<第1実施形態>
図1は、本発明の好適な実施形態に係る測定装置100の側面図である。第1実施形態の測定装置100は、被験者の動脈の血管径(半径)を測定する測定機器であり、被験者の身体のうち測定対象となる部位(以下「測定部位」という)Mに装着される。第1施形態では、被験者の手首を測定部位Mとして例示する。
第1実施形態の測定装置100は、測定部位Mに巻回されるベルト14と当該ベルト14に固定される筐体部12とを具備する腕時計型の携帯機器であり、測定部位Mの例示である手首にベルト14を巻回することで被験者の手首に装着可能である。第1実施形態の測定装置100は、被験者の手首の表面に接触する。第1実施形態の測定装置100は、測定部位Mの内部に存在する動脈(例えば橈骨動脈)の血管径を測定する。
ここで、心臓は拡張期と収縮期とを交互に繰り返すことで拍動をしている。拡張期は、心臓が拡張し、静脈中の血液が右心室および左心室に流れ込む期間である。それに対して、収縮期は、心臓が収縮し、右心室および左心室が動脈に血液を送り出す期間である。以下、拡張期において最も心臓が拡張する時を、最大拡張時といい、収縮期において最も心臓が収縮する時を最小収縮時という。最小収縮時に到達すると、拡張期が開始されて所定の時間をかけて最大拡張時に到達する。最大拡張時に到達すると収縮期が開始されて所定の時間をかけて最小収縮時に到達する。収縮期では、拡張期と比較して、血管V中の血流量Qが増加するとともに血管径rおよび断面積Aが増加する。図2は、最大拡張時における血管Vの模式図である。最大拡張時における血管径r0、血管断面積A0および血流量Q0は、拡張期において最小である。図3は最小収縮時における血管Vの模式図である。最小収縮時における血管径r1、血管断面積A1および血流量Q1は、収縮期において最大である。以下、最大拡張時と最小収縮時との間における血管径r、血管断面積Aおよび血流量Qの変動幅を、それぞれ変化量Δr、変化量ΔA、および変化量ΔQという。
最大拡張時における血管径r0は、動脈硬化やストレス等の健康状態を表す指標としても利用され得る。以上の事情を考慮して、第1実施形態の測定装置100は、最大拡張時における血管径r0を算出する。以下、第1実施形態における血管径r0の算出方法を説明する。ここで、最大拡張時から最小収縮時までにおける血管Vの体積の変化量(増加量)は、以下の式(1)で表現される。Lは、血管径rおよび断面積Aと血流量Qとの増加が発生している区間の区間長であり、Δtは、収縮期全体の時間長(つまり収縮期の開始から最小収縮時までの時間)である。
区間長Lは、脈波伝搬速度PWVを利用して以下の式(2)で表現される。脈波伝搬速度PWVは、心臓の拍動(脈波)が動脈内で伝搬する速度である。
式(1)に式(2)を代入すると以下の式(3)が導出される。
断面積Aの変化量ΔAは、以下の式(4)で表現される。
式(3)に式(4)を代入すると以下の式(5)が導出される。式(5)から理解される通り、最大拡張時の血管径r0は、血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVとから算出することが可能である。以上の知見を背景として、第1実施形態の測定装置100は、血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVとの各々を算出して、血管径r0を算出する。
図4は、測定装置100の機能に着目した構成図である。図4に例示される通り、第1実施形態の測定装置100は、制御装置22と記憶装置24と表示装置26と複数の検出部(第1検出部71、第2検出部73および第3検出部75)とを具備する。制御装置22および記憶装置24は、筐体部12の内部に設置される。図1に例示される通り、表示装置26(例えば液晶表示パネル)は、筐体部12の表面(例えば測定部位Mとは反対側の表面)に設置され、測定結果を含む各種の画像を制御装置22による制御のもとで表示する。
複数の検出部の各々は、測定部位Mの状態に応じた検出信号を生成するセンサモジュールであり、例えば筐体部12のうち測定部位Mとの対向面(以下「検出面」という)28の相異なる位置に設置される。検出面18は、平面または曲面である。
第1検出部71は、測定部位Mを透過したレーザー光の受光強度を表す第1検出信号Z1を生成する。具体的には、第1検出部71は、図5に例示される通り、発光部Eと受光部Rとを具備する。発光部Eと受光部Rとは、測定部位Mに対向する検出面18に設置される。
図5の発光部Eは、干渉性が高いコヒーレントな光(すなわちレーザー光)を出射する発光素子である。レーザーを発光する発光素子としては、面発光レーザー(VCSEL、Vertical Cavity Surface Emitting LASER)、フォトニック結晶レーザー、半導体レーザー等が適用可能である。
発光部Eから出射した光は、測定部位Mに入射するとともに測定部位Mの内部で反射および散乱を繰り返したうえで検出面18側に出射して受光部Rに到達する。すなわち、発光部Eと受光部Rとで反射型の光学センサとして機能する。
受光部Rは、測定部位Mから到達する光の受光レベルに応じた第1検出信号Z1を生成する。例えば、測定部位Mに対向する受光面で光を受光するフォトダイオード(PD:Photo Diode)等の光電変換素子が受光部Rとして好適に利用される。なお、第1検出部71は、例えば、駆動電流の供給により発光部Eを駆動する駆動回路と、受光部Rの出力信号を増幅およびA/D変換する出力回路(例えば増幅回路とA/D変換器)を包含するが、図4では各回路の図示を省略した。
測定部位Mの血管Vは、拍動と同等の周期で反復的に拡張および収縮する。拡張時と収縮時とで血管V内の血流量Qは相違するから、測定部位Mからの受光レベルに応じて受光部Rが生成する第1検出信号Z1は、測定部位Mの血管Vの血流量Qの変動に対応した周期的な変動成分を含む脈波信号である。
図4の第2検出部73は、測定部位Mの表面の変位を表す第2検出信号Z2を生成する。第1実施形態の第2検出部73は、図6に例示される通り、気圧センサ50とチューブ52とを具備し、測定部位Mに対向する検出面18おいて第1検出部71とは異なる位置に設置される。例えば絶対圧センサが気圧センサ50として好適に利用される。図6に例示される通り、チューブ52の一方の端部は気圧センサ50に接続され、他方の端部は測定部位Mに接触する。シリコンチューブがチューブ52として好適に利用される。気圧センサ50は、チューブ52内の圧力に応じた第2検出信号Z2を生成する圧電素子(図示略)を具備する。なお、気圧センサ50は、例えば、出力信号を増幅およびA/D変換する出力回路(例えば増幅回路とA/D変換器)を包含するが、図6では各回路の図示を省略した。
拍動と同等の周期で反復的に拡張および収縮する血管Vに応じて、測定部位Mの表面も変位する。収縮期では、血管径rの増加に応じて表面が気圧センサ50に近づく。したがって、測定部位Mの表面に接触しているチューブ52内の空間は、測定部位Mの表面により押圧される。チューブ52内の圧力は、測定部位Mの表面による押圧に応じて変化する。例えば、図7における収縮期のチューブ52内の圧力P1は、図6における拡張期のチューブ52内の圧力P0よりも大きい。以上の説明から理解される通り、測定部位Mと接触するチューブ52内の圧力に応じて気圧センサ50が生成する第2検出信号Z2は、測定部位Mの表面の変位に対応した周期的な変動成分を含む脈波信号である。
図4の第3検出部75は、測定部位Mを透過したレーザー光の受光強度を表す第3検出信号Z3を生成する。第3検出部75は、図5の第1検出部71と同様の発光部Eおよび受光部Rを含み、測定部位Mに対向する検出面18において第1検出部71および第2検出部73とは異なる位置に設置される。第3検出信号Z3は、測定部位Mの血管Vの血流量Qの変動に対応した周期的な変動成分を含む第1検出信号Z1と同様の脈波信号である。
ただし、第3検出部75の発光部Eとしては、インコヒーレントな光を出射するLED(Light Emitting Diode)を発光素子として利用することも可能である。LEDを発光素子として利用した場合は、測定部位Mを透過したインコヒーレントな光の受光強度を表す第3検出信号Z3が生成される。以上の説明から理解される通り、第1実施形態の第3検出部75は、光学的に検出された容積脈波を表す第3検出信号Z3を生成する要素として包括的に表現され、光学的に検出された容積脈波は、コヒーレント光の受光強度とインコヒーレントな光の受光強度との双方を含む。
図4の制御装置22は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の演算処理装置であり、測定装置100の全体を制御する。記憶装置24は、例えば不揮発性の半導体メモリーで構成され、制御装置22が実行するプログラムや制御装置22が使用する各種のデータを記憶する。第1実施形態の制御装置22は、記憶装置24に記憶されたプログラムを実行することで、被験者の血管径r0を測定するための複数の機能を実現する。なお、制御装置22の機能を複数の集積回路に分散した構成や、制御装置22の一部または全部の機能を専用の電子回路で実現した構成も採用され得る。また、図4では制御装置22と記憶装置24とを別体の要素として図示したが、記憶装置24を内包する制御装置22を例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)等により実現することも可能である。
第1算出部61は、血流量Qの変化量ΔQを算出する。血流量Qの変化量ΔQの算出には、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1を利用する。まず、第1算出部61は、以下の式(6)を利用して、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1から、図8に例示される、血流量Qの時間変化を算出する。fdは、静止した組織からの散乱光と動いている血球からの散乱光との干渉によって生じるうなり信号の周波数である。Φ(fd)は第1検出信号Z1のパワースペクトルであり、Iは受光部Rの受光強度である。パワースペクトルΦ(fd)の算出には、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)等の公知の技術が任意に採用され得る。
第1算出部61は、算出した血流量Qの時間変化から、血流量Qの変化量ΔQを算出する。具体的には、特定部は、血流量Qの時間変化の振幅の最大値(つまり血流量Q1)と最小値(つまり血流量Q0)との差を変化量ΔQとして算出する。血流量Q1は、複数周期にわたる最大値の平均であり、血流量Q0は、複数周期にわたる最小値の平均である。
図4の第2算出部63は、血管径rの変化量Δrを算出する。血管径rの変化量Δrの算出には、第2検出部73が生成した第2検出信号Z2を利用する。まず、第2算出部63は、第2検出部73が生成した第2検出信号Z2から、図9に例示される、チューブ52内の圧力の時間変化を算出する。チューブ52内の圧力の算出には、公知の任意の技術が採用され得る。次に、第2算出部63は、以下の式(7)を利用して、変化量Δrの時間変化を算出する。P0は、図9における複数周期にわたる最小値(つまり最大拡張時の圧力)の平均である。P1は、図9における複数周期にわたる最大値(つまり最小収縮時の圧力)の平均である。y0は、図6のチューブ52の長さである。
図4の第3算出部65は、脈波伝搬速度PWVを算出する。脈波伝搬速度PWVの算出には、第3検出部75が生成した第3検出信号Z3と、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1とが利用される。第3算出部65は、第1検出信号Z1と第3検出信号Z3との波形立ち上がり時刻のズレ量ΔTで2点間距離Lを除算することで脈波伝搬速度PWV(=L/ΔT)を算出することが可能である。距離Lは、第1検出部71から第3検出部75までの距離であり、既知の所定値である。実際には、第1実施形態の第3算出部65は、複数周期におけるズレ量ΔTの平均値を利用して脈波伝搬速度PWVを算出する。
血管径算出部67は、血管径r0を算出する。具体的には、血管径算出部67は、第1算出部61が算出した血流量Qの変化量ΔQと、第2算出部63が算出した血管径rの変化量Δrと、第3算出部65が算出した脈波伝搬速度PWVとから、式(5)を利用して血管径r0を算出する。血管径算出部67は、算出した血管径r0を表示装置26に表示させる。
図10は、制御装置22が実行する処理のフローチャートである。被験者からの測定開始の指示(プログラムの起動)を契機として図10の処理が開始される。第1算出部61は、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1から血流量Qの変化量ΔQを算出する(S1)。第2算出部63は、第2検出部73が生成した第2検出信号Z2から血管径rの変化量Δrを算出する(S2)。第3算出部65は、第3検出部75が生成した第3検出信号Z3と、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1とから脈波伝搬速度PWVを算出する(S3)。血管径算出部67は、第1算出部61が算出した血流量Qの変化量ΔQと、第2算出部63が算出した血管径rの変化量Δrと、第3算出部65が算出した脈波伝搬速度PWVとから血管径r0を算出する(S4)。血管径算出部67は、算出した血管径r0を表示装置26に表示させる(S5)。血流量Qの変化量ΔQの算出(S1)と、血管径rの変化量Δrの算出(S2)と、脈波伝搬速度PWVの算出(S3)との順序は任意に変更され得る。ステップS1からステップS5までの処理は、所定の間隔で反復して実行される。
以上の説明から理解される通り、第1実施形態では、血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVとから血管径r0を算出することが可能である。第1実施形態では特に、血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVとの各々の算出に利用する検出信号を、例えば生体に装着するカフを利用しなくても生成することが可能である。したがって、装置の小型化および被験者への負担の低減が可能である。ひいては、血管径r0の常時計測も可能になる。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各構成において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
第1実施形態の第3算出部65は、第3検出部75が生成した第3検出信号Z3と第1検出部71が生成した第1検出信号Z1とから脈波伝搬速度PWVを算出した。一方、第2実施形態の第3算出部65は、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1と第2検出部73が生成した第2検出信号Z2とから脈波伝搬速度PWVを算出する。
図11は、第2実施形態における測定装置100の機能に着目した構成図である。第2実施形態の測定装置100は、第1実施形態の測定装置100における第3検出部75を具備しない構成である。第1検出部71および第2検出部73は、第1実施形態と同様である。具体的には、第1検出部71は、測定部位Mを透過したレーザー光の受光強度を表す第1検出信号Z1を第1実施形態と同様に生成し、第2検出部73は、測定部位Mの表面の変位を表す第2検出信号Z2を第1実施形態と同様に生成する。
第2実施形態の第1算出部61は、第1実施形態と同様に、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1から血流量Qの変化量ΔQを算出する。第2実施形態の第2算出部63は、第1実施形態と同様に、第2検出部73が生成した第2検出信号Z2から血管径rの変化量Δrを算出する。
第2実施形態の第3算出部65は、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1と第2検出部73が生成した第2検出信号Z2とから脈波伝搬速度PWVを算出する。具体的には、第3算出部65は、第1検出信号Z1と第2検出信号Z2との波形立ち上がり時刻のズレ量ΔTで2点間距離Lを除算することで(PWV=L/ΔT)算出することが可能である。距離Lは、第1検出部71から第2検出部73までの距離である。
血管径算出部67は、第1実施形態と同様に、第1算出部61が算出した血流量Qの変化量ΔQと、第2算出部63が算出した血管径rの変化量Δrと、第3算出部65が算出した脈波伝搬速度PWVとから、式(5)を利用して血管径r0を算出する。血管径算出部67は、算出した血管径r0を表示装置26に表示させる。
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。第2実施形態では特に、血流量Qの変化量ΔQの算出に利用される第1検出信号Z1と、血管径rの変化量Δrの算出に利用される第2検出信号Z2とから脈波伝搬速度PWVが算出される。したがって、第1検出部71および第2検出部73とは別個の第3検出部75を利用して脈波伝搬速度PWVを算出する第1実施形態の構成と比較して、小型化が可能になる。ただし、血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVとの各々の算出に利用される検出信号を別個の検出部から生成する第1実施形態の構成によれば、脈波伝搬速度PWVの算出に好適な特性の第3検出部75を使用できるという利点がある。
<第3実施形態>
第1実施形態の第2算出部63は、第2検出部73が生成した第2検出信号Z2から血管径rの変化量Δrを算出した。一方、第3実施形態の第2算出部63は、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1から血管径rの変化量Δrを算出する。
図12は、第3実施形態における測定装置100の機能に着目した構成図である。第3実施形態の測定装置100は、第1実施形態の測定装置100における第2検出部73を具備しない構成である。第1検出部71および第3検出部75は、第1実施形態と同様である。具体的には、第1検出部71は、測定部位Mを透過したレーザー光の受光強度を表す第1検出信号Z1を第1実施形態と同様に生成し、第3検出部75は、測定部位Mを透過したレーザー光の受光強度を表す第3検出信号Z3を第1実施形態と同様に生成する。
第3実施形態の第1算出部61は、第1実施形態と同様に、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1から血流量Qの変化量ΔQを算出する。第3実施形態の第3算出部65は、第1実施形態と同様に、第3検出部75が生成した第3検出信号Z3と第1検出部71が生成した第1検出信号Z1とから脈波伝搬速度PWVを算出する。
第3実施形態の第2検出部73は、第1検出部71が生成した第1検出信号Z1から血管径rの変化量Δrを算出する。ここで、測定部位Mを透過したレーザー光の受光強度は、測定部位Mの内部にある赤血球の吸光度Absに対応する。したがって、受光強度を表す第1検出信号Z1の振幅(例えば複数周期にわたる振幅の平均)は、図13に例示される通り、最大拡張時と最小収縮時との間における赤血球の吸光度Absの変化量ΔAbsを表わしているとも言える。赤血球の吸光度Absは、以下の式(8)で表現される。εはモル吸光係数であり、cは赤血球濃度であり、lは光路長である。
ここで、図5の第1検出部71において光路長lは、レーザー光が通過する血管Vの直径(=2×血管径r)により変動するので、最大拡張時の吸光度Absは以下の式(9)として表現され、最小収縮時の吸光度Absは以下の式(10)として表現される。
式(9)および式(10)から、最大拡張時と最小収縮時との間における変化量ΔAbsは、以下の式(11)で表現される。モル吸光係数εおよび赤血球濃度cは、短期間の拍動においては一定と仮定できる。式(11)から理解される通り、Δrは、ΔAbsと相関がある。以上の知見を背景として、第3実施形態の第2検出部73は、ΔAbsを利用して血管径rの変化量Δrを算出する。ΔAbsの算出には、上述した通り、第1検出信号Z1の振幅を利用する。
血管径算出部67は、第1実施形態と同様に、第1算出部61が算出した血流量Qの変化量ΔQと、第2算出部63が算出した血管径rの変化量Δrと、第3算出部65が算出した脈波伝搬速度PWVとから、式(5)を利用して血管径r0を算出する。血管径算出部67は、算出した血管径r0を表示装置26に表示させる。
第3実施形態では特に、血流量Qの変化量ΔQの算出に利用される第1検出信号Z1から血管径rの変化量Δrが算出される。したがって、第1検出部71とは別個の第2検出部73を利用して血管径rの変化量Δrを算出する第1実施形態の構成と比較して、小型化が可能になる。
<変形例>
以上に例示した形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を適宜に併合することも可能である。
(1)前述の各形態では、測定装置100は血管径r0を算出したが、血管径r0以外の指標を算出することも可能である。例えば、血管断面積A0を算出する構成も採用され得る。具体的には、測定装置100は、血管径算出部67が算定した血管径r0から血管断面積A0を算出(A0=r02×π)する。
また、本発明の好適な態様は、血圧を測定する血圧測定装置10としても特定され得る。具体的には、血圧測定装置10の制御装置22は、図14に例示される通り、前述の各形態と同様の機能(第1算出部61、第2算出部63、第3算出部65および血管径算出部67)に加えて、血圧を測定する血圧算出部69として機能する。血圧算出部69は、血管径算出部67が算出した血管径r0から血圧を算出する。具体的には、血圧算出部69は、血管径算出部67が算定した血管径r0から、以下の式(12)を利用して血管径r(t)の時間変化を算出する。Δr(t)は、任意の時間tについて前述の式(7)で算出された血管径rの変化量である。血管径r(t)の時間変化と血圧との間には相関がある。以上の相関を利用して、血圧算出部69は、血管径算出部67が算出した血管径r0から血圧を算出する。以上に説明した血圧測定装置10によれば、体に装着したカフを原理的には利用しなくても、血圧を算出することが可能である。
(2)前述の各形態では、第3算出部65は、脈波伝搬速度PWVを算出したが、例えば脈波伝搬時間を算出することも可能である。脈波伝搬時間は、動脈内で脈波が所定距離だけ伝搬するのに必要な時間である。第3算出部65は、脈波が伝搬する速度に関する伝搬指標を算出する要素として包括的に表現され、脈波伝搬速度PWVおよび脈波伝搬時間は伝搬指標の例示である。
(3)第1実施形態および第2実施形態では、第2検出部73の気圧センサ50として絶対圧センサを利用したが、ゲージ圧センサを気圧センサ50として利用することも可能である。以上の構成では、第2検出部73は気圧センサ50とチューブ52とに加えて大気圧計が必要になる。絶対圧センサを利用する構成によれば、大気圧計が不要であるという利点がある。
(4)第1実施形態および第2実施形態の第2検出部73は、測定部位Mの表面の変位を表す第2検出信号Z2として、気圧センサ50と気圧センサ50に接続されるチューブ52とを利用して生成したが、測定部位Mの表面の変位を表す第2検出信号Z2を生成する方法は以上の例示に限定されない。例えば、測定部位Mの表面にレーザーを照射するレーザー変位計を利用して、測定部位Mの表面の変位を表す第2検出信号Z2を生成することも可能である。以上の構成によれば、気圧センサ50と気圧センサ50に接続されるチューブ52とを利用する構成と比較して、第2検出信号Z2を非接触で生成できるという利点がある。
(5)第3実施形態の第2算出部63は、赤血球の吸光度Absの変化量ΔAbsを利用して血管径rの変化量Δrを算出したが、血管径rの変化量Δrを算出する方法は以上の例示に限定されない。例えば、光路領域における赤血球数の指標(以下「赤血球指標」という)MASSの変化量ΔMASSと血管径rの変化量Δrとは相関がある。したがって、第2算出部63は、最大拡張時と最小収縮時との間における赤血球指標MASSの変化量ΔMASSを利用して血管径rの変化量Δrを算出することも可能である。具体的には、第2算出部63は、第2検出信号Z2から赤血球指標MASSの時間変化を算出し、当該赤血球指標MASSの時間変化から血流量Qの変化量ΔQを算出する。赤血球指標MASSの算出には、以下の式(13)が利用される。
(6)第1実施形態および第2実施形態の第2検出部73は、測定部位Mの表面の変位を表す第2検出信号Z2を生成したが、第2検出部73が生成する第2出信号Z2の種類は以上の例示に限定されない。例えば、第2検出部73は、光学的に検出された容積脈波を表す第2検出信号Z2を生成することも可能である。以上の構成によれば、第2検出部73は、第1実施形態および第3実施形態の第3検出部75と同様に発光部Eと受光部Rとを具備する。発光部Eが出射する光は、第1実施形態および第3実施形態の第3検出部75と同様に、コヒーレント光でもインコヒーレントな光でもよい。ただし、測定部位Mの表面の変位を表す第2検出信号Z2を生成する構成によれば、容積脈波を表す第2検出信号Z2を生成する構成と比較して、毛細血管の影響が少ない第2検出信号Z2を生成することが可能である。以上の説明から理解される通り、第2検出部73は、生体(測定部位M)の表面の変位または光学的に検出された容積脈波を表す第2検出信号Z2を生成する要素として包括的に表現される。
(7)第1実施形態の第3検出部75は、光学的に検出された容積脈波を表す第3検出信号Z3を生成したが、第3検出部75が生成する第3検出信号Z3の種類は以上の例示に限定されない。例えば、生体の表面の変位を表す第3検出信号Z3を生成することも可能である。生体の表面の変位を表す第3検出信号Z3を生成する構成によれば、第3検出部75は、第1実施形態および第2実施形態の第2検出部73と同様に、気圧センサ50とチューブ52とを利用して第3検出信号Z3を生成する。また、心臓の拍動に応じて電気的に検出された心電波形を表す第3検出信号Z3を生成することも可能である。心電波形を表す第3検出信号Z3を生成する構成では、心電計(ECG)が第3検出部75として好適に利用され得る。心電計(ECG)を第3検出部75として利用する構成では、心臓を挟んで異なる位置に2個の電極を装着する必要がある。したがって、測定装置100の小型化の観点からは、生体の表面の変位または光学的に検出された容積脈波を表す第3検出信号Z3を生成する構成が好適である。以上の説明から理解される通り、第3検出部75は、生体の表面の変位、光学的に検出された容積脈波、または、心臓の拍動に応じて電気的に検出された心電波形を表す第3検出信号Z3を生成する要素として包括的に表現される。
(8)第1実施形態の第1検出部71は、測定部位Mを透過したレーザー光の受光強度を表す第1検出信号Z1を生成したが、第1検出部71が生成する第1検出信号Z1の種類は以上の例示に限定されない。例えば、第1検出部71は、測定部位Mを透過した超音波の受信強度を示す第1検出信号Z1を生成することも可能である。ただし、測定部位Mを透過したレーザー光の受光強度を表す第1検出信号Z1を生成する第1実施形態の形態によれば、測定部位Mを透過した超音波の受信強度を示す第1検出信号Z1を生成する構成と比較して小型化が可能である。
(9)前述の各形態において、測定装置100は、算出した血管径r0を利用して血管Vの収縮を利用者に報知する構成も採用され得る。例えば、急激な温度差によるヒートショック等が原因で血管Vが収縮すると、血管径r0は減少する。血管径算出部67は、所定の間隔で(例えば数時間毎に)計測された血管径r0の変化量(低下量)と所定の閾値との比較結果に応じて、変化量が所定の閾値を上回る場合に表示装置26に血管Vの収縮の発生を報知させる。
(10)前述の各形態では、血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVとを複数周期にわたる振幅を利用して算出したが、1周期の振幅(つまり1拍分の振幅)から血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVとを脈拍毎に算出することも可能である。ただし、複数周期にわたる振幅を利用して算出する構成によれば、平滑化された血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVとを算出することが可能である。ひいては、平滑化された血管径r0が算出される。
(11)前述の各形態では、血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVの算出に利用する検出信号の生成と、血管径r0の算出とを単体の測定装置100で実行したが、前述の各形態で例示した測定装置100の機能を複数の装置で実現することも可能である。例えば、検出信号を生成する各検出部(第1検出部71,第2検出部73,第3検出部75)を具備する検出装置と通信可能な端末装置を測定装置100として利用して血管径r0の算出と表示とを実現することも可能である。具体的には、検出装置が生成した検出信号が端末装置に送信される。端末装置は、検出装置から受信した検出信号を利用して、血流量Qの変化量ΔQと血管径rの変化量Δrと脈波伝搬速度PWVの算出と、血管径r0の算出および表示とをする。以上の例示から理解される通り、各検出部と制御装置22とを相互に別体で構成してもよい。
また、第1算出部61と第2算出部63と第3算出部65と血管径算出部67とのうちの1つまたは複数を端末装置に設けた構成(例えば端末装置で実行されるアプリケーションで実現される構成)であってもよい。以上の説明から理解される通り、測定装置100は、相互に別体で構成された複数の装置でも実現され得る。
(12)各検出部(第1検出部71,第2検出部73,第3検出部75)と各算出部(第1算出部61,第2算出部63,第3算出部65)とを、測定装置100とは別体の外部機器に搭載し、第1算出部61が算出した第1検出信号Z1と第2算出部63が算出した第2検出信号Z2と第3算出部65が算出した第3検出信号Z3とを外部機器から有線または無線により測定装置100に送信することも可能である。測定装置100の血管径算出部67は、外部機器から受信した各数値から血管径r0を算出する。以上の説明から理解される通り、各検出部と各算出部とは測定装置100から省略され得る。
(13)前述の各形態では、ベルト14と筐体部12とから構成される測定装置100を例示したが、測定装置100の具体的な形態は任意である。例えば、被験者の身体に貼付可能なパッチ型,被験者の耳介に装着可能なイヤリング型,被験者の指先に装着可能な指装着型(例えば着爪型または指輪型),被験者の頭部に装着可能なヘッドマウント型等、任意の形態の測定装置100が採用され得る。なお、ベルト14と測定装置100とを一体とする構成も採用され得る。ただし、例えば指装着型等の測定装置100を装着した状態では日常生活に支障がある可能性が想定されるから、日常生活に支障なく常時的に検出信号を生成するという観点からは、被験者の手首にベルト14により装着可能な前述の形態の測定装置100が特に好適である。なお、腕時計等の各種の電子機器に装着(例えば外付け)される形態の測定装置100も実現され得る。
(14)本発明は、測定装置100の動作方法(測定方法)としても特定され得る。具体的には、本発明の好適な態様の測定方法は、コンピューターが、血流量Qの変化量ΔQ、血管径rの変化量Δr、および、脈波が伝搬する速度に関する伝搬指標から生体の血管径r0を算出する。