以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
図1は、本実施の形態による排気処理装置の全体構成の一例を模式的に示す図である。この排気処理装置は、エンジン10の排気を浄化する装置であって、酸化触媒13と、フィルタ14と、燃料添加弁30と、PMセンサ80と、電子制御装置(Electronic Control Unit、以下「ECU」という)100とを含む。
エンジン10は、一般的なディーゼルエンジンである。なお、エンジン10はガソリンエンジンであってもよい。エンジン10には、エンジン回転速度センサ50が設けられている。エンジン回転速度センサ50は、エンジン10の回転速度(以下「エンジン回転速度Ne」という)を検出し、検出結果をECU100に出力する。
エンジン10の各気筒には、燃料噴射弁20が設けられる。各燃料噴射弁20には、図示しない燃料ポンプによって燃料タンクからの燃料が供給されている。各燃料噴射弁20は、ECU100からの制御信号によって作動(開弁)し、各気筒に燃料を噴射する。
エンジン10には、吸気通路11と排気通路12とが接続されている。吸気通路11には、エアフローメータ40が設けられる。エアフローメータ40は、吸気通路11を流通する吸気流量Gaを検出し、検出結果をECU100へ出力する。
排気通路12には、排気中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を酸化して浄化する酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)13が設けられている。また、排気通路12における酸化触媒13よりも下流の部分には、排気中のPMを捕集するフィルタ14が設けられている。フィルタ14は、多孔質のセラミック構造体で構成されており、排気中のPMはこの多孔質の壁を通過する際に捕集される。
排気通路12における酸化触媒13よりも上流の部分には、燃料添加弁30が設けられる。燃料添加弁30は、図示しない燃料ポンプによって燃料タンクからの燃料が供給されている。燃料添加弁30は、ECU100からの制御信号によって作動(開弁)し、排気通路12における酸化触媒13よりも上流の部分に燃料を噴射する。
さらに、排気通路12には、3つの温度センサ60,61,62が設けられる。温度センサ60は、酸化触媒13の入口付近を流れる排気の温度Taを検出し、検出結果をECU100に出力する。温度センサ61は、フィルタ14の入口付近を流れる排気の温度Tbを検出し、検出結果をECU100に出力する。温度センサ62は、フィルタ14の出口付近を流れる排気の温度Tcを検出し、検出結果をECU100に出力する。
PMセンサ80は、排気通路12におけるフィルタ14よりも下流の部分に設けられる。PMセンサ80の構造については後述する。
ECU100は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、およびメモリ101を内蔵する。ECU100は、メモリ101に記憶された情報および各種センサからの情報などに基づいて、エンジン10に係る各種制御を実行する。
上記のように構成されるエンジン10においては、排気中に含まれるPMはフィルタ14によって捕集され、外部への放出が抑制される。しかしながら、フィルタ14の基材にクラック(割れ)あるいは溶損が生じると、PM捕集機能が低下し、十分なPM捕集が行なえない異常状態に陥る場合がある。
そこで、ECU100は、フィルタ14の下流側に配置されたPMセンサ80の出力を利用して、フィルタ14の異常の有無を判定する処理(以下「フィルタ異常判定処理」ともいう)を行なう。フィルタ異常判定処理について説明するにあたり、先ず、PMセンサ80の構造について説明する。
図2は、PMセンサ80の概略構成およびPMセンサ80の排気通路12への設置状態を示す図である。
PMセンサ80は、排気中のPMが付着して堆積するセンサ素子81と、該センサ素子81を覆う内カバー82と、該内カバー82を覆う外カバー83とを有する。内カバー82と外カバー83との間には、両カバーの長手方向(センサ素子81の長手方向)に沿って、排気が流れる排気流路80aが形成されている。この排気流路80aは、一方の端部80bが排気通路12に連通され、他方が内カバー82内に形成される排気流路80eと繋がっている。排気流路80eの排気通路12側の端部80cは、排気通路12に連通されている。
したがって、PMセンサ80においては、排気流路80aの開口部である端部80bから排気が排気流路80a内に取り込まれ、更に排気流路80eに流れ込み、排気流路80eの排気通路12側の端部80cから排気通路12へ戻される。そして、このようにPMセンサ80内に取り込まれた排気が排気流路80eを流れる際にセンサ素子81に接触するため、排気中のPMがセンサ素子81に付着、堆積していくことになる。
図3は、PMセンサ80のセンサ素子81の一部を拡大した図である。センサ素子81は、電気を通さないセラミック素子Cと、セラミック素子Cの表面に配置される一対の電極T1,T2とを有する。一対の電極T1,T2は、互いに接触しない状態で、互いに一定の間隔を開けて配置されている。
セラミック素子Cは、PMを付着させる機能を有する。図示しない電源回路等からの電圧が電極T1,T2間に印加されると、電極T1,T2間に電界が発生し、この電界によって排気中の帯電したPMが引き寄せられ、電極T1,T2間にPMが堆積していく。
また、セラミック素子Cの内部には、温度センサUおよびヒータHが埋め込まれている。温度センサUは、電極T1,T2近傍の温度をPMセンサ温度として検出し、検出結果をECU100に出力する。ヒータHは、電源回路等を介して通電可能に構成される。ヒータHは、電源回路等からの通電によって、発熱してセンサ素子81を加熱し、電極T1,T2間に堆積したPMを燃焼させて除去する。以下、ヒータHに通電して電極T1,T2間に堆積したPMを除去する処理を「PMセンサ再生処理」ともいう。
PMセンサ80は、ECU100に電気的に接続されている。そして、PMセンサ80は、電極T1,T2間の電気抵抗に応じた電流IをECU100に出力する。ECU100は、PMセンサ80が出力する電流I(以下「PMセンサ出力I」ともいう)に基づいて、排気中のPM量を検出することができる。具体的には、PMセンサ80によるPM検出は、PMセンサ再生処理を行った直後から開始される。PMセンサ再生処理直後は、電極T1,T2間にPMが堆積していないため、電極T1,T2間は絶縁されており、PMセンサ出力Iはゼロとなる。
そして、排気がPMセンサ80内に取り込まれていくことで、電極T1,T2間に徐々にPMが堆積していく。PMセンサ80の電極T1,T2間に堆積するPMの量(以下、単に「PM堆積量A」ともいう)が少ない状態では、電極T1,T2間に堆積したPMによる導通パスがまだ形成されず、したがって、電極T1,T2間はまだ絶縁された状態にあり、PMセンサ出力Iはゼロのままである。その後、電極T1,T2間にPMが更に堆積し、PM堆積量Aが一定量に達すると、堆積したPMによって電極T1,T2間に導通パスが形成される。このような導通パスが形成されると、電極T1,T2間の電気抵抗が下がり、PMセンサ出力Iが増加し始める。そして、PM堆積量Aが多くなるほど、導通パスが大きくなり、電極T1,T2間の電気抵抗が更に下がっていくため、PMセンサ出力Iはより大きくなる。
上述のフィルタ異常判定処理は、PMセンサ出力Iがしきい値Ithよりも大きいか否かに基づいて行なわれる。フィルタ異常判定処理を効果的に行なうためには、PMセンサ80に所定期間PMを取り込み、フィルタ14の異常状態をPM堆積量に反映させる必要がある。そこで、ECU100は、エンジン10から排出されフィルタ14を通った排気の一部がPMセンサ80に取り込まれ、その取り込まれた排気に含まれるPMがセンサ素子81に堆積するとの前提で、センサ素子81へのPM堆積量の推定値(以下「推定PM堆積量Ae」ともいう)を算出する。そして、推定PM堆積量Aeが、効果的な異常判定が可能となるPM堆積量として設定された「判定値Ath」に到達したタイミングで、PMセンサ出力Iに基づいたフィルタ異常判定処理を行なう。したがって、フィルタ異常判定処理を精度よく行なうためには、推定PM堆積量Aeを精度よく算出することが重要である。
ここで、単位時間あたりにPMがセンサ素子81に堆積する量(以下「PM堆積速度」ともいう)は、排気流速Vg、排気中の煤濃度Cs、および排気とPMセンサ80(センサ素子81)との温度差Dtに応じて変化する特性があることが、従来より知られている。
図4は、PM堆積速度と排気流速Vgとの対応関係の一例を模式的に示す図である。図4に示すように、排気流速Vgが大きいほど、センサ素子81に接触するPM量が多くなるため、PM堆積速度は大きくなる。
図5は、PM堆積速度と排気中の煤濃度Csとの対応関係の一例を模式的に示す図である。図5に示すように、煤濃度Csが高いほど、排気中のPM量が多いため、PM堆積速度は大きくなる。
図6は、PM堆積速度と、排気とPMセンサ80との温度差Dtとの対応関係の一例を模式的に示す図である。図6に示すように、温度差Dtが大きいほど、PMが熱泳動によって高温側の排気から低温側のセンサ素子81に吸い寄せられるため、PM堆積速度は大きくなる。
従来においては、図4〜6に示される特性を踏まえ、排気流速Vg、煤濃度Cs、および温度差Dtをパラメータとして推定PM堆積速度Veを求め、推定PM堆積速度Veを積算することで推定PM堆積量Aeを求めるのが主流であった。
しかしながら、本願の発明者等は、上述の図4〜6に示される特性は各パラメータが安定している定常状態における特性であり、各パラメータが変動する過渡状態においては、上述の図4〜6に示される特性を示さず、従来手法で算出された推定PM堆積量Aeは実際のPM堆積量Aからずれる可能性があることを実験等によって見出した。
図7は、従来手法で算出された推定PM堆積量Aeが実測されたPM堆積量Aに対してずれている量の割合を、エンジン10の複数の運転パターンP1〜P8毎に示した図である。ここで、運転パターンP1〜P4は加速が比較的多く過渡状態の多い(定常走行の少ない)運転パターンであり、運転パターンP5〜P8は加速が比較的少なく定常走行の多い(過渡状態の多い)運転パターンである。図7から明らかであるように、過渡状態を多く含む運転パターンP1〜P4では、定常状態を多く含む運転パターンP5〜P8と比べて、従来手法で算出された推定PM堆積量Aeが実測されたPM堆積量Aからかなりずれていることが理解できる。
図8は、排気流速Vgが所定値V1で安定している定常状態における、PMセンサ80内への排気の取り込み状態を模式的に示す図である。定常状態においては、排気の取り込み量が比較的安定して確保される。
図9は、排気流速Vgの増加中に一時的に所定値V1となった過渡状態(加速状態)における、PMセンサ80内への排気の取り込み状態を模式的に示す図である。過渡状態においては、排気流速Vgの変動によってPMセンサ80内への排気の取り込みが阻害され、その影響で、排気の取り込み量が定常状態に比べて少なくなる傾向にある。その結果、過渡状態においては、定常状態に比べて、センサ素子81でのPM堆積が良好に行なわれず、PM堆積速度が小さくなる。
そこで、本実施の形態によるECU100は、排気流速の変化速度ΔVgを算出し、排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthを超える場合、排気流速の変化速度ΔVgを用いて推定PM堆積速度Veを補正する「過渡補正」を行なう。これにより、過渡補正を行なわない場合に比べて、推定PM堆積速度Veが実際のPM堆積速度により近い値となる。その結果、過渡状態においても、推定PM堆積量Aeを精度よく算出することができる。
図10は、ECU100がフィルタ異常判定処理を行なう際に実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、たとえば、エンジン10の運転開始時に開始される。
まず、ECU100は、上述の「PMセンサ再生処理」を実行する(ステップS10)。これにより、PMセンサ80のセンサ素子81の電極T1,T2間に堆積しているPMが除去される。
PMセンサ再生処理が終了すると、ECU100は、推定PM堆積速度Veを算出するためのパラメータである、排気流速Vg、煤濃度Cs、および温度差Dtを算出する(ステップS11)。
たとえば、ECU100は、吸気流量Gaなどをパラメータとして排気流速Vgを算出する。また、ECU100は、エンジン回転速度Ne、燃料噴射弁20からの燃料噴射量などをパラメータとして煤濃度Csを算出する。また、ECU100は、排気の温度Ta〜Tcから推定される排気温度と、PMセンサ80内の温度センサUによって検出されたPMセンサ温度との差分を、温度差Dtとして算出する。
次いで、ECU100は、排気流速Vg、煤濃度Cs、および温度差Dtをパラメータとして推定PM堆積速度Veを算出する(ステップS12)。たとえば、ECU100は、上述の図4〜6に示した特性を考慮して作成されたマップ等を参照して、排気流速Vg、煤濃度Cs、および温度差Dtに対応する推定PM堆積速度Veを算出する。
次いで、ECU100は、排気流速の変化速度ΔVgを算出する(ステップS14)。たとえば、ECU100は、前回演算時の排気流速Vgと今回演算時の排気流速Vgとの差分から、排気流速の変化速度ΔVgを算出する。なお、排気流速の変化速度ΔVgの算出手法は、これに限定されない。たとえば、排気流速Vgはエンジン回転速度Neの変化や燃料噴射量の変化によって過渡状態となる点に鑑み、エンジン回転速度Neの変化および燃料噴射量の変化から排気流速の変化速度ΔVgを算出するようにしてもよい。
次いで、ECU100は、排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthを超えているか否かを判定する(ステップS20)。ここで、基準値Vthは、排気流速の変化速度ΔVeが大きくなることで、PMセンサ80内への排気の取り込み不良が生じ、それにより、図4に示す特性からの乖離が生じることを判定するためのしきい値である。
排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthを超えていない場合(ステップS20においてNO)、PMセンサ80内への排気取り込み不良は生じておらず、図4に示す特性からの乖離は生じていないため、ECU100は、過渡補正処理(ステップS22,S24)をスキップして、処理をS26に移行する。
一方、排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthを超えている場合(ステップS20においてYES)、PMセンサ80内への排気取り込み不良により図4に示す特性からの乖離が生じていることが想定されるため、ECU100は、ステップS12で算出した推定PM堆積速度Veを排気流速の変化速度ΔVgを用いて補正する(ステップS22,S24)。
具体的には、ECU100は、排気流速の変化速度ΔVgに基づいて、過渡補正係数Kgを算出する(ステップS22)。この過渡補正係数Kgは、排気流速の変化速度ΔVgによる影響を、ステップS12で算出した推定PM堆積量Aeに反映させるための係数である。
図11は、排気流速の変化速度ΔVgと過渡補正係数Kgとの対応関係を示す図である。排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthである場合には過渡補正係数Kgは「1.0」に設定され、排気流速の変化速度ΔVgが大きくなるほど過渡補正係数Kgは小さくなるように設定される。これは、排気流速の変化速度ΔVgが大きいほど、PMセンサ80内への排気の取り込みが阻害され、PM堆積速度が小さくなるという特性を反映したものである。たとえば、ECU100は、図11に示した対応関係を考慮して作成されたマップ等を参照して、排気流速の変化速度ΔVgに対応する過渡補正係数Kgを算出する。
図10に戻って、過渡補正係数Kgの算出後、ECU100は、過渡補正係数Kgを用いて、ステップS12で算出した推定PM堆積速度Veを補正する「過渡補正」を行なう(ステップS24)。具体的には、ECU100は、ステップS12で算出した推定PM堆積速度VeにステップS22で算出した過渡補正係数Kgを乗じた値を、過渡補正後の推定PM堆積速度Veとする。
次いで、ECU100は、ステップS22あるいはステップS26において算出された推定PM堆積速度Ve、および次式(1)を用いて、推定PM堆積量Aeを算出する(ステップS26)。
Ae(n)=Ae(n−1)+Ve・Δt …(1)
式(1)において、「Ae(n)」は今回の演算で算出される推定PM堆積量Aeであり、「Ae(n−1)」は前回の演算時に算出された推定PM堆積量Aeである。「Δt」は前回の演算時から今回の演算時までの経過時間である。
次いで、ECU100は、ステップS26において算出された推定PM堆積量Ae(n)が判定値Athに達したか否かを判定する(ステップS30)。ここで、判定値Athは、上述したように、効果的なフィルタ異常判定処理が可能となるPM堆積量として設定された値である。
推定PM堆積量Ae(n)が判定値Athに達していない場合(ステップS30においてNO)、ECU100は、処理をステップS11に戻し、推定PM堆積量Ae(n)が判定値Athに達するまでステップS11〜S30の処理を繰り返す。
推定PM堆積量Ae(n)が判定値Athに達した場合(ステップS30においてYES)、ECU100は、上述のフィルタ異常判定処理を行なう(ステップS40〜S44)。
具体的には、ECU100は、PMセンサ出力Iがしきい値Ithよりも大きいか否かを判定する(ステップS40)。PMセンサ出力Iがしきい値Ithよりも大きい場合(ステップS40においてYES)、ECU100は、フィルタ14が異常であると判定する(ステップS42)。PMセンサ出力Iがしきい値Ithよりも小さい場合(ステップS40においてNO)、ECU100は、フィルタ14が正常であると判定する(ステップS44)。
なお、ステップS40において、推定PM堆積量Ae(n)が判定値Athに達したタイミングよりもPMセンサ出力Iがしきい値Ithよりも大きくなったタイミングのほうが早いか否かを判定するようにしてもよい。この場合、ECU100は、推定PM堆積量Ae(n)が判定値Athに達したタイミングよりもPMセンサ出力Iがしきい値Ithよりも大きくなったタイミングが早い場合にフィルタ14が異常であると判定し、そうでない場合にフィルタ14が正常であると判定することができる。
図12は、急加速が少ない運転パターンにおけるエンジン回転速度Ne、排気流速Vg、推定PM堆積速度Ve、推定PM堆積量Ae、およびPMセンサ出力Iの変化の一例を示す図である。急加速が少ない場合には、排気流速Vgは急激には変化せず、排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthを超え難い。そのため、推定PM堆積速度Veの過渡補正はほとんど行なわれず、推定PM堆積速度Veは従来どおり定常状態の特性を用いて算出される値となる。
なお、図12に示す例では、時刻t1において推定PM堆積量Aeが判定値Athに達し、このタイミングでPMセンサ出力Iがしきい値Ithよりも大きいため、フィルタ14が異常であると判定される。
図13は、急加速が多い運転パターンにおける、エンジン回転速度Ne、排気流速Vg、推定PM堆積速度Ve、推定PM堆積量Ae、およびPMセンサ出力Iの変化の一例を示す図である。急加速が多い場合には、排気流速Vgが急激に変化し、この影響でPMセンサ80内部への排気の取り込みが好適に行なわれず、実際のPM堆積速度は低下する。
それにも関わらず、推定PM堆積速度Veが従来のように定常状態の特性のみを用いて算出される(一点鎖線)と、推定PM堆積速度Veが実際のPM堆積速度よりも大きくなってしまう。その結果、推定PM堆積量Aeが早期に判定値Athに達してしまい、フィルタ異常判定処理が適切なタイミングよりも早い時刻t11で実行されてしまう。すなわち、時刻t11においては、センサ素子81でのPM堆積が十分に行なわれない状況である。そのため、仮に時刻t11でフィルタ異常判定処理が行なわれると、実際にはフィルタ14が異常であるにも関わらず、誤って正常であると判定されることが懸念される。
これに対し、本実施の形態によるECU100は、排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthを超える毎に、排気流速の変化速度ΔVgを用いた推定PM堆積量Aeの過渡補正を行なう。その結果、推定PM堆積量Aeの過渡補正を行なわない従来値(一点鎖線)に比べて、推定PM堆積量Aeが実際のPM堆積速度に近い値となる。その結果、推定PM堆積量Aeが緩やかに増加することになり、実際のPM堆積量により近い値となる。これにより、上述のような誤判定を回避することができる。
なお、図13に示す例では、過渡補正後の推定PM堆積量Ae(実線)が時刻t12にて判定値Athに達し、このタイミングでPMセンサ出力Iがしきい値Ithよりも大きいため、フィルタ14が異常であると判定される。
以上のように、本実施の形態によるECU100は、排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthを超える過渡状態である場合、排気流速の変化速度ΔVgを用いて、推定PM堆積量Aeの算出に用いられる推定PM堆積速度Veを補正する「過渡補正」を行なう。これにより、過渡補正後の推定PM堆積速度Veは、過渡補正を行なわない場合に比べて、実際のPM堆積速度により近い値となる。そして、ECU100は、過渡補正後の推定PM堆積速度Veを用いて推定PM堆積量Aeを算出する。その結果、過渡状態であっても、推定PM堆積量Aeを精度よく算出することができる。
<変形例1>
上述の実施の形態においては、排気流速の変化速度ΔVgが大きいほど過渡補正係数Kgを小さくする例を示した(図11参照)。これは、上述の実施の形態におけるPMセンサ80が排気流速の変化速度ΔVgが大きいほどPM堆積速度が小さくなるという特性を有することに鑑み、この特性を過渡補正係数Kgに反映させたものである。
しかしながら、PMセンサ80の内カバー82および外カバー83の形状、センサ素子81の配置等によっては、排気流速の変化速度ΔVgが大きいほど、PM堆積速度が大きくなるという特性になることも考えられる。このような場合には、その特性に合わせて、排気流速の変化速度ΔVgが大きいほど過渡補正係数Kgを大きくするように設定すればよい。
図14は、本変形例1における、排気流速の変化速度ΔVgと過渡補正係数Kgとの対応関係を示す図である。この例では、排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthである場合に過渡補正係数Kgは「1.0」に設定され、排気流速の変化速度ΔVgが大きくなるほど過渡補正係数Kgは大きくなるように設定される。
<変形例2>
上述の実施の形態においては、排気流速の変化速度ΔVgが基準値Vthを超える場合に、排気流速の変化速度ΔVgに応じた過渡補正係数Kgを算出し、過渡補正係数Kgを用いて推定PM堆積速度Veを補正する例を示した。しかしながら、推定PM堆積速度Veを補正するパラメータは、排気流速の変化速度ΔVgに限定されない。
たとえば、推定PM堆積速度Veを補正するパラメータを、排気流速の変化速度ΔVgに代えて、排気中の煤濃度の変化速度ΔCsとしてもよい。すなわち、煤濃度の変化速度ΔCsが基準値Cthを超える場合に、煤濃度の変化速度ΔCsに応じた過渡補正係数Kcを算出し、過渡補正係数Kcを用いて推定PM堆積速度Veを補正するようにしてもよい。
図15は、煤濃度の変化速度ΔCsと過渡補正係数Kcとの対応関係の一例を示す図である。この例では、煤濃度の変化速度ΔCsが基準値Cthである場合に過渡補正係数Kcが「1.0」に設定され、煤濃度の変化速度ΔCsが大きくなるほど過渡補正係数Kcは小さい値に設定される。
また、推定PM堆積速度Veを補正するパラメータを、排気流速の変化速度ΔVgに代えて、排気とPMセンサ80(センサ素子81)との温度差の変化速度ΔDtとしてもよい。すなわち、温度差の変化速度ΔDtが基準値Dthを超える場合に、温度差の変化速度ΔDtに応じた過渡補正係数Ktを算出し、過渡補正係数Ktを用いて推定PM堆積速度Veを補正するようにしてもよい。
図16は、温度差の変化速度ΔDtと過渡補正係数Ktとの対応関係の一例を示す図である。この例では、温度差の変化速度ΔDtが基準値Dthである場合に過渡補正係数Ktは「1.0」に設定され、温度差の変化速度ΔDtが大きくなるほど過渡補正係数Ktは小さい値に設定される。
また、推定PM堆積速度Veを補正するパラメータを、排気流速の変化速度ΔVgに代えて、排気中の煤濃度の変化速度ΔCsおよび温度差の変化速度ΔDtとしてもよい。
<変形例3>
また、排気流速の変化速度ΔVgに応じた過渡補正係数Kg(図11あるいは図14参照)、煤濃度の変化速度ΔCsに応じた過渡補正係数Kc(図15参照)、温度差の変化速度ΔDtに応じた過渡補正係数Kt(図16参照)を算出し、これらの3つの過渡補正係数のうちの最小値あるいは最大値を用いて、推定PM堆積速度Veを補正するようにしてもよい。
図17は、本変形例によるECU100がフィルタ異常判定処理を行なう際に実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、上述の図10のフローチャートのステップS20〜S26を、ステップS50〜S52に変更したものである。その他のステップ(上述の図10に示したステップと同じ番号を付しているステップ)については、既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
ステップS12において推定PM堆積速度Veを算出した後、ECU100は、排気流速の変化速度ΔVg、煤濃度の変化速度ΔCs、温度差の変化速度ΔDtを算出する(ステップS50)。
次いで、ECU100は、排気流速の変化速度ΔVg、煤濃度の変化速度ΔCs、温度差の変化速度ΔDtに基づいて、それぞれ過渡補正係数Kg,Kc,Ktを算出する(ステップS51)。ECU100は、上述の図11(あるいは図14)、図15、図16に示す対応関係から、それぞれ過渡補正係数Kg,Kc,Ktを算出する。
次いで、ECU100は、過渡補正係数Kg,Kc,Ktのうちの最大値max(Kg,Kc,Kt)を用いて、ステップS12で算出した推定PM堆積速度Veを補正する「過渡補正」を行なう(ステップS52)。具体的には、ECU100は、ステップS12で算出した推定PM堆積速度Veに、過渡補正係数Kg,Kc,Ktのうちの最大値max(Kg,Kc,Kt)を乗じた値を、補正後の推定PM堆積速度Veとする。
なお、過渡補正係数Kg,Kc,Ktのうちの最小値を用いて、推定PM堆積速度Veを補正するようにしてもよい。
<変形例4>
また、排気中の煤濃度の変化速度ΔCsおよび温度差の変化速度ΔDtを用いて、推定PM堆積量Aeの算出に用いられる推定PM堆積速度Veではなく、推定PM堆積量Aeを直接的に補正するようにしてもよい。
たとえば、ECU100は、排気中の煤濃度の変化速度ΔCsおよび温度差の変化速度ΔDtの少なくとも一方のパラメータがそれぞれに対応する基準値を超えたか否かを判定し、少なくとも一方のパラメータが対応する基準値を超えた場合、基準値を超えたパラメータを用いて推定PM堆積量Aeを直接的に補正するようにしてもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。