JP6732731B2 - プロバイオティクスの被貪食能の評価方法およびこれを利用したスクリーニング方法 - Google Patents

プロバイオティクスの被貪食能の評価方法およびこれを利用したスクリーニング方法 Download PDF

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Description

本発明は、プロバイオティクスの評価方法に関し、更に詳細には、細胞レベルでの定量的なプロバイオティクスの被貪食能の評価方法およびこれを利用したスクリーニング方法に関する。
昨今、薬による治療ではなく、消化管内のフローラ(細菌叢)を改善し、宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物と、それらの増殖促進物質、いわゆるプロバイオティクスを利用して、治療する方法に注目が集まっている。例えば、特定のLactobacillus gasseri菌由来のオリゴヌクレオチドがトール様受容体9を介して認識されることにより、リンパ球幼若化において活性を示すことが知られている(特許文献1)。また、Lactobacillus jensenii菌TL2937株(受託番号:FERM BP−11272)を投与することにより、抗ウィルス性炎症作用などが知られており、その仕組みとして、IFN−βの発現増加とMCP−Iの発現が抑制されることによることが示唆されている(特許文献2)。
ところで、こうしたプロバイオティクスを投与させたときの仕組みを解明する上で、サイトカインや核内転写因子等の遺伝子レベル、蛋白質レベルでの解析は進められているが、細胞レベルにおいて、作用させたプロバイオティクスの挙動、すなわち生体内の細胞への貪食(取り込み)の解析は、十分とは言い難い(非特許文献1および2)。
これに関し、実際に生体内器官から細胞を採取し、プロバイオティクスの被貪食能を試験した場合、生体内器官の細胞は、内在の細菌等を既に取り込んでいることが多く、試験に供した細胞自体の貪食能力が低いのか、投与されたプロバイオティクス自体が貪食されにくいものなのかの区別をつけることは難しく、また蛍光標識を用いた試験でも、蛍光強度が菌株ごとに異なっているなど、投与されたプロバイオティクスそのものが貪食されたものなのかを正確に評価すること自体が困難であった(非特許文献3)。さらに、そのプロバイオティクスが、どれくらい生体内の細胞に貪食されるのかを定量することによって、プロバイオティクスを評価する手法に至っては、現在のところ報告されていない。
また、生体内における大腸や小腸など細胞を使用する場合、より生体内に近い状態でのプロバイオティクスの被貪食能の評価が可能である一方、これらの細胞の採取においては、肉体的・精神的な負担の大きい外科的手術が必要であり、ブタなどの実験動物に至っては、屠殺して生体器官の細胞を採取しているのが現状である。そのため、負担の大きい外科的手術や実験動物の屠殺によらない方法で細胞を採取し、その個体の生体内に近い状態におけるプロバイオティクスの被貪食能の評価系の構築が求められている。また生体器官から、目的の細胞を調整するためには、煩雑な細胞精製工程が必要とされ、時間や精製ための試薬、機器や精製の習練も必要である。さらには、プロバイオティクスそのものの被貪食能を評価するためには、用いた個体の育成環境や同じ器官でも採取した位置によるばらつきを抑えて、正確に測定をすることが求められることから、試験個体数や試験数を増やして試験する必要があるというコストの問題も存在する。
特開2006−232790号公報 国際公開第2011/118060号
Shen et al., The Journal of Immunology, (1997) 158, 2723-2730 Rodriguez et al., Nature Cell Biology, (1999) 1, 362-368 Sugimura et al., Clinical Immunology, (2013) 149, 509-518
したがって、上記事情に鑑み、本発明の課題は、細胞レベルにおいて、より正確なプロバイオティクスの被貪食能の評価方法であり、同時に、負担の大きい外科的手術などによらない方法で簡易にかつ生体の評価として代替となりうる、均一なプロバイオティクスの被貪食能の評価方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究する中で、細菌と接触したことがない細胞をプロバイオティクスと接触させることにより、そのプロバイオティクスの被貪食能をより正確に評価できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明に到達するに至った。
すなわち、本発明は、次のものを含む。
[1]細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞にプロバイオティクスを接触させる工程を含む、プロバイオティクスの被貪食能の評価方法。
[2]細胞が、未分化な細胞から分化誘導されることにより得られる細胞である、[1]に記載の方法。
[3]細胞が少なくともBDCA1(CD1c)、BDCA3(CD141)、CD14、MHCクラスII、CD172a、CD11R1のいずれか1種類のマーカーを発現している、[1]または[2]に記載の方法。
[4]さらに、細胞を観察する工程を有し、貪食された前記プロバイオティクスを計測することを含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]プロバイオティクスが細菌を含む、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞を含む、プロバイオティクスの被貪食能の評価キット。
[7]対照プロバイオティクスまたは被験プロバイオティクスを、それぞれ、細菌と接触させたことがない別個の貪食作用を有する細胞に接触させる工程、前記各細胞を観察し、前記対照プロバイオティクスを接触させた場合に生じる現象と、前記被験プロバイオティクスを接触させた場合に生じる現象とを比較して、比較結果を得る工程、および比較結果に基づいて、前記被験プロバイオティクスを選別する工程を含む、プロバイオティクスのスクリーニング方法。
[8]細菌と接触させたことがない細胞を含む、プロバイオティクスのスクリーニングキット。
[9]細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞が少なくともBDCA1(CD1c)、BDCA3(CD141)、CD14、MHCクラスII、CD172a、CD11R1のいずれか1種類のマーカーを発現している細胞に貪食される、プロバイオティクス。
[10][9]に記載のプロバイオティクスを含む、動物用飼料。
[11][9]に記載のプロバイオティクスがTL2937株(受託番号:FERM BP−11272)であり、前記TL2937株を投与することを含む、IL−1β上昇調節剤。
本発明のプロバイオティクスの被貪食能の評価方法によれば、細胞レベルにおいて、正確にプロバイオティクスの被貪食能を評価することができる。また、外科的方法や屠殺によらず、その個体の生体内に近い状態でプロバイオティクスの評価が簡易に可能となり、さらには、個体差に拘わらず、均一なプロバイオティクスそのものの被貪食能の評価を安価に提供することができる。
実施例1および実施例2における細胞と、比較例1および比較例2における細胞のフローサイトメトリーのデータを用いた二重染色によるドットプロットである。 実施例1および実施例2における細胞と、比較例1および比較例2における細胞に、TL2766株およびTL2937株を接触させた後のフローサイトメトリーのデータによるヒストグラムである。 比較例1の細胞に、TL2766株およびTL2937株、それぞれの株との接触時間における平均蛍光強度を示したグラフである。
TL2766株およびTL2937株を接触させた後の実施例3および比較例3における細胞、および上記いずれの株と接触させていない細胞の走査型電子顕微鏡の写真である。 実施例3および比較例3における細胞に、TL2937株を接触させて、青色で核、赤色でエンドソーム、緑色で細菌を染色した後のレーザー顕微鏡の写真である。
実施例3および比較例3における細胞に、TL2766株およびTL2937株を接触させた後の透過型電子顕微鏡の写真である。 実施例3における細胞に、TL2766株およびTL2937株を接触させた後、それぞれの細胞内部に取り込まれた細菌数を計測したグラフである。
実施例1および実施例2における細胞に、TL2766株またはTL2937株、LPS、Pam3CSK4と接触・刺激させた16時間後のフローサイトメトリーによるサイトカインの解析のグラフである。 実施例1および実施例2における細胞に、TL2766株またはTL2937株、LPS、Pam3CSK4と接触・刺激させた24時間後のフローサイトメトリーによるサイトカインの解析のグラフである。
本明細書において「プロバイオティクス」とは、消化管内のフローラ(細菌叢)を改善し、宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物、消化管内のフローラ(細菌叢)に作用して宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物、前期微生物に由来する増殖促進物質、消化管内のフローラ(細菌叢)に作用して宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物に作用した物質のことをいう。したがって、本発明のプロバイオティクスには、細菌叢を形成する、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌、大腸菌などの細菌のみならず、かかる細菌の増殖を促進する物質、宿主に有益な作用をもたらしうる、酵母、芽胞産生菌、真菌などの有用な微生物およびこれらの微生物が産生した物質(微生物の培養物)を包含する。
また、「被貪食能」とは、本明細書において、細胞に貪食される(取り込まれる)能力のことをいい、貪食には、食作用または飲作用のいずれも含むものである。
本発明に用いる細胞は、細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞であって、細菌と接触したことがなければ、生体内から貪食作用を有する細胞を直接採取しても、もしくは細菌と接触したことがあっても未分化な細胞であれば、生体内からこれを一旦採取し、分化誘導させることにより得られる貪食作用を有する細胞でも、または既に確立された未分化な細胞から、分化誘導させることにより得られる貪食作用を有する細胞を用いてもよい。採取する個体の肉体的・精神的負担を減らし、試験結果の信頼性を向上させるという観点から、未分化な細胞から分化誘導されることにより得られる貪食作用を有する細胞を用いることが好ましい。
また、未分化な細胞には、評価しようとする細胞に応じて、iPS細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、造血幹細胞などの幹細胞系の細胞だけでなく、既にある程度分化が進んでいるが他の細胞に分化することができる能力を有する細胞を用いてもよい。例えば、腸管免疫に関するプロバイオティクスの被貪食能を評価しようとする場合は、iPS細胞、造血幹細胞、血球系の細胞に分化することができる能力を有する細胞が好ましく、特に、単球、顆粒球、リンパ球に分化することができる能力を有する細胞がより好ましく、とりわけ、単球に分化することができる能力を有する細胞が特に好ましい。なお、個体から、直接採取する場合、個体の肉体的・精神的な負担が少ないという観点から、末梢血由来の細胞も使用することができる。
さらに、上記幹細胞、血球系の細胞の由来する個体または採取する個体としては、試験対象とする、哺乳動物、鳥類等の脊椎動物が挙げられる。哺乳動物としては、ヒト等が挙げられる。また、ブタ、ウシ、サル、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラットなどの家畜、飼育、または実験動物を含むが、これらに限定されない。鳥類としては、ニワトリ、アヒル、カモなどの家畜、飼育、または実験動物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一方で、対象からヒトを除くこともできる。なお、後述する治療方法についても、上記列挙した脊椎動物を対象とするものである。
さらに、貪食作用を有する細胞は、貪食作用さえ有している細胞であればよく、特定の細胞に完全に分化していなくても、もしくは分化途中の細胞でも、または特定の細胞へ完全に分化していてもよい。
また、分化誘導させるのに用いる分化誘導因子は、細胞の分化の程度(度合)と誘導分化させ、目的とする細胞によって適宜用いられ、変更されてもよい。例えば、樹状細胞への分化誘導という観点では、インターロイキン−4(IL−4)、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、リポ多糖(LPS)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
さらに、分化誘導させる日数は、細胞の分化の程度(度合)と誘導分化させ、目的とする細胞によって適宜変更されてよい。例えば、血球系の細胞を用いて腸管由来の樹状細胞へ分化誘導させる場合は、分化誘導開始から2日から7日が好ましい。サイトカインの遺伝子発現レベルにおいて腸管由来の樹状細胞と同じ発現レベルを有しているという観点から、分化誘導開始から3日目から5日目がより好ましい。
また、貪食作用を有するかどうかを判断する一つの指標として、細胞の発現マーカーが挙げられるが、BDCA1(CD1c)、BDCA3(CD141)、CD14、MHCクラスII、CD172a、CD11R1、TLR2またはTLR4を発現している細胞が好ましく、貪食作用の点から、MHCクラスII、CD172a、CD11R1、TLR2またはTLR4のマーカーを発現している細胞がより好ましい。なお、上記マーカーが複数、発現していても良いことはいうまでもない。
また、既に分化した細胞を用いる場合は、樹状細胞、マクロファージ、好中球が好ましい。貪食作用から強い抗原提示作用を評価する観点から、樹状細胞がより好ましい。
また、細菌と接触させたことがない細菌には、評価しようとする個体の細胞に在来している細菌であり、例えば、口腔内細菌、腸内細菌、胃内細菌、皮膚常在菌(皮膚細菌)、膣内細菌、微生物などが挙げられる。さらに、接触させたことがないとは、上記の在来している細菌などの物理的な接触だけでなく、例えば、上記の在来している細菌などを貪食して(取り込んで)いないことなどをも当然に含むものである。
プロバイオティクスを接触させる工程には、細胞とプロバイオティクスを接触させる、取り込ませる、貪食させる、刺激させる、反応させる行為が含まれる。また、同工程に用いる細胞とプロバイオティクスの比率は、プロバイオティクスの被貪食能や状態、貪食作用を有する細胞、評価する指標または方法によっても適宜変化させてもよく、1:10:〜1:10が好ましく、1:10〜1:10がより好ましく、1:10が特に好ましい。
さらに、蛍光、放射性同位体でラベルしたプロバイオティクスを用いてもよく、測定施設に制限されることなく、定性的および/または定量的に評価し易いという観点から、蛍光でラベルしたプロバイオティクスが好ましい。また、評価するプロバイオティクスは、生菌そのものを用いてもよく、超音波破砕、加熱殺菌した死菌を用いてもよく、測定中の菌数の増殖変動に影響されないという観点から、加熱殺菌したプロバイオティクスを用いることが好ましい。なお、1種のプロバイオティクスのみならず、複数種のプロバイオティクスを混合して、用いることももちろん可能である。
次に、接触させる時間は、プロバイオティクスの被貪食能や状態、貪食作用を有する細胞、評価する指標または方法によっても適宜変化させてもよく、30分〜4時間が好ましく、1時間〜3時間がより好ましく、1時間〜2時間が特に好ましい。また、接触させる温度は、プロバイオティクスの被貪食能や状態、貪食作用を有する細胞、評価する指標または方法によっても適宜変化させてもよく、4℃〜45℃が好ましく、22℃〜40℃がより好ましく、36℃〜38℃が特に好ましい。また、評価する指針または方法、接触条件などにおいて、適宜、pH調整やバッファーを使用することができる。
さらに、上記工程の他に、接触させた細胞を観察する工程を有してもよく、観察は、好ましくは貪食されたプロバイオティクスを計測することであり、より好ましくは接触させた細胞の内部観察することであり、貪食の状態を観察するという観点から、特に好ましくは、接触させた細胞の断面を観察することであり、とりわけ、接触させた細胞の切片を作成し、その切片の断面を観察することがさらに好ましい。
また、観察する機器としては、マイクロプレートリーダー、フローサイトメトリー、蛍光顕微鏡、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡が挙げられるが、接触させた細胞を観察できるのであれば、これらに限定されるものではない。
次に、本発明の細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞を含む、プロバイオティクスの被貪食能の評価キットには、上述した細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞を含み、さらに説明書およびプロトコルならびに評価および観察に関する実験試薬およびバッファーなどを適宜含んでいてもよい。
また、本発明のプロバイオティクスのスクリーニング方法には、上述した細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞を用い、対照プロバイオティクスまたは被験プロバイオティクスを、それぞれ、別個に接触させる工程が含まれる。対照プロバイオティクスは、例えば、被験プロバイオティクスと比べて貪食されやすいプロバイオティクス、または貪食されにくいプロバイオティクスを用いてもよく、既にある性質や特質が判明しているプロバイオティクスを用いてもよく、スクリーニングの条件によって、適宜変更してよい。
さらに、接触させた各細胞を観察し、対照プロバイオティクスを接触させた場合に生じる現象と、被験プロバイオティクスを接触させた場合に生じる現象とを比較して、比較結果を得る工程には、上述した観察方法が挙げられる。また、同工程における、比較結果には、スクリーニングの条件によって適宜変更されてもよく、例えば、貪食された被験プロバイオティクスの多寡の他に、対照プロバイオティクスに貪食させた細胞に比べて大きさまたは、貪食させた細胞の核の位置などの変化、すなわち、貪食した細胞自身の変化などを指標とすることが挙げられるが、これらに限定されない。なお、上記指標をいくつか組合せてもよいことはいうまでもない。さらに前記比較結果に基づいて、被験プロバイオティクスを選別する工程を含む。
また、本発明のプロバイオティクスのスクリーニングキットには、上述した細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞を含み、さらに説明書およびプロトコルならびに評価および観察に関する実験試薬およびバッファーなどを適宜含んでいてもよい。
次に、本発明の細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞が少なくともBDCA1(CD1c)、BDCA3(CD141)、CD14、MHCクラスII、CD172a、CD11R1、TLR2またはTLR4のいずれかの1種類のマーカーを発現し、前記細胞に貪食されるプロバイオティクスには、TL2937株、OLL2768などが含まれる。
さらに上記プロバイオティクスを含む組成物には、飼料、食品、食品組成物、飲料組成物、医薬、医薬組成物(医薬品)、口腔化粧料(化粧品)などが含まれる。なお、これらのプロバイオティクスは、経口で投与することができることから、飼料の形態としては動物用飼料、飲料組成物や食品組成物などの食品の形態としては、ヨーグルト(発酵乳)やチーズなどの乳製品などが、それぞれ好ましい。また上記プロバイオティクスがTL2937株であり、TL2937株を投与することを含む組成物には、IL−1β上昇調節剤、IL−6上昇調節剤、IL−8上昇調節剤、Chemokine(C−C motif)ligand2(CCL2)上昇調節剤が含まれ、IL−1β上昇調節剤が好ましい。
また、本発明の一態様には、上記プロバイオティクス、または上記プロバイオティクスを含む組成物を投与し、または治療する方法が含まれ、さらには、上記プロバイオティクス、または上記プロバイオティクスを含む組成物の製造のための使用が含まれる。
次に実施例、比較例、試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例等に何ら限定されるものではない。
(1)末梢血由来の細胞の調製
感染症などに罹患していない、出荷の1カ月前の成熟ブタ(LandraceとLarge YorkshireのFにDurocを交配させた、LWDブタ(ヒルズ))の外頚静脈から採血し、真空採血管(TERUMO)に入れた。そして、Lympholyte-Mammal(CEDARLANE)の比重法を用いて、この血液からLympholyteを分注したチューブに、細胞懸濁液を静かに重層してから、遠心分離法(1800rpm、60min、20℃)を用いて、単核球細胞を分画した。ここで、この単核球細胞を1×10個/ウェルで播種し、1時間で保持して付着させた。その後に、IL−4(R&D system)と、GM−CSF(R&D system)を20ng/mLずつで含むRPMI培地を添加してから培養(37℃、5%のCOの条件下)し、この培養の開始から72時間後に、新たな培地に交換した。さらに、この培養(37℃、5%のCOの条件下)を5日間で継続して、分化誘導した末梢血由来の樹状細胞を得た。
実施例1および実施例2
(2−1)フローサイトメトリーによる細胞の調製
上記の末梢血由来の細胞について、ブタ樹状細胞の表面マーカーであるCD172aとCD11R1を、それぞれフィエリスリン(PE)およびペリオジニン(PerCP)で共染色し、フローサイトメトリーに供した。その結果として、二重染色によるドットプロット解析を図1に示した。なお、縦軸はCD172a陽性細胞数、横軸はCD11R1陽性細胞数である。そして、図1Aの上の四角は、両表面マーカーの発現が高い細胞集団のCD172a CD11R1サブセットを示し、これを実施例1の細胞として用いた(図1A)。また、図1Aの下の四角は、CD172aの発現が低くて、CD11R1の発現が高い細胞集団のCD172alow CD11R1サブセットを示し、これを実施例2の細胞として用いた(図1A)。
実施例3
(2−2)磁気ビーズ分離(MACS)法による細胞の調製
磁気ビーズ分離法を用いて、上記の末梢血由来の細胞から、CD172a陽性細胞を分離するため、0.5%のBSA、2mMのEDTA、PBSを含むMACSバッファーで洗浄し、上記の末梢血由来の細胞の1×10個に対して、それぞれ、Mouse anti-porcine Monocyte/Granulocyte-Biotin (Southern Biotech、Catalog Number 4525-08)(anti−CD172a)を10μLで添加してから、インキュベート(4℃、10min)した。その後に、MACSバッファーで洗浄し、それぞれ、Streptavidin標識マイクロビーズ(MiltenyiBiotec)を10μLで添加してから、インキュベート(4℃、15min)した。さらに、MACSバッファーで洗浄し、MACSバッファーに懸濁させた。
次に、LSカラム(MiltenyiBiotec、Catalog Number 130-042-401)を、MACSバッファーで洗浄し、磁気ビーズで標識した末梢血由来の細胞の懸濁液をカラムへ流した。さらに、MACSバッファーで洗浄し、プランジャーを用いて、カラムに保持されているCD172a陽性細胞を押し出し、末梢血由来のCD172a陽性細胞を得た。これを実施例3の細胞として用いた。
(3)腸管由来の細胞の調製
感染症などに罹患していない、健康な成熟ブタ(LWD)の腸管組織から、パイエル板を採取し、1%のStreptomycin/Penicilin(Invitrogen)を含むPBSで洗浄した。次に、ハサミを用いて、そのパイエル板の組織をホモジナイズした。そして、1mg/mLのコラゲナーゼおよび15μg/mLのDNaseを含むRPMI培地を添加してから、振とう培養(37℃、60min)した。ここで、この組織液の上清をアスピレーターにて除去し、10%のFCS、0.02%のEDTAを含むPBSを添加してから、インキュベート(37℃、5min)した。さらに、PETRI DISH(Corning)に、二枚重ねのガーゼを敷き、その上で培養したパイエル板の組織を押し潰して、細胞懸濁液を調製した。
さらに、上記の細胞懸濁液の上清をアスピレーターにて除去し、0.2%のNaCl溶液を添加してから軽く混ぜ合わせて、赤血球を破裂した。そして、直ちに等量の1.5%のNaCl溶液を添加してから、生理食塩水と同程度に戻した。次に、RPMI培地を適量で添加してから、上清をアスピレーターにて除去し、再びRPMI培地に懸濁した。そして、Cell Strainer(BD)を用いて、RPMI培地を濾過した後に、Lympholyte-Mammalの比重法を用いて、免疫担当細胞を分画し、腸管由来の樹状細胞を得た。
比較例1および比較例2
フローサイトメトリーを用いて、実施例1および実施例2と同様に、上記の腸管由来の細胞を調製した。ここで、図1Bの上の四角は、CD172a CD11R1サブセットを示し、これを比較例1の細胞として用いた(図1B)。また、図1Bの下の四角は、CD172alow CD11R1サブセットを示し、これを比較例2の細胞として用いた(図1B)。
比較例3
磁気ビーズ分離法を用いて、実施例3と同様に、上記の腸管由来の細胞から、CD172a陽性細胞を得た。これを比較例3の細胞として用いた。
(4)細菌(菌株)の調製
上記の各細胞に接触させる菌株には、株式会社明治が保有するLactobacillus (L.) plantarum TL2766(以下、TL2766株と称することがある)およびLactobacillus (L.) jensenii TL2937(受託番号:FERM BP−11272)(以下、TL2937株と称することがある)を用いた。 このとき、MRS培地を用いて、上記の2菌株を培養(37℃、24h)することを1回の継代とし、3回で継代した。
そして、TL2937株では、1.0×1011個に対して、Carboxyfluorescein Diacetate (Sigma)(以下、単にCFDAと称することがある)を15mgの割合となるように、PBSで混和し、TL2766株では、1.0×1011個に対して、CFDAを0.15mgの割合となるように、PBSで混和した。さらに、ウォーターバスを用いて、これらPBSの混和液を遮光しながら加熱処理(37℃、60min)して、CFDAを菌株内に取り込ませた。その後に、PBSを用いて、それぞれの菌株を3回で洗浄し、CFDA標識したTL2937株およびTL2766株を得た。次に、この標識したTL2937株およびTL2766株を殺菌処理(60℃、45min)してから、プロバイオティクスの被貪食能を評価するために、これらの菌株を用いた。
なお、本発明に用いたTL2937株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD, AIST)(日本国 〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2010年5月14日付、受託番号:FERM BP−11272として寄託されている。なお、Budapest Notification No. 282 (http://www.wipo.int/treaties/en/notifications/budapest/treaty_budapest_282.html)に記載されるとおり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)が独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD, AIST)より特許微生物寄託業務を承継したため、現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に寄託されている(受託番号FERM BP−11272)。
試験例1
(5−1)フローサイトメトリーを用いた観察
上記でゲーティングして得られた実施例1および実施例2、比較例1および比較例2の細胞を5×10個/ウェルで播種し、一晩で培養した。次に、これらの培地に対して、TLR2抗体(BioLegend.、Catalog Number 309710)とTLR4抗体(BioLegend.、Catalog Number 312808)を200ng/mLで添加してから、インキュベート(37℃、一晩)した。そして、TL2766株およびTL2937株を殺菌処理してから、前記の菌体を5×10個/ウェルで接触させた。
次に、ピペッティングにより、蛍光標識した菌株と接触させた細胞を回収し、これらの細胞を2×10個/ウェルで播種し、2%のFCS、0.01%のNaN/PBSを含む洗浄バッファーを用いて、それぞれの細胞を2回で洗浄した。その後に、それぞれの細胞を、抗CD172a抗体(SouthernBiotech.、Catalog Number 4525-09)および抗CD11R1抗体(AbD.、Catalog Number MCA1220)と反応(4℃、40min)させてから、洗浄バッファーを用いて、それぞれの細胞を2回で洗浄した。その後に、二次抗体(Santa Cruz Biotechnology.、Catalog Number sc-45103)を添加して、抗体反応(4℃、40min)させてから、洗浄バッファーを用いて、それぞれの細胞を2回で洗浄した。その後に、各ウェルに、1%のパラホルムアルデヒドを含む洗浄バッファーを50μLで添加してから、固定処理(4℃、15min)した。さらに、洗浄バッファーを用いて、それぞれの細胞を洗浄した後に、洗浄バッファーの150μLに懸濁させた。
FACSAccuri C6(BD)を用いて、細胞の1個あたりの細菌蛍光強度を測定し、上記の蛍光標識した菌体と接触させた細胞を計数して、各細胞の表面および内部に存在する菌体量を数値化した。そして、FlowJoソフトウェア(Tree star)を用いて、これらの数値を解析した。このとき、FSCおよびSSCにより、ゲートを設定し、CD172a陽性顆粒球を除いて、これらの数値を解析した。
ヒストグラムを用いて、菌株と無接触の細胞(対照の細胞)、TL2766株と接触させた細胞およびTL2937株と接触させた細胞について、FL1(CFDA)の蛍光値を示した。ここで、横軸は、細菌の蛍光強度を、縦軸は、細胞数を示しており、点線のヒストグラムは、対照の細胞の結果を、実線のヒストグラムは、TL2766株と接触させた細胞およびTL2937株と接触させた細胞の結果を示している。また、ヒストグラムの上側にあるバーは、ゲートを、バーの下にある数値は、ゲートに存在する細胞の平均蛍光強度(MFI)を、バーの上にある数値は、全体に占めるゲートの細胞の割合を示している。そして、対照の細胞で得られたピークを含むゲートおよび、それを含まないゲートの2つを作製し、それぞれにおいて細胞の集団に占める細胞の割合と平均蛍光強度を算出した(図2)。なお、TL2766株およびTL2937株を殺菌処理してから、それらの蛍光値を測定して、蛍光値を補正した。また、ブロッキング抗体を用いたTLR2阻害試験で、上記細菌の認識量の違いがTLR2認識性の違いによるものではないことが確認されている(データは示していない)。
実施例1では、TL2766株と接触させて、高い蛍光量を示した細胞の割合は8.62%であったのに対して、TL2937株と接触させて、高い蛍光量を示した細胞の割合は68.0%であった(図2A、図2B)。また、実施例2では、TL2766株と接触させて、高い蛍光量を示した細胞の割合は4.31%であったのに対して、TL2937株と接触させて、高い蛍光量を示した細胞の割合は9.46%であった(図2C、図2D)。つまり、何れの細胞においても、TL2766株の付着量に比べて、TL2937株の付着量が多くなる結果となった。
なお、比較例1および比較例2では、TL2766株と接触させて、高い蛍光量を示した細胞の割合に比べて、TL2937株と接触させて、高い蛍光量を示した細胞の割合は多くなる結果となった(図2E〜図2H)。
また、比較例1の細胞に、TL2766株とTL2937株をそれぞれ接触させた。5分、30分、60分、120分間、それぞれの株に接触させた後、各細胞の平均蛍光強度を測定した。さらに、測定した細胞の各株(菌体)の接触時間と、その接触時間における平均蛍光強度との関係を示した(図3)。その結果、TL2937株と接触させた細胞の方が、測定開始から2時間後、高い蛍光量を示し、以降も高いレベルを維持した。このことから、細胞へのTL2766株の付着量に比べて、TL2937株の付着量が多いことが、示唆された。また、5分程度、TL2937株と接触させると、120分間接触させたことと、同等の蛍光量を示すことから、TL2937株は、迅速に貪食されていることが示された。
これらの結果から、比較例の細胞と同様に、実施例の細胞でも、その表面に菌体が付着しており、細胞質の内部に、菌体が貪食されていることが示唆された。つまり、実施例の細胞でも、比較例の細胞と同等の性質を示すことが示唆されており、プロバイオティクスを用いた実験系において、実施例の末梢血由来の細胞を用いることで、比較例の腸管由来の細胞の性質を調べられること、すなわち、腸管免疫系への効果を末梢血由来の細胞で評価できることが示唆された。
試験例2
(5−2)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察
塩酸で希釈したコラーゲン(新田ゼラチン)を用いて、トランズウェルインサート(0.4μmの小孔ポリエステルメンブレン(Corning))の膜表面をコートしてから、上記の磁気ビーズ分離法で得られた実施例3および比較例3の細胞を5×10個/ウェルで播種し、細胞を定着(一晩)させた。ここで、TL2766株およびTL2937株を殺菌処理してから、これらの菌体を5×10個/ウェルで接触(37℃、2h)させた。その後に、0.2MのHEPESバッファーで洗浄してから、2.5%のグルタルアルデヒド(日新EM)で固定処理(25℃、2h)した。さらに、HEPESバッファーで洗浄してから、PBSを用いて、5回で洗浄した。そして、0.25%のタンニン酸で固定処理(25℃、15min)してから、0.5%のタンニン酸で固定処理(25℃、15min)した後に、1%のタンニン酸で固定処理(25℃、1h)した。ここで、50%、70%、90%および100%のエタノールで脱水(10min)してから、t−ブチルアルコールに2回で浸漬(30min)し、t−ブチルアルコールに置換した。さらに、凍結乾燥(一晩)してから、細胞の表面を白金で処理し、これらの細胞を走査型電子顕微鏡で観察した。
走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で観察した細胞を図4A〜図4Eに示す。このとき、実施例3および比較例3では、TL2766株と接触させた細胞(図4A、図4C)に比べて、TL2937株と接触させた細胞(図4B、図4D)において、細胞の表面への菌体の付着量が多いことが示唆された。
また上記いずれの株とも接触させていない無接触の細胞(図4E)と比較すると、TL2937株と接触させた細胞では、細胞表面への菌体の付着量が多いことが確認された。点線で囲んだ部分は、1つの無接触の細胞を示す。
これらの結果から、比較例の細胞と同様に、実施例の細胞でも、その表面に菌体が付着していることが観察されており、細胞質の内部に、菌体が貪食されていることが示唆された。つまり、実施例の細胞でも、比較例の細胞と同等の性質を示すことが示唆されており、プロバイオティクスを用いた実験系において、実施例の末梢血由来の細胞を用いることで、比較例の腸管由来の細胞の性質を調べられること、すなわち、腸管免疫系への効果を末梢血由来の細胞で評価できることが確認された。
試験例3
(5−3)レーザー顕微鏡観察を用いた観察
顕微鏡観察用のディスク(カバーガラス、φ12mm、ブタ腱由来のペプシン可溶性のコラーゲンタイプIコート(IWAKI))に、上記の磁気ビーズ分離法で得られた実施例2および比較例2の細胞を播種した。そして、培地の1mLに対して50μLの割合で、CellLight Early Endosomes-RFP(Life technologies)をウェルに添加してから、細胞のエンドソームを染色(37℃、一晩)した。ここで、TL2937株を殺菌処理してから、これらの菌体をウェルで接触させた。その後に、PBSで洗浄してから、4%のパラホルムアルデヒドを含むPBSで固定処理(25℃、20min)した。さらに、PBSで洗浄してから、Fluoroshield with DAPI(ImmunoBioScience)で封入した後に、細胞の内部への菌体(TL2937株)の被貪食能を共焦点レーザスキャン顕微鏡(Carl Zeiss Microscopy、LSM-700)で観察した。
レーザー顕微鏡を用いて観察した結果を図5に示す。ここで、青色は、核を、赤色は、エンドソームを、緑色は、菌体(細菌)を示し、白いバーは、100μmを表す。このとき、比較例3および実施例3では、細胞質の内部のエンドソームに、蛍光標識された菌体が取り込まれていることが観察された(図5)。なお、図5Bと図5Dは、図5Aと図5Cの垂直断面による観察の結果である。このとき、実施例3および比較例3では、TL2766株と接触させた細胞において、その細胞質の内部に、ほとんど菌体は観察されなかった(データは示していない)。
これらの結果から、比較例の細胞と同様に、実施例の細胞でも、その表面に菌体が付着していることと、細胞質の内部に、菌体が貪食されていることが観察された。つまり、実施例の細胞でも、比較例の細胞と同等の性質を示すことが定性的に目視で確認されており、プロバイオティクスを用いた実験系において、 実施例の末梢血由来の細胞を用いることで、 比較例の腸管由来の細胞の性質を調べられること、すなわち、腸管免疫系への効果を末梢血由来の細胞で確認できることが確認された。さらに、実際に計数する細菌毎に検量線を作製することで、細胞を定量的に観察できることが確認された。
試験例4
(5−4)透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察
塩酸で希釈したコラーゲン(新田ゼラチン)を用いて、トランズウェルインサート(0.4μmの小孔ポリエステルメンブレン(Corning))の膜表面をコートしてから、上記の磁気ビーズ分離法で得られた実施例3および比較例3の細胞を5×10個/ウェルで播種し、細胞を定着(1h)させた。ここで、TL2766株およびTL2937株を殺菌処理してから、これらの菌体を5×10個/ウェルで接触(37℃、2h)させた。その後に、0.2MのHEPESバッファーで洗浄してから、2.5%のグルタルアルデヒド(日新EM)で固定処理(4℃、一晩)した。さらに、0.2MのPBSで洗浄してから、4%の四酸化オスミウムで固定処理(4℃、4h)した。ここで、50%、70%、80%、90%、95%および100%のエタノールで脱水(10min)してから、QY1(n−ブチルグリシジルエーテル)で置換した。さらに、エポン樹脂に置換して、チャンバーから膜を切除し、エポン樹脂に膜を包埋した。そして、熱風乾燥(60℃、3d)してから、標本をトリミングした後に、ウルトラミクロトーム(ウルトラカットS、Leichert)に、ガラスナイフを装着して、厚さが0.2μmの超薄切片を作製した。さらに、これらの切片をグリッドの上に載せて、白金ブルーと鉛染色液で電子染色して乾燥させ、これらの細胞を透過型電子顕微鏡(ZeroA H-7650)で観察した。
透過型電子顕微鏡を用いて所定の倍率で観察した結果を図6に示す。このとき、比較例3では、TL2766株と接触させた細胞に比べて、TL2937株と接触させた細胞において、細胞質の内部に菌体が多く観察された。しかし、無接触の細胞(対照の細胞)においても、細胞質の内部に菌体が多く観察され、細胞に接触させた菌体と、腸管から取り込まれる前から既に内在していた細菌を区別しにくかった。一方、実施例3では、対照の細胞において、細胞質の内部に菌体は観察されず、TL2937株で接触させた細胞において、細胞質の内部にTL2937株らしき菌体が観察された。
これらの結果から、細胞質の内部に貪食された菌体(細菌)を定量的に計数できることを確認できた。
(6)細胞内部に取り込まれた細菌(菌体)の計測(カウント)
実施例3における細胞の透過型電子顕微鏡の写真から以下の基準により、細胞の内部に貪食された菌体数を定量的に計数した。すなわち、(1)細胞内のエンドソーム(空隙)に有る黒い物体を、細胞の内部に貪食された菌体とした。(2)菌体を1つ以上で取り込んだ細胞を、計数の対象とした。(3)細胞膜が破壊された細胞を、計数の対象から除外した。(4)計数の対象の細胞を、ランダムに選定した。
実施例3におけるTL2766株と接触させた細胞およびTL2937株と接触させた細胞の27個ずつについて、それぞれ細胞の内部に貪食された菌体数を定量的に計数(評価)した。そして、これらの菌体数から計算した算術平均を表1に示す。
ここで、TL2766株と接触させた細胞の菌体数の平均は、6.3個であるのに対して、TL2937株と接触させた細胞の菌体数の平均は、17.4個であることを確認できた。つまり、TL2766株およびTL2937株の被貪食能を定量的に計数(評価)できることが示された。なお、TL2766株では、20個以上の菌体を取り込んだ細胞を認められなかったのに対して、TL2937株では、全体に占める20個以上の菌体を取り込んだ細胞の割合が37%に上った。
また、TL2766株とTL2937株(菌体)をそれぞれ、細胞に接触させた後、細胞当たりの貪食された菌体数をカウントし、カウントした数をグラフにした(図7)。なお、細菌の計測(カウント)方法は、上記した(1)〜(4)の方法による。その結果、TL2937株と接触させた細胞の方が、貪食する菌体数が多くなる傾向が確認された。細胞内に小胞が認められ、その中に菌体(黒色に見える)を計測した(図7)。なお、図7中のバー(**)は2群間に有意差(p<0.01)があることを示す。
試験例5
(7)フローサイトメトリーによるサイトカインの解析
細胞の内部に取り込まれた菌体数の計数から、TL2766株に比べて、TL2937株では、細胞への被貪食能が高いことが示された。ここで、実施例1および実施例2におけるTL2766株と接触させた細胞およびTL2937株と接触させた細胞について、フローサイトメトリーで解析し、IL−1βおよびIL−10の発現状況を調べた。
具体的には、実施例1および実施例2における細胞に、TL2937株を5×10個/ウェルまたはTL2766株を5×10個/ウェル、LPS(Sigma-Aldrich)を1000ng/mL、Pam3CSK4(InvivoGen)を200ng/mLで接触・刺激(16hまたは24h)させた。そして、これらの細胞を回収し、フローサイトメトリーによる細胞の調製と同じ方法で、CD172aとCD11R1を染色した後に、BD Cytofix/Cytoperm Plus Fixation / Permeabilization Kit(BD)のプロトコルに従って、IL−1βおよびIL−10を染色した。さらに、フローサイトメトリーによる観察と同じ方法で、フローサイトメトリーおよびFlowjoソフトウェアで解析した。
なお、対照に対する2群間の統計的有意差はStudent’s t検定で解析した。またIL−1βは、視床下部、筋肉、脂肪に作用し、発熱によって病原細菌の発育を抑制するとされ、好中球を動員して貪食を促進する作用や、肝臓に作用して急性タンパクを産生させオプソニン化を活性化する効果も知られており、IL−10は抗炎症性のサイトカインとして知られる。なお、ブロッキング抗体を用いたTLR2阻害試験で、上記細菌の認識量の違いがTLR2認識性の違いによるものではないことが確認されている(データは示していない)。
フローサイトメトリーの結果を図8および9に示す。ここで、横軸は、平均蛍光強度(MFI)を表し、図中の「*」、「**」、「***」は、それぞれの対照に比べた有意差として、p<0.05、p<0.01、p<0.001を表す。
まず、実施例1および実施例2における細胞に、TL2937株およびTL2766株を接触・刺激(16h)させた。ここで、実施例2の細胞では、IL−1βおよびIL−10において有意差は認められなかった。そして、実施例1の細胞では、IL−1βにおいて有意な発現の増加が認められた(図8A、図8B)。また、実施例1の細胞では、IL−10において有意な発現の増減は認められなかった(図8C、図8D)。
次に、実施例1および実施例2における細胞に、TL2937株およびTL2766株を接触・刺激(24h)させた。ここで、実施例2の細胞では、IL−1βおよびIL−10において有意差は認められなかった。そして、実施例1の細胞では、IL−1βにおいて有意な発現の増加が認められた(図9A、図9B)。また、実施例1の細胞では、IL−10において有意な発現の増減は認められなかった(図9C、図9D)。
これらの結果から、TL2937株と接触させた細胞において、蛋白質レベルでIL−1βの有意な増加が認められており、菌体の被貪食能を評価して、有益なプロバイオティクスを簡単に選択できることが確認された。さらに、腸管免疫系への効果を末梢血由来の細胞で評価できることが確認された。そこで、昨今の健腸効果だけではなく、宿主の腸管粘膜の免疫系への効果が有るプロバイオティクス(イムノバイオティクス)を簡単に選択できることが確認された。
負担の大きな外科的手術や屠殺によらず、その生体内に近い状態でのプロバイオティクスの被貪食能を評価することができ、これを利用することによって生体にとって有用なプロバイオティクスをスクリーニングすることができる。

Claims (7)

  1. 細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞にプロバイオティクスを接触させる工程と、前記細胞に貪食された前記プロバイオティクスを計測する工程とを含む、
    プロバイオティクスの評価方法。
  2. 細胞が、未分化な細胞から分化誘導されることにより得られる細胞である、請求項1に記載の方法。
  3. 細胞が少なくともBDCA1(CD1c)、BDCA3(CD141)、CD14、MHCクラスII、CD172a、CD11R1のいずれか1種類のマーカーを発現している、請求項1または2に記載の方法。
  4. プロバイオティクスが細菌を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 細菌と接触したことがない貪食作用を有する細胞を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載プロバイオティクスの評価方法に使用する、プロバイオティクスの評価キット。
  6. 有用なプロバイオティクスをスクリーニングする方法であって、
    対照プロバイオティクスまたは被験プロバイオティクスを、それぞれ、細菌と接触させたことがない別個の貪食作用を有する細胞に接触させる工程、および
    前記貪食作用を有する細胞に貪食された対照プロバイオティクスまたは被験プロバイオティクスの多寡を計測する工程
    を含み、前記貪食された被験プロバイオティクスの量が、前記貪食された対照プロバイオティクスの量よりも有意に大きい場合、被験プロバイオティクスがプロバイオティクスとして有用であるとする、前記方法。
  7. 細菌と接触させたことがない貪食作用を有する細胞を含む、請求項6に記載のスクリーニング方法に用いる、スクリーニングキット。
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