JP6758673B2 - 歯科用セラミックス材料 - Google Patents
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Description
本発明は、天然歯により近い自然な色調を有する歯科補綴物を提供することを目的としている。
本発明は、組成が異なる複数のセラミックス組成物を積層させたセラミックス積層体を仮焼結させた後でも、反りの少ないセラミックス仮焼結体を提供することを目的としている。
項1.
セラミックス積層体を仮焼結させて歯科用セラミックス仮焼結体を得る工程、及び
前記歯科用セラミックス仮焼結体を焼結させて歯科用セラミックス焼結体を得る工程を備える、歯科用セラミックス焼結体の製造方法であって、
前記歯科用セラミックス焼結体の切端部側から歯頸部側に向かって20%、40%、55%、70%、及び85%の位置をそれぞれA、B、C、D、及びEとした場合に、
前記歯科用セラミックス焼結体における前記A、B、C、D、及びEのいずれの位置間での明暗対比差が、0.03未満である、歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項2.
前記歯科用セラミックス焼結体において、前記A、B、C、D、及びEの明暗対比が、それぞれ0.5以上0.9以下である、項1に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項3.
前記歯科用セラミックス焼結体のL*a*b*C*の範囲が、前記A、B、C、D、及びEの各位置において、
A(20%):69≦L*≦89,−2≦a*≦11,
−5≦b*≦38, 0≦C*≦40;
B(40%):68≦L*≦88,−1≦a*≦12,
−2≦b*≦40, 0≦C*≦42;
C(55%):68≦L*≦88, 0≦a*≦13,
1≦b*≦42, 3≦C*≦44;
D(70%):67≦L*≦87, 0≦a*≦13,
2≦b*≦44, 4≦C*≦45;及び
E(85%):67≦L*≦85, 0≦a*≦13,
3≦b*≦44, 5≦C*≦45
である、項1又は2に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項4.
前記A及びEの位置における色差ΔEが、4以上13以下である、項1〜3の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項5.
前記歯科用セラミックス仮焼結体を得る工程が、セラミックス積層体を、最高係留温度が950℃以下の温度で仮焼結させることを特徴とする、項1〜4の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項6.
前記歯科用セラミックス仮焼結体の切端部側の面における線収縮率と歯頸部側の面における線収縮率との差が、0.12%以下である、項1〜5の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項7.
前記セラミックス積層体は、セラミックス粉末及び着色用金属酸化物を含む、項1〜6の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項8.
前記セラミックス粉末が、ジルコニアである、項7に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項9.
前記着色用金属酸化物が、酸化コバルトを含む、項7又は8に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項10.
前記着色用金属酸化物が、酸化コバルト、酸化エルビウム、及び酸化鉄からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物である、項7又は8に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項11.
前記着色用金属酸化物の含有率が、
酸化コバルト:0.0001〜0.01質量%
酸化エルビウム:0.12〜0.85質量%、及び
酸化鉄:0.03〜0.14質量%である、項7〜10の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項12.
前記着色用金属酸化物の配合割合が、
酸化エルビウム:酸化鉄=2:1〜10:1、及び
酸化鉄:酸化コバルト=11:1〜300:1
である請求項7〜10の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項13.
前記着色用金属酸化物の含有率が、
酸化コバルト:0.001〜0.01質量%
酸化エルビウム:0.12〜0.85質量%、及び
酸化鉄:0.03〜0.14質量%である、項7〜10の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項14.
前記着色用金属酸化物の配合割合が、
酸化エルビウム:酸化鉄=2:1〜10:1、及び
酸化鉄:酸化コバルト=11:1〜33:1
である請求項7〜10の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項15.
前記歯科用セラミックス焼結体のJIS T6526:2018に準拠して測定した3点曲げ強さが、600MPa以上である、項1〜14の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項16.
歯科用セラミックス仮焼結体のビッカース硬さが、30以上70以下である、項1〜15の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項17.
さらに、セラミックス粉末と着色用金属酸化物とを混合してセラミックス組成物を得る工程(1)を備えている、項1〜16の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項18.
さらに、前記セラミックス組成物として、組成が異なる複数のセラミックス組成物を準備する工程(2)を備えている、項1〜17の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項19.
さらに、組成が異なる複数のセラミックス組成物を、積層してセラミックス積層体を得る工程(3)を備えている、項1〜18の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項20.
さらに、該セラミックス積層体を加圧して、セラミックス積層体を得る工程(4)を備えている、項1〜19の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項21
さらに、前記セラミックス積層体を旋盤加工して、セラミックス積層体を得る工程(5)を備えている、項1〜20の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
項22.
項1〜21の何れか一項に記載の方法によって製作されたことを特徴とする歯科用セラミックス焼結体。
項23.
項22に記載の歯科用セラミックス焼結体を製作するための歯科用セラミックス切削加工物。
項24.
項22に記載の歯科用セラミックス焼結体を製作するための歯科用セラミックス仮焼結体。
項25.
項24に記載の歯科用セラミックス仮焼結体を製作するための歯科用セラミックス積層体。
項26.
項25に記載の歯科用セラミックス積層体を製作するための歯科用セラミックス組成物。
項27.
項24に記載の歯科用セラミックス仮焼結体をCAD/CAMシステムを用いて切削加工した後、焼結されたことを特徴とする歯科用補綴物。
さらに、本発明によれば、天然歯により近い自然な色調を有する歯科補綴物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、適度なビッカース硬さを有する切削加工性に優れたセラミックス仮焼結体を提供することができる。
本発明の歯科用セラミックス材料(以下、「本発明のセラミックス材料」ということもある。)は、組成が異なる複数のセラミックス組成物(以下、「本発明のセラミックス組成物」又は「本発明の組成物」ということもある。)を積層させて製作された材料を意味する。なかでも、本発明において、歯科用セラミックス材料とは、下記のセラミックス積層体(以下、「本発明のセラミックス積層体」又は「本発明の積層体」ということもある。)、歯科用セラミックス仮焼結体(以下、「本発明のセラミックス仮焼結体」又は「本発明の仮焼結体」ということもある。)、歯科用セラミックス焼結体(以下、「本発明のセラミックス焼結体」又は「本発明の焼結体」ということもある。)、及び歯科用補綴物(以下、「本発明の歯科補綴物」ということもある。)である。ここで、セラミックスとは、セラミックと言い換えることができる。
次に、本発明のセラミックス積層体、セラミックス仮焼結体、及びセラミックス焼結体の製造方法の一例について説明する。
前記セラミックス積層体の製造方法としては、特に限定はなく、例えば、組成が異なる複数のセラミックス組成物を積層させてセラミックス積層体を形成する工程を経て製造することができる。
具体的に、前記セラミックス積層体の製造方法としては、
(1):セラミックス粉末と、着色用金属酸化物とを混合してセラミックス組成物を得る工程(「工程(1)」又は「混合工程」ということもある。)、
(2):前記セラミックス組成物として、組成が異なる複数のセラミックス組成物を準備する工程(「工程(2)」又は「複数の組成物を準備する工程」ということもある。)、
(3):組成が異なる複数のセラミックス組成物を、積層してセラミックス積層体1(成形体1)を得る工程(「工程(3)」又は「積層工程」ということもある。)、
(4):該セラミックス積層体1を加圧して、セラミックス積層体2(成形体2)を得る工程(「工程(4)」又は「加圧工程」ということもある。)、及び
(5):前記セラミックス積層体2を旋盤加工して、セラミックス積層体3(成形体3)を得る工程(以下、「工程(5)」又は「旋盤加工工程」ということもある。)
を備えることができる。
セラミックス粉末としては、セラミックスを含有する粉末であれば特に限定はなく、例えば、ジルコニア(「酸化ジルコニウム」又は「ZrO2」ともいう。)を含有する粉末、アルミナ(「酸化アルミニウム」又は「Al2O3」ともいう。)を含有する粉末、陶材等が挙げられる。中でも、セラミックス粉末として、好ましくはジルコニアを含有する粉末であり、より好ましくはジルコニアの成分が85%以上である粉末である。
本発明のセラミックス組成物は、上記セラミックス粉末(酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)等)と、着色用金属酸化物とを含有することができる。
安定化剤としては、特に限定はなく、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)等の金属酸化物が挙げられる。
好ましくは0.0001〜0.01質量%又は0.001〜0.01質量%であり、
より好ましくは0.0005〜0.007質量%又は0.001〜0.007質量%であり、
特に好ましくは0.001〜0.005質量%である。
好ましくは14:1〜298:1又は12:1〜32:1であり、
より好ましくは17:1〜296:1又は13:1〜31:1である。
前記着色用金属酸化物の含有率が、
酸化コバルト:0.0001〜0.01質量%
酸化エルビウム:0.12〜0.85質量%、及び
酸化鉄:0.02〜0.2質量%であり、
特に、前記着色用金属酸化物の配合割合が、
酸化エルビウム:酸化鉄=2:1〜10:1、及び
酸化鉄:酸化コバルト=11:1〜300:1
であることが好ましい。
前記工程(1)における混合方法としては、特に限定はなく、公知の混合方法を採用することができる。例えば、混合方法としては、V型混合機等の撹拌装置を用いて、混合することができる。工程(1)において、セラミックス粉末と着色用金属酸化物とを混合する方法とは、例えば、(A)ジルコニア粉末等のセラミックス粉末と、ジルコニア粉末等のセラミックス粉末及び着色用金属酸化物(ここでは、着色顔料ともいう)を含む混合物(着色されたセラミックス粉末、着色用ジルコニア粉末ともいう)とを混合する方法(方法A);
(B)ジルコニア粉末等のセラミックス粉末と、着色用金属酸化物とを混合する方法(方法B)等が挙げられる。
前記工程(2)における準備方法としては、特に限定はなく、例えば、組成が異なる原料粉末で工程(1)を繰り返し、複数の異なる色調を有するセラミックス組成物を準備する工程等が挙げられる。
前記工程(3)における積層方法としては、特に限定はなく、公知の積層方法を採用することができる。例えば、積層方法としては、直圧成型機に成分の異なる複数の原料粉末を順次投入して加圧することで積層体を得る方法等が挙げられる。
層の下限は、2層以上、好ましくは3層以上である。層の上限は、特に限定はなく、例えば、10層以下であり、好ましくは7層以下、より好ましくは6層以下である。
前記工程(4)における加圧方法としては、特に限定はなく、公知の加圧方法を採用することができる。例えば、加圧(成形)方法としては、プレス成形、熱間等方圧加圧法(HIP法)、冷間等方圧加圧法(CIP)等の成形方法が挙げられる。
次に、第1粉末の上に、第2粉末を所定の厚さまで充填し、最後に10〜30MPaで直圧プレス処理を行い平坦にする。層数が3層以上の場合も同様の手順で製作することができる。
前記工程(5)における旋盤加工方法としては、特に限定はなく、公知の旋盤加工方法を採用することができる。例えば、旋盤加工方法としては、工程(4)で得られた積層体を、旋盤加工により円柱状の成形体の両面を切削し、仮焼結後に20mmとなるように、厚みを20.1mmに加工する方法等が挙げられる。
本発明のセラミックス仮焼結体の製造方法は、前記セラミックス積層体を仮焼結させて歯科用セラミックス仮焼結体(仮焼体、半焼結体、仮焼成体、又は半焼成体という場合もある。)を得る工程を備えている。
本発明のセラミックス焼結体の製造方法は、前記セラミックス仮焼結体を焼結(本焼結)させて歯科用セラミックス焼結体を得る工程(以下、「焼結体製造工程」ということもある。)を備えている。
高強度タイプは、約3mol%の酸化イットリウムが添加されており、曲げ強さが高く光の透過性が低い。
一方、高透過タイプは約5mol%以上の酸化イットリウムが添加されており、曲げ強さが低く光の透過性が高いものである。
前記歯科用セラミックス焼結体の前記A、B、C、D、及びEのいずれの位置間での明暗対比差が、0.03未満である、歯科用セラミックス焼結体を得ることができる。
Aの明暗対比とBの明暗対比の差、
Aの明暗対比とCの明暗対比の差、
Aの明暗対比とDの明暗対比の差、
Aの明暗対比とEの明暗対比の差、
Bの明暗対比とCの明暗対比の差、
Bの明暗対比とDの明暗対比の差、
Bの明暗対比とEの明暗対比の差、
Cの明暗対比とDの明暗対比の差、
Cの明暗対比とEの明暗対比の差、及び
Dの明暗対比とEの明暗対比の差の全てを意味している。
A、B、C、D、及びEのいずれの位置間での明暗対比差も0.03未満とすることができる。各層を構成するセラミックス粉末の組成(成分)を調整することにより、自然な色調を有する歯科補綴物を製作可能な歯科用セラミックス仮焼結体を製作することができる。
具体的には、1.0mm厚の試料板に対して、黒背景、及び白背景を接触させ、D55光源の光を照射した際の反射光におけるY値を読み取ることができる。
本発明の歯科用セラミックス仮焼結体(歯科用被切削体)を層の境界が存在する面と垂直方向が最大の長さである20mmとなるよう20mm×12mm×1.4mmの板状に加工した後、1450℃で2時間焼成して、焼結体を製作した。厚みは、色度に大きく影響するため、試験片を砥粒15μm(粒度1000)のダイヤモンド研磨紙(ダイヤモンドラッピングフィルムLDF−D、三共理化学社製)により1mmの厚みとなるまで研磨し、最終的に約16mm×約10mm×約1.0mmの試験片を得た。その後、分光測色機(PR‐650、Photo Research社製)を用いて測色を行った。測色条件は、光源:D55光源、視野角:2°(度)、背景色:白色である。
位置Aにおいて、
好ましくは、71≦L*≦86、−1.5≦a*≦10.5、−2≦b*≦35、0.5≦C*≦37、
より好ましくは、73≦L*≦84、−1≦a*≦10、0≦b*≦33、1≦C*≦35であり、
位置Bにおいて、
好ましくは、70≦L*≦85、−0.5≦a*≦11.5、1≦b*≦38、2≦C*≦39、
より好ましくは、73≦L*≦83、0≦a*≦11、3≦b*≦36、4≦C*≦37であり、
位置Cにおいて、
好ましくは、71≦L*≦85、0.5≦a*≦12.5、4≦b*≦40、6≦C*≦41、
より好ましくは、73≦L*≦83、1≦a*≦12、6≦b*≦38、8≦C*≦39であり、
位置Dにおいて、
好ましくは、70≦L*≦84、0.5≦a*≦12.7、5≦b*≦41、7≦C*≦42、
より好ましくは、72≦L*≦82、1≦a*≦12.5、7≦b*≦39、9≦C*≦40であり、
位置Eにおいて、
好ましくは、70≦L*≦82、0.5≦a*≦12.5、5≦b*≦41、8≦C*≦42、
より好ましくは、72≦L*≦80、1≦a*≦12、7≦b*≦39、10≦C*≦40である。
歯科医師は、患者の口腔内で歯の色調を確認するために、一般的に、シェードガイド「VITAPAN classical(VITA社製)」を使用している。
上記シェードガイドは、図1のFの形状と近似しており、図1に示す位置A(切端部)と位置E(歯頸部)の部分を分光測色機で測色し、位置Aと位置Eの部分の色差(ΔE)を、下記(式1):
本発明の歯科用セラミックス焼結体のJIS T6526:2018に準拠して測定した3点曲げ強さは、特に限定はないが、好ましくは600MPa以上、より好ましくは650MPa以上、特に好ましくは700MPa以上である。
本発明のセラミックス積層体において、各層中の着色用金属酸化物の含有量が違っていても、完全焼結されると最終的に同程度の収縮挙動を示すが、その成分の違いにより焼結時の収縮の速度が異なるため、焼結を途中で止めるセラミックス仮焼結体には反りが発生する。
具体的には、色調を変化させる積層体において、着色用金属酸化物が多く含まれる歯頸部側が切端部側よりも速く収縮するため、積層体は、仮焼結後に図2のように歯頸部側が円弧の内側となるような反り方をする。
この仮焼結体の反り具合が大きい状態で切削加工すると、最終焼結体である歯科補綴物の支台歯への適合が合わなくなり、口腔内で使用できなくなる。このため、仮焼結体の反りを小さくする必要があり、仮焼結温度を調整することによって解決することが可能である。
線収縮率は、下記(式2):
線収縮率差は、下記(式5):
反りの有無についての線収縮率差の判断基準は、JIS T6526:2018に記載されている値に基づいて設定した。このJIS T6526:2018の要求事項に拡大係数(加工係数、収縮係数)は、製造販売業者が指定する値の±0.002でなければならないとあることから、0.002までの拡大係数の差異は許容される。
拡大係数とは、セラミックスが焼結により収縮するため、最終的に得られる歯科補綴物が設計通りの寸法となるように、収縮を考慮して焼結前の切削加工物の切削データ(STLデータ)に拡大係数を乗じる際に必要な情報である。
例えば、拡大係数が1.2の場合、10mmの歯科補綴物を製作するには、焼結前の切削加工物は12mmで製作する必要があり、この拡大係数が製品に表示されている数字と許容範囲(±0.002)以上になると、歯科補綴物の適合が合わなくなって、口腔内で使用できなくなる。したがって、この拡大係数を一定の範囲内にすることは、セラミックス材料の品質として大変重要である。
ただし、拡大係数は、本焼結時の寸法変化から算出される値であり、仮焼結時の反りについては、仮焼結前後の寸法変化から算出される線収縮率で評価することが妥当である。
つまり、セラミックスを仮焼する際に、仮焼結前後の歯頸部側の面及び切端部側の面の寸法を測定し、それぞれの線収縮率を算出し、その値の差から反りを評価することができる。
線収縮率は、上記(式2)を書き換えると、下記(式7):
歯科補綴物とは、歯の欠損を修復するための人工物(歯冠又は義歯)のことである。本発明の上記歯科用セラミックス仮焼結体を、CAD/CAMシステムを用いて削り出し、歯科補綴物を製作することができる。
本発明の歯科用セラミックス焼結体及び歯科補綴物は、下記工程(1)、工程(2)、工程(3)、工程(4)、工程(5)、仮焼結工程、切削加工工程、及び焼結工程を経て製作した。
[原料]
(高強度タイプ)
ジルコニア粉末
・Zpex(登録商標)(東ソー社製;比表面積12〜13m2/g)
高強度タイプのジルコニア粉末とは、本焼結体の強度が高いが、光透過性は低い(1mm厚ペレットで透過率が約40%)原料粉末である。
・Zpex(登録商標)−Yellow(東ソー社製;比表面積12〜13m2/g)
・Zpex(登録商標)−Pink(東ソー社製;比表面積12〜13m2/g)
・Zpex(登録商標)−Gray(東ソー社製;比表面積12〜13m2/g)
着色するために、ジルコニア粉末に微量の着色用金属酸化物を混合する場合、均一分散が容易ではないため、あらかじめジルコニア粉末と着色用金属酸化物とが十分に混合された市販の上記着色用ジルコニア粉末を用いた。
ジルコニア粉末
・Zpex Smile(登録商標)(東ソー社製;比表面積10m2/g)
高透過タイプのジルコニア粉末とは、本焼結体の光透過性が高い(1mm厚ペレットで透過率が約50%)が、強度は低い原料粉末である。
着色用ジルコニア粉末
・Zpex Smile(登録商標)−Yellow(東ソー社製;比表面積10m2/g)
・Zpex Smile(登録商標)−Gray(東ソー社製;比表面積10m2/g)
ジルコニア粉末
・Zpex(登録商標)4(東ソー社製;中強度・中透過タイプ)
着色用ジルコニア粉末
・Zpex(登録商標)4−Yellow(東ソー社製;中強度・中透過タイプ)
・Zpex(登録商標)−Pink(東ソー社製;比表面積10m2/g)
実施例1
高強度タイプのジルコニア粉末であるZpexと、着色用ジルコニア粉末であるZpex−Yellow、Zpex−Pink、及びZpex−Grayとを、下記表6の組成となるように混合し、下記表5に示す粉末1〜3をそれぞれ準備した。
また、下記表7〜9の組成に代えた以外は、実施例1と同様の方法で粉末4〜6、粉末7〜9、及び粉末10〜12をそれぞれ準備した。
実施例5
高透過タイプのジルコニア粉末であるZpex Smileと、着色用ジルコニア粉末であるZpex Smile−Yellow、Zpex Smile−Gray、及びZpex−Pinkとを、下記表10の組成となるように混合し、下記表5に示す粉末13〜15をそれぞれ準備した。
また、下記表11〜13の組成に代えた以外は、実施例5と同様の方法で粉末16〜18、粉末19〜21、及び粉末22〜24をそれぞれ準備した。
比較のため、次のジルコニア焼結体を製作した。ジルコニア粉末である、中強度・中透過タイプのZpex4と、着色用ジルコニア粉末であるZpex4−Yellow、Zpex−Pink、及びZpex−Grayとを、下記表14の組成となるように混合し、着色用金属酸化物の割合が、酸化エルビウム:酸化鉄=2:1〜10:1、酸化鉄:酸化コバルト=11:1〜33:1の条件のうち、少なくとも一つを満たさない粉末25〜27を準備した。
実施例1〜8及び比較例1
工程(3)で得られた実施例1〜8及び比較例1に記載のセラミックス積層体1〜8及び比較積層体1にそれぞれ直圧プレス処理を行った。次に、冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧してセラミックス積層体(成形体)1〜8及び比較セラミックス積層体(成形体)1を製作した。
実施例1〜8及び比較例1
工程(4)で得られたセラミックス積層体(成形体)1〜8及び比較セラミックス積層体(成形体)1を、旋盤加工により円柱状の成形体の両面を加工し、厚みが20.1mmのセラミックス積層体(成形体)1〜8及び比較セラミックス積層体(成形体)1をそれぞれ得た。
実施例1〜4
上記表6〜表9に記載のセラミックス組成物1〜4から製作された本発明のセラミックス積層体1〜4を、それぞれ850℃で20時間焼成して本発明のセラミックス仮焼結体1〜4を製作した。
実施例5〜8
上記表10〜表13に記載のセラミックス組成物5〜8から製作された本発明のセラミックス積層体5〜8を、それぞれ900℃で10時間焼成して本発明のセラミックス仮焼結体5〜8を製作した。
比較例1
上記表14に記載の比較セラミックス組成物1から製作された比較セラミックス積層体1を、1000℃で3時間焼成して比較セラミックス仮焼結体1を製作した。
実施例1〜8及び比較例1
上記仮焼結工程で得られたセラミックス仮焼結体1〜8及び比較セラミックス仮焼結体1を、CAD/CAMシステムの切削加工機(DWX−50、ローランドD.G.社製)を用いて切削加工し、20mm×12mm×1.4mmの板状の切削加工物1〜8及び比較切削加工物1を得た。
実施例1〜8及び比較例1
上記切削加工物1〜8及び比較切削加工物1を、それぞれ1450℃で2時間焼成して、セラミックス焼結体1〜8及び比較セラミックス焼結体1を製作した。これらを砥粒15μm(粒度1000)のダイヤモンド研磨紙(ダイヤモンドラッピングフィルムLDF−D、三共理化学社製)により1mm±0.05mmの厚みとなるまで研磨し、最終的に(16mm±0.5mm)×(10mm±0.5mm)×(1.0mm±0.05mm)の明暗対比及び色度評価用の試験片1〜8及び比較試験片1を得た。
比較例2
既製品の積層ジルコニア(カタナジルコニアUTML、クラレノリタケデンタル社製)のA3シェードを用いた。これは、異なる4つの色調を有する層を積層させたジルコニアディスクであり、特開2014−218389号公報をもとに製作されたものであると推測される。
既製品で2層構造をもつ樹脂系材料であるハイブリッドレジンブロック(松風ブロックHC2レイヤー、松風社製)のA3シェードを用いた。これは、特開2018−086047号公報に記載の技術を有するメーカーが製作したものである。
<明暗対比>
セラミックス焼結体の切端部側から歯頸部側に向かって20%、40%、55%、70%、及び85%の位置をそれぞれA、B、C、D、及びEとした場合、A〜Eの5点の明暗対比を測定した。
明暗対比は、分光測色機を用いて測定した。
上記明暗対比の測定結果に基づいて、各位置の明暗対比の差の最大値を求めた。その結果を下記表15〜表17に示す。
表15〜17において、いずれの位置間においても明暗対比差の最大値が0.03未満である場合を「判定○」、0.03以上である場合を「判定×」とした。
なお、下記表15〜17において、明暗対比(項目A〜E)の「(0.5〜0.9)」という数値範囲、及び明暗対比差の最大値「(0.03未満)」という数値は、本願発明で得られるセラミックス焼結体の合格値を意味している。
A〜Eそれぞれの地点に対して、L*a*b*表色系による色度を測定した。
色度は、分光測色機を用いて測定した。
色度の測定結果及びAとEの位置の色差ΔEを表18〜表20に示す。
なお、下記表18〜20において、色度(項目)及び色差ΔEに記載する数値範囲は、本願発明で得られるセラミックス焼結体の合格値を意味している。
その結果、実施例1〜8の試験片1〜8は、上記表15及び表16に示すとおり、いずれの位置においても明暗対比が0.5以上0.9以下の範囲に入っており、また、いずれの位置間における明暗対比差も0.03未満であった。
さらに、実施例1〜8の試験片1〜8は、上記表18及び表19に示すように、上記A〜Eのいずれの位置においても色度の範囲は本発明において指定した範囲内に入っており、AとEの位置の色差ΔEは4以上13以下の範囲内に入っていた。
以上のとおり、実施例1〜8の試験片1〜8は、すべて自然な色の勾配を有しており、明暗対比が均一に設計されているため層の境界面が判別できない色調になっていることが目視でも確認された。
一方、比較試験片1〜3は、上記表17に示すとおり、明暗対比差の最大値が0.03以上であった。また、比較試験片1〜3の色度の値は、上記表20に示すとおりA〜Eの各位置に おいて指定した範囲内に入っており、AとEの位置の色差ΔEは、4以上13以下の範囲に入っていたが、明暗対比が均一になっていないため、実施例と比べると層の境界面が判別されやすい積層構造になっていることが目視でも確認された。
前記仮焼結工程後のセラミックス仮焼結体の切端部側の面及び歯頸部側の面のビッカース硬さを、ミツトヨ社製の硬さ試験機(HV-113)を用いて、荷重1kgf、加圧時間15秒にて測定した。そのビッカース硬さの測定結果を下記表21に示す。
なお、比較例3の被切削体は、材質が樹脂系材料であり、材質がジルコニアである実施例と比較評価できないため測定していない。
その結果、実施例1〜8に記載の仮焼結体1〜8は、いずれもビッカース硬さが30以上70以下に収まっていた。これら仮焼結体1〜8は、切削加工工程において、試験片の欠け、脱落等が見られず、良好な切削加工性であることが確認できた。
一方、比較例1及び比較例2の仮焼結体は、いずれもビッカース硬さが70を超えていた。比較例1及び比較例2の試験片は実施例と比べると、加工時に試験片の角にわずかに欠けが確認された。
仮焼結工程前後の寸法から導き出される線収縮率差により、仮焼結体の反りの有無について確認した。切端部側の面及び歯頸部側の面の直径を、それぞれ仮焼結前後で測定して線収縮率
(%)を算出し、切端部側の面及び歯頸部側の面の線収縮率差(%)が0.12%以下であるか確認した。切端部側の面及び歯頸部側の面の直径の測定は寸法測定機(NZRプリプレート、アクシス社製)を用いて行った。線収縮率差を下記表22に示す。
なお、切端部側の面及び歯頸部側の面の線収縮率差が0.12%以下である場合を「判定○」、0.12を超える場合を「判定×」とした。また、比較例2の既製品は、仮焼結後の状態であり仮焼結工程前の寸法を測定することができないため、また、比較例3のハイブリッドレジンブロックは樹脂系材料であり仮焼結工程が存在しないため、比較例2及び比較例3については、仮焼結前後の反りの評価をしていない。
その結果、実施例1〜8の仮焼結体1〜8は、いずれも線収縮率差が0.12%以下であった。一方、比較例1の仮焼結体は、線収縮率差が0.12%を超えており、目視でも仮焼結体に反りが確認された。
上記実施例1〜8で得られた本発明の焼結体1〜8及び比較例1〜2を20mm×4mm×1.2mmとなるよう加工し、試験片を実施例ごとに10本ずつ用意した。
JIS T6526:2018に準拠して測定した3点曲げ強さを測定し、600MPa以上である場合を合格とした。その結果を表23に示す。
なお、比較例3の被切削体は、材質が樹脂系材料であり、材質がジルコニアである実施例と比較評価できないため測定していない。
一方、比較例1の焼結体は、600MPaよりも高い3点曲げ強さを示した。比較例2の焼結体は、600MPaよりも低い3点曲げ強さを示した。
B 切端部側から40%の位置
C 切端部側から55%の位置
D 切端部側から70%の位置
E 切端部側から85%の位置
F 歯科補綴物(前歯)の形状
L2 焼結前における切端部側の面の直径
L3 焼結後における歯頸部側の面の直径
L4 焼結後における切端部側の面の直径
Claims (15)
- セラミックス積層体を仮焼結させて歯科用セラミックス仮焼結体を得る工程、及び
前記歯科用セラミックス仮焼結体を焼結させて歯科用セラミックス焼結体を得る工程を備える、歯科用セラミックス焼結体の製造方法であって、
前記セラミックス積層体の層数は、3層であり、
前記セラミックス積層体は、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化コバルトを含有し、
前記歯科用セラミックス焼結体の切端部側から歯頸部側に向かって20%、40%、55%、70%、及び85%の位置をそれぞれA、B、C、D、及びEとした場合に、
前記歯科用セラミックス焼結体における前記A、B、C、D、及びEのいずれの位置間での明暗対比(Yb/Yw;前記Ybは、黒背景の場合のYを、前記Ywは、白背景の場合のYを示す。)の差が、0.03未満である、歯科用セラミックス焼結体の製造方法。 - 前記歯科用セラミックス焼結体において、前記A、B、C、D、及びEの明暗対比が、それぞれ0.5以上0.9以下である、請求項1に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
- 前記歯科用セラミックス焼結体のL*a*b*C*の範囲が、前記A、B、C、D、及びEの各位置において、
A(20%):69≦L*≦89,−2≦a*≦11,
−5≦b*≦38, 0≦C*≦40;
B(40%):68≦L*≦88,−1≦a*≦12,
−2≦b*≦40, 0≦C*≦42;
C(55%):68≦L*≦88, 0≦a*≦13,
1≦b*≦42, 3≦C*≦44;
D(70%):67≦L*≦87, 0≦a*≦13,
2≦b*≦44, 4≦C*≦45;及び
E(85%):67≦L*≦85, 0≦a*≦13,
3≦b*≦44, 5≦C*≦45
である、請求項1又は2に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。 - 前記A及びEの位置における色差ΔEが、4以上13以下である、請求項1〜3の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
- 前記歯科用セラミックス仮焼結体を得る工程が、セラミックス積層体を、最高係留温度が950℃以下の温度で仮焼結させることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
- 前記歯科用セラミックス仮焼結体の切端部側の面における線収縮率と歯頸部側の面における線収縮率との差が、0.12%以下である、請求項1〜5の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
- 前記歯科用セラミックス焼結体における前記A、B、C、D、及びEのいずれの位置間での明暗対比(Yb/Yw;前記Ybは、黒背景の場合のYを、前記Ywは、白背景の場合のYを示す。)の差が、0.01以下である、
請求項1〜6の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。 - セラミックス積層体を仮焼結させて歯科用セラミックス仮焼結体を得る工程、及び
前記歯科用セラミックス仮焼結体を焼結させて歯科用セラミックス焼結体を得る工程を備える、歯科用セラミックス焼結体の製造方法であって、
前記セラミックス積層体の層数は、3層であり、
前記セラミックス積層体は、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化コバルトを含有し、
前記歯科用セラミックス焼結体の切端部側から歯頸部側に向かって20%、40%、55%、70%、及び85%の位置をそれぞれA、B、C、D、及びEとした場合に、
前記歯科用セラミックス焼結体における前記A、B、C、D、及びEのいずれの位置間での明暗対比(Yb/Yw;前記Ybは、黒背景の場合のYを、前記Ywは、白背景の場合のYを示す。)の差が、0.03未満である、歯科用セラミックス焼結体の製造方法であって、
前記酸化エルビウム:前記酸化鉄の配合割合が、2:1〜10:1、及び
酸化鉄:酸化コバルトの配合割合が、11:1〜300:1である、歯科用セラミックス焼結体の製造方法。 - 前記歯科用セラミックス焼結体における前記A、B、C、D、及びEのいずれの位置間での明暗対比(Yb/Yw;前記Ybは、黒背景の場合のYを、前記Ywは、白背景の場合のYを示す。)の差が、0.001以上0.03未満である、請求項1に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
- 前記歯科用セラミックス焼結体のJIS T6526:2018に準拠して測定した3点曲げ強さが、600MPa以上である、請求項1〜9の何れか一項に記載の歯科用セラミックス焼結体の製造方法。
- セラミックス積層体を仮焼結させて歯科用セラミックス仮焼結体を得る工程、及び
前記歯科用セラミックス仮焼結体を焼結させて歯科用セラミックス焼結体を得る工程により製造された、歯科用セラミックス焼結体であって、
前記セラミックス積層体の層数は、3層であり、
前記セラミックス積層体は、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化コバルトを含有し、
歯科用セラミックス焼結体の切端部側から歯頸部側に向かって20%、40%、55%、70%、及び85%の位置をそれぞれA、B、C、D、及びEとした場合に、
前記歯科用セラミックス焼結体における前記A、B、C、D、及びEのいずれの位置間での明暗対比(Yb/Yw;前記Ybは、黒背景の場合のYを、前記Ywは、白背景の場合のYを示す。)の差が、0.03未満である、歯科用セラミックス焼結体。 - 請求項11に記載の歯科用セラミックス焼結体を製作するための歯科用セラミックス仮焼結体。
- 請求項11に記載の歯科用セラミックス焼結体を製作するための歯科用セラミックス仮焼結体であって、
ビッカース硬さ(HV1)が、30以上70以下である、前記歯科用セラミックス仮焼結体。 - 請求項12又は13に記載の歯科用セラミックス仮焼結体をCAD/CAMシステムを用いて切削加工した後、焼結された歯科用補綴物。
- 請求項12又は13に記載の歯科用セラミックス仮焼結体が焼結された歯科用補綴物。
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