JP6831093B2 - Mg基複合材とその製造方法および摺動部材 - Google Patents

Mg基複合材とその製造方法および摺動部材 Download PDF

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Description

本発明は、Mg基複合材とその製造方法および摺動部材に関する。
Mgは、地中埋蔵量が豊富で、実用金属材料で最軽量であることから、自動車をはじめとする移動用構造部材への適用が盛んに検討されている。一方で、部材として使用した場合、他部位と接触することは避けられず、強度および摩擦摩耗特性に優れたMgおよびMg合金の開発が必要とされている。一般的に、金属材料の高強度化は、結晶粒サイズの微細化が有効な手段であり、MgおよびMg合金に対しても同様の効果が発揮される。しかし、MgおよびMg合金の結晶粒微細化は、摩擦摩耗特性を改善させる手段としては有効でないことが知られている(非特許文献1)。Mgの大きな粒界拡散係数に起因し、容易に粒界すべりが起こるため、結晶粒サイズの微細化にともない、粒界体積率が増加し、粒界すべりが促進され、摩擦摩耗時に加工軟化が起こる。そのため、MgおよびMg合金の摩擦摩耗特性を維持し、さらに向上するためには、母相の結晶粒粗大化が好ましいが、これにより強度特性の劣化が問題となる。
結晶粒サイズの微細化以外に、素材を高強度化するために、母相への粒子分散がよく用いられている。なかでも、金属材料の場合、母相から析出または晶出した金属間化合物を分散させることが、高強度化に有効である。また、粒子分散は、粒界すべりを抑制する効果もある。本発明者らにより、球状または鋭角な角を持たない金属間化合物がMg母相内に分散し、摩擦特性に優れたMg合金が特許文献1に開示されている。Mg母相に金属間化合物を分散させることは、強度を向上させるためにも有効な手段であるが、特許文献1では、鋳造材から金属間化合物を析出および晶出させているため、Mg母相サイズが粗大であり、更なる高強度化が望まれる。
金属材料の場合、析出や晶出した金属間化合物の分散だけではなく、金属に固溶しない物質や素材からなる粒子(例えば、黒鉛やセラミックスなど)を母相に分散させる、すなわち、複合化も強度改善に有効な手法である。しかし、Mgは、複合化を目的とする添加粒子と濡れ性が極めて乏しいため、鋳造法によって複合化素材を創製することができない。そのため、特許文献2、3に開示されているように、メカニカルアロイング法や、ひずみ付与行程を数十回以上必要とする繰返しせん断ひずみ付与法などを用いて、Mg粉末と添加粉末を固化し、Mg基複合材を創製しているが、いずれの手法も複雑で数多くの作業工程を要するため、素材コストの高騰が避けられない。
一方で、素材自身の強度特性を維持し、摩擦摩耗特性を改善するために、Mg合金の表面層の改質が知られている。特許文献4には、Mg合金の表面に陽極酸化処理によって表面改質構造を形成し、この表面改質構造に固体潤滑剤である二硫化モリブデンを含浸させることが、Mgの摩擦摩耗特性の改善に有効な手法として開示されている。Mg母相の結晶粒サイズに依存せず、表面層のみの改質であるため、強度特性を維持することが可能である。しかし、素材使用時に、追加工程として陽極酸化処理を実施する必要があるため、コストの高騰が懸念される。
特開2008−240032号公報 特開2008−75127号公報 国際公開第2003/27342号 特開2002−363679号公報
松岡敬他 材料 51(2002)p1154.
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、強度特性を有しながらも優れた摩擦摩耗特性を有するMg基複合材とその製造方法および摺動部材を提供することを課題としている。
上記の課題を解決するために、本発明のMg基複合材は、SiC粒子の含有量が65質量%未満、残部をMg及び不可避的不純物とする組成を有し、Mg基複合材の金属組織において平均径0.05μm以上のSiC粒子がMg母相中に分散すると共に、前記Mg母相の結晶粒サイズが200μm以下であり、摩擦摩耗を受けた際に、この摩擦摩耗を受けた部分にSiC粒子が再凝集して自己被膜形成能を示すと共に、乾式摩擦摩耗試験によって得られる摩擦係数が0.15以下であることを特徴としている。
本発明の摺動部材は、前記Mg基複合材を含む摺動部材であって、Mg基複合材からなる摺動面を有し、摺動面が摩擦摩耗を受けた際に、この摩擦摩耗を受けた部分にSiC粒子が再凝集して自己被膜形成能を示すと共に、摺動部材は、乾式摩擦摩耗試験によって得られる摩擦係数が0.15以下であることを特徴としている。
本発明のMg基複合材の製造方法は、前記Mg基複合材の製造方法であって、Mg粉末と、平均径0.05μm以上のSiC粉末とを含有する混合粉末をビレット内に充填、封入する工程、であって、前記混合粉末におけるSiC粉末の含有量が、Mg粉末とSiC粉末との合計量に対して65質量%未満であり、混合粉末を充填、封入した前記ビレットに、50℃以上、550℃以下の温度で断面減少率50%以上の温間または熱間ひずみ付与加工を施す工程を含むことを特徴としている。
このMg基複合材の製造方法は、温間または熱間ひずみ付与加工が、押出加工、鍛造加工、圧延加工、または引抜加工であることが好ましい。
本発明によれば、強度特性を有しながらも優れた摩擦摩耗特性を有する。
温間または熱間ひずみ付与加工に用いるビレットの形状の例を模式的に示した図である。 実施例におけるMg基複合材の(a)外観および(b)断面写真である。 Mg基複合材(試料番号:No.2)の微細組織を走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析により観察した写真であり。(a)はSEM像、(b)はMg元素マップ像、(c)はSi元素マップ像である。 試料番号No.2とNo.5のBall‐on‐Disk試験により得られた摩擦係数と摩擦時間の曲線である。 Mg基複合材(試料番号:No.2)の摩擦時間100秒後の表面様相を走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析により観察した写真であり、(a)はSEM像、(b)はMg元素マップ像、(c)はSi元素マップ像である。 Mg基複合材(試料番号:No.2)の摩擦時間500秒後の表面の様相を走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析により観察した写真であり、(a)はSEM像、(b)はMg元素マップ像、(c)はSi元素マップ像である。 Mg基複合材(試料番号:No.2)の摩擦時間500秒後の摩擦摩耗試験方向に対して垂直断面の様相を走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析により観察した写真であり、(a)はSEM像、(b)はMg元素マップ像、(c)はSi元素マップ像である。
本発明のMg基複合材とその製造方法について1.粉末の調製、2.ビレット準備と混合粉末の充填、3.温間または熱間ひずみ付与加工、4.Mg基複合材の微細組織および摺動部材の順に説明する。
なお、本発明において、Mg粉末の平均径、SiC粉末(SiC粒子)の平均径、Mg母相の結晶粒サイズは、次の方法で測定することができる。
<Mg粉末およびSiC粉末の平均径>
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径(d50、体積基準)を平均径とする。
<SiC粒子の平均径>
個々の粒子の粒径は、SEMまたは光学顕微鏡で観察した像より、D=(L1+L2)/2(ただし、Dは粒径、L1は粒子の長径、L1は粒子の短径を示す。)の式を用いて求める。
平均径は、SEMまたは光学顕微鏡で観察した像より、100個以上の粒子を抽出して個々の粒子の粒径を上記式より求め、その平均値を算出する。
<Mg母相の結晶粒サイズ>
JIS H 0542:2008「マグネシウム合金圧延板の結晶粒度試験方法」記載の切片法により測定、算出する。
1.粉末の調製
本発明に使用される粉末は、Mg粉末およびSiC粉末を含む。
Mg粉末は、純マグネシウムからなり、粉末粒子の密度が1.74である。Mg粉末の平均径は、1μm以上であることが好ましい。粉末径が1μm以上であると、Mgは酸素との反応性が高いため、Mgと添加粉末との混合中に発熱し、発火する危険性を低減でき、作業工程の安全性を高めることができる。Mg粉末は、通常の粉末の他、フライス加工や旋盤加工に代表される機械加工によってMgバルク材から生じる切削粉であってもよく、これらも本明細書では広義にMg粉末と表現する。Mg粉末の平均径の上限は、特に限定されないが、Mg粉末同士の結合・焼結を考慮すると1000μm以下が好ましい。
SiC粉末は、粉末粒子の密度が3.21である。SiC粉末の平均径は、0.05μm以上であり、好ましくは0.1μm以上である。平均径が0.05μm以上であると、単位体積当たりのSiC粉末の表面積が増大することにより、SiC表面に接触する酸素の割合が増加し、酸化物の形成および酸化物の取込みにより、自己被膜形成を阻害することを抑制できる。SiC粉末の平均径の上限は、特に限定されないが、Mg基複合材の高強度化を考慮すると1000μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
使用するSiC粉末の質量は、Mg粉末とSiC粉末との合計量に対して65質量%未満が好ましく、60質量%未満がより好ましく、50質量%未満が更に好ましい。SiC粉末の質量が、SiC粉末とMg粉末との混合粉末の質量に対して65質量%以上であると、温間または熱間ひずみ付与加工後のMg基複合材のMg母相内に、面積率として50質量%以上のSiC粒子が分散することになり、Mg基材と言うことは難しい。
Mg粉末とSiC粉末の混合方法と混合粉末の状態について述べる。混合粉末は、Mg粉末とSiC粉末が相互に偏析することがない状態が好ましい。混合粉末の状態で、いずれかの粉末が偏析している場合、Mg基複合材を用いた摩擦摩耗試験時に、応力集中のサイトになり、本発明の効果を得ることが困難になる場合がある。Mg粉末とSiC粉末が相互に偏析することがない状態にするためには、粉末を微量ずつ、すなわち、一度に追加する粉末質量が50g以下となるよう混合することが好ましい。50gを超えると、混合が難しく、混合粉末の偏析が起こることが懸念される。
混合時に用いる容器は、乳鉢に代表される、粉末を混合できる容器であれば、特に限定されない。Mg粉末とSiC粉末の混合は、作業工程の簡略化から、大気中にて、乳鉢を用いて10分以内で混合することが好ましい。10分以上混合すると、Mg粉末は酸素と反応しやすいため、酸化物などを取り込み健全な混合粉を得ることが難しい。勿論、作業の安全性を考慮し、混合粉末をアルゴン雰囲気内や真空内で、メカニカルアロイング法のように、攪拌機を用いて混合してもよい。
2.ビレット準備と混合粉末の充填
混合粉末を温間または熱間ひずみ付与加工用ビレットに充填する。代表的なビレットの概略を図1に示す。ビレットに用いる材質(素材)は、MgやMg合金などの温間または熱間ひずみ付与加工ができる金属材料であることが好ましい。勿論、MgやMg合金以外の金属材料、例えば、AlやAl合金であってもよい。
ビレットの大きさ:Sは、ひずみ付与加工時に用いる総断面減少率によって変化するが、総断面減少率を好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上とすることが可能な大きさとする。
混合粉末を充填させるための、空隙の大きさ:Vは、ビレット総体積(図1のS×Lに対応)に対して、5%以上、95%以下であることが好ましく、10%以上、90%以下であることがより好ましく、15%以上、85%以下であることが更に好ましい。空隙の大きさ:Vが、5%以上未満の場合、充填できる混合粉末の量が僅かであるため、ひずみ付与加工後、得られた加工材の大部分がビレットに用いる材質となり、Mg基複合材とは言えなくなる場合がある。空隙の大きさ:Vが95%を超える場合、温間または熱間ひずみ付与加工中に、ビレットが割れてしまい、粉末が外部に漏れてしまう場合がある。
ビレット内に混合粉末を入れる方法として、ハンドプレス機によって圧粉体を作製し、ビレット内に入れてもよい。勿論、スプーンに代表され、粉末をすくうことができる容器を用いてビレット内に入れてもよい。その際、全ての作業は、混合粉末と酸素との反応を抑制するため、アルゴン雰囲気内または真空内で実施することが好ましいが、作業上の簡便さから、大気内で行ってもよい。また、混合粉末の充填率を向上させるために、ビレットに混合粉末を充填した後、ハンドプレスを用いて圧力を付与することが好ましい。ただし、Mg粉末とSiC粉末を相互に偏析させないために、ビレットを過度にタッピングしたり、あるいは振動を付与することは望ましくない。混合粉末をビレット内に充填した後、ビレットと同質素材からなる上蓋を用いて、混合粉がこぼれ出ないように密閉する。
3.温間または熱間ひずみ付与加工
温間または熱間ひずみ付与加工の目的は、Mg粉末が結合・焼結し、健全なMg母相にすることと、SiC粉末をSiC粒子としてMg母相内に偏析することなく均質に分散することである。温間または熱間加工の温度は、50℃以上、550℃以下が好ましい。加工温度が50℃未満であると、加工温度が低いため、Mg粉末同士が結合・焼結しない場合がある。また、ビレットに用いた金属材料が加工中に割れてしまい健全な複合材を作製することができない場合がある。加工温度が550℃を超えると、Mg粉末が高温に曝されるため、酸化物(MgO)の形成が懸念される。また、押出加工の金型寿命の低下の原因となり得る。
温間または熱間加工時のひずみ付与は、総断面減少率を好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上とする。総断面減少率が50%未満であると、ひずみ付与が不十分であるため、粉末同士の結合が促進されず、健全な複合材を作製することができない場合がある。温間または熱間加工の方法は、押出加工、鍛造加工、圧延加工、引抜加工などが代表的であるが、ひずみを付与できる塑性加工法であればいずれの加工法であってもよい。
4.Mg基複合材の微細組織および摺動部材
本発明のMg基複合材の微細組織について説明する。Mg粉末は、温間または熱間ひずみ付与加工中に結合・焼結し、Mg母相を形成するが、Mg基複合材の強度特性を維持するために、Mg母相の大きさ、すなわち結晶粒サイズは、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。結晶粒サイズが200μmより粗大な場合、素材に占める結晶粒界の割合が少ないため、転位運動が結晶粒界によって阻害されず、強度特性を改善することが難しい。
また、SiC粉末は、SiC粒子としてMg母相に偏析することなく均質に分散していることが好ましい。SiC粒子の平均径は、0.05μm以上であり、好ましくは0.1μm以上である。平均径が0.05μm以上であると、強度特性を有しながらも優れた摩擦摩耗特性を有する。
本発明によれば、Mg基複合材の金属組織において、SiC粒子がMg母相に偏析することなく均質に分散したMg基複合材を作製できる。そして本発明のMg基複合材を用いた部材は、摩擦摩耗を受けた際に、この摩擦摩耗を受けた部分にSiC粒子が再凝集して自己被膜形成能を示す。これにより、優れた摩擦摩耗特性を有する。すなわち、本発明のMg基複合材は、摩擦摩耗の開始後に急激な摩擦係数の低下が起こり、その後は一定の摩擦係数を示す。このとき、摩擦係数が低下した後の表面は、SiC粒子が、摩擦摩耗を受けた部分に凝集している。これにより、摩擦係数を低く維持することができ、摩擦摩耗試験による摩擦係数を0.15以下とすることができる。
このように、摩擦摩耗特性に優れた材料を提供することができ、本発明のMg基複合材は、摺動部材として好適に用いることができる。この摺動部材は、本発明のMg基複合材を含み、Mg基複合材からなる摺動面を有し、摺動面が摩擦摩耗を受けた際に、この摩擦摩耗を受けた部分にSiC粒子が再凝集して自己被膜形成能を示す。このように自己被膜形成能を示すことで、定常的に摩擦摩耗を受ける摺動面の特性を改善できることから、この摺動部材は、摺動を受ける部分のマグネシウム製機械部品に好適であり、自動車部品、宇宙機器部品、航空機部品など各種の分野での適用が期待できる。
また、押出をはじめとするMgおよびMg合金展伸材は、Mgの結晶構造(六方晶)に起因し、底面が加工方向に揃う。そのため、引張変形と圧縮変形では、降伏応力に大きな違いが生じ、三次元等方変形が難しいことで知られている。この降伏異方性は、低い変形応力で発生する変形応力が原因である。一方で、微細な粒子をMg母相に分散することで、変形双晶の形成が抑制される、または、双晶変形の形成する応力が高くなる。そのため、本発明によれば、降伏異方性が低減し、三次元等方変形可能なMgおよびMg合金を提供することが可能である。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
市販の純Mg粉末(粉末径180μm)と、市販のSiC粉末(粉末径2〜3μm)を用いた。SiC粉末の質量は、SiC粉末とMg粉末の混合粉末の質量に対して、17%、25%、32%(Mg基複合材のMg母相に分散するSiC粒子の面積率10%、15%、20%に相当)となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢内にて、Mg粉末と乾式混合した。MgとSiCの混合粉末を充填するために、外径40mm、長さ70mmからなる市販のMg合金(Mg‐3Al‐1Zn;AZ31)材を使用し、機械加工にて内径20mm、深さ55mmの穴を開け、図1に示すコップ型形状からなる押出ビレットを作製した。前記混合粉を押出ビレット内に充填した後、直径20mm、厚さ5mmからなるMg合金(AZ31)材を用いて密閉した。その後、250℃に設定したコンテナ内で30分間以上保持した後、押出比16:1にて押出による熱間ひずみ付与加工を行い、直径10mmで長さ500mm以上の形状からなる押出材(以下、Mg基押出複合材と称する。)を作製した。表1に、各Mg基押出複合材の創製条件をまとめている。図2にMg基押出複合材の外観および断面写真を示す。外観写真から、表面にはき裂や欠陥などがなく、健全な長尺材の創製が確認できる。また、断面観察から、外周部は、Mg合金(AZ31)からなり、内部は、MgとSiCからなる複合材によって作製されていることが分かる。
走査型電子顕微鏡(SEM)に設置されているエネルギー分散型X線分析(EDS)を用いたMg基押出複合材(試料番号;No.2)の断面微細組織観察例を図3に示す。EDS分析から、図3(a)の白色コントラストを示す領域は、図3(b)ではMg検出濃度が低く、図3(c)ではSi検出濃度が高く、その大きさ(直径)が数ミクロン程度であることから、SiC粒子であることが分かる。一例を、白矢印にて示している。図3より、添加粉末であるSiC粒子が、Mg母相に対して均一に分散していることが確認できる。また、Mg母相の平均結晶粒サイズを求めるため、光学顕微鏡を用いて、作製したMg基押出複合材の微細組織観察を行った。切片法によって求めた各Mg基押出複合材の平均結晶粒サイズを表1にまとめている。Mg粉末との混合時のSiC粉末径やSiC含有率に関係なく、Mg母相の平均結晶粒サイズは、約15μmであった。
ビッカース硬さ試験機を用いて、Mg基押出複合材の硬さを測定した。得られた結果を表1にまとめている。SiC粉末の添加量の増加にともない、硬さの増加が確認できる。各Mg基押出複合材のMg母相の平均結晶粒サイズが15μm程度であったことから、硬さの違いは、Mg母相に対するSiC粒子の分散量(Mg母相に対する面積率)に起因することが分かる。
Ball‐on‐Disk型摩擦摩耗試験機を用いて、Mg基押出複合材の乾式摩擦摩耗特性を調査した。Mg基押出複合材を押出方向に対して垂直方向に切断した面を測定面とし、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)からなる直径4.7mmのボールを用いて、ディスク中心からの距離、すなわち回転半径1mm、付加加重0.49N、回転速度9.5rpm、試験時間5000秒の条件にて、乾式摩擦摩耗試験を実施した。乾式摩擦摩耗試験によって得られた、試料番号No.2の摩擦係数と試験時間との関係を図4に示す。試験開始時の摩擦係数は、0.35程度の値を示すが、試験時間;約250秒において、摩擦係数が0.1程度まで急激な低下が起こり、その後、一定の摩擦係数(約0.1)を示すことが確認できる。
SEM-EDSを用いた試料番号No.2の摩擦係数の低下が起こる前と後の表面観察例を図5と図6に示す。図5は、摩擦係数が低下する前(試験時間 約100秒)の表面観察の結果である。図3と同様に、SiC粒子が、Mg母相に対して均一に分散していることが確認できる。一方、図6は、摩擦係数が低下した直後(試験時間 500秒)の表面観察例を示している。図5と異なり、SiC粒子が、摩擦摩耗試験によって形成されたスクラッチ痕に凝集していることが分かる。また、図7は、摩擦係数が低下した直後(試験時間;500秒)の摩擦摩耗試験方向に対して垂直方向から観察した断面観察結果を示している(図6と図7は、試験条件は同じであり、観察面が異なるだけである。)。図7(a)の白矢印は、摩擦摩耗面を表している。摩擦摩耗面近傍において、図7(b)ではMgの濃度が低いのに対し、図7(c)ではSiの濃度が高いことが分かる。これらの結果から、摩擦係数の低下は、SiC粒子の凝集、すなわち、自己皮膜形成によって生じると言える。表1に、摩擦摩耗試験時間5000秒後の摩擦係数と、自己皮膜形成によって摩擦係数が低下したMg基押出複合材について、丸印で示している。
摩耗量は、摩擦摩耗試験後、測定面の表面粗さをレーザー顕微鏡によって計測し、式(1)によって求めた。ただし、摩耗量は、付与加重Pや、すべり距離Dなどによって変化するため、比摩耗量Kを用いて摩耗特性を評価した。
式(1)のAは、レーザー顕微鏡などから計測される断面積で、bは、Ball‐on‐Disk試験時のボールの回転円周(本実施例では6.2mm)である。表1に、各Mg基押出複合材の比摩耗量をまとめている。各Mg基押出複合材の比摩耗量は、SiC粉末を含有していないMg基押出材(比較例 試料番号No.5)と比べて小さい値を示し、摩耗特性に優れていることが分かる。
<実施例2>
市販のSiC粉末(粉末径130nm)で、SiC粉末の質量がSiC粉末とMg粉末の混合粉末の質量に対して17%(Mg基複合材のMg母相に分散するSiC粒子の面積率10%に相当)であること以外は、実施例1と全く同じ手順で、混合粉末を作製し、混合粉末をビレットに充填した後、押出加工を行った。平均結晶粒サイズや硬度特性、摩擦摩耗特性の結果について表1にまとめている。混合粉末のSiC粉末径が微細であっても、実施例1と同様に、優れた摩擦摩耗特性を示すことが確認できる。
<比較例1>
SiC粉末を用いなかったこと以外は、実施例と全く同じ手順で、Mg粉末をビレットに充填し、押出加工を行った。以下、得られた試料はMg基押出材と称する。
<比較例2>
市販のSiC粉末(粉末径20nm)で、SiC粉末の質量がSiC粉末とMg粉末の混合粉末の質量に対して17%(Mg基複合材のMg母相に分散するSiC粒子の面積率10%に相当)であること以外は、実施例1と全く同じ手順で混合粉末を作製し、混合粉末をビレットに充填した後、押出加工を行った。以下、得られた試料は、Mg基押出複合材比較例と称する。
光学顕微鏡およびビッカース硬さ試験を用いて測定した、Mg基押出材とMg基押出複合材比較例の平均結晶粒サイズと硬さを表1にまとめている。Mg基押出材とMg基押出複合材比較例の押出温度が、それぞれ、実施例1、2と同じであったことから、平均結晶粒サイズは同程度(約15μm)であることが確認できる。また、Mg基押出材では、SiC粉末を含有していないことから、実施例1、2のMg基押出複合材と比較して、硬さは低いことが分かる。
図4に、摩擦摩耗試験によって得られたMg基押出材の摩擦係数と試験時間との関係を示す。実施例の試料番号No.2と異なり、摩擦摩耗時間が5000秒に到達しても、摩擦係数はほぼ一定の値(約0.35)を示し、自己皮膜形成が起こっていないことが分かる。更に、式(1)によって得られた比摩耗量は、実施例1、2と比較して、大きな値を示し、Mg基押出材は、優れた摩擦摩耗特性を有するとは言い難い。一方で、Mg基押出複合材比較例は、Mg母相内にSiC粒子が分散するが、実施例1、2のMg基押出複合材で観察された自己被膜形成を確認することができなかった。また、Mg基押出複合材比較例の比摩耗量は、実施例1、2と比較して大きな値を示した。以上の結果から、Mg基押出複合材比較例は優れた摩擦摩耗特性を示さず、混合粉末を作製する際のSiC粉末径(SiC粉末の大きさ)が重要であることが分かる。

Claims (8)

  1. SiC粒子の含有量が65質量%未満、残部をMg及び不可避的不純物とする組成を有し、
    前記Mg基複合材の金属組織において平均径0.05μm以上のSiC粒子がMg母相中に分散すると共に、前記Mg母相の結晶粒サイズが200μm以下であり、
    摩擦摩耗を受けた際に、この摩擦摩耗を受けた部分に前記SiC粒子が再凝集して自己被膜形成能を示すと共に、乾式摩擦摩耗試験によって得られる摩擦係数が0.15以下であるMg基複合材。
  2. 前記Mg母相の結晶粒サイズが50μm以下である請求項1に記載のMg基複合材。
  3. 前記SiC粒子の含有量が50質量%未満である請求項1または2に記載のMg基複合材。
  4. 前記SiC粒子の平均径が0.1μm以上100μm以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載のMg基複合材。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のMg基複合材を含む摺動部材であって、
    前記Mg基複合材からなる摺動面を有し、
    前記摺動面が摩擦摩耗を受けた際に、この摩擦摩耗を受けた部分に前記SiC粒子が再凝集して自己被膜形成能を示すと共に、乾式摩擦摩耗試験によって得られる摩擦係数が0.15以下である摺動部材。
  6. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のMg基複合材の製造方法であって、
    Mg粉末と、平均径0.05μm以上のSiC粉末とを含有する混合粉末をビレット内に充填、封入する工程、であって、前記混合粉末におけるSiC粉末の含有量が、Mg粉末とSiC粉末との合計量に対して65質量%未満であり、
    前記混合粉末を充填、封入した前記ビレットに、50℃以上、550℃以下の温度で断面減少率50%以上の温間または熱間ひずみ付与加工を施す工程を含む、Mg基複合材の製造方法。
  7. 前記温間または熱間ひずみ付与加工を施す工程は、前記混合粉末を充填、封入した前記ビレットに、50℃以上、250℃以下の温度で断面減少率50%以上の温間または熱間ひずみ付与加工を施す、請求項6に記載のMg基複合材の製造方法。
  8. 前記温間または熱間ひずみ付与加工が、押出加工、鍛造加工、圧延加工、または引抜加工である請求項またはに記載のMg基複合材の製造方法。
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