以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(燃料電池システムの全体構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る高圧流体制御弁5を適用した燃料電池システム1の構成を、アノード系を中心に示している。
本実施形態に係る燃料電池システム1は、大別すると、燃料電池10と、カソードガス給排機構12と、アノードガス給排機構14と、を備える。燃料電池10は、発電装置を構成する。カソードガス給排機構12は、燃料電池10のカソード極に酸化剤を供給し、発電反応後のカソードオフガスを燃料電池10から排出する機構である。アノードガス給排機構14は、燃料電池10のアノード極に燃料を供給し、発電反応後のアノードオフガスをアノード極に再度供給するとともに、アノードオフガスの一部を必要に応じて燃料電池システム1の外部に排出する機構である。
燃料電池システム1は、さらに、図示しない負荷装置を備えるとともに、加熱/冷却機構等の燃料電池10の運転に必要な設備を適宜備える。本実施形態において、燃料電池システム1は、車両に搭載され、負荷装置は、具体的には、車両走行用の電動モータである。燃料電池10は、この燃料電池自動車の駆動源を構成し、電動モータに供給される電力のほか、車両の走行に必要な電力を発電する。
燃料電池10は、膜電極接合体を一対のセパレータにより挟持して構成される燃料電池セルを積層して構成され、カソードガス給排機構12を介して空気の供給を受けるとともに、アノードガス給排機構14を介して水素ガスの供給を受け、空気中の酸素と水素との化学反応により発電する。本実施形態では、水素が燃料であり、空気中の酸素が酸化剤である。水素ガスは、後に述べる高圧水素タンク141から供給され、空気は、大気中から図示しないコンプレッサ等を介して取り込まれる。発電により生じた電気は、車両走行用の電動モータに供給され、この電動モータの駆動に用いられる。
カソードガス給排機構12は、カソードガス供給通路121と、カソードガス排出通路122と、を備える。カソードガス供給通路121は、燃料電池10のカソード極に供給される空気が流れる通路であり、カソードガス排出通路122は、燃料電池10から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス供給通路121を介して大気中の空気が燃料電池10のカソード極に供給され、カソードガス排出通路122を介してカソードオフガスが燃料電池システム1の外部に放出される。
アノードガス給排機構14は、高圧水素タンク141と、アノードガス供給通路142と、アノードオフガス循環通路143と、を備える。高圧水素タンク141は、燃料電池10のアノード極に供給される水素ガスを高圧状態に保って貯蔵する高圧ガス容器である。アノードガス供給通路142は、燃料電池10のアノード極に供給される水素ガスが流れる通路であり、高圧水素タンク141のガス取出口と、燃料電池10のアノード極のガス流入口と、の間に接続されている。アノードガス供給通路142は、後に述べるエゼクタ145よりも上流側の第1燃料供給管142aと、エゼクタ145よりも下流側の第2燃料供給管142bと、からなる。アノードオフガス循環通路143は、燃料電池10から排出されたアノードオフガスをアノード極に再度供給するための通路であり、燃料電池10のアノード極のガス流出口と、アノードガス供給通路142と、の間に接続されている。
高圧水素タンク141のガス取出口には、本実施形態に係る「高圧流体制御弁」である統合主止弁5が取り付けられている。統合主止弁5は、高圧水素タンク141の内部とアノードガス供給通路142との連通を遮断する開閉機能と、アノードガス供給通路142に送り出す水素ガスの圧力を制御する減圧ないし調圧機能とを兼ね備えるものである。高圧水素タンク141に貯蔵されている水素ガスは、統合主止弁5の開放中に、統合主止弁5による制御を受けてアノードガス供給通路142に送出され、アノードガス供給通路142を介して燃料電池10のアノード極に供給される。
さらに、アノードガス供給通路142とアノードオフガス循環通路143との接続部にエゼクタ145が設置されており、アノードガス供給通路142に送出された水素ガスは、エゼクタ145のノズル部に供給される。他方で、燃料電池10のアノード極における発電反応に寄与せずに残った水素と、発電反応に際してカソード極からアノード極に漏洩した水分および窒素等の不純物と、を含んだアノードオフガスが、アノードオフガス循環通路143を介してエゼクタ145に供給される。アノードオフガスは、エゼクタ145の内部でノズル部を通じた水素ガスの噴流により形成される負圧の作用を受けてアノードガス供給通路142に吸入され、この水素ガスとともに燃料電池10のアノード極に循環される。
本実施形態では、アノードオフガス循環通路143にアノードオフガス排出通路144が接続されている。アノードオフガスの一部は、燃料電池システム1からの不純物の排出等の必要に応じ、アノードオフガス循環通路143からアノードオフガス排出通路144に流入し、アノードオフガス排出通路144を介して燃料電池システム1の外部に排出される。
(制御システムの基本構成)
本実施形態において、燃料電池10の運転は、コントロールユニット101により制御される。コントロールユニット101は、中央演算装置、記憶装置および入出力インターフェース等を備えた電子制御ユニットとして構成され、燃料電池10の運転制御のため、燃料電池システム1に対する運転要求および燃料電池10の実際の運転状態を検出する各種センサ111〜117等から信号を入力する。
アクセルセンサ111は、当該車両の運転者によるアクセルペダルの踏込量を示す信号を出力する。HFR測定装置112は、燃料電池10のセルを構成する電解質膜の湿潤度(HFR測定値)を示す信号を出力する。スタック電流センサ113は、燃料電池10が実際に生じさせている電流を示す信号を出力する。さらに、起動スイッチ114は、運転者のキー操作に応じて燃料電池システム1に対する起動および停止指令を示す信号を出力する。
タンク圧力センサ115は、高圧水素タンク141に設置され、高圧水素タンク141内部の圧力、換言すれば、高圧水素タンク141に貯蔵されている水素ガスの圧力を検出する。上流側圧力センサ116は、アノードガス供給通路142の第1燃料供給管142aに設置され、エゼクタ145に供給される水素ガスの圧力を検出する。下流側圧力センサ117は、アノードガス供給通路142の第2燃料供給管142bに設置され、エゼクタ145から送出されたアノードガス、換言すれば、水素ガスとアノードオフガスとの混合ガスの圧力を検出する。
コントロールユニット101は、入力した各種信号をもとに燃料電池10の運転制御に関する所定の演算を実行する。具体的には、燃料電池10の目標発電電力を算出し、統合主止弁5に駆動信号を出力する。そして、本実施形態では、燃料電池システム1に対する起動指令があった場合に、全閉状態にある統合主止弁5を開弁させる制御を実行する。
(高圧流体制御弁の全体構成)
図2は、本実施形態に係る高圧流体制御弁である統合主止弁5の全体構成を示す断面図である。統合主止弁5は、開閉機能と調圧機能とを兼ね備えており、高圧水素タンク141のガス取出口に取り付けられる。図2を参照して、統合主止弁5の全体的な構成について説明する。
統合主止弁5は、大別すると、ハウジング51と、弁体52と、ソレノイド53と、を備える。
ハウジング51は、高圧側のポート(以下「一次ポート」という)p1と、低圧側のポート(以下「二次ポート」という)p2と、を有し、一次ポートp1は、高圧水素タンク141の内部に、二次ポートp2は、アノードガス供給通路142に、夫々流体接続される。高圧水素タンク141に貯蔵されている水素ガスは、一次ポートp1から統合主止弁5に導入され、ハウジング51の内部で弁体52の位置に応じた減圧ないし調圧作用を受けた後、二次ポートp2からアノードガス供給通路142に送出される。本実施形態において、高圧水素タンク141に貯蔵されている水素ガスの圧力は、数MPaから数十MPa(例えば、1〜70MPa)に設定され、調圧の結果、二次ポートp2では、数kPaから1MPa程度(エゼクタ145がない場合は、例えば、0.005〜0.2MPa)にまで減圧される。一次ポートp1における水素ガスの圧力を「一次圧」といい、二次ポートp2における圧力を「二次圧」という。
ハウジング51の内部には、統合主止弁5の動作に関して異なる圧力を規定する空間として、水素ガスが流れる方向に対して上流側から順に、高圧室Ch、中間室Cmおよび低圧室Clが形成されている。高圧室Chは、一次ポートp1と連通し、一次圧P1の水素ガスが導入される空間である。ここで、高圧室Chの圧力を、一次圧に等しい圧力P1とする。低圧室Clは、二次ポートp2と連通し、減圧後の二次圧P2の水素ガスを通過させる空間であり、低圧室Clの圧力を、二次圧に等しい圧力P3とする。中間室Cmは、高圧室Chと低圧室Clとの間に介在する空間である。ハウジング51の内部には、さらに、高圧室Chと中間室Cmとの間に遮断シート部511が、中間室Cmと低圧室Clとの間に調圧シート部512が、夫々形成されている。
弁体52は、一次ポートp1から二次ポートp2へ向かう水素ガスの流れを規制するものであり、ハウジング51の内部に、軸方向に往復移動可能に収容されている。本実施形態において、弁体52は、軸方向に摺動するスプール状の弁体として具現され、図2に示す全閉時の状態で、高圧室Chと中間室Cmとの連通を遮断するとともに、中間室Cmと低圧室Clとの連通を遮断する。
弁体52は、円筒状に形成された主軸部521と、主軸部521の一端から軸方向に延設された第1棒状部522と、主軸部521の他端から第1棒状部522とは逆方向に延設された第2棒状部523と、を有する。弁体52は、さらに、主軸部521の中間部付近から径方向に延設された遮断部524と、主軸部521の基端部付近から径方向に延設された調圧部525と、を備える。
主軸部521は、一端側で高圧室Chから中間室Cmにかけて延在するとともに、他端側でハウジング51の弁体案内孔51aに延伸する長さに設定されている。第1棒状部522は、主軸部521の一端から先端側に延び、ハウジング51の一方の側壁を貫通する長さに設定され、第2棒状部523は、主軸部521の他端から基端側に延び、ハウジング51の他方の側壁を貫通する長さに設定されている。第1棒状部522および第2棒状部523がハウジング51の内壁に設置された環状シール部材に対して摺動自在に支持されることで、弁体52全体がハウジング51に対して支持されている。さらに、弁体案内孔51aを形成するハウジング51の内壁に環状シール部材526が設置されており、この環状シール部材526に対して主軸部521が摺動自在に支持されることで、ハウジング51に対する追加の支持部が弁体52に形成される。ここで、環状シール部材526とこれに摺接する主軸部521とにより、高圧室Chをハウジング51の外部に対して密封する「摺動シール部」が形成される。
遮断部524は、弁体52の中心軸に垂直な断面において円環状に形成されており、ハウジング51に対して全閉時に遮断シート部511に当接する関係にある。調圧部525は、遮断部524よりも基端側に設けられ、弁体52の中心軸に垂直な断面で遮断部524よりも幅の狭い円環状に形成されている。そして、調圧部525は、ハウジング51に対して全閉時に調圧シート部512に当接する関係にある。遮断部524が遮断シート部511と当接することで、高圧室Chと中間室Cmとの連通が遮断され、調圧部525が調圧シート部512と当接することで、中間室Cmと低圧室Clとの連通が遮断される。
ソレノイド53は、弁体52を電磁的に駆動するものであり、ハウジング51に対し、弁体52の基端側に隣接して配置されている。
ソレノイド53は、電磁コイル531と、電磁コイル531と内側で、同心に配置されたプランジャ532と、を備え、プランジャ532は、電磁コイル531が生じさせる電磁力を受けて直線的に移動する。電磁コイル531およびプランジャ532は、ソレノイドケース533に収容され、ソレノイドケース533は、ホルダ534を介してハウジング51に固定されている。ソレノイド53は、電磁コイル531への通電がオンされることで電磁力を生じ、プランジャ532を駆動する。プランジャ532の運動が第2棒状部523を介して弁体52に伝達され、弁体52を開方向に駆動する。そして、弁体52の移動量、換言すれば、弁体52の開方向位置に応じて遮断シート部511および調圧シート部512が開放される。
本実施形態では、ハウジング51に対し、弁体52の先端側に隣接して弁戻し機構54が設けられている。弁戻し機構54は、弁体52をソレノイド53とは反対側から弾性的に付勢するものであり、電磁コイル531への通電がオフされた場合に、弁体52を閉方向に駆動し、全閉時の位置に復帰させる。
弁戻し機構54は、スプリング541と、弁体52の先端部に取り付けられたリテーナ542と、リテーナ542に対してスプリング541の反対側に設置されたホルダ543と、を備える。スプリング541は、リテーナ542およびホルダ543とともにスプリングケース544に収容され、スプリングケース544は、ハウジング51に対して直に固定されている。スプリングケース544がハウジング51に固定された状態で、スプリング541は、リテーナ542およびホルダ543の間で圧縮状態にある。さらに、弁体52とリテーナ542とで挟み込むようにして円盤状のダイヤフラム545が設置されており、ダイヤフラム545は、ハウジング51とスプリングケース543とによりその外周部が挟持されている。低圧室Clの圧力P3ないし二次圧が圧力帰還通路513を介して弁戻し機構54の圧力室Cpに導入され、この帰還圧がダイヤフラム545を介して弁体52に作用することで、弁体52に対する閉方向の駆動力が補助される。本実施形態では、弁体52を全閉時の位置に復帰させる駆動力の発生源としてスプリング541を採用したが、スプリング541に代えてゴム等、他の弾性体を採用してもよく、弾性体ばかりでなく、永久磁石を採用することも可能である。
電磁コイル531に対する通電のオンおよびオフは、コントロールユニット101により制御される。
(高圧流体制御弁の要部構成)
図3は、統合主止弁5の要部構成を弁体52の中心軸に平行な断面で示しており、図4は、統合主止弁5の全閉からの開弁動作を、図3と同じ断面により概略的に示している。図3および4を参照して、本実施形態で採用する遮断シート部511および調圧シート部512についてさらに説明する。
先に述べたように、本実施形態では、スプール状の1つの弁体52に、開閉機能を実現するための遮断部524と、調圧機能を実現するための調圧部525と、を形成する一方、ハウジング51に、遮断部524を受ける遮断シート部511と、調圧部525を受ける調圧シート部512と、を形成する。
遮断シート部511は、摺動シール部における弁体52の外径、換言すれば、先に述べた摺動シール部を形成する主軸部521の直径(以下「摺動シール径」という)d1よりも大きなシート径(以下「遮断シート径」という)d3を有する。ここで、「遮断シート径」とは、弁体52の遮断部524と遮断シート部511との当接部の直径をいい、弁体52に対して一次圧P1が作用する受圧面を定める際の基準となる寸法である。よって、遮断部524と遮断シート部511とが線ではなく、実質的に面で接触する場合は、「遮断シート径」とは、接触面の外縁部の直径、換言すれば、最大径をいう。
遮断シート部511は、例えば、所定の遮断面圧を確保し得る硬質な樹脂材から形成することができ、本実施形態では、そのような樹脂材を円環状に成形し、これをハウジング51の内壁に形成した凹状部に嵌合させ、固定ないし固着させることで設けられている。
調圧シート部512は、遮断シート径d3よりも小さなシート径(以下「調圧シート径」という)d2を有する。換言すれば、遮断シート径d3は、調圧シート径d2よりも大きな値に設定されている。調圧シート部512は、ハウジング51自体ではなく、ハウジング51の付帯部品、具体的には、可動体である円筒状のスライド体515と、スライド体515とハウジング51の内壁との間に圧縮状態で設置されたバネ体516と、により形成される。バネ体516は、所定の閉弁面圧を達成し得る弾性を呈するように設定されている。
スライド体515がバネ体516により開方向に付勢されて、その先端部が弁体52の調圧部512に当接し、このスライド体515と調圧部512との当接部として調圧シート部512が形成されている。当接部におけるスライド体515の直径d2を遮断シート径d3よりも小さな値に設定することで、上記関係(d3>d2)を規定する調圧シート径d2を設定することが可能である。低圧室Clを画成するハウジング51の内壁に凹状案内部を形成し、スライド体515の基端側に設けられた拡径部をこの凹状案内部に収容することで、スライド体515が弁体52の開方向に移動自在な状態で低圧室Clに設置されている。スライド体515とハウジング51の内壁との間には、全閉時の状態で所定の間隔gが形成されている。ここで、スライド体515は、バネ体516により弁体52の開方向に付勢されているため、開弁動作時における弁体52の移動に対し、この所定の間隔gに相当する距離だけ、弁体52に追従して移動ないし変位可能である。調圧シート部512は、付帯部品によらず、所定の閉弁面圧を確保し得るだけの弾性を呈する樹脂材を採用し、そのような樹脂材を円環状に成形し、ハウジング51の内壁に形成した凹状部に固定ないし固着させることで、ハウジング51自体により(換言すれば、ハウジング51の一部として)形成することも可能である。開弁動作時に調圧シート部512が圧縮状態から形状を復元することで、弁体52の移動に追従することができる。
さらに、本実施形態では、調圧シート径d2が摺動シール径d1と等しい値に設定されている。
図4の説明に移り、図4(A)は、統合主止弁5の「全閉時」における状態を、図4(B)は、全閉からの開弁動作の過程において、遮断シート部511が開放されたものの、調圧シート部512が遮断されたままである「閉弁時」における状態を、図4(C)は、開弁動作がさらに進み、遮断シート部511および調圧シート部512の双方が開放された「開弁時」における状態を、夫々示している。
統合主止弁5は、ソレノイド53に供給する電気エネルギ(以下「駆動エネルギ」という)を制御することで弁体52を開方向および閉方向に移動させ、高圧室Chと中間室Cmとの間の流路面積(以下「遮断シート部の開度」という)を制御するとともに、中間室Cmと低圧室Clとの間の流路面積(以下「調圧シート部の開度」という)を制御する。弁体52の開方向の駆動は、電磁コイル531の電磁力により、閉方向の駆動は、スプリング541の弾性に基づく復元力による。
図4(A)に示す全閉時では、弁体52の遮断部524が遮断シート部511に、調圧部525が調圧シート部512(スライド体515の先端部)に夫々当接することで、遮断シート部511および調圧シート部512が閉塞された状態にあり、これらの開度は、いずれも0(ゼロ)である。高圧室Chには、一次ポートp1を通じて高圧水素タンク141内部の圧力が導入され、高い圧力(一次圧)P1が作用する。これに対し、低圧室Clに作用する圧力(二次圧)P3は、二次ポートp2がアノードガス供給通路142に接続されていることで、一次圧に比べて極めて低い。中間室Cmには、一次圧P1および二次圧P3の間の圧力P2が作用する。遮断シート部511には、全閉時に完全な流体遮断が求められるのに対し、調圧シート部512には、全閉時であっても安全性の観点から支障のない範囲で僅かな漏れが許容される。よって、システム1の前回停止時から充分な時間が経過している場合に、中間室Cmの圧力P2は、停止直後の圧力から大幅に低下し、一次圧P1よりも寧ろ二次圧P3に近い状態にある。遮断シート径d3が摺動シール径d1よりも大きいことで、弁体52には、一次圧P1に基づき、遮断シート径d3と摺動シール径d1との差分に応じた力が閉方向に作用する(以下、弁体52に対して閉方向に作用する力を「閉弁力」といい、反対に、開方向に作用する力を「開弁力」という)。全閉状態にある弁体52を開方向に移動させるには、一次圧P1に基づく閉弁力に打ち勝つだけの電磁力を電磁コイル531により生じさせる必要がある。
図4(B)に示す閉弁時では、弁体52の遮断部524が遮断シート部511から離間し、遮断シート部511が開放される一方、調圧部525が調圧シート部512に当接したままであることで、調圧シート部512の開度は、依然として0である。遮断シート部511が開放されることで、高圧室Chから中間室Cmへの流れ生じ、高圧室Chと中間室Cmとで圧力P1、P2が均衡する(P1=P2)。調圧シート径(スライド体515の外径)d2が摺動シール径d1と等しいことで、弁体52に対する一次圧P1の影響が相殺される。閉弁時では、スライド体515の拡径部がハウジング51の内壁に当接した状態にあり、弁体52には、バネ体516の弾性力も働いておらず、弁体52に作用する閉弁力は、実質的にスプリング541の弾性力のみである。よって、弁体52を開方向にさらに移動させるには、この比較的小さな閉弁力に打ち勝つ程度の電磁力を生じさせればよい。
図4(C)に示す開弁時では、閉弁時の状態からさらに調圧部525が調圧シート部512から離間し、遮断シート部511および調圧シート部512の双方が開放される。これにより、中間室Cmから低圧室Clに水素ガスが流入し、統合主止弁5の下流側に備わる部品(例えば、エゼクタ145)への水素ガスの供給が開始される。調圧シート部512の開度を調節することで、下流部品に供給される水素ガスの圧力を制御する。遮断シート部511の開放後、弁体52に対する一次圧P1の影響が相殺されているため、比較的小さな駆動エネルギで弁体52を移動させることが可能である。
図5は、全閉からの開弁動作時に遮断シート部511および調圧シート部512に作用する面圧の変化を示している。
本実施形態では、開弁動作時に、スライド体515が弁体52の移動に対して間隔gに相当する所定の距離だけ追従するので、図5に示すように、弁体52が移動を開始した後、遮断シート部511がまず開放され、その後、スライド体515の拡径部がハウジング51の内壁に当接した時点で、調圧シート部512が開放される。弁体52の遮断部524および調圧部525が遮断シート部511、調圧シート部512から離間する弁位置を、夫々「着座点」として示している。
遮断シート部511は、硬質の樹脂材から形成されており、全閉時には、一次圧P1に基づく閉弁力が弁体52の遮断部524に作用して、所定の遮断面圧を上回る面圧をもって遮断部524と当接した状態にある。電磁コイル531に対する通電がオンされ、弁体52に作用する開弁力が一次圧P1に基づく閉弁力を超えると、弁体52が移動を開始し、これに伴い、遮断シート部511の面圧が急激に減少する。着座点以降、遮断シート部511の面圧は、0(ゼロ)となる。
調圧シート部512は、スライド体515およびバネ体516により構成され、バネ体516は、所定の閉弁面圧を達成し得る弾性を呈するように設定されている。よって、全閉時には、スライド体515は、バネ体516の弾性力により、所定の閉弁面圧を上回る面圧をもって弁体52の調圧部525に押し付けられた状態にある。弁体52に追従してスライド体515が移動するのに伴い、バネ体516の変位量が減少し、弾性力が減少するため、調圧シート部512の面圧も減少する。調圧シート部512の面圧の減少は、遮断シート部511よりも緩やかである。着座点以降、調圧シート部512の面圧も、遮断シート部511と同様に0となる。本実施形態では、弁体52の調圧部525が調圧シート部512に着座した直後または離間する直前の面圧を閉弁面圧とする。
開弁からの閉弁動作時では、遮断シート部511および調圧シート部512の面圧は、開弁動作時とは逆の変化を示す。ただし、弁戻し機構54のスプリング541によっては遮断シート部511の反発力に抗するだけの閉弁力を生じさせることができないので、遮断部524が遮断シート部511に着座した後の面圧の上昇は、高圧室Chと中間室Cmとの差圧の増大に応じたものとなる。
(ソレノイドに対する通電制御)
図6は、全閉からの開弁動作時にソレノイド53に供給する駆動エネルギの変化を示している。
時刻t0では、ソレノイド53に対する通電が停止された状態にあり、ソレノイド53に供給する駆動エネルギは、0(ゼロ)である。この状態で、弁体52は、図5に示す弁停止位置にある。時刻t0からソレノイド53に対する通電を開始し、駆動エネルギを増大させ、弁体52を開方向に駆動する。
先に述べたように、全閉状態にある弁体52を開方向に移動させるには、一次圧P1に基づく閉弁力に打ち勝つだけの電磁力を電磁コイル531により生じさせる必要がある。よって、動作開始後の期間A(時刻t0〜t1)において、駆動エネルギを0から急激に増大させ、ソレノイド53に対して大きな開弁エネルギE1を供給することで、一次圧P1に基づく閉弁力に打ち勝つだけの大きな開弁力を生じさせる。開弁エネルギE1は、「第1の駆動エネルギ」に相当する。開弁エネルギE1の大きさは、一次圧P1、換言すれば、高圧水素タンク141内部の圧力に応じて変更する。具体的には、高圧水素タンク141の貯蔵量ないし残容量が多く、一次圧P1が高いときほど、開弁エネルギE1を増大させる。本実施形態では、後に述べる出荷前の学習により高圧水素タンク141内部の圧力(以下「タンク圧」という)Ptnk毎に最適な開弁エネルギE1を求め、コントロールユニット101の記憶装置に記憶させておく。そして、出荷後、燃料電池システム1の起動毎に開弁エネルギE1の学習を実行し、記憶されている開弁エネルギE1を学習結果に応じて更新する。駆動エネルギが開弁エネルギE1に到達した後、所定の時間Δtx1に亘って開弁エネルギE1を維持する。
弁体52が移動を開始し、遮断部524と遮断シート部511との間に僅かな隙間が生じると、高圧室Chから中間室Cmへの流れが生じ、中間室Cmの圧力P2が上昇する。高圧室Chと中間室Cmとの差圧が減少するのに従い、閉弁力が減少する。高圧室Chと中間室Cmとで圧力が均衡した状態(P1=P2)では、弁体52に対する一次圧P1の影響が相殺され、弁体52は、スプリング541の弾性力に打ち勝つ程度の比較的小さな開弁力で移動させることが可能である。それにも拘らず、圧力P1、P2が均衡した後も大きな駆動エネルギを維持したならば、過大な開弁力により弁体52が一気に移動して、遮断シート部511ばかりでなく、本来であれば遮断された状態を維持しなければならない調圧シート部512までをも大きく開放させてしまい、二次圧P3が急激に上昇して、統合主止弁5の下流側に備わる部品に損傷を及ぼすおそれがある。そこで、弁体52が移動を開始し、遮断部524が遮断シート部511から離間し始めたのに合わせて駆動エネルギを開弁エネルギE1から減少させ、開弁エネルギE1よりも大幅に小さい調圧エネルギE2に切り換える。本実施形態では、駆動エネルギが開弁エネルギE1に到達してから所定の時間Δtx1が経過した時刻t1に駆動エネルギの減少を開始し、調圧時上限エネルギE2maxよりも小さい調圧エネルギE2に切り換える(時刻t3)。調圧エネルギE2は、「第2の駆動エネルギ」に相当する。調圧時上限エネルギE2maxは、起動完了後の調圧運転時に調圧シート部512の開度を最大開度とする調圧エネルギをいい、コントロールユニット101の記憶装置に予め記憶されている。
本実施形態では、駆動エネルギを開弁エネルギE1から調圧エネルギE2に切り換える際に、調圧エネルギE2よりもさらに小さい駆動抑制エネルギE3を介して調圧エネルギE2に遷移させる。駆動抑制エネルギE3は、「第3の駆動エネルギ」に相当する。駆動抑制エネルギE3の大きさは、タンク圧Ptnkに応じて変更し、タンク圧Ptnkが高く、開弁エネルギE1が大きいときほど、駆動抑制エネルギE3を減少させる。本実施形態では、後に述べる出荷前の学習によりタンク圧Ptnkまたは開弁エネルギE1に対応させた最適な駆動抑制エネルギE3を求め、コントロールユニット101の記憶装置に記憶させておく。そして、出荷後、開弁エネルギE1と同様に、燃料電池システム1の起動毎に駆動抑制エネルギE3の学習を実行し、記憶されている駆動抑制エネルギE3を学習結果に応じて更新する。調圧時下限エネルギE2minは、起動完了後の調圧運転時に調圧シート部512の開度を0とする調圧エネルギをいい、コントロールユニット101の記憶装置に予め記憶されている。
駆動エネルギの切換後、調圧エネルギE2を増大させたり、減少させたりすることで、統合主止弁5の下流側の圧力を調整し、燃料電池10に対する水素ガスの供給流量を制御する。具体的には、統合主止弁5の下流圧力を検出し、この圧力検出値を下流圧力の目標値に近付けるように調圧エネルギE2を制御する。本実施形態では、切換後に限らず、駆動エネルギを駆動抑制エネルギE3に減少させた時刻t2から、調圧エネルギE2へ向けたフィードバック制御を開始する。これにより、開弁エネルギE1から調圧エネルギE2への遷移を速やかにかつ安定して達成することが可能となり、燃料電池システム1の起動に要する時間を短縮することができる。そして、燃料電池システム1を停止する場合は、駆動エネルギを0として、電磁コイル531に対する通電を停止する(時刻t4)。
(出荷前の学習)
図7は、出荷前の学習を行う学習システムの構成を概略的に示している。
本実施形態において、出荷前の学習は、アノードガス供給通路142を構成する第1燃料供給管142aの末端部に脱圧機能付きの蓋部材146を取り付けて実行する。蓋部材146によれば、第1燃料供給管142aを閉塞させて、その内部に圧力を蓄積させたり、蓄積した圧力を適宜に開放させたりすることが可能である。統合主止弁5よりも下流側の部品は、低圧設計のものが多く、学習を初めて行う際にそのような下流部品に損傷を及ぼすことを回避するためであり、さらに、統合主止弁5よりも下流側の容積を小さくすることで、僅かな流量であっても低圧室Clの圧力P3の増大代が大きくなり、調圧シート弁512の開弁を早期に判定可能とするためである。コントロールユニット101には、タンク圧力センサ115から統合主止弁5の上流側の圧力、換言すれば、高圧水素タンク141内部の圧力(タンク圧Ptnk)を示す信号が入力されるほか、上流側圧力センサ116から統合主止弁5の下流側の圧力、換言すれば、第1燃料供給管142aの圧力Pを示す信号が入力される。コントロールユニット101は、入力した信号をもとに駆動エネルギに関する学習を実行し、出荷に際してコントロールユニット101に記憶させておく開弁エネルギE1および駆動抑制エネルギE3を特定する。
図8は、出荷前の学習時にソレノイド53に供給する駆動エネルギの変化を示している。
開弁エネルギE1の学習では、タンク圧Ptnk(例えば、Ptnkn=35MPa)を検出するとともに、駆動エネルギEを0から徐々に増大させていき(時刻t0)、遮断シート部511が開放される時点を特定する。そして、その時点(時刻t2)における駆動エネルギEを開弁エネルギE1aとし、タンク圧Ptnknと対応させてコントロールユニット101に記憶させる。遮断シート部511が開放されたか否かは、中間室Cmの圧力P2の挙動を監視することにより判定することも可能であるが、本実施形態では、上流側圧力センサ116の出力に基づき、遮断シート部511が開放されたか否かを推定的に判定する。具体的には、駆動エネルギEを増大させながら上流側圧力センサ116による圧力検出値、換言すれば、低圧室Clの圧力P3を監視し、低圧室Clの圧力P3に所定の挙動が現れたことをもって遮断シート部511が開放されたものと判定する。所定の挙動とは、例えば、低圧室Clの圧力P3が上昇し、所定の下限閾値P3thrに達したことである。遮断シート部511の開放後、弁体52がさらに移動し、調圧シート部512から離れると、中間室Cmから低圧室Clへの流れが生じ、低圧室Clの圧力P3が上昇する。よって、低圧室Clの圧力P3が上昇した時点では、遮断シート部511は、既に開放されていると考えられるからである。
駆動抑制エネルギE3の学習では、駆動エネルギEを開弁エネルギE1から所定の時間Δty1のうちに駆動抑制エネルギE3の初期値(=E3a)にまで減少させ(時刻t3)、減少後の低圧室Clの圧力P3を監視する。本実施形態では、駆動エネルギEを減少させた後、所定の時間Δty2に亘って減少後の駆動抑制エネルギE3aを維持する。駆動抑制エネルギE3の初期値は、調圧時下限エネルギEmin以下の範囲でタンク圧Ptnk毎に予め設定され、コントロールユニット101に記憶されており、タンク圧Ptnkが高く、開弁エネルギE1が大きくなるときほど小さな値に設定されている。そして、減少後の低圧室Clの圧力P3に所定の挙動が現れたか否かを判定する。所定の挙動として、例えば、低圧室Clの圧力P3が駆動エネルギEの減少後の圧力(時刻t3)から所定の範囲ΔP3を超えて上昇した場合は、駆動抑制エネルギE3を減少補正し、コントロールユニット101に記憶されている駆動抑制エネルギE3を補正後の値に更新する。一方で、それ以外の場合は、駆動抑制エネルギE3が適正であるとして、コントロールユニット101に記憶されている値を維持する。所定の時間Δty1およびΔty2は、いずれも実験等を通じて的確な長さに設定することが可能である。
上記タンク圧Ptnk(=Ptnkn)に関する学習が終了した場合は、ソレノイド53への通電を停止して、弁体52を弁停止位置に復帰させるとともに、蓋部材146を通じて第1燃料供給管142aの内部を脱圧する。そして、タンク圧Ptnkを変更し、他のタンク圧Ptnk(例えば、Ptnkn+1=70MPa)について同様の学習を実行する。学習後の開弁エネルギE1および駆動抑制エネルギE3は、コントロールユニット101において、図9および10に示す傾向のマップに、タンク圧Ptnkに対応させて夫々記憶される。実際に学習を行っていないタンク圧Ptnkに対する開弁エネルギE1は、補間計算により求めることが可能であり、駆動抑制エネルギE3についても同様である。
図11および12は、出荷前に行う学習の内容を示すフローチャートである。図8を併せて参照しつつ、本実施形態に係る出荷前の学習について説明する。コントロールユニット101は、「第1の学習制御部」により図11に示す学習を実行し、「第2の学習制御部」により図12に示す学習を実行する。
図11において、S101では、タンク圧Ptnk(=Ptnkn)を測定する。
S102では、駆動エネルギEを0から徐々に増大させる(E=E+dE)。駆動エネルギEを一制御周期当たりに増大させる量dE(図8の時刻t0〜t2における変化の傾きに相当し、以下「駆動エネルギの変化率」という)は、効率上の観点から支障のない範囲でなるべく小さな値であってよく、実験等を通じて予め設定することができる。
S103では、低圧室Clの圧力P3が所定の上限閾値P3lim以下であるか否かを判定する。低圧室Clの圧力P3が上限閾値P3lim以下の場合は、S104へ進み、上限閾値P3limよりも大きい場合は、S105へ進む。
S104では、低圧室Clの圧力P3が所定の下限閾値P3thr以上であるか、換言すれば、低圧室Clの圧力P3が学習前の圧力から上昇し、下限閾値P3thrに達したか否かを判定する。低圧室Clの圧力P3が下限閾値P3thr以上の場合は、S106へ進み、下限閾値P3lim未満の場合は、S102へ戻り、駆動エネルギEを所定の変化率dEだけさらに増大させる。
S105では、駆動エネルギEの変化率dEが大きく、駆動エネルギEの変化が急過ぎるとして、ソレノイド53に対する通電を直ちに停止させ、変化率dEを減少させた後、S101から学習をやり直す。S151において、変化率dEを減少後の値に再設定し、S101に戻る。
S106では、低圧室Clの圧力P3が所定の下限閾値P3thrに達した時点での駆動エネルギEを、タンク圧Ptnknに対する開弁エネルギE1(=E1a)として特定する。
図12に移り、S201では、駆動抑制エネルギE3を読み込む。駆動抑制エネルギE3は、図10に示す傾向のマップに、タンク圧Ptnkの関数として記憶されており、例えば、タンク圧Ptnkn(=Pa)に対する駆動抑制エネルギE3は、E3aに設定されている。
S202では、駆動エネルギEを開弁エネルギE1(=E1a)から所定の時間Δty1のうちに駆動抑制エネルギE3(=E3a)にまで減少させる。
S203では、低圧室Clの圧力P3が所定の上限閾値P3lim以下であるか否かを判定する。低圧室Clの圧力P3が上限閾値P3lim以下の場合は、S204へ進み、上限閾値P3limよりも大きい場合は、S208へ進む。
S204では、現時点での低圧室Clの圧力P3を記憶する(P3i=P3)。
S205では、駆動エネルギEを駆動低減エネルギE3(=E3a)に減少させた時点(時刻t3)から所定の時間Δty2だけ待機する。
S206では、現時点での低圧室Clの圧力P3から所定の時間Δty2前の圧力(=P3i)を減じ、減算値(=P3−P3i)が所定の閾値ΔP3以下であるか否かを判定する。減算値が閾値ΔP3以下である場合は、S207へ進み、そうでない場合は、S209へ進む。
S207では、駆動抑制エネルギE3(=E3a)が適正であるとして、駆動抑制エネルギE3をタンク圧Ptnknと対応させて記憶する。
S208では、駆動エネルギEを駆動抑制エネルギE3に減少させる際の傾きが小さく、遮断シート部511の開放後も過度に大きな開弁力が生じているものとして、時間Δty1を短縮させ、遮断シート部511の開放後に駆動エネルギEをより速やかに減少させるようにして、S101から学習をやり直す。
S209では、駆動エネルギEを減少させた後の時間Δty2に、低圧室Clの圧力P3に所定の範囲ΔP3を超える上昇があったことから、駆動抑制エネルギE3が過度に大きいと判断し、これを減少させる。その後、第1燃料供給管142aの内部を脱圧し、S101から学習をやり直す。
図11に戻り、S107では、予め定めた全てのタンク圧Ptnkn(n=1〜m)について学習が完了したか否かを判定する。学習が完了した場合は、S108へ進み、完了していない場合は、S109へ進む。
S108では、蓋部材146を通じて第1燃料供給管142aの内部を脱圧した後、他のタンク圧Ptnkn+1について同様の学習を繰り返す。
S109では、図9および10に示す傾向のマップにおいて、開弁エネルギE1(=E1a)、駆動抑制エネルギE3(=E3a)を夫々タンク圧Ptnkn(=Pa)と対応させて記憶する。本実施形態では、タンク圧Ptnkと開弁エネルギE1、駆動抑制エネルギE3とをマップにより関連付けているが、これに限らず、両者の関係式を作成するようにしてもよい。
(出荷後の学習)
出荷後の学習は、燃料電池システム1の起動毎に実行する。
図13および14は、出荷後に行う学習の内容を示すフローチャートである。図6を併せて参照しつつ、本実施形態に係る出荷後の学習について説明する。コントロールユニット101は、「第1の学習制御部」により図13に示す学習を実行し、「第2の学習制御部」により図14に示す学習を実行する。
図13において、S301では、タンク圧Ptnkを測定する。
S302では、図9に示す傾向のマップをタンク圧Ptnkにより参照して開弁エネルギE1を読み込み、駆動エネルギEを0から極短い時間のうちに開弁エネルギE1にまで増大させる。駆動エネルギEを開弁エネルギE1にまで増大させるのにかける時間は、出荷前の学習時に駆動エネルギEを開弁エネルギE1に到達させるのに要した時間よりも大幅に短く、例えば、1秒以内である。駆動エネルギEを増大させるのにかける時間が長ければ、燃料電池システム1の起動性に影響し、逆に短ければ、弁体52が電磁力により過度に付勢されることで、調圧シート部512までが大きく開放され、統合主止弁5の下流側の圧力が急激に上昇して、下流部品に損傷を及ぼすおそれがある。そこで、両者の観点から最適な時間を実験等により求め、コントロールユニット101に予め記憶させておく。
S303では、低圧室Clの圧力P3が所定の上限閾値P3lim以下であるか否かを判定する。低圧室Clの圧力P3が上限閾値P3lim以下の場合は、S304へ進み、上限閾値P3limよりも大きい場合は、S307へ進む。
S304では、駆動エネルギEを開弁エネルギE1にまで増大させた後、所定の時間Δtx1が経過するまで待機する。所定の時間Δtx1は、遮断シート部511が開放された後の圧力変化の応答遅れに相当し、高圧水素タンク141の満タン時におけるタンク圧Ptnkが70MPa程度である場合に、例えば、0.1〜0.2秒ほどである。
S305では、低圧室Clの圧力P3が所定の下限閾値P3thr以上であるか否かを判定する。低圧室Clの圧力P3が下限閾値P3th以上の場合は、S306へ進み、上限閾値P3limよりも小さい場合は、S308へ進む。
S306では、開弁エネルギE1が適正であるとして、開弁エネルギE1をタンク圧Ptnkに対応させて記憶する。
S307では、開弁エネルギE1が過度に大きく、調圧シート部512までが大きく開放されたとして、ソレノイド53への通電を直ちに停止させ、弁体52を弁停止位置に復帰させるとともに、開弁エネルギE1を減少させ、S301から起動制御をやり直す。
S308では、低圧室Clの圧力P3に所定の変化がみられないことから、開弁エネルギE1が過度に小さく、遮断シート部511が開放されるに至っていないとして、ソレノイド53への通電を停止させ、開弁エネルギE1を増大させたうえで、S301から起動制御をやり直す。
図14に移り、S401では、図10に示す傾向のマップをタンク圧Ptnkにより参照して駆動抑制エネルギE3を読み込む。
S402では、駆動エネルギEを開弁エネルギE1から所定の時間Δtx2のうちに駆動抑制エネルギE3にまで減少させる。駆動エネルギEを駆動抑制エネルギE3にまで減少させるのにかける時間は、なるべく短い時間であってよく、出荷前の学習時に駆動エネルギEを駆動抑制エネルギE3にまで低減させるのにかけた時間と同程度の長さとして、例えば、0.1〜0.2秒ほどである。ただし、駆動エネルギEは、ソレノイド53に対する駆動指令のデューティ比をステップ的に変化させることで、駆動抑制エネルギE3にまで減少させることも可能である。
S403では、低圧室Clの圧力P3が所定の上限閾値P3lim以下であるか否かを判定する。低圧室Clの圧力P3が上限閾値P3lim以下の場合は、S404へ進み、上限閾値P3limよりも大きい場合は、S405へ進む。
S404では、低圧室Clの圧力P3が所定の下限閾値P3thr以上であるか否かを判定する。低圧室Clの圧力P3が下限閾値P3thr以上の場合は、S407へ進み、下限閾値P3limよりも小さい場合は、S406へ進む。
S405では、駆動抑制エネルギE3を減少補正する。この補正は、例えば、駆動抑制エネルギE3に1よりも小さな値α(<1)を乗じることによる(E3=E3×α)。補正後、S403以降の処理を繰り返し実行する。
S406では、駆動抑制エネルギE3を増大補正する。この補正は、例えば、駆動抑制エネルギE3に1よりも大きな値β(>1)を乗じることによる(E3=E3×β)。補正後、S403以降の処理を繰り返し実行する。
S407では、駆動抑制エネルギE3を保持しまたはマップに記憶されている駆動抑制エネルギE3を補正後の値に更新する。
(作用効果の説明)
以上が統合主止弁5の制御装置に関する説明であり、以下、本実施形態により得られる効果をまとめる。
本実施形態によれば、開閉機能と調圧機能とを1つの制御弁(統合主止弁5)に統合することができ、これを通じて配管等のレイアウト性が向上するとともに、部品数および製造コストを削減することが可能となる。
そして、本実施形態によれば、以下の理由により、統合主止弁5の実用性を高めることが可能である。
第1に、全閉からの開弁動作時に、ソレノイド53に対して比較的大きな開弁エネルギE1を供給することで、遮断シート部511を開放させることができる。その後、駆動エネルギEを減少させ、開弁エネルギE1よりも小さい調圧エネルギE2に切り換えることで、遮断シート部511の開放後に弁体52に対して過大な開弁力が作用して、弁体52が過度に移動し、遮断シート部511だけでなく、調圧シート部512までが大きく開放され、低圧室Clの圧力P3が急激に上昇するのを抑制することが可能となる。よって、統合主止弁5を安定して起動させ、下流側に備わる部品を圧力の急激な上昇から保護することができる。
第2に、開弁エネルギE1の供給後、駆動抑制エネルギE3を介して調圧エネルギE2に切り換えることで、遮断シート部511の開放後の弁体52に対する開弁力の作用をさらに抑制することが可能となる。そして、駆動抑制エネルギE3を調圧時下限エネルギE2min以下とすることで、弁体52に対する過大な開弁力の作用をより確実に回避することができる。
第3に、開弁エネルギE1が大きいときほど、駆動抑制エネルギE3を減少させることで、遮断シート部511の開放に際して弁体52を付勢する開弁力が大きいときほど、駆動エネルギEを速やかに減少させることが可能となり、開放後の弁体52に作用する開弁力を抑制することができる。
第4に、低圧室Clの圧力P3を検出し、駆動抑制エネルギE3から調圧エネルギE2に遷移させる間の駆動エネルギEを、検出した圧力P3をもとに制御することで、低圧室Clの圧力P3を開弁後の目標圧力に向けて安定して推移させることができる。
第5に、開弁エネルギE1および駆動抑制エネルギE3の学習により、弁体52に作用する開弁力を開弁時の動作全体を通じて適正化し、統合主止弁5をより安定して起動させることが可能となる。そして、出荷後の学習により、開弁エネルギE1および駆動抑制エネルギE3を更新し、経年変化等に対してそれらの良好な値を維持するとともに、出荷前に補間計算により求めた値の精度を高めることができる。
以上の説明では、本発明を燃料電池自動車に適用した場合を例に説明したが、本発明は、これに限らず、天然ガス自動車に対し、調圧弁の機能を兼ね備えた統合主止弁として適用することも可能である。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において、様々な変更および修正が可能であることはいうまでもない。