以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1〜5において、本発明の好ましい実施形態による滑り円運動ガイド装置10は、軸体としての回転軸40と、軸受部材としての第1と第2のベース部材20、30と、スペーサ50とを備えている。回転軸40は、円錐台部分42、44と、円錐台部分42、44の端部から中心軸線Oに沿って突出した円柱状の第1と第2の軸部46、48とを有し、例えば工作機械のテーブルに取り付けるワークヘッドの回転主軸とすることができる。
円錐台部分は、少なくとも1つ、本実施形態では、2つの円錐台部分42、44を有している。第1の軸部46に隣接した円錐台部分を第1の円錐台部分42、第2の軸部48に隣接した円錐台部分を第2の円錐台部分44とする。第1と第2の円錐台部分42、44の各々は円錐面42a、44aを形成している。円錐面42a、44aは、隣接する第1と第2の軸部46、48へ向けて中心軸線Oに沿って次第に半径が小さくなる傾斜外周面を形成している。第1と第2の円錐台部分42、44の間で最大直径となる。本実施形態では、第1と第2の円錐台部分42、44の間に、外径が最大となる円筒状または円盤状の結合部40aが設けられている。
図3を参照すると、第1のベース部材20は、中心軸線Oに沿って離間した端面20a、20bを有した平板状の部材より成る。端面20a、20bの少なくとも一方、本実施形態では、端面20aは、中心軸線Oに対して垂直に形成されており、本明細書では結合面と称する。結合面たる端面20aとは反対側の端面20bは、本明細書において外側端面20bと称する。
第1のベース部材20は、結合面20aに開口する凹部22と、外側端面20bに開口する軸穴24とを有している。結合面20aには、更に、内ねじが形成されたボルト穴20cが形成されている。ボルト穴20cは、中心軸線Oの周りに等角度間隔で配置されている。
凹部22の内周面は、中心軸線Oに関して回転対称な円錐状の支承面22aを形成している。支承面22aには、薄板状の低摩擦樹脂部材としての摺動部材70が貼付されている。本実施形態では、4枚の摺動部材70が支承面22aに貼付される。また、軸穴24は、中心軸線Oに沿って延びる円筒状の内周面を形成しており、回転軸40の第1の軸部46を受容する。
第1のベース部材20は、更に、第1のベース部材20の支承面22aから外側端面20bへ軸方向に貫通する第1のポート26a、26bと、第2のポート28a、28bとを有している。2つの第1のポート26a、26bが半径方向に整列し(図4参照)、かつ、互いに離間するように配置されている。なお、ここで「半径方向」に関して、2つの第1のポート26a、26bは、図示する実施形態では、半径に平行な直線上に配置されており、厳密な意味では半径方向に整列していないが、本明細書では、こうした配置を含めて「半径方向」としている。
同様に、2つの第2のポート28a、28bが半径方向に整列し、かつ、互いに離間するように配置されている。また、第1のポート26a、26bと、第2のポート28a、28bは、中心軸線O周りに所定の角度、図示する実施形態では、90°離間して配置されている。このように配置された2つの第1のポート26a、26bと、2つの第2のポート28a、28bを1つのポート組として、周方向に等角度間隔、図示する実施形態では、90°毎に4組配置されている。
また、第1のポート26a、26bおよび第2のポート28a、28bは、図示する実施形態では、支承面22aから外側端面20bへ中心軸線Oに平行に延設されているが、本発明は、これに限定されず、第1のポート26a、26bおよび第2のポート28a、28bは、中心軸線Oに対して傾斜するように延設されていてもよい。
各ポート組内において、周方向に並んだ第1のポート26aと第2のポート28a、および、第1のポート26bと第2のポート28bは、潤滑油帰還通路としての潤滑油帰還管路60、62によって、外側端面20b側で接続されている。
第2のベース部材30は、第1のベース部材20と概ね同様に形成されており、結合面30aと、外側端面30bとを有した平板状の部材より成り、結合面30aに開口する凹部32と、外側端面30bに開口する軸穴34とを有している。外側端面30bから結合面30aに貫通する複数の通し穴30cが形成されている。通し穴30cは、中心軸線Oの周りに等角度間隔で配置されており、第1のベース部材20のボルト穴20cに螺合する固定ボルト54が挿入される。
凹部32の内周面は、中心軸線Oに関して回転対称な円錐状の支承面32aを形成している。支承面32aには、薄板状の低摩擦樹脂部材としての摺動部材70が貼付されている。本実施形態では、4枚の摺動部材70が支承面32aに貼付される。また、軸穴34は、中心軸線Oに沿って延びる円筒状の内周面を形成しており、回転軸40の第2の軸部48を受容する。
第2のベース部材30は、更に、第2のベース部材30の支承面32aから外側端面30bへ軸方向に貫通する第1のポート36a、36bと、第2のポート38a、38bとを有している。2つの第1のポート36a、36bが半径方向に整列し、かつ、互いに離間するように配置されている。同様に、2つの第2のポート38a、38bが半径方向に整列し、かつ、互いに離間するように配置されている。
また、第1のポート36a、36bと、第2のポート38a、38bは、中心軸線O周りに所定の角度、図示する実施形態では、90°離間して配置されている。このように配置された2つの第1のポート36a、36bと、2つの第2のポート38a、38bを1つのポート組として、周方向に等角度間隔、図示する実施形態では、90°毎に4組配置されている。
更に、第1のポート36a、36bおよび第2のポート38a、38bは、図示する実施形態では、支承面32aから外側端面30bへ中心軸線Oに平行に延設されているが、本発明は、これに限定されず、第1のポート36a、36bおよび第2のポート38a、38bは、中心軸線Oに対して傾斜するように延設されていてもよい。
各ポート組内において、周方向に並んだ第1のポート36aと第2のポート38a、および第1のポート36bと第2のポート38bは、潤滑油帰還通路としての潤滑油帰還管路64、66によって、外側端面30b側で接続されている。
摺動部材70は、耐摩耗性が高くかつ摩擦係数の低い低摩擦樹脂材料、例えばフッ素樹脂から薄板状に形成され、例えばターカイトやベアリーの商品名で市販されているベアリング材料を用いることができる。摺動部材70は、所定寸法に裁断した薄板状のベアリング材料の一方の表面に、エンドミルのような回転工具を用いてマシニングセンタにより、ランド部と凸部とを残して、ベアリング部材の表面を削り取ることによって潤滑油ポケットを形成することで製造することができる。この摺動部材70の切削加工は、マシニングセンタのテーブルに真空チャックを用いて摺動部材70を固定して行う。
図6を参照すると、摺動部材70は、平面視において、共通の中心を有した異なる半径の2つの円弧と、該2つの円弧の間で半径方向に延びる2本の線分から成るセクタ形状を呈している。摺動部材70は、前記セクタ形状の前記2つの円弧と、2本の線分に沿って延設され所定の幅を有したランド部72と、ランド部72によって囲繞される潤滑油ポケット74と、潤滑油ポケット74に開口する第1のポート78a、78bおよび第2のポート79a、79bが形成されている。潤滑油ポケット74には、多数の凸部76が形成されている。なお、潤滑油ポケット74内に凸部76の表面の合計面積が、ランド部72の内側の面積の好ましくは15〜50%となるように、凸部76の個数および寸法が決定される。
図7を参照すると、凸部76は、長径Ajと短径Anとを有する細長い形状を有している。凸部76は、長径Ajに沿った両端部が、中央部よりも幅広に形成されている。好ましくは、凸部76は、短径Anを横断する両側部が半径R1を有する円弧状に凹んでいる。また、凸部76は、長径Aj方向の両端部が半径R2を有する円弧状に膨出している。
また、凸部76は、長径Ajが、摺動部材70に対する回転軸40の回転方向DRに対してして所定の角度α、−α(図7には角度αのみ示されている)を以て傾斜するように形成される。より詳細には、凸部76は、回転方向DRに対する長径Ajの傾斜角度α、−αが交互に入れ替わるように規則正しく機械加工される。回転方向DRに対する長径Ajの傾斜角度αは、回転軸40の回転速度や、中心軸線Oに対する支承面22aの角度θ等に応じて適宜選択することができる。
例えば、図6、7の例では、凸部76の傾斜角度α=45°となっているが、回転軸40の回転速度や、中心軸線Oに対する支承面22aの角度θ等によって、α=60°または30°のように、回転方向DRに対する凸部76の傾斜角度を変更することができる。回転軸40が、より高速で回転する場合や、角度θが大きいには、α=30°のように、回転方向DRに対する傾斜角度αを緩やかにして、潤滑油の流動により生じる遠心力によって半径方向外側に輸送される潤滑油の流量を低減するようにできる。
このように、回転軸40の回転方向DRに対して傾斜角度α、−αが交互に入れ替わるように凸部76を配置することによって、回転軸40が回転する間、潤滑油ポケット74内の潤滑油は、その粘性によって、回転軸40の表面に引きずられて、回転軸40の回転方向DRと同じ方向に流動するとともに、凸部76に当たったときに、摺動部材70の側方、つまり回転軸40の中心軸方向へも流動するようになる。
第1のポート78a、78bおよび第2のポート79a、79bは、支承面22aの周方向または回転軸40の回転方向DRに互いに離間させて摺動部材70の両端部に配置されており、摺動部材70の背面から厚さ方向に潤滑油ポケット74内に開口するように形成されている。また、潤滑油ポケット74を囲繞するランド部72は、潤滑油ポケット74の中の凸部76と略同一の高さに形成され、ランド部72および凸部76の表面は、回転軸40の外周面と直接接触しながら、回転軸40に対して相対的に滑動する。
図示する実施形態では、第1のベース部材20の内周面には、4枚の同一形状、寸法の摺動部材70が貼付されているが、用途に応じて異なる形状、寸法の摺動部材70または異なる形状、配置の凸部76を有した摺動部材70を貼付することができる。
更に、既述の実施形態では、4枚の摺動部材70を第1のベース部材20に貼付しているが、本発明は、これに限定されず、4よりも多い或いは少ない数の摺動部材70を第1のベース部材20に貼付してもよい。或いは、図8に示すように、1枚の摺動部材80を貼付してもよい。摺動部材80は、摺動部材70と同様のランド82と、該ランド82に囲繞された潤滑油ポケット84内に配置された多数の凸部86とを有している。摺動部材80は、更に、摺動部材80を厚さ方向に貫通する第1と第2のポート78a、78b;79a、79bを有し、該第1と第2のポート78a、78b;79a、79bは、摺動部材80に沿って周方向に交互に配置されている。第1と第2のポート78a、78b;79a、79bの数や配置は、図8に示すものには限定されず、回転軸40の直径や、摺動部材80の軸方向の寸法等によって、適宜選択することができる。
次に、図9〜図11を参照して、第1と第2のベース部材20、30の支承面22a、32aへの摺動部材70、80の貼付方法を説明する。
摺動部材70、80は、図9〜図11に示すようなテーパ部材110、座金102、固定ボルト106から成る冶具100を用いて、第1のベース部材20の支承面22aに貼付することができる。
図10を参照すると、座金102は、中心に軸方向に貫通する中心穴104を有した円板状または円筒状の部材である。座金102は、第1と第2のベース部材20、30の軸穴24、34の内径よりも大きな外径を有している。
図11を参照すると、テーパ部材110は、円筒部112と、円筒部112の一方の端面側に設けられ円錐形状の外面116を有した円錐部114と、内ねじを有したねじ穴118とを有している。ねじ穴118は、円筒部112の先端面112bからテーパ部材110の中心軸に沿って延設されている。円筒部112の外周面112aは、所定のすき間を有して第1と第2のベース部材20、30の軸穴24、34に嵌合する寸法にて形成される。
外面116は、支承面22a、32aに対して相補形状の円錐面となっている。外面116には、所定数の位置決め凹部116aが形成されている。位置決め凹部116aには、摺動部材70、80が配置される。従って、摺動部材70を支承面22a、32aに貼付する場合には、4つの摺動部材70が設けられ。摺動部材80を貼付する場合には、1つの位置決め凹部116aが設けられる。
摺動部材70を第1のベース部材20の支承面22aまたは第2のベース部材30の支承面32aに貼付する際、先ず、摺動部材70または80の潤滑油ポケット74、84をテーパ部材110の位置決め凹部116aの底面に対面させて、摺動部材70を位置決め凹部116a内に配置する。このとき、潤滑油ポケット74、84とは反対側の摺動部材70の背面が位置決め凹部116aから露出している。この背面に接着剤が塗布される。
次いで、テーパ部材110の外面116を第1のベース部材20の支承面22aまたは第2のベース部材30の支承面32aに嵌合させる。このとき、テーパ部材110の位置決め凹部116a内に配置されている摺動部材70または80が、支承面22aまたは32aに接触する前に、円筒部112が第1のベース部材20の軸穴24または第2のベース部材30の軸穴34内に嵌合し、テーパ部材110が第1のベース部材20または第2のベース部材30に対して軸方向に整列する。
また、このとき、テーパ部材110は、第1のポート26a、26b、36a、36bおよび第2のポート28a、28b、38a、38bが、摺動部材70の第1のポート78a、78bおよび第2のポート79a、79bにそれぞれ連通するように、第1のベース部材20または第2のベース部材30に対して回転位置決めされる。
テーパ部材110の外面116を第1のベース部材20の支承面22aまたは第2のベース部材30の支承面32aに嵌合させた後、座金102が、第1のベース部材20の外側端面20bまたは第2のベース部材30の外側端面30bに当接するように配置され、中心穴104に固定ボルト106を挿通して、テーパ部材110のねじ穴118の内ねじに螺合する。固定ボルト106を締め付けることによって、テーパ部材110の外面116が支承面22aまたは32aに押圧され、従って、位置決め凹部116a内に配置されている摺動部材70または80が、支承面22aまたは32aに押圧される。
固定ボルト106を締め付けた後、接着剤が硬化するのに要する所定の時間が経過するまで、第1のベース部材20または第2のベース部材30と、テーパ部材110、座金102および固定ボルト106は固定された状態で保持される。摺動部材70の背面に塗布した接着剤によっては、固定ボルト106を螺合した後、そのまま恒温器のような加熱器内に入れて、所定時間、所定の高温に維持するようにしてもよい。
図1〜図4の実施形態では、第1と第2のベース部材20、30は、外部に潤滑油帰還管路60、62;64、66が設けられているが、本発明は、これに限定されず、潤滑油帰還通路を第1と第2のベース部材20、30内部に設けてもよい。
図12、13を参照すると、第1のベース部材200は、中心軸線Oに沿って離間した結合面200aと、外側端面200bとを有した平板状の部材より成る。第1のベース部材200は、結合面200aに開口するように中心軸線Oに関して回転対称な円錐形状に形成された凹部202と、外側端面20bに開口する軸穴204とを有している。結合面200aには、更に、内ねじが形成されたボルト穴200cが形成されている。ボルト穴200cは、中心軸線Oの周りに等角度間隔で配置されている。
第1のベース部材200は、更に、第1のベース部材200の凹部202から外側端面200bへ軸方向に貫通する第1の通路206と、第2の通路208とを有している。第1の通路206は、後述の図13に示す支承部材220の第1の横断溝216に連通し、第2の通路208は同じく第2の横断溝218に連通している。第1の通路206と第2の通路208の組が4組、中心軸線O周りに所定の角度、図示する実施形態では、90°離間して配置されている。
凹部202には、中空の円錐台形状の支承部材220が配置される。支承部材220は、円錐状の外面と円錐状の内面(図示せず)とを有し、該内面に摺動部材70または80が貼付され支承面を形成する。支承部材220には、内面から外面へ貫通する第1と第2のポート210a、210b;212a、212bが形成されている。
支承部材220の外面には、第1と第2のポート210a、210b;212a、212bの間に周方向に延設された周溝214a、214bが形成されている。1本の周溝214aによって、1つの第1のポート210aと、1つの第2のポート212aが接続され、1本の周溝214bによって、1つの第1のポート210bと、1つの第2のポート212bが接続される。
本例では、周溝214a、214bによって接続された2つの対をなす第1と第2のポート210a、210b;212a、212bが軸方向に整列するように配置され、この2つの対をなす第1と第2のポート210a、210b;212a、212bを1つのポート組として、4つのポート組210a、210b;212a、212bが、第1のベース部材20の周方向に等間隔で配置されている。
各ポート組において、第1のポート210a、210bは、支承部材220の外周面において稜線方向に延びる第1の横断溝216によって互いに連通可能に接続されている。つまり、各ポート組において、第1のポート210a、210bは1本の第1の横断溝216に開口するように軸方向に整列するように配置されている。
同様に、各ポート組において、第2のポート212a、212bは、支承部材220の外周面において稜線方向に延びる第2の横断溝218によって互いに連通可能に接続されている。つまり、各ポート組において、第2のポート212a、212bは1本の第2の横断溝218に開口するように軸方向に整列するように配置されている。
支承部材220を第1のベース部材200の凹部202に嵌合して、ねじ(図示せず)等により固定することによって、周溝214a、214bと凹部202の表面とによって、各ポート組内の対をなす第1と第2のポート210a、210b;212a、212bを連通する潤滑油帰還通路が形成されると共に、第1の横断溝216と凹部202の表面とによって、各ポート組内の第1のポート210a、210bを互いに連通する第1の横断通路が形成され、第2の横断溝218と凹部202の表面とによって、第2のポート212a、212bを互いに連通する第2の横断通路が形成される。
支承部材220は、潤滑油帰還通路および第1と第2の横断通路から潤滑油が漏洩しないように、凹部202に対して篏合される。また、詳細には説明しないが、軸受部材は、上述した第1のベース部材200に加えて、第1のベース部材200と同様に形成された第2のベース部材(図示せず)を含むことができる。
摺動部材70、80が貼付された第1と第2のベース部材20、30、200は、その摺動部材70、80の摺動面が切削加工または研削加工にて仕上げられる。そして、回転軸40の円錐台部分42、44を挟んで第1と第2のベース部材20、30、200が対面配置され、第1と第2のベース部材間の間隔を測定する。測定結果より若干厚めにスペーサ50の厚み出しをし、ボルト54を仮締めし、潤滑油供給装置320を配管して、滑り円運動ガイド装置を組み立てる。潤滑油供給装置320から所定圧力の潤滑油を摺動面に供給し、回転軸40を回転させて回転トルクを測定する。回転トルクが許容値になるように、スペーサ50の厚みを調整すれば、滑り円運動ガイド装置10が完成する。
本発明の滑り円運動ガイド装置10は、回転軸が第1の円錐台部分42または44のみを有し、対応するベース部材が、第1のベース部材20または第2のベース部材30だけでも、ラジアル荷重および一方向のスラスト荷重を支持することができる。また、軸が固定され、ベース部材が回転する態様でもよい。その場合、回転しない軸の方に摺動部材が貼付される。
図14、15を参照して、既述の実施形態による滑り円運動ガイド装置10を用いた滑り軸受システムを説明する。図14、15において、滑り軸受システム300は、回転軸310と、回転軸310を支持する滑り軸受302を含む。滑り軸受302の支承面302aには、図6に示した摺動部材70が貼付されている。摺動部材70に替えて図8の摺動部材80を用いてもよい。
図14、15を参照すると、回転軸310は既述の実施形態では回転軸40によって形成され、滑り軸受302は、図12、13に示した第1のベース部材200および対応の第2のベース部材およびスペーサ50によって形成される。
滑り軸受302は、潤滑油帰還通路304(図13の214a、214bに相当)と、摺動部材70の第1のポート78a、78b(図13の210a、210bに相当)に連通する第1の通路306(図12の206に相当)と、摺動部材70の第2のポート79a、79b(図13の212a、212bに相当)に連通する第2の通路308(図12の208に相当)とを有している。
潤滑油は、潤滑油供給装置320から潤滑油供給管路322を介して第1の通路306に供給され、第2の通路308から潤滑油排出管路324を介して潤滑油供給装置320に回収される。潤滑油供給装置320は、第2の通路308および潤滑油排出管路324を介して摺動部材70から回収した潤滑油を貯留する潤滑油タンク326、潤滑油を冷却して温度を一定に制御するための潤滑油温度制御装置328、潤滑油タンク326から潤滑油を吸引し潤滑油供給管路322を介して第1の通路306へ潤滑油を圧送するポンプ330、ポンプ330の吐出側に設けられポンプ330により潤滑油中に発生する脈動を除去するアキュムレータ332を具備する。脈動の少ないポンプを用いたり、脈動の影響が問題とならない場合は、アキュムレータ332を省略してもよい。潤滑油温度制御装置328およびポンプ330は潤滑油制御装置340によって制御される。潤滑油制御装置340は、例えば、滑り軸受システム300を適用する機械、例えば工作機械の機械制御装置(図示せず)の一部、或いは、NC装置の一部として構成することができる。
また、潤滑油タンク326は、仕切り壁326cによって内部空間を受入側タンク326aと供給側タンク326bとに分割し、新しい潤滑油および潤滑油排出管路324からの潤滑油を受入側タンク326aに貯留し、該受入側タンク326aに貯留されている潤滑油を潤滑油温度制御装置328によって温度調整して供給側タンク326bに貯留し、該供給側タンク326bから潤滑油をポンプ330によって滑り軸受302へ供給するようにできる。
回転軸310が、図14おいて矢印DR1で示すように、滑り軸受302に対して相対的に摺動部材70の第1のポート78a、78bから第2のポート79a、79bへ向かう方向(図14は反時計回りの方向)に回転するとき、潤滑油ポケット74内の潤滑油は、その粘性により、矢印L1で示すように、回転軸310の外表面に引きずられて、摺動部材70に対して相対的に第2のポート79a、79b側に移動する。これによって、潤滑油ポケット74内では、回転軸310の回転方向に関して前側となる第2のポート79a、79b側が相対的に高圧になり第1のポート78a、78b側が低圧となる。従って、潤滑油供給装置320から潤滑油供給管路322を介して第1の通路306へ供給された低温の潤滑油は、その一部が第1のポート78a、78bから潤滑油ポケット74内に流入し、残りの部分は第2の通路308へ向けて潤滑油帰還通路304内を流通する。
潤滑油ポケット74内に流入した潤滑油は、第2のポート79a、79b側へ向けて潤滑油ポケット74内を流通して、第2のポート79a、79bから第2の通路308および潤滑油排出管路324を介して潤滑油供給装置320へ回収される。潤滑油が潤滑油ポケット74内を流通する際、従前に潤滑油ポケット74内の摺動によって温度の上昇した潤滑油は、第1のポート78a、78bから新たに供給される低温の潤滑油によって第2のポート79a、79bを通じて潤滑油ポケット74から排出される。この潤滑油の入替り作用によって、摺動部材70および回転軸310が冷却される。
滑り軸受302が、図15において矢印DR2で示すように、滑り軸受302に対して相対的に摺動部材70の第2のポート79a、79bから第1のポート78a、78bへ向かう方向(図15では時計回りの方向)に回転するとき、潤滑油ポケット74内の潤滑油は、その粘性により、矢印L2で示すように、回転軸310の外表面に引きずられて、摺動部材70に対して相対的に第1のポート78a、78b側に移動する。これによって、潤滑油ポケット74内では、回転軸310の回転方向に関して前側となる第1のポート78a、78b側が相対的に高圧になり第2のポート79a、79b側が低圧となる。潤滑油ポケット74内の摺動によって温度の上昇した潤滑油は、第1のポート78a、78bから第1の通路306へ向って流出し、第1の通路306からの低温の潤滑油と合流して幾分温度が低下し、潤滑油帰還通路304内に流入する。潤滑油帰還通路304内を流通する潤滑油の一部が、第2のポート79a、79bから潤滑油ポケット74内に流入し、残りの部分は第2の通路308および潤滑油排出管路324を介して潤滑油供給装置320へ回収される。
潤滑油が潤滑油ポケット74内を流通する際、従前に潤滑油ポケット74内に存在していた温度の上昇した潤滑油は、第2のポート79a、79bから新たに供給される幾分温度が低下した潤滑油によって第1のポート78a、78bを通じて潤滑油ポケット74から排出される。この潤滑油の入替り作用によって、摺動部材70および回転軸310が冷却される。
本実施の形態によれば、摺動部材70と回転軸310の外表面との間の潤滑油を直接冷却可能となり、摺動部材70および回転軸310の外表面の発熱領域を直接冷却可能となる。また、摺動部材70に形成されたランド部18に包囲された潤滑油ポケット74に潤滑油が供給されるので、摺動部材70と回転軸310の外表面との間から漏洩する潤滑油量が低減される。更に、潤滑油ポケット74に供給する潤滑油の圧力を調節することにより、滑り円運動ガイド装置の耐荷重を増減することができる。
図16、17を参照して、本発明の滑り円運動ガイド装置を用いた滑り軸受システムの他の実施形態を説明する。
図16、17において、滑り軸受システム500は、回転軸504と、回転軸504を支持する滑り軸受502を含む。滑り軸受502の支承面502aには、図6に示した摺動部材70が貼付されている。摺動部材70に替えて図8の摺動部材80を用いてもよい。回転軸504は既述の実施形態では回転軸40によって形成され、滑り軸受502は、図12、13に示した第1のベース部材200および対応の第2のベース部材およびスペーサ40によって形成される。
滑り軸受502は、摺動部材70の第1のポート78a、78bに連通する第1の通路506と、摺動部材70の第2のポート79a、79bに連通する第2の通路508とを有している。第1の通路506は、第1のベース部材200に固定された支承部材220の第1のポート210a、210bおよび第1の通路206および対応の第2のベース部材の第1のポートおよび第1の通路によって形成される。第2の通路508は、第1のベース部材200に固定された支承部材220の第2のポート212a、212bおよび第2の通路208および対応の第2のベース部材の第2のポートおよび第2の通路によって形成される。本実施形態では、潤滑油帰還通路は設けられていない。つまり、支承部材220には周溝214a、214bは形成されていない。
第1と第2の通路506、508は、第1と第2の管路510、512を介して切換弁518に接続されている。切換弁518は、潤滑油供給管路514と潤滑油排出管路516とによって潤滑油供給装置(図示せず)に接続されている。潤滑油供給装置は、図14、15の潤滑油供給装置320と同様の潤滑油供給装置とすることができる。
切換弁518は、一例として、ソレノイド520を有した2位置4ポートの方向制御弁とすることができる。ソレノイド520は、切換弁518のソレノイド制御装置530に接続されている。ソレノイド制御装置530は、例えば、図14、15の潤滑油供給装置320のための潤滑油制御装置340の一部として構成したり、或いは、滑り軸受システム500を適用する機械、例えば工作機械の機械制御装置(図示せず)の一部またはNC装置の一部として構成することができる。切換弁518は、ソレノイド制御装置530によってソレノイド520が励磁されると、図16に示す第1の位置から図17に示す第2の位置に移動する。ソレノイド520が消磁されると、スプリング522の付勢力によって、第2の位置から第1の位置に移動する。
切換弁518が、第1の位置にあるとき、第1の管路510が潤滑油供給管路514に連通し、第2の管路512が潤滑油排出管路516に連通する。切換弁518が、第2の位置にあるとき、第1の管路510が潤滑油排出管路516に連通し、第2の管路512が潤滑油供給管路514に連通する。
潤滑油供給管路514には減圧弁524を配設することができる。減圧弁524は、例えば、滑り軸受システム500を適用する機械、例えば工作機械の主軸モータ(図示せず)の負荷トルクや、回転軸310の回転数等に応じて潤滑油ポケット74に供給する潤滑油の圧力(バックアップ圧力)を調節する圧力制御弁とすることができる。潤滑油排出管路516には背圧弁526を配設することができる。背圧弁526は潤滑油ポケット74内の圧力(潤滑油排出管路516の上流側の圧力)が所定値となるよう、圧力調節する圧力制御弁とすることができる。
図16において、回転軸504が、矢印DR1で示すように、摺動部材70の第1のポート78a、78bから第2のポート79a、79bへ向かう方向(図16では反時計回りの方向)に回転するとき、潤滑油ポケット74内の潤滑油は、その粘性により、矢印L1で示すように、回転軸504の外表面に引きずられて、摺動部材70に対して相対的に第2のポート79a、79b側に移動する。このとき、ソレノイド制御装置530はソレノイド520を消磁して、スプリング522の付勢力によって、切換弁518を第2の位置から第1の位置に移動する。これにより、潤滑油ポケット74内の高温の潤滑油は、第2のポート79a、79b、第2の管路512、切換弁518、潤滑油排出管路516を介して潤滑油供給装置へ排出されると共に、新たな低温の潤滑油が、潤滑油供給装置から潤滑油供給管路514、切換弁518、第1の管路510、第1のポート78a、78bを介して潤滑油ポケット74内に供給される。これにより、摺動部材70および回転軸504が冷却される。
図17において、回転軸504が、矢印DR2で示すように、摺動部材70の第2のポート79a、79bから第1のポート78a、78bへ向かう方向(図17では時計回りの方向)に回転するとき、潤滑油ポケット74内の潤滑油は、その粘性により、矢印L2で示すように、回転軸504の外表面に引きずられて、摺動部材70に対して相対的に第1のポート18b側に移動する。このとき、ソレノイド制御装置530はソレノイド520を励磁して、切換弁518が第2の位置に駆動される。これにより、潤滑油ポケット74内の高温の潤滑油は、第1のポート78a、78b、第1の管路510、切換弁518、潤滑油排出管路516を介して潤滑油供給装置へ排出されると共に、新たな低温の潤滑油が、潤滑油供給装置から潤滑油供給管路514、切換弁518、第2の管路512、第2のポート79a、79bを介して潤滑油ポケット74内に供給され、これにより、摺動部材70および回転軸504が冷却される。
図14、15の実施形態では、回転軸310が第2のポート79a、79b側に回転するときには、反対方向の第1のポート78a、78b側に移動するときよりも多くの潤滑油供給装置320からの潤滑油が摺動部材70に供給されることとなり、回転軸310の移動方向に関する潤滑油供給温度の不均一性が生じる。
これに対して、図16、17の実施形態では、切換弁518によって、摺動部材70の第1のポート78a、78bおよび第2のポート79a、79bの接続を潤滑油供給管路514と、潤滑油排出管路516との間で切り換えるようになっている。これにより、潤滑油ポケット74内の昇温した潤滑油は、その全量が、第1のポート78a、78bおよび第2のポート79a、79bのうち回転軸350の回転方向に関して前側になるポートから排出され、新たに供給される低温の潤滑油の全量が、後ろ側のポートから供給されるので、潤滑油の温度や供給量が、回転軸504の移動方向によって変化することがない。
図18を参照して、本発明の滑り円運動ガイド装置を用いたロータリワークヘッドを説明する。
図18において、ロータリワークヘッド600は、工作機械のテーブル622に載置、固定され、加工するワークWを回転可能に取付ける装置である。ロータリワークヘッド600は、テーブル622に固定される中空円筒状の主軸ハウジング612と、主軸ハウジング612に回転可能に支持される回転主軸606とを有している。主軸ハウジング612は、後端側の開口部が後エンドプレート602により閉塞され、前側の開口部が前エンドプレート604により閉塞される。前エンドプレート604と主軸ハウジング612との間にスペーサ614が挟持される。
回転主軸606は、前側を本発明の円運動ガイド装置、特に図16に示した滑り軸受システム500によって、主軸ハウジング612に支持されている。回転主軸606は、図1〜図4の滑り円運動ガイド装置10の回転軸40の円錐台部分42、44に相当するヘッド部616を有している。ヘッド部616は、スペーサ614に対面する最大外径部から先端方向(図18では右方向)および後端方向(図18では左方向)の双方に向けて次第に半径が小さくなる2つの円錐台部分616a、616bを有している。
主軸ハウジング612は、円錐台部分616aを支承する円錐状の支承面612aを有し、前エンドプレート604は、円錐台部分616bを支承する円錐状の支承面604aを有している。つまり、主軸ハウジング612と、前エンドプレート604は軸受部材を形成している。回転主軸606の2つの円錐台部分616a、616bを、2つの支承面612a、604aで軸方向に挟持するように支持しているので、回転主軸606に作用するラジアル方向の荷重はもとより、中心軸線Oに沿って前方および後方の双方向に作用するスラスト荷重も支持される。
回転主軸606の先端には、面板618が固定されており、該面板618にワークWが取り付けられる。回転主軸606の後端側の外周面にはロータ608が固定されている。主軸ハウジング612の内周面には、ロータ608に対面するようにステータ610が固定されている。ロータ608とステータ610は、ロータリワークヘッド600のビルトインモータを形成している。
後エンドプレート602の中心開口部602aを通して、回転主軸606が外部に突出している。中心開口部602aにボールベアリング(図示せず)のような適当なラジアル軸受620を嵌合して、回転主軸606の後端部分を回転可能に支持するようにできる。
主軸ハウジング612には、摺動部材70の第1のポート78a、78bおよび第2のポート79a、79bに連通する第1の通路624a、624bと第2の通路626a、626bが径方向に形成されている。
次に、図19を参照して、別の実施形態によるロータリワークヘッドを説明する。
図19において、ロータリワークヘッド700は、図18のロータリワークヘッド600と同様に、テーブル724に固定される中空円筒状の主軸ハウジング712と、主軸ハウジング712に回転可能に支持される回転主軸706とを有している。主軸ハウジング712は、後端側の開口部が後エンドプレート702により閉塞され、前側の開口部が前エンドプレート704により閉塞される。前エンドプレート704と主軸ハウジング712との間にスペーサ714が挟持される。
回転主軸706は、その先端側を本発明の円運動ガイド装置、特に図16に示した滑り軸受システム500によって、主軸ハウジングに支持されている。回転主軸706は、ヘッド部716を有している。ヘッド部716は、スペーサ714に対面する最大外径部から後端方向(図19では左方向)の双方に向けて次第に半径が小さくなる円錐台部分716aを有している。本実施形態では、回転主軸706は、図18の回転主軸706とは異なり、ヘッド部716は、スペーサ714に対面する最大外径部から先端方向(図19では右方向)に向けて次第に半径が小さくする円錐台部分を有しておらず、中心軸線Oに対して垂直な環状の平面718となっている。
主軸ハウジング712は、円錐台部分716aを支承する円錐状の支承面712aを有している。つまり、主軸ハウジング712は軸受部材を形成している。本実施形態では、前エンドプレート704は、図18の支承面604aに代えてスラストベアリング(図示せず)を備えることができる。回転主軸706の円錐台部分716aを、支承面712aにより軸方向に後端側から支持し、先端側(図19の右方)からはスラストベアリングにより支持するようになっている。
回転主軸706の先端には、面板720が固定されており、該面板720にワークWが取り付けられる。回転主軸706の後端側の外周面にはロータ708が固定されている。主軸ハウジング712の内周面には、ロータ708に対面するようにステータ710が固定されている。ロータ708とステータ710は、ロータリワークヘッド700のビルトインモータを形成している。
主軸ハウジング712は、後端側の開口部が後エンドプレート702により閉塞され、前側の開口部が前エンドプレート704により閉塞される。前エンドプレート704と主軸ハウジング712との間にスペーサ714が挟持される。回転主軸706は、回転軸40の円錐台部分42に相当するヘッド部716を有している。
後エンドプレート702の中心開口部702aを通して、回転主軸706が外部に突出している。中心開口部702aにボールベアリング(図示せず)のような適当な軸受722を嵌合して、回転主軸706の後端部分を回転可能に支持するようにできる。
主軸ハウジング712には、摺動部材70の第1のポート78a、78bおよび第2のポート79a、79bに連通する第1の通路724a、724bおよび第2の通路726a、726bが径方向に形成されている。