以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
実施形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、加工対象物にレーザ光を集光することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成する。そこで、まず、改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示されるように、レーザ加工装置100は、加工用レーザ光であるレーザ光Lをパルス発振する加工用レーザ光源であるレーザ光源101と、レーザ光Lを導光する光学系103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力(パルスエネルギ,光強度)やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
レーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、光学系103で導かれ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成される。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
加工対象物1としては、半導体材料で形成された半導体基板や圧電材料で形成された圧電基板等を含む板状の部材(例えば、基板、ウェハ等)が用いられる。図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示されるように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4、図5及び図6に示されるように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面であってもよい。
ちなみに、加工対象物1の内部に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に、加工対象物1の内部に位置する集光点P近傍にて特に吸収される。これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される。この場合、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lのエネルギー密度が低いので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一方、加工対象物1の表面3又は裏面に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、表面3又は裏面に位置する集光点P近傍にて特に吸収され、表面3又は裏面から溶融され除去されて、穴や溝等の除去部が形成される。
改質領域7は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域7としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくとも何れか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域7としては、加工対象物1の材料において改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある。加工対象物1の材料が単結晶シリコンである場合、改質領域7は、高転位密度領域ともいえる。
溶融処理領域、屈折率変化領域、改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、及び、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域7と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域7の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1は、結晶構造を有する結晶材料からなる基板を含む。例えば加工対象物1は、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、LiTaO3、及び、サファイア(Al2O3)の少なくとも何れかで形成された基板を含む。換言すると、加工対象物1は、例えば、窒化ガリウム基板、シリコン基板、SiC基板、LiTaO3基板、又はサファイア基板を含む。結晶材料は、異方性結晶及び等方性結晶の何れであってもよい。また、加工対象物1は、非結晶構造(非晶質構造)を有する非結晶材料からなる基板を含んでいてもよく、例えばガラス基板を含んでいてもよい。
実施形態では、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することにより、改質領域7を形成することができる。この場合、複数の改質スポットが集まることによって改質領域7となる。改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物1の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することができる。また、実施形態では、切断予定ライン5に沿って、改質スポットを改質領域7として形成することができる。
次に、実施形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法について説明する。以下では、加工対象物1の裏面21をレーザ光入射面とする場合を例示する。加工対象物1の厚さ方向をZ方向として説明する。
図7に示されるように、レーザ加工装置300は、レーザ光源202、反射型空間光変調器203、4f光学系241、及び集光光学系204を筐体231内に備えている。レーザ加工装置300は、加工対象物1にレーザ光Lを集光することにより、切断予定ライン5に沿って加工対象物1に改質領域7を形成する。
レーザ光源202は、レーザ光Lを出射するものである。レーザ光源202は、1μs以下のパルス幅を有するレーザ光であるパルスレーザ光をレーザ光Lとして出射する。レーザ光源202は、レーザ発振器として超短パルスレーザ光源を含む。レーザ発振器としては、例えば固体レーザ、ファイバレーザ又は外部変調素子等で構成できる。レーザ光源202は、レーザ光Lの出力を調整する出力調整部を含んでいる。出力調整部としては、λ/2波長板ユニット及び偏光板ユニット等で構成できる。また、レーザ光源202は、レーザ光Lの径を調整しつつ平行化するビームエキスパンダを含んでいる。
レーザ光源202から出射されるレーザ光Lの波長は、500〜550nm、1000〜1150nm又は1300〜1400nmのいずれかの波長帯に含まれる。ここでのレーザ光Lの波長は、1064nmである。このようなレーザ光源202は、水平方向にレーザ光Lを出射するように、筐体231の天板236にねじ等で固定されている。
反射型空間光変調器203は、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調するものである。反射型空間光変調器203は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。反射型空間光変調器203は、水平方向から入射するレーザ光Lを変調すると共に、水平方向に対し斜め上方に反射する。
図8に示されるように、反射型空間光変調器203は、シリコン基板213、駆動回路層914、複数の画素電極214、誘電体多層膜ミラー等の反射膜215、配向膜999a、液晶層216、配向膜999b、透明導電膜217、及びガラス基板等の透明基板218がこの順に積層されることで構成されている。透明基板218は、所定平面に沿った表面218aを有している。透明基板218の表面218aは、反射型空間光変調器203の表面を構成する。透明基板218は、例えばガラス等の光透過性材料からなる。透明基板218は、反射型空間光変調器203の表面218aから入射した所定波長のレーザ光Lを、反射型空間光変調器203の内部へ透過する。透明導電膜217は、透明基板218の裏面上に形成されている。透明導電膜217は、レーザ光Lを透過する導電性材料(例えばITO)からなる。
複数の画素電極214は、透明導電膜217に沿ってシリコン基板213上にマトリックス状に配列されている。複数の画素電極214は、例えばアルミニウム等の金属材料で形成されている。複数の画素電極214の表面214aは、平坦且つ滑らかに加工されている。複数の画素電極214は、駆動回路層914に設けられたアクティブ・マトリクス回路によって駆動される。
アクティブ・マトリクス回路は、複数の画素電極214とシリコン基板213との間に設けられている。アクティブ・マトリクス回路は、反射型空間光変調器203から出力しようとする光像に応じて各画素電極214への印加電圧を制御する。例えばアクティブ・マトリクス回路は、表面218aに沿う一方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第1ドライバ回路と、当該一方向に直交し且つ表面218aに沿う他方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第2ドライバ回路と、を有している。このようなアクティブ・マトリクス回路は、制御部250(図7参照)によって双方のドライバ回路で指定された画素の画素電極214に所定電圧が印加されるように構成されている。
配向膜999a,999bは、液晶層216の両端面に配置されており、液晶分子群を一定方向に配列させる。配向膜999a,999bは、例えばポリイミド等の高分子材料で形成されている。配向膜999a,999bにおける液晶層216との接触面には、ラビング処理等が施されている。
液晶層216は、複数の画素電極214と透明導電膜217との間に配置されている。液晶層216は、各画素電極214と透明導電膜217とにより形成される電界に応じてレーザ光Lを変調する。すなわち、駆動回路層914のアクティブ・マトリクス回路によって各画素電極214に電圧が印加されると、透明導電膜217と各画素電極214との間に電界が形成され、液晶層216に形成された電界の大きさに応じて液晶分子216aの配列方向が変化する。そして、レーザ光Lが透明基板218及び透明導電膜217を透過して液晶層216に入射すると、このレーザ光Lは、液晶層216を通過する間に液晶分子216aによって変調され、反射膜215において反射した後、再び液晶層216により変調されて出射する。
このとき、制御部250(図7参照)によって各画素電極214に印加される電圧が制御され、その電圧に応じて、液晶層216において透明導電膜217と各画素電極214とに挟まれた部分の屈折率が変化する(各画素に対応した位置の液晶層216の屈折率が変化する)。この屈折率の変化により、印加した電圧に応じて、レーザ光Lの位相を液晶層216の画素ごとに変化させることができる。つまり、ホログラムパターンに応じた位相変調を画素ごとに液晶層216によって付与することができる。変調パターンに入射し透過するレーザ光Lは、その波面が調整され、レーザ光Lを構成する各光線において進行方向に直交する方向の成分の位相にずれが生じる。したがって、反射型空間光変調器203に表示させる変調パターンを適宜設定することにより、レーザ光Lが変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等が変調)可能となる。
図7に戻り、4f光学系241は、反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lの波面形状を調整する調整光学系である。4f光学系241は、第1レンズ241a及び第2レンズ241bを有している。第1レンズ241a及び第2レンズ241bは、反射型空間光変調器203と第1レンズ241aとの間の光路の距離が第1レンズ241aの第1焦点距離f1となり、集光光学系204と第2レンズ241bとの間の光路の距離が第2レンズ241bの第2焦点距離f2となり、第1レンズ241aと第2レンズ241bとの間の光路の距離が第1焦点距離f1と第2焦点距離f2との和(すなわち、f1+f2)となり、第1レンズ241a及び第2レンズ241bが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と集光光学系204との間の光路上に配置されている。4f光学系241によれば、反射型空間光変調器203で変調されたレーザ光Lが空間伝播により波面形状が変化し収差が増大するのを抑制することができる。
集光光学系204は、レーザ光源202により出射されて反射型空間光変調器203により変調されたレーザ光Lと、後述のAFユニット212により出射された測定用光LB1と、を加工対象物1に集光する。集光光学系204は、圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板233に設置されている。集光光学系204は、集光用レンズであり、複数のレンズを含んで構成されている。
以上のように構成されたレーザ加工装置300では、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lは、筐体231内にて水平方向に進行した後、ミラー205aによって下方に反射され、アッテネータ207によって光強度が調整される。その後、レーザ光Lは、ミラー205bによって水平方向に反射され、ビームホモジナイザ260によってレーザ光Lの強度分布が均一化されて反射型空間光変調器203に入射する。
反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lは、液晶層216に表示された変調パターンを透過することにより当該変調パターンに応じて変調される。その後、レーザ光Lは、ミラー206aによって上方に反射され、λ/2波長板228によって偏光方向が変更され、ミラー206bによって水平方向に反射されて4f光学系241に入射する。
4f光学系241に入射したレーザ光Lは、平行光で集光光学系204に入射するよう波面形状が調整される。具体的には、レーザ光Lは、第1レンズ241aを透過し収束され、ミラー219によって下方へ反射され、集光点Oを経て発散すると共に、第2レンズ241bを透過し、平行光となるように再び収束される。そして、レーザ光Lは、ダイクロイックミラー210,238を順次透過して集光光学系204に入射し、ステージ111上に載置された加工対象物1内に集光光学系204によって集光される。
また、レーザ加工装置300は、加工対象物1のレーザ光入射面を観察するための表面観察ユニット211と、集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整するためのAF(AutoFocus)ユニット212と、を筐体231内に備えている。
表面観察ユニット211は、可視光VL1を出射する観察用光源211aと、加工対象物1のレーザ光入射面で反射された可視光VL1の反射光VL2を受光して検出する検出器211bと、を有している。表面観察ユニット211では、観察用光源211aから出射された可視光VL1が、ミラー208、ハーフミラー209及びダイクロイックミラー210,238で反射・透過され、集光光学系204で加工対象物1に向けて集光される。加工対象物1のレーザ光入射面で反射された反射光VL2が、集光光学系204で集光されてダイクロイックミラー238,210で透過・反射された後、ハーフミラー209を透過して検出器211bにて受光される。
AFユニット212は、測定用光LB1を出射し、レーザ光入射面で反射された測定用光LB1の反射光LB2を受光し検出することで、切断予定ライン5に沿ったレーザ光入射面の変位データである誤差信号(変位に関する信号)を取得する。AFユニット212は、改質領域7を形成する際、取得した誤差信号を制御部250に出力する。制御部250は、当該誤差信号に基づいて駆動ユニット232を駆動させ、レーザ光入射面のうねりに沿うように集光光学系204をその光軸方向に往復移動させる。AFユニット212の構成及び動作について、詳しくは後述する。
レーザ加工装置300は、当該レーザ加工装置300の各部の動作を制御する制御部250を備えている。制御部250は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等によって構成されている。
制御部250は、レーザ光源202の動作を制御し、レーザ光源202からレーザ光Lを出射させる。制御部250は、レーザ光源202の動作を制御し、レーザ光源202から出射されるレーザ光Lの出力やパルス幅等を調節する。制御部250は、改質領域7を形成する際、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3又は裏面21から所定距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように、筐体231、ステージ111の位置、及び駆動ユニット232の駆動の少なくとも1つを制御する。制御部250は、上記レーザ光源制御部102及び上記ステージ制御部115の機能を有する。
制御部250は、改質領域7を形成する際、反射型空間光変調器203における各画素電極214に所定電圧を印加し、液晶層216に所定の変調パターンを表示させる。これにより、制御部250は、レーザ光Lを反射型空間光変調器203で所望に変調させる。液晶層216に表示される変調パターンは、例えば、改質領域7を形成しようとする位置、照射するレーザ光Lの波長、加工対象物1の材料、及び集光光学系204や加工対象物1の屈折率等に基づいて予め導出され、制御部250に記憶されている。変調パターンは、レーザ加工装置300に生じる個体差(例えば、液晶層216に生じる歪)を補正するための個体差補正パターン、球面収差を補正するための球面収差補正パターン等を含んでいる。
次に、AFユニット212の構成について具体的に説明する。
図9に示されるように、AFユニット212は、測定用光源30、変位検出部50、結像状態調整部70を備える。測定用光源30は、測定用光LB1を出射する。測定用光源30は、互いに異なる波長を有する複数の光の何れかを出射可能である。測定用光源30は、複数のSLD(Super Luminescent Diode)光源31,32を有する。測定用光源30では、制御部250により、複数のSLD光源31,32の中から、加工対象物1に対する反射率が高い波長の光を出射する一方が選択される。測定用光源30は、選択されたSLD光源31,32の一方から、加工対象物1に対する反射率が高い波長の光を測定用光LB1として出射する。SLD光源31は、例えば650nmの波長の光を出射する。SLD光源32は、例えば830nmの波長の光を出射する。
測定用光源30としては、SLD光源31,32に限定されず、例えばLED(Light Emitting Diode)光源を有していてもよいし、LD(Laser Diode)光源を有していてもよい。測定用光LB1の波長は、レーザ光入射面である裏面21でゼロより大きい反射率を有していればよい。測定用光源30は、複数波長の光を出射可能でなくともよく、例えばSLD光源31,32の何れか1つのみを有し、1波長の光のみを出射可能であってもよい。
測定用光源30は、複数波長のレーザ光の合成に使用するWDM(Wavelength Division Multiplexing)33とシングルモードの光ファイバ34とを介して、出射した測定用光LB1を調整光学系60へ伝送する。なお、測定用光源30が1波長の測定用光LB1のみを出射する場合には、WDM33は不要である。光ファイバ34に代えて、空間光伝送デバイスを用いてもよい。調整光学系60は、複数種のレンズを有しており、測定用光LB1が適切なビーム径となるように調整する。
変位検出部50は、加工対象物1のレーザ光入射面である裏面21で反射された測定用光LB1の反射光LB2に基づいて、裏面21の変位を検出する。変位検出部50は、第1分岐部51、第2分岐部(分岐部)52、第1及び第2非点収差付加部(非点収差付加部)53,54、第1及び第2ビーム形状検出部(ビーム形状検出部)55,56、及び誤差信号生成部57を有する。
第1分岐部51は、測定用光LB1と反射光LB2とを分岐するビームスプリッタである。第1分岐部51は、測定用光LB1及び反射光LB2の光路を、測定用光LB1の光路と反射光LB2の光路とに分ける。第1分岐部51は、測定用光LB1を透過させる一方で、反射光LB2を反射する。第1分岐部51は、測定用光LB1及び反射光LB2の光路において、結像状態調整部70と調整光学系60との間に設けられている。
第2分岐部52は、第1分岐部51で分岐した反射光LB2を、第1分岐反射光LS1と第2分岐反射光LS2とに分岐するビームスプリッタである。第2分岐部52は、反射光LB2の光路OPを、第1分岐反射光LS1の光路である第1分岐光路OP1と第2分岐反射光LS2の光路である第2分岐光路OP2とに分ける。第2分岐部52は、第2分岐反射光LS2を透過させる一方で、第1分岐反射光LS1を反射する。第2分岐部52は、反射光LB2の光路OPにおいて第1分岐部51の下流に設けられている。
第1非点収差付加部53は、第1分岐光路OP1において第2分岐部52の下流に設けられている。第1非点収差付加部53は、第2非点収差付加部54が付加する非点収差量よりも小さい第1非点収差量を、第1分岐反射光LS1に付加する。非点収差量は、非点収差の大きさを表す尺度であり、ここでは、次のように定義される。測定用光LB1と同一波長の平行ビームが非点収差付加部に入射したとき、非点収差付加部より出射したビームの光軸に垂直な面に投影したビーム幅の短軸が最小となる点が存在し、光軸に垂直な面上でその短軸の方向を非点収差付加部の特性軸とする。非点収差付加部の特性軸方向に対する焦点距離をfL1とし、特性軸に垂直な方向に対する焦点距離をfL2としたとき、fL2/fL1を非点収差量とする。第1非点収差付加部53は、凸レンズ53aとシリンドリカルレンズ53bとの組合わせにより構成されている。例えば凸レンズ53aの焦点距離は40mmであり、シリンドリカルレンズ53bの焦点距離は100mmである。
第2非点収差付加部54は、第2分岐光路OP2において第2分岐部52の下流にミラー58を介して設けられている。第2非点収差付加部54は、第1非点収差量とは異なる非点収差量を第2分岐反射光LS2に付加する。第2非点収差付加部54は、第1非点収差量よりも大きい第2非点収差量を第2分岐反射光LS2に付加する。第2非点収差付加部54は、凸レンズ54aとシリンドリカルレンズ54bとの組合わせにより構成されている。例えば凸レンズ53aの焦点距離は75mmであり、シリンドリカルレンズ53bの焦点距離は75mmである。
第1ビーム形状検出部55は、第1分岐光路OP1に設けられている。第1ビーム形状検出部55は、第1非点収差量が付加された第1分岐反射光LS1をフィルタ59aを介して受光し、当該第1分岐反射光LS1のビーム形状を検出する。第2ビーム形状検出部56は、第2分岐光路OP2に設けられている。第2ビーム形状検出部56は、第2非点収差量が付加された第2分岐反射光LS2をフィルタ59bを介して受光し、当該第2分岐反射光LS2のビーム形状を検出する。
フィルタ59aは、第1分岐反射光LS1におけるレーザ光Lの波長の光を減衰する。フィルタ59aは、レーザ光Lの波長の光が第1ビーム形状検出部55に入射することを防止する。フィルタ59bは、第2分岐反射光LS2におけるレーザ光Lの波長の光を減衰する。フィルタ59bは、レーザ光Lの波長の光が第2ビーム形状検出部56に入射することを防止する。
第1ビーム形状検出部55及び第2ビーム形状検出部56としては、4象限検知器を用いることができる。第1ビーム形状検出部55及び第2ビーム形状検出部56は、その検出結果を誤差信号生成部57へ出力する。具体的には、第1ビーム形状検出部55及び第2ビーム形状検出部56のそれぞれは、その受光面に形成されたビーム形状を分割して受光し、その各光量に応じた出力値(電圧値)を誤差信号生成部57へ出力する。なお、第1ビーム形状検出部55としては、ビーム形状を検出できれば特に限定されず、例えば2次元PD(Photo Diode)アレイであってもよい。
誤差信号生成部57は、第1ビーム形状検出部55及び第2ビーム形状検出部56からの出力を受け取り、誤差信号を生成する。具体的には、誤差信号生成部57は、制御部250により選択された第1及び第2分岐光路OP1,OP2の一方に設けられた第1及び第2ビーム形状検出部55,56の何れかの検出結果に基づいて、誤差信号を生成する。誤差信号生成部57は、制御部250により第1分岐光路OP1が選択された場合、第1ビーム形状検出部55の検出結果を用いて誤差信号を生成する。誤差信号生成部57は、制御部250により第2分岐光路OP2が選択された場合、第2ビーム形状検出部56の検出結果を用いて誤差信号を生成する。誤差信号生成部57は、生成した誤差信号を制御部250へ出力する。
ここで、誤差信号及びその取得原理について、以下に具体的に説明する。
AFユニット212は、加工対象物1のレーザ光入射面である裏面21の変位(相対変位)をThrough the Lens方式を用いて、すなわち、レーザ光Lを集光する集光光学系204を通過する測定用光LB1を用いて計測する。また、AFユニット212は、非点収差を利用して裏面21の変位を計測する。AFユニット212は、集光光学系204と裏面21との相対変位の変化により光学系の距離が変化し、光学系を通過した際の測定用光LB1の反射光LB2の像点の位置が移動することを利用する。
AFユニット212において、反射光LB2のビーム形状は、加工対象物1における後述の基準位置からの裏面21の変位により、4象限検知器等のビーム形状検出部55,56上で変化する。具体的には、裏面21で反射された反射光LB2は、当該裏面21の変位に応じて異なるビーム拡がり角を有し、そのビーム拡がり角に応じてビーム形状検出部55,56上で異なるビーム形状となる。例えば図10に示されるように、反射光LB2のビーム形状Hは、縦長楕円(図10(a)参照)と真円(図10(b)参照)と横長楕円(図10(c)参照)との間で変化する。AFユニット212では、このように変化するビーム形状を、ビーム形状検出部55,56において受光面SA,SB,SC,SDに分割して検出する。そして、AFユニット212では、ビーム形状の検出結果に基づいて下式(1)の演算により誤差信号を生成する。
誤差信号=[(IA+IC)−(IB+ID)]/[(IA+IB+IC+ID)]…(1)
但し、
IA:受光面SAにおける光量に基づいて出力された信号値、
IB:受光面SBにおける光量に基づいて出力された信号値、
IC:受光面SCにおける光量に基づいて出力された信号値、
ID:受光面SDにおける光量に基づいて出力された信号値。
図11は、誤差信号の一例を示すグラフである。図11に示されるグラフでは、横軸はレーザ光入射面の誤差信号がゼロになる位置からの変位を示し、縦軸は誤差信号の大きさを示している。変位が小さくなるほど(図中左側に行くほど)、レーザ光入射面が集光光学系204に近づく方向に位置する。変位が大きくなるほど(図中右側に行くほど)、レーザ光入射面が集光光学系204から遠ざかる方向に位置する。
図11に示されるように、誤差信号は、グラフ上でS字カーブ状に変化する。誤差信号がゼロになるときの変位は、ビーム形状がビーム形状検出部55,56上で真円になるときの変位である。誤差信号において利用可能な範囲は、ゼロ周辺の単調減少となる範囲(以下、この範囲を「測長レンジ」と称する)である。本実施形態の測長レンジは、加工対象物1の反りによるレーザ加工開始位置での裏面21の変位のばらつきから、実用性を考慮して、少なくとも±10μmである。本実施形態の測長レンジは、好ましいとして±20μm以上である。
図9に戻り、結像状態調整部70は、測定用光LB1及び反射光LB2の結像状態を移動する。結像状態調整部70は、測定用光LB1及び反射光LB2の光路において第1分岐部51とダイクロイックミラー238との間に設けられている。結像状態調整部70は、凹レンズ71及び凸レンズ72を有する。結像状態調整部70は、制御部250からの指令に基づいて、凹レンズ71及び凸レンズ72間の距離を変化させ、当該結像状態を移動する。これにより、結像状態調整部70は、オフセット量を調整する。結像状態の移動は、当該光路上のあらゆる結像位置関係の集合を別の結像位置関係の集合へ写すこと(つまり、結像位置の移動)を含む。
基準位置とは、後述の基準位置出し時(ステップS5)に設定されたレーザ光入射面の深さ位置である。具体的には、基準位置は、裏面21を表面観察ユニット211で撮像し、投影されるレチクルのコントラストが最大になる状態のときの当該裏面21の位置である。
結像状態調整部70は、加工対象物1が最大で775μmの厚さを有するシリコン基板である場合、測定用光LB1及び反射光LB2の結像状態を移動することで、0μm〜−180μmの範囲でオフセット量を可変する。
加工対象物1が厚さ775μmのシリコン基板であって加工対象物1内における裏面21から浅い位置に改質領域7を形成する場合、結像状態調整部70の収束パワーは弱くされ、オフセット量は0μmないし0μmに近い値とされ、集光光学系204と裏面21との間の距離が遠距離とされる。これに対して、加工対象物1が厚さ775μmのシリコン基板であって加工対象物1内における裏面21から深い位置に改質領域7を形成する場合、結像状態調整部70の収束パワーは強くされ、オフセット量は−180μmないし−180μmに近い値とされ、集光光学系204と表面3との間の距離が近距離とされる。
制御部250は、上位コントローラ等の上位システムからの指令に基づき、オフセット量を設定する。制御部250は、設定されたオフセット量となるように結像状態調整部70を制御する。具体的には、制御部250には、オフセット量毎に定められた凹レンズ71の位置に関するデータテーブルが、予め記憶されている。制御部250は、設定されたオフセット量になる凹レンズ71の位置をデータテーブルを参照して求め、求められた凹レンズ71の位置まで当該凹レンズ71を移動させる指令を結像状態調整部70へ出力する。
制御部250は、第1分岐光路OP1及び第2分岐光路OP2のうち、結像状態調整部70で移動する結像状態に応じた一方を選択する。具体的には、制御部250は、第1分岐光路OP1及び第2分岐光路OP2の中から、結像状態調整部70で調整するオフセット量に応じた一方を選択する。より具体的には、制御部250は、設定されたオフセット量が第1範囲にある場合には、第1分岐反射光LS1の光路である第1分岐光路OP1を選択する。設定されたオフセット量が第2範囲にある場合には、第2分岐反射光LS2の光路である第2分岐光路OP2を選択する。第2範囲は、第1範囲よりも深い範囲である。第1範囲は、0μm以下で−40μmよりも大きい範囲である。第2範囲は、−40μm以下で−180μm以上の範囲である。制御部250は、第1分岐光路OP1及び第2分岐光路OP2の選択結果に係る指示を、誤差信号生成部57へ出力する。制御部250は、誤差信号生成部57で生成された誤差信号が目標値(ここでは、ゼロ)を維持するように、駆動ユニット232を動作させる。
AFユニット212は、第1ステアリングミラー81及び第2ステアリングミラー82をさらに有する。第1及び第2ステアリングミラー81,82は、測定用光LB1及び反射光LB2の光路において、結像状態調整部70とダイクロイックミラー238との間に配置されている。第1及び第2ステアリングミラー81,82は、レーザ光Lの光軸に測定用光LB1の光軸を合わせる(コアライメントする)。第1及び第2ステアリングミラー81,82は、光軸調整機構を構成する。
次に、レーザ加工装置300において実施されるレーザ加工方法について説明する。
本実施形態のレーザ加工方法は、加工対象物1をレーザ加工して複数のチップを製造するためのチップの製造方法として用いられる。加工対象物1は、板状を呈している。加工対象物1は、例えば、サファイア基板、SiC基板、ガラス基板(強化ガラス基板)、シリコン基板、半導体基板又は透明絶縁基板等である。ここでの加工対象物1は、シリコン基板である。加工対象物1においてレーザ光入射面側である裏面21側とは反対側の表面3側には、機能素子層が形成されている。機能素子層は、マトリックス状に配列された複数の機能素子(例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、又は回路として形成された回路素子等)を含んでいる。加工対象物1の裏面21側は、加工対象物1が所望の厚さまで薄化するように研削されている。加工対象物1には、隣り合う機能素子間を通るように延びる切断予定ライン5が複数設定されている。複数の切断予定ライン5は、格子状に延在している。
本実施形態のレーザ加工方法では、まず、裏面21がレーザ光入射面となるようにステージ111の支持台107上に加工対象物1を載置する。レーザ光源202からレーザ光Lを出射させ、当該レーザ光Lを集光光学系204により加工対象物1の内部に集光させる。併せて、制御部250によりステージ111の移動等を制御し、当該レーザ光Lを切断予定ライン5に沿った加工進行方向へ相対的に移動(スキャン)させ、加工対象物1の内部に改質領域7を切断予定ライン5に沿って形成する。その後、加工対象物1の表面3又は裏面21に貼り付けられたエキスパンドテープを拡張して加工対象物1を切断し、加工対象物1を複数のチップに切断する。
ここで、加工対象物1の裏面21は、表面3に機能素子層を形成したことに起因する応力等の影響により、反りやうねりを有している。よって、レーザ光Lを集光させて改質領域7を意図した深さに安定して形成するためには、集光光学系204と裏面21との相対変位を意図した変位に保つ制御を行う必要がある。
そこで、本実施形態のレーザ加工方法では、加工対象物1にレーザ光Lを集光しながら、測定用光LB1を加工対象物1に集光する。裏面21で反射した測定用光LB1の反射光LB2を第1及び第2分岐反射光LS1,LS2へ分岐し、第1分岐光路OP1において第1非点収差量を付加した第1分岐反射光LS1のビーム形状を検出すると共に第2分岐光路OP2において第2非点収差量を付加した第2分岐反射光LS2のビーム形状を検出する。当該ビーム形状の検出結果に基づいて誤差信号を取得し、その誤差信号が目標値を維持するように駆動ユニット232により集光光学系204をZ方向に動作させる。具体的には、以下のステップを実行する。
すなわち、図12に示されるように、上位システムからの指令に基づき、制御部250により、オフセット量を設定する(ステップS1)。上位システムからの指令に基づき、制御部250により、測定用光源30のSLD光源31,32の中から、加工対象物1に対する反射率が高い波長を有する光を出射する一方を選択する(ステップS2)。
制御部250により、設定したオフセット量に基づいて、誤差信号を生成する分岐光路OP1,OP2を選択する(ステップS3)。ステップS3では、設定したオフセット量が第1範囲(−40μm<オフセット量≦0μm)にある場合には、第1非点収差量を第1分岐反射光LS1に付加する光路である第1分岐光路OP1を選択する。設定したオフセット量が第2範囲(−180μm≦オフセット量≦−40μm)にある場合には、第1非点収差量よりも大きい第2非点収差量を第2分岐反射光LS2に付加する光路である第2分岐光路OP2を選択する。
制御部250により、設定したオフセット量となるように結像状態調整部70を制御し、測定用光LB1及び反射光LB2の結像状態を移動する(ステップS4)。ステップS4では、データテーブルを参照して、設定したオフセット量に対応する凹レンズ71の位置を導出し、この位置まで凹レンズ71を移動させる。
加工対象物1を基準位置に位置させる基準位置出しを実行する(ステップS5)。ステップS5では、レーザ光入射面である裏面21を表面観察ユニット211で撮像し、投影されるレチクルのコントラストが最大になる状態の深さ位置に裏面21が位置するように、制御部250によりステージ111をZ方向に移動させる。レチクルを投影する光の波長と測定用光LB1の波長とが等しい場合、オフセット量が0μmのときに、この段階における誤差信号の大きさはゼロとなる。一方、レチクルを投影する光の波長と測定用光LB1の波長とが異なる場合、オフセット量が0μmのときに、この段階における誤差信号の大きさは、集光光学系204のレチクル投影光と測定用光LB1に対する色収差の大きさに応じた値となる。基準位置とオフセット量とは、このように関連付けられる。その後、制御部250により、設定したオフセットとなるように、ステージ111を移動させて集光光学系204に加工対象物1を接近させる(ステップS6)。
誤差信号の目標値を取得し、制御部250にメモリーする(ステップS7)。ステップS7では、測定用光源30のSLD光源31,32のうち上記ステップS2で選択した一方から測定用光LB1を出射する。測定用光LB1は、調整光学系60でビーム径が調整され、第1分岐部51を通過し、結像状態調整部70で結像状態が調整された後、第1及び第2ステアリングミラー81,82及びダイクロイックミラー238で順に反射し、集光光学系204により加工対象物1に集光され、裏面21で反射する。
裏面21で反射した反射光LB2は、集光光学系204を通り、ダイクロイックミラー238、第2及び第1ステアリングミラー82,81で順に反射し、結像状態調整部70で結像状態が調整され、第1分岐部51で反射された後、第2分岐部52で第1及び第2分岐反射光LS1,LS2に分岐される。第1分岐反射光LS1は、第1分岐光路OP1において、第1非点収差付加部53により第1非点収差量が付加された後、フィルタ59aを介して第1ビーム形状検出部55にて受光される。第2分岐反射光LS2は、第2分岐光路OP2において、第2非点収差付加部54により第2非点収差量が付加された後、フィルタ59bを介して第2ビーム形状検出部56にて受光される。誤差信号生成部57は、上記ステップS3で第1分岐光路OP1が制御部250により選択されている場合、第1ビーム形状検出部55で検出したビーム形状に応じた誤差信号を上式(1)に従い生成する。一方、上記ステップS3で第2分岐光路OP2が制御部250により選択されている場合、第2ビーム形状検出部56で検出したビーム形状に応じた誤差信号を上式(1)に従い生成する。生成した誤差信号を、目標値として制御部205にメモリーする。
続いて、レーザ加工を開始する(ステップS8)。ステップS8では、切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lをスキャンしながら、上記ステップS7と同様にして誤差信号を取得し、取得した誤差信号が目標値を維持するように駆動ユニット232により集光光学系204をZ方向に動作させる。これにより、レーザ光Lのスキャンと共に、集光光学系204と裏面21との相対変位が一定に保たれるフィードバック制御が実行され、集光光学系204が裏面21の変位に追従することとなる。その後、全ての切断予定ライン5に沿ったレーザ加工が完了したか否かを判定する(ステップS9)。ステップS9でNoの場合、レーザ加工が完了していない当該切断予定ライン5に沿って、上記ステップS1〜S9を繰り返し実施する一方、ステップS9でYesの場合、レーザ加工が終了する。
図13は、第1ビーム形状検出部55で検出したビーム形状のみに基づき生成した誤差信号を示すグラフである。図中では、オフセット量を0μmから−180μmまで10μm刻みないし20μm刻みで変更した場合の各誤差信号を示している。図13に示されるように、誤差信号の傾きは、オフセット量(つまり、結像状態調整部70で移動する結像状態)と相関を有している。また、オフセットが加工対象物1において深い位置になるほど、誤差信号の傾きは緩やかになり過ぎることがわかる。なお、誤差信号の傾きとは、取得する変位に対する誤差信号の変動である。誤差信号の傾きとは、変位に関する誤差信号の変化の割合である。誤差信号の傾きは、誤差信号が比例的に単調減少する場合に、その比例定数に対応する。誤差信号の傾きは、変位の変化に伴って誤差信号が変動するときの変動量に対応する。
ここで、誤差信号の傾きが緩やかになり過ぎる要因として、測定用光LB1の反射光LB2に付加する非点収差量とオフセット量とのミスマッチが見出される。そこで、レーザ加工装置300では、第1及び第2分岐光路OP1,OP2の一方をオフセット量に応じて選択し、選択した第1及び第2分岐光路OP1,OP2の一方で検出されたビーム形状に基づき誤差信号を生成する。これにより、誤差信号の生成に用いられる第1及び第2分岐反射光LS1,LS2の一方に付加する非点収差量を、オフセット量に応じたものとすることができる。その結果、誤差信号の傾きが緩やかになり過ぎるのを抑制することが可能となる。したがって、レーザ光入射面である裏面21の変位を精度よく検出することが可能となる。
特に、加工対象物1が所望厚さに薄化するまで裏面21が研削されていることから、裏面21には、研削痕が形成された状態(深さの極めて浅い溝が多数形成された状態)となっている。この場合、裏面21で測定用光LB1が散乱して同じ変位であっても誤差信号がばらつくおそれがあるため、誤差信号の傾きが緩やかになり過ぎると、実用性に問題が生じ得る。よって、このように裏面21に研削痕が形成されている場合には、誤差信号の傾きが緩やかになり過ぎるのを抑制するという上記作用効果は顕著である。
レーザ加工装置300では、オフセット量が第1範囲にある場合には、第1分岐光路OP1を選択し、オフセット量が第1範囲よりも深い第2範囲にある場合には、第2分岐光路OP2を選択する。この場合、オフセットが浅い場合には、小さい非点収差量が付加された第1分岐反射光LS1を誤差信号の生成に用い、オフセットが深い場合には、大きい非点収差量が付加された第2分岐反射光LS2を誤差信号の生成に用いることができる。誤差信号の傾きが緩やかになり過ぎるのを抑制することが可能となり、裏面21の変位を精度よく検出することが可能となる。
図14は、レーザ加工装置300において生成した誤差信号を示すグラフである。図中では、オフセット量を0μmから−180μmまで10μm刻みないし20μm刻みで変更した場合の各誤差信号を示している。図中の各項目(系列)名において、第1分岐光路OP1のビーム形状に基づく誤差信号である場合に「OP1」を付し、第2分岐光路OP2のビーム形状に基づく誤差信号である場合に「OP2」を付している。図14に示されるように、レーザ加工装置300によれば、誤差信号の傾きが緩やかになり過ぎるのを抑制できることが分かる。例えばレーザ加工装置300では、誤差信号は、研削痕による測定誤差が実用範囲内となる一定以上の傾きを有している。例えば誤差信号は、誤差信号がゼロになる変位において、好ましいとして0.025/μm以上の傾きの絶対値を有しており、より好ましいとして0.0275/μm以上の傾きの絶対値を有している。
なお、オフセット量が−40μmの場合には、第1分岐光路OP1のビーム形状に基づく誤差信号であっても、第2分岐光路OP2のビーム形状に基づく誤差信号であっても、その傾きは一定以上となることがわかる。よって、本実施形態では、第1範囲を0μm以下で−40μmよりも大きい範囲とし、第2範囲を−40μm以下で−180μm以上の範囲としたが、第1範囲を0μm以下で−40μm以上の範囲とし、第2範囲を−40μm未満で−180μm以上の範囲としてもよい。
図15は、第2ビーム形状検出部56で検出したビーム形状のみに基づき生成した誤差信号を示すグラフである。図中では、オフセット量を0μmから−180μmまで10μm刻みないし20μm刻みで変更した場合の各誤差信号を示している。図15に示される結果によれば、オフセットが加工対象物1において浅い位置になるほど、誤差信号の傾きは急になり過ぎ、測長レンジが不十分になることがわかる。これに対して、レーザ加工装置300では、誤差信号の傾きが急になり過ぎるのを抑制でき、且つ、測長レンジを十分に確保することが可能となる(図14参照)。
レーザ加工装置300では、制御部250によりオフセット量が設定され、設定されたオフセット量となるように結像状態調整部70が制御される。この構成によれば、設定されたオフセット量となるように測定用光LB1及び反射光LB2の結像状態を自動調整できる。
レーザ加工装置300は、Z方向に集光光学系204を動作させる駆動ユニット232を備え、誤差信号が目標値を維持するように制御部205により駆動ユニット232が動作される。この構成によれば、裏面21に追従するように集光光学系204をZ方向に移動させることができる。
レーザ加工装置300は、レーザ光Lの光軸に測定用光LB1の光軸を合わせる第1及び第2ステアリングミラー81,82を備える。この構成によれば、レーザ光Lの光軸に測定用光LB1の光軸を精度よく合わせることができる。
レーザ加工装置300では、測定用光源30は、複数の波長の光のうち加工対象物1に対する反射率が高い波長を有する光を、測定用光LB1として出射する。これにより、測定用光LB1を裏面21で反射させやすくすることが可能となる。
ちなみに、結像状態調整部70と集光光学系204との間の物理的距離を短くする、又は、この間に4fレンズ系を挿入して光学的距離を短くすることにより、誤差信号の傾きの変化を抑制することも考えられる。しかし、装置構成上の制限から当該物理的距離を短くし難く、また4fレンズ系を挿入することは装置大型化にもつながるために、実現困難となる可能性がある。特に、第1及び第2ステアリングミラー81,82を配置する場合、当該物理的距離を短くすることは困難である。この点、レーザ加工装置300では、装置構成上の制限を受けることは少なく、また、装置大型化を抑制できる。レーザ加工装置300では、第1及び第2ステアリングミラー81,82を配置することが可能である。
図16は、変形例に係るAFユニット212Bの一部を示す構成図である。図16に示されるように、AFユニット212Bの第1及び第2ビーム形状検出部55,56それぞれは、結像状態調整部70の凹レンズ71の移動に応じて、第1及び第2分岐光路OP1,OP2それぞれに沿って移動可能であってもよい。具体的には、制御部250により、オフセットが深まるように凹レンズ71が移動されるほど、第1及び第2ビーム形状検出部55,56を第1及び第2非点収差付加部53,54から近づく方向に連動させてもよい(換言すると、オフセットが深くなるに従って第1及び第2ビーム形状検出部55,56を第1及び第2非点収差付加部53,54に近づけてもよい)。
図17は、図16のAFユニット212Bによる効果を説明するためのグラフである。図17では、第1ビーム形状検出部55で検出したビーム形状に基づき生成した誤差信号を示している。図17(a)は、第1ビーム形状検出部55が固定の場合の誤差信号である。図17(b)は、AFユニット212Bで生成された誤差信号、つまり、第1ビーム形状検出部55が可動の場合の誤差信号である。図17(a)及び図17(b)に示されるように、変形例に係るAFユニット212Bでは、どのオフセット量に対しても、誤差信号のS字カーブを、横軸においてゼロを中心に均整のとれた形状とすることができる。このことは、PID制御等の応答性改善に寄与する。
AFユニット212Bでは、第1及び第2ビーム形状検出部55,56の移動に代えてもしくは加えて、第1及び第2非点収差付加部53,54の凸レンズ53a,54a及びシリンドリカルレンズ53b,54bの少なくとも何れかを同様に移動させてもよい。この場合でも、同様な効果が奏される。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
上記実施形態では、第2分岐部52により反射光LB2の光路OPを2光路(第1及び第2分岐光路OP1,OP2)に分岐したが、3光路以上に分岐してもよい。3光路以上の光路のそれぞれにおいて、互いに異なる大きさの非点収差量を付加する複数の非点収差付加部と、非点収差が付加された複数の分岐反射光それぞれのビーム形状を検出する複数のビーム形状検出部と、が設けられていればよい。この場合、複数の光路の中から、オフセットが深いほど大きい非点収差量が分岐反射光に付加されるように光路を選択し、選択した光路の当該分岐反射光のビーム形状の検出結果に基づいて誤差信号を生成してもよい。
上記実施形態では、測定用光LB1及び反射光LB2の光路において、第1分岐部51とダイクロイックミラー238との間に結像状態調整部70を配置したが、結像状態調整部70の配置は限定されない。上記実施形態の配置に代えてもしくは加えて、測定用光LB1の光路において第1分岐部51よりも上流側、及び、反射光LB2の光路OPにおいて第1分岐部51と第2分岐部52との間の少なくとも何れかに、結像状態調整部70を配置してもよい。
上記実施形態では、結像状態調整部70を凹レンズ71及び凸レンズ72により構成したが、結像状態調整部70は特に限定されず、例えば可変焦点距離レンズであってもよい。上記実施形態の光学系は、レーザ光Lを透過させ且つ測定用光LB1及び反射光LB2を反射させるダイクロイックミラー238を備えているが、これに代えて、レーザ光Lを反射させ且つ測定用光LB1及び反射光LB2を透過させるダイクロイックミラーを備えた構成であってもよい。同様に、上記実施形態の光学系は、第1分岐部51において測定用光LB1を反射させ且つ反射光LB2を透過させる構成であってもよい。同様に、上記実施形態の光学系は、第2分岐部52において第1分岐反射光LS1を透過させ且つ第2分岐反射光LS2を反射させる構成であってもよい。
上記実施形態では、上記ステップS6と上記ステップS7との間において、第1及び第2ビーム形状検出部55,56のバイアスオフセット値(ビーム形状を検出していない状態の第1及び第2ビーム形状検出部55,56の出力値)を取得して調整してもよい。上記実施形態では、オフセット量を誤差信号がゼロになる光学配置として設定したが、誤差信号がゼロになる場合に限定されず、オフセット量を誤差信号が基準値になる光学配置として設定してもよい。
上記実施形態では、上位システムからの指令に基づきオフセット量を設定したが、オペレータの操作によりオフセット量を設定してもよいし、形成する改質領域7の位置に応じて予めオフセット量が設定されていてもよい。上記実施形態では、設定されたオフセット量となるように結像状態調整部70を制御部250により制御したが、オペレータの操作により結像状態調整部70を制御してもよい。
上記実施形態は、空間光変調器として反射型空間光変調器203を備えているが、空間光変調器は反射型のものに限定されず、透過型の空間光変調器を備えていてもよい。上記実施形態では、加工対象物1の裏面21をレーザ光入射面としたが、加工対象物1の表面3をレーザ光入射面としてもよい。上記において、制御部250及び誤差信号生成部57は、信号取得部を構成する。制御部250は、オフセット量設定部、結像状態制御部及び駆動機構制御部を構成する。