JP6791192B2 - 高Mn鋼およびその製造方法 - Google Patents
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ここで、前記「低温靭性に優れた」とは、−196℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE−196がハーフサイズのシャルピー試験片で30J以上であることをいう。
まず、高Mn鋼は、極低温においても脆性破壊とならずに、破壊が生じる場合は結晶粒界から発生する。すなわち、結晶粒界の形状が靱性に大きく影響を与えることが判明した。特に、粒界には炭化物等が形成され、この炭化物の形成量、分布および粒界の形態が靱性に大きな影響を与えることが分かった。また、組織中に形成される微細結晶域の形態が靱性に影響を与えることも分かった。
1.質量%で、
C:0.10〜0.70%、
Si:0.05〜1.0%、
Mn:15〜30%、
P:0.030%以下、
S:0.0070%以下、
Al:0.01〜0.07%、
Cr:2.5〜7.0%、
N:0.0050〜0.0500%および
O:0.0050%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成を有し、かつ、オーステナイトを基地相とし、面積率で50%以上80%以下の微細結晶域が残存するミクロ組織を有し、該ミクロ組織はCr炭化物量が0.04%以下である高Mn鋼。
Mo:2.0%以下、
V:2.0%以下、
W:2.0%以下、
REM:0.0010〜0.0200%および
B:0.0005〜0.0020%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記1に記載の高Mn鋼。
[成分組成]
まず、本発明の高Mn鋼の成分組成とその限定理由について説明する。なお、成分組成における「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.10〜0.70%
Cは、安価なオーステナイト安定化元素であり、オーステナイトを得るために重要な元素である。その効果を得るために、Cは0.10%以上の含有を必要とする。一方、0.70%を超えて含有すると、Cr炭化物が過度に生成され、低温靱性が低下する。このため、Cは0.10〜0.70%とする。好ましくは、0.20%以上0.60%以下とする。
Siは、脱酸剤として作用し、製鋼上必要であるだけでなく、鋼に固溶して固溶強化により鋼板を高強度化する効果を有する。このような効果を得るために、Siは0.05%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超えて含有すると、溶接性が劣化する。このため、Siは0.05〜1.0%とする。好ましくは、0.07%以上0.5%以下とする。
Mnは、比較的安価なオーステナイト安定化元素である。本発明では、強度と極低温靱性を両立するために重要な元素である。その効果を得るために、Mnは15%以上の含有を必要とする。一方、30%を超えて含有しても、極低温靱性を改善する効果が飽和し、合金コストの上昇を招く。また、溶接性、切断性が劣化する。さらに、偏析を助長し、応力腐食割れの発生を助長する。このため、Mnは15〜30%とする。好ましくは、18%以上28%以下とする。
Pは、0.030%を超えて含有すると、粒界に偏析し、応力腐食割れの発生起点となる。このため、0.030%を上限とし、可能なかぎり低減することが望ましい。したがって、Pは0.030%以下とする。好ましくは、0.028%以下、さらに好ましくは0.24%以下とする。勿論、0%であってもよい。なお、Pを0.002%未満に低減するには、精錬に多大のコストが必要となることから、経済性の観点からは0.002%以上であることが好ましい。
Sは、母材の低温靭性や延性を劣化させるため、0.0070%を上限とし、可能なかぎり低減することが望ましい。したがって、Sは0.0070%以下とする。好ましくは0.0050%以下とする。勿論、0%であってもよい。なお、Sを0.0005%未満に低減するには、精錬に多大のコストが必要となることから、経済性の観点からは0.0005%以上であることが好ましい。
Alは、脱酸剤として作用し、鋼板の溶鋼脱酸プロセスに於いて、もっとも汎用的に使われる。このような効果を得るためには、Alは0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.07%を超えて含有すると、溶接時に溶接金属部に混入して、溶接金属の靭性を劣化させるため、0.07%以下とする。好ましくは、0.02%以上0.06%以下である。
Crは、適量の添加でオーステナイトを安定化させ、極低温靱性および母材強度の向上に有効な元素である。また、後述の微細結晶域を形成させるために効果的な元素である。このような効果を得るためには、Crを2.5%以上で含有する必要がある。一方、7.0%を超えて含有すると、Cr炭化物の生成により、低温靭性および耐応力腐食割れ性が低下する。このため、Crは2.5〜7.0%とする。好ましくは3.5%以上6.5%以下とする。
Nは、オーステナイト安定化元素であり、極低温靱性向上に有効な元素である。このような効果を得るためには、Nは0.0050%以上の含有を必要とする。一方、0.0500%を超えて含有すると、窒化物または炭窒化物が粗大化し、靭性が低下する。このため、Nは0.0050〜0.0500%とする。好ましくは0.0060%以上0.0400%以下とする。
Oは、酸化物の形成により極低温靱性を劣化させる。このため、Oは0.0050%の範囲とする。好ましくは、0.0045%以下である。勿論、0%であってもよい。なお、Oを0.0005%未満に低減するには、精錬に多大のコストが必要となることから、経済性の観点からは0.0005%以上であることが好ましい。
Mo:2.0%以下、V:2.0%以下、W:2.0%以下、REM:0.0010〜0.0200%、B:0.0005〜0.0020の1種または2種以上を添加することができる。
Mo、VおよびWは、オーステナイトの安定化に寄与するとともに母材強度の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Mo、VおよびWは0.001%以上で含有することが好ましい。一方、2.0%を超えて含有すると、粗大な炭窒化物が生成し、破壊の起点となることがある他、製造コストを圧迫する。このため、これらの合金元素を含有する場合は、その含有量は2.0%以下とする。好ましくは0.003%以上1.7%以下、より好ましくは1.5%以下とする。
REMは、介在物の形態制御に有用な元素であり、必要に応じて含有できる。介在物の形態制御とは、展伸した硫化物系介在物を粒状の介在物とすることをいう。この介在物の形態制御を介して、延性、靭性および耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる。このような効果を得るためには、REMは0.0010%以上含有することが好ましい。一方、過剰に含有させると、非金属介在物量が増加し、かえって延性、靭性、耐硫化物応力腐食割れ性が低下する場合がある。したがって、REM量は0.0015%以上0.0200%以下とすることが好ましい。
Bは、粒界に偏析し、材料の粒界強度による靱性向上に寄与する。ただし、過剰に添加されると粗大な窒化物や炭化物を形成するために、添加量は、0.0005%以上0.0020%以下とすることが好ましい。
[オーステナイトを基地相とするミクロ組織]
鋼材の結晶構造が体心立方構造(bcc)である場合、該鋼材は低温環境下で脆性破壊を起こす可能性があるため、低温環境下での使用には適していない。ここに、低温環境下での使用を想定したとき、鋼材の組織における基地相は、結晶構造が面心立方構造(fcc)であるオーステナイトであることが必須となる。なお、「オーステナイトを基地相とする」とは、オーステナイト相が面積率で90%以上であることを示し、100%であってもよい。一方、オーステナイト相以外の残部は、BCC構造のフェライトまたはマルテンサイト相や、介在物や析出物にて構成されることになるが、これらの比率は5%以下であることが好ましい。なお、オーステナイト分率については、EBSDによる観察やXRDによる解析および透磁率等によって決定することが出来る。
本発明は、熱間圧延およびその後の冷却過程において、ミクロ組織制御、とりわけオーステナイト組織の制御を行うことにより、低温靱性の向上を実現するものである。そのためには、ミクロ組織の形態を制御することが重要である。特に、熱間圧延中や熱間圧延後およびその後の冷却過程において、熱間圧延中に変形した結晶粒が一部回復そして再結晶を伴いながら微細化し、引き続いて行われる圧延により歪が導入された領域、すなわち微細結晶域を適正に存在させることによって、破面の起点の減少と破面進展の抑制とをはかり、靱性を向上させることが肝要である。以下に、上記した各領域の形態について詳述する。
微細結晶域は、熱間圧延により歪が導入され結晶粒が微細化した領域であり、その後の冷却過程により一部回復や再結晶を生じているために内部に歪を含む領域である。この領域の認識の仕方については後述するが、該微細結晶域を含むように組織制御を行う。
微細結晶域は、材料の強度−靱性バランスおよびCr炭化物の形成サイトとしても、その面積率を制御することは非常に重要になる。熱間圧延での歪導入により、その後の冷却過程での回復および再結晶が遅延している領域であり、内部に転位等を多く持った微細粒として形成されている。この領域の大きさとしては、50%以上の分率が必要である。この面積率が低くなると、ポリゴナルな粒(ポリゴナル領域)が増加し材料の強度が上昇するとともに、ポリゴナルな粒(ポリゴナル領域)に炭化物が形成されるため強度−靱性バランスが低減する。なお、この領域の面積が高くなると、材料の強度が上昇しすぎて靱性の低減をまねく虞があるため、80%以下とする。
上記した各領域については、SEM観察用試料の調整方法を最適化することで認識が可能である。具体的には、コロイダルシリカで鏡面研磨を行った後に、イオンミリングにより表層にイオンエッチングを行えば、微細結晶域の表層に微細な凹凸が形成されるため、5kV以下の低加速SEMによるインレンズ組織観察および反射電子像観察にて識別が可能となる。また、電解研磨を用いる鏡面研磨を行うことによっても、微細結晶域を識別することが可能である。このように、基地相(母相)にコントラスト差が発生する要因については、硬さや歪の違いや微量の元素分配等が考えられるが、詳細については不明である。解析は、上記に従って認識できた領域を画像処理により二値化し、面積率として定義する。
本発明は、Cr添加を前提としているため、熱間圧延後の冷却中にCr炭化物が形成される。このCr炭化物は粒界に優先して析出し、この析出物が材料の靱性を低下させる原因になるため、Crの析出を抑制し、Cr炭化物量を質量%で0.04%以下とする必要がある。ここで、Crの析出については、Cr含有量、仕上圧延の圧下率および熱間圧延後の冷却速度を調整することにより、Crの拡散形態を制御し、その量を抑制することができる。特に、再結晶を抑制することによって、Crの拡散は抑制されCrの炭化物量は減少される。また、Crは、微細結晶域に析出した場合の方が靱性への悪影響が少ないため、以下の圧延条件にて微細結晶域の形態調整を実施し、Crの析出量の調整を行う。なお、Crの析出量は、抽出残渣によって評価することができる。
[鋼素材加熱温度:1100℃以上1300℃以下]
鋼材のミクロ組織の結晶粒径を粗大にするために、熱間圧延前の加熱温度は1100℃以上とする。ただし、1300℃を超えると一部溶解が始まってしまう懸念があるため、加熱温度の上限は1300℃とする。ここでの温度制御は、鋼素材の表面温度を基準とする。
仕上圧延終了温度およびその後の冷却条件は再結晶・回復遅延領域を制御する上で重要となる。まず、仕上圧延終了温度が980℃を超えると、仕上圧延中および仕上圧延後直ちに再結晶・回復が進行し、微細結晶域が少なくなりポリゴナルな結晶粒の形成が促進されて、強度低下および靱性の低下が問題となる。また、仕上圧延終了温度が890℃より低い場合には、再結晶・回復が抑制されて、再結晶によるポリゴナルな結晶粒の形成が抑制され、また、微細結晶域にも歪が多く導入されて強度が高くなり、それに伴い靱性が劣化する。
最終圧延の圧下率は、その後の冷却での再結晶過程に影響を与えるため重要である。ここで、最終圧延とは仕上圧延の最終パスおよびその前の1パスを意味する。この最終圧延での圧下率が17%より高い場合には、材料に歪が多く導入されるためその後の冷却過程で歪誘起の再結晶が進行し、ポリゴナルな領域が増加する。また、圧下率が13%より低い場合には、下地の歪組織の再結晶は遅延して微細結晶域は残存するが、その内部の歪量が少なくなるために、材料の強度が低くなる。このため、適切は圧延条件としては、上記のように、仕上圧延終了温度を890℃以上980℃以下の範囲とし、該仕上圧延の最終圧延の圧下率を13%以上17%以下とする。
再結晶・回復によるポリゴナルな結晶粒の形成と微細結晶域の形成とを両立させるためには、圧延終了温度から回復・再結晶の進行が顕著である650℃までの冷却を制御することは非常に重要である。このとき、冷却速度が速すぎると圧延後の組織が凍結されて、十分なポリゴナル粒の形成が生じずに靱性が劣化するため、冷却速度の上限を3℃/sとする。特に、薄物の場合には、前述のように板反りが発生して工程上の問題になるため、1.5℃/s以下の速度で冷却することが好ましい。なお、650℃未満の温度域での冷却は、基地相(母相)の再結晶・回復に影響を与えないため、冷却速度の規制は仕上げ圧延終了温度から650℃までの温度域とした。一方、650℃未満の温度域での冷却は、下記のように任意で行ってよい。
また、冷却速度の下限については特に設定しないが、保温炉等を用いると炉のコストやプロセスコストおよび、製造時間上不利であるため、空冷の範囲内であればよい。
本発明は、粒界に炭化物が形成されるような状況においても、上記ポリゴナル領域と微細結晶域との組合せにより低温での靱性の向上を実現するものである。このため、650℃未満の冷却については、特に規定はしない。ただし、炭化物抑制は、靱性にとって効果的であり、しかも650℃未満の温度域からは上述の板反りの影響は低減されるために、炭化物形成を抑制する観点から10℃/s以上の急冷を行うことが望ましい。
ない。
(1)鋼板
真空溶解により、表2に示す成分組成になる鋼スラブを作製した。次いで、得られた鋼スラブを加熱炉に装入して1250℃に加熱後、仕上圧延終了温度を種々に変化させて熱間圧延を施し、該仕上圧延終了温度から650℃までの温度域での冷却速度を種々に変化させて冷却処理を行って、5〜10mm厚の鋼板を作製した。ここで、熱間圧延においては、鋼板の厚み中心部に熱電対を設置し、鋼板の温度をモニターリングし仕上圧延終了温度を測定した。この仕上圧延終了温度および仕上圧延終了温度から650℃までの温度域での冷却速度を、表3に示す。
(2)引張試験特性
得られた各鋼板より、JIS5号引張試験片を採取し、JIS Z2241(1998年)の規定に準拠して引張試験を実施し、引張試験特性を調査した。本発明では、降伏強度400MPa以上および引張強度800MPa以上を引張特性に優れるものと判定した。さらに、伸び30%以上を延性に優れるものと判定した。
鋼板の表面から板厚の1/2の位置において、圧延方向と垂直な方向から、JIS Z2202(1998年)の規定に準拠して、ハーフサイズ(5mm)のシャルピーVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242(1998年)の規定に準拠して各鋼板について3本のシャルピー衝撃試験を実施し、−196℃での吸収エネルギーを求め、母材靭性を評価した。ここでは、3本の吸収エネルギー(vE−196)の平均値が30J以上を母材靭性に優れるものとした。
組織解析については、電解放出銃およびインレンズ型検出器をもつ走査電子顕微鏡(FE-SEM)で組織観察を行った。すなわち、鋼板を樹脂埋め込みして作製した、サンプルについて、ダイヤモンド研磨およびコロイダルシリカにより鏡面研磨を行った後、Arイオンビームで表面のスパッタリングを実施した。組織観察は、加速電圧5kVで行い、微細結晶域の形態を評価し、その面積率を計算した。観察領域は、鋼板の表面から板厚の1/4の位置から1箇所あたり500×500μmの領域とし、この観察を10箇所で行って平均値とした。
Cr炭化物量については、10%アセチルアセトン溶液にて析出物を電解抽出した後、抽出された析出物量をICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析により測定し、測定した電解量を質量%に換算した。
以上により得られた評価および観察の結果を、表4に示す。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.10〜0.70%、
Si:0.05〜1.0%、
Mn:15〜30%、
P:0.030%以下、
S:0.0070%以下、
Al:0.01〜0.07%、
Cr:2.5〜7.0%、
N:0.0050〜0.0500%および
O:0.0050%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成を有し、かつ、オーステナイトを基地相とし、面積率で50%以上80%以下の個々の結晶粒の大きさが最大で10μm以下である微細結晶域が残存するミクロ組織を有し、該ミクロ組織はCr炭化物量が0.04%以下であって、降伏強度:400MPa以上、引張強度:800MPa以上、伸び:30%以上、−196℃での吸収エネルギーの平均値が30J以上である高Mn鋼。 - 前記成分組成は、さらに質量%で、
Mo:2.0%以下、
V:2.0%以下、
W:2.0%以下、
REM:0.0010〜0.0200%および
B:0.0005〜0.0020%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1に記載の高Mn鋼。 - 請求項1または2に記載の高Mn鋼を製造する方法であって、請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼素材を、1100℃以上1300℃以下の温度域に加熱し、仕上げ圧延終了温度が890℃以上980℃以下、かつ最終圧下率が13%以上17%以下となる熱間圧延を施し、該仕上圧延終了温度から650℃までの温度域における平均冷却速度が3℃/s以下の冷却処理を行う高Mn鋼の製造方法。
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