JP6797591B2 - 構造物を補強または補修する方法 - Google Patents

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Description

本発明は、構造物を補強または補修する方法に関する。特に、本発明は強化繊維プラスチック(FRP)または強化繊維プリプレグシートを用いて建築物の構造物を補強または補修する方法に関する。
従来、経年劣化により強度低下を生じたコンクリートおよび鋼構造物の表面に、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などで強化された樹脂シートを貼り付けて補修または補強することが行われてきた。
特に補強工法としては、炭素繊維で強化されたエポキシ樹脂を用いることが知られている。このような繊維強化樹脂が用いられる例として、特開昭63−14945号公報(特許文献1)に、高強度繊維帯状プリプレグをコンクリート柱状体の外周面にほぼ周方向に沿って均一に巻きつける、コンクリート柱状体の補強方法が記載されている。また、特開平1−197532号公報(特許文献2)には、炭素繊維と50〜150℃で硬化する熱硬化性マトリクス樹脂組成物とから構成されかつ構築物に貼付後加熱することにより現場にて硬化される一枚または複数枚を積層して構成される現場硬化軟質炭素繊維強化プリプレグを用いた補強工法が記載されている。
特開昭63−14945号公報 特開平1−197532号公報
上記の特許文献1および特許文献2には、接着剤を用いてプリプレグシートを保補強対象物に貼り付けてよいことが記載されている。
プリプレグシートと補強対象物との間に介在させられる接着剤を接着剤として機能させるためには、接着剤の硬化前にプリプレグシートを補強対象物に貼り付ける必要がある。特許文献1および特許文献2では当該接着剤が具えるべき物理的特性については何ら記載されていない。したがって、特許文献1および特許文献2では接着剤の硬化前にプリプレグシートを補強対象物に貼り付け、接着剤の硬化を待った後にプリプレグの硬化を行っていると考えられる。
仮に、施工時間の短縮化を図ることを目的として、プリプレグシートと補強対象物との間に介在させた接着剤が未硬化の状態でプリプレグシートの硬化のための加熱処理を行うと、接着剤も加熱されて低粘度化する問題が生じる。接着剤が低粘度化すると、流れ出ることで接着性が弱くなったり(仮にプリプレグシート上から押圧したとしても接着剤の流出および接着性の弱化は免れない)、特に天面および壁面への施工においてはプリプレグの自重によりプリプレグがずり落ちてしまったりといった問題が生じる。
一方で、プレス成形およびシートラップ成形などの成形品製造分野では、速硬化型の炭素繊維プリプレグシートの開発が進んでいる。このような成形品製造用の炭素繊維プリプレグシートの中には、130℃において30分程度、140℃では5分程度で硬化が可能なものも出てきている。
仮に、構造物の補強分野において施工時間の短縮化を図ることを目的として上述のような速硬化型の炭素繊維プリプレグシートを適用した場合、炭素繊維プリプレグシートの構造物への接着性が問題となる。プリプレグシートの接着性を確保するにはプリプレグ中の樹脂含有量を増やせばよいが、そうすると補強性能が低下する。
さらに、一般に補強対象となる構造物が老朽化した土木・建築構造物であることが多く、その表面に多数の不陸がある点も問題となる。
たとえば、まず不陸を修正するためにパテ(たとえばエポキシ樹脂と充填材とを含む混合物)を塗布し、パテの硬化を待った後にプリプレグシートを貼ることが考えられる。しかしながらこの場合、施工時間が長くなる。速硬化型のパテを用いれば施工時間を短くすることはできるが、速硬化性のパテは塗布作業の間にも高粘度化するため、作業性が悪くなる。さらに、高粘度化が速いと、プリプレグシートをいったん貼り付けるとその後は位置の微調整ができない点でも作業性が悪い。
あるいは、たとえばパテのもつ接着力を利用するためにはパテの硬化前にプリプレグシートを貼り付ける必要がある。この場合、施工時間の短縮化を図るためにプリプレグシートと補強対象物との間に介在させたパテが未硬化の状態でプリプレグシートの硬化のための加熱処理を行うことになるため、パテも加熱されて低粘度化する問題が生じる。したがって上述と同様、パテが流れ出ることで接着性が弱くなったり、特に天面および壁面への施工においてはプリプレグの自重によりプリプレグがずれてしまったりといった問題が生じる。
そこで本発明の目的は、強化繊維とマトリックス樹脂を含む補強材を用いて構造物を補強または補修する方法において、補強材の接着性が良好で、加熱硬化時に補強材のずれの発生を防止し、施工時間の短縮化が図れ、かつ作業性が良好な方法を提供することにある。
上記の目的を達成するため、本発明は以下の発明を含む。
(1)
本発明の構造物を補強または補修する方法は、貼付工程と熱硬化工程とを含む。貼付工程では、強化繊維と、強化繊維に含浸されたマトリックス樹脂とを含む補強材を、未硬化樹脂を含む接着剤樹脂組成物を介して構造物に貼り付ける。熱硬化工程では、貼り付けられた補強材および接着剤樹脂組成物を100℃以上200℃以下で5分以上60分以下加熱する。接着剤樹脂組成物は、以下の物性(i)のa)またはb)と(ii)とを満たす:
(i)25℃、1分、および30分における周波数1Hzでの、
a)貯蔵弾性率が6,000Pa未満の場合、損失正接tanδが1.1以上
b)貯蔵弾性率が6,000Pa以上25,000Pa以下の場合、損失正接tanδが0.8以上1.2未満
(ii)25℃以上150℃以下で最低貯蔵弾性率を示し、かつ前記最低貯蔵弾性率が800Pa以上。
このように、貼付工程において接着剤樹脂組成物を未硬化の状態で補強材を貼り付けるため、補強材の接着性が良好である。したがって、補強材として、強化繊維の割合が大きい補強効果の高いものを用いることができる。
そして、構造物と補強材との間に介在させられた接着剤樹脂組成物が未硬化の状態で硬化工程を行うため、作業効率が良好となる。したがって、作業時間が短縮される。
また、接着剤樹脂組成物が上記の(i)のa)またはb)の物性を満たすことにより、接着剤樹脂組成物が調製された後最低30分間は高粘度化が防止されるため、作業性が良好となる。したがって、接着剤樹脂組成物の塗布と補強材の貼り付けとを行うための可使時間を十分に確保することができる。このため、たとえば、接着剤樹脂組成物を構造物表面または補強材表面(特に構造物表面)に対して塗布する場合には塗布作業が容易となる。また、たとえば構造物に補強材をいったん貼り付けた後に貼付位置の微調整をしたい場合には可使時間の間に容易に当該微調整を行うことができる。
さらに、接着剤樹脂組成物が上記の(ii)の物性を満たすことにより、加熱条件にさらされても比較的高粘度を維持するため、硬化工程で接着剤樹脂組成物の低粘度化を防止することができる。したがって、接着剤樹脂組成物による接着性が弱化されることがなく、特に天面および壁面へ施工する場合は補強材の自重により補強材がずれる問題も回避される。
なお、補強材に含まれるマトリックス樹脂は、未硬化樹脂を含んでいてもよいし、硬化樹脂のみで構成されていてもよい。また、接着剤樹脂組成物に含まれる未硬化樹脂は、常温硬化性であってもよいし、熱硬化性であってもよい。さらに、熱硬化工程では、接着剤樹脂組成物は実質的に硬化されていない。
(2)
上記(1)の構造物を補強または補修する方法は、25℃、1分および30分における周波数1Hzでの貯蔵弾性率が6,000Pa未満の場合に損失正接tanδが1.3以下であってよい。
これによって、作業性がより良好となる。したがって、たとえば接着剤樹脂組成物を構造物表面または補強材表面(特に構造物表面)に対して塗布する場合には塗布作業がより容易となり、接着剤樹脂組成物層の構造物表面と反対側の面が平滑になるように塗布することができる。
(3)
上記(1)または(2)の構造物を補強または補修する方法は、補強材が、マトリックス樹脂が半硬化状態のプリプレグであってよい。
これによって、補強材の取り扱い性が良好であるため作業性がより良好となるとともに、硬化工程で補強材中の未硬化マトリックス樹脂を硬化させる場合は作業時間が短いため作業効率がより良好となる。
(4)
上記(1)から(3)のいずれかの構造物を補強または補修する方法は、貼付工程において、接着剤樹脂組成物が構造物に塗布された後に、構造物に補強材が貼り付けられてよい。
これによって、構造物の表面に対して接着剤樹脂組成物がまんべんなく塗布されるため、特に表面に不陸および/またはケレン面を有する構造物の補強または補修において有用となる。
(5)
上記(1)から(4)のいずれかの構造物を補強または補修する方法は、貼付工程において、接着剤樹脂組成物が補強材に塗布された後に、構造物に補強材が貼り付けられてよい。
これによって、補強材の表面に対して接着剤樹脂組成物がまんべんなく塗布されるため、特に強化繊維の割合が多いなどにより表面に繊維の凹凸を有する補強材において有用となる。
なお、上記(5)の方法においては、貼付工程で接着剤樹脂組成物が構造物表面と補強材表面との両方に塗布された後に互いに貼り合わされる態様も含まれる。
(6)
上記(4)の構造物を補強または補修する方法は、構造物が不陸を有し、貼付工程で接着剤樹脂組成物が不陸を均すように塗布されてよい。
これによって、接着剤樹脂組成物層において不陸と反対側の面が平滑となるため、補強材のマトリックス樹脂が未硬化樹脂を含む場合のみならず硬化樹脂で構成される場合であっても接着剤樹脂組成物層に沿わせやすい。また、補強または補修構造の仕上がり外観も良好となる。
本発明によれば、強化繊維とマトリックス樹脂を含む補強材を用いて構造物を補強または補修する方法において、補強材の接着性が良好で、加熱硬化時に補強材のずれの発生を防止し、施工時間の短縮化が図れ、かつ作業性が良好な方法が提供される。
構造物を補強または補修する方法の一例を説明する模式的断面図である。 構造物を補強または補修する方法の一例を説明する模式的断面図である。
[1.概要]
本発明では、補強材を用いて構造物を補強または補修する。補強とは、施工対象である構造物の劣化度合いに関わらず、当該構造物の健全状態(非劣化状態)よりも向上された機械的特性を付与するための処理をいい、補修とは、対象物の劣化による機械的特性の低下を健全状態(非劣化状態)同等に回復させるための処理をいう。図1および図2は、構造物を補強または補修する方法の一例を説明する模式的断面図である。本発明の構造物を補強または補修する方法は、貼付工程と熱硬化工程とを含む。以下、図1および図2を参照して説明する。
[2.貼付工程]
貼付工程では、図1に示すように、補強または補修の対象となる構造物900に、接着剤樹脂組成物110を介して補強材120を貼付する。接着剤樹脂組成物は未硬化樹脂である。構造物900と補強材120との間に接着剤樹脂組成物110の層を形成することで、補強材120を良好に接着する。
[2−1.構造物]
構造物900は、建築構造物、建材、配管などの構造物であってよい。構造物の材質は、金属であってもよいし、セメント硬化体であってもよい。金属としては、炭素鋼および鋳鋼などが挙げられる。セメント硬化体としては、モルタルおよびコンクリートなどが挙げられる。本実施形態では、構造物900の表面には不陸910が生じている。
貼付対象となる構造物900の表面は、予め、表面削去(ケレン処理)して平滑化または粗化してもよいし、プライマー処理してもよい。ケレン処理としては、ワイヤーブラシやディスクグラインダー、サンドブラストおよびブリストルブラストによる処理が挙げられる。
[2−2.貼付操作]
本実施形態では、構造物900の表面に接着剤樹脂組成物110を塗布する。この場合、不陸910の凹部に接着剤樹脂組成物110を塗りこんで、不陸を均すように塗布する。これによって、接着剤樹脂組成物110の層の不陸910と反対側の面111を平滑にすることができる。接着剤樹脂組成物110は、例えば、コテまたはヘラなどを用いて塗布することができる。
接着剤樹脂組成物110の塗布層には補強材120が貼り付けられる。確実に貼り付けるために、ローラなどの押圧手段を用いて補強材120を構造物900に押し付けることができる。
[2−3.接着剤樹脂組成物の物性]
接着剤樹脂組成物110は、物性(i)として、25℃、1分および30分における周波数1Hzでの;
a)貯蔵弾性率が6,000Pa未満の場合、損失正接tanδが1.1以上、
b)貯蔵弾性率が6,000Pa以上25,000以下の場合、損失正接tanδが0.8以上1.2未満、を満たす。
つまり、接着剤樹脂組成物110が調製されてから30分間にわたり、周波数1Hzでの貯蔵弾性率25,000Pa以下を保つとともに、貯蔵弾性率が6,000Pa未満である場合と6,000Pa以上25,000Paである場合とのそれぞれにおいて、上記a)およびb)に示す所定の損失正接tanδを満たす。これによって、接着剤樹脂組成物110が調製された後最低30分間は高粘度化が防止され、塗布作業が可能となる。したがって、接着剤樹脂組成物110の塗布と補強材120の貼り付けとを行うための可使時間を十分に確保することができる。なお、貯蔵弾性率とは、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率(G’)をいう。損失正接tanδとは、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率(G’)に対する損失弾性率(G’’)の比(損失弾性率G’’/貯蔵弾性率G’)をいう。
上記a)に示すように貯蔵弾性率が6,000Pa未満の場合に損失正接tanδが1.1以上であれば、弾性が低く粘性が相対的に高い。このため、塗布作業が容易となり、さらに構造物900に補強材120をいったん貼り付けた後に、補強材120を剥がすことなくその貼付位置の微調整をすることもが容易にできる。a)における損失正接tanδの範囲内の上限は特に限定されないが、接着剤樹脂組成物110が柔らかくより良好な塗布性を得る点から1.3以下であってよい。また、a)における貯蔵弾性率は、接着剤樹脂組成物110が柔らかくより良好な塗布性を得る点から好ましくは4,000Pa以下であってよい。
上記b)に示すように貯蔵弾性率が6,000Pa以上25,000以下の場合に損失正接tanδが0.8以上1.2未満であれば、弾性が高く粘性が相対的に低い。このため、塗布作業中に、接着剤樹脂組成物110の糸引きの発生および面111での凹凸発生を容易に防止することができる。このような効果をより良好に得る観点から、b)における損失正接tanδは1.1以下であることが好ましい。また、同様の観点から、b)における貯蔵弾性率は好ましくは10,000以上、さらには15,000以上であることが好ましい。
接着剤樹脂組成物110の25℃、1分および30分における周波数1Hzでの貯蔵弾性率の範囲内の下限値は特に限定されないが、接着剤樹脂組成物110の層厚を確保して良好な接着性を得る観点から、たとえば5Pa、好ましくは100Paであってよい。
接着剤樹脂組成物110は、物性(ii)として、25℃以上150℃以下で最低貯蔵弾性率を示し、かつ前記最低貯蔵弾性率が800Pa以上を満たす。これによって、加熱条件にさらされても比較的高粘度を維持するため、後述の熱硬化工程で低粘度化を防止することができる。したがって、接着剤樹脂組成物110による接着性が弱化されることがなく、特に天面および壁面へ施工する場合は補強材120の自重により補強材120がずれる問題も回避される。このような効果をより良好に得る観点から、最低貯蔵弾性率は、好ましくは1,500Pa以上であってよい。
接着剤樹脂組成物110の25℃以上150℃以下で示される最低貯蔵弾性率の範囲内の上限値は、上記物性(i)における貯蔵弾性率よりも小さければ特に限定されない。
[2−4.接着剤樹脂組成物の成分]
接着剤樹脂組成物110は、上述の物性(i)および(ii)を満たす限り、一液性樹脂組成物であってもよいし、二液性樹脂組成物であってもよい。混合操作が不要であり作業時間の短縮の観点、および成分の均一性の観点からは、一液性樹脂組成物であることが好ましい。さらに、接着剤樹脂組成物110は、熱硬化型であってもよいし、常温硬化型であってもよい。
接着剤樹脂組成物110は、未硬化状態の硬化性樹脂(未硬化樹脂)および硬化剤を含む。さらに、接着剤樹脂組成物110は、粘度調整剤を含んでよい。
[2−4−1.硬化性樹脂]
硬化性樹脂としては特に限定されないが、たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂などがあげられる。これらの樹脂は、単独または複数種が組み合わされて使用されてよい。
硬化性樹脂は、補強材120との接着性の観点からは補強材120に含まれるマトリックス樹脂と同種であることが好ましい。さらに、異素材である構造物900との接着性などの観点からはエポキシ樹脂が主成分として用いられることが好ましい。
エポキシ樹脂は、エポキシ基を1官能以上、好ましくは2官能以上有するエポキシプレポリマー化合物である。具体的には、エポキシ基を有するモノマー、エポキシ基を有するオリゴマーおよびエポキシ基を有するポリマーの少なくともいずれかをいう。接着剤樹脂組成物110は粘度調整剤によって増粘されるため、エポキシプレポリマー化合物は、モノマーまたはオリゴマーを少なくとも含むことが好ましく、モノマーまたはオリゴマーのみであってもよい。
さらに、エポキシプレポリマー化合物は、グリシジルエーテル型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型、および脂環式のエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型、グリシジルアミン型およびグリシジルエステル型のエポキシ化合物は、グリシジルアルキル基を有するハロゲン化物と活性水素化合物(それぞれ、アルコール、アミン、カルボン酸)とから得ることができる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物の臭化物、ビスフェノールA型エポキシ化合物の水素添加物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物の臭化物、ビスフェノールF型エポキシ化合物の水素添加物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、o−,m−,p−クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ナフタレン環含有エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ビフェニルノボラック型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ジヒドロキシペンタジエン型エポキシ化合物、およびトリフェニルメタン型エポキシ化合物など、および、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルキシレンジアミン、グリシジルアニリン、グリシジルo−トルイジンなどが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、などが挙げられる。
脂環式エポキシ化合物は、脂肪族環とエポキシ基を有する化合物であり、より具体的には、脂環エポキシ基(脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基)を有する化合物、および脂肪族環に直接的または間接的に単結合したエポキシ基を有する化合物が挙げられる。
脂環エポキシ基を有する化合物しては、2個の脂環エポキシ基が単結合または2価の連結基によって連結された化合物であることが好ましい。脂環エポキシ基としては、シクロヘキセンオキシド基が挙げられる。2価の連結基としては、2価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、及びこれらが複数個連結した基が挙げられる。たとえば、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(たとえば(株)ダイセル製セロキサイド2021P)、ε−カプロラクトン変性3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(たとえば(株)ダイセル製セロキサイド2081)が好ましい。その他、脂環エポキシ基を有する化合物しては、1個の脂環エポキシ基を有する、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン(たとえば(株)ダイセル製セロキサイド2000)、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイドが挙げられる。
脂肪族環に直接的または間接的に単結合したエポキシ基を有する化合物としては、エポキシノルボルネン(たとえば(株)ダイセル製セロキサイド3000)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(たとえば(株)ダイセル製EHPE3150)などが挙げられる。
[2−4−2.硬化剤]
硬化剤としては特に限定されず、接着剤樹脂組成物110が上述の物性(i)および(ii)を満たす限り、接着剤樹脂組成物110の組成物タイプ(一液性樹脂組成物であるか二液性樹脂組成物であるか)および硬化タイプ(熱硬化性であるか常温硬化性であるか)に応じて当業者が適宜選択することができる。したがって、硬化剤としては、高温硬化剤、中温硬化剤、および常温硬化剤を問わず、さらに潜在性硬化剤であるか否かも問わない。
硬化剤の具体例としては、アミン系化合物、酸無水物系化合物、メルカプタン系化合物、およびその他の化合物が挙げられる。
アミン系化合物としては、鎖状脂肪族ポリアミン(たとえば、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミンなど)、環状脂肪族ポリアミン(たとえば、Araldit HY-964、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン、S Cure 211、S Cure 212など)、および脂肪芳香族アミン(たとえば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォンなど)などの脂肪族ポリアミン;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、およびジアミノジフェニルスルフォンなどの芳香族アミン;アミンアダクト(ポリアミンエポキシ樹脂アダクトなど)、およびケチミン(脂肪族ポリアミンとケトンとの反応物)などの変性アミン;ポリアミドアミン(ダイマー酸とポリアミンとの縮合物);ピペリジン、N,N-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチルフェノール)、ベンジルジメチルアミン、および2−(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級または二級アミン;ならびに、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルミダゾリウムトリメリテート、エポキシ−イミダゾールアダクト、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル−(1’)〕-エチル−s−トリアジン イソシアヌル酸−イミダゾールアダクト、および2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類などが挙げられる。
酸無水物系化合物としては、芳香族酸無水物;環状脂肪族酸無水物(たとえば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、およびメチルヘキサヒドロ無水フタル酸など);および、脂肪族酸無水物(脂肪族二塩基酸の分子間脱水縮合反応物)などが挙げられる。
メルカプタン系化合物としては、ポリスルフィド樹脂などが挙げられる
その他の化合物としては、潜在性硬化剤として用いられるものが挙げられる。たとえば、三フッ化ホウ素−アミン錯体、ジシアンジアミド、および有機酸ヒドラジド(カルボン酸エステルとヒドラジンとの合成物)などが挙げられる。なお、上述したケチミンおよびイミダゾール化合物も潜在性硬化剤として用いられうる。
[2−4−3.粘度調整剤]
粘度調整剤としては、増粘剤および充填材が挙げられる。
増粘剤は、温度上昇により増粘させる増粘剤であり、固形エポキシ樹脂は除外される。これによって、固形エポキシ樹脂のような硬化時の昇温による低粘度化に起因する樹脂流出を原因とした接着不良を防止することができる。具体的には、コアシェル型熱可塑性樹脂の粒子、および塩化ビニル系樹脂の粒子などが挙げられる。
コアシェル型熱可塑性樹脂粒子のコア成分としては特に限定されないが、たとえば(メタ)アクリル酸エステル、ジエンおよびこれらと共重合可能な単量体の中から選ばれる1種以上を単量体成分とする樹脂(特にポリ(メタ)アクリル酸エステル系有機微粒子)であってよい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシルメタクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの共役ジエン系化合物、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネンなどの非共役ジエン系化合物などが挙げられる。
これらと共重合可能な単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド系化合物、メタアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド、などのメタクリルアミド系化合物およびグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルアクリレートなどが挙げられる。
コアシェル型熱可塑性樹脂のシェル成分としては特に限定されないが、上記の単量体から選ばれる2種以上を単量体成分とする樹脂であってよい。シェル層には、N−置換アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステル系とラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2つ以上有する架橋性単量体、遊離カルボキシル基を有する単量体を共重合させることができる。これによって、硬化性樹脂に対し溶解性を発現する構造となりやすい。
N−置換アクリルアミドとしては、例えば、N−アクリロイルピロリジン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ヘキシルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミドなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル系単量体とラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2つ以上有する架橋性単量体としては、エチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートヘキサンジオールジアクリレート、オリゴエチレンジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、オリゴエチレンジメタクリレート、ジビニルベンゼンなどの芳香族ジビニル単量体、トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられる。
遊離カルボキシル基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイヒ酸などの不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸などのジカルボン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチルなどの不飽和ジカルボン酸のモノエステルなどが挙げられる。
塩化ビニル系樹脂としては特に限定されず、塩化ビニル単量体の単独重合体の他、例えば、塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体以外の重合性単量体との共重合体、塩化ビニル系樹脂以外の重合体に塩化ビニル単量体または塩化ビニル系樹脂をグラフトさせたグラフト共重合体等が挙げられる。さらに、これらの塩化ビニル系樹脂を塩素化した塩素化塩化ビニル系樹脂も挙げられる。これら塩化ビニル系樹脂は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体以外の重合性単量体との共重合体における重合性単量体としては特に限定されないが、炭素数2以上16以下のα−オレフィン(たとえば、エチレン、プロピレン、およびブチレン);炭素数2以上16以下の脂肪族カルボン酸のビニルエステル(たとえば、酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニル);炭素数2以上16以下のアルキルビニルエーテル(たとえば、ブチルビニルエーテルおよびセチルビニルエーテル);炭素数1以上16以下のアルキル(メタ)アクリレート(たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートおよびブチルアクリレート);アリール(メタ)アクリレート(たとえば、フェニルメタクリレート);芳香族ビニル(たとえば、スチレンおよびα−置換スチレン(たとえば、α−メチルスチレン));ハロゲン化ビニル(たとえば、塩化ビニリデンおよびフッ化ビニリデン);およびN−置換マレイミド(N−フェニルマレイミドおよびN−シクロヘキシルマレイミド)が挙げられる。
塩化ビニル単量体または塩化ビニル系樹脂とともにグラフト共重合体を与える重合体としては、塩化ビニルモノマーにグラフト重合可能な重合体であれば単独重合体および共重合体を問わず、いかなるものも含まれる。たとえば、α−オレフィンとビニルエステルとの共重合体(たとえば、エチレン−酢酸ビニル共重合体);α−オレフィンとビニルエステルと一酸化炭素との共重合体(たとえば、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体);α−オレフィンとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体(たとえば、エチレン−メチルメタクリレート共重合体およびエチレン−エチルアクリレート共重合体);α−オレフィンとアルキル(メタ)アクリレートと一酸化炭素との共重合体(たとえば、エチレン−ブチルアクリレート−一酸化炭素共重合体);異なる2種以上のα−オレフィンの共重合体(たとえば、エチレン−プロピレン共重合体);不飽和ニトリルとジエンとの共重合体(たとえば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体);ポリウレタン;および塩素化ポリオレフィン(たとえば、塩素化ポリエチレンおよび塩素化ポリプロピレン)が挙げられる。
塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、特に限定されるものではないが、たとえば400以上1500以下、好ましくは600以上1300以下である。平均重合度が上記下限値以上であることにより、塩化ビニル系樹脂による好ましい物性(たとえば強靭性)を得やすく、適切な添加量で用途に適した粘着性を得やすい。平均重合度が上記上限値以下であることにより、硬化性樹脂に対し、相溶または膨潤の態様を少量の添加量にて容易に得ることができる。上述の特性は硬化性樹脂の組成に影響されるため、上記の範囲を超える平均重合度であっても、当業者によって適宜選択されてよい。
増粘剤が粒子状であることにより、接着剤樹脂組成物の調製において硬化性樹脂との相溶状態または膨潤状態を得やすく、ハンドリング性にも優れる。これらの状態をより好ましく得る観点からは、増粘剤粒子の平均粒子径は、0.2μm以上200μm以下であってよい。なお、平均粒子径とは、レーザー光を用いた動的散乱法により測定された体積基準の50%累積分布径をいう。
増粘剤の含量は特に限定されないが、上記の硬化性樹脂100重量部に対して、たとえば充填材を含ませない場合はたとえば10重量部以上50重量部未満、好ましくは15重量部以上35重量部未満であってよく、充填材を含ませる場合は、たとえば20重量部超30重量部未満、好ましくは22重量部以上28重量部以下であってよい。いずれの場合も、当該含量が上記下限値以上であることは、貼付工程における作業性に優れる点で好ましく、上記上限値未満であることは、熱硬化工程における接着剤樹脂組成物の低粘度化抑制効果に優れる点で好ましい。
充填剤としては、たとえば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、セライト、バーライト、バライタ、シリカ、珪砂、ドロマイト石灰石、石膏、中空バルーン、アルミナ、ガラス粉、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、二酸化モリブデン、鉄粉などが挙げられる。
充填材は、上記の増粘剤とともに用いられてよい。
この場合、充填材の量は上記の硬化性樹脂100重量部に対して1重量部以上30重量部以下、好ましくは2重量部以上20重量部以下であってよい。充填材の量が上記下限値以上であることは、貼付工程における作業性および熱硬化工程における接着剤樹脂組成物の低粘度化抑制効果に優れる点で好ましく、上記上限値以下であることは、塗布工程における作業性に優れる点で好ましい。
特に、増粘剤の量が上記の硬化性樹脂100重量部に対して30重量部未満の場合は、熱硬化工程における接着剤樹脂組成物の低粘度化抑制効果をより良好に得る点で、充填材の量は10重量部超、好ましくは12重量部以上、さらに好ましくは13重量部以上であってよい。
一方、増粘剤の量が上記の硬化性樹脂100重量部に対して30重量部以上の場合は、より良好な塗布性を得る観点から、充填材は実質的に含まなくてよい。
[2−5.補強材]
補強材120は、強化繊維と、強化繊維に含浸されたマトリックス樹脂とを含んで構成される。本実施形態のように、強化繊維シートにマトリックス樹脂が含浸された補強シートの態様で用いられることが好ましい。
強化繊維としては特に限定されず、PAN (ポリアクリロニトリル) 系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維などの炭素繊維;スチール繊維などの金属繊維;ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維などの無機繊維;ならびに、アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール、高強度ポリプロピレンなどの有機繊維;ケナフ、麻などの天然繊維が挙げられる。これらの繊維は、単独または複数種を組み合わされて使用されてよい。比強度の観点からは、炭素繊維であることが好ましい。
繊維の形態としては特に限定されず、たとえば、トウ、クロス、チョップドファイバー、連続繊維などの繊維の方向を一方向に引き揃えた形態;連続繊維を経緯にして織物とした形態;トウの方向を一方向に引き揃え横糸補助糸で保持した形態;繊維の方向を一方向に引き揃えた複数の繊維シートを、それぞれ繊維の方向が異なるように重ね補助糸でステッチして留めたマルチアキシャルワープニットの形態;および、繊維の不織布の形態などが挙げられる。
繊維の目付は、例えば100g/m以上600g/m以下であってよい。目付が上記下限値以上であることは、補強または補修硬化を劣化度合いに応じて適切量を少ない施工処理回数で貼り付けることができる点で好ましく、上記上限値以下であることは、含浸性を良好に得るなどの点で好ましい。
マトリックス樹脂としての樹脂組成物は、未硬化樹脂を含んでよい。具体的には、マトリックス樹脂としての樹脂組成物は、上述の接着剤樹脂組成物110として挙げたものから選択されたものであってもよいし、当該選択された樹脂組成物が半硬化状態(つまり補強材120がプリプレグ)であってもよい。マトリックス樹脂としての樹脂組成物は、接着剤樹脂組成物110との接着性の観点から、接着剤樹脂組成物110と同種の硬化性樹脂を含むことが好ましい。たとえば、接着剤樹脂組成物が硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含む場合は、マトリックス樹脂としての樹脂組成物にも硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を選択することが好ましい。
一方で、マトリックス樹脂は、上述の接着剤樹脂組成物110として挙げたものから選択されたものが全硬化されたものであってもよい。
補強材120は、一枚を単層となるように用いてもよいし、複数枚を重ねて複数層となるように用いてもよい。単層となるように用いられる補強材120、または複数層のもっとも外側に積層される補強材120は、バリア層を有していてもよい。バリア層を有する場合の補強材120は、強化繊維と、強化繊維に含浸されたマトリックス樹脂とで構成される強化繊維含有層と、当該強化繊維含有層に積層されたバリア層とを含んで構成される。この場合、バリア層が接着剤樹脂組成物110の層とは反対側に位置するように補強材120が貼り付けられる。
バリア性層を構成する物質は、層としてバリア機能を発揮するものであれば特に限定されるものではない。バリア性としては、紫外線バリア性;二酸化炭素バリア性、酸素バリア性、水蒸気バリア性などのガスバリア性が挙げられる。バリア性層は、単層構造であってもよいし、異なるバリア性を有する複数の層の積層構造であってもよい。
バリア性層が紫外線バリア性を有する場合、アクリル系樹脂などの基材樹脂に、紫外線遮蔽剤を含ませることができる。紫外線遮蔽剤としては、一般的に顔料および紫外線吸収剤と称呼されるものが挙げられる。
顔料としては、フタロシアニン系、イソインドリノン系、ペリレン系、アゾ系、縮合アゾ系、キナクリドン系、アンスラキノン系、アニリンブラック系、トリフェニルメタン系、ジオキサジン系、酸化チタン系、酸化鉄系、酸化クロム系、クロム酸鉛系、スピネル型焼成系、ジケトピロロピロール系、酸化マンガン−酸化ビスマス複合塩系、酸化マンガン−イットリウム複合塩系、酸化鉄−酸化クロム複合塩系などの顔料が挙げられる。顔料は、1種または複数種の組み合わせで用いられてよい。
紫外線吸収剤としては、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化セリウム、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カーボンブラック、ホワイトカーボン、ゼオライト、グラファイトなどの無機系紫外線吸収剤;フェニルサレシレ−ト、p−tert−ブチルフェニルサリシレ−ト、p−オクチルフェニルサリシレ−トなどのサリチル酸系;2,4−ギヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2’−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ルなどのベンゾトリアゾ−ル系;2−エチルへキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレ−ト、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレ−トなどのシアノアクリレ−ト系の有機系紫外線吸収剤が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種または複数種の組み合わせで用いられてよい。
バリア性層がガスバリア性を有する場合、バリア性層を構成する樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、及びポリアクリロニトリル(PAN)などのガスバリア性樹脂が挙げられる。
貼付工程によって、図2に示すように、構造物900に接着剤樹脂組成物110の層を介して補強材120が貼り付けられた積層体を得る。
当該積層体の具体的な態様としては、接着剤樹脂組成物110が常温硬化型であり補強材120が繊維強化樹脂(マトリックス樹脂が全硬化されたもの)である態様、接着剤樹脂組成物110が熱硬化型であり補強材120が繊維強化樹脂(マトリックス樹脂が全硬化されたもの)である態様、接着剤樹脂組成物110が常温硬化型であり補強材120が繊維含有樹脂(マトリックス樹脂が未硬化樹脂を含むもの)である態様、接着剤樹脂組成物110が熱硬化型であり補強材120が繊維含有樹脂である態様が挙げられる。
[3.熱硬化工程]
熱硬化工程は、積層体の接着剤樹脂組成物110が実質的に硬化されていないタイミングで行う。これによって、作業時間の短縮化が図れる。接着剤樹脂組成物110が実質的に硬化されていないとは、接着剤樹脂組成物110が熱硬化性である場合の硬化反応が始まっていない状態と、接着剤樹脂組成物110が常温硬化性である場合の、接着剤樹脂組成物110調製から貼付工程および熱硬化工程の準備に費やした時間内で一部のみ硬化が進行した状態とを含む。つまり、本発明では、接着剤樹脂組成物110が常温硬化性であってもその完全硬化を待たずに熱硬化工程を行う。
熱硬化工程では、接着剤樹脂組成物110および貼り付けられた補強材120を加熱し、積層体に含まれる未硬化樹脂を完全に硬化する。これによって、構造物900は、表面に繊維強化樹脂(補強材120の完全硬化体)が強固に固着した状態で補強または補修される。
なお、貼付工程で得られる積層体において接着剤樹脂組成物110が常温硬化型である場合は、加熱により硬化が促進される。たとえば当該積層体において接着剤樹脂組成物110が常温硬化型であり補強材120が繊維強化樹脂(マトリックス樹脂が全硬化されたもの)である場合は、硬化時間を短縮することができる。
熱硬化工程における温度は、100℃以上200℃以下、好ましくは130℃以上200℃以下である。当該温度が上記下限値以上であることは、未硬化樹脂を確実に硬化させる点、および接着剤樹脂組成物110の硬化層を構造物900表面に追随させやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは、積層体に含まれる樹脂および/または繊維の変成を防ぐ点で好ましい。
熱硬化工程における時間は、5分以上60分以下、好ましくは10分以上30分以下であってよい。当該時間が上記下限値以上であることは、未硬化樹脂を確実に硬化させる点、および接着剤樹脂組成物110の硬化層を構造物900表面に追随させやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは、積層体に含まれる樹脂および/または繊維の変成を防ぐ点で好ましい。
加熱方式は特に限定されないが、構造物900の形状に対する高い自由度を確保するために熱風および赤外線ヒーターなどの非接触加熱方式であることが好ましい。
接着剤樹脂組成物110が上述の物性(ii)を有することにより、熱硬化工程の加熱条件にさらされても低粘度化を防止することができる。したがって、接着剤樹脂組成物110による接着性が弱化されることがなく、特に天面および壁面へ施工する場合は補強材120の自重により補強材120がずれる問題も回避される。
[4.変形例]
図1および図2においては、構造物900の表面に接着剤樹脂組成物110を塗布する態様を示したが、本発明はこの態様に限定されるものではない。
たとえば、構造物900ではなく補強材120の表面に接着剤樹脂組成物110を塗布し、その後、構造物900に貼り付けられてもよい。あらかじめ補強材120の表面に対して接着剤樹脂組成物110がまんべんなく塗布されるため、たとえば、補強材120の表面に繊維の凹凸を有するもの、たとえば補強材120強化繊維の割合が多く補強力の大きいものを用いる場合において好ましい。
さらに、構造物900の表面と補強材120の表面との両方に接着剤樹脂組成物110を塗布し、その後、貼り合わせてもよい。あらかじめ構造物900の表面と補強材120の表面との両方に対して接着剤樹脂組成物110がまんべんなく塗布されるため、たとえば、構造物900に不陸910がありかつ補強材120の表面に繊維の凹凸を有するものを用いる場合において好ましい。
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の発明に限定されるものではない。
<接着剤樹脂組成物>
下記実験例1から実験例3および比較用実験例1から比較例実験例3のようにして、接着剤樹脂組成物を用意した。
[実験例1]
エポキシ樹脂jER828(三菱化学(株)製)100重量部と、ジシアンジアミドDICY−7(三菱化学(株)製)7重量部と、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール2PHZ−PW(四国化成(株)製)3重量部と、ポリメタクリル酸エステル系有機微粒子Zefiac F351(アイカ工業(株)製)30重量部を遊星式ミキサー中で20℃、2000rpmで10分間撹拌および脱泡させたのち、オーブンにて110℃1時間静置させ、接着剤樹脂組成物を得た。
[実験例2]
ポリメタクリル酸エステル系有機微粒子Zefiac F351(アイカ工業(株)製)の量を27重量部に変更し、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製 カルファイン200M)14重量部を加えたことを除いて、実験例1と同様にして接着剤樹脂組成物を得た。
[実験例3]
エスダインジョイナーWG(積水フーラー(株)製)の主剤と硬化剤とを混合して接着剤樹脂組成物を得た。なお、主剤にはエポキシ樹脂を含み、硬化剤にはポリアミドアミンおよび脂環式ポリアミンを含む。
[比較用実験例1]
炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製 カルファイン200M)5重量部を加えたことを除いて、実験例1と同様にして接着剤樹脂組成物を得た。
[比較用実験例2]
ポリメタクリル酸エステル系有機微粒子Zefiac F351(アイカ工業(株)製)の量を20重量部に変更し、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製 カルファイン200M)10重量部を用いたことを除いて、実験例1と同様にして接着剤樹脂組成物を得た。
[比較用実験例3]
エポキシ系接着材である外壁コーナー用接着材#3420(積水フーラー(株)製)のエポキシ樹脂を含む主剤と硬化剤とを混合したもの100重量部に対し炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製 カルファイン200M)5重量部を加えて接着剤樹脂組成物を得た。
[比較用実験例4]
ボンドE2500W(コニシ株式会社製)の主剤と硬化剤とを混合して接着剤樹脂組成物を得た。なお、主剤にはエポキシ樹脂を含み、硬化剤には変性脂肪族ポリアミンおよび脂環式ポリアミンを含む。
<粘弾性測定>
実験例1から実験例3および比較用実験例1から比較用実験例4で調製した接着剤樹脂組成物を測定用試料とし、粘弾性測定を行った。
測定には粘弾性測定装置(MCR102 Anton Paar社製)を使用し、平行平板の半径を25mm、平行間距離1mm、周波数1Hzの条件にて評価した。温度条件は25℃から150℃まで5℃/minで昇温させ、その温度範囲内での最低貯蔵弾性率を求めた。加えて、25℃の一定温度条件での貯蔵弾性率G’の経時変化および損失弾性率G’’を測定し、損失正接tanδ(損失弾性率G’’/貯蔵弾性率G’)を算出した。
<塗布性評価>
実験例1から実験例3および比較用実験例1から比較用実験例4で調製した接着剤樹脂組成物の塗布性を以下のように評価した。
鋼平板の表面へ、20mm×20mm×深さ2mmの凹みを作成し、その凹みを埋めるように接着剤樹脂組成物を金属ベラを使用し塗布した。使用した接着剤樹脂組成物は、施工現場での作業時間を考慮し、調製後から10分経過したものを用いた。接着剤樹脂組成物の塗り込み易さ、および塗布層の平滑性を評価した。塗布実験は22℃の恒温室にて行った。塗布性評価は3段階で行った。具体的には、凹みへ容易に塗り込むことができ、かつ糸引きなど生じず接着剤樹脂組成物層の平滑面を形成でき、構造物、補強材のどちらへの塗布も容易にできるものを「◎」、接着剤樹脂組成物が糸引きを生じること無く塗布できるが、高粘度のため塗布に力を掛ける必要があるため、構造物側への塗布に適しているものを「○」、接着剤樹脂組成物がゴムの様に弾性が高く凝集しやすいため凹みの隅へ隙間が生じるなどにより塗布面の平滑性が得にくいもの、もしくは一部で硬化が開始することにより塗布面の平滑性が得られないものを「×」とした。
<加熱硬化過程での垂れ性の評価>
実験例1から実験例3および比較用実験例1から比較用実験例4で調製した接着剤樹脂組成物の、加熱硬化過程での垂れ性を以下のように評価した。
上述の塗布性評価で作成された、接着剤樹脂組成物が塗布された鋼平板を、200℃に設定した強制送風循環式オーブン内に立て掛けて設置し、接着剤樹脂組成物の液垂れ性を目視観察により3段階で評価した。加熱前の状態から変化が見られなかったものを「◎」、凹みからの接着材の流出は無いものの凹み内部において接着材面の厚みが不均一となるため、加熱温度条件としては本評価の評価温度から大きく逸脱しないことが望まれるものを「○」、凹みからの接着剤樹脂組成物の流出(液垂れ)が観察されたものを「×」とした。
[実施例1]
接着剤樹脂組成物として実験例1で調製された接着剤樹脂組成物を用意し、補強材として炭素繊維プリプレグ(三菱レイヨン社製 UDプリプレグタフキュア)を用意し、構造物の試験体として鋼板(凹み形成無し)を用意した。
鋼板表面を予めケレンし、接着剤樹脂組成物を約1kg/mとなるように塗布し10分間静置した後、炭素繊維プリプレグを貼り付け、鋼板とプリプレグとの積層体を得た。積層体のプリプレグ側を接着力評価用の鋼材治具(40mm×40mm×10mmの平板)に貼り付け、予め250℃に設定したオーブンに積層体を入れて15分間加熱硬化させ、鋼板の補強体を得た。得られた補強体はオーブンから取り出し常温まで徐冷した。
[実施例2]
接着剤樹脂組成物として実験例2で調製された接着剤樹脂組成物を用いたことを除き、実施例1と同様にして鋼板の補強体を得た。
[実施例3]
接着剤樹脂組成物として実験例3で調製された接着剤樹脂組成物を用いたことを除き、実施例1と同様にして鋼板の補強体を得た。
[比較例1]
接着剤樹脂組成物として比較用実験例1で調製された接着剤樹脂組成物を用いたことを除き、実施例1と同様にして鋼板の補強体を得た。
[比較例2]
接着剤樹脂組成物として比較用実験例2で調製された接着剤樹脂組成物を用いたことを除き、実施例1と同様にして鋼板の補強体を得た。
[比較例3]
接着剤樹脂組成物として比較用実験例3で用意した接着剤樹脂組成物を用いたことを除き、実施例1と同様にして鋼板の補強体を得た。なお、比較用実験例3の接着剤樹脂組成物は硬化速度が速いため、プリプレグを貼り付けたタイミングでは接着剤樹脂組成物層は指触硬化が認められた。
[比較例4]
接着剤樹脂組成物として比較用実験例4で調製された接着剤樹脂組成物を用いたことを除き、実施例1と同様にして鋼板の補強体を得た。
<補強材の接着性評価>
実施例1から実施例3および比較例1から比較例4で作成した鋼板の補強体それぞれについて、引張試験機(サンコーテクノ(株)製、テクノスターR100000ND)にて垂直方向の接着力を測定した。接着力が1.5MPa以上のものを「○」、1.5MPa未満のものを「×」とした。
実施例1から実施例3および比較例1から比較例4の概要、ならびに粘弾性評価および接着強度評価を、下記表1に示す。
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。
110 接着剤樹脂組成物
120 補強材
900 構造物
910 不陸

Claims (4)

  1. 未硬化樹脂と増粘剤とを含む接着剤樹脂組成物を構造物の表面に塗布する塗布工程と、
    強化繊維と前記強化繊維に含浸されたマトリックス樹脂とを含む補強材を、前記接着剤樹脂組成物を介して前記構造物に貼り付ける貼付工程と、
    貼り付けられた前記補強材および前記接着剤樹脂組成物を100℃以上200℃以下で5分以上60分以下加熱する熱硬化工程と、
    を含み、
    前記接着剤樹脂組成物が、以下の物性:
    (i)25℃、1分、および30分における周波数1Hzでの、
    a)貯蔵弾性率が6,000Pa未満の場合、損失正接tanδが1.1以上、または
    b)貯蔵弾性率が6,000Pa以上25,000Pa以下の場合、損失正接tanδが0.8以上1.2未満、
    を満たし、且つ
    (ii)25℃以上150℃以下で最低貯蔵弾性率を示し、かつ前記最低貯蔵弾性率が800Pa以上
    を満たし、
    前記増粘剤がポリメタクリル酸エステル系のコアシェル型熱可塑性樹脂の粒子であり、前記増粘剤の含有量は、前記接着剤樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して、前記接着剤樹脂組成物が充填材を含まない場合は15重量部以上35重量部未満であり、前記充填材を含む場合は20重量部超30重量部未満である、構造物を補強または補修する方法。
  2. 前記25℃、1分および30分における周波数1Hzでの貯蔵弾性率が6,000Pa未満の場合に損失正接tanδが1.3以下である、請求項1に記載の構造物を補強または補修する方法。
  3. 前記補強材が、前記マトリックス樹脂が半硬化状態のプリプレグである、請求項1または2に記載の構造物を補強または補修する方法。
  4. 前記構造物が不陸を有し、前記貼付工程で前記接着剤樹脂組成物が前記不陸を均すように塗布される、請求項1から3のいずれか1項に記載の構造物を補強または補修する方法。

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