JP6800444B2 - 金属ホスホン酸塩のナノ構造体薄膜の製造方法とナノ多孔体薄膜の製造方法 - Google Patents

金属ホスホン酸塩のナノ構造体薄膜の製造方法とナノ多孔体薄膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、酸性条件下で、分子構造をデザインしたホスホン酸化合物及び金属源を添加して調製した前駆溶液を用いて、スピンコートやディップコートなどにより基板上に薄膜を製造する技術に関するものであり、前駆溶液中に界面活性剤を含む場合には、各種界面活性剤の集合形態を反映した構造規則性を有する金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜を製造することが可能である。また、本発明は、得られた金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜から界面活性剤分子を除去することで生成される金属ホスホン酸塩ナノ多孔体薄膜に関するものである。
界面活性剤等の両親媒性分子が溶液中で自己集合する性質を利用して、界面活性剤等を鋳型分子として無機材料にナノメーターレベルの規則構造を付与した材料をナノ構造体と呼び、特に2〜50nmの範囲に規則構造の周期を有するものをメソ構造体と呼ぶ。メソ構造体から界面活性剤(鋳型分子)を除去することで無機材料が規則配列して形成された細孔を有するメソ多孔体を得ることができ、メソ多孔体を構成する無機材料の組成に応じて様々な応用展開が期待できる。中には、細孔の平均孔径が2nm未満或いは50nm超のものもあるので、その時は、それらを総称してナノ多孔体と呼ぶことにする。この様な材料の応用展開にはファインケミカル分子等の比較的大きな高付加価値有機化合物を選択的に合成する容器としての期待が大きいが、ナノ構造体並びにナノ多孔体を分離膜、低誘電率材料、レーザー材料、センサー材料、電極材料などに利用する様々な試みもなされており、これらの用途に対応した材料設計技術の1つとして薄膜化技術の開発が必要不可欠となる。
有機分子集合体を利用したナノ多孔体の薄膜化の最初の報告例はシリカ系材料である。酸性水溶液を用いてシリコンアルコキシドのゾルゲル反応過程を適度に進行させ、アルキルトリメチルアンモニウム界面活性剤を溶解した溶液と混合して得られる前駆溶液を基板上にスピンコートすることで透明なナノ構造体薄膜が得られることが初めて示された(非特許文献1)。界面活性剤を除去した後に構造規則性が保持できれば、ナノポーラスシリカ薄膜が得られる。シリカ系ナノ多孔体薄膜に関する研究の発展系として、有機架橋シラン化合物を用いた合成ルートが提案され、骨格構造中に有機基を導入したナノポーラス有機シリカの合成或いはその薄膜化も報告されている。
シリカ以外の酸化物(非シリカ)でのナノ構造制御並びに薄膜化でも、ゾルゲル反応を利用した合成プロセスが採用されている場合が多いが、適用組成にそれほどの拡がりはなく、これまでに、ナノポーラスチタニア薄膜を中心に、アルミナ等、数種類の報告例があるだけである。残念ながら、酸化物では、有機架橋型のアルコキシド原料が市販されておらず、その合成技術も確立されていないため、純粋な非シリカ組成の無機有機複合型ナノ多孔体の合成は行うことができない。
有機架橋型の出発原料があるか否かという観点から、金属リン酸塩は重要となる。数例だが、リン酸アルミニウムやリン酸チタン等の金属リン酸塩のナノ多孔体薄膜の合成も報告されている(非特許文献2)。そして、金属リン酸塩の発展系として、有機架橋ホスホン酸を利用した合成ルートが提案され、非シリカ組成かつ無機有機複合骨格からなるものとして、ナノポーラスホスホン酸アルミニウムの合成が世界で初めて報告された(特許文献1、非特許文献3、4)。その後は、組成毎に合成条件が最適化され、種々の非シリカ系無機有機複合骨格のナノ多孔体合成が報告され(非特許文献5、6)、新しい物質群を活用した応用展開に注目が集まった。しかしながら、当該材料を薄膜化するための技術開発の進展は遅れており、当該物質群の応用可能性を調査、例示していく流れが滞っている。
特許第4171801号公報 特許第4941923号公報
Journal of the American Chemical Society, 1994, Vol. 116, p. 7941-7942.「Formation of Novel Oriented Transparent Films of Layered Silica-Surfactant Nanocomposites」 Nature Materials, 2003, Vol. 2, p. 159-163.「Self-adjusted synthesis of ordered stable mesoporous minerals by acid-base pairs」 Chemistry of Materials, 2005, Vol. 17, p. 337-344.「Synthesis of mesostructured and mesoporous aluminum organophosphonates prepared by using diphosphonic acids with alkylene groups」 Chemistry of Materials, 2005, Vol. 17, p. 5521-5528.「Oligomeric surfactant and triblock copolymer syntheses of aluminum organophosphonates with highly ordered mesoporous structures」 ChemSusChem, 2011, Vol. 4, p. 1407-1419.「Metal phosphonate hybrid mesostructures: Environmentally friendly multifunctional materials for clean energy and other applications」 Journal of Nanoscience and Nanotechnology, 2013, Vol. 13, p. 2461-2470.「A new family of nonsiliceous porous hybrids from bisphosphonates」 New Journal of Chemistry, 2007, Vol. 31, p. 1488-1492.「Mesostructural control of non-silica-based hybrid mesoporous film composed of aluminum ethylenediphosphonate by using triblock copolymer and their TEM observation」
上記のように、有機架橋ホスホン酸を利用する新しい合成ルートが提案され、種々の非シリカ系無機有機複合骨格のナノ多孔体合成が報告されるようになった。一般に、構造規則性の高いナノ多孔体を得るには、組成毎に、膨大な実験量と試行錯誤を経て、合成条件を最適化していく。薄膜等の所望の形態に作り込んでいくには、更に同様の作業が必要になることも多く根気のいる取り組みとなるため、当該物質群の薄膜化技術が開発できていないのが実情である。
本発明は、上記従来技術に鑑みて、膨大な実験量を必要とする合成条件の最適化を、ひとつの要素で整理するための新しい概念を提案し、非シリカ組成の無機有機複合骨格からなる金属ホスホン酸塩のナノ構造体薄膜及びナノ多孔体薄膜の合成を可能とする新しい技術を開発することを目的とするものである。
そこで、本発明者は、鋭意研究を積み重ねた結果、ホスホン酸化合物の分子構造(酸型とエステル型)の違いが用いる金属源との反応性に大きく影響するという観点から、それらの中間状態のホスホン酸化合物が合成できれば、ホスホン酸化合物の同一分子構造中の酸/エステルの割合に応じて、反応性を調整できるという着想に至った。実際に、ホスホン酸は、ホスホン酸エステルを酸処理するだけで得られるので、酸処理の程度を変えるだけで簡便に酸/エステルの割合を制御できる。この着想に因れば、ホスホン酸化合物の同一分子構造中で酸/エステルの割合を連続的に変化させ前駆溶液調製に使用すれば、選択した金属源との相性が良いホスホン酸化合物を簡単に見つけることができる。従って、架橋有機基の種類でホスホン酸化合物と金属種との反応性が変わってしまうという問題も簡単に解消できる。
この様な簡便かつ拡張性の高い本着想技術を活用して、非シリカ組成の無機有機複合骨格からナノ多孔体の成膜プロセスに関する研究開発を更に進めた結果、界面活性剤の集合形態を反映した構造規則性を有する各種ナノ構造体薄膜の製造が可能であること、界面活性剤の除去によりナノ多孔体薄膜が得られること、更には、ホスホン酸化合物の有機合成技術を融合することで有機基を任意に設計、機能付与ができることを見出した。このようにして、本発明者は、ホスホン酸化合物の分子構造をデザインすることで溶液中での金属源との反応性を任意に制御できることを見出し、酸性条件下で、界面活性剤、ホスホン酸化合物及び金属源を添加して調製した前駆溶液をスピンコートやディップコートすることなどにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする材料が鋳型分子を取り囲む規則構造を有しており、構造規則性の周期が1.5nmから100nmの範囲であることを特徴とする金属ホスホン酸塩のナノ構造体。
(2)界面活性剤存在下でホスホン酸化合物及び金属源を添加することで生成した前駆溶液を用いて合成することを特徴とする前記(1)に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
(3)前記界面活性剤が、アルキルアンモニウム系界面活性剤、アルキルポリオキシアルキレン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンブロック系共重合体又はポリスチレン系ブロック共重合体の内から選択される1種以上の界面活性剤であることを特徴とする前記(2)に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
(4)前記界面活性剤の自己集合能を利用して構造規則性を有する金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜を生成することを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
(5)有機基とリン原子が1箇所以上で結合し、該リン原子が酸素原子を介して、水素原子と有機基の両方に結合したものであることを特徴とするホスホン酸化合物。
(6)前記ホスホン酸化合物が、有機基とリン原子が1箇所以上で結合し、該リン原子が酸素原子を介して、水素原子と有機基の両方に結合したものであることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれか1項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
(7)有機基とリン原子が1箇所以上で結合し、該有機基が塩基性及び酸性の化学的機能のうちの少なくとも一方を有することを特徴とするホスホン酸化合物。
(8)前記ホスホン酸化合物が、有機基とリン原子が1箇所以上で結合し、該有機基が塩基性及び酸性の化学的機能のうちの少なくとも一方を有することを特徴とする前記(2)〜(4)又は(6)のいずれか1項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
(9)前記ホスホン酸化合物とリン酸との混合比を変化させることにより有機基の導入量を制御することを特徴とする前記(2)〜(4)、(6)又は(8)のいずれか1項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
(10)前記金属源が、アルミニウム源、チタン源、バナジウム源、鉄源、コバルト源、ガリウム源、ジルコニウム源、ニオブ源、タンタル源の内から選択される1種以上であることを特徴とする前記(2)〜(4)、(6)、(8)又は(9)のいずれか1項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
(11)前記前駆溶液を基板上にコートすることを特徴とする前記(2)〜(4)、(6)又は(8)〜(10)のいずれか1項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
(12)金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする材料が規則配列して形成された細孔を有し、該細孔の平均孔径が1.5nmから100nmの範囲であることを特徴とする金属ホスホン酸塩のナノ多孔体薄膜。
(13)前記(2)〜(4)、(6)又は(8)〜(10)のいずれか1項に記載の方法によって作製した金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜から、有機基の物理的或いは化学的性質を考慮した条件で焼成、分解、又は抽出することで界面活性剤を除去することを特徴とする前記(12)に記載の金属ホスホン酸塩ナノ多孔体薄膜の製造方法。
本発明によれば、同一分子構造中に酸とエステルの部位を同時に有するように分子構造をデザインしたホスホン酸化合物を利用することで、金属源との反応性を酸/エステルの割合というひとつの要素で整理することができ、極端に反応性が高い金属源からも、各種界面活性剤を含む前駆溶液を調製することができる。また、このように分子構造をデザインして金属源との反応性を制御したホスホン酸化合物を用いて調製した前駆溶液を用いることで、前駆溶液中の界面活性剤の自己集合現象を利用して構造規則性を制御した金属ホスホン酸塩のナノ構造体薄膜を成膜することができる。また、ホスホン酸化合物の有機合成技術と融合することで、架橋有機基へ各種化学的機能を付与することが可能である。さらに、ナノ構造体薄膜の成膜後に低温焼成等で界面活性剤のみを除去することで、構造規則性或いは化学的機能を有する金属ホスホン酸塩ナノ多孔体薄膜を得ることができる。
モノホスホン酸或いはジホスホン酸から生成される金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする金属ホスホン酸塩の説明図。 有機架橋ジホスホン酸エステルの酸処理過程に於ける分子構造の変化を示す参考図。一例として、ベンゼン架橋ジホスホン酸化合物の場合を示す。 (a:XRD)ベンゼン架橋ジホスホン酸(酸型)から合成したナノ多孔体薄膜(250℃焼成後)及び(b:XRD及びc:TEM)酸型とエステル型を共存させたベンゼン架橋ホスホン酸化合物(共存型)から合成したホスホン酸アルミニウムナノ多孔体薄膜(実施例1)。 酸型とエステル型を共存させたメチレン架橋ホスホン酸化合物(共存型)から合成した(左:XRD)ホスホン酸バナジウムナノ多孔体薄膜(250℃焼成後)及び(右:XRD)ホスホン酸チタンナノ多孔体薄膜(400℃焼成後)(実施例5&6)。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明に係る金属ホスホン酸塩のナノ構造体は、金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする材料が鋳型分子を取り囲む規則構造を有しており、構造規則性の周期が1.5nmから100nmの範囲であることを特徴とする。
本発明では、ホスホン酸化合物及び金属源が反応することで金属−酸素−リンの結合が生成し、ホスホン酸化合物自身がリン−炭素の結合を有しているため、金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする材料を生成することができる。図1に記すように、ホスホン酸化合物が、例えば、モノホスホン酸或いはジホスホン酸であっても、生成される金属ホスホン酸塩の基本骨格は、金属−酸素−リン−炭素の結合となる。
鋳型分子は、両親媒性有機分子、即ち界面活性剤が自己集合して形成するミセル構造のものが好ましい。界面活性剤は、ホスホン酸化合物及び金属源を含む前駆溶液中に均質に溶解するものであり、その濃厚溶液中で自己集合する性質を有する(自己集合能を示す)分子であるため、例えば、溶媒が揮発する過程でもその濃度が上昇することになり、その場合も自己集合し、鋳型分子が生成される。界面活性剤として、アルキルアンモニウム系界面活性剤、アルキルポリオキシアルキレン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系ブロック共重合体又はポリスチレン系ブロック共重合体の内から選択される1種以上としているのは、それら自身が自己集合能を示すばかりでなく、それらの界面活性剤であれば2種以上を混合しても自己集合能が損なわれることはないためである。使用する界面活性剤の形成する有機分子集合体のサイズなどに依存して、金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする材料が界面活性剤を取り囲むようにして形成される金属ホスホン酸塩ナノ構造体の規則構造の繰り返し単位は1.5から100nmの範囲で制御が可能である。
アルキルアンモニウム系界面活性剤を用いた場合にはアルキル鎖長変化、アルキルポリオキシアルキレン系界面活性剤を用いた場合にはアルキル鎖長変化に加え、アルキレン鎖の重合度変化を利用することができる。ポリオキシアルキレン系ブロック共重合体又はポリスチレン系ブロック共重合体を用いた場合には各ブロックの重合度変化を利用することができる。トリメチルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレン、デカリン、アントラセン、フェナントレン、ピレンなどの疎水性有機化合物を有機分子集合体の疎水部に可溶化させることで繰り返し単位を大きくすることが可能となる。
界面活性剤分子の分子構造が自己集合形態に影響するため、アルキルアンモニウム系界面活性剤、アルキルポリオキシアルキレン系界面活性剤又はポリオキシアルキレンブロック系共重合体から用いる界面活性剤を適切に選択することで、ラメラ構造、二次元六方構造、各種立方構造又は三次元六方構造を有する金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜を得ることができる。構造規則性が低くなると、小角散乱測定等で、測定に使用するX線の波長がλ=1.54056 nmの場合で2θが9°未満(繰り返し間隔1nm未満程度に相当)の領域を低角度領域と定義すると、その領域に1つの回折ピークしか示さなくなることもあるが、それらも界面活性剤の分子集合形態を反映した構造規則性として解釈しても差し支えない。ポリスチレン系ブロック共重合体を用いた場合には、例えば、より大きな球状集合体となって金属ホスホン酸塩の内部に取り込まれ、ナノ構造体薄膜の成膜後にこれを除去することで、ナノ多孔体薄膜において100nmサイズの空間設計ができる。即ち、本発明に係る金属ホスホン酸塩のナノ多孔体薄膜は、金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする材料が規則配列して形成された細孔を有しており、該細孔の平均孔径は、使用する界面活性剤の形成する有機分子集合体のサイズなどに応じて、1.5から100nmの範囲で制御が可能である。
ホスホン酸化合物として、有機基とリン原子が1箇所以上で結合し、該リン原子が酸素原子を介して、水素原子と有機基の両方に結合したものであることとしているのは、ホスホン酸化合物の酸型とエステル型の中間状態、即ち、同一分子構造中に水酸基とエステルが共存することで、酸/エステルの割合を変化させるだけで金属源との反応性を適切に調整できるためである。ホスホン酸は、ホスホン酸エステルを過剰量の塩酸を含む水溶液中で加熱して得られるので、酸処理の程度を変えれば酸/エステルの割合を制御することができる。従って、例えば、図2に示すベンゼン架橋ジホスホン酸エステルでは、同一分子構造中に4箇所のエステルが存在するので、酸処理の過程で全てが水酸基となった酸型になる途中、1箇所から3箇所まで置換させる範囲で酸/エステルの割合を任意に変えることができる。ただし、酸処理過程では、すべての化合物が1置換、2置換、3置換となることはなく、酸処理条件に応じてそれらの混合物となるので、酸/エステル型の割合は置換率として算出することになる。
ホスホン酸化合物として、有機基とリン原子が1箇所以上で結合し、該有機基が塩基性及び酸性の化学的機能のうちの少なくとも一方を有することとしているのは、有機基から1箇所の炭素−リン結合を形成しているモノホスホン酸化合物、有機基から2箇所の炭素−リン結合を形成しているジホスホン酸化合物等を用い、金属源との反応が進行することで、それぞれ、金属リン酸塩類似或いはその無機有機複合骨格を形成することが可能となるためである。また、金属源との反応の過程で、ホスホン酸化合物の骨格構造中の酸素原子や未反応の水酸基等が界面活性剤の親水部と相互作用するため、用いる界面活性剤の自己集合形態を反映させたナノ構造制御が可能になる。
モノホスホン酸化合物の有機基には、アルキル基、ビニル基、フェニル基、アルキルアミノ基、アルキルメルカプト基などがある。ジホスホン酸化合物の有機基にはアルキレン基、ビニレン基、アセチレン基、アミノメチレン基、アミノアルキリデン基、フェニレン基やそれらの誘導体などがある。更に分子量の大きいビフェニレン基、ナフタレン基などの多環芳香族化合物で架橋されたジホスホン酸やそれらの誘導体なども金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜を合成するために利用できる。
それら誘導体とは、ホスホン酸化合物を合成する際に、化学原料の段階で、芳香環にスルホン基やアミノ基などが付加されたものを使用することを指している。前記ホスホン酸化合物の有機基の中には、反応性が高いものが含まれており、例えば、フェニル基等の二重結合を含む有機基は、ホスホン酸化合物の段階でも、ナノ構造制御した後であっても、スルホン化或いはアミノ化等を経て、ホスホン酸化合物に化学的機能を付与することができる。
有機基の炭素数は1以上であれば特別な制限はないが、ホスホン酸化合物の酸型とエステル型の中間状態を用いることで、酸型のホスホン酸化合物では得ることが困難であった炭素数が6以上の有機基を有するホスホン酸化合物でも容易に構造規則性の高い金属ホスホン酸塩のナノ構造体薄膜及びナノ多孔体薄膜を得ることができる。
各種モノホスホン酸を用いた場合にはホスホン酸アルミニウム骨格表面に有機基を、各種ジホスホン酸を用いた場合にはホスホン酸アルミニウム骨格内部に有機基を導入することが可能となる。従って、各種モノホスホン酸及び各種ジホスホン酸を組み合わせることで、様々な有機官能基をホスホン酸アルミニウム骨格表面及び内部に同時に有するホスホン酸アルミニウムナノ構造体薄膜を得ることもできる。また、ホスホン酸及びリン酸を同時に用いることでも同様な金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜を得ることができるが、ホスホン酸とリン酸との混合比を制御することで、有機官能基の導入量の制御も可能となる。
先行技術(特許文献2)で利用している酸型のホスホン酸化合物では、金属源の種類、例えば、アルミニウム源としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミニウムアルコキシド等、を用いてホスホン酸との反応性を調整している。他方、酸/エステルの中間状態のホスホン酸化合物を利用できれば、同一分子構造中でその割合を任意に変化させることで、金属源との反応性を調整できる。このような観点から、前駆溶液を調製する過程で急激なpH変化さえ生じなければ、用いる金属源に特別な制限はない。即ち、本発明では、金属源はホスホン酸化合物との反応性を有していれば、アルミニウム、チタン、バナジウム、ジルコニウム、鉄、コバルト、ガリウム、ニオブ、タンタルの塩化物、金属種によってはオキシ塩化物、或いは硝酸塩、硫酸塩、アルコキシドから選択される1種以上の金属源が利用できる。例えば、チタン源なら塩化チタンやチタンアルコキシド、オキシ塩化バナジウムやバナジウムアルコキシド、その他金属種についても、入手が容易或いはハンドリングが難しくない等の条件を満たす金属源を選定すれば、前駆溶液の調製が簡便にできる。
成膜法にはキャスト、スピンコート及びディップコート等の方法があるが、基板上に前駆溶液を薄く塗布できれば成膜法の相違はそれほど重要な要素ではない。ただし、スピンコートの速度、ディップコート時の引き上げ速度などによって膜厚が変化する。基板には、ガラス、石英、シリコン、単結晶ITO、グラファイト、テフロン(登録商標)などを用いることができるが、コーティングすることさえできれば、複雑形状の基質であっても、特別な制限はない。
モノホスホン酸を用いた場合には、得られるナノ構造体薄膜の基本骨格は金属リン酸塩からなり、その表面に有機基が存在した構造になる。従って、金属リン酸塩ナノ構造体薄膜から界面活性剤のみを除去することで、表面修飾型ナノ多孔体薄膜を得ることができる。有機成分を完全に除去しても界面活性剤の集合形態を反映させて付与した構造規則性は保持され、所望の金属リン酸塩ナノ多孔体薄膜が得られる。
ジホスホン酸を用いた場合には、得られる金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の骨格構造中に有機基が存在しており、金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜から界面活性剤だけでなく骨格内の有機基も除去してしまうと構造規則性は崩壊してしまう。従って、界面活性剤分子のみを除去しなければ、金属ホスホン酸塩ナノ多孔体薄膜を得ることができないが、骨格内の有機基を燃焼、分解することがない程度の低温焼成や、加熱を必要としない紫外光照射、オゾン処理などによる有機物の分解が有効である。スルホン化或いはアミノ化等を経て、化学的機能を付与しているものについては、官能基の耐熱性についても評価しておく必要がある。
次に、金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜及びナノ多孔体薄膜の具体的な製造方法について説明する。以下では、対比をより容易にするために、既存技術(非特許文献7)で設定された最適合成条件の近傍で、本発明の着想で主張している、ホスホン酸化合物の分子構造をデザインするだけで金属源との反応性を制御して前駆溶液調製の困難さを解消する、即ち、酸型とエステル型が共存したホスホン酸化合物を利用することの有用性を例示していく。
エタノール/水混合溶媒に界面活性剤及びホスホン酸化合物を完全に溶解し、その酸性溶液に、例えば、塩化アルミニウムを添加すると、塩化水素ガスを発生しながら激しく反応して前駆溶液が得られる。塩化チタンの場合は、ホスホン酸化合物との反応前にそれ自身でのゾルゲル反応が速く進行してしまうため、エタノール(無水)溶媒を用いて解消する。得られる前駆溶液をスピンコートやディップコート等により基板上に成膜すれば、金属ホスホン酸塩のナノ構造体薄膜が得られる。低温焼成(例えば250℃)で界面活性剤のみを除去することが可能であり、これにより金属ホスホン酸塩のナノ多孔体薄膜を得ることができる。
要求機能を発現する有機基(ホスホン酸化合物)を適切に選択した上で、或いは合成プロセス開発のためのモデルケースとして、本発明者は、金属源との反応性を調整するため、各条件で酸処理した酸型とエステル型が共存したホスホン酸化合物を数種類用いて、金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜及びナノ多孔体薄膜の作製を行った。金属源との反応後に生成する金属ホスホン酸塩オリゴマーの状態も構造規則性の高いナノ構造体薄膜を得るためには重要な要素であるため、そのことも意識した上で、界面活性剤の溶解性や金属源の安定性(例えば、水分との反応性)を考慮して、エタノールと水の混合比や溶媒量、金属源とホスホン酸化合物との割合、前駆溶液調製後の撹拌時間等、最適合成条件が設定される。
なお、有機基の種類によって金属源との反応性が変化するため、ホスホン酸化合物として酸処理されていないもの、即ち、酸型を含まないホスホン酸エステルを用いてもよい。これは、前駆溶液中に生成した金属ホスホン酸塩オリゴマーが最終生成物(ナノ構造体)の骨格の厚さの範囲であれば、構造規則性の高いナノ構造体が生成できるという事実と矛盾するものではなく、本発明の着想の範囲内であることが理解されるべきである。
ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレントリブロック共重合体(EOPOEO)の存在下、ベンゼン架橋ジホスホン酸化合物を用いた合成を例に更に詳細に説明する。例えば、金属源(M)と該ホスホン酸化合物(2P)との割合は、M:2P=0.75〜1.50(モル比)、好適には、M:2P=1.00(モル比)で、構造規則性の高い金属ホスホン酸塩ナノ構造体の薄膜を得ることができる。また、ポリオキシエチレン(EO)のブロック数(n)とポリオキシプロピレン(PO)のブロック数(m)によって溶液中での親水的或いは疎水的な挙動が変化するため、エタノールと水の混合比は各ブロック数によって適切に選択しなければならない。その他の界面活性剤を用いる場合も同様に考える必要があるが、ポリスチレン系ブロック共重合体を用いる場合には、非水系の極性溶媒、例えば、テトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、好適には、THFとエタノールの混合溶媒を使用することで前駆溶液を調製することができる。その他、例えば、ジホスホン酸化合物の架橋有機基が大きくなる、例えば、多環芳香族化合物になると、極性溶媒への溶解性が低下してくるが、ネットワーク(金属―酸素―リンの結合)を形成させた後なら金属リン酸塩類似部位の存在によって前記溶媒にも溶解することがあるため、その選定には注意が必要である。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されることはない。
実施例1:
EOPOEOとしてEO及びPOのブロック数がそれぞれn=106及びm=70のもの(EO106PO70EO106:Aldrich製)を用いてホスホン酸アルミニウムナノ構造体薄膜の合成を行った。エタノール/水混合溶媒(10mL/1mL)にEO106PO70EO106(1.6g)を溶解しておく。Al:2P=1.00となるように秤量したホスホン酸化合物をエタノール/水混合溶媒(10mL/1mL)に溶解し、撹拌しながら、塩化アルミニウム(0.67g)を添加してから15分間撹拌した後に、前記ブロック共重合体の溶液と混合して透明な前駆溶液を調製した。室温で120分間撹拌した前駆溶液をガラス基板上にスピンコート(3000rpm)することで透明なナノ構造体薄膜を得た。室温で乾燥した後に、250℃で3時間焼成して界面活性剤を除去してナノ多孔体薄膜を得た。XRD測定及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察で、合成した薄膜の構造規則性を評価した。
ホスホン酸化合物として酸型のベンゼン架橋ジホスホン酸:(HO)2OP-C6H4-P0(OH)2を用いた場合には、構造規則性が悪いナノ多孔体薄膜しか得られなかった(図3(a))。また、エステル型のベンゼン架橋ジホスホン酸エステル:(H5C2O)2OP-C6H4-P0(OC2H5)2を出発原料とした合成も検討したが、塩化アルミニウムとの反応性が高過ぎてゲル化してしまい同様の合成プロセスでは前駆溶液の調製ができなかった。
他方、酸型とエステル型が共存したホスホン酸化合物としてホスホン酸エステルを酸処理した中間体化合物(共存型)を用いると、例えば、ベンゼン架橋或いはキシレン架橋のホスホン酸化合物から、簡単に、構造規則性の高いホスホン酸アルミニウム薄膜が得られることが実証できた。特に、ベンゼン架橋ジホスホン酸エステルを酸処理して得られたホスホン酸化合物から合成した薄膜は、XRD測定では、250℃焼成後、d値7.1nmに明瞭な回折ピークが観察され、TEM観察でも、構造規則性を反映した繰り返し構造が観察された(図3(b)及び(c))。また、400℃焼成後も、金属ホスホン酸塩ナノ多孔体薄膜の構造規則性は完全に保持されており、耐熱性にも優れていることが確認された。
以上の結果から、本発明の着想で主張する、ホスホン酸化合物の分子構造をデザインするだけで金属源との反応性を制御して前駆溶液調製の困難さを解消する、即ち、酸型とエステル型が共存したホスホン酸化合物を利用することの有用性が明らかになった。
実施例2:
前記ベンゼン架橋ホスホン酸化合物の場合と同様の手順で実験を行い、XRD測定及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察で、合成した薄膜の構造規則性を評価した。
その結果、酸型のキシレン架橋ジホスホン酸:(HO)2OP-CH2-C6H4-CH2-P0(OH)2ではエタノール/水混合溶媒に溶解せず、アルミニウム源のひとつである塩化アルミニウムと強制的に反応させた後に辛うじて前駆溶液を得ることができたが、酸型のベンゼン架橋ジホスホン酸の場合よりもナノ多孔体薄膜の構造規則性は更に低いものになった。エステル型のキシレン架橋ジホスホン酸エステル:(H5C2O)2OP-CH2-C6H4-CH2-P0(OC2H5)2を出発原料とした合成では、例えば、250℃焼成後の薄膜のXRD測定で、低角度領域に回折ピークは観察されなかった。
キシレン架橋ジホスホン酸エステルを酸処理して得られた共存型のホスホン酸化合物から合成した薄膜では、XRD測定(250℃焼成後)で大きな回折ピークが観察され、構造規則性を有する金属ホスホン酸塩ナノ多孔体薄膜が得られたことが確認されたが、ベンゼン架橋のホスホン酸化合物の場合と比べて若干ブロードのピークであった。これは、ベンゼンに比べて有機基が大きくなったためであるが、加えて、キシレン構造中の炭素―炭素結合(一重結合部位)の熱分解温度が低いため、400℃焼成後には構造規則性がほぼ消失した。
以上の結果から、酸型とエステル型が共存したホスホン酸化合物を利用することの有用性が確認されるとともに、ナノ多孔体薄膜を得るためには、有機基の耐熱性を考慮して界面活性剤の除去温度を選択することが望ましいことが明らかになった。換言すると、本発明では、有機基の物理的或いは化学的性質を考慮した条件で焼成、分解、又は抽出することで、金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜から界面活性剤を除去することが好ましく考慮され、これにより目的の金属ホスホン酸塩ナノ多孔体を得ることができる。
以下に、本発明の着想が、簡便かつ拡張性の高い技術であることを更に紹介するため、有機基の設計性や金属種の多様性に関連する事例を幾つか例示する。
実施例3:
ジブロモアニリン或いはジクロロアニリンを出発原料として、当該ジホスホン酸化合物のエステル型の合成(ベンゼン架橋等のホスホン酸化合物を合成する際と同様の条件:例えば、合成温度は180℃前後)が可能であることが確認できたため、前記ベンゼン架橋ホスホン酸化合物の場合と同様の実験を行い、各種条件で酸処理して得た共存型のアニリン架橋ホスホン酸化合物から合成した薄膜について、XRD測定で構造規則性を、X線光電子分光(XPS)測定で、組成を確認するとともに、導入に成功した官能基(塩基性アミノ基)の状態を評価した。
その結果、アニリン架橋ホスホン酸エステルを酸処理した中間体化合物(共存型)を薄膜の合成に用いると、XRD測定(250℃焼成後)では、低角度領域に回折ピークの存在が確認され、構造規則性を有するナノ多孔体薄膜が得られることが明らかになった。また、ピーク強度は弱くなるが、400℃焼成後も回折ピークの存在は確認された。なお、酸処理されていないエステル型のアニリン架橋ホスホン酸エステルからの薄膜合成でも、構造規則性を有する薄膜が得られることを確認している。
前記ベンゼン架橋ホスホン酸エステルから作製した薄膜について確認されたように、主骨格であるベンゼン架橋部が十分な耐熱性を有することは証明されているが、アニリン架橋ホスホン酸エステルから作製した薄膜では、XPS測定において、250℃焼成後にはアミノ基の減少が確認された。また、400℃焼成後にはアミノ基は完全に消失していることが確認された。従って、更に低温(例えば200℃〜)で焼成したところ、ある程度はアミノ基を残存させることができたため、特異空間内でその塩基性に起因する触媒反応等の用途探索は可能であると判断した。
実施例4:
2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸からは、様々な合成条件を検討しても、当該ジホスホン酸化合物のエステル型の合成はできなかった。S成分の脱離が抑制できなかったためであるが、出発原料を変更して、4−アミノ−2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸からの合成を検討した。合成温度が高いと、S成分の脱離が進行するが、120℃付近で有機合成を行うと、当該反応の進行とS成分の脱離の抑制が同時に実現できたため、前記ベンゼン架橋ホスホン酸化合物の場合と同様の実験を行い、各種条件で酸処理して得たアミノ基及びスルホン酸基を同時に有する共存型の架橋ホスホン酸化合物から合成した薄膜について、XRD測定で構造規則性を、X線光電子分光(XPS)測定で、組成を確認するとともに、導入に成功した官能基(塩基性アミノ基及びスルホン酸基)の状態を評価した。
その結果、アニリン架橋ホスホン酸化合物から合成した薄膜と比較するとブロード化したが、XRD測定(250℃焼成後)で、低角度領域に回折ピークの存在が確認され、構造規則性を有するナノ多孔体薄膜が得られることが確認できた。400℃焼成後も回折ピークの存在は確認された。なお、酸処理されていないエステル型のアミノ基及びスルホン酸基を同時に有する架橋ホスホン酸エステルからの薄膜合成でも、構造規則性を有する薄膜が得られることを確認している。
250℃焼成でアミノ基が減少することは、アニリン架橋ホスホン酸化合物の場合に確認された結果であるが、このことは、導入された官能基のうちのスルホン酸基だけを残存させることが可能であることを示唆している。実際に、本実施例で作製した薄膜のXPS測定において、250℃焼成後にはほぼアミノ基は消失していたが、導入したスルホン酸基は相当量残っており、スルホン酸基だけが存在するナノ多孔体薄膜が得られることが確認できた。また、400℃焼成後にはスルホン酸基の量は大幅に低下することが確認された。
以上の結果から、焼成温度を変化させるだけで、金属ホスホン酸塩ナノ多孔体薄膜における官能基を制御し、当該薄膜の化学的機能を調節することができることが示唆された。具体的には、250℃より低温ではアミノ基を残存させることが出き、250℃以上ではアミノ基が除去されスルホン酸基だけが残存した状態になり、例えば、400℃よりも高温で焼成するとスルホン酸基も除去されてベンゼン架橋のホスホン酸アルミニウム薄膜になることが確認された。
実施例5:
金属種の拡張性を確認する目的で、バナジウムやチタン等について、最も単純な分子構造で耐熱性の高い組成であるメチレン架橋のホスホン酸化合物を用いて実験を行った。EO106PO70EO106を用いて、前記ホスホン酸アルミニウムと同様の手順で、酸型とエステル型が共存したメチレン架橋ホスホン酸化合物からホスホン酸バナジウムナノ構造体薄膜の合成を行った。室温で乾燥した後に、250℃で焼成して界面活性剤を除去してナノ多孔体薄膜を得た。XRD測定で、合成した薄膜の構造規則性を評価した。
バナジウムの場合は反応性が高くないので、アルミニウムの場合と同様の手順で前駆溶液を調製し、基板上にスピンコートすることでナノ構造体薄膜が得られた。具体的には、メチレン架橋ホスホン酸エステルを酸処理した中間体化合物(共存型)を用いた結果、XRD測定から、250℃焼成後の多孔体薄膜で低角度領域に大きな回折ピークの存在が確認され、構造規則性の高いナノ多孔体薄膜が得られたことが明らかになった(図4 左)。
実施例6:
チタンについては反応性が高いので、EO106PO70EO106を用いて、以下の手順で前駆溶液を調製した。脱水エタノール(10mL)にEO106PO70EO106(1.2g)を溶解しておく。Ti:2P=1.00となるように秤量した各種ホスホン酸化合物を脱水エタノール(10mL)に溶解し、撹拌しながら、塩化チタン(0.95g)を添加し60分間撹拌した後に、前記ブロック共重合体の溶液と混合して前駆溶液を調製した。室温で10分間撹拌した前駆溶液をガラス基板上にスピンコート(3000rpm)することで透明なナノ構造体薄膜を得た。室温で乾燥した後に、250℃或いは400℃で3時間焼成してから、XRD測定により、薄膜の構造規則性を評価した。
酸型のメチレン架橋ホスホン酸化合物を用いた薄膜合成では、あらゆる合成条件を検討したが、焼成前にどれだけ明瞭な回折ピークが存在していても、焼成後には全ての場合で回折ピークが大幅にブロード化する或いは消失してしまい、構造規則性の高いナノ多孔体薄膜を得ることはできなかった。
他方、チタンの場合は極端に反応性が高いので、非水系での前駆溶液調製に変更しているが、例えば、メチレン架橋ホスホン酸エステルを酸処理した中間体化合物(共存型)を用いた結果、XRD測定から、400℃焼成後でもd値5.9nm付近に、再現性良く、明瞭な回折ピークが観察され、構造規則性の高いナノ多孔体薄膜を得ることに成功した(図4 右)。
加えて、反応性が極端に速いチタンだけでなくジルコニウムでも、価数変化を伴うバナジウム以外の金属種(鉄)でも、ブロードではあるが、低角度領域に回折ピークの存在が確認された。従って、本発明の着想技術を適用すれば、ホスホン酸化合物における最適な酸型とエステル型の共存比を見つけるだけで、金属ホスホン酸塩のナノ構造体薄膜及びナノ多孔体薄膜の構造規則性を更に向上できると考えられる。即ち、これらは金属種の拡張性を示す結果であると判断できる。
本発明によって得られる金属ホスホン酸塩のナノ構造体薄膜及びナノ多孔体薄膜は、例えば、ホスホン酸アルミニウムであれば、無機骨格部位が唯一親水性を示すので、有機基に導入した酸性や塩基性を利用した特異空間内での選択的な化学原料の合成触媒としての利用が見込まれる。例えば、酸性質を利用する場合、エステル化(例えば、酢酸エチルの合成)、アルコールの脱水(エチレンの合成)、多糖類の加水分解(化学原料への分解)への展開が期待される。ホスホン酸化合物は、金属との反応で非シリカ組成の無機有機複合骨格を生成させることができるだけでなく、安全性等が担保されれば、それ自身を治療薬や農薬除草剤として用いることもできる。

Claims (7)

  1. 金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜を製造する方法であって、
    前記金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜は、金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする材料が鋳型分子を取り囲む規則構造を有しており、構造規則性の周期が1.5nmから100nmの範囲であり、
    界面活性剤存在下で酸型とエステル型とが共存したホスホン酸化合物及び金属源を添加することで生成した前駆溶液を用いて合成することを特徴とする金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
  2. 前記界面活性剤が、アルキルアンモニウム系界面活性剤、アルキルポリオキシアルキレン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンブロック系共重合体又はポリスチレン系ブロック共重合体の内から選択される1種以上の界面活性剤であることを特徴とする請求項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
  3. 前記界面活性剤の自己集合能を利用して構造規則性を有する金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜を生成することを特徴とする請求項又はに記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
  4. 前記ホスホン酸化合物とリン酸とを同時に用いて、
    前記ホスホン酸化合物と前記リン酸との混合比を変化させることにより有機基の導入量を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
  5. 前記金属源が、アルミニウム源、チタン源、バナジウム源、鉄源、コバルト源、ガリウム源、ジルコニウム源、ニオブ源、タンタル源の内から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
  6. 前記前駆溶液を基板上にコートすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜の製造方法。
  7. 金属ホスホン酸塩のナノ多孔体薄膜を製造する方法であって、
    請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって作製した金属ホスホン酸塩ナノ構造体薄膜から、有機基の物理的或いは化学的性質を考慮した条件で焼成、分解、又は抽出することで界面活性剤を除去し、
    前記金属ホスホン酸塩のナノ多孔体薄膜は、金属−酸素−リン−炭素の結合を基本骨格とする材料が規則配列して形成された細孔を有し、該細孔の平均孔径が1.5nmから100nmの範囲であることを特徴とする金属ホスホン酸塩ナノ多孔体薄膜の製造方法。
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