JP6773321B2 - 眼鏡レンズ及び眼鏡 - Google Patents

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本発明は、度の入っていないあるいは度付きの眼鏡レンズ、及び当該眼鏡レンズを用いた眼鏡に関する。
可視光(例えば380nm(ナノメートル)以上780nm以下、あるいは400nm以上800nm以下等の波長域に係る視認可能な光)が人体に様々な影響を与えることが報告されつつあり、例えば、下記特許文献1に記載されているように、入眠や体温低下を促すために脳の松果体から入眠前後に分泌されるホルモンであるメラトニンの分泌が、夜間の受光により抑制されることが報告されている。メラトニン分泌抑制感度がピークとなる波長は、464nmとされている。
特許文献1では、夜間の受光によるメラトニン分泌抑制を防止して睡眠を阻害しない照明用の光フィルタとして、波長480〜505nmまでの波長域の平均透過率が30%以下とされたものが提案されている。
特開2006−259079号公報
メラトニン分泌抑制の他、特定波長域(特定色)の可視光が人体に別の影響を与える可能性があり、特定色に着色された眼鏡レンズを有する眼鏡の装用によっても、人体に影響が及ぶ可能性がある。
しかし、眼鏡レンズや眼鏡においては、眼の保護のための透過率低減(例えば灰色のサングラス)や、視認性向上のための透過率分布調整(例えば緑色の芝を見易い茶色のゴルフ用サングラス)を実現するために着色されることがあるものの、積極的に人体に影響を与えるために着色されることはない。
本発明は、着色により積極的に人体に良い影響を与える眼鏡レンズや、その眼鏡レンズを有する眼鏡を提供することを目的とするものである。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、着色された眼鏡レンズであって、分光透過率分布において、400nmの波長における透過率が1%以下であり、 420nm以上450nm以下の波長域における平均透過率が30%以上であり、 600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率が80%以上であり、500nm以上600nm以下の波長域で極値が存在せず、更に、D65光源2°視野におけるxy表色系でのxが0.35以上0.45以下であり、yが0.35以上0.4以下であることを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、眼鏡であって、上記発明の眼鏡レンズが用いられていることを特徴とするものである。
本発明によれば、着色により積極的に人体に良い影響を与える眼鏡レンズや、その眼鏡レンズを有する眼鏡を提供することが可能となる、という効果を奏する。
実施例1〜2及び比較例1〜3の眼鏡レンズの可視域及びその周辺(380nm以上780nm以下)における分光透過率分布を示すグラフである。 実施例1〜2及び比較例1〜3の眼鏡レンズが呈する色の(x,y)がそれぞれプロットされたCIE色度図である。 実施例1の眼鏡レンズに係る第1の試験の結果(装用前後におけるうつの程度別の人数)を示すグラフである。
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面を用いて説明される。尚、本発明の実施の形態は、以下のものに限定されない。
可視光のうち赤色光(赤色に相当する波長域(赤色域)の光)や黄色光は、視認により交感神経を刺激すると言われている。シュタインにより測定された、色付き光の人体への照射における筋肉組織の筋弛緩度の測定値であるライト・トーナス値(値が小さいほど弛緩状態にある)は、ベージュやパステルトーンで23、青で24、緑で28というように弛緩反応を示すのに対して、黄色で30、オレンジ色(橙色)で35、赤で42と、緊張ないし興奮の反応を示す。
そこで、赤色や黄色の系統の光が眼に入るように、それらの色の何れかに着色された眼鏡レンズを有する眼鏡を装用者に種々装用してもらうことで、良い影響が発生するか否かが調査された。
すると、オレンジ色に係る眼鏡の装用によって、うつやストレスの抑制ないしはうつやストレスの程度の軽減といった影響が発生し得ることが確認された。又、オレンジ色のうちの特定のものにおいて、これらの影響が顕著になり得ることが見出された。
かような発見に基づき、それぞれ僅かに色調が相違するオレンジ色に着色された眼鏡レンズが種々作成され、試行錯誤のうえで、次のような色が施された眼鏡レンズを有する眼鏡の装用により、上記の影響が顕著に及ぶことが判明した。
即ち、まず、眼鏡レンズの色は、可視域における分光透過率分布において、600nm以上650nm以下の波長域の平均透過率が80%以上であり、あるいは420nm以上450nm以下の波長域の平均透過率が30%以上(50%以下)である。ここで、眼鏡レンズの色は、オレンジ色であるから、好ましくは420nm(より好ましくは450nm)で50%以下であり、又400nmで10%以下(より好ましくは1%以下)である。又、400nm以上450nm以下の平均透過率が25%以上(50%以下)であることが好ましい。
このような分布を有することにより、赤色域のうちの短波長側の透過率を確保して赤色成分による本来の刺激効果を確保しながら、特定の青色域において透過率をある程度確保して青色成分による鎮静効果をあえて得ることとして、相乗作用により効力の増した刺激効果をバランス良く確保すると共に、視感度透過率を適度に落として刺激し過ぎないようにすることができ、結果、うつやストレスの抑制ないしはうつやストレスの程度の軽減といった影響が、他のオレンジ色よりも顕著に表れる。
即ち、基本的に、600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率を高くすることにより、体温を上げ、気持ちを明るく前向きにし、免疫力を高めることとしながら、420nm以上450nm以下の波長域の平均透過率を相応に確保することにより、鎮静効果も上述の基本的作用を上回らない程度にあえて得られるものとされている。
又、好ましくは、眼鏡レンズの色は、可視域における分光透過率分布において、500nm(550nm)以上600nm以下の波長域で極値が存在しない(単調増加する)色である。
このような分布を有することにより、上述の影響が、他のオレンジ色よりもより一層顕著に表れることとなる。又、ヒトの比視感度のピーク(波長550nm)付近の透過率が単調に上昇していくことで、上述の作用が得られながら、明るい視界が確保される。
更に、好ましくは、眼鏡レンズの色は、xy表色系でのxが0.42以下(x≦0.42)となる色であり、あるいはyが0.4(0.38)以下(y≦0.4,0.38)となる色である。
xy表色系でのxy座標(x,y)は、CIE(国際照明委員会)色度図で表される。ここで、色の(x,y)は、D65光源のもとでの2°視野における値であり、以下同様である。
尚、ここではそもそもオレンジ色であることが前提であるから、(x,y)については、次のことが言える。即ち、少なくとも0.3≦xである。又、好ましくは、0.32≦xであり、又0.3≦yである。更に、より好ましくは、0.34≦yである。加えて、更に好ましくは、0.35≦x≦0.45であり、0.35≦y≦0.4である。
あるいは、好ましくは、眼鏡レンズの視感度透過率Yは、55%以上(70%以下)であり、より好ましくは、55%以上66%以下である。
本発明に係る眼鏡レンズは、レンズ基材に、オレンジ色や青色や赤色や黄色やピンク色等を呈する染料や顔料あるいはこれらの組み合せ等を(適宜調合のうえで)分散させたり、オレンジ色を呈する光学膜(着色フィルム)をレンズ基材の中や基材表面に設けたり、光学多層膜(誘電体多層膜)を片面あるいは両面に付与したり、これらを組み合わせたりすることで形成可能である。
レンズ基材の材質は、透光性を有していれば、ガラスやプラスチックを始めとしてどのようなものであっても良いが、好適にはプラスチックが用いられる。レンズ基材の材質の例として、ポリウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂が挙げられる。
又、光学膜や光学多層膜の少なくとも一方(以下この段落において「当該膜」とする)が付与される場合、レンズ基材の表面と当該膜の間にハードコート膜やプライマー層を形成したり、当該膜の表面に防汚膜を形成したり、レンズ基材の表面とハードコート膜の間やハードコート膜と当該膜の間あるいは当該膜と防汚膜の間等に、偏光機能や調光機能等を備えた中間層を具備させたりする等、膜構成は他のものに変更されても良い。更に、レンズ基材の裏面や表裏両面に、反射防止膜等が形成されても良い。
又、本発明に係る眼鏡は、眼鏡フレームに、上述の眼鏡レンズを入れることで形成可能である。
ここで、眼鏡は、室内でも装用可能なサングラスであっても良いし、通常の眼鏡に被せて装用するオーバーグラスであっても良い。
又、眼鏡フレームは、オレンジ色を呈するものであって良く、そのオレンジ色は、透光性を有していても良い。又、眼鏡フレームのオレンジ色は、眼鏡レンズと同じ色であっても良いし、より濃いものあるいはより薄いものというように違う色であっても良い。
更に、眼鏡フレームは、眼鏡レンズと顔面の間の隙間の上下左右部分のうちの少なくとも何れかを覆うものであっても良い。
次いで、上記実施形態に係る本発明の実施例や、本発明に属さない比較例を説明する。尚、上記実施形態に係る実施例は、以下のものに限定されない。又、本発明の捉え方によっては、本発明に属する実施例が本発明に属さない比較例となったり、比較例が実施例となったりすることがある。
[実施例や比較例の作製等]
実施例1〜2の眼鏡レンズや比較例1〜3の眼鏡レンズは、次のように作製された。
これらの眼鏡レンズは、ハードコートや光学多層膜による反射防止コート等の表面処理を有さないポリウレタン樹脂製であり、顔料及び染料の少なくとも何れかの分散により、互いに異なるオレンジ色で着色されている。色の調整は、各種染料顔料の組み合せやその各成分の増減により行われる。
これらの眼鏡レンズの屈折率は1.60であり、アッベ数は41であり、厚みは2ミリメートルである。
これらの眼鏡レンズは、度の入っていないものであるが、度付きにすることも可能である。
[実施例や比較例の特性等]
図1には、これらの眼鏡レンズの可視域及びその周辺(ここでは380nm以上780nm以下)における分光透過率分布が示される。又、図2には、これらの眼鏡レンズが呈する色(D65光源2°視野)の(x,y)がそれぞれプロットされたCIE色度図が示される。更に、次の[表1]に、これらの眼鏡レンズが呈する、D65光源2°視野における(x,y)が示される。
これらの色のD65光源2°視野における(x,y)は、0.34≦x≦0.6,0.34≦y≦0.5の領域内に何れも入っており、それぞれオレンジ色を呈するものであるが、その領域内で互いに相違しており、それぞれ僅かに異なるオレンジ色となっている。
加えて、次の[表2]に、これらの眼鏡レンズの分光透過率による、視感度透過率Yと、400nm以上450nm以下の波長域における平均透過率(%)と、420nm以上450nm以下の波長域における平均透過率(%)と、600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率(%)が示される。
実施例1〜2では、分光透過率分布において、波長λ(nm)が420≦λ≦450の域で平均透過率Ta(%)がTa≧30となっている(順に46.5%、30.6%)。
加えて、実施例1〜2では、分光透過率分布において、600≦λ≦650の域でTa≧80となっている(順に88.8%、86.6%)。
更に、実施例1〜2では、D65光源2°視野における(x,y)において、何れもy≦0.42且つx≧0.3である(順に(x,y)=(0.37415,0.356508),(0.408627,0.370195))。
又、実施例1〜2では、分光透過率分布において、550nm以上600nm以下で極値が存在しない。
他方、比較例1〜3では、分光透過率分布において、波長λ(nm)が420≦λ≦450の域でTa<30となっている(順に0%,7.1%、8.0%)。
又、比較例1〜3では、分光透過率分布において、600≦λ≦650の域でTa<80となっている(順に49.2%,76.3%、78.1%)。
更に、比較例1〜3では、D65光源2°視野における(x,y)において、何れもy>0.42である(順にy=0.432325,0.428722,0.433569)。
又、比較例3では、分光透過率分布において、550nm以上600nm以下で極値が存在しないが、比較例1〜2では、分光透過率分布において、550nm以上600nm以下で極小値が存在する。
[実施例や比較例の評価等]
かような実施例1〜2,比較例1〜3の眼鏡レンズを2枚用いて眼鏡(サングラスやオーバーグラス)が形成され、それらの装用における影響について、次の2種類の試験が実施された。
第1の試験は、実施例1〜2,比較例1〜3に係る眼鏡を15分間装用するそれぞれ14人の被験者に対して行われ、その眼鏡の装用前後におけるSDS(抑うつ性の自己評定尺度)を取得して、抑うつ性の変化を調べるものである。
SDS(Self-rating Depression Scale)は、アメリカDuke大学のZung W K(1965)によって作成された、抑うつ性を評価する自己評定尺度であり、20項目の質問を4段階に自己評価するもので、第1,第3項目は感情について、第2,第4〜第10項目は生理面、第11〜第20項目は心理面の症状についての質問である。SDSにおける項目は、全項目の半分の10項目を反転項目としており、被験者にパターンがわかりにくいように工夫されている。SDSにおける得点は、各項目ごとに、「ない」または「たまにある」=1点、「ときどき」=2点、「かなりの間」=3点、「ほとんどいつも」=4点を与え、総点を出すことにより取得され、SDSの得点の大きさにより、次の通り、うつの程度が表現される。即ち、SDS得点=20〜39で正常であり、40〜47で軽度であり、48〜55で中等度であり、56以上で重度である。
次の表3に、実施例1に係る第1の試験の結果が示され、図3に、その結果をうつの程度においてまとめたグラフが示される。
1名(L)のみSDS得点が実施例1の装用前後で同値となり、それ以外の13名において、実施例1の装用後にSDS得点が減少した。全14名の装用前のSDS得点の平均は約50.57であるのに対し、装用後のSDS得点の平均は約45.36となり、平均して5.2ポイント程度減少した。
うつの程度について、装用前の正常1名、軽度3名、中等度5名、重度5名に対し、装用後では正常3名、軽度5名、中等度4名、重度2名となった。
かように、実施例1の装用により、うつ状態の程度が改善した。
そして、実施例2でも同様に第1の試験が行われ、装用前後でSDS得点の平均が4ポイント程度減少するようにうつ状態の程度が改善した。
他方、比較例1〜3でも同様に第1の試験が行われ、装用前後でSDS得点の平均がそれぞれ1ポイント程度減少するようにうつ状態の程度が僅かに改善した。
第2の試験は、実施例1〜2,比較例1〜3に係る眼鏡を第1の試験と同様に15分間装用したそれぞれ11人の被験者に対して行われ、その眼鏡の装用前後における唾液アミラーゼ値を調べるものである。唾液アミラーゼ活性は、血漿ノルエピネフリン濃度と相関が高いことが良く知られており、その活性の度合いを示す唾液アミラーゼ値は、ストレス評価における交感神経の指標として利用されている。唾液アミラーゼ値が高い程、血漿ノルエピネフリン濃度が高いことになり、交感神経が活発に働いていて、ストレス評価においてストレスがよりかかっていることに対応する。
次の表4に、実施例1に係る第2の試験の結果が示される。
実施例1の眼鏡の装用により、11名中2名アミラーゼ値が増加し(T,X)、2名変化なく(P,Y)、7名減少した。
又、アミラーゼ値の平均は、装用前後で19から約12.45へ、約6.55ポイント減少した。
かように、実施例1の装用により、アミラーゼ値が減少し、ストレスが軽減された。
そして、実施例2でも同様に第2の試験が行われ、装用前後でアミラーゼ値の平均が6ポイント程度減少するようにストレスの程度が改善した。
又、比較例1〜3でも同様に第2の試験が行われ、装用前後でSDS得点の平均がそれぞれ1ポイント程度減少するようにストレスの程度が僅かに改善した。
第1の試験ないし第2の試験の結果から、実施例1,2は、比較例1〜3に比べて、うつ状態やストレスの軽減の度合いが大きいことが分かった。又、実施例2に比べ、実施例1が更にうつ等の軽減度合いが大きいことが分かった。
尚、第1の試験と第2の試験の被験者の大部分が女性であり、特に女性に対する好ましい影響が確認された。他方、男性に対しても同様の試験が行われ、同様の好影響が及ぶ(但し好影響の度合いは女性より小さい)ことが分かっている。又、現状では、一般にオレンジ色の眼鏡の装用は、男性にとって見た目等の理由により抵抗感があり、女性にとっては比較的に抵抗感が小さい。従って、装用者は、女性が好適であるが、女性に限定されるものではない。
[考察等]
実施例1〜2では、比較例1〜3と異なり、分光透過率分布において、波長(λ[nm])が420≦λ≦450となる域内で平均透過率(Ta[%])がTa≧30であり、600≦λ≦650となる域内でTa≧80である。よって、実施例1〜2では、赤色成分に加えて青色(短波長域)成分の透過率が比較的に大きい独特なオレンジ色が提供され、装用者に対して相当に良い影響が積極的に与えられる。
更に、実施例1〜2では、比較例1〜3と異なり、D65光源2°視野におけるxy表色系でのy≦0.42であり、又550nm≦λ≦600の域内で極値が存在しないから、やはり独特なオレンジ色が提供され、装用者に対して相当に良い影響が積極的に与えられる。
[変更例等]
以上では、眼鏡レンズや眼鏡が説明されたが、上述の色を呈する光学フィルタが眼鏡レンズと同様に基材に着色することで形成可能であり、かような光学フィルタが各種の光源に対するように設けられても、上述した影響を及ぼすことができる。
例えば、この光学フィルタが照明装置に組み込まれれば(照明光源の周りに配置されれば)、上述の色の照明が付与される。又、この光学フィルタが窓に貼付されれば、上述の色の光が導入される。

Claims (2)

  1. 着色された眼鏡レンズであって、
    分光透過率分布において、
    400nmの波長における透過率が1%以下であり、
    420nm以上450nm以下の波長域における平均透過率が30%以上であり、
    600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率が80%以上であり、
    500nm以上600nm以下の波長域で極値が存在せず、
    更に、D65光源2°視野におけるxy表色系でのxが0.35以上0.45以下であり、yが0.35以上0.4以下である
    ことを特徴とする眼鏡レンズ。
  2. 請求項1に記載の眼鏡レンズが用いられている
    ことを特徴とする眼鏡。
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