JP6753227B2 - 破断分離後の破断面同士の嵌合性および被削性に優れた鋼部品用の熱間圧延鋼材および鋼部品 - Google Patents
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Description
また、近年は高出力ディーゼルエンジンあるいはターボエンジンの普及によるエンジン出力増大に伴い、コンロッドのキャップ部とロッド部のずれ防止、すなわち、嵌合性向上、締結力向上といったニーズがある。このうち、嵌合性向上については破断分離させた面の凹凸を顕著にする鋼材の組織制御が有効である。
Mn硫化物は鋼材が棒材として熱間圧延で製造される際に圧延方向である長手方向に伸長化されて分布する。長手方向とほぼ垂直な方向に破断分離する際、この伸長化されたMn硫化物にき裂が到達すると、き裂の方向は大きく変化し、Mn硫化物と母層の界面に沿って長手方向に伝播する。き裂がMn硫化物端部を過ぎると応力方向に従って、再び長手方向とほぼ垂直な方向にき裂が伝播することにより破断分離が進む。この繰り返しにより破面に凹凸が形成される機構を知見した。
以上の知見をもとに、本発明を完成させた。本発明の要旨は以下のとおりである。
C:0.35−0.45mass%、
Si:0.6−1.0mass%、
Mn:0.60−0.90mass%、
P:0.010−0.035mass%、
S:0.06−0.10mass%、
Cr:0.25mass%以下、
V:0.20−0.40mass%、
Zr:0.0050mass%以下、
N:0.0060−0.0150mass%
を含有し、残部がFe及び不純物であり、さらに、
Sb:0.0001−0.0050mass%および
Sn:0.0001−0.0050mass%
からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする、破断分離後の破断面同士の嵌合性および被削性に優れた鋼部品用の熱間圧延鋼材。
(2)前記化学成分にさらに、
Ti:0.050mass%以下、
Nb:0.030mass%以下、
Mg:0.0050mass%以下および
REM:0.0010mass%以下
からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の破断分離後の破断面同士の嵌合性および被削性に優れた鋼部品用の熱間圧延鋼材。
(3)上記(1)または(2)に記載された熱間圧延鋼材からなる鋼部品であり、
前記鋼部品を引張破断させた破面には、引張応力方向に向けて80μm以上の高さで突出する凹凸が前記破面上の任意の方向長さ10mmあたり2箇所以上の比率で形成され、かつ、前記破面における脆性破壊破面が面積率にして98%以上であり、更に、破面方向に沿って長さ80μm以上に渡って形成されたき裂または凹部の数が、前記破面の任意の方向長さ10mmあたり3箇所未満であることを特徴とする破断分離後の破断面同士の嵌合性および被削性に優れた鋼部品。
以下、本実施形態の熱間圧延鋼材の化学成分の限定理由について述べる。
Cは、本実施形態の熱間圧延鋼材及び鋼部品の引張強さを確保する効果、および、破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくして良好な破断分離性を実現する効果を有する。Cの増加に伴いパーライト組織の体積分率が上昇することにより、引張強さが上昇し延性および靭性が低下する。これらの効果を最大限に発揮させるため鋼中のC含有量の適正な範囲を0.35−0.45mass%に設定した。この含有量の範囲の上限を超えるとパーライト分率が過大となり破断時の欠けの発生頻度が高くなる。また、含有量の下限に満たない場合は破断面近傍の塑性変形量が増加し嵌合性が低下する。なお、C含有量に関しては0.35−0.38mass%であれば好ましい。
Siは、固溶強化によってフェライトを強化させ延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を向上させる。この効果を得るためにはSi含有量の下限を0.6mass%にする必要がある。他方、Siが過剰に含有すると破断面の欠けが発生する頻度が上昇するので、Si含有量の上限を1.0mass%とする。なお、Si含有量に関しては0.7−0.9mass%が好ましい。
Mnは、固溶強化によってフェライトを強化し延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を向上させる。また、Mnは、Sと結合してMn硫化物を形成する。本実施形態の熱間圧延鋼材からなる鋼部品を破断分割させる際に圧延方向に伸長したMn硫化物に沿ってき裂が伝播するので、Mnの含有は破断面の凹凸を大きくして破断面を嵌合する際に位置ずれを防止する効果がある。他方、Mnを過剰に含有する場合、フェライトが硬くなりすぎて破断時の欠けが発生する頻度が増加する。これらを鑑みMn含有量の範囲は0.60−0.90mass%である。なお、Mn含有量に関しては0.75−0.85mass%が好ましい。
Pは、フェライト及びパーライトの延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を向上させる効果を有する。ただし、Pは、同時に結晶粒界の脆化を引き起こし破断面の欠けを発生しやすくする効果が顕著である。従って、Pの含有を利用して延性及び靭性を低下させる方法は欠け防止の観点から積極的に活用すべきではない。以上を考慮すればP含有量の範囲は0.010−0.035mass%であり、さらに、0.010−0.025mass%が好ましい。
Sは、Mnと結合してMn硫化物を形成する。本実施形態の熱間圧延鋼材からなる鋼部品を破断分割させる際に、圧延方向に伸長したMn硫化物に沿ってき裂が伝播するので、Sの含有は破断面の凹凸を大きくし破断面を嵌合する際に位置ずれを防止する効果がある。その効果を得るためにはS含有量の下限を0.06mass%にする必要がある。他方、Sが過剰に含有すると破断分割時の破断面近傍の塑性変形量が増大し破断分離性が低下する場合が発生することに加えて、破断面の欠けを助長することがある。以上から、S含有量の範囲を0.06−0.10mass%とする。S含有量の好ましい範囲として0.07−0.09mass%に限定する。
Crは、Mnと同様に固溶強化によってフェライトを強化し延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を向上させる。しかし、Crを過剰に含有するとパーライトのラメラー間隔が小さくなり、かえってパーライトの延性及び靭性が高くなる。そのため、破断時の破断面近傍の塑性変形量が大きくなり破断分離性が低下する。さらに、Crを過剰に含有するとベイナイト組織が生成しやすくなり破断分離性が大幅に低下する場合がある。従って、Crを含有させる場合、その含有量を0.25mass%以下とする。上述の効果を鑑みた場合、Cr含有量は好ましくは0.12mass%以下である。
Vは、熱間鍛造後の冷却時に主に炭化物又は炭窒化物を形成してフェライトを強化し延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくして熱間圧延鋼材からなる鋼部品の破断分離性を良好にする。また、Vは、炭化物又は炭窒化物の析出強化により熱間圧延鋼材の降伏比を高めるという効果がある。これら効果を得るためにはV含有量の下限を0.20mass%にする必要がある。V含有量の下限は好ましくは0.23mass%である。一方、Vを過剰に含有してもその効果は飽和するのでV含有量の上限は0.40mass%である。好ましくはV含有量の上限は0.35mass%である。
Zrは、酸化物を形成しMn硫化物の晶出核または析出核となりMn硫化物を均一に微細に分散させる。このMn硫化物が破断分割時のき裂の伝播経路となり破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を高める効果がある。ただし、Zrを過剰に含有してもその効果は飽和するのでZr含有量の上限を0.0050mass%とする。この効果を十分に発揮するためにはZr含有量の下限を0.0005mass%とすることが好ましい。
Nは、熱間鍛造後の冷却時に主にV窒化物又はV炭窒化物を形成してフェライトの変態核として働くことによってフェライト変態を促進する。これにより熱間圧延鋼材からなる鋼部品の破断分離性を大幅に損なうベイナイト組織の生成を抑制する効果がある。この効果を得るためにはN含有量の下限を0.0060mass%とする。Nを過剰に含有すると熱間延性が低下し熱間加工時に割れ又は疵が発生しやすくなる場合があるため、N含有量の上限を0.0150mass%とする。なお、N含有量に関しては0.0080−0.0120mass%が好ましい。
SbおよびSnは、結晶粒界、もしくは母相と介在物との界面に偏析し、界面の結合力を低下させることにより、微量の含有でも切削時の変形抵抗を低下させる効果がある。SbおよびSnの含有量の下限を0.0001mass%としたが、効果を十分に発揮させるための好ましい範囲としては、SbおよびSnの含有量の下限を0.0015mass%とする。また、上限については機械特性の観点から特に指定するものではないが過剰の含有は鋼の熱間加工性を劣化させ、表面疵の多発等、熱間圧延が困難となる。従って、鋼材の製造性を考慮して、SbおよびSnの含有量の上限を0.0050mass%とした。製造性の観点から好ましくは、SbおよびSnの合計含有量が0.0001−0.0050mass%であればよい。さらに効果を十分に発揮させるにはSbおよびSnの合計含有量は0.0015−0.0050mass%であることがより好ましい。さらに製造性の観点から、SbおよびSnの合計含有量の上限は0.0030mass%であることがさらに好ましい。
Tiは、熱間鍛造後の冷却時に主に炭化物又は炭窒化物を形成して析出強化によりフェライトを強化し延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を向上させる効果がある。しかし、Tiを過剰に含有するとその効果が飽和するので、上述の効果を得るためにTiを含有させる場合は、Ti含有量の上限を0.050mass%とする。Tiの効果を十分に発揮させるためにはTi含有量の下限を0.005mass%とすることが好ましい。より好適なTi含有量の範囲は0.015−0.030mass%である。
Nbは、熱間鍛造後の冷却時に主に炭化物又は炭窒化物を形成して析出強化によりフェライトを強化し延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし良好な破断分離性を得る効果がある。しかし、Nbを過剰に含有するとその効果が飽和するので上述の効果を得るためにNbを含有させる場合、Nb含有量の上限を0.030mass%とする。Nbの効果を十分に発揮させるにためはNb含有量の下限を0.005mass%とすることが好ましい。より好適なNb含有量の範囲は0.010−0.030mass%である。
Mgは、酸化物を形成しMn硫化物の晶出核または析出核となりMn硫化物を均一に微細に分散させる。このMn硫化物が破断分割時のき裂の伝播経路となり破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を高める効果がある。ただし、Mgが過剰に含有してもその効果は飽和するのでMg含有量の上限を0.0050mass%とする。この効果を十分に発揮するためにはMg含有量の下限を0.0005mass%とすることが好ましい。
REMは、酸硫化物を形成し、Mn硫化物の晶出核または析出核となりMn硫化物を均一に微細に分散させる。このMn硫化物が破断分割時のき裂の伝播経路となり破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を高める効果がある。ただし、REMが過剰に含有すると鋼材製造段階において、鋳造工程でのノズル詰り等の不具合が生じるのでREM含有量の上限を0.0010mass%とする。この効果を十分に発揮するためにはMg含有量の下限を0.0003mass%とすることが好ましい。
上記の化学成分を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造することによりブルームを製造する。得られたブルームを、更に分塊圧延工程等を経てビレットとする。得られたビレットをさらに熱間圧延によって丸棒とする。このようにして本実施形態の熱間圧延鋼材を製造する。なお、ビレットから丸棒形状までの圧延減面率は80%以上とすることが好ましい。これにより、鋼中のMnSを伸長化させることができる。
また、破面の凹凸形状の評価方法は、実施例において述べることとする。
破面同士の嵌合性を高めるためには破断面の引張方向の凹凸が顕著となること、高い頻度で存在することが同時に達成されることが必要である。その基準として、破断面の長さ10mmあたり引張応力方向の凹凸が80μm以上の凹凸が2箇所以上の比率で凹凸が形成されることを基準とした。
一方、表2に示すように、鋼P〜H1は、C、Si、Mn、P、S、Cr、V、Zr、N、Sb、Snの含有量が本発明の範囲から外れている。これらは以下の理由により、表4に示すように、本発明の要件を満たしていない。
製造No.17、19、21、23はそれぞれ、C、Si、Mn、Pの含有量が本発明の範囲の上限を超えており、破断時の欠け発生量が1.0mgを超える。
製造No.20は、Mnの含有量が本発明の範囲の下限未満であり、MnSの体積分率、伸長化度が不十分であり、破面の凹凸箇所数が本発明の要件に満たない。
製造No.25は、Sの含有量が本発明の範囲の下限未満であり、MnSの体積分率、伸長化度が不十分であり、破面の凹凸箇所数が本発明の要件に満たない。
製造No.26は、Crの含有量が本発明の範囲の上限を超えており、破断分離時の塑性変形量が良好な破断分離性の条件である100μmを超える。
製造No.29は、Nの含有量が本発明の範囲の上限を超えており、鋼材製造段階、すなわち、鋳造および熱間圧延段階で疵を多発させ、鋼部品に適用する素材として不適となる。
製造No.31、32は、SbもしくはSnの含有量が本発明の上限を超えており、鋳造および熱間圧延段階で表面疵を多発させ、鋼部品に適用する素材として不適となる。
製造No.33は、Snの含有量が本発明の範囲内であるが、Sbの含有量が本発明の上限を超えており、SbおよびSnの合計含有量が本発明の好ましい範囲である0.0050%を超えており、鋳造および熱間圧延段階で表面疵を多発させ、鋼部品に適用する素材として不適となる。
製造No.34は、SbおよびSnの含有量が本発明の下限範囲に満たず、破面の凹凸箇所数、破断時の欠け発生量、被削性のいずれもが本発明の要件に満たない。
被削性試験中の10秒間で排出された切りくずを回収した。回収された切りくずの長さを調べ、長いものから順に10個の切りくずを選択した。選択された10個の切りくずの総重量を「切りくず重量」と定義した。切りくずが長くつながった結果、切りくずの総数が10個未満である場合、回収された切りくずの総重量を測定し、10個の個数に換算した値を「切りくず重量」と定義した。例えば、切りくずの総数が7個であって、その総重量が12gである場合、切りくず重量は、12g×10個/7個、と計算した。被削性評価に用いたチップは、母材材質:超硬P20種グレード、コーティング:なし、である。また、旋削加工条件は、周速:150m/min、送り:0.2mm/rev、切り込み:0.4mm、潤滑:水溶性切削油使用、である。各マークの切りくず重量が15g以下であれば、切りくず処理性が高いと判断した。切りくず重量が15gを超える場合、切りくず処理性が低いと評価した。Sb、Snを含有する鋼についてはいずれも切りくず重量が15g以下であるのに対し、Sb、Snを含有しない製造No.16〜19は切りくず重量が15gを超え、被削性に劣る。
Claims (3)
- 化学成分が
C:0.35−0.45mass%、
Si:0.6−1.0mass%、
Mn:0.60−0.90mass%、
P:0.010−0.035mass%、
S:0.06−0.10mass%、
Cr:0.25mass%以下、
V:0.20−0.40mass%、
Zr:0.0050mass%以下、
N:0.0060−0.0150mass%
を含有し、残部がFe及び不純物であり、さらに、
Sb:0.0001−0.0050mass%および
Sn:0.0001−0.0050mass%
からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする、破断分離後の破断面同士の嵌合性および被削性に優れた鋼部品用の熱間圧延鋼材。 - 前記化学成分にさらに、
Ti:0.050mass%以下、
Nb:0.030mass%以下、
Mg:0.0050mass%以下および
REM:0.0010mass%以下
からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の破断分離後の破断面同士の嵌合性および被削性に優れた鋼部品用の熱間圧延鋼材。 - 請求項1または2に記載された熱間圧延鋼材からなる鋼部品であり、
前記鋼部品を引張破断させた破面には、引張応力方向に向けて80μm以上の高さで突出する凹凸が前記破面上の任意の方向長さ10mmあたり2箇所以上の比率で形成され、かつ、前記破面における脆性破壊破面が面積率にして98%以上であり、更に、破面方向に沿って長さ80μm以上に渡って形成されたき裂または凹部の数が、前記破面の任意の方向長さ10mmあたり3箇所未満であることを特徴とする破断分離後の破断面同士の嵌合性および被削性に優れた鋼部品。
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JP2016171175A JP6753227B2 (ja) | 2016-09-01 | 2016-09-01 | 破断分離後の破断面同士の嵌合性および被削性に優れた鋼部品用の熱間圧延鋼材および鋼部品 |
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