JP6809713B2 - 炎症性腸疾患抑制剤 - Google Patents
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Description
(1)小胞型核酸トランスポーター(VNUT)阻害活性を有する化合物を含有してなる、炎症性腸疾患の予防又は治療用医薬組成物。
(2)該疾患の寛解期における投与用である、(1)に記載の医薬組成物。
(3)VNUT阻害活性を有する化合物が、クロドロン酸又はその塩である、(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
(4)炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎又はクローン病である、(1)〜(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(5)予防上又は治療上有効量のVNUT阻害活性を有する化合物を、その投与が必要な対象に投与することを含む、炎症性腸疾患の予防又は治療方法。
(6)該疾患の寛解期に投与することを特徴とする、(5)に記載の予防又は治療方法。
(7)VNUT阻害活性を有する化合物が、クロドロン酸又はその塩である、(5)又は(6)に記載の予防又は治療方法。
(8)炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎又はクローン病である、(5)〜(7)のいずれかに記載の予防又は治療方法。
(9)被検物質が、VNUTを阻害し得るか否かを評価する工程を含む、炎症性腸疾患の予防剤又は治療剤のスクリーニング方法。
(10)クロドロン酸又はその塩を有効成分として含有するVNUT阻害剤。
また、本発明によれば、VNUTの阻害という新たなメカニズムに基づく炎症性腸疾患の予防又は治療に有用な医薬のスクリーニングが可能となる。
ヒトVNUT(アイソフォーム1)ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号NM_022082.3、アミノ酸配列:アクセッション番号NP_071365.3
ヒトVNUT(アイソフォーム2)ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号NM_001302643.1、アミノ酸配列:アクセッション番号:NP_001289572.1
マウスVNUTヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号NM_183161.3、アミノ酸配列:アクセッション番号NP_898984.3
本明細書中、「VNUT阻害活性を有する化合物」とは、例えば、VNUTによるATPの取り込みを阻害する効果を有する化合物、VNUTにより細胞外へのATPの放出を阻害する効果を有する化合物等を指し、具体的には、VNUTとCl−との結合を阻害する化合物、ATPアナログなどのVNUTと結合しVNUTとATPとの結合を阻害する化合物、VNUTの発現を特異的に抑制する核酸等のVNUTの発現を特異的に抑制する化合物などが挙げられる。
VNUTに対するアンチセンス核酸等のVNUTの発現を特異的に抑制する核酸、又はこれらの核酸を発現し得るベクターも、VNUTの発現を抑制することにより結果としてVNUTによるATPの取り込みを阻害するため、VNUT阻害活性を有する化合物に含まれ得る。VNUT阻害活性を有する化合物としては、VNUTの機能を阻害する限り特に限定されることではないが、例えば、アセト酢酸、3−ヒドロキシ酪酸等のケトン体、グリオキシル酸、クロドロン酸、及びVNUTの発現を特異的に抑制する核酸又はこれらの核酸を発現し得るベクター等が挙げられる。
好ましくは、VNUT阻害活性を有する化合物は、アセト酢酸及び3−ヒドロキシ酪酸等のケトン体、グリオキシル酸、又はクロドロン酸であり、より好ましくはアセト酢酸、グリオキシル酸、3−ヒドロキシ酪酸及びクロドロン酸からなる群より選択されるVNUT阻害活性を有する化合物であり、さらに好ましくは、クロドロン酸である。
好ましくは二ナトリウム塩が挙げられる。
一態様として、クロドロン酸は、クロドロン酸の二ナトリウム塩四水和物である。
尚、本明細書中、クロドロン酸の塩の形態であるクロドロネートについても、便宜上、その遊離形態である「クロドロン酸」と記載する場合がある。クロドロネート以外の各種ビスホスホネートに関しても同様に、塩の形態であっても、その遊離形態の名称を用いて記載する場合がある。
(A)VNUTをコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は12塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む核酸、及び
(B)VNUTをコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内でハイブリダイズし得る12塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で当該VNUTへの翻訳を阻害し得る核酸等を挙げることが出来る。
ヌクレオチド誘導体は、核酸内の他のヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体とアルキレン構造、ペプチド構造、ヌクレオチド構造、エーテル構造、エステル構造、およびこれらの少なくとも一つを組み合わせた構造等の架橋構造を形成してもよい。
本明細書中、用語「予防」とは、炎症性腸疾患の発病を抑制すること、炎症性腸疾患の発病を遅らせること、又は炎症性腸疾患の発病の可能性を弱めることを包含する。
1)下痢・血便の発生
2)下痢や出血、狭窄などに伴う腹痛の発生
3)腸管の出血などに伴う貧血の発生
4)発熱
5)体重減少
6)大腸粘膜の出血、びらん及び/又は潰瘍
等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物をヒトに用いる場合、本発明の医薬組成物は、上記1)〜6)からなる群より選択される少なくとも1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、さらにより好ましくは5以上、最も好ましくは6全ての症状を予防又は治療する効果を有する。
1)体重の減少
2)大腸の長さの短縮
3)Disease Activity Index(DAI)の上昇
4)下痢・血便の発生
5)病理学的所見の変化(筋層の肥厚、好中球の浸潤及び/又はクリプト構造の脱落)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物を、非ヒト哺乳動物に用いる場合、本発明の医薬組成物は、上記1)〜5)からなる群より選択される少なくとも1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、最も好ましくは5の症状を予防又は治療する効果を有する。
DAIの評価は、実施例に記載の方法に準じて行うことができる。
本発明の医薬組成物は、炎症性腸疾患の予防又は治療用であり、好ましくは潰瘍性大腸炎又はクローン病の予防又は治療用であり、さらに好ましくは、潰瘍性大腸炎の予防又は治療用である。
本発明の医薬組成物は、炎症性腸疾患の再発を抑制する効果を有するため、再発性の炎症性腸疾患にも有用である。
本発明の医薬組成物は、炎症性腸疾患を有するヒト又は炎症性腸疾患の罹患の可能性の高いヒト用であることが好ましい。
本発明の医薬組成物は、非病変部と比較して病変部においてVNUTの発現量が亢進していることにより特徴付けられる炎症性腸疾患患者に好適に用いられる。
しかしながら、これらの投与量、投与回数、投与期間及び投与方法等は、種々の条件により変化する。
好ましくは、本発明の医薬組成物は経口投与又は皮下投与される。
本発明の医薬組成物にVNUT阻害活性を有する化合物としてクロドロン酸を用いる場合、本発明の医薬組成物は、好ましくは経口投与又は皮下投与、より好ましくは経口投与される。
一態様において、本発明の医薬組成物は、投与対象の体重(kg)に対して有効成分が30mgとなるように、経口投与される。
クロドロン酸は、既に医薬品として上市されており、安全性についての知見が蓄積されているため、これらの情報を考慮し、製剤化及び投与方法等を検討することができる。
急性期とは、症状が急激に現れる時期のことを指す。寛解期とは、症状が一時的に軽くなったり、消えたりしている時期のことを指す。寛解期は必ずしも完治した状態ではなく、病気が再発する可能性もある。再燃期とは、寛解期後に症状が再発する時期のことを指す。本発明の医薬組成物は、再燃抑制等の作用を有するため、寛解期での投与用としても有用である。
例えば、本発明の医薬組成物を経口用製剤として調製する場合には賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤等を加えた後、常法により例えば錠剤、散剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、溶液剤、糖衣剤、デポー剤、又はシロップ剤等とする。賦形剤としては、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、ブトウ糖、ソルビット、結晶セルロース等が、結合剤としては例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガカント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ポリビニルピロリドン等が、崩壊剤としては例えばデンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストラン、ペクチン等が、滑沢剤としては例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香酸、ハッカ油、竜脳、桂皮末等が用いられる。これらの錠剤又は顆粒剤には、糖衣、ゼラチン衣、その他必要により適宜コーティングすることはもちろん差しつかえない。
本発明は、予防上又は治療上有効量のVNUT阻害活性を有する化合物を投与することを特徴とする炎症性腸疾患の予防又は治療方法(本発明の治療方法)を提供する。本発明の治療方法の好ましい態様としては、予防上又は治療上有効量の本発明の医薬組成物を投与することを特徴とする。
好ましい一態様において、本発明の治療方法は、炎症性腸疾患の寛解期にあると診断されたヒトに対し、予防上又は治療上有効量のVNUT阻害活性を有する化合物を投与する工程を含む。別の好ましい態様において、本発明の治療方法は、炎症性腸疾患に罹患しているか罹患の可能性が高いと診断されたヒトに対し、予防上又は治療上有効量のクロドロン酸(但しクロドロン酸はリポソームに封入されていない)を投与する工程を含む。より好ましい態様において、本発明の治療方法は、炎症性腸疾患の寛解期にあると診断されたヒトに対し、予防上又は治療上有効量のクロドロン酸(但しクロドロン酸はリポソームに封入されていない)を投与する工程を含む。
本明細書中使用される「治療上有効量」とは、対象に投与される時、所望の治療効果(例、炎症性腸疾患の症状のうち1以上を除去する、重症度を弱める、及び増悪を抑制すること、活動期(例、再燃期、急性期)から寛解期に移行させること、炎症性腸疾患の再燃を抑制又は遅延させること、寛解期を延長すること、又は、炎症性腸疾患の活動期(例、再燃期、急性期)の期間を短縮すること等)をもたらす活性成分の量を意味する。治療上有効量は、一度に投与されてもよく、複数回に分けて投与されてもよい。
本明細書中使用される「予防上有効量」とは、対象に投与される時、所望の予防効果(例、炎症性腸疾患の発病を抑制すること、炎症性腸疾患の発病を遅らせること、又は炎症性腸疾患の発病の可能性を弱めること)をもたらす活性成分の量を意味する。予防上有効量は、一度に投与されてもよく、複数回に分けて投与されてもよい。
本発明はさらに、被検物質が、VNUTを阻害し得るか否かを評価する工程を含む、炎症性腸疾患の予防剤又は治療剤のスクリーニング方法(本発明のスクリーニング方法)を提供する。後述の実施例に示されるように、VNUTの働きを阻害すると、炎症性腸疾患の症状が軽減されるので、VNUTの阻害活性を指標として、炎症性腸疾患(好ましくは潰瘍性大腸炎又はクローン病、より好ましくは潰瘍性大腸炎)の予防剤又は治療剤をスクリーニングすることが可能である。
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、以下の工程を含む:
(1)被検物質の存在下において、VNUTの活性を測定する工程;
(2)当該被検物質の非存在下において、VNUTの活性を測定する工程;
(3)当該被検物質の存在下における当該VNUTの活性を、当該被検物質の非存在下における当該VNUTの活性と比較する工程;及び
(4)比較の結果、当該被検物質の非存在下におけるVNUTの活性と比較して、当該被検物質の存在下におけるVNUTの活性が低い被検物質を、炎症性腸疾患の予防剤又は治療剤の候補物質として選択する工程。
また別の態様として、VNUTの活性の測定は、VNUT依存的にATPを細胞外に放出し得る細胞を用い、ATP放出刺激に対して、細胞外に放出されるATP量を測定することにより測定することができる。VNUT依存的にATPを細胞外に放出し得る細胞を用いたVNUTの活性の測定は、例えば、Juge,N.et al.,Neuron 68,99−112.(2010)に記載の方法、Sakamoto,S.et al.,Sci.Rep.4,1−10(2014)に記載の方法、Hiasa,M.et al.Physiol.Rep.2,e12034(2014)に記載の方法等に準じて行うことができる。VNUT依存的にATPを細胞外に放出し得る細胞としては、海馬神経初代培養等の神経細胞、血小板などが挙げられるがこれらに限定されない。例えば、VNUTの活性の測定は、VNUT依存的にATPを細胞外に放出し得る細胞に被検物質を接触させた後、該細胞にVNUT依存的なATP放出刺激を与え、細胞外に放出されるATP量を測定することにより、測定することができる。大腸においては、内在性のVNUTの発現が杯細胞において観察されることから、VNUTの活性の測定は、杯細胞を用いて行うことも好ましい。杯細胞としては、VNUT依存的にATPを放出する限り特に限定されるものではないが、例えば、生体内の杯細胞、LS174T細胞等の培養杯細胞モデル、多能性幹細胞等の未分化細胞から分化誘導された大腸杯細胞などが挙げられる。
(5)炎症性腸疾患モデル非ヒト哺乳動物に工程(4)で選択した候補物質を投与すること;
(6)該非ヒト哺乳動物における炎症性腸疾患の症状を評価すること;
(7)候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における炎症性腸疾患の症状を、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における炎症性腸疾患の症状と比較すること。
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の飲水投与は、急性大腸炎の確立されたマウス炎症性損傷モデルである。DSSの飲水投与によって腸粘膜上皮細胞の障害を誘導し、下痢、下血、体重減少など潰瘍性大腸炎と類似の症状を引き起こすことが知られている。
本発明者らは、クロドロン酸又はその塩を有効成分として含有するVNUT阻害剤(以下、本発明のVNUT阻害剤とも称する)を提供する。
クロドロン酸は、後述の実施例に記載するように、小胞型グルタミン酸トランスポーター2(VGLUT2/SLC17A6)、VGLUT3(SLC17A8)、VGLUT1(SLC17A7)、小胞型興奮性アミノ酸トランスポーター(VEAT)、小胞型抑制性アミノ酸トランスポーター(VIAAT/SLC32A1)、小胞型モノアミントランスポーター2(VMAT2/SLC18A2)及びNa+−リン酸共輸送体1(NPT1/SLC17A1)と比較して、VNUTに対して強力な阻害作用を有する。従って、本発明のVNUT阻害剤は、選択性の高いVNUT阻害剤として機能する。
VNUTは、糖尿病などに関与することが知られている。
NCBI GEOに登録されているマイクロアレイのデータベース(Intestinal mucosa response to active and inactive ulcerative colitis:colon biopsies)を用い、潰瘍性大腸炎(UC)患者の病理検査サンプルの遺伝子発現量を比較した(図1)。
潰瘍性大腸炎(UC)患者の病理検査サンプルの遺伝子発現量を比較したところ、UC患者の病変部において、炎症時に亢進したVNUTの発現が、寛解期も高いまま保たれることを見出した(図1(b))。一方、炎症性サイトカインであるインターロイキン−17aは、活動期病変部と比較して、寛解期病変部では発現量が低下していた(図1(a))。
また、骨髄球(マクロファージ及び顆粒球等)のマーカーであるCD11b(Mac−1)は、活動期病変部では高い発現がみとめられたが、寛解期病変部では健常なヒトと同程度まで発現量が低下していた(図1(c))。急性期では病変部にマクロファージが集積するが、炎症が治まるとマクロファージが減少し、寛解期では健常なヒトとほぼ同じ程度までに戻ることが示された。
VNUTに対する、ビスホスホネートの阻害作用を検証するため、図2に記載の各種ビスホスホネート(クロドロン酸、エチドロン酸、チルドロン酸、メドロン酸、ジフルオロメチレン−ジホスホン酸、パミドロン酸、アレンドロン酸、ネリドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、ゾレドロン酸、メチレンビスホスホン酸ジクロライド)を用いて、VNUTのATP取り込みを観察した。ピロリン酸については、Liu,Y et al.,Neuron Nov 4;68(3):543−56(2010)に記載の値を参考にした。
また、様々な小胞型神経伝達物質トランスポーター(VNUT)、小胞型グルタミン酸トランスポーター2(VGLUT2/SLC17A6)、VGLUT3(SLC17A8)、VGLUT1(SLC17A7)、小胞型興奮性アミノ酸トランスポーター(VEAT)、小胞型抑制性アミノ酸トランスポーター(VIAAT/SLC32A1)、小胞型モノアミントランスポーター2(VMAT2/SLC18A2)及びNa+−リン酸共輸送体1(NPT1/SLC17A1)を用いて、それぞれのトランスポーターに対するクロドロン酸又はエチドロン酸の阻害効果を検証した。
VNUT、小胞型グルタミン酸トランスポーター2(VGLUT2/SLC17A6)、VGLUT3(SLC17A8)、小胞型興奮性アミノ酸トランスポーター(VEAT/SLC17A5)及びNa+−リン酸共輸送体1(NPT1/SLC17A1)のcDNAを、両末端のHisタグ及び可溶性αへリックスタンパク質と共に、大腸菌発現ベクターにクローニングし、大腸菌に過剰発現させた。さらに、VGLUT1(SLC17A7)、小胞型抑制性アミノ酸トランスポーター(VIAAT/SLC32A1)及び小胞型モノアミントランスポーター2(VMAT2/SLC18A2)のcDNAをバキュロウイルス発現ベクターにクローニングし、昆虫細胞に過剰発現させた。昆虫細胞を用いた小胞型神経伝達物質トランスポーターの発現と精製は、Juge,N et al.Neuron 68,99−112.(2010)に記載の方法に準じて行った。Juge,N et al.Neuron 68,99−112.(2010)、およびLeviatan,S et al.,J.Biol.Chem.285,23548−23556(2010)に記載の方法に準じ、これらの膜画分を可溶化させ、Ni−NTAアフィニティカラムクロマトグラフィーにより精製した。精製したタンパク質は電気泳動し、クマシーブリリアントブルーで染色して、予想されるサイズに、主要なバンドが存在するのを確認した。
次に、精製したタンパク質をプロテオリポソームに組込み、鎮痛効果を有する第一世代ビスホスホネートとして知られるクロドロン酸及びエチドロン酸が、これらのトランスポーターを阻害するのか否かを検証した。
〈cDNA〉
マウスVNUT(Accession No.NM183161)、ラットVGLUT1(Accession No.NM053859.2)、ラットVGLUT2(Accession No.NM053427.1)、ヒトVGLUT3(Accession No.NM001138760.1)、マウスVEAT(Accession No.NM172773)、マウスVIAAT(Accession No.BC052020)、ラットVMAT2(Accession No.NM013031.1)及びマウスNPT1(Accession No.NM001170638.1)のcDNAをPCRによってクローニングした。
クロドロン酸(Clodronate)、エチドロン酸(etidronate)、チルドロン酸(tiludronate)、メドロン酸(medronate)、パミドロン酸(pamidronate)、ネリドロン酸(neridronate)、イバンドロン酸(ibandronate)、ゾレドロン酸(zoledronate)、及びメチレンビスホスホン酸ジクロライド(methylene bis−phosphonic dichloride)はSigma Aldrichから購入した。ジフルオロメチレンジホスホン酸(Difluoromethylene−diphosphonic acid)はToronto Research Chemicals Inc.から購入した。アレンドロン酸(Alendronate)及びリセドロン酸(risedronate)は、LKT Laboratories,Inc.から購入した。ミノドロン酸(minodronate)はTokyo Chemical Industry Co.,Ltd.から購入した。化合物は、それぞれ蒸留水に溶解した。
精製タンパク質20μgを、リポソーム550μgと−80℃で少なくとも15分間混合させた。サンプルチューブを手で握ることにより混合物を素早く溶解させ、20mM MOPS−Tris(pH7.0)、150mM酢酸ナトリウム及び5mM酢酸マグネシウムを含む再構成バッファーで60倍に希釈した。バッファー組成は、必要に応じて変化させた。再構成したプロテオリポソームは、4℃、200,000g、1時間の遠心によりペレットにし、0.2mLの再構成バッファーに懸濁した。アゾレクチンリポソームは、Juge,N.et al.Neuron 68,99−112.(2010)に記載のとおり準備した。大豆レクチン(10mg/mL;Sigma Type IIS)を、20mM MOPS−NaOH(pH7.0)及び1mMジチオトレイトール(dithiothreitol)を含むバッファーに懸濁した。バス型ソニケーター中で、混合物が透き通るまでソニケーションを行い、使用まで−80℃で保存した。いくつかの実験において、精製したVMAT2はリポソームと共に再構成を行った。簡潔に、20μg VMAT2をリポソーム(脂質550μg)と混合し、−80℃で凍結させ、この温度で少なくとも15分間放置した。混合物を、40mM MES−Tris(pH5.7)、150mM酢酸カリウム及び5mM酢酸マグネシウムを含む再構成バッファーで60倍に希釈した。再構成させたプロテオリポソームは、200,000g、1時間、4℃の遠心によりペレットにし、0.2mLの共再構成バッファーに懸濁した。
プロテオリポソームに組込んだ0.3μgのタンパク質、20mM MOPS−Tris(pH7.0)、150mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム、10mM KCl及び2μMバリノマイシン、並びに100μM[3H]−ATP(0.5MBq/μmol;PerkinElmer)、100μM[2,3−3H]L−グルタミン酸(0.5MBq/μmol;PerkinElmer)、100μM[2,3−3H]L−アスパラギン酸(0.5MBq/μmol;PerkinElmer)、100μM[2,3−3H]GABA(0.5MBq/μmol;PerkinElmer)又は100μM パラアミノ馬尿酸(0.5MBq/μmol;PerkinElmer)からなる反応混合物(130μL)を27℃でインキュベートした。表示された時点に、Sephadex G−50(fine)を包含する遠心カラムを用いて、プロテオリポソームを外部培地から分離することにより、輸送を終結させた。溶出物中の放射線を、液体シンチレーションカウンター(PerkinElmer)により測定した。セロトニン輸送のためには、VMAT2(タンパク質0.3μg)を含有するプロテオリポソームを、20mM MOPS−Tris(pH7.5)、140mM 酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム及び10mMKCl並びに10μM[2−3H]セロトニン(0.5MBq/μmol;PerkinElmer)からなる反応混合物(130μL)を27℃でインキュベートした。表示の時点で、Sephadex G−50(fine)を包含する遠心カラムを用いて、外部培地からプロテオリポソームを分離することにより、輸送を終了させた。溶出物中の放射線を、液体シンチレーションカウンターにより測定した。
特筆しない限り、実施例1及び6に関して、全ての数値を平均±標準誤差(n=3〜23)として示す。統計的有意性は、Student’s t検定又は分散分析(ANOVA)により決定した。有意性は、*P<0.05及び**P<0.01として定義した。
VNUTに対する、各種ビスホスホネート(クロドロン酸、エチドロン酸、チルドロン酸、メドロン酸、ジフルオロメチレン−ジホスホン酸、パミドロン酸、アレンドロン酸、ネリドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、ゾレドロン酸、メチレンビスホスホン酸ジクロライド、ピロリン酸)の、VNUTのATP取り込みに対する阻害作用を図2に示す。エチドロン酸は、IC50 20.8μMを示すわずかな阻害効果を有していた。試験した化合物の中で、クロドロン酸は、VNUTが媒介するATPの取り込み抑制に対しIC50 15.6nMを示す最も強い阻害効果を有した(図2)。
ミノドロン酸は、わずかな阻害効果を示したが、他のいずれのビスホスホネートも、VNUT依存的なATPの取り込みに対する、強力な阻害効果は示さなかった(図2)。
興味深いことに、メドロン酸(ビスホスホネートの基礎骨格)、ジフルオロメチレン−ジホスホン酸(特性基の塩素を、フッ素で置換したクロドロン酸アナログ(類似体))、及びメチレンビスホスホン酸ジクロライド(リン酸基中の水酸基を塩素で置換したクロドロン酸アナログ(類似体))は、VNUT依存的なATPの取り込みに対して、阻害効果が弱かったか又は全く示さなかった(図2)。
クロドロン酸及びエチドロン酸のいずれも、VEAT媒介性のアスパラギン酸の取り込み、VIAAT媒介性のGABAの取り込み、又はVMAT2媒介性のセロトニンの取り込みに対して、阻害効果を示さなかった。VEATは、Δψ依存的なアスパラギン酸輸送に加え、H+/シアル酸共輸送機能を有するが、H+/シアル酸共輸送も阻害されなかった。また、腎臓からの尿酸及び薬剤の排出を制御するNPT1−媒介性のパラアミノ馬尿酸(PAH)の取り込みも、阻害されなかった。
実施例2:急性モデルに対するクロドロン酸の薬効評価
(方法)
〈動物〉
マウスは日本チャールス・リバー社から購入したC57BL/6Jマウス、8週齢を用いた。SPF環境下にて、固形飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)、水道水を自由に与え、小ケージ内で個飼いとした。入荷から5日間の馴化期間をおいた後、試験に用いた。
〈試薬の調製〉
・2%DSS溶液
重量の2%量のデキストラン硫酸ナトリウム(Dextran Sodium Sulfate:DSS,MPバイオ)をミリQ水に溶解し、0.22μmフィルターにて滅菌を行った。調製後は4℃で保管した。
・クロドロン酸投与液
クロドロン酸二ナトリウム四水和物(東京化成工業株式会社)を10mg/kg用は2.0mg/ml、30mg/kg用は6.0mg/ml溶液を生理食塩水(株式会社大塚製薬工場)で用時調製した。
マウスを無処置群(n=4)とDSS投与群(n=18)に分け、DSS投与群には2%DSS溶液を飲水として6日間自由摂取させた。無処置群は水道水を自由に飲水させた。この間、体重と下痢、血便のスコア、飲水量を毎日観察した。下痢、血便のスコアは下記表1を基準とした。
〈Disease Activity Index(DAI)〉
DSSを投与している6日間の体重減少、下痢、および血便のスコアの最も高い値を足し合わせた値をDAIとして算出した。
体重減少のスコアは、
0:体重減少率(%)が1%未満;
1:体重減少率(%)が1%以上5%未満;
2:体重減少率(%)が5%以上10%未満;
3:体重減少率(%)が10%以上15%未満;
4:体重減少率(%)が15%以上;
とした。
下痢、および血便のスコアは
0:表1のスコアが0;
2:表1のスコアが1又は2;
4:表1のスコアが3又は4;
とした(Hamamoto,N.,et al.,Clin Exp Immunol 1999;117:462−468)。
上記の大腸炎モデル剖検時に採取した大腸を縦に割き、肛門側を中心に内腔側を内側に巻き、渦巻き状のまま4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(ナカライテスク)中で1時間固定した。定法に則り、パラフィン置換を行い、5μmの切片を作成した。
〈PAS・アルシアンブルー(pH1.0)〉
脱パラフィン後、水洗し1N HClに5分間浸けた。アルシアンブルー液pH1.0(和光純薬)に30分浸け、水洗後、0.5%過ヨウ素酸水溶液(和光純薬)に10分、流水で5分水洗後、DWで水洗し、その後シッフ試薬(和光純薬)に10分間浸し、亜硫酸水に3分x3回浸け、発色させた。核染色のためにヘマトキシリン(和光純薬)に10秒程度浸け、水道水で10分間水洗した。この後定法に則り、脱水、透徹、封入を行った。
カメラ付き顕微鏡にて撮影後、筋層の厚さと、クリプト構造が破壊されている割合を画像解析ソフトウェアであるimageJを用いて解析した。さらに、imageJを用いて、大腸全長の病理画像の解析を行った。全体の腸の長さと、クリプトが破壊されている部分の長さを算出し、その割合を計算してクリプト構造の欠損率とした。
図4に体重の変化における結果を示す。DSS摂取により6日間で約7%の体重減少がみられたが、クロドロン酸投与により体重減少が抑制された。体重変化率のデータを表3に示す。
(方法)
〈試薬の調製〉
・2.8%DSS溶液
重量の2.8%量のDSSをミリQ水に溶解し、0.22μmフィルターにて滅菌を行った。調製後は4℃で保管した。
・クロドロン酸投与液(Clo)(30mg/kg)
クロドロン酸二ナトリウム四水和物6.0mg/mlを生理食塩水で用時調製した。
・エチドロン酸投与液(Eti)(21mg/kg)
エチドロン酸二ナトリウム水和物(東京化成工業株式会社)4.2mg/mlを生理食塩水で用時調製した。
・アレンドロン酸投与液(Ale)(3.0mg/kg)
アレンドロン酸ナトリウム三水和物(東京化成工業株式会社)0.60mg/mlを生理食塩水で用時調製した。
・シクロスポリンA投与液(CyA)(10mg/kg)
シクロスポリンA(東京化成工業株式会社)2.0mg/mlを生理食塩水で用時調製した。
〈各投与濃度について〉
クロドロン酸については実施例2で効果が高かった30mg/kgの用量を採用した。エチドロン酸の用量はクロドロン酸30mg/kgと等モルとした。アレンドロン酸についてはクロドロン酸と等モル量を投与すると毒性が出現するため、1週間の投与でこれが出現しない用量を選択した。シクロスポリンAについては既報の論文(Sann,H.,et al.,Life Sci,2013.92(12):p.708−18)と事前の検討でDSS大腸炎に効果のある投与量を決定した。
実施例2の方法と同様に行った。ただしDSS溶液は2.8%とした(DSSのロット間で発症や増悪度に差があるため、最適化を行っている。)。
各群にクロドロン酸投与液、エチドロン酸投与液、アレンドロン酸投与液、又はシクロスポリンA投与液を体重1gあたり5μlずつ、DSS投与1日目〜5日目までの間、毎日皮下投与した。生食群は同量の生理食塩水を同じスケジュールで投与した。群構成は表10に記す。
図11に大腸長の比較データを、表11に大腸長のデータを示した。DSS摂取により大腸長の短縮がみられ、ポジティブコントロール(薬効があることが知られている薬剤)として用いたシクロスポリンAと、クロドロン酸の投与により抑制がみられた。
(方法)
〈試薬の調製〉
・OVA含有2.8%DSS溶液
重量の2.8%量のデキストラン硫酸ナトリウム(Dextran Sodium Sulfate:DSS,MPバイオ)をミリQ水に溶解し、卵白アルブミン(OVA;シグマアルドリッチ)を0.14mg/mlとなるように添加、0.22μmフィルターにて滅菌を行った。調製後は4℃で保管した。
・OVA含有2.1%DSS溶液
OVA 0.14mg/ml溶液を調製し、DSS2.8%溶液と1:3で混和することにより調製した。
・クロドロン酸投与液
クロドロン酸二ナトリウム四水和物(東京化成工業株式会社)6.0mg/mlを生理食塩水で用時調製した。
試験開始日をday0とし、体重により群分けを行い、24時間の絶食をかけた。day1に再摂食させ、同時にOVA含有DSS溶液を水道水の代わりにday6までの5日間自由摂水で与えた。day1から体重、飲水量の測定を行い、糞便について血便、下痢のスコアリングを行った。血便が消失し下痢も軽度になったday44にday0の体重に対する変化率、下痢スコアと、day44までの最大体重減少率によりn=5〜6で3群に分けた。OVA含有DSS溶液の対照としてday1からday44まで水道水を与えたマウスはday44の体重変化率と下痢スコアによりn=3〜4で3群に分けた。day47、day48、day49の3日間、クロドロン酸二ナトリウム四水和物(東京化成工業株式会社)6mg/ml溶液又は生理食塩水を5ml/kgで1日1回皮下投与を行った。また、day48からday49にかけて絶食をかけ、day49に再摂食、同時にOVA0.14mg/ml含有DSS2.1%溶液をday51までの2日間与え、大腸炎の再燃を誘発した。day51に剖検を行い、大腸の長さを測定、評価項目とした。
図12に大腸長の比較を、表12に大腸長のデータを示した。
DSS誘発マウス急性大腸炎モデルおよび再燃モデルにおいて、クロドロン酸二ナトリウムによる大腸炎抑制作用が認められた。
一方、今回の解析では他のビスホスホネートであるエチドロン酸、アレンドロン酸には大腸炎抑制作用は認められなかった。
(方法)
〈試薬の調製〉
・OVA含有2.8%DSS溶液
重量の2.8%量のデキストラン硫酸ナトリウム(Dextran Sodium Sulfate:DSS,MPバイオ)をミリQ水に溶解し、卵白アルブミン(OVA;シグマアルドリッチ)を0.14mg/mlとなるように添加、0.22μmフィルターにて滅菌を行った。調製後は4℃で保管した。
・OVA含有2.1%DSS溶液
OVA 0.14mg/ml溶液を調製し、DSS2.8%溶液と1:3で混和することにより調製した。
・クロドロン酸投与液(皮下)
クロドロン酸二ナトリウム四水和物(東京化成工業株式会社)6.0mg/mlを生理食塩水で用時調製した。
・クロドロン酸投与液(経口)
クロドロン酸二ナトリウム四水和物(東京化成工業株式会社)10mg/mlをミリQ水で用時調製した。
・5−ASA投与液(経口)
5−アミノサリチル酸(シグマアルドリッチ)5.0mg/mlを注射用水(大塚)で用時調製した。
・抗TNFα抗体投与液(腹腔内)
抗TNFα抗体(BioLegend)原液、0.5mg/mlをそのまま使用した。
〈DSS大腸炎〉
試験開始日をday0とし、体重により群分けを行い、24時間の絶食をかけた。day1に再摂食させ、同時にOVA含有DSS溶液を水道水の代わりにday6までの5日間自由摂水で与えた。day1から体重、飲水量の測定を行い、糞便について血便、下痢のスコアリングを行った。血便が消失し下痢も軽度になったday61に、day0の体重に対する変化率、下痢スコアと、day61までの最大体重減少率により、n=6で7群に分けた。OVA含有DSS溶液の対照としてday1からday61まで水道水を与えたマウスはday61の体重変化率と下痢スコアによりn=6で2群に分けた。
day61、day62、day63の3日間、クロドロン酸皮下投与群ではクロドロン酸二ナトリウム四水和物(東京化成工業株式会社)6mg/ml溶液を体重1グラム当たり、5μlで1日1回皮下投与を行った。対照群では生理食塩水を体重1グラム当たり、5μlで1日1回皮下投与を行った。クロドロン酸経口投与群では体重1グラム当たり、10μlクロドロン酸溶液を経口投与した。5−ASA経口投与群では体重1グラム当たり、10μl 5−ASA溶液を経口投与した。対照群には蒸留水を体重1グラム当たり、10μl経口投与した。
抗TNFα抗体投与群ではday61のみで、抗TNFα抗体投与液を0.2ml腹腔内投与した。
また、day62からday63にかけて絶食をかけ、day63に再摂食、同時にOVA0.14mg/ml含有DSS2.1%溶液をday64までの2日間与え、大腸炎の再燃を誘発した。day65に剖検を行い、大腸の長さを測定、評価項目とした。
図13に大腸長の比較を、表13に大腸長のデータを示した。
結論
DSS誘発マウス大腸炎再燃モデルにおいて、クロドロン酸の経口投与は高い大腸炎抑制作用を示した。
次に、クロドロン酸についての薬理作用、その作用機序について検討した。
(方法)
〈蛍光クエンチングとしてのΔψの測定〉
Biol.Pharm.Bull.36,1688−1691(2013)に記載されるように、オキソノールV(Sigma)の蛍光クエンチングを測定することによってΔψ(内側がプラス(positive−inside))を、分析した。プロテオリポソームに組込まれたタンパク質1μg、20mM MOPS−Tris(pH7.0)、150mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム及び1μMオキソノールVからなる反応混合物(450μL)を、27℃で50秒間インキュベートした。記載された阻害剤の存在下又は非存在下で、2μMバリノマイシンの添加により反応を開始させ、2μMカルボニルシアニド−m−クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)の添加により反応を終了させた。
VNUTタンパク質の光親和性標識は、基本的には、FEBS J.280,1430−1442(2013)に記載されるように行った。20μMの濃度のビオチン−11−ATP(PerkinElmer)は、20mM MOPS−Tris(pH7.4)、50mM酢酸カリウム、2mM酢酸マグネシウム、10mM KCl及び0.1%DTMを含有するバッファー50μL中で、VNUTタンパク質4μgと、暗所氷上で混合した。氷上で3分間のインキュベーション後、ハンドヘルドUVランプを用いて、254nmで10分間溶液を照射した。照射後、10%SDS、50%グリセロール、0.3%EDTA及び6%Trisを含むサンプルバッファーの添加により架橋結合反応を停止させ、ブロモフェノールブルー及びサンプルを、SDS−PAGEに供し、続いて、抗ストレプトアビジン抗体(Sigma)を用いて、イムノブロッティングを行った。阻害剤はバッファーにVNUTタンパク質を加える前に添加した。
クロドロン酸によるVNUT依存的なATPの取り込みの阻害メカニズムの特性をさらに明らかにした。これまで報告されているように、バリノマイシンの添加によって、K+の拡散を通じて、〜90mVのΔψ(内側がプラス(positive−inside))が形成された。高濃度のクロドロン酸の添加でさえ、Δψのインジケーターへの影響はなかった(図14a)。
次に、VNUTによるATP取り込みの、Cl−依存性を分析した。結果は、2mM Cl−までは、ATP輸送活性の上昇が観察されず、3〜7mM Cl−において、ATPの取り込みが極端に増加し、8mM Cl−を過ぎてプラトーに達したことを示した(図14b)。Δψが形成されていない条件下においては、塩素イオンはATPの取り込みに対し何ら影響を示さなかった。特筆すべきは、Cl−依存的なVNUTの活性化は、Cl−に対して〜3のヒル係数を有する、強力かつ類まれなATP輸送の正の共同性を示すことであった(図14c)。並行した実験において、クロドロン酸は、Cl−のより高い濃度側への、Cl−活性化シフトをもたらし、競争的相互作用が示唆された(図14b及びc)。
VNUTのATP結合部位の光親和性標識により、UV照射した際に、VNUTの分子量に対応する部位で強力なシグナルが検出された(図14d)。光親和性標識による基質特異性は、ATP輸送アッセイによるものとほぼ同一である。ATPのVNUTへの結合は、高濃度でのクロドロン酸又はエチドロン酸の添加によっても阻害されなかった(図14d)。一方、Cl−依存的なVGLUT媒介性グルタミン酸輸送を阻害するとして知られる、4,4’−ジイソチオシアノ−2,2’−スチルベンスルホン酸(DIDS)は、ATPのVNUTへの結合を阻害した(図14d)。また、すでに報告されているように、高濃度のアセトアセテート及びグリオキシル酸によっても、ATPのVNUTへの結合は阻害されなかった(図14d)。
クロドロン酸の効果は全体として可逆的であり、調合液から当該化合物をウオッシュアウトすることにより活性が完全に回復した(図14e)。
これらの結果は、クロドロン酸が直接的に、競争的にかつ可逆的にVNUTの結合部位を阻害することを示した。
VNUTを発現する細胞を明らかにするため、抗VNUT抗体を用いてVNUTを発現する細胞を探索した。
免疫組織化学実験による解析の結果、粘液を排出する役割を担う杯細胞にVNUTが強く発現することが明らかとなった。杯細胞は近年免疫細胞としての機能も注目されており、単に粘液による物理的なバリアだけではなく、インフラマソームによって有害な外来物の除去する役割を担う細胞であることが解明されてきた(Wlodarska,M.,et al.,Cell.156(5):p.1045−59(2014))。この細胞の機能の破綻はIBDの増悪に関わることが明らかとなっており、VNUTがこの細胞でどのような機能を持つか解析することにより、新たなIBD治療ターゲットを見出すことが期待される。
Claims (4)
- 被検物質が、小胞型核酸トランスポーター(VNUT)を阻害し得るか否かを評価する工程を含む、炎症性腸疾患の予防剤又は治療剤のスクリーニング方法であって、該方法は、以下の工程を含む:
(1)被検物質の存在下において、VNUTの活性を測定する工程;
(2)当該被検物質の非存在下において、VNUTの活性を測定する工程;
(3)当該被検物質の存在下における当該VNUTの活性を、当該被検物質の非存在下における当該VNUTの活性と比較する工程;及び
(4)比較の結果、当該被検物質の非存在下におけるVNUTの活性と比較して、当該被検物質の存在下におけるVNUTの活性が低い被検物質を、炎症性腸疾患の予防剤又は治療剤の候補物質として選択する工程。 - VNUTの活性が、VNUTを介したATPのとりこみを測定することにより測定される、請求項1記載の方法。
- 該予防剤又は治療剤が炎症性腸疾患の寛解期における投与用である、請求項1又は2記載の方法。
- 炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎又はクローン病である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
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