JP6747869B2 - 地盤注入工法 - Google Patents

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Description

本発明は、不均一に堆積した自然地盤やポンプ浚渫などにより造成された人工地盤に対して複数の改良体を造成する地盤注入工法に関する。
近年、地盤改良を行う技術が種々提供されている。地盤改良の際に施工される地盤注入工法としては、例えばストレーナ注入管の周面に形成された多数の注入口を通じて薬液を注入するストレーナ注入工法の他、削孔部分に建て込んだ結束細管を使用して薬液を注入する結束細管多点注入工法や、削孔部分に挿入された外管(例えばマンシェットチューブと呼ばれるパイプ)の内部に建て込まれたパッカ付きの内管(注入パイプ)を使用して薬液を注入する二重管ダブルパッカ工法が挙げられる。
地盤改良にあたり地盤に注入される薬液の注入形態は、例えば地盤の土粒子を移動させることなく間隙水を薬液(注入液又はグラウト)に置き換わるように浸透させる「浸透注入」と、土粒子を移動させながら薬液を注入する「割裂注入」とに大別される。「割裂注入」は改良範囲以外の部分に薬液が注入されて改良範囲内に未改良部が生じる可能性があることから、「割裂注入」ではなく「浸透注入」となるように、薬液を地盤の改良範囲内に注入させることが理想的である。そこで、地盤を改良する場合には、薬液が地盤に対して「浸透注入」の状態となるように、薬液を低圧で且つ静的に注入している。
上述したストレーナ注入工法や二重管ダブルパッカ工法などの地盤注入工法では、注入速度を一定に保持した状態で、薬液の注入量が予め定めた注入量となるまで改良範囲に注入することが一般的である。また、近年では、多数の微細亀裂を含む亀裂性岩盤などの地盤に対する地盤注入工法として、注入圧力に特定の周波数、或いは数種類の周波数を持つ脈動圧力を重畳的に付加して薬液を注入する動的注入工法の有効性が確認されている(特許文献1から特許文献3参照)。
例えば、特許文献1では、亀裂性岩盤にセメント、ベントナイト系の薬液(グラウト材)を注入する際に、注入圧力に5〜30Hzの周波数域から選択された特定の周波数を持つ脈動圧力を重畳的に付加して、薬剤の構成粒子を励起させて浸透性を向上させる技術について開示している。また、特許文献2では、亀裂性岩盤および鉛直・水平方向に均一な砂質地盤に薬剤(グラウト材)を注入するグラウチングにおいて、注入圧力に、0.04〜0.08Hzの長波と1〜6Hzの短波の複合波による脈動圧力を重畳的に付加して、薬液(グラウト材)の構成粒子を励起させて浸透性を向上させる技術について開示している。さらに、特許文献3は、7〜15秒の周期で注入速度を増減変化させ、注入速度の増減を繰返す度に注入圧力の最大値及び最小値を増加させていくことにより、「割裂注入」の発生を抑制して目的の範囲に注入材を効率良く浸透させる技術について開示している。
さらに、近年では、動的注入工法の他に、薬液の注入を所定時間中断した後、薬液を再度注入する工程を繰り返すことで、薬液を注入したときに生じる注入圧力を消散させて「割裂注入」の発生を抑制するインチング注入工法についても考案されている(特許文献4参照)。
特許第3096244号公報 特許第5089430号公報 特許第3757400号公報 特開2015−25293号公報
しかしながら、例えば二重管ダブルパッカ工法では、薬液を注入する際には、注入位置間の間隙水圧が上昇しやすく「割裂注入」が発生しやすい。「割裂注入」が発生した場合には、薬液の注入圧力により地盤の隆起が発生することから、薬液の注入を中断して地盤に残留する薬液の注入圧力を消散させる必要がある。したがって、二重管ダブルパッカ工法では、作業効率(稼働率)が悪くなり、地盤改良に係る工期が長期化する問題がある。二重管ダブルパッカ工法を用いて、地盤改良に係る工期を短期間で行うことを考えた場合、薬液を複数の位置(以下、注入位置)に同時に注入することも考えられるが、二重管ダブルパッカ工法では、上述した「割裂注入」が発生しやすいことから、地盤改良に係る工期を短縮する解決策とはなりにくい。
また、動的注入工法やインチング注入工法においては、薬液の平均注入速度が二重管ダブルパッカ工法における薬液の注入速度よりも遅く設定されることから、「割裂注入」の発生を抑止できる。しかしながら、これら工法では、二重管ダブルパッカ工法に比べて、薬剤の注入速度が遅く設定されるため、二重管ダブルパッカ工法と同様に、地盤改良に係る工期が長期化する。これら工法において複数の注入位置に同時に薬液を注入したときには、各注入位置に注入される薬液の注入速度のピーク(最大値)が時間的に一致する場合がある。各注入位置に注入される薬液の注入速度のピーク(最大値)が時間的に一致すると、薬液の注入圧力が高くなり、上述した「割裂注入」が発生してしまう。したがって、動的注入工法やインチング注入工法の場合も、複数の注入位置に同時に薬液を注入することは、地盤改良に係る工期を短縮する解決策とはなりにくい。
本発明は、地盤を割裂させることなく、短期間で確実な地盤改良効果を得られるようにした地盤注入工法を提供することにある。
一つの観点によれば、本発明の地盤注入工法は、地盤に注入材を注入する地盤注入工法であって、前記地盤表面における複数の位置の各位置で、前記注入材を注入する注入位置を異なる深度で複数設定する設定工程と、前記地盤表面に設定された複数の位置の各位置において設定される複数の前記注入位置から、前記注入材を注入する2つの注入位置を選択する選択工程と、前記2つの注入位置に前記注入材を流し込む流路を一定間隔毎に切り替えながら、前記2つの注入位置の各注入位置に前記注入材を交互に注入する注入工程と、を有することを特徴とする。
また、前記注入工程は、前記2つの注入位置のうちの一方の注入位置に注入される前記注入材の注入速度が最大速度となってから第1の時間経過したことを受けて、前記注入材を流し込む流路を、前記2つの注入位置のうちの一方の注入位置に向けた流路から、前記2つの注入位置のうちの他方の注入位置に向けた流路に切り替える第1切替工程と、前記2つの注入位置のうちの他方の注入位置に注入される前記注入材の注入速度が最大速度となってから第2の時間経過したことを受けて、前記注入材を流し込む流路を、前記他方の注入位置に向けた流路から、前記一方の注入位置に向けた流路に切り替える第2切替工程と、を含むことを特徴とする。
この場合、前記注入工程は、前記第1切替工程及び前記第2切替工程を繰り返すことで、前記2つの注入位置の各注入位置に対して、前記注入材をインチング注入により注入することが好ましい。
また、前記第2の時間は、前記地盤における土質に応じて、前記第1の時間と同一時間又は異なる時間に設定されることを特徴とする。
また、前記注入工程は、前記注入材を前記流路に送り込む1つのポンプにおける前記注入材の吐出量を、前記地盤における土質に応じて、前記第1切替工程及び前記第2切替工程に合わせて調整する工程をさらに含むことを特徴とする。
また、前記選択工程で選択される2つの注入位置は、前記地盤表面における複数の位置のうちの異なる2つの位置で、且つ前記異なる2つの位置の各々に対して設定された複数の注入位置のうち、同一の深度となる2つの注入位置であることを特徴とする。
また、前記選択工程で選択される2つの注入位置は、前記地盤表面における複数の位置のうちの異なる2つの位置で、且つ前記異なる2つの位置の各々に対して設定された複数の注入位置のうち、異なる深度となる2つの注入位置であることを特徴とする。
また、前記選択工程で選択される2つの注入位置は、前記地盤表面における複数の位置のいずれか1つの位置に対して設定された複数の注入位置のうち、異なる深度となる2つの注入位置であることを特徴とする。
また、前記注入工程は、前記設定工程で設定された全ての前記注入位置に対して実行されることを特徴とする。
本件開示の地盤注入工法によれば、地盤を割裂させることなく、短期間で確実な地盤改良効果を得ることができる。
薬液を注入する注入位置の一例を示す図である。 図1に示す地盤表面における位置Pから位置P12に建て込まれる外管の一例を示す図である。 本発明の地盤注入工法を実施する施工システムの機能ブロックである。 (a)〜(d)は外管を建て込む工程の一例を示す図、(e)は注入管を挿入した状態の一例を示す図、(f)は2つの注入管を挿入した状態の一例を示す図である。 薬液の注入方法を示すグラフである。 2つの注入位置における薬液の注入量が同一となる場合の、注入ポンプにおける吐出速度の時間的変化と、流路A及び流路Bにおける薬剤の注入速度の時間的変化とを示すグラフである。 二重管ダブルパッカ工法(ケース1)、結束細管多点注入工法(ケース2)、インチング注入工法(ケース3)及び本実施形態における地盤注入工法(ケース4)の各工法における薬液の注入速度をまとめた表である。 二重管ダブルパッカ工法(ケース1)、結束細管多点注入工法(ケース2)、インチング注入工法(ケース3)及び本実施形態における地盤注入工法(ケース4)の各工法における施工日数をまとめた表である。 流路の全開時間を流路毎に異なる時間に設定した場合の、注入ポンプにおける吐出速度の時間的変化と、流路A及び流路Bにおける薬剤の注入速度の時間的変化とを示すグラフである。 注入ポンプの吐出量を流路毎に異なる吐出量とした場合の、注入ポンプにおける吐出速度の時間的変化と、流路A及び流路Bにおける薬剤の注入速度の時間的変化とを示すグラフである。
以下、本発明の地盤注入工法について説明する。本発明の地盤注入工法は、地盤改良を行う領域(以下、地盤改良領域)に対して設定される複数の注入位置のうち、2つの注入位置に薬液(注入材)を同時に注入するものである。なお、薬液としては、水ガラス系溶液型、懸濁液型、土壌浄化材、重金属不溶化材、アクリル酸多価金属塩水溶液型の薬液が挙げられる。
図1に示すように、薬液の注入位置は、地盤改良領域10に対して複数設定される。図1においては、地盤表面における位置Pから位置P12の各位置にて削孔を行い、削孔の後、z方向に5箇所の注入位置P(z)を造成(設定)している。図1においては、注入位置P(z)のnはn=1,2,・・・,12であり、mはm=1,2,・・・,5である。したがって、図1においては、x方向に4箇所、y方向に3箇所、z方向に5箇所の計60箇所造成される。なお、図1においては、図の煩雑さを解消するために、位置P、位置Pから位置P12を除いた位置において造成される注入位置については一部省略している。
図1では、複数の注入位置を造成する地盤表面の位置を位置Pから位置P12の12箇所としているが、複数の注入位置を造成する地盤表面の位置や数は、地盤改良領域の大きさ、地盤の土質などによって適宜設定されるものである。
複数の注入位置P(z)のうち、薬液を同時に注入する2つの注入位置の組み合わせとしては、以下の(1)から(3)の組み合わせがある。
(1)地盤表面における位置Pから位置P12のうちの2つの位置で、且つ深度(y方向の位置)が同一となる2つの注入位置
(2)地盤表面における位置Pから位置P12のうちの2つの位置で、且つ深度(y方向の位置)が異なる2つの注入位置
(3)地盤表面における位置Pから位置P12のうちの1つの位置で、且つ深度(y方向の位置)が異なる2つの注入位置
上述した(1)の組み合わせとしては、例えば注入位置P(z)と注入位置P11(z)との組み合わせ等が挙げられる。また、(2)の組み合わせとしては、注入位置P(z)と注入位置P10(z)との組み合わせ等が挙げられる。また、(3)の組み合わせとしては、例えば注入位置P12(z)と注入位置P12(z)との組み合わせなどが挙げられる。
したがって、本発明の地盤注入工法では、地盤内の三次元空間上で造成される複数の注入位置P(z)のいずれか2つの注入位置に薬液を同時に注入していくことで、地盤表面における位置Pから位置P12の各位置の地盤内に改良体を造成する。
上述した注入位置において、x方向及びy方向の各方向において隣り合う注入位置の間隔Hは、薬液を注入することで形成される改良体のxy平面における最大径や、各注入位置において薬液を注入したときに発生する還元水圧が影響しない間隔に設定される。具体的には、隣り合う注入位置の間隔Hは1m〜5mの範囲に設定される。
また、z方向において隣り合う注入位置の間隔(深度)Dは、薬液を注入したときに地盤に発生する還元水圧が影響しない間隔に設定される。詳細には、間隔(深度)Dは、例えば、後述する外管20に設けられる放出孔21の間隔を最小とし、薬液を注入する長さの1/2を最大とする範囲であることが好ましい。したがって、建て込まれる外管20に設けた放出孔21の間隔が33cmとする場合には、間隔Dは、33cm以上、薬液を注入する長さの1/2以下の範囲で設定される。
なお、x方向及びy方向の各方向において隣り合う注入位置の間隔Hやz方向において隣り合う注入位置の間隔(深度)Dは、図1では、同一としているが、位置Pから位置P12のそれぞれで異なるようにしてもよい。
上述したように、地盤表面における位置Pから位置P12には外管20が建て込まれる。外管20としては、例えば二重管ダブルパッカ工法にて使用されるマンシェットチューブが挙げられる。外管20は、長手方向に一定の間隔を空けて設けられた5個の放出孔21を有する。放出孔21の間隔Lは、例えば33cmである。外管20は、長手方向に一定の間隔を空けて設けられた各放出孔21を個別に塞ぐゴムスリーブ25が取り付けられる。
ゴムスリーブ25は、注入される薬液から受けた圧力によって弾性で膨らむことにより、放出孔とゴムスリーブの開放端部(結束バンドにより固定される一端とは反対側の端部)までの間に、外管20及びゴムスリーブ25間に隙間を生成して、薬液を放射状に放出させる。また、ゴムスリーブ25は、外管20の放出孔21を塞ぐことにより、外部からの圧力に対しては放出孔21に押圧されてより密着し、外部からの外管20への逆流や水の侵入を防ぐ。
なお、外管20には、外周面に設けた放出孔の上下にパッカを設けた注入パイプが、1本又は2本挿入される。外管20に挿入される1本又は2本の注入パイプは、後述する流路切替装置38に接続される。
なお、本実施形態としては、地盤表面における位置Pから位置P12に、外管20を建て込む場合を説明しているが、複数の注入用細管を束ねた注入用結束細管を、地盤表面における位置Pから位置P12の各位置に建て込むことも可能である。
次に、本発明の地盤注入工法を実施する施工システムについて図3を用いて説明する。なお、図3においては、削孔機や削孔機を制御する制御部の構成については省略している。
図3に示すように、施工システム30は、動態管理装置31と、動態管理装置31とローカルエリア接続される注入管理装置32や記録用PC33を有する。
動態管理装置31は、測定器からの測定データを記録用PC33から受信し、受信した測定データを用いて、測定器34に対応した注入ポンプ35の回転数の制限、停止指示判断を行う。動態管理装置31は、規制値と測定データを逐次比較しており、測定データが規制値を超えた場合に、注入管理装置32に対して逓倍率を0〜99%の間で規制する指示を行う。なお、逓倍率は注入ポンプ35で設定変更することができる。
注入管理装置32は、流量・圧力測定装置36から流量圧力、瞬時流量、積算流量の計測データを取得し、流量圧力、瞬時流量、積算流量の計測データをモニタ等に表示する。注入管理装置32は、インバータ37を介して注入ポンプ35に繋がっており、インバータ37を介して注入ポンプ35に対するON/OFF及び周波数制御信号を送信する。また、動態管理装置31から注入ポンプ35の回転数の制限・停止指示信号(逓倍率)が送信されると、注入管理装置32は、注入ポンプ35における注入流量が設定流量に逓倍率を掛けた数値となるように、周波数制御信号を注入ポンプ35に出力する。
また、注入管理装置32は、流量・圧力測定装置36から取得した流量圧力、瞬時流量、積算流量の計測データに基づいて、流路切替装置38を駆動して、薬液の流路を切り替える。なお、流路切替装置38としては、例えば電子制御により流路を切り替える切替バルブが挙げられる。
記録用PC33は、測定器34からの測定データを取得し、薬液の注入時における応力や変位データをモニタ等に表示する。また、記録用PC33は、測定データを記録するとともに、動態管理装置31に測定データを送信する。
測定器34は、薬液の注入時における応力や地盤の変位を測定する。注入ポンプ35は、例えばグラウトミキサと流量・圧力測定装置36との間に設けられ、削孔時に削孔用水を、薬液の注入時に注入管に向けて送り込む。
流量・圧力測定装置36は、例えば注入ポンプ35と注入管とを接続するホースに設けられ、送り込まれた薬液などの注量や圧力などを測定する。
次に、外管20を建て込む工程の一例を、図4を用いて説明する。
工程1:例えば、図1に示す地盤表面の位置P(n=1,2,・・・,12)に、ケーシングパイプ50とロッド51とを用いて削孔する(図4(a)参照)。この工程1は、図示を省略した削孔機により施工される。
工程2:ケーシングパイプ50の内部に注入管53を挿入し、ゲル状のシール材54をケーシングパイプ50の内部に充填する(図4(b)参照)。
工程3:ゲル状のシール材54をケーシングパイプ50の内部に充填した後、外管20をケーシングパイプ50の内部に挿入し、ゲル状のシール材54が硬化するまで養生する(図4(c)及び図4(d)参照)。
図1の場合には、上記工程1から工程3を地盤表面の位置Pから位置P12の全ての位置で施工する。これにより、外管20が地盤表面の位置Pから位置P12の全ての位置に建て込まれる。
外管20が地盤表面の位置Pから位置P12の全ての位置に建て込まれることで、例えば、注入位置が、地盤内の三次元空間上で、図1中x方向に4箇所、y方向に3箇所、z方向に5箇所の計60箇所造成される。
この状態で、地盤中に造成される複数の注入位置P(z)のうち、上述した(1)から(3)のいずれかの組み合わせとなる2つの注入位置に薬液を同時に注入する処理が実行される。例えば、上述した(1)の組み合わせとなる2つの注入位置に対して薬液を注入する場合には、地盤表面の位置Pから位置P12のうち、目的の位置に建て込まれた2つの外管20に、パッカ61,62を有する注入パイプ(内管)63を、注入パイプ63に設けた放出孔64が目的の深度(外管に設けた放出孔のうち、目的の放出孔が位置する深度)に位置するまで各々挿入される(図4(e)参照)。そして、上述した注入ポンプ35を作動させて目的の注入位置に薬液を同時に注入する。
なお、上述した(2)の組み合わせとなる2つの注入位置に対して薬液を注入する場合も、(1)の組み合わせとなる2箇所の注入位置に対して薬液を注入する場合と同一の工程で施工される。
一方、上述した(3)の組み合わせとなる2箇所の注入位置に対して薬液を注入する場合には、地盤表面の位置Pから位置P12のうち、目的の位置に建て込まれた1つの外管20に、パッカ61,62を有する注入パイプ63と、パッカ71,72を有する注入パイプ73とを、注入パイプ63に設けた放出孔64及び注入パイプ73に設けた放出孔74の各々が目的の深度に位置するまで挿入する(図4(f)参照)。(3)の組み合わせとなる2つの注入位置で薬液を同時に注入する場合、注入パイプ63に設けた放出孔64と、注入パイプ73に設けた放出孔74との相対位置は、固定としてもよいし、可変できるようにしてもよい。
次に、2つの注入位置に対して薬液を同時に注入する方法について説明する。薬液を注入する方法としては、図5に示すように、一定の注入速度で薬液を注入する静的注入、注入圧力に特定の周波数、或いは数種類の周波数を持つ脈動圧力を重畳的に付加して薬液を注入する動的注入の他に、薬液の注入動作、及び薬液の注入を一時中断する動作を繰り返し行うインチング注入(断続的注入)が挙げられる。本発明の地盤注入工法では、2つの注入位置の各々に対して薬液をインチング注入により交互に注入し、2つの注入位置に対して薬液を同時に注入する。なお、図5中点線は、インチング注入を行ったときの注入圧力を示している。
まず、2つの注入位置に注入される薬液の注入量が同一量である場合について説明する。以下では、2つの注入位置のうち、一方の注入位置に対して設けた流路を流路Aとし、他方の注入位置に対して設けた流路を流路Bとして説明する。
図6に示すように、薬液を地盤に注入する工程においては、注入管理装置32は、注入ポンプ35を作動させる。注入ポンプ35が駆動すると、注入ポンプ35から薬液が吐出され、薬液が流路A又は流路Bのいずれか一方の流路に流れ込む。例えば流路Aに薬液が流れ込むように、流路切替装置38がセットされている場合、注入ポンプ35が駆動されると、薬液は流路Aに流れ込む。注入ポンプ35から吐出される薬液の注入速度が一定速度になると、流路Aにおける注入速度も一定速度になる。流路Aにおける注入速度が一定速度になってから時間T1(全開時間T1)経過すると、注入管理装置32は流路切替装置38を駆動させ、薬液が流れ込む流路を、流路Aから流路Bに切り替える。薬液が流れ込む流路が流路Aから流路Bに切り替わる過程で、流路Aに流れ込む薬液の注入速度が落ちていく一方、流路Bに流れ込む薬液の注入速度が0から上昇する。そして、薬液が流れ込む流路が流路Aから流路Bに切り替わると、流路Aに流れ込む薬液の注入速度が0になり、流路Bに流れ込む薬液の注入速度が一定速度となる。
そして、流路Bにおける注入速度が一定速度になってから時間T2(全開時間T1=T2)経過すると、注入管理装置32は流路切替装置38を駆動させ、薬液が流れ込む流路を流路Bから流路Aに切り替える。薬液が流れ込む流路が流路Bから流路Aに切り替わる過程で、流路Bに流れ込む薬液の注入速度が落ちていく一方、流路Aに流れ込む薬液の注入速度が0から上昇する。そして、薬液が流れ込む流路が流路Bから流路Aに切り替わると、流路Bに流れ込む薬液の注入速度が0になり、流路Aに流れ込む薬液の注入速度が一定速度となる。
上述した流路切替装置38により流路を切り替える動作を、2つ注入位置に対する薬液の注入量が目的の注入量に到達まで繰り返し実行する。そして、2つ注入位置に対する薬液の注入量が目的の注入量に到達すると、注入管理装置32は、注入ポンプ35の駆動を停止させる。
上述した薬液を注入する工程を、地盤改良を行う領域に造成された注入位置の全ての位置で行う。
図6に示すように、本発明の地盤注入工法では、注入ポンプ35における注入速度は一定であり、2つの流路を切り替えながら、2つの注入位置の各々に対して薬液を注入している。したがって、流路Aを用いて薬液を注入する過程では、流路Bを用いて薬液を注入することはない。その結果、各流路を用いたときの注入速度のピークが一致することはないので、地盤内に発生する注入圧力に起因した割裂注入の発生を防止することができる。また、流路切替装置38による流路の切り替え時においても、薬液の注入圧力の上昇を抑止できるので、地盤内に発生する注入圧力に起因した割裂注入の発生を防止することができる。
図7は、二重管ダブルパッカ工法(ケース1)、結束細管多点注入工法(ケース2)、インチング注入工法(ケース3)及び本実施形態における地盤注入工法(ケース4)における、注入速度を比較する表である。
図7に示すように、二重管ダブルパッカ工法では、1つのポンプを用いて1つの注入位置に対して薬液が注入される。二重管ダブルパッカ工法における薬液の平均注入速度は9L/minであることから、実質注入速度は9L/minである。しかしながら、二重管ダブルパッカ工法において、薬液の平均注入速度を9L/minとした場合には、地盤中の間隙水圧が上昇して、薬液の注入状態が「割裂注入」となり、地盤が隆起する。したがって、地盤に残留する注入圧力を消散させるために、薬液の注入工程が度々中断する。したがって、実際に二重管ダブルパッカ工法で地盤を改良した場合における稼働率の統計値は33%程度となる。
また、結束細管多点注入工法では、1つのポンプを用いて1つの注入位置に対して薬液が注入される。結束細管多点注入工法における薬液の平均注入速度は3L/minであり、実質注入速度は3L/minである。結束細管多点注入工法では注入速度が二重管ダブルパッカ工法における注入速度よりも低いことから、「割裂注入」が発生しにくい。したがって、結束細管多点注入工法では、施工を中断することはないので、稼働率は100%となる。
インチング注入工法では、1つのポンプを用いて1つの注入位置に対して薬液が注入される。インチング注入工法における薬液の平均注入速度は5L/minであり、実質注入速度は5L/minである。インチング注入工法では注入速度が二重管ダブルパッカ工法における注入速度よりも低く、結束細管多点注入工法における注入速度よりも高く設定される。上述したようにインチング注入工法は、薬液の注入を所定時間中断した後、薬液を再度注入する工程を繰り返す工法であることから、「割裂注入」が発生しにくい。したがって、インチング注入工法では、施工を中断することはないので、稼働率は100%となる。
一方、本実施形態の地盤注入工法では、1つのポンプを用いて2つの注入位置に対して薬液が注入される。なお、各注入位置における薬液の注入形態は、インチング注入である。したがって、例えば1つの注入位置に対して注入される薬液の平均注入速度は5L/minとすると、本実施形態の地盤注入工法では、2つの注入位置に薬液を注入するので、実質注入速度は10L/minとなる。
したがって、本実施形態の地盤注入工法では、二重管ダブルパッカ工法、結束細管多点注入工法及びインチング注入工法に比べて実質注入速度を上げることができる。
図8は、起動直下の地盤改良工事を施工した場合の各工法における施工日数をまとめた表である。図8においても、ケース1は二重管ダブルパッカ工法で施工した場合、ケース2は結束細管多点注入工法で施工した場合を示す。また、ケース3はインチング注入工法で施工した場合、ケース4は本実施形態における地盤注入工法で施工した場合を示す。各ケースにおける地盤改良工事において、用いる注入ポンプの台数は8台、日当たり実注入時間は3時間とした。
二重管ダブルパッカ工法で施工したケース1や、結束細管多点注入工法で施工したケース2の場合には、日当たり注入量は4.32kLとなり、薬剤の注入施工日数は94日であった。一方、インチング注入工法で施工したケース3の場合には、日当たり注入量は7.2kLとなり、薬液の注入施工日数は57日であった。上述したように、ケース1で示す二重管ダブルパッカ工法は、ケース2で示す結束細管多点注入工法に比べて薬液の実質注入速度は速いが、稼働率が低い。その結果、ケース1で示す二重管ダブルパッカ工法や、ケース2で示す結束細管多点注入工法では、施工期間が長期化することがわかる。
一方、ケース3で示すインチング注入工法は、ケース1で示す二重管ダブルパッカ工法に比べて薬液の実質注入速度は遅いが、稼働率が高い。また、ケース3で示すインチング注入工法は、ケース2で示す結束細管多点注入工法に比べて薬液の実質注入速度は速い。したがって、ケース3で示すインチング注入工法は、ケース1で示す二重管ダブルパッカ工法やケース2で示す結束細管多点注入工法に比べて、施工期間が短期化することがわかる。
さらに、ケース4で示した、本実施形態に示す地盤注入工法は、ケース3で示すインチング注入工法に比べて、薬液の実質注入速度が2倍となる。したがって、ケース4で示した、本実施形態に示す地盤注入工法に比べて、施工期間が半分近くまで短縮されることがわかる。
このように、本実施形態に示す地盤注入工法を実施することで、薬液の注入時に割裂注入の発生を防止でき、また、地盤改良工事の施工期間を短縮することが可能となる。
上述した実施形態においては、2つの注入位置において注入される薬液の注入量が同一量となる場合について説明しているが、薬液を注入する注入位置によっては、地盤の構造上、薬液の注入量は注入位置毎で異なる場合もある。以下では、流路Aを介して注入される薬液の注入量が流路Bを介して注入される薬液の注入量の2倍となる2つの注入位置に薬液を注入する場合について説明する。
図9に示すように、薬液を地盤に注入する工程においては、注入管理装置32は、注入ポンプ35を作動させる。注入ポンプ35が駆動すると、注入ポンプ35から吐出された薬液は流路Aに流れ込む。流路Aにおける注入速度が一定速度になってから時間T3(全開時間T3)経過すると、注入管理装置32は流路切替装置38を駆動させ、薬液が流れ込む流路を、流路Aから流路Bに切り替える。そして、流路Bにおける注入速度が一定速度になってから時間T4(全開時間T4=T3/2)経過すると、注入管理装置32は流路切替装置38を駆動させ、薬液が流れ込む流路を流路Bから流路Aに切り替える。これにより、薬液が流れ込む流路が流路Bから流路Aに切り替わる。この場合も、2つの注入位置に対する薬液の注入量が目的の注入量に到達するまで上記処理を繰り返し実行した後、注入ポンプ35の駆動を停止する。
これにより、流路Aを介して薬液が注入される注入位置と、流路Bを介して薬液が注入される注入位置との各注入位置において、注入される薬液の注入量を異なる注入量とすることが可能となる。
流路Aを介して注入される薬液の注入量が流路Bを介して注入される薬液の注入量の2倍となる2つの注入位置に薬液を注入する場合、各流路の全開時間に基づいて、薬液を流し込む流路を切り替えるようにしているが、注入ポンプ35が駆動したときの回転数を調整する(詳細には、注入ポンプ35からの吐出速度(又は吐出量)を変更する)ことで、流路Aを介して注入される薬液の注入量と、流路Bを介して注入される薬液の注入量とを異なる注入量としてもよい。
図10に示すように、薬液を地盤に注入する工程においては、注入管理装置32は、注入ポンプ35を作動させる。注入ポンプ35が駆動すると、注入ポンプ35から吐出された薬液は流路Aに流れ込む。流路Aにおける注入速度が一定速度になってから時間T5(全開時間T5)経過すると、注入管理装置32は流路切替装置38を駆動させ、薬液が流れ込む流路を、流路Aから流路Bに切り替える。例えば注入ポンプ35が駆動して、例えば流路Aに流れ込む薬液の最大速度の半分の速度になるときに、注入ポンプ35の回転数を1/2の回転数に下げる。そして、流路Bにおける注入速度が一定速度になってから時間T6(全開時間T6=T5)経過すると、注入管理装置32は流路切替装置38を駆動させ、薬液が流れ込む流路を流路Bから流路Aに切り替える。同時に注入ポンプの回転数を2倍の回転数に上げる。この場合も、2つの注入位置に対する薬液の注入量が目的の注入量に到達するまで上記処理を繰り返し実行した後、注入ポンプ35の駆動を停止する。
上記実施形態では、注入速度に関して具体的な数値を表記していないが、地盤中の土質や構成などに基づいて最適な値を用いることができる。
10…地盤改良領域、30…施工システム、32…注入管理装置、35・・・注入ポンプ、38…流路切替装置、63,73…注入パイプ

Claims (9)

  1. 地盤に注入材を注入する地盤注入工法であって、
    前記地盤表面における複数の位置の各位置で、前記注入材を注入する注入位置を異なる深度で複数設定する設定工程と、
    前記地盤表面に設定された複数の位置の各位置において設定される複数の前記注入位置から、前記注入材を注入する2つの注入位置を選択する選択工程と、
    前記2つの注入位置に前記注入材を流し込む流路を一定間隔毎に切り替えながら、前記2つの注入位置の各注入位置に前記注入材を交互に注入する注入工程と、
    を有することを特徴とする地盤注入工法。
  2. 請求項1に記載の地盤注入工法において、
    前記注入工程は、
    前記2つの注入位置のうちの一方の注入位置に注入される前記注入材の注入速度が最大速度となってから第1の時間経過したことを受けて、前記注入材を流し込む流路を、前記2つの注入位置のうちの一方の注入位置に向けた流路から、前記2つの注入位置のうちの他方の注入位置に向けた流路に切り替える第1切替工程と、
    前記2つの注入位置のうちの他方の注入位置に注入される前記注入材の注入速度が最大速度となってから第2の時間経過したことを受けて、前記注入材を流し込む流路を、前記他方の注入位置に向けた流路から、前記一方の注入位置に向けた流路に切り替える第2切替工程と、
    を含むことを特徴とする地盤注入工法。
  3. 請求項2に記載の地盤注入工法において、
    前記注入工程は、前記第1切替工程及び前記第2切替工程を繰り返すことで、前記2つの注入位置の各注入位置に対して、前記注入材をインチング注入により注入することを特徴とする地盤注入工法。
  4. 請求項2又は請求項3に記載の地盤注入工法において、
    前記第2の時間は、前記地盤における土質に応じて、前記第1の時間と同一時間又は異なる時間に設定されることを特徴とする地盤注入工法。
  5. 請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の地盤注入工法において、
    前記注入工程は、
    前記注入材を前記流路に送り込む1つのポンプにおける前記注入材の吐出量を、前記地盤における土質に応じて、前記第1切替工程及び前記第2切替工程に合わせて調整する工程をさらに含む
    ことを特徴とする地盤注入工法。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の地盤注入工法において、
    前記選択工程で選択される2つの注入位置は、前記地盤表面における複数の位置のうちの異なる2つの位置で、且つ前記異なる2つの位置の各々に対して設定された複数の注入位置のうち、同一の深度となる2つの注入位置であることを特徴とする地盤注入工法。
  7. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の地盤注入工法において、
    前記選択工程で選択される2つの注入位置は、前記地盤表面における複数の位置のうちの異なる2つの位置で、且つ前記異なる2つの位置の各々に対して設定された複数の注入位置のうち、異なる深度となる2つの注入位置であることを特徴とする地盤注入工法。
  8. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の地盤注入工法において、
    前記選択工程で選択される2つの注入位置は、前記地盤表面における複数の位置のいずれか1つの位置に対して設定された複数の注入位置のうち、異なる深度となる2つの注入位置であることを特徴とする地盤注入工法。
  9. 請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の地盤注入工法において、
    前記注入工程は、前記設定工程で設定された全ての前記注入位置に対して実行されることを特徴とする地盤注入工法。
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