JP6747121B2 - 透光性ジルコニア焼結体及びその製造方法並びにその用途 - Google Patents

透光性ジルコニア焼結体及びその製造方法並びにその用途 Download PDF

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Description

本発明は、高い透光性及び強度を有するジルコニア焼結体及びその製造方法に関する。
ジルコニアを主成分とする焼結体であって透光性を有するもの(以下、「透光性ジルコニア焼結体」ともいう。)は、ガラスやアルミナよりも機械的特性に優れる。そのため、透光性ジルコニア焼結体は、光学特性のみならず機械的特性をも必要とする用途を目的とした素材として検討されている。
例えば、特許文献1には歯科用材料や外装部材等に適した素材としての透光性ジルコニア焼結体が開示されている。当該透光性ジルコニア焼結体は、3mol%のイットリアを含有するジルコニア焼結体であった。
特許文献2には、歯科用材料、特に歯列矯正ブラケットに適した素材としての透光性ジルコニア焼結体が開示されている。当該透光性ジルコニア焼結体は、8mol%のイットリアを含有するジルコニア焼結体であった。
特許文献3には、歯科用材料、特に義歯及び義歯を得るためのミルブランクに適した素材としてのジルコニア焼結体が開示されている。当該ジルコニア焼結体は、イットリア及びチタニアを含有するジルコニア焼結体であった。
特開2008−050247号公報 特開2009−269812号公報 特開2008−222450号公報
従来のジルコニア焼結体は、ジルコニア中の安定化剤の含有量が高くなることにより、透光性が高くなるとともに強度が低下するものであった。他方、安定化剤の含有量が低くなることにより、従来のジルコニア焼結体は、透光性が低くなるとともに強度が高くなるものであった。このように、従来のジルコニア焼結体は、透光性又は強度のいずれかが高いものしかなかった。
本発明は、これらの課題を解決し、高い透光性及び高い強度を兼備したジルコニア焼結体を提供することを目的とする。
本研究者等は、透光性を有するジルコニア焼結体について検討した。その結果、結晶粒子内の組織構造を制御することで、強度及び透光性を兼備した焼結体となることを見出した。さらに、このような結晶粒子内の組織構造は、ランタンをジルコニアに固溶させることで制御できることを見出した。
すなわち、本発明は、立方晶ドメイン及び正方晶ドメインを有する結晶粒子を含み、安定化剤及びランタンを固溶し、なおかつ、CuKαを線源とする粉末X線回折パターンにおける2θ=30±2°のピークの半値幅から算出される平均結晶子径が255nm超であることを特徴とするジルコニア焼結体である。
以下、本発明のジルコニア焼結体について説明する。
本発明のジルコニア焼結体は焼結体中に単にランタン(La)を含むのではなく、ジルコニアにランタンが固溶した、ランタン固溶ジルコニア焼結体である。ランタンが固溶することで、焼結体の結晶粒子の組織構造が微細になる。
本発明のジルコニア焼結体(以下、「本発明の焼結体」ともいう。)において、ランタンがジルコニアに固溶していることは粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)パターンから確認することができる。本発明の焼結体はCuKα線(λ=0.15418nm)を線源とするXRD測定において、2θ=30±2°のピーク(以下、「メインピーク」ともいう。)を有する。メインピークは正方晶ジルコニアのXRDピーク(2θ=30.0±2°)及び立方晶ジルコニアのXRDピーク(2θ=29.6±2°)が重複したピークであり、なおかつ、本発明の焼結体のXRDパターンにおける回折強度が最も強いXRDピークである。メインピークから求められる格子定数が、ランタンを固溶しないジルコニア焼結体よりも大きいことから、本発明の焼結体においてランタンがジルコニアに固溶していることが確認できる。例えば、本発明の焼結体がランタン及び3mol%のイットリアを含有する場合、その格子定数は、同量のイットリアのみを含有するジルコニア焼結体の格子定数よりも大きくなる。格子定数が大きいことは、XRDパターンにおいてメインピークが低角側へシフトすることから確認できる。
さらに、本発明の焼結体は、ランタンとジルコニウムとからなる複合酸化物又はランタン酸化物(以下、「ランタン酸化物等」ともいう。)を実質的に含有しないことが好ましい。ランタン酸化物等を含まないことで、本発明の焼結体が、より透光性の高い焼結体となる。ランタン酸化物等を含まないことは、本発明の焼結体のXRDパターンにおいて、ジルコニアのXRDピーク以外に相当するXRDピークを有さないことから確認することができる。ランタン酸化物等としてはLaZr、及びLaを例示することができる。
本発明の焼結体のランタン含有量は0.1mol%以上であることが好ましい。なお、ランタン含有量(mol%)は、焼結体中のジルコニア、安定化剤及び酸化物換算したランタン(La)の合計に対する、酸化物換算したランタンのモル割合である。ジルコニアに全てのランタンを固溶させるため、本発明の焼結体のランタンの含有量は10mol%以下であることが好ましい。ランタンの含有量を10mol%以下とすることで、ランタン酸化物等の析出がより抑制され、なおかつ、本発明の焼結体の強度が高くなりやすい。好ましいランタン含有量として、0.1mol%以上、10mol%以下、更には0.1mol%以上、5mol%以下、更には4mol%以上、8mol%以下、また更には4mol%以上、6mol%以下を挙げることができる。
本発明の焼結体は、安定化剤を含む。安定化剤はジルコニア中に固溶する。ランタン及び安定化剤がジルコニアに固溶することで、室温等の低温環境下においても、本発明の焼結体の結晶粒子が立方晶ドメイン及び正方晶ドメインを含んだ状態となる。安定化剤は、イットリア(Y)、スカンジア(Sc)、カルシア(CaO)、及びマグネシア(MgO)からなる群の少なくとも1種であることが好ましい。工業的に利用しやすいため、安定化剤はカルシア又はイットリアの少なくともいずれか、更にはイットリアであることが好ましい。
本発明の焼結体が含む安定化剤は、3.5mol%以上、8.5mol%以下、更には3.7mol%以上8mol%以下、また更には4mol%を超え8mol%以下、また更には4.8mol%以上8mol%以下であることが挙げられる。なお、安定化剤含有量(mol%)は、焼結体中のジルコニア、安定化剤及び酸化物換算したランタン(La)の合計に対する、安定化剤のモル割合である。
本発明の焼結体はジルコニア焼結体であり、ジルコニアを主成分とする焼結体である。そのため、本発明の焼結体に含まれる安定化剤及びランタンの合計含有量が50mol%未満であればよい。本発明の焼結体のジルコニア含有量は50mol%超であればよく、更には60mol%以上、また更には80mol%以上、また更には83mol%超、また更には90mol%以上であることが好ましい。
本発明の焼結体の好ましい組成として以下のモル組成を挙げることができる。
ジルコニア(ZrO) :80mol%以上、95mol%以下
安定化剤 :3mol%以上、8mol%以下
ランタン(La) :0.2mol%以上、6.5mol%以下
本発明の焼結体の特に好ましい組成として以下のモル組成を挙げることができる。
ジルコニア(ZrO) :85mol%以上、95mol%以下
安定化剤 :3.7mol%以上、7.7mol%以下
ランタン(La) :4mol%以上、5mol%以下
上記組成における安定化剤はイットリアであることが好ましい。
本発明の焼結体は、安定化剤及びランタンに加え、ランタン以外のランタノイド又は遷移金属の少なくとも1種(以下、「着色成分」ともいう。)を含んでもよい。着色成分を含有することにより、本発明の焼結体が無色以外に呈色する。このような呈色により焼結体の意匠性を上げることができる。着色成分は種類により酸化物換算した場合のmol数が大きく異なる。一方、上記の着色成分の含有量は、焼結体重量に対する酸化物換算した着色成分の重量割合として、例えば、0.01wt%以上5wt%以下、更には0.01wt%以上3wt%以下であることが挙げられる。
ランタン以外のランタノイド元素として、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロジム(Dy)、ホロニウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)からなる群の少なくとも1種、更にはセリウム、プラセオジム、ネオジム及びエルビウムから成る群の少なくとも1種、また更にはネオジム又はセリウムの少なくともいずれかを挙げることができる。本発明の焼結体においては、安定化剤とランタンとが固溶して得られる結晶粒子の組織構造に影響を与えることなく、これにランタン以外のランタノイドを共存させることができる。本発明の焼結体におけるランタン以外のランタノイド元素の含有量は0.6mol%を超えることが好ましい。ランタン以外のランタノイドの含有量は0.65mol%以上、更には0.7mol%以上であればよく、また、ランタノイド元素として2mol%以下、更には1.5mol%以下であればよい。ランタン以外のランタノイドの含有量がこの範囲であることで、安定化剤及びランタンが固溶することにより得られる結晶粒子の組織構造を維持したまま、これらのランタノイドもジルコニアに固溶し、なおかつ、これらのランタノイドに起因する呈色を示すことができる。
本発明の焼結体が含有する着色成分としての遷移金属は、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)及びバナジウム(V)からなる群の少なくとも1種を挙げることができ、鉄、マンガン、クロム、銅及びバナジウムからなる群の少なくとも1種であることが好ましい。遷移金属に起因する呈色は強いため、ランタノイドよりも少ない含有量であっても、焼結体を着色しやすい。本発明の焼結体における遷移金属の含有量は元素として0.01mol%以上、更には0.05mol%以上であればよく、遷移金属元素として0.2mol%以下、更には0.1mol%以下であればよい。
着色成分の酸化物は、例えば、NdやPr11のように、着色成分元素の種類によって酸化物中に含まれる着色成分のmol数が大きく異なる。そのため、着色成分は、例えば、NdをNdO1.5、Pr11をPrO11/6及びVをVO2.5とみなすと、すなわち、組成式中の着色成分元素の数を1として表した酸化物換算量(以下、「比酸化物換算」ともいう。)として換算することもできる。比酸化物換算した量は、焼結体中の着色成分の元素量と等しくなる。
そのため、本発明の焼結体の着色成分の含有量は、焼結体重量に対する酸化物換算した着色成分の重量割合(wt%)、又は、焼結体中のジルコニア、安定化剤、酸化物換算したランタン(La)及び比酸化物換算した着色成分の合計に対する、比酸化物換算した着色成分のモル割合であればよい。
本発明の焼結体が着色成分を含有する場合、ランタン含有量(mol%)は、焼結体中のジルコニア、安定化剤、酸化物換算したランタン(La)及び酸化物換算した着色成分の合計に対する、酸化物換算したランタンのモル割合でとなり、また、安定化剤含有量(mol%)は、焼結体中のジルコニア、安定化剤、酸化物換算したランタン(La)及び酸化物換算した着色成分の合計に対する、安定化剤のモル割合となる。
本発明の焼結体の結晶粒子は、立方晶ドメイン及び正方晶ドメインを有する結晶粒子を含む。さらに、本発明の焼結体は立方晶のドメインが十分に成長しているため、正方晶ドメインを有する立方晶の結晶粒子を含むことが好ましい。立方晶の結晶粒子中に正方晶ドメインが含まれることで、透光性が高いだけでなく、強度が高くなる。本発明において、ドメインとは、結晶粒子中の結晶子又は結晶子の集合体の少なくともいずれかであって、同一の結晶構造が連続した部分である。また、正方晶ドメインとは結晶構造が正方晶蛍石型構造であるドメインである。本発明の焼結体が、その結晶粒子中に正方晶ドメインを有することは、XRDパターンのリートベルト解析により確認することができる。すなわち、XRDパターンのリートベルト解析により、本発明の焼結体が立方晶と正方晶とを含むことが確認できる。なおかつ、リートベルト解析により算出される正方晶の結晶子径が、平均結晶子径よりも小さく、立方晶の結晶子径が平均結晶子径と同程度であることから、立方晶の結晶粒子中に正方晶ドメインを含むことを確認することができる。本発明の焼結体は、正方晶ドメインを有する結晶粒子を含むが、実質的に、正方晶ドメインを有する立方晶の結晶粒子のみからなることが好ましい。
正方晶ドメインが立方晶の結晶粒子中に含まれることは、本発明の焼結体の透光性からも確認することができる。結晶粒子中にある程度の大きさの正方晶が存在すると焼結体の透光性は著しく低下する。しかしながら、本発明の焼結体は後述の全光線透過率を有する透光性ジルコニア焼結体である。このように、焼結体が高い透光性を有することをもって、正方晶が凝集や偏在した状態ではなく、立方晶の結晶粒子中に分散していることが確認できる。そのため、正方晶ドメインが立方晶の結晶粒子中に含まれることは、正方晶の結晶子径が平均結晶子径より小さいこと、例えば、平均結晶子径に対する正方晶の結晶子径が0.005〜0.1、更には0.005〜0.05であることからも確認することができる。
本発明の焼結体は上記のドメインを含むため、その結晶構造は立方晶蛍石型構造及び正方晶蛍石型構造を含む。さらに、本発明の焼結体は正方晶ドメインを含む立方晶の結晶粒子からなるため、その結晶相において立方晶が正方晶よりも多くなる。そのため、本発明の焼結体は、結晶相における立方晶の割合が50重量%以上、更には70%以上、また更には80%以上であることが挙げられる。結晶相における立方晶の割合はメインピークのリートベルト解析から求めることができる。
本発明の焼結体は、単斜晶を実質的に含まないことが好ましい。ここで、単斜晶を実質的に含まないとは、XRDパターンにおいて単斜晶のXRDピークが確認されないことが挙げられる。
正方晶ドメインのランタン濃度は同じであってもよいが、本発明の焼結体において、結晶粒子中の正方晶ドメインのそれぞれのランタン濃度が異なっていてもよく、さらには立方晶ドメインのランタン濃度が正方晶ドメインのランタン濃度よりも高くなっていてもよい。本発明において各ドメイン中のランタン濃度は透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」とする。)観察における組成分析により観察することができる。
本発明の焼結体は、メインピークの半値幅(以下、「FWHM」とする。)から算出される平均結晶子径(以下、単に「平均結晶子径」ともいう。)が225nm超である。平均結晶子径が260nm以上、更には280nm以上、また更には300nm以上であることで透光性が高くなりやすい。
本発明の焼結体においては、平均結晶子径は、800nm以下、更には750nm以下であることが挙げられる。
本発明の焼結体の平均結晶子径が255nm超であることは、本発明の焼結体のXRDパターンにおいてFWHMが0.1536°未満であることをもって、確認することができる。そのため、本発明の焼結体はFWHMが0.1536°未満あることが好ましい。FWHMが小さくなるほど、平均結晶子径が大きくなる。例えば、FWHMは、平均結晶子径が260nm以上の場合は0.153°、300nm以上の場合は0.1483°となる。一方、結晶性が高くなるほどXRDピークのFWHMは小さくなるが、通常のXRD測定において測定できるFWHMは40°程度までである。本発明の焼結体のメインピークのFWHMとして1°以下、更には0.7°以下であることが挙げられる。
なお、本発明の結晶粒子中に含まれる、立方晶及び正方晶それぞれの結晶子径は、本発明の焼結体のXRDパターンのリートベルト解析により求めることができる。すなわち、リートベルト法により、本発明の焼結体のXRDパターンを、立方晶に起因するXRDピーク及び正方晶に起因するXRDピークに分離する。分離後の各結晶構造のXRDピークの半値幅を求め、得られた半値幅から以下のシェラー式によって結晶子径を求めればよい。
D=K×λ/((β−B)×cosθ)
上記式において、Dは各結晶の結晶子径(nm)、Kはシェラー定数(1.0)、λはCuKαの波長(0.15418nm)、βは半値幅(°)、Bは装置定数(0.1177°)、及び、θはXRDピークの回折角(°)である。半値幅を求める際のXRDピークは、正方晶が2θ=30.0±2°のXRDピーク、及び、立方晶が2θ=29.6±2°のXRDピークである。
本発明の焼結体の平均結晶粒子径は20μm以上、100μm以下、更には30μm以上、90μm以下であることが挙げられる。平均結晶粒子径がこの範囲であることで透光性が高い焼結体となる。本発明において、平均結晶粒子径はプラニメトリック法により測定することができる。
本発明の焼結体は密度が高いことが好ましい。安定化剤及びランタンの量により、密度は異なる。本発明の焼結体の密度は6.0g/cm以上6.2g/cm以下、更には6.0g/cm以上6.1g/cm以下を例示することができる。
本発明の焼結体は高い透光性を有する。そのため、本発明の焼結体は、試料厚さ1mmとし、D65光線を線源とする全光線透過率(以下、単に「全光線透過率」ともいう。)が45%以上であることが好ましい。透光性は高いほど好ましく、全光線透過率は50%以上であることがより好ましい。本発明の焼結体の全光線透過率として50%以上、74%以下を挙げることができる。なお、本発明の焼結体が着色体を含有すると、特定の波長により測定される透過率が低下する場合があるため、このような全光線透過率は、本発明の焼結体が着色成分を含有しない焼結体の値であることが好ましい。
本発明の焼結体の透光性は上記の全光線透過率を満たすことが好ましいが、試料厚さ1mmとし、D65光線を線源とする直線透過率(以下、単に「直線透過率」ともいう。)が1%以上、更には3%以上、また更には10%以上、また更には20%以上、また更には30%以上であることにより、より透明性が高い焼結体となるため好ましい。本発明の焼結体の直線透過率の上限は70%以下、更には66%以下であることが例示できる。一方、本発明の焼結体の試料厚さ1mmとし、D65光線を線源とする拡散透過率(以下、単に「拡散透過率」ともいう。)は10%以上、更には15%以上、また更には20%以上であることが好ましい。より好ましい拡散透過率として30%以上、65%以下を例示することができる。全光線透過率と同様な理由により、このような直線線透過率は、本発明の焼結体が着色成分を含有しない焼結体の値であることが好ましい。
本発明の焼結体が着色成分を含有する場合、試料厚さ1mm及び測定波長300〜800nmにおける全光線透過率(以下、「分光全光線透過率」ともいう。)の最大値が45%以上である。透光性は高いほど好ましく、分光全光線透過率の最大値は50%以上、また更には55%以上、また更には65%以上であることが好ましい。着色成分を含有する本発明の焼結体は呈色による可視光域の波長を吸収する。そのため、全光線透過率の値は低くなる場合がある。しかしながら、いずれかの測定波長において上記の分光全光線透過率の最大値を有していれば、着色成分を含有する場合であっても高い透光性を有することが確認できる。但し、測定波長を固定(例えば、測定波長600nm)して測定される透過率の値や、複数の波長を有する線源(例えば、太陽光やD65光源)で測定される透過率の値は、異なる呈色を有する焼結体の透光性を直接比較する指標とすることはできない。着色成分を含有する場合の分光全光線透過率の範囲として50%以上80%以下、更には65%以上75%以下を挙げることができる。
着色成分を含有する場合の本発明の焼結体の透光性は上記の分光全光線透過率を満たせばよいが、試料厚さ1mm及び測定波長300〜800nmにおける直線透過率(以下、「分光直線透過率」ともいう。)の最大値が1%以上、更には3%以上、また更には10%以上、また更には20%以上、また更には30%以上であることが挙げられる。本発明の焼結体の分光直線透過率の上限は70%以下、更には66%以下であることが例示できる。
本発明の焼結体は高い強度を有する。本発明の焼結体の曲げ強度として400MPa以上、更には500MPa以上、また更には600MPa以上であることが挙げられる。本発明における強度は、ISO/DIS6872に準じて測定される二軸曲げ強度であることが好ましい。本発明の焼結体の二軸曲げ強度は400MPa以上、1000MPa以下であることが挙げられる。
本発明の焼結体は、8mol%イットリア含有ジルコニア焼結体などの立方晶ジルコニアからなる透光性ジルコニア焼結体と同等以上の破壊靱性を有することが好ましい。これにより、本発明の焼結体が、従来の透光性ジルコニア焼結体が使用されている部材として使用することができる。本発明の焼結体の破壊靱性として1.5MPa・m0.5以上、更には1.7MP・m0.5以上であることが挙げられる。
次に、本発明のジルコニア焼結体の製造方法について説明する。
本発明のジルコニア焼結体は、ジルコニア原料、安定化剤原料、及び、水酸化ランタンを含むランタン原料を混合して混合粉末を得る混合工程、得られた混合粉末を成形して成形体を得る成形工程、得られた成形体を1650℃以上の焼結温度で焼結して焼結体を得る焼結工程、及び、焼結温度から1000℃までを1℃/min超の降温速度で降温する降温工程、を含み、なおかつ、前記混合粉末におけるランタン原料の平均粒子径がジルコニア原料の平均粒子径よりも大きいことを特徴とする製造方法、により製造することができる。
混合工程では、ジルコニア原料、安定化剤原料及びランタン原料を混合して混合粉末を得る。
ジルコニア原料は、ジルコニア又はその前駆体であり、BET比表面積が4〜20m/gであるジルコニア粉末を挙げることができる。
安定化剤原料は、イットリア、スカンジア、カルシア、マグネシア、及びセリアからなる群の少なくとも1種(安定化剤)の粉末又はその前駆体、更にはイットリアの粉末又はその前駆体を挙げることができる。
さらに、ジルコニア原料は安定化剤を含むジルコニア粉末であることが好ましい。このようなジルコニア粉末は、ジルコニア原料及び安定化剤原料となる。ジルコニア粉末が含有する安定化剤は、イットリア、スカンジア、カルシア、及びマグネシアからなる群の少なくとも1種であることが好ましく、イットリアであることがより好ましい。安定化剤含有ジルコニア粉末として、3mol%〜8mol%の安定化剤を含有するジルコニア粉末、更にはBET比表面積が4〜20m/gであり3mol%〜8mol%の安定化剤を含有するジルコニア粉末であることが好ましい。安定化剤含有ジルコニア粉末が含有する安定化剤量は4mol%〜8mol%、更には4mol%〜6mol%であることが好ましい。
ランタン原料は、少なくとも水酸化ランタンを含む。水酸化ランタンが含まれていれば、ランタン原料は、酸化ランタン、硝酸ランタン、硫酸ランタン、塩化ランタン、炭酸ランタン及びパイロクロア型LaZrからなる群の少なくとも1種と水酸化ランタンの混合物であってもよい。ランタン原料は、水酸化ランタンと酸化ランタンとの混合物であることが好ましい。酸化ランタンと水酸化ランタンとの混合物は、両者を混合することで得てもよいが、酸化ランタンを含水雰囲気に十分な時間接触させた上で湿式混合することにより酸化ランタンを水酸化ランタンとしてもよい。
混合粉末の組成は所望の割合であればよいが、酸化物換算でジルコニアが85mol%超97mol%以下、安定化剤が3.5mol%以上8mol%以下、ランタンが1mol%以上10mol%以下であることが挙げられる。
混合粉末の好ましい組成として以下のモル組成を挙げることができる。
ジルコニア(ZrO) :80mol%以上、95mol%以下
安定化剤 :3mol%以上、8mol%以下
ランタン(La) :0.2mol%以上、6.5mol%以下
混合粉末の特に好ましい組成として以下のモル組成を挙げることができる。
ジルコニア(ZrO) :85mol%以上、95mol%以下
安定化剤 :3.7mol%以上、7.7mol%以下
ランタン(La) :4mol%以上、5mol%以下
上記組成における安定化剤はイットリアであることが好ましい。
混合粉末におけるランタン原料の平均粒子径がジルコニア原料の平均粒子径よりも大きいことが好ましい。このような平均粒子径により、混合粉末中のランタン原料とジルコニア原料とが適度な不均一性になると考えられる。このような混合粉末は、気孔がより効率的に排除される速度で結晶粒子が成長しながら焼結が進行し、これにより、本発明のジルコニア焼結体が得られやすくなると考えられる。
混合粉末中のジルコニア原料の平均粒子径は0.01μm以上0.2μm未満、更には0.01μm以上0.1μm以下、また更には0.01μm以上0.07μm以下であることが挙げられる。混合粉末中のランタン原料の平均粒子径は0.2μm以上0.7μm以下、更には0.2μm以上0.5μm以下を挙げることができる。
得られる焼結体が着色成分を含有する場合、混合工程では、ランタン以外のランタノイド原料又は遷移金属原料の少なくともいずれか(以下、「着色成分原料」ともいう。)、ジルコニア原料、安定化剤原料及びランタン原料を混合して混合粉末とすればよい。
着色成分原料は、着色成分の酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩及びパイロクロア型構造からなる群の少なくとも1種であればよく、また、着色成分の不溶性の塩であることが好ましく、酸化物又は炭酸塩の少なくともいずれかであることがより好ましい。着色成分は任意の量であればよいが、混合粉末の重量に対する着色成分原料の重量割合として、例えば、0.01wt%以上5wt%以下、更には0.05wt%以上3wt%以下であることが挙げられる。
成形工程では、混合粉末を成形して成形体を得る。所望の形状の成形体が得られれば成形方法は任意である。成形方法として、プレス成形、射出成形、シート成形、押出成形、及び鋳込み成形からなる群の少なくとも1種を挙げることができ、プレス成形又は射出成型の少なくともいずれかであることが好ましい。
また、得られる成形体の形状は任意であるが、例えば、円板状、円柱状、及び多面体状などの形状や、歯列矯正ブラケットや半導体製造治具、その他の複雑形状を例示することができる。
焼結工程においては、成形体を焼結することにより、結晶構造が立方晶等の高温型の結晶構造である焼結体を得る。そのため、焼結工程において、得られた成形体を1650℃以上の焼結温度で焼結する。1650℃以上で焼結することで、焼結体の結晶構造が高温型の結晶構造になると考えられる。高温型の結晶構造を有する焼結体が降温工程を経ることにより、結晶粒子中の結晶構造が立方晶ドメインと正方晶ドメインとが生成し、本発明の焼結体の結晶構造を含む焼結体を得ることができる。焼結温度は1700℃以上であることが好ましく、更には1725℃以上、また更には1750℃以上であることが好ましい。汎用の焼成炉を使用する場合、焼結温度は2000℃以下、更には1900℃以下、また更には1800℃以下であることが挙げられる。
上記の焼結温度で焼結すれば、焼結方法は任意である。焼結方法として、例えば、常圧焼結、加圧焼結及び真空焼結からなる群の少なくともいずれかを挙げることができ、常圧焼結及び加圧焼結であることが好ましい。
本発明の製造方法における、好ましい焼結工程として、成形体を1000℃以上1650℃未満で焼成して一次焼結体を得る一次焼結、及び、該一次焼結体を1650℃以上で焼結する二次焼結を含む焼結工程を挙げることができる。
一次焼結は、成形体を1000℃以上1650℃未満で焼結することが好ましい。これにより、得られる一次焼結体の組織が微細となる。これに加え、一次焼結体の結晶粒子内に気孔が生成しにくくなる。
二次焼結は、一次焼結体を1650℃以上、更には1700℃以上、また更には1725℃以上、また更には1750℃以上で焼結する。高い強度を有する焼結体を得るため、二次焼結温度は2000℃以下、更には1900℃以下、また更には1800℃以下であることが好ましい。二次焼結温度を2000℃以下とすることで、粗大な結晶粒子が生成しにくくなる。
より高密度な焼結体を得るために、二次焼成は熱間静水圧プレス(以下、「HIP」とする。)処理であることが好ましい。
HIP処理の時間(以下、「HIP時間」とする。)は、少なくとも10分であることが好ましい。HIP時間が少なくとも10分であれば、HIP処理中に、焼結体の気孔が十分に除去される。
HIP処理の圧力媒体(以下、単に「圧力媒体」ともいう。)は、アルゴンガス、窒素ガス、酸素などが例示できるが、一般的なアルゴンガスが簡便である。
HIP処理の圧力(以下、「HIP圧力」ともいう。)は、5MPa以上、更には50MPa以上であることが好ましい。HIP圧力が5MPa以上であることで、焼結体中の気孔の除去がより促進される。圧力の上限に関しては特に指定はないが、通常のHIP装置を使用した場合、HIP圧力は200MPa以下である。
HIP処理では、非還元性の材質からなる容器に成形体又は一次焼結体を配置することが好ましい。これにより、発熱体等のHIP装置の材質に由来する還元成分による焼結体の局所的な還元が抑制される。非還元性の材質としては、アルミナ、ジルコニア、ムライト、イットリア、スピネル、マグネシア、窒化ケイ素及び窒化ホウ素からなる群の少なくとも1種、更にはアルミナ又はジルコニアの少なくともいずれかが例示できる。
降温工程では、焼結温度から1000℃までを1℃/min超の降温速度で降温する。降温速度を1℃/min超、更には5℃/min以上、また更には8℃/min以上とすることで、透光性の高い焼結体が得られる。降温速度が1℃/min以下の場合は、析出物や単斜晶が生成するため、得られる焼結体が透光性の低いものとなる。これにより得られる焼結体の透光性が著しく低いものとなる。より高い透光性を有するランタン固溶ジルコニア焼結体を得るため、焼成温度から1000℃への降温は、降温速度を10℃/min以上、更には15℃/min以上、また更に20℃/min以上、また更には30℃/min以上とすることが好ましい。好ましい降温速度として30℃/min以上100℃/min以下を挙げることができる。
本発明により、高い透光性及び高い強度を兼備したジルコニア焼結体を提供することができる。本発明の焼結体は、従来の透光性セラミックスと比べ、透光性及び機械的強度が高い。そのため、歯列矯正ブラケットなどの審美性が要求される歯科用部材として使用した場合に、その大きさを小さくすることができる。これにより、より審美性が高い歯科用部材として使用することができる。
実施例1の原料粉末のXRDプロファイル 実施例1のジルコニア焼結体のXRDパターンのリートベルト解析結果 実施例1のジルコニア焼結体のSEM観察図(図中スケールは20μm) 実施例1のジルコニア焼結体の外観 実施例1のジルコニア焼結体のUV−VISスペクトル ( a)全光線透過率、b)直線透過率) 実施例1のジルコニア焼結体のTEM観察図(図中スケールは10nm) ( A)明視野像、B)イットリウムの元素マッピング図、 C)ジルコニニウムの元素マッピング図、D)ランタンの元素マッピング図) 実施例11のジルコニア焼結体のUV−VISスペクトル(分光全光線透過率) 実施例11のジルコニア焼結体の外観 実施例12のジルコニア焼結体のUV−VISスペクトル(分光全光線透過率) 実施例12のジルコニア焼結体の外観
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明は実施例に限定されるものではない。
(粒子径分布測定)
アクリル酸系分散剤(A6114 東亞合成株式会社)を用いて、濃度が0.1重量%になるように原料混合粉末を水に投入した。次いで超音波ホモジナイザーを用いて300wの出力で超音波を1分間照射して得た懸濁液を測定試料とした。これをレーザー回折散乱法のベックマン・コールター社製LS130により粒子径分布を測定した。
(密度の測定)
焼結体試料の実測密度はアルキメデス法による水中重量を測定することにより求めた。
(平均結晶粒径の測定)
焼結体試料を平面研削した後、9μm、6μm及び1μmのダイアモンド砥粒を順に用いて鏡面研磨した。研磨面を1400℃で1時間保持し、熱エッチングした後、SEM観察し、得られたSEM観察図からプラニメトリック法により平均結晶粒径を求めた。
(結晶構造の同定)
焼結体試料のXRD測定によって得られたXRDパターンを同定分析することで、各焼結体試料の結晶構造の同定、及び、不純物層の有無を確認した。XRD測定は、一般的な粉末X線回折装置(装置名:UltimaIII、リガク社製)を用い、鏡面研磨をした焼結体試料について行った。XRD測定の条件は以下のとおりである。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件: 毎秒0.04°
発散スリット: 0.5deg
散乱スリット: 0.5deg
受光スリット: 0.3mm
計測時間 : 1.0秒
測定範囲 : 2θ=20°〜80°
XRDパターンの同定分析には、XRD解析ソフトウェア(商品名:JADE7、MID社製)を用いた。
(平均結晶子径の測定)
結晶相の同定と同様な測定方法で得られたXRDパターンの2θ=27°〜30°の範囲について、シェラー式を使用して焼結体試料の平均結晶子径を求めた。
D=K×λ/((β−B)×cosθ)
上記式において、Dは平均結晶子径(nm)、Kはシェラー定数(1.0)、λはCuKαの波長(0.15418nm)、βは半値幅(°)、Bは装置定数(0.1177°)、及びθはメインピークの回折角(°)である。
なお、メインピークは、ジルコニアの立方晶(111)面に相当するピーク、及び、正方晶(111)面に相当するピークが重複するピークを単一ピークとみなした。
また、半値幅は、Rigaku社製Integral Analysis for Windows(Version 6.0)を用いて求めた。
(リートベルト解析)
結晶構造の同定と同様な測定方法で得られたXRDパターンをリートベルト解析することにより、焼結体試料中の立方晶及び正方晶の各結晶構造の割合、結晶子径、及び、格子定数を求めた。リートベルト解析は汎用のプログラム(Rietan−2000)を用いた。
得られた格子定数から、以下の式に基づいて正方晶中のY濃度を求めた。
YO1.5=(1.0223−cf/af)/0.001319
=100×YO1.5/(200−YO1.5
上記式において、YO1.5はイットリア濃度、cf及びafは、それぞれ、リートベルト解析で求めた正方晶蛍石型構造のc軸及びa軸の格子定数である。
(透過率の測定)
JIS K321−1の方法に準じた方法によって、試料の全光線透過率(以下、「TT」ともいう。)、拡散透過率(以下、「DF」ともいう。)、及び直線透過率(以下、「PT」ともいう。)を測定した。標準光D65を測定試料に照射し、当該測定試料を透過した光束を積分球によって検出することによって、光透過率を測定した。測定には一般的なヘーズメーター(装置名:ヘーズメーターNDH2000、NIPPON DENSOKU製)を用いた。
測定試料には直径16mm、厚さ1.0mmの円板状成形体を用いた。測定に先立ち、測定試料の両面を研磨し、表面粗さRaを0.02μm以下に鏡面研磨した。
(分光透過率の測定)
焼結体試料の分光全光線透過率(以下、「S−TT」ともいう。)をUV−VISにより測定した。測定条件は以下のとおりである。
光源 :重水素ランプ、及び、ハロゲンランプ
測定波長 :200〜800nm
測定ステップ :1nm
測定試料には直径16mm、厚さ1.0mmの円板状成形体を用いた。測定に先立ち、測定試料の両面を研磨し、表面粗さRaを0.02μm以下に鏡面研磨した。
UV−VIS測定には、一般的なダブルビーム方式の分光光度計(装置名:V−650型、日本分光社製)を使用した。
(色調の測定)
JIS Z8722に準じた方法により、焼結体試料の色調を測定した。測定には、一般的な色差計(装置名:Spectrophotometer SD 3000、日本電色工業社製)を用いた。測定条件は以下のとおりである。
光源 : D65光源
視野角 : 10°
焼結体試料には両面鏡面研磨し、表面粗さRa=0.02μm以下とした厚み0.5mm又は1mmの焼結体としたものを用いた。当該焼結体試料を常用標準白色板上に設置し、これにD65光線を照射することで、焼結体試料を透過したD65光線を白色板で反射させ、再度、焼結体試料を透過した光から色調を測定した。
(元素分布の観察)
TEM観測により、結晶粒子中の元素分布を測定した。測定に先立ち、試料はFIB(集束イオンビーム)による薄片化加工した。加工後、イオンミリング仕上げ、及びカーボン蒸着をして測定試料とした。TEM観察は一般的なTEM(装置名:EM−2000FX、日本電子製)を用いて測定した。TEM観察における加速電圧は200kVとした。
(二軸曲げ強度の測定)
ISO/DIS6872に準じた二軸曲げ強度測定によって、試料の二軸曲げ強度を測定した。測定試料の厚みは1mmとして、両面鏡面研磨した試料について測定した。
(破壊靱性の測定)
JIS R1607に準じた方法により、試料の破壊靱性を測定した。測定試料としては、表面粗さRaを0.02μm以下に鏡面研磨したものを試料に用いた。
押し込み加重 :5kgf
焼結体の弾性率 :205GPa
実施例1
BET比表面積が7m/gの4mol%イットリア含有ジルコニア粉末(商品名:TZ−4YS、東ソー製)に対するLa粉末の重量割合が10重量%となるように、La粉末をジルコニア粉末に添加し、これを混合して混合粉末を得た。混合に先立ち、La粉末は含水空気中、12時間以上静置して、大気と十分に接触させ、その後、直径10mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより、エタノール溶媒中で湿式混合することで行った。得られた混合粉末を大気中、80℃で乾燥し、原料粉末とした。得られた混合粉末中のジルコニア粉末の平均粒子径は0.09μm及びLa(OH)含有La粉末の平均粒子径は0.3μmであった。図1に原料粉末のXRDパターンを示す。原料粉末はジルコニア、水酸化ランタンの混合物からなっていることがわかる。
金型プレスによる一軸加圧で原料粉末を成形し、予備成形体を得た。一軸加圧の圧力は50MPaとした。得られた予備成形体を冷間静水圧プレス(以下、「CIP」とする。)処理することで、直径20mm、及び、厚さ約3mmの円柱状成形体を得た。CIP処理の圧力は200MPaとした。
当該成形体を、大気中、昇温速度を100℃/h、焼結温度1450℃、及び焼結時間2時間で一次焼結することで一次焼結体を得た。
得られた一次焼結体を蓋付きのジルコニア製の容器に配置し、これをHIP処理することでHIP処理体を得、これを本実施例のジルコニア焼結体を得た。HIP処理条件は、圧力媒体として99.9%のアルゴンガス雰囲気中、昇温速度600℃/h、HIP温度1750℃、HIP圧力150MPa、及び保持時間1時間とした。
HIP処理後、焼結温度から室温まで降温しHIP処理体を得た。なお、HIP温度から1000℃までの降温速度は83℃/minであった。
得られたHIP処理体を、大気中、1000℃で1時間熱処理をすることで、無色かつ透光性を有する焼結体が得られた。
本実施例のジルコニア焼結体のリートベルト解析結果を図2、SEM観察図を図3に示す。図2のXRDパターンより、本実施例のジルコニア焼結体がランタン酸化物等を含有しないことが確認でき、正方晶および立方晶ジルコニアから成り立っていることがわかる。
リートベルト解析より、本実施例のジルコニア焼結体は立方晶が63.1重量%及び正方晶が36.9重量%であること、立方晶の格子定数がa=0.51732nmであること、正方晶の格子定数がaf=0.54308nm、及びcf=0.51956nmであること、正方晶の結晶子径が11.6nmであることが確認できた。格子定数から求めた正方晶のY濃度は4.8mol%程度であった。立方晶の結晶子径は平均結晶子径と同程度であった。立方晶の結晶子径と平均結晶子径とが同程度であり、なおかつ、平均結晶子径に対する正方晶の結晶子径が0.030であることから、本実施例の焼結体は、立方晶ドメインと正方晶ドメインを含む結晶粒子であり、正方晶ドメインを含む立方晶の結晶粒子からなるものであることが確認できた。なお、当該リートベルト解析は、信頼度因子Rwp=23%及びS=1.82であった。またSEM画像からプラニメトリック法を用いて求めた平均結晶粒径は30.2μmであった。
本実施例のジルコニア焼結体の概観を図4に、UV−VISスペクトルを図5に示した。図4より、本実施例のジルコニア焼結体を通して背面の線図が確認でき、本発明のジルコニア焼結体が透光性を有することが確認できる。さらに、300nm〜800nmの可視光の波長範囲において高い透光性を有することが確認できた。これより本発明のジルコニア焼結体は、より高い透明度を有することが確認できた。
本実施例のジルコニア焼結体の組成分布像を図6に示す。図6(B)はジルコニウムの分布、(C)はイットリウムの分布、及び(D)はランタンの分布を示す。図6(B)及び(C)は均一な像を示し、イットリアとジルコニアが均一に分布していることが確認できた。これに対し、図6(D)は、ランタン濃度が低い領域(図6(D)中の矢印部)が確認できるなど、不均一な像を示していることから、ランタンが不均一に分布してることが確認できた。図6(D)より、ランタン濃度が低い領域の大きさは10nm程度であり、この大きさは、リートベルト法から求められる正方晶の結晶子径と同程度のサイズであった。これより、ランタン濃度の低い部分はナノサイズの正方晶ドメインであることが確認できた。本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表1に示した。
実施例2
HIP処理温度を1700℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
リートベルト解析より、本実施例のジルコニア焼結体は立方晶が81.5重量%及び正方晶が18.5重量%であること、立方晶の格子定数がa=0.51719nmであること、正方晶の格子定数がaf=0.51261nm、及びcf=0.52125nmであること、正方晶の結晶子径が10.0nmであることが確認できた。格子定数から求めた正方晶のY濃度は2.1mol%程度であった。なお立方晶の結晶子径は、平均結晶子径と同程度であり、平均結晶子径に対する正方晶の結晶子径は0.016であった。なお、当該リートベルト解析は、信頼度因子Rwp=23%及びS=1.89であった。
実施例3
HIP処理温度を1650℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
リートベルト解析より、本実施例のジルコニア焼結体は立方晶が85.1重量%及び正方晶が14.9重量%であること、立方晶の格子定数がa=0.51700nmであること、正方晶の格子定数がaf=0.51200nm、及びcf=0.52055nmであること、正方晶の結晶子径が7.1nmであることが確認できた。格子定数から求めた正方晶のY濃度は2.1mol%程度であった。なお立方晶の結晶子径は、平均結晶子径と同程度であり、平均結晶子径に対する正方晶の結晶子径が0.013であった。なお、当該リートベルト解析は、信頼度因子Rwp=17%及びS=1.51であった。本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表1に示す。
実施例4
原料のジルコニア粉末をBET比表面積が7m/gの5mol%イットリア含有ジルコニア粉末(商品名:TZ−5YS、東ソー製)としたこと、及び、HIP処理温度を1700℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
実施例5
原料のジルコニア粉末をBET比表面積が7m/gの5mol%イットリア含有ジルコニア粉末としたこと、及び、HIP処理温度を1650℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
実施例6
原料のジルコニア粉末をBET比表面積が7m/gの5mol%イットリア含有ジルコニア粉末としたこと、L添加量を1重量%としたこと、及び、HIP処理温度を1700℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
実施例7
原料のジルコニア粉末をBET比表面積が16m/gの6mol%イットリア含有ジルコニア粉末(商品名:TZ−6Y、東ソー製)としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表1に示す。
実施例8
原料のジルコニア粉末をBET比表面積が7m/gの8mol%イットリア含有ジルコニア粉末(商品名:TZ−8YS、東ソー製)としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表1に示す。
実施例9
原料のジルコニア粉末をBET比表面積が7m/gの8mol%イットリア含有ジルコニア粉末としたこと、及び、HIP処理温度を1700℃としたこと以外は実施例8と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表1に示す。
実施例10
原料のジルコニア粉末をBET比表面積が7m/gの8mol%イットリア含有ジルコニア粉末としたこと、及び、HIP処理温度を1650℃としたこと以外は実施例10と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表1に示す。
Figure 0006747121
実施例11
4mol%イットリア含有ジルコニア粉末(BET比表面積が7m/g、商品名:TZ−4YS、東ソー製)、酸化ランタン粉末及び酸化ネオジム(Nd)粉末を以下の割合となるように混合し、混合粉末を得たこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
4mol%イットリア含有ジルコニア粉末 :90重量%
酸化ランタン粉末 :9重量%
酸化ネオジム粉末 :1重量%
本実施例のジルコニア焼結体の物性を表2、評価結果を表3に示した。
本実施例のジルコニア焼結体は明度Lが83.25、色相aが−1.07及びbが−1.79の薄紫色の色調を呈し、分光全光線透過率の最大値が74.15%(測定波長:700nm)であり、高い透明性を有する紫色透光性ジルコニア焼結体であった。なお、全光線透過率(光源:D65)は69.94%であった。
リートベルト解析より、本実施例のジルコニア焼結体の結晶相は立方晶を68.3重量%及び正方晶を31.7重量%含み、なおかつ、結晶子径は立方晶が250nm、正方晶が4.2nmであり、り、平均結晶子径に対する正方晶の結晶子径は0.014であった。また、格子定数は立方晶がa=5.17284nm、正方晶はaf=5.1338nm及びcf=5.2128nmであった。平均結晶粒径は28.59μmであった。
実施例12
4mol%イットリア含有ジルコニア粉末(BET比表面積が7m/g、商品名:TZ−4YS、東ソー製)、酸化ランタン粉末及び酸化セリウム(CeO)粉末を以下の割合となるように混合し、混合粉末を得たこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
4mol%イットリア含有ジルコニア粉末 :90重量%
酸化ランタン粉末 :9重量%
酸化セリウム粉末 :1重量%
本実施例のジルコニア焼結体の物性を表2、評価結果を表3に示した。本実施例のジルコニア焼結体は明度Lが48.18、色相aが59.01及びbが79.04の赤色の色調を呈し、分光全光線透過率の最大値が74.57%(測定波長:800nm)であり、高い透明性を有する赤色透光性ジルコニア焼結体であった。なお、全光線透過率(光源:D65)は22.28%であった。
リートベルト解析より、本実施例のジルコニア焼結体の結晶相は立方晶を65.4重量%及び正方晶を34.6重量%含み、なおかつ、結晶子径は立方晶が310nm、正方晶が2.6nmであり、平均結晶子径に対する正方晶の結晶子径は0.007であった。また、格子定数は立方晶がa=5.1708nm、正方晶はaf=5.1156nm及びcf=5.2279nmであった。平均結晶粒径は30.79μmであった。
Figure 0006747121
Figure 0006747121
比較例1
BET比表面積が7m/gの3mol%イットリア含有ジルコニア粉末(商品名:3YS、東ソー製)を、本比較例の原料粉末とした。
金型プレスによる一軸加圧で原料粉末を成形し、予備成形体を得た。CIP処理することで、直径20mm、及び、厚さ約3mmの円柱状成形体を得た。CIPの圧力は200MPaとした。
当該成形体を、大気中、昇温速度を100℃/hr、焼結温度1450℃、及び焼結時間2時間で一次焼結することで一次焼結体を得た。
得られた一次焼結体を蓋付のアルミナ性容器に配置し、これをHIP処理した。HIP処理条件は、圧力媒体として99.9%のアルゴンガス雰囲気中、昇温速度600℃/hr、HIP温度1750℃、HIP圧力150MPa、及び保持時間1時間とした。
HIP処理後、HIP温度から1000℃までの降温速度は83℃/minとして、これを冷却した。
得られたHIP処理体を、大気中、1000℃で1時間熱処理をすることで、本比較例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の平均結晶粒子径は1.80μmであった。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表4に示す。本比較例のジルコニア焼結体の二軸曲げ強度は1GPaを超える高い強度を示したが、全光線透過率は39.00%であり、透光性が著しく低いものであった。
比較例2
BET比表面積が7m/gの8mol%イットリア含有ジルコニア粉末(商品名:8YS、東ソー製)を、本比較例の原料粉末としたこと以外は比較例1と同様な方法で本比較例のジルコニア焼結体を得た。
得られたジルコニア焼結体の平均結晶粒子径は52.9μmであった。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表4に示す。本比較例のジルコニア焼結体の全光線透過率は62.00%であり、高い透光性を有する。しかしながら、二軸曲げ強度は253MPaであり強度が非常に低い焼結体であることが確認できた。
比較例3
BET比表面積が7m/gの3mol%イットリア含有ジルコニア粉末(商品名:TZ−3YS、東ソー製)を使用したこと、イットリア含有ジルコニア粉末に対するLZO粉末の重量割合が20重量%となるように、LZO粉末をジルコニア粉末に添加したこと、及び、HIP処理における降温速度を1℃/minとしたこと以外は、比較例1と同様な条件で焼結体を作製した。
本比較例のジルコニア焼結体の評価結果を表4に、XRDパターンを図9に示す。図9より、本比較例の焼結体は単斜晶を含むジルコニア焼結体であることが確認できた。さらに、全光線透過率は44%以下であり、透光性が著しく低いものであった。
比較例4
BET比表面積が14m/gのジルコニア粉末(商品名:0Y、東ソー製)を使用したこと、イットリア含有ジルコニア粉末に対するLa粉末(純度99.99%、和光純薬製)の重量割合が10重量%となるように、La粉末をジルコニア粉末に添加したこと以外は、比較例1と同様な条件で本比較例のジルコニア焼結体を作製した。なお、当該ジルコニア粉末は安定化剤を含まないものである。
本比較例のジルコニア焼結体の評価結果を表4に、XRDパターンを図10に示す。得られたジルコニア焼結体は透光性を有さない焼結体であった。また、XRDパターンより、本比較例のジルコニア焼結体は、単斜晶とLaZrの混相であることが確認できた。さらに、本比較例のジルコニア焼結体はメインピークを有しておらず、その平均結晶子径を求めることができなかった。
Figure 0006747121
本発明のジルコニア焼結体は、高い透光性、及び、高い強度を兼備する。そのため、審美性が要求される歯科補綴材、歯科矯正用部材などの歯科用部材に使用することができる。さらに、本発明のジルコニア焼結体は高い意匠性を有するため、時計や宝飾品などの装飾部材として使用することができ、さらには、半導体製造装置用部材の耐プラズマ部材として使用することができる。
◎ :ジルコニアに相当するXRDピーク
※ :La(OH)に相当するXRDピーク

Claims (10)

  1. 立方晶ドメイン及び正方晶ドメインを有する結晶粒子を含み、安定化剤及びランタンを固溶し、なおかつ、CuKαを線源とする粉末X線回折パターンにおける2θ=30±2°のピークの半値幅から算出される平均結晶子径が255nm超であることを特徴とするジルコニア焼結体。
  2. ランタン含有量が0.1mol%以上、10mol%以下である請求項1に記載のジルコニア焼結体。
  3. 安定化剤が、イットリア、スカンジア、カルシア、及びマグネシアからなる群の少なくとも1種である請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
  4. ランタン以外のランタノイド又は遷移金属の少なくとも1種を含む請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
  5. ランタン以外のランタノイド又は遷移金属の少なくとも1種の含有量が0.01wt%以上5wt%以下である請求項4に記載のジルコニア焼結体。
  6. ランタン以外のランタノイド又は遷移金属の少なくとも1種が、セリウム、プラセオジム、ネオジム、ユーロピウム、ガドリウム、テルビウム、ジスプロジム、ホロニウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムからなる群の少なくとも1種である請求項4又は5に記載のジルコニア焼結体。
  7. ジルコニア原料、安定化剤原料、及び、水酸化ランタンを含むランタン原料を混合して混合粉末を得る混合工程、得られた混合粉末を成形して成形体を得る成形工程、得られた成形体を1650℃以上の焼結温度で焼結して焼結体を得る焼結工程、及び、焼結温度から1000℃までを1℃/min超の降温速度で降温する降温工程、を含み、なおかつ、前記混合粉末におけるランタン原料の平均粒子径がジルコニア原料の平均粒子径よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
  8. 混合粉末が、さらにランタン以外のランタノイド原料又は遷移金属原料の少なくともいずれかを含む請求項7に記載の製造方法。
  9. 前記焼結工程が、1000℃以上1650℃未満で焼成して一次焼結体を得る一次焼結、及び、該一次焼結体を1650℃以上で焼結する二次焼結を含む請求項7又は8に記載の製造方法。
  10. 請求項1乃至6のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体を含む部材。
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