以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1〜4において、本発明の好ましい実施形態による滑りラジアル軸受装置100は、軸体としての回転軸110と、軸受ハウジング120と、軸受リング130と、摺動部材10とを備えている。回転軸110は円柱状の部材であり、例えば工作機械のテーブルに取り付けるロータリワークヘッドの回転主軸とすることをができる。
軸受ハウジング120は中空円筒状の本体部124を備えている。本体部124には、内周面から外周面へ径方向に貫通する第1と第2の通路126、128が形成されている。軸受ハウジング120は、本体部124を他の支持部材(図示せず)に固定するためのフランジ部122を備えていてもよい。フランジ部122には、該フランジ部122を支持部材に固定するボルト等の締結具を挿通する固定穴122aが形成されている。固定穴122aは、軸方向にフランジ部122を貫通している。
軸受リング130は、軸受ハウジング120の本体部124の中空部に嵌合する中空円筒状の部材より成り、内周面に摺動部材10が貼付される。軸受リング130は、軸受リング130の内周面から外周面へ径方向に貫通する第1と第2のポート136、138を有している。軸受リング130の外周面には、第1と第2のポート136、138の間に外周面に沿って周方向に延設された周溝140が形成されている。1本の周溝140によって、1つの第1のポート136と1つの第2のポート138が接続され、一対の第1と第2のポート136、138が形成される。
図1〜4の実施形態では、軸受リング130は、周溝140によって接続された3つの対をなす第1と第2のポート136、138が軸方向に整列するように配置され、該3対の第1と第2のポート136、138を1つのポート組として、4つのポート組136、138が、軸受リング130の周方向に等間隔で配置されている。
各ポート組において、第1のポート136は、軸受リング130の外周面において軸方向に延びる第1の横断溝142によって互いに連通可能に接続されている。つまり、各ポート組において、第1のポート136は1本の第1の横断溝142に開口するように軸方向に整列するように配置されている。
同様に、各ポート組において、第2のポート138は、軸受リング130の外周面において軸方向に延びる第2の横断溝144によって互いに連通可能に接続されている。つまり、各ポート組において、第2のポート138は1本の第2の横断溝144に開口するように軸方向に整列するように配置されしている。
軸受リング130を軸受ハウジング120の本体部124に嵌合することによって、周溝140と本体部124の内周面とによって各ポート組内の対をなす第1と第2のポート136、138を連通する潤滑油帰還通路が形成される。また、軸受リング130を軸受ハウジング120の本体部124に嵌合することによって、第1の横断溝142と本体部124の内周面とによって、各ポート組内の3つの第1のポート136を互いに連通する第1の横断通路が形成され、第2の横断溝144と本体部124の内周面とによって、第2のポート138を互いに連通する第2の横断通路が形成される。
軸受リング130は、潤滑油帰還通路および第1と第2の横断通路から潤滑油が漏洩しないように、軸受ハウジング120の本体部124の内周面に対して締り嵌めにて篏合される。軸受リング130は、例えば、軸受ハウジング120の本体部124を加熱した後に、該本体部124の中空部に嵌合させることができる。篏合した後に、本体部124を急速に冷却して焼嵌めすることが望ましい。
軸受リング130の内周面には、薄板状の摺動部材10が貼付されている。本実施形態では、4枚の摺動部材10が軸受リング130の内周面に貼付される。摺動部材10は、耐摩耗性が高くかつ摩擦係数の低い材料、例えばフッ素樹脂から薄板状に形成され、例えばターカイトやベアリーの商品名で市販されているベアリング材料を用いることができる。摺動部材10は、所定寸法に裁断した薄板状のベアリング材料の一方の表面に、エンドミルのような回転工具を用いてマシニングセンタにより、ランド部と凸部とを残して、ベアリング部材の表面を削り取ることによって潤滑油ポケットを形成することで製造することができる。この摺動部材10の切削加工は、マシニングセンタのテーブルに真空チャックを用いて摺動部材10を固定して行う。
図5を参照すると、摺動部材10には、矩形状に延設され所定の幅を有したランド部12と、ランド部12によって囲繞される潤滑油ポケット14と、潤滑油ポケット14に開口する第1と第2のポート18a、18bとが形成されている。潤滑油ポケット14には、多数の凸部16が形成されている。なお、潤滑油ポケット14内に凸部16の表面の合計面積が、ランド部12の内側の面積の好ましくは15〜50%となるように、凸部16の個数および寸法が決定される。
図7を参照すると、凸部16は、長径Ajと短径Anとを有する細長い形状を有している。凸部16は、長径Ajに沿った両端部が、中央部よりも幅広に形成されている。好ましくは、凸部16は、短径Anを横断する両側部が半径R1を有する円弧状に凹んでいる。また、凸部16は、長径Aj方向の両端部が半径R2を有する円弧状に膨出している。
また、凸部16は、長径Ajが、摺動部材10に対する回転軸110の回転方向DRに対してして所定の角度α、−α(図7には角度αのみ示されている)を以て傾斜するように形成される。より詳細には、凸部16は、図6に示すように、回転方向DRに対する長径Ajの傾斜角度α、−αが交互に入れ替わるように規則正しく機械加工される。回転方向DRに対する長径Ajの傾斜角度は、回転軸110の移動速度に応じて適宜選択することができる。
例えば、図6、7の例では傾斜角度α=45°となっているが、図8、9に示すように、回転方向DRに対する凸部16の傾斜角度をα=60°ときつくすることができる。この摺動部材10は、より低速で回転する回転軸110に適している。或いは、図10、11に示すように、回転方向DRに対する傾斜角度をα=30°と緩やかにすることができる。この摺動部材10は、より高速で回転する回転軸110に適している。
図6、8、10に示すように、回転軸110の回転方向DRに対して傾斜角度α、−αが交互に入れ替わるように凸部16を配置することによって、回転軸110が回転する間、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、その粘性によって、回転軸110の表面に引きずられて、回転軸110の回転方向DRと同じ方向に流動するとともに、凸部16に当たったときに、摺動部材10の側方、つまり回転軸110の中心軸線方向へも流動するようになる。
第1と第2のポート18a、18bは、回転軸110の回転方向DRに互いに離間させて摺動部材10の両端部に配置されており、摺動部材10の背面から厚さ方向に潤滑油ポケット14内に開口するように形成されている。また、潤滑油ポケット14を囲繞するランド部12は、潤滑油ポケット14の中の凸部16と略同一の高さに形成され、ランド部12および凸部16の表面は、回転軸110の外周面と直接接触しながら、回転軸110に対して相対的に滑動する。
図示する実施形態では、軸受リング130の内周面には、4枚の同一形状、寸法の摺動部材10が貼付されているが、用途に応じて異なる形状、寸法の摺動部材10または異なる形状、配置の凸部16を有した摺動部材10を貼付することができる。
また、既述の実施形態では、摺動部材10は矩形のランド部12を有しているが、これに限定されず、図12の摺動部材10′のように、回転軸110の回転方向DRの両端部のランド部12a、12bを波形にして、潤滑油の第1と第2のポート18a、18b内への流入を促進するようにできる。
更に、既述の実施形態では、4枚の摺動部材10を軸受リング130に貼付しているが、本発明は、これに限定されず、4よりも多い或いは少ない数の摺動部材10を軸受リング130に貼付してもよい。或いは、図13に示すように、1枚の摺動部材10″を円筒状にして用いてもよい。摺動部材10″は、摺動部材10と同様のランド12′と、該ランド12′に囲繞された潤滑油ポケット14′内に配置された多数の凸部16′とを有している。潤滑油ポケット14′の加工は、アングルヘッドにエンドミルを装着して行う。摺動部材10″は、更に、摺動部材10″を厚さ方向に貫通する供給ポート18a′と排出ポート18b′とを有し、該供給ポート18a′および排出ポート18b′は、上記円筒の直径上の反対側に配置されている。供給ポート18a′および排出ポート18b′の数や配置は、図13に示すものには限定されず、回転軸110の直径や、摺動部材10″の軸方向の寸法等によって、適宜選択することができる。
次に、図14〜図18を参照して、軸受リング130の内周面への摺動部材10の貼付方法を説明する。
摺動部材10は、図14〜図18に示すようなテーパ軸200、位置決めリング210、割カラー220、座金230、固定ボルト240から成る治具を用いて、軸受リング130の内周面に貼付することができる。
図15を参照すると、テーパ軸200は、円板または円柱状のエンドプレート202と、エンドプレート202の一方の端面側に設けられ円錐形状の外面204aを有した円錐部204と、エンドプレート202と円錐部204との間に設けられた篏合部206とを有している。円錐部204の先端面204cからテーパ軸200の中心軸に沿って内ねじを有したねじ穴204bが形成されている。
また、エンドプレート202において、篏合部206が設けられている端面202aは、位置決めリング210が当接する環状の基準面となっている。篏合部206は、円錐部204と同軸の円板または円柱形状を呈しており、円錐部204の直径が最大となる底面の直径以上の直径を有している。
図16を参照すると、位置決めリング210は、概ね中空の円筒状の部材であり、小径部212と、大径部214とを有している。小径部212は、テーパ軸200の篏合部206の直径と等しい内径の内周面を有している。大径部214は、摺動部材10を貼付した軸受リング130の内径よりも僅かに大きな内径を有している。位置決めリング210において、小径部212に隣接する端面216は、テーパ軸200の基準面202aに着座する着座面となっており、大径部214に隣接する端面218は、軸受リング130の端面が当接する当接面となっている。
図17を参照すると、割カラー220は、円錐形状の内面222を有した中空部材であって、内径が最大となる先端面224と、内径が最小となる基端面226と、円筒形状の外周面228とを有している。割カラー220は、先端面224から軸方向に延びるスリット(図示せず)を有しており、先端側が径方向に拡開可能となっている。外周面228には、所定数、既述の実施形態では4つの摺動部材10を配置する位置決め凹部228aが形成されている。
図18を参照すると、座金230は、中心に軸方向に貫通する中心穴232を有した円板状または円筒状の部材である。
摺動部材10を軸受リング130の内周面に取り付ける際、位置決めリング210の着座面216が、テーパ軸200の基準面202aに当接するように、位置決めリング210の小径部212を、テーパ軸200の篏合部206に嵌合させる。
次いで、摺動部材10の潤滑油ポケット14を位置決め凹部228aの底面に対面させて、摺動部材10を位置決め凹部228a内に配置する。このとき、潤滑油ポケット14とは反対側の摺動部材10の背面が位置決め凹部228aから露出している。この背面に接着剤が塗布される。
次いで、割カラー220をテーパ軸200の円錐部204に嵌合させる。このとき、割カラー220の先端部が、テーパ軸200の円錐部204と、位置決めリング210の大径部214との間の空間に挿入される。割カラー220の先端部において、割カラー220の外周面228が位置決めリング210の大径部214の内周面に接触することによって、割カラー220の拡開できる範囲が限定される。
次いで、割カラー220の外周面に軸受リング130を篏合させる。このとき、軸受リング130は、第1と第2のポート136、138が、摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bに連通するように、割カラー220の外周面に対して位置決めされる。軸受リング130を割カラー220の外周面に嵌合させたとき、軸受リング130の端面が、位置決めリング210の当接面218に当接する。
次いで、座金239を割カラー220の基端面226に当接するように配置し、中心穴232に固定ボルト240を挿通して、テーパ軸200のねじ穴204bの内ねじに螺合する。固定ボルト240を締め付けることによって、割カラー220が径方向に拡開し、その外周面228に配置されている摺動部材10が、軸受リング130の内周面に押圧される。このとき、上述したように、割カラー220の先端部において、割カラー220の外周面が、位置決めリング210の大径部214の内周面に接触することによって、割カラー220の拡開できる上限が決定される。
固定ボルト240を螺合した後、接着剤が硬化するのに要する所定の時間が経過するまで、テーパ軸200、位置決めリング210、割カラー220、座金230、固定ボルト240は固定された状態で保持される。摺動部材10の背面に塗布した接着剤によっては、固定ボルト240を螺合した後、そのまま恒温器のような加熱器内に入れて、所定時間、所定の高温に維持するようにしてもよい。軸受リング130に貼付された摺動部材10の内周面は、切削または研削によって仕上げ加工される。
図19、20を参照して、既述の実施形態による滑りラジアル軸受装置100を用いた滑りラジアル軸受システムを説明する。図19、20において、滑りラジアル軸受システム300は、回転軸310と、回転軸310を支持する滑りラジアル軸受302を含む。滑りラジアル軸受302の内周面には、図5に示した摺動部材10が貼付されている。摺動部材10に替えて図12の摺動部材10′や図13の摺動部材10″を用いてもよい。
図19、20を参照すると、回転軸310は既述の実施形態では回転軸110によって形成され、滑りラジアル軸受302は、軸受リング130および軸受ハウジング120によって形成される。
滑りラジアル軸受302は、潤滑油帰還通路304、摺動部材10の第1のポート18aに連通する第1の通路306と、摺動部材10の第2のポート18bに連通する第2の通路308とを有している。潤滑油帰還通路304は、軸受リング130の周溝140によって形成される。第1の通路306は、軸受リング130の第1のポート136および軸受ハウジング120の第1の通路126によって形成される。第2の通路308は、軸受リング130の第2のポート138および軸受ハウジング120の第2の通路128によって形成される。
潤滑油は、潤滑油供給装置320から潤滑油供給管路322を介して第1の通路306に供給され、第2の通路308から潤滑油排出管路324を介して潤滑油供給装置320に回収される。潤滑油供給装置320は、第2の通路308および潤滑油排出管路324を介して摺動部材10から回収した潤滑油を貯留する潤滑油タンク326、潤滑油を冷却して温度を一定に制御するための潤滑油温度制御装置328、潤滑油タンク326から潤滑油を吸引し潤滑油供給管路322を介して第1の通路306へ潤滑油を圧送するポンプ330、ポンプ330の吐出側に設けられポンプ330により潤滑油中に発生する脈動を除去するアキュムレータ332を具備する。脈動の少ないポンプを用いたり、脈動の影響が問題とならない場合は、アキュムレータ332を省略してもよい。潤滑油温度制御装置328およびポンプ330は潤滑油制御装置340によって制御される。潤滑油制御装置340は、例えば滑りラジアル軸受システム300を適用する機械、例えば工作機械の機械制御装置(図示せず)の一部、或いは、NC装置の一部として構成することができる。
また、潤滑油タンク326は、仕切り壁326cによって内部空間を受入側タンク326aと供給側タンク326bとに分割し、新しい潤滑油および潤滑油排出管路324からの潤滑油を受入側タンク326aに貯留し、該受入側タンク326aに貯留されている潤滑油を潤滑油温度制御装置328によって温度調整して供給側タンク326bに貯留し、該供給側タンク326bから潤滑油をポンプ330によって滑りラジアル軸受302へ供給するようにできる。
回転軸310が、図19において矢印DR1で示すように、滑りラジアル軸受302に対して相対的に摺動部材10の第1のポート18aから第2のポート18bへ向かう方向(図19では反時計回りの方向)に回転するとき、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、その粘性により、矢印L1で示すように、回転軸310の外表面に引きずられて、摺動部材10に対して相対的に第2のポート18b側に移動する。これによって、潤滑油ポケット14内では、回転軸310の回転方向に関して前側となる第2のポート18b側が相対的に高圧になり第1のポート18a側が低圧となる。従って、潤滑油供給装置320から潤滑油供給管路322を介して第1の通路306へ供給された低温の潤滑油は、その一部が第1のポート18aから潤滑油ポケット14内に流入し、残りの部分は第2の通路308へ向けて潤滑油帰還通路304内を流通する。
潤滑油ポケット14内に流入した潤滑油は、第2のポート18b側へ向けて潤滑油ポケット14内を流通して、第2のポート18bから第2の通路308および潤滑油排出管路324を介して潤滑油供給装置320へ回収される。潤滑油が潤滑油ポケット14内を流通する際、従前に潤滑油ポケット14内の摺動によって温度の上昇した潤滑油は、第1のポート18aから新たに供給される低温の潤滑油によって第2のポート18bを通じて潤滑油ポケット14から排出される。この潤滑油の入替り作用によって、摺動部材10および回転軸310が冷却される。
滑りラジアル軸受302が、図20において矢印DR2で示すように、滑りラジアル軸受302に対して相対的に摺動部材10の第2のポート18bから第1のポート18aへ向かう方向(図20では時計回りの方向)に回転するとき、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、その粘性により、矢印L2で示すように、回転軸310の外表面に引きずられて、摺動部材10に対して相対的に第1のポート18a側に移動する。これによって、潤滑油ポケット14内では、回転軸310の回転方向に関して前側となる第1のポート18a側が相対的に高圧になり第2のポート18b側が低圧となる。潤滑油ポケット14内の摺動によって温度の上昇した潤滑油は、第1のポート18aから第1の通路306へ向って流出し、第1の通路306からの低温の潤滑油と合流して幾分温度が低下し、潤滑油帰還通路304内に流入する。潤滑油帰還通路304内を流通する潤滑油の一部が、第2のポート18bから潤滑油ポケット14内に流入し、残りの部分は第2の通路308および潤滑油排出管路324を介して潤滑油供給装置320へ回収される。
潤滑油が潤滑油ポケット14内を流通する際、従前に潤滑油ポケット14内に存在していた温度の上昇した潤滑油は、第2のポート18bから新たに供給される幾分温度が低下した潤滑油によって第1のポート18aを通じて潤滑油ポケット14から排出される。この潤滑油の入替り作用によって、摺動部材10および回転軸310が冷却される。
本実施の形態によれば、摺動部材10と回転軸310の外表面との間の潤滑油を直接冷却可能となり、摺動部材10および回転軸310の外表面の発熱領域を直接冷却可能となる。また、摺動部材10に形成されたランド部12に包囲された潤滑油ポケット14に潤滑油が供給されるので、摺動部材10と回転軸310の外表面との間から漏洩する潤滑油量が低減される。更に、潤滑油ポケット14に供給する潤滑油の圧力を調節することにより、滑りラジアル軸受装置100のラジアル方向の耐荷重を増減することができる。
図21、22を参照して、滑りラジアル軸受システムの他の実施形態を説明する。
図21、22において、滑りラジアル軸受システム500は、回転軸504と、回転軸504を支持する滑りラジアル軸受502を含む。滑りラジアル軸受502の内周面には、図5に示した摺動部材10が貼付されている。摺動部材10に替えて図12の摺動部材10′や図13の摺動部材10″を用いてもよい。回転軸504は既述の実施形態では回転軸110によって形成され、滑りラジアル軸受502は、軸受リング130および軸受ハウジング120によって形成される。
滑りラジアル軸受502は、摺動部材10の第1のポート18aに連通する第1の通路506と、摺動部材10の第2のポート18bに連通する第2の通路508とを有している。第1の通路506は、軸受リング130の第1のポート136および軸受ハウジング120の第1の通路126によって形成される。第2の通路508は、軸受リング130の第2のポート138および軸受ハウジング120の第2の通路128によって形成される。軸受ハウジング120は、潤滑油帰還通路を備えていない。
第1と第2の通路506、508は、第1と第2の管路510、512を介して切換弁518に接続されている。切換弁518は、潤滑油供給管路514と潤滑油排出管路516とによって潤滑油供給装置(図示せず)に接続されている。潤滑油供給装置は、図19、20の潤滑油供給装置320と同様の潤滑油供給装置とすることができる。
切換弁518は、一例として、ソレノイド520を有した2位置4ポートの方向制御弁とすることができる。ソレノイド520は、切換弁518のソレノイド制御装置530に接続されている。ソレノイド制御装置530は、例えば、図19、20の潤滑油供給装置320のための潤滑油制御装置340の一部として構成したり、或いは、滑りラジアル軸受システム500を適用する機械、例えば工作機械の機械制御装置(図示せず)の一部またはNC装置の一部として構成することができる。切換弁518は、ソレノイド制御装置530によってソレノイド520が励磁されると、図21に示す第1の位置から図22に示す第2の位置に移動する。ソレノイド520が消磁されると、スプリング522の付勢力によって、第2の位置から第1の位置に移動する。
切換弁518が、第1の位置にあるとき、第1の管路510が潤滑油供給管路514に連通し、第2の管路512が潤滑油排出管路516に連通する。切換弁518が、第2の位置にあるとき、第1の管路510が潤滑油排出管路516に連通し、第2の管路512が潤滑油供給管路514に連通する。
潤滑油供給管路514には減圧弁524を配設することができる。減圧弁524は、例えば、ラジアル軸受システム500を適用する機械、例えば工作機械の主軸モータ(図示せず)の負荷トルクや、回転軸310の回転数等に応じて潤滑油ポケット14に供給する潤滑油の圧力(バックアップ圧力)を調節する圧力制御弁とすることができる。潤滑油排出管路516には背圧弁526を配設することができる。背圧弁526は潤滑油ポケット14内の圧力(潤滑油排出管路516の上流側の圧力)が所定値となるよう、圧力調節する圧力制御弁とすることができる。
図21において、回転軸504が、図21において矢印DR1で示すように、摺動部材10の第1のポート18aから第2のポート18bへ向かう方向(図21では反時計回りの方向)に回転するとき、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、その粘性により、矢印L1で示すように、回転軸504の外表面に引きずられて、摺動部材10に対して相対的に第2のポート18b側に移動する。このとき、ソレノイド制御装置530はソレノイド520を消磁して、スプリング522の付勢力によって、切換弁518を第2の位置から第1の位置に移動する。これにより、潤滑油ポケット14内の高温の潤滑油は、第2のポート18b、第2の管路512、切換弁518、潤滑油排出管路516を介して潤滑油供給装置へ排出されると共に、新たな低温の潤滑油が、潤滑油供給装置から潤滑油供給管路514、切換弁518、第1の管路510、第1のポート18aを介して潤滑油ポケット14内に供給される。これにより、摺動部材10および回転軸504が冷却される。
図22において、回転軸504が、図22において矢印DR2で示すように、摺動部材10の第2のポート18bから第1のポート18aへ向かう方向(図22では時計回りの方向)に回転するとき、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、その粘性により、矢印L2で示すように、回転軸504の外表面に引きずられて、摺動部材10に対して相対的に第1のポート18b側に移動する。このとき、ソレノイド制御装置530はソレノイド520を励磁して、切換弁518が第2の位置に駆動される。これにより、潤滑油ポケット14内の高温の潤滑油は、第1のポート18a、第1の管路510、切換弁518、潤滑油排出管路516を介して潤滑油供給装置へ排出されると共に、新たな低温の潤滑油が、潤滑油供給装置から潤滑油供給管路514、切換弁518、第2の管路512、第2のポート18bを介して潤滑油ポケット14内に供給され、これにより、摺動部材10および回転軸504が冷却される。
図19、20の実施形態では、回転軸310が第2のポート18b側に回転するときには、反対方向の第1のポート18a側に移動するときよりも多くの潤滑油供給装置320からの潤滑油が摺動部材10に供給されることとなり、回転軸310の移動方向に関する潤滑油供給温度の不均一性が生じる。
これに対して、図21、22の実施形態では、切換弁518によって、摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bの接続を潤滑油供給管路514と、潤滑油排出管路516との間で切り換えるようになっている。これにより、潤滑油ポケット14内の昇温した潤滑油は、その全量が、第1と第2のポート18a、18bのうち回転軸350の回転方向に関して前側になるポートから排出され、新たに供給される低温の潤滑油の全量が、先頭側のポートから供給されるので、潤滑油の温度や供給量が、回転軸504の移動方向によって変化することがない。
既述の実施形態では、摺動部材10は、静止した軸受リング130のない周面に貼付されていたが、本発明は、この構成に限定されない。
図23、24を参照すると、本発明の変形実施形態では、摺動部材10は、回転軸310の外周面に貼付されている。
図23、24において、回転軸400の外周面402には、4枚の摺動部材10が貼付されている。摺動部材10は、回転軸400の周方向に等間隔に配置されている。回転軸400には、回転軸400の外周面402に貼付されている摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bに連通するように、径方向に配向された第1と第2のポート406、408が形成されている。回転軸400には、更に、第1と第2のポート406、408の間に延びる潤滑油帰還通路404が形成されている。潤滑油帰還通路404の一端は埋栓404aで閉塞されている。
回転軸400は、更に、潤滑油帰還通路404に連通し、潤滑油供給管路322、514および潤滑油排出管路324、516に接続される第1と第2の通路(図示せず)が形成されている。この第1と第2の通路は、回転軸400の端部に軸方向に開口するように形成することができ、ロータリージョイント(図示せず)のような回転体に流体を供給するための回転機器を用いて、潤滑油供給装置320に接続することができる。
図25を参照して、本発明の滑りラジアル軸受装置を用いたロータリワークヘッドを説明する。
図25において、ロータリワークヘッド600は、工作機械のテーブル624に載置、固定され、加工するワークWを回転可能に取り付ける装置である。ロータリワークヘッド600は、テーブル624に固定される中空円筒状の主軸ハウジング612と、主軸ハウジング612に回転可能に支持される回転主軸606とを有している。回転主軸606は、前側ラジアル軸受630と、後側ラジアル軸受620とによって回転可能に支持されている。
回転主軸606の先端には、面板618が固定されており、該面板618にワークWが取り付けられる。回転主軸606の後端側の外周面にはロータ608が固定されている。主軸ハウジング612の内周面には、ロータ608に対面するようにステータ610が固定されている。ロータ608とステータ610は、ロータリワークヘッド600のビルトインモータを形成している。
主軸ハウジング612は、後端側の開口部が後エンドプレート602により閉塞され、前側の開口部が前エンドプレート604により閉塞される。後エンドプレート602の中心開口部602aには、本発明の滑りラジアル軸受装置より成る後側ラジアル軸受620が嵌合、固定されている。
後側ラジアル軸受620は、後エンドプレート602の中心開口部602aに嵌合する軸受リング622を有し、該軸受リング622の内周面に複数の摺動部材10が貼付されている。環状の1つの摺動部材10″(図13参照)を用いてもよい。軸受リング622には、摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bに連通する第1と第2のポート624a、624bが径方向に形成され、後エンドプレート602には、第1と第2のポート624a、624bに連通する第1と第2の通路626a、626が径方向に形成されている。この例では、軸受ハウジングは、後エンドプレート602によって形成される。
前側ラジアル軸受630は、主軸ハウジング612の内周面に嵌合する軸受リング632を有し、該軸受リング632の内周面に複数の摺動部材10が貼付されている。環状の1つの摺動部材10″を用いてもよい。軸受リング632には、摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bに連通する第1と第2のポート634a、634bが径方向に形成され、主軸ハウジング612には、第1と第2のポート634a、634bに連通する第1と第2の通路636a、636が径方向に形成されている。
滑りスラスト軸受640は、滑りラジアル軸受620、630と類似の原理で構成され、回転主軸606に作用する軸方向の負荷を主軸ハウジング612および前エンドプレート604で支持する。滑りスラスト軸受640は、回転主軸604に形成した軸線に垂直なフランジ部と対面する主軸ハウジング612および前エンドプレート604に摺動部材を貼付して、摺動部材に形成した潤滑油ポケットに潤滑油を供給している。前エンドプレート604を主軸ハウジング612にボルトで締め付けるときのフランジに作用する摩擦力は、スペーサ642の厚みで調整する。