以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。また、描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム露光装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102(マルチ電子ビームカラム)と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、偏向器208、及び偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるレジストが塗布されたマスクブランクス等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ロジック回路131、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、ステージ位置検出器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ステージ位置検出器139及び記憶装置140は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が接続されている。DACアンプユニット132の出力は、偏向器209に接続される。DACアンプユニット134の出力は、偏向器208に接続される。ステージ位置測定器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を利用してXYステージ105の位置を測定する。
制御計算機110内には、パターン密度ρ演算部54、補正照射係数Dp(x)演算部56、入射照射量D(x)演算部58、照射時間t演算部62、分散処理部64、及び描画制御部66が配置される。パターン密度ρ演算部54、補正照射係数Dp(x)演算部56、入射照射量D(x)演算部58、照射時間t演算部62、分散処理部64、及び描画制御部66といった各「〜部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。パターン密度ρ演算部54、補正照射係数Dp(x)演算部56、入射照射量D(x)演算部58、照射時間t演算部62、分散処理部64、及び描画制御部66内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ112に記憶される。
また、描画装置100の外部から描画データとして、描画するための複数の図形パターンが定義されるチップAのチップAデータと、複数の図形パターンが定義されるチップBのチップBデータとが入力され、記憶装置140に格納される。チップAデータとチップBデータとには、図形パターン毎に、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。チップAとチップBとは、例えば、基準となる照射量等の描画条件が異なり、チップマージされて一緒の描画処理される場合とは異なり、別々の描画処理により描画される。
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。図2では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ直径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、図2のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
図4は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構のメンブレン領域内の構成の一部を示す上面概念図である。なお、図3と図4において、制御電極24と対向電極26と制御回路41とパッド43の位置関係は一致させて記載していない。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、図3に示すように、支持台333上にシリコン等からなる半導体基板31が配置される。基板31の中央部は、例えば裏面側から薄く削られ、薄い膜厚hのメンブレン領域330(第1の領域)に加工されている。メンブレン領域330を取り囲む周囲は、厚い膜厚Hの外周領域332(第2の領域)となる。メンブレン領域330の上面と外周領域332の上面とは、同じ高さ位置、或いは、実質的に高さ位置になるように形成される。基板31は、外周領域332の裏面で支持台333上に保持される。支持台333の中央部は開口しており、メンブレン領域330の位置は、支持台333の開口した領域に位置している。
メンブレン領域330には、図2に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。言い換えれば、基板31のメンブレン領域330には、電子線を用いたマルチビームのそれぞれ対応するビームが通過する複数の通過孔25がアレイ状に形成される。そして、基板31のメンブレン領域330上であって、複数の通過孔25のうち対応する通過孔25を挟んで対向する位置に2つの電極を有する複数の電極対がそれぞれ配置される。具体的には、メンブレン領域330上に、図3及び図4に示すように、各通過孔25の近傍位置に該当する通過孔25を挟んでブランキング偏向用の制御電極24と対向電極26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、基板31内部であってメンブレン領域330上の各通過孔25の近傍には、各通過孔25用の制御電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の対向電極26は、グランド接続される。
また、図4に示すように、各制御回路41は、制御信号用のnビット(例えば10ビット)のパラレル配線が接続される。各制御回路41は、制御信号用のnビットのパラレル配線の他、クロック信号線、読み込み(read)信号、ショット(shot)信号および電源用の配線等が接続される。クロック信号線、読み込み(read)信号、ショット(shot)信号および電源用の配線等はパラレル配線の一部の配線を流用しても構わない。マルチビームを構成するそれぞれのビーム毎に、制御電極24と対向電極26と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。また、図3の例では、制御電極24と対向電極26と制御回路41とが基板31の膜厚が薄いメンブレン領域330に配置される。但し、これに限るものではない。また、メンブレン領域330にアレイ状に形成された複数の制御回路41は、例えば、同じ行或いは同じ列によってグループ化され、グループ内の制御回路41群は、図4に示すように、直列に接続される。そして、グループ毎に配置されたパッド43からの信号がグループ内の制御回路41に伝達される。具体的には、各制御回路41内に、図示しないシフトレジスタが配置され、例えば、p×q本のマルチビームのうち例えば同じ行のビームの制御回路41内のシフトレジスタが直列に接続される。そして、例えば、p×q本のマルチビームの同じ行のビームの制御信号がシリーズで送信され、例えば、p回のクロック信号によって各ビームの制御信号が対応する制御回路41に格納される。
図5は、実施の形態1の個別ブランキング機構の一例を示す図である。図5において、制御回路41内には、アンプ46(スイッチング回路の一例)が配置される。図5の例では、アンプ46の一例として、CMOS(Complementary MOS)インバータ回路が配置される。そして、CMOSインバータ回路は正の電位(Vdd:ブランキング電位:第1の電位)(例えば、5V)(第1の電位)とグランド電位(GND:第2の電位)に接続される。CMOSインバータ回路の出力線(OUT)は制御電極24に接続される。一方、対向電極26は、グランド電位が印加される。そして、ブランキング電位とグランド電位とが切り替え可能に印加される複数の制御電極24が、基板31上であって、複数の通過孔25のそれぞれ対応する通過孔25を挟んで複数の対向電極26のそれぞれ対応する対向電極26と対向する位置に配置される。
CMOSインバータ回路の入力(IN)には、閾値電圧よりも低くなるL(low)電位(例えばグランド電位)と、閾値電圧以上となるH(high)電位(例えば、1.5V)とのいずれかが制御信号として印加される。実施の形態1では、CMOSインバータ回路の入力(IN)にL電位が印加される状態では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)は正電位(Vdd)となり、対向電極26のグランド電位との電位差による電界により対応ビーム20を偏向し、制限アパーチャ基板206で遮蔽することでビームOFFになるように制御する。一方、CMOSインバータ回路の入力(IN)にH電位が印加される状態(アクティブ状態)では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)はグランド電位となり、対向電極26のグランド電位との電位差が無くなり対応ビーム20を偏向しないので制限アパーチャ基板206を通過することでビームONになるように制御する。
各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立に対となる2つの制御電極24と対向電極26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。具体的には、制御電極24と対向電極26の組は、それぞれ対応するスイッチング回路となるCMOSインバータ回路によって切り替えられる電位によってマルチビームの対応ビームをそれぞれ個別にブランキング偏向する。このように、複数のブランカーが、成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
図6は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。図6に示すように、試料101の描画領域30には、チップ10に定義される複数の図形パターンが描画される。そのため、まず、チップ10のチップ領域は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向に向かって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で各穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
図7は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。図7において、ストライプ領域32は、例えば、マルチビームのビームサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割される。例えば、10nm程度のサイズにすると好適である。かかる各メッシュ領域が、描画対象画素36(単位照射領域、照射位置、或いは描画位置)となる。描画対象画素36のサイズは、ビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズの1/n(nは1以上の整数)のサイズで構成されても構わない。メッシュ領域(画素)は、マルチビームの1つのビームあたりの照射単位領域となる。図7の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。図7の例では、例えば512×512列のマルチビームの図示を8×8列のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチがマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。図7の例では、隣り合う4つの画素28で囲まれると共に、4つの画素28のうちの1つの画素28を含む正方形の領域で1つのサブ照射領域29を構成する。図7の例では、各サブ照射領域29は、4×4画素で構成される場合を示している。
そして、図6に示したように、照射領域34を画素36単位でずらしながらビームショットを繰り返すことで、マルチビーム20により描画処理を進めていく。描画装置100における描画機構150の動作について具体的に説明する。
電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴が含まれる領域を照明する。複数の穴の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器:個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を偏向する(ブランキング偏向を行う)。
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ基板206に形成された中心の穴に向かって進む。そして、制限アパーチャ基板206上でマルチビーム20はクロスオーバーを形成する。ここで、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによってビームOFFになるように偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ基板206の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ基板206は、個別ブランキング機構47によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビーム毎に、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。
しかしながら、上述したように、マルチビーム描画では、すべてのビームをビームOFFになるようにブランキング制御しても、散乱等に起因する漏れビームが試料面上に到達してしまう場合がある。
図8は、実施の形態1における漏れビームが発生している描画装置の構成の一例を示す図である。例えば、電子ビーム200が成形アパーチャアレイ基板203に照射された際に、マルチビーム20が形成されると共に、各穴22からは散乱等に起因する散乱電子が発生する。そのため、マルチビーム20の各ビームのドーズ分布は裾広がりの分布を示す。例えば、図8に示すように、各ビームのビーム径dの他に、散乱電子等による裾広がりのビームボケ部分のサイズΔdが加わる。すべてのビームをビームOFFに制御している期間中、各ビームからは、かかる裾広がり部分の電子群が漏れビームとなって、制限アパーチャ基板206の開口部を通過してしまう。そのため、かかるマルチ漏れビーム300が試料101面上へと到達してしまう場合がある。
図9は、実施の形態1と比較例とにおける試料面上における漏れビームの発生個所とドーズ量との一例を示す図である。散乱電子等の漏れビームが存在しない場合、図9(a)に示すように、試料101上には漏れビームによる照射は発生しない。これに対して、漏れビームが発生する場合、図9(b)に示すように、マルチビーム20のビーム数に対応するマルチ漏れビーム300が試料101面上の漏れビーム照射領域33内に偏在する。図9(b)の例では、例えば512×512列のマルチビームに対応する512×512列のマルチ漏れビーム300の図示を8×8列のマルチビームに対応する8×8列のマルチ漏れビーム300に省略して示している。漏れビーム照射領域33が試料面上の固定された位置に留まった場合でも、漏れビームが存在しなければ、図9(c)に示すように、漏れビームによるドーズの蓄積は生じない。これに対して、漏れビーム照射領域33が試料面上の固定された位置に留まり、かかる位置でマルチ漏れビーム300が照射され続けた場合、図9(d)に示すように、マルチ漏れビーム300の各漏れビームが照射される位置にそれぞれドーズが蓄積してしまう。かかるマルチ漏れビーム300によるドーズ量は、例えば、図形パターンを実際に描画中であれば、漏れビーム照射領域33も刻々と変化するので固定された位置にマルチ漏れビーム300のドーズが蓄積しない。そのためかかる場合には描画されるパターンのパターン精度に影響を与えるほどではない。しかし、同じ位置にマルチ漏れビーム300が照射され続けた場合、マルチビームの配列に対応するマルチ漏れビーム300の配列に偏在するドーズの蓄積が発生してしまう。かかる偏在して蓄積された部分やその周囲を描画する際に、蓄積されたドーズがパターンの寸法精度に悪影響を及ぼす要因になり得るといった問題がある。
図10は、実施の形態1における複数のチップを描画する場合のチップレイアウトの一例を示す図である。図10の例では、試料101の描画領域30中にチップ10a(チップA)とチップ10b(チップB)との複数のチップを描画する場合を示している。例えば、まず、チップ10a(チップA)を描画する場合、上述したように、チップ10a(チップA)のチップ領域は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32(図示せず)に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、最下段の第1番目のストライプ領域32の左端のさらに左側の位置に一回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34a1が位置するように調整し、一旦待機された後、第1番目のストライプ領域32の左端から描画が開始される。よって、第1番目のストライプ領域32の左端のさらに左側の照射領域34a1の位置がチップAの描画を開始するための待機位置となる。かかる待機位置では、当然のことながら、マルチビーム20はすべてビームOFFになるようにブランキング制御された状態で待機することになる。しかしながら、上述したように漏れビームが生じるので、かかる照射領域34a1と同じ位置或いはその付近が漏れビーム照射領域33a1となる。そのため、漏れビーム照射領域33a1には待機時間に応じたマルチ漏れビーム300のドーズが蓄積されることになる。次に、チップ10a(チップA)の描画が進み、最終番目のストライプ領域32の描画が終了すると、最終番目のストライプ領域32の例えば右端のさらに右側の照射領域34a2の位置で待機する場合があり得る。かかる場合には照射領域34a2の位置がチップAの描画が終了した後の待機位置となる。かかる待機位置では、当然のことながら、マルチビーム20はすべてビームOFFになるようにブランキング制御された状態で待機することになる。しかしながら、上述したように漏れビームが生じるので、かかる照射領域34a2と同じ位置或いはその付近が漏れビーム照射領域33a2となる。そのため、漏れビーム照射領域33a2には待機時間に応じたマルチ漏れビーム300のドーズが蓄積されることになる。特に、多重描画を行う場合には、多重度(パス数)の回数分、各待機位置へドーズがさらに蓄積されることになる。試料101の描画領域30中にチップ10a(チップA)だけを描画する場合、漏れビーム照射領域33a1,33a2はチップ10a(チップA)のチップ領域内ではないので、チップ10a(チップA)内のパターンの寸法に影響を与える可能性は低い。但し、多重描画等により蓄積量が周囲に影響するほどに大きくなった場合、近接効果等に起因する寸法変動をチップ10a(チップA)内のパターンに与える場合もあり得る。これに対して、複数のチップを描画する場合、複数のチップの全部或いは一部が以下のような影響を受けることになる。
図10に示すように、チップ10b(チップB)のチップ領域が漏れビーム照射領域33a1と一部或いは全部が重なる位置関係にある場合、チップ10b(チップB)内に描画されるパターンのために照射されたドーズ量が既に蓄積されているドーズ量によって増加してしまうのでパターン寸法に影響を与えることになる。また、チップ10b(チップB)を描画する場合、上述したように、チップ10b(チップB)のチップ領域は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32(図示せず)に仮想分割される。よって、チップBの描画を開始するための待機位置となる照射領域34b1と同じ位置或いはその付近が漏れビーム照射領域33b1となる。同様に、チップBの描画が終了した後、照射領域34b2で待機する場合には、照射領域34b2が待機位置となる。かかる待機位置となる照射領域34b2と同じ位置或いはその付近が漏れビーム照射領域33b2となる。そのため、チップ10a(チップA)のチップ領域が漏れビーム照射領域33b2と一部或いは全部が重なる位置関係にある場合、既に描画されたチップ10a(チップA)内のパターンのために照射されたドーズ量にマルチ漏れビーム300のドーズが加算されてしまうのでパターンの寸法に影響を与えることになる。そこで、実施の形態1では、漏れビーム照射領域33に偏在して蓄積されるマルチ漏れビーム300のドーズ量を分散させて単位面積あたりの蓄積量を少なくする。
図11は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図11において、実施の形態1における描画方法は、チップA照射量演算工程(S106)と、チップA照射時間データ生成工程(S110)と、チップA待機位置移動工程(S112)と、漏れビーム分散処理工程(S114)と、チップA描画工程(S116)と、チップB照射量演算工程(S126)と、チップB照射時間データ生成工程(S130)と、チップB待機位置移動工程(S132)と、漏れビーム分散処理工程(S134)と、チップB描画工程(S136)と、いう一連の工程を実施する。
チップA照射量演算工程(S106)として、チップAのチップ領域内の照射量を演算する。そのために、まず、パターン密度ρ演算部54は、記憶装置140からチップAのチップデータを読み出し、チップAのチップ領域を分割した画素36毎に、当該画素36内のパターン面積密度ρを演算する。そして、画素36をマップの要素として、マップ値にパターン面積密度ρを定義したパターン密度マップを作成する。
そして、補正照射係数Dp(x)演算部56は、近接効果等の影響を補正するための補正照射係数Dpを演算する。補正照射係数Dpについては、チップAのチップ領域を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。そして、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度ρ’を演算する。
次に、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dpを演算する。ここで、近接効果補正照射係数Dpを演算するメッシュ領域のサイズは、パターン面積密度ρを演算するメッシュ領域のサイズと同じである必要は無い。また、近接効果補正照射係数Dpの補正モデル及びその計算手法は従来のシングルビーム描画方式で使用されている手法と同様で構わない。
そして、入射照射量D(x)演算部58は、画素36毎に、当該画素36に照射するための入射照射量D(x)を演算する。入射照射量D(x)は、例えば、予め設定された基準照射量Dbaseに近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρとを乗じた値として演算すればよい。このように、照射量Dは、画素36毎に算出されたパターンの面積密度に比例して求めると好適である。
チップA照射時間データ生成工程(S110)として、照射時間t演算部58は、画素36毎に、当該画素36に演算された入射照射量D(x)を入射させるための電子ビームの照射時間tを演算する。照射時間tは、入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで演算できる。そして、画素36毎に得られた照射時間tを定義する照射時間tマップを作成する。
チップA待機位置移動工程(S112)として、描画制御部66の制御の基、偏向制御回路130は、マルチビーム20のすべてのビームがビームOFFの状態になるようにブランキング偏向するための制御信号をブランキングアパーチャアレイ機構204の各制御回路41を制御する。そして、描画制御部66は、図示しないステージ駆動機構を制御してXYステージ105を移動させて、チップAのチップ領域を分割した最下段の第1番目のストライプ領域32の左端のさらに左側の位置に1回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34a1が位置するように調整する。
漏れビーム分散処理工程(S114)として、まず、分散処理部64は、マルチ漏れビーム300のドーズ量を分散処理するための偏向位置の個数Nと、各偏向位置に留まる偏向時間を演算する。
図12は、実施の形態1における漏れビーム分散処理を説明するための図である。マルチビームのすべてのビームがビームOFFの状態になるようにブランキング偏向された状態で、照射領域34と同じ位置或いはその付近の漏れビーム照射領域33には、図12(a)に示すように、マルチビーム20の配列に対応したマルチ漏れビーム300が所定のピッチでx,y方向に偏在する。このままでは、図12(d)に示すように、マルチ漏れビーム300のそれぞれの漏れビームが照射される同じ位置に、待機時間中、ずっと漏れビームによるドーズが蓄積されてしまう。そこで、実施の形態1では、マルチ漏れビーム300を一括して偏向して、各漏れビームが同じ位置を照射し続けないように、位置をずらす。具体的には、次のようにずらしていく。まず、マルチ漏れビーム300は、マルチビーム20の配列ピッチPと同様のピッチで漏れビーム照射領域33内に配列される。
そこで、分散処理部64は、マルチビーム20の配列ピッチPをビーム径dにビームボケ部分のサイズΔdを加算したサイズ(d+Δd)で割った整数Nを演算する。小数点以下は切り捨てればよい。かかる整数Nがマルチ漏れビーム300の各ビームの偏向位置のx方向(或いはy方向)の個数となる。よって、x,y方向にN×N列の偏向位置が求まる。図12(a)の例では、各漏れビーム用にサイズ(d+Δd)のピッチで2×2個の偏向位置(1番目から4番目の照射位置)が求まる。
次に、分散処理部64は、照射領域34a1がチップAの描画を開始する待機位置に待機する待機時間を用いて、マルチ漏れビーム300を一括して偏向する各偏向位置に留まる偏向時間を演算する。かかる偏向時間は、待機時間Tをマルチ漏れビーム300の各ビームの偏向位置のN×N列の偏向位置の個数(N×N)で割った時間(T/(N×N))とすればよい。
そして、分散処理部64の制御の基、偏向制御回路130は、待機時間の期間中、マルチビーム20のすべてのビームがビームOFFの状態になるようにブランキング偏向された状態で、マルチ漏れビーム300の各漏れビームの照射位置を複数の位置に順に一括偏向するように偏向器208を制御する。言い換えれば、偏向制御回路130は、マルチビーム20が照射可能な照射領域34がチップAのチップ領域外であって試料101上のチップ領域内を描画するための待機位置(照射領域34a1)に配置されている状態において、マルチ漏れビーム300の各漏れビームの照射位置を複数の位置(1番目から4番目の照射位置)に順にずらすように偏向器208を制御する。具体的には、図12(b)に示すように、マルチ漏れビーム300をピッチ(d+Δd)で偏向時間(T/(N×N))ずつ一括偏向により順に移動させる。図12(b)の例では、待機時間の開始時刻から偏向時間(T/(N×N))経過した時点で、当初の照射位置(1番目の位置)からx方向にピッチ(d+Δd)だけマルチ漏れビーム300を一括偏向して照射位置を次の照射位置(2番目の位置)にずらす。次に、マルチ漏れビーム300の各漏れビームが照射位置(2番目の位置)で偏向時間(T/(N×N))経過した時点で、照射位置(2番目の位置)からy方向にピッチ(d+Δd)だけマルチ漏れビーム300を一括偏向して照射位置を次の照射位置(3番目の位置)にずらす。次に、マルチ漏れビーム300の各漏れビームが照射位置(3番目の位置)で偏向時間(T/(N×N))経過した時点で、照射位置(3番目の位置)からy方向にピッチ(d+Δd)だけマルチ漏れビーム300を一括偏向して照射位置を次の照射位置(4番目の位置)にずらす。
以上により、図12(a)に示すように、描画開始前の待機期間中、マルチ漏れビーム300が漏れビーム照射領域33内の当初のビーム配列に沿った偏在する複数の同じ照射位置に照射され続けるのではなく、図12(c)に示すように、漏れビーム照射領域33内の実質的に全領域にマルチ漏れビーム300の照射位置を分散させることができる。その結果、図12(d)に示したように、ドーズ量が偏在した同じ個所に蓄積され続けるのではなく、図12(e)に示すように、蓄積されるドーズ量を漏れビーム照射領域33内の実質的に全領域に分散させることができる。その結果、単位面積あたりの漏れビームによる蓄積ドーズ量を大幅に低減できる。また、分散処理により、蓄積ドーズ量を略均一化できる。
チップA描画工程(S116)として、描画制御部60の制御のもと、偏向制御回路130は、偏向制御回路130は、予め設定された描画シーケンスに沿って、マルチビーム20のショット順に、ブランキングアパーチャアレイ機構204の各制御回路41に演算された照射量(照射時間)の制御信号を出力する。また、偏向制御回路130は、マルチビーム20のショット順に、DACアンプ132に所望の照射領域34にマルチビーム20を偏向する偏向量を示す制御信号を出力する。DACアンプ132は、かかるデジタル信号をアナログ変換し、偏向電圧として、偏向器208を印加する。そして、描画機構150は、試料101上のチップAのチップ領域にマルチビーム20を用いてチップAに定義された図形パターンを描画する。描画装置100における描画機構150の動作について具体的に説明する。
電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴が含まれる領域を照明する。複数の穴の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器:個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を偏向する(ブランキング偏向を行う)。
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ基板206に形成された中心の穴に向かって進む。そして、制限アパーチャ基板206上でマルチビーム20はクロスオーバーを形成する。ここで、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ基板206の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ基板206は、個別ブランキング機構によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビーム毎に、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。
ブランキング制御によりビームONの状態で制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208によって、制限アパーチャ基板206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向に一括して偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
以上のようにして、チップAの描画を進めていく。そして、チップAの描画が終了後、上述した照射位置34a2で待機する場合には、かかる位置において、上述した漏れビーム分散処理工程(S114)と同様の漏れビーム分散処理を実施すればよい。
次に、チップB照射量演算工程(S126)として、入射照射量D(x)演算部58は、チップBのチップ領域内の画素36毎に、当該画素36に照射するための入射照射量D(x)を演算する。演算手法は、チップA照射量演算工程(S106)のチップAをチップBと読み替えた場合と同様である。
チップB照射時間データ生成工程(S130)として、照射時間t演算部58は、チップBのチップ領域内の画素36毎に、当該画素36に演算された入射照射量D(x)を入射させるための電子ビームの照射時間tを演算する。演算手法は、チップA照射時間データ生成工程(S110)のチップAをチップBと読み替えた場合と同様である。
チップB待機位置移動工程(S132)として、描画制御部66は、図示しないステージ駆動機構を制御してXYステージ105を移動させて、チップBのチップ領域を分割した最下段の第1番目のストライプ領域32(図示せず)の左端のさらに左側の位置に1回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34b1が位置するように調整する。
漏れビーム分散処理工程(S134)として、分散処理部64の制御の基、偏向制御回路130は、待機時間の期間中、マルチビーム20のすべてのビームがビームOFFの状態になるようにブランキング偏向された状態で、マルチ漏れビーム300の各漏れビームの照射位置を複数の位置に順に一括偏向するように偏向器208を制御する。言い換えれば、偏向制御回路130は、マルチビーム20が照射可能な照射領域34がチップBのチップ領域外であって試料101上のチップ領域内を描画するための待機位置(照射領域34b1)に配置されている状態において、マルチ漏れビーム300の各漏れビームの照射位置を複数の位置(1番目から4番目の照射位置)に順にずらすように偏向器208を制御する。
以上により、図12(c)に示すように、漏れビーム照射領域33内の実質的に全領域にマルチ漏れビーム300の照射位置を分散させることができる。その結果、図12(e)に示すように、蓄積されるドーズ量を漏れビーム照射領域33内の実質的に全領域に分散させることができる。その結果、単位面積あたりの漏れビームによる蓄積ドーズ量を大幅に低減できる。また、分散処理により、蓄積ドーズ量を略均一化できる。
チップB描画工程(S136)として、描画制御部60の制御のもと、偏向制御回路130は、偏向制御回路130は、予め設定された描画シーケンスに沿って、マルチビーム20のショット順に、ブランキングアパーチャアレイ機構204の各制御回路41に演算された照射量(照射時間)の制御信号を出力する。また、偏向制御回路130は、マルチビーム20のショット順に、DACアンプ132に所望の照射領域34にマルチビーム20を偏向する偏向量を示す制御信号を出力する。DACアンプ132は、かかるデジタル信号をアナログ変換し、偏向電圧として、偏向器208を印加する。そして、描画機構150は、試料101上のチップAのチップ領域にマルチビーム20を用いてチップBに定義された図形パターンを描画する。
以上のようにして、チップBの描画を進めていく。そして、チップAの描画が終了後、上述した照射位置34a2で待機する場合には、かかる位置において、上述した漏れビーム分散処理工程(S134)と同様の漏れビーム分散処理を実施すればよい。
実施の形態1では、各チップを描画する場合に、描画開始前の照射領域の待機位置において、マルチ漏れビーム300の分散処理を行うので、蓄積されるドーズ量を待機位置の漏れビーム照射領域33内の実質的に全領域に分散させることができる。その結果、単位面積あたりの漏れビームによる蓄積ドーズ量を大幅に低減できる。描画終了後の照射領域の待機位置においても同様である。
以上のように、実施の形態1によれば、マルチビーム露光において漏れビームによるドーズの偏在蓄積を低減できる。よって、漏れビーム照射領域33とチップ10のチップ領域とが重なる場合でも、本来のチップ10の図形パターンに使用するドーズ量に加算される漏れビームに起因する蓄積ドーズ量を低減できる。その結果、形成されるパターンの寸法ずれを低減できる。
実施の形態2.
実施の形態1では、描画開始前(及び描画終了後)の照射領域の待機位置において、マルチ漏れビーム300の分散処理を行うことで待機位置における漏れビーム照射領域33の漏れビームによる蓄積ドーズ量を低減した。しかし、昨今のパターンの微細化及び高精度化に伴い、漏れビームによる蓄積ドーズ量を分散して低減したとしても、かかる低減後の蓄積ドーズさえも無視できない場合もあり得る。例えば、多重描画の多重度(パス数)が増えてくる場合、同じ待機位置で繰り返しドーズが蓄積されるので蓄積ドーズ量を分散処理動作により分散して低減したとしても、低減後の単位面積あたりの蓄積ドーズ量自体が大きくなる可能性がある。そこで、実施の形態2では、かかる低減後の蓄積ドーズ量についてもパターン寸法に影響を与えない構成について説明する。
図13は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。図13において、制御計算機110内に、さらに、待機位置演算部50、重なり判定部52、及び補正部60が追加された点以外は、図1と同様である。図13において、待機位置演算部50、重なり判定部52、パターン密度ρ演算部54、補正照射係数Dp(x)演算部56、入射照射量D(x)演算部58、補正部60、照射時間t演算部62、分散処理部64、及び描画制御部66といった各「〜部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。待機位置演算部50、重なり判定部52、パターン密度ρ演算部54、補正照射係数Dp(x)演算部56、入射照射量D(x)演算部58、補正部60、照射時間t演算部62、分散処理部64、及び描画制御部66内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ112に記憶される。
図14は、実施の形態2における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図14において、チップA照射量演算工程(S106)の前に、待機位置演算工程(S102)と待機位置重なり判定工程(S104)とが追加された点、チップA照射量演算工程(S106)とチップA照射時間データ生成工程(S110)との間に、チップA照射量補正工程(S108)が追加された点、及びチップB照射量演算工程(S126)とチップB照射時間データ生成工程(S130)との間に、チップB照射量補正工程(S128)が追加された点、以外は図11と同様である。以下、特に説明する点以外の内容は実施の形態1と同様である。
待機位置演算工程(S102)として、待機位置演算部50は、記憶装置に記憶されたチップAのチップデータとチップBのチップデータとを読み出し、チップAを描画する場合のマルチビーム20の照射位置34の待機位置を演算する。待機位置演算部50は、上述したように、待機位置として、チップAの描画を開始するための待機位置となる照射領域34a1とチップAの描画が終了した後の待機位置となる照射領域34a2とを演算する。チップAの描画を開始するための待機位置となる照射領域34a1と同じ位置或いはその付近が漏れビーム照射領域33a1となる。同様に、チップAの描画が終了した後の待機位置となる照射領域34a2と同じ位置或いはその付近が漏れビーム照射領域33a2となる。同様に、待機位置演算部50は、上述したように、待機位置として、チップBの描画を開始するための待機位置となる照射領域34b1とチップBの描画が終了した後の待機位置となる照射領域34b2とを演算する。チップBの描画を開始するための待機位置となる照射領域34b1と同じ位置或いはその付近が漏れビーム照射領域33b1となる。同様に、チップBの描画が終了した後の待機位置となる照射領域34b2と同じ位置或いはその付近が漏れビーム照射領域33b2となる。
待機位置重なり判定工程(S104)として、重なり判定部52は、チップ10a(チップA)のチップ領域が漏れビーム照射領域33b1,33b2と一部或いは全部が重なる位置関係にあるかどうかを判定する。同様に、重なり判定部52は、チップ10b(チップB)のチップ領域が漏れビーム照射領域33a1,33a2と一部或いは全部が重なる位置関係にあるかどうかを判定する。
チップA照射量演算工程(S106)の内容は実施の形態1と同様である。すなわち、入射照射量D(x)演算部58(照射量演算部)は、描画対象となるチップA(他のチップの一例)のチップ領域内の入射照射量D(x)を演算する。
チップA照射量補正工程(S108)として、補正部60は、チップBの待機位置がチップA(他のチップの一例)のチップ領域と重なり合う場合に、重なり合う領域におけるチップA用の入射照射量D(x)を補正する。言い換えれば、補正部60は、マルチビーム20が照射可能な照射領域34b2が描画対象となる図形パターンが配置されるチップBのチップ領域外であって試料101上のチップBの領域内を描画するための待機位置に配置されている状態において、待機位置が描画対象となる他のチップAのチップ領域と重なり合う場合に、重なり合う領域におけるチップA用の入射照射量D(x)を補正する。
図15は、実施の形態2におけるドーズ量の一例を示す図である。チップAを描画すると、図15(a)に示すように、チップAの待機位置の漏れビーム照射領域33a1,33a2内ではそれぞれ分散処理により蓄積ドーズ量が略均一化されている。チップAを描画後に、チップBを描画する場合、図15(b)に示すように、チップBの待機位置とチップAとの重なり合う領域(例えば、図10の漏れビーム照射領域33b2)では、ドーズ量が分散処理後の略均一化された蓄積ドーズ量分だけ多くなってしまう。同様に、チップAの待機位置とチップBとの重なり合う領域(例えば、図10の漏れビーム照射領域33a1)では、ドーズ量が分散処理後の略均一化された蓄積ドーズ量分だけ多くなってしまう。
そこで、図15(c)に示すように、補正部60は、演算されたチップA用の入射照射量D(x)のうち、チップBの待機位置とチップAとの重なり合う領域(例えば、図10の漏れビーム照射領域33b2)内での各画素36の照射量を一律に分散処理後の略均一化された蓄積ドーズ量だけ減らす補正をする。分散処理後の略均一化された蓄積ドーズ量は、予め実験或いはシミュレーション等により取得しておけばよい。かかる補正により、マルチ漏れビーム300によるドーズ量が蓄積されている場合でも高精度な照射量に合わせることができる。また、分散処理により蓄積ドーズ量を略均一化させることで、マルチ漏れビーム300の漏れビーム毎の位置及び蓄積ドーズ量をわざわざ演算する手間を省くことができる。また、照射量を補正する場合に、マルチ漏れビーム300の漏れビーム毎の位置毎に補正する手間を省くことができる。
チップA照射時間データ生成工程(S110)の内容は、チップA内の各画素36の照射量を補正後の照射量を用いる点以外は、実施の形態1と同様である。
チップA待機位置移動工程(S112)と、漏れビーム分散処理工程(S114)と、チップA描画工程(S116)と、チップB照射量演算工程(S126)との内容は実施の形態1と同様である。
チップB照射量補正工程(S128)として、補正部60は、チップAの待機位置がチップB(他のチップの一例)のチップ領域と重なり合う場合に、重なり合う領域におけるチップB用の入射照射量D(x)を補正する。具体的には、図15(c)に示すように、補正部60は、演算されたチップB用の入射照射量D(x)のうち、チップAの待機位置とチップBとの重なり合う領域(例えば、図10の漏れビーム照射領域33a1)について、各画素36の照射量を一律に分散処理後の略均一化された蓄積ドーズ量だけ減らす補正をする。かかる補正により、マルチ漏れビーム300によるドーズ量が蓄積されている場合でも高精度な照射量に合わせることができる。また、分散処理により蓄積ドーズ量を略均一化させたことで、マルチ漏れビーム300の漏れビーム毎の位置及び漏れビーム毎の蓄積ドーズ量をわざわざ演算する手間を省くことができる。また、照射量を補正する場合に、マルチ漏れビーム300の漏れビーム毎の位置毎に補正する手間を省くことができる。
チップB照射時間データ生成工程(S130)と、チップB待機位置移動工程(S132)と、漏れビーム分散処理工程(S134)と、チップB描画工程(S136)との内容は実施の形態1と同様である。
なお、上述した説明において、チップBの待機位置がチップA(他のチップの一例)のチップ領域と重なり合わない場合、チップA照射量補正工程(S108)は省略すればよい。同様に、チップAの待機位置がチップB(他のチップの一例)のチップ領域と重なり合わない場合、チップB照射量補正工程(S128)は省略すればよい。
以上のように、実施の形態2によれば、分散処理動作により分散して低減した低減後の蓄積ドーズ量についてもパターン寸法に影響を与えないようにできる。よって、実施の形態1よりもさらに高精度なパターンを描画できる。
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
また、上述した例では、各制御回路41の制御用に10ビットの制御信号が入力される場合を示したが、ビット数は、適宜設定すればよい。例えば、1ビット或いはそれ以上の制御信号を用いてもよい。
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム露光装置およびマルチ荷電粒子ビーム露光方法は、本発明の範囲に包含される。