JP6794669B2 - ステンレス鋼の局部腐食抑制方法及び金属容器の保管方法 - Google Patents

ステンレス鋼の局部腐食抑制方法及び金属容器の保管方法 Download PDF

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Description

本発明は、ステンレス鋼の局部腐食抑制方法及び金属容器の保管方法に関するものである。
ステンレス鋼は、腐食が許容されない構造物などの構成材料として、広く用いられている。ステンレス鋼の材料表面には、緻密な保護皮膜(不働態皮膜)が形成されている。そのため、ステンレス鋼は高い耐食性を有する。
しかし、使用環境によってはステンレス鋼に腐食が生じることがある。例えば、ステンレス鋼で構成される構造物(以下、単に「構造物」ということがある)が海水(水分)などに接触する湿潤環境においては、構造物の表面に接触する海水に含まれる塩化物イオンが、ステンレス鋼の不働態皮膜に作用する。その結果、不働態皮膜が局部的に損傷し、構造物に局部腐食が生じることがある。
ここで、本明細書において「局部腐食」とは、ステンレス鋼の表面の不働態皮膜が局部的に損傷し、不働態皮膜が損傷した部位において露出する新生面が急速に腐食(溶解)する現象を指す。局部腐食は、鉄や炭素鋼などでみられる「全面腐食(全面がほぼ一様に腐食する形態)」と対照的な現象である。局部腐食は、腐食部位の面積が小さい分、深さ方向への進行速度が全面腐食に比べて著しく大きくなる。本明細書においては、局部腐食には、孔食、すきま腐食、応力腐食割れ(SCC)、粒界腐食を含むものとする。
局部腐食は進行が速い。例えば孔食が生じると構造物の表面から構造物の深度方向へ腐食が年間数mmから数十mmの速度で拡大し、数日から数か月で貫通損傷に至ることもある。そのため、構造物にステンレス鋼を用いる場合、ステンレス鋼の局部腐食を抑制することは、重要な課題の一つである。当該課題解決のために種々の検討がなされている。
例えば、構造物の設計段階においては、(1)種々のステンレス鋼の中から、使用される環境に十分耐えうるだけの高い耐食性を有するステンレス鋼を選択すること、(2)局部腐食を起こしやすくするすきま構造を有さない設計にすること、(3)すきまを生じさせないために表面への付着物を抑制する構造にすることなどが検討されている。
また、(4)ステンレス鋼で構成された構造物に、電気防食用の設備を併設することも検討されている。
更には、構造物に接触する水溶液について、(5)水溶液を除去して十分に乾燥させること、(6)水溶液から塩化物イオンを除去すること、(7)水溶液から溶存酸素を除去することが検討されている。水溶液中の水、塩化物イオン、酸素は、局部腐食の原因となりうるためである。
またこの他に、(8)水溶液を冷却すること、(9)局部腐食を抑制するための薬剤(腐食抑制剤)を構造物が接触する水溶液に添加することが検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
特開2009−270131号公報 特開2014−218729号公報 特開2015−67859号公報
しかしながら、上記方法のうち(1)から(3)の方法は、構造物の設計段階でしか反映できない。そのため、すでに使用している構造物や設備について局部腐食を抑制することができない。
(4)の方法は、非常に効果的な局部腐食抑制の方法であることが知られている。しかしながら、立地上の制約などから電気防食用設備を設置することができない場合には適応できない。また構造物の数が多い場合、それぞれの構造物に電気防食用設備を設置することは、設備が大掛かりになる。
(5)から(9)の方法は、構造物に適用することができれば効果が期待できるが、様々な制約から適用が困難な場合も多い。また、放射線が照射されるような特殊環境下では必ずしも有用とはいえない。放射線が照射されるという特殊な環境下は、放射線が照射されていない通常の環境下と異なり、想定されない問題が生じることがある。例えば、放射線の照射によって新たな腐食性物質が生成し、腐食を抑制しにくくなる場合や、添加した腐食抑制剤が放射線により分解、変質することにより腐食抑制効果が失われること等がある。場合によっては、分解、変質した腐食抑制剤が、局部腐食を逆に促進してしまう場合もある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、放射線が照射される環境下においても、簡便かつ効果的に局部腐食を抑制できるステンレス鋼の局部腐食抑制方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、ステンレス鋼と接触する水分中の硝酸イオン濃度を調整することで、放射線が照射される環境下においてもステンレス鋼の局部腐食を抑制できることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様にかかるステンレス鋼の局部腐食抑制方法は、放射線が照射される湿潤環境におけるステンレス鋼の局部腐食抑制方法であって、前記ステンレス鋼に接触する水分において、前記水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して、1倍以上のモル濃度の硝酸イオンを共存させる方法である。
上記態様のステンレス鋼の局部腐食抑制方法において、前記水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度を測定する工程と、前記塩化物イオンのモル濃度についての測定値に基づいて、前記水分中に硝酸塩を溶解させ、前記測定値の1倍以上のモル濃度の硝酸イオンを共存させる工程と、を有してもよい。
上記態様のステンレス鋼の局部腐食抑制方法において、前記硝酸イオンのモル濃度が、前記水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して5倍以上であってもよい。
上記態様にステンレス鋼の局部腐食抑制方法において、前記ステンレス鋼は、下記式(1)で求められる耐孔食指数が18以上であってもよい。
[数1]
(耐孔食指数)=[%Cr]+3.3×[%Mo]+n×[%N] …(1)
式中、[%Cr]は、ステンレス鋼全体に含まれるクロムの割合(質量%)であり、[%Mo]は、ステンレス鋼全体に含まれるモリブデンの割合(質量%)であり、[%N]は、ステンレス鋼全体に含まれる窒素の割合(質量%)である。
上記態様のステンレス鋼の局部腐食抑制方法において、前記水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度は、0.6mol/l以下であってもよい。
上記態様のステンレス鋼の局部腐食抑制方法において、前記水分の温度を60℃以下に管理してもよい。
上記態様のステンレス鋼の局部腐食抑制方法において、前記放射線の照射線量率が、5kGy/h以下であってもよい。
本発明の第2の態様にかかる金属容器の保管方法は、放射線が照射されるステンレス鋼製の金属容器において、容器内に貯留または滞留する水に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して、硝酸イオンのモル濃度を1倍以上にする方法である。
上記態様の金属容器の保管方法において、前記容器内に貯留または滞留する水に対して硝酸塩を添加して、前記容器内に貯留または滞留する水の硝酸イオンのモル濃度を、塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上に調整してもよい。
上記態様の金属容器の保管方法において、塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上のモル濃度の硝酸イオンが共存する調整液を、金属容器内に通水し、前記容器内に貯留または滞留する水の硝酸イオンのモル濃度を、塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上に調整してもよい。
上記態様の金属容器の保管方法において、前記金属容器が、放射性核種吸着材が充填された吸着塔であってもよい。
本発明によれば、放射線が照射される環境下においても簡便かつ効果的に局部腐食を抑制できるステンレス鋼の局部腐食抑制方法を提供できる。
定電位すきま腐食試験において用いた試験片を示す模式図である。 定電位すきま腐食試験に用いた試験装置の断面模式図である。 定電位すきま腐食試験における操作を示す図である。 定電位すきま腐食試験のStep1における腐食電流挙動を示すグラフである。 放射線が非照射の環境を模擬した場合の参考例1及び2のStep3における腐食電流挙動を示すグラフである。 放射線が照射される環境を模擬した場合の実施例1〜3及び比較例1のStep3における腐食電流挙動を示すグラフである。 実施例4〜6の孔食電位の測定結果を示すグラフである。
(第1実施形態:ステンレス鋼の局部腐食抑制方法)
本発明の第1実施形態に係るステンレス鋼の局部腐食抑制方法は、放射線が照射される湿潤環境におけるステンレス鋼の局部腐食抑制方法である。
本実施形態のステンレス鋼の局部腐食抑制方法において、「湿潤環境」とは、ステンレス鋼で構成された構造物に、水分が恒常的に接触しているような環境を指す。例えば、ステンレス鋼で構成された配管内を水が流れている場合、ステンレス鋼で構成された金属容器に水を貯留する場合、ステンレス鋼で構成された金属容器内に水が滞留する場合、ステンレス鋼で構成された架台に水しぶきがかかるような場合などの各環境を指す。本実施形態のステンレス鋼の局部腐食抑制方法は、これらの環境において広く適用することが可能である。
ステンレス鋼に接触する水分に、許容限界濃度を超える塩化物イオンが含まれていると、塩化物イオンの作用によりステンレス鋼の表面の不働態皮膜が損傷する。不働態皮膜が損傷すると、ステンレス鋼の表面に局部腐食が発生し、進行する。
本明細書において「局部腐食の発生」とは、水分に接触したステンレス鋼の表面において、不働態皮膜が局部的に損傷し、局部腐食がない状態から局部腐食が認められる状態に変化することを指す。
また、本明細書において「局部腐食の進行」とは、ステンレス鋼に発生した局部腐食の範囲が拡大することを指す。「局部腐食の範囲が拡大」とは、ステンレス鋼表面の面方向への局部腐食の拡大と、ステンレス鋼の表面から深度方向への局部腐食の拡大と、の両方を含むものとする。
局部腐食の発生及び進行は、ステンレス鋼に対して放射線が照射される環境下において促進される。「放射線が照射される環境」とは、ステンレス鋼に対して外部から放射線が照射される場合、及び、ステンレス鋼に接触する水中に存在する放射性核種から放射線が照射される場合を含む。
放射線が照射されると、ステンレス鋼に接触する水の放射線分解が進む。水が放射線分解すると、ステンレス鋼に接触する水に含まれる過酸化水素濃度が高まる。過酸化水素は腐食性(酸化性)が強いため、ステンレス鋼の腐食が促進される。過酸化水素の生成によりステンレス鋼に接触する水の腐食性が強まることは、ステンレス鋼の自然浸漬電位の上昇という形で現れる。
またステンレス鋼に接触する水中に放射性核種が存在する場合は、核種の崩壊熱により水分が蒸発し、ステンレス鋼に接触する水中における塩化物イオン濃度が高まる。ステンレス鋼の局部腐食は、塩化物イオン濃度が高いほど発生しやすくなる。そのため、塩化物イオン濃度が高まることでも、ステンレス鋼の腐食が促進される。
照射される放射線は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線等の種々の放射線のいずれの場合も含む。特にガンマ線は電磁波であり、粒子であるアルファ線やベータ線よりも透過性が高い。そのため、ガンマ線は遮蔽物により遮蔽することが難しく、水の放射線分解に対する影響が大きい。
本実施形態のステンレス鋼の局部腐食抑制方法においては、ステンレス鋼に接触する水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して、硝酸イオンのモル濃度を所定の濃度以上にすることにより、局部腐食の発生と進行との両方を抑制することが可能である。硝酸イオンが腐食抑制剤として機能し、局部腐食の発生と進行を抑制するものと考えられる。
放射線が照射される環境下では、添加した腐食抑制剤が分解、変質等することがある。そのため、放射線が照射されていない環境下で広く知られている腐食抑制剤を、放射線が照射される環境下でそのまま用いることができるわけではない。例えば、炭素鋼の腐食に対する抑制剤として広く用いられている亜硝酸イオンは、放射線が照射されると変質する性質がある。
これに対し、硝酸イオンは、放射線が照射されることにより分解、変質等しない。そのため、放射線が照射される環境下でも安定的にステンレス鋼の局部腐食を抑制することができる。
ステンレス鋼に接触する水分中に含まれる硝酸イオンのモル濃度は、当該水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。
水分中に含まれる硝酸イオンのモル濃度が、塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上であれば、放射線が照射される環境下においてステンレス鋼に接触する水分の塩化物イオン濃度が海水相当の場合でも、局部腐食の一種である孔食の発生を防止することができる。また、同じく局部腐食の一種であるすきま腐食の進行を抑制することができる。
また水分中に含まれる硝酸イオンのモル濃度が、塩化物イオンのモル濃度に対して5倍以上であれば、放射線が照射される環境下においてステンレス鋼に接触する水分の塩化物イオン濃度が海水相当の場合でも、局部腐食の一種であるすきま腐食の進行を停止させることができる。
孔食、すきま腐食、応力腐食割れなどの局部腐食のうち、最も起こりやすいすきま腐食を防止できれば他の局部腐食も防止できる。また、局部腐食は発生より進行を抑制する方が難しいため、腐食の進行を停止させることができる方策は、腐食の発生も防止することができる。したがって、放射線環境下において水分中に含まれる硝酸イオンのモル濃度が、塩化物イオンのモル濃度に対して5倍以上であれば、あらゆる局部腐食の発生と進行を防止できるといえる。
ステンレス鋼としては、通常知られたステンレス鋼が挙げられる。局部腐食を抑制するためには、ステンレス鋼自身の耐食性が高いことが好ましい。例えば、下記式(1)で求められる耐孔食指数(PRE:Pitting Resistance Equivalent)が18以上であるステンレス鋼を用いることが好ましく、23以上であるステンレス鋼を用いることがより好ましく、25以上であるステンレス鋼を用いることがさらに好ましい。
[数1]
(耐孔食指数)=[%Cr]+3.3×[%Mo]+n×[%N] …(1)
式中、[%Cr]は、ステンレス鋼全体に含まれるクロムの割合(質量%)であり、[%Mo]は、ステンレス鋼全体に含まれるモリブデンの割合(質量%)であり、[%N]は、ステンレス鋼全体に含まれる窒素の割合(質量%)である。
上記式(1)中の[%N]の係数であるnは、研究者によって異なるが10〜30程度とされている値である。
具体的には、JIS G4303「ステンレス鋼棒」に規定されるステンレス鋼であるSUS304(PRE=18)と同等以上の耐食性を有するステンレス鋼が好ましい。またSUS304クラスの汎用ステンレス鋼よりも塩化物イオンに対する耐食性に優れるSUS316Lグレード(PRE=23)のステンレス鋼が特に好ましい。例えば、JIS G4303に規定されるSUS316L鋼の場合、クロムが16%以上、モリブデンが2%以上であるため、(1)式より耐孔食指数は22.6となる。なお、SUS316Lグレードは、クロム濃度(16〜18%)とモリブデン濃度(2〜3%)に幅があり、耐孔食指数をより高い値(例えば、25以上)とすることもできる。
本実施形態のステンレス鋼の局部腐食抑制方法は、水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度が、例えば海水相当の濃度であっても適用可能である。具体的には、水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度が0.6mol/l以下であれば、好適に適用可能である。
また、局部腐食の発生および局部腐食の進行を構成する各反応は、水分の温度が高いと速度論的に進行しやすい。そのため、ステンレス鋼に接触する水分の温度は低いほど好ましい。例えば、60℃以下に管理することで、局部腐食に係る反応の反応速度を低下させ、本実施形態のステンレス鋼の局部腐食抑制方法の効果を高めることができる。
放射線の照射線量率が高いほど、生成する過酸化水素濃度が上昇するため局部腐食が促進される。そのため、照射線量率は低いほど好ましい。例えば、5kGy/h以下であれば、本実施形態のステンレス鋼の局部腐食抑制方法の効果を高めることができる。
本実施形態のステンレス鋼の局部腐食抑制方法においては、水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度を測定する工程と、塩化物イオンのモル濃度についての測定値に基づいて、水分に硝酸塩を溶解させ、前記測定値の1倍以上のモル濃度の硝酸イオンを共存させる工程と、を有するとよい。このような方法とすることで、ステンレス鋼に接触する水分に、局部腐食の抑制に必要な硝酸イオンを確実に共存させることが可能となる。
水分に添加する硝酸イオンの対になるカチオンに制限はない。例えば、ナトリウム塩やカリウム塩などを使用することができる。
なお、水分に含まれる塩化物イオンのモル濃度が既知である場合や、塩化物イオンのモル濃度が変動する場合であっても代表値や変動幅が既知である場合には、これらの値を用いて、水分に硝酸イオンを共存させるとよい。例えば、水分として海水を想定する場合、海水に含まれる塩化物イオンのモル濃度は、海洋地域や季節などで変動することが考えられるが、変動幅の上限値を基準として1倍以上のモル濃度の硝酸イオンを共存させることで、水分に局部腐食の抑制に必要な硝酸イオンを確実に共存させることが可能となる。
以上のようなステンレス鋼の局部腐食抑制方法によれば、簡便かつ効果的に局部腐食を抑制することができる。
(第2実施形態:金属容器の保管方法)
本発明の第2実施形態にかかる金属容器の保管方法は、放射線が照射されるステンレス鋼製の金属容器において、容器内に貯留または滞留する水に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して、硝酸イオンのモル濃度を1倍以上にする方法である。また、容器内に貯留または滞留する水に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対する硝酸イオンのモル濃度は5倍以上にするのが好ましい。
なお、本実施形態におけるステンレス鋼の金属容器は、第1実施形態におけるステンレス鋼に対応する。そのため、第1実施形態における構成は、第2実施形態においても用いることができる。
金属容器は、形状、用途等を特に問わない。放射線が照射される環境下におかれるステンレス鋼製の金属容器としては、放射性核種を含む汚染水を貯留、あるいは浄化するためのタンクや吸着塔、放射線を発する使用済燃料を貯蔵するためのプールなどがある。以下、吸着塔の場合を例に説明を進めるが、金属容器は吸着塔に限られるものではない。
吸着塔は、放射性核種を吸着する作用を有する物質(放射性核種吸着材)を充填した金属製の容器である。吸着塔内に放射性核種を含む汚染水を通過させ、放射性核種を吸着塔内に吸着し、汚染水を浄化する。
汚染水には、塩化物イオンが多量に含まれる場合がある。例えば、福島第1原子力発電所では、原子炉の冷却に海水を使用せざるを得なかったため、塩化物イオンと放射性核種が含まれる汚染水が発生している。
使用済みの吸着塔は、吸着した放射性核種により強い放射線を発するため、人が容易に近づくことができない。そのため、吸着材を内包したまま所定期間保管された後、処分される。放射性物質を多量に含んでいるため、金属容器である吸着塔に腐食等の経年劣化による損傷が起こらないように留意する必要がある。
腐食等の経年劣化を防ぐために、腐食の原因物質である水と塩化物イオンを除去する方策として、水抜きや淡水による通水が行われる場合がある。しかしながら、強い放射線や構造上の問題などにより、十分な水抜きが難しい場合もある。この場合は、塩化物イオンを含む水が吸着塔内に残水として滞留する。
吸着材に吸着された放射性核種は、吸着塔内で放射線を放射する。すなわち、吸着塔を構成するステンレス鋼は、放射線が照射される環境となる。
すなわち、吸着塔における残水と接触する部分は「放射線が照射される湿潤環境」となる。上述のように、放射線により腐食性の強い過酸化水素が生成するため、通常より厳しい腐食環境となる。そのため、残水中の塩化物イオン濃度によっては、吸着塔に局部腐食が起こり、放射性物質を含む残水が漏えいする恐れがある。なお、例えば貯水タンク等では、「滞留」では無く、「貯留」の場合もあるが、以下「滞留」の場合を例に説明する。
本実施形態においては、金属容器内部に滞留する水において、塩化物イオン濃度に対する硝酸イオン濃度を1倍以上に調整する。硝酸イオン濃度の調整は、容器内に滞留する水に対して硝酸塩を添加して行うことができる。また硝酸イオン濃度の調整は、塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上のモル濃度の硝酸イオンが共存するように調整された調整液を、金属容器内に通水して行ってもよい。なお、「通水」は目的を問わず、「洗浄」、「置換」等の目的で行うことができる。
金属容器内に滞留する水における塩化物イオン濃度に対する硝酸イオン濃度を1倍以上に調整すると、第1実施形態にかかるステンレス鋼の局部腐食抑制方法と同様に、金属容器の腐食が抑制される。その結果、金属容器を安定的に保管することができる。また、金属容器内に滞留する水における塩化物イオン濃度に対する硝酸イオン濃度を5倍以上に調整すると、金属容器の腐食がより抑制され、金属容器をより安定的に保管することができる。
金属容器の保管方法においては、吸着塔内に硝酸塩を添加して硝酸イオン濃度の調整を行う第1の方法と、硝酸イオン濃度を調整済みの調整液を吸着塔内に通水し、硝酸イオン濃度を調整する第2の方法と、がある。
第1の方法は、吸着塔に残った残水に硝酸塩を添加し、残水に硝酸塩を溶解させる方法である。
添加する硝酸塩量は、残水中の硝酸イオンのモル濃度が、塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上となるようにする。また添加する硝酸塩量は、残水中の硝酸イオンのモル濃度が、塩化物イオンのモル濃度に対して5倍以上となるようにすることが好ましい。
第1の方法において、硝酸塩を添加する前に、吸着塔内に淡水を通水することが好ましい。淡水で通水することで、残水の塩化物イオン濃度を低減できる。残水の塩化物イオン濃度が低くなれば、添加する硝酸塩量が少なくなる。
なお、淡水を通水した場合、残水の塩化物イオン濃度は十分低下する。したがって、残水に接触するステンレス鋼が腐食することはまれである。しかしながら、残水が濃縮して塩化物イオン濃度が上昇するなどした場合は局部腐食を起こす可能性がある。放射性物質の漏えいは大きな問題であり、局部腐食を起こす可能性があるという段階で、充分な予防手段を設けることは重要である。
第1の方法によれば、残水中の硝酸イオン濃度が所定の濃度以上となる。そのため、吸着塔を構成するステンレス鋼が腐食することを抑制することができる。すなわち、吸着塔が腐食等の経年劣化により損傷することを避け、吸着塔を安全かつ安定に保管できる。
第1の方法は、既に保管を開始している吸着塔の保管安定性を高める際に、特に有用である。硝酸塩を保管中の吸着塔内に添加するだけでよく、複雑な作業を得ずに、簡便に吸着塔の保管安定性を高めることができる。
第2の方法は、吸着塔内に硝酸イオン濃度が調整された調整液を通水する方法である。
調整液は、淡水中に含まれる塩化物イオン濃度に対して、硝酸イオン濃度が1倍以上となるように調整された水である。また調整液は、淡水中に含まれる塩化物イオン濃度に対して、硝酸イオン濃度が5倍以上となるように調整することが好ましい。
吸着塔内に調整液を通水すると、調整液の一部が吸着塔内に残水として残る。しかしながら、調整液は、既に塩化物イオン濃度と硝酸イオン濃度が所定の関係に調整されている。そのため、吸着塔を構成するステンレス鋼が腐食することを抑制することができる。すなわち、吸着塔が腐食等の経年劣化により損傷することを避け、吸着塔を安全かつ安定に保管できる。
第2の方法は、これから保管を開始する吸着塔の保管安定性を高める際に、特に有用である。調整液を用いると、残水中の塩化物イオン濃度を確認する必要が無くなる。残水中の塩化物イオン濃度の確認は、放射線環境下での作業であり、確認作業が無くなることは非常に有用である。また特別な設備等を設ける必要がなく、塩化物イオン濃度を低減するために通常行われる淡水通水工程を置き換えるだけで行うことができる。
吸着塔に用いるステンレス鋼は、SUS304グレード以上のステンレス鋼が好ましく、SUS316Lグレードのステンレスがより好ましい。放射性核種吸着材は、公知のものを用いることができる。例えば、ゼオライト等を用いることができる。
吸着塔内に吸着する放射線核種は、特に限定されない。例えば、セシウム137、コバルト60、ストロンチウム90、ヨウ素131等が挙げられる。
上述のように、本実施形態にかかる金属容器の保管方法を用いれば、残水中の硝酸イオン濃度が所定の濃度以上となり、吸着塔を構成するステンレス鋼が腐食することを抑制することができる。すなわち、吸着塔が腐食等の経年劣化により損傷することを避け、吸着塔を安全かつ安定に保管できる。
なお、保管過程で残水が蒸発し、残水中の塩化物イオン濃度が高まることがある。しかしながら、残水の一部が蒸発しても、残水中の塩化物イオン濃度と、硝酸イオン濃度との比率は一定に保たれるため、吸着塔の腐食を抑制する効果は失われない。
以上、本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
[実施例]
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[1.局部腐食(すきま腐食)の進行抑制に対する効果検証]
(試験片)
図1は、本実施例において用いた試験片を示す模式図であり、図1(a)は側面図、図1(b)は正面図である。
図に示すように、本実施例においては、50mm×24mm×3mmのステンレス鋼製の平板状の試験片1を用いた。ステンレス鋼としては、市販のSUS316L溶体化材を用い、機械加工により作製した。SUS316Lの化学成分(質量%)は、ステンレス鋼全体に対して、炭素(C):0.011%、珪素(Si):0.61%、マンガン(Mn):0.83%、リン(P):0.024%、硫黄(S):0.001%、クロム(Cr):17.36%、ニッケル(Ni):12.31%、モリブデン(Mo):2.09%である。SUS316Lの耐孔食指数は、24.3であった。
試験片1には、長手方向の一端から12mmの位置に直径6mmのボルト穴を形成し、表面に600メッシュの耐水研磨紙を用いて湿式研磨を施した。
このような試験片1を、直径20mm×厚み5mmの円筒形のポリサルフォン製ガスケット2およびワッシャ3で挟持し、さらにボルト4を試験片1のボルト穴に挿通した後、ナット5を用いて2.0N・mのトルクでねじ止めした。ワッシャ3、ボルト4およびナット5は工業用純チタン製のものを用いたが、これらは試験片1とは絶縁されている。
さらに、試験片1の他端側には、リード線6を電気的に接続し、リード線6を絶縁被膜7で被覆した。
(定電位すきま腐食試験)
図2は、定電位すきま腐食試験に用いた試験装置の断面模式図である。
電解槽14には、イオン交換水と、塩化ナトリウム(NaCl)の特級試薬から調整したNaCl水溶液を注入した。そして、恒温槽15及び温度計10により電解槽14を60℃に昇温した。次いで、気泡管11及び冷却器13を用いてアルゴンガスをNaCl水溶液中に通気し、液中酸素を除去した。
また上述の試験片1の下部約35mmと、白金(Pt)からなる対極8とをNaCl水溶液中に浸漬した。浸漬後の試験片1と対極8とは、ポテンショ/ガルバノスタット16(Solartron社製、電気化学測定システム、型番:1280Z)に接続した。試験片1の電位は、塩橋12を介して電気的に導通をとった飽和KCl溶液中の銀/塩化銀電極からなる照合電極9の電位を基準として測定した。ただし、以下の実施例の電位は、測定値に0.196Vを加えて、標準水素電極電位(SHE)基準に補正した値で示した。
図3は、以下の操作を示す図である。図3(a)は、印加した電位の変化を示したグラフであり、横軸は試験時間(単位:時間)、縦軸は電位(単位:V)を示す。図3(b)は、図3(a)に示した電位変化により試験片1で測定される腐食電流を示すグラフであり、横軸は、図3(a)と同じスケールの試験時間(単位:時間)、縦軸は、測定される腐食電流(単位:μA)を示す。
まず、ポテンショ/ガルバノスタット16を電位制御モードとし、60℃のNaCl水溶液に浸漬した試験片1の電位を、掃引速度30mV/minでアノード方向に掃引することにより、すきま腐食を強制的に発生させた(Step1)。金属の腐食溶解は、金属元素が電子を放出してイオン化する酸化反応である。したがって、その腐食速度は電流(厳密には電流密度)によって表される。すなわち、Step1においてすきま腐食が発生すると、試験片に流れる電流(腐食電流と称する)が急増する。そのため、腐食電流値の挙動を確認することで、すきま腐食の発生の有無を判断することができる。
腐食電流が1mAに到達した後、ポテンショ/ガルバノスタット16を電流制御モードに切り替え、腐食電流を800μA一定として24時間保持し、すきま腐食を成長させた(Step2)。
次いで、ポテンショ/ガルバノスタット16を電位制御モードに切り替え、試験片1の電位を一定の保持電位(Ehold)に保持した。電位保持を始めてから4時間後に、必要量の薬剤を添加した(Step3)。図3(b)で例示するように、このStep3の薬剤添加後に腐食電流の低下傾向が確認されれば、電位Eholdの条件下ですきま腐食の進行を抑制する効果があると判断できる。
ここで、保持電位(Ehold)を変化させることで、様々な環境条件における腐食抑制効果を検討することができる。例えば、中性の自然水中に浸漬されているステンレス鋼は、水中の溶存酸素の酸化力により約0.3Vの電位に保持されることが知られている。そこで、放射線が照射されていない条件(非照射)を模擬する場合は、保持電位(Ehold)を0.3Vとした。これに対し、線量率0.1〜5kGy/hの強い放射線が照射される環境下では、溶存酸素よりも酸化力の強い過酸化水素の作用により約0.5Vの電位に保持されるとの報告がある。そこで、放射線が照射されている条件を模擬する場合は、保持電位(Ehold)を0.5Vとした。すなわち、保持電位を変えることで、放射線が照射される条件を模した。
(参考例1)
NaCl溶液の濃度を、0.056mol/lとした。そして、Step3で添加する薬剤として、硝酸ナトリウム(NaNO)を添加した。添加後の水溶液中の硝酸イオン濃度は、塩化物イオン濃度の1倍の0.056mol/lであった。想定環境として放射線が非照射の環境を想定し、保持電位を0.3Vとした。
(参考例2)
NaCl溶液の濃度を、海水相当の0.56mol/lとした。そして、Step3で添加する薬剤として、硝酸ナトリウム(NaNO)を添加した。添加後の水溶液中の硝酸イオン濃度は、塩化物イオン濃度の1倍の0.56mol/lであった。想定環境として放射線が非照射の環境を想定し、保持電位を0.3Vとした。
(実施例1)
NaCl溶液の濃度を、0.056mol/lとした。そして、Step3で添加する薬剤として、硝酸ナトリウム(NaNO)を添加した。添加後の水溶液中の硝酸イオン濃度は、塩化物イオン濃度の1倍の0.056mol/lであった。想定環境として放射線が照射される環境を想定し、保持電位を0.5Vとした。
(実施例2)
NaCl溶液の濃度を、海水相当の0.56mol/lとした。そして、Step3で添加する薬剤として、硝酸ナトリウム(NaNO)を添加した。添加後の水溶液中の硝酸イオン濃度は、塩化物イオン濃度の1倍の0.56mol/lであった。想定環境として放射線が照射される環境を想定し、保持電位を0.5Vとした。
(実施例3)
NaCl溶液の濃度を、海水相当の0.56mol/lとした。そして、Step3で添加する薬剤として、硝酸ナトリウム(NaNO)を添加した。添加後の水溶液中の硝酸イオン濃度は、塩化物イオン濃度の5倍の2.8mol/lであった。想定環境として放射線が照射される環境を想定し、保持電位を0.5Vとした。
(比較例1)
NaCl溶液の濃度を、海水相当の0.56mol/lとした。そして、Step3で添加する薬剤として、硝酸ナトリウム(NaNO)を添加した。添加後の水溶液中の硝酸イオン濃度は、塩化物イオン濃度の0.2倍の0.11mol/lであった。想定環境として放射線が照射される環境を想定し、保持電位を0.5Vとした。
参考例1及び2、実施例1から3、比較例1の測定条件及び腐食抑制効果の結果を表1に示す。表1において、「○」は腐食の進行を停止できたことを意味し、「△」は腐食の進行を顕著に抑制できたが、停止には至らなかったことを意味する。また「×」は腐食がほとんど抑制されず、大きな腐食速度で進行し続けた場合を意味する。
Figure 0006794669
図4は、上述の定電位すきま腐食試験のStep1における腐食電流挙動を示すグラフであり、横軸はStep1の経過時間(単位:時間)、縦軸は測定された腐食電流(単位:μA)を示す。図4では、実施例1〜3及び参考例1,2において測定された腐食電流値を重ねて示している。
図4の腐食電流挙動において、腐食電流が急増する点よりも前の停滞電流は20μA〜50μA程度である。ファラデーの法則により、この停滞電流密度をSUS316L鋼の腐食速度に換算すると0.01〜0.03mm/年と微小である。そのため、このような停滞電流値を示している状態の試験片1には、まだすきま腐食は発生しておらず、健全な不働態が維持された状態にあると考えられる。
Step1において測定される腐食電流I=20μA〜50μAのうち下限値を不働態保持電流Ipassとした。測定される腐食電流値が不働態保持電流Ipassと同等以下となった場合、試験片1のすきま腐食は進行を停止し、再び健全な不働態の状態に戻ったものと判断できる。
図5は、上述の定電位すきま腐食試験で、放射線が非照射の環境を模擬した場合のStep3における参考例1及び2の腐食電流挙動を示すグラフであり、図3(b)のStep3に対応するグラフである。図5の横軸は、Step3の経過時間(単位:時間)であり、縦軸は、測定された腐食電流(単位:μA)を示す。図5では、参考例1及び参考例2において測定された腐食電流値を重ねて示している。
図に示すように、参考例1及び参考例2は共に、NaNO添加後、腐食電流が顕著に低下している。いずれも120時間以内に、Ipassを下回った。その後、腐食電流がIpassを上回ることはなく、すきま腐食の進行が停止したものと考えられる。
これらの結果より、放射線が非照射の環境下において、水溶液中の硝酸イオン濃度が、水溶液中の塩化物イオン濃度に対して1倍以上であると、ステンレス鋼の局部腐食を停止させられることが確認できた。
図6は、上述の定電位すきま腐食試験で、放射線が照射される環境を模擬した場合のStep3における実施例1から3及び比較例1の腐食電流挙動を示すグラフであり、図3(b)のStep3に対応するグラフである。図6の横軸は、Step3の経過時間(単位:時間)であり、縦軸は、測定された腐食電流(単位:μA)を示す。図6では、実施例1〜実施例3及び比較例1において測定された腐食電流値を重ねて示している。
海水の10分の1相当の塩化物イオン濃度条件とした実施例1では、塩化物イオンと同じモル濃度のNaNO添加後、腐食電流値が顕著に低下し、40時間以内にIpassを下回った。すなわち、すきま腐食の進行が停止したものと考えられる。
海水相当の塩化物イオン濃度条件とした実施例2では、塩化物イオンと同じモル濃度のNaNO添加後、100時間ほど経過してから腐食電流が顕著に低下した。NaNO添加により、腐食電流が二桁以上小さくはなったが、Ipassを下回ることはなかった。すなわち、すきま腐食の進行は抑制されたものの、停止までは至らなかった。
これに対し、実施例3に示すように、硝酸イオン濃度を塩化物イオン濃度に対して5倍まで高めると、腐食電流値が顕著に低下し、30時間以内にIpassを下回った。すなわち、すきま腐食の進行が停止したものと考えられる。
これらの結果より、放射線が照射される環境下においても、水溶液中の硝酸イオン濃度を水溶液中の塩化物イオン濃度に対して1倍以上とすることで、すきま腐食の進行を抑制することができた。また水溶液中の硝酸イオン濃度を水溶液中の塩化物イオン濃度に対して5倍以上とすることで、ステンレス鋼の局部腐食の進行を停止させられることが確認できた。
一方、比較例1に示すように、添加する硝酸イオン濃度を塩化物イオン濃度に対して0.2倍まで低減したところ、腐食電流はなだらかに低下した。しかしながら、実施例1〜3でみられたような腐食電流の顕著な低下は確認されなかった。この比較例1の実験では、腐食が激しく進行したために、試験片の一部が欠損しており、これが電流低下の要因になった可能性も示唆された。すなわち、放射線が照射される環境下においてすきま腐食の進行を抑制するためには、塩化物イオン濃度に対して0.2倍の硝酸イオン添加では不十分であり、1倍以上とする必要があることがわかった。
[2.局部腐食(孔食)の発生抑制に対する効果検証]
(平板試験片)
本実施例においては、15mm×15mm×4mmのステンレス鋼製の平板試験片を用いた。ステンレス鋼としては、試験片1と同じSUS316L鋼溶体化材を用いた。また、一端にリード線を電気的に接続し、リード線を絶縁被膜で被覆した。
平板試験片は、表面を600メッシュの耐水研磨紙を用いて湿式研磨した後、50℃の30%硝酸中に1時間浸漬し、不働態化処理を行った。
(孔食電位測定)
JIS G 0577「ステンレス鋼の孔食電位測定方法」に準拠して、以下の方法により、ステンレス鋼の孔食電位を測定した。ここで「孔食電位」とは、孔食が発生し得る下限の電位であり、値が高いほど孔食が発生しにくいことを示す。
まず、平板試験片の表面が1cmだけ試験溶液に接するように、直径1.13cmの開口部を設けたテトラフルオロエチレン製の治具に、平板試験片を保持した。
測定の直前に、平板試験片の接液部分の表面を600メッシュの研磨紙を用いて乾式研磨した後、蒸留水にて洗浄した。NaClと硝酸ナトリウムを所定の量で溶解させた試験溶液を60℃に昇温し、2時間以上の窒素ガス通気により脱気した後、上述の平板試験片を試験溶液中に浸漬した。
さらに白金の対極を浸漬し、平板試験片の自然電位を10分間測定した後、ポテンショ/ガルバノスタット(北斗電工社製、電気化学測定システム、型番:HZ−5000)を用いて、平板試験片の電位を20mV/minでアノード方向に掃引し、アノード電流密度が1000μA/cmに到達した時点で測定を終了させた。
JIS G 0577の規定に基づき、得られた電位−電流曲線において、アノード電流密度10μA/cmに対応する最も貴な値を孔食電位VC、PIT10と決定した。ただし、測定後の平板試験片の光学顕微鏡観察において、孔食が確認されなかった測定によるVC、PIT10は結果から除外した。
(実施例4)
0.0056mol/lの濃度のNaCl水溶液に対して、水溶液中の硝酸イオン濃度が、塩化物イオン濃度である0.0056mol/lの0倍(硝酸ナトリウム無添加)、0.1倍、1倍となるように硝酸ナトリウムの必要量を溶解させたものを試験溶液として用い、それぞれ孔食電位VC、PIT10を測定した。
(実施例5)
0.056mol/lの濃度のNaCl水溶液に対して、水溶液中の硝酸イオン濃度が、塩化物イオン濃度である0.056mol/lの0倍(硝酸ナトリウム無添加)、0.1倍、1倍となるように硝酸ナトリウムの必要量を溶解させたものを試験溶液として用い、それぞれ孔食電位VC、PIT10を測定した。
(実施例6)
0.56mol/lの濃度のNaCl水溶液に対して、水溶液中の硝酸イオン濃度が、塩化物イオン濃度である0.56mol/lの0倍(硝酸ナトリウム無添加)、0.1倍、1倍となるように硝酸ナトリウムの必要量を溶解させたものを試験溶液として用い、それぞれ孔食電位VC、PIT10を測定した。
図7は、実施例4〜6の結果を示すグラフであり、横軸は、硝酸イオンと塩化物イオンとのモル濃度比を示し、縦軸は、孔食電位VC、PIT10(単位:V)を示す。
図に示すように、実施例4〜6において、塩化物イオン濃度の0.1倍の硝酸イオンを共存させた場合、硝酸イオン無添加の場合に比べて孔食電位の変化は小さい。したがって、この硝酸イオン濃度比率での孔食発生の抑制効果は小さい。
一方、実施例4〜6において、塩化物イオン濃度の1倍の硝酸イオンを共存させた場合は、電位を1.2Vまで貴化させても孔食は発生しなかった。すなわち、孔食電位は少なくとも1.2Vより高いことがわかった。前述のとおり、線量率0〜5kGy/hの強い放射線が照射される環境下であっても、材料が保持される電位は約0.5Vであって、1.2Vを超えることはない。したがって、放射線が照射される環境下でも、塩化物イオン濃度の1倍以上の硝酸イオンを共存させることで、局部腐食の一種である孔食の発生を防止できることがわかった。
これらの結果から、従来知られた腐食抑制剤を用いた局部腐食抑制方法と比べて、本発明は、放射線が照射される環境下においてもステンレス鋼の局部腐食の発生と進行のいずれの抑制にも非常に効果的であることが確かめられた。
1…試験片、2…ガスケット、3…ワッシャ、4…ボルト、5…ナット、6…リード線、7…絶縁被膜、8…対極、9…照合電極、10…温度計、11…気泡管、12…塩橋、13…冷却器、14…電解槽、15…恒温槽、16…ポテンショ/ガルバノスタット

Claims (11)

  1. 亜硝酸イオンが変質する放射線が照射される湿潤環境におけるステンレス鋼の局部腐食抑制方法であって、
    前記ステンレス鋼に接触する水分において、前記水分中に含まれる塩化物イオン濃度が0.056mol/l以上であり、前記水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して、1倍以上のモル濃度の硝酸イオンを共存させるステンレス鋼の局部腐食抑制方法。
  2. 前記水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度を測定する工程と、
    前記塩化物イオンのモル濃度についての測定値に基づいて、前記水分中に硝酸塩を溶解させ、前記測定値の1倍以上のモル濃度の硝酸イオンを共存させる工程と、を有する請求項1に記載のステンレス鋼の局部腐食抑制方法。
  3. 前記水分中に含まれる塩化物イオン濃度が0.56mol/l以上であり、
    前記硝酸イオンのモル濃度が、前記水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して5倍以上である請求項1または2のいずれかに記載のステンレス鋼の局部腐食抑制方法。
  4. 前記ステンレス鋼は、下記式(1)で求められる耐孔食指数が18以上である請求項1から3のいずれか一項に記載のステンレス鋼の局部腐食抑制方法。
    [数1]
    (耐孔食指数)=[%Cr]+3.3×[%Mo]+n×[%N] …(1)
    (式中、[%Cr]は、ステンレス鋼全体に含まれるクロムの割合(質量%)であり、[%Mo]は、ステンレス鋼全体に含まれるモリブデンの割合(質量%)であり、[%N]は、ステンレス鋼全体に含まれる窒素の割合(質量%)である)
  5. 前記水分中に含まれる塩化物イオンのモル濃度が、0.6mol/l以下である請求項1から4のいずれか一項に記載のステンレス鋼の局部腐食抑制方法。
  6. 前記水分の温度を60℃以下に管理する請求項1から5のいずれか一項に記載のステンレス鋼の局部腐食抑制方法。
  7. 前記放射線の照射線量率が、5kGy/h以下である請求項1から6のいずれか一項に記載のステンレス鋼の局部腐食抑制方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載のステンレス鋼の局部腐食抑制方法を用いた金属容器の保管方法であって、
    亜硝酸イオンが変質する放射線が照射されるステンレス鋼製の金属容器において、容器内に貯留または滞留する水に含まれる塩化物イオン濃度が0.056mol/l以上であり、容器内に貯留または滞留する水に含まれる塩化物イオンのモル濃度に対して、硝酸イオンのモル濃度を1倍以上にする金属容器の保管方法。
  9. 前記容器内に貯留または滞留する水に対して硝酸塩を添加して、前記容器内に貯留または滞留する水の硝酸イオンのモル濃度を、塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上に調整する請求項8に記載の金属容器の保管方法。
  10. 塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上のモル濃度の硝酸イオンが共存する調整液を、金属容器内に通水し、前記容器内に貯留または滞留する水の硝酸イオンのモル濃度を、塩化物イオンのモル濃度に対して1倍以上に調整する工程を有する請求項8又は9のいずれかに記載の金属容器の保管方法。
  11. 前記金属容器が、放射性核種吸着材が充填された吸着塔である請求項8から10のいずれか一項に記載の金属容器の保管方法。
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