1.薄片状カーボン分散体の製造方法
本発明の薄片状カーボンの製造方法においては、回転する回転盤と、前記回転盤と略平行に設置された盤との間に、層状構造を有する炭素質材料及びフルオレン骨格を有する化合物を含む組成物を設置し、前記回転盤と前記盤との最短距離が200μm以下となるように調整しながら、前記組成物中の層状構造を有する炭素質材料に対してせん断を加える。
このせん断方法によれば、力のかかる方向が層状構造を有する炭素質材料の面方向と平行であり、且つ、狭い空間で処理するため、従来の高速攪拌、超音波処理、高圧処理等による製造方法と比較して、破壊が少なく、大きめのサイズの薄片状カーボン(例えば、大きさが1μm以上の薄片状カーボン)を得ることができ、剥離の効率がよく短時間(少ないパス回数)で処理を行うことができるとともに、剥離し損ねた厚みのある塊が残りにくい。
層状構造を有する炭素質材料
層状構造を有する炭素質材料としては、特に制限はなく、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛、酸化黒鉛等が挙げられる。酸化黒鉛とは、例えば、硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素等の1種又は2種以上の酸化剤により酸化された黒鉛が使用され得る。例えば、ハマーズ法により酸化黒鉛を得る場合には、黒鉛を濃硫酸中に浸し、過マンガン酸カリウムを加えて黒鉛を酸化させた後、反応物を希硫酸及び/又は過酸化水素でクエンチし、その後、蒸留水で洗浄すること等により、炭素原子に酸素原子が結合し、層間に酸素原子が導入されて酸化黒鉛を得ることができる。
なかでも、酸素等の異種原子を含まない純度の高い薄片状カーボンを得ようとする場合には、黒鉛を原料として用いることが好ましく、天然黒鉛及び膨張黒鉛がより好ましい。なお、膨張黒鉛を使用する場合は、グラフェン構造の酸化が少ない膨張黒鉛を採用することが好ましい。また、膨張黒鉛を使用する場合は、300〜1000℃程度で10秒〜5時間程度加熱処理を加えてから用いることもできる。これにより、適度に膨張させた膨張黒鉛を使用することも可能である。
また、製造の容易さを重視する場合には、酸化黒鉛を使用することもできる。酸化黒鉛を使用することにより、層間に溶媒分子が挿入されやすく、層方向にのみ剥離させることが容易であり、薄片化効率及び分散性が向上するため、処理時間をより短くすることが可能である。ただし、酸化黒鉛を使用する場合には、後に還元処理が必要となり、グラフェン構造、導電性及び強度をより維持する観点からは、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛)が好ましい。
一方、分散性をより向上させるために、土状黒鉛を採用することも可能である。ただし、結晶性、純度及び構造維持の観点からは、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、酸化黒鉛)が好ましい。
また、得られる薄片状カーボンの結晶性、強度、構造維持等を重視する場合には、人造黒鉛を使用することもできる。
本発明において、前記組成物中の層状構造を有する炭素質材料の含有量は、特に制限されず、20重量%以下が好ましく、0.0001〜15重量%がより好ましく、0.001〜10重量%がさらに好ましい。なお、層状構造を有する炭素質材料の含有量は、薄いほうが薄片化(層間剥離)がより起こりやすいために薄片状カーボンをより効率的に得られ、処理回数をより少なくできる傾向があるとともに、粘度を適切に維持してせん断によって薄片状カーボンをさらに効率よく得ることができる。一方、層状構造を有する炭素質材料の含有量が濃いほうがより生産性に優れている。このため、薄片化の効率、粘度、生産性等のバランスの観点から、層状構造を有する炭素質材料の含有量を適宜設定することが好ましい。なお、本発明の製造方法において、炭素質材料分散体を使用する場合は、当該分散体中の層状構造を有する炭素質材料の含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
フルオレン骨格を有する化合物
従来は、湿式法にて薄片状カーボンを作製する場合、薄片状カーボンの酸化物及び水性溶媒を含む水分散体に還元処理を施していたが、この方法ではグラフェン構造を維持することが困難であるとともに、得られる薄片状カーボンが激しく凝集してしまうため、薄片状カーボン水分散体を得ることは困難であった。また、安全性の観点でも問題があった。高圧処理を行う際には薄片状カーボン水分散体を得ることはできるものの、得られる薄片状カーボンが破壊されやすく、製造に時間がかかる傾向があるうえに、剥離し損ねた塊が残存することもあった。一方、本発明においては、フルオレン骨格を有する化合物を使用することにより、グラフェン構造を維持した薄片状カーボンが凝集することなく、均一分散した状態(薄片状カーボン分散体等)で薄片状カーボンを得ることができ、得られる薄片状カーボンも破壊されにくく、短時間で薄片状カーボンを得ることもできるうえに剥離し損ねた塊も残存しにくい。この際、フルオレン骨格を有する化合物は、薄片状カーボンを均一分散させるための分散剤としても機能し得る。
このようなフルオレン骨格を有する化合物としては、薄片状カーボン分散体の溶媒として後述のとおり水を主溶媒として使用するためにフルオレン骨格を有する水溶性化合物が好ましいが、例えば、一般式(1):
[式中、Z1及びZ2は同一又は異なって、芳香族炭化水素環を示す。R1a及びR1bは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換されていてもよいアミノ基を示す。R2a及びR2bは同一又は異なって、アルキレン基を示す。R3a及びR3bは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換されていてもよいアミノ基を示す。m1及びm2は同一又は異なって、0以上の整数を示す。p1及びp2は同一又は異なって、1以上の整数を示す。h1及びh2は同一又は異なって、0〜4の整数を示す。j1及びj2は同一又は異なって、0〜4の整数を示す。]
で表されるフルオレン化合物の有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、又はアルキレンオキシド付加物が好ましい。
一般式(1)において、Z1及びZ2は、炭素数が6〜14の芳香族炭化水素環が好ましく、炭素数が6〜14の単環又は縮合環の芳香族炭化水素環がより好ましく、炭素数6〜10の単環又は二環の芳香族炭化水素環がさらに好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、インデン環等が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環がより好ましい。このうち、フルオレン骨格を有する化合物の水溶性を重視する場合はベンゼン環が好ましく、層状構造を有する炭素質材料との親和性を重視する場合はナフタレン環が好ましい。なお、Z1及びZ2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
一般式(1)において、R1a及びR1bは、置換されていてもよい炭化水素基(置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基等)、置換されていてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよいアミノ基等が好ましい。
一般式(1)において、R1a及びR1bで示されるアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8(特に1〜6)のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。このアルキル基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のアラルキル基、後述のアルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、後述のアミノ基、後述のシクロアルコキシ基、後述のアリールオキシ基、後述のアラルキルオキシ基、後述のアシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R1a及びR1bで示されるシクロアルキル基としては、炭素数5〜10(好ましくは5〜8、特に5〜6)のシクロアルキル基が好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が好ましい。このシクロアルキル基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、後述のアリール基、後述のアラルキル基、後述のアルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、後述のアミノ基、後述のシクロアルコキシ基、後述のアリールオキシ基、後述のアラルキルオキシ基、後述のアシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R1a及びR1bで示されるアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基(前記したアルキル基を有する基;o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基等のトリル基等;キシリル基等)、ナフチル基等が好ましい。このアリール基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、後述のアラルキル基、後述のアルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、後述のアミノ基、後述のシクロアルコキシ基、後述のアリールオキシ基、後述のアラルキルオキシ基、後述のアシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R1a及びR1bで示されるアラルキル基としては、前記アリール基と前記アルキル基を有する炭素数7〜14のアラルキル基が好ましく、具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が好ましい。このアラルキル基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、前記アラルキル基、後述のアルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、後述のアミノ基、後述のシクロアルコキシ基、後述のアリールオキシ基、後述のアラルキルオキシ基、後述のアシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R1a及びR1bで示されるアルコキシ基としては、炭素数1〜8(特に1〜6)のアルコキシ基が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等が好ましい。このアルコキシ基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、後述のアミノ基、後述のシクロアルコキシ基、後述のアリールオキシ基、後述のアラルキルオキシ基、後述のアシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R1a及びR1bで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
一般式(1)において、R1a及びR1bで示される置換されていてもよいアミノ基としては、非置換アミノ基の他、上述した基(水酸基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等)や後述する基(シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基等)を置換基に有するものが好ましく、具体的には、置換アミノ基が好ましく、ジメチルアミノ基等のジアルキルアミノ基がより好ましい。
これらのなかでも、R1a及びR1bとしては、フルオレン骨格を有する化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、適宜設定することが好ましいが、炭化水素基、さらにはアルキル基、特には炭素数1〜6のアルキル基(特に非置換アルキル基)、さらにはメチル基等の炭素数が1〜4のアルキル基(特に非置換アルキル基)等を好適に使用し得る。
なお、j1が複数(2〜4の整数)である場合、複数の基R1aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、j2が複数(2〜4の整数)である場合、複数の基R1bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、異なるベンゼン環に置換した基R1aと基R1bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。また、基R1a及びR1bの結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位等の少なくとも1つが挙げられる。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bの置換数であるj1及びj2は同じでも異なっていてもよいが、通常0〜4の整数、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
一般式(1)において、R2a及びR2bは、アルキレン基、特に炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、具体的には、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。また、アルキレン基R2a及びR2bの種類は係数m1及びm2の数によっても異なっていてもよい。なかでも、炭素数が2〜3のアルキレン基が好ましく、エチレン基及びトリメチレン基がより好ましく、エチレン基がさらに好ましい。
なお、m1が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R2aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、m2が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R2bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、基R2aと基R2bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
前記一般式(1)において、OR2a及びOR2bの繰り返し数であるm1及びm2は同じでも異なっていてもよく、0以上の整数であるが、通常0〜10の整数、好ましくは0〜7の整数、より好ましくは0〜5の整数、さらに好ましくは0〜3の整数、さらに好ましくは0又は1、さらには0である。
また、前記一般式(1)において、−O−(R2aO)m1−H基及び−O−(R2bO)m2−H基の繰り返し数であるp1及びp2は同じでも異なっていてもよく、1以上の整数であるが、通常1〜4の整数、好ましくは1〜3の整数、より好ましくは1又は2、さらに好ましくは1である。
なお、前記一般式(1)において、−O−(R2aO)m1−H基及び−O−(R2bO)m2−H基の置換位置は、特に限定されず、環Z1及びZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、−O−(R2aO)m1−H基及び−O−(R2bO)m2−H基は、環Z1及びZ2がベンゼン環である場合、ベンゼン環の2〜6位に置換していればよく、4位に置換しているのが好ましい。また、−O−(R2aO)m1−H基及び−O−(R2bO)m2−H基は、環Z1及びZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位等)に少なくとも置換している場合が多い。
一般式(1)において、R3a及びR3bは、置換されていてもよい炭化水素基(置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基等、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基等)、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいシクロアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいアラルキルオキシ基、置換されていてもよいアシル基、置換されていてもよいアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよいアミノ基等が好ましい。
一般式(1)において、R3a及びR3bで示される置換されていてもよい炭化水素基(置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基等、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基等)、置換されていてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子、及び置換されていてもよいアミノ基としては、前記例示の基を採用できる。
一般式(1)において、R3a及びR3bで示されるシクロアルコキシ基としては、炭素数5〜10のシクロアルコキシ基が好ましく、具体的には、シクロへキシルオキシ基等が好ましい。このシクロアルコキシ基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、前記アミノ基、前記シクロアルコキシ基、後述のアリールオキシ基、後述のアラルキルオキシ基、後述のアシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R3a及びR3bで示されるアリールオキシ基としては、前記アリール基を有する炭素数6〜10のアリールオキシ基が好ましく、具体的には、フェノキシ基等が好ましい。このアリールオキシ基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、前記アミノ基、前記シクロアルコキシ基、前記アリールオキシ基、後述のアラルキルオキシ基、後述のアシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R3a及びR3bで示されるアラルキルオキシ基としては、前記アリール基と前記アルキルオキシ基を有する炭素数7〜14のアラルキルオキシ基が好ましく、具体的には、ベンジルオキシ基等が好ましい。このアラルキルオキシ基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、前記アミノ基、前記シクロアルコキシ基、前記アリールオキシ基、前記アラルキルオキシ基、後述のアシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R3a及びR3bで示されるアシル基としては、炭素数1〜6のアシル基が好ましく、具体的には、アセチル基等が好ましい。このアシル基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、前記アミノ基、前記シクロアルコキシ基、前記アリールオキシ基、前記アラルキルオキシ基、前記アシル基、後述のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
一般式(1)において、R3a及びR3bで示されるアルコキシカルボニル基としては、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基が好ましく、具体的には、メトキシカルボニル基等が好ましい。このアルコキシカルボニル基は置換基を有することもできる。置換基としては、水酸基、前記アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルコキシ基、後述のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、前記アミノ基、前記シクロアルコキシ基、前記アリールオキシ基、前記アラルキルオキシ基、前記アシル基、前記アルコキシカルボニル基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限はなく、1〜6個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
これらのなかでも、R3a及びR3bとしては、フルオレン骨格を有する化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から適宜設定することが好ましいが、炭化水素基、さらにはアルキル基、アリール基等、特には炭素数1〜6のアルキル基(特に非置換アルキル基)、炭素数6〜10のアリール基(特に非置換アリール基)等、さらにはメチル基等の炭素数が1〜4のアルキル基(特に非置換アルキル基)、フェニル基等の炭素数6〜8のアリール基(特に非置換アリール基)等を好適に使用し得る。
なお、h1が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R3aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、h2が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R3bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、基R3aと基R3bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
前記一般式(1)において、基R3a及びR3bの置換数であるh1及びh2は同じでも異なっていてもよいが、通常0〜4の整数、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
なお、前記一般式(1)において、基R3a及びR3bの置換位置は、特に限定されず、環Z1及びZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、基R3a及びR3bは、環Z1及びZ2がベンゼン環である場合、ベンゼン環の2〜6位に置換していればよく、3位又は5位に置換しているのが好ましい。また、基R3a及びR3bは、環Z1及びZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、7位、8位等)に少なくとも置換している場合が多い。
上記一般式(1)で示されるフルオレン化合物は、そのままでは水に対して難溶性である。本発明において、薄片状グラフェンは、水を主溶媒とする分散体として得やすいことから、本発明では、フルオレン骨格を有する化合物として、一般式(1)で示される化合物の有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、塩酸塩又はアルキレンオキシド付加物を使用する。
上記有機アンモニウム塩としては、第四級アンモニウム塩が好適に使用され、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等のテチラアルキルアンモニウム塩が好ましい。
上記アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
上記アルキレンオキシド付加物としては、例えば、エチレンオキシド付加物等が挙げられる。
これらのなかでも、本発明で使用されるフルオレン骨格を有する化合物としては、フルオレン骨格を有する化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が好ましく、有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩等がより好ましく、テトラアルキルアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等がさらに好ましい。
なお、上記一般式(1)で表される化合物において、−O−(R2aO)m1−H基及び−O−(R2bO)m2−H基のうち1つのみが上記塩を形成していてもよいし、全てが塩を形成していてもよい。なかでも、フルオレン骨格を有する化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、全てが塩を形成していることが好ましい。
つまり、好適なフルオレン骨格を有する化合物には、一般式(2):
[式中、Z1、Z2、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、m1、m2、p1、p2、h1、h2、j1及びj2は前記に同じである。X1及びX2は同一又は異なって、有機アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオン、又はアンモニウムカチオンを示す。]
で表される化合物を使用し得る。なお、一般式(2)において、有機アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオン、及びアンモニウムカチオンは、それぞれ有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、及びアンモニウム塩を形成し得るカチオンである。
代表的なフルオレン骨格を有する化合物には、m1及びm2が0である化合物、すなわち、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類の塩として、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン有機アンモニウム塩、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレンアルカリ金属塩、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレンアンモニウム塩、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレンアルキレンオキシド付加物等が含まれ得る。
これらの化合物を構成する9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、前記一般式(1)において、Z1及びZ2がベンゼン環であり、p1及びp2が1である9,9-ビスフェノールフルオレン類;Z1及びZ2がナフタレン環であり、p1及びp2が1である9,9-ビスナフトールフルオレン類;Z1及びZ2がベンゼン環であり、p1及びp2が2以上である9,9-ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン類等が含まれる。
具体的には、9,9-ビスフェノールフルオレン類は、R3a及びR3bが炭化水素基であり、h1及びh2が0又は1である化合物が好適に使用される。9,9-ビスフェノールフルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等の9,9-ビスフェノールフルオレン;9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-ヒドロキシ-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-ヒドロキシ-4-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン等の9,9-ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9-ビス(C1-6アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2,6-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)フルオレン等の9,9-ビス(ジアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9-ビス(ジC1-6アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン等の9,9-ビス(シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9-ビス(C5-10シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン等の9,9-ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9-ビス(C6-10アリールヒドロキシフェニル)フルオレン等)等が挙げられる。
また、前記9,9-ビスナフトールフルオレン類には、前記例示の9,9-ビスフェノールフルオレン類のフェニル基がナフチル基である9,9-ビスナフトールフルオレン類(例えば9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシナフチル)]フルオレン、9,9-ビス[1-(5-ヒドロキシナフチル)]フルオレン等の9,9-ビスナフトールフルオレン等)等が含まれる。
さらに、前記9,9-ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン類には、前記9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類(9,9-ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類)に対応するフルオレン類、例えば、9,9-ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン(9,9-ビス(3,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスカテコールフルオレン)等);9,9-ビス(3,4-ジヒドロキシ-5-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3,4-ジヒドロキシ-6-メチルフェニル)フルオレン等の9,9-ビス(アルキル-ジヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9-ビス(C1-4アルキル-ジヒドロキシフェニル)フルオレン等)等の9,9-ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン類が含まれる。
なお、前記9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、例えば、前記フルオレン類(すなわち、9,9-ビスフェノールフルオレン類、9,9-ビスナフトールフルオレン類、9,9-ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類等)において、m1及びm2が1以上である化合物、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン;BPEF)等の9,9-ビス[4-(ヒドロキシC2-3アルコキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシエトキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールエタノールフルオレン;BCEF)等の9,9-ビス(アルキルヒドロキシC2-3アルコキシフェニル)フルオレン等も含まれる。
つまり、本発明で使用されるフルオレン骨格を有する化合物としては、上記説明したフルオレン類の有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアルキレンオキシド付加物のいずれもが含まれる。なかでも、フルオレン骨格を有する化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アルキレンオキシド付加物、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン・2アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン・2アルキレンオキシド付加物、9,9-ビス(4-ヒドロキシナフチル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシナフチル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシナフチル)フルオレン・2アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシナフチル)フルオレン・2アルキレンオキシド付加物等が好ましく、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシナフチル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9-ビス(4-ヒドロキシナフチル)フルオレン・2アルカリ金属塩等がより好ましい。
本発明において、前記組成物中におけるフルオレン骨格を有する化合物の含有量は、特に制限されないが、0.0001〜50重量%が好ましく、0.001〜30重量%がより好ましく、0.01〜10重量%がさらに好ましい。一方、本発明において、処理前に投入するフルオレン骨格を有する化合物の含有量は、層状構造を有する炭素質材料100重量部に対して、10〜100000重量部が好ましく、20〜50000重量部がより好ましい。なお、フルオレン骨格を有する化合物の含有量は、薄いほうが相対的に層状構造を有する炭素質材料の含有量が大きくなり導電性が向上しやすいとともに、安価に処理しやすい。一方、フルオレン骨格を有する化合物の含有量が濃いほうが薄片化(層間剥離)がより起こりやすいために薄片状カーボンをより効率的に得られる傾向がある。このため、導電性、コスト、薄片化の効率等のバランスの観点から、フルオレン骨格を有する化合物の含有量を適宜設定することが好ましい。なお、本発明の製造方法において、炭素質材料分散体を使用する場合は、当該分散体中のフルオレン骨格を有する化合物の含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
溶媒
本発明においては、上記のとおり、層状構造を有する炭素質材料及びフルオレン骨格を有する化合物を含む組成物に対して特定のせん断処理を行うが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの汎用性等の観点から、層状構造を有する炭素質材料及びフルオレン骨格を有する化合物を含む炭素質材料分散体を使用することが好ましい。
この炭素質材料分散体としては、分散液として形成してもよいし、基板上に塗膜として形成してもよい。
この際、分散体(分散液又は塗膜)を作製するために使用される溶媒としては、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率等の観点から、水を主溶媒として用いることが好ましい。
使用する溶媒中の水の含有量は、特に制限されず、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、フルオレン骨格を有する化合物の溶解度等の観点から、60重量%以上(60〜100重量%)が好ましく、70〜100重量%がより好ましい。
なお、本発明において、溶媒としては、水のみを使用してもよく、有機溶媒は必ずしも使用しなくてもよいが、フルオレン骨格を有する有機化合物の水への溶解性をより向上させるために、メタノール、エタノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール等のアルコール;エチレングリコール等のグリコール;グリセリン;2-メトキシエタノール等の有機溶媒を使用してもよい。
使用する溶媒中の有機溶媒の含有量は、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、フルオレン骨格を有する化合物の溶解度等の観点から、40重量%以下(0〜40重量%)が好ましく、0〜30重量%がより好ましい。
本発明において、溶媒を使用した炭素質材料分散体を用いて特定のせん断処理を行う場合、炭素質材料分散体中の溶媒の総量は、特に制限されず、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、フルオレン骨格を有する化合物の溶解度等の観点から、40〜99.9998重量%が好ましく、63〜99.998重量%がより好ましく、85〜99.98重量%がさらに好ましい。
本発明において、溶媒を使用した炭素質材料分散体を用いて特定のせん断処理を行う場合、炭素質材料分散体は、フルオレン骨格を有する化合物分散体に層状構造を有する炭素質材料を投入してもよいし、層状構造を有する炭素質材料分散体にフルオレン骨格を有する化合物を投入してもよい。また、溶媒中に、層状構造を有する炭素質材料及びフルオレン骨格を有する化合物を同時に投入してもよい。
他の成分
本発明において、層状構造を有する炭素質材料及びフルオレン骨格を有する化合物を含む組成物(例えば、炭素質材料分散体等)には、他の成分を含ませてもよい。これにより、最終的に得られる薄片状カーボン分散体や薄片状カーボン組成物中にも、これら他の成分を含ませることができる。このような他の成分としては、カーボンファイバー(特に繊維径500nm以下のカーボンナノファイバー)、活性炭、カーボンブラック(アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等;特に導電性が高く、比表面積が大きいケッチェンブラック)、ガラス状カーボン、カーボンマイクロコイル、フラーレン、バイオマス系炭素材料(バガス、ソルガム、木くず、おがくず、竹、木皮、稲ワラ、籾殻、コーヒーかす、茶殻、おからかす、米糠、パルプくず等を原料としたもの;リグニンから製造したカーボンファイバー等)を、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。
せん断処理
本発明では、上記のとおり、回転する回転盤と、前記回転盤と略平行に設置された盤との間に、層状構造を有する炭素質材料及びフルオレン骨格を有する化合物を含む組成物(前記炭素材料分散体等)を設置し、前記回転盤と前記盤との最短距離が200μm以下となるように調整しながら、前記組成物中の層状構造を有する炭素質材料に対してせん断を加える。
せん断処理を施すことにより、層状構造を有する炭素質材料の微粒化が起こるために、条件によってはグラフェン構造を維持できない可能性もあるが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を効率よく行うことができ、処理時間を低減することができる。このようなせん断処理を施す際の前記回転盤と前記盤とは略平行に設置されているが、厳密に平行でなくてもよい。具体的には、前記回転盤に垂直な軸と、前記盤に垂直な軸とのなす角が10°以下が好ましく、5°以下がより好ましい。なお、前記回転盤に垂直な軸と、前記盤に垂直な軸とが厳密に平行であることが最も好ましい。このようなせん断処理を施す際の前記回転盤と前記盤との最短距離は、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができるものであれば特に制限はなく、200μm以下、好ましくは1〜50μm、より好ましくは2〜30μmである。なお、前記回転盤と前記盤とは略平行に設置されているが、前記回転盤と前記盤との距離は場所によって異なることもある。この場合、前記回転盤と前記盤との最短距離は、前記回転盤と前記盤との間の距離のうち、最も短い箇所の距離を意味する。また、必ずしもあらかじめ前記回転盤と前記盤とを空ける必要はなく、前記回転盤と前記盤との間に処理する材料を挟んでもよく、また、前記回転盤と前記盤とを接触させておき、層状構造を有する炭素質材料が挟まることにより前記回転盤と前記盤との間が広がる状態になってもよい。このようなせん断処理は、盤状のものを回転させる機構があればよく、石臼、振動式ミキサー、スピンコーター、グラインダー等を用いて行い得る。
この際使用できる前記回転盤と前記盤の大きさは特に制限はなく、5〜500mmが好ましく、10〜200mmがより好ましい。また、せん断処理を行う際の回転盤の回転数は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる範囲とすることが好ましく、例えば、1000〜10000ppmが好ましく、2000〜5000ppmがより好ましい。
このようなせん断処理をすることにより、盤と層状構造を有する炭素質材料、層状構造を有する炭素質材料と層状構造を有する炭素質材料を接触させて層状構造を有する炭素質材料に対して層状構造を有する炭素質材料のグラフェン層と平行方向にせん断をかけることができる。
せん断処理における前記回転盤と前記盤との間の最短距離を小さくし、回転盤の回転速度を早くすることにより、条件をより強くすることが可能であり、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより効率よく行うことができ、処理時間をより低減することができる。このせん断操作は、1回以上、好ましくは3回以上行い得る。
せん断処理を行う温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、0℃以上、さらに0〜100℃、特に20〜95℃とし得る。なお、せん断処理を行う温度は、フルオレン骨格を有する化合物の溶解度が高い条件がよく、温度が高いほうが溶解度が増す場合は高温のほうが好ましく,曇点を有するフルオレン骨格を有する化合物を使用する場合は曇点以下の温度に保持することが好ましい。
上記のせん断処理を行う前に、層状構造を有する炭素質材料とフルオレン骨格を有する化合物とをよく接触させるため、撹拌装置、超音波分散装置等を用いて組成物を作製する前にあらかじめ撹拌し、層状構造を有する炭素質材料表面にフルオレン骨格を有する化合物をなじませておいてもよい。
なお、本発明において、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、上記せん断処理を施した分散体中には、薄片状カーボンの酸化物として存在している。このため、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、後処理として還元処理を施すことが好ましい。還元処理としては、化学還元、電気化学還元等、種々の方法が採用できるが、化学還元が好ましい。なかでも、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等のような還元剤による化学還元が好ましい。還元剤量は、薄片状カーボンの酸化物100重量部に対して、1〜1000重量部が好ましく、10〜500重量部がより好ましく、50〜300重量部がさらに好ましい。また、還元時に加熱を行うとより還元しやすくなる。加熱温度は、40〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましく、60〜120℃がさらに好ましい。還元時間は10分〜64時間が好ましく、30分〜48時間がより好ましく、1〜24時間がさらに好ましい。ただし、グラフェン構造が過度に破壊されない程度とすることが好ましい。
2.薄片状カーボン分散体
上記した本発明の製造方法によれば、所望の薄片状カーボンが得られる。特に、本発明の製造方法によれば、所望の薄片状カーボンが分散した状態で存在する薄片状カーボン分散体が得られる。
このようにして得られる薄片状カーボンは、薄いほうが諸物性に優れるが、厚みが10nm以下、特に0.3〜5nmの薄片状カーボンが得られ得る。厚みが非常に大きい薄片状カーボンが得られることもあるが、多数の薄片状カーボンの厚みは上記範囲内である。
このようにして得られる薄片状カーボンは、薄いほうが諸物性に優れるが、10層以下(つまり1〜10層)のグラフェンが積層した層状構造を有する薄片状カーボンが得られ得る。積層数が非常に大きい薄片状カーボンが得られることもあるが、多数の薄片状カーボンの積層数は上記範囲内である。このような薄片状カーボンは、多くの凸角と凹角をもつ平面形状をしているため、その大きさは一概には規定できない。本明細書では、一枚の薄片状カーボンにおいて最も離れている凸角間の距離をその薄片状カーボンの大きさとする。
このような薄片状カーボンとしては、大きさが20nm以上、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上のものが得られ得る。このような大きさの薄片状カーボンは、十分な導電性が得られ得る。なお、薄片状カーボンの大きさは、大きい方が電気的物性等の諸物性が優れていることが知られており好ましいため、大きさの上限は限定されない。また、薄片状カーボンの大きさは、顕微鏡(レーザー顕微鏡等)観察により測定するものとする。
本発明の製造方法によれば、薄片状カーボンは、薄片状カーボン分散体として得られ得る。本発明の製造方法では、フルオレン骨格を有する化合物を含んでいるため、薄片状カーボン分散体においても、フルオレン骨格を有する化合物が含まれている。この化合物は、薄片状カーボン表面に吸着して溶媒中で薄片状カーボンを高濃度に孤立分散させることも可能であるため、薄片状カーボン分散体においては分散剤としても機能する。また、前記化合物は市販品を用いることができ、コスト及び分散性の両方で従来品より優位性がある。さらに、この化合物は、薄片状カーボン表面に残存しても十分な導電性を維持することができ、また、この化合物を薄片状カーボンから容易に除去することができるという優位性もある。
また、従来の酸化処理及び還元処理を行う方法においては、還元処理の際にプラスチック基板が加水分解されること、還元処理を施すと薄片状カーボンが凝集するため分散体として存在し得ないこと等から、プラスチック基板上に薄片状カーボン分散体を形成することは不可能であったが、本発明においては、上記化合物を含ませつつ特定の処理を行うことで、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基板が加水分解を受けることなく、薄片状カーボン分散体を基板上に形成することも可能である。また、上記のとおり、この薄片状カーボン分散体から薄片状カーボンの分離及び精製が容易であり、他材料に薄片状カーボンを均一混合することも可能であるため、薄片状カーボンを含むナノコンポジット等へ適用できる。さらに、薄片状カーボン分散体の乾燥物である薄片状カーボン組成物は、フルオレン骨格を有する化合物を含んでいても、導電性等の優れた諸物性を有するうえに、残存するフルオレン骨格を有する化合物を容易に除去できるため、導電材料、伝熱材料、トランジスタ、キャパシタ等の蓄電デバイス、センサー、圧電材料、抗菌材料、ろ過材料、樹脂添加剤、光学材料等のさまざまな用途に適用することができる。
3.薄片状カーボン組成物及び薄片状カーボン
本発明において、薄片状カーボン組成物は、上記薄片状カーボン分散体の乾燥物であり、薄片状カーボンとフルオレン骨格を有する化合物とを含んでいる。このような薄片状カーボン組成物の形状としては、特に制限はなく、塗膜、シート、塊状体等を挙げることができる。
乾燥物を得るためには、薄片状カーボン分散体の乾燥の他、基板上に薄片状カーボン分散体をスピンコートや塗布後に乾燥する方法、通常の固液分離により薄片状カーボン組成物を回収する方法等により実施することができる。この分離を行う方法としては、例えば、通常の固液分離に使用されている方法、例えば、濾紙、ガラスフィルター等を用いて濾過する方法;遠心分離後に濾過する方法;減圧濾過器を使用する方法を例示できる。次に、乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、温風乾燥機等を用いて50〜200℃程度で1〜24時間程度乾燥させる方法を例示できる。
このようにして得られる薄片状カーボン組成物は、十分な導電性を有するだけではなく、優れたガスバリア性も有する。得られる薄片状カーボン組成物の組成は特に制限はないが、例えば、フルオレン骨格を有する化合物の含有量を、薄片状カーボン100重量部に対して1重量部以上、好ましくは10〜10000重量部、より好ましくは100〜1000重量部とし得る。
本発明において、薄片状カーボン組成物は、薄片状カーボン表面にフルオレン骨格を有する化合物が残存していても十分な電気伝導性等の諸物性を有し得るが、必要に応じて、当該化合物を除去することができる。具体的には、フルオレン骨格を有する化合物は、薄片状カーボン組成物を水、有機溶媒等で洗浄することにより除去することができる。洗浄処理は水及び有機溶媒以外にも、希酸又は希アルカリで洗浄することによっても除去できる。なお、フルオレン骨格を有する化合物が有機アンモニウム塩の場合は、150〜400℃、好ましくは200〜350℃の熱処理により有機アンモニウム塩が分解されるため、熱処理によってもフルオレン骨格を有する化合物を除去することができる。
従来の分散剤は、いわゆる洗剤に使われる界面活性剤のタイプが多く、これらは分散剤分子と薄片状カーボンとの疎水性相互作用を利用して吸着していると考えられ、また分子量が比較的大きいため、その吸着力も大きいと考えられる。他方、本発明で用いるフルオレン骨格を有する化合物は薄片状カーボンとπ−π相互作用を利用して吸着しているため、水性媒体中でしか吸着を維持できず、また分子量が小さいため従来品と比べて吸着力も弱い。よって、本発明で用いるフルオレン骨格を有する化合物は従来品よりも薄片状カーボン組成物から除去し易いという利点がある。
フルオレン骨格を有する化合物を除去するための洗浄は、薄片状カーボン組成物と洗浄液とを接触させることにより行うことができる。洗浄液としては、フルオレン骨格を有する化合物を溶解できるものであれば、水、各種の有機溶媒等が使用できる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール(特に炭素数1〜6の低級アルコール)、アセトン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
これらの中でも、洗浄後に薄片状カーボン組成物から短時間で蒸発する有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、常圧における沸点が50〜250℃程度、特に60〜200℃程度のもの、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が例示できる。
また、上記のように、フルオレン骨格を有する化合物を除去するための洗浄を、薄片状カーボン組成物と希酸又は希アルカリとを接触させ、次いで水洗することにより行ってもよい。希酸は、0.1〜5%塩酸が好ましく、希アルカリは0.1〜3%アンモニア水が好ましい。
洗浄操作は、洗浄液と薄片状カーボン組成物とを接触させればよい。例えば、薄片状カーボン分散体から回収された薄片状カーボン組成物を、洗浄液中に室温で静かに浸漬させるのが好ましい。浸漬時間は、薄片状カーボン組成物の形状を維持するために、30分以内が好ましく、20分以内がより好ましい。
洗浄液の使用量は、洗浄を行うに有効な量であれば特に限定されず、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、薄片状カーボン組成物100重量部に対して、洗浄液を100〜100000重量部程度、特に1000〜5000重量部程度使用すると良好な結果が得られる。
このようにして、薄片状カーボンを単離することができるが、この際得られる薄片状カーボンは、上記したような特徴を有するものである。
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
実験例1
9,9-ビスフェノールフルオレン(9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン)10gに対して、25重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを100g加え、水を加えて合計1000gとし、透明な溶液を得た。
実験例2
9,9-ビスナフトールフルオレン(9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシナフチル)]フルオレン)10gに対して、25重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを100g加え、水を加えて合計800gとした。さらにエタノールを200g加え、黄褐色を帯びた透明な溶液を得た。
実験例3
25重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド100gの代わりに、20重量%水酸化ナトリウム水溶液200gを加えること以外は実験例2と同様に、黄色を帯びた透明な溶液を得た。
実験例1〜3のように、フェノール性水酸基を有するフルオレン化合物において、フェノール性水酸基のプロトンを置換することにより、水を主成分とする溶液を得ることができた。
実施例1
実験例2で得た溶液100gに対して、1gの天然黒鉛(日本黒鉛工業(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、5分間の分散処理を加えた。
この液を、半径75mmの平行(なす角0°)に設置したシリコンウェハー2枚の間に挟み、約3kgの荷重をかけながら振動式ミキサー上で2600rpmで5分間せん断処理をかけたところ、炭素質材料の分散液が得られた。なお、シリコンウェハー2枚の最短距離は、天然黒鉛の液の厚さそのものであり空隙はない。
この分散液にエタノールを100g加え、超音波分散を2分行った後、減圧濾過を行った。この湿潤した炭素質材料にアセトンを加え、超音波分散を行った後、その分散液を導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が1〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下、フレークサイズ(大きさ)は1〜20μmであった。また同時に、エタノール洗浄によりフルオレン化合物が除去できていることも確認できた。
実施例2
実験例2で得た溶液100gに対して、1gの人造黒鉛(昭和電工(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、5分間の分散処理を加えた。
この液を、半径75mmの平行(なす角0°)に設置したシリコンウェハー2枚の間に挟み、約3kgの荷重をかけながら振動式ミキサー上で2600rpmで5分間せん断処理をかけたところ、炭素質材料の分散液が得られた。なお、シリコンウェハー2枚の最短距離は、天然黒鉛の液の厚さそのものであり空隙はない。
この分散液1gにエタノールを100g加え、超音波分散を2分行った後、減圧濾過を行った。この湿潤した炭素質材料にアセトンを加え、超音波分散を行った後、その分散液を導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が1〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下、フレークサイズ(大きさ)は1〜10μmであった。また同時に、エタノール洗浄によりフルオレン化合物が除去できていることも確認できた。得られた薄片状カーボンのSEM写真を図1に示す。
実施例3
実験例2で得た溶液100gに対して、1gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、5分間の分散処理を加えた。
この液を、半径75mmの平行(なす角0°)に設置したシリコンウェハー2枚の間に挟み、約3kgの荷重をかけながら振動式ミキサー上で2600rpmで5分間せん断処理をかけたところ、炭素質材料の分散液が得られた。なお、シリコンウェハー2枚の最短距離は、天然黒鉛の液の厚さそのものであり空隙はない。
この分散液1gにエタノールを100g加え、超音波分散を2分行った後、減圧濾過を行った。この湿潤した炭素質材料にアセトンを加え、超音波分散を行った後、その分散液を導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が1〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下、フレークサイズ(大きさ)は1〜20μmであった。また同時に、エタノール洗浄によりフルオレン化合物が除去できていることも確認できた。
実施例4
実験例2で得た溶液100gに対して、1gの天然黒鉛(日本黒鉛工業(株)製)を加え、マグネティックスターラーで5分間攪拌した。
この液を、2000rpmで回転する電動臼(最短距離70μm)で7回せん断処理したところ、炭素質材料の分散液が得られた。
この分散液10gにエタノールを100g加え、超音波分散を2分行った後、減圧濾過を行った。この湿潤した炭素質材料にアセトンを加え、超音波分散を行った後、その分散液を導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が1〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下、フレークサイズ(大きさ)は1〜10μmであった。また同時に、エタノール洗浄によりフルオレン化合物が除去できていることも確認できた。得られた薄片状カーボンのSEM写真を図2に示す。
この分散液を150℃で24時間乾燥することにより、炭素分を約50重量%含む黒色の固体が得られた。この固体をポリカーボネートに20重量%加えて280℃で混練したところ、炭素が良好に分散した黒色のペレットが得られた。
このように、テープによる剥離や、高コストのCVD等を使用することなく、また強い酸化剤を用いて炭素系材料の芳香環構造を崩したり、その還元工程を行ったりすることなく、極めて高度に薄片化した高純度な炭素を、簡易かつ量産化が可能な方法で作製することができた。この方法は力のかかる方向が黒鉛の面方向と平行であり、かつ狭い空間で処理されるため、従来の高速撹拌、超音波処理、高圧処理等による黒鉛を剥離する方法と比較して、大きめのサイズ(横幅方向)の薄片化カーボンを、効率よく、短時間で得ることができた。
その薄片化した炭素は、分散液の状態でも得ることができ、また、それを基板やテープから剥離する等の面倒な工程を経ずに単離することもできた。