ腫など)、骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(CMML,JMML,CML,MDS/MPN-UC)、骨髄異形成症候群、急性骨髄生白血病、神経芽腫、脳腫瘍、ユーイング肉腫、骨肉腫、網膜芽細胞腫、肺小細胞腫、メラノーマ、卵巣がん、横紋筋肉腫、腎臓がん、膵臓がん、悪性中皮腫、前立腺がん等である。「治療」とは、標的疾患に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。「予防」とは、疾病(障害)又はその症状の発症/発現を防止又は遅延すること、或いは発症/発現の危険性を低下させることをいう。一方、「改善」とは、疾病(障害)又はその症状が緩和(軽症化)、好転、寛解、又は治癒(部分的な治癒を含む)することをいう。
本発明のCAR遺伝子導入リンパ球を細胞製剤の形態で提供することもできる。本発明の細胞製剤には、本発明のCAR遺伝子導入リンパ球が治療上有効量含有される。例えば1回の投与用として、1×104個〜1×1010個の細胞を含有させる。細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等、細菌の混入を阻止する目的で抗生物質等、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的とした各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)等の成分を細胞製剤に含有させてもよい。
本発明のCAR遺伝子導入リンパ球又は細胞製剤の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって投与する。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、目的の組織・臓器・器官への直接注入を例示することができる。投与スケジュールは、対象(患者)の性別、年齢、体重、病態などを考慮して作成すればよい。単回投与の他、連続的又は定期的に複数回投与することにしてもよい。
これまでに報告によれば、サイトカイン放出症候群は治療の初期に特に問題となる(例えば非特許文献3を参照)。そこで、治療初期のサイトカイン放出症候群に対処しつつ、CAR遺伝子導入リンパ球による本来の治療効果を高めるために、治療の初期(例えば初回投与)に本発明のCAR遺伝子導入リンパ球を用い、その後の治療にはIL-6 siRNAもTNF-α siRNAも発現しない通常のCAR遺伝子導入リンパ球を用いることにしてもよい。
3.CAR遺伝子導入リンパ球調製用のベクター及びキット
本発明の更なる局面は本発明の調製方法に利用可能なベクター(CAR遺伝子導入リンパ球調製ベクター)及びキット(CAR遺伝子導入リンパ球調製キット)に関する。本発明のCAR遺伝子導入リンパ球調製ベクターは、CAR発現カセットとsiRNA発現カセットを搭載したもの(即ち、CAR-siRNAベクター)であり、一つのベクターで当該二つの発現カセットの標的細胞への導入を可能にする。CAR発現カセットにはCAR遺伝子の他、CAR遺伝子の発現に必要なプロモーター(CMV-IE、SV40ori、レトロウイルスLTP、SRα、EF1α、βアクチンプロモーター等)が含まれる。siRNA発現カセットには、siRNA用コンストラクト、即ち、IL-6 siRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト(第1核酸コンストラクト)又はTNF-α siRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト(第2核酸コンストラクト)、或いはこれらの両者と、siRNA用コンストラクトの発現に必要なプロモーター(U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等)が含まれる。本発明のベクターに、検出用遺伝子(レポーター遺伝子、細胞又は組織特異的な遺伝子、選択マーカー遺伝子など)、エンハンサー配列、WRPE配列等を含めることができる。
好ましくは、トランスポゾン法に利用されるベクターとして本発明のベクターを構築する。この場合、典型的には、CAR発現カセットとsiRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造(例えば5'側トランスポゾン逆向き反復配列、CAR発現カセット、siRNA発現カセット、3'側トランスポゾン逆向き反復配列の順に配置される)をベクターが備えることになる。
本発明のキットの一態様は、トランスポゾン法を利用したCAR遺伝子導入リンパ球の調製方法に適したキットである。当該キットは、一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた「CAR発現カセットとsiRNA発現カセット」を搭載した上記CAR-siRNAベクターとトランスポザーゼ発現ベクターを含む。CAR-siRNAベクターに組み込まれた一対のトランスポゾン逆向き反復配列と対応するようにトランスポザーゼを選択する。例えば、piggyBac逆向き反復配列とpiggyBacトランスポザーゼの組合せを採用する。
本発明のキットの別の態様は、大別して2種類のベクター、即ち、CARベクターと、siRNAベクターを含む。換言すると、このキットではCAR発現カセットとsiRNA発現カセットが別々のベクターに搭載される。このキットを使用する際には、例えば、CARベクターと、siRNAベクターで標的細胞を共形質転換(コトランスフェクション)する、或いは、片方のベクターで標的細胞を形質転換した後、形質転換体(ベクター導入標的細胞)を他方のベクターで形質転換する。siRNAベクターとしては、IL-6 siRNA発現カセットを搭載したベクター若しくはTNF-α siRNA発現カセットを搭載したベクター、又はこれらの両者、或いは、IL-6 siRNA発現カセットとTNF-α発現カセットを搭載したベクターを用いる。これらのベクターが備えるべき構造は上記の通りである(1.の欄を参照)。各ベクターは、ウイルス遺伝子導入法、又は非ウイルス導入法に使用できるように構築される。好ましくは、非ウイルス導入法の一つであるトランスポゾン法での遺伝子導入に適するように各ベクターを構築する。即ち、CAR発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるようにCARベクターを構築し、同様にsiRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるようにsiRNAベクターを構築する。当該キットには、トランスポザーゼを供給するためのトランスポザーゼ発現ベクターも含まれる。CARベクターに組み込まれる一対のトランスポゾン逆向き反復配列と、siRNAベクターに組み込まれる一対のトランスポゾン逆向き反復配列は、組み合わせるトランスポザーゼ発現ベクターが発現するトランスポザーゼの作用を受けるものとする。即ち、トランスポゾンとトランスポゾン逆向き反復配列が対応するように構成する。
遺伝子導入操作に使用する試薬、器具、装置等、形質転換体の検出や選択などに使用する試薬、器具、装置等を本発明のキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
CAR療法で問題となっているサイトカイン放出症候群への有効な対策を確立するため、以下の検討を行った。
1.材料および方法
<pIRII-CAR.CD19-IL6KDベクター(図1)の作製>
(1)既報のCD19 CAR発現piggyBacトランスポゾンベクター(pIRII-CAR.CD19、Huye LE, Nakazawa Y, Patel MP, et al. Combining mTor inhibitors with rapamycin-resistant T cells: a two-pronged approach to tumor elimination. Mol Ther. 2011;19: 2239-48.;Saito S, Nakazawa Y, Sueki A, et al. Anti-leukemic potency of piggyBac-mediated CD19-specific T cells against refractory Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia. Cytotherapy. 2014;16:1257-69.)を制限酵素MunIとClaIの両者で切断した。
(2)U6プロモーター下でIL-6遺伝子の発現を抑制するshRNA(IL6KD)配列及びその両側に制限酵素認識配列(5’側にMunI認識配列、3’側にClaI認識配列)を有するDNA断片(図2、配列番号15。U6プロモーター(配列番号16)、shRNAをコードする配列(配列番号17)を含む)をMunIとClaIの両者で切断した。
(3)(1)で得られた6341bpのDNA断片と、(2)で得られた339bpのDNA断片をT4 DNA ligaseを用いてライゲーションした。
(4)コンピテントセルを用いて、(3)で得られた6680bpの環状DNAプラスミドを大量増幅した。
(5)シーケンサーを用いて全塩基配列(配列番号11)を確認した。
<pIRII-CAR.CD19-TNFaKDベクター(図3)の作製>
(1)既報のCD19 CAR発現piggyBacトランスポゾンベクターを制限酵素MunIとClaIの両者で切断した。
(2)U6プロモーター下でTNF-α遺伝子の発現を抑制するshRNA(TNFaKD)配列及びその両側に制限酵素認識配列(5’側にMunI認識配列、3’側にClaI認識配列)を有する3種類のDNA断片(図4、配列番号18、配列番号19、配列番号20。各々、U6プロモーター(配列番号16)、shRNAをコードする配列(配列番号21、配列番号22、配列番号23)を含む)をMunIとClaIの両者で切断した。
(3)(1)で得られた6341bpのDNA断片と、(2)で得られた3種類の342bpのDNA断片を各々T4 DNA ligaseを用いてライゲーションした。
(4)コンピテントセルを用いて、(3)で得られた6683bpの環状DNAプラスミドを大量増幅した。
(5)シーケンサーを用いて全塩基配列(配列番号12〜14)を確認した。
<CAR CD19/IL6KD-T細胞の調製>
(1)末梢血約10 mlより比重遠心分離法を用いて単核球(PBMC)を分離した。
(2)4D-NucleofectorTM装置とP3 Primary Cell 4D-NucleofectorTM Xキット(ロンザ社)の組み合わせによるエレクトロポレーション法(Program EO-115)を用いて、pIRII-CAR.CD19-IL6KDベクター(5μg)とpCMV-piggyBacベクター(5μg)を1×107個のPBMCに遺伝子導入した。
(3)(2)で得られた遺伝子導入細胞を、インターロイキン(IL)-15 (5 ng/ml、ミルテニーバイオテク社)添加TexMACSTM培地(ミルテニーバイオテク社)2 mlで満たされた24ウェル培養プレートの1ウェルに静置した。16〜24時間後、抗CD3抗体(ミルテニーバイオテク社)と抗CD28抗体(ミルテニーバイオテク社)で固相化した24ウェル培養プレートの1ウェルに、2 mlの培地と共に遺伝子導入細胞を移入した。遺伝子導入4日後、非固相化24ウェル培養プレートの1ウェルに遺伝子導入細胞を移入した。その際、IL-15添加TexMACSTM培地を1 ml交換した。遺伝子導入7日後、遺伝子導入細胞をIL-15 (5 ng/ml)添加TexMACSTM培地30 mlで満たされたG-Rex10培養器(Wilson Wolf Manufacturing Inc, New Brighton, MN)に移入した。遺伝子導入14日目に細胞を回収した(CD19 CAR/IL6KD-T細胞)。一部の細胞を用いてCD19 CAR蛋白の発現をフローサイトメトリー法で確認した。尚、対照群として、既報のpIRII-CAR.CD19ベクターを遺伝子導入した従来のCD19 CAR-T細胞及び遺伝子未導入T細胞(mock T細胞)も同様の方法で増幅培養した。
<共培養実験>
48ウェル培養プレートの1ウェルにmock T細胞、CD19 CAR-T細胞、CD19 CAR/IL6KD-T細胞の各々1×105個を、5×105個の急性リンパ性白血病(ALL)細胞株SU/SRと、T細胞:白血病細胞比1:5で、1 mlの10%ウシ胎仔血清含RPMI1640培地下で5日間共培養した。共培養3日目の培養上清0.5 mlを回収し、新たに0.5 mlの10%ウシ胎仔血清含RPMI培地を加えた。共培養開始5日目、ウェル毎に細胞を回収し、トリパンブルー染色で生細胞数をカウントし、抗CD3-APC抗体と抗CD19-PE抗体で染色した後フローサイトメトリー法でCD3陽性細胞(T細胞)とCD19陽性細胞(ALL細胞)の比率を測定した。また、共培養開始3日目に回収した培養上清のIL-6濃度をELISA法で測定した。
2.結果
IL-6遺伝子又はTNF-α遺伝子の発現を抑制できるCD19 CAR発現ベクター(pIRII-CAR.CD19-IL6KD及びpIRII-CAR.CD19-TNFaKD)を構築した(図1、図3)。pIRII-CAR.CD19-IL6KDを発現させたT細胞(CD19 CAR/IL6KD-T細胞)を用いて、CAR-T細胞の炎症性サイトカイン産生抑制及び殺細胞効果を検討した。結果を図5に示す。CD19 CAR-T細胞はCD19陽性ALL細胞との共培養によってIL-6を産生する。しかし、CD19 CARベクターにIL-6遺伝子の発現を抑制するshRNA配列を組み込むことにより、CD19 CAR-T細胞からのIL-6産生はほぼ完全に抑制された。尚、IL-6 shRNA配列の組み込みによって、CD19 CAR-T細胞の殺細胞効果は減弱しなかった。
3.考察
炎症性サイトカインの遺伝子発現をノックダウンされたCAR-T細胞は、従来のCAR-T細胞と同等の抗白血病効果を発揮しながらも、対応する炎症性サイトカインを放出しない。2つ以上の遺伝子を同時にノックダウンする、あるいは炎症性サイトカインの放出を促進する上流遺伝子をノックダウンすることによって、効果の増強も期待できる。
サイトカイン放出症候群ではTNF-α及びIL-6の他、IFN-γの過剰産生も問題となっている。このことから、IFN-γ遺伝子を標的とした発現抑制も有効な戦略と考えられる。
本発明は、CAR療法で問題となっているサイトカイン放出症候群に関して有効な対策を提供する。本発明によればCAR遺伝子導入リンパ球からの炎症性サイトカインの放出を抑制できる。従って、サイトカイン放出症候群が出現してからの治療介入となる従来の対策とは異なり、重篤な合併症の発症予防に有効である。即ち、本発明を利用すれば、CAR療法の最大の欠点であるサイトカイン放出症候群の発症を、抗IL-6受容体抗体や抗TNF-α抗体等の投与よりも、効率良く、安全且つ安価に予防し、治療成績が向上することを期待できる。特に、中枢神経系に腫瘍病変を有する患者にCAR療法を施行する場合に治療関連中枢神経合併症を軽減できる可能性がある。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (15)

  1. 標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子とともに、インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクトを標的細胞に導入するステップ、を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製方法。
  2. 標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子、及び第1核酸コンストラクトの導入が、トランスポゾン法によって行われる、請求項1に記載の調製方法。
  3. トランスポゾン法がpiggyBacトランスポゾン法である、請求項2に記載の調製方法。
  4. 標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子と、第1核酸コンストラクトが同一のベクターに搭載され、該ベクターが標的細胞に導入される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の調製方法。
  5. 標的細胞がT細胞である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の調製方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の調製方法で得られた、キメラ抗原受容体を発現するとともに、インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAが細胞内で生成される、遺伝子改変リンパ球。
  7. 請求項6に記載の遺伝子改変リンパ球を治療上有効量含む、細胞製剤。
  8. 標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体発現カセットとともに、インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクトを含むsiRNA発現カセットを搭載したベクター。
  9. キメラ抗原受容体発現カセットとsiRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備える、請求項8に記載のベクター。
  10. 請求項9に記載のベクターと、トランスポザーゼ発現ベクターを含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
  11. 標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体発現カセットを搭載したベクターと、
    インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクトを含むsiRNA発現カセットを搭載したベクターと、
    を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
  12. キメラ抗原受容体発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
    siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
    トランスポザーゼ発現ベクターを更に含む、請求項11に記載の調製キット。
  13. 標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体第1発現カセットを搭載したベクターと、
    インターロイキン6遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクトを含む第1siRNA発現カセットを搭載したベクターと
    含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
  14. キメラ抗原受容体第1発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
    第1siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え
    ランスポザーゼ発現ベクターを更に含む、請求項13に記載の調製キット。
  15. トランスポザーゼがpiggyBacトランスポザーゼである、請求項10、12、14のいずれか一項に記載の調製キット。
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