JP6796290B2 - バクテリアル・トランスロケーションの防止又は抑制のための組成物 - Google Patents
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Description
(1)水素ガス又は溶存水素を有効成分として含む、被験体内でバクテリアル・トランスロケーションを防止又は抑制するための組成物。
(2)敗血症、全身性炎症反応症候群(SIRS)又は多臓器機能不全症候群(MOF)の発症もしくは悪性化をさらに防止又は抑制する、上記(1)に記載の組成物。
(3)被験体の腸組織の損傷を改善する、上記(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)被験体の腸内細菌叢における悪玉菌の異常増殖を抑制する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)悪玉菌がエンテロバクテリア科である、上記(4)に記載の組成物。
(6)水素ガス含有気体又は水素溶存液体の形態である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)水素ガス含有気体の水素濃度が、0.5〜18.5体積%である、上記(6)に記載の組成物。
(8)水素溶存液体の水素濃度が、1〜10ppmである、上記(6)に記載の組成物。
(9)被験体への組成物の投与が、経肺投与又は経口投与である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)経肺投与が、1.02〜7.0気圧の高気圧環境下で行われる、上記(9)に記載の組成物。
(11)投与時に水素ガス供給装置又は水素添加器具を用いてその場で作製される、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の組成物。
<水素ガス溶存液の投与によるバクテリアル・トランスロケーションの抑制>
I.実験
[1]敗血症動物モデル
体重20〜25gの6週齢雄C57/BL6マウスに対し、盲腸結紮・破裂(cecal ligation and puncture;CLP)を実施して敗血症モデルを作製した。簡単に説明すると、マウスを麻酔し、1cmの腹部正中切開を行って盲腸を露出したのち、盲腸上端から1cm離れた部位を結紮し、23ゲージの針を1箇所に刺して破裂させて中等度のCLP((注)40%が7日生存した。)を実施した。盲腸を腹部に戻し、切開部を縫合した。その直後に、すべてのマウスに生食水(50mL/kg体重)を皮下注射して蘇生させた。
この実験のプロトコルを、擬似群(sham)と、生食水治療群(saline)と、超過飽和濃度水素溶存生食水治療群(H2)とに分けた。擬似群は、CLP手術を実施しなかった健常対照とした。生食水治療群では、1日あたり15ml/kgの生食水を7日間、強制的に給与された。H2群では、1日あたり同量の超過飽和濃度水素溶存生食水を7日間、強制的に給与された。この超過飽和濃度水素溶存生食水は、製造業者(MiZ株式会社)の製法に従って7ppm水素ガス溶存液として作製された。
腸上皮透過性を決定するために、伝統的に腸粘膜透過を評価するために使用されている4.4kDaのフルオレセインイソチオシアネート標識デキストラン(FITC−デキストラン;Sigma−Aldrich)の血中への出現量を測定した。そのために、マウスに対し、擬似処置又はCLP処置の21時間後に、リン酸緩衝化生食水(PBS)中の25mg/mL FITC−デキストラン0.2mLを強制的に給与した。3時間後、心臓刺針によってマウスから血液サンプルを採取した。この血液を4℃、3000×gで10分間遠心分離にかけ、血漿を、SH9000Lab蛍光マクロプレートリーダー(Corona Electric)を用いて、励起波長480nm及び発光波長520nmで測定した。血漿中のFITC−デキストランの濃度は、標準としてFITC−デキストランの希釈系列によって測定された。
バクテリアル・トランスロケーションは、文献記載の方法(Deitch EA et al., J. Clin. Invest 84:36−42, 1989)によって評価された。簡単に説明すると、5〜6個の腸管膜リンパ節(MLN)を、CLPの24時間後に無菌的に取り出し、その重量を測り、PBS中でホモジナイゼーションして、50mg/mL濃度にした。10倍連続希釈の懸濁液を、5%ヒツジ血液を含むトリプシン処理ダイズアガー(TSA)プレート上で、及び、MarConkeyアガープレート上で平板培養して、それぞれ、全細菌及びグラム陰性細菌を増殖した。2つのプレートを、37℃のインキュベーター内で24時間嫌気培養したのち、コロニー数を計数した。MLN中の細菌数を、MLN組織1gあたりのコロニー形成単位(CFU)で表した。
CLP後0日目、1日目、3日目及び7日目に、マウスからの糞便サンプルを回収し、マイクロバイオーム(microbiome)を測定した。具体的には、PowerSoil DNA抽出キット(MOBIO)を用いて糞便サンプルからDNAを抽出し、KAPA HiFi HotStart Ready Mix(KAPA Biosystems)を用いてPCRを行った。PCRに使用したプライマーセットは、784F:5'−AGGATTAGATACCCTGGT−3'(配列番号1)及び1061R:5'−CRRCACGAGCTGACGAC−3'(配列番号2;ここでR=A又はG)であり、16S rRNA遺伝子のV5−V6領域を標的とする(Andersson AF et al.,PLoS One 3:e2836,2008)。DNAライブラリーは、製造業者の説明書に従いIon PGM Sequencing Hi−Q Kit(Life Technologies)を用いて作製された。また、配列決定は、Ion PGM シークエンサー(Life Technologies)上で2つの318チップとIon PGM Sequencing Hi−Q Kit(Life Technologies)を用いて行われた。決定された配列をQIIME pipeline(Caoraso JG et al.,Nat Methods 7:335−336,2010)を用いて解析した。
核酸抽出のための各糞便サンプルの重さを測り、9容量のPBS(−)に懸濁して糞便ホモジネート(100mg糞便/mL)を作った。従来の記載のとおりに細菌DNAを抽出した(Matsuki T et al.,Appl Environ Microbiol 70:167−173,2004)。簡単に説明すると、200μLの糞便ホモジネート又は細菌培養物に、ガラスビーズ(0.3g;直径0.1mm;BioSpec Products)、300μl Tris−SDS溶液及び500μl TE飽和フェノールを加え、その混合物を、FastPrep−24ホモジナイザー(M.P. Biomedicals)を用いて、パワーレベル5.0で30秒間激しくボルテックスした。4℃、2000×gで5分間遠心分離したのち、懸濁液400μLを回収し、等量(容量)のフェノール−クロロホルム−イソアミルアルコール(25:24:1)を上清に加えた。さらに4℃、2000×gで5分間遠心分離したのち、懸濁液250μLを回収し、イソプロパノール沈降にかけた。最後に、200μL TEバッファーに懸濁し、−30℃で保存した。リアルタイムPCR(qPCR)を、GoTaq qPCR Master Mix(Promega)を用いて行い、ABI PRISM 7900HT配列検出システム(Applied Biosystems)を用いて、細菌rRNA遺伝子の量を定量した。エンテロバクテリア科に特異的なプライマーセット、En−lsu−3F: 5'−TGCCGTACTTCGGGAGAAGGCA−3'(配列番号3)及びEn−lsu−3'R: 5'−TCAAGGACCAGTGTTCAGTGTC−3'(配列番号4)を使用した(Kurakawa T et al.,J Microbiol Methods 2013;92(2):213−219)。各反応で、プライマーを1μMの濃度で加えた。増幅プログラムは、95℃5分を1サイクルと、その後の、94℃20秒、55℃20秒及び72℃50秒からなる。各サイクルの最後のステップで蛍光産物が検出された。融解曲線分析を増幅後に行い、標的指向されたPCR産物を非標的産物と区別した。融解曲線は、連続的蛍光コレクションを用い、0.2℃/秒の速度で60〜95℃の温度でゆっくり加熱することによって得られた。qPCR増幅及び検出を、ABI PRISM 7900HT配列検出システム(Applied Biosystems)を用いて、384ウエル光学プレート内で行った。標準曲線は、E.coli JCM1649から抽出されたDNAの定量サイクル(Cq)値を用いて作成された。この細菌株の細菌数は、文献記載のDAPI染色法を用いて顕微鏡観察によって測定された(Jansen GJ et al.,J Microbiol Methods 37:215−221,1999)。このアッセイの直線範囲におけるCq値を、同じ実験で作成された分析曲線に使用して、各核酸サンプル中の対応する細菌数を得、これをサンプルあたりの細菌数に変換した。
小腸(回腸末端部)内のiNOS、定量サイクル腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン−6(IL−6)及びインターロイキン1β(IL−1β)などの炎症メディエーターを評価するために、それらのmRNA発現をCLPの6時間後に得た。全RNAが組織サンプルから抽出され、High−Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Life Technologies)を用い、製造業者のプロトコルに従ってcDNAに逆転写された。RT−PCRは、StepOne Plus real−time PCR cycler(Applied Biosystems)上でFast SYBR Green Master Mixを用いて行われた。使用した特異的プライマーのそれぞれは、表1にまとめて示した。
酸化ストレスを測定するために、CLP後6時間の時点で組織マロンジアルデヒド(MDA)レベルを測定した。MDAレベルは、チオバルビツール酸反応性物質レベルを測定することによって観察される脂質過酸化産物についてアッセイされた。組織サンプルを−80℃に急速凍結し、50μgずつのサンプルに小分けした。そのサンプルをRIPAバッファー(和光純薬工業)中でホモジナイゼーションし、サンプル酸化を防止した。全サンプルを遠心分離(4℃、10,000×g、10分)にかけて、上清を回収し、OxiSelect TBARS Assay Kit(Cell Biolabs)を用いて製造業者の説明書に従って評価した。NanoDrop分光光度計(Thermo Fisher Scientific)を用いて532nmの吸光度を測定した。MDA濃度は、タンパク質1mgあたりのnmol(nmol/mg)で表した。
CLPの24時間後にマウスの首を切り、PBS、そしてその後0.1Mリン酸バッファー(PB)中の4%パラホルムアルデヒドを、経心腔的に灌流した。小腸(回腸末端部)を切除し、同じ定着液に浸漬し、一連のスクロース溶液(0.1M PB中15%、20%及び25%スクロース)の中で4℃、3日間冷却保護した。検体をOCT化合物(Sakura Finetechnical)中で冷凍したのち、それらをクリオスタット(CM3050S;Leica Microsystems)によって厚さ82μmの切片にスライスし、その冷却切片をヘマトキシリン・エオシンで染色した。
冷却切片を、0.005%サポニンを含む0.1M PB中の20%Block Ace(大日本住友製薬)によってブロックし、閉鎖帯−1(ZO−1)に対するラットモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology)と一緒に4℃で一晩インキュベーションした。このとき、この抗体は、PBS中1%正常ヤギ血清で1:200に希釈された。PBS中で3回洗浄後、切片を、500倍希釈のAlexa Fluor 488結合ヤギ抗家兎IgG抗体(Invitrogen)及びDAPI(Sigma−Aldrich)と一緒に室温で1時間インキュベーションした。各反応後、切片をPBSで洗浄した。最後に、切片をSlowFade試薬(Invitrogen)を用いて固定した。そのあと、蛍光顕微鏡装置(オリンパス)を用いて画像を観察した。
データは、平均±標準偏差(SD)として表した。実験群間の差は、Tukeyのポストホック(Tukey’s post hoc)比較テストを用いるANOVAによって決定された。生存率は、Kaplan−Meier分析法で分析され、グループ間の差を、log−rankテストで比較した。統計分析を、Graph Pad Prism 7.0(Graph Pad Software, Inc.)を用いて行い、p<0.05を有意であるとした。
[超過飽和濃度水素溶存生食水による生存の改善]
超過飽和濃度水素溶存生食水が敗血症マウスの生存率を改善することが可能であるか否かを調べるために、超過飽和濃度水素溶存生食水15ml/kgを、CLP術後7日間、毎日マウスに給与した。図1に生存曲線を示した。7日の実験期間の生存率は、擬似群(n=10)で100%、生食水群(n=26)で31%、H2群(n=26)で69%であった。H2群の生存率は、生食水群より有意に高くなった(p<0.01)。
MLN培養の分析において、TSAアガープレート及びMacConkeyアガープレート上のコロニーの数を、CLPの24時間後に計数して、バクテリアル・トランスロケーションが起こったか否かを決定した。擬似群では、コロニーは全く観察されなかった。生食水群では、TSA及びMacConkeyアガープレート上にコロニーが生じたが、H2群では、コロニーは存在したものの抑制された(図2A)。生食水群と比較してH2群では、MacConkeyアガープレート上に存在するコロニー数の大きな減少が観察された(p<0.05)(図2B)。
CLPの24時間後、血漿中のFITC−デキストランの出現を測定することによって腸透過性を評価した。その結果、擬似群と比べて生食水群で、有意に高いレベルのFITC−デキストランが観察され、またH2群では減衰された(図3)。
図4(上)に、腸粘膜障害の組織学的知見を示した。腸絨毛の短縮化又は欠損などの特徴が、生食水群で認められたが、H2群では軽減された。さらにまた、腸密着結合タンパク質ZO−1の発現を蛍光抗体染色で調べた。図4(下)に示されるように、ZO−1は、腸上皮密着結合部に局在しており、これは、図中、細胞結合部の頂端コンパートメントに一連の明るい緑色スポットとして現れている。ZO−1の局在は、生食水群で破壊されており、明るい緑色スポットが欠損しているが、一方、H2群ではZO−1の局在が認められた。
図5Aに、16S rRNA分析により決定された糞便サンプルからの多数の細菌分類群を示した。菌叢は、健康状態のマウスで、S24−7群又はクロストリジウム科、ラクトバシラス科、及びラクノスピラ科である。これに対し、CLPの1日目に、生食水群で、微生物組成が著しく変化し、特にエンテロバクテリア科の動的な増加がみられた。H2群では、エンテロバクテリア科の過剰増殖は大きく抑制された。定量分析の結果、エンテロバクテリア科の菌数は、生食水群で、1日目に約105まで増加したが、H2群では、当該菌数は相当に抑制された(図5B)。
CLPの6時間後のMDAの組織レベルが酸化ストレスの分析のために測定された。3つの群の間でMDAレベルに有意な差はなかったが、H2群では他の2つの群と比べて低い傾向がみられた(図6)。
CLPの6時間後の腸組織内の炎症メディエーターのmRNA発現が定量RT−PCRによって測定された結果、TNF−α、IL−1β及びIL−6のレベルは、擬似群と比べて生食水群でかなり高くなった(図7)。生食水群では、iNOSレベルもまた高い傾向がみられた。しかし、H2群では、これらの炎症メディエーターのmRNA発現は有意に抑制された(p<0.05)。
Claims (7)
- 溶存水素を有効成分として含み、かつ水素溶存液体の形態である、被験体の腸内細菌叢における悪玉菌の異常増殖を抑制し、かつ、被験体内でバクテリアル・トランスロケーションを防止又は抑制するための組成物であって、前記悪玉菌がエンテロバクテリア科であることを特徴とする組成物。
- 敗血症、全身性炎症反応症候群(SIRS)又は多臓器機能不全症候群(MOF)の発症もしくは悪性化を防止又は抑制することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
- 被験体の腸組織の損傷を改善することを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
- 水素溶存液体の水素濃度が、1〜10ppmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
- 水素溶存液体の水素濃度が、3〜10ppm又は7〜10ppmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
- 被験体への組成物の投与が、経口投与であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
- 投与時に水素添加具を用いてその場で作製されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
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