JP6754930B2 - テルペン合成酵素遺伝子、アセト酢酸エステル加水分解酵素遺伝子、及びテルペンの製造方法 - Google Patents

テルペン合成酵素遺伝子、アセト酢酸エステル加水分解酵素遺伝子、及びテルペンの製造方法 Download PDF

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本発明は、ヒトに有用な生理活性のあるセスキテルペンの一種であるバレリアノール、ヘディカルオール、α-セリネン、α-コパエン、β-オシメン及びα-ファルネセン、並びにモノテルペンの一種であるリナロールを、ファルネシル二リン酸(モノテルペンの場合はゲラニル二リン酸)から合成するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、並びに該遺伝子を利用したセスキテルペン(又はモノテルペン)の製造方法に関する。
本発明はさらに、テルペン{セスキテルペン、モノテルペン及びテトラテルペン(カロテノイド)等}を生合成する組換え(遺伝子組換え)大腸菌を効果的に培養し、テルペンを効率的に回収するといったテルペンの製造方法に関する。
本発明はさらに、アセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子、及び該遺伝子を利用したテルペン(イソプレノイド、テルペノイド)の効率的な製造方法に関する。
テルペン(イソプレノイド、テルペノイドとも呼ばれる)は、23,000種を超える自然界で最も多様な化合物の集団である。そして、テルペンは、3,000種以上のセスキテルペンや750種以上のテトラテルペン(カロテノイド)を含んでいる。テルペンの中には、医薬品、農薬、機能性食品、香料、又はこれらの原料として用いられているなど産業上有用なものが多く含まれている。
しかしながら、テルペンは、自然界における蓄積量は一部の例を除いて少なく、単品を多量調製するには莫大なコストと労力を必要とするものが多い。したがって、遺伝子組換え微生物又は植物を利用したバイオテクノロジーによる多量生産のための開発研究が盛んに行われてきた。
大腸菌は、遺伝子組換え(以後「組換え」と記載する)の技術や材料、遺伝子情報が最も充実した微生物である。よって、近年、組換え大腸菌を用いてテルペンを多量生産しようとする技術開発の研究が盛んである。
大腸菌はメバロン酸経路を持っておらず、非メバロン酸経路{2-C-メチル-D-エリストール4-リン酸(以後、MEPと記載する場合がある)を経由するのでMEP経路とも呼ばれる}によりテルペン生合成の最初の基質であるイソペンテニル二リン酸(イソペンテニルピロリン酸とも呼ばれる;以後IPPと記載する場合がある)が作られる。
IPPは、IPPイソメラーゼ(以後、Idiと記載する場合がある)によりジメチルアリル二リン酸(以後、DMAPPと記載する場合がある)に変換され、DMAPPはファルネシル二リン酸(以後、FPPと記載する場合がある)合成酵素(シンターゼ;synthase)等によりIPPと順次縮合することにより、炭素数10のゲラニル二リン酸(以後、GPPと記載する場合がある)、炭素数15のFPPに変換される。GPPから分岐して揮発成分であるモノテルペンが作られる。さらに、FPPから分岐して、セスキテルペンやトリテルペンが作られる。FPPはゲラニルゲラニル二リン酸(以後、GGPPと記載する場合がある)合成酵素によりIPPとさらに縮合して炭素数20のGGPPが合成される。このGGPPから分岐して、ジテルペンやカロテノイド(テトラテルペン)が合成される。
大腸菌は、上記のテルペンは生合成しないので、これらのテルペンを大腸菌に生合成させるためには、FPP(又はGPP)からそのテルペンまでの合成を担う生合成酵素遺伝子(群)を大腸菌に導入し、発現させる必要がある。
本発明者らは現在までに、ショウガ科(Zingiberaceae)やウコギ科(Araliaceae)に属する植物から、主としてセスキテルペンの合成酵素遺伝子を単離し、機能解析してきた(参照:特許文献1、2)。たとえば、ショウガ科(Zingiberaceae)の代表作物であるショウガ(生姜;Zingiber officinale)は、熱帯アジア原産の多年草であり、食材や生薬として広く用いられている。ショウガからは、セスキテルペン合成酵素として、ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)遺伝子(ZoGeD)、β-ビサボレン合成酵素(β-bisabolene synthase)遺伝子(ZoTps1)、及びγ-アモルフェン合成酵素(γ-amorphene synthase)遺伝子(ZoTps5)が単離され、その構造と機能解析が行われた(参照:特許文献1、非特許文献1、2)。
また、同じショウガ属植物であるハナショウガ(Zingiber zerumbet)からは、α-フムレン合成酵素(α-humulene synthase)遺伝子(ZzZSS1)やβ-オイデスモール(β-ユーデスモール)合成酵素(β-eudesmol synthase)遺伝子(ZzZSS2)が単離され、その構造と機能解析が行われた(参照:非特許文献3、4)。
大腸菌はメバロン酸経路を有さないが、メバロン酸経路の酵素の遺伝子群(メバロン酸経路遺伝子群;例えば非特許文献5)を大腸菌に導入する研究が盛んに行われてきた。最初の先駆的研究は柿沼らにより行われた(参照:非特許文献6)。柿沼らは、アセトアセチル-コエンザイムA(acetoacetyl-CoA;以後アセトアセチル-CoAと記載)からIPPまでの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、すなわち、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(以後HMG-CoAと記載)合成酵素(HMG-CoA synthase)、HMG-CoAレダクターゼ(HMG-CoA reductase)、メバロン酸キナーゼ(mevalonate kinase;MVA kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(phosphomevalonate kinase; PMVA kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(diphosphomevalonate decarboxylase;DPMVA decarboxylase)をコードする5遺伝子、及び2型のIPPイソメラーゼ(IPP isomerase)をコードする遺伝子群{ストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株由来;非特許文献5;Accession no AB037666;以後、単に「メバロン酸経路遺伝子群」と呼ぶ場合がある}を、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)由来のカロテノイド(テトラテルペン)生合成遺伝子群{crtEcrtBcrtIcrtYcrtZ;FPPからゼアキサンチン(zeaxanthin)を作るのに必要な生合成遺伝子群}とともに大腸菌に導入し、発現させた。この組換え大腸菌は、D-メバロン酸ラクトン(D-mevalonate lactone、D-メバロノラクトン;MVLと記載する場合がある)を培地に基質として加えて培養することにより、効率的にゼアキサンチンを合成することができた(参照:非特許文献6)。
本発明者らも、柿沼らと同じストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(非特許文献5;Accession no AB037666)(2型のIPPイソメラーゼ遺伝子を含む)を用い、そのままの形で大腸菌ベクターpACYC184{クロラムフェニコール(chloramphenicol:Cm)耐性}に挿入し、プラスミドpAC-Mevを作製した(参照:非特許文献7)。プラスミドpAC-Mevを、ハナショウガのα-フムレン合成酵素遺伝子(α-humulene synthase;ZzZSS1)発現用プラスミドとともに大腸菌に導入した組換え大腸菌は0.5 mg/mLのMVLを培地に基質として加えて培養することにより、1 mLあたり1 mgのα-フムレンを生産することが示された(参照:特許文献3、非特許文献7)。なお、プラスミドpAC-Mevを導入すること無しに、ZzZSS1遺伝子を大腸菌に導入し発現させた場合、α-フムレンの生産量はプラスミドpAC-Mevを含む場合の1/11に留まった。なお、メバロン酸経路遺伝子群のソースに関し、本発明者らは、本明細書の実施例でもストレプトミセス属CL190株由来のものを用いたが、酵母や他の細菌由来の相当遺伝子群を用いることもできる(参照:非特許文献8)。また、ハナショウガのβ-オイデスモール合成酵素遺伝子(ZzZSS2)をメバロン酸経路遺伝子群とともに導入し発現させると、その組換え大腸菌はMVLを培地に基質として加えて培養することにより、1 mLあたり100 μgのβ-オイデスモールを生産することが示された(参照:非特許文献4)。なお、これらセスキテルペンだけでなく、モノテルペンのリナロールも上記の系で生成することを示した(参照:特許文献2)。
また、プラスミドpAC-Mev内の外来遺伝子群の最後に、出芽酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の1型のIPPイソメラーゼ(IPP isomerase)遺伝子(Scidi)を挿入したプラスミドpAC-Mev/Scidiを作製した(参照:特許文献3、非特許文献7)。pAC-Mev/Scidiを持つ組換え大腸菌にテルペン生合成遺伝子(例えば、カロテノイドのリコペン生合成に必要なcrtEcrtBcrtI)を導入し発現させると、テルペン(例えばリコペン)の生成量が、Scidi遺伝子が無い場合(プラスミドpAC-Mevの場合)より上昇することが示された(参照:特許文献3、非特許文献7)。なお、1型のIPPイソメラーゼ遺伝子としては、パン酵母サッカロミセス・セレビシエ以外にも、アスタキサンチン産生酵母キサントフィロマイセス・デンドロラス(Xanthophyllomyces dendrorhous)やアスタキサンチン産生緑藻ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)等の真核生物由来のものや一部の原核生物由来のものが知られており(例えばKajiwara, S., Fraser, P. D., Kondo, K., and Misawa, N., Biochem. J., 324: 421-426, 1997)、本発明においても、これらの遺伝子を使用することができる。また、2型のIPPイソメラーゼ遺伝子においても、ストレプトミセス属CL190株以外にも、海洋細菌ブレバンディモナス(Brevundimonas)属SD212株や海洋細菌パラコッカス(Paracoccus)属N81106株等の原核生物が有する遺伝子が知られており(Misawa, N., Marine Drugs, 9 (5): 757-771, 2011)、本発明においても、これらの遺伝子を使用することができる。
以上、メバロン酸経路遺伝子群(2型のIPPイソメラーゼ遺伝子を含む)を、1型のIPPイソメラーゼ(例えば、Scidi遺伝子)を加えて大腸菌に導入し発現させること、及び、培地にMVLを添加して培養することにより、結果的に、その組換え大腸菌内におけるFPP(GPPも)の生成量を多いに増量させることが示された。すなわち、FPPを基質とするセスキテルペン合成酵素(sesquiterpene synthase;sesquiterpene cyclase)遺伝子、GPPを基質とするモノテルペン合成酵素(monoterpene synthase)遺伝子、又はcrtE(GGPP合成酵素遺伝子)から始まるカロテノイド(テトラテルペン)生合成遺伝子群をメバロン酸経路遺伝子群と同時に導入し、発現させることにより、これらの産物であるセスキ(モノ)テルペン又はカロテノイドを効率的に製造することが可能であることが明らかとなった(参照:非特許文献7、8)。
本発明者らは、さらに、前記ストレプトミセス属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群、及び1型のIPPイソメラーゼ遺伝子(Scidi遺伝子)に加えて、ラット(Rattus norvegicus)由来のアセト酢酸-コエンザイムA リガーゼ(acetoacetate-CoA ligase;Aac1;アセトアセチル-CoA シンテターゼ)をコードする遺伝子を付加して、大腸菌に導入し発現させた(参照:特許文献3、非特許文献7、8)。その組換え大腸菌を培養し、アセト酢酸塩(アセト酢酸リチウム塩;Li acetoacetate;以下LAAと記載することがある)を基質として培地に加えることにより、MVL添加の場合と同様に、テルペンを効率的に生産できることを示した(参照:特許文献3、非特許文献7、8)。すなわち、FPPからテルペンを合成する酵素遺伝子のみを導入し発現させた組換え大腸菌の場合と比べて、3.5〜9.3倍(FPPからカロテノイドを合成する酵素遺伝子群の場合)になることを示した(参照:特許文献3、非特許文献7)。
さらに、前述してきた系を利用すると、新規に取得された、又は機能が未知のセスキテルペン(又はモノテルペン)合成酵素遺伝子配列の機能解析を行うことができる(参照:非特許文献8)。すなわち、この遺伝子配列を発現するように導入したMVL又はLAA資化能を持つ組換え大腸菌がセスキテルペン(又はモノテルペン)を生産しているかどうかを調べることができる(大腸菌は元々セスキテルペンやモノテルペンを生産しない)。テルペンが生産されている場合は、そのテルペンの化学構造を解析することにより、そのテルペン合成酵素遺伝子配列は、FPPからその化学構造を持つセスキテルペン(又はGPPからモノテルペン)の産物を合成する酵素をコードする遺伝子であると同定されるからである。セスキテルペンは植物や微生物等(植物が主体)からすでに7,000種以上が単離されているが、まだ、多くのセスキテルペン合成酵素遺伝子が未知である。今後、この系により、テルペン合成酵素遺伝子の機能解析が進むものと期待される(参照:特許文献2、3、非特許文献8)。
なお、MVLは分子内に不斉炭素を持つ高価な試薬(例えば30,200円/g;東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)であったので、比較的安価な試薬であるLAA(例えば11,100円/1 g、35,800円/5 g;東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)の利用技術の開発は意義深いものであった。しかしながら、培地糖源のグルコース(D-(+)-glucose;例えば1,900円/500 g;東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)と比べるとLAAは遥かに高価であるので、更なる安価な基質の開発が望まれていた。
また一般に、セスキテルペン(又はモノテルペン)、特に分子内に酸素原子を含まないものは揮発性が高いので、セスキテルペン(又はモノテルペン)を生合成する組換え大腸菌の培養中に、生産されたセスキテルペン(又はモノテルペン)の一部が揮発してしまい、結果的に産物の回収率を低下させてしまうという問題点がある。そこで、ドデカン(n-dodecane)を培地量の20%程度加えて重層培養し、生成したセスキテルペン(又はモノテルペン)をドデカン層に回収し、GC-MS分析に供するという方法が多用されてきた(参照:特許文献2、3、非特許文献7)。しかしながら、ドデカンはエバポレータで除くのは困難であるので、ドデカン層に回収したセスキテルペン(又はモノテルペン)を精製することは困難であるという問題点を有していた。
また一般に、テトラテルペン(カロテノイド)を生合成する組換え大腸菌を培養して、カロテノイド産物を得る場合、培養液当たりのカロテノイド生産量は、他のテルペン産物と比べると、相当低いという問題点があった。たとえば、セスキテルペンであるα-フムレンの1 mLあたりの生産量は1 mgであるのに対して(参照:特許文献3、非特許文献7)、カロテノイドのリコペンの1 g(≒1 mL)あたりの生産量は高々20 μgに過ぎなかった(参照:非特許文献9)。
特許5457159 特開2013-63063 特許5405030
S. Picard, M. E. Olsson, M. Brodelius, P. E. Brodelius, Arch. Biochem. Biophys. 452: 17-28, 2006 M. Fujisawa, H. Harada, H. Kenmoku, S. Mizutani, N. Misawa, Planta, 232: 121-130; Erratum, 232: 131, 2010 F. Yu, S. Okamoto, K. Nakasone, K. Adachi, S. Matsuda, H. Harada, N. Misawa, R. Utsumi, Planta 227: 1291-1299, 2008 F. Yu, H. Harada, K. Yamasaki, S. Okamoto, S. Hirase, Y. Tanaka, N. Misawa, R. Utsumi, FEBS Lett 582: 565-572, 2008 M. Takagi, T. Kuzuyama, S. Takahashi, H. Seto, J. Bacteriol., 182: 4153-4157, 2000 K. Kakinuma, Y. Dekishima, Y. Matsushima, T. Eguchi, N. Misawa, M. Takagi, T. Kuzuyama, H. Seto, J. Am. Chem. Soc., 123: 1238-1239, 2001 H. Harada, F. Yu, S. Okamoto, T. Kuzuyama, R. Utsumi, N. Misawa, Appl. Microbiol. Biotechnol. 81: 915-925, 2009 H. Harada, N. Misawa, Appl. Microbiol. Biotechnol. 84: 1021-1031, 2009 H. Alper, G. Stephanopoulos, Appl. Microbiol. Biotechnol.78: 801-810, 2008
本発明は、テルペンの製造に関して下記の3つの関連する課題を解決しようとする。
本発明は、FPP又はGPPからセスキテルペン又はモノテルペンの合成に必要な新規酵素遺伝子を取得すること、及び取得した新規合成酵素遺伝子を利用して、テルペンを製造する方法を提供することを課題とする(課題1)。
本発明はさらに、テルペンを産生する組換え大腸菌を培地で培養する際、この大腸菌の効果的な培養法、及びテルペンの効率的な回収・精製法を検討し、テルペンを効率的に製造する方法を提供することを課題とする(課題2)。
本発明はさらに、安価な基質であるアセト酢酸メチルエステルやアセト酢酸エチルエステル等のアセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)を利用するため、アセト酢酸エステル加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子を新たに見出すこと、及び新たに見出したエステラーゼ遺伝子を利用して、テルペンを効率的に製造する方法を提供することを課題とする(課題3)。
本発明者らは、上記3つの関連する課題を解決するために、以下のように鋭意研究を行った。
<課題1>
(i)FPP又はGPPからセスキテルペン又はモノテルペンの合成に必要な新規酵素遺伝子を取得すること、及び取得した新規合成酵素遺伝子を利用して、テルペンを製造する方法を提供することが本発明の課題1である。
LAAからセスキテルペン(又はモノテルペン)の基質であるFPP(又はGPP)を多量に作らせるため、ストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株(非特許文献5;Accession no AB037666)から単離されたメバロン酸経路遺伝子群、すなわち、HMG-CoA合成酵素(HMG-CoA synthase)、HMG-CoAレダクターゼ(HMG-CoA reductase)、メバロン酸キナーゼ(mevalonate kinase;MVA kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(phosphomevalonate kinase; PMVA kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(diphosphomevalonate decarboxylase;DPMVA decarboxylase)をコードする5遺伝子、及びIPPイソメラーゼ(IPP isomerase; 2型)をコードする遺伝子に加えて、さらにサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のIPPイソメラーゼ(IPP isomerase; 1型)をコードする遺伝子(Scidi)及びラット(Rattus norvegicus)由来のアセト酢酸-コエンザイムAリガーゼ(acetoacetate-CoA ligase;Aac1)をコードする遺伝子(Aacl)を発現するためのプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl{いずれも大腸菌ベクターpACYC184を使用;クロラムフェニコール(Cm)耐性;特許文献3、非特許文献7}を作製した。
(ii)ツバキ属(Camellia)花卉植物及びフリージア(Freesia × hybrida)の花、さらにはラッキョウ(Allium chinense G.Don)の鱗茎組織から抽出した全RNAからcDNAを合成し、さらにPCRによって、いくつかの全長の(セスキ)テルペン合成酵素遺伝子配列を単離し、大腸菌発現用ベクターpRSFDuet-1(Novagen社製)に挿入し、目的とする発現用プラスミド{カナマイシン(Km)耐性}を作製した。
上記プラスミドの各々を(i)で作製したプラスミドと共に大腸菌に導入して、LAA、Km及びCmを含む培地で培養し、生成したセスキテルペンを分析することにより、FPPを変換してバレリアノール及び/又はヘディカルオールを合成するバレリアノール/ヘディカルオール合成酵素(シンターゼ)遺伝子、FPPを変換してα-セリネンを合成するα-セリネン合成酵素遺伝子、FPPを変換してα-コパエンを合成するα-コパエン合成酵素遺伝子、及びFPPを変換してβ-オシメン及びα-ファルネセンを合成するβ-オシメン/α-ファルネセン合成酵素遺伝子を新規に取得した。さらに、GPPを変換してリナロールを合成するリナロール合成酵素遺伝子を新規に取得した。
(iii)(ii)で取得したバレリアノール/ヘディカルオール合成酵素遺伝子、α-セリネン合成酵素遺伝子、α-コパエン合成酵素遺伝子、β-オシメン/α-ファルネセン遺伝子、及びリナロール合成酵素遺伝子の大腸菌発現用プラスミドのいずれか1つのプラスミドを、(i)で作製したプラスミドと共に大腸菌に導入して、LAA、Km及びCmを含む培地で培養することにより、ヒトに有用な生理活性のあるセスキテルペンの一種である、バレリアノール、ヘディカルオール、α-セリネン、α-コパエン、β-オシメン及びα-ファルネセンを、及び、ヒトに有用な生理活性のあるモノテルペンの一種であるリナロールを製造する方法を提供することができた。
<課題2>
(i)テルペン{セスキテルペン、モノテルペン、テトラテルペン(カロテノイド)等}を生合成する組換え大腸菌を培地で培養する際、この大腸菌の効果的な培養法、及び該テルペンの効率的な回収・精製法を検討し、テルペンを効率的に製造する方法を提供することが本発明の課題2である。
一般に、セスキテルペン(又はモノテルペン)、特に分子内に酸素原子を含まないものは揮発性が高いので、セスキテルペン(又はモノテルペン)を生合成する組換え大腸菌の培養中に、生産されたセスキテルペン(又はモノテルペン)の一部が揮発してしまい、結果的に産物の回収率を低下させてしまうという問題点がある。そこで、ドデカン(n-dodecane)を培地量の20%程度加えて重層培養し、生成したセスキテルペン(又はモノテルペン)をドデカン層に回収し、GC-MS分析に供するという方法が多用されてきた(参照:特許文献2、3、非特許文献7)。しかしながら、本発明者らは、GC-MS分析だけで、生成したセスキテルペン(又はモノテルペン)産物の構造特定をするのは多くの場合、困難である(信ぴょう性に問題がある)ということを認識するに至り、特に標品が無い場合にはNMR解析が必須であるとの結論に至った。一方、NMR解析をするためには、生成したセスキテルペン(又はモノテルペン)産物の精製が必要であるが、ドデカンをエバポレータで取り除くのは困難であるので、ドデカン層に回収したセスキテルペン(又はモノテルペン)を精製することは困難であるという問題点を有していた。そこで、揮発温度の低い炭素数10以下のn-アルカンを培地量の20%程度加えて重層培養し、生成したセスキテルペン(又はモノテルペン)産物をn-アルカン層に回収して、溶媒をエバポレータで取り除くことにより精製を進めたいと考えた。ところが、炭素数7(n-ヘプタン)以下のn-アルカンは宿主の大腸菌の生育を阻害した。一方、炭素数8(n-オクタン:n-octane)〜炭素数10(デカン:n-decane)のn-アルカンは宿主の大腸菌の生育を阻害せず、しかも、溶媒を通常のダイヤフラムエバポレータ減圧ポンプで取り除くことができ、精製を効率的に進められることが出来ることを見出した。こうして、セスキテルペン(又はモノテルペン)の効率的な回収・精製法を検討するという課題を解決することができた。なお、n-オクタン又はデカンで、セスキテルペン(又はモノテルペン)を生合成する宿主を重層培養して、n-オクタン又はデカン層に産物を回収し精製するといった方法はこれまでは開示されていなかった。
(ii)本発明者らはさらに、テトラテルペン(カロテノイド)を生合成する組換え大腸菌の培養中に、種々の糖(1%程度)を添加し、培養液当たりのカロテノイド量が増えるかどうかを検討した。その結果、微生物培養用培地には通常使わない糖である、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール及び/又はマンノースを含む培地で、カロテノイドを生合成する組換え大腸菌を培養すると、培養液当たりのカロテノイド量が増えることを見出した。以上により、カロテノイドを産生組換え大腸菌の効果的な培養法を検討し、効率的に製造する方法を提供するという課題を解決することができた。
<課題3>
安価な基質であるアセト酢酸メチルエステル(acetoacetic acid methyl ester;methyl acetoacetate:MAA)やアセト酢酸エチルエステル(acetoacetic acid ethyl ester;ethyl acetoacetate:EAA)等のアセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)を利用するため、アセト酢酸エステル加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子を新たに見出すこと、及び新たに見出したエステラーゼ遺伝子を利用して、テルペン{セスキテルペン、モノテルペン、及びテトラテルペン(カロテノイド)を含む;テルペンはイソプレノイド、テルペノイドとも呼ばれる}を効率的に製造する方法を提供することが本発明の課題3である。
なお、試薬としてのアセト酢酸メチルエステル(methyl acetoacetate:MAA)及びアセト酢酸エチルエステル(ethyl acetoacetate:EAA)の価格はそれぞれ、2,800円/500 g及び3,400円/500 gであった(東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)。なお、試薬としてのアセト酢酸リチウム(LAA)の価格は、35,800円/5 gであったので(東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)、LAAの代わりに、MAA及び/又はEAAを用いることにより、大幅なコストダウンが可能である。
これまで、MAA又はEAAを(効率的に)加水分解できる酵素(エステラーゼ)や酵素遺伝子の報告は無かった。そこで、本発明者らは、アミノ酸一次配列より分類した細菌12ファミリーから構成される18個の推定遺伝子を含むエステル加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子について、ゲノム配列データベースより塩基配列を取得し、全長配列を単離した。これらの遺伝子を導入・発現した組換え大腸菌から調製された酵素粗抽出液のうち、13菌株由来サンプルにおいて、可溶性画分に著量の酵素タンパク質の合成が確認された。MAA又はLAAに対する加水分解活性を指標にスクリーニングしたところ、高いアセト酢酸エステル加水分解活性を有するものを3個、見出した。次に、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclに上記3遺伝子の1つを挿入したプラスミド(例:pAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbA)を作製した。そのプラスミドを、FPP(又はGPP)からテルペン(イソプレノイド、テルペノイド)合成に必要な遺伝子又は遺伝子群と共に大腸菌に導入して、評価試験を行った。例えば、テトラテルペン(カロテノイド)のリコペンの合成に必要な遺伝子群を導入した場合においても、セスキテルペンのα-フムレンの合成に必要な遺伝子を導入した場合においても、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAと共に大腸菌に導入した場合、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclと共存させた大腸菌におけるLAA添加の場合(ポジティブコントロール)と比べて、同レベルかそれ以上のMAA又はEAAの資化能を示すことを実証し、本課題を達成することができた。
本発明は上記知見に基づき完成されたものである。即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔22〕を提供する。
〔1〕以下の(1)〜(7)のいずれか1つに示すアセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子:
(1)配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のアセト酢酸エステルを加水分解する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のアセト酢酸エステルを加水分解する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号82〜84、90のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号82〜84、90のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子であり、かつアセト酢酸エステルを加水分解する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号82〜84、90のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAと85%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子であり、かつアセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)を加水分解する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号82〜84、90のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)を加水分解する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔2〕以下の(1)〜(3)のいずれか1つのアミノ酸配列を有するアセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)加水分解酵素(エステラーゼ):
(1)配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のアセト酢酸エステルを加水分解する活性を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号85〜87のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のアセト酢酸エステルを加水分解する活性を有するアミノ酸配列。
〔3〕以下の(1)〜(5)の遺伝子を導入した組換え大腸菌:
(1)ゲラニル二リン酸又はファルネシル二リン酸からテルペン(イソプレノイド、テルペノイド)を合成する酵素の遺伝子又は遺伝子群、
(2)1型及び/又は2型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子又は遺伝子群、
(3)アセトアセチル-コエンザイムAからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(4)アセト酢酸-コエンザイムAリガーゼ遺伝子、
(5)アセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子。
〔4〕前記アセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子が、前記の〔1〕に記載の遺伝子であることを特徴とする、前記の〔3〕に記載の組換え大腸菌。
〔5〕前記の〔3〕又は〔4〕に記載の組換え大腸菌を、アセト酢酸メチルエステル及び/又はアセト酢酸エチルエステルを含む培地で培養して得られる培養物又は菌体からテルペンを得ることを特徴とする、テルペンの製造方法。
〔6〕以下の(1)〜(7)のいずれか1つに示す遺伝子:
(1)配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をバレリアノール及び/又はヘディカリオールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をバレリアノール及び/又はヘディカリオールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号4〜20のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号4〜20のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をバレリアノール及び/又はヘディカリオールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号4〜20のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAと85%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をバレリアノール及び/又はヘディカリオールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号4〜20のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をバレリアノール及び/又はヘディカリオールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔7〕以下の(1)〜(3)のいずれか1つのアミノ酸配列を有するバレリアノール/ヘディカリオール合成酵素:
(1)配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をバレリアノール及び/又はヘディカリオールに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号21〜37のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をバレリアノール及び/又はヘディカリオールに変換する活性を有するアミノ酸配列。
〔8〕以下の(1)〜(7)のいずれか1つに示す遺伝子:
(1)配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-セリネンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-セリネンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号46〜48のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号46〜48のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をα-セリネンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号46〜48のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAと85%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をα-セリネンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号46〜48のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をα-セリネンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔9〕以下の(1)〜(3)のいずれか1つのアミノ酸配列を有するα-セリネン合成酵素:
(1)配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-セリネンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号49〜51のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-セリネンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
〔10〕以下の(1)〜(7)のいずれか1つに示す遺伝子:
(1)配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-コパエンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-コパエンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号54〜61のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号54〜61のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をα-コパエンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号54〜61のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAと85%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をα-コパエンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号54〜61のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をα-コパエンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔11〕以下の(1)〜(3)のいずれか1つのアミノ酸配列を有するα-コパエン合成酵素:
(1)配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-コパエンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号62〜69のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-コパエンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
〔12〕以下の(1)〜(7)のいずれか1つに示すリナロール合成酵素遺伝子:
(1)配列番号75に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号75に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号75に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸をリナロールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号75に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号75に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸をリナロールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号74に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号74に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子であり、かつゲラニル二リン酸をリナロールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号74に記載の塩基配列からなるDNAと85%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子であり、かつゲラニル二リン酸をリナロールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号74に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつゲラニル二リン酸をリナロールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔13〕以下の(1)〜(3)のいずれか1つのアミノ酸配列を有するリナロール合成酵素:
(1)配列番号75に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号75に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号75に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸をリナロールに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号75に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号75に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸をリナロールに変換する活性を有するアミノ酸配列。
〔14〕以下の(1)〜(7)のいずれか1つに示す遺伝子:
(1)配列番号77に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号77に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号77に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オシメン及びα-ファルネセンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号77に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号77に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オシメン及びα-ファルネセンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号76に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号76に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をβ-オシメン及びα-ファルネセンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号76に記載の塩基配列からなるDNAと85%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をβ-オシメン及びα-ファルネセンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
(7)配列番号76に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をβ-オシメン及びα-ファルネセンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔15〕以下の(1)〜(3)のいずれか1つのアミノ酸配列を有するβ-オシメン/α-ファルネセン合成酵素:
(1)配列番号77に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号77に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号77に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オシメン及び/又はα-ファルネセンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号77に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号77に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オシメン及び/又はα-ファルネセンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
〔16〕前記の〔6〕、〔8〕、〔10〕、〔12〕及び〔14〕のいずれか1項以上に記載の遺伝子を導入した組換え大腸菌。
〔17〕前記の〔16〕に記載の組換え大腸菌を、培地で培養して得られる培養物又は菌体からバレリアノール、ヘディカルオール、α-セリネン、α-コパエン、リナロール、β-オシメン、及びα-ファルネセンを得ることを特徴とする、テルペンの製造方法。
〔18〕テルペン合成酵素遺伝子を有する宿主を、n-オクタン乃至デカン(炭素数8〜10)のn-アルカンのいずれか1つ以上を重層した培地で培養し、培養後アルカン層からテルペンを回収し精製することを特徴とする、テルペンの製造方法。
〔19〕前記の〔18〕に記載のテルペン合成酵素遺伝子を有する宿主が、テルペン合成酵素遺伝子を導入した組換え大腸菌であることを特徴とする、テルペンの製造方法。
〔20〕前記の〔18〕又は〔19〕に記載のテルペンが、バレリアノール、ヘディカルオール、α-セリネン、α-コパエン、リナロール、β-オシメン及びα-ファルネセン、並びにγ-アモルフェン、ゲルマクレンD、アロマデンドレン、cis-ムウロラ-4(15),5-ジエン{cis-muurola-4(15),5-diene}、β-クベベン及び/又はδ-カジネンであることを特徴とする、テルペンの製造方法。
〔21〕テトラテルペン(カロテノイド)合成酵素遺伝子群を導入した組換え大腸菌を、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール及び/又はマンノースを含む培地で培養し、培養後菌体又は培養物からテトラテルペン(カロテノイド)を抽出することを特徴とする、テルペンの製造方法。
〔22〕前記の〔21〕に記載のテトラテルペン(カロテノイド)が、リコペン、β-カロテン及び/又はゼアキサンチンであることを特徴とする、テルペンの製造方法。
本明細書において、遺伝子における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションを利用することにより得られたDNAが、活性を有するポリペプチドをコードするかどうかは、例えば、そのDNAを大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等が目的のタンパク質を生成することができるかどうか調べることによりわかる。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、各遺伝子(例えば、配列番号4〜20、配列番号46〜48、配列番号54〜61、配列番号74、配列番号76、配列番号82〜84及び配列番号90)と通常、高い同一性を有する。高い同一性とは、90%以上の同一性、好ましくは95%以上の同一性、更に好ましくは98%以上の同一性を指す。
本発明は、ヒトに有用な生理活性のあるセスキテルペンの一種である、バレリアノール、ヘディカルオール、α-セリネン、α-コパエン、β-オシメン、及びα-ファルネセン、並びにモノテルペンの一種であるリナロールを、FPP(リナロールのみGPP)を基質として合成するタンパク質(酵素)及び該タンパク質をコードする遺伝子を取得し、提供することができた。本発明によれば、バレリアノール、ヘディカルオール、α-セリネン、α-コパエン、β-オシメン、及びα-ファルネセン、並びにリナロールを大腸菌等で製造する方法を提供することができた。
本発明はさらに、セスキテルペン(又はモノテルペン)を合成する組換え宿主(大腸菌)を培地で本培養する時から、炭素数8〜10のn-アルカンを20%程度加えて重層培養するといった該テルペンの効率的な回収・精製法を考案し、テルペンを効率的に製造する方法を提供することができた。本発明はまた、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、及び/又はマンノースを培地に1%程度添加して培養するという、テトラテルペン(カロテノイド)を合成する組換え大腸菌の効果的な培養法を開発し、テトラテルペンを効率的に製造する方法を提供することができた。
本発明はさらに、安価な基質であるアセト酢酸メチルエステル又はアセト酢酸エチルエステルを利用するため、新たに見出したアセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子を利用して、テルペン(イソプレノイド、テルペノイド)を効率的に製造する方法を提供することができた。
カンツバキ(Camellia × hiemalis)の (a) 花、及び(b) 地上部を表す図。 ChTPS1-1と既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoTPS1はZingiber officinale Roscoe由来β-ビサボレン合成酵素(BAI67934)を示す。ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRDR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。 プラスミドpRSF-ChTps1-xの構造を表す図。ChTps1-xのORFに相当するcDNA(1,665 bp又は1,563 bp)が、ベクターpRSFDuet-1のBglI-XhoI間に挿入されている。 組換え大腸菌のセスキテルペン生成物のGC-MS分析結果を表す図。(a)ChTps1-1を含むプラスミドpRSF-ChTps1-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1および2を矢印で示した。(b)ChTps1-10を含むプラスミドpRSF-ChTps1-10とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1および2を矢印で示した。(c)ChTps1-xを含まないベクターpRSFDuet-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム(コントロール)。 ヘディカルオールのH NMRスペクトル(a)、及びヘディカルオールの室温での構造変化予想図(b)を示す図。 本発明で生産可能なセスキテルペンである、バレリアノール(Valerianol)及びヘディカリオール(Hedycaryol)の化学構造とファルネシル二リン酸(FPP)からの生合成を示す図。ヘディカルオールはGC分析等の熱(heat)でエレモール(Elemol)に変換される。 フリージア(Freesia × hybrida)エアリーパープルの花 (a)、及びエアリーピーチの花(b)を表す図。 Fh1TPS-y(yは1〜3)と既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoTPS1はZingiber officinale Roscoe由来β-ビサボレン合成酵素(BAI67934)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRDR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。 プラスミドpRSF-Fh1Tps-y及びpRSF-Fh6Tps-zの構造を表す図。Fh1Tps-y及びFh6Tps-zのそれぞれのORFに相当するcDNA(1,701 bp)及びcDNA(1,713 bp)が、ベクターpRSFDuet-1のNdeI-KpnI間に挿入されている。 組換え大腸菌のセスキテルペン生成物のGC-MS分析結果を表す図。(a)Fh1Tps -1を含むプラスミドpRSF-Fh1Tps-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(b)Fh1Tps -2を含むプラスミドpRSF-Fh1Tps-2とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(c)Fh1Tps -3を含むプラスミドpRSF-Fh1Tps-3とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(d)Fh1Tps-yを含まないベクターpRSFDuet-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム(コントロール)。 本発明で生産可能な、フリージア花由来のセスキテルペンである、α-セリネン(α-selinene)とα-コパエン(α-copaene)の化学構造とファルネシル二リン酸(FPP)からの生合成を示す図。 Fh6TPS-z(zは1〜8)と既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoTPS1はZingiber officinale Roscoe由来β-ビサボレン合成酵素(BAI67934)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRDR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。 組換え大腸菌のセスキテルペン生成物のGC-MS分析結果を表す図。8個のFh6Tps-zの内、活性の高かった上位4つの分析結果を記した。(a)Fh6Tps -1を含むプラスミドpRSF-Fh6Tps-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(b)Fh6Tps -2を含むプラスミドpRSF-Fh6Tps-2とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(c)Fh6Tps -3を含むプラスミドpRSF-Fh6Tps-3とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(d)Fh6Tps -4を含むプラスミドpRSF-Fh6Tps-4とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(e)Fh6Tps-zを含まないベクターpRSFDuet-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム(コントロール)。 ツバキ(Camellia saluenensis 品種名:いのくち香り)の花を表す図。 CsTPS1と既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoTPS1はZingiber officinale Roscoe由来β-ビサボレン合成酵素(BAI67934)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。モノテルペン/セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRDR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。 プラスミドpRSF-CsTps1の構造を表す図。CsTps1のORFに相当するcDNA(1,728 bp)が、ベクターpRSFDuet-1のNdeI-KpnI間に挿入されている。 組換え大腸菌のモノテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)CsTps1を含むプラスミドpRSF-CsTps1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(b)CsTps1を含まないベクターpRSFDuet-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のGCクロマトグラム(コントロール)。 本発明で生産可能なモノテルペンである、リナロール(linalool)の化学構造とゲラニル二リン酸(GPP)からの生合成を示す図。 ラッキョウ(Allium chinense G.Don)の全体写真、及び鱗茎からの全RNA抽出の工程を示す図である。 組換え大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)AlcTPS1を含むプラスミドpAlcTPS1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株のドデカン抽出液(ドデカン層)のGCクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(b)AlcTPS1を含まないベクターpRSFDuet-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株のドデカン抽出液(ドデカン層)のGCクロマトグラム(コントロール)。 組換え大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)AlcTPS1を含むプラスミドpAlcTPS1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌株のドデカン抽出液(ドデカン層)のGCクロマトグラム。新規なピーク2を矢印で示した。(b)AlcTPS1を含まないベクターpRSFDuet-1とプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持する大腸菌のドデカン抽出液(ドデカン層)のGCクロマトグラム(コントロール)。 ピーク1(図20)のMSスペクトル(a)とβ-オシメン(β-ocimene)のMSスペクトル(b)を示す図である。 ピーク2(図21)のMSスペクトル(a)とα-ファルネセン(α-farnesene)のMSスペクトル(b)を示す図である。 ショウガのγ-アモルフェン合成酵素遺伝子(ZoTps5)を発現した大腸菌(プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持)の溶媒抽出物のPDA-HPLC分析図。 ショウガのγ-アモルフェン合成酵素遺伝子(ZoTps5)を発現した大腸菌(プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持)により生産された4種類のセスキテルペンの構造。 タラノキのクベベン合成酵素遺伝子(AeTps1)を発現した大腸菌(プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持)の溶媒抽出物のTLC分析図。 タラノキのクベベン合成酵素遺伝子(AeTps1)を発現した大腸菌(プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを保持)により生産された4種類のセスキテルペンの構造。 アセト酢酸エチルエステル(EAA)及びアセト酢酸メチルエステル(MAA)に対する各種加水分解酵素のエステラーゼ活性評価を示す図である。 プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbA及びpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAoptの構造を示す図である。 アセト酢酸リチウム(LAA)、MAA、又はEAAを基質とした場合の、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbA、又はpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAoptを導入したリコペン(lycopene)産生大腸菌によるリコペン生産量を比較した図である。なお、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclはエステラーゼ活性を持たないコントロールとして用いた。左図は、乾燥菌体重量(DCW)1gあたりのリコペン産生量を示し、右図は、培地1Lあたりのリコペン産生量を示す。 LAA、MAA、又はEAAを基質とした場合の、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAを導入したα-フムレン産生大腸菌によるα-フムレン(α-humulene)生産量を比較した図である。なお、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclはエステラーゼ活性を持たないコントロールとして用いた。 LB培地に種々の糖1%を加えて、リコペン産生大腸菌(プラスミドpACCRT-EIBとpRK-idiを有する)を、バッフル付き三角フラスコを用いて培養した時の力価を検討した結果を示す図である。 α-コパエン(α-copaene)とカテキン(catechin;ポジティブコントロール)を用いたラット脳脂質過酸化抑制試験の結果を示す図である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
(1.メバロン酸経路遺伝子群とIPPイソメラーゼ遺伝子導入の効果)
大腸菌はメバロン酸経路を有さないが、メバロン酸経路の酵素の遺伝子群(メバロン酸経路遺伝子群)を大腸菌に導入する研究が盛んに行われてきた。最初の先駆的研究は柿沼らにより行われた(参照:非特許文献6)。柿沼らは、アセトアセチル-CoAからIPPまでの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、すなわち、HMG-CoA合成酵素(HMG-CoA synthase)、HMG-CoAレダクターゼ(HMG-CoA reductase)、メバロン酸キナーゼ(mevalonate kinase;MVA kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(phosphomevalonate kinase; PMVA kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(diphosphomevalonate decarboxylase;DPMVA decarboxylase)をコードする5遺伝子、及び2型のIPPイソメラーゼ(IPP isomerase)をコードする遺伝子群{ストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株由来;非特許文献5;Accession no AB037666}を、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)由来のカロテノイド(テトラテルペンとも呼ばれる)生合成遺伝子群{crtEcrtBcrtIcrtYcrtZ;FPPからゼアキサンチン(zeaxanthin)を作るのに必要な生合成遺伝子群}とともに大腸菌に導入し、発現させた。この組換え大腸菌は、D-メバロン酸ラクトン(D-mevalonate lactone、D-メバロノラクトン;MVLと記載する場合がある)を培地に基質として加えて培養することにより、効率的にゼアキサンチンを合成することができた(参照:非特許文献6)。
本発明者らも、柿沼らと同じストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(非特許文献5;Accession no AB037666)(2型のIPPイソメラーゼ遺伝子を含む)を用い、そのままの形で大腸菌ベクターpACYC184{クロラムフェニコール(Cm)耐性}に挿入し、プラスミドpAC-Mevを作製した(参照:非特許文献7)。プラスミドpAC-Mevを、ハナショウガのα-フムレン合成酵素遺伝子(α-humulene synthase;ZzZSS1)発現用プラスミドとともに大腸菌に導入した組換え大腸菌は0.5 mg/mLのMVLを培地に基質として加えて培養することにより、1 mLあたり1 mgのα-フムレンを生産することが示された(参照:特許文献3、非特許文献7)。なお、プラスミドpAC-Mevを導入すること無しに、ZzZSS1遺伝子を大腸菌に導入し発現させた場合、α-フムレンの生産量はプラスミドpAC-Mevを含む場合の1/11に留まった。なお、メバロン酸経路遺伝子群のソースに関し、本発明者らは、本明細書の実施例でもストレプトミセス属CL190株由来のものを用いたが、酵母や他の細菌由来の相当遺伝子群を用いることもできる(参照:非特許文献8)。また、ハナショウガのβ-オイデスモール合成酵素遺伝子(ZzZSS2)をメバロン酸経路遺伝子群とともに導入し発現させると、その組換え大腸菌はMVLを培地に基質として加えて培養することにより、1 mLあたり100 μgのβ-オイデスモールを生産することが示された(参照:非特許文献4)。なお、これらセスキテルペンだけでなく、モノテルペンのリナロールも上記の系で生成することを示した(参照:特許文献3)。
また、プラスミドpAC-Mev内の外来遺伝子群の最後に、出芽酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の1型のIPPイソメラーゼ(IPP isomerase)遺伝子(Scidi)を挿入したプラスミドpAC-Mev/Scidiを作製した(参照:特許文献3、非特許文献7)。pAC-Mev/Scidiを持つ組換え大腸菌にテルペン生合成遺伝子(例えば、カロテノイドのリコペン生合成に必要なcrtEcrtBcrtI)を導入し発現させると、テルペン(例えばリコペン)の生成量が、Scidi遺伝子が無い場合(プラスミドpAC-Mevの場合)より上昇することが示された(参照:特許文献3、非特許文献7)。なお、1型のIPPイソメラーゼ遺伝子としては、パン酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、緑藻ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)等の真核微生物や一部の原核生物が有する遺伝子が知られており(Kajiwara, S., Fraser, P. D., Kondo, K., and Misawa, N., Biochem. J., 324: 421-426, 1997)、本発明においても、これらの遺伝子を使用することができる。また、2型のIPPイソメラーゼ遺伝子においても、大腸菌由来の2型のIPPイソメラーゼ遺伝子(V. J. J. Martin, D. J. Pitera, S. T. Withers, J. D. Newman, J. D. Keasling, Nature Biotechonosy, 21: 796-802, 2003)のほか、海洋細菌ブレバンデォモナス(Brevundimonas)属SD212株やパラコッカス(Paracoccus)属N81106株の2型IPPイソメラーゼ遺伝子など原核生物由来遺伝子が知られており(Misawa, N., Marine Drugs, 9 (5): 757-771, 2011)、本発明においても、これらの遺伝子を使用することができる。
以上、メバロン酸経路遺伝子群(2型のIPPイソメラーゼ遺伝子を含む)を、1型のIPPイソメラーゼ(例えばScidi遺伝子)を加えて大腸菌に導入し発現させること、及び、培地にMVLを添加して培養することにより、結果的に、その組換え大腸菌内におけるFPPの生成量を多いに増量させることが示された。すなわち、FPPを基質とするセスキテルペン合成酵素(sesquiterpene synthase;sesquiterpene cyclase)遺伝子、モノテルペン合成酵素(monoterpene synthase)遺伝子、又はcrtE(GGPP合成酵素遺伝子)から始まるカロテノイド生合成遺伝子群をメバロン酸経路遺伝子群と同時に導入し、発現させることにより、これらの産物であるセスキ(モノ)テルペン又はカロテノイドを効率的に製造することが可能であることが明らかとなった(参照:非特許文献7、8)。
(2.アセト酢酸塩、アセト酢酸エステル資化遺伝子導入の効果)
D-メバロノラクトン(MVL)は分子内に不斉炭素を含むため高価(たとえば東京化成工業株式会社2012-2013のカタログによると1 g:30,200円)であり実用化は困難なため、より安価な基質を用いて効率的にテルペンを作る系の構築が望まれていた。そこで本発明者らは、前記ストレプトミセス属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(2型のIPPイソメラーゼ遺伝子を含む)、及び1型のIPPイソメラーゼ遺伝子(Scidi遺伝子)に加えて、ラット(Rattus norvegicus)由来のアセト酢酸-コエンザイムA リガーゼ遺伝子(acetoacetate-CoA ligase;Aac1;アセトアセチル-CoA シンテターゼ)をコードする遺伝子を付加して、大腸菌に導入し発現させた(参照:特許文献3、非特許文献7、8)。その組換え大腸菌を培養し、LAAを基質として(終濃度1.0 g/L)、培地に加えることにより、MVL添加の場合と同様に、テルペンを効率的に生産できることを示した(参照:特許文献3、非特許文献7、8)。すなわち、FPPからテルペンを合成する酵素遺伝子のみを導入し発現させた組換え大腸菌の場合と比べて、3.5〜9.3倍(FPPからカロテノイドを合成する酵素遺伝子群の場合)になることを示した(参照:特許文献3、非特許文献7)。イソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群としては、前述したストレプトミセス属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(参照:非特許文献5)を用いることができるが、これ以外にも出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(V. J. J. Martin, D. J. Pitera, S. T. Withers, J. D. Newman, J. D. Keasling, Nature Biotechonosy, 21: 796-802, 2003)、細菌ストレプトコッカス・プノイモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(S. H. Yoon, Y. M. Lee, J. E. Kim, S. H. Lee, J. H. Lee, J. Y. Kim, K. H. Jung, Y. C. Shin, J. D. Keasling, S. W. Kim, Biotechnology & Bioengineering, 94: 1025-1032, 2006)なども用いることができる。
さらに、前述してきた系を利用すると、新規に取得された、又は機能が未知のセスキテルペン(又はモノテルペン)合成酵素遺伝子配列の機能解析を行うことができる(参照:非特許文献8)。すなわち、この遺伝子配列を発現するように導入したMVL又はLAA資化能を有する組換え大腸菌がセスキテルペン(又はモノテルペン)を生産しているかどうかを調べることができる(大腸菌は元々セスキテルペンやモノテルペンを生産しない)。テルペンが生産されている場合は、そのテルペンの化学構造を解析することにより、そのテルペン合成酵素遺伝子配列は、FPPからその化学構造を持つセスキテルペン(又はモノテルペン)の産物を合成する酵素をコードする遺伝子であると同定されるからである。セスキテルペンは植物や微生物等(植物が主体)からすでに7,000種以上が単離されているが、まだ、多くのセスキテルペン合成酵素遺伝子が未知である。今後、この系により、テルペン合成酵素遺伝子の機能解析が進むものと期待される(参照:特許文献2、3、非特許文献8)。
なお、MVLは分子内に不斉炭素を持つ高価な試薬(例えば30,200円/g;東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)であったので、比較的安価な試薬であるLAA(例えば11,100円/g、35,800円/5 g;東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)の利用技術の開発は意義深いものであった。しかしながら、培地糖源のグルコース(D-(+)-glucose;例えば1,900円/500 g;東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)と比べるとLAAは遥かに高価であるので、更なる安価な基質の開発が望まれていた。
なお、試薬としてのアセト酢酸メチルエステル(methyl acetoacetate:MAA)及びアセト酢酸エチルエステル(ethyl acetoacetate:EAA)の価格はそれぞれ、2,800円/500 g及び3,400円/500 gであった(東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)。なお、試薬としてのアセト酢酸リチウム(LAA)の価格は、35,800円/5 gであったので(東京化成工業株式会社2012-2013カタログ)、LAA の代わりに、MAA及び/又はEAAを用いることにより、大幅なコストダウンが可能である。
これまで、MAA又はEAAを(効率的に)加水分解できる酵素(エステラーゼ)や酵素遺伝子の報告は無かった。そこで、本発明者らは、アミノ酸一次配列より分類した細菌12ファミリーから構成される18個の推定遺伝子を含むエステル加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子について、ゲノム配列データベースより塩基配列を取得し、全長配列を単離した。これらの遺伝子を導入・発現した組換え大腸菌から調製された酵素粗抽出液のうち、13菌株由来サンプルにおいて、可溶性画分に著量の酵素タンパク質の合成が確認された。MAA又はLAAに対する加水分解活性を指標にスクリーニングしたところ、PnbA、PA3859およびSGO0795の3遺伝子の発現株にて高いアセト酢酸エステル加水分解活性を有していることが確認された。次に、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl{いずれも大腸菌ベクターpACYC184を使用;クロラムフェニコール(Cm)耐性;特許文献3、非特許文献7}に上記3遺伝子の1つを挿入したプラスミドを作製した。その一例としてのプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbA及びpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAoptの構造を図29に示した。プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbA(又はpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAopt、又は他のアセト酢酸エステル加水分解酵素遺伝子を含む類似のプラスミド)を、FPP(又はGPP)からテルペン(イソプレノイド、テルペノイド)合成に必要な遺伝子又は遺伝子群と共に大腸菌に導入して、評価試験を行った。例えば、テトラテルペン(カロテノイド)のリコペンの合成に必要な遺伝子群を導入した場合においても、セスキテルペンのα-フムレンの合成に必要な遺伝子を導入した場合においても、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbA(又はpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAopt)と共に大腸菌に導入した場合、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclと共存させた大腸菌におけるLAA添加の場合(ポジティブコントロール)と比べて、同レベルかそれ以上のMAA又はEAAの資化能を示すことが明らかになった(図30、図31)。すなわち、本発明によって、安価な基質であるMAA又はEAAを利用して、テルペン{セスキテルペン、モノテルペン、及びテトラテルペン(カロテノイド)を含む;テルペンはイソプレノイド、テルペノイドとも呼ばれる}を組換え大腸菌により安価に製造することができる。
{3.テルペン合成酵素(テルペンシンターゼ;terpene synthase、TPS)と生成したテルペンの機能}
モノテルペン、セスキテルペン及び一部のジテルペンを合成する酵素タンパク質は互いに相同性を有しており、総称して、テルペン合成酵素(テルペンシンターゼ;terpene synthase、TPS)と呼ばれている。モノテルペンとセスキテルペンは植物の精油に含まれる主成分であり、植物の香り・芳香成分である。モノテルペンには、リモネン(例えば柑橘の香り成分)、リナロール(例えばラベンダーやベルガモットの香り成分)、メンソール(ハッカ植物の香り成分)、カンファ―(樟脳)といった有名な香り・芳香成分が含まれている。リナロール合成酵素(linalool synthase)遺伝子は今日までに、サルナシ(Actinidia arguta)、マタタビ(Actinidia polygama)、ショウガ(Zingiber officinale)、ウコン(秋ウコン;Curcuma longa)など種々の植物から得られているが、機能解析されたリナロール合成酵素は全て、セスキテルペンのネロリドール(nerolidol)合成活性を共有することがわかっている(H. J. Koo, D. R. Gang, Suites of terpene synthases explain differential terpenoid production in ginger and turmeric tissues. PLoS One 7:e51481, 2012)。それゆえ、リナロール合成酵素はしばしば、リナロール/ネロリドール合成酵素(linalool/nerolidol synthase)とも呼ばれる。なお、リナロールが心地よい香りであるのに対して、ネロリドールは不快臭である。一方、本発明に含まれるツバキ(Camellia saluenensis 品種名:いのくち香り)由来のリナロール合成酵素(CsTPS1)はネロリドール合成活性を全く持っていない。したがって、CsTPS1は機能的にも新規な酵素である。
セスキテルペンは、植物や微生物等(植物が主体)からすでに7,000種以上が単離され、化学構造は公知である。しかし、多くの{セスキテルペンシンターゼ;(sesqui)terpene synthase、TPS}遺伝子が未知である(参照:非特許文献8)。触媒機能が明らかになっている植物等のセスキテルペン合成酵素(及びそれをコードする遺伝子)の例として、アメリカオオモミ(ベイモミ;grand fir)から単離されたδ-セリネン合成酵素やγ-フムレン合成酵素遺伝子(C. L. Steele, J. Crock, J. Bohlmann, R. Croteau, Sesquiterpene synthases from grand fir (Abies grandis). Comparison of constitutive and wound-induced activities, and cDNA isolation, characterization, and bacterial expression of δ-selinene synthase and γ-humulene synthase. J. Biol. Chem. 273:2078-2089, 1998)がある。また、ショウガ科(Zingiberaceae)に属する植物では、ショウガ(生姜;Zingiber officinale)から、セスキテルペン合成酵素としてはゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)遺伝子(ZoGeD;非特許文献1)、β-ビサボレン合成酵素(β-bisabolene synthase)遺伝子(ZoTPS1;特許文献1、非特許文献2)、γ-アモルフェン合成酵素(γ-amorphene synthase)遺伝子(ZoTPS5;特許文献1)が単離され、その構造と機能解析が行われた。また、同じショウガ属植物であるハナショウガ(Shampoo ginger; Zingiber zerumbet)から、α-フムレン合成酵素(α-humulene synthase)遺伝子(ZzZSS1)やβ-オイデスモール合成酵素(β-eudesmol synthase)遺伝子(ZzZSS2)が単離され、その構造と機能解析が行われた(参照:非特許文献3、4)。
本発明では、FPPからセスキテルペンを合成する酵素遺伝子として、バレリアノール/ヘディカルオール合成酵素(valerianol/hedycaryol synthase)遺伝子(例えばChTps1-1)、α-セリネン合成酵素(α-selinene synthase)遺伝子(例えばFh1Tps-1)、α-コパエン合成酵素(α-copaene synthase)遺伝子(例えばFh6Tps-1)、及びβ-オシメン/α-ファルネセン合成酵素(β-ocimene/α-farnesene synthase)遺伝子(AlcTPS1)を新規に見出した。特に、バレリアノールを合成する酵素や該酵素をコードする遺伝子については、これまで知られていなかったので、本明細書により世界で初めて開示された。また、α-セリネン又はα-コパエンをほぼ単一産物として合成する酵素やこれをコードする遺伝子については、これまで知られていなかったので(少なくとも学術論文と配列情報の両方が開示されたものの中では)、本明細書により世界で初めて開示された。
さらに、本発明に含まれるセスキテルペン(及びモノテルペン)合成酵素遺伝子の大腸菌発現用プラスミドのいずれか1つのプラスミドを、前述したCm耐性プラスミド(例えばpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbA)と共に大腸菌に導入して、LAA、Km及びCmを含む培地で培養することにより、バレリアノール、ヘディカルオール、α-セリネン、α-コパエン、β-オシメン及びα-ファルネセン(及びリナロール)を効率的に生産することができる。これらのセスキテルペン(及びモノテルペン)には、人の健康に有用な生理機能があることが期待される。例えば、バレリアノールには卵巣機能強壮作用が、α-コパエンには抗炎症作用が、β-オシメンには抗菌・抗ウィルス作用があると考えられている。また、本発明においても、α-コパエンについてラット脳脂質過酸化抑制試験(in vitro抗酸化活性試験)を実施し、α-コパエンが穏やかな抗酸化活性 (IC50 = 35.1 μM) を有することを実際に示した。
(4.大腸菌の株及び遺伝子組換え実験方法)
本明細書実施例では、大腸菌B株のBL21(DE3)、K12株のJM101又はJM109を用いた。しかし、大腸菌の株には、大腸菌K12株のDH5、HB101、LE392、JM109(DE3)など種々の株が存在するので、大腸菌の株としてBL21(DE3)、JM101及びJM109に限定されるものでない。
また、下記実施例では、組換え大腸菌の培養培地として、LB培地とTB培地を利用したが、大腸菌の培養培地としては、2 x YT培地、M9培地等多くの培地が存在するので、LB培地やTB培地に限定されるものでない。
また、遺伝子組換え実験方法としては、下記実施例で示されているメーカーによる実施マニュアル以外に、多くの手引書が存在している。たとえば、Sambrook and Russel, Molecular Cloning A Laboratory Manual (Third edition) Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001が例示できる。本手引書は包括的であり、通常の遺伝子組換え実験方法以外に、大腸菌株の種類、ベクターの種類、培養法等が示されているので、参考にして実験を行うことができる。
(5.組換え大腸菌以外の宿主)
本発明のセスキテルペンの製造方法において、組換え大腸菌以外の宿主としては、昆虫系、酵母系、植物細胞系、無細胞系(コムギ胚芽等)等を使用することができる。
これらの宿主においても、適切な各合成酵素遺伝子を導入することにより、組換え大腸菌系と同様に、セスキテルペン(又はモノテルペン)の製造が可能になる。各宿主に必要な合成酵素遺伝子は、以下の通りである。
酵母系:本発明のセスキテルペン(又はモノテルペン)合成酵素遺伝子を、酵母発現用ベクターを用いて、酵母に導入し発現させることにより、これらのセスキテルペンの製造が可能になる。なお、HMG-CoAレダクターゼ(HMG-CoAからメバロン酸を作る酵素)遺伝子を共発現させることにより、目的のセスキテルペン生産量が向上させることができると考えられる。
昆虫系:本発明のセスキテルペン(又はモノテルペン)合成酵素遺伝子を、昆虫発現用ベクターを用いて、昆虫に導入し発現させることにより、これらのセスキテルペンの製造が可能になる。なお、HMG-CoAレダクターゼ遺伝子を共発現させることにより、目的のセスキテルペン生産量が向上することができると考えられる。
植物細胞系:本発明のセスキテルペン(又はモノテルペン)合成酵素遺伝子を、植物発現用ベクターを用いて、植物に導入し発現させることにより、これらのセスキテルペン(又はモノテルペン)の製造が可能になる。なお、IPPイソメラーゼ(idi)又はHMG-CoAレダクターゼ遺伝子を共発現させることにより、目的のテルペン生産量が向上することができると考えられる。加えて、パーティクルガンによる葉緑体の形質転換により葉緑体内に、直接、外来遺伝子を導入し発現させる場合は、イソペンテニル二リン酸(IPP)イソメラーゼ(1型及び/又は2型)遺伝子を共発現させることにより、目的のセスキテルペン生産量が向上することができると考えられる。
(6.セスキテルペン、モノテルペン等を生合成する組換え大腸菌の培養、及び生産されたセスキテルペン、モノテルペン等の回収・精製方法)
本発明において、n-オクタン乃至デカンの炭素数8〜10のn-アルカンを培地に重層して、テルペン(セスキテルペン、モノテルペン等)を生合成する組換え大腸菌を培養し、産生されたテルペンを効率的に回収するといった製造方法が発明された。なお、n-オクタン乃至デカンを重層して宿主を培養し、産生されたテルペンを回収するといった製造方法はこれまで無かった方法である。
n-オクタン乃至デカンを重層培養することから始まる本発明の精製方法は、セスキテルペン、モノテルペン等を生合成する組換え大腸菌からテルペン類を効率的に単離精製する方法であり、具体的には、以下の(I)、(II)、(III)及び(IV)の工程あるいは(I)、(II)及び(V)の工程を、この順に含む。
(I)組換え大腸菌培養(液体振とう培養)時に、培地に炭素数8〜10のn-アルカンを重層して培養することにより生産されたテルペン類をアルカン相に抽出する工程(抽出工程)。
(II)工程(I)で得られるアルカン相と適当な含水溶媒間で二相分配を実施し、テルペン類を含有するアルカン相を回収して不純物を除く工程(分液工程)。
(III)工程(II)で得られるアルカン相を逆相系(ODS等)のカラムを用いた分取HPLCで純品とする工程(分取工程)。
(IV)工程(III)で得られる純品のテルペン類を含む溶液から、アルカン/含水溶媒系でアルカン相にテルペン類を回収して濃縮乾固することにより、回収率良く純品のテルペン類を得る工程(脱溶媒工程)。
(V)工程(II)で得られるアルカン相を、シリカゲルを用いたオープンカラムあるいは分取HPLCで純品とする工程(分取工程)。
以下の[1]〜[5]において、上記の(I)〜(V)の工程について、詳細に説明する。
[1]工程(I)において組換え大腸菌を培養する培地は、大腸菌が順調に生育し、また適切な遺伝子発現誘導剤の存在下で目的とするテルペン類を生産するものであればよい。溶媒が水である大腸菌生育培地に10%〜50% (V/V)のn-アルカンを重層させた状態で大腸菌の培養を実施する(100 mLの培地に10〜50 mLのn-アルカン)。この時に用いるn-アルカンはn-オクタン(C8)よりも炭素鎖の長いものであればよい(n-オクタンより炭素鎖の短いアルカンは水への溶解度が高いため、組換え大腸菌の生育を抑制してしまうため)。一方、炭素が長くなるほどアルカンの沸点は高くなりエバポレータ等の減圧濃縮器での溶媒除去が困難になるため、具体的にはn-オクタン(C8)からデカン(C10)までのアルカンを用いるのが簡便である(C8〜C10までのn-アルカンであれば、40〜50℃の加温下、通常のダイアフラムポンプで濃縮可)。C,Hのみからなるテルペン類(ハイドロカーボン)、或いはこれに水酸基が一つ導入されたテルペン類に関しては、大腸菌に生産されたものの95%以上が、重層されたC8〜C10 のn-アルカン相に分配される。
[2]工程(II)で用いる含水溶媒は、工程(I)で用いられるC8〜C10 のn-アルカンに溶解せず、かつアルカリ性の性質を持つものが好ましい。具体的には0.1〜1 N程度のKOHやNaOH溶液とメタノール或いはアセトニトリルを混合させたものを、アルカン相と同程度の体積で用いる。ただし、工程(I)で用いたアルカン相の体積が少ない場合は、この後の二相分配を容易にするため、アルカンをさらに加えた方が良い。ただし、ここで加えるアルカンはC8〜C10 のn-アルカンに限定する必要はなく、C8〜C10 のn-アルカンに親和性のあるアルカンを使うことができるが、好ましくは、C5〜C8 のn-アルカンを挙げることができる。本発明者らはC6のn-ヘキサンを用いた。テルペン類の多くは極性の低い中性物質であるので、アルカリ性の含水溶媒とアルカン(元々のC8〜C10のn-アルカン及び後から加えたアルカンからなる)で二相分配を実施することにより、組換え大腸菌が大量に生産する遊離脂肪酸を含む酸性物質や比較的極性の高い中性物質は含水溶媒側に分配され、一方テルペン類はアルカン相に分配されるために効率よく不純物を除くことができる。ただしメタノールやアセトニトリルと0.1〜1 N KOHあるいはNaOHの混合割合については、テルペン類の種類によって調整が必要である。例えばC,Hのみからなるテルペン類(ハイドロカーボン)であればメタノールやアセトニトリル:アルカリ水=90:10程度、水酸基が一つ導入されたテルペン類についてはアセトニトリル:アルカリ水=50:50程度を用いる必要がある。これはテルペン類をアルカン相にほぼすべて分配させるための工夫である。
[3]工程(III)は、工程(II)で粗精製されたテルペン類を完全精製して回収するための手法である。多くのテルペン類は低極性のためシリカゲルには弱くしか吸着せず、純品への精製にシリカゲル系樹脂を用いるのは困難なことが多い。またテルペン類の精製としては、分別蒸留のような沸点の差を利用したものが従来から知られているが、従来法は大量処理(gスケール)には適しているがmgスケールでは適用困難(クリアな分離が困難、回収率が悪い)な場合が多い。一方、逆相系の樹脂(C18やC30のHPLCカラム)と90〜100% アセトニトリルあるいはメタノールを溶媒として用いてHPLC分取を実施することにより、多くの場合クリアに、回収率よくテルペン類を完全精製可能である。なおHPLCでの検出はUV末端吸収(200 - 220 nm)あるいは示差屈折(RI)を用いることができるが、検出にUV末端吸収を用いる場合は、同領域に吸収のないアセトニトリルと水からなる溶媒を選択することが好ましい。
[4]工程(IV)は、工程(III)で完全精製されたテルペン類から溶媒を除き、純品を得る手法である。多くのテルペン類は沸点が低くかつ水と共沸する性質を有しているため、工程(III)で分取した画分をそのままエバポレータ等の装置で減圧濃縮を実施すると、大部分のテルペン類が溶媒と共に気化してしまう。これを防ぐためにはHPLC分取した溶媒(90〜100% アセトニトリルあるいはメタノール)に同量の水を加えて50%弱程度のアセトニトリルあるいはメタノール溶液とし、この溶液と沸点が低く常温常圧で液体のアルカン{具体的にはn-ペンタン(C5)或いはn-ヘキサン(C6)}を等しい体積で二相分配してテルペン類をアルカン相に分配した後、アルカン相に硫酸ナトリウム(無水)を加えてよく脱水し150 mmHg程度の低真空度でエバポレータで溶媒を除去することにより、ロス無くテルペン類を純品とすることが可能である。またエバポレータなどの減圧濃縮器を用いず、乾燥窒素ガスの吹付も脱溶媒(アルカン)として利用できる。
[5]工程(V)は工程(II)で粗精製されたテルペン類を完全精製して回収するための、工程(III)とは異なる手法である。[3]に記載したように、多くのテルペン類は極性が低くシリカゲルでは純品への精製が困難なことが多い。しかし不純物があまり多くない場合、あるいは存在する複数のテルペン間で極性が離れている場合には、OH基を含まないテルペン類は展開溶媒としてヘキサンを使用して、OH基を含むテルペン類では展開溶媒をヘキサン:酢酸エチル混合溶媒としてシリカゲルオープンカラムあるいは分取HPLCを用いて純品への精製が可能である。本法を用いる場合は展開溶媒に水が含まれないため、工程(IV)は必要なく、分画溶液をそのまま150 mmHg程度の低真空度エバポレータなどの減圧濃縮器で濃縮可能である。
(7.アセト酢酸エステルを利用したテルペンの製造方法)
さらに、本発明のテルペン(イソプレノイド)の製造方法は、組換え大腸菌を、アセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)を含む培地で培養して培養物又は菌体からテルペンを得ることを特徴とするものである。
アセト酢酸エステルとしては、アセト酢酸メチルエステル(MAA)、アセト酢酸エチルエステル(EAA)、アセト酢酸プロピルエステル、アセト酢酸ブチルエステル、アセト酢酸tert-ブチルエステルなどを例示でき、これらの中でも、安価な原料であるアセト酢酸メチルエステル(MAA)及び/又はアセト酢酸エチルエステル(EAA)を使用するのが好ましい。
培地中のアセト酢酸エステル濃度は、大腸菌がテルペンを生産し得る範囲であれば特に限定されないが、1〜25 mMとするのが好ましく、1〜10 mMとするのが更に好ましい。アセト酢酸エステル以外の培地成分は、一般的な大腸菌培養培地に含まれる成分と同様でよい。
MAA及び/又はEAA添加培養時の温度は組換え大腸菌が生育可能なら特に限定されないが、15〜30℃とするのが好ましく、18〜22℃とするのが更に好ましい。
培養時間も特に限定されないが、導入遺伝子発現から12〜72時間培養することが好ましく、24〜48時間培養することが更に好ましい。
なお、培養物又は菌体からのセスキテルペン、モノテルペン等の採取・精製は、前記の6.で開示された方法に従って行うことができる。
{8.テトラテルペン(カロテノイド)を生合成する組換え大腸菌の培養方法}
テトラテルペン(カロテノイド)を生合成する組換え大腸菌を培養する場合、前記の7.に示された条件又は通常の培養条件に、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、及び/又はマンノースを培地に1%程度(0.5%〜2%)、添加して培養すればよい。
培養液当たりのカロテノイド生産量が顕著に上昇する炭素源として、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトールが、さらに前4者ほどでは無いが、培養液当たりのカロテノイド生産量が上昇する炭素源として、マンニトール、マンノースが挙げられる。なお、培養液当たりの菌体量の増加にグルコース、スクロース、ラクトース、マルトース、スターチに効果が認められなかった。以上、本実施例に開示された内容により、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、及び/又はマンノースを培地に添加して、カロテノイド産生大腸菌を培養するといった効率的培養法を発明した。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
{カンツバキ由来セスキテルペンシンターゼ(セスキテルペン合成酵素)遺伝子cDNA配列の決定}
カンツバキ(Camellia × hiemalis)の花(図1)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製) を用いて、製造元の指示に従い、全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献3に記された高等植物のセスキテルペンシンターゼの保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対{フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号38) 及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号39)}を用いて、非特許文献3にある通りの条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、938 bpの増幅断片を得た(配列番号38及び配列番号39において、「Y」はピリミジン(C又はT)、「R」はプリン(A又はG)、「I」はイノシン、「M」はA又はC、「H」はA又はC又はT、「W」はA又はTを示す)。得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。得られたクローンは、両端にリバースプライマー(配列番号39)の配列を持ち、リバースプライマーのみで増幅されたことが分かった。5'側は開始メチオニンおよび5'UTR配列を含んでいたことから、全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー(White.3race-2:5'- TTTAGACAAACAGCTATGGGACAA-3'(配列番号1)及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を3'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。
{バレリアノール/ヘディカリオールシンターゼ(バレリアノール/ヘディカリオール合成酵素)遺伝子(ChTps1)cDNAの取得}
実施例1で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対Wh.Bgl-F(5'- AGACAGAAGATCTCATGGCTTCATCTCAAGTTGGTGA -3'(配列番号2)、下線はBglII認識部位を示す)及びWh.Xho-R(5'- GAGGTACCTCGAGTCACATGGGAATTGGATCTTCGA -3' (配列番号3)、下線はXhoI認識部位を示す)及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、カンツバキcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で4分間を25サイクル)を行った。得られたcDNAはプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。このcDNAヌクレオチド配列を配列番号4〜20に、該cDNAによりコードされるそれぞれのポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号21〜37に示す。また、配列番号4〜20により特定されるcDNAをChTps1-x(x は1〜17)と命名し、ChTps1-xがコードする配列番号21〜37により特定されるそれぞれのタンパク質をChTPS1-x(x は1〜17)と命名した。
ChTps1-1は、1665 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定554アミノ酸残基、分子量64.0kDa、及びpI 5.15のタンパク質(ChTPS1-1)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、ChTPS1-1は既知セスキテルペンシンターゼであるラベンダー(Lavandula pedunculata)由来ゲルマクレンAシンターゼ(germacrene A synthase)と 51%、セイヨウカノコソウ(Valeriana officinalis L.)由来ドリミノールシンターゼ(Driminol synthase)と50%、トマト(Solanum lycopersicum)由来テルペンシンターゼ(terpene synthase)と 50%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。既知セスキテルペンシンターゼとの相同性から、ChTPS1-1は、被子植物のセスキテルペンおよびジテルペンシンターゼの群であるTPS-aサブファミリー(J. Bohlmann, G. Meyer-Gauen, R. Croteau (1998) Plant terpenoid synthases: molecular biology and phylogenetic analysis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4126-4133 参照のこと)に属することが分かった。さらにChTPS1-1は、セスキテルペンシンターゼに高度に保存されているDDxxD、RDR、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる}というモチーフを含んでいた(図2)。一方、既知のセスキテルペンシンターゼと同様に、ChTPS1-1は、色素体輸送(transit)ペプチドを含まないことが予測された。
ChTps1-10は、1665 bpのORFを含み、推定554アミノ酸残基、分子量64.0kDa、及びpI 5.20のタンパク質(ChTPS1-10)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、ChTPS1-10は既知セスキテルペンシンターゼであるラベンダー(Lavandula pedunculata)由来ゲルマクレンAシンターゼ(germacrene A synthase)と 52%、セイヨウカノコソウ(Valeriana officinalis L.)由来ドリミノールシンターゼ(Driminol synthase)と51%、トマト(Solanum lycopersicum)由来テルペンシンターゼ(terpene synthase)と 50%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。既知セスキテルペンシンターゼとの相同性から、ChTPS1-10は、被子植物のセスキテルペンおよびジテルペンシンターゼの群であるTPS-aサブファミリー(J. Bohlmann, G. Meyer-Gauen, R. Croteau (1998) Plant terpenoid synthases: molecular biology and phylogenetic analysis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4126-4133 参照のこと)に属することが分かった。さらにChTPS1-10は、セスキテルペンシンターゼに高度に保存されているDDxxD、RDR、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる}というモチーフを含んでいた(図2)。一方、既知のセスキテルペンシンターゼと同様に、ChTPS1-10は、色素体輸送(transit)ペプチドを含まないことが予測された。
ほとんどのChTps1-xは1665bpのORFを含んでいたが、ChTps1-13は102bp断片の欠失による1563 bpのORFを含み、推定520アミノ酸残基、分子量60.4kDa、及びpI 5.33のタンパク質(ChTPS1-13)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、ChTPS1-13は既知セスキテルペンシンターゼであるラベンダー(Lavandula pedunculata)由来ゲルマクレンAシンターゼ(germacrene A synthase)と 49%、トマト(Solanum lycopersicum)由来テルペンシンターゼ(terpene synthase)と 48%、セイヨウカノコソウ(Valeriana officinalis L.)由来ドリミノールシンターゼ(Driminol synthase)と48% のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。既知セスキテルペンシンターゼとの相同性から、ChTPS1-13は、被子植物のセスキテルペンおよびジテルペンシンターゼの群であるTPS-aサブファミリー(J. Bohlmann, G. Meyer-Gauen, R. Croteau (1998) Plant terpenoid synthases: molecular biology and phylogenetic analysis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4126-4133 参照のこと)に属することが分かった。さらにChTPS1-13は、セスキテルペンシンターゼに高度に保存されているDDxxD、RDR、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる}というモチーフを含んでいた(図2)。一方、既知のセスキテルペンシンターゼと同様に、ChTPS1-13は、色素体輸送(transit)ペプチドを含まないことが予測された。
(プラスミドpRSF-ChTps1-x及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを持つ大腸菌によるバレリアノールおよびヘディカリオール生産)
ChTps1-x全長配列が挿入されたプラスミドDNAを制限酵素BglI-XhoIで消化し、得られたChTps1-x配列をpRSFDuet-1ベクター{カナマイシン(kanamycin;Km)耐性;Novagen社製}のBglII-XhoI部位に連結して、pRSF-ChTps1-xプラスミドを作製した(図3)。
プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl{クロラムフェニコール(chloramphenicol;Cm)耐性;特許文献3、非特許文献7}、及びプラスミドpRSF-ChTps1-xを用いて大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3) を形質転換した。なお、大腸菌の形質転換法、組換え大腸菌の培養法、培養した大腸菌の菌体からのセスキテルペンの抽出、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS:Shimadzu製 GCMS-QP5050)を用いた分析法は特許文献2、3又は非特許文献7の通りである。ただし、組換え大腸菌の培養時の基質はMVLではなくLAAを用い、薬剤としては50 mg/LのKmと30 mg/LのCmを用い、培養中にはドデカンを重層しなかった。GC-MSを用いた分析の結果、プラスミドpRSFDuet-1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl を含む大腸菌培養中にIPTGを添加した対照区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なセスキテルペンの生成は確認されなかったのに対し、プラスミドpRSF-ChTps1-x及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl を含む大腸菌培養中にIPTG誘導を行った実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが2つ見られた(ピーク1、2とする;図4)。ピーク1はMSデータベースのエレモール(elemol)と一致した。一方、ピーク2はデータベースとの比較ではヒットするものが無かった。
さらに本発明者らは、プラスミドpAC-Mev/Scidi/AaclとpRSF-ChTps1-xを導入した大腸菌BL21(DE3)を1 L培養し、ピーク1、ピーク2を組換え大腸菌より精製し、NMR解析を行った。その結果、ピーク1と2はそれぞれ、ヘディカリオール(hedycaryol)及びバレリアノール(valerianol)であると同定された(実施例4)。図5にヘディカルオールのH NMRスペクトル及びヘディカルオールの室温での構造変化予想図を示した。このヘディカルオールの構造変化のゆえに、そのH NMRスペクトルの各シグナルが非常にブロードになっていることがわかる。ヘディカルオールはGC分析等の熱(heat)でエレモール(elemol)に変換されると予想されるので、GC-MS分析でピーク1はエレモールであると示されたことはリーズナブルな結果である。
以上の結果から、ChTps1-xがバレリアノール/ヘディカリオールシンターゼ(valerianol/hedycaryol synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。バレリアノール及びヘディカリオールの合成活性はChTps1-1が最も高く、ChTps1-2からChTps1-9までクローンのナンバー(x)が進むにつれ徐々に減少した。ほとんどのクローンにおいて主たる産物はバレリアノールであったが、ChTps1-10においてはヘディカリオールの方がバレリアノールより多かった。ChTps1-11からChTps1-16までのクローンはバレリアノールのみを合成した。ChTps1-17においてはヘディカリオールのみが検出された。表1にChTps1-xの各クローンと該クローンを含む組換え大腸菌によって合成されたバレリアノール及びヘディカリオールのGC-MSピーク強度を示した。なお、バレリアノール及びヘディカリオールの化学構造は図6に示されている。
以上の結果より、プラスミドpRSF-ChTps1-x及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを導入した大腸菌を用いて、バレリアノール及びヘディカリオール(エレモール)の選択的な生産が可能であることが示された。なお、バレリアノールを合成する酵素やこれをコードする遺伝子については、これまで知られていなかったので、本明細書により世界で初めて開示された。なお、バレリアノールには卵巣機能強壮作用があると考えられているが、今後は本発明の製造法によりバレリアノールを容易に提供できるようになったことから、バレリアノールについて種々の生理機能試験を行うことが可能になった。バレリアノールに関して新たな機能性の発見や機能性の知見の深化が期待される。
ChTps1-x 組換え大腸菌から検出されたテルペンのピーク強度(濃い網掛けほど高いピーク強度を示す. TIC: total ion chromatogram, ND:not determined)。
(バレリアノール及びヘディカリオールの精製と同定)
プラスミドpRSF-ChTps1-1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを導入した大腸菌BL21(DE3)を、50 mg/LのKmと30 mg/LのCmを含むTB(Terific Broth; J. Sambrook, D. W. Russel, Molecular Cloning, 3rd edition, Cold Spring Harbor, NY, 2001)1 Lで培養した。この際、n-オクタン 200 mLを加えて培養した。培養終了後、まず培養物(培養液1 L + n-オクタン 200 mL)を2 L容分液ロートに入れてよく撹拌し、明らかな下層(水層)を捨てた{この時点では上層(n-オクタン層)はエマルジョン状態}。次に分液ロートにn-ヘキサン 300 mLとアルカリ50% メタノール 500 mL(0.1 N NaOH 250 mL + メタノール 250 mL)を加えて、よく撹拌した。本作業でエマルジョンはほぼ消失して二層に分かれるので、下層(アルカリ50% メタノール層)を捨てた。再度分液ロートにアルカリ50% メタノール 500 mLを加えて良く撹拌して下層を捨てた。残った上層を500 mL容三角フラスコに回収し、無水硫酸ナトリウムを加えて30分程度脱水後、減圧下(20 mmHg設定)2 mL程度まで濃縮した。
次に本濃縮物の20 Lを以下に示すPDA-HPLC(フォトダイオードアレイ検出器付き高速液体クロマトグラフィー)で、以下の条件で分析・分取した。
カラム:Developsil C30-UG-520 mm x 250 mm(野村化学)
溶媒:90% CHCN
流速:8.0 mL/min
検出:200 - 500 nm (PDA)
2つのメインピーク、すなわち、保持時間16.2分のピーク(ピーク1)と保持時間18.0分のピーク(ピーク2)を10回程度に分けて(前記濃縮物2 mLを200 Lずつ10回inject)分取した。10回のピーク分取が終了したのち、回収した総溶出液(80 - 150 mL)と同量の水を加えて500 mL容分液ロートに入れ、そこに同量(溶出溶媒x 2 (160 - 300 mL))のn-ペンタンを加えてよく撹拌してn-ペンタン層を回収した。同作業をもう一度繰り返して集めたn-ペンタン層を1 L容三角フラスコに移して無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレータで減圧下(150 mmHg設定)濃縮した。濃縮物が5 mL程度になった時点で25 mL容ナスフラスコに残った溶媒を移し、エバポレータでの濃縮はn-ペンタンが消失すると同時に止め、最後に乾燥窒素ガスを5分ほど吹き付けて溶媒を完全に留去した。
以上の作業で、ピーク1の化合物13.1 mg{各種分析により下記式(1)で表されるバレリアノール(valerianol)と同定}が純品として得られた。ピーク2の化合物は混合物として4.2 mg得られた[{この混合物中に下記式(2)で表されるhedycaryolが存在することはGC-MS分析から判明している。GC-MSではhedycaryolが加熱変化して生ずる下記式(3)で表されるエレモール(elemol)として検出}]。ピーク1の化合物はNMR分析及びGC-MS分析によりバレリアノール(valerianol)と同定された。
バレリアノールの分光学的分析データ:
GC-MS retention time 38.8 min, m/z 222 (M+). H-NMR (CDCl) : 0.91 (d, J=7.0 Hz, 3H, H-11), 0.95 (m, 1H, H-6), 1.11 (s, 3H, H-15), 1.15 (s, 3H, H-13), 1.15 (m, 1H, H-9), 1.16 (s, 3H, H-14), 1.36 (m, 1H, H-2), 1.40 (m, 1H, H-9), 1.56 (m, 1H, H-1), 1.68 (m, 1H, H-2), 1.70 (m, 1H, H-8), 1.80-1.95 (2H, H-3), 1.88 (m, 1H, H-6), 2.04 (m, 1H, H-6), 2.26 (m, 1H, H-6), 5.33 (m, 1H, H-4). 13C-NMR (CDCl) : 15.5 (C-11), 23.7 (C-3), 25.3 (C-15), 26.9 (C-2), 27.0 (C-13), 27.1 (C-14), 29.6 (C-7), 32.5 (C-6), 35.2 (C-9), 37.7 (C-10), 39.3 (C-1), 44.2 (C-8), 72.9 (C-12), 119.0 (C-4), 143.1 (C-5),
エレモールの分光学的分析データ:
GC-MS retention time 36.9 min, m/z 222 (M+). H-NMR (CDCl) : 0.98 (s, 3H, H-13), 1.20 (s, 6H, H-8 and H-9), 1.38 (m, 1H, H-1), 1.40-1.50 (2H, H-6), 1.44 (m, 1H, H-2), 1.59 (m, 1H, H-2), 1.60-1.70 (2H, H-5), 1.71 (s, 3H, H-12), 1.96 (dd, J=3.3. 12.4 Hz, H-3), 4.59 (s, 1H, H-11), 4.82 (s, 1H, H-11), 4.89 (d, J=11.8 Hz, 1H, H-15), 4.90 (d, J=16.5 Hz, 1H, H-15), 5.80 (dd, J=11.8, 16.5 Hz, 1H, H-14). 13C-NMR (CDCl) : 16.5 (C-13), 22.5 (C-6), 24.8 (C-12), 27.1 (C-8 and C-9), 28.4 (C-2), 39.7 (C-4), 39.8 (C-5), 49.3 (C-1), 52.6 (C-3), 72.4 (C-7), 109.9 (C-15), 112.0 (C-11), 147.9 (C-10), 150.2 (C-14).
{フリージア由来セスキテルペンシンターゼ(セスキテルペン合成酵素)遺伝子cDNA配列の決定}
フリージア(Freesia × hybrida)エアリーパープル及びエアリーピーチの花(図7)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製) を用いて、製造元の指示に従い、それぞれ全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献3に記された高等植物のセスキテルペンシンターゼの保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対(フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号38)及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号39)を用いて、非特許文献3にある通りの条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、611 bp(エアリーパープル)と359bp(エアリーピーチ)の増幅断片を得た。得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。エアリーパープルから得られたクローンは、フォワードおよびリバースの縮重オリゴヌクレオチドプライマー対によって増幅されていた。一方エアリーピーチから得られたクローンは、両端にリバースプライマー(配列番号39)の配列を持ち、リバースプライマーのみで増幅されたことが分かった。それぞれの全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を5'及び3'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。なお、オリゴヌクレオチドプライマーは、エアリーパープルに関してはFR.purple.5-R(5'- TCAAGTATATCCTCACCAGGGATGCT -3')(配列番号40)及びFR.purple.3-F(5'- AGCAAGGAAGATGCTGACAAAGGT -3')(配列番号41)、一方エアリーピーチに関してはFPe1.5race(5'- GTTGTTTGATAAAATAATCACCCCAAAC -3')(配列番号42)及びFPe1.3race(5'- TCATTTCTCTTCGGTTCCGATTGTTGAG -3')(配列番号43)を使用した。
{α-セリネンシンターゼ(α-セリネン合成酵素)遺伝子(Fh1Tps)cDNAの取得}
実施例5で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対FPu1.Nde-F(5'- AGACAGACATATGGAGTCAG-CTGCTGG -3'(配列番号44)、下線はNdeI認識部位を示す)及びFPu1.Kpn-R(5'- GTACGGTACCCTAGAAATAGTCATCTTCGAAGGAAATTGG -3' (配列番号45)、下線はKpnI認識部位を示す)及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、エアリーパープルcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で4分間を25サイクル)を行った。得られたcDNAはプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。このcDNAヌクレオチド配列を配列番号46〜48に、該cDNAによりコードされるそれぞれのポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号49〜51に示す。また、配列番号46〜48により特定されるcDNAをFh1Tps-y(yは1〜3)と命名し、Fh1Tps-yがコードする配列番号49〜51により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をそれぞれFh1TPS-y(yは1〜3)と命名した。
Fh1Tps-yは、いずれも1701 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定566アミノ酸残基、分子量66.4kDa、及びpI 4.98〜4.99のタンパク質(Fh1TPS-y)をコードしていた(表2)。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、Fh1TPS-1は既知セスキテルペンシンターゼであるアメリカアブラヤシ(Elaeis oleifera)由来セスキテルペンシンターゼ(sesquiterpene synthase)と 52%、ブドウ(Vitis vinifera)由来β-カリオフィレンシンターゼ(beta-caryophyllene synthase)と47%、ハナショウガ(Zingiber zerumbet)由来セスキテルペンシンターゼ3(Sesquiterpene synthase 3)と 48〜49%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した(表2)。既知セスキテルペンシンターゼとの相同性から、Fh1TPS-yは、被子植物のセスキテルペンおよびジテルペンシンターゼの群であるTPS-aサブファミリー(J. Bohlmann, G. Meyer-Gauen, R. Croteau (1998) Plant terpenoid synthases: molecular biology and phylogenetic analysis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4126-4133 参照のこと)に属することが分かった。さらにFh1TPS-yは、セスキテルペンシンターゼに高度に保存されているDDxxD、RDR、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる}というモチーフを含んでいた(図8)。一方、既知のセスキテルペンシンターゼとは異なり、Fh1TPS-yは、色素体輸送(transit)ペプチドを含むことが予測された。
Fh1TPS-yの分子量、pI、および相同性検索による他のテルペンシンターゼとの類似度。
(プラスミドpRSF-Fh1Tps及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを持つ大腸菌によるα-セリネン生産)
Fh1Tps1-y全長配列が挿入されたプラスミドDNAを制限酵素NdeI-KpnIで消化し、得られたFh1Tps1-y配列をpRSFDuet-1ベクター(Km耐性;Novagen社製)のNdeI-KpnI部位に連結して、pRSF-Fh1Tps-yプラスミドを作製した(図9)。
プラスミドpRSF-Fh1Tps-y及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl(Cm耐性;特許文献3、非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3) を形質転換した。なお、大腸菌の形質転換法、組換え大腸菌の培養法、培養した大腸菌の菌体からのセスキテルペンの抽出、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS:Shimadzu製 GCMS-QP5050)を用いた分析法は特許文献2、3又は非特許文献7の通りである。ただし、組換え大腸菌の培養時の基質はMVLではなくLAAを用い、薬剤としては50 mg/LのKmと30 mg/LのCmを用い、培養中にはドデカンを重層しなかった。GC-MSを用いた分析の結果、プラスミドpRSFDuet-1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl を含む大腸菌培養中にIPTGを添加した対照区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なセスキテルペンの生成は確認されなかったのに対し、プラスミドpRSF- Fh1Tps-y及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl を含む大腸菌培養中にIPTG誘導を行った実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが1つ見られた(図10)。ピーク1はNMR解析し、α-セリネンであると同定した(実施例8)。この結果から、Fh1Tps-yがα-セリネンシンターゼ(α-selinene synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。α-セリネンの合成活性はFh1Tps-1が1.67×10 TIC(α-セリネンピークの高さ、以下同様)と最も高く、Fh1Tps-2が1.13×10 TIC、Fh1Tps-3が0.94×10 TICと徐々に減少した。α-セリネンの化学構造は図11に示されている。
なお、α-セリネンをほぼ単一産物として合成する酵素やこれをコードする遺伝子については、これまで知られていなかったので、ここで開示された、フリージア(Freesia × hybrida)エアリーパープル由来のα-セリネンシンターゼ(Fh1TPS-y)や同遺伝子(Fh1Tps-y)が最初の報告である。また、副産物としてα-セリネンを合成する既知の酵素タンパク質{例えば、スイートバジル (sweet basil;Ocimum basilicum) 由来のSES (Y. Iijima et al., Plant Physiol. 136: 3724-3736, 2004)}とは系統学的にも離れている(いずれも相同性が50%以下と低い)。今後は本発明の製造法によりα-セリネンを容易に提供できるようになったことから、α-セリネンについて種々の生理機能試験を行うことが可能になった。α-セリネンに関して新たな機能性の発見や機能性の知見の深化が期待される。
(α-セリネンの同定)
プラスミドpRSF-Fh1Tps-1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを導入した大腸菌BL21(DE3)を、50 mg/LのKmと30 mg/LのCmを含むTB(Terific Broth)1 Lで培養した。この際、n-オクタン 200 mLを加えて培養した。培養終了後、まず培養物(培養液1 L + n-オクタン 200 mL)を2 L容分液ロートに入れてよく撹拌し、明らかな下層(水層)を捨てた{この時点では上層(n-オクタン層)はエマルジョン状態}。次に分液ロートにn-ヘキサン 300 mLとアルカリ50% メタノール 500 mL(0.1 N NaOH 250 mL + メタノール 250 mL)を加えて、よく撹拌した。本作業でエマルジョンはほぼ消失して二層に分かれるので、下層(アルカリ50% メタノール層)を捨てた。再度分液ロートにアルカリ50% メタノール 500 mLを加えて良く撹拌して下層を捨てた。残った上層を500 mL容三角フラスコに回収し、無水硫酸ナトリウムを加えて30分程度脱水後、減圧下(20 mmHg設定)2 mL程度まで濃縮した。
次に本濃縮物の20 Lを以下に示すPDA-HPLC(フォトダイオードアレイ検出器付き高速液体クロマトグラフィー)で分析した。
カラム:Developsil C30-UG-520 mm x 250 mm(野村化学)
溶媒:90% CHCN
流速:8.0 mL/min
検出:200 - 500 nm (PDA)
その結果、保持時間55.0 minのピークがテルペン系化合物であると推定されたため(予備的なGC-MS分析により)、上記同一条件で各ピークを10回程度に分けて(前記濃縮物2 mLを200 Lずつ10回inject)分取した。10回のピーク分取が終了したのち、回収した総溶出液(80 - 150 mL)と同量の水を加えて500 mL容分液ロートに入れ、そこに同量(溶出溶媒x 2 (160 - 300 mL))のn-ペンタンを加えてよく撹拌してn-ペンタン層を回収した。同作業をもう一度繰り返して集めたn-ペンタン層を1 L容三角フラスコに移して無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレータで減圧下(150 mmHg設定)濃縮した。濃縮物が5 mL程度になった時点で25 mL容ナスフラスコに残った溶媒を移し、エバポレータでの濃縮はn-ペンタンが消失すると同時に止め、最後に乾燥窒素ガスを5分ほど吹き付けて溶媒を完全に留去した。
以上の作業で、純品の化合物 5.6 mgが得られた。本化合物はNMR分析及びGC-MS分析により下記式(4)で表されるα-セリネン(α-selinene)と同定された。
α-セリネンの分光学的分析データ:
GC-MS retention time 28.7 min, m/z 204 (M+). H-NMR (CDCl) : 0.80 (s, 3H, H-15), 1.18 (m, 1H, H-6), 1.20 (m, 1H, H-9), 1.30-1.40 (2H, H-1), 1.46 (m, 1H, H-9), 1.50-1.60 (2H, H-8), 1.61 (s, 3H, H-11), 1.73 (s, 3H, H-14), 1.75 (m, 1H, H-6), 1.90 (m, 1H, H-2), 1.92 (m, 1H, H-7), 2.15 (m, 1H, H-2), 4.70 (s, 1H, H-13), 4.72 (s, 1H, H-13), 5.32 (m, 1H, H-3). 13C-NMR (CDCl) : 15.6 (C-15), 20.9 (C-14), 21.2 (C-11), 23.0 (C-2), 26.8 (C-8), 28.9 (C-6), 32.3 (C-10), 37.9 (C-1), 40.2 (C-9), 46.8 (C-5), 46.8 (C-7), 108.2 (C-13), 120.9 (C-3), 135.1 (C-4), 151.0 (C-12).
{α-コパエンシンターゼ(α-コパエン合成酵素)遺伝子(Fh6Tps)cDNAの取得}
実施例5で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対FPe1.Nde-F(5'- AGACAGACATATGGAGTCAGTACTGCTGAGCT -3'(配列番号52)、下線はNdeI認識部位を示す)及びFPe1.Kpn-R(5'- GTACGGTACCCTAGTAGTAGTCCCCCGGGAAG -3' (配列番号53)、下線はKpnI認識部位を示す)及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、エアリーピーチcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で4分間を25サイクル)を行った。得られたcDNAはプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。このcDNAヌクレオチド配列を配列番号54〜61に、該cDNAによりコードされるそれぞれのポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号62〜69に示す。また、配列番号54〜61により特定されるcDNAをFh6Tps-z(zは1〜8)と命名し、Fh6Tps-zがコードする配列番号62〜69により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をそれぞれFh6TPS-z(zは1〜8)と命名した。
Fh6Tps-zは、いずれも1713 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定570アミノ酸残基、分子量66.7〜66.8kDa、及びpI 4.85〜4.88のタンパク質(Fh6TPS-z)をコードしていた(表3)。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、Fh6TPS-zは既知セスキテルペンシンターゼであるアメリカアブラヤシ(Elaeis oleifera)由来セスキテルペンシンターゼ(sesquiterpene synthase)と 51%、ブドウ(Vitis vinifera)由来β-カリオフィレンシンターゼ(beta-caryophyllene synthase)と46%、ハナショウガ(Zingiber zerumbet)由来セスキテルペンシンターゼ3(Sesquiterpene synthase 3)と 48〜49%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した(表3)。既知セスキテルペンシンターゼとの相同性から、Fh6TPS-zは、被子植物のセスキテルペンおよびジテルペンシンターゼの群であるTPS-aサブファミリー(J. Bohlmann, G. Meyer-Gauen, R. Croteau (1998) Plant terpenoid synthases: molecular biology and phylogenetic analysis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4126-4133 参照のこと)に属することが分かった。さらにFH6TPS-zは、セスキテルペンシンターゼに高度に保存されているDDxxD、RDR、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる}というモチーフを含んでいた(図12)。一方、既知のセスキテルペンシンターゼとは異なり、Fh6TPS-zは、色素体輸送(transit)ペプチドを含むことが予測された。
Fh6TPS-zの分子量、pI、および相同性検索による他のテルペンシンターゼとの類似度。
(プラスミドpRSF-Fh6Tps-z及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを持つ大腸菌によるα-コパエン生産)
Fh6Tps-z全長配列が挿入されたプラスミドDNAを制限酵素NdeI-KpnIで消化し、得られたFh6Tps-z配列をpRSFDuet-1ベクター(Km耐性;Novagen社製)のNdeI-KpnI部位に連結して、pRSF-Fh6Tps-zプラスミドを作製した(図9)。
プラスミドpRSF-Fh6Tps-z及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl(Cm耐性;特許文献3、非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3) を形質転換した。なお、大腸菌の形質転換法、組換え大腸菌の培養法、培養した大腸菌の菌体からのセスキテルペンの抽出、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS:Shimadzu製 GCMS-QP5050)を用いた分析法は特許文献2、3又は非特許文献7の通りである。ただし、組換え大腸菌の培養時の基質はMVLではなくLAAを用い、薬剤としては50 mg/LのKmと30 mg/LのCmを用い、培養中にはドデカンを重層しなかった。GC-MSを用いた分析の結果、プラスミドpRSFDuet-1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl を含む大腸菌培養中に、IPTGを添加した対照区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なセスキテルペンの生成は確認されなかったのに対し、プラスミドpRSF-Fh6Tps-z及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl を含む大腸菌培養中にIPTG誘導を行った実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピーク1が見られた(図13)。ピーク1はNMR解析し、α-コパエンであると同定した(実施例11)。この結果から、Fh6Tps-zがα-コパエンシンターゼ(α-copaene synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。α-コパエンの合成活性はFh6Tps-1が最も高く、Fh6Tps-2からFh6Tps-8までクローンのナンバー(z)が進むにつれ減少した。表4にFh6Tps-zの各クローンと該クローンを含む組換え大腸菌によって合成されたα-コパエンのGC-MSピーク強度を示した。α-コパエンの化学構造は図11に示されている。
以上の結果より、プラスミドpRSF-Fh1Tps-y及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを導入した大腸菌を用いて、α-セリネンの選択的な生産が可能であることが示された。また、プラスミドpRSF-Fh6Tps-z及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを導入した大腸菌を用いて、α-コパエンの選択的な生産が可能であることが示された。
なお、α-コパエンをほぼ単一産物として合成する酵素やこれをコードする遺伝子については、学術論文と配列情報の両方が開示されたものの中では、これまで知られていなかった。したがって、ここで開示された、フリージア(Freesia × hybrida)エアリーピーチ由来のα-コパエンシンターゼ(Fh6TPS-z)や同遺伝子(Fh6Tps-z)が最初の報告である。また、副産物としてα-コパエンを合成する既知の酵素タンパク質{例えば、トウゴマ (castor bean;Ricinus communis) 由来のRcSeTPS1 (X. Xie, J. Kirby, J.D. Keasling, Phytochem. 78: 20-28, 2012)}とは系統学的にも離れている(いずれも相同性が50%以下と低い)。今後は本発明の製造法によりα-コパエンを容易に提供できるようになったことから、α-コパエンについて種々の生理機能試験を行うことが可能になった。α-コパエンに関して、抗炎症作用があると考えられているが、新たな機能性の発見や機能性の知見の深化が期待される。
Fh6Tps-z 組換え大腸菌から検出されたテルペンのピーク強度(TIC: total ion chromatogram, tr: trace)。
(α-コパエンの同定)
プラスミドpRSF-Fh6Tps-1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを導入した大腸菌BL21(DE3)を、50 mg/LのKmと30 mg/LのCmを含むTB(Terific Broth)1 Lで培養した。この際、n-オクタン 200 mLを加えて培養した。培養終了後、まず培養物(培養液1 L + n-オクタン 200 mL)を2 L容分液ロートに入れてよく撹拌し、明らかな下層(水層)を捨てた{この時点では上層(n-オクタン層)はエマルジョン状態}。次に分液ロートにn-ヘキサン 300 mLとアルカリ90% メタノール 500 mL(0.5 N NaOH 50 mL + メタノール 450 mL)を加えて、よく撹拌した。本作業でエマルジョンは消失してクリアに二層に分かれるので、下層(アルカリ90% メタノール層)を捨てた。再度分液ロートにアルカリ90% メタノール 500 mLを加えて良く撹拌して下層を捨てた。残った上層を500 mL容三角フラスコに回収し、無水硫酸ナトリウムを加えて30分程度脱水後、減圧下(20 mmHg設定)2 mL程度まで濃縮した。濃縮物を、ヘキサンを展開溶媒として内径20 mm x 長さ 200 mmのシリカゲル(Silica Gel 60、関東化学)に供し、同溶媒で6 mLずつ分画した。各フラクションをシリカゲルTLC (Merck) 展開溶媒ヘキサンで展開し、リンモリブデン発色した。発色のあった、シリカゲルカラムクロマトグラフィーの溶出フラクション9, 10を合一し、エバポレータ減圧下(150 mmHg設定)濃縮乾固したところ、純品の化合物4.3 mgが得られた。本化合物はNMR分析及びGC-MS分析により下記式(5)で表されるα-コパエン(α-copaene)と同定された。
α-コパエンの分光学的分析データ:
GC-MS retention time 23.2 min, m/z 204 (M+). H-NMR (CDCl) : 0.78 (s, 3H, H-12), 0.83 (d, J=6.4 Hz, 3H, H-14), 0.84 (d, J=6.4 Hz, 3H, H-15), 1.52 (m, 1H, H-4), 1.52 (m, 1H, H-13), 1.55 (m, 1H, H-8), 1.56 (m, 1H, H-6), 1.57 (m, 1H, H-7), 1.64 (m, 1H, H-7), 1.66 (s, 3H, H-11), 1.67 (m, 1H, H-9), 1.72 (m, 1H, H-6), 2.09 (m, 1H, H-10), 2.15-2.20 (2H, H-1), 5.20 (m, 1H, H-2). 13C-NMR (CDCl) : 19.3 (C-12), 19.7 (C-15), 19.9 (C-14), 21.8 (C-7), 23.1 (C-11), 30.0 (C-1), 32.2 (C-13), 36.2 (C-6), 36.9 (C-10), 39.4 (C-5), 44.3 (C-9), 44.7 (C-8), 54.2 (C-4), 116.1 (C-2), 144.0 (C-3).
{ツバキいのくち香り由来モノテルペンシンターゼ(モノテルペン合成酵素)遺伝子cDNA配列の決定}
ツバキ(Camellia saluenensis 品種名:いのくち香り)の花(図14)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製) を用いて、製造元の指示に従い、それぞれ全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献3に記された高等植物のセスキテルペンシンターゼの保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対(フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号38)及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号39)を用いて、非特許文献3にある通りの条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、409 bpの増幅断片を得た。得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を5'及び3'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。なお、オリゴヌクレオチドプライマーは、Pur.5race(5'- TCGAGCTTGATGATGAGAAAGATG -3')(配列番号70)及びPur.3race(5'- TCACAAAACCCATCTCTTTCATCT -3')(配列番号71)を使用した。
{リナロールシンターゼ(リナロール合成酵素)遺伝子(CsTps1)cDNAの取得}
実施例12で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対Pu.Nde-F2(5'- AGACAGACATATGCAAATCTTCCACTGTGCAT -3'(配列番号72)、下線はNdeI認識部位を示す)及びPu.Kpn-R(5'- GGTACCCTAAGGTAATTTATCATAGAACATAGACTTCATG -3' (配列番号73)、下線はKpnI認識部位を示す)及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、ツバキいのくち香りcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で4分間を25サイクル)を行った。得られたcDNAはプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。このcDNAヌクレオチド配列を配列番号74に、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号75に示す。また、配列番号74により特定されるcDNAをCsTps1と命名し、CsTps1がコードする配列番号75により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をCsTPS1と命名した。
CsTps1は、1728 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定575アミノ酸残基、分子量66.1kDa、及びpI 6.03のタンパク質(CsTPS1)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、CsTPS-1は既知セスキテルペン/モノテルペンシンターゼであるチャ(Camellia sinensis)由来バイファンクショナルテルペノイドシンターゼ(Bifunctional terpenoid synthase)と 97%、既知モノテルペンシンターゼであるサルナシ(Actinidia arguta)由来リナロールシンターゼ(linalool synthase)と71%、マタタビ(Actinidia polygama)由来リナロールシンターゼ(linalool synthase)と 71%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。既知セスキテルペンシンターゼとの相同性から、CsTPS1は、RRx8W モチーフを欠くモノテルペン合成酵素の群であるTPS-gサブファミリーに属することを確認した(参照:N. Dudareva, D. Martin, C. M. Kish, N. Kolosova, N. Gorenstein, J. F?ldt, B. Miller, J. Bohlmann (2003) (E)-β-Ocimene and Myrcene Synthase Genes of Floral Scent Biosynthesis in Snapdragon: Function and Expression of Three Terpene Synthase Genes of a New Terpene Synthase Subfamily. Plant Cell 15:1227-1241)。さらにCsTPS1は、モノテルペン/セスキテルペンシンターゼに高度に保存されているDDxxD、RDR、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる}というモチーフも、RDRがRDQとなるなどの変化はあるが、ほぼ保存されていた(図15)。一方、通常の既知のモノテルペンシンターゼと同様に、CsTPS1は、色素体輸送(transit)ペプチドを含むことが予測された。
(プラスミドpRSF-CsTps1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclを持つ大腸菌によるリナロール生産)
CsTps1全長配列が挿入されたプラスミドDNAを制限酵素NdeI-KpnIで消化し、得られたCsTps1配列をpRSFDuet-1ベクター(Km耐性;Novagen社製)のNdeI-KpnI部位に連結して、pRSF-CsTps1プラスミドを作製した(図16)。
プラスミドpRSF-CsTps1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl(Cm耐性;特許文献3、非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3) を形質転換した。なお、大腸菌の形質転換法、組換え大腸菌の培養法、培養した大腸菌の菌体からのセスキテルペンの抽出、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS:Shimadzu製 GCMS-QP5050)を用いた分析法は特許文献2、3又は非特許文献7の通りである。ただし、組換え大腸菌の培養時の基質はMVLではなくLAAを用い、薬剤としては50 mg/LのKmと30 mg/LのCmを用い、培養中にはドデカンを重層しなかった。GC-MSを用いた分析の結果、プラスミドpRSFDuet-1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl を含む大腸菌培養中に、IPTGを添加した対照区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なセスキテルペンの生成は確認されなかったのに対し、プラスミドpRSF-CsTps1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl を含む大腸菌培養中にIPTG誘導を行った実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが見られた(図17)。ピーク1はNMR解析し、リナロールであると同定した(実施例15)。この結果から、CsTps1がリナロールシンターゼ(linalool synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。リナロールの化学構造は図18に示されている。なお、本実施例において、リナロールシンターゼ(CsTPS1)はリナロール以外に、ネロリドール(nerolidol)又はそれ以外の副生成物を全く作っていなかった。リナロールシンターゼ(リナロール合成酵素)遺伝子は本発明の遺伝子以外にも、サルナシ(Actinidia arguta)、マタタビ(Actinidia polygama)、ショウガ(Zingiber officinale)、ウコン(秋ウコン;Curcuma longa)など種々の植物から得られているが、機能解析されたリナロール合成酵素は全て、セスキテルペンのネロリドール(nerolidol)の合成活性を共有することがわかっている(H. J. Koo, D. R. Gang, Suites of terpene synthases explain differential terpenoid production in ginger and turmeric tissues. PLoS One 7:e51481, 2012)。それゆえ、リナロール合成酵素はしばしば、リナロール/ネロリドール合成酵素(linalool/nerolidol synthase)とも呼ばれる。なお、リナロールが心地よい香りであるのに対して、ネロリドールは不快臭である。一方、今回得られた、ツバキ(Camellia saluenensis 品種名:いのくち香り)由来のリナロール合成酵素(CsTPS1)はネロリドール合成活性を全く持っていないので、CsTPS1は機能的にも新規な酵素であるといえる。
(リナロールの同定)
プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aaclに加えて、ツバキ(Camellia saluenensis、品種名:いのくち香り)の花由来の遺伝子を含むプラスミドpRSF-CsTps1を導入した大腸菌BL21(DE3)を、50 mg/LのKmと30 mg/LのCmを含むTB(Terific Broth)1 Lで培養した。この際、n-オクタン 200 mLを加えて培養した。培養終了後、まず培養物(培養液1 L + n-オクタン 200 mL)を2 L容分液ロートに入れてよく撹拌し、明らかな下層(水層)を捨てた{この時点では上層(n-オクタン層)はエマルジョン状態}。次に分液ロートにn-ヘキサン 300 mLとアルカリ50% メタノール 500 mL(0.1 N NaOH 250 mL + メタノール 250 mL)を加えて、よく撹拌した。本作業でエマルジョンはほぼ消失して二層に分かれるので、下層(アルカリ50% メタノール層)を捨てた。再度分液ロートにアルカリ50% メタノール 500 mLを加えて良く撹拌して下層を捨てた。残った上層を500 mL容三角フラスコに回収し、無水硫酸ナトリウムを加えて30分程度脱水後、減圧下(20 mmHg設定)2 mL程度まで濃縮した。
次に本濃縮物の20 Lを以下に示すPDA-HPLC(フォトダイオードアレイ検出器付き高速液体クロマトグラフィー)で分析した。
カラム:Developsil C30-UG-520 mm x 250 mm(野村化学)
溶媒:90% CHCN
流速:8.0 mL/min
検出:200 - 500 nm (PDA)
その結果、保持時間9.0 minのピークがモノテルペン系化合物であると推定されたため(予備的なGC-MS分析により)、上記同一条件で本ピークを10回程度に分けて(前記濃縮物2 mLを200 Lずつ10回inject)分取した。10回のピーク分取が終了したのち、回収した総溶出液(80 - 150 mL)と同量の水を加えて500 mL容分液ロートに入れ、そこに同量(溶出溶媒x 2 (160 - 300 mL))のn-ペンタンを加えてよく撹拌してn-ペンタン層を回収した。同作業をもう一度繰り返して集めたn-ペンタン層を1 L容三角フラスコに移して無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレータで減圧下(150 mmHg設定)濃縮した。濃縮物が5 mL程度になった時点で25 mL容ナスフラスコに残った溶媒を移し、エバポレータでの濃縮はn-ペンタンが消失すると同時に止め、最後に乾燥窒素ガスを5分ほど吹き付けて溶媒を完全に留去した。
以上の作業で、純品の化合物 15.1 mgが得られた。本化合物はNMR分析及びGC-MS分析により下記式(6)で表されるリナロール(linalool)と同定された。
リナロールの分光学的分析データ:
GC-MS retention time 14.2 min, m/z 154 (M+). H-NMR (CDCl) : 1.27 (s, 3H, H-10), 1.50-1.63 (2H, H-5), 1.60 (s, 3H, H-9), 1.68 (s, 3H, H-1), 1.95-2.05 (2H, H-4), 5.06 (d, J=10.7 Hz, 1H, H-8), 5.12 (dd, J=7.0, 7.1 Hz, 1H, H-3), 5.21 (d, J=16.3 Hz, 1H, H-8), 5.91 (dd, J=10.7, 16.3 Hz, H-7). 13C-NMR (CDCl) : 17.7 (C-9), 22.8 (C-4), 25.7 (C-1), 27.9 (C-10), 42.0 (C-5), 73.5 (C-6), 111.7 (C-8), 124.3 (C-3), 131.9 (C-2), 145.0 (C-9).
(ラッキョウ由来転写産物解析およびβ-オシメン/α-ファルネセン合成酵素遺伝子配列の決定)
ラッキョウ(Allium chinense G.Don)の鱗茎組織(図19)を細断し、液体窒素にて凍結した。凍結組織は、液体窒素中で乳鉢および乳棒を用いて粉砕後、FastRNA Pro Green Kit(MPバイオメディカルズ社製)およびRNeasy Plant Mini Kit(キアゲン社製)を用いて全RNAを抽出した。得られた全RNA は、Agilent 2100 バイオアナライザ(アジレント・テクノロジー社製)およびAgilent RNA6000ナノキット(アジレント・テクノロジー社製)を用いてRNA Integrity Number (RIN) により RNA 品質を定量的に評価し、RIN=8以上のサンプルを以降の実験に供した。取得した全RNAのうち5 μgをRNAシーケンス解析およびシーケンスデータアセンブルに供した。シーケンスおよびアセンブルの結果、217,890のコンティグ配列を取得した。これらをBlastXによる相同性検索に供した結果、タイサンボク(Magnolia grandiflora)のα-テルピネオールシンターゼ(α-terpineol synthase、Genbank accession B3TPQ7)と46%、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)のα-テルピネオールシンターゼ(α-terpineol synthase、Genbank accession NP_001268216)と44%の相同性を示す遺伝子断片を見出し、AlcTPS1と命名した。AlcTPS1は、1827 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)、608アミノ酸残基、分子量70.1 kDa、およびpI = 6.4と推定される遺伝子をコードしていた。推定塩基配列を配列番号76に、推定アミノ酸配列を配列番号77に示す。AlcTPS1の推定アミノ酸配列中には、RxR 、DDxxDといった、多くのテルペン合成酵素に保存されているモチーフが含まれていた。また、AlcTPS1のN末端アミノ酸配列には、55アミノ酸残基の色素体移行シグナル配列の存在が予想された。
{β-オシメン/α-ファルネセン合成酵素遺伝子(AlcTPS1)の単離と発現プラスミド(pAlcTPS1)の作製}
ラッキョウ鱗茎組織より取得した全RNAサンプル2 μgについて、PrimeScriptTM II 1st strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ社製)により逆転写反応を行い、一本鎖cDNAライブラリを調製した。AlcTPS1の推定塩基配列情報を基に、オリゴヌクレオチドプライマー対(AlcTPS1 Fw, 5'- ATGAGCATTTGTGTGTTAGGTTTTACCCA-3';配列番号78 およびAlcTPS1 Rv, 5'- CTAATTCAAACAAGAAAAATCCTTCTGTGCTATATTAATAGG-3';配列番号79)を設計した。これらオリゴヌクレオチド対およびPrimeSTAR(日本登録商標) Max DNA Polymeraseを用いて、一本鎖cDNAライブラリを鋳型としたPCRを行うことにより、目的とするAlcTPS1断片を取得した。取得したAlcTPS1断片は、pRSFDuet-1プラスミド(Novagen社製)を鋳型としたオリゴヌクレオチドプライマー対(pRSF-AlcTPS1 Fw, 5'- TCTTGTTTGAATTAGGCTGCTGCCACCGCTGA-3';配列番号80, およびpRSF-AlcTPS1 Rv, 5'- CACACAAATGCTCATATGTATATCTCCTTCTTATACTTAACT-3';配列番号81)を用いたPCRにより取得したDNA断片と共に、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を利用したin vitro相同組換え反応を行ってクローン化し、目的とするpAlcTPS1プラスミドを得た。
(プラスミドpAlcTPS1を用いた大腸菌発現系によるβ-オシメン/α-ファルネセン合成)
pAlcTPS1プラスミドは、特許文献3又は非特許文献7の方法に従ってpAC-Mev/Scidi/Aaclプラスミドと共に大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3) に導入し、特許文献3又は非特許文献7の方法に従ってドデカンを添加した液体培地にて培養、生産および生産物の抽出を行った。抽出したドデカン層1 μLをガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)にて分析を行った結果、pAlcTPS1プラスミドを導入した大腸菌由来のサンプルにおいて、保持時間10.75分および30.2分付近に対照となるpRSFDuet-1を導入した大腸菌由来サンプルには見られないピークが検出された(図20;ピーク1, 図21;ピーク2)。これら2つのピークについてマススペクトル解析を行った結果、ピーク1がβ-オシメン、ピーク2がα-ファルネセンのスペクトルと一致した(図22および図23)。この結果から、AlcTPS1がβ-オシメン/α-ファルネセンシンターゼ(β-ocimene/α-farnesene synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。
(炭素数8〜10のn-アルカンを用いた効率的なセスキテルペンの精製法の実証試験1)
特許文献1で開示したショウガ(生姜;Zingiber officinale;品種名:金時ショウガ)の幼根茎由来のγ-アモルフェン合成酵素遺伝子(γ-amorphene synthase;ZoTps5)を用いて、炭素数8〜10のn-アルカンを用いたセスキテルペンの精製法の効率性を実証した。すなわち、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl{クロラムフェニコール(Cm)耐性;特許文献3、非特許文献7}に加えて、ショウガのZoTps5遺伝子を含むプラスミドpET-Zo501FL2{アンピシリン(Ap)耐性;特許文献1}を導入した大腸菌を、終濃度100 mg/LのApと30 mg/LのCmを含む1 LのTB培地(Terific Broth; J. Sambrook, D. W. Russel, Molecular Cloning, 3rd edition, Cold Spring Harbor, NY, 2001)で培養した。この際、n-オクタン(n-octane) 200 mLを加えて培養した。培養終了後、まず培養物(培養液1 L + n-オクタン 200 mL)を2 L容分液ロートに入れてよく撹拌し、明らかな下層(水層)を捨てた{この時点では上層(n-オクタン層)はエマルジョン状態}。次に分液ロートにn-ヘキサン 300 mLとアルカリ90% メタノール 500 mL(0.5 N NaOH 50 mL + メタノール 450 mL)を加えて、よく撹拌した。本作業でエマルジョンは消失してクリアに二層に分かれるので、下層(アルカリ90% メタノール層)を捨てた。再度分液ロートにアルカリ90% メタノール 500 mLを加えて良く撹拌して下層を捨てた。残った上層を500 mL容三角フラスコに回収し、無水硫酸ナトリウムを加えて30分程度脱水後、減圧下(20 mmHg設定)2 mL程度まで濃縮した。
なお、上記のn-オクタンの代わりにデカン(decane)を用いても同じ結果が得られた。一方、炭素数7のn-ヘプタン(n-heptane)やこれより小さいn-アルカンを用いた場合、組換え大腸菌の生育を阻害した。
次に本濃縮物の20 μLを以下に示す条件でPDA-HPLC(フォトダイオードアレイ検出器付き高速液体クロマトグラフィー)にて分析した。
カラム:Developsil C30-UG-5 10 mm x 250 mm(野村化学)
溶媒:95% CHCN
流速:3.0 mL/min
検出:200 - 500 nm (PDA)
結果を図24に示す。本図に示した丸付き数字1〜4としたピーク群がテルペン系化合物であると推定されたため(予備的なGC-MS分析により)、上記同一条件で各ピークを10回程度に分けて(前記濃縮物2 mLを200 μLずつ10回inject)分取した。(これらのうち丸付き数字1〜3はそれぞれ一定の量のある一化合物であったので、各ピークごとに分取した。10回のピーク分取が終了したのち、回収した総溶出液(10 - 30 mL)と同量の水を加えて200 mL容分液ロートに入れ、そこに同量(溶出溶媒x 2 (20 - 60 mL))のn-ペンタンを加えてよく撹拌してn-ペンタン層にテルペン類を分配した。同作業をもう一度繰り返して集めたn-ペンタン層を200 mL容三角フラスコに移して無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレータで減圧下(150 mmHg設定)濃縮した。濃縮物が5 mL程度になった時点で25 mL容ナスフラスコに溶媒を移し、エバポレータでの濃縮はn-ペンタンが消失すると同時に止め、最後に乾燥窒素ガスを5分ほど吹き付けて溶媒を完全に留去した。
以上の作業で、丸付き数字1の化合物 2.9 mg{各種分析によりgermacrene D(ゲルマクレンD)と同定}、丸付き数字2の化合物 2.8 mg[各種分析によりcis-muurola-4(15),5-diene{cis-ムウロラ-4(15),5-ジエン}と同定]、丸付き数字3の化合物1.0 mg{各種分析によりaromadendrene(アロマデンドレン)と同定}、丸付き数字4の化合物 9.9 mg{各種分析によりγ-amorphene(γ-アモルフェン)と同定}が純品として得られた。各化合物の構造を図25に示す。特許文献1ではγ-amorpheneしか同定できなかったが、今回の効率的な精製法により、germacrene D、cis-muurola-4(15),5-diene、aromadendreneの生成を確認することができた。
以上、本実施例等に開示された内容により、n-オクタン乃至デカンの炭素数8〜10のn-アルカンを培地に重層して、テルペンを生合成する大腸菌を培養し、産生されたテルペンを効率的に回収するといった製造方法が発明された。なお、n-オクタン又はデカンを重層して宿主を培養し、産生されたテルペンを回収するといった製造方法はこれまで無かった方法である。
(炭素数8〜10のn-アルカンを用いた効率的なセスキテルペンの精製法の実証試験2)
特許文献2で開示したタラノキ(Aralia elata)新芽由来のβ-クベベン合成酵素遺伝子(β-cubebene synthase;AeTps1)を用いて、炭素数8〜10のn-アルカンを用いたセスキテルペンの精製法の効率性を実証した。すなわち、プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl{クロラムフェニコール(Cm)耐性;特許文献3、非特許文献7}に加えて、タラノキ由来のAeTps1遺伝子を含むプラスミドpET-AeTps1a{アンピシリン(Ap)耐性;特許文献2}を導入した大腸菌を、終濃度100 mg/LのApと30 mg/LのCmを含む1 LのTB培地(Terific Broth; J. Sambrook, D. W. Russel, Molecular Cloning, 3rd edition, Cold Spring Harbor, NY, 2001)で培養した。この際、n-オクタン(又はデカン)200 mLを加えて培養した。培養終了後、まず培養物{培養液1 L + n-オクタン(又はデカン) 200 mL}を2 L容分液ロートに入れてよく撹拌し、明らかな下層(水層)を捨てた{この時点では上層(n-オクタン層又はデカン層)はエマルジョン状態}。次に分液ロートにn-ヘキサン 300 mLとアルカリ90% メタノール 500 mL(0.5 N NaOH 50 mL + メタノール 450 mL)を加えて、よく撹拌した。本作業でエマルジョンは消失してクリアに二層に分かれるので、下層(アルカリ90% メタノール層)を捨てた。再度分液ロートにアルカリ90% メタノール 500 mLを加えて良く撹拌して下層を捨てた。残った上層を500 mL容三角フラスコに回収し、無水硫酸ナトリウムを加えて30分程度脱水後、減圧下(20 mmHg設定)2 mL程度まで濃縮した。濃縮物を、ヘキサンを展開溶媒として内径20 mm x 長さ 200 mmのシリカゲル(Silica Gel 60、関東化学)カラムクロマトグラフィーに供し、同溶媒で6 mLずつ分画した。各フラクションをシリカゲルTLC (Merck) 展開溶媒ヘキサンで展開し、リンモリブデン発色した結果を図26に示す。シリカゲルカラムクロマトグラフィー溶出フラクション9, 10を合一し、エバポレータで減圧下(150 mmHg設定)濃縮乾固したところ、純品のα-copaene (4.3 mg) が得られた。またフラクション12, 13を合一して濃縮乾固したところ、β-cubebene(β-クベベン)とδ-cadinene(δ-カジネン)の混じり (7.7 mg) が、フラクション15-17 を合一して濃縮乾固したところ、純品のgermacrene D (4.9 mg) が得られた。図27にこれらの構造を示す。特許文献2ではβ-cubebeneしか同定できなかったが、今回の効率的な精製法により、α-copaene、δ-cadinene、germacrene Dの生成を確認することができた。
(アセト酢酸エステル加水分解酵素遺伝子のクローニング)
アセト酢酸エステル(アセト酢酸脂肪酸エステル)のうち、アセト酢酸メチルエステル(メチルアセト酢酸:methyl acetoacetate:MAA)又はアセト酢酸エチルエステル(エチルアセト酢酸:ethyl acetoacetate:EAA)を特異的に加水分解可能な酵素遺伝子の候補として、アミノ酸一次配列より分類した12ファミリーから構成される18個の推定遺伝子を含むエステル加水分解酵素遺伝子(表5)について、ゲノム配列データベースより塩基配列を取得した。取得した塩基配列を基にNdeI又はNheI、およびBamHIの制限酵素切断配列を付加した36種の合成プライマーDNA(表6)を作製し、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)、理研BRC又はATCCより購入したゲノムDNAを鋳型としてPCR増幅することにより、目的遺伝子断片を取得した。
推定遺伝子を含む18個のエステル加水分解酵素遺伝子。
取得した塩基配列を基にNdeI又はNheI、およびBamHIの制限酵素切断配列を付加した36種の合成プライマーDNA。
(アセト酢酸エステル加水分解酵素遺伝子発現大腸菌株の作製と発現条件検討)
上述した方法により取得したエステル加水分解酵素(エステラーゼ)遺伝子18個は、制限酵素NdeI又はNheI、およびBamHI切断とLigation-Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を利用した連結方法、又はIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を利用したin vitro相同組換え法を用いてpET21aプラスミドに連結し、18種のエステル加水分解酵素発現プラスミドを取得した。これらのプラスミドは、大腸菌コンピテントセルECOS competent E. coli BL21(DE3)(ニッポンジーン社製)に導入し、終濃度100 μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地上で選抜して陽性クローンを取得した。
次に、終濃度100 μg/mLアンピシリンを含むLB培地500 μLを加えた96穴ディープウェルプレートに上述の各クローンを植菌し、ウェルプレート用恒温振とう培養機にて37℃、1700 rpmで17時間前培養した。この前培養液1% (v/v)を終濃度100 μg/mLアンピシリンを含むLB培地500 μLに添加し、37℃、1700 rpmで4時間培養した後、IPTG溶液を終濃度0.1、0.25、0.5又は1.0 mMになるように添加し、誘導温度37、30又は25℃、1700 rpmで22〜30時間培養を行った。培養菌体500 μLを1.5 mLチューブに移し、18,000×g、1分間遠心して集菌した。上清を除いた菌体に50 μLのBugBuster Master Mix(メルク社製)を添加し、室温で10〜20分間穏やかにボルテックスした後、4℃、16,000×gで20分間遠心して不溶性細片を除去した。上清を酵素粗抽出液サンプルとし、Pierce BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にてタンパク質濃度定量を行った。
上述の酵素粗抽出液サンプルについてSDS-PAGE分析した結果、IPTG終濃度0.25 mM、誘導温度30℃の条件において、BC4102、BC4904、Cgl0292、Cgl1099およびCgl2220の5菌株を除く13菌株由来サンプルにおいて可溶性画分に著量の酵素タンパク質発現が確認された。
(アセト酢酸エステル加水分解酵素活性測定による酵素機能同定)
上述の酵素粗抽出液サンプルについて、Acetoacetate Colorimetric Assay Kit(フナコシ社製)を利用してアセト酢酸エステル加水分解酵素(エステラーゼ)活性を測定した。酵素粗抽出液サンプル10% (v/v)(タンパク質濃度を0.5 μg/μLに調製)、および基質として終濃度100 mMのMAA又はEAAを含む活性測定用反応液を調製し、96穴マイクロプレートにて4℃で100分間反応させた後、マイクロプレートリーダーにて550 nmの吸光度を測定した。アセト酢酸検量線を利用した活性定量の結果、複数の発現株においてアセト酢酸の生成が確認され、特にPnbA、PA3859およびSGO0795発現株にて高いアセト酢酸エステル加水分解活性を有していることが確認された(図28)。PnbA、PA3859およびSGO0795のアミノ酸配列を配列番号85から87、ならびに塩基配列を配列番号82から84に示す。
(プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAおよびpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAoptの構築)
NBRCより購入したBacillus subtilis subsp. subtilis str. 168のゲノムDNAを鋳型として、pnbA Fw(5'- AGGGCTAGCACTCATCAAATAGTAACGACTCAATACG-3';配列番号88)及びpnbA Rv(5'-GGCGGATCCTTATTCTCCTTTTGAAGGGAATAG-3';配列番号89)の2つのプライマーを用いたPCRにより、両末端にHindIII切断部位ならびに5'末端にSD配列を付与したpnbA遺伝子を増幅した。このpnbA遺伝子について、Streptomyces sp. CL190株の由来のメバロン酸経路酵素遺伝子群(メバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ、2型IPPイソメラーゼ、HMG-CoA合成酵素ならびにHMG-CoAレダクターゼ)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来1型IPPイソメラーゼ、およびラット(Rattus norvegicus)由来アセト酢酸-CoAリガーゼの各遺伝子を発現するpAC-Mev/Scidi/Aaclプラスミド(特許文献3、非特許文献7)のHindIII切断部位に連結することで、pAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAプラスミドを構築した(図29)。
PnbAのアミノ酸配列(配列番号85)を基に、大腸菌コドン使用頻度に最適化して人工合成遺伝子を作製し、pnbAoptと命名した。塩基配列を配列番号90に示す。この合成遺伝子断片を鋳型として、pnbAopt Fw(5'-GTTAAGCTTAGGAGGCAGCTATGACCCATCAGATTGTTACCAC-3';配列番号91)及びpnbAopt Rv(5'-CTCAAGCTTATTCGCCTTTGCTCGGAAAC-3';配列番号92)の2つのプライマーを用いたPCRにより、両末端にHindIII切断部位ならびに5'末端にSD配列を付与したpnbAopt遺伝子を増幅した。このpnbAopt遺伝子は、上述と同様の方法でpAC-Mev/Scidi/AaclプラスミドのHindIII切断部位に連結することで、pAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAoptプラスミドを構築した(図29)
(プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAおよびpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAoptを保持する大腸菌株によるリコペン生産)
上述した方法で構築したプラスミドは、リコペン生産プラスミドpCRT-EIB(N. Misawa, M. Nakagawa, K. Kobayashi, S. Yamano, Y. Izawa, K. Nakamura, K. Harashima, J. Bacteriol, 172: 6704-6712, 1990)と共に大腸菌コンピテントセルECOS competent E. coli JM109(ニッポンジーン社製)に導入し、終濃度100 μg/mLのアンピシリン、および終濃度30 μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上で選抜して陽性クローンを取得した。
取得した大腸菌クローンは、終濃度100 μg/mLアンピシリン、および終濃度30 μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地2 mLを入れた試験管に植菌し、30℃、180 rpmで17時間振とう培養した(前培養)。次に、終濃度100 μg/mLアンピシリン、および終濃度30 μg/mLのクロラムフェニコールを含む2×YT培地20 mLを入れた100 mLバッフル付き三角フラスコに前培養液を1% (v/v)添加し、30℃、140 rpmで振とう培養した。600 nmの吸光度が0.5に到達した時点で室温まで冷却し、終濃度1 mMのIPTG、終濃度5 mMのMAA又はEAAを添加後、20℃、160 rpmで振とう培養を続けた。48時間及び72時間後の培養菌体500 μLを1.5 mLチューブに移し、18,000×g、室温で10分間遠心して集菌した。沈殿菌体に0.5 mLのクロロホルム:メタノール=1:1の混合溶液を添加して、色素成分を抽出した。抽出液は、遠心エバポレータ(CC-105、トミー精工社製)にて1〜3時間乾固した後に200 μLの酢酸エチルに溶解し、高速液体クロマトグラフHPLC LC-2000Plusシステム(日本分光社製)にて定量分析を行った。
TSK ODS-80Tsカラム(4.6×150 mm、東ソー社製)を分離用カラムとして用い、流速1.0 mL/min、温度35℃条件下、移動相A(メタノール:水=95:5)と移動相B(メタノール:テトラヒドロフラン=7:3)からなるグラジエント形成により分離し、波長470 nmにて検出を行った。グラジエント条件としては、移動相Aを100%として5分間保持した後、5分かけて移動相Aから移動相Bのリニアグラジエントを形成させ、そのまま移動相Bで100%を8分間保持することとした。その後、100%の移動相Aを12分間流し続けてカラム内部を平衡化した。
色素成分は、高速液体クロマトグラフの保持時間およびリコペン標準試料を用いて作成した面積値をもとに換算し、サンプル中のリコペン濃度を大腸菌乾重量当たりおよび培養液当たりのリコペン量として算出した。
定量結果を図30に示す。図に示すようにプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAおよびpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAoptを導入した大腸菌生産株においては、エステル体であるMAA又はEAAを基質として用いた場合でも、従来基質であるアセト酢酸リチウム(LAA)を用いた場合と同等に乾燥菌体重量(DCW)1 g当たり約15 mg(培養液1 L当たり12〜15 mg)のリコペン生産を示した。
(プラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAを保持する大腸菌株によるセスキテルペン生産)
pAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAプラスミドと共に、セスキテルペンであるβ-ビサボレン生産プラスミド(pET-Zo506FL3、非特許文献2)大腸菌コンピテントセルECOS competent E. coli BL21(DE3)(ニッポンジーン社製)に導入し、終濃度100 μg/mLのアンピシリン、および終濃度30 μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上で選抜して陽性クローンを取得した。取得した大腸菌クローンは、終濃度100 μg/mLアンピシリン、および終濃度30 μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地2 mLを入れた試験管に植菌し、30℃、180 rpmで17時間振とう培養した(前培養)。次に、終濃度100 μg/mLアンピシリン、および終濃度30 μg/mLのクロラムフェニコールを含むTB培地20 mLを入れた100 mLバッフル付き三角フラスコに前培養液を1% (v/v)添加し、37℃、180 rpmで振とう培養した。600 nmの吸光度が0.8に到達した時点で室温まで冷却し、終濃度0.1 mMのIPTG、終濃度5 mMのMAA又はEAA、20% (v/v)のn-ドデカンを添加後、20℃、180 rpmで振とう培養を続けた。72時間後の培養液1 mLを1.5 mLチューブに移し、18,000×g、室温で5分間遠心した。n-ドデカン層をガスクロマトグラフ質量分析計GCMS-QP2010(島津製作所社製)にて定量分析を行った。分析は、スプリットインジェクション(比率:10:1、インジェクター温度:250℃)により、サンプル(1 μL)をインジェクションした。分析プログラムは、60℃から毎分3℃ずつ280℃ まで加温した後、この温度を6.7分間保持する条件で行った。質量分析は、出力70 eV、インターフェース温度250℃で、40〜400 m/zの範囲を測定した。保持時間(30.2分)とピーク面積値より、α-フムレン標品(フナコシ社製)相当量として定量分析を行った。
定量結果を図31に示す。図に示すようにプラスミドpAC-Mev/Scidi/Aacl/pnbAを導入した大腸菌生産株においては、エステル体であるMAA又はEAAを用いた場合、同濃度のLAAを基質とするよりも生産量が約1.8倍増加した。
これらの結果より、新規に機能同定したアセト酢酸エステル加水分解酵素(エステラーゼ)を利用した本大腸菌生産系が、従来基質であるLAAよりも安価なアセト酢酸エステル体を基質として利用することにより、LAAを基質として利用する場合よりも、テルペンを効率的に(高い生産量で)製造できることが示された。
{カロテノイド(テトラテルペン)産生大腸菌による培養液当たりの生産量の増強に関与する糖の検討}
プラスミドpACCRT-EIB、pACCAR16ΔcrtX、pACCAR25ΔcrtX(N. Misawa et al, J. Bacteriol., 177: 6575-6584, 1995)、及びプラスミドpRK-idi(M. Albrecht et al, Biotechnol. Lett., 21: 791-795, 1999)を導入した大腸菌(Escherichia coli)JM101株(Sambrook and Russel, Molecular Cloning A Laboratory Manual (Third edition) Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)を用いて生産量の増強に関与する糖の検討実験を行った。プラスミドpACCRT-EIBは、土壌細菌Pantoea ananatis由来のcrtE, crtB, crtI遺伝子を、大腸菌ベクターpACYC184{クロラムフェニコール(chloramphenicol;Cm)耐性}のEcoRV部位に挿入したもので、リコペン(lycopene)を大腸菌に合成させる。プラスミドpACCAR16ΔcrtXは、Pantoea ananatis由来のcrtE, crtB, crtI, crtY遺伝子を、大腸菌ベクターpACYC184のEcoRV部位に挿入したものでβ-カロテン(β-carotene)を大腸菌に合成させる。pACCAR25ΔcrtXは、Pantoea ananatis由来のcrtE, crtB, crtI, crtY, crtZ 遺伝子を、大腸菌ベクターpACYC184のEcoRV部位に挿入したものでゼアキサンチン(zeaxanthin)を大腸菌に合成させる。プラスミドpRK-idiは、酵母Xanthophyllomyces dendrorhousidi (IPP isomerase; type 1; accession no. AB019035) 遺伝子 (cDNA) を、大腸菌ベクターpRK404{テトラサイクリン(tetracycline;Tc)耐性}のPstI-BamHI部位に挿入したもので、上記のプラスミドと共存させると、カロテノイドの生産量が2〜3倍上昇する。
前培養として、33 mg/LのCmと15 mg/LのTcを含む100 mL LB培地(1% バクトトリプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl)/500 mL三角フラスコ(flask)に、プラスミドpACCRT-EIB、pACCAR16ΔcrtX又はpACCAR25ΔcrtX、及びプラスミドpRK-idiを持つ組換え大腸菌の-80℃凍結ストックを解凍したものを1mL添加して30℃、150 rpm回旋培養で24時間した。本培養として、33 mg/LのCmと15 mg/LのTcを含む100 mL LB培地/500 mL三角フラスコに、前培養液2%(2 mL)を植菌し、20℃、150 rpm回旋培養を共通として、培養容器(500 mL三角フラスコ)としてはバッフル付きあるいは通常の(バッフル無し)三角フラスコを、生産培地としては基本のLB培地に種々の糖あるいは窒素源を1種類ずつ1 g添加して、これらの差異がカロテノイド生産力価に及ぼす影響を検討した。
力価の検討には、各培地で24時間、48時間、72時間、96時間後に培養液を5 mLずつ15 mLファルコンチューブに回収し、本チューブを3000 rpmで5分間遠心して菌体(カロテノイドを含む)を集めた。上澄みの培養液を捨てたのち、各ファルコンチューブにジクロロメタン:メタノール(1:1)溶液を8 mL加えた状態で菌体を超音波破砕することにより、生産されたカロテノイドを完全に有機溶媒に溶解させた。次にファルコンチューブを3000 rpmで5分間遠心処理して破砕した菌体を再度沈殿させたのち、上澄の溶液中のカロテノイド濃度を476 nm(リコペンの場合)又は450 nm(β-カロテン、ゼアキサンチンの場合)でのODを分光光度計で測定することにより実施した。
結果の1例を図32に示す。本図は、リコペン産生大腸菌(プラスミドpACCRT-EIBとpRK-idiを有する)を用いた場合を示したが、β-カロテン産生大腸菌(プラスミドpACCAR16ΔcrtXとpRK-idiを有する)やゼアキサンチン産生大腸菌(プラスミドpACCAR25ΔcrtXとpRK-idiを有する)を用いた場合でも同様の結果が得られた。
以下に結果をまとめる。
LB培地に加える糖は、炭素源として大きな影響を与える(基本 1 g/flask添加)。
該炭素源は、その影響の大きさにより、下記のA〜Cに分類できる。
A:力価が顕著に上昇する炭素源は、フルクトース(fructose)、ガラクトース(galactose)、トレハロース(trehalose)、ソルビトール(sorbitol)。
B:Aほどではないが、力価が上昇する炭素源は、マンニトール(mannitol)、マンノース(mannose)。
C:力価がほとんど上がらない炭素源は、グルコース(glucose)、スクロース(sucrose)、ラクトース(lactose)、マルトース(maltose)、スターチ(starch)。
*ただしAの炭素源を2 g/flaskにしても、多くの場合はさらなる力価上昇は認められない。また4 g/flask加えると、むしろ1 g/flaskより力価が下がる。Aの炭素源を2種組み合わせても、さらなる力価上昇は認められない。
エアレーションは、重要と考えられる。fructose添加の条件でバッフル付き三角フラスコで培養すると、通常の三角フラスコの場合よりさらに2倍程度の力価に上がる。
3種類の窒素源、すなわち、bacto soytone、peptone、又はpolypeptoneを各1 g/flaskの濃度でLB培地に加えてみたが、力価上昇に寄与するものはなかった(むしろ下がるケースもあり)。
高力価となる条件では、菌体量の増加が観察される(LB培地では150 mg/flask程度だが、fructose添加(バッフル付き三角フラスコ)では500 mg/flask程度)。
培養液当たりのカロテノイド生産量が顕著に上昇する炭素源として、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトールを、さらに前4者ほどでは無いが、培養液当たりのカロテノイド生産量が上昇する炭素源として、マンニトール、マンノースを見出したことは予想に反したことであった。なぜなら、培養液当たりの菌体量の増加に貢献すると通常考えられるグルコース、スクロース、ラクトースに効果が認められず、前3者に比べて培養液当たりの菌体量の増加に貢献しづらいと思われるフルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、マンノースに効果が認められたからである。なお、これらの糖が培養液当たりのカロテノイド生産量の増強に効果があるという報告はこれまでなかった。以上、本実施例に開示された内容により、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、及び/又はマンノースを培地に添加して、カロテノイド産生大腸菌を培養するといった効率的培養法が発明された。
{ラット脳脂質過酸化抑制試験(in vitro抗酸化活性試験)}
プラスミドpRSF-Fh6Tps-1及びpAC-Mev/Scidi/Aaclを導入した大腸菌BL21(DE3) を用いて生産されたα-コパエンを用いて、ラット脳脂質過酸化抑制試験を行った。本実験はShindoら(2008)の文献(K. Shindo, E. Asagi, A. Sano, E. Hotta, N. Minemura, K. Mikami, E. Tamesada, N. Misawa, T. Maoka, Diapolycopenedioic acid xlosyl esters A, B, and C, novel antioxidative glycol-C30-carotenoic acids produced by a new marine bacterium Rubritalea squalenifaciens. J. Antibiot. 61:185-191, 2008)に示された手法で行った。結果を図33に示す。その結果、α-コパエン(α-copaene)が、ポジティブコントロールのカテキン(catechin)と比べると弱いながらも、明確な抗酸化活性 (IC50 = 35.1 μM) を有することが明らかになった。
よって、本発明により製造されるα-コパエンは、人の健康に有用な生理機能があることが確認された。
本発明によれば、テルペン合成酵素及びテルペン合成酵素遺伝子を提供し、テルペンを大腸菌等で効率的に製造し、さらにアセト酢酸エステル加水分解酵素遺伝子を利用して産業上有用なテルペンを大腸菌等で効率的に製造することできる。

Claims (4)

  1. 以下の(1)〜(5)及び(7)のいずれか1つに示す遺伝子を導入したバレリアノール製造用組換え大腸菌:
    (1)配列番号21に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、 (2)配列番号21に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号21に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をバレリアノールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
    (3)配列番号21に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号21に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をバレリアノールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
    (4)配列番号4に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
    (5)配列番号4に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子であり、かつファルネシル二リン酸をバレリアノールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
    (7)配列番号4に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をバレリアノールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
  2. 以下の(1)〜(3)のいずれか1つのアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むバレリアノール合成酵素剤:
    (1)配列番号21に記載のアミノ酸配列、
    (2)配列番号21に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号21に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をバレリアノールに変換する活性を有するアミノ酸配列、
    (3)配列番号21に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号21に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をバレリアノールに変換する活性を有するアミノ酸配列。
  3. 請求項1に記載の組換え大腸菌を、培地で培養して得られる培養物又は菌体からバレリアノールを得ることを特徴とする、テルペンの製造方法。
  4. 請求項1に記載の組換え大腸菌を、n-オクタン乃至デカン(炭素数8〜10)のn-アルカンのいずれか1つ以上を重層した培地で培養し、培養後アルカン層からバレリアノールを回収し精製することを特徴とする、バレリアノールの製造方法。
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